第19話:備えあれば憂いなし
Part.00:イントロダクション
今日は4月20日(日)。
ナギの修学旅行の行先が京都に変更になってから三日が経った。
その間にいろいろと起きたが、細かいことは本編で語ろうと思う。
とりあえず言えることは、それなりに動きがあった と言うことだけだ。
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Part.01:きっと悪くない筈だ
それは4月18日(金)の放課後のことだった。
授業から開放されて上機嫌だったナギは、上機嫌なまま校門を出たのだが……校門を出た瞬間に一気に奈落の底へ突き落とされた。
と言うのも、メイド服を身に纏った茶々丸が「御主人様――あ、間違えました、神蔵堂さん」と呼び掛けて来たのである。
言うまでもないだろうが、公衆の面前だ。と言うか、下校ラッシュのために周囲には男子生徒がウジャウジャしていた。
当然、男子生徒共の視線はナギに釘付けだった。もちろん、それは賞賛や憧憬などではなく怨嗟や嫉妬と言うマイナス方面で、だ。
ちなみに、以下の会話はナギと茶々丸の『仲の良さ』がよくわかるだけなので、読み飛ばしてもいいかも知れない。
「え~~と、そんな格好で何の用なのかな? と言うか、新手の嫌がらせか?」
「私には用などありませんが、マスターが お呼びですので迎えに来ました」
「なるほどねぇ、よくわかったよ。ところで、嫌がらせの件はスルーなの?」
「ええ、もちろんです。私達の仲ですから、態々 言うまでもないことでしょう?」
「そうだね。でも、微妙な言い回しは誤解を深めるだけだと思わないかい?」
「そうかも知れませんが……会話を続けるよりも、移動を優先すべきでは?」
「まぁ、そうだね。今更だけど、一度 移動してから話を聞けばよかったんだね」
「衆目の前で話し掛けたのは私ですが、それに応じて事態を悪化させたのは――」
「――オレだね。あ、一応 確認して置くけど、その呼び出しってオレに拒否権は?」
「はい? つまり、この場で『あることないことを言え』と仰りたいのですか?」
「ハッハッハッ!! OKOK、少しばかり確認したかっただけで拒否する気はないさ」
「そうですか。せっかくネタを用意しましたので、少しばかり残念な結果ですね」
「そっかぁ。できれば、そのネタは未来永劫お披露目しないでくれると助かるなぁ」
要約すると「エヴァが呼んでいるので来い」と言う話なのだが、何故か不穏な空気になったのだった。
もちろん、ナギとしては「一体オレが何をしたんだろう? と言うか、何で茶々丸は機嫌が悪いんだろう?」と疑問は尽きない。
そして、ナギが疑問に頭を抱えていようとも そんなことは軽く無視されてエヴァ宅へと連行されるのは言うまでもないだろう。
また、実情は連行されていても傍目には「メイド姿の美少女を侍らせている鬼畜野郎」にしか見えないのも、言うまでもないだろう。
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「一体どう言うことなんだ、神蔵堂ナギ?」
上記のような経緯でエヴァ宅へとやって来たナギを待っていたのは、エヴァからの脈略のない詰問だった。
ナギには心当たりが有り過ぎるので、普通に「何を訊かれているのか皆目見当が付かない」状態である。
「ちょ、ちょっと待ってよ。エヴァが何を訊きたいのか、全然わからないんだけど?」
「そんなことタイミング的に考えて、私を京都に連れて行く件に決まっているだろう?」
「ああ、その件か。確かに、報告をしなかった こっちの落ち度だから、全面的に謝るよ」
エヴァが問題にしている部分(前話の近右衛門への要望)が理解できたナギは、エヴァが憤っている理由に当たりを付ける。
ナギは提案する際にエヴァに相談した訳ではないし、近右衛門に婉曲的に断られたため提案したことを報告すらしていなかった。
期待させて落胆させるよりは最初から何も教えない方がいいだろう と言う判断で、何も知らせなかったのが裏目に出たのだろう。
ナギは そう判断したので素直に謝罪した(相談は時間的に不可能だったので仕方がないが、報告はできたので報告に関して謝罪した)。
「いや、別に謝られることでもないのだが……その、一言くらい言って置いてくれてもいいだろう?」
しかし、エヴァの反応は想定の斜め上だった。と言うか、何故に照れ臭そうにしているのだろうか?
もしかしたら、さっきの詰問は憤っていたのではなく、照れ隠しに怒った振りをしていたのだろうか?
仮にそうだとしたら、修学旅行に連れて行こうとした気遣いを喜んでいる と言うことなのだろうか?
「あ~~、いや、でも、軽く却下されたことだからさ、言わない方がいいかなって思ったんだよ」
ナギの頭は疑問符でいっぱいだが、却下されたのに ここまで喜ばれてしまうと、少し――いや、かなり気まずいのは確かだ。
これが承諾されたのなら喜ばれることに「少し こそばゆいなぁ」と感じる程度だが、却下されたのだから そうは行かない。
と言うか、却下されても気遣いそのものに喜んでいるエヴァに「どれだけ ぼっちだったんだ」と妙な同情が生まれてしまうのだ。
「ん? お前は何を言っているんだ? 却下などされていないぞ?」
だが、続いたエヴァの言葉で諸々の事情は一気に覆る。と言うか、却下されていない とは、どう言うことだろうか?
近右衛門の返答は「前向きに善処しよう」だったため、ナギとしては「ああ、婉曲的な却下か」としか考えられない。
むしろ「アレを却下と言わずに何と言うのだ?、いや、却下じゃなければ承諾と言うんだけど」と言った気分である。。
「いや、承認されたぞ? と言うか、ジジイが承認したのは昨晩なのに、何で提案者の お前が知らんのだ?」
エヴァはナギの疑念(と言うか困惑)を汲み取ったのだろう。ナギの疑念を軽く否定して とんでもないことを言ってのけた。
と言うか、昨晩って……関係者への通達だけでなく、提案の承認すらも知らせないとか普通に有り得ない。少し遣り過ぎだ。
ナギに情報収集の大切さを教えると共に情報収集の手段を構築させるつもりなのだろうが、もう少し情報を与えるべきろう。
「……とりあえず、学園長とOHANASHIして来ようと思う」
ナギは とてもいい笑顔で決意を表明し、学園長室に突撃しようと席を立った……のだが、
エヴァは「いや、まだ私の話が終わってないぞ」と、ナギの怒気を軽く無視したのだった。
つまり、ナギの放つ威圧感などエヴァには『どうと言うこともない』と言うことなのだろう。
さて、以下の会話は割と どうでもいい会話になるので、これも読み飛ばしてもいいかも知れない。
「わかったよ。それじゃあ、話を続けてくれないかな?」
「い、いや。そう改まって訊かれても困るんだが……」
「うん? さっきの話は終わっていないんでしょ?」
「う、うむ。それはそうなのだが、改まると どうもな」
「ハッキリしないねぇ。そんなに言い難い話なの?」
「い、いや、そう言う訳でも ないんだが、どうしてもな?」
「ふぅん? それじゃあ、何か問題でもあるの?」
「その、何て言うか……言うのが照れ臭いんだよ」
「ハァ? 600歳のクセにナニイッチャッテンノ?」
「う、うるさい!! 気にしてるんだから600歳 言うな!!」
「じゃあ、これからロリババアに表現を変えるよ」
「それも却下だ!! どう考えても おかしいだろ!!」
「じゃあ、初心に帰って『ゑ婆』と言う表現に――」
「――だから それはやめろと何回も言っているだろうが!!」
「チッ……オレのことは好きなように呼んでるクセに」
「う、うるさい!! 貴様を『ナギ』とは決して呼ばんぞ!!」
「まぁ、英雄様と重ねられるのも迷惑だから、それでいいけど」
「な、ならば『神蔵堂ナギ』のままでも構わんだろう?」
「そうなんだけど、フルネームを呼ばれるのって嫌なんだよねぇ」
「だが、『那岐』と呼ばれる方が嫌なのではないか?」
「まぁ、そうなんだけどね。って言うか、話題が逸れてない?」
「そ、そう言えばそうだったな。ウッカリしていた」
「それとも、言い辛いから話題を逸らしたかったのかな?」
「そ、そんな訳がないだろう? 余裕で話せるさ」
「そっかぁ。それじゃあ、いい加減に話してくれるね?」
「う、うむ。そんなに聞きたいのなら、特別に話してやる」
「頼むよ(別に聞きたくはないけど、そう言うことにして置こう)」
「そ、その……か、感謝してやろうと思っただけだ」
「…………いや、何がさ? 意味がわからないんだけど?」
「だから、京都への同行の件に感謝してやると言ってるんだ!!」
「なるほど。つまり、素直に礼が言えなかったってことか」
「うるさい!! この私が感謝してるんだから、素直に受け取れ!!」
要約すると「ありがとう が言えなくて散々引っ張った」と言う話なのだが、妙に疲れた話であった。
ちなみに、そもそもエヴァを京都に連れて行くのは慰安などではなくてフェイトへの対抗策なので感謝されても困るのだが、
エヴァの「今年もあきらめていたのだが」とか「15年振りに旅行ができるぞ」とか言う独り言を聞いてしまうと言うに言えない。
むしろ、ここは真実は黙って置く方が正解だろう。せっかく喜んでいるのだから水を差す方が無粋である。そうに違いない。
決して「ここで恩を売って置いて、護衛を頑張ってもらいたい」などと言う黒い思惑はない筈だ。そう信じて置くべきだ。
「ま、まぁ、そもそも私は貴様の護衛なのだから、一緒に京都まで連れて行くのは当たり前だよな?
