機動六課隊舎の裏
「ここにこれをつけると、」
「なるほど… デバイスとは違った面白さがありますね。」
「でしょう?」
ユーノはヴァイスからバイクについて習っていた。
女性やヴェロッサとならお菓子関係の話題で話せるようになったので、同性との会話の話題を探しているのだ。
けれども、ユーノはすでに「これはやめておこう」と思っていた。
バイク弄りは確かに面白いのだが、男なら誰でも楽しいと感じる話題ではなさそうだからだ。
お菓子の話題を避ける女性もいるが、そういう人は少数だ。
そして、バイクを話題にして喜ぶ男性はそれくらい少数のような気がする。
「でも、ユーノ先生には少し厳しいでしょうかね?」
「?」
「バイクはまめにメンテをしないと動かなくなりますから、いつも忙しい先生には」
「そうですね… 面白そうなんですけどね。」
話の種にするには問題があるが、バイクがあれば遠くの有名店にも気軽に行けるようになるから、免許を取るのもいいかと思ったのだけど。
「先生にはバイクよりも車のほうがいいんじゃないですか?」
「車ですか?」
「ほら、ヴィヴィオの嬢ちゃんが学校に行くようになったら、先生が送り迎えする事もあるかもしれないでしょう?」
「確かに、そういう事もあるかもしれない。」
車があれば送り迎えが楽になる。 どこかに遊びに行くのもいいかもしれない。
「フェイト副隊長が乗ってるようなのじゃなくて、小型でかわいいタイプのなんてどうでしょう?」
「小型の?」
「高級車を降りるヴィヴィオと、小さなかわいい車を降りるヴィヴィオ、親近感を覚えるのはどっちです?」
「なるほど。」
確かに、他の生徒に与える印象は違うかもしれない。 けれど…
「それで、どうしてヴァイスさんがそんな車を?」
「…転勤になった友人に押し付けられました。」
バイク好きのヴァイスさんが車を勧める理由はそれか。
「免許ってどれくらいで取れますかね?」
「貰ってくれるんですか!?」
「困っているんでしょう?」
「ありがとうございます!」
・・・
機動六課隊舎 フェイトの部屋
「それで、免許を取ることにしたの?」
「うん。 持っていて損する事もないしね。」
「参考書は誰かにあげちゃったと思う。 あげてなくても実家だろうし…」
「そっか…」
「それに、私が取ってから結構経ってるから、新しいのを買ったほうがいいと思うよ?」
ユーノは免許を持っているフェイトに参考書を持っているか聞きに来ていた。
「新しいのも買うけどさ、ちょっと前のもあったほうがいいかと思ったんだ。」
「ユーノの記憶力なら筆記なんて簡単でしょう?」
「念には念をって言うだろう?」
「ただいまー。 あ! ユーノさんだ。」
ザフィーラと出かけていたヴィヴィオが帰ってきた。
「こんばんわ、ヴィヴィオ。」
「こんばんわー。」
「ユーノ、最近よくここに来るな?」
「ザフィーラさんもこんばんわ。 今までずっと無限書庫に篭ってた反動かもしれません。」
「ふむ。 前よりも活き活きとしているようだ。」
「そうかな?」
「前はもっと… そう、生き急いでいるような感じだったぞ。」
「…そうだったかもしれません。」
そういえば、ザフィーラさんの趣味はなんだろう? 突然、ユーノの頭にそんな疑問が浮かんだ。
今度聞いてみよう。 そう思っていると、ヴィヴィオがユーノの手を取った。
「ユーノさんはお仕事で来たの?」
「うん。 でも、もう終わったよ。 ここに資料を持ってきたらその後は直帰する事になってるから後は帰るだけ。」
「じゃあ、御飯一緒に食べよう?」
「ユーノ、すぐに帰らなくてもいいならそうしない? ヴィヴィオだけじゃなくてエリオとキャロも喜ぶよ。」
「そう? それじゃあご一緒しようかな。」
久しぶりに子供達と一緒に食事ができる事を嬉しくて、ヴィヴィオを肩車して食堂に向かおうとする。
「たかーい!」
