外伝その1:ダミーの逆襲
Part.00:イントロダクション
引き続き4月24日(木)、修学旅行三日目。
これは、ナギ達が本山に滞在している間にホテルで起きた出来事。
ナギ達が遭遇した出来事に比べれば規模は小さいが、侮ってはいけない。
小さな禍根が巡り巡って大きな災禍となることもあるのだから……
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Part.01:この星空に約束を――
こんばんは、修学旅行なのに一人寂しくホテルで寝て過ごしていたダミーです。
途中で誰かが お見舞いに来てくれたっぽいけど、寝ていてスルーしたダミーです。
せっちゃんとキャッキャウフフしている本体(27話時点)は死ねばいいと思います。
でも、「一日休んだので復活した」ことになっているので、これからのオレはフリーダムです。
これで、あのバカ(本体)をギャフンと言わせてやることができます。
って言うか、「ギャフンと言わせてやる!!」って言わせてやります。
そして、「ギャフン。これで満足したか、ボーイ?」とか言ってやります。
……そうです。オレは25話の時の恨みを忘れていません。って言うか、忘れる訳がありません。
オレはヤツに復讐することだけを楽しみにして一人寂しくホテルで寝ていたんです。
いつもは良心の呵責があって躊躇してしまいますが、相手がヤツなので遠慮なんて要りません。
むしろ、ドンとやってやりたい気分です。具体的に言うと、生き恥を晒してやる感じです。
――ああっ!! まるで、オレの復讐を称えるかのように星空が澄み渡っているようです!! まぁ、勘違いでしょうけど。
ですが、ここは一つ、験担ぎのために この星空に『誓い』を立ててみましょう。
ヤツ――あの外道を(生き恥と言う名の)生き地獄へ叩き込んでやるぜ、と。
どうせ困るのはアイツなんだから、主に女性関係で好き放題やってやるぜ、と。
そんな訳で、オレは頼もしい協力者(にする予定の人物)に連絡を取りました。
「かくかくしかじか と言うことで、ヤツをハメる手伝いをしてくれないかな?」
『……なるほど。「かくかくしかじか」なんですか。ええ、わかります』
「すみません、説明を省いたのは謝りますから、ヤツをハメる手伝いをしてくれませんか?」
『いえ、別に説明など必要ありません。大切なのは「彼をハメる」と言う意思ですから』
「そっか、ありがとう。じゃあ、協力してくれるかな? (某お昼の番組風に)」
『いいともー(棒読み) さて、これで満足ですか? 満足ならば話を進めますよ?』
「はい、進めてください。冷静にツッコまれると恥ずかしくて軽く死ねます」
『…………それならば、いっそのこと死んでしまえばいいのに。ボソッ』
「聞こえてるから!! 口で『ボソッ』って言ったことも含めて聞こえてるから!!」
『では、気を取り直して、話を進めましょうか? 時間は有限ですよ?』
「スルーされた!? 鮮やか過ぎてビックリする程、華麗にスルーされた?!」
『少し静かにしていただけませんか? 私は善意で協力しているだけなんですよ?』
「すみませんでしたぁああ!! 是非とも貴女様のお話を拝聴させてくださいませ!!」
『……いいでしょう。実を言うと、宮崎さんが面白い物を作りまして(以下略)』
その後、協力者(わかりづらかったかも知れませんが、茶々丸です)からオレは驚愕の事実を聞かされました。
まぁ、身も蓋もなく言てしまうと、のどか が混浴の時(24話参照)のオレ達のアレな様子を盗撮していたらしくて、
その写真を元に怪文書(「発覚!! ハーレム男の入浴シーン!!」と言う見出しのアレな文章)を作ったんですって。
……え? 何で茶々丸が知っているのか、ですか? そんなの、カメラを仕込んだり印刷したりしたのが茶々丸だからですよ。
しかし、顔にモザイクが掛かっている筈なのに明らかにオレとわかってしまう編集技術には脱帽するしかありませんでしたねぇ。
いえ、そもそも、オレの髪の色って特徴的だから、髪の色が判別できるだけでオレだってモロバレしちゃうんですけどね?
と、とにかく、いろいろアレな気分にはなりましたが、これは逆にチャンスですよね?
実は、(ヤツの悪評を上げてオレが美味しい思いをするために)バレるように覗きをしようと思っていたんですけど、
怪文書の御蔭で放って置いても悪評が上がってくれるので、オレが無理に悪評を上げる必要はなくなった訳ですからね。
……本体だったら、事態を収拾するために誤解(?)を解いて回る と言う無駄な足掻きをすることでしょう。
ですから、オレは敢えて誤解(むしろ、事実なので誤解とは言えないでしょう)を放置して置こうと思います。
悪評を上げるのは のどか と茶々丸に任せて、オレは当初とは内容を少し変更して『予定』を実行しようと思います。
つまり、バレないように(ココ重要)覗きに征って来ようと思います!!
いえ、だって、よくよく考えてみたら、バレるように覗きをしたら その場で制裁される可能性があるじゃないですか?
特に刀子先生とかヤバいです。あの人なら「覗きをするようなクズはチョン切りますよ?」とか言いそうですからね。
むしろ、「ダミーなら気にせずにチョン切れますよね?」とか『いい笑顔』で言っちゃいそうな気すらしますよ?
本体に被害が行くのは望むところですけど、オレに被害が来るのはいただけません。それは全力で回避したいと思います。
と言う訳で、何が何でもバレないように(重要なので更に強調しました)女風呂とか脱衣所とかを覗いて来ます!!
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Part.02:宮崎のどか の画策
のどか は決意した。必ず、かの女狐共を除かなければならぬ と決意した。
のどか には恋愛がわからぬ。のどか は本の虫である。本を読み、空想して暮して来た。
けれども、独占欲に対しては人一倍に敏感であった(むしろ、人一倍に腹黒かった)。
……今日、のどか はネカフェにて『お土産』を作成して来た(25話参照)。
その『お土産』とは茶々丸がダミーに説明した通り、入浴中のあられもない1シーンを面白おかしく脚色したものだ。
のどか は改めて自分の作品を眺める。……実に素晴らしい。ゴシップ誌に載っていそうな軽薄な煽り文句など最高だ。
人は下世話な話が好きである。特に思春期女子にとっては他人の色恋沙汰は三度の飯よりも美味しく感じるものだ。
これならば、彼女等の好奇心を『程好く』刺激してくれるであろう。そう、『程好く』だ。何事も遣り過ぎは良くない。
根も葉もない噂よりも「もしかしたら、あるかも知れない」と言う噂の方が広まりやすいのと同じだ。程々がいいのだ。
そんな訳で、のどか は作品の文章を追ってみる。
『麻帆良中で何かと悪名高い某K君(男子中等部3年B組所属)の信じられないような悪行が明らかになった。
なんと、彼は修学旅行中であるにもかかわらず混浴を楽しんでいたのだ(しかも個人風呂を予約してまで)。
下の写真を見ての通り、まさに両手に花である。男子なら憧れる光景かも知れないが、女子には最低な光景だろう。
彼にはロリコンの噂すらも流れているが、少なくとも これでハーレム野郎であることは間違いない事実となった。
これらの事実を捏造と疑うならば、それもよし。事実と受け取るならば、それもまたよし。判断は あなた次第だ』
……実にアレな文章だ。だが、だからこそ『程良く』彼女達を刺激することだろう。
ある者は彼を信じて特に動きを見せないかも知れないし、逆に何らかの動きを見せるかも知れない。
ある者は彼を疑って彼に事実か否かを確かめるかも知れないし、逆に黙って彼を見限るかも知れない。
ある者は これを機に己の想いに気付くかも知れないし、逆に現状(ハーレム状態)に引くかも知れない。
まぁ、のどか にとっては、「彼を共有できる人材か否か」を見極められればいいので、その他のことはどうでもいい。
このことで彼の悪評が増し、彼を狙っている者達が引いてくれるなら万々歳だが、
少なくともネギの傾倒振りからすると むしろライバル心を滾らせる可能性が高い。
のどか としてはネギと争う気はないが、ネギが彼を独占しようとするなら争うしかない。
要はハーレムに納得してハーレム要員になってくれるなら、のどか はそれでいいのだ。
独占できないのなら、共有すればいい。
だから、独占しようとする者は排除する。
ただ、それだけのことでしかないのだ。
ちなみに、彼の意思は余り考慮されていない様に見えるが、気にしてはいけない。
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Part.03:桃源郷はここにある
……神様、ありがとうございます。
オレ、普段から「神なんて死ねばいいのに」とか思っていたんですけど、
今日から そんな不敬なことは考えないようにしようって思い直しました。
だって、こんな素晴らしいプレゼント(桃源郷)をくれたんですから。
って言うか、あの外道(本体)にすら感謝してもいいくらいです。
ヤツが『オレ』を起動してくれたからこそ、オレは『ここ』に辿り着けたのですから。
起動直後の遣り取りで軽く殺意を覚えたのは事実ですが、今となっては過去のことです。
あんな言い合い程度で憤っていたなんて……実に恥ずかしい限りです。もはや黒歴史です。
……しかし、映像をお届けできないのが悔やまれる限りですねぇ。
いえ、実際に映像を載せちゃったら、XXX版になっちゃうんですけどね?
