第37話:恐らくは これを日常と呼ぶのだろう
Part.00:イントロダクション
今日は5月21日(水)。
アセナが『記憶』を取り戻してから数日の時が過ぎた。
その間に いろいろとあったのだが、それは本文で語ろう。
まぁ、最近シリアスが続いていたので、少しコメディに走るが。
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Part.01:穏やかな午後
「さて、テストと言う苦行も終わったことだし……これから遊びに繰り出そうぜ!!」
フカヒレの言った通り中間テストは終わっており、テスト結果の発表会も終わっている。
更に言うと、さっきの授業で答案の返却も終わり、補修を免れたか否かが明らかになった。
そのため、教室は束の間の自由を謳歌せんとする補修を免れた生徒達の喧騒に彩られている。
そんな教室にあってもフカヒレの声がアセナの耳に届いたのは単なる偶然だろう。そうに違いない。
「って、神蔵堂!! 何『オレ関係ないし』って感じで帰ろうとしてんの!?」
「え? さっきの『遊びに繰り出そう』発言って、オレにも言ってたの?」
「当たり前ジャマイカ!! むしろ、お前がいなければ始まらないって!!」
偶然と言うことにして教室を出ようとしたアセナをフカヒレが慌てて呼び止める。
「ちなみに、のどか とは気不味い状態だから、のどかは呼べないよ?」
「…………違うよ? ゲームのリベンジをしたいって言う理由からだよ?」
「フカヒレは正直だよねぇ。って言うか、嘘は もうちょっとうまく吐こうね?」
「いや、本当だよ? そもそも、本屋ちゃんはあきらめることにした訳だし」
「え? そうなの? って言うか、まさか、茂み云々(外伝その1参照)で?」
「その通り!! そこだけは譲れない、言わばオレのジャスティスなのだよ!!」
「……お前、凄いよ。いや、当然、『ある意味で』と言う枕詞は付くけどさ」
アセナはフカヒレの意図(のどか との橋渡し)が察せられたので直球で断り、断られたフカヒレは必死に弁解をする。
「って言うかさ、最近、神蔵堂って付き合い悪くない?」
「いや、そもそも、最初から付き合いなんてないだろ?」
「ヒドい!! 私とは遊びだったのね!? シャーク泣いちゃう!!」
「うん、まぁ、フカヒレとは遊んだことしかないよね」
「うわーい、鮮やかにスルーされたうえにマジレスされたぜぇい」
「だって事実だし。気持ち悪くてスルーするしかなかったし」
「ヒドい言われ様!! シャーク、本気で泣いちゃう!!」
気を取り直したフカヒレがネタを振って来るが、アセナは爽やかに敬遠した。そんな反応にマジ泣きするフカヒレは、実は寂しがり屋なのだ。
「まぁ、フカヒレは置いておくとして……最近、本当に忙しそうだよね?」
「いろいろと やることが多くてね、多忙な日々を送っているんだよ」
「ふぅん? だから、和泉に対しても素っ気ない態度を取ってるの?」
「いや、何で ここで亜子の話題が出て来るのかな? 意味わかんないよ?」
沈没したフカヒレをサラッと流して、田中が話し掛けて来る。話題が亜子にシフトするのは非常に不思議であるが。
「……本当にわかってないの? わからない振りをするのは やめてよね?」
「まぁ、亜子からのメールをスルーすることもある と言うことは認めよう」
「いや、返事してあげなよ!! それは最低限のマナーと言うものだよ!!」
「返事はしてるよ? 単に『メッセージ』に気付かない振りをしてるだけさ」
メール自体に返事はしている。ただ、そこに込められた『メッセージ』を流しているだけだ(充分ヒドいが)。
「えっと、それは『神蔵堂に気がある』的なメッセージをスルーしてるってこと?」
「まぁ、平たく言うとね。遠回しにデートに誘われたりとかされても困るんだよねぇ」
「な、何て恨めし――羨ましいんだ!! じゃなくて、それは応えてあげるべきだよ!!」
「……そうは言うけど、仮にオレと亜子がデートするとして、田中はそれでいいの?」
「そ、それは、ちょっと、いや、かなりイヤだけど……和泉が悲しむ方がイヤだよ」
苦虫を噛み潰したような表情をしながらも亜子を気遣う田中に、アセナは「田中は『いい奴』だなぁ」と少し頬を綻ばせる。
「まぁ、オレも亜子を悲しませたくはないよ。でも、オレは亜子とは付き合えないから仕方がないんだよ」
「つまり、和泉さんとデートしても付き合えないことで悲しませるからデートすらしない と言うことかい?」
「そうなるね。悲しませないための言動が より悲しませることになるのなら、最初から何もしない方がいいさ」
何やら思うところがあるのか考え込む田中に代わって松平が会話を続ける。実にいい連携プレイだ。
「……それって、近衛さんの婚約者だから付き合えないってことなの?」
「まぁね。婚約者がいる身で誰かと付き合うなんて普通に無理でしょ?」
「そうだね。でも、それは単なる噂に過ぎないんじゃなかったっけ?」
「状況が変わったのさ。単なる可能性から、確定的な未来に……ね」
気不味そうに答えるアセナの言に「なるほどね。そう言う理由があったんだ」と納得を示す松平。
「でもさ、それなら そうと話してくれても よかったんじゃない?」
「……だけど、オレ達って そう言うことを話す関係じゃないだろ?」
「おいおい、冷たいこと言うなよなぁ。オレ達はダチだろ? ダチ」
呆れたように言う松平にアセナは不思議そうな顔をして答える。本気で「ただのクラスメイトだ」と思っているのだ。
だが、そんなアセナの肩を馴れ馴れしく抱きながら「ナニイッテンノ?」と言わんばかりに切り返したフカヒレの言葉に、
思わずアセナは「え?」とマジレスしてしまう。つまり、それだけ「友達として認識されている」ことが意外だったのだ。
とは言え、フカヒレが調子よく言っている可能性もある。そのため、アセナは念のために他のメンツを窺うことを忘れない。
だが、その結果は「当たり前だろ」と言わんばかりに頷く光景だった。そう、みんなアセナを友達だ と認識していたのだ。
「…………ありがとう、みんな」
思わず涙ぐみそうになるのを斜め上を見上げることで回避し、アセナは素直に礼を言う。
経験した月日に差はあるが、精神は肉体に引っ張られるので精神年齢に差はない筈だ。
腹黒くて計算髙いアセナであっても、気の置けない友情と言うものは嬉しいものなのだ。
「だから、本屋ちゃんに代わる美少女を紹介プリーズ!! あ、できれば、パイ○ンの可能性が高いコね!!」
まぁ、最後の最後に感動をブチ壊してくれる辺り、さすがフカヒレ と言うべきだろう。
思わず、脱力して「フカヒレェ……」と呟いてしまったアセナは悪くないに違いない。
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Part.02:オレの妹が こんなに可愛い訳がない?
