「おはようございますー。朝ですよー」
何が悲しくて朝からケフカさんと一緒?
なんて考えたところで仕方が無い。
今の俺にできることは、これまた先人の残した知恵を大いに活用し、決してメイク前のケフカさんの顔を覗き込むような真似はしないことだけだ。
「やあ、昨夜はご苦労だったな」
「あ、レオ将軍。おはようございます」
いつの間に起き出していたものやら、俺が意を決して客間へ足を踏み入れたときには、レオ将軍はもう身支度を完璧に整え終わった後だった。
うん。爽やかであります。
「上官殿にお渡ししたいものがあるのですが、ケフカさまにお渡しして良いものでありますか?」
俺は一刻も早く、この物騒な手紙を手元から離したい気持ちが急いて、こちらから尋ねてみた。
本来なら、任務中に俺が手に入れた全てのものは当然、上官であるケフカさんに渡すべきところだ。
しかし、任務の詳細を知らされていない今、勝手な行動を慎まなくてはならないことも確かなんだよ。
場合によっては、ケフカさんがこの手紙を受け取ったという事実が重要な弱点になることもありえるからだ。
「いや、それはおれが受け取ろう。以後は今までの通り、ケフカに従って任務を終えるように」
案の定、それはレオ将軍の手に渡ることになった。
ならば俺はこれ以上、その手紙の存在について言及することはしてはならない。
帝国軍人の心得その1。
不必要に機密に触れることの無いよう、重々留意すること。ってな。
「それでは、俺はしばらく部屋の外で待機しますので。何か御用の際は何なりとお申し付けください」
触らぬ神に祟りなし。
俺はいそいそとその場を辞し、次なるケフカさんの無理難題に耐えるべく、客間の外へ飛び出した。
「で、本気ですか、ケフカさま?」
「私が嘘をついたことなどありますか!? 当然、本気です!」
ありゃ。ちょっとゴキゲン。かつ、若干お仕事モードのケフカさんだ。
こういうときは間違っても御機嫌を損ねないよう、細心の注意を払わなければならないのだが、それにしても。
「それ、レオ将軍がすごく嫌がると思いますよ?」
だってめちゃくちゃ卑怯じゃんか。
しかも、俺の身が危ない。かなり危険。そこが嫌だ。
「それこそ願ったりなんだよ! あのいけ好かない男が不快に思うことだったらどんなことだってして見せますよ!」
おいおい。本気なのか?
本気なんだろうな。さっきなんか俺が泣いて止めるまでひたすらメイクしてたもんな。
レオ将軍の顔に。
信じられないものを見ちまったね。
あのケフカさんが。まさか自分のメイク用品を他人に分け与える日が来るだなんて思っても見なかったぜ。
レオ将軍がそれを嫌がらなかったのは、まあ、想定の範囲内ってもんだけど。
って違う。そうじゃなくて。
「いくらなんでも、同盟国で国王暗殺ってのはマズイですって。しかもどうして実行係が俺ですか。アンタそれ、思いつきなんじゃないでしょうね!? 俺が死んだらどうしてくれるんです!!」
「僕ちんは死なないもんね。お前とレオは勝手に死ね」
なんてこと言いやがりますか、この人は。
ここに来るまでさんざんアンタの靴の砂を払ってやったことをまさか忘れたんですか。
俺ら一般兵がいなっきゃ行軍さえマトモにできねえって専らの噂なんですよ、ちょっと!
ケフカさんはとにかくハイテンションに跳ね回っていて、どう見ても俺の反論なんて聞こえちゃいない。
そして俺は彼のその手元に、不穏な輝きを見つけてしまった。
もしやとは思うが、聞かざるを得ない状況だぜ?
「あの、ケフカさま。その手に持ってるもの、もしかして、ティナに付けたのとよく似てないかなー、なんて思うのでありますがー」
「似ているか、と聞かれたら、そうだ、と答える代物だな」
そのときのニヤリ、という笑みを、俺は死ぬまで忘れることは無いだろう。
邪悪なんてもんじゃない。禍々しさなんて軽く通り越して、いっそ神々しいまでの壮絶な笑みだった。
なんでも、それはティナに装備させた後、ケフカさんが独自に改良を重ねたもので、ある特定の人物に対してのみ、強烈な嫌悪感を感じるように感情を制御するためのものだという。
「そんなもん、俺に付けてどうなるって言うんです。貴重な研究の無駄遣いってヤツじゃあないんスか?」
震える声をそのままにやっとのことでそう言うと、彼もようやく我に返った様子だった。
「なるほど。確かに、このチンケな国一つ潰すためにこれを使うのはもったいないか。よし、決めた。これはレオに付けさせる!」
でもその方向性はどこまで行ってもケフカさんだったよ。
レオ将軍につけてどうしようってんだ? あの人がどれだけあのイケメン国王を嫌ったところで、卑怯な真似を許すなんて思えない、ってまさか。
「それで嫌わせるの、もしかしてケフカさまの事だったりします?」
「……お前、なかなかカンがいいね。でも、それを知ってどうするつもりだ? お前にこの俺サマが止められるとでも思ってるのか?」
止める?
