第25話:予定調和と想定外の出来事
Part.00:イントロダクション
今日は4月24日(木)、修学旅行三日目。
原作では、ネギと明日菜が親書を本山に届ける中で小太郎の襲撃に遭い、
シネマ村にて刹那が木乃香を守るために月詠と死闘を繰り広げた。
……『ここ』では一体何が起こるのだろうか?
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Part.01:無慈悲な現実
泣きじゃくる幼い頃の せっちゃんがいる。
濡れた身体が寒いのか、打ち震えながら泣きじゃくっている。
その姿は とても痛々しくて、見ているだけで悲しくなって来る。
でも、それなのに、せっちゃんは悲壮な決意までしてしまう。
「守れなくて ごめん……ウチ、もっともっと つよおなる……」
そう、せっちゃんは悲壮な決意を『してしまう』んだ。
これが、せっちゃんの心にどれだけの楔を打ち込んだのか?
原作からそれを知っているオレは、こんな場面など見たくない。
でも、そんなオレの想いなど嘲笑うかのように那岐の記憶再生は続いていく。
全身を濡らした幼い頃の木乃香が「そんなんええよ」と言っているのに、
せっちゃんは木乃香の言葉を聞かずに ただただ己の無力を嘆いていた。
そして、二人の様子がわかる程 二人の傍にいるのに、那岐は見ているだけだった。
いや、違う。那岐も泣いていた。だって、いつの間にか視界が歪んでいたのだから。
二人の姿を見ているのが耐え切れなくなったのか、那岐は その場を離れる。
段々と二人の声が離れて行き、やがて木乃香の家からも離れ、森に差し掛かる。
そして、森の中で一人咽び泣き始める那岐。誰に憚ることなく、泣きじゃくる。
「ちがう!! 悪いのはボクだ!! ボクが二人を きずつけたんだ!!」
那岐はそんなことを叫びながら、声の限りに泣き叫ぶ。
考えてみれば、オレですら二人の泣く姿はつらかったんだから、
那岐にとっては とんでもなくつらいのなんて当たり前だった。
ただ単に、那岐は男の子なので二人に涙を見せなかっただけだ。
子供なんだから、二人の前で泣くことを我慢しただけで充分だ。
二人を慰めるなんて余裕がある訳がない。強がるだけで精一杯だ。
だから、今は泣き叫べばいい。そして、余裕が出来たら慰めればいい。
……しかし、どうしてこうなったんだろう?
せっちゃんが泣いているところからしか見てないから、よくわからない。
原作の知識から「川で溺れた時の事件か?」って予測は立つけど……
『ここ』と原作は似て非なるから川で溺れた訳ではないのかも知れない。
ただ、わかっているのは、この時に起きた事件が切欠で那岐の幸せの時代が終わったってことだ。
木乃香と せっちゃんの関係が悪くなったからなのか、那岐が自分を責めているからなのか……それはわからない。
でも、泣き疲れた那岐が森で意識を失った後、那岐が変わってしまったのは――『虚ろ』になってしまったのは、確かだった。
それまで幸せそうに笑っていたのに、木乃香を見ても せっちゃんを見ても笑わなくなった。いや、感情が動かなくなった。
「那岐君……ゴメン…………」
場面が変わり、いつの間にかいた若かりし頃のタカミチが沈痛そうな面持ちで那岐に謝罪する。
それに対し、那岐は「タカミチは何も悪くないよ?」と平坦な声で答えるだけだった。
その平坦さが、オレには、雪の日の那岐(16話参照)以上に那岐の心が凍て付いているように見えた。
そして、そんな那岐の手を取ってタカミチは木乃香家を後にする。
その姿は、木乃香の家に来た時(22話Part.01参照)の焼き直しの筈なのに、
何故か、雪の日の姿を――掴めないものを必死に掴もうとした姿を、髣髴とさせる。
いや、違うな。雪の日は掴もうとしていたが、今は掴む気すらないように見える。
そう、先程も言ったように、今の那岐は『虚ろ』になってしまったのだから。
「それでは、詠春さん。長らく お世話になりました」
「いや、こちらこそ却って迷惑を掛けてしまい、申し訳なかった」
「それでも、お世話になったこと自体は変わりませんから」
「そうか、そう言ってくれるか……ありがとう、タカミチ君」
「いえ、お礼を言うのはボクの方ですよ。那岐君は幸せ『でした』からね」
「……つまり、謝罪も謝礼も受け取ってくれない、と言うことかい?」
「ええ。それがボクのささやかな復讐ですから、どちらも要りません」
「そうか……それならば、ただ、黙って見送るとしよう」
タカミチと詠春はわかるようでわからない会話をして別れた。
そして、そんなタカミチに手を引かれるままに、那岐は木乃香の家を後にする。振り返ることなく、後にする。
その背を見送るのは『詠春さん』のみだった。そう、木乃香も せっちゃんも見送りに来ていないのだ。
まだ夜明け前(周囲の様子から そう判断した)だから、まだ二人が寝ている時間帯だったのだろうか?
それとも、二人は起きていたとしても来ないのがわかっているから、この時間帯に出発するのだろうか?
オレにはわからない。わかるのは、那岐が無表情ながらも何処か寂しそうにしているってことだけだ。
……幸せは永続しない。そんなのは、わかりきっている。
でも、だからって、それを許容する訳には――幸せをあきらめる訳にはいかない。オレは、そう思う。
幸せが壊れてしまったのなら修復すればいいだけだ。幸せを失くしたなら、再び手に入れればいいだけだ。
だから、那岐には幸せをあきらめないで欲しかった。あきらめなければ、幸せになれたかも知れないんだから。
まぁ、だからと言って、オレみたいにあきらめが悪過ぎるのも問題かも知れないけどね?