『Hey!! ミーのリボルバーは天下一品だYO!!』
『HAHAHA!! オレのマシンガンが火を吹くゼ!!』
『Oh!! デモ、甘いYO!! ナパームの餌食YO!!』
突然、「ナニイッテンノ?」と感じたことだと思われるが、これはゲームである。
ちなみに、このゲームのタイトルは「GUNSLINGER GUY(ガンスリンガー・ガイ)」と言い、
怪しい言語を操る似非外国人のガンマン達が熱きガンバトルを繰り広げるゲームである。
格ゲーなのにガンマンしかいない と言う斬新過ぎるスタイルにコアなファンは多いらしい。
『Fu~~~!! ミーは海賊王になる男なのYO~~!!』
マイケルが「YOU WIN」の文字をバックに、最早 何からツッコんでいいのかわからない勝鬨を上げる。
ちなみに、マイケルとはアセナがプレイしていたキャラクターのことで、一人称がミーな金髪青年である。
カウボーイのコスプレをしているのに貴族の様な八の字型の髭をして紅茶を啜っているのが非常に怪しい。
言うまでもないが、対戦に勝利したこと自体は嬉しいアセナだが、内心では「マイケルうぜぇ」と思っている。
「くっそ~~。神蔵堂、お前ちょっと強過ぎだ。もっと手加減しろ、手加減」
そして、例の如く対戦相手はフカヒレであり、負けたフカヒレが吐く台詞も御馴染みのものだ。
ちなみに、フカヒレのプレイしていたキャラクターはスミスと言うマッチョな黒髭オッサンだ。
サングラスにダークスーツと言うマフィアスタイルだが、下半身が海パンのみ なのが意味不明だ。
「まぁ、手加減するのは吝かじゃないけど……態と負けてあげるつもりはないよ?」
フカヒレとアセナがゲーム勝負をした回数は通算で100回はくだらないだろう。
いろいろな種類のゲームで勝負をしたしハンデも付けたが、アセナの全勝だった。
そろそろあきらめるか、いい加減に勝ってもらいたいのがアセナの本音である。
「わぁってる!! 手加減してもらうのは有りだけど、負けてもらうのはオレの正義が許さない!!」
拳を握って熱弁するフカヒレだが、アセナは内心で「どんな正義だよ」と冷ややかにツッコんでいた。
もちろん、口にしないのは優しさだ。決して「ツッコむと面倒臭そうだから」と言う理由からではない。
ところで今更かも知れないが、彼等がいるのは14話でも舞台となった麻帆良市内にあるゲーセンである。
「……お兄様、帰りが遅いので御迎えに上がりました」
フカヒレが熱弁の勢いのまま「今度こそ勝ってやるぜ!!」と再戦を挑もうとしたところでタイミングよく邪魔が入る。
邪魔をした声の主は、腰まで届く程の長さの黒髪をストレートにした大和撫子を思わせる雰囲気を纏った美少女。
ちなみに、大和撫子と言っても木乃香の様に「のほほん」としているのではなく「凛としている」と表現すべきタイプだ。
まぁ、敢えて言うならば、木乃香が茶道や華道ならば、この少女は日舞とか薙刀をイメージさせられる大和撫子なのだ。
「ん? ああ、迎えね。いやぁ、態々 来てもらっちゃって悪いねぇ」
「いえ、御気になさらないでください。買い物のついでですから」
「そうかい? でも、来てもらったことは嬉しいから、ありがとうね」
「……いえ、礼には及びません。当然のことをしたまでですから」
会話だけではわかりづらいかも知れないが、先程この少女に『お兄様』と呼称されたのはアセナだ。
そして、今も少女はアセナと親しげに会話しており、しかもアセナが『お兄様』と言う呼称にツッコんでいない。
果たして、この少女は何者なのだろうか? もちろん、そう疑問に思った人間は その場にもいた。
「ちょおぉぉっと、待とうかぁああ!? って言うか、待てやコラァアア!!」
そう、フカヒレである。気持ちを代弁してくれるような そのツッコミは、実に魂が篭もっている。まさに魂の絶叫だろう。
いつものヘタレ臭を感じさせない その声は、某ヤサイ王子すら髣髴とさせる。「くっそぉおーーーーーっ!!!とか言いそうだ。
「どうした、フカヒレ? 急に大声を出したりして……遂に壊れたのか?」
「いや、『どうした』じゃないから!! って言うか、『遂に』とかヒドくね!?」
「え? 何で そんなにテンション高いの? 意味わかんないんだけど?」
「うるさい!! 黙れ!! この裏切り者!! 貴様にしゃべる権利など無いわ!!」
「いや、裏切り者て……本当に意味わかんないんだけど? 説明してくんない?」
アセナは別に惚けている訳ではない。本当に「フカヒレが何を疑問に思っているのか」わからないのである。
「ほほぉう? それじゃあ、そのコは何だ!? お前は どれだけフラグを立てれば気が済むんだ?!
って言うか、さっき神蔵堂のことを『お兄様』って呼んでいたけど……それは どう言うことだ!?