その意味では貴様に感謝する必要などない訳で、それでも感謝してやる私って心が広くないか?
あ、いや、別にジジイを説得した労力を軽視している訳ではないぞ? だがな、それでも(以下略)」
ところで、ナギが自分への言い訳をしている間もエヴァは独り言を垂らし続けていた訳だが……エヴァは いつになったら止まるのだろうか?
まぁ、15年も閉じ込められていたうえに あきらめていたところに旅行の話が降って沸いて来たことが嬉しいのはわかる。
しかし、延々と独り言を聞かされているナギとしては そろそろ解放して欲しいと願ってしまうのは仕方がないだろう。
一人で盛り上がっているエヴァを「ああ、マスターがあんなにも楽しそう」と鼻息荒く撮影に勤しめる茶々丸が羨ましいくらいだ。
そんなこんなで、エヴァの気が済むまで一頻り語らせた後、ナギは懸案事項を片付けるために口を開いた。
「じゃあ、代わりと言っては何だけど……ちょっと頼みがあるんだけど、聞いてくれないかな?」
「む? 一体、どんな頼みだ? 今は気分が良いから、無茶なことでなければ聞いてやるぞ?」
「大丈夫、そんなに無茶なことじゃないよ(つまり、多少は無茶なことかも知れない訳だけど)」
どうでもいいことかも知れないが、この時のナギの心境は「どうして この似非幼女は こんなにも偉そうなんだろう」だったらしい。
「確かエヴァって『人形遣い』とか とも呼ばれてるんだよね?」
「ああ、そうだが……それが頼みとやらに何か関係があるのか?」
「大有りさ。だって、人形を借りたい と言うのが頼みだからね」
「……貴様、人形にまで欲情する程の修羅道に落ちていたのか?」
「いや、一体どんな勘違いをしたか知らないけど、それはねーですから」
実に失礼極まりない話である。さすがのナギも そこまでではない。と言うか、人形『にまで』とは どう言う意味だろうか?
「ほぉう? では、何を目的として『人形』を欲しているんだ?」
「『まさか、人形が護衛だったのか?!』と言う感じで使いたいんだ」
「ふむ、そう言うことか。まぁ、納得できる理由ではあるな」
身も蓋も無く言うと「チャチャゼロを護衛として貸しやがれ」と言うことである。
「だが、そもそも貴様の護衛には『私』がいるだろう? この私がいるのだから、人形など要らんのではないか?」
「そりゃそうなんだけどさ、エヴァは女のコだから護衛が無理な状況もあるでしょ? そのための保険が欲しいのさ」
「ま、まぁ、確かに入浴時に襲撃されたら助けに行くのが憚られるな。だが、男の護衛を用意すればいいのではないか?」
「確かにタカミチとか男の護衛も用意できるとは思うけど……正直ムサ苦しいから できれば人形の護衛がいいんだよね」
「なるほどな。実に我侭な意見だが、それなりに納得できる話ではあるな(まぁ、タカミチが聞いたら泣くだろうが)」
少し不機嫌になり掛けたエヴァだったが、話を進めていくうちに納得したようだ。今では生暖かい納得を示している。
「だが、人形は私の魔力で動くから『今のまま』では麻帆良内ではロクに使えんぞ?」
「いや、とりあえずは修学旅行中に必要なだけだから、麻帆良外で使えれば問題ないよ」
「そうか。では、少々クセがあるものの実力は申し分のない『ヤツ』を貸してやろう」
「それは ありがたいな。いやぁ、本当に助かるよ。本当にありがとうね、エヴァ」
「……フン、この程度、別に構わんさ。それに、これも『契約』の範囲内だからな」
そんな訳で、ナギは無事チャチャゼロのゲットに成功したのだった。
ちなみに、チャチャゼロを貸すことについてエヴァは『契約』の範囲内とか言っているが……それは単なる照れ隠しだろう。
何故なら、エヴァがナギ達を守るのが『契約』なので、護衛として同行する以上『契約』は果たしているからだ。
つまり、ナギの護衛としてチャチャゼロを配備することまでは『契約』には含まれていない = 照れ隠しの方便なのである。
(……本当、エヴァってツンデレだよねぇ)
どうでもいいが、話を終えてナギがエヴァ宅を後にする際、それまでホスト役に徹していた茶々丸が最後の最後で爆弾を落とした。
と言うのも、「マスターに感謝されたからと言って、筆頭下僕の座は譲りませんよ?」と宣戦布告(?)をしたのである。
当然ながらナギはエヴァの下僕になど頼まれてもなりたくないので「そんなことで嫉妬しないで!!」と懇願して置いたが。
……ところで、「筆頭下僕って何だろう?」と言うツッコミを控えたのがナギの優しさだと思う。
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Part.02:これも準備のうち
それは、4月19日(土)のことだった。
木曜は高音の小言(及び理想)をグダグダと聞かされ、金曜はエヴァの照れ隠しをダラダラと聞かされたナギは、
体力的には それほど疲れてはいなかったが、精神的には かなり疲れていたので今日は一日中ゴロゴロしていたかった。
だが、ナギには やらねばならないことがいろいろと目白押しであったので、ゴロゴロなどしていられなかった。
それ故に、ナギはダラけたい自分を叱咤激励して起床し身支度を整え、目的地へ向かったのだった。
ちなみに、その目的地で待っていたのは、竹刀袋を持った小っちゃめなサイドポニテの女のコだ。
つまり、半デコが可愛いと言うか、いろいろと可愛いと評判の『せっちゃん』こと桜咲 刹那である。
「やぁ、おはよう、せっちゃん。今日も いい天気で、昼寝したくなるねぇ」
「おはようございます。と言うか、せっちゃんって呼ばないでください!!」
「え~~、でも、せっちゃん は せっちゃん じゃん? だから いいじゃん」
「確かにそうですけど……もう『せっちゃん』なんて年じゃありません」
「そうかな? オレ的には、せっちゃんは若く見えるから大丈夫だと思うよ?」
「そうでしょうか? むしろ、私の場合は『幼く』見えるのではないでしょうか?」
「……あ~~、うん、確かに せっちゃんは『幼く』見えるかも知れないねぇ」
「反論はできませんが、一言 言わせてください。何で視線が胸の方に行くんですか?!」
「いや、それは気のせいだよ? と言うか、それは男のコの秘密ってヤツだよ?」
「いえ、それはセクハラと言うのではないでしょうか? と言うか、セクハラです」
やはり、せっちゃんは可愛い。ナギの どうでもいい言動にイチイチ反応する辺りが非常に可愛い。
とは言っても、いつまでも こうして和んでいる訳にはいかない。そろそろ本題に入らなければならないからだ。
ナギとしては もう少し会話を楽しみたいところだが、何事もメリハリが大事であるし、刹那も暇ではない身の上だ。
名残惜しいが本題に入ろう。ところで、言うまでもないだろうが、本題の内容は「修学旅行について」である。
「さて、テンションが良い感じになって来たところで、そろそろ本題に入ろうか?」
「そうですね。このまま不毛としか言えない会話を続けても意味がありませんからね」
「まぁ、確かに不毛だよねぇ。それには反論できない気がしないでもないかな、うん」
「そうですね。と言うか、何で視線が下方に行くんですか!? 意味がわかりません!!」
「いや、今回は本気で他意はなかったんだけど? せっちゃんは何を想像したのかな?」
「そ、そんなの知りません!! と言うか、セクハラです!! セクハラ過ぎます!!」
「へぇ? つまり、せっちゃんは不毛についてセクハラ的な想像をした訳なんだね?」
「ち、違います!! 私の想像は関係ありません!! 那岐さんの存在がセクハラなんです!!」
「ちょっ、それはヒドくない? せめて『セクハラが標準仕様』くらいにしとかない?」
「……あの、それはそれで充分にヒドい気がするんですけど、私の気のせいでしょうか?」
「いや、気のせいじゃないよ。オレもそう思う。と言うか、言ってから気付いたんだけど」
「そう言えば、那岐さんって昔から『言ってから失言に気付くこと』が多かったですよね」
「まぁ、反射でしゃべっているからね。直さなきゃとは思うんだけど、直らないんだよねぇ」
「あ、自覚はあったんですね。と言うか、直しましょうよ? 口は災いの元ですからね?」
既にお気付きだろうが、本題に入ろう とか言いつつも全然 本題に入っていない。