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Part.02:ダミーであしらって置きました
さて、最後の最後でナギらしくまとめたところで、気を取り直して今日の予定を確認してみよう。
ナギは今日、ネギ達と関西呪術協会の本山に行き、親書を渡したり詠春に挨拶したりする『予定』がある。
道中の妨害や夜間の襲撃など不安な点は多々あるが、特に一般人達が面白半分で尾行して来ないか が不安だ。
まぁ、興味本位で首を突っ込んで痛い目を見るのは自業自得なので本来ならナギが気にすべきことではないのだが、
原作知識と言う情報があるのに(危険を予見しているのに)何の対策も講じないのも気が引けるのである。
それ故に、ナギは一般人達に尾行されないように『手』を打つ――ダミーを囮にすることにしたようだ。
当然のことながら、一般人達が尾行して来ないようにするためにダミーを利用するのであって、ダミーを本山に行かせる訳ではない。
いくら安全を重視するナギでも、本山にダミーを行かせる と言う「バレたら各方面に軋轢を作る愚」を犯すような真似はしないのだ。
まぁ、若干は「一般人であることを理由に魔法関係を気にしないって手もあるけど」とか思ったらしいが、どうにか思い留まったようだ。
と言うか、万が一の可能性でしかないが、木乃香と結婚したらナギは西の長になる可能性が非常に高いため、そう無茶もできないのだが。
そんな訳で、ナギはダミーを作るために例の『身代わり君Ⅱ』(20話参照)の鼻を「ポチッとな」と押す。
すると、ムクムクと言う効果音が似合う感じで、節くれだっていた人形が徐々にナギの姿へと変わっていく。
まぁ、言うまでもなく、実に気持ちが悪い。「人形が人間に変化する」のは漫画だから許せる光景なのである。
それ故に、ナギはコッソリと「今後は変化の過程は見ないようにしよう」と心に固く誓ったとか誓わなかったとか
「……問おう、貴方が私のマスターか?」
気が付けば、ナギの目の前には「オレと瓜二つの好青年(ナギ談)」が立っていた。
特に、口を開いた瞬間にダメさが露呈する辺りとか似過ぎてて泣けて来るくらい らしい。
むしろ、ナギは「ああ、コイツは本当にオレのダミーなんだなぁ」とか思ったくらいだ。
「フヒヒwww サーセンwww」
(うん、だから少しは自重しような? 場を和ませたいんだろうけど、殺意しか沸かないから。
って言うか、「人の振り見て我が振り直せ」と言う言葉が木乃香の時 以上に身に染みるなぁ。
だから、これからはネタを少し自重しよう。もしくは、相手をイラつかせるために多用しよう)
余りにもダメな応答をしてくれるダミーに、ナギは悟りにも似た諦観に至ったとか至らなかったとか。
「まぁ、思うところがあるのはわかるけど……サッサと命令してくれないかな、オレ(マスター)?」
「うん、急に雰囲気を変えたり話題を変えたりするところも本当にウザいね、オレ(ダミー)」
「それがオレの常套手段だろ? って言うか、それはいいから早く命令(使命)をくれってばよ」
「いや、命令を求めている立場なのに、何故に そんなに偉そうなのかな? 少しは恭しくしたら?」
「え? いや、だって、それがオレじゃん? それ以外に説明の必要など あるまいて?」
「……まぁ、確かに そうだね。何だか泣きたくなる程の説得力を感じて何も反論できないよ、うん」
「納得してくれたのなら、サクッと命令してくれない? 放置とかされると泣きたくなるじゃん」
「はぁ、放置されるより命令された方がマシとか……本当にオレなんだなぁ、お前って」
「いや、オレのダメ――じゃなくて、ダミーっぷりの確認はいいから、早く命令してよ」
「わかったよ。だから、某王立国教騎士団の吸血鬼様のように命令を求めてくれないかね?」
「……命令(オーダー)を!! 命令(オーダー)を寄越せ!! 我が主(マイ マスター)!!」
「よかろう。では、風邪をひいた振り――部屋で寝込んだ振りをして、一般人達を欺いてくれ」
「え? 散々 引っ張って置いて、そんな命令なの? さすが過ぎてコメントもできないよ?」
「しょうがないでしょ? ヘタに動いたら妙なフラグが立っちゃいそうなんだから」
「いや、まぁ、確かにそうだけどさ……せっかくなので、フラグ乱立してみたいんだけど?」
「いや、それは やめてよ。って言うか、自重してよ。むしろ、何でオレ以上に自重しないの?」
「そりゃあ、オレは『旅の恥は掻き捨て』状態だから、いつも以上に後先を考えないじゃん?」
「ああ、なるほど。いやはや、ネギに拘束用の魔法具も借りて置いてよかったと心底 思うよ、うん」
「……やはり、さすがオレだな。抜かりがない と言うよりも、用心深過ぎてウザいくらいだ」
「まぁ、そう褒めないでよ。ただ単に、オレが大人しく命令を聞くとは思ってなかっただけだから」
「いや、命令によっては大人しく聞く――って、そうか。最初から大人しく聞かない命令をする気だった訳か」
「うん、まぁ、そうなるねぇ。じゃあ、そう言う訳で、修学旅行なのに一人寂しくホテルで過ごすがいいさ」
「最早さすが過ぎて脱帽だぜ。って言うか、この外道め!! いつかギャフンと言わせてやるからな!!」
「お約束だけど……『ギャフン』。どう? これで満足した? 満足したなら、大人しくしていてね?」
「クッ!! このド外道め!! 絶対『ギャフンと言わせてやる!!』って言うような状況に叩き込んでやるぅうう!!」
「フッ、負け犬の遠吠えが心地いいねぇ。だけど、余り騒ぐとバレるから、いい加減に大人しくしようか?」
そんなこんなで、どうにか『丸く収まった』ところで、ナギはダミーを鮮やかに拘束した(もちろん、黙らせるために口まで拘束した)。
まぁ、拘束した後に「最初から問答無用で拘束して置けばよかったじゃん!!」とか気付いたのは御愛嬌だろう。
果てしなく どうでもいい会話で時間を浪費した気がしてならないが、後の祭りでしかないので気にしてはいけない。
いや、「今後は気を付けよう」とか反省はすべきだが、後悔していても時間の無駄なので、今は未来を見るべきだ。
……ちなみに、ナギの使用した拘束用魔法具だが、これもネギがエヴァ戦で使ったものの魔改造版である。
相変わらずネーミングが残念(『帰って来たばっくん』と言う名前らしい)だが、性能は折紙付だ。
スペック的には、常人では抜け出せない程の威力と、対象を一日は拘束し続ける持続性も持っているようだ。
