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No.10271の一覧
[0] 東方虹魔郷 (現実→東方Project TS)[Alto](2009/09/26 21:13)
[1] 東方虹魔郷 第二話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/28 02:05)
[2] 東方虹魔郷 第三話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/19 03:45)
[3] 東方虹魔郷 第四話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/19 03:48)
[4] 東方虹魔郷 第五話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/09/27 08:43)
[5] 東方虹魔郷 第六話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/14 23:09)
[6] 東方虹魔郷 第七話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/24 22:05)
[7] 東方虹魔郷 第八話(現実→東方Project TS)[Alto](2009/10/25 20:19)
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[10271] 東方虹魔郷 第二話(現実→東方Project TS)
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/28 02:05
紅魔館の一室、シャンデリアとキャンドルに照らされた赤の目立つ室内では、普段とは一風変わった朝食風景が展開されていた。

朝、それは夜の帳を押し退け陽光が世界を埋め尽くす、吸血鬼にとっては忌々しい時間帯。しかし、今の彼女にそんな瑣事は気にもならない。
何故なら今、長年、そう長年その絆が薄れていた妹のフランと共に朝食を摂っているのだから。しかも、そこに敵意も害意も悪意もない。
これほど喜ばしい事の前に、外の世界がどうなっていようと関係あるものか、と。いや、窓に引かれた、カーテンの隙間から漏れる陽光すらも、そのささやかさから祝福の様にすら感じていた。

「どうした、お姉様。手が止まっているが大丈夫か?」

昨日の様に大きな部屋でも長大な食卓でもなく、元の小さめの食卓の向かい側にいるフランから話しかけられて、レミリアは思わずビクリとした。緊張で羽がピンと張る。
斜め後ろに控える咲夜がクスッと笑う声が聞こえて赤面。思わぬ醜態を見せてしまったと少し顔を伏せる。何とか誤魔化そうと直ぐに顔を上げ口を開くが。

「いえ、何でもないわ。唯……いえ何でもないわ!」

「一緒にいるのが嬉しくて」と洩れそうになった本音を慌てて更に誤魔化す羽目に。
頬を更に朱に染めて、顔を逸らし目を瞑った彼女に、フランは目を細めて愛しむ様に薄く笑う。
ちらりと目を開けて見たレミリアが、思わず顔全体を真っ赤にし、瞠目し、そして拗ねる様に怒ってしまう様な笑みだった。

「べ、別に何でもないって言ってるでしょ!」

レミリアはふんっ、と顔を背ける。
食卓を元に戻したのは少し失敗だったかもしれない。彼女はそう少し後悔していた。いきなりこれでは身が持たない、と。
そんなレミリアにフランと咲夜は顔を見合わせて苦笑。その様子はレミリアにも分かったが、これ以上墓穴を掘るまいと一口紅茶を飲んで気を落ち着ける。
暫し、穏やかに朝食を楽しむ音のみが続いた。その場にいる誰しもが静かに笑みを浮かべる様な、そんな穏やかな時間であった。
レミリアもまた、こんな朝食も悪くはないと万感の念を以ってそう思い。静かに笑みを浮かべるのだった。







東方虹魔郷
第二話 何者とも知れぬ者







「お姉様。一つ、大切な話がある。」

フランがその様に言ってきたのは、朝食を終え、緩やかに流れる時間の中でお茶を楽しんでいた時だった。居住まいを正しながら言ったその顔は真剣で、それは内容の重要さを窺わせる。
レミリアは、カップを静かにソーサーへと置き、僅かな緊張を滲ませ、しかし動揺はすまいと心身共に居住まいを正してから答えた。

「言って御覧なさい。」

昨日、話しそびれた事……いや、こちらの様子を見て言わなかった事かしら。フランの様子からみて、多分気を使われたのね。と、レミリアは嘆息。
レミリアの背後に控える咲夜が自身もいてもいいのかとフランに目で問うて、フランはこれに一つ頷く。そしてレミリアに目配せし、レミリアもまた、小さく顎を引く様に背後を見て一つ頷いた。主従は一心同体なのだと。
それを見てフランはまた頷き、真剣な面持ちのまま話しだす。

「大切な話とは、私の人格についての話だ。何故、こうなっているのかは昨日話さなかった故に、早めに話しておこうと思ってな。」

「……分かるの?」

てっきり何も分からぬ内にその性格になったのかと……と、レミリアは首を捻った。
訝しむかの様に揃って首を傾げるレミリアと咲夜にフランは内心少し苦笑を洩らし、しかし、内容が内容だけに緊張を隠せないレミリアの問いに、フランは頷く事でしかと答えた。そして続ける。