ですから、ここはオレの状況説明から妄想――もとい、想像してください。
まぁ、オレの状況説明能力なんて高が知れているでしょうけど。
たとえば、今は運動部四人組が入浴してるんですけどね?
ゆーな のたわわに実ったパイナップルが ぷるんぷるん と震えてるんですよ。
洗っている時は動作に合わせて揺れ、湯に浸かっている時は浮いてくれます。
豊かな色艶と弾性を備えたソレは、見て善し触って善しの超優良物件ですねぇ。
また、先端の『さくらんぼ』がいいですね。しゃぶりつきたいくらいですよ。
それに、運動の御蔭でしょうか? 腰の下の桃さんも実に美味しそうです。
揉みしだいたら、程好い弾力を返してくれることでしょう。実に堪りません。
次に、まき絵なんですけど……本当に可愛らしいですねぇ。
別にオレは乳神様を信奉している訳ではありませんので、胸は小さくてもOKですからね。
むしろ、まき絵のキャラを考えるとアレくらいで ちょうどいいと思います。実に似合っています。
形もいいですし、何よりも さくらんぼ が綺麗ですからね。舌で転がして可愛がってあげたいです。
それに、あのくびれ。細い肢体を より細く見せているアレは、まさに見せる身体の要でしょう。
特にオヘソがいいですね。くびれにアクセントを付けていて、実に愛らしくて……舌で穿りたいです。
さてさて、今度は亜子を見てみましょう。
本人は背中の傷を気にしているみたいですけど……オレとしては、むしろ それがイイと思います。
ほら、傷痕の部分って敏感じゃないですか? と言うことは、背中が性感帯と言うことでしょう?
背中を優しく且つ執拗に撫で回したら、とても『いい声』で啼いてくれるんじゃないでしょうか?
そう想像しただけで抱きしめたくなりますね。って言うか、撫でるだけでなく舐め回したいですね。
亜子は照れ屋ですから、きっと嬌声を耐えるでしょう。ですが、どうしても漏れてしまう と言う淫靡……
想像しただけで極上の快楽をオレに与えてくれます。何故なら、オレは声フェチでもあるからです。
では、最後にアキラを拝みましょう。
邪魔になるからでしょうか? ポニテではなく髪を結っているんですが、それが実に色っぽいんです。
温まったためか桜色になった お肌とのコントラストが実に鮮やかです。思わず生唾が出て来ます。
また、ゆーな程ではないですが、胸も見事に実っているので眼福です。着痩せするタイプなんでしょうね。
とは言え、別に太ましい訳ではありませんよ? キッチリと くびれています。実にスレンダーさんです。
きっと大きさは ゆーな より大きいんでしょうが、身長が高いから ゆーな より小さく見えるんでしょうね。
……いやぁ、実に素晴らしいですねぇ。桃源郷はこんな近くにあったんですねぇ。
将来が楽しみな蕾を愛でるのも一興ですが、咲き始めた花を愛でるのも一興ですねぇ。
具体的に言うと「美幼女は美幼女でイイけど、美少女は美少女でイイよね」って話です。
もちろん、美女も美熟女もイイんですけど、若いのもイイのはオレだけじゃない筈です。
…………………………はふぅ。
さぁて、爽やかな気分になったところで、宴も酣って感じになって来たので、ここら辺で引き上げましょうか?
と言うのも、諸事情(所謂、賢者タイム的なアレです)で冷静になったため、重要なことに気が付いたんです。
つまり、タツミーとかニンジャとかカンフーとかがいないからと言って、いつまでも安全って訳じゃないってことです。
ですから、まだ危険が訪れていない今のうちに可及的速やかに危険地帯(女風呂)から撤退すべきだと思った訳です。
まぁ、お約束としては、撤退しようとした瞬間に見つかるんでしょうけど……
運動部四人組が出て誰もいなくなった時を見計らって撤退を決めたので大丈夫です。
お約束から考えると「忘れ物があった」とか言って戻って来るかも知れませんが、
忘れ物がないことを何度も確認したので、そんなことはありません。実に完璧です。
「やっぱ、もうちょっと あったまろ――って、ナギ君!!?」
……やぁ、まき絵。女のコは身体を冷やしちゃいけないもんね。
そりゃあ、もうちょっと温まろうとしたって不思議じゃないよね。
うん、その可能性を考慮しなかったオレのミスだよ。ハッハッハ……
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Part.04:風呂場で修羅場
「えっとね? これはね? 違うんだよ?」
「何が違うの!? って言うか、何で女湯にいるの!?」
「あ、あのね? 実はね? 男湯と間違えちゃってね?」
「そんな お約束なこと現実では有り得ないよ!!」
窮状を打破するため、ダミーの脳は物凄い速さで回転しているのだが……どうも空回りしている気がしないでもない。
「い、いや、ほら、オレ、熱で朦朧としてたじゃん?」
「あ、確かに。朝とか、本当にツラそうだったよね……」
「それに、オレって『お約束な展開』が多いじゃん?」
「まぁ、そうだよね。どこかの主人公君みたいだよね」
まき絵のナギに対する評価に疑問は残るが……ダミーは「誤魔化せそうだから気にしない」ことにしたようだ。
「だから、まぁ、そう言った訳で、オレは悪くないのだよ?」
「ん~~……でも、見た段階で有罪だと思うんだけど?」
「いや、目を閉じてたから。音で状況判断しただけだから」
「え~~、本当? ナギ君、えっち だから信じらんないだけど?」
「信じてよ。って言うか、オレは覗く場合は堂々と覗くって」
まぁ、思いっ切りコソコソ覗いていたが、嘘も方便と言うヤツだろう。正直者は馬鹿を見るものだ。
「……まぁ、女のコを侍らせて入浴しちゃうくらいだもんね」
「そうそう。だから、オレは覗きなんてする訳がないじゃん」
「そうだよねぇ。覗く必要が無いモテ男君だもんねぇ?」
「そうそう、オレはモテるから覗く必要が――って、え?」
どうも雲行きが怪しい。誤魔化せそうな流れだったが、いつの間にか不穏な空気になっている。
「別に、ナギ君の勝手だとは思うけど……ちょっとは慎みを持って欲しいんだよね?」
「あ、はい。そうですね。ごめんなさい。オレの配慮が欠けてました」
「何で そこで謝るの? それは自分が悪いって認めているってことなの?」
「あ、いえ、違います。勢いです。アレはオレが被害者なんで、オレは悪くないです」
「……でも、否定はしないんだ? あれは事実じゃないって言い張らないんだ?」
「まぁ、一応は事実ですからね。ちょっとばかり、文面の装飾が過多だった気はしますけど」
「ふぅん……つまり、ナギ君は悪くないけど事実であることは間違いないんだぁ?」
まき絵の剣呑な雰囲気にダミーは「まき絵さん、怖いんですけど? 何故に怒ってるんでしょうか?」とビビリまくりだ。
「ま、まぁ、とりあえず、怪文書については置いておこう」
「何で? 今からナギ君を責めるところなんだよ?」
「い、いや、だって、現状維持は何かと不味いでしょ?」
「へ? 現状維持? ――って、まだ女湯にいたんだった!!」
「うん。だから、可及的速やかに移動したいんだけど?」
何故なら、このままだと 裕奈とかが戻って来そうな予感が――
「まき絵ー? さっきから何騒いでんのー?」
「……おおぅ、実にナイスなタイミングだぜぃ」
「って、ナギっち!! アンタ、性懲りも無く!!」
「いや、もう、泣きたくなるくらい懲り懲りですよ?」
うん、本当に戻って来た。まぁ、嫌な予感ほど よく当たるので、嫌な予感がした段階で撤退しなかったダミーのミスだろう。
「でも、懲りている人間は、あんなにヘラヘラしていないと思うけど?」
「え~~と、それはアレかね? 例の怪文書のことを言っているのかね?」
「って言うか、それ以外に無いっしょ? それとも余罪があるの?」
「いや、無いよ? オレはオレなりに清廉潔白に生きているんだよ?」
と言うか、余罪と言う表現で裕奈のナギに対するイメージが酷過ぎることが よくわかる。
「でも、ナギっちの感覚は一般的には致命的にダメなんじゃない?」
「うわっ、ヒドッ!! オレのガラスのハートが本格的に壊れちゃうよ?」
