第15話:ロリコンとバンパイア
Part.00:イントロダクション
今日は4月14日(月)。
ナギがのどかを『協力者』とした翌日にして、エヴァとの『交渉』を決行する予定日。
そう、予てからの計画通り、ナギはネギを引き連れてエヴァ宅へ交渉をしに訪れたのだった。
まぁ、相手が弱っていることが予想されるので、厳密には交渉とは言えないかも知れないが。
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Part.01:吸血幼女の住む家
「わぁっ!! ステキな家ですね~~!!」
麻帆良学園内にある閑静な森の中に悠然と佇むログハウス――つまり、エヴァ宅を見て、ネギが感嘆の声を上げる。
ちなみに、交渉の決行日を今日にしたのは、原作からの知識で今日のエヴァは体調が良くない可能性が高いからだ。
当然ながら、原作知識に依存しているだけではない。ネギの情報(エヴァンジェリンさんは今日お休みですよー)もある。
「エヴァンジェリンさんって真祖の吸血鬼だって聞いていたので、てっきり墓場とか廃教会とかに住んでるのかと思ってましたよー」
ネギは さも「意外です」と言わんばかりに、実に失礼なコメントを垂れ流す。
そこに見え隠れする悪意は気になるが、ナギもそう言ったイメージがない訳ではない。
某王立国教騎士団の吸血鬼様は棺の中に住んでいるのが いい例だろう(世界が違うが)。
「まぁ、確かに意外と言えば意外だが……仮にも女子中学生だからね。墓場や廃教会から通学してたら、いくら何でもシュール過ぎるでしょ?」
別に誰かに聞かれている訳でもないのだが、ナギは軽くフォローをする。フォローになっているか怪しいところはあるが。
と言うか、本当に『仮』である。肉体年齢的には10歳でしかないため、どう頑張ってもエヴァは小学生にしか見えないからだ。
まぁ、ネギも10歳なのに女子中学生をやっているので、見た目と立場はイコールではない と言う意味では似たようなものだが。
「……確かに、一応は中学生なんですよねぇ。本当は600歳を超えているクセに、図々しくも」
見た目は幼女、中身は600歳……そんなロリババアなエヴァだが、諸々の都合で中学生をやっているのである。
と言うか、その都合(某英雄様が呪いを掛けて封印した)のためにネギ及びナギは狙われた訳なのだが。
ちなみに、ネギの毒舌に関しては華麗にスルーすることをナギは決めたらしい。何故なら藪蛇になりそうだからだ。
「まぁ、それはともかくとして、とっとと用件を済ませちまおうぜ?」
ここで話し込んでいても何も始まらない。現在のナギには、行動するしか状況を好転させる方法がないからだ。
と言うか、このまま話しているとネギがエスカレートして暴走に至りそうなので早々に話を切り上げたいだけだが。
いくらナギが残念でも、ネギがエヴァを嫌っていることくらいは理解しているのだ。その理由は敢えて考えないが。
「それもそうですね。サッサと終わらせちゃいましょう」
ナギの本心を知らないネギはウンウンと頷いて納得した後、呼び鈴を「カロンコロンカラン♪」と軽快に鳴らして、
にこやかに「エヴァンジェリンさんのクラスメイトのネギですけどー、遊びに来ましたー」と真っ赤なウソを述べる。
目の前で行われた変わり身に、ナギが思わず「ネギ、恐ろしいコ……!!」と戦々恐々としたのは言うまでもないだろう。
「ん~~、返事がありませんねぇ……どなたかいらっしゃいませんかー?」
返事がないからと言って勝手に玄関を開くなよ、と思ったが、敢えて何も言わないナギ。
別にネギが怖くて注意できない とかヘタレた理由ではない(若干その気配はあるが)。
客観的に見ると不法侵入だが、大事の前の小事なので気にしないことにしたのである。
「へ~~、中は結構ファンシーですね~~。とても600年を生きた吸血鬼の部屋には見えませんねぇ」
勝手に入って置いて そのセリフは酷いが、それでもナギはツッコまない。
何故なら、ナギも同感だからだ。むしろ「年を考えろ」とツッコみたい所存だ。
それを耐えているだけ褒めるべきだろう。そう思って置くと皆が幸せになれる。
「――そこがマスターの可愛らしいところなのですよ。そうは思いませんか?」
そんな どうでもいいことを考えていたナギに、突然 声が掛けられる。
その声の主は考えるまでもない、この家の住人である茶々丸だ。
留守だと思っていたので突然の出現に少々驚かされたが想定の範囲内だ。
「まぁ、確かに可愛らしいですねー」
勝手に上り込んだことに罰の悪さを感じていたナギは どう反応すべきか僅かに悩んだ。
その苦悩を読み取ったのかは定かではないが、ナギが口を開く前にネギが簡単に同意を示す。
ちなみに、言うまでもないだろうが完全な社交辞令だ。ネギの本心は遥か彼方にある。
「……ところで、何か御用でしょうか?」
茶々丸はネギの同意に「わかればよろしいのです」と鷹揚に頷いた後、ふと思い出したように来訪の理由を訊ねる。
だが、どう考えても これが本題である。恐らく、エヴァの可愛さ云々は本題前のジャブだったのだろう。そうに違いない。
ちなみに、茶々丸は勝手に上り込んだことを言及していないが、それは言葉にしていないだけだ。裏では確り責めている。
つまり、先の言葉は「勝手に上り込んだのですから、何も用がない訳がありませんよね?」と言うのがメッセージなのである。
「実は、エヴァンジェリンさんにお話があって来たんですけど……お姿が見えないようですが、ご在宅でしょうか?」
ネギも茶々丸の言葉を正確に理解したのだろう、来訪理由をストレートに告げる。
ここで「お見舞いに来た」などと言う口実をデッチ上げないのは誠意を見せるためだろう。
嘘を吐いてバレたら、奇襲などを疑われて話し合いができなくなる可能性があるからだ。
「マスターは病に臥せっておられます……」
茶々丸は意味ありげに窓の方を見ながら答える。エヴァの症状が酷い と言う演出なのだろうか?
気になったナギがで茶々丸の視線を追ってみたところ……何と、猫が昼寝をしているだけだった。
ナギが「ああ、猫の昼寝姿って可愛いもんね」と生暖かい理解を示したのは言うまでもないだろう。
「へぇ、そうなんですか。真祖の吸血鬼のクセに病気なんて笑っちゃいますね?」
ネギは茶々丸の言葉をブラフだと思っているのだろう。実に辛辣な反応をする。
だが、恐らくは本当なので何気に酷い反応である。無知とは恐ろしいものだ。
まぁ、ネギの場合、本当だとわかったとしても似た反応をする可能性は否定できないが。
「――その通りだ。真祖の吸血鬼はウイルスになど負けん……!!」
しかし、ネギの言葉を挑発と受け取ったのか、ネグリジェ姿のエヴァが掠れた声を張り上げながら現れる。
その堂に入った態度は「私は元気だぞ!!」と無言で語っているが、どう見ても虚勢にしか見えない。
と言うか、あきらかに弱っているのが見て取れるので、ナギとしては「大人しく寝てろよ」と言いたい。
「マスター!! ベッドを出ては御身体に触――障ります!!」
エヴァの状態を熟知している茶々丸は慌てた様子でエヴァの身体を気遣う。
そう、茶々丸の口からセクハラ的発言が飛び出た気はするが、気のせいである。
身体に触るとか言い掛けた気がするが、あくまでも気遣っただけに違いない。
「ええい、止めるな茶々丸!! 私がやらねば誰がやる?!」
そのため、茶々丸が暴れるエヴァを羽交い絞めにしているのは、あくまでもエヴァを止めるためなのだ。
決して合法的にエヴァの身体にタッチすることが目的ではない。その筈だ。と言うか、そう信じている。
恍惚とした表情でエヴァを抱きしめているようにしか見えないのは、ナギの目が腐っているからに違いない。
どうでもいいが、エヴァのセリフでキャシャ○ンを思い出したナギは「実写版映画は忘れるべきだ」といろいろな意味で危険な感想を抱いたらしい。
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Part.02:策士、策に溺れない
「……それで、『お話』とは どのような内容なのでしょうか?」
ナギの向かいに座った茶々丸が「マスターの代わりに 聞かせていただきます」と前置きして訊ねて来る。
ニュアンスとしては「マスターの耳に入れるまでも無い話ならば、この場で処理します」と言うことだろう。
できればエヴァと直接 話したいが、それができない状態なので仕方がない。話を聞いてもらえるだけマシだ。
ところで、何故エヴァが直接 話せないのかと言うと……あの後、茶々丸を振り解くために暴れ回ったエヴァは力尽きたからだ。
いや、力尽きたと言っても、別に死んだ訳ではない。単に「ぽてっ」と言う可愛らしい擬音が似合う倒れ方で床に倒れ伏しただけだ。
ちなみに、そんなエヴァを見て茶々丸が「あぁ!! マスターが萌え目で気を失っていらっしゃる?!」とかハイテンションになり、
解放そっちのけでハァハァ息を荒らげながら録画に没頭していたが、精神衛生上のためにナギは忘れることにしたようだ。実に賢明である。
