第24話:束の間の戯れ
Part.00:イントロダクション
今日は4月23日(水)、修学旅行二日目。
予定では奈良での班別行動となっており、原作では のどか がネギに告るイベントがあった。
まぁ、二人の関係性を考えれば どう頑張っても『ここ』では そんなこと起きる訳がないが。
では、一体何が起こるのだろうか? ……それは、誰も知らない。
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Part.01:幸せの時代
「なぎやーん」
少し離れた後方から那岐に呼び掛ける幼い声が聞こえる。
この鈴を転がしたような声は、恐らく幼い木乃香のものだろう。
まぁ、那岐を『なぎやん』と呼ぶ人間は木乃香しかいないが。
「どーしたの、このちゃん?」
オレの予想通り、振り返った那岐の視線の先にいたのは長い黒髪の美幼女――幼い頃の木乃香だった。
木乃香は那岐のもとへ小走りで駆け寄ると、那岐の問い掛けに応えるためか、満面の笑顔で話を切り出す。
どうでもいいが、その笑顔は(ココネと同じ様に)見ている者を和ませる効果に溢れていると思う。
「えっとなー、せっちゃんが来たんよー」
なるほど、つまり せっちゃんとの出逢いイベント、と言うことか。
って思っちゃったオレはいろいろと終わっている気がしてならない。
当然、今はそれどころではないので気にしないことにして置くが。
「せっちゃん?」
ちなみに、那岐は終わっていないので、不思議そうに訊ね返すだけである。
と言うか、この前の那岐(22話)と比べると、随分と感情豊かだよねぇ。
これも、木乃香の笑顔の効果かな? まったく、木乃香には脱帽だよ、うん。
「『さくらざき せつな』言うから、せっちゃんや」
木乃香は那岐の疑問に律儀に答える。だが、冷静に考えると理屈にはなっていないだろう。
しかし、那岐は木乃香理論に納得したようで、「なるほどー」とかウンウン頷いていた。
きっと、「那岐だから なぎやん」と言う論法と同じなので納得せざるを得ないのだろう。
「せやから、なぎやん も いっしょに遊ぼー」
うん、まぁ、何が「せやから」なのか、サッパリ意味がわからない。
きっと、せっちゃんが来た と言うセリフに話題が戻ったんだろうけど……
イキナリ話題を戻されても困るよね? ほら、那岐も――って、あるぇ?
……那岐君、何故にキミは「うん、いっしょに遊ぼー」とか嬉しそうに返してるのかね?
いや、那岐はオレじゃないし、そもそも子供なんだから、こんなことがあってもいいとは思うよ?
でもさ、何か釈然としないものが残ると言うか、こんなん那岐じゃないって感じなんだよねぇ。
そりゃ、那岐のことを詳しく知らないオレが那岐を語るべきじゃないけどさ。それでも、釈然としないんだよねぇ。
まぁ、そんなオレの微妙な気分など お構い無しに事態は進んでいくんだけとね。
だって、場面は せっちゃんとの出逢いイベントに移行していたからね。
そう、いつの間にか那岐と木乃香は門のところまで移動していて、
道着姿の女性達に連れられた小っちゃい道着姿の女の子を迎えていたのさ。
……きっと、この女性達は若かりし頃の青山さん家の鶴子さんと素子さんだろう。
い、いえ、今でも お若いですよ? とても三十路越えには見えないくらいに お若いですって。
って、そうじゃないよね? 今 注目すべきなのは、幼い頃の せっちゃんだよね?
いや、わかってはいるんだけど……何故か弁明して置く必要を感じたんだよ(殺気的に考えて)。
多分、鶴子さんは刀子先生と同じ様に「何か不謹慎なこと考えていそうだから斬って置く」タイプだからね。用心は重要さ。
「せっちゃーん、久しぶりー」
「お、お久しぶりです、お嬢様」
「やん、お嬢様なんて言わんてー」
「ですが、お嬢様はお嬢様ですし」
「デモもストもあらへんよー?」
もちろん、当然の如くオレの脳内弁明など お構い無しに事態は進んでいる。
と言うか、デモもストもないって……さすが木乃香だと思わされる言葉だよねぇ。
キミのボキャブラリーはどうなってんの? ってツッコミたいレベルだよ。
いや、別に悪い訳じゃないよ? ただ、ちょっとばかり秀逸 過ぎるだけさ。
「ってことで、せっちゃん。なぎやんやよー」
いや、何が「ってことで」何だろう? まぁ、そんなに気にすることではないけどね。
オレも割と脈絡無く「ってことで」って接続詞を使うからね、文句は言えないさ。
ただ、「人の振り見て我が振り直せ」と言う言葉が何故か身に染みるだけだよ、うん。
「はじめまして、せつなちゃん」
「は、はじめまして、なぎさん」
どうでもいいけど、『刹那』とか『せっちゃん』とかって呼んでるから『せつなちゃん』って響きが妙に新鮮に感じる今日この頃だ。
と言うか、木乃香が「もー、『なぎやん』と『せっちゃん』やって言うてるやろー?」って頬を膨らませてるのが可愛くて困るぜ。
後先考えずに お持ち帰りしたく――な、ならないよ? これでも、最近の変態振りに ちょっと遣り過ぎたと反省しているからね。
「それじゃあ、せっちゃん、よろしくね」
「は、はい……な、なぎやん…………」
うん、頬を真っ赤に染めて、しかも、俯きながら『なぎやん』って呼ぶ せっちゃんの破壊力はハンパないね。
とりあえず、反省も忘れて暴走したくなるオレってトコトン自重ができないんだなぁって自嘲をしようと思うくらいだ。
まぁ、自分で言っていて何を言っているのかサッパリわからないが、それくらいの破壊力ってことだよ、うん。
「えへへ~~」
と言うか、そんな那岐と せっちゃん を幸せそうに見ている木乃香の破壊力も抜群だねぇ。
この笑顔を守るためならば「命に代えても お守り致します」って気持ちもわかるってもんさ。
って、そうじゃないな。大事なのは、三人が「仲のいい幼馴染だった」ってことだよな、うん。
いや、原作の情報と那岐が木乃香の幼馴染だって言う情報から、予想はできていたんだけどね。
でも、こうして改めて見せられると、つくづく『ここ』は『オレ』の居場所じゃないって感じるのさ。
……まぁ、そうは言っても「『元いた場所』に居場所があった」とも断言できないのが『オレ』なんだけどねぇ。
いや、多分あったんだとは思うんだけどさ……失くしてしまったんじゃないかなって気がするんだよね。
ほら、嫁のこととかを思い出そうとしても思い出せないのは、思い出したくないからって気がするじゃん?
それに、人の幸せなんてもんは脆くて儚いもんじゃん? 手に入れるのは難しいけど失くすのは簡単って感じで。
だからこそ(と言うのも変かも知れないけど)、幸せってのは大事なもんなんじゃないかなっても思う訳さ。
そんで、そんな訳だから、那岐には この幸せな時間を大切にして欲しいとか思っちゃっているオレがいるのかも知れないねぇ。
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そんなこんなで綺麗に話がまとまったところで、状況の説明をして置こう。
まぁ、いつもの様にナギが那岐の記憶を夢見た と言うことは説明するまでもないだろうが、今回はそれだけではないのだ。
昨夜の事件(と言うか、ネギとの入浴イベント)の後から今朝までの経緯を説明して置いた方がいい と判断しただけだ。
と言うのも、原作なら猿騒動やら木乃香の誘拐事件が起きる筈なので、『ここ』では何事も無かった と言う説明が必要だろう。
(……事件の張本人が拘留されているから起こる訳が無いと言えば それまでなんだけどね?)