拉致や監禁などの犯罪にも使える代物なので、魔法や未来道具 同様「使う者のモラル次第」な代物だろう。
いや、まぁ、ナギのモラルは崩壊している気がしないでもないが、それでもギリギリのラインで大丈夫だと信じて置こう。
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Part.03:いざ出発
「……すみません、お待たせ致しました」
拘束したダミーを布団に放り込んだナギは、コッソリとホテルを抜け出して『皆』との待ち合わせ場所に移動した。
もちろん、ここで言う『皆』とは本山に行くメンツのことで、ネギ・木乃香・タカミチ・鶴子のことである。
ここで「あれ? せっちゃんは?」とツッコみたくなるだろうが、耐えて欲しい。何故なら残念なことに刹那はメンバーに含まれていないからだ。
ナギとしても同行させたいのは やまやまだが、木乃香に魔法をバラしてはいけない と言う暗黙のルールがあるため仕方がないのだ。
何故なら、今まで木乃香と疎遠だった刹那を急に(木乃香の里帰りに)同行させると木乃香を不審がられる可能性が高いからだ。
木乃香なら「ウチ等の仲が微妙なんを気遣ってくれたんかな?」とか好意的に解釈してくれそうだが、不審は可能な限り排除すべきだろう。
それ故に、刹那には申し訳ないが、少し離れたところで木乃香のストーキング――ではなく、護衛として待機してもらってるのである。
閑話休題、本題に戻ろう。先程のナギの「お待たせしました」と言う言葉通り、待ち合わせ場所には既に全員が揃っていた。
まぁ、待ち合わせの時間そのものは過ぎていないが、だからと言って首謀者とも言えるナギが最後に来たことへの詫びが必要ない訳ではない。
そもそも、ダミーとの無駄話で時間を費やした以外にも、それを見越してダミーを早めに作る努力を怠った と言う落ち度がナギにはある。
ナギは「風邪っぽいから今日は寝てる」と班員を部屋から退出させてからダミーを作ったのだが、班員を退出させるのを早目ににすべきだったのだ。
もしくは、早目にダミーと入れ替わって置いてダミーに班員達を騙させるべきだった(まぁ、ダミーにそこまでやらせるのは困難だっただろうが)。
「大丈夫です、全然 待ってません。って言うか、ナギさんのためなら いつまでも待ちます!!」
恐らくネギはフォローのつもりで言っているのだろうが、言われたナギとしては暗鬱とした気分になる。
具体的に言うと「朝から重過ぎる御言葉、本当にありがとうございます」とか言いたい心境である。
と言うか、タカミチの前で そう言うことを言われると何かのフラグが立つ気がするので本当にやめて欲しい。
まぁ、そんなこと言える筈がないし他に言葉が浮かばないナギは、返事の代わりにネギの頭を撫でるしかない。
「えへへ~~♪」
ネギは妙に嬉しそうな表情を浮かべているので、ナギの狙い(返事の誤魔化し)は成功した様に見えるのだが……
何故か何かを間違えたような気が――逆にネギの狙いが成功した気がしてならないのは多分 気のせいだろう。
まぁ、今はそんなことは気にしている場合ではないので、ナギは癖とも言える問題の棚上げをして置くことにするが。
「高畑先生。今日は付き合っていただき、ありがとうございます」
気分を切り替えたナギはタカミチに向き直ると、深々と頭を下げながら礼を述べる。
まぁ、頭を下げたのは礼の意味だけでなく、遅れたことへの謝罪の意味もあるだろうが。
ちなみに、ナギのセリフ(今日は付き合っていただき云々)が意味不明かも知れないが、
タカミチの『表向きの同行理由』の都合上、ナギは そう言うしかないのである。
「青山さんも、今日は非番なのに態々 来ていただいて、ありがとうございます」
タカミチの挨拶を済ましたナギは、今度は鶴子にも挨拶する(頭を下げる)。
またもやナギのセリフ(非番なのに云々)が意味不明かも知れないが、
タカミチと同様に鶴子の『表向きの同行理由』的に そう言うしかないのである。
……さて、そろそろ それぞれの『表向きの同行理由』について見ていこう。
ナギ : 木乃香の婚約者として、木乃香の父親(詠春)に挨拶をしに行かざるを得ない。
ネギ : 詠春とネギの父親が古くからの友人だったため、近くに来たので会って置きたい。
木乃香 : 近くまで来ているし婚約者(ナギ)が挨拶に行くので、実家に行かざるを得ない。
タカミチ : ナギの保護者でありネギ達の担任であるので、二人の引率をするべきである。
鶴子さん : ガイドの仕事が非番らしいので運転を依頼したら承諾されたことになっている。
まぁ、ツッコミどころはあると思うが、それなりに「それっぽい」のでOKだろう。
当然ながら、これらは木乃香に説明した内容でしかないので、対外的にはナギが木乃香の実家に行くことは伏せられている。
と言うか、ナギが木乃香の実家に行くことが一般人達には伏せられているからこそナギはダミーを囮にしたのだが。
故に、木乃香は対外的には「里帰りとネギの付き添い」と言う形で説明してあり、ナギの挨拶 云々は伏せられている。
ちなみに、ナギが木乃香の実家(西の本山)に行くことを知っているのは、同行者以外ではエヴァなどの魔法関係者だけである。
「そんな訳で、木乃香も今日一日よろしくな?」
まぁ、どんな訳かはわからないが、恐らくは木乃香にだけ何も挨拶しないのも気不味いので挨拶したのだろう。
冷静に考えると、ナギは木乃香を庇って婚約者役をやっているので、ナギが木乃香を気遣う必要はないが。
ナギに責める気はないが、婚約者としての面倒事ばかりで役得がないことに、行き場のない想いが募る らしい。
ところで、同行者以外の行動予定についてだが、以下の様になっている。
田中・平末・白井 : 女子を誘って市内を回るらしいが、亜子達を誘って玉砕した結果、男だけで回るのだろう。
フカヒレ・宮元 : 「西の聖地巡礼に決まっているジャマイカ」とか言っていたので、推して知るべしだろう。
エヴァ・茶々丸 : 「京都を堪能しまくってやる!!」とか張り切っていたので、渋い場所を回るのだろう。
美空・龍宮 : 事前の打ち合わせでは女子を『それとなく』護衛することになっているので、信じて置こう。
のどか・夕映・パル : 特に予定を聞いた訳ではないが、原作通りにゲーセンとかシネマ村とかに行くと思われる。
裕奈・まき絵・亜子・アキラ : 田中達の誘いに乗っていなければ、原作通りUSJを堪能するのではないだろうか?
