「最近、ユーノ君とは良い感じみたいね?」
「ぶっ!」
いつもと同じのように碧屋にやって来て、いつもと同じようにケーキと紅茶を注文したエイミィの突然の台詞に、なのはは(いつもと同じように)飲んでいた紅茶を噴き出した。
「ごほっごほっ、と、ごほっ、突然何を!?」
紅茶が気管にでも入ったのか、咳をしながら聞き返すなのはにエイミィは追い打ちをかける。
「だってほら、この前ユーノ君をお家にお招きしていたじゃないの。」
「何だと!」
しかし、その追い打ちは新作のケーキの試食をしていたなのはではなく厨房の士朗にダメージを与えた。
「あなた?」
「はっ!」
同じように厨房にいた桃子に睨まれるという形で。
「み、見ていたんならユーノさんがヴィヴィオちゃんをおんぶしていたのも知っているんでしょう?
私はお菓子を食べてお腹いっぱいで眠っちゃったヴィヴィオちゃんにベッドを貸して上げただけです。」
「ええ、まるで夫婦の様だったわ。」
「なっ!」
厨房ではエイミィの言葉に再び暴走しそうになった士朗と、それを止める桃子の無言の圧力というやり取りが交わされる。
「ふ、夫婦って…」
「私が気になるのはヴィヴィオちゃんにベッドを貸した後よ?」
「後って…」
「ほら、何があったのかこのエイミィお姉さんに話してみなさい?」
「何がって… ヴィヴィオちゃんをベッドに寝かせた後は次のお休みの時にどのお店に行こうかって話しあったくらい… エイミィさん?」
なのはは顔を真っ赤にしながらこれまでと何も変わらないという事を伝えようとしたが、エイミィの様子がいつもと何か違う事に気付いた。
「なのはさん、私はね…」
「?」
「ユーノ君が小さいころからずっと無理をしていたのを見ているの。」
「無理… ですか?」
「ええ… 何かの… ううん、誰かの為にいっぱい無理をしているのをね。」
ユーノさんが言っていた事だろうかとなのはは考える。
「ユーノ君は人に頼れる事は頼る子なのに、その件に関しては何も教えてはくれなかったの。」
ジュエルシードの回収やフェイトの保護、蒼天の書の消去など、今考えればユーノだけでもある程度の事は出来ただろう。
だが、ユーノはそれをせずに管理局や義母さんに――おそらくは無限書庫の業務などに関してもたくさんの人を頼った事をエイミィは知っている。
だというのに、ずっとフェレットの姿で魔法の研究を続ける事に関しては……
一見するとザフィーラやアルフを巻き込んでいるように見えるが、肝心な部分を教えていなかった事は想像できるし、実際そうなのだろう。
「エイミィさん?」
「つまり… 何がいいたのかって言うと…
私やクロノ、義母さんを含めた大人たちにすら頼れない様な、ユーノ君1人でどうにかしなければならない何かを背負っていたのよ。」
出された紅茶をスプーンでかき混ぜながら言葉を続ける。
「でもね、最近のユーノ君はすごく良い笑顔をするようになったの。」
「は、はあ。」
「なのはちゃん、何か聞いていない?」
エイミィの様子から、黙っている事は不可能だと察したなのはは先日ユーノが言っていた事をエイミィに話した。
「そっか… ユーノ君は『やるべき事をやり終えた』んだね。」
なのはの話を聞いて、エイミィは喜んだ。
「そうらしいです。」
「そっか… うん。 良かった。」
「エイミィさん、これ、使ってください。」
なのはがハンカチを差し出すと、エイミィはありがとうと言ってからそれで涙を拭いた。
・・・
「やあ。」
『やあ。』
モニター越しに2人の男が挨拶を交わす。
『それで、何が聞きたいんだい?』
「君の娘さんたちについて色々話がしたい。 あと、個人的に知りたい事も少し。」
挨拶早々、単刀直入に聞いてきた相手の質問に、ユーノ・スクライアも簡潔に答えた。
『言っておくけど、あの子たちは私の手をすでに離れている。』
「だろうね。」
そんな事は知っている。
『うん?』
「こう言っちゃなんだけど、今日こうやって君と話し合うのはパフォーマンスの意味合いが強いんだよ。」
