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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:552b4601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/30 20:10
第18話:オレ達の行方、ナミダの青空



Part.00:イントロダクション


 今日は4月17日(木)。

 あやか との話し合いの結果、ナギが『決意』をした翌日。
 ナギが あやかの家に宿泊して、爽やかな朝を迎えた日。

 ちなみに、その『爽やかさ』にピンクな成分は一切ない のは言うまでもないだろう。



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Part.01:またまた夢を見た


「……でっかい家だねぇ」

 子供那岐の呆れたような、だが それでいて感動したような声が響く。
 その視界に映るのは、既に見慣れてしまった大邸宅――いいんちょの家だ。
 きっと、那岐がいいんちょの家に訪れた時の記憶ってことなんだろう。

「べ、別に普通ですわ!!」

 金髪の幼女が照れたようにソッポを向いて応える。
 十中八九、子供の頃のいいんちょなんだろうなぁ。
 って言うか、素晴らしいツンデレ、御馳走様です。

「そっかぁ。そう言えば、このちゃんの家もこんなもんだったなぁ」

 いや、那岐よ。そこは納得するところじゃないと思うんだけど?
 あきらかに いいんちょは謙遜してるだろ? 納得しちゃダメだろ?
 ここは、常識的に考えて「そんなことないよ」とか返すところだろ?

「……このちゃん?」

 あ、あれ? いいんちょ、物凄く不機嫌になったんじゃない?
 何か いいんちょの背後から闘気が立ち上ってる気がするんだけど?
 オレの気のせいかな? いや、気のせいじゃないよね、どう見ても。

「うん、『このえ このか』だから、このちゃん」

 おいぃいい!! 素で返すなぁああ!! 空気に気付けぇええ!!
 いいんちょが気になっているのは、そこじゃないからぁああ!!
 って言うか、木乃香の家を知っていることを気にしてるんだよぉおお!!

「つ、つまり、近衛さんの家にお邪魔したことがある。そう言うわけですわね?」

 うん、マジでキレちゃう5秒前って、まさにこんな感じなんだろうね。
 いいんちょのコメカミやら頬やら眉毛やらがヒクヒクしてて超怖ぇ。
 ……女性の発する怒気のプレッシャーって年齢とか関係ないんだなぁ。

「と言うよりも、この前まで いっしょに住んでたんだよね」

 何と言う爆弾発言。じゃなくて、火に油を注ぐどころかガソリンを投下するなぁああ!!
 ここは機転を利かせて「タカミチに連れられて行っただけだよ」くらいにして置けぇええ!!
 じゃないと、いいんちょのプレッシャー的に、明日の朝日が拝めない事態になるぞぉおお!!

「そ、そうなんですの……とても、仲がよろしいのですねぇ?」

 いいんちょは満面の笑みを浮かべているんだけど、満面の笑みだからこそ超怖い。
 って言うか、コメカミやら頬やら眉毛やらが物凄い勢いで引き攣ってるね。
 ここでイエスと答えようものなら、バッドエンドへまっしぐらなんだろうなぁ。

「ううん。嫌われちゃったから、仲よくはないと思うよ」

 おぉっ!! 起死回生の一手だ!! よくやった!! よくやったぞ、那岐!!
 狙った訳ではないんだろうけど、見事に いいんちょの怒りを鎮火させたぞ!!
 その証拠に、いいんちょは「そうなんですの♪」って感じで嬉しそうだぞ!!

 ……………………………………
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 …………………………………………………………

 そんな訳で、疑う余地もない程に那岐の記憶を夢見たナギだった。

 ここで思ったことが「しかし、那岐って幼馴染系フラグが多いなぁ」だった辺り、ナギの脳はダメになっている気がしてならない。
 せめて「木乃香の家に住んでたんだなぁ」とか「前回の夢は正しかったんだなぁ」とかと思うべきなのではないだろうか?
 まぁ、ナギの脳がダメであることなど今更なことなので、ここでは置いておこう。むしろ、別に言及すべきことがある筈だ。

 その言及すべきこととは「何故、一昨日に引き続いて昨夜も那岐の記憶を夢見たのか?」と言うことだろう。

 過去二回のケース(13話と16話)は一週間程の間が空いていたので、ナギは「一定期間ごとに記憶が喚起されて、記憶を夢見ているいる」と考えていた。
 そのため、次に記憶を見るのは一週間程 先だろう とナギは想定していたのだが……現実は違った。昨日(16話)に引き続いて今日も見てしまったのだ。
 つまり半分は合っているが、半分は外れていた訳だ(記憶を夢見るのは記憶が喚起されているからだろうが、記憶喚起と時間は関係ないのだろう)。

 それでは――時間と関係ないのなら、何が原因でな記憶は喚起されたのだろうか?

 これまではエヴァ戦やデモンストレーションの後に夢見ていたから「魔法と言う強い刺激によって記憶が喚起されている」とも見られたが、
 今回は魔法とは関係ないイベント(あやかとの会話や あやかの家に泊まったこと)が引鉄になった。つまり、魔法と記憶は関係がないのだ。
 順当に考えるなら「那岐の記憶に関わる出来事を体験することによって、那岐の記憶が喚起されている」と言う可能性が一番高いのだが……

(だけど、それだと那岐が魔法と関係していた と言う可能性が浮上しちゃうんだよなぁ)

 もしかするとエヴァ戦やデモンストレーションの中に『那岐の記憶に関わる何か』があったのかも知れないが、その可能性は低いだろう。
 ここは大人しく「那岐が魔法と関係があったから、魔法と関わることでも那岐の記憶が喚起されていた」と見るべきだ。
 と言うか、タカミチが保護者であることも踏まえると、どう考えても那岐が魔法と関係していた としか考えられない。

(ここまで来ると、那岐と魔法は無関係だ と思い込むのは さすがに無理がある、か……)

 ナギが「魔法と言う強い刺激によって記憶が喚起されている」と想定していたのは、無意識的に「那岐と魔法を無関係だ」と考えたかったからだろう。
 つまり、ナギは「何もしなくても魔法と関わっていた のではなく、ネギと関わったので魔法と関わってしまった」と言う免罪符が欲しかったのだ。
 もちろん、ネギに責任を押し付けたい訳ではない。自分を納得させる為に、自身が選択を間違ったから現状になってしまったことにして置きたいのだ。

(やれやれ。今まで敢えて目を背けていたけど、そろそろ『那岐』と真剣に向き合わないといけないな)

 タカミチが保護者であることを知った時点で、ナギは「那岐は一体 何者なのだろう? 魔法関係者なのだろうか?」と疑いを持っていた。
 だが、ネギと接触するまで近右衛門は愚かタカミチすらもナギに接触して来なかったことを理由に、ナギは その疑念を忘れることにした。
 木乃香や刹那と旧知であるらしいことを知った時に疑念が再燃したが、やはりナギは「魔法関係の話をされないから関係ない筈だ」と目を背けた。

(まぁ、正確に言うと、いろいろと藪蛇になりそうだから『意図的に忘れた』んだけどね)

 原作(魔法 = 非常に危険な代物)を知るが故に魔法と関わらずに済むなら関わる気などナギにはなかった。
 だが、ネギとパートナー関係を結び、エヴァイベントを解決するのに積極的に動いた今となっては話が変わる。
 魔法の世界に足を踏み入れてしまった以上、いつまでも「関わりたくないから気にしない」訳にはいかない。