「世界の壁を打ち破ったという話を昨日したな。」

「……ええ。」

真っ直ぐこちらを見て話すフランにレミリアはしっかりと頷く。今でもまだ驚愕すべき事実であり、忘れるわけがない。
フランは一度目を瞑り、一拍置くとその事実を話した。

「その時、私、と言うよりもフランドール=スカーレットの体の中に一つの人格が入り込んできた。」

「っ!じゃあ!」

それは更なる驚愕だった。
レミリアは瞠目し声を上げる。彼女は息をするのも忘れ。それは、つまり……何だか嫌な予感がする、と冷や汗。

「そうだ。その人格とフランドールの人格が合わさって、今の私が、いる。」

「…………なら、貴女は……いえ、貴女はフランなのね。その、人格とは誰なの?」

思わず咲夜と二人揃ってゴクリと唾を飲み込む。

「誰、か。外、と言うよりも異世界において学生をしていた……」

レミリアの問いに、フランは少々言い淀む様に間を置いた。
自然、レミリアと咲夜は身を乗り出してフランの次の句を待ち……

「男だ。」

そして、その言葉で凍った。二人はビシリ、と体を緊張させ、瞠目し、口を開け間抜け面を晒す羽目に。
フランは不謹慎と思いつつ、そんな二人の様子を可笑しく思っていた。表には微塵も出さない辺り合計五百歳オーバーは伊達ではない。

「…………………お、おおおおおおおおおと、男ぉーーーーーーーーーーー!?」

半分ほど逸早く解凍されたレミリアの甲高い絶叫が響き渡る。フランはそれを察知し、逸早く耳を塞いでいたが、僅かに身を乗り出してお盆を両手で抱えていた咲夜は間に合わず、お盆を片手に持ったまま耳を塞いで蹲る羽目に。少し涙目だった。

「ゆ、ゆゆゆゆ許さないわよ!男なんて!フランには早すぎるわ!」

男、フランが男と一心同体!駄目よ!駄目だわ!と顔を真っ赤にして、テーブルに身を乗り出し涙目でフランに迫るレミリア。
しかしフランは冷静だった。

「落ち着いて頂きたい、五百歳のお姉様。」

それに私は四百九十五歳だと言って切って捨てるフランに、レミリアは唸るしかない。

「う、うー!うー!うぅーーーーー!」

フランが!フランが!でも今のフランは嫌いじゃない!フランは嫌いじゃない!どうしよう!ねぇ咲夜どうしよう!何蹲ってるの咲夜!しっかりしなさい咲夜!レミリアは大混乱だ。先ずはお前がしっかりしろと。
これがれみりゃうーか、等とフランは内心軽く感嘆していた。
結局、事態の収拾まで数分要する羽目に。既にカリスマも糞もあったもんじゃない。きっと流れる溝にでも落としたのだろう。



「ふっ、少し取り乱したわね。」

「手遅れだよお姉様。」

髪を掻き上げ言うレミリアをフランは切って捨てた。溝だろうが水は水、流れているなら取り返せないのだ。
とは言え、少しばかり意地悪だったかな、と膨れっ面で睨みつけてくるレミリアを見ながらフランは思う。
フランはそんなレミリアに軽く謝りながら、さて一先ず、と思い咲夜を見て言った。

「咲夜、耳は大丈夫か?」

「……ええ、はい、大丈夫です。」

そのよく手入れされている銀髪の上から未だに耳を押さえている咲夜を心配し、同時に彼女の右手に保持されているお盆を見て、放り出さないのは流石だな等と少しずれた事を思うフラン。反省点+1だ。しかし、一応大丈夫そうなので、そうかと進める事に。

「まぁ、兎も角、偶然か必然かは分からないが、フランドールの中に召喚された男がストッパーとして機能している状態が私であるわけだ。
 既に融合している状態でストッパー等と言うのも可笑しな話だが。」

「ふぅん、そう。」

結論を纏めるフランに対し、レミリアはそっぽを向いて唯それだけを。フランは軽く嘆息。

「拗ねないでくれないか、お姉様。」

それに対し拗ねてなんかないわ、と言う明らかに拗ねた表情のレミリア。しかし、一つ溜息を吐いた後、だって、と初めに付けて真剣な顔でフランに向かう。妹の事、彼女は彼女で真剣だった。

「何にせよ、貴女は貴女でしょう。問題点なんてものはこれから一緒に生活して行く内に出てくるものよ。
 少なくとも、そう、今のあなたに対して文句はないもの。」

ペースを乱されるのは嫌だけど、と内心で付け加えつつレミリア。それに対してフランは、まぁその通りではあるが、と納得の表情を見せる。内心で、ちょっと賢そうに見えるぞ、等と失礼な事を考えながら。今思えば、吸血鬼たるレミリアは当然夜型だ。昨夜早々に眠った自分に合わせてくれたのだろう。そう静かに感謝した。
一晩の内に記憶が整理されたのか、少々フラン本来の気質があらわれているのかも知れない。今の自分は少し意地悪だ。と少し自制。
気を落ち着けるかのように紅茶を飲む姉を見ながらフランは思う。結局の所この姉妹、相性が悪かった訳ではないのだろう、と。我儘で高慢な姉と、彼女の壁を打ち壊す、純粋でやんちゃな妹。ただ、彼女達の力がそれを壊したのだ。そう、何処にでもある様な不幸。そう言いきってしまえるほどに単純で、どうしようもない事。彼が信じた神にとって、それは正しく神罰だったのかもしれない。

