無限書庫
「こんにちわ、今日も来ました。」
「こんにちわ、ユーノさん。」
「こんにちわ、ギンガさん、スバルさん。」
機動六課の隊舎で手作りクッキーを振舞って以来、2人は無限書庫に手作りお菓子を持ってくるようになった。
時々スプーンやフォークを使わないと食べられない物を作ってくるため、そのたびに人型に戻るのが面倒になったユーノはフェレットモードでいる事が減っていった。
「今日はカップケーキ作ってきました。」
「私はこのゼリーを… ケーキの後に召し上がってください。」
「ギン姉! 今日はカップケーキで勝負って言ってたj」
「スバル、大きな声出したら駄目よ?」
「ギンガさんもスバルさんもありがとう。 休憩時間に頂く事にするね。」
そんな3人をこっそり撮っている司書がいた。 会員の1人である。
そして、送られてくる映像を見ている人達もいた。
「レティ… あなたこんな」
「リンディ、ユーノ君が居なくなったら無限書庫は10年前に逆戻りなのよ?」
「だからと言って、5000人近くの人をこんなわけのわからない会の会員に」
「誤解しないで、私の会員番号は3000番台よ。 この会を作ったのは私じゃないわ。」
「なっ!」
「人事を預かる私がこの番号なの。
信じられる?
そもそも最初はフェレットモードのユーノ君を管理局のマスコットとして遠くから愛でるだけの集まりだったのよ?
それが、空港火災で大活躍して『英雄』呼ばれるようになったり、先日のJS事件で大活躍したりで…
フェレットにならなくなったというのに、会員は今この瞬間も増えているの。
もし、ユーノ君が管理局を辞めて管理外世界に出て行ったら、どれだけの影響が出るかまったく予想が付かないわ。」
親友の告白に頭を痛くするリンディ…
頭を抱える彼女を見て、あなたの息子の嫁が会の創設者だとは言えないレティ…
もちろん、エイミィが管理局から離れてからは本局統幕議長であるミゼット・クローベルがトップになっていて、その下でレティが会員のまとめ役をしているという事も言えない。
「…はやてちゃんとフェイトがユーノ君となのはさんのデートを監視したり、スバルさんをアタックさせたりする理由がわかったわ。」
「あら、あの2人は会の事を知らないわよ?」
「え?」
「あの2人はユーノ君がなのはさんの事を好きだと思っているんでしょう?。」
「ええ、そう思っているんじゃないかしら。」
「そこから考えて、管理局にとってユーノ君がどれだけ必要なのか、気付いたんでしょうね。」
レティはリンディからユーノがなのはを好きかも知れないと聞いた時に事の重大さに気づけたが、会員でなかったら気づけなかっただろう。
リンディはレティから話を聞いて初めてユーノが居なくなる事が管理局にどれだけのダメージになるのか気づいた。
しかし会員ではない2人は、少ない情報でユーノが管理局に必要不可欠な存在である事に気づいたのだ。
「…いつの間にか、追い越されていたのね。」
「そうね。」
子供達が成長したのか、自分達が鈍くなったのか…
「それにしても…」
「それにしても?」
「たった1人がこれほどの影響力を持つなんて、時空管理局って何なのかしら…」
「考えないほうが良いわよ? 考えたら… あら?」
画面の向こう… 無限書庫で動きがあった。
「ユーノさん! ヴィヴィオのパパになってください!」
「え?」
「え?」
「ヴィヴィオ… 何かあったの?」
ユーノは走ってきたヴィヴィオのぼさぼさになった髪を撫でて整えながらそう聞いた。
「春になったら学校に行くことになったの。」
「学校? …ああ、フェイトさんは仕事の関係で殆ど家に居ないから、何かあった時のための連絡先が必要なのかな?」
「待ってください! それなら別にユーノさんじゃなくてもいいじゃないですか!」
「そうです。 ヴィヴィオちゃんの保護者なら、お祖母ちゃんのリンディ総務統括官で良いじゃないですか?」
ギンガとスバルは他の人に任せるべきだと主張した。
こっそり盗み見しているレティは、ヴィヴィオの一言でそこまで推測できるユーノは異常だと思った。
リンディはギンガとは一度きっちり話し合おうと決めた。
「ギンガさん、ヴィヴィオの通う学校が第97管理外世界にあれば、それでもいいだろうけどね?」
「あ!」
「ミッドのザンクト・ヒルデ魔法学院に通うヴィヴィオの準保護者になるのはちょっと無理かもしれない。」
ヴィヴィオの過去を考えるとザンクト・ヒルデ魔法学院に通うのが一番良いとギンガとスバルも思った。
それでもユーノ以外に適任者が誰か居ないか考える事をやめないが。
「フェイトママはお仕事を休んでも良いって言うんだけど…」
「ヴィヴィオはフェイトさんの負担になりたくないんだね?」
「あい。」
「エイミィさんもリンディさんが居なくなると大変だろうし、だからと言ってザフィーラさんとアルフさんにヴィヴィオの保護者になってもらうわけにも行かないし…」
ザフィーラだけでなく八神家は皆忙しいのだ。
「でも、ユーノさんも無限書庫で忙しいじゃないですか。」
「ギン姉の言うとおりです。 ユーノさんも無理じゃないですか?」
「確かに忙しい事は忙しいけど、最近は司書の数も増えたし、書庫の整理も今のペースなら問題ないし…」
