第23話:お約束の展開
Part.00:イントロダクション
引き続き、4月22日(火)、修学旅行一日目。
予定通り清水寺の見学を終えたナギ達は、
予定通り宿泊先である嵐山のホテルに着いていた。
そう、とりあえずは予定通りに事が進んでいたのだった。
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Part.01:偽りだらけの会話
(はぁ、どうにか無事にホテルまで来られたな)
ホテルの部屋に移動したナギは、ホッと一息吐いていた。まだまだ序盤だが、心身の安寧のために小休止は必要だろう。
ちなみに、男子と女子の宿泊先自体は一緒だが、階層は愚か建屋すらも違うので、実質的には別々に泊まっているに近い。
だが、それでも敷地は一緒だ。女子部屋に侵入しようとするバカ対策のために、夜間は教師達が見張りに立つことだろう。
(しかし、昔は教師を鬱陶しく感じたものだけど、こうして考えてみると同情を禁じ得ないなぁ)
現在はクラス毎(つまり、男女別)に夕食を食べ終えた状態であり、あとは就寝時間(22:00)まで入浴時間も含んだ自由時間となっている。
ところで、警備体勢についてだが……瀬流彦が『結界』を張ったため余程の手練でない限り侵入できないうえに浸入されても察知できる状態である。
原作の様に刹那に張ってもらってもよかったのだが、餅は餅屋と言うことで瀬流彦に任せたらしい(刹那は戦闘要員であり、術は補助程度でしかない)。
「と言うことで、第一回『神蔵堂の暴露大会』を始めたいと思いまーす!!」
何が「と言うこと」なのだろうか? ナギが思索に耽っていたのは確かだが、それでも周囲の状況は確認していた。
ナギの記憶が確かならば、各々が適当にくつろぎながら今日の出来事(主に女子関連)を話していただけだった筈だ。
つまり、フカヒレの言葉(先の言葉の発言者はフカヒレだった)は脈絡がなく、ナギが「何で?」と思うのは自然である。
だがしかし、疑問に思ったのはナギだけだった。と言うか、周囲はフカヒレの味方だった。
「だ、だって、和泉とのことが気になるし……」
「……ボクはトシの意見に賛成だからかな?」
「オレは赤髪幼女と金髪幼女が気になるからだ!!」
「オ、オレはホラ、言わなくてもわかってるだろ?」
「オレは この前のメイドさんだぁあああ!!」
それぞれ、田中・平末・白井・フカヒレ・宮元の言葉である。と言うか、実に わかりやすい連中である。
どうでもいいが、田中ラブな平末が田中を応援しているっぽく見えることに違和感を覚えるかも知れないが、
平末の狙いは「玉砕した田中の心の隙に付け込むこと」だと思われるので、その違和感は気のせいである。
もちろん、田中は普通に応援されていると勘違いして友情の素晴らしさを感じているのは言うまでもないだろう。
(って言うか、コイツラ予想通りにメンドくせー)
まぁ、百歩 譲って暴露話をするのは修学旅行の定番なので吝かではない。
それに、健全な思春期男子が気になるのは女関係であることも承知している。
だがしかし、それでもナギが面倒臭いと感じてしまうことは変わらない。
(う~~ん、どうしよっかなぁ)
当然ながら、ありのままに実情を語るなどと言う愚を犯すつもりはナギにはない。
何故なら、ナギの人間関係は(見方によっては)モテている様に見えるからだ。
しかし、だからと言って適当なことを言うのはバレた時が面倒臭くなるので悪手だ。
(いっそのこと、実はオレ二次元にしか興味がないんだ とか言ってみようかな?)
そんなこんなで、ナギが煮詰まりつつあった時、
デデデデデ♪ デデデデデ♪ デデデデデッデデデ~~♪♪
と言う感じの 世にも奇妙な音楽が聞こえて来たのだった。
うん、まぁ、ナギのケータイが鳴った と言うことである。
ちなみに、この曲は通常着信(登録の無い相手からの着信)なので、電話相手は不明と言うことである。
知らない相手だから世にも奇妙な音楽にする、と言うセンスは正直「それはどうよ?」と思いたくなるが、
世の中には「わかりやすいのが一番だ」と思う人間もいるので仕方が無い。そう言うことにして欲しい。
「おぉーーっと!! ケータイが鳴ってるってことは何か重大な用件かも知れないから出ないといけないよね!!」
ナギは ちょっと(と言うか、かなり)態とらしく着信をアピールしながら、自然な動作で部屋の外に移動する。
つまり、着信を理由に その場から逃げたのである。着信してから咄嗟に思い付いた方法としては悪くは無いだろう。
まぁ、時間稼ぎにしかならないが、時間が経てば熱が冷めて興味が別のことに移る可能性もあるので大丈夫な筈だ。
と言うか、タイミングを考えると着信の相手への対応の方が重要なので、フカヒレ達のことは放置してもいいだろう。
そんな訳で、通話内容に話題を移そう。
『ヤァ、神蔵堂クン。忙しいところ電話して悪かったネ?』
「いや、いいよ。それよりも、何の用件かな、超 鈴音?」
『決まっているダロウ? 「例の件」ダヨ、神蔵堂クン』
「だけど、ソレは修学旅行の後でいいんじゃなかったっけ?」
『確かに そう言たガ、少々【予定】が変わりそうでネ?』
「ふぅん? つまり、そっちの都合で予定を変更したい、と?」
『まぁ、そう言われてしまうト、そうダとしか言えないネェ』
まぁ、会話からわかるだろうが、通話相手は未来人にして火星人な、色々と設定を詰め込み過ぎた天才少女――超である。
ちなみに、ここで言う「例の件」とはハカセへの依頼に対する報酬のことで、邪魔の入らない環境でナギと超が話し合うことである。
当初の予定では「修学旅行の後に折を見て」と言うことだったので、何らかの思惑があるのか、超が急遽 予定を繰り上げて来た訳だ。
当然ながら、律儀に超の思惑に付き合う義理などナギには無い。無いのだが、超が勝算もなく提案をして来たとも思えないのが実情だ。
つまり、ナギに付き合う気が無かったとしても、最終的には付き合わされる可能性が高いため、対応は慎重にすべきなのである。
「とりあえず、何故に予定を変更をしたいのか、訊いてもいいかな?」
『まぁ、簡単に言うと、【予定】が変わってしまっているから、だネェ?』
「……取り方によっては言葉遊びをしているようにしか聞こえないね?」
『だが、キミは別の意味で受け取ってくれた と思うのハ私の気のせいカナ?』
ちなみに、超は「ナギが『超の想定していた予定』として受け取った」と考えているが、ナギは『超が知っている歴史』として受け取っている。
「いや、気のせいじゃないよ。ちゃんと『別の意味』で受け取っている」
『そうカ、なら よかタ。では、私の要求を飲んでもらえるカネ?』
「要求? ああ、予定を変更したい件ね。まぁ、別に構わないけど?」
『それは有り難いネ。では、今からホテル前の橋まで来てくれるカナ?』
「今から? まぁ、別にいいよ。『ちょうど』外に出たところだからね」
『フフフ、そうカそうカ。それは実に「いいタイミング」だたネェ?』
「うん、そうだね。まったく以って、良過ぎるくらいにタイミングがいいねぇ」
まるで、超の描いたシナリオに沿っているかのようなタイミングに、ナギは「思い通りにいくのはここまでさ」とニヤリと笑うのだった。
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「やぁ、超 鈴音」
待ち合わせ場所(渡月橋とか言う橋)に着いたナギは、既に待っていた超へ呼び掛ける。
「いやぁ、すまなかたネ、急に呼び出したりシテ」
「気にしないで。その呼び出しに救われたところもあるから」
「そうかネ? そう言うことなら、気が楽になるヨ」
「うん。だから、『その点について』は気にしなくていいよ」
超は缶コーヒーを差し出しながら謝罪をして来たが、心が籠もっていないのは明白なのでナギは缶コーヒーを受け取りながら謝罪を軽く受け流す。
「むしろ、最近、『蝿』がうるさいことに関して気にして欲しいんだけど……それは どうかな?」
「……しかし、『五月蝿』と書いて『うるさい』と読むからネェ。春なのデあきらめてくれないカ?」
「そっか。それじゃあ、強力な殺虫剤でも調達してくれないかな? それくらいならできるでしょ?」
