レイジングハートは悩んでいた。
当初の予定では、自分がマスターの将来を心配している事を知った食堂のチーフが、マスターにお見合い、または「良い娘がいるんだけど…」といった事をユーノに勧めてくれると思っていたのだ。
フェイトさんが好きなマスターは当然その話を断って、チーフも「焦っているのはレイジングハートだけだからね。」と笑って済ませてくれてその話は終わりとなる。
そして、今度フェイトさんに会った時に、つい最近こんな面白い事がありましたと、世間話として『ユーノにお見合い話が持ち上がったが、断った』という話を聞かせて、その反応からマスターに脈があるか見る。
フェイトさんがマスターを将来の相手として見てくれそうか、ただそれだけを知るための『計画』とはとても呼べないような単純な話だったはずなのだ。
それが、レティさんという大物が動いて食堂を一杯にするだけの人員を導入し、司書達に有給を与えてまで『お見合いモドキ』を仕掛けてきた。
食堂のチーフの顔の広さを甘く見ていた事を後悔した。 まさか、レティさんと一緒にあんな事ができるくらい親しい間柄だったとは思ってもいなかった。
が、それだけならまだよかったのだ。 大事になったが、レティが紹介した女性は美人で気立てもよさそうだったので、『そうなったら』マスターも幸せになれただろう。
あんな予想不可能な発言をマスターがしなければ。
『幼馴染の友人達やその家族と遊んだりする事もあるけど、それは他人に話す事ではないし…
僕は基本的に無限書庫で仕事をしながら、魔法の研究とトレーニングをする生活しかしていないから、他人に話せるようなモノは他に何も無いんだよね。』
これでは、「あなたは他人なので何も話しません」と言ったも同然ではないか!
しかも食事休憩に行った司書を呼んで相手をさせる始末!
これはあまりに人付き合いが下手すぎる。
《(恋愛うんぬんより、先に交友関係を広げることから始めなければ…)》
そんなふうにレイジングハートが悩んでいる時、ユーノは考えていた。
今回は『とあるフェレットの憂鬱』を完成させるために交友関係は必要最低限にして、空いた時間を魔法の研究に注ぎ込んだ。
人間関係が前回とほとんど変わらなかった事が『必要最低限の交友関係の維持』を可能にしていた。
だがこれからは前回以前のように手探りしながら、普通に生きることにしよう。
交友関係を広げるには『様々な話題』を知っているほうが良いだろう。
前回までのようにニュースを小まめにチェックするだけでも『共通の話題』を得る事が出来るだろう。
しかし、人事部の子が言っていたような、僕個人の事で『他人に話せる事』もあったほうが良さそうだ。
芸術鑑賞などの『無限書庫司書長っぽい趣味』を持とう。
無限書庫の『司書長』である僕が無趣味だと『司書達』まで無趣味の仕事人間だと思われてしまうかもしれない。
スポーツ観戦などの『この年頃の青年らしい趣味』も持とう。
司書達とのコミュニケーションにきっと役立つはz…
ああ、でも今更そんな趣味を持っても嘘っぽいだけで意味が無いかもしれないなぁ…
「実はこんな趣味があったんです。」と適当にでっち上げたほうがましかもしれない。
レイジングハートの悩みとユーノの思考は『交友関係を広げる』という同じ結論になった。
・・・
「スバルに食堂の調理場の使用許可を与えてください。」
「ええよ。 2人部屋にオーブンとかは置けへんしな。」
予想していたのだろう、簡単に許可が貰えた。
それどころか、「デザート担当から指導を受けるとええ」とまで。
機動六課隊舎 食堂
エプロンと三角巾をして嬉しそうに調理台に向かうスバル。
テキパキと調理器具を用意していく。
「隊長達は私達の味方みたいだね?」
「…そうでもないみたい」
元気一杯にそう言ったスバルに、視線を食堂の入り口に向けながらそう言う。
スバルは私の視線を追いかける事でそこに居る人に気付いた。
「ギン… 姉…」
「どうやら隊長達は、ユーノ先生が管理局に残るのなら相手は誰でもいいみたいですね?」
「面白がっているだけってこともあるかもしれないわよ?」
ギンガは持参したエプロンを着けながら調理場に入ってきた。
隊舎にいれば、基本的にエプロンの要らない生活をしているはずなのに…
スバルが調理場を借りたいと言いに来る事を予測していたのだろう、隊長にとって私達の行動はお見通しだったのだ。
「そんな…」
「落ち込んでいる場合じゃないでしょ?」
「ほら、担当の方が来るまでに準備しなきゃ、ね?」
「う、うん。」
泣きそうな顔しないでよ… 気持ちで負けたら絶対に勝てないわよ?
遅れてきたデザート担当のコックが、「とりあえず始めはクッキーにしましょう。」と言ったので、姉妹が軽量から焼き始めるまでをティアナが見ていると
「試食しに来たで~。」
「楽しみです~♪」
「隊長!?」
「リイン曹長まで…」
「まだ焼けていませんよ。 そちらで待っていてください。」
はやてとリインフォースⅡがやってきた。
スバルとティアナは驚いたが、ギンガは席に着くように促した。
「私はユーノ君が好きな味を知っとるから、味見させてもらうで?」
「私もユーノさんとお菓子食べた事ありますから、好みを知ってます!」
「面白い上にお菓子も食べられるから許可したんですか…」
「いややわ、調理場の利用許可は純粋に部下への愛情からやで?」
「そういうことにしておきます。」
「そうそう、そういうことにしとき。」
ティアナは色々諦めた。 スバルも溜息をついた。 しかし
「どういうことにしとくの?」
「え?」
「え?」
「え?」
「なんでここにいるのん?」
「あ! ユーノさん! いらっしゃいです。」
何故かユーノもやってきた。
090901/初投稿