機動六課隊舎 食堂
「この前頼まれた資料を持って来たんだけど?」
何でここにいるのかと問うはやてに、ユーノは持って来た記録媒体を見せる。
これはユーノの提案で作られた一定以上の階級の者しか使う事ができない物で、通信で送れないデータを運ぶのに使われている。
ジュエルシードを運んでいる輸送船の事故を管理局の捜索担当班でもないプレシアが知っていたことから、ユーノが情報漏洩対策として提案し、採用されたのだ。
「あ、ありがとう。 そうや、今ギンガとスバルがクッキー焼いているんやけど、食べていかんか?」
「クッキー… ギンガさんとスバルさんが良いのなら食べていこうかな。」
資料を受け取りながらそう勧めるはやてに、「特に断る理由も無いし、交友関係を広げるなら身近な所から開拓していくのも良いだろう」と、ユーノは提案に乗ることにした。
「も、もちろん良いです!」
「どうぞ、食べていってください。」
スバルは緊張しながらも喜ぶが、クッキーは焼いている途中なので今から手を加えることはできないのだった。
「機動六課ではお菓子作りが流行っているの?」
「え?」
ユーノの質問にはやては困った。
正直に「あの2人が頑張っているのは、ユーノ君を落とすためやで。」などとは言えへん。
だからと言うて、流行っているというだけで隊舎の厨房を使わせていると思われるのもどうやろう?
せやけど、今クッキー焼いているのは事実やし、ユーノ君も食べるんなら共犯ってことになるから黙っていてくれるやろか?
はっ!
まさか、流行っているのか私に聞いてきたって事は、私もお菓子作りをしていると思うたって事か?
…私の焼いたクッキーも食べたいんやろか?
「あ! ユーノさんだ!」
「本当だ、ユーノさんがいる!」
「ユーノ? お! 本当だ、ザフィーラのパーティー以来だな!」
「珍しいね、ユーノがこっちに来るなんて。」
どう答えるか悩んでいると、エリオとキャロとヴィータとフェイトがやって来た。
はやてはユーノの質問をうやむやにできると安堵した。
「皆、久しぶりだね。 今日はこの前はやてに頼まれていた資料を持って来たんだよ。」
「そうそう、で、ちょうどギンガとスバルがクッキー焼いているから食べていかんかーってな?」
「へぇ? …でも、ユーノが直接持って来ないといけないような資料なんてあったっけ?」
「ああ、そういうわけじゃないよ。 新築の隊舎にはまだ来てなかったから、ついでに見て来ようかなって思ってね。」
「そうなん?」
「そうだよ?」
本当はグリフィスやヴァイスなどの男性職員に会って趣味などを聞いてみたかったのだが、そういう事にした。
「ギン姉、こんなに人がいると、今焼いている分だけじゃ足りないよね?」
「…そうね。 スバルは復習として教わったとおりに作りなさい。 材料もまだあるし。」
「教わったとおりにって言って、なんでチョコチップに手が伸びるのかな?」
「私はクッキーを焼くのは初めてじゃないもの。 慣れるまでは教えたとおりにって言われてもいないわよ?」
「くっ」
「スバルとギンガさんがいつもと違う…」
スバルとギンガのクッキー対決にティアナは恐怖する。
その様子をキャロが見ていることにフェイトは気付いた。
「ギンガさんとスバルさんがお菓子作り…」
「キャロも習ってみる?」
「… エリオ君は私の作ったお菓子食べたい?」
「え!? うん、食べたいな。」
「じゃあ、習いたいです。」
「…いつの間にそんな仲になったの?」
エリオの為なら頑張るとキャロは宣言した。
ザフィーラとアルフに影響された2人に、フェイトは育て方を間違えたのかと少し悩んだ。
「追加で焼くみたいだし、シグナムとシャマル、ザフィーラとアルフも呼んだほうがいいか?」
「ザフィーラさんとアルフさんは一緒に居るなら呼ばないほうがいいんじゃない? 馬に蹴られたくないし…」
「だな、それじゃシグナムとシャマルだけ呼ぶか。」
「グリフィスさんやヴァイスさんは?」
「あいつらまで呼ぶと機動六課が止まるぞ?」
「…なるほど」
じゃあ、シグナムさんを呼ぶのもまずいのではと思いつつも言わない。
ヴィータとの口喧嘩は決闘に発展しかねないからだ。
話をする機会はまた作れば良いか、と諦めるユーノにヴィヴィオが抱きついてきた。
「どうしたんだい?」
「ユーノさん、フェレットさんになって?」
「ヴィヴィオ…」
ヴィヴィオのお願いを叶えてあげたいと思うが、胸の宝石がきらりと光る。
「ごめんね? レイジングハートに無限書庫以外でフェレットになっちゃ駄目って言われているんだ。」
「えー。」
《すいません。 マスターのこれからの人生のためにフェレットモードは禁止にしました。》
「え?」
「へ?」
「え?」
「えっ!?」
「そういうオチですか…」
はやてとフェイトとギンガとスバルが驚き、ティアナは隊長達の早とちりに振り回されたのかと机に突っ伏した。
「レイジングハート、ユーノのこれからの人生のためにって?」
《はい。 マスターも良い歳ですから、いつまでもあの姿だと恋人の1人もできないだろうと思いまして。》
「…レイジングハートの言う事を聞いているって事は、ユーノも恋人が欲しいんだ?」
「別に? レイジングハートにはいつも世話になっているから、『フェレットにならない』っていうお願いくらいは聞いてあげようかなって。」
「そうだったんだ。 …面白く無いなぁ。」
ユーノとフェイトの様子を探りながら、「これはもしかしたら」とレイジングハートは判断する。 マスター次第ではまだ何とかなると。
ユーノさんは高町なのはと恋人になろうと思っているわけではないんだと、スバルはほっとすると同時にある事に今更気付いた。
それは、管理外世界に住んでいるなのはは、ユーノがフェレットになれることを知らないのだという事だ。
ユーノが普段フェレットでも、なのはにとってユーノは人間で、『フェレットにならない≠なのはと恋人になる』なのである。
「フェイトってはやての影響を受けすぎている気がする。」
「そんな! 酷い!!」
「酷いて… 2人の私の扱いの方が酷いわ!」
「そうです! はやてちゃんはちょっとお気楽だったり面白い事が好きだったりするだけです!」
リインのその言葉に、ユーノはヴィヴィオを抱っこしながら優しい目ではやてを見る。
フェイトはリインの頭を撫でる。
「はやて、リインは良い子だね?」
「本当、リインは良い子に育ったね?」
「あかん、泣きそうや。」
「はやてちゃん? 私が良い子だと悲しいんですか?」
「ちゃうよ、ちゃう… リインが良い子に育って嬉しいから涙が出ただけや。」
「嬉し泣きってやつだね?」
「はやてちゃん! 大好きですよ!」
そう叫んではやてに抱きつくリインの姿は本当に嬉しそうで、抱きつかれたはやての姿はとても疲れているように見えた。
「素晴らしい主従愛だね?」
「そうだね。」
「クッキー、第一弾が焼きあがりました!」
スバルの大きな声がユーノとフェイトの間に割って入った。
090903/初投稿