「レイジングハート、ユーノさんに恋人はできそうですか?」
はやてとユーノが日本食について話していると、リインが突然そんな事を言った。
《それが、全然駄目なんですよ。》
「駄目なんですか?」
《無限書庫の司書長なので給料も良くてそれなりの地位もあって、フェレットにさえならなければ容姿は悪いほうではないですし…》
「なんでできないんですかね?」
《本当に不思議です。》
「もしかして… ユーノさん!」
「んぇえ? な、何かな?」
顔を上げて、ユーノの顔をじっと見るリイン。
「ユーノさん、もしかして心に決めた人が… 好きな人がいるんですか!?」
(リイイイイイイイイン! いきなりすぎて驚いたけど、ようやったぁぁぁああ!!)
(はやてちゃーん! 私頑張りましたぁぁあああ!!)
顔には出さず、頷く事もせずにわかりあう2人。 まさにこの主にしてこのデバイス状態。
《そうだったのですか? マスターには心に決めた人がいたのですか?》
「…」
《マスター?》
静かになった食堂にユーノを心配するレイジングハートの声が響いた。
《どうしました? 大丈夫ですか?》
「大丈夫。 大丈夫だから…」
《マスター?》
・・・
レイジングハートが僕の事を心配して恋人を作れと言ってくれているが…
僕がその気になれば、ギンガさんとスバルさんのどちらかを恋人にする事は難しくない。
気づいていないフリをしているが、ギンガさんとスバルさんが僕に好意を持ってくれている事はこれまでの経験から気づいている。
でも今の僕は彼女達を『ゲンヤさんの娘』という様にしか見れない。
最初… 一回目はそうではなかった。
僕に懐く『妹のような子達』と思っていたし、成長してもくっついてくる彼女達に少しだけ『女性』を感じてしまったのは事実だ。
でも、二回目以降、ヴィヴィオやキャロさんとエリオくんを養うようになって、ゲンヤさんと子育てについて語り合うようになってからは…
この2人を恋人にする事はまずないなぁ…
そして、どういうわけかレイジングハートが大プッシュしているフェイトさんだが…
フェイトさんと仲良くなったのは六回目だったか?
五回目の時はハラオウン家に丸投げして… 結局ハラオウン家でもどうしようもなくて、あんな事になったし。
で、六回目はリンディさんとエイミィさんが、僕のフェイトさんへの態度を誤解して… フェイトさんも誤解して、ちょっと良い雰囲気になった事もあるけど、結局僕は彼女の事を『子供』としか見れなかったわけで…
七回目は六回目で付き合い方がわかっていたし、はやてさんと親友になった事で精神的に安定するのも早かった。
結局、フェイトさんの事も『子供』にしか見れないんだよなぁ…
なんて事を今まで思っていたけれど…
今、僕は、『今の状況を受け入れきれていない』という事を知った。
レイジングハートとリインフォースⅡの会話を聞いてそう気づいてしまった。
僕は、誰かを好きになっても良いのか?
ユーノ・スクライアは無限書庫で働く。
ストライカーズで出番は殆ど無かった。
でも、ゆりかごの情報とか… 見えないところで頑張っていた。
僕はどうだ?
『原作』以上に頑張っていると思う。
『ユーノ・スクライア』の仕事をして、その上『高町なのは』の分まで前線で戦った。
でも、その『頑張り』は正しいのか?
前線に出るべきではなかったのではないか? 無限書庫で『だけ』頑張れば良かったのではないか?
僕は誰かを好きになっても良いのか?
学校で勉強するヴィヴィオをこっそり一緒に見るくらいユーノとなのはは仲良しだった。
二次創作ではフェイトやはやて、ヴォルケンリッター、戦闘機人といちゃいちゃする事さえある。
でも、本当にそれでいいのか?
4期はあるのか? この世界にはないのか?
あったとして、主役は高町なのはでは無いのか? 脇役として活躍すらしないのか?
ユーノは無限書庫にまだいるのか? スクライアに帰ってしまってはいないのか?
3人娘の誰かとくっついているのか? いないのか?
新キャラのイケメンとなのはの間に出来た子が主役だったりしないか?
フェイトやはやての子供がその子を支えるとか、一緒に戦うとかっていう展開だったりしないか?
ユーノの子供も別にいたりしないか?
