これは、かなりマズイかな。
「姿が見えないと思って探しに来てみたが、これはどういうことだろうか?」
そこに現れたのは、金の髪を青のリボンで緩く結わえたイケメン国王だった。
表情も立ち居振る舞いもいたって自然体にも思えるが、その瞳だけは笑っていない。
やべえな。
絶体絶命の危機ってヤツか?
こっそりとティナの様子を盗み見ると、動揺からか表情も強張り、明らかに緊張感が増している。
これじゃあさ、余計にマズイんだよ。
彼女は俺と違って軍人教育を受けたことが無いから、仕方が無いといえばそうなのかもしれないが。
こうやってマズイ場面をとっ捕まった時は、むしろ開き直るくらいのほうがいい。
人目を忍んで会っていたのだということを、追求される前にこちらから宣言してしまうのだ。
その理由の説明なんて、一山いくらの俺たち一般兵に擦り付けてしまえば良いだけのことなのだから。
「俺……いえ、私が彼女を呼び止めたのです」
「ほう。何故?」
「あまりに、私の見知っている少女と酷似していたもので」
国王の表情が、今日見た中では始めて、おおきく変わった。
驚いたような、不審がるような、そんな表情に。
「ケフカさまとレオ将軍はご就寝になりました。私も警護という職務中ではありますが、フィガロ国王には個人的にお伺いすることをお許しいただきたい」
「言ってみろ」
「ありがとうございます。それでは、お耳を失礼……」
声を潜めながら耳元へ囁く動作をすると、彼も素直に耳を近づけてくる。
さっきも思ったことなのだが、この国王にはどうも警戒心というものが欠けているような気がするんだよ。
いや、国を守る国王としては十分過ぎるほどの警戒心を持ってはいるんだが、こう、自分の身を守るという意味でさ。
好都合だけどな。
「彼女、この城のものでは無いんですね?」
「……その通りだ。つい先ほど、私の古い知人と共にこの城を訪ねて来たばかりだからな」
「ならばせめて、トイレの場所くらい教えてあげてください。かわいそうに、恥ずかしがるばかりに一人で部屋を抜け出した挙句、私のような余所者に声をかけられるまで彷徨い歩いてましたよ」
若い女の子が砂漠の真ん中で用を足すなんて事態にはくれぐれもなさらないように。
と、付け加えてやった。
とたん、必死に堪えながらも大笑いを始める国王。
俺から身を離すや否や、ティナに歩み寄って何かを耳打ちすると、彼女は一目散に駆け戻っていく。
「さあ、これで彼女も城で彷徨い歩くこともなくなるだろう。……それで? こんな嘘までついて彼女をここから引き離したことについて釈明はいただけるのかな?」
うむ。バレバレであります、レオ将軍!
このままじゃティナは殺され、俺も重大な過失のおかげで軍人生命どころか正真正銘命の危機だよこんちくしょう。
いやいや。こんな若造に負けてたまるか。
俺だって伊達に長く軍人やっちゃいねえんだからな。
設定だ。設定を考えよう。
俺は何故ティナに話しかけたのか。
どうして彼女の存在を上司に報告しないのか。
結論はすぐに出た。
俺、これからティナの為に命を欠ける良い人になりきろう。
理由ならあるって。
何て言ったって一時期はあの子の親代わりだったんだし。追求されても理由は十分だろ。
よし。
「フィガロ国王陛下の寛大なご措置に感謝いたします。そしてどうかその寛大さをそのままに、お聞きいただきたい」
無言のまま先を促すようにこちらを見つめるのを真っ直ぐな視線で受け止め、言葉をつなぐ。
「彼女は、私が知っている少女ではありませんでした。そして、貴方も、彼女の名など全く知らない。そうですね?」
「……ああ、知らない」
「それに加えて、その少女であれば必ず額に身に着けているはずの環もありませんでした。それは、ご存知ですか?」
依然、無言のままに頷いてくる。
「ですから、私は奥の部屋でお休みになっている将軍方に、彼女のことを報告する義務はありません」
国王は、今度こそ目を見張った。
俺の言葉の真意を探ろうとするかのように、じっとこちらを見据えてくる。
ここで目を逸らしたら負けだ。
自分の本気が伝わるように、そして、その意思で相手を呑み込むほどに。
これ以上話す気はねえぞ。
もう十分伝えたし。