「そうだね、これからはもっと気を付けるよ。と言うか、本題に入ろう?」
「あっ、そう言えばそうでしたね。すみません、ウッカリ忘れてました」
「い、いや、別に いいよ。本題を忘れていたのはオレも同罪なんだからさ」
ちなみに、ナギがドモったのは、刹那が「てへっ」と言う言葉が似合う表情で舌をペロっと出して誤魔化したからである。
俗に言う『てへぺろ』だが、刹那の性格的に考えて狙ってやった訳ではなく天然だろう。だが、それ故に その破壊力は凄まじい。
具体的に言うと、それを直視してしまったナギが「危なく萌え死にするかと思った、いやマジで」と言うレベルだったらしい。
あまつさえ「でも、可愛いから許す!! むしろ、許しちゃう!! 可愛いは正義だからね!!」とか壊れたとか壊れなかったとか。
「コホン。それじゃあ、単刀直入に言うけど……せっちゃんの修学旅行中の任務ってオレ達の護衛だよね?」
ナギは軽く咳払いをして気を取り直し、本題を切り出す。ちなみに、ナギの言葉通り、刹那は『あからさまな護衛』である。
と言うのも、刹那 本人は木乃香を陰ながら守っているつもりなのだろうが、他者には常に侍っているのがバレバレだからだ。
ナギと近右衛門の協議の結果――と言うか、協議するまでもなく「せっちゃんは『あからさま』でしょ」と即決だったらしい。
当然、刹那には『あからさまな護衛』であることは伏せられており、木乃香だけでなくナギも守るように通達されただけである。
「はい、そうですけど? それに何か問題があるのでしょうか?」
「いや、他の班員へは どう説明したのかなぁって思ってね?」
「他の班員への説明、ですか? それってどう言うことですか?」
「え? いや、だって、修学旅行中は班別行動の時もあるでしょ?」
「ええ、2日目とかがそうですね。それで、それがどうしたんです?」
「だって、個別行動の時はともかく班別行動の時は根回しが必要でしょ?」
「班別行動時の根回し、ですか? すみません、どう言う意味ですか?」
「いや、だから、護衛のために木乃香の班と同行しなきゃなんだよね?」
「あっ、そう言えばそうですね。指摘されるまで気が付きませんでした」
「まぁ、オレの方は適当に言い包める予定だから問題ないけど……」
「……ご心配ありがとうございます。ですが、その点は問題ありません」
刹那の話では、刹那の班員はエヴァ・茶々丸・美空・龍宮 真名・相坂さよ なので、問題ないらしい。
言うまでもなくエヴァ・茶々丸・美空・龍宮は関係者なので問題ない。それに、さよ(幽霊ちゃん)は欠席確定なので問題ないと判断できる。
まぁ、原作と若干違う構成になっているが、ネギが生徒になっている影響とか明日菜がいない影響とかナギが近右衛門に提案した影響だろう。
と言うか、関係者でもないのに関係者の都合でせっかくの修学旅行を意に沿わないものにするのは気が引けたので、この違いに問題はない。
ナギは目的のためなら犠牲を厭わないタイプだが、だからと言って第三者に犠牲を強いることを善しとしている訳ではないのである。
「それよりも、お嬢様の方はどうなのでしょうか? お嬢様は何も知らされいないんですよね?」
「まぁ、魔法関連のことは知らされていないけど、オレとの婚約は知っているから問題ないよ」
「…………那岐さんとの婚約を知っておられる? それは一体どう言う意味なんでしょうか?」
「簡単に言うと『個別行動の時にオレと実家に挨拶に行く』と言うシナリオになっているんだよ」
もちろん、そのシナリオを描いたのはナギと近右衛門だ。ナギは認めたがらないが、二人は思考と言うか嗜好が似ているのである。
「なるほど。つまり、班別行動の時も似たような理由で同行するんですね?」
「うん、まぁ、『今のところは』そう言う方向に持っていく『予定』だね」
「? 今のところの予定、と言うことは まだお嬢様には話しておられないのですか?」
「その通り。やっぱり、せっちゃんと打ち合わせをしてからの方がいいと思ってさ」
「…………そう、ですか。まだ、班別行動については話しておられないんですか」
あきらかに何かを言わんとしている刹那だが、遠慮しているのか言葉には出さない。
ナギとしては「遠慮せずに、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれればいいのに」とは思うが、
世の中には それができない人間もいることや それが許されない状況もあることは重々理解している。
幸い、今回は『刹那が何を言いたいのか』ナギは予想が付いている。だから、今回は何も問題ない。
「だからさ、せっちゃんやせっちゃんの班とも一緒に行動しようってオレから話して置くよ」
ナギは木乃香と刹那が気不味い関係であることを知っている。だが、現在のナギには これが最大限の譲歩なのである。
二人の仲立ちをすることに否はないが、下手なことをして余計に拗れさせることを懸念しているのも確かだからだ。
つまり、修学旅行を機に二人の関係を改善したいが、それと同時に修学旅行を無事に乗り切りたいとも考えているのだ。
それ故に、ナギは「あくまでも渡りを付ける(機会を作る)だけ」であり、関係修復を積極的には行わないのである。
「…………すみません」
刹那が謝る気持ちはわからないでもないが、ナギとしては「謝られても嬉しくないし、謝られる立場ではない」。
それ故に、ナギは「こう言う場合は謝罪じゃないでしょ?」と「謝罪じゃなくて礼を言って欲しい」と示して置く。
ナギは「暗い顔のせっちゃんも それはそれでいいけど、やはり明るい顔の方がいい」と思っているのである。
「ありがとうございます、那岐さん……」
ナギは後に語る。この時のせっちゃんの笑顔は魅力的だった、と。具体的には「思わずお持ち帰りしたくなった」と。
もちろん、そんなことしたらバッドエンド直行なのはわかり切っているので、ナギは思うだけにとどめたらしいが。
と言うか、持ち帰る以前の問題だ。持ち帰ろうとした時点で「セクハラです!!」と言う感じで返り討ちに遭うだろう。
「あ、そう言えば、お嬢様の班の方々の説得はどうするんですか?」
ナギの どうしようもないとしか言えない内心など露ほども知らない刹那は、あどけない顔そのものでナギに問い掛ける。
無防備としか言えない刹那だが、それはナギを信頼しているが故のものだ。つまり、ナギだから こんなに無防備なのだ。
それを何となく感じ取ったナギが「オレって死んだ方がいいクズなんじゃないかな?」とか思ったのは言うまでもないだろう。
「え? ああ、その件は問題ないと思う」
ネギ情報に拠ると、木乃香の班員はネギ・のどか・夕映・早乙女ハルナなので、特に問題ないと言える。
何故なら、ネギは言うまでもなく問題ないし、のどかも夕映もナギが説得すれば問題にならないからだ。
早乙女は不確定要素だが、のどかと夕映を説得できれば自動的に問題なくなるだろうから問題はないだろう。
ナギの班員に関しては……まぁ、男子なので「女子と回ろうと思うんだけど」の一言で片付くだろうから問題ない。
「まぁ、最悪の場合は、班のメンバーを部分的にコンバートすればいいから大丈夫だろうね」
「それもそうですね。と言うか、その辺りは先生達が配慮すべき部分なのではないでしょうか?」
「麻帆良の教師は『生徒の自主性を尊重するタイプ( ≒ 放任主義)』が多いから仕方がないさ」
「……生徒の個性が強過ぎるせいでもありますから、文句を言いたくても言えないのが現状ですね」
ちなみに、生徒の我が強いのは、麻帆良の「少し変でもスルーされる」と言う『認識阻害結界』が関係しているとも言える。
人間は集団で生活する生物であるため、集団の『和』を乱すことを本能的に抑えようとする。
特に農耕民族である日本人は その傾向が顕著で、空気を読んで個性を表に出さない節すらある。
それ故に、表面的には「個性的な人間が少ないように見える」のが、日本社会なのかも知れない。
つまり、逆説的に「少しくらい個性を出しても問題視されない麻帆良では皆 個性を出している」と推察されるのである。
「まぁ、それはともかく、親書については何か聞いてる?」
「はい。そちらも狙われる可能性があるんですよね?」
「うん、だから『対策』をして置くんで、基本 放置でいいよ」