「って言うか、いっそのこと一度くらい壊れればマトモになるんじゃない?」
「……いや、破壊の後に再生が起こるとは限らないのだよ、ゆーな君?」
まぁ、破壊してから作り直した方が やり易いだろうが、破壊と再生は必ずしもイコールではない。
「その気持ち悪い話し方を聞くと、まったく反省しているとは思えないんだけど?」
「い、いや、それは ゆーな の勘違いだよ? オレは思いっ切り反省しているよ?」
「え~~? 残念ながら、ナギっちの言葉はイマイチ信用できないんだけど?」
「そんなこと言われても……反省もしているし後悔もしている、としか言えないよ?」
ちなみに、ダミーに責任を取るつもりは無い。責任は本体に取らせる予定だ。
「……そう。つまり、ナギっちは自分が悪かったこと自体は認めてるんだぁ?」
「まぁ、そうなるね――って、違うよ? オレは被害者だからオレは悪くないよ?」
「限りなく黒に近いけど……このまま行っても平行線だから納得して置くかな?」
「って言うか、何故にオレは責められてんの? その時点でワケワカメなんだけど?」
覗きは責められて当然だが、怪文書について責められるのは意味不明だ。少なくとも、ナギの思考をトレースしたダミーにとっては。
「……はぁ。ナギっちって本気でバカだから救いようが無いよね?」
「物凄く失礼な溜息と台詞だけど、オレは寛大だから許すよ?」
「はいはい。それではナギっちの寛大な心に感謝して置きますですよ」
余りにもゾンザイな裕奈の態度にダミーは納得できないものが残るが、薮蛇になりそうなので敢えて気にしないことにしたらしい。
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Part.05:まさかのハーレム
舞台は変わって、中庭。今、ダミーは中庭にて月夜の散歩を楽しんでいる。
ちなみに、裕奈に呆れられた後についてだが……特に語ることはない。敢えて語るとしたら、亜子やアキラまで現れて よりカオスになったことくらいだ。
最終的にはダミーが(特に亜子に対して)土下座したことで一件落着したが、ダミーとしては「何で土下座させられたんだろう?」と疑問だらけである。
と言うか、贖罪として「明日の自由行動は裕奈達に付き合う。むしろ、いろいろ奢らされる」と言う約束をさせられたことにも「実に謎だ」と言う始末だ。
(まぁ、その御蔭で女湯にいたことが有耶無耶になったんだから、取りあえずは善しとして置くしかないか……)
覗きを問題にされて覗きが刀子など(の危険な女性陣)に知られたらダミーは制裁されていただろう。それを回避できただけで御の字である。
しかし、そうは言っても、ダミーとしては「本体の悪評を上げる予定なのに、何故か誤魔化せてしまった気がする」ので、そう言う意味では失敗だ。
いや、覗きと言う御褒美は得られたので、ある意味では成功なのだが……本来の目的(ナギの評価を下げる)は失敗だったので微妙な気分なのだ。
(うん、ここは初志貫徹ってことで、寄り道はやめて本気でヤツのネガキャンを開始しよう)
ちょうど、御誂え向き(と言っては語弊があるが)に、のどか を発見したので、いいチャンスと言えるだろう。
のどか に どのような目的があってナギを貶めるような怪文書を発行・散布したのか は定かではないが、
ナギを貶めたいダミーとしては のどか に協力してもいいくらいだ。むしろ、協力させて欲しいくらいかも知れない。
「やぁ、のどか。いい月夜だねぇ。夕涼みには打って付けだよ、うん」
ダミーは何の気兼ねもなく のどかに呼び掛けるが、呼びかけられた のどかはダミーに気付いていなかったようで、ビクッと震える。
ぼんやりと月を見上げていた のどかは突然の呼び掛けに驚いたのだろうが、その震えは驚愕によるものだけではないだろう。
怪文書について後ろめたい気持ちがあったため、ダミー(のどか はナギだと思っている)に責められるのではないか と脅えたに違いない。
「あ~~と、怪文書については 特に気にしてないから気にしないでいいよ?」
先程、のどか が怪文書を発行・散布した目的が定かではない と表現したが、大凡の見当くらいなら さすがにダミーでも付いている。
恐らく、たとえナギの醜聞が広まってもナギが手に入るなら構わない と言う考えの下、ライバルを蹴落とすために行ったのだろう。
実に自分勝手で相手のことを考えていない行為だが、それだけナギは好意を寄せられている と言うことなので、そう悪い気はしない。
「す、すみません!! 何の相談もせずに勝手な真似してしまって!!」
ナギ本人なら「謝るくらいなら やらなけければいいのに」とかネガティブな感想を持って終わるだろうが、ダミーは違う。
当事者に近い位置にいながら他人事でしかないため「本体って愛されているなぁ」と妙に生暖かい気分になるだけだ。
そう、のどか は怪文書の影響を理解したうえで行動した筈だ。ならば、それでも謝ったのは、ナギに嫌われたくなかったからだろう。
「だから、別に責めたい訳じゃないって。むしろ、そこまで想ってくれて嬉しいくらいだし」
ナギ本人も のどか に好意を寄せられること自体は喜ぶことだろう。ただ単に嫌な予感が付き纏っているだけで、好意そのものは嫌ではない。
まぁ、今回のように好意からの行動によってナギが被る損害を考えると「もう少し自重して欲しい」とは思うだろうが、好意そのものは嫌ではないのだ。
そして、ダミーにとってはナギの被害は「むしろバッチコイ」でしかないので、のどか には感謝しかない。責めるなんて とんでもないことだ。
「確かに、ナギさんのことが好きだから あんなことしたことは間違いありませんが……別に独占するためにした訳ではありません」
ダミーの予想では「この人は私のだから、手を出すだけ無駄無駄無駄(中略)無駄ァーー!!」と言う独占目的だったのだが、どうやら違うようだ。
しかし、ならば どの様な目的なのだろうか? ダミーが思い付くのは「この男は見ての通り変態だから、気を付けてね」と言う親切心くらいだ。
まぁ、そうなると他の女子達をナギの毒牙から守るために自分と親友の身体を犠牲にした と言うことになるので、いろんな意味で泣けて来るが。
「いいえ、違います。目的は『振るい』――つまり、ナギさんが複数の女性を相手にすることを許容できる人を探したかっただけですよ」
当然ながら「なるほど、そうだったのか」などとダミーが納得する訳がない。と言うか、納得とは正反対の状態だ。
敢えて言うなら「ナニイッテンノ?」な状態である。想定の範囲を大きく逸脱した返答に理解が追い付かないのだ。
のどか が言っていることは、まるで「ハーレム要員を見付けるのが目的だった」と言う様なものだ。実に有り得ない。
有り得ないが、のどか が言っているのは『そう言うこと』だろう。むしろ、それ以外に受け取り様がない。
「え~~と、一応 訊くけど、なんで そんな奇特な人間を探そうとしたの?」
「え? そんなの決まってるじゃないですか? ハーレムのためですよ」
「ああ、やっぱり そうなんだ。って言うか、本気――いや、正気なの?」
「正気って……確かに俄かには信じ難いかも知れませんが、気は確かです」
「いや、でも、ハーレムでしょ? 独占とはまったく別のベクトルじゃない?」
「ええ、そうですね。でも、それしか道がないんで、仕方がないんですよ」
確かに、のどか と夕映の二人が幸せになるにはハーレムしかないだろう。だが、それでもダミーは腑に落ちない。
「でも、独占をあきらめるにしても、のどか と夕映だけにすればいいんじゃない?」
「それは無理ですよ。私と ゆえ だけでは、ナギさんを繋ぎ止められませんから」
「繋ぎ止められない? それは、オレが二人だけじゃ満足できないほど強欲ってこと?」
「そうではありません。私と ゆえ だけでは、ハーレムにしても意味がないんです」
つまり「二人では他のライバル達に対抗できない」と言うことだろうか? ダミーには のどかの真意が見えて来ない。
「気付いていないのか気付かない振りをしているのか は、わかりませんけど、
ナギさんの心の中って、いいんちょさん で占められていますよね?