さて、ここで「何でナギは それぞれの行動予定を知ってんの?」とか お思いだろう。
答えは単純で、男子達は班長として予定を聞いて置いたからで、エヴァ達はナギの護衛的な意味で情報交換は密にし合っているからだ。
また、美空達は関係者として事前に打ち合わせしていたし、のどか達は(話すと危険な気がしたので聞いていないが)予測しただけだし、
裕奈達に至っては、昨夜 裕奈が「どうせ明日は予定無いっしょ? だから一緒にUSJ行かない?」とか失礼な誘いをして来たのである。
うん、まぁ、仮病の代わりに裕奈達と遊んでも良かった気がしないでもないが、その選択肢はナギ的には有り得ない らしい。
いや、亜子の関係で田中的に面倒なことになりそうなのもあるが、それ以上に「ダミーに任せられない」のである。
確かに、ダミーの性能は素晴らしいため、問題なくナギの代わりを務めてくれだろう。その点では心配はない。
問題なのは性能ではなく中身だ。そう、ダミーは所詮コピーでしかなく、そのオリジナルはナギでしかないのだ。
つまり、ナギは自分自身が信じられないのである。意図せずに何かをやらかすに違いない と自分を疑っているのだ。
「……では、そろそろ行きましょう」
内心での状況整理を終えたナギは皆に出発を促す。まぁ、遅れて来た癖にデカい顔すんな と言う話だが、今回は仕方がない。
表向きでも裏事情としてもナギがメンバーの中心人物的なポジションになっているため、ナギが先導するしかないのだ。
敢えて言うなら、ネギはナギに従うだけだし、木乃香は男を立てる性分だし、タカミチと鶴子は付き添いでしかないのである。
勘違いした刺客がナギを襲って来ないことをナギがコッソリと祈っているのは ここだけの秘密である。
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Part.04:それでもダミーは頑張っている
ナギ達が出発した頃、ホテルのロビーに、裕奈・まき絵・亜子・アキラ・田中・平末・白井の7人がいた。
「え~~!? ナギっち てば風邪ひいたの?!」
「うん。本人は そう言って部屋で寝てるよ」
「バカなのに風邪ひくなんて……アリエナイ」
田中が「ナギが風邪をひいてダウンしている」と裕奈に伝えたことから、この騒ぎは起きた。
まぁ、ここまで過剰に反応されるとは思っていなかったので、田中を責めることはできないだろう。
それに、そもそも田中から話したのではなく、裕奈からナギの様子を訊かれたから田中は答えたのだし。
敢えて田中の責を問うのならば、亜子達を誘おうとして迂闊にも裕奈に近付いてしまったことだろう。
「なんでも昨日の夜から調子が悪かったらしいよ?」
平末が裕奈の過剰反応に苦笑しながらフォローを入れる(実にナイスなアシストである)。
まぁ、昨日も一昨日同様に早めに寝てしまったので昨夜のナギの様子は知らないのだが、
本人が そう言っているので「まぁ、そうなのだろう」と判断している平末だった。
「……ああ、成程ー。それでだったのかー」
平末のフォローを聞いた まき絵は しばらく考えると、何かを納得したようにコクコクと何度も頷く。
恐らく「ナギは昨夜から体調が悪かったので、昨夜の裕奈の誘いを断わったのだ」と言ったところだろう。
まぁ、真実と掛け離れた解釈だが、少ない情報から類推できる「納得しやすい理由」としては上出来だ。
「じゃ、じゃあ、ちょっと様子を見に行かひん?」
ここで、これまで黙って話を聞いていた亜子が提案をする。
ちなみに、誰の様子を見に行くか までは明言していないが、
流れ的にナギの様子を見に行くのは言うまでもないだろう。
「……そーだね。修学旅行を一人寂しくホテルで過ごすバカを慰めてやらないとね」
裕奈が亜子の提案に乗り、続いて他の一同も「そーだな」と言う感じで提案に乗る。
ただし、女子達は純粋にナギを心配しているのだが、男子達は そうとも言い切れない。
いや、もちろん、心配はしているのだが、ちょっとだけ女子に合わせたところもある。
まぁ、男なんて そんなもんだし、ナギも立場が逆なら同じような対応だろう。つまり、文句は言えないのだ。
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そんな訳で、場所は移動して、ナギの班の部屋。
「やっほ~~、ナギっち♪
元気にダウンしているかね?」
コンコン、ガチャッ
声を掛けつつノックと同時に返事を待たずに突入する裕奈。
実にツッコミどころ満載な言葉と行動であるが、
当然ながら、これはナギにツッコませるための前振りだ。
「………………」
しかし、ナギ(ダミー)は苦しそうに寝ているだけで、何の反応もなかった。
これには、裕奈も「あ、本気で風邪ひいてダウンしてるんだ」と納得だ。
何故なら、ナギがボケにノーリアクションだからだ。具合が悪いに違いない。
「ご、ごめん、ナギっち。ゆ、ゆっくりしていってね!!」
裕奈としては「ちょっと体調を崩したレベルだろうから、無理矢理引っ張っていけば大丈夫」とか考えていたため、
ちょっと あからさま過ぎたが、ボケてナギにツッコませ「何だ、元気じゃん!!」と済し崩し的に引っ張るつもりだった。
だが、ナギは反応すらしなかったため、ナギの体調を「マジでヤバい」と修正し、ナギをゆっくり休ませることにしたのだ。
裕奈はノリを大事にするタイプだが、ノリだけでなく気配りの重要性も理解しているのである。
「ま、まさか、ナギっちが本気でダウンしているとは……想定外だったわ」
「そうだねー。あきらかに起こしちゃダメって雰囲気だったねー」
「あれじゃ、からかう――じゃなくて、見舞うことなんてできないね」
「そうだねー。せっかく『パーフェクトフリーズ』をしようと思ったのにー」
「……まき絵? そんなに大量の氷、どこから持って来たの?」
「え? 厨房からだけど? もちろん、ちゃんと断わって持って来たよ?」
「そ、そう。ところで、運搬方法は? さすがにドラム缶は重いっしょ?」
「うん、重いね。だから、田中君に『亜子から』お願いして持って来てもらったんだー」
「アタシが言うのもアレだけど……アンタ、偶にナチュラルに悪女よねー」
「へ? なちゅらるにあくじょ? でも、私は ゆーなの真似をしただけだよ?」
裕奈と まき絵は想像以上の事態に予定していた「ナギを見舞いながらナギで遊ぶ」計画が破綻したことに嘆いていた。
まぁ、その中で聞き逃してはいけない言葉と見逃してはいけない光景(ドラム缶いっぱいの氷)があったのだが、
裕奈は聞かなかったことと見なかったことにして、まき絵に対する評価を「ちょっと危険」と修正したのだった。
ちなみに、ドラム缶いっぱいとは言っても、台車を使って運んだので、ドラム缶を田中一人で持ち上げた訳ではない。
ところで、ダミーの症状は裕奈達の予想とは裏腹に まったく酷くない。むしろ健康体だ。
ただ、拘束されていることで苦しく、更に「動けないので寝てしまおう」と言う発想で寝ているだけだ。
そう、マスターのせいで苦しそうに寝ているだけで、身体そのものは普通に健康体だったりするのだ。
まぁ、当然ながら、そんな事情など誰も想像すらしないので、勝手に同情を集める結果になったのだが。