「いや、それも無理だヨ。蝿はただ うるさいだけじゃないカラ、どうにか我慢してもらいたいネェ」
ちなみに、ナギは鎌を掛けただけで確信は無かった。内心では「本当にスパイロボを貼り付けてたんだ」と軽くショックを受けているくらいだ。
「それならば仕方ないね。それじゃあ、雑談は この辺にして……そろそろ『本題』に入ろっか?」
「まぁ、私も そうしたいのだガ……残念ながら、現状では『触り』しか話せないんだよネェ」
「……じゃあ、何で このタイミングでオレを呼んだのさ? 『触り』だけでも話したかったの?」
「まぁ、そうとも言えるシ、そうとは言えないネェ。何故なら、すべては『キミ次第』だからネ?」
現状は何処に目や耳があるかわからない。それ故に『本題』を話すことはできないのだろう。
そう判断したナギは、促されるまま缶コーヒーを飲む振りをして、その側面に付いていたシールを回収する。
「なるほど。つまりは、そっちの御眼鏡に適わなければ『本題』など話せないってことだね?」
「まぁ、そう言った側面がないとは言わないガ……私は そこまで傲慢なつもりはないヨ?」
「へぇ? 試金石ではないと言うのなら、それじゃあ どう言うつもりで『触りだけ』話すんだ?」
「そんなの決まているネ。キミを測りたいのではなく、キミが信用してくれるか を見極めたいのサ」
ナギが回収したシールには、5センチ四方のモザイク(あきらかにQRコード)が描かれていた。
「へぇ、つまり、オレを測るのではなく、オレにそちらを測れ と?」
「その通りサ。信用してもらうニハこちらから信用するのが筋ダロウ?」
「なるほどねぇ。だから、本題を話すにはオレ次第って言ったのか」
「そうサ。これで信を得られないナラ、キミのことはあきらめるヨ」
恐らくは、この会話が終了して安全地帯に移動したらQRコードを読み取って欲しい と言うことだろう。
そして、QRコードに記され内容(もしくは、記されたアドレスの先にある情報)で判断して欲しい と言うことだろう。
「わかったよ。とりあえず『今のところ』は信用することにして置くよ。だから、麻帆良に戻ったら『本題』を話して欲しい」
「フム。その言葉、有り難く受け取って置こウ。だけど、『今のところ』と言うと麻帆良に戻るまでに心変わりするかも知れないネ?」
「まぁ、そうかも知れないね。人間と言うのは感情の生き物だからねぇ。心変わりするとも心変わりしないとも言い切れないよね?」
「そうだネェ。だから、麻帆良に戻った時まで私を信用してくれていたラ『本題』を話そうと思うのだガ……それで、構わないネ?」
了承を伝えるためにナギは『今のところ』を強調し、超は それに「判断は後でいい」と返した。そう、これで会話は終了した訳だ。
「うん、それで問題ないよ。要はオレが信用し続ければいいんだから、ね」
「……そうだネ。とりあえずは、そう言ってもらえただけでヨシとするヨ」
「そうか。それじゃあ、『続き』は麻帆良に戻ってからってことだね?」
「そうだネ、今日のところはお開きと言うことデ『詳しく』は戻ってからだネ」
それ故に、不自然にならないように当たり障りのない会話を交わして、この場での会話を終えたのだった。
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Part.02:湯っくりしていってね
ダミーのために他のQRコードも用意しつつ超のQRコードをチェックし終えたナギは、部屋に戻――りはせずに風呂に向かう。
ちなみに、風呂に向かう と言ったが、大浴場に向かう訳ではない。そんな危険をナギは犯さない。
何故なら、お約束的に「男湯と女湯を間違えてバッタリ」とか言う展開がありそうだからだ。
通常なら有り得ないことだが、ナギは「有り得なくても起きる時は起きる」と警戒しているのだ。
それ故に、ナギは茶々丸に予約して置いてもらった『個人風呂』に向かっているのである。
(フッフッフ……これで「実は混浴で風呂場でバッタリ!!」と言うパターンも回避できるね。
ああ、何て用意周到なんだろうか? 伊達に『準備不足で泣きを見て来た』訳じゃないさ。
微妙にブルーな気分になりそうだけど、とにかく、今回のオレに抜かりは無い!! ……筈だ)
だがしかし、ナギ詰めが甘かった。そう、茶々丸と言う危険要素を忘れていたのである。
何故なら、意気揚々と浴場に行ったら、エヴァが「どどーん」と仁王立ちしていたからだ。
しかも、「遅いぞ!! 神蔵堂ナギ!!」とか意味不明なことを言って来たのだから、どうしようもない。
ちなみに、エヴァもナギも全裸ではなく水着を着ているので、最悪の事態は防がれてはいるが。
「え~~と、何をしていらっしゃいますか、金髪幼女殿?」
だが、最悪ではないだけで充分に劣悪な事態であることは変わらない。
それ故、ガラスのように脆い自我が身を守るために現状の認識を拒むので、
ナギは訊くまでもなくわかりきっていることを敢えて訊ねざるを得なかった。
「き、貴様が私の為に風呂を予約したと聞いたからな、し、仕方なくだ!! 仕方なく!!」
はい、答えになっていません。あきらかに「何してんの?」と言う質問の答えにはなっていない。
と言うか、ナギがエヴァのために風呂を予約した なんて事実はない。あきらかに虚実だ。
そして、仕方なく何をしている と言うのだろう? 仕方なく仁王立ちしたのだろうか?
「し、仕方がないから、特別に私の背中を洗わせてやろうと待っていてやったのだ!!」
どうやら、答えになっていないと判断したナギが早計だったようで、答えになるように続きがあったようだ。
だが、何をどう間違えたら「仕方がないから」で両者を接続できるのだろうか? 非常に疑問である。
仮に(エヴァの言う様に)ナギがエヴァのために風呂を予約したとしても、ナギがエヴァの背中を洗うことには繋がらない。
むしろ、ナギへの礼としてエヴァがナギの背中を流すのが適当ではないだろうか? どれだけ素直じゃないのだろうか?
(って言うか、茶々丸さん……誤情報を流すのはやめてくれませんか?)
諸々の手続きが面倒だったので茶々丸に丸投げしたナギが悪いと言えば悪い。それは間違いない。
だが、だからと言って、事実を捻じ曲げてエヴァを誘導するのは何かが間違っているのではないだろうか?
と言うか、そもそも「この三国一の果報者め!!」って感じでナギを睨んでいるのは何故なのだろうか?
いや、茶々丸だから仕方がない で済まされてしまう気がしないでもないが、済ませてはいけない気がしないでもない。
「……誤情報とは心外ですね。私は『神蔵堂さんが個人風呂を予約した事実』と『予約の動機の推測』を伝えただけですよ?
それと、睨んでいる件についてですが、私は防水仕様ではありませんので、濡場――もとい水場は御法度であるため、
マスターの背中を流すという栄誉を賜れなかった故に『軽く』嫉妬しているだけです。ですから、気にしないでください」
もちろん、『事実』は正しい。だが、『動機の推測』は誤りだ。まぁ、推測なので間違っていても咎められないのだが。
「そもそもの問題として、オレは「こう言った展開」になるのを回避したくて個人風呂を予約したんだけど?
それと、「残念ながら、私には見ているだけしかできません」ってニュアンスで傍観しているようだけど……
茶々丸の場合は「見る = 盗撮」ってことだよね? オレには喜んでいるようにしか見えないんだけど?」
ナギは悪意のある推測に「態とだろ!?」とツッコみたいのを抑え、別の部分をツッコんだ。
「まぁ、簡単に言うと、マスターが他の女子生徒との入浴に難色を示したからです。
具体的に言うと『ガキ共と風呂に入るなどテレるだろうが!!』って感じでしたね。
ですので、どうせなら神蔵堂さんが苦しむ様も見たかったので、こちらに来ました」
安息の地を汚されたのに酷い言い分である。しかも、後半のツッコミは鮮やかにスルーだ(さすがである)。
「ええい、茶々丸!! 余計なことをグダグダ言うな!! と言うか、そんなこと言っとらんわ!!
それと神蔵堂ナギ!! 私は別に貴様を苦しめるつもりなどなかったんだからな!! 勘違いするなよ!!