「対策、ですか? どのような対策を施すつもりなんですか?」
「それは企業秘密ってことにして置いてくれると助かるかな?」
「そうですか……よくわかりませんけど、わかりました」
多少 無理のある話題変換だったが、刹那は問題なく付いて来て しかもアッサリと納得してくれた。
その素直さが眩しく感じるナギは「将来、悪い人間に騙されないか心配だよ」とか思ったらしい。
まぁ、現在進行形でナギとか近右衛門とかに『いいように使われている』から今更と言えば今更だが。
もちろん、ナギにも近右衛門にも刹那を使い潰す気などないが、それでも二人が黒いのは否定できない。
ところで、これは余談となるが……刹那との打ち合わせを終えたナギは、木乃香や のどか達の説得に無事 成功したらしい。
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Part.03:進捗状況の確認
と まぁ、以上のようなことがあった訳だ。
いや、他にも、近右衛門とアレコレ画策したり、神多羅木の書類仕事を手伝わされたり、できる範囲の『準備』をしたり、
修学旅行で お世話になる魔法先生達(瀬流彦先生とか葛葉 刀子とか)と打ち合わせしたり……いろいろあったのだが、
特に語る必要がない――と言うか、伏線的なもののような気がしないでもないので、その辺りは割愛させていただきたい。
さて、そんな訳で、今日に至った訳だが……
正直に言うと『準備』に関してナギができることは これまでで終わってしまったので、実は かなり暇なのである。
まぁ、確認くらいはして置くべきかも知れない。人任せにしたことが多いので、その進捗状況くらいは把握すべきだろう。
と言うことで、ナギは『準備を依頼した一人』に電話でも掛けて『準備』の進捗状況を確認することにしたのだった。
プルルルルル……ピッ
「やぁ、ハカセ!! オレだよ、オレ!!」
『……一体どこの詐欺師さんですか?』
「いや、そう言うつもりはなかったんだけど……」
ハカセと言う単語から おわかりだろうが、ナギの電話相手はハカセこと「葉加瀬 聡美」である。
どうでもいいが、ハカセがナギの言動を「オレオレ詐欺」の様に扱ったのは 時事的な問題(2003年)だからだろうか?
それとも、ナギの思考や言動が詐欺師と大して変わらないことを揶揄しているのだろうか? ……答えは不明だ。
まぁ、ハカセに詐欺師として評価されていたとしてもナギの心は大して痛まないから、どちらでも構わないとも言えるが。
ただ、ビジネスパートナーとも言える相手に詐欺師として認識されることは、問題と言えば問題な気がしないでもないだけだ。
『そうですか……それで、御用件は何でしょうか?』
「いや、例のモノについての進捗状況が気になってね」
『と言うことは、まだメールを見てないんですね?』
ナギはハカセに「とあるモノの開発」を依頼していた。と言うか、メールとは何のことだろうか?
「メール? メールって何のことかな?」
『先程 完成の報告をメールでしたんですけど……』
「……すんません、読んでませんでした」
どうやら、メールが届いていたのは知っていたが、どうせ迷惑メールだと思っていたのでメールを開くよりも電話するのを優先したらしい。
『追加注文でも発生したのかと心配しましたが、どうやら杞憂のようでしたね』
「いや、ホント、すみません。これからはメールチェックしてから電話します」
『え? これから? ……つまり、今後も何か依頼がある と言うことですか?』
「いや、今のところは予定はないけど、その可能性もゼロじゃないし……」
『ああ、なるほど。つまり、アレが社交辞令と言うモノだった訳ですね?』
学園祭の件(超の魔法バラシ騒動)を考えると、今後の付き合いは微妙なところだ。そのため社交辞令だったのだが……
「まぁ、端的に言うと その通りなんだけど……それは言わない約束でしょ?」
『そうなんですか? すみません、私、そう言った世知には疎いもので……』
「……いや、自分で そう言うことを言う人間こそ世知に通じてそうだけど?」
『そうですか? 私は単に自覚があるだけですよ(つまり直す気はない)』
「そうなんだ。でも、本当に世知に疎い人間は自覚することすらできないよ?」
『ああ、なるほど。そう言う考えもありますねぇ。勉強になりましたよ』
ナギの率直な意見としては「自覚しているのに直さない辺りがマッドだよなぁ」だが、当然ながら それを表に出す訳がない。
「まぁ、それはともかくとして……引渡しはどうしようか? 取りに行った方がいいかな?」
『では、本日中に茶々丸に渡して置きますから、明日にでも茶々丸から受け取ってください』
「……OK。じゃあ、明日にでも茶々丸から受け取るよ。で、受け取ったらメールするわ」
『ええ、そうしていただけると助かります。私、人と話すのってあんまり好きじゃないんです』
やんわりと取りに行くことを断られたのは、ナギに会いたくないからだろうか? それとも部外者を研究室に入れたくないからだろうか?
ナギの胸中は複雑な想いでいっぱいになるが、別にハカセに嫌われていても大した問題ではないので、気にしないことにする。
これからも協力してもらう可能性がない訳ではないので気にすべきかも知れないが、今は気にしている場合ではないのだ。
今 大切なのは修学旅行を無事に乗り切ることだ。後のことは後で考えればいい。それ故に、ナギは「じゃあ、ありがとね」と会話を締め括る。
ピッ ツーツーツー……
通話の終了を告げる電子音が寂しさを強調している様な気がしてならないが、
ナギはパタンッと小気味よい音を立てて携帯を閉じることで気持ちを切り替える。
遣り切れない想いは多少あるが、これで憂慮すべきことがなくなったのは確かだ。
(これで、とりあえずの『準備』は整った。後は伸るか反るか、だね)
今までナギは魔法関係の事案に対して、どちらかと言うと消極的な姿勢で臨んでいた。エヴァと交渉をした辺りは積極的だった気もするが、
その内実としては「これ以上巻き込まれないようにするために仕方なく」と言う消極的なものだったので、積極的とは言い切れない態度だった。
だが、今回のナギは違う。京都へ行先が変更される前から、修学旅行を無事に乗り切れるようにプランを練っていた。最初から積極的だったのだ。
では、何故ナギが積極的に魔法に臨むようになったのか? それは、恐らく『守るため』だろう。
パートナーとしてネギを守るため、婚約者として木乃香を守るため、知人としてネギクラスの女子達を守るため……
いろいろ理由はあるが、ナギを突き動かす一番の原料は「那岐を奪った代償として あやかを守るため」だろう。
どう守ればいいのかナギ自身にもわかっていないが、少なくとも物理的な危険から排除して置こう と思ったようだ。
(すべて順調に進んでいるように思えるけど……だからこそ、ここで油断するのは愚の骨頂だね)
これまでとは物事に対する態度が違うので、これまでのように「遣ること成すこと裏目に出る」と言うことはないが、それでも油断は大敵だ。
現在の状況は思わず楽観したくなる程に良好だが、何処に落とし穴があるかわからないのが世の常だ。想定外の事象は起こってしかるべきだろう。
だからこそ、ナギは入念に『準備』をして置く。念には念を入れて、想定外のことにも対処できるように事前にできることは思い付く限り行う。
(オレは、オレが無力であることを知っている。だから己を過信しない。それが今のオレの武器だ)
ナギには経験がある。己を過信した結果、事態を収拾できなくなり、多くのものを失った経験があるのだ。
それが「どう言った内容だったか」までは思い出せないが、過信は身を滅ぼすことを痛いくらいに実感していた。
そんなナギが「準備は十全だ」と過信(油断)するだろうか? いいや、しない。最後の最後まで気を抜かない。
(……しかし、そう言う意味で考えると、魔法に関わらないように足掻いていた頃のオレって滑稽だったなぁ)
穿った見方をすると、魔法と関わらないことが困難な状況にあってもナギは「どうにかなる」と過信していた とも見える。
空回りと言ってもいいくらいに、自力では どうにもならない状況だったのに「まだ挽回できる」と足掻いていたのだ。
