/13.
麻帆良での楽しくも短い一時は、そうして終えられた。
明日は月曜日。
俺も幹也さんも明日は仕事だし、式さんや桜咲達真っ当な学生も当然学校がある。
土日を利用した小旅行だったし、仕方が無い。
遭難、そして発見されてから日は既に空を黒色に塗り替えていた。
俺たちの捜索に思わぬ時間を取られたために、今日は余り観光が出来なかったのは、少し残念だ。
だが、近衛、桜咲、綾瀬そして宮崎。
今の今まで行われた、休憩も兼ねたお茶会は中々に楽しめた。
時刻はすでに七時。
別れが惜しいが、それはそれ。
俺達伽藍の堂メンバーは、麻帆良の女の子に見送られながら、先生のクーペの前にいた。街の夜気が肌に冷たく刺さる。
俺のジャンパーをすり抜け、情緒を深める町の喧騒は温かさ以上にそんな印象を与えてくれた。
この街の香がどこか懐かしく、切嗣を想い出させてしまう。彼の荒唐無稽な土産話は、この町と同じ匂いがしていたから。
「見送り、ありがとな」
そんな気持ちを代弁するように、告げる。
幹也さんと式さんは既に車の中、エンジンを温めていた。
彼らに代わってのその言葉に近衛と桜咲、綾瀬と宮崎が破顔する。
「そうね、なかなか楽しめたし。私もお礼を言ってあげるわ」
隣のイリヤが、ふふんと編みこんだ艶のある白髪を秋の夜風に震わせて礼儀正しくスカートの端をつまんだ。
「ああん。イリヤちゃん、また来てな? 今度も姉ぇちゃんと遊ぼうなぁ~」
「………私はもう何も言わないわ。諦めた、どうにでもなさい」
「お嬢様……それくらいになさったほうが」
それに声をあげ、名残惜しそうに頬を擦り付ける近衛を無視して、俺は綾瀬と宮崎に向けて頬を掻いた。
「綾瀬も宮崎も、逢えてよかったよ。貴重な経験をさせて貰ったし、楽しかった、かな?」
遭難やら、お化けタガメやらを振り返りながらの苦笑だったのだが、綾瀬の笑顔は俺と異なるものだった。
「なのですよ。貴重なお話しも随分と聞けましたし、よい勉強になったのです」
「はい、本当に。またいらして下さいね、お待ちしています」
綾瀬は一瞬でその笑顔を無貌に変える。
同様に宮崎は前髪で可愛い顔を隠しているけれど、初めて会った時よりも随分とぎこちなさが和らいだでいた。まだまだ肩の張りが残るものの、こんな関係も悪くは無い。
俺はつと、冷たい外気を吸い込み、白く澱んだものを夜の霞に返す。
夜の駐車場、駅前の喧騒から逸れた中途半端な暗闇と、照らされる淡い灯。そんな情景が俺たちには相応しく思えて遠めに映る彩り豊かな麻帆良の喧騒が忙しく聞こえる。
「そんじゃ、またいつかの機会にな。―――――――ほら、近衛。いい加減イリヤを放してやれ」
ここの空気に長く当てられると、本当に帰るのが惜しくなる。
そう考え、口早に別れを告げた。
俺はイリヤの首根っこをつまんで近衛からイリヤを引っぺがす。
「な、な、な、衛宮君。イリヤちゃんだけもう一泊させてかへん? それ位な――――」
「駄目」
「ああ~ん! せっちゃんっ、衛宮君鬼畜や!!」
「…………お嬢様」
ほっと胸をなでおろしたイリヤは、颯爽に車と言う安全地帯に潜り込み、ウィンドウ越しに近衛に向けて舌を出す。だからな、逆効果なんだってばっ!