で、他のコに関しては『大勢の中の一人』って位置付けでしかないですよね?」
のどか は確認の形を取っているが、それは あきらかな断定だった。いや、むしろ弾劾に近い気すらする。
(いやはや、なかなか痛い所を突いて来るなぁ。のどかってば、いい洞察力しているねぇ。
ヤツは頑なに認めないだろうけど、ヤツは雪広あやか と言う存在を強く意識している。
それが那岐の記憶に拠るものなのか、那岐への罪悪感に拠るものなのか、それとも……
とにかく、ヤツは雪広あやか のことを気にしている。無意識的に、と言う程度だけど)
ナギ本人ならば条件反射的に否定するのだろうが……ダミーとしては否定できない。
ダミーはナギの記憶や人格をトレースしているため、両者は非常に酷似した存在だ。だが、似て非なる存在だ。
つまり、ダミーはナギに近いだけでナギではない。それ故に、ナギの心情や思考や状況を一歩引いた立場で観察できる。
他者なのに当事者の如く把握でき、それでいて他者として判断できるのだ。ある意味では、神の視点に近い。
(と言うか、ヤツは那岐のことを気にしないでいるために雪広あやか のことも気にしないようにしているんだろうなぁ)
「ですから、きっと――いえ、絶対、私と ゆえ だけでは いくら協力してもナギさんは いいんちょさん を選ぶと思います。
たとえ いいんちょさん に嫌われたとしても、ナギさんは いいんちょさん をあきらめません。常に心を占め続けます。
それ故に、いいんちょさん を正妻として私達を側室に加える と言う形のハーレムしか、私達が選べる道はないんですよ」
正確には、他の道もあるのだろうが、のどか が望む形に一番 近いのがハーレムだったのだろう。ダミーは そう受け止めた。
「とりあえず、ハーレムについては……納得はできないけど、理解したよ。
だから、のどか が遣ろうとしていることに肯定はしないけど否定もしない。
つまり、ハーレム構築に手助けはしないけど、邪魔もしないってことだね」
ダミーは早々に『のどか を あきらめさせること』を あきらめた。
それだけ のどか が本気だった と言うのもあるが、ダミーはナギではないので肯定も否定もし難いのである。
まぁ、本音としては「どうせ困るのはヤツだし」と言う気持ちがない訳ではないが。と言うか、大部分だが。
しかし、それでも言って置かねばならないことがある。もちろん、ナギへのフォローではなく良心として、だ。
「だけど、オレと関わる と言うことは、魔法と言う危険に関わる可能性がある と言うことだってことを忘れないで欲しいんだ」
ハーレムを作ると言うことは「複数の女のコをナギの事情(魔法関係)に巻き込む可能性がある」と言うことを意味する。
ダミーはナギ本人に迷惑を掛けたいとは思っているが、他人に迷惑を掛けたいとは思っていない(だから良心なのだ)。
故にダミーは遠回しに「危険だから、ハーレムを作るのはやめた方がいいと思う」と取れなくもない進言をしたのである。
「……わかりました。他のコを囲っていることも危険に関わることも厭わないってコだけをハーレム要員にスカウトします」
当然ながらダミーも のどか が簡単にあきらめるとは考えていなかったが……まさか、こう返されるとは想定していなかった。
せいぜいダミーの言葉を否定はしないものの あきらめはしない程度――つまり、考え直してみる くらいの反応だと思っていた。
それ故にダミーは「わかってくれるんなら いいんだよ、うん」とか、消極的な肯定をしてしまったのは仕方がないだろう。
(まぁ、ヤツのために危険を厭わないコなんてネギくらいしかいないだろうから、不特定多数を巻き込むようなことはないよね、うん)
肯定も否定もするつもりがなかったのに肯定とも取れる反応をしてしまったことに軽く後悔したダミーだが、どうにか自己弁護して心を落ち着ける。
と言うか、冷静に考えてみたら、のどか の構想ではハーレムの中心には あやか が必要なので、あやか が受け入れなければハーレムは不可能である。
そして、現在のナギと あやか の関係は良好なものではない。つまり、あやか がハーレムを受け入れる訳がないので、ハーレムは成立し得ないのだ。
(まぁ、将来的には どうなるかわからないけど……それはヤツの問題な訳だから、オレは それを生暖かく見守って置こう)
ダミーの役目は「本山にいるナギの代わり」でしかない。つまり、明日には役目を終えて元の木人形に戻る定めにある。それは確定された未来だ。
将来のことは気にはなるが、将来なのでダミーには関係ない。それに、ダミーの元となったナギは関係ないことまで首を突っ込む性格ではない。
つまり、ダミーにとって将来のことは どうでもいい。大切なのは「役目を終えるまでにナギに『ギャフンと言わせてやる』と言わせる」ことだけだ。
繰り返しになるが、ダミーの希望はナギへの復讐だ。それに関係がないのなら、のどか がハーレム建設を企んでいてもダミーには どうでもいいのだ。
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Part.06:綾瀬 夕映の意思
(しかし、ハーレムか……随分と想定外のことになったよなぁ)
まぁ、ハーレムは全男子の夢なので、ハーレムを目指すこと自体は悪いことではない。少なくとも、ダミーは そう思っている。
ただ単に、ナギが喜ぶ様な展開になるのがダミーは気に入らないのだ。と言うか、ダミーはハーレムを味わえないので普通に悔しい。
むしろ「オレをハメたばかりか、ヤツばかり いい目に逢うなんて……解せぬ!!」と、より一層 復讐の炎に身を焦がすだけである。
(と言うことで、オレはオレにできる限りの復讐をして置こう)
そう結論付けたダミーはクルリと振り返って「ってことで、夕映はどーなんだ?」と物陰(に隠れているであろう夕映)に話し掛ける。
仮に、夕映が隠れていなかったらダミーは虚空に話し掛けちゃうイタイ人間になってしまうが、幸いなことに その可能性は極めて低い。
何故なら、物陰から伸びる影のシルエットが夕映っぽい形だからだ。老婆心ながら、隠れるならライトの位置関係も把握すべきだろう。
「……気付いていたですか」
まぁ、仮にダミーがイタイ人間に思われたとしても、それはそれでナギのネガキャンにはなるので それはそれでいいかも知れない、
などなど、実に どうでもいいことをダミーが考えている間に、夕映がオズオズと姿を現す。きっと複雑な心境なのだろう。
つまり、顔を合わせづらいから隠れたものの会いたくない訳でもないし、呼ばれた = 発見された と言うことだろう、とか だ。
とは言え、ダミーは そこまで思い至らず、素直に出て来るなら最初から隠れなければいいのになぁ とか思っている始末だが。
「――それで、先程 仰った『どう』とは、どう言う意味ですか?」
「え? そんなの決まっているでしょ? ハーレムの件だよ」
「それこそ決まっています。反対ならば のどか を止めてます」
それはそうだろう。特に、風呂の件(24話参照)なんて、ハーレムに非協力的ならば参加している訳がない。
「あ、とは言え、今回の怪文書については賛成した訳ではないですよ?