私は、茶々丸が『神蔵堂さんが個人風呂を用意しているそうです』とか言って来たので(以下略)」
まぁ、エヴァのツンデレも さすがと言えば さすがだが……ナギが「はいはい」と食傷気味なのは言うまでもないだろう。
「――って、そんなとはどうでもいいだろうが!! いいから、サッサと洗え!!
いくら春とは言っても、まだまだ外は寒いから冷えてしまうだろうが!!
今の私は ただの人間と大差ないので、このままでは風邪を引いてしまう!!」
もちろん、ナギが「いや、そんなこと言われても、勝手に待っていたのはエヴァでしょ?」と思ったのは言うまでもないだろう。
「って言うかさ、ふと疑問に思ったんだけど……水着を着ている人間を洗う意味ってあるの?
いや、だって、布地越しに洗うとしたら、それは水着を洗っていることと変わらないよね?
それに、水着の中に浸入して洗うとしたら、それはそれで水着を着ている意味を失くすよね?」
まぁ、後者については視覚的に隠れている点で意味はあるが、ナギにしては真っ当なツッコミかも知れない。
ところで、一応は弁解して置くが、ナギは「水着を脱げ」と言いたい訳ではない。むしろ「水着の中に手を入れさせろ」と言いたいのである。
あ、いや、そうではなくて、ナギの目的は「エヴァの背中を洗うことを遠回しに拒否して、ついでに風呂から出てってもらう」こと らしい。
いくら変態なナギでも、幼女にしか見えない相手と風呂に入るのは気が引けるのである。変態紳士を名乗るだけあって、最低限度の節度はあるのだ。
(正直に言うと、エヴァの背中を流すのは非情に魅力的だけどね?)
エヴァの水着は旧式のスク水(紺)であり、しかも「え う゜ぁ」と言う名札が付いている仕様だ。
そのセンスに脱帽した と言うか、完敗と言うか、明らかに 狙ってやってるとしか思えない と言うか、
むしろ茶々丸が用意したとしか思えない と言うか、茶々丸に乾杯 と言うか、そんな感じなのである。
いろいろな問題をすべて放り投げたくなる魅力が そこにはあるが、放り投げられないのである。
「う、うるさい!! つべこべ言わずに、男なら黙って洗え!!
と言うか、何か文句があるなら、大声を出して人を呼ぶぞ?
貴様はそれでもいいのか? 悪評どころか逮捕レベルだぞ?」
内心の欲望を抑え婉曲的にエヴァの退出を待ったナギだったが、エヴァには効果がなかった。むしろ、逆効果だったくらいだ。
どうでもいいが、ナギの口癖を用いたのだとしたら「逮捕レベル」ではなくて「タイーホレベル」だろう(実にどうでもいい)。
いや、そんなことを気にしている場合ではないのだが、そんな場合ではないからこそ気になるらしい。つまり、逃避だ。
どうやら、変態なナギでも逮捕はイヤなようだ。つまり、ここは大人しくエヴァと入浴するしかない、と言うことである。
「はいはい……仰せのままにいたしますですよ、おぜうさま」
内心はともかく、ナギは「仕方がないなぁ」と言わんばかりの態度でエヴァと入浴することを受け入れた。
もちろん、背中を洗う際は水着越しなんて生温いことはせずに水着の中に手を入れたのは言うまでないだろう。
何か「この絹の様でいて餅の様な絶妙な感触が堪りませんなぁ」とか思っていたらしいが気のせいに違いない。
どうでもいいが、茶々丸が ものっそい怖い目でナギを睨んでいたらしいが、その理由は考えてはいけないだろう。
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Part.03:想定外の事実
『……で? 本題は何? 単に風呂に入りに来た訳じゃないんでしょ』
そんな訳でエヴァと入浴と言うアクシデントを挟んだが、ナギは目的通りに露天風呂を堪能し心身ともにリラックスした。
もちろん、ここは敵地も同然なので完全に気を抜いた訳ではない。それでも、充分に心身を休めることができた。
それ故にナギは「棚上げしていた問題」、つまりエヴァが「ここに来た理由」を(『念話』で)訊ねることにしたのである。
『ふむ。やはり貴様は面白いな』
ナギからの問い掛けに、エヴァは感心した様な反応を返す。まるで子供の成績を喜ぶ母親の様な反応だ。
評価されて悪い気はしないが、質問を無視された形になったので感心されたナギとしては微妙な気分だが。
と言うか、エヴァに母親面されること自体が微妙だ。ナギにとってエヴァは『年上の妹』くらいの扱いなのだ。
『ああ、本題だったな。大丈夫だ、忘れていない。ただ、貴様の抜け目のなさを評価したくなっただけさ』
ナギの無言の非難を汲んでくれたのだろうが、何度も言う通りエヴァに そんな評価されてもナギには微妙だ。
特に、ナギ的には抜けまくっているエヴァから「抜け目がない」と評価されても、いまいちシックリ来ない。
気分としてはチルノに「アンタも天才ね」とか評価される様なものなので、逆に不安になるくらいだ(大分 失礼)。
『では、本題に入ろう。実は「例の報告」をして置こうと思ったのだよ』
エヴァは「まぁ、貴様のことだから予想は付いているだろうが」と前置きをして本題に入ったが、
ナギとしては「報告だけなら『念話』で済むのでは?」と思っているため、実際は予想とは少し違う。
必要がないのに対面を求めた――つまり、対面せざるを得ない理由ができた と予想していたのである。
『まぁ、貴様の疑念は尤もだが、「念話」は稀に傍受されることがあるので機密情報の遣り取りには向かんのだよ』
ナギの疑問を察したエヴァは『念話』のみでの報告をしなかった理由を説明し始める。
エヴァの説明によると、極稀に『念話』などの精神波を傍受できる体質の人間がいるらしく、
敵陣営の中に そのタイプの人間がいないとも限らないので、念のために対面を求めた らしい。
当然、ナギとしては「そう言うことは前以て言って欲しいんだけど?」と言う気分になったが。
『……いや、傍受できるヤツがいて且つ私達の会話を聞いている可能性は極めて低かったから大丈夫だ』
言い換えると「盗聴されることは まず起こり得ないだろうが、用心に越したことはない」と言うことである。
これまで機密情報に関する会話はエヴァの家(防諜完備)でしかしていなかったので大丈夫なのだろう。
危険だったのは電車の中くらいだが、敵の勢力圏ではなかったので大丈夫な筈だ。つまり、用心すべきなのは今くらいだ。
『ま、まぁ、そう言うことだな。相変わらず理解が早くて助かるぞ、神蔵堂ナギ』
繰り返しになるが、ナギはエヴァに評価されても余り嬉しくない。と言うか、母親が子供を褒めるような態度は正直 言うとやめて欲しい。
ビジュアル的にはエヴァの方が子供だし、何よりも背伸びしようとしている子供にしか見えないので、微笑ましくなってしまうからだ。
と言うか、誤魔化そうとしているが、京都に来る前に傍受云々を伝えて置かなかったのは京都旅行に浮かれて忘れていただけに違いない。
『う、うるさい!! 誰かと「念話」で連絡を取り合う機会が少なかったんだから仕方が無いだろう?!』
言われてみれば、エヴァは「人形は用いるが、基本的には一人で戦い抜いて来た『孤高の戦士』」だ。
つまり、仲間との連携やら情報共有やらは経験がないに等しいため、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