と言うか、録画に勤しむ茶々丸の代わりにエヴァを自室(2階)のベッドまで運んだうえ介抱までしあげたナギは賞賛されてもいい筈だ。
(だから、何でネギが不機嫌になっているのか、まったく以って意味がわからないなぁ。むしろ、わかりたくないのが本音だけど)
ナギは あくまでも善意から行動したに過ぎない。変態紳士としてだけではなく、普通の紳士としても、倒れた幼女を放って置けなかったのだ。
決して、介抱と言う名目で(意識が朦朧としているのをいいことに)幼女に『イタズラ』をしようとした訳ではない。今回ばかりは本当である。
まぁ、エヴァを運ぶ際に その身体の柔らかさをキッチリ堪能していたので少しは役得を味わってはいたが、それでも動機そのものは純粋だった。
(って言うか、不純な動機で行動してたら、ネギと茶々丸に感付かれてフルボッコにされているだろうね)
しかし、それでもネギは納得できないものが残るのだろう。有体に言えば嫉妬や独占欲で、頭ではわかっていても気持ちで納得できないのだろう。
その証拠に、ネギは「ボクより先に お姫様抱っこするなんてズルい」とか「ボクも倒れれば介抱してもらえるかなぁ」とかブツブツ言っている。
それらが聞こえているしネギの気持ちも それなりに理解しているナギだが、脇道に逸れている暇はないので敢えて気付かない振りをして話を進める。
「……まぁ、簡単に言うと、エヴァンジェリンさんと『取引』をしに来たんだよ」
今までの経緯を思い出しているうちに軽く欝になってしまったナギは、
気持ちを切り替えるために茶々丸が淹れてくれた紅茶を啜った後、
意味ありげに間を取り、小悪党のように口を軽く歪ませて来訪目的を告げた。
「『取引』、ですか。それで、それは どのような『取引』なのでしょうか?」
おおよそのことは察しが付いているのだろうが、茶々丸はナギに説明させたいのだろう。
態とらしく「皆目見当が付きませんねぇ」と言わんばかりの態度で惚けてみせる。
しかし、ナギは苛立つことなく、むしろ「腹の探り合いは嫌いじゃない」と話に集中し出す。
「わかっているんだろう? 『ネギの血を渡す』から『オレ達の安全を確保して欲しい』って言う『取引』さ」
別に回りくどく匂わせる程度にとどめててもよかったのだが、ナギは敢えてストレートに表現した。何故なら、茶々丸が相手だからだ。
茶々丸は伝言をするだけ――つまり、決定権を持たない相手、ではない。冒頭でも触れたように、最初の審査をする立場にある。
そのため、茶々丸の審査を突破して最終的な判断を下すエヴァに繋いでもらうために、誤解されないようにストレートに伝えたのである。
「なるほど。それは双方にとって益のある提案ですね」
エヴァは解呪ができて、ナギ達は安全を得られる。
だから、どっちにとってもプラスとなる提案に『見える』。
そう、あくまでも『見える』だけで、そうではない。
「――ですが、問題がありませんか?」
身も蓋もなく明かすと、ナギ達は「ネギが血を提供する」と言うマイナスを含んでいるのに、エヴァ達は「ただで血を提供される」ことになるのだ。
まぁ、ナギ達を襲わない と言う『見返り』があると言えばあるのだが、血が得られれば襲う意味がなくなるので『見返り』とは言えないだろう。
つまり、一方的に施されるような――エヴァに益が偏ってしまうような提案をプライドが高いエヴァが受け入れる訳がない、と言う点で問題があるのだ。
だがしかし、問題があることを想定していながらナギが何の対策も練っていない、などと言う事態があるだろうか? 言うまでもなく、そんな訳がない。
「だから言っただろう? 『オレ達の安全を確保して欲しい』って」
つまり、ナギは「ナギ達を襲わないで欲しい」と言う意味だけではなく「ナギ達に危険が迫った場合は守って欲しい」とも言っているのだ。
既にネギと言うボディーガードがいるナギだが、ネギにはいろいろと不安な部分があるので『ネギ共々』守ってくれる防衛手段が欲しいのである。
まぁ、こんなんで対策と言えるかどうかは微妙なところだが、少なくとも一方的な施しではないので最低限度はクリアーしていると言えるだろう。
「……なるほど。それでしたら、単に施されるだけではありませんね」
茶々丸はナギの言わんとしたことを察したのだろう。しばらく思い悩んだ後、頷きながら賛同の意を示してくれた。
将を射んと欲すれば まず馬を射よ、と言う訳ではないが、茶々丸を突破しないことにはエヴァへ進めないのは確かだ。
まぁ、エヴァに進めてもエヴァから賛同を得られなければ意味がないのだが、それでも一歩前進できたことは大きい。
「それじゃあ、後は本人と直接『取引』したいんで、エヴァンジェリンさんに取り次いでもらえないかな?」
「ええ、かしこまりました。ご存知の通り今日のマスターは体調が優れませんので、少々お待ちくださいませ」
茶々丸は了承の意を示すと席を立ち、優雅に一礼をした後に二階へと消えて行った。
その後姿を見届けたナギは、冷め切ってしまった(が、まだまだ美味しい)紅茶を啜る。
そして、ナギの隣で空気となっていたネギと「とりあえずの成功」を喜び合ったのだった。
……ここで「訪問直後は口を開いていたのに、何故に今のネギは黙っているのだろう?」と疑問に思うかも知れない。
まぁ、簡潔に理由を述べると……茶々丸が お茶を準備してくれている間に「余計なこと言うな」とナギが釘を刺して置いたのである。
と言うのも、今日は喧嘩を売りに来たのではなく話し合いに来たので、最初の様に喧嘩腰で対応されると話が拗れる可能性があったからだ。
それに、戦闘や魔法では役に立てないのだから交渉くらいでは役に立たないとパートナーとしての面目が立たない、と言うナギの意地もある。
(って、あれ? オレ、何でパートナーとしてのメンツなんて気にしてるんだろ?)
ナギは自分から首を突っ込んだのではなく無理矢理 巻き込まれただけなので、パートナーの自覚などまったくない。
それなのに、何故パートナーとして役に立とうとしているのだろうか? ……非常に意味不明な思考である。
幼女に任せて男が何もしない と言う図式もおかしいが、だからと言って積極的に活躍するのはナギのキャラではない。
ナギは『自身のキャラではない考え方』をしていた自分に愕然としたのだが、状況が状況なので棚上げして置くことにしたのだった。
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Part.03:待て、これは巧妙な罠だ
そんな訳で茶々丸に取り次いでもらうことに成功したナギだが……何故か今はエヴァの看病をしていた。いや、何故か こうなってしまったのだ。
そもそも、取り次ぎに行った茶々丸が浮かない顔をして戻って来たため、ナギは「芳しくない返事だったのだろう」と踏んだのだが、それは早計だった。
どうやらエヴァの体調が思わしくないようで、それで茶々丸は浮かない顔をしていた らしい。もちろん、そんなエヴァを放置する茶々丸ではない。
茶々丸は一刻でも早くエヴァに良くなってもらうことを至上命題とし、ナギにエヴァを託して自分は伝手のある病院に薬をもらいに行くことにしたのだ。
当然ながら(ナギに敵対する意思はないとは言え)現在の両者の関係は良好なものではないため、ナギも「オレに任せていいのか?」と確かめた。
確かめたのだが……茶々丸は「ネコちゃんにエサをあげ――いえ、神蔵堂さんにならお任せできると判断します」とか言って出て行ってしまった。
恐らく、薬をもらいに行くついでにネコに餌を遣りに行きたかったのだろう(さすがに逆ではない筈だ)。そう判断したナギは黙って了承した。
ちなみに、ネギは茶々丸に「申し訳ありませんが、ネギさんもお付き合いくださいませんか?」と連れて行かれたので、残されたのはナギだけである。
(まぁ、仮にオレがエヴァの寝首を掻こうとしても、力量差的に考えてオレでは相手にならないからね、妥当な人選だろう)
言い換えると、ネギを連れて行ったのはネギだとエヴァを打倒し得る可能性があったからだろう。
ところで、実力的には『ここのネギ』と大差ないのに『原作のネギ』がエヴァを任されたのは、
恐らく茶々丸から それなりの信頼を得ていたからだろう(『ここのネギ』とは比べてはいけない)。
(って、あれ? 自分で言ってて情けなくなるけど「最弱状態のエヴァ >>> 越えられない壁 >>> オレ」って図式だよね?)
そんな力関係の二人が「人里離れたログハウス(やや誇張表現)」に二人きりになっているのが現状だ。何故か死亡フラグが立った気がしてならない。
ナギの脳裏に「13日」とか「金曜日」とか「チェーンソー」とか「J-SON」とか言う死亡フラグを連想させるようなキーワードが思い浮かんで来る。
このまま死亡フラグが折れなければ「ネギと茶々丸が帰って来たらログハウスには誰もいなくなっていた」と言う結末になるのではないだろうか?
ちなみに、通常なら男であるナギが幼女であるエヴァを『どうにか』した と言うピンクな予測が立つのだろうが、どう考えても被害者はナギである。
(あっれ~~? これって何気にピンチじゃない?)