足掻くこと自体は間違っていなかっただろうが、足掻き方が間違っていたのだろう。墓穴を進んで掘っていた気がする。
(どう考えても、麻帆良にとどまっていた段階で間違っているよなぁ)
ナギ自身も話題にしていたが、魔法から逃れる一番の方法は「麻帆良から出ること」だった。
それをしなかった段階で、ナギの努力は方向性を間違えていた と言っても過言ではない。
這い上がればいいのに、泥沼に足を突っ込んだ状態で沈まないように足掻いていたようなものだ。
(でも、オレは麻帆良を離れたくなかった。魔法に関わってでも麻帆良にいたい と思っていたんだ)
麻帆良で特待生をするのが一番 楽。そんな理由で麻帆良にとどまっていたが、それはナギが「意識していた理由」に過ぎない。
ナギは無意識下で「麻帆良から離れたくない」と思っていた。そうとしか思えない程にナギは麻帆良にこだわっていからた。
生活を優先していても、ネギと関わっても麻帆良にとどまり続けるのはおかしい。つまり、ナギは麻帆良にこだわっていたのだ。
(きっと、無意識下に那岐がいて「麻帆良を離れたくない」とか思っているんだろうなぁ)
そう考えるのが自然だろう。いや、むしろ、そうでなければ納得できない と言うべきだろう。
ナギ自身には麻帆良にこだわる理由はない。ない訳ではないが、危険を顧みない程ではない。
ココネにちょっとした執着がある気がしないでもないが、安全を優先するレベルに違いない。
(まぁ、それはともかく……これからは足掻き方を間違えないようにしないとなぁ)
世の中には『流れ』と言うものがある。人の力では どうしようもない『巨大な流れ』が、確かに存在している。
それなのに、ナギは『流れ』に逆らって来た。「魔法に関わる」と言う『流れ』を感じながらも無駄な抵抗をしていた。
言わば『流れ』とは大河そのもの。人一人が跳ねたところで波紋にしかならない。つまり『流れ』そのものは変わらない。
(無力な人間でしかないオレがすべきことは『流れ』に逆らうことではない。『流れ』を把握して利用することだ)
今回のケースで言えば、ナギが京都に行くことも京都で事件が起きるのもナギがそれに巻き込まれることも確定に近い『流れ』だ。
つまり、事件に巻き込まれないようにするのも事件が起こらないようにするのも、恐らくは『流れ』に逆らうことになるだろう。
だからこそ、ナギは事件を「最小限の被害で解決すること」を目指す。それが『流れ』に逆らわずに『流れ』を利用する方法の筈だ。
(まぁ、『流れ』は変わりやすいから注意は必要だけどね。舵取りを間違えたら座礁しちゃうかも知れないくらいに)
繰り返しになるが、油断は禁物だ。ナギは もう一度心を引き締め、他にできることはないか 思考を巡らせる。
物理的な準備は し過ぎると行動の妨げになり兼ねないが、心理的な準備は し過ぎても行動の妨げにはならない。
ナギはブラブラと歩きながら、思索に耽るのだった。
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Part.04:それは穏やかな昼下がり
流れ的に このままシリアスな方向が続くと思われたかも知れないが……当然ながら、オレのシリアスは長続きしなかった。
と言うのも、思索に耽りながら歩いているうちに、何故か麻帆良協会(麻帆良学園内にある、ココネと美空がいる教会)に来てしまったのだ。
実に不思議である。もしかしたら、神の意思が介在したのではないだろうか? 流れ的に、と言うか ここが教会である状況的に考えて。
と、とにかく、確認作業を終えた今のオレには急を要する案件がない。つまり、時間に余裕がある と言う訳で、後は言うまでもないだろう?
そう、せっかく麻帆良教会に来たのだから最近不足がちになっている『ココネ分』を補給するしかないのである。
え? 「いや、『ココネ分』って何?」だって? ……ハッハッハッハッハ!! そんなの、言うまでも無く決まっているジャマイカ?
ココネと戯れることによって補給できる精神エネルギーさ。精神的に追い詰められているオレには必要不可欠な『心の栄養』なのだよ?
言わば、某ナルシスな使徒の言うところの『ココネ分は心を潤してくれる。リリンの生み出した萌えの極みだよ』って感じのものだね。
でも、残念ながら、偉い人にはそれがわからんのですよ。つまり、エロい人にしかわからんのですよ。むしろ、エロは世界を救うのです。
……うん、まぁ、若干 自分でも何を言っているのかわからなくなって来てるけど、つまり、オレはココネと戯れたいと切に思っている訳です。
自分でもアウトな思考だとは思うけど、それがオレの偽ざる心情なのだから仕方がない。
と言うか、修学旅行中は補給できないのでストレスで死んでしまうかも知れないくらいだ。
当然ながら、直接的に死ぬんじゃなくて、ストレスで暴走してバッドエンドになる感じで。
と言う訳で――と言うか、こんなことをグダグダ言っててもココネ分を補給できないので、実行に移ろう。
ちなみに、予め言って置くけど……今日のオレは凄いよ? しばらくシリアスに動いていたから、その反動でハンパないよ?
もうね、石をブツケたくなると言うか、警察を呼びたくなるレベルでココネ分を補給しまくる予定だから、心してね?
この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ的な感じで、以下の内容を読む時は覚悟してね? 海のように広い心を持ってね?
で、では、前置きが終わったところで、オレの『幸せ過ぎる現状』を説明しよう。
意気揚々と麻帆良教会に訪れたオレを待っていたのは「ナギ!! ちょうどいいところに来たっスね!!」と言う美空にしては珍しい歓迎の言葉と、
それに続く「シスターに呼び出しを受けちゃったんで、ちょっとの間ココネをヨロシク頼むっスよ!!」と言うオレ的には『渡りに船』な言葉だった。
で、その後は(もうお分かりだろうが)、オレとココネは二人だけの『至福の時』を過ごしている訳だ。そう、我が世の春を謳歌しているのだ。
実は、ココネと出会ってから約8ヶ月の間で、ココネと二人だけで過ごした時間はほとんどない。何故なら、いつも美空がココネにくっついていたからだ。
それ故に、ココネと二人だけで過ごせるこの時間は至福以外の何物でもない。あ、もちろん、タイーホされるようなことはしていないからね?
幼女に手を出すなんて鬼畜にも劣る行為、変態と言う名の紳士の矜持に懸けて できる訳がないさ。むしろ、そんな外道は滅ぶべきだね。
だって、手を出して良いのは中学生以上だからね(世間一般的には18歳以上だろうけど、今のオレは中学生だから中学生以上ならセーフな筈)。
と言うか、幼女は愛でるものだろう? 言わば、幼女とは花の蕾だ。蕾を手折るなど無粋の極み。花開くのを見守るのが『粋』と言うものだ。
まぁ、自分で言っててキモチワルイとは思うが、間違ったことは言っていないと思う。『YES ロリータ、NO タッチ』的に考えて。
と言うか、オレとしてはロリコンは悪ではない。悪なのは実際の幼女に手を出す屑だけだ。それ以外の紳士は変態なだけで悪ではない。
ちなみに、オレはココネを愛でたいとは思うが、欲情はしていない。むしろ、天使のようなココネの微笑みの前に欲望など霧散する。
この笑顔を守るためならば世界を敵に回しても構わない。そう思えるくらいに、ココネが大切なのである。
そんな訳で、特に何をするでもなく こうして春の麗らかな日差しの中を散歩するだけで、充分に幸せだ。
道端に咲いた名もなき花を愛しそうに眺めるココネ、蝶々を見つけて嬉しそうに追い掛けるココネ……
そんなココネを見ているだけで、オレは充分に幸せである。幸せ過ぎて鼻血が出ちゃいそうなくらいだ。
って、うん? 何だ、ココネ?
服のスソをクイクイって引っ張っちゃメーだよ。
可愛過ぎて萌え死にしちゃうじゃないか……
って言うか、鼻血が垂れて困るじゃないか?
……え? 肩車をして欲しイ、だって?
フフフ、OKOK。
むしろ望むところだよ?
ほらよっと。
……どうだ? 高いか?
美空よりも見晴らしがいいだろう?
…………うんうん、気に入ってくれたようだな。
よし、これからは肩車をして欲しくなったら、いつでも言うんだよ?
