『とあるフェレットの憂鬱』
ユーノ・スクライアが使う事に特化された魔法。 けれど、今の僕には余り必要の無い魔法。
なぜなら、バインドも結界も反射も、それぞれ『十重』以上の効果で使用魔力の少ない魔法をすでに構成しているからだ。
そしておそらく、『製作者』は僕の構成した魔法以上のモノを組み上げているのだろう。
この魔法を越える物とは何か、ずっと試行錯誤を繰り返してきたが、今日、それが2つの形になった。
JS事件から3年後 時空管理局 本局 技術開発室
「ようやくできましたね…」
「ええ、後はデータを取りながらバージョンアップしていきます。」
「今まではストレージでも個人に合わせて調整する必要がありましたけど、これなら最初の登録だけで済みますし、メンテナンスも楽になります。」
「メンテの時間が減っても使用者が増えたら仕事量は変わらないだろうけどね…」
「登録と調整に時間がかからないんですから、あらかじめ予備を多めに作っておけばデバイスがなくて前線に出れない魔導師が減ります。」
「これで管理局の人材不足も大幅に改善されますよ。」
僕と技術開発室の共同開発で作られた2種類のプロトタイプデバイス…
「問題は誰に使ってもらうかです。」
「ああ、それならナカジマさんの部隊の新人さん達に訓練で使ってもらえるように交渉済みです。」
「流石ユーノ先生。 行動が早いですね。」
この時僕は、達成感を感じていた。
『特定の1人が使う事に特化された魔法』を越える物
それは『不特定の多数が使う事に特化された魔法』だと思った。
だが、そんな魔法を作るには多くの障害があった。
なぜなら、魔法とは個人の資質に大きく左右されるからだ。
治癒に優れているが他は全然駄目な人。
近接攻撃に優れているが射撃は微妙な人。
結界やシールドに優れているが攻撃は微妙な人。
『誰もが持っている資質』なんて無いと行っても良いのだ。
だから『資質が無くても使える』物を作ることになるのだが… 問題は1人1人の魔力量だ。
「『資質が無くても使える』はずだけど、『魔力が無い』から使えません。」
「『資質が無くても使える』から使えたけど、『魔力が少ない』から効果がありません。」
なんてことになったら意味が無い。
『資質が無くても』『魔力が無くても』使える魔法。 そんな夢のような話を実現させる第一歩がこの2種類のデバイスなのだ。
低魔力局員用インテリジェントデバイス プロトタイプA
直径4cmで長さ1m程の杖、その片方の先端に直径10cm程の透明な球体が付いている。
球体に右手で触れる。すると生体データと魔力を感知、それが登録されている物と一致したらAIが起動する。
『カートリッジシステム』を元にして、蓄積される魔力は減るが使いやすくなった『カスタムカートリッジシステム』が組み込まれている。
さらに、このデバイスのAIにはアインへリアルで使われていた魔力砲撃システムをサイズダウンしたものが使われており、『砲撃や射撃の資質のない者』でも射撃魔法が撃てる様になっている。
デバイスにただ1つ登録されている攻撃魔法の『バインドショット』は新しく構成されたもので、見た目は普通の魔力弾だが、当たると魔力ダメージを与えるだけでなくバインドもする。 射程は最大200mほど。
これにより、少しでも魔力があれば『カスタムカートリッジシステム』で魔力を補充しつつ『バインドショット』を撃つということが可能になった。
また、このデバイスが犯罪者の手に渡らないように、仮に渡っても使えないようにするための工夫として待機モードが杖型のままであり、『管理局に忠実なAI』に『バインドショット』の魔法の構成を組み込む事で登録者にしか使えないようにしている。
低魔力局員用インテリジェントデバイス プロトタイプB
形状は腰に巻くベルト型であり、登録者がバックル部分に触れる事でAIが起動する。
プロトタイプAと同じ『カスタムカートリッジシステム』が採用されている。
『マント型バリアジャケット』と『ラウンドシールド』などのシールド系魔法、そして周囲の状況を知るためのサーチ系の魔法のみが登録されている。
自力でバリアジャケットを使えない者にとっても、元々バリアジャケットを使える者にとっても更なる防御力アップ期待ができる。
AIにはプロトタイプAと同じように魔法の構成を組み込み、登録者にしか使用できないようにしている。
今はまだこの程度で、魔力を持っている者にしか使えない。
が、データを取り、無限書庫で資料を更に集める事でさらにバージョンアップできるだろう。
『カスタムカートリッジシステム』で増強した魔力を使い、『カートリッジシステム』を制御するなんて事もできるかもしれない。
もしかしたら、『製作者』はこのデバイス以上の物を作り上げているかもしれないけど…
「僕はもう、『憂鬱』なんて言わない。
…ロストロギアの封印の時しか」
・・・
JS事件から十数年後 どこかの管理世界
ほんの少し前まで、たくさんの人が平和に生活していた都市が…
どおおおん
大きなビルが爆発と共に崩れ、マンホールの蓋は飛び上がり下水が噴水のように空に昇る。
どの建物も窓が割れ、火が出ている。
「なんで、なんでこんな事に!」
安全な場所を求めて走る女性。
その顔は汗と涙で化粧が崩れ、煤も付いている。
服やスカートは所々破れ、ガラスなどで怪我をしたのか、血で赤くなった肌が見える。
「はーはっはっは!」
突如響き渡る笑い声。
「だ、誰!?」
「我が名ふぁっ!」
実は女性からそう離れていない場所にいた何処から見ても怪しい老人に、どこからともなく現れた5人組から魔力弾が放たれた。
ドガン! ドガン! ドガン!
