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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:b259a192 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/06 21:54
第36話:失われた時を求めて



Part.00:イントロダクション


 今日は5月17日(土)。

 アセナと近右衛門が悪魔襲撃事件の事後処理のことやら世界樹大発光の対策などを話し合った翌日。
 つまり、アセナが元老院を仮想敵に認定し、超の行動指針を別方向に転換することに成功した翌日。

 アセナは、世界樹の地下――麻帆良学園の最深部を訪れていた。



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Part.01:ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア


「うん、まぁ、想定の範囲内だね」

 アセナは目の前に広がる絶景――淡い光に照らされた巨大な地下空間に思わず言葉を漏らす。
 特にドラゴンが「ターゲット発見」と言わんばかりにアセナを睨んでいるのなんて圧巻だ。
 まぁ、余りにも現実離れした光景に現実逃避をしているのだが、そんな場合ではない。
 このまま呆然として何もしなければ、侵入者と見なされて容赦なく撃退されることだろう。

「ども、御疲れ様っス。これ、許可証っス」

 アセナは何故か体育会系的なノリで詠春から受け取った許可証をドラゴンに見せる。
 まぁ、軽くテンパるくらいにドラゴンと対峙したプレッシャーが大きかった と言うことだ。
 原作から「門番としてドラゴンがいる」とは知っていたので覚悟はしていたのだが、
 実際に目にすると「え? 何コレ?」と言う感じで、頭が真っ白になってしまったようだ。

「と言うか、詠春さんも学園長先生もドラゴンについては一言も言ってくれていない件は どう判断すべきだろう?」

 確かに、許可証には「着いたら門番に これを見せてください」と注意書がされていたが、
 それでも「門番はドラゴンですから、覚悟してください」くらいの言葉は欲しかった。
 まぁ、知っていても圧倒されてしまったので、教えられたところで現実は変わらないだろうが。

「……ああ、そっか。言葉で知らされていても意味がないのがわかっていたからか」

 予備知識があっても実際に目の当たりにすると どうしようもないことは往々にしてある。
 一般人として生きてきた者にとって、こんな常識外の生物との対峙も それに該当するだろう。
 どれだけ覚悟したところで実際にドラゴンと対峙したプレッシャーにとっては無意味に近い

 ここで、アセナがエヴァやフェイトと対峙していた時には平然としていたことを疑問に思うかも知れない。

 まぁ、実力を考えれば、本気のエヴァやフェイトの方が 門番のドラゴンよりも上位にいるのは確かである。
 だが、そもそも彼女等はアセナに本気を見せていなかったうえアセナと対峙した目的は対話がメインだった。
 それに、彼女等とは差が理解できない程に差があったのでアセナがプレッシャーを感じられなかったのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ところで、アセナが最下層までエレベーターで降りられたことには、ちょっとした訳がある。
 それは、35話で近右衛門がアセナに「アルからの連絡と言うか伝言」を伝えた後のことだった。

「ああ、そう言えば……『戻った記憶』とは、どう言った内容のものなのかのぉ?」

 近右衛門は、さも興味本位で訊いているような態度だが……その真意は実にわかりやすい。
 つまり、アセナのことを心配して「どの記憶を思い出してしまったのか?」を確認したいのだ。
 それを理解しているアセナは「別に隠すことじゃないので話して置こう」と説明を始める。

「ガトウさんと別れた時のこととか、タカミチに日本に連れてこられた時のこととか、子供の頃に川で溺れた時のことの一部とか……ですね」

 もちろん、「実は、那岐の記憶を思い出したんですよねぇ」なんてことは説明しない。
 アセナと那岐の違いに気付いた訳でもない近右衛門に説明する必要は無いのだ。

 まぁ、気付いたうえでアセナが打ち明けるのを待っている可能性がない訳ではないが、その可能性は敢えて黙殺しよう。

「……ふむ。つまり、キミが知りたいこと とは『川で溺れた時に起きたことの真相』なのかのぅ?」
「あれ? 詠春さんから『木乃香に怯えられた理由が知りたい』って聞いていませんでしたか?」
「いや、婿殿からは『木乃香と向き合うために例の事件を知りたいそうです』としか聞いておらんよ」
「そうですか……オレのために詳細を知らせなかったんでしょうから、後で礼を言って置きます」
「まぁ、礼も大事じゃろうが……礼の代わりに木乃香を幸せにすればいいんじゃないかのぅ?」
「一理ある御言葉ですが、『それはそれ、これはこれ』と言うことで、礼はキチンとして置きますよ」

 木乃香を嫁にする と言う言質を取らせないアセナに近右衛門は苦笑するしかない。

「ところで、ガトウ殿のこととかタカミチ君のこととかも思い出した と言うとったが……?」
「あ、その点は大丈夫です。思い出させてもらうのは『川で溺れた時のこと』だけですから」
「……それなら何も言わんよ。まぁ、そもそも、どんな記憶を思い出すのかはキミの自由じゃが」
「ですが、『黄昏の御子』の頃の記憶を思い出すのは時期 尚早、と言うことでしょう?」
「まぁ、今のキミなら耐えられるとは思うが……タカミチ君の同意が欲しいところじゃからな」

 近右衛門の危惧を察知したアセナは「『黄昏の御子』の頃のことは思い出させてもらうつもりはない」とハッキリと述べる。

 戦争の道具として100年以上も生かされていた『黄昏の御子』の記憶は、過酷と言っていい記憶だ。
 それに加え100年以上の記憶を思い出すだけでも相当の負荷が掛かるため、下手をしたら自我を失いかねない。
 今のアセナなら耐えられる可能性は高いが、耐えられない可能性もある。無理に思い出すべきではない。

「おっと、忘れるところじゃった。これを持って行くがよかろうて」

 近右衛門は執務机の引き出しから掌大のカードを取り出すと、そのカードをアセナに放り投げる。
 門番(ドラゴン)への通行許可証なら詠春から受け取っているので、通行許可証ではない。
 まぁ、扱われ方がゾンザイであったことから考えると、そこまで大した物ではないだろうが。

「それは、アルの住処――麻帆良の最深部に直結しているエレベーターのパスカードじゃよ」

 近右衛門の話によると、図書館島のエレベーターには魔法的・科学的な仕掛けが施されており、
 このパスカードを使うことで「麻帆良の最深部まで繋がっているエレベーター」を使えるようになるらしい。
 原作2巻で出て来たエレベーターとは別物で、ネギ達が勉強合宿をした階層より更に深部へ行けるようだ。

「……ありがとうございます」

 「こんな便利なものがあるなら、『メルキセデクの書』の時(4話)に貸して欲しかった」と思うアセナだったが、
 「まぁ、貸してくれるだけマシだよね」と気持ちを切り替え、礼を言いながら近右衛門からパスカードを受け取り、
 「それでは、失礼します」と学園長室を退室し、荒んだ心を癒すために麻帆良教会(ココネの元)へ赴いたのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「まぁ、『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』って気分だけど……ここまで来たら進むしかないよねぇ」

 門の先に待ち受けるアルビレオが どんな思惑でアセナに情報をほのめかし、アセナを招いたのか?
 それを考えると、目前に聳え立つ門が『地獄の門』に見えて来て、進むのを躊躇したくなる。
 だが、近右衛門に背中を押された形でもあるため、アセナに ここで引き返す選択肢は無いのだった。



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Part.02:マッド・ティー・パーティー


「ようこそ、『神蔵堂ナギ』君。お待ちしていましたよ」

 重厚な扉を開いた先には、地下とは思えない壮大な風景が広がっていた。先程の広場も充分に壮大だったが、この空間は更に壮大なものだった。
 大小幾つかのドーム、優美な曲線で構成された鉄橋、そして三方を囲む滝。たとえ地上にあったとしても充分に幻想的な光景が そこには広がっていた。
 とは言え、景観に見惚れて我を忘れるアセナではない。シッカリとアルビレオの投じた爆弾を聞き取っており、その対応について思いを巡らせていた。

「……お招きありがとうございます、アルビレオ・イマ殿」

 アセナは『ナギ』と言う響きが気にはなるものの、特に気にしていない様相で社交辞令的な挨拶をする。
 まぁ、アセナにとってはアルビレオがアセナの『正体』を理解していることは想定の範囲内のことであるため、
 むしろ、この程度の「様子見とも言えない様な軽いジャブ」などでアセナの心が乱される訳はないのだが。

「大した持て成しもできませんが、ごゆるりと御堪能ください」

 そんなアセナの対応を満足そうに受け止めたアルビレオは薄ら笑いを浮かべ、
 余裕タップリな様相でティーセットが準備されたテーブルにアセナを誘うと、
 目線だけで「お掛けになってください」と向かいの席に座るように促す。