「フランドール=スカーレットは、唯純粋だった。そう言う事か。」

フランがポツリと漏らす。それは、嘗てのフランドール=スカーレットを悼むかの様な弱さであった。彼女自身、それに気付きつつもしかし言わずには居られなかった。
レミリアはそれに対して唯、「……そうね。」と短く返すしかなく。
暫し、死者を悼む様な沈黙の帳が部屋に下りた。淀んだ雰囲気が部屋に満ち、咲夜が紅茶を入れる音のみが唯許された救いであった。
フランは自身の発言を後悔。或いは音を無くすまいと、咲夜の入れた紅茶を一口。それは彼が飲んだどの紅茶よりも美味く、しかしどこか味気なかった。
やがて、耐えきれぬかの様に遮られた窓を見る。彼であった人の意識がそこにはあった。
窓からは緩やかに風が吹き、しっかりと引かれたカーテンが僅かにふわりと持ち上げられている。そこには陽光が僅かに広がり、爽やかな風と共に小鳥の囀りが聞こえてきた。
フランはその様子を見、日を浴びれぬこの身をただ少し残念に感じた。蝋燭の明かりでは感じられぬ温かみが、そこにはあるのだからと。
一方、そんなフランの様子を見ながら、レミリアは一抹の寂寥感を感じていた。故にこの沈黙を破る為、口火を切ったのはレミリアだった。今、この瞬間を不幸と感じる事に我慢できず。フランの、日の光を見る瞳の意味を理解できず。故に彼女はそれを否定したかった。だから、努めて明るい口調で言った。

「……もう良いわ、だってフラン。貴女は生きているもの、不死者だけど。
 こんな事は一秒前の自分を悼む様な馬鹿な真似だわ。」

流石のセンスだわ私と思いながら、少し茶化した口調のレミリア。それは彼女なりの気づかいであり、自身の怯えへの誤魔化しであった。
フランはその前者に気付き、後者を何となく察して、彼女の気づかいに感謝しつつそれに乗る様に言う。だが忘れはしないと言う思いを乗せながら。

「……そうだな。前向きに生きるか、既に死んでいるも同然だが。」

フランはレミリアに笑いのセンスはないなと思いつつ。レミリアは流石私の妹ねと笑い、乗ってくれた妹に感謝し、フランはそれを見て微笑ましく思い笑う。
咲夜も、レミリアお嬢様笑いのセンスないな、等と思いながら穏やかに笑っていた。
レミリアの意思に関係なく、何となく彼女の立ち位置が決定した瞬間だった。一先ず、彼女が愛されている事は間違いないだろう。



一段落した後、フランはレミリアに、もう一つの本題を切り出す事にした。既に紅茶も片付けられ、テーブルを挟んで何をしようか等と会話をする状態だ。フランは、囀る小鳥の鳴き声に、一度羨望の眼差しを向けてからレミリアに向かい、真剣な表情で話しだす。

「お姉様、早速だが、私の願いを覚えているか?」

「?ええ、外に出たい、よね。でも、今昼よ?」

レミリアの言い分ももっともだが、フランからしてみれば遮られた窓の隙間から見えた陽光は酷く引かれるものだったのだ。それは彼の意識であり、彼女が経験した事のない未知への関心であった。

「何、日傘をさせば大丈夫なんだろう?何故大丈夫かは知らないが。」

「妖気で日傘とその周囲を覆っているのよ。確かにあれを使えば大丈夫だけど……それでも危険はあるわ。」

心配するような眼差しを向けてくるレミリアに、しかし、フランの意思は覆りようもないほどに固かった。成程と頷きつつ確固たる意志で返す。

「いや、やはり外に出たいのだよ、私は。」

フランの眼差しは真剣だ。彼と彼女の意思は苛烈ともいえる自我の塊、その二人が合わさった彼女に下手な妥協は存在しなかった。
レミリアは暫し黙考、真剣に考え、しかし結局フランの瞳に押し負け溜息を吐きつつ言う。

「………………分かったわ、正し、私も一緒に行くわよ。それに、紅魔館の周囲だけ!」

最後は少し怒った様なレミリア。結局今の彼女は妹に甘いお姉ちゃんであり、故に妥協案を付ける事で納得したのだ。妹と一緒に過ごしたい。そんな意識もあったのだが。
フランはそんな姉にふっ、と笑みを零す。愛おしいと思う気持ちには微塵の嘘もなかった。唯、少し歪んだ部分が存在するのも確かであり、発せられた言葉には多分の愛と僅かな自制が籠っていた。

「了解したよ。お姉様と一緒にお散歩だ。」

「……ばか。」

満面の笑顔のフランに、顔を真っ赤にするレミリア。もうこの姉妹結婚しちまえば良いのに。咲夜は、そんな言葉をオブラートに包んだような感想を持ちつつ、微笑ましげに二人を見守っていた。



陽光が燦々と降り注ぎ、陰が色濃くその姿を現す鮮やかな景色の中、スカーレット姉妹は紅魔館の玄関前に立っていた。正面には、赤い煉瓦作りの道が門まで続いている。
現在季節は夏である。吸血鬼には辛い時期だがフランは何でもない様に平然としていた。レミリアはそれが不思議でならない。自身は直ぐにでも屋敷の中に引き返したいほどだと言うのに。このけぶる様な熱さもまた頂けない。