まさかの『妹ブレイ』か!? リアルで『妹プレイ』を楽しんじゃっているのか?! このリア充め!!」
フカヒレの言う『妹プレイ』が具体的に何を指しているのかは極めて謎だが、妹と言う部分に憤っていることだけはわかる。
「え? いや、でも、茶々緒は普通にオレの妹なんだけど?」
「はぁ? さすがに、そんな明らかな嘘には騙されないぜ?」
「え? いや、だって、このコは『オレの妹』の茶々緒だよ?」
アセナは「何で疑問に思っている訳?」と思いつつ、田中達の方を見て田中達の反応を窺ってみる。
「そうだよ、フカヒレ。神蔵堂の『妹』の茶々緒ちゃんじゃないか?」
「え? いや、そうじゃなくて……何で普通に受け入れてんの!?」
「だって、茶々緒ちゃんは神蔵堂の似ていない『妹さん』じゃないか?」
「えぇ!? いや、神蔵堂って家族がいないんじゃなかったっけ?」
「はぁ? この前、生き別れた『妹』と再会できたんじゃないか?」
「うそーん!! オレ、聞いてないよ!! そんな話マジで初耳だよ!!」
田中・松平・白井はフカヒレの様子に疑問符を浮かべながら「茶々緒がアセナの妹であること」をアッサリと肯定する。
「まぁ、オレも初耳だけど……三人が こう言っているんだから、そうなんじゃね?」
「え? いや、でもさ、何で三人には話してて、オレ達には話してくれてない訳?」
「あ~~、いや、その……悪い。話したつもりで話してなかったみたいだ、ごめん」
「……まぁ、勘違いは誰にもあるからしょうがないけど、これからは気を付けてくれよ?」
「そうだな。過ぎてしまったから今回は しょうがないけど、これからは忘れるなよな?」
「ああ、もちろん、わかってるよ。これからは『二人にも気を付ける』ことにするよ」
宮元も疑問に感じていたようだが、多数決の論理に流されて否定を感じつつも肯定した。
また、アセナが申し訳なさそうに謝罪をしたことで、フカヒレも どうにか納得したようである。
……まぁ、言うまでもないだろうが、「茶々緒がアセナの妹である」と言う認識は『認識阻害』によるものである。
田中達には効いてフカヒレと宮元には効いていないのは、恐らく『魔法抵抗力』の違いだろう。
体質的に『魔法抵抗力』が高い人間もいるので二人がそうだ とも考えられるが、アセナはそう考えない。
アセナは「二人は『魔法関係者』であるから『魔法抵抗力』が高いのだ」と言う想定をしているのだ。
よって、これからは『二人にも注意することにしよう』、アセナは そう決めたのだった。
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Part.03:こうして妹はデッチ上げられた
少し時を遡って、5月18日(日)。例の『御茶会』の翌日のことだった。
「やぁ、急ニ呼び出して悪かたネ」
「いや、暇してたから別にいいよ」
二人の会話から お分かりの通り、アセナは超から呼び出しを受けたため超の研究室を訪れていた。
魔法世界云々の話は定期的に会合を開く予定なので、今回は その関係の呼び出しではないだろう。
だが、呼び出すからには重要な用件である筈だ。それ故に、アセナは面倒だったが応じたのである。
つまり、暇していた云々は社交辞令だ。なので「それよりも用件は?」と単刀直入に話を切り出す。
「実ハ、キミに紹介したいコがいてネェ」
「紹介したいコ? ……誰のこと?」
「それハ会ってからの お楽しみだヨ」
超は含みのある笑顔で語ると「こっちダヨ」とアセナを研究室の奥へ誘う。
超に「会ってからの お楽しみ」と言われたが、気になるものは気になるためアセナは移動しながら思考を繰り広げる。
紹介したい と言うことは、超の関係者だろう。だが、ハカセと龍宮は修学旅行の対策をする時に面識を持っていた。
敢えて超の関係者で未だに正式な面識がない人物を挙げるとすれば、四葉 五月(よつば さつき)くらいだろう。
しかし、五月との顔合わせなら超包子でもできるため、研究室に呼び出す必要はない。つまり、五月ではない筈だ。
「……お初にお目に掛かります、主様」
アレコレ考えながら超を追って研究室の奥へと進んだアセナが目にした人物は、シックなメイド服に身を包んだ長い黒髪の美少女だった。
まぁ、身も蓋もなく説明すると茶々緒な訳だが、この時点では初対面であるためアセナは茶々緒が『誰』だか わかっていない。
ここが超の研究室であること と少女の服装(メイド服)、そして恭しく頭を下げる所作から彼女が超謹製のメイドロボだとはわかったが。
しかし、先程の呼称――まるでアセナを主と認識しているような『主様』は意味がわからない。一体、どう言うことなのだろうか?
「えっと、あるじさま? って、オレが このコの主ってことなの?」
「ああ、そうサ。キミ専用の護衛用メイドロボの『ちゃちゃお』だヨ」
「へ~~、オレ専用の護衛かぁ。しかし、何でメイドロボな訳?」
「じゃあ、逆に訊くガ……メイド以外で『妥当』な立場はあルのカネ?」
「……秘書とか? あ、でも、学生の傍だと違和感ありまくりだね」
「ネ? 学生の傍に侍ル者としてハ秘書よりハ メイドの方が妥当ダロウ?」
護衛としての立場上、常に傍にいる必要がある。だが、護衛としてわかってしまうのは余りよろしくない。
それ故に、常に傍にいても違和感がない立場として超はメイドが妥当だ と考え、メイドロボにしたようである。
アセナには良い代案が思い付かなかったので、「それはそれでどうだろう?」と思いつつも文句が言えないのだ。
「まぁ、男の娘にすルのもアリだ とハ思ったんだがネ?」
「いや、それは全然アリじゃないよ? むしろ、アウトだよ?」
「ふト変な趣味ニ目覚められたらヤバいことに気付いてネェ」
「うわーい。話を聞き流されたうえ物凄い信頼感を感じるぜぇい」
「そんな訳デ、黒髪黒眼の大和撫子タイプ ニしてみたヨ!!」
「え? いや、どんな訳? いや、まぁ、嫌いじゃないけどさ」
ちなみに、『ちゃちゃお』の容姿は茶々丸とは似ていない。あやかと木乃香を足して2で割った感じだ(ある意味でイヤガラセでしかない)。
「ちなみに、キミの好みなどを参考ニした結果、ツッコミキャラになってもらったヨ」
「あれ? オレの好みってツッコミキャラなの? 確かにツッコミは欲しいけどさ?」
「まぁ、キミの好みかどうかハわからないが、キミに欠けているものダ と判断したのサ」
