海鳴 翠屋
「おいしいよ。」
「そ、そうですか?」
「うん。 忙しくて暫くこられなかった間に腕を上げたね。 ヴィヴィオもそう思うだろう?」
「うん!」
「よかった。」
休日、ユーノはヴィヴィオを連れてなのはの新作ケーキを試食していた。
「なのはさんのケーキ、すごくおいしいよ。」
「ありがとう。 でも、まだ後3種類あるんだけど…」
「食べるー!」
「一度に食べると味がわからなくなっちゃうから… 僕は水で口の中をリセットしてから頂くよ。」
「じゃあ、持ってきますね。」
なのははケーキと水を取りに厨房に戻った。
「ヴィヴィオ、口の周りにクリームが付いているよ。」
あらかじめ用意してもらったおしぼりでヴィヴィオの口を拭いてやりながらなのはを待つ。
「ユーノさん。」
「なんだい?」
「何か良い事あったの?」
「え?」
「なんだか、いつもより元気みたい。」
「そう? なら、良い事があったのかもね?」
「なにそれー。」
あははと笑ってごまかしているとなのはがケーキと水を持って来た。
「お待たせしましたー。」
「ケーキたくさんー!」
「ヴィヴィオ、お行儀良くね?」
「はーい。」
余り来ない海鳴に来てはしゃいだからか、それともケーキをたくさん食べたからか、あるいはその両方か…
「寝ちゃいましたね?」
「寝ちゃったね。」
ヴィヴィオは椅子に座ってフォークを持ったままお昼寝タイムに突入した。
「危ないからフォークを取って…と」
「私の家に来ますか? ベッドお貸ししますよ?」
「う~ん… じゃあ、お願いします。」
「それじゃあ、こっちへ…」
・・・
高町家
「ベッド、ありがとうございます。」
「いえ、お気になさらず。」
なのはのベッドにヴィヴィオを寝かせて、2人は一階で次にどのお店に行くかを話し合った。
「それじゃあ、次はこういうルートで行きましょう。」
「そうだね。 栗の季節が終わるから、食べ逃したらまた来年まで待たないといけないしね。」
「わ」
「私はそれでもいいんですけどね?」と言いかけたなのは
「え?」
「え?」
しかも上手にごまかした。
「ユーノさん…」
「ん? なに?」
「なんだか今日は、いつもと違いますね?」
ヴィヴィオに続いてなのはさんもか
「そうかな?」
「そうですよ。 いつもは… 私と話している時も、何か別の事を考えているみたいなのに…」
マルチタスクがばれている?
「僕っていつもはそんな風なの?」
「そうですよ?」
「そうだったのか…」
顔に出ているのかな?
「ほら今も、私と話しながら別の事を考えているでしょう?」
鋭いなぁ…
もしかして、魔力が無いだけでマルチタスクの才能自体は持っているのかな?
「それは、目標を見つけたからかもしれない。」
「目標ですか?」
「うん。」
「話してくれますか?」
なのはさんなら、いいかな?
「…僕は今まで、ずっと、他人の為に頑張ってきたんだ。」
「たにんのため?」
「そう。 気づいたのはつい最近だったんだけどね。」
「?」
「気づいてからも、僕はその人達の為に頑張ったんだ。」
「気づいてからも…?」
「うん。 そして、その頑張りは一つの結果を出して、僕はもうその人達のために頑張らなくても良くなった。」
魔法の研究が面白かったというのもあるんだけどね…
「…頑張らなくて良くなったから、楽しいんですか?」
僕は楽しそうだったのか?
「ちょっと違う。」
「ちょっと?」
ちょっとね。
「誰の為でもなく、ただ、自分の為にやりたい事が見つかったんだよ。」
「やりたい事?」
「うん。 僕が変わったのだとしたら、きっとそれが原因だよ。」
「それって、何なんですか?」
「それは…」
「それは?」
僕は右手人差し指を立てて口の前に…
「それは秘密だよ。」
そう言った僕の顔は、きっと憂鬱なんて欠片も感じられないくらいの笑顔だっただろう。
091213/初投稿