「可愛えぇ………、なあせっちゃん。この際やし衛宮君を切り伏せてでも……」
「このちゃん、その発想の飛躍は非常に不味い。どこぞの誘拐犯ですよ、それ」
まったくである。
しかも辻斬りを実行するのは桜咲、実行されるのは俺だ、苦労するな、お前も。
まあるい大きな瞳を血走らせる近衛を桜咲に任せて、俺も後方座席に乗り込んだ。
どうどうと手綱を握る哀れな従者はぺこりと、お辞儀を一つ。
その横でも、綾瀬と宮崎が軽く手を振る。
「あ。最後にさ、綾瀬」
「 ? まだ何か」
ウィンカーを下ろし首だけ除かせ、車の横に並んだ綾瀬に聞く。
「ジョセ……なんつったか、その、地下に落っこちた時さ、俺にいった言葉。あれ、どういう意味だ?」
喉に引っかかっていた彼女の言葉、俺が一体誰に似ているって?
そんな俺の疑問に、きょとんと、口をへの字でむすんだまま綾瀬は呆ける。
だがその後には、「可笑しな人です」と苦笑まじりに感心された。
「ジョセフ・ヘラーですか? ふふ、やはり貴方は、そっくりなのですよ。自分で考えるのです、貴方も魔術師ならば、思考する楽しみを覚えるべきなのです」
「それ、遠回しに答えは教えないって言っているのか?」
「さあ? お子様は答えを知る必要が無い、と申しているのです。どうしても知りたければ、衛宮さんの師匠にでも聞くのですよ。きっと、ご機嫌に頷くのです。話の限りでは、貴方の先生と私は、近しい人種のようですから」
余計に分からなくなってしまった。
俺は有耶無耶のまま頷いて、綾瀬に不満の半眼をくれてやる。
だが、これ以上話す事はないとにっこり微笑んだ綾瀬は、俺の視線に堪えた様子は無い。
「それじゃ、士郎君。いいかな?」
がたんと、一際揺れたオンボロのクーペ。
俺は窓を閉めて、幹也さんに頷いた。
小さく手を振る麻帆良の魔術師たちは直ぐに小さくなり、俺の視界から掻き消えた。
夜の光を霞めるように、麻帆良の空気が薄くなる。
十月。
二度目の別離は、どこか神秘的で、魔術師としての自分がこの街を去ることに、僅かの侘しさを感じていた。
Fate / happy material
第二十二話 スパイラル 了
Spiral / to be an innocent. 14.
暦は既に変り、十一月。
冬の寒さも深まり、都会の鋭い冷気が俺たちの町を満たすこの頃。色を失った木々は寒空とは裏腹に段々と薄着になり、近づく年の瀬を知らせてくれる。故郷にはない殺風景な都会の景色に、俺は寂しさにも似た郷愁を覚えていた。
「うぅ、寒ぃ寒ぃ」
俺は茶色のジャンパーに片手を突っ込んだまま、我が家の薄い玄関に錠をかける。
頼りない錠前が軽快な音で留守を任された事を教えてくれた。
「本当ね。都会の寒さってどうしてこう痛々しいのかしら?」
「さあな、見当もつかない」
俺達は霜の降りた赤錆の階段を注意深く下りる。
紫のコートと赤い色のマフラーを着込んだイリヤの手を引き、目的の駅に向かう。
先生の工房までは電車で二駅、通勤時間は徒歩を含めて約三十分。
ああ、電車の暖房が恋しい。
肌に張り付く朝霧の冷たさを感じながら、俺達は今日も伽藍の堂を目指すのだった。
紆余曲折の末、今日の仕事も無事終了。
式さんは幹也さんと約束があるらしく、剣の鍛錬はお預け。
俺はイリヤと一緒に夜の魔術鍛錬を開始していた。
「 I am the bone of my sword (我が理念は貫く歪)」
嘆いた言葉と共に、ランプの炎は盛る赤色から薄い青色へと揺らぎ、変化した。
イリヤの呪には遠く及ばぬものの、俺の式は確かに世界に接続されている。いまだ言霊は定まらないけれど、しかし、手ごたえは充分だ。
幹也さんと式さんが帰ったオフィスの中央。
全ての電気系統をカットし夜の闇が亡羊と満ちるこの部屋の中で、先生が 変化を施されたランプをまじまじと見つめ、そして口を開いた。