「……さて、君がここを訪れた目的は詠春から聞いていますので、単刀直入に本題に入っていただいて構いませんよ?」

 準備のよさに警戒を覚えたアセナだが、「警戒するだけ無駄か」と思い直して大人しく腰を下ろす。
 恐らく、エレベーターが最下層に到着した段階でアルビレオはアセナの来訪に気付いていたのだろう。
 そんなアセナを興味深そうに見ながらもアルビレオは手馴れた手付きで紅茶を注ぎながら話を切り出す。

「それでは、御言葉に甘えさせていただいて……『木乃香が烏族に浚われ掛けた時のこと』を思い出させていただけないでしょうか?」

 言葉と共に差し出された紅茶を受け取ったアセナは、その香気を楽しむ振りをして「どこまで話すべきか」思案する。
 だが、「詠春から事情を聞いている」と言われた以上、詠春の知っている情報は把握されていることだろう。
 ならば、繰り返しの説明は必要ない筈だ。そう判断したアセナは、単刀直入に必要最小限の情報だけを伝える。

 余談だが、紅茶は「匂うだけで飲まないのも失礼だろう」と言う考えで一口だけ啜ったが、予想以上に美味で何口も飲んでしまったらしい。

「まぁ、確かに、私のアーティファクトを用いれば、君の記憶を復活させること自体は容易いでしょうねぇ」
「……歯に物が引っ掛かったような言い方ですね? 何らかの問題があるように聞こえるんですけど?」
「復活自体に問題はありません。ただ、『無理に思い出すことではない』と言う意味で問題があるだけですよ」
「確かに、防衛機制として忘れたので思い出すべきではないでしょう。ですが、それは過去のことです」

 アセナが『例の事件』を忘れたのは、魔法によって忘れさせられたのではない。精神の安定を保つために自ら忘れたのである。

 それを考えれば、アルビレオの懸念も理解できる……が、『今のアセナ』は『当時のアセナ』ではない。思い出しても大丈夫な筈だ。
 むしろ、そんなことは重々承知であり、そんな理由でやめるくらいならば最初から記憶を復活させよう などとは思わなだろうい。

「……そうですか。貴方がそこまで言うのでしたら、私としても君が記憶を取り戻すことへの助力は惜しみません」
「ありがとうございます。本来は自然に思い出すのを待つべきなんでしょうが、そうも言っていられないんです」
「まぁ、木乃香嬢と向き合うには思い出す必要があり、且つ、いい加減に向き合わなければいけない状況ですね」
「あれ、随分と事情に詳しいですね? 詠春さんは そこまで話したのでしょうか? それとも、学園長先生ですか?」
「さぁ、どうでしょう? 私が言えるのは、この学園内で起きることくらいは把握しています、と言うことですね」
「つまり、学園長先生との会話を覗いていた訳ですか。まぁ、学園長室であることで油断していたこちらの失態ですね」

 アルビレオが事情を把握し過ぎていることを いぶかしむアセナだったが、アルビレオには詠春なり近右衛門なり情報の伝手はある。

 そのため、そこまで気にすべきことでもないのだが……必要以上に情報を流してくれやがった相手を特定して置きたかったようだ。
 まぁ、アルビレオの言葉を信じるならアセナにも過失があったようなので「これからは もっと注意しよう」と自身を戒めたにとどめたが。

「ところで、処置の前に確認して置きたいことがあるんですが……君は、『その時のこと』を どこまで思い出したのですか?」

「……烏族が木乃香を浚った後から記憶が途絶え、気が付いたら血の海に立っていた くらいなら思い出せました。
 あ、それと、木乃香に怯えられたことも覚えていますね。まるで『化け物』を見るような目でしたねぇ。
 まぁ、つまり、結果は覚えているのですが、過程――何故そうなってしまったのか は わからないんですよ」

 アルビレオの問い掛けで『木乃香の視線』を思い出してしまったアセナは、暗鬱たる気持ちを苦笑で誤魔化しながら答える。

「そうですか……では、思い出したいのは『記憶が途絶えていた部分だけ』で構いませんね?」
「ええ、そうなりますね。他の部分は思い出しましたから、そこだけで問題ありません」
「つまり、『アセナ君』の記憶も『黄昏の御子』の記憶も思い出させなくていいのですね?」
「ええ。それらについては急いでいる訳ではありませんから、自然に思い出すのを待ちますよ」

 那岐になる前のことまで確認されるとは思っていなかったが、方針は定まっていたのでアセナは淀みなく答える。

 正直に言えば『アセナ』や『黄昏の御子』のことも思い出させてもらいたいが……今はまだその時ではない。
 魔法世界に行くまでに思い出さなければ思い出させてもらうが、できるだけ自力で思い出した方がいいだろう。

「……そうですか。よくわかりました。では、『これ』をどうぞ」

 アセナの言葉に納得を示したアルビレオは『イノチノシヘン』を起動して数多の『書』を空中に展開する。
 そして、その中の一冊を手に取るとパラパラとめくり、あるページで固定したままアセナに『書』を手渡す。

 それは「那岐の半生録」であり、そのページには『木乃香が烏族に浚われ掛けた時』の真相が記されていたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「――このちゃんっ!!!」

 烏族に連れ去られた幼き日の木乃香を追って、幼き日の那岐が駆ける。
 『瞬動』を使っているのか、遠く離れた烏族の背中は随分と近くなった。
 しかし、烏族は那岐の接近に気付くと、背中の羽根を持ちいて空に逃れる。
 目立つことを恐れたのか、それまでは地上を滑空する程度だったので追い付けたが、
 さすがに空を飛ばれては、地上を駆けるだけの那岐では追い付ける筈がない。

  ダダンッ!!

 だが、那岐は『虚空瞬動』を使って空にいた烏族の補足を成功させた。
 『虚空瞬動』は浮遊はできないが、連続で使用すれば飛行はできるのだ。
 もちろん、直線で追い縋るなどと言う真似はせず、多角的に追い詰める。

「クッ!! 小癪な小童め!!」

 逃げること――否、木乃香を依頼主に届けることを第一にしていた烏族は、
 執拗に追い掛けて来る追跡者(那岐)を迎撃することに目的を切り替えた。

 だが……相手が悪かった。那岐は単なる子供ではない。

 那岐を切り裂く筈だった刀は空を切り、刀を掻い潜った那岐は懐に忍び込む。
 そして、いつの間にか成していた『咸卦法』で鎧った貫手を烏族の胸に突き刺す。

  ドシュッ……

 水の詰まった皮袋を貫くような鈍い音の後、辺りに文字通りの血の雨が降り注ぐ。
 当然、烏族に抱えられていた木乃香は それをモロに浴びてしまい、真っ赤に染まる。
 この時点で木乃香は茫然自失としており、現実をうまく処理できていないようだった。

 そして、烏族と言う支えを失った木乃香は空から落下する。もちろん、那岐が途中で受け止めたが。

 だが、木乃香を抱きかかえて着地した那岐を待っていたのは殺気に溢れる鬼や烏族の集団だった。
 落下地点を予測して召喚されていたのか、追い詰めたと勘違いさせられて誘き出されたのか……
 それは定かではないが、百鬼夜行と表現しても遜色の無い数の化生に囲まれているのは確かだった。

 那岐は少し離れた位置に木乃香を降ろすと百鬼夜行に向かって駆け出す。

 その後は描写するまでもないだろう。那岐は百鬼夜行を殺し尽くすことに成功した。
 そう、離れた位置にいた木乃香まで血の海に浸らせる程の量の血を生み出したのだ。
 そして、27話で語ったように、思考が復帰した木乃香に那岐が怯えられる訳だ。

 ……ここで、倒されたら還るだけの化生が何故に血の海を作ったのか、疑問に思うかも知れない。

 しかし、答えは単純だ。化生は効率よく現世に顕現するために受肉していたからだ。
 つまり、魔力で肉体を作られていたのではなく、生物を媒介に召喚されていたのだ。
 それ故に、召喚が解けた「元の生物」の死体(及び血液)は還ることなく残った訳だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…………なるほどねぇ」

 心優しい那岐には少しキツい事実だった。木乃香を守るためとは言え惨劇を成したのだから当然だ。
 しかも、「媒介にされた生物」には『人間』も含まれていたのだから、そのショックは筆舌に尽くし難い。
 ほとんど暴走していたような状態だった と言えるが、結果として人を殺したこと自体は変わらない。