「この日傘は良いな、陽光の不快感がかなり抑えられる。」

その場でくるりと一回転するフラン。ふわりとスカートが舞った。興奮の所為か妖気が少し乱れている。そんな様子に苦笑しつつ、レミリアは口を開いた。

「まあね、それでも不快なものは不快だけれど。ああ、妖気を纏うのを忘れちゃだめよ?貴女ほどなら少しくらいは大丈夫でしょうけど。」

了解と言って一歩、躍り出る様に踏み出したフラン。日の光に満ち満ちた世界の眩しさにその広さを夢想していた。この世界の隅から隅まで歩いてみたい、飛んでみたい。そんな衝動に駆られているのだ。ああ、私は今までこんなにも美しい世界に目を向けずにいたのか、あの暗い部屋の中に己の領域を定めていたのか。フランはしかし、後悔など入る隙間もないほどに、胸一杯に感動と世界への期待を秘めている。
レミリアはそんなフランを見て、子供の様にはしゃいじゃって、と微笑ましげな表情を。ああ、この忌々しい太陽の下でもフランのあの表情を見れるのなら、案外悪くないものね。今のレミリアにとって、フランと共に過ごす時間ほど貴重なものは他になかったのだ。

「お姉様、私は何処までなら行って良いんだ?今日はどこまで行けるんだ?」

目を細め、諳んずる様に。辛抱ならないという感情が透けて見える様なフランに、レミリアは微笑んで、そして諭す様に。

「そんなに急がないの。この島の中なら何処まで行っても大丈夫よ。湖の上も、少しなら大丈夫。」

フランはそうか、と言って門の向こうを見た。鉄格子の向こう側、木々の額で飾られたそこからは、遥か向こうの僅か下方に美しい湖がきらきらと輝いているのが見えた。大きな雲を浮かべた青空の、その美しい色合いに微笑みを。時折影を作る雲には世界の躍動を感じた。木々にざわめきと共に感じる風には心を洗われ、庭に植えてある煉瓦造り花壇の花の香りを楽しみつつ、フランは何処に行こうかと考える。初夏の香りは草木の香りだ。
さて、どうしよう。何処に行こう。ああそうだ!先ずは門番に挨拶をしておこう。眠っていたらからかってやるのだ。ああそれが良い。そのまま湖まで駆けて行こう。
そう決定するが早いかフランは弾ける様に駆けだした。待ちなさいと言うレミリアの声を置き去りに。初めての外の感動に彼でさえ見たこともない様な風景、そして清涼な空気に童心へと帰っているのだ。
フランは赤いレンガの道を軽く息を弾ませ駆けていく。途中、如雨露を抱えた妖精が、びっくりするような速さだった。彼女を応援するのは水を滴らせた鮮やかな花達である。今この瞬間は彼女にとって、彼のいつかのあの日の様に輝いていた。幼少の日の幻想だ。そしてやがて、蔦を絡ませた門へとたどり着く。綺麗で小さな白い花が、その所々で咲いていた。フランは早速大きな声で呼びかける。

「美鈴さん。起きているかい?寝てはいないかい?門を開けてはくれないか?」

「ふぇ?えぐっ!?」

軽く息を弾ませながら言う声に、答えたのはそんな間抜けた声と、門壁に頭を打ち付けた様な音だった。容易に想像できるその姿に、フランはあははと腹を抱えて笑う。漏れた妖気が蔦の花を小さく揺らした。
暫くすると、そうレミリアが少し早足でようやく追いついた頃に、美鈴は涙目で姿を現す。こぶが出来たのか、その鮮やかな赤髪の上から後頭部を押さえていた。

「うぅ、どちら様って……レミリア様に…フラン様!?ええ!?どうなさったんですか!?」

先ずびっくらこいたのは美鈴だ。大体の話は昨日聞いたが、普段は表に出る事のないフランが表にいる。しかも昼間にレミリアと一緒に、だ。

「やぁお早う美鈴さん。この陽気では眠くなるのも無理はないな。それは兎も角さぁ、門を開けてくれ。」

しかし、フランは美鈴の問いを軽く無視。そんな彼女にレミリアは眉を顰めて諌める声を、美鈴は更に困惑しつつ更なる疑問を。

「ちょっとフラン。貴女急ぎすぎよ、湖は逃げないわ。」

「っていうか美鈴さんって何ですか!?さん付けなんていいですよ!」

金髪吸血鬼少女フランはしかし、唯のお子様じゃなかった。朗々と語って再度己の要求を言う。まぁつまりお子様ではあった。

「お姉様、こういう時は楽しむものだ、走っているその時も。優雅に歩くほど私の時間は遅くはないのだ!」

と、レミリアへ。

「何となくだよ美鈴さん。貴女にはこちらの方がしっくりくる。近所のお姉さん風味だな。さぁさぁさぁさぁそれより門を!」

と、美鈴へ。

突然誕生したやたら明瞭明達なお子様に付いていけないお姉さん二人。テンション高すぎてアッパー状態、ここら辺はフランドール本来の気質が表れているのか。
レミリアは自身の老けを気にし始め、美鈴は子供特有の勢いある雰囲気に軽く呑まれていた。