それでも、昨日の清水寺で原作ではないイベント(ルビカンテが見張っていた)があったのだから、
昨夜も代わりのイベントが起こっていた可能性もあったので、何事もなかったのは特筆すべきことだろう。
何事もないのは物語的にはつまらないかも知れないが、当事者にとっては このうえない幸いであるのだ。
そんな訳で、簡単にまとめると、ナギがネギと別れた後は特に問題は起こらず、無事に朝を迎えられました……と言うことだ。
ちなみに、ナギが班員達から暴露を強要された件はどうなったのか と言うと……
何と、ナギが部屋に戻った時には既に全員が寝ていたので有耶無耶になったようだ。
もちろん、追求されたら面倒なので睡眠ガスを仕込んだ……などと言う訳ではない。
何故なら、仕込んだのは(ネギに作ってもらった)『眠りの霧』と同じ効果を発揮する魔法具だからだ。
ナギは慎重派なので、睡眠ガスなどと言う所持がバレたらテロリスト嫌疑を掛けられてしまいそうなヤバい科学兵器なんか持っていない。
まぁ、生み出す結果が同じなのに、科学的に立証できない魔法具の方が睡眠ガスよりも性質が悪い気がしないでもないが、そこはスルーしよう。
どうでもいいが、その魔法具は『睡仙香(すいせんか)』と言い、香水みたいな瓶に入った液体で、その香りを嗅ぐと眠くなる仕様らしい。
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Part.02:馬や鹿のように戯れよう
さて、目覚めは綺麗な感じでまとまった(ことにして置こうと思う)が、ナギの一日が綺麗に進む訳がないのは最早 言うまでもないだろう。
つまり、朝食を食べ終えて「さて、奈良見物を楽しもう」とかナギが思ったところで騒動が起きたのである。
まぁ、その内容は態々 語るべきものではなかったので、経緯をまとめると以下のような感じになる。
① 裕奈達が一緒に回ろうとナギを誘いに来たが、木乃香の班と刹那の班と回る予定だったので、ナギはやんわりと断った。
② そうしたら、田中(と平末)が「みんなで回ればいいじゃないか!!」とか言い出したので、かなり面倒な展開になった。
③ しかも、その騒動を聞き付けた男子達が「お前らだけズルいぞコンチクショー!!」と言う感じでシャリャリ出て来て場は混乱した。
④ その結果、その混乱に裕奈達も乗って来たので収拾が付かなくなり、済し崩し的に裕奈達+他の男子達とも回ることになった。
つまり、必要最小限の人数で回ろうとしていたのに、何故か大人数で回ることになってしまったのである。
どれくらい大人数かと言うと、ナギの班(ナギ・田中・平末・白井・フカヒレ・宮元)と木乃香の班(木乃香・ネギ・夕映・のどか・パル)、
そして、刹那の班(刹那・エヴァ・茶々丸・美空・たつみー)だったところに、裕奈の班(裕奈・亜子・アキラ・まき絵・パパラッチ)が加わり、
更に、名前は割愛するが男子の班が2班(5人1班なので、計10人)も加わってしまったので、合計31人となってしまったのである。
言い換えれば、班別行動なのにクラス行動に近い大所帯(しかも男女混合)となったとも言えるので、ナギの心労が絶えないのは言うまでも無いだろう。
「……フフフ、オレはもう燃え尽きたよ、ジョニー」
だから、奈良公園で鹿相手に愚痴を言ってしまっても許されるだろう。
傍から見るとカワイソウな人にしか見えないが、許されるに違いない。
もちろん「ジョニーって誰だよ?」と言うツッコミは控えてあげよう。
ちなみに、ナギがこれだけ煤けているのは、大所帯で行動したことによるストレスだけが原因ではない。
ナギとしては何の意図もなく『奈良の大仏』を見る時とかに昨日同様「ゆえ吉ガイド」を利用していただけなのだが……
ゆえ吉ガイドを利用すると言うことは必然的に夕映の傍にいることになるため、その状況を快く思わない乙女達がいるのも必然だろう。
ナギが気付いた時には既にナギの周囲を覆う空気は不穏なものになっていた。有体に言えば、修羅場っぽくなっていたのだ。
(いつの間にか観光するどころかナニカを慣行されるような雰囲気になってて思わず全オレが泣いたね)
ナギが滲み出て来る涙を誤魔化すために鹿達と戯れることで現実逃避したくなってしまったのは仕方がないことだろう。
ちなみに「鹿達は人間に飼い慣らされているのにもかかわらず、何処か雄大に生きている」ように、ナギには見えたらしい。
むしろ『別に人間関係などどうでもいい。鹿せんべえ さえくれればそれでいいのだ』とか言っているようにしか見えないとか。
(うん、わかってるって。現実逃避をしても何も解決しないことくらい、わかりきっているさ)
だが、わかっていても、そもそも事態を解決する気がない と言うか、
何をどうすれば解決するのか皆目検討が付かない と言うか、
むしろ「オレ、何も悪くないよね?」とか開き直りたい気分なのである。
「……さっきから、どーしたんだ、神蔵堂?」
そんな感じでナギが鹿に妙な理解を示しているところに田中が話し掛けて来た。
しかし、田中は亜子の様子を窺っていた筈なので何故ここにいるのだろうか?
ちなみに、様子を窺うと言うマイルドな表現にしたが要はストーキングである。
「いや、いっそのこと鹿になれたら楽なのになぁ とか思ってただけさ」
ナギは内心の疑念(ストーカーがストーキングしていないなんて有り得ない)を億尾にも出さずに適当な反応を返す。
しかし、幾ら適当に答えたとは言っても「鹿になりたい」としか聞こえない言葉を吐くのは如何なものだろうか?
これでは「鹿になりたいから鹿に話し掛けていたカワイソウな人」とか思われ兼ねない(まぁ、微妙に合っているが)。
「へー、そーなのかー」
だが、ナギの懸念は杞憂に終わり、田中はアッサリと納得した。当然、口では理解を示しつつも内心で引いている訳ではない。
何故なら、田中はピュアボーイなので そんな腹芸はできないからだ。つまり、本当にナギの言葉に納得しているのだ。
しかも「オレはパンダになりたいかなー」とか話題に乗って来る始末だ(ピュアは恐ろしい と言う言葉の体現者であろう)。
(オレから話題を振った形になるから、ここは話に付き合うしかないなぁ)
ナギとしては軽く流して欲しい話題を掘り下げられたことになるので軽く精神的ダメージを負ったが、ここは話に乗るしかない。
それ故に、ナギは「確かにパンダもいいよねぇ。でも、鹿は鹿せんべえを喰えるんだぜ?」と内心で泣きながら言葉を連ねる。
もちろん、ここで「鹿せんべえを喰えるからと言って何かメリットがあるの?」とか言うツッコミは控えてあげるのが優しさだろう。
「なるほど~~。でも、だったらパンダは笹が食べられるじゃん?」
いや、別に対抗しなくてもいいから。と言うか、そもそも笹など喰いたくも無いのだが?