いつでも肩車してやる――って言うか、いつでも肩車させて欲しいくらいさ。
いや、だって、頬に触れる太股の感触が堪らんのですよ?
しかも、後頭部には秘密の花園が密着しているのですよ?
……これは、何と言う御褒美なんだ!! 素晴らし過ぎる!!
肩車ってこんなにも嬉しいものだったなんて……今までしたことがなかったから気付かなかったぜ!!
オンブもいいと思うけど、肩車もいいものなんだなぁ。
いやぁ、宇宙の真理を また一つ発見したよ。
ありがとう、ココネ……これでオレは後10年は戦えるよ。
そんな訳で(いや、どう言う訳かは不明だが)、ちょっとした回想モードにイってみようと思う。
唐突かも知れないが、ココネとの触れ合いで唐突に思い出したのだから しょうがない。あきらめて回想に付き合ってくれ。
そう、アレは去年のクリスマスのことだった。麻帆良教会で行われるクリスマスイベントの準備を手伝わされたオレは、
その報酬(と言う名の御節介としか言えない物)として、麻帆良教会で厳粛な雰囲気のクリスマスを過ごすこととなった。
あ、いや、手伝いの時に美空とココネが魔法関係者であることに気付いたので、できるだけ関わりたくなかったんだよ?
でも、タダで飲み食いできる誘惑に負けたと言うか、参加を拒否ろうとしたらココネが涙目になったので参加してしまったのさ!!
いくら保身第一主義者なオレでもココネの涙には勝てなかったんだ。と言うか、ココネは泣かせるなど万死に値すると思わないか?
ちなみに、「涙目のココネもこれはこれでイイじゃないか!!」って思ったのはここだけの秘密なので秘密にして置いて欲しい。
コホン、少々取り乱しましたけど、気にせず話を進めよう。
え~~と……そんな訳で、オレは麻帆良教会のクリスマスイベントに参加した訳だが、
イベントそのものは聖歌を歌ったり聖書を読んだりとかして恙無く終わったので特筆することもないが、
イベント終了後の打ち上げと言う名の「普通のクリスマスパーティー」の時に『事件』は起きたのだった。
そう、ココネ(と美空)がミニスカサンタのコスプレを披露してくれたのだよ!!
もうね、それを見たオレの衝撃は凄まじくってね、言語化できないほどの喜びに見舞われて狂喜乱舞だったのさ。
シスターの格好や小学校の制服もイイっちゃイイんだけど、ミニスカサンタの破壊力はハンパなかったね。
ココネの褐色の肌と漆黒の髪が赤い服に映えること映えること。オジサンは鼻血のために出血死するとこでしたよ。
ところで、ミニスカサンタって美人系の女性がやってこそ映えるコスだと思っているかも知れないけど、それは偏見だよ?
アレ、実はロリっ娘がやっても映えるんだよ? って言うか、ロリっ娘がやった方が映えるとしか言わざるを得なかったよ。
って、ミニスカサンタをアツく語ってる場合ではないので割愛するとして、とにかく、ココネのミニスカサンタには萌えたね。
映像が見せられないのが残念なぐらいにオレの心のポートレートに色鮮やかに残されているほどに萌えてしまったさ。
だから、オレは思ったんだ。「赤の似合う美幼女は国宝ものだ」って……
って、オレは何を言ってるんだろう? これでは変態も過ぎるのではないだろうか?
最早 帰れない域に達してしまってないか? と言うか、タイーホレベルではないか?
オレ、まだギリギリセーフだよね? まだ、ここ(シャバ)に居てもいい筈だよね?
って、うん? 今度はどうしたんだ、ココネ?
頭をナデナデするのはやめてくれないかね?
心地過ぎて悶え死にしちゃうじゃないか……
って言うか、鼻血が止まらなくて困るじゃないか?
……え? あそこの屋台で売ってるタイヤキが食べたイ、だって?
フフフ、OKOK。
むしろ望むところだぜ?
(すみませーん、クリームを3つください)
……どうだ? うまいか?
小倉もいいが、クリームもいいだろう?
…………うんうん、気に入ってくれたようだな。
よし、これからは あんこ以外にもチャレンジしてみようね?
新たなるチャレンジが宇宙の真理を導き出すのだからね。
って言うか、幼女にタイヤキが予想以上に似合い過ぎて困る。
こうね、ハムハムって食べている姿が何とも言えない愛らしさを醸し出してるね。
しかも、口の周りに付いたクリームを舌でペロっとする姿が更にイイ。素晴らしい。
アツアツの中華饅を食べている姿もいいけど、タイヤキを食べている姿もいいよねぇ。
フッ、ココネと過ごしていると宇宙の真理をドンドン発見できるなぁ。
もうね、何もかもすべてを放り投げてココネとダラダラ過ごしたいくらいだよ。
って言うか、修学旅行などサボって麻帆良でココネと一緒にゴロゴロしたいね。
むしろ、魔法関係者を残留させる方向で話を進めるべきだった と後悔してるさ。
「って、ヘンタイにも程があるわぁああ!!」
おぉうっ?! な、何て無粋な美空なんだ!! 至福の時間をライダーキックでブチ壊すとは……!!
相手がオレじゃなかったら、今のはクリーンヒットしていて その一撃で対象は即入院だっただろうねぇ。
まぁ、ココネ分を補給しまくったオレは菩薩のように優しいので、こんなことは問題にもならないけどね?
「まぁ、タイヤキでも食べて落ち着けって」
なので、オレは美空の奇襲的な登場に特にツッコむことはせず、普通に対応する。
あ、ちなみに、タイヤキは最初から美空の分も買ってあったので、本当に何も問題ない。
呼び出しから戻って来た美空が「アタシの分は!?」とか騒ぐのは目に見えていたからね。
だからこそ敢えて買わない と言う選択肢もあったけど……今日は気分がいいから優しく対応しようと思ったのさ。
「(もぐもぐ)やっぱクリームは最高っスね――って違う!!
タイヤキなんて食べて和んでる場合じゃないんスよ!!