 それに、あれだけ那岐を大切に思っている存在(あやか)を知ってしまった以上、那岐と真剣に向き合わねばナギ自身が己を許せないのだ。



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Part.02:神多羅木先生の有り難い講義


「急で悪いのだが……修学旅行の行き先が変更になった」

 本当に急である。まぁ、経緯を省いたせいでもあるが、経緯を省かなくても充分に急だった。何故なら、修学旅行は来週の火曜から始まるからだ。
 ところで、ナギが那岐と向き合うと決めた後の経緯だが、豪華な朝食を摂って黒服に学校まで送ってもらっただけで特筆すべきことはなかった。
 そして、現在は朝のホームルームであり、先の発言は神多羅木のものだ。神多羅は出席確認を終えると挨拶もそこそこに爆弾を投下したのである。

「「「えぇええ~~?!!」」」

 当然ながら、寝耳に水な話なので男子生徒達のリアクションは激しい。まさに非難轟々である。
 だが、その怒号も神多羅木が軽く一睨みするだけで一瞬のうちに黙るのも また当然である。
 いくら神多羅木に慣れている男子生徒達でも、神多羅木の威圧感を直で受けるのは危険なのだ。

「……まぁ、驚く気持ちはわかる。だが、そう悪い話ではないから安心しろ」

 生徒達が黙ったのを確認した神多羅木は軽い口調で言うが、気分はがハワイ(南国リゾート)になっていたナギとしては あきらかに悪い話である。
 何故なら他の候補地は北海道か京都か長崎だからだ。別に他の候補地が悪い訳ではないのだが、それでも南国リゾートと比べてはいけないだろう。
 ちなみに、何故に行き先がハワイから変更になったのかと言うと、宿泊予定のホテルが原因不明の爆発によって使えなくなってしまったから らしい。
 人数も人数であるため他の宿泊施設の確保が不可能であるため、ハワイを希望していたクラスは他の候補地に振り分けられることになったそうだ。
 まぁ、該当するクラスは男女合わせて20クラスはあるので(単純計算で600人以上だ)、妥当と言えば妥当な措置だろう。中止ではないだけマシである。

「で、ウチのクラスは京都に変更になった訳だが……何と、宿泊先が女子のA組と一緒になったんだ」

 な、何だってーー!? って言うか、何じゃそりゃあああ?! ……それが、ナギの率直な感想(と言うか、心の絶叫)だった。
 いくら決意をしたとは言え、危険であることがわかっている場所(京都)に行くのは、ナギでなくても文句を言いたくなるだろう。
 他にも候補地がある中で京都が割り振られた辺りに(しかも、女子のA組とはネギのクラスだ)『誰か』の思惑が見え隠れしている。

「まぁ、興奮する気持ちはわかるが、とりあえず落ち着け」

 言うまでもないだろうが、神多羅木が諫めたのはナギ以外の男子生徒達である。ナギの心の叫びは軽く流されたのだ。
 さて、これも言うまでもないだろうが、男子共のテンションの高さは宿泊先が女子と合同となることへの期待である。
 まぁ、合同と言っても宿が一緒になるだけで部屋も風呂も別々だろうから、何を期待しているのかナギには理解できないが。

「では、本題に入ろう。行き先の変更に伴い、班の編成と部屋割りが変える必要があるため、一時間目の数学を潰して決めてしまおうと思う」

 この展開はナギも素直に嬉しい。授業(しかも神多羅木の授業)が潰れることは、どんな理由でも嬉しいのがナギなのである(実にダメな思考だ)。
 いや、ナギも「いくら急とは言え班決めに授業を潰すのは どうだろう? 昼休みとかに自主的にやらせるべきでは?」とは思った。
 しかし、そんな良識的な意見は「授業が無くなる と言う誘惑」の前には無力だったのだ。つまり、ナギにツッコむ資格はないのである。

「あ、神蔵堂は ちょっとオレのところに来い。ちょっと話がある」

 一人だけ名指しで呼び出されたことで「もしかして、さっきの心の中のツッコミが届いていたのだろうか?」とか益体もないことを考えるナギ。
 もちろん、そんな訳がないことはナギとて わかりきっている。恐らくは、魔法関係についての話なので、ナギだけに話したいのだろう。
 原作との違いをチェックする いい機会なので、ナギは「適当に進めて置いて」とクラスメイトに伝え、大人しく神多羅木呼び出しに応じたのだった。

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 そんな訳で、ナギは神多羅木に連れられて昨日に引き続き生徒指導室に訪れた。

「それで、お話とは一体 どう言った内容なのでしょうか?」
「察しは付いているだろう? 暇じゃないんでイチイチ惚けるな」
「まぁ、昨日の今日ですし、さっきの話題が話題でしたしね」

 昨日、ナギは神多羅木と魔法関係について話した。そして、先程は修学旅行の行き先の変更が話題になった。誰でもわかる繋がりだろう。

「つまり、修学旅行――いえ、正確には京都と魔法が関係している と言うことなんですね?」
「ああ、そうだ。京都に行く前に魔法関係のことで教えて置かねばならないことが幾つかある」
「やはり、そうですか。ところで、それって景気のいい話ですよね? オレは そう信じてます」
「信じるのは自由だが、現実は非常だぞ? と言うか、景気の悪い話だとわかっているだろ?」
「まぁ、先生の様子から そうだろうなぁ とは思いましたが……希望は捨てない主義なんですよ」

 いい話なら態々 今(授業中)に話す訳がない。悪い話だからこそ緊急で伝えているのだろう(ちなみに、昨日の呼び出しの本題は この件だった)。

 さて、お察しの通り、神多羅木の話とは「関西呪術協会のことや関東魔法協会のこと、そして両者の関係がよろしくないことなど」についてだ。
 その辺りの事情は原作と変わらないため詳細は割愛させていただくが、神多羅木の説明を聞いたナギは原作と変わらないことに少なからず安堵した。
 何故なら、原作と事情が変わらない と言うことは(多少の違いはあっても)原作と大差ない展開になることが予測できるため対策しやすいからだ。

(……とりあえず、警備体制の見直しから始めようかな?)

 原作では どうにか無事に収まっていたが、薄氷の上をギリギリで歩いていたようなものだった。そんな危険を冒す趣味はナギにはない。
 原作知識を最大限に利用して、時には原作通りに そして時には原作から逸れて、望む結末を導き出す。それが、ナギの方針だ。
 これまでは行先が違ったため「ネギに助言して安全性を高める予定」だったが、行先が変わったので直接 関われるようになった。
 最初こそ行先変更に悪態を吐いていたナギだが、冷静になって考えてみれば(ネギ達の安全的に)行先変更は僥倖とも言える事態だ。

 もちろん、ナギは己の保身を考えなくなった訳ではない。ただ、己の保身以上にネギ達の安全が大切になったのだ。それだけのことである。

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 ………………………………………………
 …………………………………………………………

 そんなこんなで神多羅木の講義が終わったため、ナギが教室に戻ろうとしたところ……

「ああ、そう言えば、昨夜のことなんだが……何か申し開きはあるか?
 もしあるならば、聞くだけ聞いてやるから話してみろ。
 まぁ、当然ながら、聞くだけで善処するかは定かではないがな」

 などと神多羅木が(ナギにとっては)突拍子もないことを問うて来た。

 ちなみに、ナギは惚けているのではなく、今回ばかりは本当に身に覚えが これっぽっちもないのだ。
 ナギとしては、昨夜は あやかと真剣に話し合っただけなので、ナギに後ろ暗いことは何もない。
 まぁ、あやかに対して後ろ暗いことがあると言えばあるが、神多羅木には関係ないので、ないったらない。

 そのため、ナギは素で訊ね返すことを選択した。ここで わかっている振りをしても何も得はない。

「昨夜ですか? 一体、何のことです? 心当たりがありませんけど?」
「ふん、惚けるな。昨夜と言ったら、無断外泊に決まっているだろ?」
「無断外泊、ですか? ――あっ!! そう言えば そうなりますよね」