まだ『取引』は終わっていない(どころか始まってもいない)ので、エヴァはまだ協力関係にはない。
言い換えれば、ネギと言うボディガードがいない状態で、哀れな子羊が猛獣の檻の中にいるのと同義だ。
今まではネギがいたからこそ手を出されない状態だったに過ぎない。つまり、実は現状は危険だったのだ。
(……まぁ、あくまでも『その可能性がある』ってだけの話なんだけどね)
目の前で苦しむエヴァを見る限り、本当に信頼されて看病を頼まれたことは明白だ。
だが、看病の依頼がブラフで罠に嵌められていた可能性もあった(今回は偶々違っただけだ)。
安全だろう と高を括って安請け合いをしてしまったが、今後は もう少し気を付けるべきだ。
(もう少し相手の立場になって物事を考えるべきだね、もちろん道徳的な意味じゃなく、思惑的な意味で)
ナギにとってはエヴァと二人きりになることに大した意味はない。せいぜい邪魔をされない環境で話し合える程度だ。
だが、エヴァ側は違う。エヴァ側にとっては、ネギと言う邪魔者がいなければ、ナギを『どうにか』できてしまうのだ。
もしかしたら、茶々丸が取り次ぎに行った際「小娘を遠ざけろ。その間に小僧をどうにかする」とか言う遣り取りがあり、
茶々丸は それを実行するためにネギを伴って外出し、その隙にエヴァがナギに『対処』する と言うことも有り得たのだ。
(言うまでもなく、一般人であるオレには手を出さない筈だから大丈夫だ と言うのは甘い見通しだね)
そもそも、その情報のソースは原作であるため、そこまでの信憑性を求めてはいけない。
それに、手を出さないと一口に言っても、それは『殺さない』と言うだけかも知れない。
命を取らないまでも「意思を奪って従わせる」くらいは遣って来る可能性もあったのだ。
何故なら、ナギを操ることはネギを操ることに等しく、そうすれば労せず目的が達成できるからだ。
そう、施されるのはプライドが許さなくても奪うのならばプライドが許す と言う屁理屈だ。
(幸い、今回は可能性で終わってくれたけど、今後は可能性が可能性で終わらないかも知れないから注意は必要だね)
今になってみれば、ナギとネギで薬を取りに行くべきだった。そうすれば、ネギから離れなくて済んだうえ薬に細工することもできたからだ。
それなのに……相手から敵意を感じなかったとは言え、ナギは間抜けにも心構えすらせずにエヴァと二人きりになってしまった。無防備にも程がある。
今回は幸運にも無事だったが、この幸運がいつまでも続くとは限らない。気を引き締めねば、いつか『つまらないこと』が原因で『終わり』そうだ。
それ故に、ナギは今回の失敗を教訓として気を引き締め直し、とりあえずは現状を打破しよう と看病に勤しむのだった。
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そんな感じで終わって置くと綺麗に纏まるのだが、残念ながら そううまくはいかない。それがナギのクオリティだ。
と言う訳で時間軸は今に戻る。つまりは、ナギはエヴァの看病をしながら今までの経緯を思い出していた訳だ。
そして、一頻り思い出して気が済んだのか、ナギは今まで敢えてスルーして来た問題に意識を切り替える。
その問題とは「この現状を どうすべきか?」と言う、一見シリアスなことだが実は全然シリアスではないことだった。
まぁ、この説明だけでは意味がわからないだろう。なので、具体的に説明しよう。
実はと言うと、熱で朦朧としているのか、エヴァはナギを「抱き枕代わり」にしているのである。
しかも(恐らくは英雄様を指しているのだろうが)「ナギ……」と言う寝言まで添えて、だ。
言うまでもなく、その破壊力は凄まじい。具体的には、ナギの理性が崩壊しそうなレベルだ。
(こ、これはヤバい!! オレの心の中の守護霊様と書いてスタンドと読む御方も「最高に『High』ってヤツだァァアアア!!」と仰っているし!!)
最早 意味不明だが、それだけ いっぱいいっぱいなのである。いつ決壊してもおかしくない状況だ。
XXX版ではないので『そんな展開』にはならない と思われるかも知れないが、それは甘い としか言えない。
謎の空白時間が挿入されて「昨夜はお楽しみでしたね」と言われるような『間接的な表現』は可能だからだ。
(い、いや、待て。って言うか、落ち着け。ヤバい状況だからこそ冷静になって対処すべきだ)
エヴァは外見こそ至高のロリとも言える金髪幼女だが、その中身は600歳のババアである。
しかも、最弱状態な筈なのに下手な猛獣よりも危険な存在だ。強者と言うか最早 化物だ。
そんな存在に手を出したら、外見による背徳的な問題よりも普通に生命的な問題が起きるだろう。
(いやぁ、寸前で気付けてよかった。このロリババアが危険の塊だってことをウッカリ忘れてたぜ)
エヴァは現実には存在しないと言ってもいい『合法ロリと言う名の希少種』だが、見た目に騙されてはいけない。
下手に手を出したら火傷では済まない。むしろ、劫火で焼かれ兼ねない。手を出すのは悪手もいいところだ。
いくらナギが変態紳士であっても、命と天秤に掛けてまで性的衝動を満足させる訳がない。そこまで人間をやめていない。
(だけど、ちょっとぐらいならいいんじゃないかなって言う想いも無きにしも非ず、なんだよねぇ)
そこまで人間をやめていないのだが、かなりの割合で常識を逸脱しているため甘い囁きに身を任せそうなのである。
茶々丸の仕掛けた罠(サブリミナル効果)は超に潰された形になったが、普通の嗜好品としての効果はナギに作用したようだ。
すなわち、現在のナギの脳裏には『エヴァのアレな映像』が勝手にリフレインされており、かなりピンクな状態なのだ。
(あっ!! お宝映像で思い出した!! 茶々丸ってエヴァの部屋にカメラ設置してるんだった!!)
例の映像は、基本的には茶々丸の視線(恐らく内臓のカメラ)で録られていたのだが、
あきらかに茶々丸の視線以外で録られたのもあったため、隠しカメラがあるのだろう。
特にエヴァがマスター的な行為をしている時の映像は茶々丸が録画したとは思いたくない。
(もし、茶々丸が録っていたのだとしたら……これはヒドいってレベルじゃないよねぇ)
アレなシーンをコッソリ覗いていたことになるので、そちらの方が隠しカメラより酷いだろう。
いや、隠しカメラも充分に酷いのだが、それでも覗きよりは隠しカメラの方がマシな場面だ。
と言うか、実際には覗いていたとしても いろいろな意味で隠しカメラがあることにして置くべきだろう。
(と、とりあえず、話を戻そう)
もしかしたら隠しカメラは設置されていない可能性もあるが、ここは敢えて隠しカメラが設置されていると仮定しよう。
隠しカメラが設置されているのだから、ナギがエヴァに手を出したら間違いなく録画されることだろう。
録られること自体は大した問題ではないが、録られる内容は問題だ。合法とは言えロリとXXXなことした映像が残るのは不味い。
今更と言えば今更だけど、ナギにも まだ守りたい『何か』があるので、そんな恥ずかしい映像は残したくないのだ。
(まぁ、この段階でも録られているんだろうけど……今ならまだ『看病』の範疇だよね?)
ちょっと無理がある気はするが、幼女が寂しくないように『添い寝』しているだけに見えなくもない。
時と場合を間違えると犯罪でしかないけど、今回はセーフな部類に入る筈だ。そう信じて置こう。
何故なら、今回はエヴァから抱きついて来たからだ。ナギからは何もしてないからセーフに違いない。
(そりゃ ちょっとは「凹凸がないイメージだったけど、意外と胸あるじゃん♪」とか思ったけどさ)
それでも、それはあくまでもエヴァから抱きついて来た結果としての感想な訳だから、ナギは悪くない。
セリフだけを聞いたら どう考えても有罪でしかないが、状況を踏まえるとギリギリセーフな気がする。
最低なのは否定できないが、そう言った『役得』があっても許されるくらいにはナギも苦労しているからだ。
(それに、ネグリジェを引ん剥いて身体を拭いたのも、あくまでも看病のためだし)
ちょっと――いや、かなり表現は悪いが、汗で濡れた衣類を着せたままなのは風邪を悪化させるので不可抗力だ。
まぁ、その際に「ぬぉう!! 何て触り心地のいい肌なんだ!! これこそ まさに絹の如しだ!!」とか内心で叫んでたが。
それでも、それはあくまでも汗を拭くためであって疚しい気持ちがあった訳ではないので、ナギは悪くないだろう。
(ついでに、指から血を与えたのも、喉が乾いてツラそうだったからだし)
いや、ナギも最初は水を飲ませようとしたのだが、水差しで飲ませようとしても飲んでくれなかったので仕方がなかったのだ。
まぁ、ナギの指を美味しそうに しゃぶる姿を見て「ヒャッハー!! おっきしちゃったお!!」とか危険なことを口走っていたが、
それでも、それはあくまでも看病のためであって動機は不純ではなかったので、ナギは悪くない気がしないでもない と思う。
(出るとこ出たら有罪判定される気はするけど……それでも悪くないことにして置こうと思う)
と言うか、そう言うことにして置かないと「既に悪いなら、最後まで行っても変わらないんじゃないかな?」とか開き直りそうなのだ。
冷静な部分では、そんなことしたら色々な意味で終わることはわかっているのだが……それでも、若い欲望とはとどまることを知らないのだ。
だからこそ、人は若さ故の過ちを犯し、黒歴史を作るのだ。後になって死にたくなるのがわかっていても、若さは止まってくれないのである。
もちろん、だからと言って免罪符にはならないので、最悪の事態(若さによる暴走)にならないようにナギは平常心を保つ努力を怠らないのだが。
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Part.04:美幼女と野獣
「で? 貴様はどうして私のベッドで寝ていたのだ?」
まぁ、このセリフだけで状況はおわかりだとは思うが、敢えて説明しよう。と言うか、ナギの弁明をさせて欲しい。
若さが暴走しないようにするため――漲る性欲を抑えて平常心を保つため、ナギは一種の解脱状態に自分を追い込んだ。
そして、その結果、心身ともに落ち着いたナギは眠りに落ちた と言うことである(ベッドでリラックスすれば当然だ)。
だがしかし、そんなナギの努力を知らないエヴァにとっては「目覚めたら男と同衾していた」状態だったため烈火の如く激怒した。
(ったく、自分がベッドに引き込んだクセに……そんなにオレがベッドで寝ていたことが不愉快なのかね?
もしくは、無意識に引き込んだから「オレが自らベッドに浸入した」とか勘違いしていたりするのかね?
だとしたら、オレの努力が報われないにも程があるんだけど? 看病した報酬が濡れ衣とか、ヒドくない?)