「ええっと、はい。じゃあ門を開けますね。」

とりあえず、と鍵束を取り出す美鈴。フランは満足そうに頷いた。そんなフランに飛べばいいじゃないと突っ込もうとしたレミリアは。

「嗚呼、頼むよ美鈴さん。ああ、お姉様は飛んでいけばいいじゃないなんて無粋な事は言わない様に。冷めるから。」

「うっ……い、言わないわよ」

先手を打たれて詰まってしまう羽目に。昨日からフランに振り回されっぱなしのレミリアであった。



左右上方から木々のざわめきが響く林道の土の道。美しい色彩の青空に大きな入道雲、そして輝く湖を正面に、二人はゆっくりと歩いていた。フランが急く様に少し前を、その後ろを少し疲れた様にレミリアだ。フランは辺りをじっくり観察しながら歩いている。ミンミンと鳴く蝉の声が響いており、この光景に風情を感じさせた。

「やはり、走っていきたいのだが、お姉様。」

傘を手に、くるりと振り返りながら言うフラン。後ろ歩きでレミリアの返事を待つ。レミリアは一つ溜息、前よりある意味性質が悪いわと思いつつ。

「駄目よ、人を年寄り呼ばわりした罰と思いなさい。それに、レディはあんな風に走るものじゃないわ。」

「前者はそんな心算ではなかったんだが。と言うよりもそう思ったのならば事実では……。」

そこまで言うとギロリと音が付きそうな勢いで睨まれたフラン。苦笑しながらくるりと前を向いて歩きだした。ざっざっ、と土を踏みしめる音が、心地よく感じる程度に気分が良かった。
少し、周囲へと目を向ける。木々の影から、小さな妖精がもの珍しそうにこちらを見ていた。笑って手を振ると振り返してくる。中には逃げてしまう者もいた。これは、ここ幻想郷では当り前の風景。それを認識するだけで、再び胸が高鳴るのを彼女は感じた。妖気は乱れ、思わず鼻歌など歌ってしまう。アメイジンググレース、驚嘆すべき主の恩寵。吸血鬼が歌うには趣味の悪いすぎる歌である。しかし、今ここにいるのは彼女を除けば捻くれた我儘お嬢様だけ。

「良い趣味してるわね。」

と来たのもである。フランは唯、笑って答えた。
暫くフランの歌のみを供に、二人は道を歩いて行く。木々に翻弄される木漏れ日は飽きる事無く、そよぐ風は爽やかに。
Than when we first begun―神の恵みを歌い讃え続けることだろう―……やがて歌が途切れる頃、湖まであと少しと言った所でフランが口を開いた。

「ふと思ったんだが、紅魔館とはマフィアの様なものだな。」

急な話題。鼻歌の沈黙の内に、何を考えていたのか気になる話題だ。レミリアはそんなフランに少々不満気。

「何よ藪から棒に。それにマフィアなんて失礼じゃないかしら。貴女もその一員なのよ?」

フランはいやいやと笑って言う。

「周囲の領地を管理し、支配する。自警団と言うには少々荒々しい存在だ。マフィアの様なものさ。まぁ、昔の貴族よりはましだろうよ。」

あんまりと言えばあんまりな言い様だった。レミリアは顎を少し上げ目を細め、薄く笑って挑発する様に言う。

「ふぅん、なら、私がゴッドマザー?」

それに対するフランは、唯ニヤリと笑って答えずに。
暫しの間、下らなすぎて二人で笑った。姉妹仲は悪くないようだが、どうにも頭が良いのか悪いのか、良く分からない二人。
そんな二人を見つめていた影が一つ。先回りする様に湖へと向かうのに、そのまま二人は気付かなかった。




湖付近にようやく到着。視線の先で森はやがて途切れを見せ。だんだんと湖面の情景が露わになってきた。
そして、その湖面の情景がしっかりと目に映る頃、二人は驚愕の光景を目にする事となる。

「何、あれ。」

茫然と呟いたのはレミリアだ。二人の瞳に映り込む、途切れた森の向こう側。その湖面は鏡の様に波一つ無く。そこには、空の姿が映っていた。湖を吹く風にも乱れない。見る者を圧倒する神秘的なその光景。
鏡写しの空の姿には唯の一つの相違もなくて、対面側には下へ突き出た山の姿もしかと写っている。

「一先ず行ってみよう。」

そうフランが言葉を発した。
二人は森を駆け、魅入られるかのように湖へと近づいていく。
そして、やがて辿り着いた二人は思わず呟いていた。

「これは、何とも。」

先ずはフランが茫然と。

「妖精の仕業、かしらね。」

次いでレミリアが感心する様に。
そこは無音だった。湖の水面にあるまじき無音。背後の木々のざわめきと、風の音だけが響く白い砂浜に到着した二人。そんな二人をふわりと包みこむ様な風が吹く。
二人は片や帽子、片やスカートを抑えつつ湖に見入った。