……それがナギの率直な意見であるが、残念ながら今のナギに そうツッコむ資格はない。
何度も言う通り、ナギが始めた話題なので話の輿を折る訳にはいかないのだ。ここは合わせるしかない。
どうでもいいが、ナギが「笹よりも鹿せんべえの方がマシじゃね? だって、アレってそこそこうまいし」とかとも思ったのは、ここだけの秘密である。
「え~~と、それはアレか? 遠回しに草食系男子をアピールしたいとかか?」
「おぉっ!! それいーな。オレはパンダのような癒し系だぜ、みたいな?」
「……ちなみに、知っているとは思うけど、野生のパンダはクマ並に凶暴だぞ?」
「も、もちろん知ってるさ!! 可愛い外見に騙されちゃいけないんだよな?」
「あと、これも知っているだろうけど……何と、パンダは黒地に白なんだぞ?」
「そ、それも知ってるさ。一般には白地に黒だと思われているけどな?」
言うまでもなく、ナギは話を合わせるために適当なことを言っているだけなので、それに必死に喰い付いてくれる田中のピュアさが際立つことだろう。
「と、ところで、ちょっと訊きたいことがあるんだけど……いいかな?」
「ん? 何? パンダの密輸の仕方なら、オレにもよくわからないからね?」
「それはわかってちゃダメって言うか、密輸そのものがダメなんじゃないか?」
「大丈夫。オレは既にダメだから、今更 何を言ってもダメさは変わらないさ」
「いや、それは何かが違うんじゃないか? って言うか、話が逸れてないか?」
「うん、まぁ、そうかもね。実に不思議なことに、いつの間にか逸れていたなぁ」
と言うか、逸れたのではなく、意図的にナギが逸らした が正解だ(もちろん、田中は気付いていないが)。
そのため、ナギは不思議そうな顔をしながらも内心では「チッ、気付いたか」とか思っている。
むしろ「ここは気付いてもスルーするのが嗜みってヤツだろ?」とか勝手な理屈を捏ねているくらいだ。
田中がナギの内心を知ったら人間不信に陥――いや「さすが神蔵堂、黒いな」で済ますかも知れない。
「じゃあ、話を戻すけど……ちょっと訊いてもいいかな?」
別に田中の疑問に答える義務などナギにはない。むしろ、ここまでパンダの話に付き合ったことで義理を果たしている気分ですらある。
だが、田中が亜子のストーキングをせずにナギに話し掛けて来た目的は、あきらかに その訊きたいことであることがわかっているため、
ナギは「だが、断る」と言いたいのをググッと堪えて「まぁ、答えられないことでなければ」と田中の疑問に答えることを選択した。
「えっとさ……神蔵堂って和泉のことをどう思っているんだ?」
まぁ、予想通りと言えば予想通りの質問だ。むしろ、田中が改まった態度で亜子以外のことを話題に出す筈がない とすら言える。
しかし、予想していたとは言っても反応に困らない訳ではない。その辺りは、ナギも余り触れて欲しくない話題なのだ。
と言うのも、ナギは「女のコとの人間関係」を深く考えないようにしているからだ。そのため、改まって聞かれると困るのだ。
原作とか物語の中とか そう言った問題ではなく、ネギや魔法と言う危険要素を孕むものと深く関わっているため「今はそれどころではない」のだ。
「まぁ、テンパっている姿に萌えると言うか、そこがカワイイと思ってはいるかな?
あ、でも、だからと言って恋愛対象として見ている と言う訳でもないからね?
表現が難しいんだけど、近い感覚としては『放って置けない妹』って感じなんだよ」
ナギは、複雑な心情を伏せながら「亜子のことは気に入っているけど、ライバルになる気は無い」と遠回しに言って置く。
もちろん、別に「田中との友情を優先して田中に亜子を譲ろう」とした訳ではない。
ただ単に「魔法と関係を切るまで待っていて欲しい」などと言う気がないだけだ。
理由を明かしもせずに他者に己の都合を押し付けられる程ナギは傲慢ではないのだ。
(だから、亜子のことは気に入ってはいたけど、田中と亜子が付き合うのを邪魔する気も無い……筈だ)
もちろん、二人が付き合うことになれば、かなり面白くない気分(控えめな表現)になるだろう。
だが、だからと言って、自分が付き合う訳でも無いのに邪魔をするのは何かが違うと思うのだ。
ナギは自分でも「我ながら最低だなぁ」と思うことがあるが、さすがにそこまで落ちたくはないのだ。
「そっか……」
そんなナギの想いが どこまで伝わったのかは定かではないが、田中は複雑な表情で頷く。
その表情から察するに「神蔵堂がライバルじゃないのは嬉しいけど、こんなことで喜んじゃいけないよな」
とか言う『中○生日記も真っ青な、爽やか過ぎて対処に困る感想』を抱いているに違いない。
(……だから、平末には悪いけど、田中のことを陰ながら応援しようと思う)
ナギが忘れてしまったもので溢れている田中が眩しいから……
ナギが忘れてしまったこと自体を思い出させてくれたから……
だから、ナギは このピュア過ぎる少年を生暖かく見守るのだった。
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Part.03:どっこい生きている胸の中
私の見たところ今のお兄様には事情説明をする余裕がなさそうデスので、不肖ながら代わりに私カモが現在の状況を説明させていただきマス。
ところで、最近、存在を忘れられているとしか思えない程に私の存在感はありませんデシタが、
私は常にネギ姉様の(なだらかな)懐にいたので、状況はだいたい把握していマスから、
空気だったんだから事情説明なんてできる訳がない、と言う心配は必要ありませんデスよ?
そんな訳で説明を始めマスが……やはり、事の発端はお兄様が「ゆえ吉ガイド」を利用したことデショウ。
と言うのも、奈良公園に着いて班別に別れた時、お兄様は私達(と言うか、ネギ姉様の班)のところに来て、
「ゆえ吉ー、今日もガイドよろしく頼む」って感じで、とても自然に夕映さんの隣に付いてしまったんデスよ。
しかも、お兄様ってば「いやぁ、タメになるねぇ。一家に一台ゆえ吉が欲しいぜ」とか言っちゃうんデスもん。
いえ、お兄様は夕映さんを百科事典扱いしているだけで、夕映さんを傍に置きたい訳ではないことはわかりきっていマスよ?
ですが、わかりきっていたとしても、楽しそうに他の女性の傍にいるお兄様など見たくはありマセン。
もちろん、それは私だけでなくネギ姉様をはじめとした「お兄様を慕う乙女達」も同じことデス。
あ、余談デスが、私の能力で「お兄様への好感度」も「お兄様からの好感度」も把握してますデス。
……以上から、乙女達がお兄様と夕映さんを引き離しにかかるのは火を見るより明らかデショウ?
具体的には、まき絵さん・アキラさん・裕奈さんの三人が亜子さんと お兄様を二人きりにしようと画策したようで、
まき絵さんが「ねーねー、ゆえちゃーん、あっちの建物は何なのー?」って感じで夕映さんをお兄様から引き離し、
アキラさんが「観光もいいけど、お団子もいいよね?」って感じで「花より団子」を用いて女子達を連れて行き、
裕奈さんが「ねぇねぇ、あっちの方に行ってみうよ?」って感じで胸を揺らしながら男子共を釣って行きマシタ。
しかし、そのあからさま過ぎる狙いに乙女達が気付かない訳がありマセン。
ネギ姉様は爽やな笑顔で「今はお腹減ってませんから」とアキラさんの誘いを断わって お兄様に接近しマシタし、
木乃香さんとお兄様の間でフラフラしていた刹那さんも「わ、私も結構です!!」と集団から離れていきマシタし、
そもそも、のどかさんは最初からアキラさんの誘いに乗らずにポジション(夕映さんの逆隣)をキープし続けてマシタし……
あ、ちなみに、ダークホースな美空さんは「アタシは団子を喰うっスよ?」と思いっ切り団子に釣られていマシタよ?