 指摘されるまで気付かなかったが、ナギは昨夜あやかの家に宿泊したため、扱いは無断外泊になっているのである。

 外泊そのものは大した問題ではない。だが、それは事前に申請したり許可を得たりした場合に限る(緊急の場合は例外だが)。
 せめて寮の管理人に外泊する旨を連絡していればマシだったのだが、連絡していなかったので問題になったのだろう。
 ナギの心境が「それどころではなかった」と言う背景もあるが、そもそも連絡を入れる発想がナギにはなかったのが主因だ。

「すみません、連絡を怠りました」

 言うまでもなく、どう考えてもナギが悪いためナギは素直に謝罪した。己に非があったことを自覚しているので非常に素直なのである。
 ところで、14話でネギがナギの部屋に宿泊しようとした件で「あの時、ネギは外泊許可を取っていたのか」ツッコみたくなることだろう。
 ネギは外泊許可など取っておらず(実際に宿泊する気などなく)、ナギと駆け引きをするのが目的だったのでツッコむ必要はない。

「……よく言われることだが、『すみません』で済んだら警察はいらんぞ?」

 確かに その通りだ。常套句だが、反論できない正論だからこそ常套句なのだろう。と言うか、今回はナギが全面的に悪いので反論の余地がない。
 反抗的なナギが殊勝な態度を見せる非常に稀な機会であるため、ここぞとばかりにナギを責めたくなる神多羅木の気持ちわからないでもないが、
 だからと言ってネチネチとイビるのはやめて欲しい と言うナギの気持ちもよくわかる(非を認めているのだから、小言を言われるまでもない筈だ)。

 そのため、不毛としか言えない言葉の応酬に突入するのは至極当然の流れであった と言えるだろう。

「それは仰る通りですけど……珍しく素直に非を認めて反省しているので、ここら辺で許していただけませんか?」
「……確かに、いつもなら言い訳にもならん戯言で誤魔化そうとするからな、どうやら反省はしているのだろう」
「ええ、反省はしています。と言うか、しみじみ言わないでください。人間、自己正当化が必要な時もあるんです」
「しかし、お前の場合は それが常套手段になっているだろう? それはちょっと改めるべきではないか?」
「ですが、オレの味方はいないに等しい(いない訳ではない)ので、自分で自分を守るしかないじゃないですか?」
「まぁ、それもそうなんだが……自分で言っていて悲しくならないか? と言うか、味方を作ればいいだろう?」
「ですから、自己正当化がオレの常套手段になるんですよ。と言うか、味方は数える程度ですが いますから」
「そうか。実に説得力がある言葉だな。前者にしても後者にしても。と言うか、何だか話が逸れて来てないか?」
「確かにそうですね。ちなみに、話を逸らした責はオレにもあると思いますが、先生にもあると思いますよ?」
「フン、わかっているさ。だが、逸れたことには気付いた段階で軌道修正をしなかった お前が悪いとは思わないか?」
「思いません。と言うか、それこそ自己正当化ですよ。せいぜい、オレ『も』悪い くらいの表現にすべきですよ」
「まぁ、そうだな。俗に言う『人の振り見て我が振り直せ』と言うヤツだ。つまり、お前も気を付けた方がいいぞ?」
「そうですね。確かに自己正当化は見ていて気持ちいいものではないですね。むしろ、妙にイラッとしますね」
「そうだな。それがわかったのなら、今後は自己正当化を控えろ。主に見ているオレが苛立たないために、な」
「ええ、以後は気を付けます。もちろん、他の方々のためですけど。見ているのは先生だけではないですからね」
「……相変わらず、口が減らないな。そこは嘘でもオレを立てて置くのが『大人の対応』と言うモノじゃないのか?」
「そうは思いますけど……実際にオレがそんなこと言っていたら引きませんか? 白々しいにも程があります」
「まぁ、そうだな。白々しくて逆にイラッと来るだろうな。もしくは、悪いものでも食べたのか疑うだろうな」
「いえ、そこは嘘でもいいから心配して置きましょうよ。人としては同感ですけど、教師としてはアウトですよ?」
「確かにそうかも知れないが……お前、オレがお前を心配したら気持ち悪がるだろう? 白々しいにも程があるだろが」
「まぁ、そうですね。何か悪いものでも食べたのか、もしくは何か悪いことでも企んでいるのか、疑ってしまいますね」
「ちなみに、言うまでもないだろうが……似た様なことを言っているが、お前の方が明らかに酷いこと言っているからな?」
「え? そうですか? 常識的に考えたら、五十歩百歩じゃないですか? オレ達の会話って大差ないレベルですよ?」

 最早 言うまでもないだろうが、ナギと神多羅木は『喧嘩する程 仲がいい』と言うことにして置くべき関係なのである。

「――さて、いい加減に本題に戻ろう。と言うか、いい加減に無断外泊の件にケリを付けさせろ」
「え? 決着も何も、今までの皮肉とか小言とかを聞いたことで帳消しにされるんじゃないですか?」
「ハァ? そんな訳がないだろう? オレは溜まっている書類仕事をサッサと捌きたいんだぞ?」
「つまり、罰として書類仕事を手伝え と言いいたいんですね? 悲しいくらいに わかります」
「いいや、そうは明言していない。あくまでも、お前の誠意次第で善処しよう と思っているだけだ」
「うっわ~~。相変わらず、玉虫色と言うか政治家が好む様な言い回しをして来ますよねぇ」
「まぁ、そうだな。だが、お前にだけは言われたくないな。お前も よく使う言い回しだろう?」
「確かに そうですけど……オレは先生から学んだことにしてありますから主犯は先生ですよ?」
「ハッ、勝手に言っていろ。ところで、どうでもいいのだが……面倒だから学園長にタレコむなよ?」
「そこは安心してください。タレコんでも対処してもらえないので、最近は あきらめましたよ」
「そうか、やっとあきらめたか。と言うか、わかっていたが、やっぱり犯人はお前だったのか……」
「ハッハッハッハッハ!! ちょっとした御茶目ですよ。先生にイビられた憂さ晴らし兼ねた、ね?」
「いや、中学生ならば もうちょっと健全な方向の憂さ晴らしをするべきだろう? 実に不毛だぞ?」
「いえいえ、オレをイビると言う不健全過ぎる憂さ晴らしばかりしている先生に言われたくないですよぉ」
「いやいやいや、それが教師の特権と言うものだし、そうでもしなきゃストレスで胃に穴が空いてしまうさ」
「それならば、いっそのこと教師なんかやめて『マの付く自由業』でもやればいいんじゃないでしょうか?」
「ん? 『マ』の付く自由業、だと? こう言う場合は『ヤ』の付く自由業、と言うんじゃないのか?」
「普通はそうですけど、先生の場合はビジュアル的に○フィアの方が似合っていると思ったんですよ」
「なるほど、非常にムカつくな。と言うか、つくづく失礼なヤツだよなぁ。ある意味で清々しいくらいだ」
「そんな方向で褒められても全然 嬉しくないですね。と言うか、むしろ貶されている気がするんですが?」
「貶しているんだから そう聞こえて当然だな。むしろ聞こえなかった場合は お前の脳が心配になるな」
「ここは『心配していただき、ありがとうございます』と言うべきなんでしょうが……何か釈然としませんね」
「それはお前の心が汚れているからだ。そう言うことにして置けば、いろいろと丸く収まるに違いないぞ?」
「おれもそんな気はするんですが、それでも敢えて『だが断る』と言うのが、オレと言う人間だと思います」