お姉様は妖精の仕業かと呟いていたが、こんなことが可能なのか、彼女達には。

そう内心で独白するフランは感動に打ち震えていた。日の光に直接あたる事も構わず湖面の空に魅入られてる。静かな水面はそれ程に澄んでいて、そこに映る光景は壮大だったのだ。
躍動する世界の如き雲が、緩やかに空と湖面を滑る光景。山々の雄大さすらもその水面には映っている。世界の一部を丸々切り取って逆さにし、湖に張り付けた様な光景。目の当たりにしてしまえば無理も無いだろう。

妖精も中々どうして。

そんなフランの隣にいるレミリアもまた、普段感じようもない日の光の中にしかし、感動を味わっていた。彼女もこの様な光景は見た事が無かったのだ。類似するそれこそ見た事はあったが、ここまで壮大で、美しくは無かった。フランと一緒に見る光景、そんな事実もそこには加味されていたかもしれないが。この光景の雄麗さは、彼女の瞳にも真実であった。
暫し、そのまま時が流れる。いつ途切れるか分からぬそれを、ただただ瞳に胸に焼きつけようと二人は見入っていた。

そんな二人にふわふわ近づく影が一つ。それは躊躇う様に暫し宙に止(とど)まった後、決心したかのように口を開く。

「ぁ、あの…………。」

その影が発したか細い声に、はっと現実に返ってくる二人。そのままいたら何時までもこれを眺め続けていた事だろう。
フランは振り返り、その影を見た。そこには一人の妖精がいた。緑色の髪を横で束ねた可愛らしい妖精だ。普通の妖精よりも力を持っている様に見える。
フランは妖精を見て、二通りのデジャヴを感じた。

「君は……あの時手を振り返してくれた?」

「はぃ……あの、驚いて下さいましたか?」

一つは森の中に見た妖精である。暗い木陰の中も吸血鬼の目は真昼の様に見渡せた。
そして、もう一つは。

「ああ、驚いたとも……君は、大妖精だな?」

「あ……はい!ご存知でしたか。」

そう、大妖精。東方紅魔郷第二面の名も無き中ボスである。巷では大ちゃんの愛称で親しまれていた。
フランは成程と頷いた。この素晴らしい演出は彼女による所謂悪戯だったのだ。何とも粋な悪戯もあったものだとフランは微笑。

「はは、いや、妖精は悪戯好きと聞いていたが。これは素晴らしい悪戯だ。なぁ、お姉様。」

「ええ、そうね。妖精も中々侮れないわ。」

大妖精を褒めるフランの声に追従する様に褒めたレミリア。妖精をこの様に褒めるレミリア等中々見れるものでは無いのだろう。大妖精は少し瞠目して頭を下げた。彼女にとってレミリアは言わば仕えている主人であり、それは誉れであったのだ。

「確か、妖精は菓子類を好むのだったか?」

ふと思い至ったかのように、フランがその様な事を口に出した。大妖精はそれにコクンと頷いて答える。

「ぁ、ええ、はい。」

答えを聞いてフランはにっこり、レミリアにこう提案した。

「なぁお姉様、どうだろう。彼女を家に招待しないか?ほんのお礼として。」

レミリアもその案を聞いて割と乗り気に答えを返す。

「あら、良いわね。どう?来るかしら?」

これに吃驚して戸惑うのは大妖精だ。しどろもどろになりつつ彼女は答える。

「あ、で、でも、あの、私一人でこれをやった訳じゃないですし。」

「大丈夫よ、お菓子はそれこそ沢山あるから。」

「あぅ……あのぅ、なら、皆を呼びますね。」

恐縮する大妖精に頷く二人。大妖精にしてみれば、主人が珍しく誰かと楽しそうに歩いているのを見て、少し彩りを添える為に悪戯と言う名の素敵なドッキリを計画しただけなのである。しかし、此処まで言われては断れるはずもなく、何よりお菓子は魅力的だった。

「皆~~~~~~!レミリア様がご褒美にお菓子くれるってーーーーーーーーー!」

大妖精の声が響くと、砂浜に面した木々の中から可愛らしい歓声が聞こえた。それと同時に妖精たちが出るわ出るわで総勢三十人前後。予想外の人数にフランとレミリアは目を瞬き、そして顔を見合わせて苦笑。その後、空を飛んで紅魔館へと帰り、賑やかなアフタヌーンティーと相成った。こうして、予想外の出来事と収穫があった初めての散歩は終わったのだ。



「そこであたいは言ってやったのさ、あたいに勝つなんて百万年光年速い(誤字にして誤字にあらず)ってね!」

空色のグラデーションをした、雲の描かれた和服に身を包んだチルノが胸を張ってフランにそう言った。どうやら自分の武勇伝を語り聞かせていたようである。フランは酷く楽しげに微笑みながら、穏やかな気持ちで感想を返す。子供らしい誇張表現が多々あった様だが、彼女の話は若さと可愛らしさと微笑ましさを感じさせ、楽しんで聞いていられたのである。