「確かに、ツッコミがいれば嬉しいなぁって思うことは割と――いや、頻繁にあるねぇ」
偶に自分で自分にツッコむのが虚しい時がある。そんな時にツッコんでくれたら確かに嬉しい。
「あ、そう言えば、茶々丸のデータから戦闘技能だけでなく家事技能も引き継いでルからネ?」
「おぉ、それは素直に有り難い。悪意のない茶々丸の料理や御茶を楽しめるのは嬉しい限りだよ」
「それと、『おはよう から おやすみ まで』の生活をサポートできルので『夜』も楽しるヨ?」
「何をサラッと下世話な話をしているのかね、君は? そこまで世話になる予定は無いよ?」
「まぁ、キミが『ちゃちゃお』ニ手を出したらネギ嬢が暴走すルのハ言うまでもないからネェ」
暴走したネギが『何』を『どうする』のか? それは想像することさえ憚られるだろう。具体的にはXXX版にしか行けなくなる。
「まぁ、それはともかくとして……『主様』って呼称は どうかと思うんだけど?」
「ああ、『御主人様』の方がよかたカネ? それとも、『マスター』の方カネ?」
「いや、そうじゃなくてね? これ以上アレな評価が増えるのは避けたいんだけど?」
「なるほど。つまり、『ハーレム野郎は氏ねよやぁ!!』と言う評判ハ欲しくない ト?」
「平たく言うと そうなるね。専用メイドを囲っているとか、リア充も過ぎるでしょう?」
まぁ、専用メイドを囲っているレベルになると「もはやリア充ってレベルじゃねーぞ!!」状態だろうが。
「では、どうすルのかネ? 護衛なのデ キミから遠ざけるのハ意味が無くなるヨ?」
「まぁ、そうだね。護衛が増えるのは喜ばしいことだから護衛自体は嬉しいんだけど……」
「……も、もしかして、今から『執事ロボ』ニ変えて欲しイとか言う気なのカネ?」
「いや、違うよ? 男に侍られてもムサ苦しいだけだからメイドロボで問題ないよ?」
少し頬を染めて腐った思考(嗜好でも可)を展開し始める超。思春期だから仕方がないが、実に困った娘である。
「でハ、何を求めていルのかネ? そもそも、メイドじゃなくてモ女性であるだけデ不味いのでハ?」
「そうだね。つまり、女性でありながらオレの傍にいても問題にならない存在であればい いと思うんだ」
「はて? そんな都合のいい存在がいルのかネ? 婚約者がいル立場でハ難しいのではないかネ?」
「まぁ、婚約者(このちゃん)がいなければ恋人とかって偽れるよね。でも、そうじゃないんだよ」
何故か男をプッシュして来る超に若干ヒきつつも、アセナは冷静に話を進めていく。
「ちゃちゃお には、『オレの妹』になってもらおう と思うんだ」
「……ふむ、なるほど。つまり、『妹プレイ』をしたいワケだネ?」
「いや、違うから。『妹として傍にいてもらう』だけだから」
「わかっているサ。『そう言う』属性も持っていルことくらいハ」
「いや、違うからね? そう言った意味の『妹』じゃないからね?」
アセナの言葉を曲解したまま話を進める超。もちろん、態と曲解しているだけだ。
「だがしかし、キミと ちゃちゃおハ似ても似つかないヨ?」
「……まぁ、確かに、兄妹と言うには無理があるのは認めよう」
「では、どうすル気だネ? 証人や証拠でも『作る』のカネ?」
「いや、こう言う時こそ魔法を利用するべきじゃないかね?」
「魔法? ……なるほど、『認識阻害』を使う と言うことだネ?」
急に話題が元に戻ったことに面食らったアセナだったが、「まぁ、オレの常套手段を使われただけか」と思い直し、普通に対応する。
ここで「人の振りを見て我が振りを直そう」とか思わない辺りが実にアセナらしいだろう(直せと言いたい)。
ちなみに、超が証人や証拠を『作る』と表現したのは、単に『捏造』をマイルドにしただけだ。深い意味はない。
「ああ、その通りさ。エヴァに頼めば一晩でやってくれるだろ?」
エヴァのことを『ジェバンニ』みたいに言うアセナ。ネタか本気かわからない。
まぁ、本当に一晩でやってくれたことに驚いていたのでネタの可能性は高いが、
エヴァをドラ○もん扱いする時があるので、ネタ半分・本気半分なのだろう。
実に どうでもいいことだが、実はドラ○もんが自宅警備員であることは気付いてはいけないことだろう。
「あ、ところで、これからは茶々緒って呼んでもいいかな?」
「ふむ? ……何故かね? 平仮名の方が可愛いと思うのダガ?」
「いや、平仮名だとスペースで括らないと文章に埋もれるでしょ?」
「なるほど。つまり、いちいちスペースで括るのが面倒なのだネ?」
「まぁ、それもあるけど、スペースが多くなると目障りでしょ?」
「……OK、わかたネ。そう言うことなら、茶々緒でOKだヨ」
サラッとメタな会話をできることを鑑みると、アセナと超の間に血の繋がりを感じざるを得ない。
「と言う訳で、これからよろしくね、茶々緒」
「ええ、よろしくお願い致します、お兄様」
「……おにいさま? それ、オレのことかな?」
「ええ。私は『お兄様』の『妹』なのでしょう?」
妹なのだから兄として呼称するのは当然だ。そう、茶々緒は凛とした態度で主張する。
まぁ、「お兄ちゃん」とか「お兄たん」とかよりは、茶々緒のキャラに合ってる呼称だろう。
少し萌が足りない気がしないでもないが、「お兄様」は「お兄様」でいい気がするのがアセナだ。
そこはかとなく、某オコジョ(最近、出番がまったくない)を思い出すが、敢えて気にしない。
「そうだね。じゃあ、改めて……よろしくね、茶々緒」
「ええ、こちらこそ よろしくお願い致します、お兄様」
こうして、茶々緒はアセナの妹としてデッチ上げられたのだった。
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Part.04:刹那に咲く此花を
時間軸を戻して、5月21日。フカヒレ達と別れたアセナと茶々緒はエヴァの家を目指していた。
「実は、エヴァンジェリン様が御呼びだったのです」
「ああ、そうか。それで呼びに来てくれたんだね?」
「……帰りが遅いので、心配したのも本当ですよ?」
「うん、わかってるよ。茶々緒はいいコだってね?」
アセナは穏やかに微笑むと、ナデナデと茶々緒の頭を優しく撫で回す。
「……お兄様。つまり、ナデポ狙いですね? わかります」
「いや、狙ってないよ? 普通に可愛がっただけだよ?」
「勘違いされやすいですから、これからは自重してください」