だが、だからと言って、そう堂々と「ぼっち だったので連絡とか苦手です」と豪語されても困るが。
『ええい、黙れ!! サッサと本題に入るぞ!!』
何か勢いで誤魔化そうとしている気がしないでもないが、ここは敢えてスルーして置くべきだろう。
と言うか、ダラダラと不毛な会話を続けても意味がないので、スルーするのが最善に違いない。
そんな訳で、エヴァは直接触れ合った者同士にしか伝わらない極めて秘匿性の高い『念話』(以下『秘匿念話』)を展開した。
『そもそも、ヤツから拾えた情報は大きく分けて2つある』
『ほほぉう? それじゃ、その1つ目は何なのかな?』
『身も蓋も無く言うと、ヤツの企んでいる「計画」の内容だ』
『なるほど。じゃあ、2つ目が「千草と その協力者」かな?』
『……まったく、説明のし甲斐がないヤツだな、貴様は』
『さっきは「理解が早くて助かる」とか言ってなかったっけ?』
『フン。よく言うだろう? それはそれ、これはこれ とな』
相変わらず我儘な幼女である。だが、これがエヴァなので最早ナギは気にならない。むしろ、気にすべきはエヴァが入手した情報だ。
『ってことで、まずは「計画」について教えてくれない?』
『それは別に構わんが……何が「ってことで」なんだ?』
『いや、そこは軽く流すのが優しさってヤツじゃない?』
『……まったく、貴様と話していると未知との遭遇が多いよ』
『それは婉曲的に褒められている、と受け取って置こう』
『好きにしろ。解釈は自由だからな、いちいち口出しはせん』
『そうさせてもらうよ――って言うか、計画を教えてくれない?』
『わかっている。と言うか、脱線したのは主に貴様のせいだぞ?』
『それは わかってるよ。だから、そこは流して先に進もうよ?』
脱線してしまう癖があることはナギにも自覚はある。自覚はあるが、直せないのである。だからこそ、癖なのだろうが。
『では、先に進むが……ヤツの企んでいた計画は3種類ある。わかっているな?』
『ん? ん~~、① イヤガラセ、② 親書奪取、③ 木乃香の拉致……ってとこ?』
『ああ、その通りだ。①と②は列車の中で起き、③は列車の中で教えたな?』
『うん、そうだね。だから、それぞれの中身について知りたいんだけど?』
『……これも列車の中で教えたが、基本的に「行き当たりバッタリ」なんだよ』
『うん? まさか、行動方針だけしか決まってなかったとか言わないよね?』
『残念ながら「隙を見て」とか「うまいことやって」とかのオンパレードだったな』
どうやら言うようだ。行き当たりバッタリだ とは聞いていたが、まさか そこまで行き当たりバッタリだったとは……ナギも想定外である。
『比較的まともな情報としては、①と②は布石に過ぎず本命は③のようだ と言うことだな』
『へぇ、そうなんだ。それなりには考えてはいるようで、変な話ちょっとだけ安心したよ』
『安心するには早いぞ? 何故なら、肝心な中身が曖昧だからだ。まぁ、拾えた情報では、だが』
『……そ、そうか。でもさ、少しは拾えたんだよね? どんな情報でもいいから教えてくれない?』
『ああ、わかった。けっこう――いや、かなり断片的なので不足分は貴様の方で類推してくれ』
そんなこんなで、ナギは千草の考えていた『計画』情報の入手に成功した(部分的ではあるが)。
ちなみに、エヴァから得られた情報を まとめると以下のような内容になる(にしかならない?)。
・ 修学旅行三日目にナギ達が本山に行く予定なので、本山に着いて油断しているところを鮮やかに狙う
・ どうにか木乃香を浚い、木乃香の莫大な魔力を利用してリョウメンスクナノカミと言う鬼神を復活させる
・ 復活させたリョウメンスクナノカミを使って、西と東で大暴れ(つまり、オレTueee!!)しようと思う
実に杜撰な『計画』だが、原作そのままな『計画』なので。原作との齟齬を心配していたナギは少しホッとしたらしい。
(だけど、その『計画』のためには千草が必要だよね?)
だが、その千草は拘留されている。正確に言うと、ナギの策略で拘留させた のだが、とにかく拘留されている状態だ。
つまり、現状では千草は『計画』に参加することは不可能だ。と言うことは、今回は『計画』を見送るのだろうか?
それとも、千草を脱走させて『計画』を実行するのだろうか? いや、千草の代わりがいる可能性も考慮しなければならない。
(まぁ、原作の印象では白髪少年が千草を唆していたっぽいから、スクナの復活は白髪少年の望みであり、それには千草が不可欠なんだろうな)
フェイトの実力(ラスボス級)を考えるとスクナを利用する意味は然程ないように感じるが、戦力はあって困るものではない。
いや、維持が困難な戦力は無理に保持し続けない方が無難だが、この場合(スクナの場合)は保持して置いても損はないだろう。
フェイトの属する『完全なる世界』の目的は魔法世界の破壊(及び再生)なので、むしろ戦力はあるに越したことはない筈だ。
(つまり、白髪少年は千草を脱走させて『計画』を実行するつもりでいる と見ていいと思う)
厳しい監視の中を どうやって脱走させるのかはわからないが、フェイトも充分にチートなので きっと「うまいことやる」のだろう。
と言うか、千草を脱走させないように対策を練るよりも、敢えて脱走させて泳がせて置いた方が原作通りに進むので対策を練りやすいので、
千草の脱走については放置するべきだろう(身内の恥すら まともに裁けなかった と言う面では、西としては面目が潰れるだろうが)。
『どうやら、考えはまとまったようだな』
ナギが思索を終えたのを察したエヴァが確認して来たので、ナギは『まぁ、だいたいのところはね』と鷹揚に頷いた後、
厳かに『実は頼みがあるんだけど』と前置きし、以前から考えていた『対策』を伝え、エヴァに助力を依頼したのだった。
ちなみに、それに対するエヴァの反応は『相変わらず腐っているな』と言う、素晴らし過ぎて泣けて来るものだったらしい。
まぁ、ナギにも「あきらかに悪役の考えだよなぁ」と言う自覚はあるのだが……それでも、他人から言われるのは堪えたようだ。
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『ところで、本山の方はどうするつもりなんだ?』
ナギが精神的ダメージから復帰したのを察したのか、エヴァ探るようにが訊ねる。
と言うか、本山の何を どうするのだろうか? 求められている内容が具体的ではない。
ある程度の候補は浮かんではいるが、それでも言葉は過不足なく伝えるべきだろう。
『……本山で近衛 木乃香を浚う と言う件について、だ。知っていて放置するのは問題だろう?』
なるほど、尤もな疑問だ。ナギは原作で知っていたから軽く流していたが、本来なら流してはいけない部分だ。
まぁ、だからと言って「チート臭い白髪少年が無双するから放置するしかないんじゃない?」などとは言えないが。
と言うか、本山襲撃が防げそうにないから、スクナ召喚の方を対処することにしたので、本山は放置するしかない。
むしろ、西の本拠地で東のナギ達が何かをする訳にはいかないので、放置するのがベストなのではないだろうか?
『いや、それもそうだが……「本山」で「近衛 木乃香を浚う」と言うことは、重要な意味を持っているのだぞ?