ナギが変態であることは不動の事実だが、いくらナギが変態でも弱っている幼女のベッドに自ら潜り込む程には堕ちていない。
まぁ、多少の打算(恩を売って交渉を円滑に進めたい)や ちょっとした下心(合法的にロリっ娘に触れる)などがあったことは認めるが、
それでもナギが誠心誠意(と言うのも語弊はあるが、一生懸命だったことだけは胸を張って言える)エヴァを看病したことは変わらない。
そのため、今回は誤解され慣れているナギと言えども許容できない。いつもなら弁解が面倒なので放置するが、今回は看過できないのだ。
「いや、お前が何を どう勘違いしているかは知らんが、お前がオレをベッドに引っ張り込んだんだからな? しかも『ナギ……』とか言って」
だからこそ、ナギは容赦なく反論する。本来なら言わなくてもいいナギ云々を口にするくらいに容赦がない。
ちなみに、捏造ではなく事実であり、ナギは「十中八九、英雄様を指していたんだろう」とはわかっている。
わかってはいるが、今のナギは軽く怒っているので、敢えて勘違いをして口撃したのである。実にえげつない。
「なっ!? なななな何を言っている?!」
エヴァは そこはかとなく自覚があったのか、ナギの言を否定することなく顔を真っ赤にして慌てる。
つまり、熱に浮かされて惚れた男(サウザンド・マスター)を夢見た と言うことだ。実に微笑ましい。
だが、今のナギには容赦がない。そんな優しい感想は抱かない。むしろ、嗜虐心が刺激された気さえする。
ナギは「そんなウブな反応されると いぢめたくなるじゃないか?」と、チクチク口撃することを内心で宣言する。
「いいや、事実だ。ぶっちゃけ、妙に艶っぽかったぞ?」
「う、うううるさい!! つつつ艶っぽいとか言うな!!」
「もしかして、夢で見るくらいオレに惚れたってことか?」
「ち、ちちち違うわ!! だ、誰が貴様などに惚れるかっ?!」
もちろん、そんな訳がないことはナギも重々 承知している。敢えて勘違いしただけに過ぎない。
どうでもいいが、エヴァはちょっと慌て過ぎではないだろうか? いくら何でも噛み過ぎだ。
と言うか、そんなに焦って否定されると、ツンデレ(逆に肯定されているよう)にしか見えない。
ナギが事情(と言う名の原作)を知らなければ、本気で惚れていると勘違いしているところだ。
「じゃあ、何でオレの名前を呼んでオレをベッドに引っ張り込んだうえオレに抱き付いて来たんだよ?」
普通に考えたら、惚れてもいない男にするような言動ではない(色仕掛けをするのならわからないでもないが)、ナギの疑問は尤もだろう。
まぁ、事情を知っているクセに訊ねるのは底意地が悪いとしか言えないが、ナギは事情を知らないことになっているので致し方がない。
「うっ。そ、それはだな……」
「それは? それは何なのかな?」
「そ、それは……え~~と……」
「………………(じ~~)」
「………………(アセアセ)」
「………………(じろ~~)」
「………………(オロオロ)」
「………………(じと~~)」
「………………(キョドキョド)」
ここで「人違いだった」と答えても「じゃあ、誰と間違えたんだ?」とツッコまれるのが目に見えているため、エヴァは何も答えられない。
そのため、如何に切り抜けるか必死にエヴァは思案している訳だが……今回は相手が悪かった。今のナギは容赦がない。
ナギはそれらの事情をすべて理解しているにもかかわらず、思いっ切り疑った目でエヴァを見遣って その精神をガリガリ削る。
どう見ても幼女をイジメている変態にしか見えないが、それは気のせいに違いない。と言うか、ナギは そんなの気にしてない。
「……まぁ、追求はここまでにして置いてやろう。引っ張り込まれたのに浸入したとか不名誉な勘違いをされたけど、それも許してやろう」
あきらかに許してないが それでは話が進まないので、敢えて許したことにしてナギは追求を打ち切る。
もちろん、これ以上やっても黙秘を続けられるだけだろうから時間の無駄だな と言う判断もあるが。
それに、無言の圧力によって「これ、貸しにして置くから」と言うメッセージも伝わっただろうこともある。
「ってことで、話を元に戻そう。絡繰さんからオレ達の来訪理由を訊いているでしょ?」
かなり話を戻した気はするが、そもそもナギはエヴァと取引をするために来訪したので間違ってはいない。
どう頑張っても「キャッキャウフフだけど、死亡フラグと紙一重な展開」を繰り広げに来た訳ではない。
もちろん、勘違いされて糾弾されたり それを責めたりしに来た訳でもない。あくまでもメインは取引だ。
「……ああ。取引をしたい、と言うことだったな」
「その通り。だから、答えを教えてくれないかな?」
話題を転換すると同時にナギが真剣に空気を纏ったのを感じ取ったエヴァも真剣な面持ちで応答する。
それに対し、ナギは「駆け引きなど不要だ!!」と言わんばかりに前置きを一切せずに答えを要求する。
まぁ、相手に考える間を与えない と言う意味では、これも一種の駆け引きだが(ナギの常套手段だ)。
「いや、その前に一つだけ訊かせろ」
しかし、エヴァは冷静だった。流されずに――早急に答えを出さずに、己のペースを維持していた。
まぁ、当然と言えば当然の反応なのだが、ナギはエヴァを「精神的には子供同然」と見なしていたため、
この反応に「体調が悪いうえに寝起きなのに流されないか、ちょっと舐めてたよ」と評価を上方修正する。
「ん? 好みのタイプか? オレに迷惑を掛けないコで見た目が良ければOKだよ?」
言うまでもないだろうが、ナギはわかっていて――最低なこと言っていることもエヴァの問いたい内容も理解したうえで、敢えて軽口を叩いている。
それは、質問を誤魔化すためではない。いや、正確には、それもあるがそれだけではない。エヴァから冷静さを奪うことも目的としているのである。
先程の冷静さから効果は期待できないと思われるかも知れないが、ナギは「だが、恋愛事には弱そうだ」と判断したため それなりに期待できるのだ。
「違う!! 私を解呪したら不味いのではないのか、と訊きたいのだ!!」
そして、エヴァはナギの期待通りに熱くなった。いや、正確には「ナギの期待以上に」だ。
言うまでもなく、ナギは交渉を有利に進めるためにやったので、これ以上は自重すべきだ。
と言うか、余りに熱くさせ過ぎると「カッとなって殺った」とか言う事態になり兼ねない。
「ああ、その件か。その件だったら特に問題ないから安心してくれ」
前にも触れたが、近右衛門からは「解呪するな」とは言われていないので、解呪しても問題にならない。
それに、たとえ問題になったとしても禁止しなかった近右衛門が責任を取ることになるので問題ないのだ。
まぁ、近右衛門ならば『問題になる前』に対処するだろうから、そもそも問題になること自体ないのだが。
「むぅ、そう言うことなら何も問題はないな。い、いや、別に問題があっても、私が気にするところではないのだがな!!」
問題ないと言われただけでは納得していなかったエヴァだったが、ナギが責任云々の事情を説明したところ、どうにか納得を示した。
と言うか、実に見事なツンデレを披露してくれた。さすがは600歳、と言ったところだろう。そこら辺の俄かツンデレとは年季が違う。
明らかに気にしているのに慌てながら「気にしていない」と言い張る辺りが実に素晴らしい。相手がナギでなければ勘違いしただろう。
「じゃあ、返事をくれないかな? オレの案に賛成してくれる? それとも、賛成してくれない?」
ナギが「賛成? それとも、反対?」とか訊かなかったのは、ちょっとした言葉のトリックだ。
人間の心理的に「~~しない」と言うのは少し言い辛い傾向があるため、それを利用したのである。
まぁ、気休め程度でしかないのだが、それでも やらないよりはマシだ。ナギはそう考えたのだ。
「……待て。それだと、肝心の『契約の内容』が抜けているぞ?」
しかし、ナギの思惑とは裏腹にエヴァは答えを出さなかった。正確には、答えを出す前の段階でとどまっていた。
この齟齬は双方の立場の違い(早く話を纏めたいか、話を吟味したいか)もあるが、考え方の違いが最も大きいだろう。
ナギにとって契約は「破られたら困るもの」であるのに対し、エヴァにとっては「基本的に敗れないもの」だからだ。
「貴様の話だと『小娘の血を提供する代わりに、私に貴様等の安全を保障しろ』と言うだけだっただろう?」
ナギの無言を「話の続きを促している」と受け取ったエヴァは、話――契約内容の吟味を進める。
言うまでもないだろうが、ナギは話を促すために黙っていたのではない。単純に口を挟めなかっただけだ。
ナギは己が不利であることを理解しているため、話が思い通りに進まない現状に不安を感じているのだ。
当然ながら、そんな弱気は決して表には出さないが。むしろ、ふてぶてしく「それがどうした?」と言わんばかりの態度だ。
(まぁ、確かに、解呪を確約した訳ではないから、こちらにの都合がいい内容にはなっているとは思うけど……
でも、向こうとしては解呪が成功するまでネギの血を提供させればいい訳だから、問題ないんじゃないかな?