 と まぁ、以上のようなノリで この後も授業終了のチャイムが鳴るまで二人の会話は続いたのだった。

 ところで、授業終了まで二人が話し込んでいたことで察しは付くだろうが、ナギが教室に戻った時には既に班の再編成は終わっていた。
 それ故にナギは自動的に人員の少ない班に分けられていたのだが……その結果が余りに酷かったのである。主に班のメンツ的な意味で。
 責は昨日の呼び出しを途中で切り上げたナギにあるのだが、班決めの時間に呼び出した神多羅木をナギが逆恨みしたのは言うまでもないだろう。

 ……ナギの辞書に反省の文字はあるらしいのだが、あるだけで なかなか活用されていないのであった。



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Part.03:学園長先生の有り難い思惑


「……それで、お話と言うのは何でしょうか?」

 ナギは単刀直入に本題に入った。と言うのも、班の問題以外は特に問題は起きずに時は流れて、午前中の授業が終わり昼休みになったのだが、
 ナギがランチを取るため意気揚々と教室を出たところで近右衛門から呼び出し(校内放送)があったので、学園長室に訪れたのである。
 ネギも呼び出されていたので十中八九『親書』の件だろうが「親書ですね、わかります」と言う訳にもいかないので用件を訊ねるしかないのだ。

「その前に、神多羅木君から『事情』は聞いておるかの?」

 近右衛門はナギを試しているのだろうが、ここは素直に「両者の仲がよろしくないので、修学旅行は大変だ」と言うべきだろう。
 単に『事情』とだけ表現されてしまうと、意地の悪いナギは「学園長先生の思惑についてですね?」とか考えてしまうからだ。
 ハワイ行きを阻止された恨み(証拠は一切ないが、状況的に近右衛門が主犯だとナギは断定している)は意外と根深いようだ。

「……西と東についての事情でしたら、一通りの説明を受けております」

 恨みは根深いが、ここで噛み付いても仕方がないことがわかっているナギは大人しく話に付き合う。
 近右衛門の思惑(ナギの状況把握能力を試している)に乗せられた形にはなるが、今回は仕方がない。
 大切なことは「如何に要望を押し通すか」だ。今は個人的な感情を優先させている状況ではないのだ。

「うむ。それで本題なんじゃが……君達に『特使』として西へ行ってもらいたいんじゃよ」

 近右衛門の言葉は実に予想通りだったのだが、逆に予想通り過ぎて不安が生まれる。何処かで重大な落とし穴がありそうだ。
 ナギは「原作と同様に親書を届けさせられるのだろう」と高を括らずに「別の可能性もある」と気を引き締め直す。
 と言うか、仮に親書を届けさせられるのだとしても、要望を押し通すと言う目的を考えると気を緩める余裕などない。

「なぁに『特使』と言っても この親書を西の長に渡してくれるだけでええから安心せい」

 ナギの緊張を「特使に任命されたから」と解釈したのか、近右衛門は努めて軽い調子で言葉を続ける。
 恐らくはナギの緊張を解すために敢えて軽い態度を取ったのだろうが、親書をヒラヒラさせるのはいただけない。
 その心遣いそのものは有り難いが、仮にも親書なのだから もう少し丁重に扱って欲しいのが偽ざる心境だ。

「……それを お受けする前に確認して置きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 近右衛門は依頼の形で伝えているが、どう考えても『依頼の形を取った命令』であるので、答えは一つだ(受けるしかない)。
 だが、それがわかっていてもナギにはやらねばならないことがある。何度も言っているが、要望を押し通さねばならないのだ。
 自身やネギ達が少しでも安心して修学旅行を楽しめるように、事前に打てる対策は可能な限り打って置きたいのである。

「西は魔法関係者が来るのを嫌がっているんですよね? ならば、魔法関係者が京都に行かなければ いいのではないでしょうか?」

 実に身も蓋も無いが、至極 尤もな意見である。最初から行かなければ何も問題は起こらないので、特使そのものが不要になる。
 あくまでも西が問題にしているのは「魔法関係者が西に入ること」なので、一般人達が西に行くのは問題にはならない筈だからだ。
 まぁ「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の理論で、一般人でも麻帆良関係者は誰でもお断り と言う場合は、話が変わって来るだろうが。

「あ~~、うん、その通りなんじゃが……木乃香の事も聞いておろう?」

 つまり「言っていることは間違ってないんだけど、魔法関係者としての自覚がないが重要人物である木乃香をどうする気か?」と言うことだろう。
 確かに、他の関係者は事情を知っているからいいとしても、さすがに本人の与り知らない理由で修学旅行をキャンセルさせるのは忍びない。
 忍びないが……だからと言って、本人や周囲が危険に陥る可能性があるのに「可愛そうだから」と木乃香を行かせるのも何かが違う気がする。

「……木乃香には申し訳ないですけど、本人のためにも他の生徒のためにも ここは泣いてもらいましょう」

 原作における京都での事件は、7割くらいが木乃香を原因としていたものだった。その意味では、木乃香を行かせないのが一番の安全策だ。
 とは言え、ナギには魔法関係者や木乃香を置いて行く気など一切ない。あくまでも「そんな方法も辞さない」と言うハッタリである。
 近右衛門には通じないかも知れないが、少しは効果があるだろう。「そんな方法を取られるよりは」と、少しは譲歩してくれるに違いない。

「木乃香には酷なことだとは思います。ですが、東を快く思わない西の人間が短絡的に木乃香を狙う可能性を考慮すると それが最善です」

 関東魔法協会長の孫にして、関西呪術協会長の娘であり、東方随一の魔力保有者。
 その餌の魅力は、サファリパークに生肉をぶら下げていくようなものだと言えるだろう。
 つまり、木乃香を連れて行くのは自殺行為以外の何物でもない。非常に危険なのだ。

「それはそうなんじゃが……」

 近右衛門も危険なのはわかっているのだろう。「痛いところを突かれたわい」と言わんばかりの雰囲気だ。
 まぁ、常識的に考えたら危険だとわからない訳がない。では、何故 近右衛門は木乃香を京都へ行かせたいのか?
 警備体制を過信し「危険はるだろうが大した問題ではない」と高を括っているのか、それとも――

「――まさか、西の上層部に反抗的な勢力を誘き出すための餌にするつもり、では ありませんよね?」

 ナギは「そんな訳はありませんよね?」と責めるような口調――と言うか、問い質すような口調で訊ねるが、
 その内心では「木乃香を京都に連れて行く『費用対効果』を考えると妥当なところだ」とも思っている。
 ナギが近右衛門――すなわち東の長の立場だったならば、西と東の関係修繕のために そうしているからだ。

「…………もしも、『そうじゃ』と言ったら、君はどうするんじゃ?」

 近右衛門は感心したように目を見開いた後、ナギを探るような目で見ながら鷹揚に訊ねる。
 恐らくは今回もナギを試しているのだろうが、既に答えは出ているのでナギに悩む必要などない。
 いや、むしろ、その答えを言うために餌云々の確認をしたようなものなので願ったり叶ったりだ。

「西から襲撃されることを前提として、木乃香の護衛も一般人達の護衛も強化することを進言します」

 ナギは淀みなく答えた。それは、ナギが『押し通したかった要望』であり、ナギが思い付いた『事前に打てる対策』である。
 何だかんだ言っても、既に上層部間では今回の件のケリは付いている筈なので、ナギ達は京都に行かざるを得ないだろう。
 そのため、ナギは『京都に行かないこと』を考えたのではなく、京都に行ったうえて『安全性に過ごすこと』を考えたのである。

(東は餌役を引き受ける代わりに京都へ行け、西は東を受け入れる代わりに反乱分子を粛清できる。そんな筋書きなんだろうね)