 自我を保つために記憶を封印してもおかしくないし、それが解けたら自我が崩れるのも頷ける。

 本来なら、那岐が思い出すことはなかったのだろう。いや、正確には『時機を見て思い出させる予定』だったのだろう。
 だが、那岐は溺れたショックで「木乃香が溺れた と言う記憶」に置換していた「忌むべき記憶」を思い出してしまったのだ。
 那岐は弱い訳ではない。だが、強くもなかった。那岐が それに耐え切れずに目覚めることを拒否したとしても責められまい。

 だが、それは那岐の話でしかない。那岐に耐えられなかったことでもアセナならば耐えられる。

 アセナは、ナギであると同時に那岐でもある。耐えられない訳がない。
 那岐だけでは耐えられなかったことでも、アセナなら耐えられるのだ。
 その手が真っ赤に染まっていたとしても、それは『今更』だからだ。

「……ふむ。どうやら、耐えられたようですねぇ」

 『イノチノシヘン』をカードに戻したアルビレオが気遣わしげな声音で声を掛けて来る。
 その表情は「まぁ、そこまで心配はしていませんでしたが」と無言で語っており、
 アセナが那岐の過去に耐えられることを信じて――いや、わかっていたような態度だった。

「ええ、今更のことですから」

 過去は過去でしかない。過ぎ去ってしまったことを悔やんでも何にもならない。
 もちろん、過去は顧みるし反省もする。でも、過去に囚われはしない。
 傲慢なアセナは、過去を受け止めたうえで前を向いて未来へ進むのだから。

 だから、アセナは那岐の過去を「なかなかキツかったねぇ」と割り切って受け止めるのだった。



************************************************************



Part.03:醜くも美しい世界


「ところで、『貴方自身』のことは どこまで思い出せているんですか? 『神蔵堂ナギ』君」

 那岐の記憶を取り戻した後は軽く談笑を交えながら御茶を楽しんでいたのだが、唐突にアルビレオが爆弾を落として来たのだった。
 これまでも想定外の質問はあったが、それでも想定を大きく超えるものではなかった。だが、今回の質問は大きく想定を超えていた。
 そのため、僅かであったが致命的とも言える時間をアセナは驚愕と思考に費やしてしまい、アルビレオへの対応が遅れてしまった。

「…………どう言う、意味でしょうか?」

 僅かな躊躇の後、アセナは絞り出すような声で言葉を紡ぐ。もちろん、アセナも無駄な抵抗だとはわかっている。
 昨日『少し早い御茶会』と表現された時点で、アルビレオに『正体』がバレていることはわかっていたのだから。

 だが、無駄な抵抗だとはわかっていても抵抗しなければアセナの気が済まない。簡単には認められないのだ。

「おや? これは異なことを仰りますねぇ。私の意図など おわかりでしょう?」
「さぁて? 愚かなオレには貴方の言いたいことに皆目見当も付きませんねぇ」
「ほぅ? つまり、私の真意を確信しているけど認めたくない と言う訳ですね?」
「いえ、ですから、確信どころか見当すら付いていないのが現状なんですけど?」
「ですが、私のアーティファクトは御存知でしょう? 誤魔化しは通用しませんよ?」
「……そうですね。貴方が『オレ』を知っているのは想定内と言えば想定内ですね」

 もとより誤魔化せるとは思っていなかった。単に気分の問題で抵抗していたに過ぎない。そして、その気も済んだと言えば済んだ。

「まぁ、態々『貴方』に話す意味がないですから私を怪しむのは無理もないですけど」
「ええ、そうですね。『オレを知っていること』をオレに知らせる意味がわかりません」
「確かに、貴方と敵対する気ならば、貴方に知られないようにしてに泳がせますからね」
「……それは つまり、『貴方はオレと敵対する気がない』と言うことでしょうか?」
「ええ。少なくとも、『私』には『貴方』と敵対する理由などありませんからねぇ」

 アルビレオに言われるまでもなく、アセナはアルビレオが敵対する気などないことはわかっていた。単に確証が欲しかっただけだ。

「何故ですか? 確かに、オレは那岐と融合しました。ですが、『異物』が混じっているのも事実です」
「つまり、『異物』が混じっているのを知りながら、何故に敵対――いえ、駆除するつもりがないのか、と?」
「ええ、そうです。那岐は、貴方の戦友が命を賭して守った存在でしょう? 『異物』など邪魔な筈です」

 融合した今となっては両者の区別など付けられないが、那岐にとってナギが『異物』であったことは変わらないだろう。

「……どうやら、貴方は根本的な勘違いをしているようですね、神蔵堂君」
「根本的な勘違い? …… 一体、何を どう勘違いしている と言うのですか?」
「決まっているでしょう? ガトウが守ろうとしたのは『アセナ君』ですよ?」

 そう、ガトウが命を賭して守った存在は那岐ではなくアセナだった。つまり、那岐も『異物』なのだ。

 とは言え、アルビレオに指摘されるまでもなく、アセナも そのことには気付いていた。
 ただ、アセナにとって那岐と言う存在は「『アセナ』を正当に引き継いだ存在」なのだ。
 まったくの他人であるナギや、そのナギが混じって出来上がった今のアセナとは違う筈だ。

「ですが、『アセナ』から『黄昏の御子』の記憶を消して出来上がったのが『那岐』なのではないですか?」

「だから、那岐君は『アセナ君』と大差ない と? それは違いますよ。那岐君は『アセナ君』ではありません。
 何故なら、那岐君は『黄昏の御子』だけでなく『アセナ君』の記憶も ほとんど持っていませんからね。
 つまり、貴方の考え方や言葉で言うなら、那岐君も貴方も『異物』である と言うことは変わらないんですよ」

 確かに、アルビレオの言うことが事実なら、『アセナ』ではない点においては那岐もナギも『異物』であることは変わらないだろう。

「さて、話が一段落したところで、『私に貴方と敵対する気がない』と言う話に戻りましょう」
「……それは、オレだろうと那岐だろうと『アセナ』ではないことは変わらないから ですか?」
「それもあります。ですが、別の理由もあります。むしろ、そっちの方が大きいくらいですね」

 腑に落ちない点はあるものの引き摺りたい話題でもないので、アセナもアルビレオの話題転換に応じる。

「別の理由、ですか? ……差支えがなければ、『それは どう言う理由なのか』を訊ねても よろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。ただ、その理由の説明には少々時間をいただくことになりますが……それでも構いませんか?」
「もちろんです。むしろ、気になって仕方がないですから、いくらでも時間を掛けていただいても問題ありませんよ」

 アルビレオから『覚悟』を問い掛けられたアセナは躊躇なく肯定を示す。それを受けたアルビレオは、ゆっくりと説明を始めるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 実は、私は『世界』についての研究をしておりましてね。
 その研究の中で、いくつか わかったことがあるんです。

  ① 世界と言うものは星の数ほど存在する。
  ② 基本的に世界同士は隔絶している。
  ③ 稀に他の世界を垣間見る存在がいる。

 とは言っても、他の世界を垣間見る存在――私は『観測者』と呼んでいる存在なんですが、
 本人は無意識で行っていますし その間の記憶は ほぼ無いので、その自覚がありません。
 そして、当然ながら『観測者』の存在も『観測内容』も他人が把握できる訳がありません。

 ですから、他に世界があることなど『そう』想定していなければ気付かないんです。

 普通は「他に世界がある」と言われても「ナニイッテンノ?」と思うでしょう?
 ですが、「他に世界がある」と言う前提で検証していくと、気が付けるんですよ。
 特に、私のアーティファクトである『イノチノシヘン』の能力を活用すれば、ね。

 フフフ……『何故?』と言わんばかりの表情ですねぇ。

 いいでしょう。気分も乗って来たことですし、特別に お教えします。
 当然、私の『イノチノシヘン』の基本能力は御存知ですよね?
 ええ、そうです。「他者の半生録」、つまり『記憶の覗き見』ですよ。

 まぁ、「他者の再生」と言う能力もありますが、今は関係ありませんね。とにかく、私は「他者の記憶を覗き見る」ことが可能なんです。

 ……この時点で、私が何を言いたいのか、だいたいお分かりでしょう?
 そうです、本人すら忘れていることを私は把握できるんですよ。
 それが、睡眠中の出来事――夢として忘却される事実ですら、ね?

 以上から、私は『観測者』の存在も『観測内容』も把握でき、『この世界』以外にも世界が存在することを知れた訳ですよ。

 あ、ところで、物語とは「作者が垣間見た別の世界の出来事を脚色したもの」と言う説を聞いたことがありますか?
 私も最初は荒唐無稽な話だと軽く聞き流していたのですが……最近ではバカにできない説だと切に感じています。
 何故なら、他に世界が存在し、且つ その観測が無意識で行われているので、本人にも その自覚が無い訳ですからねぇ。

 もしかしたら、星の数ほど存在する『物語』と言うものの幾つかは『観測者たる作者が無意識で垣間見た他の世界の出来事』なのかも知れませんね?