俺が?
そんなまさか!!!!
やったぜ、この野郎! ケフカさんもたまにはマトモなことするじゃねえか!
レオ将軍の唯一と言ってもいい欠点といえば、誰に聞いてもケフカさん好きの一言に尽きるってのに?
それがなくなるんだって?
「とんでもない! どうぞどうぞ! どんどんやっちゃって下さい! あ、なんなら俺、今から城中に火でもつけてきましょうか!?」
憧れのレオ将軍がついに、全てにおいて完全無欠な男になるのを止めようだなんて、そんなことをするやつは他の誰でもない、この俺が許さん!
その為だったら昨夜うっかり憧れかけたイケメン国王にだって、どんなひどいこともして見せようじゃないの!
「火事だー!!!!」
城中に、兵士たちの叫び声が響き渡る。
砂漠の中央に聳え立つ一つの城が今、炎にまかれて崩れ去ろうとしていた。
「フォッフォッフォッフォッフォ!! 燃えろ燃えろ! 焼けてしまえ!」
ケフカさんはゴキゲン。
「ケフカ! お前は……いや、お前たちはなんということを!!」
レオ将軍は激怒。
「えっとー。焼け死ね?」
俺は士官以来、かなり久しぶりにレオ将軍に怒られて涙が出るほど悲しいやら、ケフカさんに対して本気で怒り狂っている彼の様子に安堵するやら。
慌てふためく兵たちを横目に、豪奢な金の髪がこちらへ向かって進み寄ってくるのが見える。
それに相対したのは、当然ながらレオ将軍。
「違う! これは断じて、帝国の総意ではない!!」
「ならばこれはどういうことなのか。この城には多くの一般人がいる。女子供の数も、それに比例して多い。あなた方が今行っているのは、紛れも無い虐殺だ」
イケメン対渋メン。世紀の大決戦。にらみ合う2人は正に、乱世に生きる勇将そのものだ。
なんて、カッコよさげな事を考えている俺は、もしかしたらかなり気が動転しているのかもしれない。
「レオ将軍、私は貴方と、そこにいる貴方の部下を信用したからこそ、客間を開放してお休みいただいたのだ。それをこの仕打ちとは、同盟国に対してあまりの対応なのではないかな?」
レオ将軍の部下って、もしかしなくても俺のことか?
「国王サマ、違いますよ」
「……何?」
「俺は帝国に仕官してから今日この日まで、ずーっとケフカさまの部下です」
それはもう、不幸なほどに。
レオ将軍の部下になりたかったけどね。もうムリだね。今日のこれで完全に嫌われたからね、俺。
「そうか。君は結局、一人の人間でありながら帝国の軍人であり続けると、そういうことか」
うーん?
なんというかこの王様は、回りくどい話しかたが好きなようだ。正直言って、何が言いたいのかイマイチよく分からん。
どう答えたものかと、俯きながら考え込んだ俺を見て彼が何を感じたのか。それは当然、俺に分かるはずも無い。
今の俺に分かることは、イケメン国王がそれきり何一つ言葉を発しないまま踵を返したことと、砂漠に聳える一つの城が、あっと言う間に地中に姿を消してしまったこと、そして、イケメンと青バンダナに守られるようにチョコボで駆け抜けるティナがいたという事実だけだった。
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9話投稿です。
久しぶりにたくさんのコメントを頂きました! 本当にありがとうございます!!
その中でご指摘いただいたのでここでお答えさせてもらいます。
「このゲームに銃なんてあっただろうか」
はい、すみません。記憶をどこまで辿っても見たことありませんでした。
あの辺りは我ながらこじつけだったので、機会を見て修正したいと思います。当分は今のままということで……。すみません。
今後も、ご指摘、ご意見等ありましたら、ぜひお伝え下さい!
それでは!