『無限書庫司書長ユーノ・スクライアがフェレットになるのをやめる事になった。』
そのメールは会員達に衝撃と悲しみを与えた。 もうあの可愛らしい生き物が歩いたり食べたり寝ていたりするのを見る事ができなくなるのかと。
しかし、彼らはその悲しみを乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとした。
『レイジングハートがいつまでたっても彼女の1人も出来ない司書長を心配したからだそうだ。』
これが会員達の中でも特に地位があったり顔が広かったりする人達の心に火を付けたのだ!
『今まで私達の癒しになってくれた司書長に、感謝として良い相手を見つけてあげようじゃないか!』
候補として数十名の名前があげられ、その中に彼の幼馴染の2人の名前も含まれる。
しかし、なかなか上げた足を大地に着けることが出来ない。
『レイジングハートは乗り気でも、司書長にその気がない』という決定的な問題。
会員達はどうしたらこの問題を乗り越える事が出来るかを考える事になる…
そして、彼らが考えている間に噂は風のような速さで広がっていくのだった。
・・・
機動六課本部隊舎 食堂
確か、あの映画はまだやっていたはずだから、見に行こうかな?
それとも、前に見逃してしまったあれをレンタルしてこようかしら?
そんな事を考えながら空になった皿をトレイに載せていると、はやてとフェイトが食堂に入ってきた。
「あれ? ティアナ1人なんか?」
「スバルと一緒じゃないって珍しいね?」
「確かに、コンビを組んで長いですけど… いつも一緒ってわけでは無いんですよ?」
スバルとは一緒に食事をしていて、今はちょっと席を外しているだけなのだけど、2人の言葉に思わずそう返してしまった。
「そう怒らんといて、むしろ好都合やと思うてるんやから。」
「そうそう、スバルの耳に入る前に話しておきたい事があるんだよ。」
「…スバルの耳に入る前に?」
「そうや」
「私達には余り関係ないんだけど、スバルには重大事態かもしれなくて…」
どうしよう? ここは正直に実はスバルは席を外しているだけですと言うべきだろうか?
いや、しかし、今言っても厄介事に関わりたくなくて適当なことを言って逃げようとしていると思われるだけか?
「ユーノ君知ってるやろ?」
「ユーノ… 無限書庫司書長のユーノ・スクライア先生の事ですか?」
「そういえばこの前の事件の時に、ヘリで一緒だったから顔は知ってるよね?」
「はい」
実は、ヘリでご一緒する前から顔は知っています。
スバルが毎日「おはようございます」と挨拶している写真がユーノ先生の顔のアップなのです。
それどころか週に一度は『ユーノさんがどれだけすごいか』を聞かされていますよ…
「うーん、とりあえず、ティアナはユーノの噂は知っているかな?」
「噂ですか?」
「そや、ユーノ君が普段どんな格好しているか。」
「…ぁ、そういえば、普段は変身魔法で小動物の姿をしているって聞いたことあります。」
「それだけ知ってれば話し早いわ」
「だね」
無限書庫司書長ユーノ・スクライアは普段は小動物の姿で魔力の消費を抑えて生活している。
そして、無限書庫ではまず必要の無い魔法の訓練の時に倒れるまで魔力を使って鍛え、かつて空港で火災が起きた時のような非常事態に備えている。
あの日まで、スバルから話を聞いただけでは美化しているだけだと思っていた。
普段から小動物の姿で生活って何それ、どこの世界のギャグ? 面白くないんだけど?って…
保護したヴィヴィオを乗せたヘリになされた、あの砲撃を防ぐだけでなく反射したあの瞬間を見るまでは…
あの日初めてスバルの言っている事が誇張の無い真実だということに気付いたのだ。
「それで、そのユーノ先生がどうかしたんですか?」
スバルはユーノ先生に憧れている。 彼に何かあれば、確かにスバルにとっては重大事態だ。
「その小動物、フェレットにならない生活を始めたんだ。」
「は?」
「だからな、ずっと人間の姿のままでいることにしたみたいなんや」
「あの、それのどこが重大事態なんですか?」
むしろ良いことなのでは無いだろうか?
ユーノ先生ははやて隊長やフェイト副隊長と幼馴染だと聞いた覚えがある。
良い歳の男が小動物… フェレットになるのをやめる事のどこに問題があるというのか?
「実はな、もう良い歳やから相手をみつけるためらしいねん」
「相手をみつける? 相手?」
「彼女や! 恋人や! 結婚相手でもええで?」
「彼女、恋人、結婚相手…」
なるほど、確かにスバルにとって重大事態だろうけど… あ!
「…今スバルが告白したら『OK』を貰えるって事ではない?」
「うん」
「ティアナは頭の回転が速いな」
ユーノ先生が恋人を作ろうとしていて、それが誰でも良いなら今頃スバルを焚き付けているはずだ。
この2人ならそうする。 間違いなくそうする。 でも、そうしないということは
「ユーノ先生には好きな人がいるんですね?」
「そや、で、その人は私の出身世界に住んでるんや。」
「隊長の出身… 隊長の出身世界って管理外世界じゃないですか!!」
真剣な顔で頷く2人。
「それって、場合によってはユーノ先生が管理外世界で暮らすってことで、もしかしたら無限書庫辞めるって話j」
ガシャーン
落ちて割れるガラスの音に3人が振り向くと
「ユ、ユーノさんに好きな人… しかも無限書庫を辞める?」
デザートを取りに行っていたスバルが3人の話を聞いてしまっていた。
090825/初投稿