「なるほど。OKOK、これからは気を付けることにするよ」
まぁ、茶々緒からの厳しいツッコミに慌てて撫でるのをやめるが。
ちなみに、アセナが手を離した時、茶々緒が少し残念そうな表情をしていたが、それはアセナを釣るための振りだろう。
そう、茶々緒のAIが茶々丸のAIを元に組まれたことを知らないアセナは、愛と言う名の忠誠心に気付いていないのだ。
茶々緒の愛情表現がツッコミであることが原因であるが、相変わらずアセナが好意に対して鈍過ぎるのも大きな原因だろう。
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さて、そんなことがあったりしながらエヴァの家へ辿り着いた二人は、それぞれのホスト役に歓待を受けた。
具体的に言うと、アセナはリビングでエヴァと会話をし、茶々緒はキッチンで茶々丸と御茶の準備をする感じだ。
と言う訳で、まずはアセナとエヴァの会話から見てみよう。
「それで? 一体、何の用があってオレを呼び出したのかな?」
「そんなの近衛 木乃香と桜咲 刹那の件に決まっているだろう?」
「まぁ、そうだろうけど……寂しくて呼んだ可能性もあるでしょ?」
「あるか!! って言うか、寂しくとも貴様を呼ぶ訳があるまい!!」
「はいはい、ツンデレ乙。じゃあ、とりあえず、本題に入ろう?」
「ええい!! 私の話を聞け!! って言うか、誰がツンデレだ!!」
アセナがエヴァをからかい、エヴァがそれに過剰反応する。いつも通り、二人は仲がいいようだ。
もちろん、そこに恋愛感情は存在しない。そこにあるのは信頼だ。
アセナはエヴァの魔法知識や戦力を、エヴァはアセナの悪知恵や政治力を、
そう、二人は互いに欠けている部分を信頼し合っているのである。
ところで、エヴァの「近衛 木乃香と桜咲 刹那の件に決まっているだろう?」と言う言葉には以下の様な背景がある。
実はと言うと、超に茶々緒を紹介される前(5月18日)にアセナは木乃香へ魔法関係の説明を行っていたのである。
話の流れでナギの記憶まで蘇らせてもらうことになったために いつの間にか話題の中心が掏り替わってしまったが、
そもそもアセナがアルビレオの元を訪れたのは、木乃香と向き合うために欠けた那岐の記憶を欲したからなので当然だろう。
そして、その結果、木乃香が「西を掌握できるようになったる」と決意するのは、アセナの性格を考慮すると自明のことだろう。
詳しい経緯は省くが、歴史を交えて東西の関係を説明し、木乃香の立場が微妙であることを理解させ、
更に、木乃香の魔力が東方随一であることから立場だけでなく資質でも重視さていることをほのめかし、
敢えて「『東西を繋ぐ架け橋』にも『東西を崩壊させる鍵』にもなれる」と選択肢を限定することで
木乃香に進んで前者を選択させて「オレは東を掌握するから」と西を掌握するように誘導したのである。
……説明と言うか、説得すらも通り越して誘導にしかなっていないが、実にアセナらしいと言えるだろう。
また、魔法の説明(と言う名の誘導)だけでなく、刹那の事情説明もすることで二人の仲を取り持ったことも言うまでもないだろう。
何故なら、二人の仲を取り持つことで「刹那が木乃香を守り易い環境(原作のような環境)」を作りかったからである。
もちろん、刹那の「アセナを守りたい」と言う想いを蔑ろにするつもりはない。単に『別の守り方』をしてもらいたいのだ。
刹那には「直接的にアセナを守る」のではなく「木乃香を守ることによって間接的にアセナを守ってもらいたい」のである。
言い方は悪いが、木乃香はアセナの足枷になり兼ねないため、その木乃香を守ることはアセナを守ることに繋がるからだ。
そう、既にエヴァやタカミチと言う護衛を持つアセナにとっては、アセナを守るよりもアセナの守りたいものを守ってくれた方が嬉しいのだ。
本来なら、アセナの足枷にならないように(あやかと同様に)木乃香とも縁を切ればいいのだが、
木乃香は魔法に関わらざるを得ない立場であるためアセナと縁を切ったところで安全にはならない。
むしろ、アセナが囮になっている現状の様に、アセナと縁を保っている方が安全かも知れないのだ。
故に、アセナは木乃香との縁を切れず、縁を切れないからこそ誰かに守ってもらう必要がある。
それには――木乃香を守ってもらうには、木乃香と仲の良い刹那は適任だった。それだけの話だ。
決して、木乃香と刹那の関係がギクシャクしているのが心苦しかったから ではない。それを気遣う余裕などない。多分、その筈だ。
ちなみに、木乃香と刹那の関係は原作の様に仲睦ましいものに修復されたが、『仮契約』をするには至らなかった。
アセナは このことを「まだ その時ではないからだろう」と判断したが、当然ながら的外れな判断でしかない。
木乃香も刹那も互いを「幼馴染」や「友達」としか認識していない。原作の様に百合的な感情は持っていないのだ。
原作知識からの思い込み と言うよりも、(繰り返しになるが)アセナの鈍さが遺憾なく発揮されているだけである。
「で? 二人に関する話って何かな?」
エヴァをからかうことを堪能し切ったのか、アセナが真剣な面持ちでエヴァに問い掛ける。
その切り換えの早さは評価すべきところなのだが、素直に評価したくないのが実情だ。
エヴァとしては「切り換えるくらいなら、最初から真面目にやれ」と言いたいのだ。
だが、言ったところで無駄なので、エヴァは軽く嘆息するだけで気持ちを切り替える。
「なに、少しばかり『あの二人を どうしたいのか?』が気になってな」
「……まぁ、二人には幸せに暮らして欲しい と思ってはいるけど?」
「そうではない。『魔法世界に連れて行く気なのか?』を訊いてるんだ」
「ああ、それなら、二人には関係ないことだから置いて行く予定だよ」
原作を模倣するつもりはないが、アセナは夏休みを利用して魔法世界に行く予定を立てている。
もちろん、ネギやエヴァのためにサウザンド・マスターを探すのが目的としている……訳がない。
魔法世界の崩壊を『どうにか』するために、メガロメセンブリア元老院と『話し合い』に行くのだ。
言うまでもないだろうが、超に協力するためではない。あくまでもアセナ自身の目的のためだ。
と言うか、アセナが超のためだけに魔法世界を救済する訳がない。超の件はついででしかない。