意外な事を面倒くさそうに話すユーノに、ジェイル・スカリエッティは興味を持つ。
『いいのかい、そんな事を言って。 この会話は記録されているんだろう?』
どのような意図があるのかわからないが、ユーノの態度は管理局にとって不都合な物だ。
「うん。 無限書庫の司書長が世間を騒がせた大悪党とモニター越しとはいえ面会するんだ。 記録ぐらいするさ。」
しかし、ユーノの態度は非常に投げやりだった。
そしてそれが、ジェイルの好奇心を刺激する。
『わかったよ。 何でも聞いてくれ。』
「元よりそのつもりだよ。」
そう言ってユーノは缶コーヒーを一口飲む。 …徹夜したのだ。
「それじゃ、まずは1番のウーノさんね。」
『ああ。』
ユーノは缶コーヒーの側に置いてあった数枚の資料から1枚を取ってそう告げる。
おそらくは管理局に忠誠を誓うように説得しろとか、そういう事を言ってくるのだとジェイルは思った。
そして、それくらいならしてもいいとも思っていた。
…どうせ自分が何を言っても娘たちの決意は変わらないとしっているから。
「とりあえず、彼女にビデオメールを送ろうか。」
『は?』
予想外の発言にジェイルは戸惑う。
「内容は… そうだな、“簡単な事務でもいいから管理局の仕事を手伝ってやれ”でいいや。」
『???』
ユーノは持っていた紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げる。 そして、困惑するジェイルを無視して次の資料を手に取った。
「次は2番目のドゥーエさん。」
『なぁ、君は私に彼女たちを説得するように』
「この子にもビデオメールがいいかな。 内容は“カウンセリングを受けるように”で。」
それだけ言ってまた資料をくしゃくしゃに丸めるユーノ。 ジェイルを無視して話を進める気なのだ。
『いや、そんな投げやりなやり方でいいのか?』
ジェイルにとって自分を捕まえたユーノが管理局からどう思われても構わないのだが、ここまで適当に相手をされると何故か不安になってくる。
「いいんだよ。 こんな面倒な事はさっさと終わらせるに限る。
さっき言っただろう?
『パフォーマンスの意味合いが強いんだよ。』って。
それに… あなたを相手に真剣に話し合いをしても勘ぐる輩は出てくるしね。」
どっちにしても面倒ならさっさと終わらせたほうがいいとユーノは告げた。
『ぁあ… なるほど。』
ジェイルは今の発言も記録されるのだろうにそれを気にしないユーノの態度に少しだけ共感した。
「次は3番トーレ。 ある意味一番面倒くさい子だ。」
『うん?』
「“敗者には敗者の矜持がある”という理由で引き篭もっている。」
『引き篭もり…』
彼女が言いそうな事だが、それを“引き篭もり”と…
「この子にもビデオメールでいいや。 内容は“管理局のいいなりになる必要はないが、引き篭もってないで、せめて自分の食い扶持分くらいは働け”。」
『は… はは…。』
いいのか? 本当にそんな内容でいいのか?
「次は4番目のクアットロ。」
『もう何でも言ってくれ。』
ジェイルは考える事をやめた。
「この子も2番目と同じ対応でいいや。 どうせ何を言っても効かないだろうし。」
そーですね。
「次は7番目のセッテ。 この子には“一般教養を学べ”くらいでいいかな。」
『…次は?』
精神的に疲れたジェイルは、早くこの状況を終わらせたいという気持ちで一杯だ。
「君の娘さん達に関してはこれくらいかな。 後で追加のビデオメールを送るように頼むかもしれないけどね。」
『そうかい。』
これで話は終わりだとホッとしたジェイルの耳に、ユーノの声が届く。
「それじゃ、次は僕個人の知りたい事を聞かせてもらう。」
『そういえば、そんな事も言っていたね。』
面倒くさいなという態度を取ったジェイルだが、次の瞬間再びユーノへの興味で一杯になった。
「アルハザードについて聞きたい。」
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