アタシはナギの変態振りを責めているのであって(以下略)」
……はい、長いノリツッコミ、乙です。
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Part.05:でも、こんな二人が好キ
「……で? 結局、美空は何が言いたいのさ?」
「つまり、ナギはココネに近付くなってことっス」
ナギが「やれやれだぜ」と言わんばかりにミソラに問い、ミソラはナギを威嚇しながら答えル。
そう、つまりは、いつもの会話が始まったのダ。いつもノ、楽しい楽しい会話ガ……
素直じゃないミソラとニブいナギの織り成す、私の大好きな二人の会話が始まったのダ。
「でも、ココネをオレに託して行ったのは美空だろ?」
「うるさい!! ナギがここまで変態だとは思ってなかったんスよ!!」
「いや、オレは変態じゃないよ? 仮に変態だとしても――」
「――変態と言う名の紳士だよ、と言いたいんスね?」
「うん、まぁ、端的に言うと そうなるかも知れないねぇ」
「やれやれ。相変わらず、ナギはワンパターンっスね~~」
「これについては しょうがないだろ? 常套句なんだから」
「でも、他に言い様があるとは思わないっスか?」
「そうかな? たとえば どんな感じのがあるんだ?」
「え~~と、ほら、『紳士と言う名の変態』とか捻ってみたらどうスか?」
「いや、それだと変態でしかないんじゃないか?」
「いや、どっちも似たようなものだと思うっスけど?」
「いや、微妙な違いがあるんだよ? 前者は仮にも紳士な訳だし」
「……本当に『仮』っスよね」
「た、確かにそうだけど!! それでも紳士としての矜持は保っているのさ!!」
「へ~~、それは具体的にはどんな矜持なんスか?」
「まぁ、幼女は愛でるだけで手は出さないことかな?」
「…………それは人として当然のことだと思うんスけど?」
「それができない似非紳士が多いから、紳士としての矜持なんだよ!!」
「何で逆ギレしてんスか!? 今の、アタシが悪いんスか?!」
「悪い!! 何故ならオレは紳士としての矜持を大事にしているからだ!!」
「……あれ? それはつまり、変態だけど紳士としての矜持はあるってことっスか?」
「うん、まぁ、その通りだね」
「つまり、変態であることに関しては否定しないんスね?」
「…………その件については既にあきらめたさ」
「あきらめの悪い男を自称しているクセに?」
「じゃあ訊くけど……オレを変態じゃないと思える?」
「いや、それ無理」
「即答っ?! 少しくらい悩んでも罰は当たらないよ!?」
「でも、悩んだところで答えは変わらないっスよ?」
「それでも即答よりはマシだと思うんだけど?」
「……じゃあ、試しにやり直してみるっスか?」
「いや、やめとく。何かまた即答されそうだもん」
「チッ、相変わらず妙なところで勘が良いっスね」
「図星だったの?!」
「まぁ、それはともかくとして言いたいことがあるんスけど?」
「いや、さすがに『ともかく』で済ませられねーですよ?」
「いや、ここは華麗に流すのが嗜みってものっスよ?」
「いや、そこは流しちゃいけない部分だと思うんだけど?」
「って言うか、ナギのせいで呼び出されたんスから、流してくれてもいいじゃないっスか?」
「うん? オレのせい? また何かをやらかして呼び出されたんじゃないの?」
「ナギのアタシに対するイメージがよくわかる言葉っスね……」
「でも、否定する要素はないよね?」
「まぁ、確かにないっスね。でも、それは『言わぬが花』っスよ?」
「はいはい。で、オレのせいで呼び出されたって どう言うことさ?」
「い、いきなり話題を戻して来たっスね……」
「ん? 脱線を続けたいのなら、望むところだけど?」
「いや、いい加減に本題に進みたいっス」
「じゃあ、戻るけど……オレのせいってどう言うこと?」
「簡単に言うと、ナギが修学旅行中の警備案を新しく提案したせいなんス」
「うん? それが何か問題あったの」
「いや、そうじゃなくて、ナギの提案のお陰で仕事が増えたんスよ」
「あ~~、なるほどぉ。何となく把握できたかも」
「いや、『なるほどぉ』じゃねースから」
「でも、麻帆良で待機するよりはマシだったでしょ?」
「んげっ!! そんなことまで提案していやがったんスか!?」
「だって安全には代えられないでしょ? 相手が形振り構わないようなクズだったらどうするのさ?」
「まぁ、そりゃそうっスけど……でも、ナギのせいで とんでもない事実を知らされたんスよ?」
「とんでもない事実? 何それ?」
「あの金髪ちび無口留学生のエヴァちゃんが『闇の福音』だったことスよ」
「え? そんなこと? って言うか、2年も一緒にいて気付かなかったの?」
「『そんなこと』ぉ? ハッ!! これだから素人は困るんスよ!!」
「ん? 何が どう困るのさ? って言うか、後半はスルーなの?」
「わかってるんスか? 『闇の福音』と言えば、私でも知っている600万ドルの賞金首なんスよ?」
「だから、それがどうしたのさ? って言うか、気付いてなかったことを棚に上げるなって話じゃない?」
「ナ、ナギは『闇の福音』の意味を理解してないんスよ!! 魔法界じゃ、ナマハゲ扱いなんスよ?」
「でも、それは噂でしょ? 実物を見ればガセと言うか、ただの金髪幼女にしか見えないでしょ?」
「確かに そうスけど……『幼女』と言う響きに変態的な要素しか感じないのは気のせいスか?」
「いやいや、別にそんな意味で言ったんじゃなくて、噂はアテにならないって話だから」
「いやいやいや、噂も結構バカにできないんスよ? 身を以って証明してるじゃないスか?」
「……つまり、オレが噂通りの変態だって言いたいのかな?」
「え? そう聞こえなかったんスか?」
「フッ、2年以上エヴァが『闇の福音』とやらだったことに気付かなかったドン亀に何を言われても全っ然平気だもんね!!」
「スルーして置いたのに穿り出すとは……この外道め!! つーか、あんなチビっ娘を伝説の極悪人だと思う方がどうかしてるっス!!」
「確かにエヴァは極悪人には見えないよねー。ってことで、噂は噂に過ぎないってことにして、今まで通りに接すればいいんじゃない?」
「むむ? 確かにそうなんスけど……何かハメられた気がするのはアタシの気のせいっスか?」
「きっと気のせいさ。むしろ、気のせい以外の何物でもないに違いないって」
「…………有耶無耶にしようとしてないっスか?」
「そ、そんな訳ないじゃん!! って言うか、美空の言ってることって ほぼオレへの八つ当たりじゃない?」
「いや、そりゃそうなんスけどね……でも、提案者のクセにヘラヘラしてるのがムカつくんスよね?」
「いや、そう言われても……これでも色々と動いたんだよ? 主に裏工作的な方向で」
「へ~~? それで? 具体的には何をしたんスか?」
「学園長と腹黒い画策をしたり、護衛担当の人と打ち合わせしたりした感じだよ?」
「ホントっスか~~?」
「いや、どんだけオレを疑ってるのさ?」
「いや、単に信じてないだけっスよ?」
「フッ、OKだ。OK過ぎて、一度キチンと話し合いたい気分だね」
「それは奇遇っスね~~? アタシも一度 話し合いたかったんスよねぇ」
……うん、やっぱり、今日も二人は『仲良し』ダ。
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Part.06:ネギのアトリエ
え~~と、最近忘れられている気がしますけど……ボクもちゃんと活動してますよ?
って、ボクはイキナリ何を言ってるんでしょうか?
何か虚空へツッコミを入れなければいけない義務に苛まれてました……
ま、まぁ、気を取り直して、ボクの現況を説明しましょう。
と言っても、ボクはエヴァンジェリンさんの『別荘』でアイテムクリエイションに勤しんでいるだけですけど。
あっ、言うまでもないことでしょうが、『別荘』と言うのは『精神と時の部屋』みたいなところで、
外での1時間が別荘内では1日になると言う、ちょっと不思議な現象が起きる謎空間のことです。
早く年を取ってしまうところがデメリットではありますが、今は時間が惜しいので仕方ありません。
と言うか、ナギさんのためですし、ナギさんとの年齢差も縮まりますから、余り問題ないんですけど。
で、何故にそんなところにいるのか と言うと……それなりに理由があるんです。
経緯としては、ナギさんから「ちょっと作って欲しいものがあるんで作ってくれないかな?」ってお願いされたんですけど……
今のボクの技量では作り切れない質と量だったので、エヴァンジェリンさんに相談したんです(非常に不本意でしたが)。
あ、もちろん、ナギさんに「エヴァンジェリンさんに相談してもいいですか?」と許可を取ったうえで相談しましたよ?
で、相談の結果、「まぁ、自衛手段が増えるのは契約に都合が良いからな」と言う照れ隠しをされて『別荘』を貸してくれた訳です。
ちなみに、事情を説明している時に「まさか小娘の方が従者だったとはな」とか「まんまと騙されていたぞ、なかなかやるな」とか
あまつさえ「だが、私にだけ明かしたことは評価してやろう」とかブツブツ言っていましたけど、勘違いも甚だしいと思いませんか?
だって、エヴァンジェリンさんに従者云々の事情を説明したのは、魔法関係で頼れる選択肢が他になかったからに過ぎないんですよ?
学園長は信用できませんし、タカミチは魔法が苦手ですから、消去法的に日本で頼れるのはエヴァンジェリンさんしかいないだえです。
それに、『別荘』を貸してくれたことには感謝していますけど、ナギさんを拉致したことを忘れるつもりはありませんし……
「……進み具合はどうだ、小娘?」
噂をすれば影、ですね。エヴァンジェリンさんが様子を見に来ました。
ところで、どうでもいいんですけど、『小娘』って呼称はヒドくないですか?
いえ、だからと言って『ネギ』とかって呼ばれるのもシックリ来ないですけど。
「まぁ、予定通りですね」
ボクは内心を隠して事実だけを伝えます。
感情を表に出す愚かさは身に染みましたからね。
ポーカーフェイスって実に大切ですよね?
「そうか、ならば教えた甲斐があるな」
エヴァンジェリンさんはボクの返答を聞いて満足そうに頷いて、ボクにとっては忘れたい事実を嬉嬉として語ります。
……そうです。相談した時に「ついでだから、魔法具精製理論を教えてやろう」とか余計なお世話を焼いてくれたのです。
いえ、ボクとしては時間さえあれば問題なかったので、『別荘』を貸してくれるだけで充分だったんですけどね?