のどか がネットカフェで何かを作っているのは知っていたのですが……
私が気付いた時には、既に怪文書は完成していて配られていましたです」
「……なるほどねぇ」
まぁ、印刷をして配布をしたのは のどか ではなく茶々丸と言う話なので、夕映が気付かなくても仕方がないだろう。
しかし、こうして考えてみると、改めて思うのだが……茶々丸はナギのことを少しばかり嫌い過ぎではないだろうか?
エヴァを取られることを危惧してライバル視しているのだろうか? それとも、好意があるからこそ厳しいのだろうか?
どう考えても前者だと思われるが、後者だと思って置くと幸せに過ごせるので、現段階では答えは出すべきではない筈だ。
「あ、ところで、何気なく流したけど……ハーレムに賛成ってことは、夕映もオレが好きってことでいいの?」
そう、よくよく考えてみると のどか の意思は示されたが、夕映の意思は確認していない。あくまでも察せられるだけだ。
万が一だが、のどか との友情を大切にしたために余り乗り気ではないのにハーレムに賛成したのなら、やめて置くべきだ。
何故なら、ハーレムそのものの問題だけでなく、ナギにも問題(魔法と言う危険に遭遇する可能性が高い)があるからだ。
つまり、生半可な覚悟なら「ナギのハーレムに入る」のは避けるべきなので、ダミーは敢えて確認したのである。
「……はぁ。そんなこと、今更なことですよ」
「そうかな? 確認してなかったと思うんだけど?」
「では、私が好きでもない殿方に肌を晒すとでも?」
「え? ああ、言われてみれば確かにそうだねぇ」
確かに、風呂(24話)の段階で気付いて置け と言う話である。それどころではなかったかも知れないが、それでも気付くべきだ。
まぁ、ダミーも気付いていなかった訳ではなく、あくまでも確信が欲しかっただけなので、そこまで責められないが。
これまでの経緯で充分に確証は得られていた筈だが、それでも「何故にオレ?」と言う疑念のために確信を得られないのだ。
所詮ダミーはナギの模倣品なので、ナギの自己評価(ネギ君とは比べるべくもない)から抜け出せないのである。
「……しかし、何で『オレ』なんかを好きになったの?」
いや、本当に。どう考えても、ナギは節操が無さ過ぎる。しかも、ナギは夕映を恋愛対象としては見ていなかったので、扱いは友達でしかなかった。
つまり、ナギは夕映に好意を抱いてもらえるような言動を取って来なかったのに、夕映はナギを好意を抱いているのだ。実に不思議である。
まぁ、「本が好き」やら「議論が好き」と言った趣味が共通していたので、よく話はしていたが……それでも、フラグが立つ程ではなかった筈だ。
「そ、それくらい察してください!!」
しかし、ダミーの素朴な疑問は答えられることはなく、夕映は顔を真っ赤にして脱兎の如く その場を離脱してしまうのだった。
ダミーには「わからないことを訊いただけ」でしかないが、夕映には「恥ずかしい話を強要された」に等しいので、認識の違いが生んだ齟齬だろう。
当然ながら、ダミーは そんなことに気付く訳がないが。何故なら、ダミーはナギの複製品でしかないからだ。残念なことは変わらないのだ。
(どうでもいいけど……夕映への魔法バラし、どうしよう?)
風呂の件を考えると、夕映がハーレム要員になったのは昨夜以前だ。つまり、今晩 話題になった「魔法云々についての査定」はされていない。
のどか に査定を丸投げしたダミーが気にする資格はないかも知れないが……夕映が魔法と言う危険を承知してくれるのかは定かではないのだ。
まぁ、魔法(ファンタジー)に好奇心を刺激されるだろうから、そこに多少の危険が潜んでいても「危険は承知のうえです」とか許容しそうだが。
(そりゃあ、原作では自分で魔法に気付いて自分で魔法に関わろうと決めたっぽいけど……あれは、あくまでも『物語』の中のことだからなぁ)
改めて言うことでもないが、『ここ』は『物語』の中ではない。現実だ。些細なミスで簡単に死ぬこともあり、その死は覆せない。
必然的に、生半可な覚悟など意味が無くなる。むしろ邪魔だろう。キチンとした現実を見詰めたうえで覚悟をすべきだ。
それ故に、夕映には魔法のことをキチンと説明したうえでナギと関わるか否かを決めて欲しかったのだが……既に姿すら見えないから無理だ。
まぁ、諸々のことは きっと本体がうまくやってくれるだろう。ダミーは、そう結論付けて、問題を棚上げするのだった。
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Part.07:男達の番か?
「って言うか、これって本屋ちゃん じゃね?」
夕映の背中を見送った後、諸々(復讐とか)が面倒臭くなって来たので部屋に帰って寝てしまうことにした、
のだが……大人しくゴロゴロしていたオレに何故か怪文書を付き付けながらフカヒレが訊いて来たのである。
いや、訊いて来た理由はわかるけどね? 質問の形式をとってはいるけど、あきらかに確認しているだけだし。
「……まぁ、ぶっちゃけ、その通りだね」
否定するだけ無駄だと思ったので、アッサリと肯定して置く。
恐らく、オレが のどか を侍らせていることへの文句だろうからだ。
まぁ、文句を言われる筋合いはないが聞くだけなら聞いてもいい。
「じゃあ、本屋ちゃん の『秘密の花園』に草が生えていたかどうか、是が非でも教えてくれ!!」
フカヒレは「この写真だと見えないんだよねー」とか言っているけど……
お前、スゴ過ぎるよ。常軌を逸した反応に思わず呆然としちゃったよ。
って言うか、それでいいの? ここはオレにキレるところじゃないの?
「……とりあえず、『薄っすらと茂っていた』とだけ言って置こう」
フカヒレの変態具合に畏敬の念すら感じたオレはハッキリと事実を伝えることにした。
もちろん、「なぬぅ!! パイ○ンじゃないのか!?」とかってセリフは聞こえない。
だから、「クッ!! 仕方が無い、あきらめるか……」とかってセリフも聞こえない。
「って言うか、リア充は氏ねよやぁああ!!」
フカヒレの痴態を鮮やかにスルーして宮元が実に酷いセリフを見舞ってくれる。
ちなみに、「死ね」じゃなくて「氏ね」な辺りが宮元の優しさなんだと思う。
まぁ、そんな優しさなどドブに捨ててしまえ と思うが、今は素直に受け取って置こう。
「別に充実してないから。むしろ、泣きたくなるのが現状だから」
オレは宮元の神経を逆撫でしないように「死んだ目」をして語る。
ここで薄ら笑いを浮かべようものなら逆上させるだけだからだ。
宮元がキレても問題はないが、作らなくていい軋轢を作る趣味はない。
って、しまった!! 復讐を考えると、ここは敢えて軋轢を作って置くところだったじゃないか!!
ついつい いつも通りの対応をしてしまったけど、ネガキャンを忘れてはいけない。
せっかくのチャンスだったが、今回は見逃すしかない。ここからでは挽回は不可能だ。
宮元はオレのダメっぷりにシンパシーを覚えたのか、生暖かい眼をしているからね。
「って言うか、神蔵堂!! 見損なったよ!!」
そして、田中。オレを糾弾しているけど、「ちょっと、いや、かなり羨ましい」って顔に書いてあるぞ?
ここで「お前を信じてたのにぃいい!!」とかって顔だったら感動したのになぁ。まったく、惜しい男だよ。
まぁ、そこまで『青春』をされちゃうと反応に困るんだけどね? やはり、何事も程々がいいって、うん。
「どう受け取ったのかは わかんないけど……あくまでもオレはハメられたんだからね?」
散々ゆーな達に弁解して疲れているので、ここでの詳細説明は やめて置く。
この説明で納得してくれないなら、それはそれでいい。正直、もう面倒臭い。
それに、田中の文句が止んで本体の評価が下がるなら、それはそれでいいし。
「って言うか、これで和泉さんがキミをあきらめたら……ボクとしては非常に困るんだけど?」
ちなみに、松平さんや? 言いたいことはわかっているから、耳元で囁かないでくれない?
田中に聞かれたくないからなんだろうけど、ちょっと――いや、かなりゾクッとしたよ?