「色々突込み所はあったが、それは凄い。なぁ、大ちゃん?」

「ぇ、えぇ、はぃ、何て言うか、すみません。」

「あたいったら最強ね!」

咲夜が空間を広げて作った急造の巨大茶室(既に茶室にあらず)では一風変わったティーパーティーが行われていた。
何処から取り出したのやら全員が全員和服を着て、部屋には畳が敷かれ、それでいて和菓子を食み紅茶を飲んでいるのだ。ある意味らしいと言えばらしいのだが……。
フランは思わず苦笑が漏れそうになった。ああ、確かにらしいのだと。室内をごろごろ転がる様な者がいる茶会だ。茶道の祖が見れば卒倒するかもしれないが、気ままな妖精や同じく文化に節操がない紅魔館。いや、幻想郷の茶会らしいと言えば何処までもらしい。……まぁ、もう少し礼節をわきまえてくれると嬉しいのだが、等と紅茶を飲むと言う暴挙に出ながら彼女は考えていた。何だかんだ言って彼女も人の事は言えないのだ。

「えぇっと、フラン様お綺麗ですよ。」

そんな中大妖精の大ちゃんが言ってきたそれは、世辞ではないが世辞であると言う微妙なラインの心情で発せられた言葉だった。本心からのそれもあるが、先程から失礼をかましまくっているチルノのフォローが多大に含まれているのだ。お疲れさまと言いたくなる。まぁ、先程まで彼女自身、結構浮かれて遊んではいたのだが。

「はは、有難う。」

フランはほんの少々複雑な心境になりつつも、微笑みながら礼を言った。
実際の所、フランの着物姿はとても良く似合って美しかった。幼い容姿ながらも白い素肌に深紅の着物は映え、同時に櫛で留められた金糸が僅かに掛かる首筋に、より一層の艶めかしさを感じさせた。描かれた彼岸花は彼女の深紅の瞳を連想させ、潤んだ瞳は血を溶かしたかのように。唯、宝石の付いた羽が少々浮いて見えるのが御愛嬌と言ったところ。

「君も綺麗だよ、大ちゃん。」

フランは一度、大ちゃんをじっくり見て、お返しといった風にその感想を口にした。チルノはお菓子やジュースとの格闘に忙しい様で、会話には入ってこない。

「いえ、私なんて。」

大ちゃんは謙遜するが、若草色の着物は彼女に良く似合っていた。裾付近と手元で色が徐々に薄くなっていて、着物全体が白を基調とした可愛らしい花々で飾られている。それを彼女が着ると正に野に咲く一輪の花の如くと言った佇まいなのだ。良くこんな着物があったものだとフランは感心してしまう。
他の皆もその可愛らしい容姿だけあった着物が良く似合っていた。所々にいる日本的な顔立ちの妖精には特に、だ。

「こんな賑やかなアフタヌーンティーは初めてね。」

「おや、お姉様。確かに賑やかだね。」

レミリアがやたら上機嫌で話しかけてきた。それを見た大ちゃんは、一礼をして少しほっとした様にチルノと場を離れていく。大分緊張していた様だ。
無邪気に楽しむ妖精たちは案外子供っぽい彼女と合ったのだろう。レミリアはプライド云々抜きのお礼と言う形故か随分と楽しんでいる様だ。

「ふふん、皆この私の美しさに驚いていたわ。」

そう言って薄い胸を張るレミリアは確かに美しいと言って過言は無いだろう。フランとお揃いの、紅い着物には真っ赤な薔薇が描かれていた。匠の意匠か派手な薔薇の花はしかし、着物にとても良く合っていた。フランと二人並べば揃いの人形のようにも見えるだろう。

「それは良かった。」

フランは目を瞑りどこか満足気に紅茶を一口。彼は、賑やかな時間を嫌ってはいなかった。思えば、フランドール=スカーレットとしては初めてのこう言った席である。そう思えば取るに足らない全ての音や光景が、酷く感慨深く映るのだった。

と、その時。コンコン、とノックの音が部屋に響いた。室内の喧騒がピタリと止む。

「失礼します。」

ガチャリと音を立てて両開きの扉が開いた。その向こうにいたのは、案の定咲夜だった。どうやらお開きの時間が来たようだとチルノ以外の全員が悟る。中には少し寂しげな表情をする者もいた。
咲夜は部屋に入って一礼、そして妖精たちに向かって言う。

「もうそろそろ逢魔が時が迫っております。獰猛な妖しが出没する前にお帰りになった方が宜しいかと。」

「あ、はい。」

答えたのは大ちゃんだ。それらを聞いて、レミリアは少し寂しそうに言葉を紡いだ。

「そう。じゃあ、今日の所はこの辺でお開きとしましょう。咲夜皆を送ってあげなさい。」

「承知いたしました。」

丁寧に頭を下げる咲夜。妖精たちは、と言うより大ちゃんはそれを見て、妖精たちを纏め、代表でこちらに挨拶をしてきた。

「今日はお招きいただき有難うございました。とても楽しい時間を過ごす事が出来、皆嬉しく思っています。」

丁寧な言い様にレミリアは笑みを浮かべて。

「私たちこそ今日は楽しかったわ。素晴らしい物も見せてもらったし。また、遊びにいらっしゃい。」

それを聞いた大ちゃんは、恐縮しつつも嬉しそうに、「はい。」と笑みを浮かべて返したのだった。

こうして、愉快な茶会はお開きとなり、妖精達は安全な所まで咲夜に連れられて帰って行った。
二人は暫し、余韻に浸る様に畳の端に腰かけて、茶会であった事をお互い話し合ったのだった。