 少なくとも、私は『この世界に似た物語』のこと と『私の知っている物語に似た世界』のこと を知っています。
 言い換えると、『この世界』が貴方にとっては『魔法先生ネギま!』であることを知っている訳ですが……
 事情を知っているが故に どれだけ荒唐無稽な話に思えても、私には事実として受け止めざるを得ないんですよ。

 ……さて、今までの説明で、私の言いたいことは理解していただけた と思います。

 つまり、世界とは星の数ほど存在しており、他の世界は『物語』として語られる可能性があるため、
 逆に言えば、『この世界』が他の世界で『物語』として存在していても不思議ではない と言うことです。

 ですから、貴方にとって『この世界』が『ネギま』と言う『物語』であったとしても、私には『想定の範囲内』なのですよ。

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「以上で説明を終え――たいところですが、まだ『私に貴方と敵対する気がないこと』の説明が不充分ですよね?
 せいぜいが、『【この世界】が【物語】として存在する【世界】に貴方がいたこと』に理解があるだけですからね。
 ですが、貴方のことですから、私が貴方に敵対する気がない理由の予想が立っているのではないでしょうか?」

「……つまり、貴方がナギを『この世界』に連れて来て『この身体』に憑依させた と言う訳ですか?」

 それまでアルビレオの長ったらしい説明(しかし、それなりに重要だった)を黙って聞いていたアセナは、
 アルビレオの「さぁ、早くコメントをしてください」と言わんばかりの態度に促され、渋々 口を開く。
 アセナとしては説明を聞き終えるまでは黙っているつもりだったのだが、アルビレオは語らせたいようだ。
 押し問答を続けても時間と精神の浪費にしかならないため、アセナは気が乗らないが方針を転換したのである。

「ええ、そうです。物理的な質量を持たない『魂』だけならば、世界の『壁』を越えることが可能ですからね」

 アセナにとっては「有り得ない訳ではない程度の想定」だったために確証が欲しかったのだが、
 アルビレオは「満点の答えです」と言わんばかりの満面の笑みで反応したので正解なのだろう。
 想定が当たっていたことに安堵するアセナだが、同時に「どうやったのか?」と言う疑問が生まれる。
 口で「世界を超える」と言うのは容易いが、実際に行うのは困難どころの話ではない筈だからだ。

 その疑念を読み取ったのだろう、アルビレオは聞かれてもいないのに朗々と説明を始める。

「……22年に1度、世界樹の魔力生成量が爆発的に増えて大発光が起きるのは御存知ですよね?
 まぁ、大発光と比べたら月とスッポンなのですが、大発光以外の年も発光は起きているんです。
 つまり、大発光まではいかなくとも、麻帆良祭の時期には世界樹の魔力量が跳ね上がるんですよ。
 で、私は増大した世界樹の魔力を『非常事態』に備えて、数年に渡って溜め込んでいた訳です」

「なるほど。つまり、その魔力を用いて『非常事態』を解決した と言うことですね?」

 アルビレオが麻帆良に引き篭もるようになってから十数年が経つ。その間に溜め込まれた魔力は、大発光にも引けを取らないことが予想される。
 そして、超が大発光(の終盤だけ)の魔力を利用して百年もの時を越えたことを考えると、世界を越えて精神を召喚するぐらいなら可能だろう。
 そう判断したアセナは一応の納得を見せる。まぁ、「世界間を越えた」と言う段階で荒唐無稽な話なので、納得も何もない気はしないでもないが。

 ちなみに、言うまでもないだろうが、二人が言う『非常事態』とは「那岐が死んだこと」である。

「ええ。どうやら溺れたショックで『思い出したくなかった記憶』が復活したようで、那岐君は目覚めることを拒否しましたからね。
 仮に、あのまま放って置けば精神に引っ張られた肉体は朽ちて行き、やがて『その肉体』は死に至ってしまった でしょうね。
 ですから、『別の世界の那岐君である貴方』を召喚し、憑依させた訳ですよ。『黄昏の御子』と言う『器』を失わないために、ね」

「……その言い方だと、『黄昏の御子』が大事だった と言う風に聞こえるんですけど? オレの気のせいですか?」

「いいえ、気のせいではありませんよ。貴方の感じた通り、私にとっては『黄昏の御子』の方が大切なんですよ。
 もちろん、タカミチ君が大切にしている『中身』も大切ですよ? でも、それ以上に『器』の方が大切です。
 何故なら、仲間が大切にする『少年』よりも、仲間が救おうとした『世界』の方が私には大切でしたから、ね」

「救う? 話の流れからすると『黄昏の御子』が『魔法世界を救う』ようですが、『魔法世界を滅ぼす鍵』なのではないですか?」

「いいえ、違います。恐らく、『世界の終わりと始まりの魔法』のことを仰っているのでしょうが……
 この魔法は、言葉通り、世界の終わりと始まり――つまり、世界の破壊と再生の要なんですよ。
 ですから、魔法世界を『救う』ためには『黄昏の御子』と言う『器』を失う訳にはいかなかったんです」

「……つまり、ナギを貼り付けてでも『この身体』を生かし続けなければならなかった と?」

「ええ、そうなりますね。どんなに言葉を繕っても、魔法世界のために『貴方』を犠牲にしたことは変わりません。
 いえ、正確に言うと、『那岐君』と『那岐君を大切に想う方々』と『貴方』を犠牲にしたことになりますね。
 言うならば、私が『諸悪の根源』となる訳です。ですから、そんな『私』が『貴方』に敵対する訳などないんですよ」

 魔法世界を救うために麻帆良の地下に引き篭もって『世界』の研究を続けて来た男は、口元を歪めながら説明を締め括ったのだった。



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Part.04:パンドラの箱


「……いくつか、確認しても よろしいでしょうか?」

 暫くの沈黙の後、冷め切ってしまった紅茶を口に含んだアセナが重い口を開いた。
 香りも味も損なわれてしまった紅茶は苦く、今のアセナの心境を物語っているようだ。

「ええ、どうぞ。私に答えられる範囲内でしたら いくらでも お答えします。どうぞ、気軽に訊いてください」

 アルビレオも冷えた紅茶に口を付けてから重苦しく応える。
 まぁ、アルビレオはコッソリと魔法で紅茶を温め直していたが。

「…………どうして、ナギだったんですか?」

 アセナの問いは、答えられたところで大した意味はないものだが、アセナの立場になってみると至極当然のものと言えるだろう。
 アルビレオの言葉を信じるなら世界は星の数ほどある。そこには『別の世界の那岐』などいくらでもいることだろう。
 それに、アルビレオの口振りからすると誰でもよかったように思える。それなのにナギが召喚されたのだから、当然の疑問だろう。

「魂と肉体は相互依存関係にありましてね。他人の魂だと拒絶反応が出てしまう恐れがあったんですよ」

 アルビレオは「ですから、『別の世界の那岐君である貴方』でなければならなかったのです」と言葉を締め括る。
 もちろん、アルビレオはアセナの問いの意図を正確に察している。だが、敢えて勘違いをして答えたのである。
 そう、アセナの問いを「『ナギではない誰か』の魂でもよかったのではないか?」と捉えたことにして誤魔化したのだ。

「そんなに答えたくないんですか? いえ、答えられないんですね? ……それなら、答えなくてもいいですよ?」

 アセナは「アルビレオが意図を読み違える筈がない」と言う考えの下、アルビレオが誤魔化したことを見抜いた。
 そして、「私に答えられる範囲内」と言う言葉と合わせて、「答えたくない」か「答えられない」のを見抜く。
 それ故に、「直接『答え』を言わなくてもいいから、『答え』を想定できる反応をして欲しい」と暗に伝える。

「……恐らく、貴方が想定した理由で合っていると思いますよ」

 僅かな沈黙の後、アルビレオは「どうとでも受け取れる答え」を返した。
 恐らく、その僅かな間は、「どう答えるべきか?」を悩んだものなのだろう。
 もちろん、その裏には「これでも気付けるでしょう?」と言う信用がある。

「つまり、『思い出したくもない現実』を忘れるために『ここ』に逃げて来た訳ですか」
「まぁ、概ね その通りですね。貴方は、現実逃避の果てに『ここ』に来たことになります」