ヴィヴィオが主人公だったりしないか?
このヴィヴィオはスターライトブレーカーを見た事が無いのだが、大丈夫なのか?
僕は、誰かを好きなっても良いのか?
一生独身で無限書庫にいることこそが、世界にとって必要ではないのか?
ジュエルシードをいつも3個持っている。
1個は『簡易ブースト』用。
1個は『虚数空間結界』用。
1個は『僕の力ではどうしようもない状況になった時に願う』用。
いざと言う時の『備え』だと考えていた。
でも、本当は『この世界でユーノ・スクライアとして生きていく自信が無い』事を無意識に感じていたからかもしれない。
僕は、この世界で、ユーノ・スクライアとして…
どう生きていけばいいのだろう?
・・・
「ユーノさん?」
《マスター?》
「大丈夫だよ… 2人が突然変な事を聞くから驚いただけ。」
とりあえずそういう事にした。
「変な事じゃないです! とっても大事な事ですよ!!」
《そうです!》
「そや、もしそういう人が居るなら応援するで?」
「ユーノには世話になっているからな… 私も応援するぞ?」
「私もな。」
「あら、私も力になりますよ?」
「…(あきらめろ)」
ザフィーラさん…
あなただけは僕の味方だと思っていたのに…
「まあまあ… みんな落ち着いて、ね?」
ここで意外な援軍?
「そんな風に詰め寄ったら何も言えなくなっちゃうよ?」
「フェイトちゃん… それもそやな。」
「そうだよ、ご飯を食べながらじっくり聞けばいいんだよ。」
フェイトさ~ん…
・・・
楽しくご飯を食べた後、はやてが監督をしてギンガとスバルが作った日本風のお菓子が机に並べられた。
「『あんこ』や『抹茶味』か…」
「あまり本格的なのは無理やからな。」
「『きなこ』もあればよかったんですけどね。」
「リインは『きなこ』が好きなのかい?」
「いや、三色になるからやろ?」
「はいです。」
「ああ、なるほど。」
子供はカラフルな物が好きだったなと納得するユーノ。
世の親御さんたちが小さな子供のためにかわいいお弁当を作るのもそういう事だと何かで読んだ事があるのだ。
「でも、ここの食堂は量が多かったから、これ全部を食べるのはキツイかな」
「え?」
「あ!」
ユーノは心の中でギンガとスバルに謝る。
機動六課の食堂は彼女達のように前線で戦う訓練をしている人が利用する事を前提にしているのだ。
一応内勤の人の為のメニューもあるのだが、先に来ていたはやてやヴォルケンリッターが注文していたのでユーノにはきつかったのだ。
「別に無理せんでええよ? 持って帰って。」
「え?」
「この前聞いたけど、朝は適当にすませとるんやろ? お団子はお米やから、朝ごはんとして食べるとええよ。」
「…なるほど。」
結界魔方を使えば作りたての状態を保つのなんて簡単だしなと納得する。
「それじゃあ… いくつか貰っていくよ。」
「というか、無限書庫の司書さん達にも持ってって? そのために多めに作ったんやから。」
作ったのはギンガとスバルだ。
「そうだったの?」
「ユーノ君だけやなくて無限書庫のみんなにもお世話になっとるからな?」
「そういう事ならありがたく貰って行くよ。」
ユーノははやてが無限書庫のみんなに感謝しているのだと思った。
「(隊長?)」
「(ギンガ、スバル、これは作戦や。)」
「(作戦ですか?)」
はやては無限書庫に勤めているユーノの同僚達を仲間に引き込むつもりなのだった。 『会』の存在を知らないので、エイミィに相談したほうが早いとは考えつかなかったのだ。
「(そうや、ここは私に任せとき!)」
「(隊長!!)」
「(はい!!)」
はやてとナカジマ姉妹の絆が深まった!
・・・
これまでずっとあの子達… ユーノ達を開放するためにがんばった。
この後の人生の為に交友関係を広げる事を考えた。
でも今日…
「未来は誰にもわからない。 その未来の為に何をすべきか…」
そんな当たり前な事を思い知らされた。
「誰かに誘導されたからではなく、自分自身の考えで… つまり、僕のやるべき事は…」
新しい課題を前にして…
自宅への帰り道、ユーノは笑顔だった。
091212/初投稿