まぁ、そんな訳で、せめて空いた夕映さんのポジションを得ようとネギ姉様と亜子さんが争いを始めるのは自明デショウ?
ですが、お兄様は偉大デシタ。なんと、さりげなく(ここ重要)二人の争いを防いでしまったのデス。
具体的に言うと「そんなところにも見所があるのかー」とか言って夕映さんの後を追ったんデス。
つまり、空いた筈の夕映さんのポジションは夕映さんに戻るため、争いは起こる前に終わったのデス!!
その鮮やか過ぎる手際に「さすがは私のお兄様です!!」と軽くマンセーしたくなりましたデスが、
単純にガイドの後を追っただけと言う気がしないでもないデスので、私はお兄様を信じるだけにして置きマス。
もちろん、争いが未然に防がれたとは言え、ネギ姉様にも亜子さんにも不満が残るのは必然デスよね?
更に言うと、お団子タイムから復帰した美空さんも虎視眈々と漁夫の利を得ようとしていそうな気配がしマシタし、
よくよく考えてみると公式的には婚約者となっている木乃香さんも『いつでも参戦可能』な状態で「この場」にいマシタので、
お兄様の周囲では、もはや『冷戦』と言ってもいい程に水面下で(つまり、表面化しない)熾烈な争いが起こった訳デス。
あ、言うまでもないでしょうが、夕映さんのガイドが終わった後も『冷戦』は続きマシタ。
とは言え、無邪気に鹿とお戯れになっている お兄様を邪魔するような『無粋』な乙女はいませんデシタので、
情報を制するものが勝負を制する と言わんばかりに情報戦が始まったため先程とは趣が違いマシタけど。
具体的に言うと、裕奈さんが田中さんを「お兄様の気持ちを確かめるようにし向けた」感じデスね。
正直、裕奈さんは田中さんの気持ちを理解した上で亜子さんに『お願い』させたので鬼だと思いマス。
だって、田中さん、表面では笑って快諾していましたけど、内心では涙目って言うか号泣してマシタよ?
しかも、平末さんは傷心の田中さんを慰めることで田中さんの好感度を上げることしか考えてませんでシタし。
田中さんの境遇と進もうとしている道が余りにもヒドいので、田中さんに同情を禁じ得ませんデシタよ……
何て言うか、田中さんと亜子さんの仲を取り持ってあげたいなぁと思う今日この頃デスよ。
い、いえ、別に田中さんと亜子さんが くっつけば邪魔者が一人消える、などと言う考えは持ってないデスよ?
ただ単に田中さんに同情しているから応援するだけで、そんな邪なことは少ししか考えていませんって。
そ、それに、お兄様だって何だかんだ言いながらも田中さんのことを気に掛けていらっしゃる気がしマスし。
え~~と、そんな訳で、以上でお兄様の現状に対する事情説明を終えた訳デスが……実は一つだけ腑に落ちないことがあるのデス。
それは(お気付きの方もいらっしゃるでしょうが)のどかさんの動きが激しくなかった、と言うことデス。
だって、あの のどかさんデスよ? クイーン・オブ・腹黒な のどかさんがお兄様の傍にいる『だけ』だったんデスよ?
どう考えても、夕映さんを さりげなく威圧して お兄様の傍から退けたうえで他の邪魔者を排除していた筈デス。
それなのに、大した動きを見せなかったなんて……何らかの『裏』があると言っているようなものじゃないデスか?
以上のことから、これからは今まで以上に お兄様の周囲を警戒する必要があると思いますデス。
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Part.04:既に動いていただけだった
まぁ、単刀直入に身も蓋も無くネタバラシをしましょう。
って、私はイキナリ何を言ってるんでしょー?
妙な電波を受信するなんて……まるでナギさんみたいです♪
あ、今、「コイツ、イタイ。イタ過ぎる」って思いましたねー?
でも、まぁ、私自身も最近の自分の思考とかをイタイなぁって思いますんで別に怒りませんよー?
だって、ナギさんも充分にイタイ人ですから、これで同じ土俵に立てたって感じですもん。
って言うか、私って「好きな人に感化されるタイプ」の様なので、私がイタくなるのは必然なんですよねー。
と言うことで、前置きはこのくらいにしておいて、そろそろ本題に移りましょー。
本題――つまり、私が先程の『冷戦』に大した動きを見せなかった理由ですけどー、
実は、ゆえ とは共同戦線を張ることにしたため、むしろ好都合だったからなんですー。
ゆえ の評価が上がったと考えるのではなく、私達の評価が上がったと考える感じですねー。
え? ゆえ と共同戦線を張った理由ですかー?
そんなの、ゆえ とは争いたくないからに決まっているじゃないですかー?
一番わかり合える筈の親友(ゆえ)と敵対関係になっても いいことはありませんもん。
それに、私って独占欲は強くないですから、共有で満足できそうだって思いますしー。
はい? なら、他のコ達を蹴落とす必要は無いんじゃないか? ……ですか?
まぁ、確かに そう思わなくも無いですし、それが平和的な解決策だとは思うんですけどねー。
でも、いくら独占欲が強くないとは言っても、さすがにゼロと言う訳ではありませんから、
私の認めていないコとナギさんがキャッキャウフフするのは、許容できる自信が無いんですよねー。
特に、ネギちゃんみたいに「誰かと共有する気がない = 独占する気満々なタイプ」はダメダメです。
そんな相手と共有しようとしても、いつか出し抜かれるのが目に見えてますからねー。
出し抜かれるのを警戒したり、出し抜かれないように妨害するなんて労力の無駄です。
って言うか、大奥みたいにドロドロした派閥闘争とかしても そんなに楽しくありません。
……ですから、「共有してもいい」ってコ以外は蹴落とすしかないですねー。
あ、ちなみに、ゆえ をハーレム要員――じゃなくて、味方にした経緯は以下のような感じですー。
蛇足ですが、タイミングとしてはナギさんの誕生日の前夜で、シチュエーションとしては寮の部屋ですよー。
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「ゆえー、ちょっと大事な話があるのー」
適当な理由で部屋からハルナを追い出して「ゆえ と二人きりになる状況」を作った私は、
真剣な表情で ゆえ と向かい合い、予てから話したかった話題を切り出しました。
ちなみに、口調がいつも通りなのは必要以上にプレッシャーを与えないためですよー?
「な、なんですか?」
ゆえは私の話したいことがわかっていたようで、物凄く苦々しい顔をしていました。
ここが崖の上なら(私との対峙から逃げるために)バンジージャンプも辞さない感じです。
まぁ、それがわかっているからと言って追求を緩めてあげる気はサラサラないんですけどねー。
「ゆえ もナギさんのこと……好きなんでしょ?」
だから、私は前置きなどせずに単刀直入にサクッと本題を切り込みます。
本当は ゆえ から話してくれるのを待っていたいんですけど、もう待てません。
ライバルが増えていますからね、ウカウカしていると逃してしまうかも知れません。
「な、なななな何を言っているですか!? そ、そそそそそんな訳がないでしょう?!」
ゆえ……それは どう見ても語るに落ちるって言う反応そのものだよー?