それに、オレ達を守ることなんて大した労力じゃないよね? まぁ、保障の範囲を決めてないのがネックだけど)
「では、私は『いつから』『いつまで』貴様等の安全を保障せねばならんのだ? まさか一生とは言わんよな?」
エヴァの問い詰めるような言葉を聞いてナギが感じたことは「ああ、やっぱり保障の範囲についてだったか」だった。
ちなみに、心当たりがありながら言及していなかったのは、相手が気付かなければ そのままのつもりだったからだ。
汚いと言えば汚いが、バカ正直に信頼し合うだけが契約ではない。正しいとは言えないが、間違っている訳でもない。
「もちろん、一生なんて言わないさ。そんなこと言ったら、今度はオレ達の人生で縛ることになるからね」
麻帆良からは解放されたけど、その代わりにナギ達に束縛されました……と言う結末では、解呪の意味がなくなってしまう。
エヴァが指摘していなければ期間は定められていなかったが、さすがのナギでも そんな無茶なことをする気などなかった。
せいぜい「魔法と縁が切れて安全だと判断できるくらいまで守ってもらう予定だった」くらいだ(それはそれで適当過ぎるが)。
「……では、どのような期間を予定しているのだ?」
エヴァは「それがわかっているなら、最初から期間を指定して置かんか」と言わんばかりに追求する。
まぁ、その気持ちは当然だろう。明確にすべき契約内容を曖昧に提示されたのだから、むしろ必然だ。
ここはナギを相手にしてしまった不運を嘆き、その苛立ちは近右衛門などの第三者に向けるべきだろう。
「今のところは『オレ達が麻帆良にいる間だけ』のつもりだよ」
もちろん『今のところは』と態々 前置きしているのは、今後予定が変わる可能性があるからだ。
そもそもナギがエヴァと こんな取引をしているのは、想定外にも魔法に巻き込まれたことが原因だ。
つまり、想定外な危険は今後も起こり得る と言うことであり、そのための予防線のようなものだ。
エヴァもそれがわかっているのだろう、前半は流して「麻帆良にいる間だけ、とは?」と後半の説明を求めた。
「オレが危険になる――つまり、魔法と関わるのは、ネギの修行期間だけだ。つまり、後1年くらいだね。
言い換えると、ネギの修行が終わってネギがウェールズに帰った段階で、オレの危険は激減するだろう。
だけど、麻帆良が『魔法使いの街』であることを考えると、麻帆良にいる限り危険は残ることも予測できる。
だからこそ、ネギとオレが麻帆良に住んでいる間だけ守ってもらいたいんだよ。特にオレって無力だし」
「…………貴様、中学を卒業したら麻帆良から出ろ」
何気に酷い言葉だが、エヴァの立場としては尤もな意見だろう。と言うか、ナギも できるならそうしたい。
危険であることがわかっているのだから遠ざかればいいのだが……今の段階で麻帆良を出る訳にはいかないのだ。
何故なら、麻帆良を出ると特待生としての立場(勉強しているだけで生活に困らない立場)がなくなるからだ。
「そうしたいのは山々なんだけど……先立つものが無くてね、麻帆良で特待生やっているのが一番なんだよねぇ」
思わず「働けばいいじゃん!!」と言いたくなるナギの考え方だが、人間とは怠惰な生き物なので仕方がない。
楽が出来るなら楽をする――と言うか、働かなくて済むなら働かないのが人間だ。特にナギみたいなタイプは。
だから、危険を予測していても「きっと大丈夫だろう」とか甘く考えた挙句、実際にヤバくなってテンパるのだ。
「チッ、ならば私が金を工面してやる。だからサッサと出て行け」
これはナギの弁護になるが、一応は麻帆良を出る準備くらいはナギもしている。
たとえば、学年末試験のトトカルチョで得た資金もシッカリと貯蓄しているなどだ。
だが、それでも資金はあって困るものではない。つまり、ナギに断る理由はない。
「……その言葉、信じよう。ネギの修行が終わると同時にオレも麻帆良を出るから、ちゃんと工面してね?」
さて、どうでもいいが、高校と大学の学費 及び その間の生活費は どの程度の額になるのだろうか?
公立と私立で違うし、地域による生活費の差も考慮すると一概には言えないが、ナギは2000万を想定した。
多少(と言うか大分)高めな見積もりだが、ここから値切られることを考えると高めでも問題ないだろう。
仮に値切られなかったとしても、多くもらえる分には何も問題はない。と言うか、値切られないように誘導するのがナギだ。
「ところで、これは金額の問題とはまったく関係ないんだけど……実はオレって最近までは ただの一般人だったのに、
つい最近『誰かさん』が魔法に巻き込んでくれた御蔭で魔法と関わざるを得ない状況に追い込まれてしまったんだ。
しかも、その時にネギを全裸に剥いてくれた御蔭で、ネギとパートナー関係を結ばざるを得なくなっちゃったんだよねぇ。
まぁ、パートナー契約は『ネギが麻帆良にいる間だけ』と言う条件にしたから、一生って訳じゃないのが救いだけど。
それでも、ネギが麻帆良で修行している間はオレも麻帆良を離れられない――魔法に関わるしかないんだけどねぇ?」
「そ、それはジジイの罠だったんだ!! 責任者は責任を取るためにいるのだから、文句はジジイに言え!!」
言うまでもなく、あきらかな責任逃れだ。責任の多くが自身にあるとわかったうえで責任転嫁をしようとしているのだ。
いつもならば「まぁ、オレもよく責任転嫁するからなぁ」と矛を収めていた可能性もあるが、生憎と今は事情が違う。
それ故に、ナギは鷹揚に頷いた後「じゃあ、諸々を含めて2000千万でいいや」と爽やかな笑顔で容赦なく要求を伝える。
もちろん、ボソッと「さっきの勘違いを流した件についても考慮してくれると嬉しいな」と付け加えて置くのも忘れない。
ところで、何故こんなにナギが強気に責めているのかと言うと「いざとなったらネギを『召喚』できるから」である。
先程はナギも失念していたが、よく考えてみるとパクティオーカードを使えばナギはネギを『召喚』できるのである。
まぁ、両者が離れ過ぎたり、転移魔法を妨害する魔法(『転移妨害』)が施されていなければ、と言う条件はあるが。
ちなみに、距離は問題なかったが『転移妨害』はされていたので実は『召喚』できなかったのだが……知らぬが仏である。
「チッ、ジジイに乗せられた私のミスだからな。多少 色を付けてやるから、それでチャラにしろ」
責任転嫁をあきらめたのか、それとも これ以上の追求を躱わしたかったのか、エヴァは素直にナギの要求を受け入れる。
ナギとしては こう言った展開を望んで文句を言ったので、その意味では「計 画 通 り!!」と言うべきところなのだが……
実際に(罰が悪そうに)了承されてみると ちょっと責め過ぎたような気がして、妙な罪悪感を覚えてしまったようだ。
「……ありがとう。でも、2000万あれば充分だから、別に色は付けなくていいよ。気持ちだけ受け取って置く」
そのため、ナギはエヴァの有り難い申し出を残念そうに断り、「これでチャラにしよう」と言わんばかりに薄く微笑む。
ナギの意図を察したのか、それとも早く話題を終えたかったのか、エヴァは食い下がることなく「そうか」と頷く。
エヴァの資産は潤沢にあるし、黙っていても茶々丸が稼いでくれるが、だからと言って無限にある訳ではない と言うことだろう。
「それじゃあ、そろそろ話を纏めようか?」
軽く頭を振って気持ちを切り替えたナギは、話題を元に――契約の締結に戻す。
まぁ、当然ながらエヴァは直ぐに答えを出さず、それからも詳細の確認はあったが。
そんなこんなで、話し合いの末に締結された契約内容は以下のようになった。
① ナギ達は、エヴァの解呪のためにネギに危険がない範囲でネギの血液を提供する。
② エヴァは、ナギ達が麻帆良に居住している期間だけナギ達の身の安全を保障する。
③ ネギの修行が終わりネギが麻帆良を離れたら、可及的速やかにナギも麻帆良を離れる。
④ ナギが麻帆良を離れる際、エヴァはナギに日本円にして2000万円の資金を提供する。
「……うむ、よかろう。その程度で解呪ができたうえに貴様への罪滅ぼしになるのだから何も問題ないさ」
話し合いに大分 気力・体力ともに消費したのだろう。無事に契約を締結し終えた時、エヴァがついつい本音を漏らしてしまう。
そして、それを聞いたナギは「思わずホロッと来た」とか「罪滅ぼしなんて殊勝な精神、久しく縁がなかったぜ」とか思ったらしい。
特に誰とは言わないが、現状を作り出したエヴァ以外の原因達に是非とも聞かせてやりたい言葉である。聞いても無視されそうだが。
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―― エヴァの場合 ――
あ、ありのまま今 起こった事を話すぞ!! 『私が寝ていたら いつの間にか小僧の寝顔が目の前にあった』。
な、何を言っているのか わからないと思うが、私も何が起きたのか わからなかった…… 頭がどうにかなりそうだった……
風邪のせいだとか花粉症のせいだとか そんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぞ……
いや、まぁ、つまり、それだけ予想外だった、と言うことだ。
と言うか、本当に何故ここに小僧がいるのだ? むしろ、茶々丸は小僧を野放しにして何処に行ったのだ?
私の記憶が確かならば、寝ている時に何かを話し掛けられた気はするのだが……残念ながら内容がよく思い出せん。
まぁ、寝込んでいる私を置いて出掛けたのだから、恐らくは私の薬をもらいに行くとか言う話だったのだろうが。
そして、そこから察するに、茶々丸は小僧に私の看病を任せた、と言うことだろう。
確か、小娘と一緒に尋ねて来たような気がするので、恐らく小娘は茶々丸が連れて行ったのだろう。多分、その筈だ。
もしかすると、小娘が来たことは私の夢だった と言う可能性もない訳ではないが……その可能性はゼロと言っていいな。
何故なら、記憶を消されていない一般人が単身で乗り込んで来る訳がないからだ(普通は恐怖で近寄ろうとしないだろう)。
つまり、小僧がいる時点で小娘もいたことは確定している。それ故に、小娘は茶々丸が連れて行った と見るべきなのだ。
まぁ、私を恐れている筈なのに、恐れるどころか添い寝までしているのは不思議だが――って、ちょっと待て、私。
よく見てみたら、小僧が私のベッドに潜り込んでいるではないか? 何故 今まで気付かなかったのだ?
いや、考えるまでもないな。どうやら、熱は下がっても まだ頭がキチンと回転していなかったようだな。
いつもの私だったら「小僧の寝顔が目の前にあった」段階で、反射的に排除――攻撃していただろう。
ま、まぁ、とりあえず、冷静に状況を整理してみるか……
つまり、意識が朦朧としていた私のベッドに盛りの付いたオスが潜り込んでいるんだよな?
しかも、よくよく見てみたら、寝る前に着ていたネグリジェとは違っているではないか?
それに、小僧の寝顔は「ふぅ、一仕事 終えたぜ」って顔しているような気がしてならないよな?
と言うことは……小僧は私の意識がないのをいいことに『あんなこと』や『こんなこと』をしたのではないか?!