ナギさんから「利用できるものはすべて利用する」と教わっていましたので、内心を押し殺してご教授いただいた訳です。
「ええ、『エヴァンジェリンさん』のお陰ですよ」
まぁ、精神的な苦痛を伴った訳ですけど……教わった効果はシッカリ出ています。リスク以上のリターンです。
それまでは及第点の物しか作れませんでしたけど、それからは充分に納得のいく物が作れていますからね。
ですから(正直、かなり悔しいですけど)エヴァンジェリンさんには感謝せざるを得ませんので、感謝はしています。
「……本来は『師匠(マスター)』と呼ばせたいところだが、一時的に教えただけなので その呼称でも構わんと言えば構わん」
どうやら、何故かはわかりませんが、エヴァンジェリンさんは『エヴァンジェリンさん』と言う呼称が気に入らないようですね。
まぁ、一応は弟子に当たるので、『師匠(マスター)』と呼んであげても構わないと言えば構わないんですけどね?
でも、ボクとしては、『マスター = 主人』ってイメージがあるので、ナギさん以外を『マスター』と呼ぶのはちょっとイヤです。
ですから、エヴァンジェリンさんには申し訳ありませんが、呼称は今のままであきらめてもらいましょう。
「それはともかくとして……お前らは私に対して敬意が足りない気がするんだが、それは私の気のせいか?」
「多分、気のせいじゃないですか? ボクもナギさんも、エヴァンジェリンさんには『相応の敬意』を払っていますよ?」
「『相応の敬意』とは、随分とヤツらしい表現だな? つまり、それだけヤツに毒された……と言うことか?」
「さぁ、どうでしょうね? 何を以って『毒』とするかによってその答えは変わりますから、何とも言えませんよ」
ただ、『たとえ毒されていたとしても、それはそれで構わない』とボクは思ってますけど。
だって、それは「ナギさんによってもたらされた変化」なんですから、ボクには嬉しい限りです。何も問題ありません。
と言うか、そもそもボクはナギさんの傍にいたいだけであり、そのためにナギさんの役に立ちたいと考えているに過ぎません。
ですから、ナギさんのためなら平気で嘘も付きますし、どんな感情でも押し殺しますし、信条すらも捻じ曲げてみせます。
今のボクにとってナギさんはボクの『すべて』ですから、ぶっちゃけ、他のあらゆることは些事に過ぎないんですよねぇ。
「……そうか。まぁ、せいぜい頑張ることだな」
ええ、言われるまでもありません。と言うか、貴女のお陰で作業を中断せざるを得なかったんですけど?
でも、それを言っても詮無きことですので、ここは「お気遣いありがとうございます」とか言って置きますけど。
余計なことを言って事を荒立てるのは よろしくないですからね。感情を表に出さないことくらい覚えましたよ。
そんなこんなで、多少イラッと来ることはありましたけど作業自体は順調です。
と言うか、最低限のノルマはクリアできていますので、今はクオリティを上げる作業に勤しんでいる感じです。
やはり、できる限りナギさんの望む形を用意したいですからね、時間の許す限りクオリティ上昇を目指す訳ですよ。
特に、最悪の場合を想定して作った『ナギさんの護身用武器』なんか、まだまだ改良の余地はありますからね。
最終的には下級のアーティファクト(秘法具)と同等と言えるくらいの出来に仕上げたいと思っていますからね。
あつ、アーティファクトと言うのは魔法具の一種で、ボクの『ゲンソウホウテン』のようにパートナー契約の時の特典として手に入る物です。
ちなみに、普通の魔法具との違いなんですけど……性能も然ることながら、一番の違いは『汎用性』と言うべき部分ですね。
普通の魔法具が「誰でも使える」ことを目的として作られているのに対し、アーティファクトは「使い手を選ぶ」ように作られています。
言わば、大量生産とオーダーメイド品って感じで、汎用性を捨てた結果として(高価で貴重ですが)普通の物よりも性能がいいんですよ。
で、そんなアーティファクトですが、やはりピンからキリまでありまして、ヘタなアーティファクトは強力な魔法具に劣ります。
つまり、ボクの作った『ナギさんの護身用魔法具』は そのレベルに引き上げる予定な訳で、若干の自画自賛も含まれている訳です。
でも、それくらいの意気込みがあるんです。だって、ナギさんの最終防衛手段ですからね、気合が入らない訳がないじゃないですか?
まぁ、最終ですから、これを使う機会が訪れないのが一番 良いんですけど、クリエイターとしては実際に使ってもらいたいものです。
そして、「よくやったな、ネギ」って感じでナデナデしてもらえたら……ボクはもう それだけで幸福ここに極まれりって感じですよ。
ですから、時間の許す限りクオリティを上げようと思いますっ!!
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オマケ:神蔵堂さん家の殺戮人形
「たっだいま~~」
ココネ分を十全に摂取したナギは麻帆良教会を後にし、自室に戻った。そして、机に置かれた『人形』に向かって挨拶をしたのである。
ちなみに、その人形は3頭身くらいの幼女チックな人形であるため、ナギが『お人形に話し掛けているアブナいヤツ』にしか見えない……が、
人形と言う段階で既におわかりだろうが、この人形は『普通のお人形』などではなく『チャチャゼロ』なので、別にアブナくはない。
まぁ、別の意味でアブナいし、ナギがアブナいことに変わりはないが、ナギは人形を愛でている訳ではないことだけは明言して置こう。
『ヨォ、遅カッタジャネーカ』
チャチャゼロは見た目に似合わない乱暴な口調(だが見た目に似合うカタコトな口調)でナギを出迎えるが、
言葉と裏腹に まったく出迎えている空気ではない。きっと長時間放置されたのが気に入らないのだろう。
準備を終えて何もすることがない筈の休日だと言うのにフラフラ出歩いていたのだから ある意味で当然だ。
「いやぁ、相変わらずココネが可愛過ぎてさぁ。ついつい時間を忘れちゃったんだよねぇ」
『……オマエ、ソレヲ本気デ言ッテルンダトシタラ、相当ヤバイゾ? マジ気ヲ付ケロヨ』
ナギは空気に気が付いていてスルーしたのか、それとも素で気が付いていないのか、言い訳にもなっていない言い訳を述べる。
もちろん、前者と受け止めたチャチャゼロが返した反応は冷た過ぎた。無機質な瞳を更に無機質になった気がしないでもないくらいだ。
ちなみに、チャチャゼロは動けないため しゃべれないが、意識自体はあるので『念話』で意思の疎通は可能だったりするのである。
「安心しなって。さすがに欲情はしてないからさ」
『イヤ、ソウ言イウ問題ジャネート思ウンダガ?』
余りにも冷たいチャチャゼロの反応にナギは思わず涙目になるが、どうにか堪えて冗談めかして切り返す。
だがしかし、そんなナギを嘲笑うかの様にチャチャゼロはナギの言葉を容赦なくバッサリと切り捨てるのだった。
まぁ、チャチャゼロの言っていることは常識的に考えて正しいので、この場合はナギに過失があるだろうが。
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ところで、話は変わるが……ナギと近右衛門が想定している護衛の布陣は以下の様になっている。
あからさまな護衛 : 刹那・タカミチ・神多羅木・刀子・(ネギ)
目立たせない護衛 : エヴァ・茶々丸・龍宮
隠す護衛(伏兵) : チャチャゼロ・瀬流彦
当然、これはあくまでも『ナギ達の護衛』であるため、他の関係者達も『一般人の護衛』として存在している。
特に、ニンジャ少女やカンフー少女や超などの『特殊な一般人』達は、本来なら『一般人』に区分される筈なのだが、
護衛として期待できる戦力を有しているため本人達の与り知らないところで『一般人の護衛』としてカウントされている。
と言うか、関係者であり刹那と班が一緒でもある美空は、戦力外と見なされているので誰の護でもないくらいである。
ところで、ネギが( )で表記されているのは、護衛対象であると同時に『ナギの護衛』として扱われているから らしい。
また、表記はされていないが、18話でナギが近右衛門に提示した交換条件である『西から派遣される人材』が
現地(京都)で合流する段取りになっているため、この場で列挙された人数よりも関係者の数は増えることになる。
つまり、一般人達の安全を充分に考慮していることになり、保身以外にもナギが気を遣っている証左となるだろう。
……どうでもいいが、瀬流彦が『隠れた護衛』に分類されている理由については「言わぬが花」と言うものだと思う。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「修学旅行の準備の筈が、せっちゃんとココネに持って行かれた」の巻でした。
一応は、主人公が修学旅行中に「計画通り!!」とか言うためのフラグ作りの筈だったんですが……
せっちゃんとココネを書いているうちに興味が移って、最終的には あんなんになった と言う訳です。
ちなみに、ミニスカサンタネタに関してですが、敢えてノーコメントでお願いします。
……では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2009/12/23(以後 修正・改訂)