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一方、ところ変わって京都市内にあるネットカフェ。ここには、のどかと夕映(ついでにパル)がいた。
「のどか? さっきから何をしているのですか?」
「えへへー。ナギさんへの『お土産』を作ってるんだー」
「お土産? パソコンで作るのですか?」
夕映の言う通り、のどかはパソコンで『何らか』の作業を行っていた。
「そうだよー。とびっきりの『お土産』になる予定だよー」
「……よくわからないですが、のどか が言うなら間違いないでしょう」
「うんうん。私は間違ってないから大船に乗った気で居ていいよー」
夕映は「きっと京都の情報でも まとめているのでしょう」と好意的に解釈したらしい。
まぁ、言わずとも おわかりだろうが、夕映の予想は まったくの的外れである。
のどか が作っているものは「ある意味で お土産と言えなくもない」代物である。
それが何かわかっていれば、夕映は全力で のどか を止めたであろうレベルの……
ちなみに、パルはBLな本をグフグフ言いながら堪能しているが、敢えてスルーでいいと思われる。
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Part.05:トラップは気付かれたらお終い
時間は進み、一行は無事に本山の入り口(千本鳥居の前)に辿り着いた。
まぁ、時間だけでなく話も進んでいる(ゲーセンイベントが飛んでいる)気がするが、そこは気にしてはいけない。
と言うか、原作ではゲーセンイベントがあったが、『ここ』ではゲーセンイベントなど起こらなかったのである。
むしろ、ゲーセンイベントは一般人達が付いて来ることが前提なので、そもそも最初から起こす予定はなかったのだが。
そんな訳で、シネマ村でのイベントも起こらない(何故なら、木乃香も刹那もシネマ村に行かないからだ)。
正確には、あやか とかがコスプレして楽しんでいる と言う ほのぼのしたイベントは起こっているだろうが、
刹那と白ゴス剣士のバトルとか、フェイトの式神に矢を射られて木乃香が覚醒するイベントとか起こらない。
(まぁ、覚醒イベントは「割と重要っぽいので起こすべきだったかなぁ?」とは思うけど……)
アレは物語の補正がなかったら死ぬ可能性が高い気がするので、そんな危険な賭けはしたくないのだ。
今のナギには自分の命をチップにする覚悟はあるが、他人の命をチップにする覚悟まではないのである。
ちなみに、コスプレは見てみたいので、後でパパラッチから写真を買おうとは思っているようだが。
さて、ここら辺でシネマ村のことは置いておくこととして、本山への道に目を向けてみよう。
本山への道は(入り口から見える範囲だけだが)ひたすら階段と鳥居が続いており、霊験あらたかな空気で満ち満ちている。
まぁ、霊験あらたか と好意的な表現を取ったが、正確には「俗世から隔離されている」と言うべきで、薄気味悪いくらいだ。
人は愚か鳥などの野生動物すら気配がなく(チャチャゼロ情報)、住宅街から余り離れていないのに静か過ぎて不気味でしかない。
「……ヤケに静かですね? 何だか、凶悪な生物のナワバリに入った気分ですよ」
ナギは軽薄な笑みを浮かべながら軽薄な調子で隣の鶴子に話し掛ける。
まぁ、敢えて冗談の様に言ったが、ナギはさりげなく核心を突いている。
何故なら、ナギ達は『西』のナワバリに『招かざる客』として入るからだ。
「まぁ、ここには『人払いの結界』が施されとりますからなぁ」
鶴子はナギの言葉の裏に隠されたメッセージを正確に読み取ったのだろう、苦笑しながら答える。
と言うか、鶴子は何気なく語ったが、『人払いの結界』が張られているのは非常に不味い。
本来は一般人を巻き込まないための「安全弁の一つ」なのだが、今回は裏目でしかない。何故なら……
「……つまり、ここで何が起きても一般人は駆け付けてくれない と言うことですか」
一般人をシャットアウトすると言うことは、警察を呼んでも救急車を呼んでも来てくれない と言うことだ。つまり、『陸の孤島』と同義なのだ。
仮に これが推理モノだとしたら、100%とも言える高確率で殺人事件が起きることだろう。特に、一人だけ逃げようとすると確実に死ね流れだ。
これは推理モノではないが、襲撃事件と言う『事件』は起きるだろうから微妙に符合する部分はある。つまり、一人だけ逃げるのは死亡フラグだろう。
まぁ、それはともかくとして、一般人を巻き込まずに事を起こせるうえに確実に通るルートなので、ここが非常に襲撃しやすい立地であるのは間違いない。
「本来は一般人を巻き込まないようにするための配慮なんだけど、今回は仇となってしまったようだね」
ナギと鶴子の会話を聞きつけたのか、突然タカミチが乱入して来た(しかも、既にナギの中で解決したことの説明だった)。
まぁ、正直、少しだけ「タカミチ、空気を読んで!!」とか思ったらしいが、善意による言動なので邪険にするのは不義理だろう。
そのため、ナギは「へー、そーなのかー」と言った感じで納得 & 感心の振りをしてタカミチとの会話を適当に打ち切る。
「――ところで、鶴子さん」
そして、鶴子に向き直り、殊更 真面目な顔を作る。
何故なら、今までの話はネタ振りに過ぎないからだ。
本題は――ナギの話したかった本当の話題は、ここからだ。
「ここら辺で、『呪術的な何か』を感じませんか?」
普通に考えたら『お膝元』で騒ぎを起こすなんて愚かな真似はしない。
だが、今回は事情が違う。相手は上層部に弓を引いているのだ。
それに、ここは『お膝元』であると同時に襲いやすい環境でもある。
「……どうして、どすか?」
鶴子も理由はわかっているのだろうが、それでも理由を訊ねて来る。
恐らく、ナギの『値踏み』のために説明をさせたいのだろう。
試されるのは気持ちのいいものではないが、立場的に仕方が無いことだ。
ナギの趣味ではないが、虎穴に入らなければ虎子は得られないので あきらめるしかない。
「まぁ、ここで襲撃するのも有りだとは思いますが……その前に戦力を殺ぐ為のトラップを仕掛けた方が効果的ですからね。
それに、ここは必ず通らなければならない場所であると同時にゴール直前であるために気が緩みやすい場所です。
つまり、オレなら間違いなくここにトラップを仕掛けますから、トラップが仕掛けられていないか調べて欲しいんですよ」
「……成程。そう言うことでしたら、調べましょう」
若干、言いたいことを詰め込み過ぎた気がしないでもなかったが、
どうやら、ナギの説明は鶴子の合格点をもらえたようだ。
鶴子は軽く納得を示すと、即座に意識を集中し調査を開始した。
『ってことで、ネギも頼む』
トラップが呪術だけとは限らないため、ナギは これまで木乃香の相手をしていたネギに『念話』を送る。
ネギへの説明を軽く省いたが、ネギは木乃香と会話をしながらもナギ達の会話を聞いていたので、
何の問題も無くナギの言いたいことを理解してくれるだろう(困った傾向だが、この場合は有り難い)。
『はい、わかりました!!』
ネギは快諾を『念話』で伝えると、「すみません、ちょっとタカミチに話たいたいことがあるので……」とか言って木乃香と別れ、
タカミチ(近くに鶴子もいる)の方に移動して、何やら精神を集中し始めた(きっと、魔法的な調査をしているのだろう)。