 ただ、原作では(その思惑は大きく外れて)本山は襲撃され、木乃香が浚われ、リョウメンスクナノカミが召喚される と言う事態にまで陥った。
 仮定の話となるが、フェイトと言う想定外の強者がいなければ大した問題にはならず、反乱分子が炙り出されて粛清されるだけだったのだろう。
 つまり、裏を返すと、フェイトさえ『どうにか』できてしまえば すべては丸く収まるのだ。それ故に、ナギは『護衛の強化』を画策した訳だ。

「ここで、本題に話を戻しますが……護衛を強化していただければ『特使』を引き受けますので、どうかオレの進言を受け入れていただけませんか?」

 既に決まっていることを白紙に戻すには大変な労力が要るうえ信用に関わる。だが、変更するだけならば大した労力は要らない。
 つまり、最初に提示した「京都行きを白紙に戻すこと」は不可能に近いが、後に提示した「護衛を増加すること」は容易いのである。
 そう、心理学で言う「ドア・イン・ザ・フェイス(大きな頼みを断らせた後で、小さな頼みを叶えさせる)」に似た手法を用いたのだ。

 当然ながら近右衛門の答えはYESであり、それを受けたナギは「条件を一つでも多く飲ませよう」と奮闘するのだった。

 ところで、ネギが空気と化している件だが、それはネギを蔑ろにしているからではない。
 こう言った『話し合い』の時こそがナギの出番なので任せてもらっているだけである。
 決して「ネギにしゃべらせると面倒なことになるから」ではない……に違いない気がする。



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Part.04:忘れた頃にやって来る


 さて、護衛の強化についての話し合いは「それなりにナギの要望が通った」と言う形で終わった。

 詳細については、後程 語る機会があるので、その時に語ろう。今は語るべき時ではない。
 むしろ、今 語るべきなのは、護衛云々の話が終わってからの話題についてだろう。
 と言うのも、その話題によって また一つナギの(自業自得な)心労が増えたからである。

「――おっと、忘れるところじゃった。ナギ君には まだ話があるんじゃった」

 護衛についての話し合いが終わった後、ナギは日替わりランチ(チキン南蛮)を食べ損ねないために急いで学園長室を後にしようとした。
 後にしようとしたのだが……近右衛門に呼び止められたので、ナギは日替わりランチをあきらめて他のメニューで我慢することにした。
 何故なら、近右衛門の呼び掛けが余りにも態とらしかったため、ナギは「大したことないように見せ掛けた重大な話題」だと判断したからだ。

「一体、どう言った用件でしょうか?」

 ナギは「貴重なランチタイムを削るくらいに重要な用件なんですよね?」と言う気持ちを隠すことすらせずに続きを促す。
 常識的に考えて重大な用件だとは思うが、もしかすると本当に大した用件ではないかも知れない。そのための予防線だ。
 と言うか、もし くだらない用件だったら、タカミチに「学園長先生が しずな先生にセクハラしていた」とかタレコむ気である。
 いや、根も葉もない虚言だが、原作で乳に顔を埋めていた描写があったので、叩けば埃がボロボロと落ちて来るに違いない。

「実はの……那岐君には『特使』の他にもやってもらいたいことがあったんじゃよ」

 近右衛門の歯切れの悪さ から察するに、その『やってもらいたいこと』と言うのは『特使と言う名の撒餌』以上に厄介なのだろう。
 何故にネギをチラチラと見ているのかは極めて謎だが、近右衛門が言い難そうなのは確かだ。ナギとしては可能なら拒否したい所存だ。
 そのため、ナギは「できれば やりたくないです」と言外に込めつつ「やってもらいたいこと、ですか?」と怪訝そうに問い返す。

「簡単に言うと、婿殿――西の長へ『挨拶』をしてもらいたいんじゃよ」

 特使として行くのだから、組織のトップに挨拶くらいするのは当たり前だ。態々 指定されるようなことではない。
 つまり、近右衛門の言う『挨拶』とは「単なる挨拶」ではなく「何か特別な意味を持った挨拶」と言うことなのだろう。
 当然、ナギには心当たりなどない。だが、態々ナギを指定したことから、ナギである必要があるに違いない と想定する。

「言い換えると『木乃香の婿としての挨拶』もしてもらいたいんじゃよ」

 ナギに心当たりがなかったのは本当だ。今の今まで『そんな設定ができたこと(10話参照)』を忘れていたのである。
 と言うか、ナギとしては「木乃香の婚約者になった と言う話は、既に終わったこと」だったので普通に混乱している。
 その内心を言葉にするなら「え? 婿? 婿って婿のこと? え? 凄く意味不明なんだけど?」と言った感じである。

「え~~と、オレの聞き間違いでしょうか? 『木乃香の婿として』とか聞こえた気がするんですが?」

 ナギは混乱そのままに「幻聴に決まっている」と半ば現実逃避して近右衛門に確認するが、
 近右衛門は無情にも「いや、聞き間違いじゃないぞい」とアッサリと聞き間違いを否定する。
 しかも「まさか、春休みの件を忘れた訳じゃなかろう?」と言うトドメを刺すのも忘れない。

「そ、その件は木乃香を牽制するためのものだったのではないのでしょうか?」

 ナギはネギの方を意識しないように努めながら、極めてクールを装って言葉を紡ぐ。
 少し噛んでしまったが、このくらいは許容範囲だ。充分にクールを装えている筈だ。
 と言うか、そう言うことにして置かないと、ネギのオーラが黒過ぎて心が折れそうだ。

 あの時は「木乃香を助けるため」とネギを説得できたが、今回は説得できそうにないからだ。

「……はて、牽制? 那岐君が何を言いたいのか、ワシにはサッパリわからんのぅ」
「わかっていますよね? そのためにオレ達が婚約した と噂を流したんですよね?」
「そんな訳がなかろう? ワシは外堀を埋めるために噂を流したんじゃからな」
「そう言う方向でしたか。と言うか、何気に噂を流したことを認めましたよね?」
「そ、それは言葉の綾じゃよ。ワシは(ツイッターで)呟いただけじゃよ」
「そして、それを第三者が『まほらば(SNS)』の方でも流しまくった、と?」
「そうじゃ。多少の責任はある気がしないでもないが、全面的には悪くない筈じゃ」

 どう考えても近右衛門が全面的に悪い気はするが、最早 問い詰めても無駄だろう。と言うか、本題から逸れて来ている。

「では、話を戻しますけど……本気でオレを木乃香の婿にするつもりなんですか?」
「そんなの当たり前じゃろ? これでも木乃香のことを大切に思っておるんじゃぞ?」
「ですが、木乃香を大切に思っているなら、オレなんかを婿にしない方がいいのでは?」
「む? 確かに君はギリギリな変態じゃが、それでも木乃香が選んだ男なのじゃぞ?」
「た、確かにオレは変態ですけど、オレが問題にしているのは そこではありません」

 ナギとしては「オレみたいな『どこの馬の骨ともわからない男』では釣り合わない」と言いたかったのだが、近右衛門のツッコミは斜め上だった。

「西の長の娘と言うことを抜きに考えても、近衛家そのものが古くからある名家で格式が高いのでしょう?」
「まぁ、そうじゃな。ワシは興味ないが、表の世界でも『それなり』にネームバリューがあるようじゃのぅ」
「またまた御冗談を。麻帆良(の特権)は学園長先生の『そう言った実力』でも守られているのでしょう?」
「興味はないが、『そう言ったもの』を有り難がる連中には有用なものじゃ と言うことを認識しておるだけじゃ」
「そうですか。まぁ、どちらにしろ、オレみたいな輩が近衛家には釣り合わないことは変わりませんけどね」

