「『戦場で命を預ける『相棒』のことはよく知っておくべき』だってユーノさんも言っていたし」
そう言ってスバルは自分の家族や出生のことを話し、「ティアナは?」と聞いてきた。
知ってはいけない事まで知ってしまった事と、スバルからの「教えて」オーラに負けた事で自分の事を全部話してしまった。
その場の空気に流されてしまったのだ。
暫くはその事を後悔したりもしたけれど、長くコンビを続けるうちにあれで良かったと思えるようになった。
思えるようになったはずだ…
「ティアナ、私どうしたらいい?」
「どうしたらいいって…」
走って逃げた親友を追いかけて部屋に入ったら、ベッドでうつぶせになって泣いているのを見た時、すぐに戻ってくるとわかっていながら隊長達と話を続けてしまった自分のうかつさを後悔した。
そして、泣いているスバルを無理やり起こし、涙を拭いて背中を撫でているとそんな事を聞いてきた。
「その人は魔法のことを知らない一般人の可能性が高いわ」
「…そうなの?」
「そうじゃなかったらわざわざ私に話さないと思うわよ? ま、どっちにしてもやるべき事は1つだけど」
隊長は管理外世界に住んでいるとしか言っていない。
しかし、その人が魔導師なら管理外世界に住んでいるということは言う必要が無いだろう。
その世界に私の想像の出来ないような、なんらかの問題が無い限り魔導師が管理外世界に住むことはそれほど問題が無いのだから。
「1つ? 何をしたらいいの?」
「ユーノ先生がその人に魔法のことを話す前、もしくは魔法を捨てて向こうの世界に行っちゃう前に告白しちゃいなさい。」
「こ、ここ、告白ぅ!?」
冷静になって考えれば、司書長の立場にいる者が簡単に管理外世界へ婿に行くわけも無く、簡単に魔法の存在をばらす事も無いだろう。
つまり、『その時』まではまだ時間があると言える。
それなのにスバルを焚き付けるのは、週に一度の惚気話を聞きたくないからだ。
「こ、こ、こここ…」
言葉にならない声を出し続ける親友を横目に溜息をついた。
「私の世界にな、『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』って諺があるんよ」
「うひゃっ!」
「いつの間に入ってきたんですか!?」
「ドア開けっ放しで『ここここ』言うてたら気になってな?」
「はやて、からかいに来たんじゃないんだよ?」
突然声をかけられ驚いた2人に隊長は軽く応え、そして副隊長は『ビシィッ!』と手首のスナップを利かせた裏拳を入れた。
「最近、フェイトちゃんのツッコミが容赦無い気がする…」
「いやだなぁ、ツッコミ入れられたからってそんなボケしなくてもいいんだよ? 『ツッコミに容赦はいらへん』って教えてくれたのははやてでしょ?」
手を開いていない、むしろ握り締めている状態でなされたそれをツッコミと言って良いのだろうか?
「そや… そやったな…」
「漫才はいらないので本題に入ってくれませんか?」
ここではないどこかへ意識を飛ばそうとしている隊長にキツイ声をかける。
「私が一番偉いはずやのに… リイン、世界はこんなはずじゃなかったばっかりなんやね?」
「こうなっちゃうと再起動に時間がかかるから、とりあえずはやての部屋に行こうか。」
「はい。」
「了解。」
・・・
機動六課本部隊舎 八神はやての部屋
「これが、ユーノ君が病院を抜け出してまで顔を見に行った人や。」
それまで「どこやったかな」「こっちやったっけ?」「リイン、そっちにない?」などと言いながら写真を探していたのをなかったかのように振舞うはやてに呆れながらも写真を見た2人。
それには広い庭で猫に囲まれている女性が5人写っていて、2人ははやてとフェイト、残りの3人の内の…
「どれですか?」
「どれやと思う?」
「スバル、あんたは?」
「…」
「スバル?」
先ほど虚ろな目をしていたのと同じ人物とは思えないほど愉快そうな声を出すはやてにさらに呆れ、当事者の親友に話を振るティアナ。
しかし返事が無い。目を向けると、その体が震えていた。
「スバル!?」
ティアナが名前を呼ぶがその震えは止まらず、ただ、写真の中のはやてとフェイトを除いた3人を順番に指差し
「彼女、恋人、結婚相手…」
「いやいやいや」
「ないないない」
「さすがにそれは」
「スバルさんの中でユーノさんはどういう人なんでしょうかねぇ?」
リインフォースⅡの疑問にスバル以外が同意した。
・・・
管理局 本局 転送ポート
折角の休日の使い方として正しいのだろうか?
自由待機と違い、場所の限定が無いのだから他の場所に行きたい。
行く場所が決まっているからこそ許可が貰えたとわかっているけれど… そんなことをティアナは考えていた。
「本当に行くの?」
「行く!」
予想通り、元気一杯の返事にがっくりする。
「はぁ… あんた1人じゃ駄目なの?」
「てぃあなぁ~」
「…わかった、行く、行くから泣かないで!」
「ありがとー!」
ティアナに抱きつくスバル。
「ほら、行くわよ?」「うん」2人は転送ポートに乗る。
行き先は第97管理外世界、海鳴である。
「デートなのかな? あの2人」
転送ポートの利用者達の間でそんな話が…
090827/初投稿