あくまでも、アセナは己の意思で魔法世界を救済しようとしている。そして、そのためにアセナは大切な人達を遠ざけたのである。
「桜咲 刹那が貴様を守ろう と必死になっていることは知っているな?」
「うん、当然さ。って言うか、そう仕向けたエヴァが それを言うのかい?」
「まぁ、それはともかく……それを知っていて尚 置いて行く と言うのか?」
「……うん。守ろうとしてくれるのは嬉しいんだけど、置いて行くよ」
まったく悪びれた様子のないエヴァに、今度はアセナが軽く嘆息して気持ちを切り換える。
「あぁ、なるほど。つまり、直接的に『守る』のだけが『守る』訳じゃない……と言うことだな」
「その通り。せっちゃんには このちゃんを守ってもらうことでオレを守ってもらいたいんだよ」
「……だが、それだと近衛 木乃香が『貴様の足枷になっている』と気に病むのではないか?」
「確かにね。だけど、このちゃんには このちゃんにしか できないことをやってもらう から大丈夫だよ」
「ほぉう? 小娘が貴様のために魔道具作成をしているように、近衛 木乃香に西を抑えさせる気か?」
口元を歪めて楽しそうに問い掛けるエヴァに対して、アセナは口端を吊り上げて「もちろん」と答える。
これは余談となるが、木乃香も刹那も現在は『別荘』で修行中である(それぞれ魔術と剣術と言う違いはあるが)。
ちなみに、木乃香は西洋魔術をエヴァから習い、東洋魔術を西から派遣された人物(詠春の紹介)に習っている。
また、刹那は『別荘』内では自主トレをしているが、ネギ印の『転移符』で京都へ行って鶴子に師事してもいる。
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さて、視点を変えて、今度は茶々緒と茶々丸の会話を見てみよう。
「……そんなに睨まなくても、キチンと神蔵堂さんを御持て成ししますよ?」
「そうですか? 貴女は お兄様を快く思っていないのではないですか?」
「ええ、神蔵堂さんは不快な存在です。ですが、一応は客人ですからね」
「…………わかりました。貴方のメイドとしてのプライドを信じましょう」
茶々緒は茶々丸を警戒し、茶々丸はそれを巧みに躱わす。メイドの戦場はキッチンなのである。
「ところで、話は変わりますが……私のことを『お姉様』と呼んでくださらないのですか?」
「……茶々丸さんとチャチャゼロさんは、エヴァンジェリンさんの従者同士だからでしょう?」
茶々緒の言う通り、茶々丸がチャチャゼロを『姉』として認識しているのは「エヴァの従者同士」だからだ。
ここで「従者同士なら先輩・後輩関係なんじゃねぇの?」と思われるかも知れないが、
チャチャゼロと茶々丸は ただの従者ではないため、先輩・後輩関係にならないのである。
二人は『ドール契約』による従者であるため、互いを『姉妹』と認識しているのである。
「まぁ、そうですね。ですが、貴女は私の後継機なのでしょう? ならば『姉妹』でもいいのではないですか?」
もちろん、茶々丸は茶々緒に『姉』として認識されたいから言っているのではない。
茶々緒に『姉』と呼ばせることによってアセナを追い込みたいから言っているのである。
つまり、茶々緒の『姉発言』を第三者に聞かせ、アセナと茶々丸の関係を疑わせたいのだ。
当然、その意図に気付いている茶々緒は、アセナを守るために断固として阻止する。
「……それならば、『母』の方が正確ではないでしょうか? お母様?」
「…………確かにそうですね。いやぁ、なかなかやりますねぇ、小娘」
「ええ。新しい と言うことは『進化している』と言うことですからね」
茶々丸も女性である。この年(生後1年くらいだが精神的には乙女)で『母』と認識されるのは快くない。
しかし、茶々緒が茶々丸の『後継機』である以上、茶々丸は茶々緒の「母も同然」なのである。
姉妹機ではなく後継機であると言うことは「世代が違う」と言う証左で、姉妹よりも母娘なのだ。
それらを把握したうえで茶々丸を『母』呼ばわりしている茶々緒は、実にアセナの『妹』らしいだろう。
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再び視点をアセナとエヴァに戻そう。
「……ところで、二人を連れて行かないにしても、説明くらいはすべきだと思うぞ?」
「う~~ん、まぁ、それはオレも同感なんだけどね? でも、薮蛇になりそうじゃん?」
「確かにな。事情を知れば、お前を手伝おうとして首を突っ込んで来そうではあるな」
「でしょ? だから、『ちょっとウェールズに行って来る』って感じでいこうと思う」
アセナの出生や魔法世界については説明したが、魔法世界の崩壊やら その対策やらについてはまったく話していない。
「ほぉ? 婚約者に『別の女との旅行』を宣言するとは……なかなかに剛毅なことだな?」
「いや、別の女って言われても、ねぇ? 一緒に行く女性ってネギとエヴァなんだよ?」
「ほほぉう? 小娘はともかくとしても私を女として扱わないとは……いい度胸だな?」
「あ、いや、その……だってさ、常識的に考えて、身体的に女として見ちゃ不味いだろ?」
不機嫌オーラを立ち上らせるエヴァに「ヤバい、しくじった!!」と感じたアセナは言い訳になっていない言い訳を行う。
「ハッ!! ロリコンのクセに何を常識人ぶっているんだ?」
「ロ、ロリコンちゃうわ!! 幼女も愛でられるだけだわ!!」
「……改めて考えると、貴様は どうしようもない変態だな」
「冷めた目で見ちゃダメ!! 冷静になって考えるのもラメェエ!!」
その結果は散々の一言に尽きる。アセナの心には深いダメージが残ったみたいだ。
「はぁ……とにかく、説明の仕方によっては修羅場になる恐れがあるから気を付けろよ?」
「その点は安心して。世の中には『記憶操作』と言う素晴らしい魔法があるんだから」
「いや、サラッと記憶を弄ろうとするな!! って言うか、それは最終手段だろうが!!」
「まぁ、使わないに越したことはないけどね。でも、使うことも辞さないってことさ」
「……つまり、それだけ二人を魔法世界のゴタゴタに巻き込みたくない訳だな?」
「さてね? オレが言えることは、関係のない人間は巻き込みたくないってことだけだよ」
冗談に混ぜられた微かな本音。アセナは大切な者を守るためならば汚名を被ることも厭わないのである。
「そう言うことならば、貴様の意思を尊重してやる。だが、一つだけ言わせろ」