そこまでを理解した私は、気持ち良さそうに寝ている不届者(小僧)をベッドから蹴り落とし、鳩尾の辺りを少し強めに踏み付けた。
当然、不届者は目を覚ましたようで「ちょっ、え?! 一体、何事なの!?」とか私に文句を言って来るが、睨み付けて黙らせた。
そして、睨み付けながら不届者が状況を理解するのを待ち、頃合を見計らって「私のベッドで寝ていた理由」を問い詰めてやったのだ。
だが、不届者の口から紡がれた理由は、私の予測を完全に裏切っていた。何と「看病をしていたら、私にベッドに引き擦り込まれた」と言うのだ。
言うまでもないだろうが、そんなこと認められない。と言うか、認められる筈がないだろう!?
まぁ、百歩――いや、百万歩くらい譲って、看病していたことは認めてやらないでもない。
その証拠(と言っていいかは微妙だが)に、随分と身体の調子が良くなっているからな。
だが、いくら熱で意識が朦朧としていたとは言え、私が男をベッドに引き込むなど有り得ん!!
看病されていたことは認めるにしても、小僧を引っ張り込んだことは認められない。
これは「誇りある悪」としてではなく、乙女としての意地だ。これだけは譲れんのだ。
譲れんのだが……偶然か狙ったのか定かではないが、小僧は すかさず爆弾を投下して来た。
そう、あのバカ――『ナギ』のことを寝言で呼んだと言って来たのだ(さすがに、この口撃には私も焦った)。
確かに そのような夢を見ていたような気がしないでもないが、だからと言って寝言に出していたうえに聞かれていたとは……!!
しかも、より最悪なことに(何の因果か)小僧は『あのバカ』と同じ名前――『ナギ』と言う名前をしているのだ。
私にとってはまったくの別物だが、『あのバカ』のことを知らない小僧にとっては自分だと勘違いしてもおかしくはないだろう。
だから、妙な勘違いをして「もしかしてオレに惚れているのか?」とか言い出したのも、おかしいことではない。
おかしいことではないのだが、だからと言って許せるような想定――いや、妄想ではない。
そのために更に焦ってしまい、言葉が空回ってしまった(今思うと、アレでは逆に肯定しているも同然だ)。
故に、小僧が「何でオレの名前を呼んでオレに抱きついたんだ?」とか訊いて来るのは必然と言えるだろう。
まぁ、当然ながら『あのバカ』のことを話せる訳がないので、これについても何も答えられないのだが。
いや、『あのバカ』のことは恥ずべき失敗や恥ずかしい思い出も含まれているので、あまり話したくないのだ。
……だから、小僧が答えられない私を追及してきた時は本当に困った。
小僧に勘違いされたままなのも腹立たしいが、かと言って小僧に本当のことを話すのも腹立たしい。
どっちをとっても腹立たしいのだから「どっちを取るべきなのか?」非常に悩みどころだろう。
いっそのこと小僧を昏倒させて記憶を弄ってしまおうか? とか考えるくらいまでに悩んだのである。
私の主義(覚悟のない者は危害を加えない)を曲げることになるが、背に腹は代えられなかったのだ。
まぁ、小僧が途中で矛を収めたので、私も主義を曲げることなく済んだがな。
さて、それはともかくとして、今 問題にすべきなのは、小僧が急にシリアスになって話題を変えて来たことだろう。
ウッカリ忘れていたが、小僧は『何らかの目的』があって家に来たのだ(茶々丸が そう言っていた気がする)。
ベッドへの浸入疑惑で意識が逸れていたが、小僧の来訪目的も重要だったのだ(確か「取引がしたい」だったか?)。
取引の内容は、小僧の話し振り(と うろ覚えな茶々丸の話)からするに「解呪の協力をするから矛を収めてくれ」と言ったところだろう。
とは言え、これはあくまでも私の推測に過ぎない。事が事だけに内容はシッカリと確認して置くべきだろう(契約の基本だ)。
言うまでもないだろうが、確認すると言っても小僧に直接 訊ねるような真似はしない。自ら弱味を見せるような悪手を打つ訳がない。
あまり使いたくない手だが、ここは『記憶探査』を行うべきだろう。ああ、もちろん、調べるのは私の記憶だ。小僧の記憶ではない。
敵意のない相手の記憶を読むのは主義に反するからな(つまり、敵意のある相手なら容赦なく記憶を読む、と言うことでもあるがな)。
故に、私は「一つ訊かせろ」と少しの間を取り、その間に『記憶探査』を行ったのだ。
その結果を一言で言うと「興味深い」だな。実に興味深い『提案』を小僧はして来た。
今まで小僧のことは『少し可哀想な阿呆』だと思っていたが、これは評価を改めねばならんな。
これからは『少しは頭の回る阿呆(だが、根本的な部分でダメ)』くらいに評価してやろう。
……そんな阿呆なことを考えていたからだろうか? 小僧がバカなことを言って来たので、ついつい熱くなってしまったのだ。
御蔭で、言わなくてもいいこと(小娘や小僧を心配したこと)を言ってしまった。
しかも、言ってしまったことで焦ってしまい、ついつい余計なことも口走ってしまった。
これでは「逆に気にしている」と言っているようなものではないか? ……本当に情けない。
ま、まぁ、その後は、気持ちを落ち着けるように注意したから、大丈夫だったがな。
あ、いや、もちろん、小僧が私のせいで小娘のパートナーになったことを聞かされた時も割と焦ったけどな?
でも、まさか そんな事態になるとは思っていなかったと言うか、何と言うか……なぁ? しょうがないよな?
と、とにかく!! 私はジジイが許可したから小僧を巻き込んだのであって、許可がなければ巻き込んでいない!!
つまり、許可を出したジジイが悪いのであって、裏(小僧が本当に関係者か否か)を取らなかった私のせいではない!!
それに「ジジイが何か企んでいそうだなぁ」とは思っていたけど、解呪を優先したかったのだから私のせいではない!!
って、あれ? 私のせいなのか? ――い、いや、そんなことは無い!! 無いに違いないんだ!!
で、でも、小僧がちょっと哀れ過ぎるから、手切れ金――じゃなくて支度金に色を付けてやるか。
あ、決して、私のせいだとは思っていないからな!? 私のせいだから、色を付けるのではないからな?!
色を付けてやるのは、小僧が単に哀れなだけだ。多少は罪悪感もあるのは認めるが、基本的には同情だ。
同情するなら金をくれ とか言う最近の日本の風潮を鑑みて、多目に金をやろうと思ったに過ぎんのだ。
……しかし、私もそこまで懐に余裕がある訳でもない以上、小僧が2000万でいい と言ってくれたことには助かったな。
あ、いや、別に私はそんな端金、何とも思ってないぞ? 私はそんなに度量が小さくないぞ?
茶々丸に命じれば2000千万なんて直ぐだからな、2000万など私にとっては端金に過ぎないんだぞ?
まぁ、一体何をやって稼いでいるのかは知らんが……きっと触法スレスレ程度だろう(と思って置こう)。
そんなことに意識が行っていたからだろうか?
契約の内容を確認し終えたところで、ついつい小僧を気遣うなようなことを言ってしまった。
まったく、つくづく考えないでしゃべると地が出てしまう――じゃなくて、甘くなってしまうなぁ。
小僧がバカだからよかったものの、小僧が私の甘さを突いていれば足を掬われていただろう。
……これからは気を付けねばならんな。
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Part.05:契約の締結は履行を前提としている
「ただいま帰りました」
本題(取引――契約の締結)を済ませたナギとエヴァがリビングに移ったところで、帰宅を告げる声と共にネギ達がリビングに姿を現した。
薬を受け取りに行った筈なのに何故か薬は持っておらず、その代わりと言いわんばかりにタコヤキを持って帰って来たのは極めて謎だが。
それでも、タコヤキは出来立てのホカホカで「とてもおいしゅうございました」だったので、ナギは敢えて気にしないことにしたらしい。
ところで、タイミング的にナギ達の様子は見られていたと考えるのが妥当なのだが、ナギはそれも気にしないことにするようだ。
だから、茶々丸が「マスターがネトラレてしまうのかとヒヤヒヤしましたが、クセになりそうな快感も覚えました」とか言っていることも気にしないし、
ネギが「いやぁ、危なく全力で『雷の暴風』を叩き込むところでしたが、未遂でよかったです」とか言っていることも気にしないったら気にしない。
何故なら、それらを気にしてしまうと何かが確実に終わってしまうからだ(主にナギの精神衛生上の観点で)。まさに『触らぬ神に祟りなし』である。
「――と言うことで、紆余曲折はあったけど、無事に『契約』に締結できたんだ」
ナギは嫌な想定を振り切るかのように茶々丸に用意してもらったお茶をグイッと飲み干した後、簡単な事情説明を行った。
まぁ、様子は見られていただろうから説明の必要はない気がするが、ナギの口から説明することに意味があるので説明した。
ちなみに、ナギの説明に対してエヴァからは何も反論がないので、ナギとエヴァの間に齟齬はない と言うことでいいだろう。
「それで、今度は『契約』を履行するべきなんじゃないか とオレは思うんだけど……そこはどう思う?」
ナギはネコ背気味になってテーブルに肘を突くと口の前で手を組む(所謂ゲンドウポーズである)。
ちなみに、表情を悟らせないようにするためもあるが、タコヤキの青ノリを隠すための苦肉の策だ。
これから少し真面目な会話をするので、歯にこびり付いた青ノリが見えるのは避けたいのである。
青ノリは美味しいんだけど歯にこびり付いて離れないのが難点だよなぁ、とかナギはシミジミと思ったらしい。
「何故に態とらしく重々しい雰囲気を作ったのかはわからんが……その意見には賛成だな。
私としても一刻も早くこの忌々しい呪いを解きたいからな、喜んで『契約』を履行しよう。
と言うか、よく考えてみると暢気にタコヤキを食べている場合ではなかったではないかっ!?」
ナギに問い掛けられた(名指しはされていないが視線が語っていた)エヴァは、話しているうちに現状に気付いて自分の行動にツッコミを入れる。
折角ナギがシリアスな空気を作ったのが簡単に台無しにされた気がするが、そこは気にしても始まらない。
そもそも、青ノリを隠しているのを誤魔化す目的で作った空気なので、空気が弛緩してもナギには問題ない。
まぁ、エヴァが空気を弛緩させることを狙って敢えて一人ツッコミをしたのだったら、気にすべきだが。
交渉が終わったとは言え これから長い付き合いになるので、エヴァの交渉力を正確に把握して置きたいのだ。
「じゃあ、エヴァちんのアツい要望により、サッサと呪いを解きますかねぇ」
ナギはサングラスを持ち上げる振りをしながら(サングラスを掛けていないので振りしかできない)、
ナギの隣に座っていたネギに視線を送ることで「早速だけど、血を提供してあげて」と無言で伝える。
そして、それを受けたネギはコクリと頷くと徐に袖をまくると、躊躇なくエヴァに左腕を差し出す。
「まぁ、それは私も望むところなのだが……その前に一つだけ確認させろ」
あれ? 何か問題があったのかな? ナギは普通に内心で疑問を浮かべる。
もしかして、魔法的な都合で満月の夜でなければ吸血ができないのだろうか?