「な、何者だ!」
魔力弾を防いだ老人は、名乗りを邪魔された事か、それとも突然撃たれた事か、あるいはその両方の理由で怒鳴り声を上げた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あなた達はあの時の!」
しかし彼らは老人を無視して女性を助ける。 女性と彼らは顔見知りのようだ。
「あの時言ったでしょう? 『この世界は狙われている』って」
「ええい! 我を無視するな!」
空気を読まない老人。 …空気を読めたらこんな事はしないか。
「そんなに知りたいのなら教えてやろう!」
赤いジャケットの男がそう叫び、その腰にベルトを装着する。
「そ、それは!」
うろたえる老人。
ベルトのバックルには、向かって右側から左側へ走るフェレットのマークが描かれていて、その下には「無限技術」の文字が輝いていた。
「「「「「装着!」」」」」
女性を助けた5人組がそのバックルに右手を当ててそう叫ぶと、彼らの体がピカッと光る。
「レッド!」
「ブルー!」
「グリーン!」
「イエロー!」
「ピンク!」
「「「「「時空戦隊アインへリアル! 参上!!」」」」」
元々着ていた各色のジャケットの上に茶色のマント型バリアジャケットを装着した彼らがそう名乗りを上げる。
そのバックに五色の爆発は無い。 火薬は質量兵器に使用できるので用意できなかったのだ。 用意できても使用出来なかっただろうけど…
「くぅっ こんな辺境にまで出回っているとは…」
非常に残念そうな老人。
しかし、時空戦隊はそんな事を無視して
「いくぞ、みんな!」
「「「「おう!」」」」
さっきからずっと持っていた杖を老人に向け
カシャン!カシャン!カシャン!カシャン!カシャン!
それぞれの杖からカスタムカートリッジが飛び出し、1人30発、計150発のバインドショットが発射される!
「「「「「飽和攻撃!」」」」」
「それが正義の味方のする事か!」
彼らは魔力を殆ど持たない、デバイスにおんぶに抱っこな戦隊なのでこれが一番効率が良いのだ!
バインドショットのせいで拘束された老人。
100発以上も受けたために魔力も枯れて、拘束から抜け出す事もできない。
「くっ、こんな、悪の美学に反する負け方をすることになるとは…」
こうして今日も、次元世界の平和は守られたのだった。
がんばれ時空戦隊! 負けるなアインへリアル!
世界の平和は君達の手にかかっている!
・・・
①時空戦隊アインへリアル
最初は5人組。 レアスキル持ちの6人目、オーバーSランクの魔力を持った7人目が増員される予定。
全管理世界で採用されている。 女性だけの世界もあれば、男だけの世界もある。
管理局に勤めてアインへリアルになりたい子供が急増した。 なりたい職業上位である。 …一位ではない。
②フェレットのマークと無限技術という文字
無限図書と技術開発室の共同開発の証。
マントの色を茶色から7色選べるように研究中。 「意味あるの?」技術者Aのぼやき
今は杖だけしかないが剣や斧などのタイプも研究中。 「量産型の強みが…」技術者Bの嘆き
③ロボは?
質量兵器扱いになるので存在しない。 「ちょっと残念」ユーノの呟き。
④レジアス
その涙は嬉し涙か
とある平行世界の出来事 了 しかし彼らの戦いは続く
090822/初投稿