調査に関してはナギは何もできないし、木乃香を放置する訳にもいかないなめ、ナギは木乃香に歩み寄ると雑談を投げ掛ける。
ちなみに、以下は その雑談内容だが、余りにも雑過ぎることを予め記して置こう。
「どうでもいいけど……昔、階段と鳥居の数を数えたことあったよね?」
「そーやな。確か、階段は1080段あって、鳥居は108個あったんよなぁ」
「……さすがに数までは覚えてなかったけど、そんなにあったんだ」
「ウチも覚えてへんかったけど、最近お父様に数を聞いたんよ」
「成程ぉ。ところで、1080と108って何らかの意味がある数字なんだっけ?」
「え~~と、108は煩悩の数やってのはわかるけど、1080って何やろ?」
「う~~ん、シャーマソのアンアンが使ってた数珠ってイメージはあるね」
「じゃあ、それかも知れんなぁ。お父様、あきらかに巫女萌えやし」
「……いや、巫女萌えとアンアンは関係ないっしょ? あのコ、イタコじゃん」
「ん~~、でも、イタコさんと巫女さんって似たようなものやん?」
「いや、でも、イタコの衣装と巫女服って微妙に違うんじゃなかったっけ?」
「どうやろ? 巫女さんは見たことあるけど、イタコさんは見たことないしなぁ」
「そう言えばオレも見たことないや。ゲームに出て来るのは巫女さんばっかだし」
「そうやなぁ。巫女萌えは よく聞くけど、イタコ萌えは聞いたことないもんなぁ」
「まぁ、イタいコの略としての『イタコ萌え』なら割と聞く気がしないでもないね」
「そうやなぁ。『このコはウチが守らなアカン!!』って感じの母性本能やなぁ」
もちろん、ナギと木乃香の会話がダメ過ぎる件については軽くスルーしていただけると幸いである。
ところで、今更なことだが、ナギが二人に探してもらっているのは『無間方処の呪法』と言う無限ループなトラップだ。
原作知識から『ここ』でも仕掛けられていることを想定して、それっぽい理屈を付け調べてもらっているのである。
まぁ、どこまで原作知識が活かせるか は未知数だが、それでも可能性は高いので試してみる価値はあるだろう。
また、鶴子とネギの二人にトラップ探知を頼んだのは、ネギは東洋魔術に疎くて鶴子さんは西洋魔術に疎いからだ。
恐らく『無間方処の呪法』は東洋魔術だろうから鶴子だけで充分だとは思うが、『ここ』と原作は似て非なるから油断は大敵だ。
もしかしたら、フェイトが西洋魔術的なトラップも仕掛けているかも知れない。その可能性は低いが、ゼロではない。
まぁ、用心に越したことは無いだろう。ナギは石橋を叩いたうえで船も準備するタイプだし、狡い手(トラップ)で負けたくないのだ。
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そんなこんなで、いろいろ想定はしていたが……結果から言うとトラップは『無間方処の呪法』のみだった。
言うまでもなく、鶴子に看破してもらって鶴子に破壊してもらった。鮮やか過ぎる手並みで拍手したくなったくらいだ。
しかし、剣も術も使えるとは、鶴子は本当に頼りになる助っ人だ。原作乖離が激しくなること覚悟で連れて来た価値はあるだろう。
まぁ、原作乖離をし過ぎると後で皺寄せが来そうだが、それでも魅力的な戦力には勝てないのだ。遠くの危険よりも目先の危険だ。
ちなみに、ネギは「東洋魔術も勉強します!!」とか悔しがっていたが……頭を撫でて労うに止めたナギは間違っていないだろう。
どうでもいいが、トラップを破壊してもらった時に それなりの音が出てしまったが、
木乃香には「性質の悪いイタズラがあったみたい」と説明したので問題ない。
それを疑いもせずに信じてしまう木乃香の将来が心配だが、問題がないったら問題ない。
もしかしたら、疑わしいとは思っていてもナギが相手なので信じただけかも知れないが、そこは敢えて気にしないで置くべきだろう。
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Part.06:その頃の金髪幼女と茶髪ガイノイド
一方、その頃のエヴァと茶々丸はと言うと……
「茶々丸、見ろ!! 鹿苑寺だぞ、鹿苑寺!! アレが本物の鹿苑寺なんだぞ!!」
「そうですね、マスター。今まではテレビでしか見られませんでしたからね」
……普通に京都観光を楽しんでいた。いや、むしろ、普通以上に楽しんでいた。
まぁ、15年間も麻帆良に引き篭もっていのだから、エヴァのテンションも納得だ。
そして、そんなエヴァを鑑賞している茶々丸のテンションが高いのも頷けるだろう。
ちなみに、通称である金閣寺と言わずに鹿苑寺と呼ぶのはエヴァのコダワリである。
「うむ!! やはり、本物は違うな!! こう、神々しい何かに満ち満ちているな!!」
「そうですね、マスター。光り輝く黄金の国――ジパングの美そのものですね」
「うむ、そうだな。そう言う意味では、春ではなく秋に来たかったな」
「そうですね、マスター。黄金に輝く稲穂と真紅に彩られた紅葉は鉄板ですね」
金に彩られた鹿苑寺を間近で見たエヴァは何かが降りて来たようなことを口走る。
ちなみに、エヴァの家のテレビは65型のフルハイビジョンな高性能テレビであり、
それで旅番組や美術番組などを堪能している……が、やはり本物には勝てないらしい。
どうでもいいが、超の科学による恩恵なので時代考証はスルーしていただけると有り難い。
ところで、お気付きだとは思うが、エヴァと茶々丸の会話は噛み合っている様で噛み合っていない。
だが、噛み合っていない様で噛み合っているので、周囲にとっては不可思議な会話である。
まぁ、二人ともテンションが高いので仕方が無いと言えば仕方が無い……ことにして置こう。
周囲にとっては「金髪幼女が騒ぎ茶髪少女が窘めている」ようにしか見えない訳だから。
「……よし!! 『あのバカ』を丸め込んで、秋にも来よう!!」
「そうですね、マスター。神蔵堂さんなら簡単に落とせますね」
言わずもがなだろうが、エヴァの言う『あのバカ』とはナギのことであり、京都に来るのに彼を丸め込むのは『そう言う契約だから』だ。
と言うのも、エヴァは彼(とネギ)の安全を保障する『契約』を結んでいるため、二人を危険に晒すような真似はできないからである。
まぁ、エヴァが京都に来るだけならば危険に晒すことにはならないのだが……二人と離れ過ぎるのは危険な可能性もあるので彼の許可が必要なのだ。
一見すると、二人に束縛されているように見えないが、元々エヴァは身内に甘いので、既に身内と認定している二人を危険に晒す気などないため問題ない。
つまり、エヴァは『契約』を口実にして二人を気遣っているだけに過ぎず、それに気付いている茶々丸はニヤニヤしながら気付かない振りをしているのだ。
「うむ!! では、次……龍安寺だ!! 石庭だ!! 枯山水だ!!」
「そうですね、マスター。枯れた中にこそにある水を堪能しましょう」
そんな事情を抱えた金髪幼女と その従者である茶髪ガイノイドは、今回の京都観光を精一杯 堪能するのだった。
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Part.07:襲い来る刺客
「どうやらトラップは うまく抜けたようやけど……ここを通りたければウチを倒してからにしいや!!」
ここは「お前は どこの格ゲーのキャラだよ?」とかツッコむところだろうか?