 アセナの確信を持った言葉にアルビレオは「仕方ありませんね」とでも言いた気な態度で肯定する。免罪符を得た と言うことだろう。

「もしかして、オレが憑依の直前を『とても嫌なことがあった』としか覚えていないのは……?」
「ええ、そうです。貴方の『思い出したくもない現実』は、私が忘れさせたんですよ」
「……なるほど。そう言うカラクリがあったんですね。それなら、思い出せる訳がないですね」
「おや? 『記憶消去』を忌避する貴方が忘れさせたことに対して文句を言わないのですか?」
「言いません。むしろ、言える訳がないですよ。だって、オレが望んだことなんでしょう?」

 不思議そうな顔で訊ねるアルビレオに対し、アセナは穏やかな微笑みすら浮かべて答える。

 アセナは、半年前に『ここ』で目覚めてから、ナギの過去の大部分を思い出せなかった。
 当初は「憑依のショックで記憶が混乱しているだけだろう」と考えていたアセナだが、
 那岐の過去を思い出すうちに「思い出したくないから忘れた」と考えるようになっていた。

 まぁ、「忘れた」と「忘れさせてもらった」と言う若干の違いはあるが。

「恐らくは、記憶を忘れさせてもらうことを交換条件に憑依を受け入れたんでしょうね」
「……ええ、そうです。しかし、そのことすら忘れてもらった筈なんですけどねぇ?」
「いえ、思い出した訳ではありません。ただ、その可能性を思い付いただけですから」
「まぁ、それなら約定を違えた訳ではありませんね。むしろ、問題は貴方の意思ですね」

 意思? 一体、どのような意思が問題となるのだろうか?

「貴方は、『記憶』を取り戻したい と考えているのではないですか?」
「……そうですね。取り戻せるならば取り戻したい と考えていますね」
「やはり、そうですか。まぁ、貴方なら『そう』言うと思いましたよ」

 アセナの返答にアルビレオは「困りましたね」と言わんばかりに苦笑を漏らす。

「忘れさせてもらったのに勝手な言い分かも知れませんが……その記憶はオレの根幹だったんだと思うんです。
 多分、『記憶』がないせいでナギの心の真ん中は『がらんどう』と表現できるくらいに空っぽでした。
 那岐と融合した後は、その隙間が埋まったような感じがして、幾分か真っ当な人間になれた と思います。
 でも、根本的なところで『何か』が違う気がするんです。大切なものが大切じゃない気がしてしまうんです」

 当初、アセナは『物語』の中にいる気分で過ごしていたため、そのせいで心が空虚なのだ と考えていた。

 だが、段々と『世界』が現実味を帯び始めても、アセナの心は空虚なまま――『がらんどう』なままだった。
 那岐と融合したことで隙間は埋まったが、それでも表面が埋まったに過ぎない。中心は空のままだ。
 それを埋めるのは、那岐の記憶ではない。那岐の欠片を充足したところで、ナギの心が満たされる訳がない。

 そう、ナギの記憶を取り戻さねばナギは満たされない。そうしなければ、アセナ(那岐でありナギである存在)は満たされないのだ。

「ですが、その記憶は『忘れるためならば別の人生を歩むことすら厭わない』程のものなんですよ?」
「まぁ、そうですね。ですが、それは『ナギだけだった頃』の話です。でも、『今』は違います」
「……そうですか。貴方が そこまで仰るのでしたら、私としても『記憶』の復帰に否はありません」

 繰り返しになるが、アセナはナギであると同時に那岐でもある。

 だから、那岐だけでは耐えられなかったことにアセナが耐えられた様に、
 ナギだけでは耐えられなかったことにもアセナなら耐えられる筈だ。

 そう考えたアセナは『記憶の復帰』を強く求め、アルビレオは そんなアセナの気持ちに応じるのだった。

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 …………………………………………………………

「では、ただいまより『記憶復活の儀』を執り行います」

 部屋全体どころか地下空間全体を使って描かれた魔法陣の中心で、アルビレオが厳かに『記憶復活の儀式』の開始を宣言する。
 もちろん、ただの『記憶解除』ならば、ここまで大掛かりな儀式など必要ない。つまり、ただの『記憶解除』ではないから必要なのだ。
 ナギの記憶は肉体に依存しない「魂に刻まれた記憶」だったため、記憶の復活は『魂そのもの』を弄ることと変わらないからだ。

「執行 封印解除、解除鍵『エルピスの残滓』」

 解除鍵とは、読んで文字の如く封印されていたものを解除するためのキーワードのことである。
 この場合は『エルピスの残滓』であり、アセナの記憶の『封印』を解くための要となる訳だ。
 ちなみに、『エルピス』とは『パンドラの箱』に残った最後の欠片、つまり『希望』である。

「あぁああああぁああああ!!!」

 通常の記憶改竄系の魔法ならば脳に施されるため、その解除も脳で行われる。その際の痛みは「激しい頭痛」程度だろう。
 だが、今回は違う。『魂そのもの』が書き換えられるのだ。魂は物理的な質量を持たない。だが、身体全体に影響を持つ。
 しかも、書き換えられた『魂』は記憶を上書きするために莫大な情報となってアセナの脳を襲う。その痛みは筆舌に尽くし難い。

 そのうえ、上書きされる記憶はナギが現実逃避を選んだ程の内容だ。

 最初は「記録でしかなかった情報」が段々と「実体験を伴った記憶」へと肉付けされていく。
 その過程で生じる苦痛だけでもツラいと言うのに、思い出してしまう記憶もアセナを苛む。

 ……心の痛みの方が肉体の痛みよりヒドい。何処かで聞いた言葉だが、まさしくその通りだった。

 屍の山を作った那岐の記憶は確かにツラかった。だが、それは「大切な者を守るため」に負った咎である。
 目的のためなら手段どころか犠牲すら厭わないアセナにとっては、それは充分に許容範囲内のことだった。
 だが、記憶』は違う。ナギは「大切な者を失ってしまった」のだから、アセナの許容範囲を超えていた。
 自分が犠牲になるのなら、いくらでも我慢ができる。だが、大切な者が犠牲になるのは耐えられない。

 アセナは ある意味では とても強く、そして ある意味では とても弱かった。

 ナギは利己的な人間だった。自分のためならば他人がどうなろうと知ったことではなかった。
 だが、そんなナギにも「命に代えてでも守りたい」と思える存在ができた。それが『彼女』だ。
 『彼女』の御蔭で、ナギは随分と他者を気遣うようになった。傲慢だが利己的でなくなったのだ。

 しかし、運命は残酷だった。ナギは『彼女』を守り切れなかった。そう、『彼女』を失ってしまったのだ。

 『彼女』を失ってしまったナギは己の無力を呪い、世界に絶望した。そんなナギに悪魔が囁く。
 「その記憶を忘れさせてあげましょう。その代償は、別の世界の自分として生きることです」と。
 ナギは考えるまでも無く その誘いに乗った。そして、『ここ』で那岐の肉体に憑依したのだった。

 ……だが、それは、あくまでも神蔵堂ナギと言う哀れな男の話だ。

 何度も言うが、アセナはナギであると同時に那岐でもある。ナギだけでは耐えられないことでも、アセナならば耐えられる。耐えられるのだ。
 確かに、ナギとしては立ち直れない程のことだったのだろう。それはアセナも理解しているし、心が引き裂かれんばかりの苦痛も味わっている。
 だが、心の何処かで「でも、それは過去のことなんだ」と冷静に受け入れいる自分がいるのだ。きっと、それは那岐としてのアセナなのだろう。

(ああ、オレの中で いろいろな『大切』が駆け巡る……)

 木乃香も大切であるし、※※※ も大切であるし、あやか も大切である。
 もちろん、ネギや刹那やタカミチなど、他にも大切な存在は たくさんいる。
 ただ単に、那岐とナギとアセナにとっての大切な存在が彼女達だっただけだ。

 当然ながら、彼女達に優劣は付けられない。

 だが、今はアセナだ。那岐でもナギでもない。那岐もナギも現実から逃げたのだ。
 それに、アセナは前へ進むことを決めているし、そうやって那岐の記憶も受け入れた。
 ならば、アセナはナギの記憶も過去として受け入れ、前へ進まねばならないだろう。

 ……何よりも、『彼女』の最後の望みは「ナギが幸せに生きること」だったのだから。



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Part.05:飛べない鳥のジレンマ


「こんばんは、那岐さん……」

 アルビレオの元を辞したアセナを待っていたのは竹刀袋を携えたサイドポニテの少女――刹那だった。
 もちろん、「待っていた」とは言っても、例のドラゴンのいる門の前で待っていた訳ではない。
 図書館島と男子寮を繋ぐ通路の途中(まぁ、かなり男子寮寄りの位置だったが)で待っていたのだ。