と言うのも、本山にいると言う安心感から隙が生じるだろうから、その隙を狙うこと自体は悪手ではないのだが……
あそこは麻帆良まではないにしろ かなり強力な「結界」が張られているので、それを突破するのは至難の業だ。
つまり、正面突破以外の方法で来る――内部に手引きする者がいるか、内部に実行犯がいる と思われるのだからな』
確かに、フェイト(ボスキャラ)の存在を知らなければ、そう考えるのが普通だ。エヴァの考えは的外れではない。
『……まぁ、エヴァの言う可能性は高いだろうね』
『なら、何故それへの対抗手段を練らないのだ?』
『簡単に言うと、それを炙り出したいから、かな』
『つまり、近衛 木乃香を囮にする、と言うことか?』
さすがに「白髪少年が正面突破して来るから」とは言えないので、尤もらしい理由を口にするナギ。まぁ、完全な出任せではないが。
『木乃香には悪いと思うけど、後顧の憂いを断つためには仕方ないでしょ?』
『……今後の安全を考えると「最悪」を防げる今回に危険を冒すべき、ではあるな」
『そう言うこと。丁度、ネギが「御誂え向き」のアイテムを作ってくれたし、ね』
『ああ、そうだったな。しかし、貴様、まさか「ここ」まで予想していたのか?』
『いや、そんな訳ないでしょ? 偶々だよ。偶々、別の目的で頼んで置いただけさ』
言うまでもなく、この事態を想定して頼んだのだが……それはナギしか知らないし、ナギもそれを誰かに教える気などない。
『それよりも、そろそろ次の話題に行かない? まだ詰めるべきところはあるでしょ?』
『露骨に話を逸らして来たな? いや、別に構わんが……他に詰めるべきことなどあるか?』
『いや、千草から読み取れた情報で、仲間のこととか報告してもらってないことがあるよ?』
話題を変えたい意図もあったが、情報が欲しいのも事実だ。特に、二つ目の情報である「千草の協力者」は些細な情報でも欲しい。
『まぁ、あるにはあるが……繰り返しになるが、読み取れた内容は大したものではないんだぞ?』
『それでも構わないさ。と言うか、大したものでなかったとしても、無駄な情報なんてないさ』
『……ふむ。それも道理だな。現に、先程の情報だけでもスクナへの対策が練られた訳だしな』
『そう言うこと。それに、奴等の本命が木乃香で本山を襲撃予定だってわかったのも重要でしょ?』
言うまでもないだろうが、スクナへの対策は元々していたのだが、例の通りナギしか知らないし、ナギも教える気などない。、
『……本命で思い出したが、貴様も狙われる対象には入っていたんだったな』
『いや、そこは護衛として忘れちゃいけない部分なんじゃないかな?』
『仕方がないだろう? 貴様に自覚がないようにしか見えんのだから』
『いや、これでも自覚しているから「それなり」の準備をしたんだけど?』
具体的に言うと、ネギにアイテム作らせたり護衛増員を要請したりした。本人は大して動いていないが、何もしていない訳ではない。
『と言うか、奴等がオレを重視していないだけで、他の勢力は どうかわかんないでしょ? 所詮は現場レベルの勢力なんだし』
『まぁ、そうだな。ヤツ等の協力者については実働部隊レベルしか読み取れなかったし、水面下での動きからも尻尾を掴めていないらしいな』
『ある意味で想定通りだね。と言うか、上層部に反抗している勢力なんだから そう簡単に尻尾を掴ませる程 抜けている訳がないよねぇ』
『確かにな。だが、何かしらの目立った動きがあれば尻尾の片鱗くらいは見つけ出せるだろうさ(そこまで近衛 詠春も抜けてはいまい)』
『それもそうだね。と言うか、「撒き餌」としては尻尾を掴んでもらわないと困るんだけどね。草臥れ儲けの骨折り損とか普通にイヤだよ』
そう、ナギ達は尻尾を掴んでもらうために『撒き餌』として動いているので、尻尾を掴んでもらわねば意味がないのだ。
『まぁ、それはとにかく、今はわかっていることを整理しようか?』
『それもそうだな。つまり、差し当たっては現場レベルの脅威の排除だな?』
『その通り。だから。千草とその協力者について教えてくれないかな?』
『わかった。だが、口で説明するのが面倒なので、ちょっと目を閉じてろ』
『え? 何で? 悪いけど、普通にまったく以って意味がわかんないよ?』
と言うか、何故にエヴァは頬を染めているのだろうか? テレているように見えるので、非常に謎である。
『いいから閉じろ!! 視覚情報を送ってやる と言ってるんだ!!』
『いや、そんなこと一言も言ってねーですから。むしろ初耳ですから』
『うるさい!! 私がしてやるのだから、有り難く思ってサッサと閉じろ!!』
『いや、してやるとか有り難くとか言われても……大袈裟じゃない?』
たかが視覚情報を送るくらいのこと、エヴァなら造作もない筈だ。
いや、ナギは視覚情報を送ることが どれだけの難易度なのかは知らないが。
それでも、エヴァ程の腕前なら造作もない筈だ(実に妙な信用である)。
だが、その妙な信用 故に、ナギは素直にエヴァの言に従い、目を閉じる。
ピタッ……
そんなこんなでナギが目を閉じた瞬間、ナギは自身の額に違和感を覚えた。
と言うか、人肌の暖かさを持った やたら感触のいい『何か』が額に触れたのを感じた。
むしろ、エヴァの おでこ(額と言うよりは おでこ)なのではないだろうか?
「――って、ちょっとぉおお!! 何をしていやがるんですかぁああ?!」
そんな疑問が頭を過ぎったナギが、思わず目を開けてしまうのは必然だろう。
その結果、疑問が真実だったのを認識してしまい、思わず叫んでしまうのも必然だろう。
傍から見ると「キスする直前」に見えてしまうのは偶然に違いないと思いたいが。
ちなみに、エヴァは顔中を真っ赤にしているので、充分に恥ずかしいようだ。
「バ、バカモノ!! 目を開けるんじゃない!! うまくできんではないか!!」
「いや、うまくできるって何が?! って言うか、何をする気でいたのさ!?」
「ええい、静まれ!! さっきも言ったが、視覚情報を送ってやるだけだ!!」
「だから!! それとオデコをくっ付けることが どう関係しているのさ!?」
それからナギ達が混乱気味にギャイギャイ言い合ったのは言うまでもないだろう。
ところで、その混乱は(一頻り録画を終えて満足した)茶々丸が仲裁に入るまで続いたらしい。
正確には、茶々丸に宥められたエヴァから説明を受けて納得するまでナギの混乱が続いたのだが。
ちなみに、エヴァの説明を掻い摘むと、ナギは魔法抵抗力(レジスト力)が非常に強い体質らしく、
視覚情報を送るには視覚野に近い部位――つまり額同士を触れ合わせる必要があった、とのことだ。
(ついでだから説明して置くと、レジスト力のせいで『秘匿念話』も 通常よりも接触面積を大きくしなければならないんだよねぇ)
それ故に、ナギ達は『秘匿念話』の間、ずっと手を触れ合わせていたのである(非常に今更な説明だが)。
しかも、より接触面積を大きくするために「単に手を繋ぐ」のではなく「指を絡め合って」である。
そう、所謂『恋人繋ぎ』だ(もちろん、ナギもエヴァも恥ずかしかったが、背に腹は代えられなかったのだ)。
閑話休題。ナギとエヴァの恥ずかしい話について触れるのはやめて、本題に戻ろう。
紆余曲折(金髪幼女と仲良く入浴しているようにしか見えない)を経て、ナギは千草一味の視覚情報を入手した。
まぁ、ここで終わると、情報入手方法に問題があっただけ と言う結論になるが……残念ながら、そうは問屋が卸さない。
つまり、情報入手方法よりも『入手した情報』の方が問題だったのである。直前までの恥ずかしさなど吹き飛ぶくらいに。
(千草の仲間って小太郎と白ゴス剣士と白髪少年の筈だよね? じゃあ、何で『白髪少年』がいなくて『銀髪幼女』がいるんだろう?)
今のがナギの率直な疑問だが、浮上した問題の全てが このセリフに表れている と言えるだろう。
そう、千草も小太郎も月詠も原作通りだったのだが、何故かフェイトだけが原作と違ったのである。
ネギが幼女になっていたのだから、そのライバル(?)も幼女になっていても おかしくはないのだが……
(何て言うか、オレって『銀髪萌え』の属性も持ってい紳士だから、遣りづらいこと このうえないんだよねぇ)
これまでの予定では、最後の最後でエヴァの魔力を解放して(原作の様に)フェイトをフルボッコにしてもらうことになっていた。
だが、それもフェイトが少年だと思っていたから躊躇なく予定できたのであって、相手が幼女(しかも銀髪)では そうもいかない。
敵を気遣うなど愚かなことだとはナギ自身もわかっているが、それでも「女子供に手荒なことはしたくない」ことは譲れないのだ。
(むしろ、幼女は敵対するものではなく愛でるものだと思うので、本当にどうしようもないね、うん)
いや、ナギ自身がどうしようもない と言う意見には賛同するが、ここでのツッコミは控えていただきたい。
ナギは「相手が幼女なので手荒な真似はできないから、二進も三進もいかないなぁ」と言う意味で言ったのである。
だったら、手荒ではない手段を講じればいいのだが……そんな手段が簡単に思い付いたら世話はないだろう。
想定を大きく外れた事態に、ナギは深い深い溜息を吐いたのだった。
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Part.04:一回も二回も同じだと思う
「ナギさん!! 一体、どう言うことですかっ?!!」
フェイト女への対抗手段をアレコレ考えた結果、ナギは「そもそもオレが解決する必要がないじゃないか」と言う結論に至った。
そのため、いい加減に逆上せそうになっていたこともあり、風呂から出てホテルの中庭で火照った身体をクールダウンしていたのだが……
何故か やたらとヒートアップしたネギが強襲して来たのである(ちなみに、エヴァと茶々丸もナギの隣で夜風を楽しんでいる状態だ)。
「……どーしたんだ、ネギ?」
ナギはヒートアップしているネギを落ち着かせるように、殊更クールに(見えるように)訊ねる。
周囲の注目を浴びまくっているので、内心では「うっわ~~、超 逃げてぇ」とは思っているが。
と言うか、ホテルには麻帆良の生徒だけでなく一般客もいるので、公共の場で騒ぐのはどうだろう?