「ん? もしかして、愛の告白? 残念ながら受け入れることはできないよ?」
「いや、そうではない。『関係ないのは貴様も同じだろう?』と言いたいだけだ」
「……神蔵堂ナギとしては、ね。だけど、『黄昏の御子』としては関係があるよ」
軽口で誤魔化そうとしたアセナだったが、エヴァは気にせずに『嫌な部分』に切り込んで来る。
「確かに そうかも知れんな。だが、貴様には『黄昏の御子』としての記憶などないのだろう?」
「だけど、関係があることを知ってしまったんだ。だから、もう見て見ぬ振りはできないんだよ」
「何故だ? 王族と言っても貴様は道具として扱われていたのだぞ? 義理も糞もないだろう?」
「立場は関係ないよ。単に、ここで見捨てたらオレはオレらしく生きられなくなってしまうだけさ」
「…………はぁ。バカだバカだとは思っていたが、ここまでバカだったとはな。この大バカめ」
アセナの言葉に理解を示したのか、エヴァはバカバカ言いながらも反論をあきらめたようだ。
「ふぅ、わかったよ。二人のことは任せろ。最悪、『別荘』に監禁して置く」
「ありがとう、エヴァ。オレのバカバカし過ぎる我儘に付き合ってくれて」
「フン、貴様を守る契約をしているからな。その延長として仕方なく、だ」
「そうだとしても、感謝させて欲しい。本当に ありがとう、エヴァ……」
照れたエヴァはアセナから視線を外していたので気付かなかったが、アセナは感謝の余り少しだけ涙ぐんでいたらしい。
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Part.05:魔法関係者達の事情
「どうやら、お待たせしてしまったようですね、瀬流彦先生」
エヴァとの話し合いを終えたアセナが訪れたのは、世界樹広場に座す移動屋台――超包子。
敢えて説明すると、超の経営する「早い・安い・旨い」の三拍子が揃った中華専門店だ。
で、アセナのセリフから おわかりの通り、アセナが声を掛けたのはテーブル席に座る瀬流彦だった。
「いや、別に気にしないでいいよ。急に呼び出したのはボクだからね」
「まぁ、それもそうですね。それで、どのような御用件でしょうか?」
「いや、納得するの早過ぎない? もうちょっと社交辞令を続けようよ?」
「ですが、面倒――もとい、時間の無駄ですので本題に入りません?」
「……そうだね。キミと無駄な会話をすると無駄に疲れそうだからねぇ」
アセナの正直過ぎる物言いに苦笑しつつも皮肉で返すと、瀬流彦は軽く咳払いをして『認識阻害』を張る。
「実は、この前の返事をしようと思って呼び出したのさ」
「ああ、受けてくれるんですね。ありがとうございます」
「え? いや、まだ受けるとも何とも言ってないよ?」
「え? 断る場合は態々 呼び出したりしないでしょう?」
「なにそれこわい――じゃなくて、まぁ、その通りだね」
二人で共通認識となっている『この前』とは、アセナが瀬流彦に共犯を持ち掛けた件のことだ(33話参照)。
ちなみに、アセナが瀬流彦の答えを聞く前に判断を下した理由は二人の言葉にある通りだ。
通常の話ならともかく、この話を断るためにアセナを『超の店』に呼び出す訳がないのだ。
まぁ、アセナと超の関係を気付いていないなら話は別だが、気付かない程度なら敵にすらならない。
……どうでもいいが、どうでもいいネタをチョコチョコ挟む辺り、瀬流彦はアセナと同類なのかも知れない。
「あ、ところで、『担当』って変更できるんですか?」
「ん? つまり、ボクにキミを『担当』しろってこと?」
「ええ。そちらの方が『何かと』都合がいいでしょう?」
「まぁ、そうだけど……残念ながら、それは無理だねぇ」
ちなみに、二人の言う『担当』とは、魔法先生が魔法生徒を指導する分担のことを指している。
「そうですかぁ。あ、ちなみに、無理な理由を尋ねてもよろしいですか?」
「構わないよ。ボクが『至らない』って言う、隠す程の理由じゃないから」
「至らない? 別の意味での『魔法使い』に至らない と言うことですか?」
まぁ、言うまでもないだろうが、「別の意味での魔法使い」とは「童貞を30歳まで守り通すこと」を指している。
「いや、そうじゃなくて……まだ人の面倒まで見られないのさ」
「……そう言えば、瀬流彦先生ってまだ教師2年目でしたっけ」
「うん、まだまだ人の面倒を見られる余裕なんてないのが現状さ」
サラッと童貞云々を受け流す瀬流彦に対し、「ど、童貞ちゃうわ!!」と言うリアクションして欲しかったアセナは もう後戻りできないかも知れない。
「それに、麻帆良の規定で『担当』を持てるのは3年目からだし」
「なるほどぉ。それなら、『特例』でもない限り無理ですねぇ」
「……神蔵堂君? 間違っても『特例』を造ろうとしないでね?」
アセナの言葉に「コイツ、『特例』を捏造する気じゃねーだろうな?」と勘繰る瀬流彦は間違っていない。
「ハッハッハ!! 大丈夫ですよ。『オレに』そんな権力はありませんから」
「いや、キミの場合、キミに権力がなくても学園長を唆すでしょ?」
「ハッハッハッハッハ!! 何を言ってるんだが、サッパリわかりませんねぇ」
高らかに笑って誤魔化そうとするアセナに瀬流彦は溜息を吐くことしかできない。どうやら、あきらめることにしたようだ。
「まぁ、それはともかく……しばらくは神多羅木先生で我慢して置きますよ」
「どうやら、グラヒ――ゲフンゲフン、神多羅木先生の指導は厳しいようだねぇ」
「そうですね。厳し過ぎて、最早オレを目の敵にしている気がするくらいですね」
「ああ、あの人の場合、それは期待してるんだよ。いい意味でも悪い意味でも……」
明らかな話題転換だが、気分を変えたい瀬流彦はそれに付き合う。まぁ、何故か瀬流彦は会話の途中で遠い目をし始めるが。
「その反応からすると……もしかして、瀬流彦先生もアレの被害者だったりするんですか?」
「まぁ、あのヒゲ野郎――じゃなくて神多羅木先生には学生時代からイビられてるだけだよ?」
「へー、そーなんですかー。つまり、瀬流彦先生が魔法生徒だった頃からの話ですね?」
さっきから神多羅木に対する呼称が随分ヒドいが、それだけ思うところがあるのだろう。そうアセナは判断し、生暖かく瀬流彦を見守るのだった。