だが、先程はナギの血を美味しそうに飲んでいたので それはないだろう。
「先程の『エヴァちん』とは誰のことだ? まさか、私のことではないよなぁ?」
エヴァはコメカミをヒクつかせながら訊ね返す。その声は震えており、その顔も引き攣っているため、あきらかに怒っていることが窺える。
ナギとしては軽い冗談――に見せ掛けて、エヴァがどの程度まで冗談を受け流すのか測っていたので「この程度でもダメか」と思うだけだ。
まぁ、これが契約する前だったら(いくらネギが傍に控えいても)こんなことできなかっただろうが、既に契約は成ったのでいくらでも可能だ。
そもそも、ナギが契約することを最優先していたのは「魔法使い達にとって契約とは絶対的なもの」だからである。
原理はよくわかっていないが、正式に結んだ契約には『契約の精霊』と言うものが『監視者』として付くらしく、
仮に契約を意図的に破ろうとすると、苦痛が与えられたり魔力を封じられたりするなどの『制裁』を受ける らしい。
ちなみに、その『制裁』の度合いは「どれだけの悪意で契約を破るつもりだったか?」で決定する仕様のようだ。
ナギ達の場合は、まだ履行はされていないが締結はされているため既に『監視』されている状態である。
言い換えると、エヴァがナギ達に危害を加えると『契約の精霊』から『制裁』される と言う寸法になるのだ。
それ故に、今のナギ達はエヴァから危害を加えられる可能性はゼロに等しい(だからナギは余裕なのだ)。
まぁ、逆に言うとナギ達がネギの血を差し出さないようにしようとすると『制裁』を受けることになるのだが。
つまり、『監視者』とは双方が契約を遵守するための存在なので、どちらか一方のみを監視してくれる程 都合よくはないのだ。
「いや、君のことだけど? さん付け だと他人行儀だし、呼び捨てだと慣れ慣れしいでしょ?」
「……まぁ、そうだな。そう言うことなら、これからは『エヴァ』とだけ呼べ。妙な呼称で呼ぶな」
「そうかい? わかったよ。それじゃあ、これからは『ゑ婆』と呼ぶことにさせてもらうよ」
契約によって結ばれた人間関係であるため、他人ではないが身内と言う訳でもない。微妙な関係だ。
それらの事情が察せられたのでエヴァは表立って反論できず、渋々と矛を収めて別の呼称にするように言うだけに止める。
と言うか、エヴァと呼ぶこと自体は許可したことから察するに、エヴァは『ちん』の部分が気に入らないのだろう。
ナギとしては これで堂々とエヴァと呼べるので問題ないのだが、そのままストレートに呼ぶのを善しとしなかったらしい。
「……おい、何か発音がおかしくないか?」
まぁ、そうだろう。聞き方によっては『エヴァ』に聞こえるが、どう聞いても『ゑ婆』だ。
ナギとしては「600歳らしい表現だと思う」らしいが、呼ばれる側は堪ったものではない。
確かにババアとしか言えない実年齢だが、エヴァも女性なのでババア呼ばわりは御免蒙るのだ。
エヴァは、見た目通りの子ども扱いも嫌だが、実年齢通りのババア扱いも嫌なのである。
「そうかな? 『えばあ』も『エヴァ』も似たようなもんでしょ?」
「……そうか。では、これからは貴様のことを『にゃぎ』と呼ぼう」
「そ、それは構わないけど、むしろ呼ぶ方が恥ずかしいんじゃない?」
「うっ!! うるちゃい!! 言うな!! 私も言ってから気付いたんだ!!」
ぶっちゃけ、幼女が『にゃ』とか言うのはナギの理性に甚大なダメージを与えたらしいが、隣のネギが怖いのでナギは耐えたようだ。
言うまでもないだろうが、その後の『うるちゃい』にも かなりヤられたが、やはりネギが怖いのでナギはどうにか耐えたらしい。
と言うか、ここで耐え切れずに「何この可愛い生物」とか口走ろうものなら、ネギの『雷の暴風』で あぽーん されるだろう。
いや、むしろ、対抗してネギも妙な言葉を遣い始める気がする。ナギとしては狙ってやられると あざとく感じてしまうので非常に困る。
「……OK。お兄ちゃんが悪かったよ、エヴァ」
ナギはこれ以上エヴァに萌えないようにするために、また、エヴァが「うがー!!」と言いながら地団太を踏み始めたので、ここで折れることにした。
どうでもいいが、そんなエヴァの姿を「ああ、マスターが実に楽しそうで、非常に萌えます」とか嬉しそうに録画している茶々丸は自重すべきだろう。
と言うか、エヴァを弄る度にネギの不快指数が加速度的に増幅している気がしてならないため、諸々の事情も含めてナギも そろそろ自重すべきだろう。
「ってことで、ネギ。悪いけど、エヴァに血を提供してくれないか?」
果てしなくどうでもいい会話に思えたかも知れないが、今までの会話にはそれなりに意味があった。
何故なら、これで両者の間に妙な緊張感はなくなったからだ。無駄に見えても無駄ではなかったのだ。
いくらナギが残念でも、意味もなく『エヴァちん』呼ばわりして場を掻き回した訳ではないのである。
「……どうぞ、エヴァンジェリンさん」
ネギは多少 不満そうではあったが、会話中に一旦引っ込めた腕を再びエヴァに差し出す。
ちなみに、ここで「血を吸われることに抵抗感があるのだろう」とか解釈するのがナギのクオリティだ。
間違っても「ネギも構って欲しいんだろうなぁ」とは(想像できても敢えて)思わないのである。
逃避でしかないが、最近 気苦労に絶えない生活を送っているので、それくらいの逃避は許されるような気がしないでもない。
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Part.06:未然に防ぐのも守ることになる
「じゃあ、呪いは解けたってことでいいかな?」
解呪の作業は滞りなく終了し、エヴァの『登校地獄』の呪いは無事に解け、エヴァは『登校地獄』から解放された。
もちろん、解呪がどのように行われたかわからないから描写がないのではなく、問題なく終わったから描写がないのである。
余計な描写をしていると更にグダグダしてしまうので、それを少しでも避けようとする涙ぐましい努力だと思って欲しい。
「…………ああ、構わん」
エヴァはナギの問いに肯定を示すが、どうも釈然としていない雰囲気だ。滞りなく見えただけで、実は滞っていたのかも知れない。
ナギの出した条件は「ネギの血の提供」でしかないため、ネギの血を提供した段階でナギ達は契約を履行したことになる。
そのため、解呪ができなかったとしても それは契約違反にはならない(今後の関係を円滑にするために協力はする予定だが)。
「いや、特に問題はない。『登校地獄』の解呪自体『は』できたので気にするな」
ナギの疑問を読み取ったのだろう、エヴァはナギが問い掛けるより早く解呪の補足説明をする。
少々――いや、かなり気になる言い方だが、問題ないと言っているのだから問題ないのだろう。
と言うか、解呪自体『は』できたそうなので、形式的に考えると これ以上は契約の範囲外だ。
「それよりも、貴様等が履行したのだから、今度は私が履行する番だな」
エヴァは気を取り直すかのように紅茶(解呪作業中に茶々丸が用意した)を啜って一拍置いてから告げる。
ちなみに、これはどうでもいいことだが、契約をしたのだから当たり前と言えば当たり前の言葉なのに
約束を守ってくれる と言われただけで嬉しく感じてしまった辺り、ナギの人間関係は末期的かも知れない。
「とりあえず、これをやるから肌身離さずに持っていろ」
そう言いながらエヴァがナギ達に渡したものは、アンティーク調の懐中時計だった。
何らかの魔法具であることは推測できるが、素人のナギには効果まではわからない。
むしろ「まさか『カシオペア(航時機)』?!」とか思った始末だ(そんな訳がない)。
「それは、今で言う『じーぴーえす』のようなもので、お前らの居場所や健康状態などがわかる魔法具だ」
じーぴーえす? と一瞬 首を傾げたナギだったが、直ぐに「ああ、GPSか」と納得する。。
つまり、魔法的な信号で持ち主(この場合はナギとネギ)の位置情報を送信しているのだろう。
また、健康状態もわかる と言うことは、これで危険に陥ったことを感知する と言うことだろう。
常識的に考えて常に傍に待機していてもらう訳にもいかないので、これは非常に有り難い品だ。
「あと、これも持って置け」
次に渡された物は、銀製のイヤーカフス(に見える物)だった。間違いなく、これも魔法具だろう。
シンプルながらも洗練されたデザインをしているので、ナギが付けてもネギが付けても違和感は無い。
アクセサリーとしての価値だけを見ても、なかなかの品であることはわかる(少なくとも安物ではない)。
まぁ、中学生がイヤーカフスを付けるのは悪目立ちするので、付けずに持って置く必要があるだろうが。
「それは電話のようなものだ。声に出さずとも考えるだけで思い浮かべた相手と意思疎通ができる」
つまりは『念話』用の魔法具だ。『念話』そのものは、仮契約をすれば使用可能となる簡単な魔法だが、
通常は複数人と仮契約することはないため、仮契約をせずに『念話』ができる点では非常に有用だろう。
特にナギの場合、エヴァと仮契約しようものならネギが『とんでもないこと』になりそうなので非常に有り難い。
「まぁ、説明するまでもないだろうが……危険を感じたら連絡しろ。本当に危険だと判断したら助けてやる」