って、そうじゃなくて!! つまり、漁夫の利を得ようとしたのが失敗しそうって文句なんだね?
「でもさ、そもそもの問題として、亜子がオレを云々って言うのは松平の妄想じゃないかな?」
だって、その仮定が正しいとすると、亜子がオレにホレている と言う摩訶不思議が成立するんだよ?
そんなん有り得ないって。亜子はサッカー部の先輩に――って、先輩は もう卒業したんだっけ。
いや、まぁ、卒業したからって それで恋が終わる訳じゃないから、まだ先輩にホレている筈よ、うん。
でも、原作だと卒業の時に告ったらしいけど、ここだと そんな様子は見受けられなかったんだよなぁ。
って言うことは、先輩に対しての想いは 告るまでではなかったってことかな? ……よく わかんないや。
「はぁ……君は根本的なところでダメなのが玉に瑕だねぇ。見た目がイイだけに、実に残念だよ」
うん、今のセリフには決してツッコまないよ? 特に後半はスルーするよ?
だって、松平のターゲットは田中だからね。オレなんて眼中に無い筈だからね。
さっきの囁きは田中に聞かれたくなかっただけだって、オレは信じてるもんね。
「って言うか、このロリっ娘は誰だぁああ?!」
おいおい白井。もう少し、オレを気遣ってよ。今のオレは優しくして欲しいんだよ?
確かに、夕映は お前の好みに合致したロリっ娘だろう。それは よくわかっている。
だからこそ、そんなコと一緒に入浴したオレにキレたい気持ちもわかっている――って、あれ?
と言うことは、白井にキレられても仕方が無いってことじゃないかな?
フカヒレの反応がアレ過ぎただけで、どう考えても白井の反応が普通だよねぇ。
ああ、ヤバいなぁ。感覚がおかしくなっているよ。もう少し、普通にならなきゃ。
うん、だから、ここは軽く流して置こう。どうでもいい文句はスルーするが普通だ。
……そんなこんなで、オレは「部屋にいたら それはそれで面倒臭かったじゃん」と言うことに気付くのだった。
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Part.08:春日 美空の動揺
身も蓋も無く言うと、美空は怪文書を見て嫉妬していた。
だからこそ、美空は嫉妬した自分に戸惑いを覚えて、感情の整理ができていなかった。
と言うのも、美空は自分の感情に気付いてはいたのだが、抑えるつもりでいたからだ。
何故なら、彼にとって自分は友人でしかないことが(思考が理解できる故に)わかっていたからだ。
「やぁ、美空。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
そんなこんなで悶々としていた美空に(男達の相手が面倒臭くなったので部屋から逃げて来た)ダミーが話し掛けて来る。
言うまでもないが、別にダミーは美空に会いに来た訳ではない。人気が無い場所を探していたら美空がいただけである。
この邂逅を「単なる偶然」と取るか「神の仕組んだ必然」と取るかは当人次第だ(まぁ、ダミーは前者でしかない訳だが)。
「ナ、ナギ……」
「ん? どーしたん?」
美空は思考の渦中にいる人物の登場に少し驚きながら、複雑な心境からか少しだけ曇った表情をする。
そんな細かい美空の心情には気付けないダミーだが、美空の反応から元気が無いことだけは気が付いた。
だが、人の善意や好意を理解しようとしないナギが元であるため、ダミーの想定した内容は酷かった。
なんと、ダミーが続けた言葉は「もしかして、お腹が空いているのか?」だったのである(実に酷い)。
「ええい!! 『元気が無い = お腹が空いている』って方程式を乙女に当て嵌めんなっス!!」
まぁ、美空の怒りは当然だろう。と言うか、『元気が無い = お腹が空いている』とか、どこの戦闘民族の方程式だろうか?
とは言え、いつもの様に元気にツッコませることに成功したので、ある意味ではダミーの狙い通りだったりするのだが。
そう、ダミーの目的は「美空の元気が無い理由を解明すること」ではなく、「美空が普段通りに反応してくれること」なのだ。
どんな形でも美空が元気になればダミーは満足なのである。何故なら、元気のない美空を見ることなどダミーには耐えられないからだ。
「じゃあ、もしかして……『あの日』だったりするのか?」
ただ、調子に乗るのはいただけない。もっとツッコませて気分を盛り上げたかったのだろうが、遣り過ぎだ。
相手が悪ければセクハラ扱いされるセリフだろう。と言うか、常識的に考えて、最低なセリフではないだろうか?
「うっわ~~。物凄く蹴り殺したくなるセリフっスねぇ」
「え? 違うの? 乙女って言うから てっきり そうだと……」
「はぁ……ナギの想像力って貧困過ぎるんスよねぇ」
しかし、美空は偉大だった。なんと、美空は軽くツッコむだけだったのだ。まぁ、だからこそ、彼から「友達」と認識されてしまうのかも知れないが。
「そうかなぁ? オレ、想像力はある方だと思うんだけどなぁ?」
「いや、妄想と想像は違うっスよ? って言うか、ナギのは妄想力っスよ?」
「いやいや、想像も妄想も似たようなものじゃないかね?」
「いやいやいや、特にココネに関しては妄想ハラスメントっスよ?」
「あ、あれは純粋に愛でてるだけだよ? ハラスメントじゃないよ?」
「いや、セクハラが標準装備されているナギが言っても……ねぇ?」
「ち、違うもん!! ――って、あれ? その手に持ってるのって……」
話題がマズい方向に向かったためダミーは話題を変えようとした。
そして、話題を探すために周囲を見回したら、ふと目に付いたのだ。
美空に握り締められてクシャクシャになっている例の怪文書を。
つまり、怪文書を読んだ美空がムシャクシャした、と察したのだ。
「え? あっ!! こ、これは……ち、違うんスよ?」
美空の あからさまな反応に、ダミーは内心で「いや、何が違うのさ?」とかツッコミつつ、表面では美空を観察する。
そして、「本体を からかうネタができて喜んでいたことを悟られたくないんだな?」とかアホ全開の想定をしてしまう。
だからこそ、ダミーは敢えて美空の思惑(からかう云々)に気付かない振りをして、バカ丸出しのセリフを吐くのだった。
「なるほどぉ……つまり、オレにホレてたってことだね?」
もちろん、ダミーとしては美空をからかうために言ったことであるため、内心では「そんな訳ないけど、ネタ振りだからねぇ」とか思っている。
だが、実は的を得過ぎているセリフだったので実に性質が悪い。ある意味ではオウンゴールなセリフだ。しかも自覚が無いの救いが無い。
ちなみに、ダミーの考えは「美空は数少ない友達の一人だから、美空と気不味くなったらツラいだろうなぁ(ニタリ)」とか言う体たらくである。
繰り返しになるが、所詮ダミーはナギの偽者なのである。その発想はナギと大差がないのだ。
「な、なななな何を言っていやがるんスか!! 意味がわかんないスよ?!
って言うか、そんな訳ねーに決まってるじゃないスか!!
ちょっと、いや、かなり調子に乗ってやがるんじゃないスか!?」
慌てる美空に対し冷静なダミーは「え? 何、その反応?」と普通に首を捻る。そして……
(あ、わかった。オレを勘違いさせるための誘導だな? 本心では「ナニイッテンノ?」とか思ってるんでしょ?
フッフッフ……オレをナメちゃいけないぜ? 何故か鈍いと言われているけど、意外とオレって鋭いんだよ?
まぁ、思惑が読めたので、普段なら「ハッハッハ!! 冗談だよ、美空君?」とか言っているところだけど。
今は本体を苦しめたいからね、敢えてハメられることで「美空にからかわれるネタを作る」って方向で行こう)
言うまでもないだろうが、ダミーの勘違いである。このアホ、思い込みと言う名のフィルターが掛かり過ぎているのである。
「そうか……いや、そんな訳ないよね? わかってたさ。
まぁ、もしそうだったらなぁって期待はしていたけどべ。
あ、でも、オレの勘違いだったみたいだから忘れてくれ」
どこかの主演男優賞を狙えるんじゃないだろうか? とか言えるレベルで残念そうな演技をするダミー。
少々俯いた後に無理して笑っているように見せた辺り、実に芸が細かい。まさに匠の技だ。
人を欺くために演技を磨いたらしい本体の演技力を充分に引き継いでいる と言えるだろう。
まぁ、ここは演技力を発揮すべき場面ではないのだが……そこら辺も含めて実に『らしい』。
「あ? え? そ、そーなんスか?」
その演技はナギを見慣れている美空ですらも見抜けなかったようで、美空は普通に騙される。
まぁ、演技の質で騙せたのではなく、内容が騙されたい内容だったから騙せたのかも知れないが。
(……あ、あれ? 何でちょっと嬉しそうなの? そこはオレを笑い飛ばすとこなんじゃないかい?