 どれだけ待っていたのか はわからないが、相当な時間を待っていたのは何となくアセナでもわかった。

「あれ? せっちゃん? ……こんなところで、どうしたのかな?」
「そんなの、那岐さんに会いに来たに決まっているじゃないですか?」
「そうかな? 世の中には偶然とか偶々とかあるんじゃないかなぁ?」
「そうかも知れませんね。でも、私は那岐さんに会いに来たんです」

 あくまでも惚けようとするアセナに対し、刹那はイチイチ反論を返す。スルーしないところに刹那の生真面目さが窺える。

「ふぅん? で、何の用なの? 急ぎじゃないなら後にして欲しいんだけど?」
「急ぎではありませんが……今ではなくてはいけないような、そんな気がします」
「そう。なら、話を聞くよ。部屋――は不味いから、そこの広場でいいかな?」
「ええ、構いません。話を聞いていただけるだけで、今の私には充分ですから」

 アセナの本音としては今は誰とも話したくなかったが、刹那の真摯な態度に折れて話を聞くことにしたようだ。

「……それで、用件は何かな? 重要っぽい雰囲気だけど?」
「実は、那岐さんに話して置きたいことがあるんです」
「ふぅん、話して置きたいこと、ねぇ。それは どんな話かな?」

 ベンチに腰を下ろしたアセナは、途中で買った缶コーヒーを傾けつつ隣に座る刹那に水を向ける。

「唐突だと思われるかも知れませんが……今度こそ、私は貴方を守りたい と考えているんです」
「……脈絡も無く話すことじゃないよね? と言うことは、何か理由とか原因があるのかな?」
「はい。実は、学園長先生に『今日のこと』を聞きまして、話して置くべきだと判断したんです」
「今日のこと、と言うと……オレが『木乃香が川で溺れた時の真相』を思い出させてもらうってこと?」
「ええ、そうです。具体的な方法までは聞いていませんが、思い出させてもらうことは聞きました」

 刹那は お汁粉の缶を握り締めながら話を切り出す。お汁粉の缶がビキビキいっているのは気のせいに違いない。

「そうなんだ。それで、『そのこと』と『せっちゃんがオレを守りたいこと』って繋がりがあるのかな?」
「繋がっています。だって、私は あの時のことを思い出すことで、貴方を守りたいと強く思ったんですから」
「はて? せっちゃんが真相を思い出したことはわかったけど、何でオレを守りたいのか は わかんないよ?」

 真っ直ぐにアセナを見詰める刹那の視線から逃れるように、アセナは明後日の方向を向いて思案する素振りを見せる。

「……あの時、私は貴方を守れませんでした。いえ、守れる可能性があったのに、守らなかったんです」
「そうかな? あの時は子供だったんだから、せっちゃんがオレを守れる訳ないんじゃない?」
「いえ、守れました。私が『正体』を見せるのを躊躇わずに『力』を行使していれば、守れた筈なんです」

 ベンチから立ち上がった刹那はアセナの視界に身を移すと、再びアセナを真っ直ぐに見詰めて語り始める。

「『本性』を晒せば嫌われてしまう、そんな自分勝手な想いで御嬢様を助けに行くことができませんでした。
 でも、貴方は何の躊躇もなく御嬢様を助けに向かいました。護衛のためにいた私が躊躇して動けない中で。
 そして、その結果……御嬢様は無事に救出されましたが、貴方は御嬢様に怯えられて心に傷を負いました。
 あの時、私が躊躇せずに動いていれば そんな結果にはなりませんでした。私が嫌われる結果で済んだんです。
 私は最低な女です。貴方を身代わりにしたうえ、そのことすら忘れて のうのう と暮らしていたのですから」

 真っ直ぐにアセナを見詰めながら己の咎を話す刹那は、アセナにとっては余りにも眩しい。視線を逸らしたくなるが、どうにか耐える。

「ううん、そんなことないよ。せっちゃんは悪くない。悪いのは烏族を使役していた術者さ。
 それに、そもそもの問題として、せっちゃんは女の子なんだから傷付く必要なんてないよ。
 むしろ、オレが肩代わりできることはオレが肩代わりするから傷付かないで欲しいくらいだよ」

「……ですが、私が『あの姿』を晒すことを恐れていなければ、那岐さんと御嬢様に溝はできませんでした」

「それは結果論だよ。確かに、オレは木乃香に怯えられて傷付いたし、木乃香はオレを怯えてオレを傷付けたよ?
 それは否定しない。だけど、木乃香には その記憶がない訳だから、オレが気にしなければ何も問題ない筈さ。
 だから、せっちゃんは責任を感じる必要はないよ。むしろ、『怯えられることに怯えていたオレ』が悪いだけだよ」

「違います!! 私は御二人を守ると誓ったクセに、我が身可愛さに御二人を傷付けてしまったんです!!」

 心情を吐露するうちに感情的になっていく刹那に対し、アセナは あくまでも冷静に諭そうとする。
 もちろん、刹那を落ち着かせる意図もあるが、そもそもアセナには刹那を責める気などないのである。
 何故なら、アセナにとっては過ぎたことだからだ。過去を気に病まれたところで困るだけなのだ。

 過去は誰にも変えられない。時間を遡りでもしない限り、過去は変えられないのだ。

「違わないよ。せっちゃんは何も悪くない。自分が可愛いのは誰でも一緒だからね。
 オレは、自分が可愛いから――傷付くのが怖いから、木乃香に近付けなかった。
 そして木乃香は、自分が可愛いからオレや せっちゃん を遠目から見るだけだった。
 だから、せっちゃんは何も悪くない。悪いのは勇気の無かったオレと木乃香さ。
 いや、木乃香は何も事情を知らないから、朧気に覚えていたオレが悪いだけだね」

「それでも、御二人を――いえ、貴方を苦しめた責は私にあります!!」

 だが、何やら刹那の様子がおかしい。気に病んでいるだけでなく、何らかの『決意』が見て取れる。
 特に、「木乃香とアセナ」と言う表現から「アセナだけ」に言い換えた辺りに違和感を覚えざるを得ない。
 これでは、まるで、木乃香よりもアセナを重視しているようではないか? いや、そんな訳がない。

「あの時、私が守りたかったものは貴方だった と言うのに……」

 だが、そんな訳があったようで、そのことにアセナは呆気に取られる。
 百合疑惑すら生まれる程に木乃香が大事な刹那がアセナを重視しているのだ。
 アセナが呆気に取られたとしても不思議なことではない(少々 失礼な話だが)。

「でもさ、せっちゃんが守りたかった――いや、守りたいのって木乃香でしょ?」

「確かに、このちゃん――御嬢様を守りたい とも思っていました。それは否定しません。
 ですが、あの時、私が本当に守りたかったものは……間違いなく、貴方だったんです。
 貴方に怯えて震えていた御嬢様よりも、御嬢様に怯えられて震えていた貴方なんです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……木乃香が浚われた瞬間、刹那の頭に浮かんだのは「正体は晒せない」だった。

 刹那が そう思った背景には、本山に来る前――烏族の里にいた頃に排斥されていたことがある。
 化生の中でも異端視されるのだから、木乃香や那岐には『化け物』と認識されるに違いない。
 温もりを得てしまった刹那は、その温もりを手放すことが怖かった。だから、躊躇ってしまった。

 那岐は躊躇することなく駆け出したと言うのに、刹那は駆け出すことに躊躇ってしまったのだ。

 もしかしたら、正体――出来損ないの烏族の姿は駄目でも、翼だけなら受け入れられたかも知れない。
 そのことに刹那が思い至るのに、那岐が烏族の後を追ってから幾許かの時が掛かり、それは遅きに失した。
 刹那が戸惑っている間に烏族は彼方に消えており、また それを追った那岐の姿も遠く離れていたからだ。
 その時点で、考えるよりも動くべきであったことを漸く悟った刹那は、慌てて烏族と那岐の後を追った。

「………………え?」

 那岐に遅れること数分、ようやく那岐に追い着いた刹那が見たものは、
 血の海に呆然と立ち尽くす那岐と そんな那岐に怯える木乃香の姿だった。
 しかも、周囲には『何らかの死体』の一部と思われる物が散乱している。

 ……何が起こったのか、刹那にはわからなかった。

 だけど、大方の想像は付く。危機は去ったが平穏は消えてしまった と。
 無邪気に微笑む木乃香も、不器用だけど優しく微笑む那岐も もういない。
 残ったのは、那岐に怯える木乃香と そんな木乃香に怯える那岐だけだった。

 状況を打破したくても、何をどうすればいいのか刹那にはわからなかった。

 ただ、木乃香と那岐を見ることしか刹那にはできなかった。
 木乃香に駆け寄り「もう大丈夫」と抱き締めてやることも、
 那岐を抱き締めて「もう大丈夫」と慰めることもできなかった。