「どーしたもこーしたもないです!! 何でエヴァンジェリンさんと一緒にお風呂に入ったんですかぁああ!!!」
ネギの気持ちもわかるが、公衆の面前で(しかもエヴァを指差しながら)叫ぶことではないだろう。
周囲の注目――いや、汚物を見るような視線が物凄く痛い。視線に圧力すら感じるレベルだ。
と言うか、この場には一般客だけでなく麻帆良の生徒もいるので、ナギの評価は底辺に落ちたことだろう。
「……とりあえず落ち着こうか? と言うか、何で そのことを知ってるのかな?」
「そんなのナギさんの様子を『遠見』で窺って――じゃなくて、乙女の勘です!!」
何だか物凄く聞き捨てならない言葉がサラッと出て来た気がするが……敢えて気にしてはいけない。と言うか、気にしても意味がない。
何故なら、弐集院の言では「男が『遠見』で女性の様子を探るのは犯罪」だからだ。つまり、女性は男を見ても罰せられないのだ。
当然、罰せられなくても褒められた行為ではないので良識的な人間は自重するのだが、ネギはまだ子供なので自重の必要がないようだ。
「まぁ、言いたいことは多々あるけど、そんなに仲間外れにされたのが気に入らないのなら、今から入って来よっか?」
理不尽な世の中に想いを馳せそうになったナギだが、今は理不尽な現状を打破すべきなので どうにか堪え、一石を投じてみた。
ちなみに、通常なら絶対に選ばない様な選択肢(自らネギとイチャつく)を選んでいるように見えるが、別に自棄になった訳ではない。
信賞必罰の心で、修学旅行前(魔法具作成)から これまで(列車の中とか)の頑張りを正当に評価した結果の『御褒美』なのだ。
「ほぇ?」
余りにもナギの言葉が予想外だったのか、ネギはキョトンとした顔になって間抜けな声を上げる(実に年相応な表情だった らしい)。
まぁ、いつもだったら口八丁手八丁で誤魔化す(適当な言葉で誘導し、頭を撫でて終える)ところなので、ネギの反応も頷ける。
と言うか、ネギ自身も そこら辺(頭を撫でてもらう)を落としどころとしていたので、ナギの反応は想定の範囲外なのである。
「ってことで、エヴァ。ネギに水着を貸してあげてくれるかな?」
呆けているネギは とりあえず放置することにして、ナギはエヴァに水着を借りる。
いくら紳士を自負するナギでも全裸でネギと入浴するのは憚られるのである。
と言うか、水着がないとナギが暴走してXXXな展開になり兼ねないのである。
「いや、まぁ、別に それは構わんのだが……いいのか?」
エヴァは水着を差し出しながらナギの真意を窺うように訊ねる。つまり、本気でネギと入浴する気なのか、確認しているのだろう。
言うまでもなく、風評的には よくはない。だが、既にエヴァと一緒に入っていることが露見されたので最早 今更なのである。
ちなみに、ネギの勘違いを助長する可能性的には……まぁ、ナギには『それなりの思惑』があるらしいので、問題ではないようだ。
「大丈夫、問題ないさ。だから、ネギ。早く行こう?」
ナギは未だに呆然としているネギを促しながら、先程まで入っていた個人風呂に戻る。
不測の事態に備えて長めに予約して置いてよかったなぁ と思う今日この頃である。
やはり、備えあれば憂いなし だ(ナギは少し備え過ぎている気がしないでもないが)。
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ちなみに、以下は個人風呂への道中でナギとエヴァが交わした『念話』の内容である。
『しかし、小娘の希望を叶えてやるとは……貴様らしくないな』
『うん、エヴァのオレに対する評価がよくわかる言葉だねぇ』
『だが、自分でも「らしくない」と自覚はしているだろう?』
『まぁ、口八丁手八丁で宥め賺すのがオレの遣り方だったねぇ』
そうやって、その場その場を切り抜けて来た結果が『今』だ。つまり、長期的には失敗している気がしてならないのだ。
『どう言った心境の変化か知らんが……何故 小娘の希望を叶えてやろうしたのだ?』
『いや、どう考えても、最近いろいろ頑張ってくれたことに対する感謝ってヤツでしょ?』
『ほほぅ? てっきり、貴様のことだから「生かさず殺さず」を実践すると思っていたぞ?』
『いや、エヴァは どんだけオレを外道と認識していやがるんですか? 終いに泣くよ?』
『まぁ、端的に言うと、ジジイと同レベルで「人間としてアウト」だとは思っていたな』
『いやいやいや、さすがに「孫娘を囮にしちゃうようなレベル」には至ってませんから!!』
いくら安全だと高を括っているとは言え、反乱分子を炙り出す囮にするのは遣り過ぎだ。それを受け入れたナギが言えた立場ではないが。
『ハッ!! 笑わせるな!! 昼間、小娘を囮にした貴様が言えた義理か?』
『いや、まぁ、確かにネギを囮にはしたけど、木乃香とは扱いが違うでしょ?』
『そうか? 本人に教えもせずに囮にしたのだから、大差ないのではないか?』
『いや、まぁ、そりゃ確かに そうかも知れないけど、安全性は段違いだよ?』
何故なら、木乃香は護衛が必要なレベルで危険なのに対し、ネギは放置していても大丈夫なくらい安全だからだ。
『まぁ、確かに そう言われてみればそうかも知れないが……だったら、何故に教えなかったのだ?
一概には言えんかも知れんが、囮であることを知っていた方が安全性は増したのではないか?
もちろん、知っていることで不自然になってしまい、逆に危険になる可能性は否定できんがな』
確かに、囮だと知っていた方が引き際を見極められるだろうから、結果的に安全になるだろう(不自然でなければ)。
ナギもそれはわかっていたが、ナギは「余りネギに黒い部分を見せたくなかった」ので囮の件は黙っていたのである。
まぁ、既に手遅れな感は否めないが、それでも「黒い部分を『ある程度』知っている」状態にネギはとどまれている筈だ。
汚れを知らない純白は簡単に染まりやすいが、薄汚れた白は染まり難い。つまり、純粋よりも、少し黒い方が強いのだ。
ナギの様に真っ黒になった方が安定するだろうが それはそれで不味いので、黒を内包する程度が『丁度いい』に違いない。
(白過ぎてもいけないし、黒過ぎてもいけない。ネギは「ある程度」の黒さを知っている状態でとどまって欲しい)
ネギは『英雄の子』と言う立場上、将来的には『政治の道具』に祭り上げられる可能性が非常に高い。と言うか、ほぼ確定的な未来だろう。
それがわかっていながら純粋培養(と言うか思考誘導)を放置する程ナギは非道ではない。それくらいは、ネギを気に掛けているのだ。
それ故に、ナギはネギの前では ある程度までしか黒さを見せない。ネギに見せたくないレベルの黒さは、ネギのいない時にしか見せない。
つまり、意味もなくネギを邪険に扱っていた訳ではないのだ。少なくとも、ここ最近に限っては。
『……ふむ、所謂「愛の鞭」と言うヤツな訳だな』
『まぁ、小っ恥ずかしいけど、そう言うことだね』
『ククク、それを小娘に言ってやれば喜ぶだろな?』
『嫌だよ。これ以上ネギの勘違いを深めたくない』
『そうか。まぁ、貴様がそう言うのなら放って置こう』
ナギの性根は どちらかと言うと腐っている。腐っているが、それでも それなりの矜持を持っているのである。
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Part.05:ネギの想いとナギの役割
まぁ、そんな訳で、ナギはネギと風呂に入ったのだが……その細かい部分の描写は割愛させていただく。
いや、別に疚しいことがあった訳ではない。ただ単に語る程でもないことしか起きなかっただけだ。
説得力は極めて無いが、ナギの言い分では「感覚的には娘と一緒にお風呂に入る父親の気分」らしい。
ツッコミ所はと泥沼に陥りそうなので、気分を変えて、ナギがネギを風呂に誘った『本当の狙い』に移ろう。
「ネギ、ちょっといいかな?」
「はい? 何ですか?」
ナギは真剣そうな顔をしてネギに呼び掛ける。いや、実際に真剣なので「真剣そう」と言うのは語弊がある。
普段のナギの態度が「真剣さ」から程遠いため つい「真剣そう」と言ってしまったが、今回は非常に真剣だ。
12話の冒頭で覚悟を決めた時くらい――いや、17話で あやかと対峙した時くらい、ナギは真剣なのである。
「前々から言おうと思っていたんだけど、どうも言い出す切欠がなくて言えなかったことがあるんだ」