それとも「やっぱりオレが中心人物だと勘違いしたか」とか嘆くべきだろうか?
果てしなく どうでもいい悩みだが、ナギは現実逃避のために悩んでいるようだ。
(いや、まぁ、わかってはいたさ。って言うか、わかっていない訳がないさ)
トラップを破ったとしても襲来イベントはなくならないことくらい、ナギとて言われるまでもなくわかっていた。
だからこそ、鬼蜘蛛(だと思われる生物)と共に小太郎(だと思われる学ラン君)が襲来して来ても、想定の範囲内ではある。
また、ネギが幼女なので小太郎(多分)がネギを標的にしなかったのも、想定の範囲内と言えば充分に想定の範囲内だ。
(でも、ネギの代わりに標的になってもらうために連れて来たと言っても過言ではないタカミチを狙わなかったのは何でだろう?)
ナギの心情としては「何でオレを襲って来てんの? マジ意味わかんないんだけど?」と言いたいところだろう。
そもそも、ナギの認識ではナギは一般人でしかない。魔法に関わってはいるが、戦闘力的には一般人そのものだ。
それなのに、何故に小太郎(きっと)はナギとバトる気 満々なのだろうか? 悲しいくらいに意味がわからない。
「……どないしたんや? 掛かって来いひんなら、コッチから行くで?」
ナギの無言(思考への没頭)を「無言は肯定と受け取るぜ」と捉えたのか、いつの間にかバトることが決定していた。
当然ながら、それは相手の理屈であってナギは納得していない。と言うか、徹頭徹尾ナギにバトる気などない。
仮にバトるとしても、まだ『前座』が残っているのだから、どう考えても まずは『前座』をどうにかしてからだろう。
「いや、ここは常識的に考えて、その鬼蜘蛛っぽいものを倒してからって流れじゃない?」
そうだ。小太郎(恐らくは)の足元にいる鬼蜘蛛(恐らくは)を忘れてはいけない。
原作では明日菜に一撃で葬られていたが、『ここ』では そうはいかないので大丈夫だ。
何故なら、明日菜はいないからだ(まぁ、保有戦力としては あきらかに原作以上だが)。
「まぁ、そらそうなんやけど……これは あくまでも足止め用やしなぁ」
恐らく、その足止めとはネギやタカミチへのものだろう。今の状況を鑑みるに。
では、何故その足止め用の鬼蜘蛛(だと思う)に小太郎(だと思う)が乗ったままなのか?
その答えは単純で、今のナギは(精神的にではなく物理的に)孤立しているからだ。
(……そもそもの間違いがタカミチと離れたことだったのかも知れないなぁ)
先程、一行は階段の中腹にある休憩所らしき場所(自販機完備の あそこ)に到着し「ちょうどいいから、ここで小休止にしよう」と言うことになった。
その際、ナギは尿意を催してしまったために皆から離れた(休憩所にあったトイレは生憎と『使用禁止』だったので、茂みを選んだ)のだが、
ナギが一人になったのを待っていたのか、タイミングよく鬼蜘蛛(に違いない)に跨った小太郎(に違いない)が先の口上を述べながら現れたのである。
(出待ちしていたかの様なタイミングに、思わず「謀ったな!! シャア!!」とか言いたくなったよ。いや、相手はあきらかにシャアじゃないけどさ)
タカミチを護衛として付けて来なかったのは、気分的な問題だ(オッサンと連れションが微妙に嫌だったのだ)。
それに、鶴子が「野暮用が出来ましたので」とか言って、木乃香を連れて何処かに消えて行ったので、
タカミチをナギに付けてしまうとネギが一人になってしまうため、いろいろな意味で危険だ と判断したのである。
(ちなみに、どうでもいいだろうけど、鶴子さんと木乃香が消えたのはトイレに違いないと思ったけど紳士なので何も言わなかったよ?)
そんな訳で、足止め用の鬼蜘蛛(の筈)が未だに小太郎(の筈)の足元で元気に存在しているのである。
また、同じ様な理由で、小太郎(っぽい少年)は暢気にナギとの会話を楽しむ余裕がある と言う訳だ。
仮にタカミチや鶴子がいれば、既に鬼蜘蛛(仮)ごと小太郎(仮)は瞬殺されていたことだろう。
と言うか、タカミチや鶴子がいないからこそ、小太郎(らしき少年)はナギと会話をしているのだろうが。
「……それじゃあ、その鬼蜘蛛らしきものはネギに相手してもらうことにして、君は高畑先生に相手してもらおう!!」
だから、この場は二人のところに戻るのがベストだと思わない? などとナギはさりげなく提案する。
と言うか、そうしないとナギは小太郎(っぽいバトルジャンキー)とバトらなければならないので必死だ。
まぁ、ネギを召喚する と言う『奥の手』もあるし、チャチャゼロと言う『切札』も残ってはいるのだが。
だがしかし、『奥の手』や『切札』とは可能な限り伏せて置くべきなので、口で丸め込めるなら口で丸み込みたいのがナギの方針だ。
「いや、メッチャ情けないことを堂々と宣言されても困るんやが?」
「いやいや、そもそもオレは一般人だよ? バトルなんて できないって」
「嘘はアカンで? 身体付きと身体運びから『できる』ってわかるで?」
「それは目が節穴なだけですから。オレは全然バトれませんから」
「へぇ? でも、せやからって、見逃す理由にはならへんなぁ?」
「いや、まぁ、そもそもは妨害のために襲って来たんだもんねぇ」
「そうや。御嬢様はどうでもええが、バトれるのは楽しみやな」
「うん、オレのセリフと『そうや』が全く繋がってねーですから」
「え、ええやんか!! ちゅーか、口上はええから、サッサと勝負しようや!!」
「いや、だから、オレはヤリたくないって言ってるでしょ?」
「いや、だから、ウチはヤリたいって言うてるやろ? ええやん」
「いやいや。合意のない行為はレイプに他ならないと思うんだけど?」
「いやいや。それはヤるの意味がちゃうから。ちゅーか、下品やな?」
「いやいやいや。相手の意思を無視する野蛮人に下品とか言われたくないね」
「…………兄ちゃん かて必ずしも相手の意思を尊重する訳やないやろ?」
「まぁ、そうだけど……それでも、無理矢理ヤったことはないかんね!!」
「せやから、そっちのヤるやないって言うてるやろが!!」
「どっちも一緒さ!! だって、どっちも受け手の初心者には痛いだけだもん!!」
「な、成程、一理あるな――って納得するかぁあああ!!!」
「って言うか、そもそも、どうしてオレなの? 高畑先生でいいじゃん?」
「いや、イキナリ話題を変えんなや――あ、でも、やっぱ、戻さんでええわ」
「じゃあ、何で高畑先生じゃなくてオレなのか、納得できる理由を提示してくれたまえ」
「……だって、オッサンとヤってもつまらんやろ?」
「いや、世の中にはオッサン萌えな女子中学生もいるんだよ?」