っていうか、そろそろボロが出そうだからカンベンして欲しいんスけど。
「最後に、2つ、確認したい」
ふざけんな、もう嫌だ。
とは言えない俺は、表面上快くそれに応じてみせる。
「君の行動は、帝国に限らず軍人としてあるまじき事のはずだ。謁見のときと今と、私が君と話をしたのはそれだけだが、軍人としての心得は十分に持っているように感じられる。それなのに、何故」
おや。意外と高評価だな。
俺の次がケフカさんだったから相対的なものだろうけど、ちょっと嬉しいじゃねえかこの野郎。
「恐縮です。ですが、そうですね。強いて言うなら、俺も所詮、軍人である前に一人の人間だということでしょうか」
って、何だよその微笑ましい表情。
やめてくれよー。良心が痛みまくるからよー。
「一時期は親子のように生活した少女です。生きていて欲しい。ですが、遠目に彼女を見つけたとき、つい、直接話しをしてみたくなってしまいました」
うん、いい感触だ。
この国王、帝国での評価とは裏腹に随分と善人らしい。
おそらくは、日ごろからの帝国への不審感も相まって、帝国を裏切るような真似をしていると思われている俺にかなり同情的になってるみたいだし。
「任務上ここを離れるわけにもいきませんから。銃を向けて無理矢理呼びつけるなんて、我ながら彼女には悪いことをしました」
ティナがここまで来ていた理由、こんなところでどうだろうか。
ちょっと厳しいかな? まあいいか。失敗したらあの世で会おう、ティナ。
「事情は分かった。それで? どんな話をしていたんだ?」
「何も。だってそうでしょう。彼女は俺の知っているあの娘では無かったのですから」
「……いいだろう。では、最後に一つ」
「はい」
「君は彼女の存在を、絶対に君の上官には伝えないのだね?」
えー、すみません。もちろん伝えます。
だってティナと接触したのって任務だし。
もうやだなー。腹ン中と口に出すことと全く違うってのはどうにもやりづらい。
「当然です。ですが」
「なんだ」
「レオ将軍は俺と同じく、率先してティナを探し続けることは絶対にありませんが、ケフカさまは別です」
ここが問題なんだよな。
ぶっちゃけ、ここにティナがいることが分かっていてケフカさんが来たってことは、どう考えてもきな臭い。
たぶん、なんだかんだ言いがかりをつけてフィガロを攻撃しに来たんじゃないかな。
「彼自身が、万が一にもこの城でティナとよく似た少女を見かけることがあれば、フィガロを滅ぼすことも辞さないでしょう。くれぐれも、ご留意ください」
気をつけても無駄だとは思うけどね。だから言える。
あの魔導の力に対抗するなんて、どう考えても人間にはムリだ。
国王はおおきく頷き、ゆっくりとその場で踵を返した。
どうやら、ようやく解放されたようだ。
ホッと息をつきかけた瞬間、背中越しに国王から声をかけられる。
「もし帝国に愛想を尽かしたら、私のところへ来るといい。死ぬまでフィガロ兵としてこき使ってあげるよ」
それだけ言い残して、彼はその場を去っていった。
うわーを。だんでぃー。
って、いかんいかん。俺が憧れる年下はレオ将軍だけだぜ!
しかし、この様子なら当面の間ティナの身の安全は保証されそうだ。
あんな善人なら、よもやたった一人の少女が殺されるのを承知で放り出すことも無いだろう。
ティナを連れ出した青年がリターナーの一員だということは既に分かっているし、その男がこうして転がり込んだ以上、フィガロは既に反帝国組織に与していることは確実。
どうにか、任務を乗り切ったな。あとは、ティナから受け取ったこの手紙をレオ将軍かケフカさんに渡して、任務終了だ。
今度こそ誰の気配も無くなったその廊下で、やっと気を緩めることが出来た俺だった。
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8話投稿です。
7話コメント、ありがとうございました。
と、いつもならこのくらいにしておくのですが、一言言いたい!
や ら な い か
アーッ!
という展開はありません! 大丈夫、ありません!
ケフカと主人公は健全です! ケフカと! 主人公は! 健全です。
大事なことだから2回言いました。
それでは!