「ちょっと待って! すぐにこれ終わらせるから!」
「フェイトママまだお仕事中だったの?」
「あ、僕が邪魔しちゃったのか。 ごめんね?」
「いいよ。 でも待ってて。 それに、エリオとキャロも一緒にって言ったでしょ?」
「うん、そうだったね。」
「だったねー。」
「ならば、今のうちに他の者も誘っておくとしよう。」
食堂
「待ってたですよー。」
リインフォースⅡがユーノ達を席へ案内した。
「よう!」
「久しぶりだな。」
「こんばんわ、ユーノ君。 久しぶりね?」
「こんばんわ。 久しぶりですね、シャマルさん?」
「私達は?」
「ヴィータさんとシグナムさんは、この前一緒にギンガさんとスバルさんが作ったお菓子を食べたじゃないか。」
「ふっ、確かに久しぶりというほどではないな。」
人数が多いので机を2つキープしたらしい。
ヴィータとシグナムとシャマルは向かって右側の席に着いて待っていた。
「ユーノさん、こんばんわ。」
「こんばんわ、ユーノさん。」
「こんばんわ、キャロさんとエリオくん。 こっちにヴィヴィオを座らせても良いかな?」
「はい。」
「どうぞ。」
子供達は左側の席に座っていた。
ユーノは肩からヴィヴィオを下ろし、席に座らせる。
「はやてはまだ来ていないの?」
「はやてちゃんは厨房でお菓子作ってます。」
「へぇ… やっぱり、機動六課ではお菓子作りが流行っているんだ?」
「え?」
「ん? 違うの?」
「え~と…」
ユーノの問いに口ごもるリイン。
「流行っているわけじゃねーぞ。」
「そうなの?」
「私はもちろん、シグナムとシャマルもお菓子作ってねーだろ?」
「…」
「フェイトとキャロとヴィヴィオも作ってねーじゃん。」
「そう言われると納得だね。」
「ユーノ…」
シグナムが少し怒った声で会話に入ってくる。
「私達が作っていない事では納得できず、フェイト達が作っていない事で納得するとはどういう事だ?」
「シグナムさんもヴィータさんも、僕と同じで食べるの専門じゃないですか。」
「ふむ… シャマルは?」
「シャマルさんがお菓子を作った時点で… 流行は廃れています。」
「そうだな。」
「ひっどーい!」
ははははと笑うユーノとシグナムとヴィータの様子に、シャマルは「すっごくおいしいお菓子を作って食べさせてやる。」と決意した。
「ユーノ、この前はやてが、『ギンガとスバルに私が地球の味を教えたるで』って言っていたから、3人で地球のお菓子を作っているんじゃないかな?」
「地球の味?」
「ほら、はやては一人暮らしが長かったからか料理が得意でしょ?」
「そういえばそうだった。」
でも、地球の味という大雑把な範囲ではなく、ピンポイントで『日本食』が食べたいと思うユーノであった。
「お! ユーノ君来てたんやな。」
「うん。 ギンガさんとスバルさんに地球のお菓子を教えているんだって?」
「そうや。 ほら、地球にいた頃ユーノ君がよう翠屋のお菓子買ってきてくれたやろ?」
「そういえば、そうだったね。」
エプロン姿でカウンター越しにユーノに話しかけてくるはやて。
ユーノは適当に返事をする。
はやてさんもフェイトさんも『原作』ではあの店のお菓子を好きだったはずだから… という理由で翠屋でしかお菓子を買わなかった事は言えないのだ。
「私はもちろん、ウチの子達もフェイトちゃんも地球にいた時間は長いから、たまに地球の味が恋しゅうなるんよ。」
「わかる気がする。 たまにしか地球に行かない僕でも、時々お味噌汁とご飯が食べたくなる事があるし。」
「え?」
「ん?」
「味噌汁とご飯?」
「うん。」
予想外の反応に戸惑うはやて。
しかし、夕食が始まるとさらに混乱する事になる。
なぜなら…
リインがユーノに好きな人は誰かと聞こうとしている事を、誰も(聞くように命じたはやてですら)気づかないままだったからだ。
091205/初投稿