 刹那には、ただ見ていることしかできなかったのだ。

 それから どれだけの時間が経ったのか? 気が付けば、異変に気付いた詠春と その部下が駆け付けていた。
 詠春が何やら三人に話し掛けていた気がするが、誰も答えることは無く、時だけが徒に過ぎていった。
 三人から事情を聞くのが無理だ と判断した詠春が「何らかの死体」を焼いていたような気もするが、それだけだ。

 そして、いつの間にか刹那の意識は途絶えており、気が付けば屋敷に寝かされていた。

 事の顛末は ほとんどわからないが、それでも自分が無力だったことはわかった。
 いや、自分が正体の露見を恐れて何もできなかったことが原因だとわかっていた。
 だから、刹那は その記憶を封印することを是とした。己の罪を忘れたかったのだ。

 そう、刹那は自ら望んで「御嬢様が溺れた」と言う記憶に掏り替えてもらったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「貴方を助けられなかったどころか傷付けてしまったことが許せなくて……私は忘れました。
 怯える御嬢様も、震える貴方も、それを作る一助となってしまった自分の罪も、忘れました。
 記憶は封じられた のではなく、心の底にあった『罪を忘れたい』と言う意識で忘れたのです」

 アセナは刹那が己を責める理由を何となく理解した。つまり、守れなかったことよりも忘れたことが許せないのだ。

「ですが、もう忘れようとは思いません。認めたくはありませんが、もう見ない振りはできません。
 ですから、今度こそ、私は貴方のことを守りたいんです。それだけが、今の私の望みなんです。
 真相を思い出したことで崩れそうになっているのに平気な振りをしている貴方を支えたいんです」

「……ありがとう、せっちゃん。そう思ってくれるだけで、オレは充分に守られているよ」

 那岐もナギも、結局は己の罪から逃れた。今のアセナは受け入れることができているが、那岐もナギも逃げてしまった。
 だからこそ、己の罪を認めたうえでそれを告白し更にアセナを守ることを宣言する刹那に、アセナは感謝することしかできない。
 まぁ、若干、刹那は勘違いしている部分もあるが(アセナが崩れそうなのは那岐の記憶のせい ではなく、ナギの記憶のせいだ)。



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Part.06:黄昏時よりも朱色な


「あ、ところで、何で真相を思い出したの? オレみたいに記憶を復活させてもらったの?」

 このままでは刹那ルートに突入してしまう と言う的外れでもないことを妄想をしたアセナは、
 少々 態とらしいが、流れを変えるために話題を転換しよう と気になっていたことを訊ねる。

 まぁ、それなりに関連している話題なので、そこまで無理矢理な話題転換ではないが。

「いえ、私が思い出せたのは偶然です。或いは、必然だったのかも知れませんが」
「いや、よくわからないんだけど? 偶然だけど必然の可能性もあるってこと?」
「まぁ、そうなりますね。物事は受け止め方 次第で如何様にも解釈できますからね」
「ふぅん? 何か煙に巻かれた気がするんだけど……敢えて気にしないで置こうかな?」
「ええ、そうしてください。原因や過程には、大した意味などありませんからね」
「まぁ、そうだね。この場合、大事なのは結果だから原因や過程は忘れて置こう」

 腑に落ちない部分はあるが、根掘り葉掘り聞くことでもないと判断したアセナは敢えて流すことにした。

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 実は、刹那は本山で目が覚めた時(30話参照)には真相を思い出していた。

 その原因は、木乃香がフェイトに浚われたこと と木乃香を助けられなかったこと だろう。
 浚った者が烏族とフェイトで違うし、何もしなかった のと何とかしようとした のも違う。
 だが、木乃香が浚われて刹那が助けられなかったことは同じだったので、思い出したのだ。

 真相を思い出した刹那は「結局、正体を晒しても助けられなかった」と己の無力を嘲笑った。

 とは言え、真相を思い出した刹那にとっては、刹那が弱いのは致し方がないことだとも思えた。
 何故なら、刹那が守りたかったものは木乃香ではなかったのに木乃香だ と思い込んでいたからだ。
 罪から逃れるために本心すらも偽った刹那に誰かを守るだけの強さが得られる訳がないのだ。

 もちろん、木乃香を守りたくない訳ではない。むしろ、守りたいと考えている。

 だが、それはあくまでも「那岐のついで」でしかない。刹那が守りたいのは那岐でしかない。
 那岐の幸せのために木乃香が幸せである必要があったため、木乃香を守りたかったに過ぎない。
 そう、単純に木乃香を守りたかったのではなく、那岐のために木乃香を守りたかったのだ。

 まぁ、そう言った事情を抜きにしても、刹那がフェイトに及ばないのは如何とも し難い事実ではあるが。

 それでも、心構え一つで一矢を報いることができたかも知れないことを考えれば、悔やまれることだろう。
 何故なら、あの時の戦闘の目的は勝利ではなく木乃香の奪還だったのだから、一矢を報いるだけで充分なのだ。
 いや、木乃香の奪還にさえ成功できれば一矢を報いる必要すらない。あの戦いは、そう言った戦いだったのだ。

「……桜咲 刹那、『話』がある。少し、顔を貸せ」

 エヴァが刹那に声を掛けたのは、記憶が復活したことに伴って刹那の意識が徐々に変化していた時だった。
 後になって思えば、エヴァは刹那の意識が変わりつつあることを察知して声を掛けたのかも知れない。
 真相はわからないが、刹那にとっては「揺れていた心に決着を付けるのにベストなタイミング」だった。

 ちなみに、具体的な時期としては、ヘルマン襲撃事件の後(34話と35話の間くらい)のことだ。

「それで、人目を避けての『話』とは、何でしょうか?」
「なに、老婆心ながらの忠告、と言うヤツだよ」
「忠告? エヴァンジェリンさんが私に、ですか?」

 厳重に防諜対策が施されたエヴァの家に招かれた刹那は、これからの『話』に見当も付かない。
 しかも、エヴァから齎された情報は「忠告」なのだから、刹那が訝しむのは無理もないだろう。

「ああ。本山で貴様が『元』に戻った件について、な……」

 だが、そんな刹那の疑問は続けられたエヴァの言葉によって一気に吹き飛ばされた。
 もちろん、解消したのではない。驚愕の余り、疑問を持つどころではなくなったのだ。
 まぁ、誰にも知られたくないことを話題にされたのだから驚愕するのも無理はないが。

「……まさか、『気絶したことで元に戻った』などと妄想している訳ではあるまい?」

 そんな訳はない。そもそも、刹那は本山で目が覚めたら『元』に戻っていたことに疑問を覚えていたのだ。
 まぁ、目覚めた直後は状況把握に忙しかったし、その後は事後処理に忙しかったので気に病む暇もなかったが。
 それでも、事後処理を終えて普段の生活に戻り、落ち着いて よくよく考えてみると疑念が浮かんだのだ。

「と言うことは、貴女が治してくれたのですか?」

 エヴァが身内以外を――しかも、顔見知り程度でしかない刹那を治癒することなど有り得ない想定だ。
 だが、(種は違うが)同じ『人外』と言う立場からの同情として治癒を施してくれたのかも知れない。
 低い可能性であったが、こうして話題に出して来たことも踏まえると、可能性は高いのかも知れない。

「フン、そんな訳がなかろう? 私は治癒が苦手なんだからな」

 刹那の言葉を鼻で笑うかのような態度で軽く切って捨てるエヴァ。
 だが、言い換えれば「治癒が得意ならば治した」と言うことになり、
 それに気付いていない件も含めてスルーするのが刹那の優しさだ。

「…………それでは、誰が?」

 エヴァでなければ誰なのだろう? 妥当なのは西の術者なのだが……それなら、刹那が排斥されている筈だ。
 烏族と人間のハーフ――しかも忌むべき『白』である刹那は、烏族からだけでなく人間からも排斥される。
 亜人の多い魔法世界を経験した者(詠春など)はそうではないが、西の術者の ほとんどは排斥するだろう。

 だが、本山での事後処理の際、刹那は排斥されるどころか慰労された。それ故に、西の術者が治癒をした可能性は極めて低いのだ。

「答えの前に、貴様はヤツが『完全魔法無効化能力者』であることを知っているか?」
「ええ、長から聞きました。ですが、それ と これ の何が関係しているのですか?」
「ん? 存外に鈍いヤツだな。いや、それとも、気付かない振りをしたいだけなのか?」