まさか、まだ引っ張る気? 確かに、上げてから落とした方がダメージはデカいとは思うけどさ。
でも、そこまでオレ――本体をイジメて楽しいの? ……いくら何でも、本体に同情しちゃうよ?)
それを更に勘違いして受け止めたダミーは己の妄想に居た堪れなくなり、「と、とにかく、この話はこれで終わり!!」とか言って逃げるのだった。
ちなみに、その背を見送っていた美空は、彼がダミーだったことを思い出して微妙な気分になるのだが……それは また別の話なので割愛する。
また、一連の遣り取りを物陰からコッソリと観測していた のどか が「目標発見」とでも言わんばかりの笑顔を浮かべていたのも別の話である。
そのため、のどか が美空をハーレムに取り込もうとアレコレ計画を練ったり暗躍を開始したりすることも別の話に違いないったら違いない。
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Part.09:全て遠き理想郷
諸君、私はココネが好きだ。諸君、私はココネが好きだ。諸君、私はココネが大好きだ。
花のような笑顔が好きだ。冷めた瞳が好きだ。艶やかな黒髪が好きだ。健康的な小麦色の肌が好きだ。
清楚なシスター服姿が好きだ。可愛らしい初等部の制服姿が好きだ。たどだとしいカタカナ語尾が好きだ。
教会で、並木道で、公園で、草原で、喫茶店で、焼肉屋で……この地上に存在し得る ありとあらゆるココネの言動が大好きだ。
構ってオーラ全開で近付いて来たのを可愛がる時の反応が好きだ。上目遣いにねだられて肩車をしてやった時の笑顔など心が踊る。
美空をイジメてコッソリとニヤリ笑いを浮かべるのを見るのが好きだ。特に美空がオレを変態扱いしている時など胸が空くような気持ちだった。
粗相をしてシスター・シャークティに怒られている時の涙目が好きだ。オレに「慰めテ」と言わんばかりに擦り寄って来る様など感動すら覚える。
頭を撫でて欲しいとアピールするために頭をさりげなく差し出して来る様などは……もう堪らない。
頭を撫で回したい欲望を抑えて『お預け』をしてやるとスネてポカポカと殴って来るのも最高だ。
その詫びと称して『抱っこ』もしてやると満面の笑顔を浮かべてくれるので絶頂してしまうくらいだ。
オレとのスキンシップを純粋に楽しんでくれている様子が好きだ。
それ故、美空にスキンシップを阻まれた時はとてもとても悲しいものだ。
ココネと紳士的な意味で触れ合う時間が何物にも代え難い程に好きだ。
それ故、美空に単なる変態と同列に扱われるのは屈辱の極みだ。
……諸君、私はココネを――天使の様なココネを望んでいる。
諸君、私に賛同してくれる紳士諸君。諸君達は一体『何』を望んでいる?
更なるココネを望むか? 情け容赦のない、萌の塊の様なココネを望むか?
計り知れない萌を擁する、三千世界を普く照らす光の様なココネを望むか?
『ココネ(幼女)!! ココネ(幼女)!! ココネ(幼女)!!!』 (オレの脳内に流れた紳士達によるシュプレヒコール)
……よろしい、ならばココネ(幼女)だ。
我々は、このアツい思いを広く世間に伝えることすら憚られてしまう変態だ。
だが、暗い欲望を抑え、純粋にココネを愛でることができる我々は ただの変態ではない。
そう、我々は変態と言う名の紳士だ!! 言わば、真の意味での紳士なのだ!!
我々は世間から見れば少数派――常識的に考えると負け犬に等しい。
だが、諸君は それ故に真の紳士と成り得るのだ と私は信仰している。
ならば、我々は、諸君と私とで究極で至高の真摯な紳士集団となる。
我々を単なる変態だと蔑む連中を刮目させてやろう。瞼を抉じ開けて、我々の勇姿を見せてやろう。
連中に萌の真髄と言うものを味わわせてやろう。連中に我々の至高の嗜好を理解させてやろう。
天と地の狭間には、奴等の常識では計り知れない程の萌が溢れていることを思い知らせてやろう。
真の意味での紳士達によって、似非紳士共で ひしめく蒙昧なる世界を萌で埋め尽くしてやろう。
…………うん、まぁ、ここら辺で現実に戻ろう(いくら少佐殿をリスペクトしているからって遣り過ぎだよね?)。
いやぁ、美空と話したせいか、ココネのことで頭がいっぱいになっちまったぜ。
って言うか、最近のオレにはココネ分が足りてないから、仕方が無いよね?
だって、オレにとってココネ分は三大栄養素の一角とも言える存在なんだもん。
って言うことで、ココネとの思い出を思い出してココネ分をセルフ補給しよう。
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……あれは、春休みの中頃(つまり、アルジャーノンでバイトに精を出していた頃)の出来事だった。
相も変わらずマスターとマダムにコキ使われていたオレは、心の休養のために麻帆良教会に訪れた。
もちろん、敬虔なクリスチャンと言う訳でもないオレが ここを訪れたのは祈りや懺悔のためではない。
それらで心が満たされる人間もいるのだろうが、生憎とオレの心は満たされない。そんなキャラではない。
そう、オレは心の清涼剤とも言えるココネに会いに来たのである(あ、美空はオマケだよ?)。
「おはよう、ココネ。あと、ついでに美空」
「うン、おはよウ、ナギ」
「って、アタシはついでっスか!?」
ココネは愛らしく笑って挨拶を返し、美空は姦しくツッコミを入れる。
「いや、だって、オレはココネに会いに来たんだから、美空はついででしかないでしょ?」
「いやいや、『何で当たり前のことを訊いてんの?』って顔されても困るんスけど?」
「え? じゃあ、困ればいいじゃん? オレは特に困らないから何一つとして問題ないよ?」
「うっわ~~。本気で一回くらい殺した方がいいんじゃないスかね、この変態……」
「フッ……いくらオレでも殺されちゃったら甦れないので、謹んで お断りするぜ?」
「いや、いくらナギ(変態)でも殺したら死ぬってわかってるっスから、マジレスすんなっス」
そうか、わかってるのか。ならば、善しとして置こう。
「って言うか、オレの気のせいじゃなければ、今オレと書いて変態と読まなかったかい?」
「え? 何で そんな当たり前のこと訊いてるんスか? 遂に頭に蛆でも沸いたっスか?」
「……実にヒドい言葉をありがとう。って言うか、さっきの仕返しだな、コンチクショウ」
「フッフッフッフッフ……仕返しは忘れる前にするのがアタシのジャスティスっスよ?」
「そんなジャスティスなど捨てちまえ。って言うか、忘れるくらいなら仕返しすんなっての」
って言うか、忘れるような内容なら仕返しするまでも無いってことじゃないのかな?
「その点は大丈夫っス☆ アタシが仕返しするのは基本的にナギだけっスから☆」
「何、その『☆』は!? って言うか、何で そんなに『いい笑顔』してんの?!」
「え? ツッコむべきところはソコっスか? ……普通は別のトコじゃないっスか?」
「え? まぁ、敢えて言うならば、それがオレのジャスティスだから、かな?」
「いや、カッコつけているつもりかも知れないスけど、物凄くカッコ悪いスよ?」
「うっさいわ!! って言うか、オレはココネを愛でに来たって何回言わせるのさ!!」
いやぁ、危ない危ない。ついつい美空のペースに乗せられるところだったぜぃ。
「……いや、ナギ。今のセリフは さすがにマズいと思うんスけど?」
「え? 何で? オレは本当のことを言っただけだよ?」
「いや、だって、今『ココネを愛でに来た』って言ったじゃないスか?」
「え? いや、もちろん、性的な意味じゃないよ? 慈しむ感じだよ?」
「う~~ん、ナギが言うと、どうも信憑性が感じられないんスよねぇ」
「そ、そんなこと無いさ!! ココネはオレを信じてくれるよね?」
「え? え、え~~ト…………うン、まァ、私はナギを信じてるヨ?」
ココネ……オレは お前だけはオレを信じてくれるって信じてたよ!! もちろん、何故に疑問系なのかはスルーするよ?