楽しい散歩に妖精の幻想。そして、賑やかな午後の茶会で締め括られたかに思われた今日と言う日。しかし、そこに不穏な影が忍び寄る。
紅魔館の外、木の陰に隠れてふわふわと浮いている影が一つ。どうやら大ちゃんの悪戯に参加しなかった妖精の様だ。一見するだけで不機嫌と分かる膨れっ面をしている。

あ~あ、私も誘ってくれればよかったのになぁ。う~ん、一人で人里に悪戯になんか行かなきゃ良かった。楽しそうだったなー皆。

妖精はその場でクルクル回った。眉を顰めて寂しそうに、膨れっ面で目に涙。ぷしゅ~と、口から空気が吐き出され、くるりと縦に回って木の上に。
何か嫌だな~仲間外れみたいで。と、両の手で頬杖ついて紅魔館を眺める。暫しじーっと見つめ、はたと何かに気が付いた様に手を叩く。ぺちんと小さな音が鳴る。

そうだ。折角だから何か悪戯して行こう。

悪戯は妖精の本分である。機嫌が悪けりゃそれをする。機嫌が良くてもそれをする。ばれなければ問題ないのだ思い立ったが吉日と、周囲を見渡す小さな妖精。よし、誰もいないとガッツポーズ。素早く窓に近づいて。きししと笑って窓を開けた。鍵は手を触れずに物を動かす程度の能力で。

「へへーんだ。お菓子くれなきゃ悪戯するの!」

そして捨て台詞を吐いたらすたこらさっさ。見つからない様に逃げ出した。これが思わぬ結果を招くとは、彼女自身全く考えもしなかった。基本妖精は気ままなのだ。考える気も、全くなかった。







今日は中々に楽しかったと夕暮れ時の廊下を歩きながらフラン。無論、夕暮れ時と言っても全ての窓にはカーテンがしっかりと引かれているのだが。キャンドルの照らし出す薄暗い廊下で今日と言う日を思い返していた。

それにしても大妖精は大ちゃんであっていたんだな。色々分かって収穫のある一日だった。

フランにしてみれば、既に今日と言う日は様々な事が一気に起こった記念日の様なものだ。思わず笑みが浮かぶのも仕方がないだろう。
初めての散歩は姉と一緒で、その道程は和やかに。あの湖面の空は幻想的で、午後の茶会は賑やかに。
紅い絨毯を踏みしめながら、フランは笑みを浮かべていた。

そんなフランにふと、カーテンに遮られた窓が目に入った。鋲の様なもので止められているカーテンだ。
フランはそこで今日と言う日を更に思い返し、そして、考えてしまった。今日を思い返していた陽気をそのままに、考えてしまった。

私は満足に外に出た事など無い。吸血鬼は日光に直接触れればその部分が気化すると言う。そして今日、妖気の扱いを何回失敗した……?
一度目は始めて見る外に感動した時、二度目は美鈴の醜態に思わず笑ってしまった時。三度目はあの胸の高鳴りに。そして四度目、あの時あの湖で、あの光景を目にした時。いずれも体は気化とまではいかなかった。

少しくらいなら大丈夫だろう。

それはちょっとした好奇心だった。彼女からしてみれば、ほんの少し陽光に手を翳すだけの心算だった。硝子越しの陽光ならば普通の陽光よりも平気だと聞く。
だが、運命はその軽挙を嘲笑うかのように非情であり。
フランがカーテンの鋲を外し、そして彼女が僅かな風を感じた時はもう、既に遅かった。

「しまっ――!」

その窓は開いていたのだ。あの妖精の悪戯である。丁度、この窓だったのだ。
ふわりとカーテンは持ちあがり、陽光が同様に広がって行き。フランは――。

「フラン!!」

フランが最後に見た光景は、泣きそうな顔で駆けてくるレミリアで。
レミリアが、フランに辿り着く寸前で、フランの羽は陽光に溶けて消えたのだった。



後書き

今晩は皆さん。如何でしたでしょうか第二話。
作者的に今回は、うぅん、微妙?感想宜しくお願いします。
最期の方少し力付きかけてましたがさてはて。
初め、この作品では景色の描写を練習したかったんですよね。しかし、これがとても難しい。
オリジナルFGの方は完璧に仕上げたいので何か見聞録的な物をもう一つでっち上げるかも知れません。
後、作品の名前変えました。何で気付かなかったんだろうってくらいの単純な名前ですが結構気に入ってたり。
では、また次回更新でお会いしましょう。


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