そんなあからさまな反応されたら、逆にワザとかと思っちゃうよー。
でも、ゆえはウソが苦手だから、本気で誤魔化そうとしてるんだろーねー。
「ゆえー、私には本当のこと言って? 私達、親友でしょー?」
だから私は「友情」と言う鎖で ゆえ の逃げ道を封鎖します。
そうでもしないと、ゆえは「私のせい」にして逃げますからねー。
そんな自己陶酔な自己犠牲をされても私は嬉しくないですー。
「で、でも、こんな感情は一時の気の迷い――思春期によくある勘違いですっ!!」
確かに『本当のこと』だねー。それは私も否定できないよー。
でも、だからって、その『勘違い』と向き合わないのは間違ってるよ?
少なくとも私はそう思っているから。だから、ゆえを逃がさいよー?
「たとえ そうだとしても、好きと言う感情があるのは本当でしょ?」
私は殊更シリアスな顔をして、いつもの間延びした口調もやめました。
そのうえ、ゆえ が物理的に逃げられないように ゆえ を抱きしめたので、
思考への没頭と言う現実逃避が得意な ゆえ でも逃げられないでしょう。
「で、ですが、それでは私は のどか を裏切ることになってしまうです!!」
だから、そんな自己陶酔な自己犠牲をされても嬉しくないんだってば。
って言うか、本当のことを言って欲しいのに言ってくれないんだから、
私としては「そっち」の方が「裏切られている」気がするんだけどなー。
……だから、ハッキリ言ってあげましょう、ゆえ は間違っているって。
「それなら、『本当のこと』を言って? 本当のことを言ってくれない方が『裏切り』だよ?」
「ですが、私は のどかを応援すると決めたのです。それなのに、私もナギさんを好きなどと――」
「――違うよ、ゆえ。そんなのは間違っている。そんな前提、これっぽっちも正しくないよ?」
「そ、それは一体どう言うことですか? のどかはナギさんを好きでない と言うのですか?」
「ううん、そうじゃなくて……『私を応援するために ゆえが我慢しなきゃいけない』って考えが間違っているんだよ」
「…………すみません、それだと『私が我慢する必要が無い』と言っている様に聞こえるのですが?」
「うん、そうだね。『何で「二人で分け合う」って発想が出て来ないの?』って言ってるからね」
「え? え~~~と、その発想は普通なら出て来ないと思うですよ? 常識的に――と言うか、社会通念上」
「そうかなー? でも、ナギさんのことで二人が争わなくて済むんだから、とてもいい発想じゃない?」
「で、ですが、それは現代日本の倫理観では おかしいと言うか何かが決定的に間違っている気がするです」
「でも、二人が争うよりも、二人で他のライバル達と争う方がよくない? このまま共倒れなんて最悪でしょ?」
そもそも、私が ゆえ と共有しようとしているのは独占できそうにないからです。
いくら私の独占欲が強くないとは言っても独占できるものなら独占したいですよ。
単に、独占を狙ってゼロになるよりも共有によってゼロを防ぎたいってだけです。
100を求めて0になるよりは10でもいいから手に入れた方がいい、と言う判断ですね。
「そ、そう言われれば、正しく その通りなのですが……」
ゆえは「何か釈然としないものが残っている」って感じの反応ですけど、とりあえず説得は成功ってことでいいでしょー。
って言うか、ゆえは『ある程度』思考を誘導してしまえば自己完結してくれますので、放って置くのが一番なんですよ。
それに、ヘタなこと言って反論させちゃうと、せっかく思考誘導――じゃなくて説得したのが水の泡になっちゃいますからねー。
「そう言う訳で、明日の誕生日と明後日からの修学旅行は二人で頑張ろー?」
なので、キレイな感じで まとめた後は鮮やかに舞台から掃けました(部屋から出ました)。
ゆえの性格上、一人になれば思考に没頭して、自己完結を導いてくれるでしょうねー。
え? 思考が黒い、ですか? ……ちょっと何を言っているか よくわかりませんねー?
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いえ、まぁ、私のやったことは人として褒められたことではないとは わかっていますよ?
ですが、私は ゆえ と争いたくありませんでしたし、ナギさんをあきらめたくありませんでした。
それに、ゆえ と争わないで済む方法も、ゆえ を納得させる方法もアレしか思い付きませんでした。
ですから、仕方がなかったのです。背に腹は代えられないので、泥を被るしかなかったんです。
……これが小説とかの『物語』ならば、恋愛と友情で揺れ動きながらも最終的には双方を獲得できることでしょう。
ですが、現実は そんなにうまくいく訳がありません。それくらいのこと、わかっています。
ですから、私は――双方を失ないたくない欲張りな私は「ああする」しかなかったんです。
たとえ、それが人として最低なことであるとわかっていたとしても、他に選択肢はなかったんです。
少なくとも私は そう思っていますので、私は自身の行為に対して後悔も反省もしていません。まぁ、罪悪感は多少はありますけど。
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Part.05:嵐の前の静けさ
……ありのまま起こったことを お話します。
「私が鹿と戯れるマスターを録画していたら、
いつの間にか観光シーンから場面が変わっていた」
何を言っているのか要領を得ないとは思いますが、私も何が起きたのか把握し切れていないのです。
頭(と言うか、思考回路とかAIとか)が どうにかなりそうでした……
一心不乱だとか無我夢中だとか、そんなチャチなものでは断じてありません。
もっと素晴らしい『萌えの極み』と言うものの片鱗を味わいました。……はふぅ。
い、いえ、マスター以外のことも記録はしてありますので、経緯を知りたければリプレイすればいいだけなんですけどね?
ですが、一種の様式美とでも言えばいいのでしょうか?
説明の手間を省くために必要な遊び心と言うものなのです。
って言うか、違和感なく過程を飛ばすための舞台装置なんです。
と言う訳で、場面は一気に飛びまして、私達は旅館に戻っています。しかも、夕食後から就寝までのゴールデンタイムです。
……ええ、飛び過ぎですよね? 仰りたいことはわかります。
ですが、先程も申し上げたように、これが様式美なのです。
嘆かわしいことですが、偉い人には それがわからんのですよ。
って、くだらない脱線をしている場合ではないんですよね。
これでは、様式美を発動した意味がなくなってしまいます。
ですので、サクサクッと現状の説明から始めさせてもらいますね?