《マスターはいつも無限書庫に居ますから、有事の際の連絡先としては確かに都合が良いですね。》
「そうだね。 …そうか、僕だけじゃなくて、リンディさんとアルフさんも一応頼んで…」
レイジングハートはユーノとフェイトの仲を進展させるチャンスだと考え提案したが…
「そうだ、いっそ八神家にも頼んでみようか? 皆忙しいだろうけど、これだけ居れば何かあった時1人くらいは都合のつく人がいるだろうし?」
ヴィヴィオにとって忙しく無い人という認識だったんだなぁと思いながらそう言った。
八神家やハラオウン家にまで頼むとフェイトさんにアピールする事が… とレイジングハートは考えたが、ヴィヴィオの事情を考えるとその方が良いので何も言えなかった。
「じゃあ、私も立候補します!」
「私も! それにお父さんも推薦します!」
何やら大事になってきて心臓がバクバクしているヴィヴィオをさらに驚かせる男がやって来た。
「そういう事なら僕も名前を貸しましょう!」
「あ、こんにちわ、ヴェロッサさん。」
今日も仕事をサボってお菓子を作ってきたヴェロッサに、ユーノは普段どおりの挨拶を返した。
実はユーノがスカリエッティを捕縛する以前からの友人であり、時々手作りのお菓子を持ってきていたのだ。
ユーノはヴェロッサを見習ってお菓子作りを趣味にしようかと考えた事もあるのだが、男2人でお菓子作りをしている場面を想像して「これはない。」と思ってやめたという事実が実はあったりする。
そんな事を知らないヴェロッサは、ユーノがミッドや第97管理外世界で菓子店を巡るようになってからお菓子を持ってくる頻度が増えていた。 「最近、ユーノ先生は甘いお菓子を食べても辛口の評価を返すようなって、今までより面白くなった。」のだそうだ。
「颯爽と登場したのに普通に挨拶を返されてちょっと恥ずかしがってるアコース査察官、こんにちわ。」
「こんにちわ、アコース査察官。 今日も仕事サボってお菓子作ってきたんですか?」
キツイ言葉でヴェロッサに挨拶するギンガとスバル。
少し前に3人のお菓子をユーノが食べ比べした事があり、その時姉妹はあっさり負けてしまい、それ以来ヴェロッサはある意味なのは以上の『超えるべき壁』となったのである。
しかし、姉妹の言葉がヴェロッサの心に刺さる事はない。 普段から小言を言われる事に慣れているのだ。
抱きつく力が強くなったのを感じて、ユーノはヴィヴィオの頭を優しく撫でた。 いつもは優しい2人が怒っているのが怖いのだろうか?
「ヴィヴィオ、この人はヴェロッサ・アコースさん。 僕の友人で、はやてやフェイトとも友達なんだよ。」
「フェイトママのお友達?」
「そうです。 はやてとフェイト執務官とは一緒にお仕事をした事もありますよ。」
「良い人だよ。 今日もほら、お菓子を持ってきてくれている。 もうすぐ休憩時間だから一緒に食べよう、ね?」
「…あい。」
ユーノに抱きついたまま返事をするヴィヴィオ。 それでも少しは警戒を解いたようだ。
「それはそれとして、本当に大丈夫なの? 人手は多いほうが良いと思いはしたけど、ヴェロッサさんも忙しいでしょ?」
「ユーノ先生、僕はいつも暇ですよ?」
「時々ココに君を探しに来るよ?」
「…来たんですか?」
「うん、(今)来たよ。」
その会話にギンガとスバルが加わった。
「アコース査察官、シスターを怒らせちゃだめですよ?」
「そうですよ。 偶にはシスターにも感謝の気持ちとしてお菓子作ってあげればいいのに。」
「君達はお腹を空かせた肉食動物の目の前に立つような事をするのかい?」
「アコース査察官じゃあるまいし、そんな真似はしませんよ。」
「そうですよ。 アコース査察官とは違いますから。」
「ん? それはどういう意味だい?」
姉妹の言葉を不思議に思ったヴェロッサの質問に、姉妹だけでなくユーノとヴィヴィオも視線で答える。
全員の視線が書庫の入り口に向いている事に気付き、これから起こる事を悟った彼は覚悟を決めた。
「やあ! シャッハも一緒にお茶とお菓子を」
「ええ、カリムと一緒に3人で頂きましょう。」
それを見ていたリンディとレティは聖王教会のカリムとシャッハも巻き込むことを勝手に決めた。
ユーノもハラオウン家も八神家もナカジマ家も都合がつかない時、あの2人にまかせれば安心できるし、ヴェロッサにこれ以上仕事をサボらせる口実を与えてはならないと思ったからだ。
売られていく子牛ってああいう顔なんだろうなと思いながらユーノはシャッハとヴェロッサを見送った。
「そういえば、ギンガとスバルも時間は大丈夫?」
「あ!」
「大変!」
2人は別れの挨拶もそこそこに帰っていった。
・・・
「なのはさんが一番で、次いでギンガさんとスバルさんって感じだったけど、これでフェイトさんやはやてさんの人気も上がって、なおかつ聖王教会の2人も新枠で」
「レティ! あなたまさか賭k」
「リンディは誰にする?」
素敵な笑顔でリンディの怒りを押さえ込むレティ。
暫しの沈黙の後…
「…あなたと同じ『親』でいいわ。」
「了解。」
リンディはレティと共犯者になる。
こうやって本人の知らないところでユーノを中心とした戦いは続くのだった。
とあるフェレット(を中心とした人々)の憂鬱(仮題) ここで一区切り。
090906/初投稿