「いや、せやから そっちのヤるちゃうって何度言わせるねん?」
「え? でも、さっき話題を変えるなって言ったじゃん?」
「いや、でも、その後に戻さんでええって言うたやろ?」
「じゃあ、オレとヤるのをあきらめるんだったら、その話題は封印する」
「そうか……じゃあ、あきらめ――る訳無いやろがぁああ!!」
会話を重ねた結果、ナギは「コイツって某狩人作品のチーターな蟻みたいに扱いやすっ」とか思ったとか思わなかったとか。
(どうでもいいけど、コイツって小太郎でいいんだよね? 向こうはオレを知っているっぽいけど、オレは知らないんだよなぁ。
まぁ、だからと言って「アンタ誰?」なんて訊かないけどさ。だって、そんなこと訊いたら名乗ると同時に襲って来そうなんだもん。
いや、別にバトルになっても手がない訳じゃないから大丈夫だけどさ。それでも、できるだけ手の内を明かしたくないんだよねぇ)
ナギは憤りを露にする小太郎(と思わしき少年)を見ながら、状況の打開策を模索するのだった。
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オマケ:異形の剣士と異才の剣士
ナギが小太郎らしき学ラン君と対峙している頃、少し離れた場所で刹那と月詠が対峙していた。
「どうも~~、神鳴流は月詠です~~。お初に~~」
「お前が神鳴流剣士……? そんなヒラヒラしているのにか?」
「はい~~。見たところ、先輩さんみたいですけど……?」
「神鳴流、桜咲 刹那だ。月詠と言ったか? 何故、神鳴流剣士が私を襲う?」
「まぁ、反東派に雇われましてな~~。で、雇われたからには――」
「――ああ、同門だろうが、敵に回れば容赦はしない」
「なら、こちらも その気で いかせてもらいますわ~~♪」
短い会話の後、対峙する二人の神鳴流剣士。
正統派の刹那は制服姿で野太刀を構え、邪道の月詠は白ゴス服で長短二刀を構える。
この勝負、どちらに軍配があがるのだろうか? いや、萌え的な意味でなく、剣的な意味でだ。
二人は互いに機を探り合い、機を狙い合う。まさに一触即発の状況。そんな状況の中――
「――ふむ。どうやら間に合うたようですなぁ」
そんな状況の中、まるで降って沸いたかのように唐突に第三者が現れる。
気を張り巡らせていた二人に接近することさえ気付かせなかったその人物は……
「師範代!!」「お師匠!!」
刹那に『師範代』と呼ばれ、月詠に『お師匠』と呼ばれる人物。
それは、かつて神鳴流にて師範代を務めていた青山 鶴子だった。
現在は寿退職し一線から退いているが、その腕は まだまだ健在だ。
「――ッ!! 師範代、御嬢様はいかがなさったのですか!?」
そして、鶴子を見た刹那は その腕に抱えられている人物を見て驚愕する。
何故なら、鶴子の腕の中にいた木乃香は意識がないように見えたからだ。
まぁ、木乃香を守る剣となることを誓った刹那にとっては一大事だろう。
――だが、それは敵を前にして犯してはならない致命的な過ちだった。
そう、鶴子が刹那に答える前に、絶好の好機を見逃さなかった月詠が動いていた。
縮地レベルの『瞬動』で一足飛びに刹那に接近し、神速の抜刀を行っていたのだ。
刹那が それに気付いた時には、時 既に遅し。刹那に迎撃する暇はなかった。
「――あきまへんなぁ? 敵から目を逸らすなんて……」
だが、鶴子の剣は――斬撃を飛ばす神鳴流の奥義『斬空閃』は、月詠の剣を捕らえていた。
鶴子は、月詠が動いた瞬間に それを察知し、刹那と月詠の間に斬撃を放っていたのだ。
しかも、現在の鶴子は『先程と変わらずに木乃香を その腕に抱えたまま』だった。
つまり、瞬く間に木乃香を放し、刀を抜き、技を放ち、刀を納め、再び木乃香を抱えたのだ。
その余りにも早過ぎる動作に刹那も月詠もレベルの違いを瞬時に理解した。いや、理解せざるを得なかった。
「まぁ、オシオキは手合わせの後や。まずは、どれだけ練り上げたか見せてもらいましょか?」
鶴子は二人の畏れを涼しい顔で受け流すと、二人に斬り合うことを促す。
その言葉には この程度のことで死ぬ訳がない と言う信頼と同時に、
この程度で死ぬ様なら それまでのこと と言う冷徹な想いが同居していた。
そして、それを受けた二人は再び距離を取り、互いの機を探り合いながら再び一触即発の空気を纏う。
「あっ、その前に……刹那。御嬢様には見せん方がええと思て気絶させただけやから、御嬢様は心配ないで。
それと、さっきから『師範代』『師範代』言うてるけど、ウチはもう師範代ちゃうから『元師範代』やで?
あと、月詠。とっくの昔に破門したんやから『お師匠』て呼ぶのはアカンで? ……斬りたなるからな?」
だが、鶴子が思い出したかのように話し掛けたために二人の空気は霧散してしまう。
「し――じゃなくて、元師範代!! 邪魔したいのですか、促したいのですか!?」
「いやぁ、すまんなぁ。気掛かりがあっては実力を出し切れへんやろ思てな?」
「……お心遣いに感謝致します。確かに、私の不徳の致すところでしたからね」
刹那の生真面目な対応に、鶴子は苦笑にも似た笑みを浮かべて頷くことで返す。
ちなみに、鶴子が木乃香を態々 連れて来たのは、刹那の心を乱すためだったりするが、
刹那は鶴子の狙いに気付いていないし、鶴子も この段階では狙いを明かすつもりもない。
まぁ、月詠は何となく感付いてはいるが、今は斬り合うことの方が大事なので何も言わない。
「では、刹那が納得したところで……はじめぇええ!!」
そんな事情など一切 気にせず、鶴子は開始の合図を出す。
妹の見出した『剣』の成長具合を確かめるために……
そして、その剣が如何に脆いかを気付かせるために……
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「ちょっとだけ動きを出してみた筈なのに、あんまり動いていなかった」の巻でした。
と言うか、鶴子さんがオリキャラと化していますね、はい。月詠の師匠とか元師範代とか、オリジナル設定の塊ですよ。
しかも、剣も術もできちゃうチート仕様な人妻。そう、人妻。ウッカリ忘れていましたが、鶴子さんって人妻なんですよねぇ。
いえ、まぁ、だからと言って何をどうするつもりもないんですけどね。さすがに主人公に不倫をさせるつもりはありませんから。
で、小太郎に関してですが……今はノーコメントでお願いします。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2010/5/9(以後 修正・改訂)