「と言う訳で、オレは今からココネ分を補給しようと思う」
「いや、そのセリフを吐いた時点で変態も過ぎるんスけど?」
「何それ? 意味わかんない。むしろ、わかりたくもない」
「……とりあえず、アタシの目の黒い内は好きにさせないっスよ?」
「フッ、安心しなよ。オレは幼女を愛でるが手折ることはしないから」
「物凄く変態的なセリフっスけど、変態としての矜持はあるんスね?」
「もちろん。何せオレは『変態と言う名の紳士』だからね」
オレのような真摯な紳士と そこら辺の似非紳士を一緒にしてもらっては困るのですよ?
「じゃあ、ココネ。とりあえず、二人で懺悔室にでも入ろうか?」
「え? うン、わかっタ。でモ、何デ懺悔室に入るノ?」
「それは、余計な邪魔が入らない――もとい、落ち着けるからさ」
「って、待てぇい!! どう考えても変態が過ぎるっスよ!!」
「安心して。ちょっとばかりココネとスキンシップするだけだから」
具体的に言うと、ココネを膝の上に乗せて頭を撫でつつクンカクンカするだけだってば。
いやぁ、ココネの放つ幼女特有の甘ったるい体臭(香り)は実に溜まらんのですよ。
別に匂いフェチってワケでもなかったんだけど……最近、目覚めそうになったくらいさ。
事の前にシャワー浴びる日本人がもったいないって気持ちが理解できてしまう感じで。
「それならココでやれ と言うか、その言動が既にダメと言うか、何と言うか、いや、何と言うべきか……」
おぉ、そうだね。別に密室で行う必要は無いね。
って言うか、密室でやったら自制心が崩れそうだよ。
具体的に言うと、イくとこまでイっちゃいそうだ。
「じゃあ、ココネ。抱っこしてあげるから、おいで~~」
オレは隣で何やらブツブツ言っている美空を華麗にスルーして、ココネを膝に誘う。
それに対し、ココネは嬉しそうに「うン」と言ってオレの膝に飛び乗って来る。
フッ、まったく、愛い奴よのぅ。褒美にタップリと可愛がってやろうではないか。
「よ~~し、よしよしよし……」
某ムツゴロウさんが野生動物を可愛がるようにココネの頭を撫で回すオレ。……うんうん、実に素晴らしい撫で心地だねぇ。まるで絹糸のようだよ。
それに、撫でる度にシャンプーと体臭の混ざった香りが漂ってくるし。しかも、ココネは幸せそうに「えヘヘ~~」って笑ってくれるんだよ?
ついつい調子に乗ってココネの髪に鼻を埋めてクンカクンカしても しょうがないって。何かココネがちょっと恥ずかしそうだけど、その姿も 萌えるし。
――フフフ、どうやらオレは『全て遠き理想郷(アヴァロン)』に辿り付けたようだ。
「って、待てぇええええい!! アンタは一体どこへ行こうとしてるんスか!!」
「え? いや、その、何て言うか……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』?」
「いや、何で『妖精の世界』なんスか? むしろ『変態の世界』っスよね?」
「いや、今のオレは不死身だと思えるし、ココネと言う妖精がいるからじゃない?」
「……まったく意味がわからないんスけど、不死身なら死ぬまで蹴っていいっスよね?」
「いや、不死身でも死ぬ『まで』蹴られたら死ぬんじゃないかな? だから、やめ――」
「――なるほど。じゃあ、死ぬ『程』蹴るだけならいいってことっスね?」
その時の美空の笑顔は、とても『いい笑顔』で反論などできませんでした。
って言うか、何で美空は あんなに怒ってたんだろ?
――あっ、ココネに変態的な行為をしていたからかぁ。
でも、ココネはイヤがってなかったから問題ない筈だよね?
ちなみに、美空に蹴られる前に戦線を離脱したので、オレはノーダメージでしたよ?
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……はふぅ。やっぱりココネは可愛いなぁ。そうは思わないかね、紳士諸君?
何て言うか、世間ではココネのことを美空のオマケだと認識している輩がいるらしいけど……むしろ、逆だよね?
実際は、美空がココネのオマケだよね? 美空はココネの愛らしさを引き立てるためのファクターに過ぎないよね?
言わば、「美空はただの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」って感じだよね? みんな も そう思うよね?
あ、ちなみに、「結局、現実に戻ってねーじゃん」ってツッコミは敢えてしないのが優しさだと思うよ?
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オマケ:雪広あやか の憤怒
美空と別れたダミーは しばらく人気の無さそうなところで時間を潰した(その際にココネの回想をしていた)。
そして、「そろそろ男共が寝静まった頃だろう」と判断してもいい時間になったので、ダミーは部屋に戻ろうとした。
戻ろうとしたのだが……その途中のロビーで、偶然か必然か「今、最も会いたくない人物」を発見してしまったのだった。
その人物とは、雪広あやか。那岐とナギの違いを唯一知る人物にして、『今の彼』にとっては最も苦手とする人物だった。
(うっわ~~、メチャクチャ不機嫌になってるよ)
例の怪文書であろう紙を握り締めながらプルプル震える あやか を見てダミーは戦慄した。
怪文書が出回ってから随分と時間が経つのに未だに怒り心頭なのは、それ程の怒りなのだろう。
まぁ、那岐の顔で他の女性と仲良くしているのが許せないのだから当然の反応かも知れない。
だが、それを理解できていても「瘴気を発しているような憤怒」にビビらない訳ではない。
そのため、見なかったことにして可及的速やかに離脱したダミーを誰も責められないだろう。
(今まで気付かなかったけど……雪広あやか に嫌われるだけで、ヤツには大ダメージだったんだよなぁ)
ダミーは(那岐の心情は よくわからないが)ナギの心情は手に取るようにわかっている。
むしろ、本人でありながら本人ではない立場であるため、本人以上に理解していると言えるだろう。
そのため、ナギにとっては あやかに嫌われるのが一番のダメージだと言うことに気が付いた。
まぁ、もっと早く気付け と言いたいが、ナギがベースになっているので仕方がないのである。
(まぁ、直接オレが嫌われるようなことをするのはツラいから今回の形がベストだった訳で、結果オーライなんだけどね)
幸い、のどか と茶々丸の暗躍(つまり、怪文書)の御蔭で、ダミーは直接あやか に『何か』をする必要は無かった。
いくらナギを苦しめるため とは言っても、ダミーも あやか には嫌われたくはない。そのため、実に僥倖だった と言える。
恐らく「あやか に嫌われる」と言う復讐方法を最初に思い付けていても、ダミーは実行できなかったに違いない。
(とにかく、後のことはヤツに任せよう。って言うか、雪広あやか にタップリと小言を言われるがいいさ)
これからナギに起こるだろう悲劇を思うと、自然と笑みが零れて来る。
ダミーの言動の結果で起きた事態なら罪悪感が沸いた可能性もあっただろうが、
これはナギの自業自得によるものなので、ダミーは何も気にすることは無い。
そのため、ダミーは とても『いい笑顔』で満足するのだった。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、改訂してみました。
今回は「自重を忘れたダミーの暴走の筈が、いつの間にか のどか の暗躍になっていた」の巻でした。
もうちょっとダミーを暴走させてもよかったかなぁとは思ったんですけど、
問題を押し付けられる本体が可哀想過ぎたので、程々にして置きました。
って言うか、のどか の暗躍の方が地味に本体にダメージを与えそうですよね。
さて、このままハーレムルートに逝くのでしょうか? ……それは続きを読んでのお楽しみ、と言うことでお願いします。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2010/10/31(以後 修正・改訂)