先程お話しましたように、現在は修学旅行の醍醐味である就寝前の自由時間であるため、
ただでさえテンションの高い3-Aの皆さんのテンションは止まることを知りません。
と言うか、「箸が転がってもおかしい」を地で行くような状態です(正直ウザいです)。
しかし、どんな雰囲気でも相容れない存在がいます。
そうです、こんな平穏な場に不穏な空気を孕む人がいるのです。
……それが誰かは言うまでもないでしょうから、敢えて言いません。
強いて言うとしたら、穏やかな名前をしているのに黒い人、ですね。
そんな私にできるのは彼女の企みに便乗して『楽しむ』程度です(ニヤソ)。
「なぁ、最近、茶々丸の様子がおかしいのだが……何か心当たりはないか?」
「……大丈夫だヨ。恐らくはAIの成長に伴う一時的な錯乱だと思うから、きっと大丈夫ダヨ」
「そう言うものか? それにしても、4月に入ってからが特にヒドいのだが?」
「それでも大丈夫サ。きっと春の陽気に当てられてイイ感じになっているだけだからネ」
「…………そうなのか? 『えーあい』とやらは そこまで人間に近いものなのか?」
「自律する機械とはオイルと言う血液を持つ生命体ダヨ? だから大丈夫ダヨ?」
「それには一理あるとは思うが……何かが微妙に違う気がするのは気のせいか?」
「き、気のせいダヨ!! って言うか、私が大丈夫ダと言っているのだから、大丈夫サ!!」
「いや、勢いで誤魔化そうとしていないか? って言うか、本当はダメなんだろう?」
「何を言っているかサッパリわからないネェ。大丈夫なものは大丈夫、としか言えないヨ?」
「いや、さっきから、『大丈夫』を連呼し過ぎで、逆に大丈夫じゃない気しかしないぞ?」
「ア~~ハッハッハッハッハ!! キミが何を言いたいのカ、私にはサッパリわからないヨ!!」
……マスターと超さんの実り無い会話は敢えてスルーして置こうと思います。
と言うか、ここはマスターに心配していただいている幸福を噛み締めるべきですね。
超さんは私を放置することで『シナリオ』がどう変化するのか見たいだけでしょうし。
マスターに害が及ばないのであれば、好きなようにやればいいと思う今日この頃ですよ。
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Part.06:嵐は唐突に
(はふぅ……風呂はいいねぇ。風呂は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ)
とか、某福音の最後のシ者のようなセリフを思い浮かべたナギだったが、どう考えても失敗だったろう。
何故なら、バカなことを考えて現実逃避しようとしたのだが、まったく逃避できてないないからだ。
いや、むしろ、現状(入浴中)を再認識することになるので気分は更に悪くなったのではないだろうか?
「ナギさん? さっきからボ~ッとして、どーしたんですかー?」
別に入浴そのものは問題ではない。むしろ、ナギは入浴が好きだ。そう、問題なのは一緒に入っている人物だ。
まぁ、上のセリフ(間延びしている)的に考えて、その人物が のどか であることは言うまでもないだろう。
もちろん、幻聴とか『念話』とかではない。普通に現実だ。つまり、ナギは のどか と入浴しているのである。
余談だが、ナギは昨夜に引き続き「もしもの備え」として水着を履いていたのでギリギリでセーフな状況だろう。
(って言うか、どう考えても この状況は おかしいよね?)
誰にも邪魔されずに入浴を楽しみたかったので、ナギはネギ・エヴァ・茶々丸に「絶対に邪魔しないで欲しい」と厳重に釘を刺して置いた。
ネギは明らかに一緒に入りたがっていたが、昨夜 一緒に入ったことが功を奏したのか「わかりました……」と渋々 納得してくれたし、
エヴァは「まぁ、今夜は特に報告もないし、礼は昨夜したし、偶には貴様の意思を尊重してやろう」と尊大な態度で納得を示してくれたし、
茶々丸に至っては「そう言うことでしたら、それとなく邪魔が入らないように警邏して置きます」と歓迎してくれたので、完璧な筈である。
(それに、何で のどか はオレが個人風呂を予約したことを知っているんだろ?)
昨夜ネギがロビーで騒いだことで少なくない人数に「ナギとエヴァが一緒に入浴した」と言うことは知られている。
そこから「個人風呂を予約して二人で入ったのでは?」とか類推したのかも知れないが……それでも腑に落ちない。
そもそもの問題として、この旅館に個人風呂は幾つもあるし、予約の時間だって複数の可能性(1時間刻み)がある。
つまり、ナギが「どの風呂に」「どの時間に」入るのか は、可能性が有り過ぎて類推で正答を導き出せるレベルではない。
それなのに、のどか は現在ここにいる。ナギが「この時間に」「この風呂に」入ることがわかっていた、としか思えない。
(いやはや、実に不思議だねぇ。まさに『謎が謎を呼ぶ』って感じだよ、うん。――ってのは冗談で、実は類推はできているんだけどね?)
何故なら、ナギが「この時間に」「この風呂に」入ることを知っているのは(ナギ以外では)例の三人しかいないからだ。
つまり、消去法で考えたら犯人は茶々丸しかいないのである(エヴァは義理堅いし、ネギが のどかに利することをする訳がない)。
と言うか、普段の茶々丸の態度(あきらかにナギを疎ましく思っている)を考えたら茶々丸以外に犯人がいる訳がない。
『と言うことで、茶々丸……これは どう言うことなのかな? って言うか、誓約はどうしたのかね?』
『何が「と言うこと」なのか は、皆目見当も付きませんが……誓約に関しては お答えしましょう。
答えは単純で、宮崎さんへの情報提供は誓約の範囲外だ と、私は認識しているだけのことです。
何故なら、誓約した通りに「私は邪魔をしていません」からね。誓約は一切 破っておりません』
犯人(茶々丸)を問い詰めるためにナギは『念話』を送ったのだが、その結果は散々だった。
茶々丸がアッサリと犯行を認めたまではよかったのだが、その後に謝罪するどころか開き直ったのがいただけない。
生憎と『念話』なので表情はわからないが、茶々丸は某ピンクの着物の人くらいに「どや顔」をしているに違いない。
まぁ、条件の裏を付くのはナギの基本姿勢なので、苛立ちはするものの文句を言いたくても言えないのが現状だろう。
(そもそも茶々丸が進んで警邏をしてくれた段階で疑うべきだったよ。恐らく、警邏と言う名の『のどか の手引き』だったんだろうなぁ)
今更と言えば今更だが、ナギを好ましく思っていない茶々丸が進んでナギのために働く訳がないので、ある意味では これはナギの自業自得だ。
それだけ精神的に疲れていた と言うことなのだろうが、ここが敵地であることは考えると、少しばかり気が抜け過ぎている と言わざるを得ない。
茶々丸の行為は「もう少し注意した方がよろしいですよ?」と言う解釈もできるので、余計にナギは文句を言えない(まぁ、そんな意図の訳がないが)。
ところで説明が遅れたが、茶々丸も例の念話用魔法具を持っているので、茶々丸も『念話』が可能なのである。
