ユーノ・スクライアは不思議な子だった。
私は、あの子がアースラに連絡をくれた時、すごく変な文章だと思った。
どんなに文章を書くのが下手だとしても、こんな風に箇条書きっぽい書き方くらいはできたと思う。
『ジュエルシード発掘責任者のユーノ・スクライアです。
現在第97管理外世界でジュエルシードを捜索中です。
今僕は怪しい魔導師に尾行されています。
もしかしたらジュエルシードを狙う悪党かもしれません。』
でも、実際はこれだ。
『ジュエルシード発掘責任者のユーノ・スクライアは現地に来ているが、怪しい魔導師に尾行されている。 もしかしたらロストロギアであるジュエルシードを狙う悪党かもしれない。』
変だ。
『ユーノ・スクライアは現地に来ているが、怪しい魔導師に尾行されている。』
これが、ユーノ・スクライアではない『第三者』の視点で書いているような感じがするのだ。
そして何より、『現地』という表現。
この連絡をくれた時にはまだ1個もジュエルシードを見つけていないはずなのに、第97管理外世界を『現地』としているのだ。
この事に気づいたとき、私は言葉に出来ない不安を感じた。
闇の書の事件の時もあの子の不思議な行動は続いた。
フェレットモードだ。
一日中あの姿で無限書庫に篭るのだ。 自分に魔力の負荷をかけるトレーニングをしながら。
海鳴に居る時は流石にフェレットにならなかったが、それでもトレーニングは続けていた。
ある日、聞いた事がある。
「いつもトレーニングばかりで疲れない?」
あの子は少し困った顔をして私の質問に答えた。
「望んだ形で叶わない、そんな願いをした子がいるんです。」
意味がわからなかったけど、そう言ったあの子は真剣な顔をしていて、結局それ以上は何も聞けなかった。
そしてあの子は、無限書庫で司書として働くようになってもフェレットモードを止めなかった。
私は、クロノにとって、もちろん私にとっても友人であるあの子を誰にも変な目で見てほしくなかった。
そこでアースラクルーや司書の人達に協力してもらって、あの会を、『名前の無い』会を作った。
会員番号を使ってネット上で『今月の一番』と題してフェレットモードのあの子の画像を評価する、ただそれだけの会を。
無限書庫と司書長室と食堂と訓練室、それがあの子の行動範囲だったので、だいたい500人くらいを会員にするだけでよかった。
これによって、あの子の行動範囲にいる人は、あの子を『変な物』ではなく『マスコット』として見るようになった。
本当ならきちんと人として見て欲しかったけど…
私がそんな事をしている事も知らないで、あの子は、ユーノ君は司書長になってもずっとフェレットモードのままだった。
いつもトレーニングをして、アルフやザフィーラと魔法の研究をしていた。 そう、ずっと自分を鍛え続けていた。
結局、私がクロノと結婚する頃になってもユーノ君はフェレットモードを止めなかった。
一時的とはいえ、管理局から離れる事になったので、レティ・ロウラン提督に会の設立理由を打ち明けて運営をお願いした。
いつか、ユーノ君が『望んだ形で叶わない願いをした子』をどうにかして、フェレットになるのを止めた時、「こんな会を作っていたんだよ」と、笑って話せる日が来る事を願って。
なのに…
「どうしてミゼット・クローベルなんて大物が?」
海鳴のハラオウン家では、エイミィとレティが会について話していた。
リンディが本局に行く日を知ることなんてレティには朝飯前なのだった。
「あなたがいた頃から、すでに会員だったそうよ?」
「え?」
『会員達との話し合いの結果、高町なのはとその家族に管理局の事をばらす許可が出ることになりそう。』
リンディがレティからそう連絡が来たと言った時、「あの会にそんな力があるわけがない」と笑い出しそうになったのを思い出す。
「だって、月に一回、一番良い作品を選ぶだけの」
「エイミィさん、ユーノ君が空港火災でたくさんの人を救って英雄と呼ばれるようになった事を覚えている?」
「はい。」
「その時から会員が増える速度が上がったでしょう?」
「…そういう事ですか。」
「ええ。」
英雄となった彼が、実は管理局を良く思っていなかったら…
上層部としては、『ユーノ・スクライアとはどういう人間なのか』調べる必要があったのだろう。
そう考えると、にわかファンに混じって情報を集める事にしたのだろうと想像ができた。
「いつか、笑い話にできると思っていたけど、無理そうですね…」
「笑い話にはできないだろうけど、これはこれで良かったのだと思うわよ?」
「どういう意味ですか?」
「だって、上が彼のファンになったから、なのはさんとそういう関係になっても良いということになったのよ?
もしこの会がなかったら、今頃ユーノ君は強制的にお見合いをさせられて管理局に拘束されているところだわ。」
「ああ、言われてみれば確かに。」
・・・
機動六課隊舎 はやての部屋
「だらけてるね?」
「そうなんです。」
「だって、気が抜けたんやもの。」
「ま、気持ちはわかるけどね。」
リンディとレティからいざとなったら管理局が全力で高町家を説得してユーノを管理局に残すようにすると言われて以来、はやてはこんな感じである。
「でも、私達にはスバルを焚き付けた責任があるんだから…」
「わかっとるで? だから今も調理場を利用させたり、ユーノ君の好みの味を教えたり、お昼に無限書庫に行くのを許したりしてるやん。」
「それだけじゃなくて、もっとピシッっとして頼れるところをアピールしてあげてよ。」
「そうです! 隊長が諦めちゃったかもしれないって、スバルさん泣いてましたよ?」
「なんやて!?」
リインの言葉に、いつも元気なスバルが泣くなんて…と驚く。
「ギンガさんを巻き込んだりしたけど、それでもあれだけ応援していたはやてがお菓子を食べに来る事すらなくなったら不安になって当然だよ。」
「そうですよ!」
「そうか… そうやな。 私には責任があるんやから、シャキッとせなあかんよな!」
「そうだよ! その調子だよ、はやて!」
「カッコイイですよ! はやてちゃん!」
「やったるで! 上の力なんかに頼らんでも私らで見事に収集つけてやろうやないか!」
「おー!」
「おーっですー!」
拳を天に突き出して団結の声を上げる。
「それじゃ、思い切って行動するで。」
「思い切って?」
「ええか? ユーノ君がスバルを選ばないでなのはちゃんとくっついても、上がどうにかしてくれるんよ?
それはつまり、私たちがどうしようもないくらいにおかしな事したり、とんでもない失敗をしたりしない限り問題ないって事や。
この状況を利用しない手はないやろ?」
「なるほど!」
「さすがはやてちゃん、頭いいです!」
ついさっき上の力を頼らないと言ったばかりなのに…
「まずは、リイン!」
「はいです!」
「ユーノ君から好きな人はいないのか聞いてきて!」
「いきなり直球ですか!」
「そしてフェイトちゃん!」
「うん。」
「この前の、ユーノ君の提案を呑んでヴィヴィオの準保護者になってもらうんや!」
「え?」
「ユーノ君から言い出したんやから問題ない。 これで、ヴィヴィオが学校に通っている間は無限書庫から出て行くことがなくなるんや。」
「あ、なるほど。 で、はやてはどうするの?」
「私か? 私はスバルと一緒にお菓子作りをする!」
091121/初投稿