 表でも裏でも近衛家は影響力が高い。つまり、表か裏かどちらかでネームバリューが無いと下も上も納得しないだろう。

「何を言っておるんじゃ? 君は滅びたとは言え、王z――おおっと、そう言えば もうこんな時間じゃ!! 昼休みが終わってしまうのう!!」
「はい? 今、何か凄く気になることを言い掛けませんでしたか? 確か、王「昼休みが終わってしまうのう!!」……まぁ、そうですね」
「とにかく!! 根回しは既に終わっとるから、君に『挨拶』をしてもらうのは確定事項じゃ!! 文句や愚痴は後で聞くから、頼んじゃぞ!!」
「凄く気になることも残っていますし、まだ納得できていませんけど……そう言うことでしたら わかりました。精一杯、務めを果たします」

 納得できてはないが、昼休みが残り僅かなのは確かだ。日替わりランチはあきらめたが、昼食そのものはあきらめていないので、ここは納得して置こう。

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 そんな訳で、特使以外の役目も負わされたうえにネギの導火線に火を付ける結果になったのだった。

 さて、ここまで語れば、後の展開は最早 語るまでもないだろう。常識的――と言うか、お約束的に考えて。
 ……そう、ネギを宥め賺すのに時間を取られ、ナギは昼食を食べる時間がなくなってしまったのである。
 当然ながら、ナギは空腹状態で午後を過ごすことになり、午後の間 魂が抜けていたのは言うまでもないだろう。

 余談だが、話し始める前にネギをチラッと気にしたのだからネギを退室させてもよかったのではないだろうか? そう、ナギは嘆いたらしい。



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Part.05:既成事実はいつの間にか作られる


(勝った……!! オレは、空腹と言う名の地獄に打ち勝ったんだ……!!)

 どうにか午後の授業を(死んだように寝て過ごして)乗り切ったナギは、放課後の開放感を満喫していた。
 満喫し過ぎて、何を血迷ったのか学園内を闊歩した挙句『赤の広場』で春の日差しを楽しんでしまったくらいだ。
 まぁ、ここまで言えば後は言うまでもないだろう。赤の広場は「ウルスラと女子中の中間地点」である。つまり――

「こんにちはです、センパイ」
「ご、御機嫌よう、ナギさん」

 つまり、高確率で愛衣と高音と遭遇してしまう場所であり、実際にエンカウトしてしまった訳である(ハシャギ過ぎたナギの自爆である)。
 いや、今更 魔法関係者とは関わりたくない とか言う訳ではない。ただ、毎度毎度 妙な勘違いをされるので高音と関わるのは面倒なのだ。
 それに、愛衣は愛衣で後で高音からの追求が予測されるので面倒なので、二人には悪いが魔法関係を抜きにしても余り関わたくない相手なのだ。

「あ~~、ども、こんちはっス」

 ナギは内心で「やっちまったぜ」と思いながらも、それを悟らせないように無気力そのもので応える。
 こうして無気力に振舞って置けば、二人を相手するのを面倒がっているとは思われないからだ(実に狡い)。
 いくらナギが残念な思考をしていても、作らなくていもいい軋轢を敢えて作る程 残念ではないのである。

 ここでテンションを上げて対応しない辺りが残念なのだが、残念ながらナギは それに気付いていない。

「センパイ、何だか元気がないですね?」
「まぁ、最近いろいろあったからねぇ」
「ネギさんのパートナーになった件ですわね?」
「ええ、そうなんですよ――って、え?」

 愛衣の気遣うような言葉に曖昧に応えた後、高音の爆弾発言を受けたナギは思わず凍り付いた。

「え~~と、何故にそのことを知っておられるんでしょうか? できれば、簡潔に教えてください」
「はい? 何を仰っておりますの? そんなの、通達があったからに決まっていますでしょう?」
「……それは つまり、『オレが関係者であることが他の関係者に通達された』と言うことでしょうか?」
「ええ、そうですわ。機密保持のためにも関係者間の連携は大事ですからね、当然のことでしょう?」

 高音は「何を当たり前のことを」と言う感じで説明してくれたが、ナギとしては「そんな常識など知らされていません」としか言えない事態だ。

「と言うことは、高音サンも愛衣も関係者ってことですよね?」
「当然でしょう? と言うよりも、ご存知なかったのですか?」
「ええ、知りませんでした(原作知識で知ってましたけど)」

 まぁ、原作と言う情報源があるので、正確には「知らされて『は』いませんでした」と言うべきだが。

「ところで、その通達って いつ頃あったのか、聞かせていただけますか?」
「……確か、昨日の放課後に『担当の先生』から伝えられましたわ」
「そうですか。ところで、通達内容は学園長先生も把握していますよね?」
「ええ、もちろん。情報網の構造上、学園長先生の認可が必要ですから」

 と言うことは、近右衛門は知っていたにもかかわらずナギに「関係者達にナギのことを通達した旨を伝えなかった」と言うことである。

 単に情報を伝え忘れただけ、と言う可能性は ほぼない。近右衛門だけでなく神多羅木も忘れるのは不自然だ。
 京都のことで頭が一杯になってしまうだろうから気遣った、と言う可能性もないだろう。そんな甘さは有り得ない。
 むしろ、ナギに情報を収集させるために黙って置いた と言う可能性が高いだろう。近右衛門なら遣り兼ねない。

「セ、センパイ?」「ナ、ナギさん?」

 何だか二人が脅えた目でナギを見て来るが、生憎と今のナギには二人の視線を気にしている余裕などなかった。
 さすがに「あのジジイ、いつか殺す」とか言う気はないが、かなり荒れた心理状態なのは言うまでもないだろう。
 どうにか冷静さを失ってはいないが、立ち上ってしまう闘気(憤怒のオーラ)は抑えようがないようである。

「……大丈夫ですよ。気にしないでください。ちょっとばかり学園長とOHANASHIしたくなっただけですから」

 ナギが自身が落ち着いていることを証明するために、貼り付けたような『爽やかな笑顔』を浮かべる。
 その結果、二人は「そ、そうですか……」と微妙な表情で異口同音に納得したので、特に問題ないだろう。
 どう考えても「君子危うきに近寄らず」と言うことで納得したことにしたのだろうが、そこは気にしない。

「そ、それよりも、センパイってネギちゃんのパートナーになったんですよね?」

 微妙な空気を変えたかったのか、愛衣が やや強引に話題を変える。若干、ナギを咎めるような視線になってしまったのは御愛嬌だろう。
 何故なら、ナギは視線に気付いても、視線の意味がわからないからだ。睨まれたことはわかっても、咎められていることはわからないのである。
 そして、それ故にナギは「何で睨まれたんだろう?」とか内心で思いつつ「そーだけど?」と素で返せるのだ(相変わらず残念な対応である)。

「と言うことは、ネギちゃんとキス……したんですよね?」

 なるほど、それを咎めたかったから訊いたのか。ナギは ここまで言われて、ようやく合点がいった。
 ただし、その方向は斜め上で「オレがロリコンっぽいから咎めてるんだな」と言う感じだったが。
 ネギとキスしたことを問題視されているのがわかっても、キスではなくネギに重点を置いてしまったのだ。

「まぁ、已むに已まれず、ね。あの時はそうするしかなかったんだよ」

 ナギだって好きでキスをした訳ではない。多少の役得はあったかも知れないが、あくまでも するしかなかったから したのだ。
 他に選択肢を選べたのなら、他の選択をしていたことだろう。と言うか、そもそもナギはパートナーになる気などなかったくらいだ。
 それ故に、ナギは「自ら進んでしたのではなく、他に選択肢がなかったから せざるを得なかった」と否定するのをやめない。