ちなみに ついでだから説明すると、ネギには念話用魔法具は持たせていない。何故なら、エヴァや茶々丸との『念話』をネギに聞かせたくないからだ。
別に疚しいことはないのだが、ネギ(子供)には聞かせたくない黒い会話をすることがあるので、エヴァや茶々丸とだけのラインにしたかったのである。
それに、ナギとネギは仮契約カードで『念話』が可能だし、魔法使い同士(ネギとエヴァ)は魔法で『念話』が可能なのもある(茶々丸は忘れて置こう)。
そんな訳で、ナギと茶々丸は楽しい楽しい『念話』を繰り広げるのだった。
『ところで、どうして のどか に情報提供をしてくれちゃったのかな?』
『それは もちろん「純粋な親切心から」に決まっているではないですか?』
『え? 親切心だって? それってイヤガラセの間違いじゃないの?』
『イヤガラセとは心外ですね。美少女と入浴できて嬉しいでしょう?』
『まぁ、嬉しいと言えば嬉しいけど、それ以上に厄介な事になりそうなんだけど?』
『それは因果応報と言うものですよ? いい目をみたのだから、苦しむべきなのです』
『もしかして、未だに昨夜のエヴァとの入浴の件を根に持っていたりする?』
『……さて、どうでしょうね? アレはアレで それなりに私も楽しめましたからねぇ』
楽し過ぎて涙が出て来そうな程だが、二人の関係を如実に物語っている一幕だろう。
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―― のどかの場合 ――
実を言いますと、最初の段階ではナギさんが個人風呂を予約したことまでは知りませんでした。
ナギさんが自分で予約した訳ではなく、茶々丸さんに予約を依頼したために気付けなかったんです。
しかも、電話ではなく『念話』で依頼が行われたので「依頼した事実そのもの」もわかりませんでした。
つまり、私には科学的なチェックはできても魔法的なチェックはできない、と言うことです。
更に言うと、ナギさんの行動だけをチェックするのではなく、その周囲もチェックする必要がある訳です。
当然、私ができることには限界がありますので、それらには どうしても『協力者』が必要となるでしょう。
……そうです。だから茶々丸さんと『協力関係』を結ぶことにしたのです。
まぁ、協力関係とは言いましたが、一蓮托生って感じの重いものではありません。、
自分の負担にならない程度に相手の協力をする、と言った軽いものですね。
今回は、先の情報提供の他にも、隠しカメラを準備してもらっている感じです。
あ、ちなみに、協力関係を結んだ時期は、ゆえ と共同戦線を張った直後ですよ?。
茶々丸さんの方から「耳寄りな情報があります」って感じで持ち掛けられました。
と言う訳で、裏事情の説明が終わりましたので、そろそろ『計画』をスタートさせましょう。
「ナギさーん、考え事は終わりましたかー?」
「え? あ、うん。まぁ、一通りは、ね」
「そうですかー。じゃあ、ゲストを呼んでいいですかー?」
「え? ゲスト? って言うことは誰か増えるの?」
私は答える代わりに「ゆえー、おいでー」と呼びました。
もちろん、ナギさんは かなりビックリしています。
ちょっとマヌケな顔ですが、これもいいと思います。
むしろ、私はナギさんのダメなところが好きですね。
「え、え~~と、状況がうまく飲み込めないんだけど?」
まぁ、そりゃそうですよねー。普通なら、私だけですもんねー。
でも、私達(ナギさん含む)は普通じゃないので、ゆえ も必要なんですよ。
それに、三人じゃないと私の考えている『計画』の意味がありませんし。
「簡単に言いますとー、一本の矢よりも二本の矢、二本の矢よりも三本の矢って感じですねー」
ナギさんが「それはそうかも知れないけど、それは何かが違くない?」とかツッコんでますけど、スルーして置きます。
だって、ナギさんってば「でも、これはこれで有りかも知れない」とかアレなことをブツブツ言っちゃってますもん。
……まぁ、言うまでも無いですが、私がナギさんの性質を見抜けていない訳がないじゃないですかー?
いくらナギさんも ゆえも あきらめたくないからと言っても、ナギさんの意思を無視したりなんかしませんよ。
ナギさんが「ハーレムも有り」って考えるようなダメ男だとわかっているからこそ、双方をあきらめなかったんです。
「と言う訳でー、裸のお付き合いをしましょー(もちろん、『お突き合い』じゃないですよー?)」
私は身に纏っていたバスタオルを脱いで全裸になり、ナギさんの右隣に付く形で湯に浸かりました。
それに合わせて ゆえ もバスタオルを脱いで全裸になって逆隣に腰を降ろしましたので、これで準備完了です。
ゆえとアイコンタクでタイミングを合わせて「えいやっ!!」ってナギさんが履いてた水着を脱がしました。
……そこにはゾウさんと言うには凶悪過ぎるモンスターがいましたが、私は見慣れているのでノー問題です。
あっ、見慣れていると言いましたけど、それは実物じゃなくて盗撮の映像ですよ? 妙な勘違いをしちゃダメですよ?
それと、ゆえ ですけど、予め盗撮映像を見せて置いたんですが、それでもショックは大きかったみたいです。
何か「ア、アナコンダです」とかブツブツ言いながら(手で目を押さえつつも指の隙間から)ガン見していました。
「…………あまりのことにオレは言葉も出ません」
ナギさんが滂沱な涙を流しながら斜め45度を見上げているのは何故でしょうか?
まぁ、嬉し泣きと言うことにして置いて、サクサクッと次の段階に移りましょう。
だって、これでは序の口に過ぎませんからね(『計画』には まだ続きがあります)。
と言うことで、ナギさんの腕を取り、自分の体で包み込みように抱き付きました。
ちょっと恥ずかしいですけど、秘所に手がぶつかる感じですね。
私の残念な胸では、胸で腕を包んでも視覚的効果が薄いですからね。
もちろん、(私より残念な胸の)ゆえも同じように抱きついてますよ?
「フフッ……こう言うのを『両手に花』と言うのかなぁ」
つまり、それは『花ビラ』と言う意味で ですね? ……わかります。
でも、理解した私が言うのもアレですけど、オヤジ臭い発想ですよねー。
ちなみに、ナギさんの魂が抜けているような気がしますが、敢えて気にしません。
だって、薄く笑った表情が「ハーレムを楽しんでます」って顔に見えますからね。
何も事情を知らない人が見たら、ナギさんが私達を囲っているようにしか見えませんって。
……と言う訳で、私の『計画』は恙無く終わりました。
まぁ、おわかりでしょうが、私の『計画』とは、この場で既成事実を作ることではありません。
ナギさんが私達を囲っているようにしか見えない映像を(茶々丸さんの隠しカメラで)録画することです。
敢えて言うなら「既成的な事実の捏造」と言った感じですね(茶々丸さんの協力に大感謝ですよ)。
後は、この映像を(編集して)ライバル達に見せれば……ライバル達は一網打尽にできますね。
もしくは、「ナギさんが複数の女性を囲っていても構わない」って言う『仲間』に振り分けられます。
フフフ……すべては『計画通り』ですよ?