言い換えると、そんなに危険ではない とエヴァが判断したら放置される と言うことだ。
その判断基準が非常に気になるナギだが、ここはエヴァを信じて置くしかないだろう。
連絡する前に意識を奪われたりした場合は、先の品で判断してくれるに違いないし。
「そもそも、魔法と関わっていようが、普通に生きている分には危険などとは無縁だろう?」
確かに、課題でもない限り普通の学生生活では危険なことは起こらないだろう。
いや、厳密に言えば交通事故などの危険はあるが、それは一般的な危険だ。
魔法的な意味での危険は、魔法的な事件に関わらない限りは起こり得ない筈だ。
まぁ、事故や事件は突発的に起こるので、用心に越したことはないが。
「安心しろ。一応、ここ(麻帆良)は、魔法使い達にとっての『聖地』の一つだ。
それ故に、敵対者のターゲットにもなるが、当然ながら安全も考慮されている。
つまり、小娘のパートナーになろうとも麻帆良にいる限りは基本的に安全なんだよ」
エヴァの言葉は間違ってはいない。麻帆良は守られているので、最低限の安全は保障されている。
「でも、今回みたいに(ここ大事)課題として危険に巻き込まれる可能性は非常に高いよね?」
「……だから、その時は守ってやると言っているのだ!! と言うか、過去のことは忘れろ!!」
「いや、言ってねーですから。勢いで誤魔化そうとしても、全然 誤魔化せてねーですから」
「うるちゃい!! そのために割と お気に入りの品を貸してやったんだから、文句を言うな!!」
「まぁ、それには感謝して置くよ。だけど、危険に巻き込んだ張本人が開き直るな と言いたい」
「ええい、黙れ!! その件は、先程の会話で清算しただろうが!! いつまでも引っ張るな!!」
ナギの身も蓋もない言葉に、エヴァは「うぐぅ」と ぐうの音も出ない。いや、正確には出ているが。
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そんなこんなで、グダグダになりながらもナギはエヴァと言う強力なボディガードを手に入れたのだった。
これで、仮にネギが暴走したとしても「助けてエヴァもーん」とか言ってネギの魔の手から逃れることが可能になった と言うことである。
そう、「ネギの護衛力に不安がある」と言うのはネギへの建前でしかない。ナギの本音は「ネギに襲われたら危ないから」だったのだ。
どう考えても「まずは襲われるような事態にならないように努めろよ」とツッコみたくなるが、残念ながらナギに その発想はないのだった。
ところで、血を提供させた代償として何故か「今度ネギと買い物に行く」ことになってしまったのは、あきらかに自業自得だろう。
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オマケ:ぢ爺とゑ婆 ―その2―
翌日の深夜――つまり、大停電が起きた後のこと。
学園長室にてエヴァと近右衛門の密談が交わされた。
「さて、貴様との契約通り、小娘に大したケガは負わせておらんぞ」
エヴァは近右衛門のシナリオ通り、停電による『学園結界』の一時消失を利用してネギを襲撃した。
言うまでもなく、既に解呪が成功しているエヴァにとって それは既に意味の無い行為でしかない。
つまり、ナギの指示による「近右衛門にシナリオ通りだと思わせるため」のブラフに過ぎない。
「……まぁ、そのようじゃのう」
前回ネギに強請られたのにもかかわらず今回の戦闘も『遠見』で確認していた近右衛門はエヴァの言葉を肯定する。
今回の戦闘は、名目としては『課題』ではなく『私闘』に当たるが、実際は近右衛門の指示による『課題』でしかない。
そのため、近右衛門には監督の義務があり、『遠見』で戦闘状況を確認せねばならない。決して近右衛門の趣味ではない。
仮に再びネギが剥かれたとしても、ネギやナギに危険が及んだら介入せざるを得ないので、確認しなければならないのだ。
まぁ、責任者としての監督義務だけでなく、自らが描いたシナリオを監督する目的もあったので、同情の必要はないが。
「これで、貴様の目論見通り、小娘に『実戦経験』を積ませられたな?」
エヴァはそれを認識していながらも敢えて「貴様のシナリオ通りだな」と宣言する。
もちろん、本当のシナリオの作者がナギであることを近右衛門に悟らせないためでもあるが、
近右衛門のシナリオだとわかったうえで「踊ってやった」と恩に着せてもいるのである。
「……はて? 何のことかの?」
近右衛門は既に「週1回のサボりを認める」と言う形で『報酬』を支払っている。
そのうえ、先日「エヴァの手によるものと思われる金の流れ」があったのだ。
エヴァを体よく利用したとは言え、報酬を支払ったので恩を着せられる謂れはない。
だが、それはエヴァも充分に理解していることだ。そのうえで恩に着せる予定なのだ。
「フン、惚けるのは貴様の自由だが……私は『小娘に修行を付けてやる対価として血液をいただく契約』を結んだ。
つまり、私の思い描いていた予定とは形が変わったが、『小娘の血で解呪する』と言う私の目的は達せられる訳だ。
貴様の掌で踊らされたことは腹立たしいが、解呪の機会を与えてくれたことには感謝してやろうと思うのだよ」
だから、エヴァは「この報告をすることで恩に着せるのだよ」と言わんばかりにニヤリと口元を歪める。
だが、これはあくまでもブラフでしかない。隠すべき事実を隠すために、嘘の事実をデッチ上げたに過ぎない。
言い換えると、既に解呪を済ませてあることを勘繰られないように、修行による対価で解呪ができると騙ったのだ。
何故なら、現時点で解呪できたこと と、エヴァとナギ達の間に『契約』があることは隠して置く予定であるので、
他者にとっては「解呪を求めるエヴァが理由もなくネギを襲わなくなる」と言う不自然な状況になってしまうからである。
つまり、不自然さを解消するために、修行による対価で解呪ができる と言う『尤もらしい理由』をデッチ上げたのだ。
ちなみに、エヴァの解呪が為されたことを隠す理由だが……これは、ナギとネギの安全のためである。
エヴァが解呪されたことが周知の事実となれば、ほぼ間違いなくエヴァを狙う者達がエヴァを襲撃するだろう。
そのことを理解しているエヴァは「後1年ほどの辛抱だ」と自分に言い聞かせて解呪を隠すことにしたのだ。
もちろん、二人の危険性を減らすためでもあるが、『学園結界』によって魔力が封じられているためでもある。
エヴァは『登校地獄』が解けたことで麻帆良から出られるようになったので麻帆良外では最強状態に戻れる。
だが、残念ながら『学園結界』は依然として存在するため、麻帆良内では最弱状態であることは変わっていないのだ。
つまり、麻帆良では最弱状態で戦わねばならないため、二人のためにも麻帆良を戦場にする訳にはいかないのである。
まぁ、エヴァが麻帆良から出ればいいのだが、今度は麻帆良にいる二人を守るのに不都合が生じるので それも厳しい。
と言うのも、『転移魔法(ゲート)』を使えば距離は関係ないのだが、高位の術者は『ゲート』を妨害できるからだ。
そう、二人を守るためには二人の近くにいる方が都合がいいため、エヴァは麻帆良から出られないのである。
「……ふむ。それは想定外の結果じゃのぅ」
近右衛門は「多少は予定と違うが、概ね計画通りじゃな」と思いながらも、エヴァの言葉に驚いた振りをする。
ネギに実戦経験を積ませ、那岐に実績を作らせ、エヴァにネギの襲撃を諦めさせる。それが近右衛門の狙いだったのだ。
そのため、もしもエヴァに裏がなければ(ナギが介入していなければ)すべては近右衛門のシナリオ通りだっただろう。
それが理解できたエヴァは、少々不機嫌になりながらも結果として近右衛門を出し抜けたため悟られぬように溜飲を下げる。
……このような裏を内包しつつ、狐と狸の化かし合いとも言える「ぢ爺とゑ婆」の会話は続くのだった。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「エヴァと交渉したら、エヴァがヒロインぽくなっていた」の巻でした。
当初の予定では、エヴァは「冷徹になろうとするけど、詰めが甘いのでいいようにされてしまう」予定だったんです。
それなのに……何で主人公とキャッキャウフフな会話をしちゃってるんでしょうか? 意味がわかりません。
ですから、メインは交渉の筈なのに、あきらかに「看病イベント」がメインになってますけど、気にしちゃいけません。
……とりあえず、エヴァは「興奮すると『おこちゃま』になるコ」ってことでいいんじゃないかなぁって開き直って置きます。
あと、近右衛門が出し抜かれた件についてですけど、これは主人公を『那岐』とみなしているために起きたイレギュラーです。
主人公が那岐君のままであったならば、きっと近右衛門の描いたシナリオ通りに『こと』が進んでいたことでしょう。
周囲には「困ったボケじじい」と思わせて置いて「実はそれなりに優秀」って感じの「老獪で厄介な人物」が近右衛門です。
少なくとも そう言った人物だと思っていただけるように書いているつもりです(基本的に困った部分が目立ち過ぎてますけど)。
……では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2009/10/18(以後 修正・改訂)