「ふむ。変化の術式も、段々と様になってきた。ようやく“掘り当てた”らしいな」
「そのようね。まだまだ、未熟だけど」
イリヤは先ほどまで形成していた“水の矢”を霧散させ、先生からランプを受け取り零す。彼女は最近、魔術学校の必修科目だという様々な基本魔術を先生と一緒に練習している。
先生の所で魔術を習い、早半年。
湯水の如く才能を溢れさせるイリヤは、“習得”だけならば既にそれら基礎の魔術を完了させているのだと、以前先生が話してくれた。アインツベルンでは習えなかった、いや、習わせてはくれなかった基本的な魔術の仕組みを、いまやイリヤは使いこなせてしまう。
彼女曰く“リンの優秀さがよく分かる、基本が有ると無いとじゃやっぱり違うわ”とのこと、だが“いずれは追いついてみせる”と自信に溢れる一言も漏らしていた。
元も子もなく言うのであれば、俺には二人の能力の差など皆目検討もつかない。遠坂にしろ、イリヤにしろ、俺と比べるべくも無く優秀な魔術師である事に変りはないのだから。
話しは逸れるが、現在イリヤの必修する“基本魔術”。
時計塔やその他の協会が運営する魔術学校はそれぞれ別個にカリキュラムを作成しているらしいが、規範となる魔術はどこへ行っても変らない。
例を挙げるのであれば、発火の魔術を通じて鍛錬するパスの作り方、魔力の練り上げ。
魔力の矢を通じて覚えこむ魔力のコントロールや、類感による属性の派生、抽出法。
その他の簡易的な魔術儀式や教養課程。
イリヤはこれらの修練を通じ、基礎を練り上げ、今までは“願う”だけでなしてきた魔術工程を一つの“理論”として新しい体/魂に刻み込んだ。
これらの魔術は、一様に俺も先生の所でこなしてはみた、みたのだが、全ては無駄に終わった。基本どころの発火の魔術さえ、俺は使うことができなかったからだ。いや、一応使えたが、発火の魔術なんぞを使うのであれば、チャッカマンやマッチを投影したほうが幾分もマシである。もちろん、魔力の矢然りである、南無三、俺の才能。
それは兎も角。
「変化の呪、イリヤの言うとおりまだまだ未熟だけど確かにコツを掴みましたよ」
三回に一回は成功するようになった俺の術式。
まだまだ使いこなすには程遠いが、“習得”出来たのは間違いない。後は強化、解析の魔術同様、数をこなして練度を上げていくだけである。
「ふむ――――――それはいいのだが……随分と嬉しそうだね、君は」
俺は、確かな手ごたえを感じていると先生がそんな事を漏らした。
どうやら、変化の呪成功に俺の頬は相当緩んでいた様だ。
「だって、楽しいですから。こうやって魔術を勉強するの」
俺は腕まくりでむんずと、今日はこれで十個目になるランプを掴み取るのと同時に、先生に白い歯をきらりと見せびらかせながら言う。
軽口、冗談の筈の俺の言葉は、しかし。
「そうか」
簡単な相槌。
だけど、先生はデスクに腰掛けたまま、普段は見せてくれない優しい顔で漏らした。
ああそうか、先生も同じなのだと、今更気付かされた。
唯我独尊で我侭自分勝手で傲岸で不遜、そんな魔術師の先生や遠坂。だけど、その内では誰よりも魔術を、神秘を愛しているからこそ、強く、自分の道を曲げないのだ。
「はい。やっぱり俺も、魔術師だったみたいです」
何かを信じる、何かを愛する、そして――――――何かを楽しむ。
虚ろで、曖昧な幻想。
きっと自分以外には無価値でしかないその想いを、全身全霊をかけて意味ある原動力に変える。辿り着けない“何か”を目指すために、かけることなど赦されないモノ、それが、誰しもが持つ人間としての綺麗な欲望。
エミヤシロウが切り捨て、衛宮士郎が救い上げた、きっと、かけがえの無いモノ。
「ふん、今更だね。―――――ほら、さっさと次のランプに変化をかけろ、まだまだ粗が目立つんだ、無駄口を叩いている暇が惜しい」