 不思議そうな顔で訊ね返す刹那に「わかっているのだろう?」と言わんばかりに応えるエヴァ。

「え? い、いや、そんな訳は……那岐さんが私を治した訳なんて…………」
「いいや、その通りだ。ヤツが『能力』を応用して貴様の『変化』を治したんだよ」
「そ、そんな!? 那岐さんに『あの姿』を見られてしまったと言うことですか?!」
「まぁ、『あの姿』が どう言ったものかは知らんが、『正体』なら見られただろうな」
「で、ですが、那岐さんは私を避ける素振りなど一切見せていませんでした!!」

 外れていて欲しい予想をアッサリと肯定された刹那は、焦燥そのものの様子で必死に否定を行う。

 刹那にとっては、「『正体』を見られる = 排斥される」と言う方程式が成り立っているため、
 アセナに『正体』を見られることは避けたく、また排斥されていないことが見られていない証だったのだ。

「馬鹿か、貴様は? それは単にヤツが貴様の正体なぞ気にしていないからだろうが」

 だが、エヴァは そんな刹那の様子など意に介することなく切って捨てる。
 その言葉そのものは刹那を貶しているように受け取れるものだったが、
 その響きには「ヤツは そこまで狭量な男ではないぞ?」と言う信頼があった。

「………………え?」

 刹那もエヴァの真意を感じ取ったのか、その言葉が信じられないかのように呆然とした反応を見せる。
 それは、アセナが刹那の『正体』すらも受け入れてくれたことに対する歓喜と驚愕からなのか、
 それとも、エヴァがアセナに全幅の信頼を置いているように感じられたからなのか は定かではないが。

「貴様が何を どう考えようと貴様の勝手だが、ヤツが貴様を大切に思っていることは忘れるな」

 もちろん、「アセナが刹那の『正体』を見た」ことを刹那に伝えたのはアセナの意図ではない。エヴァの独断だ。
 アセナが「刹那の『正体』をアセナが見たこと を刹那に知られたら。刹那が傷付く」と危惧しているのは明白だ。
 それ故、刹那に事実を伝えるのはアセナの配慮や憂慮を無に帰すことになる と言うことくらい、エヴァもわかっている。
 だが、下手に隠して意図せぬところで刹那にバレ、刹那が自棄になる方がアセナを苦しめる恐れがあったので、
 敢えて「別に口止めをされた訳ではない」と言う屁理屈を捏ねてまでエヴァは刹那に事実を伝えたのだった。

「……私の話は これで終わりだ」

 呆然とし続ける刹那にエヴァは「もう話すことはない」と言いた気に席を立って部屋を出て行く。
 そして、ドアを閉める「パタン」と言う音が響き、その音で我を取り戻したのか、刹那は慌ててエヴァを追う。

「エ、エヴァンジェリンさん!! その……ありがとうございました!!」
「……はて? 私は礼を言われるようなことをした覚えは無いのだが?」
「貴重な時間を割いて忠告をしていただけたことに対する御礼ですよ」
「フン。そんなものは、ヤツを守ると言う『契約』の一環に過ぎんさ」
「それでも、私には貴重な言葉でした。本当 にありがとうございます」

 深々と頭を下げて礼を言う刹那に、エヴァは立ち止まるだけで振り向かずに「勝手にしろ」と答えて去って行く。
 それがエヴァの照れ隠しであることなどモロバレだったが、敢えて気付かない振りをするのが刹那の優しさだった。

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「オレを守ってくれようとする気持ちは嬉しいけど……オレは せっちゃんが傷付く姿を見たくないから、無茶だけはしないで欲しいんだ」

 刹那が真相を思い出した経緯と それにまつわるエヴァとの対話をコッソリ思い出している一方で、
 アセナは「これだけは忘れないで欲しいんだけど」と言う前置きをし、刹那に心からの願いを伝えていた。
 自分が傷付くことには いくらでも耐えられるが、自分のために大切な人が傷付くことは我慢できない、
 そして、だからこそ大切なものを守ろうとする意思そのものを蔑ろにはできないアセナらしい願いだろう。

「……ええ、もちろんです。私はもう二度と貴方を傷付けたくありませんから」

 アセナの言葉で、エヴァの「ヤツが貴様を大切に思っていることは忘れるな」と言う言葉を思い出した刹那は、
 僅かに言葉を詰まらせた後、その頬を朱色に染めながら こぼれるような満面の笑みを形作って答える。

 その頬の朱は夕日に照らされて赤かったのか、それとも紅潮していたからか? ……アセナには判断が付かなかった。


 


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オマケ:メイドの鳴動


「ククククク…… 遂に完成したヨ!! 究極の汎用メイド型決戦兵器ガ!!」

 舞台は変わり、麻帆良の どこかにある研究所にて。そこでは、超が『ちゃちゃお』の開発を行っていた。
 既にメイド型である必要性を感じないネーミングだが、開発の基本コンセプトは依然としてメイドロボである。
 決戦兵器とか銘打たれているが、あくまでも『ちゃちゃお』はメイドロボなのである。兵器はオマケだ。
 どこぞの福音な人造人間を彷彿とさせられるようなニュアンスだが、メイドロボであることは変わらない筈だ。

「クハハハハハ!! さぁ、目覚めるのダ!! 我が最高傑作(愛娘)ヨ!!」

 最高傑作と書いて愛娘と読んでしまうところに痛々しさを感じるが、マッドサイエンティスト的には普通だ。
 むしろ、超は女のコ(しかも美少女に分類される)であるため、そこまでヤバさは感じない。単に痛いだけだ。
 もしも、キモい男が同じセリフを言ったと仮定したら最早ヤバいどころではなく犯罪の匂いすらするだろう。

「……おはようございます、超 鈴音」

 超の呼び掛けに目を覚ました『ちゃちゃお』は、ヤバい感じに高笑いをする超に普通に目覚めの挨拶を行う。
 その声音は平坦で感情と言うモノを感じさせないが、それはAIの問題ではなく超の奇行に引いているだけだ。
 と言うのも、『ちゃちゃお』はツッコミを標準装備しているため、常識人と言うキャラも手に入れているのだ。

 ……アセナの普段の言動(の監視)から得られた情報とアセナからの聞き取り調査(32話参照)から得られた情報を吟味した結果、超は煮詰まった。

 ココネに対する態度を鑑みると幼女が大好きであることは間違いないのだが、性の対象としているか は定かではない。
 それに、あやか や木乃香や刹那を憎からず思っていることを考えると、「幼馴染み」と言う属性も持っている可能性もある。
 更に、厄介事が大嫌いなクセに(何だかんだ言いながらも)厄介事の元凶であるネギを気に掛けていることは見逃せない。
 しかも、聞き取り調査では「基本は完璧だが時々ウッカリをやらかし、普段は従順なのだが偶に気紛れになるキャラ」らしい。
 これらすべての要素(と書いて属性と読む)を備えたキャラとなると……最早 何が何だかわからないキャラにしかならない。

 ……それ故に、超は「もう御先祖のツッコミ役でいいんじゃネ?」と言う結論に至ったのである。

 忠誠心は天元突破状態であるので、厳しいツッコミはあれどもアセナへの忠誠心は揺らぐことはないだろう。
 Мに目覚めつつあるアセナに対して過剰なツッコミをしないか? と言う不安は若干あるが、敢えて気にしない。
 むしろ、『護衛』と言う枠組みから大きく外れた武装を施してしまったことの方が重要な気がしてならない。

「クハ~~ッハッハッハ!! さぁ、『ちゃちゃお』ヨ!! その勇姿を見せ付け、我が科学力を思い知らせるのダ!!」

 だが、超は高笑いでそれらの懸念事項を笑って誤魔化し、意気揚々と『ちゃちゃお』に作戦開始を命じるのだった。
 まぁ、作戦の目的はあくまでも「アセナの護衛」なのにもかかわらず、あきらかに殲滅戦でも命じているような口調だが。
 それでも、『ちゃちゃお』は常識人であるので、アセナの護衛に徹してくれることだろう。それくらいは信じていい筈だ。


 こうして、アセナ専用の護衛メイドロボ『ちゃちゃお』は動き出した。彼女が齎すのは栄光か破滅か? ……それは、誰にもわからない。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。


 今回は「変態司書によるネタバラシと見せ掛けて、せっちゃんタイム」の巻でしたね。

 ええ、もう、せっちゃんタイムとしか言えません。
 エヴァが少し男前を見せてますが、せっちゃんには勝てません。

 ちなみに、変態司書が世界云々について語っていますが、かなり適当です。

 ただ、アルがアセナを那岐に憑依させた と言う設定は当初から考えてました。
 そうでもしないと、アルがアセナを監視及び処分しない理由ができませんからね。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2011/05/27(以後 修正・改訂)


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