ここでナギは僅かな間を入れる。次の言葉に重みを持たせる演出のためもあるが、その言葉を紡ぐ覚悟のためもある。
ネギを風呂に誘った時に覚悟をしたつもりだったが、実際に話そうとした時に僅かな躊躇いが生まれてしまったのだ。
それだけ、今からナギが語る言葉は重い と言うことだ(少なくともナギにとっては)だが、その覚悟も今ではできた。
「……オレと親父さんを重ねるのは、もう やめてくれないかな?」
ナギの放った言葉は諸刃の剣だ。ネギの勘違いを正す効果がある反面、今のネギを正面から否定するようなものだからだ。
しかし、それがわかっていても尚ナギは言わさるを得なかった。このまま放置することを善しとできなかったのだ。
このままネギの勘違いに見て見ぬ振りをし続けたら、ネギは『真っ直ぐに歪んでいく』ことだろう。それは看過できない。
先程も軽く触れたが、ナギはネギに清濁併せ呑む様な人間になってもらいたい と考えている。
そのため、愚直に『偉大な魔法使い』を目指すのも、盲目的に『父親』の後を追うのもやめて欲しい。
パートナーとは言え期間限定でしかないナギが とやかく言う問題ではないことくらい、わかっている。
だが、それでも、本来なら広大な筈のネギの選択肢が狭められている現状をナギは打破したいのだ。
期間限定とは言えパートナーになったからには、選択肢を広げることくらいの御節介はしてもいい筈だ。
(だからこそ、逃避としか思えない父親への憧憬をオレに摩り替えている現状をやめさせたいんだ)
勝手に重ねられることが迷惑なのもあるが、ナギと父親を重ねる限りネギが歪み続けることが問題なのだ。
普通の子供なら多少の歪みなど問題ないだろうが、英雄の子であるネギは歪みを利用される恐れがある。
いや、むしろ、利用しやすいように歪みを放置されていた節すらある。そう、ナギは考えている。
「……え~~と、何を仰ってるんですか?」
ネギが僅かな沈黙の後に放った言葉はナギの想定の範囲内――つまり、都合が悪いので惚ける だった。
まぁ、ナギの常套手段なのでナギは責められる立場ではないのだが、今回ばかりは責めてもいいだろう。
何故なら、ナギは覚悟を持って言葉を吐いたからだ。それなりの態度で返す義務がネギにはある筈だ。
「あ、いえ、ナギさんの仰りたいことはわかっていますよ? ただ、ナギさんは根本的な勘違いをしていると言わざるを得ないんです」
しかし、どうやらネギは惚けた訳ではないようだ。ナギの態度から察したのか、ナギの疑念をキッパリと否定する。
と言うか、惚けた訳ではないのなら、どう言った意図で先の反応をしたのだろうか? ナギの方こそ何を言われたのかわからない。
いや、そもそもナギが何を勘違いしている と言うのだろうか? 「勘違いしているのは そっちだろ?」と言いたいくらいだが?
「まぁ、確かに、最初の切欠は仰る通りでしたね。それは否定しません。しかし、今では父のことなんか どうでもいいんです」
言うまでもなく、続けられたネギの説明を聞いてもナギは何を言われたのかわからない。
いや、正確には「理解はできたけど、納得できない」と言うべきだろう。
余りにも想定を大きく超えた展開にナギの処理能力が追い付かない。軽くテンパっている。
「だって、父のせいでエヴァンジェリンさんに襲われたんですよ? 恨みこそすれ、憧れなど抱ける訳ないじゃないですか?」
ネギは「ゼロに何を掛けてもゼロですよね?」とか「何で当たり前のことを訊くんですか?」とか言う感情を隠しもせずに告げる。
あまつさえ「子供に自分のツケを払わせるようなダメ男、本当に どうでもいいですよ」と切り捨てる始末だ。
いや、間違った評価ではないのだが、原作と違い過ぎないだろうか? と言うか、盲目的に憧れていたのではないだろうか?
「それは過去のことです。言うならば、黒歴史ですね。父に会うために必死になっていた自分が恥ずかし過ぎて悶え死にしそうですよ」
な、何てクールでクレバーな意見なんだ…… それがナギの偽ざる本音だった。
と言うか、父親に固執していない割にはナギに固執しているように見受けられるのは何故だろうか?
いや、父親とナギを重ねていたからこそ、ナギにこだわっていたのではないのだろうか?
「そ、そんなの決まっているじゃないですか!!」
いや、決まっている と言われても……それは勘違いなのではないだろうか? ナギはネギが思っているような『立派な人間』じゃない。
確かに一般的な中学生に比べたらナギは大人――と言うか、世慣れている。だが、それは『ナギとしての経験』があるから、でしかない。
それに、その経験すらも『老獪な人物』からすれば『子供にしては使える』程度のレベルでしかない。つまり、まだまだ若造でしかないのだ。
「勘違いなんかじゃありません!! ボクは、ナギさんのダメな部分も含めてナギさんを心の底から慕っているんです!!」
しかし、ナギは大きな勘違いをしている。それは、ネギがナギに魅かれている理由だ。
ナギは「父親の代わり」から始まり「尊敬できる人物」に至った と考えているが、それは違う。
残念な部分も理解したうえで、ネギはナギを慕っている。理想ではなく現実を見ているのだ。
まぁ、普段のマンセー振りから、ナギが「理想を夢見ている」と勘違いしてしまうのもわかるが。
「え~~と、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど――と言うか、嬉しいからこそ言って置かなければいけないんだけど……」
「あっ、ナギさんの性癖ですね? それなら大丈夫です。ネトラレとかは困りますけど、たいていのことならOKですから」
「いや、そうじゃなくて、オレはネギの気持ちを利用して体よく使っている節があるってことだよ。まぁ、気付いてるだろうけど」
「ああ、その件ですか。確かに そう言う傾向がありますね。でも、ちゃんと御褒美もいただけてますから問題ないですよ?」
まさか「一緒にお風呂」までしていただけるとは思ってませんでしたが、と 幸せそうな笑顔で言うネギにナギは軽く戦慄した。
「そ、そこまでわかってるんだぁ。って言うか、それなら『このまま利用するだけ利用して用済みになったら捨てる可能性』とか考えない?」
「大丈夫です、ナギさんは そんなことしません。と言うか、たとえ そうなったとしても、それがナギさんの望みならボクは構いません」
「い、いや、その考え方は よろしくないと思うぞ? それだと対象が親父さんからオレに代わっただけで、盲目的な部分は変わってないよ?」
「……仰る通りだとは思います。ですが、それがボクの性分なんです。一つのことを見始めたら、他のことがどうでもよくなっちゃうんです」
「いや、そんな晴れ晴れとした顔で言われても……その考え方は悪い人間に騙される典型じゃない? と言うか、わかってるなら直そう?」
「騙されるなんてことは有り得ません。だって、そう言う人達からはナギさんが守ってくれますから。ですから、直す必要もありません」
「いや、そんな全幅の信頼を置かれても困るんだけど? 確かに そう言った方向で守るつもりだけど、それはパートナー契約期間だけだよ?」
ナギは戦闘面でネギを守ることはあきらめている。その代わりに、人間関係の方面でネギを守る予定なのだ。まぁ、パートナーの間だけだが。
「……わかっています。でも、それはボクが魔法使いだからですよね? 魔法と関わりたくないから、パートナー期間しか守ってくれないんですよね?」
「まぁ、そうなるね。自ら危険に首を突っ込むつもりはないからね。ネギには悪いけど、契約が切れたら関係も切らせてもらう予定でいるくらいだし」
「それも わかっています。ボクもナギさんを危険に巻き込みたい訳ではありません。ですから、修行が終わったら魔法使いをやめることにします」
「そっか――って、え? 今、魔法使いをやめる とか言った? って言うか、オレとの関係を継続させたいから やめる訳じゃ……ないよね?」
「父の件と同じで、もう魔法なんて どうでもいいんです。今のボクにとって大切なのはナギさんの傍にいることですから、むしろ魔法は邪魔ですね」
微妙に質問には答える形式にはなっていないが、あきらかに「Yes」と答えているので問題ないだろう。まぁ、答えそのものが問題だが。
「い、いや、でも、『立派な魔法使い』とやらになるのがネギの目標なんだよね? それをあきらめちゃっていいの?」
「構いません。ナギさんの望みに反してまで達成したい目標じゃありません。と言うか、魔法使いだから目指してただけですし」