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Part.07:気不味い邂逅
(フフフ……オレは燃え尽きちまったぜ)
御褒美をもらったような気がしないでもないが、それ以上に大切な何かを失った気がするナギの背中は煤けていた。
具体的に言うと、ハーレムルートに突入したと思ったら実はバッドエンドに直行していた、と言った感じだろう。
正直、男としてはハーレムは嬉しいし、のどか と言う危険要素が進んでハーレムを選んでくれたのは僥倖だが、
どうも何か裏があるような気がする と言うか、ナギの与り知らないところで何かが起こりそうな予感がするらしい。
(オレの悪い予感って当たるからなぁ。十中八九、オレ的には悪い事態が引き起こるんだろうなぁ)
先のことばかり考えても仕方がないし、ナギは「もう疲れたよ、パトラッシュ……」状態なので今日は もう寝るべきだろう。
幸い、今なら部屋に戻っても、風呂に入る前に仕掛けて置いた『睡仙香』が程好く効いていることだろう。
つまり、喧しい男子達は静かに寝ているだろうし、ナギも嫌な現実を忘れてグッスリと安眠を味わえることだろう。
……まぁ、この状況さえ抜け出せれば、の話だが。
さて、身も蓋もなく説明すると……風呂上りのコーヒー牛乳で気分転換をしていたナギは運悪く あやかと遭遇してしまったのである。
別に あやか が嫌な訳ではない。那岐のことで申し訳ない気分になったり、那岐への愛が伝わって来て気分が悪くなったりするだけだ。
つまり、あやか自体が問題なのではなく、あやかと接することでナギが受ける影響が問題なのだ。あやかに遭遇したくない訳ではない。
(ただ、今は会いたくない気分だったんだよねぇ)
別に、精も根も尽き果てているから更に精神的ダメージを負いたくない、と言う訳ではない。
今朝の夢(那岐の記憶)で那岐の木乃香・刹那との絆を見てしまったために気不味いのだ。
那岐と あやかの絆もあるのだろうが、現時点では まだ見ていないため、妙に罰が悪いのである。
(同じ幼馴染でも、那岐にとっては あやかとの絆は二人との絆 程じゃないのかも知れない……)
ナギの印象では、那岐にとって二人との絆は「何よりも大切なもの」であるのに対し、
あやかとの絆は「それなりに大切なもの」くらいでしかない ような気がしてしまうのだ。
それは、理屈ではなく感覚だ。だが、感覚として「そう理解してしまった」とも言える。
(まぁ、那岐自身も認識していないだけで本当は大切に思っていた可能性がない訳でもないけどさ)
ナギの望んだことではないとは言え『事情』を理解してしまったため、ナギは あやかを見ていられない。
那岐の気持ちが微妙であることがわかっているため、那岐のことを大切に思っている あやかを見ることがつらいし、
だからと言って(那岐の代わりに)あやかを喜ばせる訳にもいかない。ナギには見ていることしかできない。
22話Part.05での会話のせいか、あやかも気不味いようで、何とも言えない空気が短くない時間 二人の間に流れたのだった。
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オマケ:その頃の麻帆良
ナギ達が修学旅行を楽しんでいる一方で、他の学年の生徒は通常の授業が行われていた。
そう、中等部三年生以外は、いつもと変わらない『筈』の日常を過ごしていたのだった。
「……どうしたんだね、高音君? いつもの君らしくないぞ? 体調でも悪いのかね?」
タラコ唇と角刈りが特徴的な、眼鏡を掛けた黒人男性――ガンドルフィーニが、
自身の担当生徒である高音の様子がおかしいことに気付き、それについて訊ねる。
ちなみに、現在は(二次創作でよく言われている)『夜の警備』の真っ最中である。
まぁ、警備とは言っても、不審者を取り締まる程度の内容でしかないのだが。
麻帆良には強固な結界があるので、基本的には侵入者など有り得ないのである。
「い、いえ、ご心配には及びません。少々、気になることがある程度ですから」
高音はツンデレ属性を持っているものの、誰に対してもツンデレる訳ではない。
そのため、担当教師であるガンドルフィーニの問いに対し、正直に答える。
その隣に本音を見せてはいけない後輩(愛衣)がいることを忘れたのは御愛嬌だ。
「気になることって……センパイのことですか?」
だが、愛衣はそこを見逃さない。核心をストレートに突く。
ちなみに、表情も口調も極めて にこやかなのが逆に怖い。
それ故に、ガンドルフィーニは何も言わずに静観していたりする。
「……ええ、確かに その通りですが、それが何か?」
最初、高音は「失言でしたわ……」と後悔したが、ここで慌てても仕方が無いので開き直ることにした。
まぁ、開きなった と言うよりは、逆ギレしたと言った方が正しい気がするが、敢えて何も言うまい。
突如として始まった女の戦いに巻き込まれてしまったガンドルフィーニに対しても、敢えて何も言うまい。
「いいえ、何でもありませんよ? ただ、お姉さまはもっと素直になるべきだと思うだけですから」
愛衣は高音の予想外の切り返しに少々 驚きながらも、極めて冷静に言い返す。
ちなみに、二人は表情も口調も にこやかだが、雰囲気は物凄く冷え冷えとしている。
もちろん、ガンドルフィーニは逃げられない。逃げるタイミングを失っているからだ。
「……そうですわね。彼はニブいですから気を付けないといけませんわね」
高音は愛衣の言葉を「そうじゃないと、いつまでもセンパイに想いは届きませんよ?」と受け取る。
そして、その裏に隠された「まぁ、どうせ素直にはなれないでしょうけど」と言う言葉すらも受け取る。
それ故に、高音は裏の意味をスルーして、肯定のみをする。いつかは素直になる と言う意思表示だ。
「そうですね。しかも、何故かライバルがいっぱいいますからね」
愛衣も高音の言葉から「ですが、貴女の想いも届いていませんでしょう?」と言う裏の意味を受け取り、
ここで争っても意味がない(どころかマイナスでしかない)ことに気付かされ、不毛な争いをやめることにする。
まぁ、二人とも言葉の裏を読み過ぎだが、二人は言葉に含みを持たせられる程 仲が良い、と言うことである。
……ガンドルフィーニは「つまり、二人は仲がいいんだよね」と納得することにして「もう警備はいいから帰って寝よう」と結論付けるのであった。
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そして、場所は変わって麻帆良教会。その礼拝堂。
本来ならココネは寮に帰るのだが、何故か まだここにいた。
「寂しいのですね、ココネ?」
褐色の肌をした女性、シスター・シャークティがココネに気遣わしげな声を掛ける。
シャークティも朴念仁ではないので、何故ココネがここにいるのかくらいわかっている。
そして、自分では『二人』の代わりに成れる訳ではないこともわかっているのである。
「……別ニ、寂しくなんかないヨ?」
ココネはシャークティの気持ちが『何となく』わかるため、本音は言わない。
それに、本音を言ったところで現状が変わる訳でもないことをココネはわかっている。
二人の代わりなどいないことは、誰に言われるまでも無くココネ自身がわかっているのだ。
「まったく、貴女は嘘が下手ですね……」
見習いとは言えシスターが礼拝堂で嘘を吐くのも どうかとは思われるかも知れないが、
すべての嘘を禁じるのは狭量と言うものだろう、人のための嘘までは咎めるべきではない。
そう思いながらシャークティは苦笑して、素直になろうとしない少女の頭を優しく撫でる。
「……嘘じゃないヨ? だって、まだ二日だモン」
ココネは くすぐったそうにしながら、そっぽを向いて告げる。
それは、スネているように見えるが、強がっているようにも見える。
まったく以って素直ではない教え子にシャークティは苦笑するしかない。
「そうですね。何だか、物凄く時間が経っている気はしますが、まだ二日ですものね」
シャークティは「このコのためにも早く帰って来なさい」と とある少年に心の中で文句を言いつつ、
普段の堅い表情が嘘としか思えない慈愛に満ちた表情で、優しくココネの頭を撫で続けるのであった。
仮に この光景を彼が見れば「軽くメタなこと言わないでください」とかアレなコメントをすることだろう。
……このように麻帆良では いつもと違う日常が描かれていたのであった。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「修学旅行中の息抜きの筈が、最終的にはシリアスになっていた」の巻でした。
主人公と のどかをパクらせるつもりないので、キスイベントは起こりません。
まぁ、パパラッチに魔法バレしていないので起こり得ないんですけどね。
あ、個人的には14巻の のどか とゆえの ぶっちゃけシーンは好きだったんですけど、
『ここ』の のどかでは『ああ言う展開』は起こりそうも無いので(血みどろになりそうなので)、
主人公の都合など軽やかに無視した方向で「ハーレム化計画」を企てるような感じになった訳です。
私のものにならないなら いっそのこと みんなのものにしてしまおう……それが、のどかクオリティですね。
って言うか、原作の「健気なキャラ」が「ブッ飛んだ発想のキャラ」にジョブチェンジしましたよねぇ。
正直、最初の頃から のどかは黒くする予定だったんですけど、ここまで黒くなるとは想定外でした。
書いているうちに こうなってしまい、改訂する時も「直すと変になりそう」なので、基本ノータッチです。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2010/4/11(以後 修正・改訂)