「でも、ネギちゃんって可愛いですよね?」

 だが、返って来た反応はナギの予想を遥か斜め上に超えていた。いや、もしかしたら斜め下かも知れない。
 どの道、ナギの想定を大きく離れた反応が返って来たため、ナギの否定は届いていないのかも知れない。
 ちなみに「ネギにキスしたこととネギが可愛いことに何の繋がりがあるんだ?」とか考えるのがナギである。

「だ、だって、センパイ、妙にネギちゃんに優しいじゃないですか!?」
「いや、アレくらいは普通でしょ? 特別に優しくしているつもりはないよ?」
「で、でも、ネギちゃんと一緒にいる姿をよく見掛けますし!!」
「いや、あれはオレの意思じゃなくて、ネギが纏わり付いて来てるだけだから」

 ちなみに、ナギには優しくしたつもりなどない。むしろ、ナギとしては「微妙に距離を置いている」つもりである。

「そ、それに、センパイはココネちゃんにも妙に優しいですし!!」
「いや、子供に優しくするのは大人として当然のことでしょ?」
「でも、ココネちゃんを見るセンパイの目ってアブナいですし!!」
「い、いや、違うよ? アレは『慈しむ目』ってヤツですよ?」

 別にナギはココネに欲情している訳ではない。まぁ、ココネと一緒にいると癒されること自体は否定できないが。

「……センパイ? 何で そこで焦ったような対応になるんですか?」
「だ、だって、アブナいって言われてショックだったんだもん!!」
「でも、センパイが その程度のことで動じるとは思えませんけど?」
「勘違いしているようだけど、オレってメンタルは弱めなんだよ?」

 自慢にならないことを堂々と語るナギ。メンタルが弱いことについては最早 開き直りに近い状態なのである。

 ちなみに、愛衣との楽しい楽しい会話は、高音から「黒に近い白ですわね」と断ち切られるまで続いたらしい。
 ナギとしては「もうちょっとオレを信用してくれてもいいのになぁ」とか思ったらしいが、それは無理な話だ。
 ナギが高音 及び愛衣の気持ちを理解すれば話は変わるのだろうが、今のところ そんな予定は皆無だからである。

「まぁ、それはともかくとして、これからは もう少し節度のある態度をとってくださいね?」

 高音は不服そうなナギを軽くあしらい、定型句になりつつある忠告(言い換えると、自重しろ)を言い渡す。
 もちろん、高音も「ナギには言っても効果がない」ことは重々 承知している。だが、言わない訳にもいかないのだ。
 無駄だからと言って、何もやらなければ何も変わらない。あきらめたら そこですべてが終わってしまう。だからだ。

「……御忠告、痛み入ります」

 ナギはナギなりに「節度のある態度」を心掛けているつもりだが、下手な抗弁はせずに唯々諾々と頷く。
 何故なら、ここで抗弁を試みても「ナギさんの基準は一般的にはアウトです!!」とか言われる筈だからだ。
 あきらめたら そこですべてが終わってしまうが、世の中には早々にあきらめた方がいいこともあるのだ。

 普段なら ここで小言は終わる筈なのだが……今日の高音は虫の居所が悪いのか、ナギの態度が気に入らなかったのか、ナギへの小言を続行する。

「よろしいですか? 私達、一般人の社会に生きる魔法関係者には『世の為人の為に その力を使う』と言う崇高な使命があるのですよ?
 まぁ、ナギさんにはナギさんなりの事情があったのでしょうが……関係者になった段階で その使命を全うする義務が生じているのです。
 力ある者は力なき者の為に その力を使わねばなりませんし、『知は力なり』と言う言葉があるように知ったことで力を得たも同然ですからね。
 ですから、これまでみたいにヘラヘラ・フラフラしていては、使命を全うできないのではないかと老婆心ながらに苦言を呈して(以下略)」

 途中で省略したのは、10倍くらいの量になってしまうからである(ちなみに、要約すると「関係者として恥ずかしいから真面目にやれ」と言う内容だ)。

(はぁ。適当に返事した件は心の底から謝罪するから、いい加減に この小言地獄から解放してもらないもんかなぁ?
 言っていることは立派だし、その志を貶すつもりはないんだけど……クドクドと言われると鬱陶しく感じちゃうよ。
 オレの様な不真面目な人間への説教は「短いけど要点を抑えた説教」にしてくれないと逆効果になっちゃうんだよねぇ)

「――ですから!! この学園での修行を確りと全うし、いずれは あのサウザンド・マスターのようなマギステル・マギになりましょう!!」

 ちなみに、高音はナギの様子(完全にグロッキー)など お構い無しに話し続けており、語っているうちに興奮して来たのか、
 途中からは右手を硬く握り締めて高々と振り上げたポーズを取り始め、最終的には右斜め45度を見上げて熱弁を締め括った。
 言うまでもないだろうが、ナギだけでなく愛衣もドン引きしている(「それは無いと思います」と言わんばかりに白い目で見ている)。
 まぁ、いくら敬愛している『お姉さま』であろうとも、ここまで暴走した姿を見せられたらドン引きするだろう。常識的に考えて。
 その意味では、愛衣が「こんなお姉さまもステキです!!」とか言っちゃうような盲目な子羊ではなかったことを喜ぶべきだろう。

「……お姉さま? いくらなんでも『一緒にマギステル・マギを目指す』のは どうかと思うんですけど?」

 しかし、どうやら引いているポイントが違ったようだ。熱く語ったことではなく、語った内容の方が問題だったらしい。
 もちろん、そんな愛衣の方が問題だ と感じナギは「将来、悪い男に騙されなきゃいいなぁ」と愛衣の将来を心配する。
 まぁ、悪い男が近寄って来た段階で高音が排除する様な気がするから、そこまで心配するようなことでもないだろうが。

「はぅあっ?! い、今のは言葉の文です!! 言い間違いです!! 決して本音が露呈した訳ではありません!!」

 愛衣のツッコミの何が功を奏したのかはナギには極めて謎だが、高音が やたらとうろたえていることは よくわかった。
 これは「共にマギステル・マギを目指すことは、プロポーズと同義である」と言う魔法使い達の暗黙のルール故のことだ。
 原作にもあった情報なのだが、そこら辺のことは覚えていないナギは「何で慌ててんの?」と疑問符が浮かぶだけなのだ。

 そんな「前提の違い」による「受け取り方の違い」が、高音にとって吉と出るのか凶と出るのかは定かではない。

「まぁ、お姉さまが そう仰るのでしたら、そう言うことにして置きます。これ以上は追求しません。ですが……」
「で、ですが? 『ですが』何だと言うのです? この際ですから、言いたいことはハッキリ言いなさい」
「では、言わせていただきますけど、『些事にかまけている暇はありません』と仰ったのはお姉さまですからね?」
「うぐっ。わ、わかっておりますわ。崇高な使命を全うするために麻帆良に来たことは忘れておりませんわ」
「そうですか。でしたら、私からは何も言うことはありません。私、お姉さまのことを『信じています』から」
「ありがとうございます。そこまで『信じて』くださっているのでしたら、それに『応えねば』なりませんわねぇ」

 吉と出るのか凶と出るのかは定かではないが、愛衣と冷戦状態になりつつあることを考えると凶と出たのかも知れない。

 ちなみに、ナギは当事者の筈なのだが、根本となる情報が欠けているので「何で険悪になってんの?」と言う状態である。
 しかも、争いの原因がわからないので「下手に踏み込むと拗れそうだな」と静観する気(と言うか傍観する気)満々である。
 事情をすべて知る者にとっては「お前のせいで争ってんだよ!!」とツッコみたくなるが、生憎と そんな第三者はいなかった。

 ナギがすべての事情を把握する日は まだまだ遠い……


 