「了解っ。ビシバシお願いします!!」
結跏趺坐の形で冷たい土瀝青の地面に腰を落とす。
くっくっくと何時も以上に底意地悪く、だけど少しだけ嬉しそうにそれを見下ろす先生。
「そうだね、今日は特に念入りに行こうか? イリヤスフィール、君も付き合え。どうも調子に乗っている馬鹿弟子に灸を据えようかと思うんだ」
「あら? たまにはいいんじゃないかしら、私はとっくに今日の課題を終えているし、シロウの特訓に付き合うのも面白いかもね」
ニヤリと、桜色の唇を歪めてくれた二人が俺を舐めるように凝視している。
昔は女の子の視線を感じただけで赤くなっていた純情な時があったなぁと、血の気が引き青ざめる顔で振り返る。
「………あの、出来ればお手柔らかに」
「つれないね。コレも愛だよ、幸運に思え」
漏らした苦言は、あっさりと先生によって流された。
ぐっとあふれ出すモノを飲み込み、一段と肩を落とし、鍛錬用の魔具(ランプ)を右手で弄んだ。暖房を切っているためか、身体の芯まで寒さが浸透してきた。
「――――――――有り余る愛が痛い」
オフィスを囲む一面のガラス窓に映えるネオンの明かりが眩しすぎるぞ。
「出来の悪い子ほど可愛いって言うしね。その点、お兄ちゃんに敵う奴なんていないわね。母親代わりのトウコだもの、そう感じても仕方が無いわ」
やれやれと、イリヤも俺のことを甚振ってくれやがります。
先生の隣、遠く都心の夜光はピントのずれた背景の様にイリヤの白い三つ網を浮き彫りにしていた。彼女の言葉に、先生がやはりぼんやりと灯る街の灯を背中に、薄いなで肩を震わせる。
「おいおい、笑えないな。こんなでかい子供はお断りだよ」
げっ、と先生には珍しく大きく表情を変える。俺はと言うと、対応の仕方も分からず手の内でランプをこねくり回していた。いや、だってさ。下手なことはいえないでしょ。
それが功を奏したのか、忘れ去られていた記憶の糸が絡めとられるように思い起こされた。
「子供、お子様?……。ねぇ先生、俺ってジョセフ何とかって人に似ているんですか?」
「あん?」っと先生が怪訝な顔を俺に向ける。
いつかの日に、綾瀬が俺に宛てた不確かな、だけど俺の心に痞えた奇妙な言葉。子供の様な人。確か、綾瀬はそうも言っていた。
「ジョセフ何とか? 何の話よ、それ」
不思議そうなイリヤに、俺は返す。
「ええとな、九月にさ麻帆良に旅行行ったろ? その時綾瀬に言われたんだ、俺が子供みたいだ、とか、そのジョセフ何とかの様な奴だ、とかさ。別になんてことは無い言葉なんだろうけど、…こう……落ち着かなくてな」
俺とイリヤの遣り取りの端から、先生は言葉を掻い摘んで思考を纏めたのか、「ああ」と納得気にタバコに火をつけた。鍛錬を続ける空気ではなくなってしまったので、俺はランプを先生の机の上に置き、強化の呪で暗がりの室内に明かりを灯す。
先生の吐き出す紫煙の匂いを避けるように、俺とイリヤは中央のソファーに腰を下ろした。
「ジョセフ・ヘラー……か、なるほど、上手いことを言う。彼が君と出会えたのならば、さぞかし嫉妬の念に駆られた事だろうよ」
先生は、独り言のように、だけど俺の耳にも届くように、ぽっと唸る。
「先生、意味が分かるんですか?」
俺は静めた身体を起こし、先生に首を回す。
先生の目の前で、ランタンの炎が大きく揺らいだ。
「まあね。簡単だよ、ネオテニーと言う奴だ」
先生から飛び出した言葉は耳慣れない言葉だった。
ねおてにー?
脳みその受付係がこの言葉をどこに伝達すべきか必死になって動き回っている。
「何それ? シロウってイソギンチャクだったの?」
「ふむ、それはそれで面白そうだが違うね。あくまで比喩さ、幼形成熟、或いは幼態成熟と言えばいいのかな。衛宮の事だ、イリヤスフィール」
イリヤはその言葉に俺の顔をまじまじと見つめ、次の瞬間には大きく頷いた。
一体どんなナゾナゾですか?