「まぁ、前提となる条件である魔法使いをやめるつもりなんだから、そう言う判断になるか。でも、あんなに頑張ってたじゃん?」
「確かに、積み重ねた努力を捨てることになりますね。でも、それでもいいんです。努力がすべて無駄になる訳ではありませんし」
しつこく確認するナギだが、魔法に縋っているようにも見えたネギが魔法を捨てることが信じられないのである。
「確かに、麻帆良に来るまでは魔法を絶対視する傾向がありましたね。それは否定しません。ですが、今では魔法は手段の一つに過ぎません。
魔法でしかできないこともありますが、魔法ではできないこともあります。魔法と言う選択肢が減るだけで、そこまで大差はありません。
むしろ、冷静になって考えると、魔法を絶対視するように思考誘導をされていた気がしないでもないので、魔法には忌避観が生まれるくらいですね。
まぁ、麻帆良に来たのは魔法の修行のためですから、その点では――ナギさんに出会う切欠となった と言う点では、魔法に感謝していますけど」
どうやらネギはナギの影響を受けているようだ。何故なら、21話で魔法を囮にして科学を本命に使ったようにナギにとって魔法は手段の一つでしかない。
「できることなら、今すぐ魔法使いを―― 一人前の魔法使いになるための修行をやめて、ナギさんを魔法から解放したいくらいです。
ですが、『修行が終わるまでパートナー関係を結ぶ』と言う契約上、修行が終わる前にパートナー契約を解約することはできません。
いえ、正確には解約できない訳ではありません。解約にはペナルティが課せられるので、リスクを考えると解約は避けるべきでしょう」
仮とは言え契約は契約だ。それを破るには、それなりのリスクがあるだろう。そのため、ナギもリスク(解約)を避けることは賛成だ。
「そう言う意味では、ナギさんとパートナー関係を結んだことを後悔しているんです。ボクの都合をナギさんに押し付けただけですからね。
あの時はナギさんと一緒にいられるって単純に考えちゃって、他のことまで思慮が及びませんでした。己の浅慮に反吐が出る程です。
そもそも、理由や経緯はどうあろうとも、ナギさんを魔法に巻き込み、ナギさんを危険に晒している……そんな現状を作ったのは、ボクです」
確かに、直接的にナギを魔法に巻き込んだのはエヴァだったが、その原因はネギにあった と言えるだろう。そのことは否定できない。だが……
「すみません、ボクがロクに考えずにナギさんとパートナー関係を結んだためにナギさんを危険に巻き込んでしまって……」
「確かに それも原因の一つかも知れないね。でも、木乃香の件でも関わらざるを得なかった気がするから、そこまで気にしなくていいよ」
「ですが、コノカさんの件もボクが関係している可能性がありますよね? ですから、やっぱりボクが悪いに違いありません」
「いいや、違うね。と言うか、子供は失敗するものだし、それをフォローするのが大人なんだから、細かいことは気にしなくていいんだよ」
ナギとしては、木乃香やタカミチとの関連で いつかは魔法に関わっていた気がするため、パートナーにならなくても大差なかった気がするのだ。
「…………つまり、それって『ボクを許してくれる』と言うこと、ですか?」
「許すも許さないもないさ。だって、オレにネギを責める気なんてないんだから」
「ナ、ナギさん……ありがとう、ございます…………」
「だから、気にしなくていいいって。ネギは何も悪くないんだから、さ」
それ故に、ナギは泣きそうなネギの頭を優しく撫でてやるのだった。
……………………………………
………………………………………………
…………………………………………………………
と言う感じで終わると綺麗に終われるのだが……残念ながら、そうは問屋が卸さない。
何故なら、ナギはネギの頭を撫でながらも「あれ? これって何かを失敗してない?」と頭を抱えていたからだ。
と言うか、当初の予定ではネギの勘違いを解く筈だったのに、何故 逆にナギの勘違いが解けているのだろう? 実に不思議だ。
むしろ、これでは よりフラグが固まったのではないだろうか? どうも、ネギに嵌められた気がしてならないナギだった。
……まぁ、嵌めたか否かについては、こっそりと「計 画 通 り」と言わんばかりに笑っているネギしか知らないだろうが。
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オマケ:未来少女だけが知っている ―その2―
「さすがは、もう一人の御先祖……と言ったところカネェ?」
ナギとの会話(Part.01)を終えた超は、スパイロボを駆使してナギの行動を覗き見ていた。
まぁ、エヴァとの『念話』は傍受できなかったのでエヴァとの入浴はツマラナイものだったようだが、
ネギとの会話は傍受できたためネギとの入浴は見応えがあったようだ。思わず感想が漏れたらしい。
(まさか、神蔵堂ナギをハメてしまうとはネェ……)
と言うのも、超はナギとネギがパートナー契約を交わした現場(13話)も盗み見ており、
ネギが提示した条件を「ネギが麻帆良にいる間だけのパートナー契約」と正しく覚えていたため、
ナギが「ネギの修行期間」と誤解していることを利用してネギがナギを騙した と推察したからだ。
(クックック……どうするネ、神蔵堂ナギ? キミの齎した『変化』は尽くキミに返って来ているヨ?)
変化し過ぎた『歴史』に危惧を覚えた超は、先程その主要因と見られるナギに忠告をした。
私の予定でハ大した被害を受けずに終わるハズだたガ、どうも予定が変化しそうだヨ? と。
そして、その忠告と共に参考として「超の知る『本来なら辿るべきだった予定』の概要」も添えて。
それをナギが どう受け止め、そして、どう対応するのか? それは、現段階では明らかではない。
だが、今までの流れを見ると、ナギの変化によって起きた変化はすべてナギに降り掛かっている。
宮崎のどか は陰ながらナギを慕いつつ時には大胆な行動もする程度の筈だったが、
何を間違ったのか、ストーカー的な方向でナギを陰ながら慕うようになってしまった。
その結果、本来なら微笑ましい情景が一触即発の情景に転じてナギのストレスになっている。
と言うか、ヤンデレ注意と言う注釈が必要なくらいの有様だ。想定外もいいところだ。
そして、ネギ・スプリングフィールドは歪んだ己に気付かぬまま突き進んで泥沼に嵌る筈だったが、
歪んだ己を理解したうえで受け入れ、父も復讐も捨て去ってナギを追い求めるようになってしまった。
その結果、本来なら自己嫌悪を繰り返す筈のネギは、自己嫌悪の振りをしてナギを篭絡しようとしている。
……すべては那岐がナギとなった影響であり、その影響はナギの心の負担となるだけだった。
(まぁ、本屋ちゃんの行動は読みづらいところがあるガ、さすがに現段階で意中の相手を殺すようなことはしないだろうシ……
ネギ嬢はキミの傍にいることを至上命題にしているだけのようダカラ遣り様によっては大した問題にはならないダロウ。
だが、キミは火に油を注ぐのが得意だからネェ? ツマラナイことでキミの人生が終わってしまいそうで、ちょっとばかり心配だヨ)
超は「茶々丸の後継機を作って、本格的な護衛をさせようかネェ?」とか本気で悩むのだった。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「これからの伏線を張るつもりが、幼女達がすべてを持っていった」の巻でした。
ちなみに、ネギはすべてを計算した訳ではありません(本心から父と魔法使いを捨てる気ではいます)。
計算したのは、内罰的に見せ掛けてナギの同情を買った辺りです。それ以外は天然です。
天然でヤンデレ気味なことを口走っちゃう辺りが、ネギの恐ろしい――いえ、魅力だと思います。
あ、どうでもいいですが、ナギが軽く指摘した通り、ネギの根本は変わっていません。
純粋で視野が狭いので、思い込み始めると止まることを知りません。トコトン突っ走っちゃいます。
だからこそ、方向性を間違えると危険なんですけどね(誰かが手綱を握らないと大惨事になります)。
そう言う意味でも、ナギの目指すべき役割は明日菜じゃなくて千雨なんでしょうね。いろいろな意味で。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2010/2/14(以後 修正・改訂)