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オマケ:今日のぬらりひょん ―その4―


 時間は少し遡り、ナギとネギが学園長室を退室した後の話をしよう。

 学園長室には、近右衛門と(いつの間にか現れた)タカミチしかおらず、
 某特務機関の総司令室で行われるような意味あり気な会話が繰り広げられるのだった。

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 …………………………………………………………

「いやはや……いつの間にか成長しておるんじゃのう」

 二人が退出し充分に部屋から離れたのを確認した近右衛門は、諸々の嘆息を交じえながらナギをそう評価した。
 近右衛門としては、神多羅木に事情を教えるように指示したのでナギが事情を理解しているのは想定内であった。
 だが、その事情と依頼内容から「隠していたかった思惑」を類推されることまでは想定していなかったのである。

 そう、ナギの想定外の察しのよさに、思わず感嘆の溜息と気苦労による溜息が漏れてしまったのだ。

 ちなみに、本来ならば その成長を喜ぶべきなのに気苦労が交じってしまったのは、
 個人としては 大事な孫娘を託す予定である少年の成長は喜ばしい限りなのだが、
 組織の長としては 厄介な構成員を抱えることになるので気分が滅入ってしまったのである。

「……まぁ、『男子三日会わざれば活目して見よ』と言いますからねぇ」

 タカミチは近右衛門の言に苦笑を交えて応えるが、近右衛門の心境を理解していないのだろう。
 その心境は「巣立つ若鶏を見守る親鳥」そのもので、上に立つ者としての苦悩は一切ない。
 苦悩があるとしても、保護者としての「嬉しいのだが、どこか寂しい感情」に対する苦悩であろう。

「うむ。まぁ、そうじゃのう」

 もちろん、近右衛門は最初からそこまでタカミチに期待していないので、別にタカミチを咎める気はない。
 近右衛門にとってタカミチは「仕事はできるのじゃが、人を使うのには向いていない人間」なのである。
 とは言っても、内心で「こちらの想定を超える駒は厄介でしかないことに気付いて欲しいもんじゃ」と文句は言うが。

「――それはそうと、あんな条件を飲んでよろしかったのですか?」

 そんな近右衛門に気付かないタカミチは、話題を変えて「気になっていたこと」を問う。
 今更なことだが、先程のナギと近右衛門の会話をタカミチは魔法で盗聴していたのである。
 ちなみに、タカミチの言う「あんな条件」とはナギの提示した条件であり、その内容とは……

「ふむ。現地での木乃香の護衛に西側からの人員も付ける件かね?」

 そう、その内容とは「西側と東側で護衛の協同戦線を張る」と言うものであり、
 今回の目的が西側の反乱分子を炙り出すためのものであることを考えると、
 共同戦線の人員に反乱分子を招き兼ねないため、少々 受け入れ難いものであった。

 ……当然ながら、近右衛門もその可能性を危惧して やんわりと断ろうとした。

 だが、その可能性を考慮していたナギは「こちらは地の利に明るくないので不利でしょう?」と尤もらしい理由を述べた後、
 言外に「何か問題が起きた時、東側だけで護衛していては西側に責任を問われ兼ねませんよ?」とか示唆する言葉を吐き、
 更に「娘を護衛する人材の選別すら まともにできない長では、今回の作戦が成功しても長くはないでしょう?」と辛辣に攻撃し、
 トドメに「こちらの護衛は『あからさまな護衛』と『目立たない護衛』と『隠れた護衛』の3つに分けましょう」と付け加えたのである。
 つまり、孫のことを大事に思う個人としても、組織のことを考える組織の長としても、受け入れざるを得ない状態に追い込まれたのだ。

「確かに危険な火種を抱えかねんとは思うとる。じゃが、那岐君の言うことも尤もなんじゃよ」

 そのため、近右衛門はタカミチの懸念を理解してはいても取り合うことはない。
 懸念は残るものの納得させられてしまったので、最早 取り合う意味が無いのだ。
 いや、正確に言えば、取り合うだけ時間の無駄だ。無意味どころかマイナスである。

「そうですか。学園長がそう仰るのなら何も言いません。ですが、エヴァの方の条件も飲むおつもりではないでしょうね?」

 それを理解していないタカミチは近右衛門が聞く耳を持っていないことだけを悟り、別の懸案事項について訊ねる。
 ここで「何故に近右衛門が聞く耳を持っていないのか?」を深く考えないのがタカミチの欠点であり、美点であろう。
 何故なら、組織人として人の上に立つにはマイナスとなっても、個人として人を惹き付けるにはプラスになるからだ。

「むぅ、その件か。それはまだ保留としか言えんのぅ。メリットも大きいのじゃがデメリットも大きいからのぅ」

 タカミチへの評価を下しながら、近右衛門は「何よりも面倒じゃし」と言う言葉を飲み込んで灰色な答えを返す。
 もちろん、ここで言う『エヴァの件』とは、ナギが提示した もう一つの条件であり、エヴァを同行させる と言うものだ。
 詳細は省くが「『修学旅行は学業の一環である』と『契約の精霊』を誤魔化せば可能でしょう?」と言う感じである。

 言うまでもないだろうが、エヴァに施された登校地獄は解呪されているので、本来なら『契約の精霊』を誤魔化す必要などない。

 だが、対外的にはエヴァは封印されたままであるため、エヴァが麻帆良を出るには『契約の精霊』を誤魔化したことにする必要がある。
 そのため、ナギは近右衛門に原作同様の措置――つまり「儀式と承認による『契約の精霊』の誤魔化し」を行うように依頼したのだ。
 ちなみに、本筋とは関係ないことだが、実は周囲を欺くためにエヴァは自作自演の『登校地獄的な制限』を施しているため、
 自由意思で『解除』は可能であるものの『切り札』として伏せて置きたいので、近右衛門の協力が必要なことは変わらないのである。

「そうですか……」

 タカミチは近右衛門の灰色な答えに若干の不安を覚えたが、自分ではどうしようもないことを熟知しているので納得を示した。
 実は、タカミチ自身も「自分は人の上に立つのには向いていない」と言うことを それなりに自覚しており、
 人の上に立つ者である学園長の決定に口を出せる立場ではないことも、今までの経験から理解はしているのである。

「まぁ、どのみち那岐君は『特使』を引き受けてくれたんじゃから、タカミチ君の仕事は変わらんよ」

 エヴァの件は保留されたが、西との共同戦線は確約されたのでナギは特使を『快く』引き受けた。
 そのため、近右衛門がエヴァの件を断ったとしても、ナギが特使の役目を果たすことは変わらないし、
 ナギとネギと木乃香(ついでに他の生徒)の護衛を任されているタカミチの役目も変わらない。

「……そうですね。那岐君は必ず守り通してみせます」

 そのため、タカミチは決意を込めた瞳で力強く頷き、そのために鍛えた拳を力強く握り込む。
 その直ぐ後に「あ、もちろん、ネギ君と木乃香君もですよ?」と付け足したのは、ここだけの秘密だが。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。


 今回は「修学旅行への前振り と言うか、微妙なラブコメ」の巻でした。

 まず、神多羅木先生のファンのみなさん、ごめんなさい。主人公と絡ませたらダンディとは程遠い御茶目さんになってました。
 でも、こんな神多羅木先生もボクは好きだったりします。主人公のよき理解者(いろんな意味で)になってくれると思います。

 で、修学旅行ですけど……テンプレ的に京都行きになっちゃいましたけど、展開そのものはテンプレにならない予定です。

 ちなみに、高音と愛衣の代わりに美空とココネを登場させようかと最後まで迷っていたのですが、
 暴走を止められる自信がなかったので、今回は高音と愛衣に登場してもらい、ココネ達は次回にしました。


 ……では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2009/11/29(以後 修正・改訂)


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