俺は頭を掻きながら、イリヤと先生に思い切って尋ねた。
「なあ、二人して納得するなよ。俺がついて行けてないぞ」
少し拗ねた様な口調に、二人の悪魔は満足げに顔を合わせると、仕方ないとばかりに先生が口を開いた。なんか釈然としない。
「“大人になったら、小さな男の子になりたい”詰まりはそれだけだよ、衛宮」
ふっと、先ほどの空気を脱ぎ捨てた先生が溢す。
ネオテニー、幼形成熟。そして、この言葉から推察するに……。
「それって、要するに俺がガキンチョだって言いたいわけでか……?」
くっと、俺の不満顔に何が可笑しいのか、先生が震えるお腹を押さえながら咽込んだ。
イリヤもイリヤで、「…はあ」と息を漏らす。だから、なんでさ?
「くっくっ……まあ、そうだな。その通りじゃないか」
「…………そうね、反論の余地も無いほどに」
ずんと、何か凄い衝撃を内臓に受けた気がする。
そうかぁ、俺ってやっぱり子供みたいなのか。
タッパも無いし、童顔だしね。それも仕方が無い。
「何を落ち込んでいるのよ、シロウ。誇りなさい、それって、貴方の一番いいところなんだから」
俺はイリヤの夜の外気を伝う暖かな言葉に顔を上げる。
彼女たちの着込んだ空気は俺を嘲る物ではない、それだけは確かだった。
「噛み締めておけよ、衛宮。君の願いの為にもね―――――――――」
先生はそう言って椅子を回す。
薄い逆光と揺らぐランタンの灯に陰りを創り、境界線の如く佇む彼女。
辺りを包む暗闇の中で、イリヤの輝く白髪が薄く開いた窓から夜風に揺れている。
「“小さな男の子になりたい”――――――――か」
彼女達がくれた冷気と暖気が混濁したこの沈黙に、そう一人ごちた。
軋んだソファーの音から、俺が天を仰いだことに気付く。
冷たく肌を撫でた夜の木枯らしが、俺の首筋を伝い、真っ赤な髪を僅かに震わせる。
そこに感じた僅かな郷愁は、果たして何時のモノなのか。
――――正義の味方は期間限定でね、大人になったら――――
確かに、そんな言葉が吸い込む乾燥とした冬の匂いに紛れていた。
すとんと、二つの言葉が腑に落ちる。
俺のはじまり、綺麗な願いを受け取るその瞬間は、今とは真逆の暦だった。
だけど、今は確かに感じている。切嗣と交わした、あの日の約束を。
俺の世界に、俺の起源に刻み込まれた、“変らない変化の決意”。
そうだよ切嗣。
全ては救われなけりゃ、嘘なんだ。
アンタは、俺たちは歪で狂っている。
だけどさ、俺たちの骨子は捻じれているけど、その願いは狂ってなんかいない。
だってさ、俺たちが目指すものは、アンタが目指していたものは、どうしようも無い位真直ぐで、綺麗なんだから。
アンタの強さを俺は否定する、俺は何一つ切り捨てない。
俺はその歪さを信じている。
この歪さを、どこまでも貫いてみせる。
世界の矛盾に納得なんて、しない。
この理想が間違いだなんて、認めない。
それが、その決意が俺の変化だって信じているから。
「期間限定の、―――――――――“全てを救う”正義の味方」
そう嘆いて、俺は歪んだ顔で瞳を塞いだ。
「なるほど、俺は子供のはずだよ」
ふっと、零れた自嘲は二つ。
確かに、爺さんが笑っている。
「でも、――――――――だから」
俺は、アンタと違う歪んだ未来(はめつ)を―――――――――――貫くことが、選ぶことが出来るのかな?
この日、この夜。
俺の世界は、確かに変った。
変らぬ歪さを貫く、その決意(へんか)と共に。
――――――――――俺は子供のまま、大人になった。
切嗣が目指した、綺麗なままの“願い”を叶えるために。