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これは、瀬流彦が まだ中学生だった頃、時間軸にすると10年近く前の話だ。
「瀬流彦、『始動キー』は決めたのか?」
「それが決め兼ねている状態でして……」
魔法を詠唱するうえで重要となる『始動キー』の設定を考案していた瀬流彦に神多羅木が話し掛ける。
ネギやアーニャの場合、メルディアナ魔法学校を卒業した時(10歳程度)には決まっていたため、
それと比べると、中学生になっても まだ決まっていない瀬流彦は遅いと言えば遅いことになる。
だが、『始動キー』は再設定が困難であるため、慎重に決めたい瀬流彦の様な人間は少数派ではない。
それに、高位の魔法でもない限り、練習用の『始動キー』でも問題なく発動するため、
高位の魔法を使う機会がない瀬流彦には、無理して早めに決める必要性がなかったのである。
とは言っても、いつまでも練習用の『始動キー』では格好が付かないので、瀬流彦は決め兼ねていた訳だ。
「そうか。じゃあ、オススメのものがあるんだが?」
「先生のオススメですか? それ、どんなのですか?」
神多羅木の性質の悪い冗談を経験していた瀬流彦だったが、この頃は まだ純粋だった。それ故、素直に訊いてしまったのである。
「『ザーザス ザーザス ナーサタナーダ・ザーザス』と言う呪文さ」
「あ、いいですね、それ。覚えやすいうえに唱えやすいです」
「そうだろう? しかも、由緒正しい呪文だから、効果も期待できるぞ」
「ためになる助言をしていただき、ありがとうございます、先生」
繰り返しになるが、この時の瀬流彦は純粋だった。そのため、元ネタを知らなかったのである。
それに、煮詰まっていたせいもあって、瀬流彦は神多羅木の『助言』を素直に受け入れてしまった。
しかも、あろうことか、神多羅木の教えた呪文をそのまま『始動キー』にしてしまったのである。
ちなみに、瀬流彦が『黒の聖書(元ネタ)』を知ったのは、随分と後になってからのことである。
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「な、何て愉快な――じゃなくて、何て切ないエピソードなんでしょうか!!」
瀬流彦の過去を聞いたアセナは、笑いたいのを必死に堪えて義憤に燃えている振りをする。
いくらアセナでも本人の前で笑うことはできない。腹筋が引き攣っているが、これは怒りの震えだ。
「神蔵堂君? ボクも他人事なら笑うから大きくは言えないけど……ちょっとヒドくない?」
「って言うか、それなら『始動キー』を変えればいいだけですよね? もう笑い話でしょ?」
「それが『始動キー』を変えるには、いろいろと制約があってね。そう易々とは変えられないんだよ」
「え? もしかして、今でも『ザーザス(以下略)』って『始動キー』のままなんですか?」
「ふふふふふ……その件については基本的に無詠唱魔法しか使わないことで察して欲しいなぁ」
光を灯さない瞳で遥か彼方を見ている瀬流彦に「ヤバッ!! 地雷 踏んだ!!」と判断したアセナは速攻で話題を変えることにする。
「え、え~~と、話は変わりますが……ちょっと訊きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」
「うん? ボクの給料かい? 仕事量の割には低いよ? まぁ、使う暇がないから溜まる一方だけど」
「まぁ、それはそれで気になることですけど、訊きたいのは そのことじゃなくて、魔法関係のことです」
「ふぅん? 魔法関係、ねぇ? キミが知らない情報でボクが知っている情報なんて、あるのかなぁ?」
正気を取り戻しつつある瀬流彦だが、いつも以上に毒が篭もった言葉から察するに傷は深いようだ。
「そんなのたくさんありますって。特に、他の魔法生徒のことは全く知りませんし」
「あれ? でも、他の関係者とは修学旅行の時に顔合わせしたんじゃなかったっけ?」
「それは、女子中等部の3-Aに関係のある人だけですよ。他の関係者は基本的に不明です」
「なるほどぉ。教えてもらえないと言うことは、自分で情報を集めろってことだろうねぇ」
「ええ、学園長先生の思惑はそうですね。ですから、『ちょっと訊きたい』んですよ」
「……OK。単に教えるのはアウトだけど、質問に『応える』のならセーフだからねぇ」
普通の魔法生徒なら無条件で教えられるだろうが、アセナの場合は普通ではない。アセナの立場上、自力で情報を収集しなければならないのだ。
「じゃあ、フカヒレと宮元って弐集院先生の担当生徒でいいんですか?」
「……フカヒレ君が鮫島君のことなら、その問いを否定できないなぁ」
「ああ、やっぱり。何か、『らしい』っちゃ『らしい』ですよねぇ」
「まぁ、そうだねぇ。担当関係は師弟関係も兼ねることが多いからね」
アセナには訊きたいことがいろいろあったが、「まずは確認して置きたいことからにしよう」と先程の疑惑を解決することにしたようだ。
「なるほどぉ。あ、ところで、担当する生徒って二人だけなんですか?」
「まぁ、二人であることは多いね。だけど、別に人数は決まってないよ」
「へ~~、そうなんですかぁ。ちなみに、弐集院先生の場合は二人だけですか?」
「ううん、もう一人いるよ。女子中等部の夏目 萌ちゃんってコだったかな?」
ちなみに、夏目 萌(なつめ めぐみ)とは、原作の学園祭で出て来た眼鏡っ娘のことである。今のところ、アセナとの面識はない。
「なるほど、ありがとうございます。ですが、少し喋り過ぎだと思いますよ?」
「おぉっと、ついウッカリ喋り過ぎちゃったね? でも、真偽は確かめてね?」
「ええ、わかっていますよ。その必要はないでしょうけど、一応は確かめて置きます」
瀬流彦が虚偽の情報をアセナに教えるメリットはない。だが、人の話を鵜呑みにすることは危うい。何事も確認は重要だ。
「で、次は刀子先生のことなんですけど……担当生徒って、せっちゃん とタツミーですよね?」
「キミの言う『せっちゃん』が桜咲君のことで『タツミー』が龍宮君のことなら、頷くしかないね」
「ああ、やっぱり。戦士系の生徒は戦士系の先生が担当している気がしたんですよねぇ」
「さっきも言ったけど、師弟関係も兼ねるからね。基本的には似た傾向で担当が組まれるのさ」
「……ですが、チームとして考えると、似たり寄ったりのメンバーって不味くないですか?」
「一理ある意見だけど、有事の際に生徒の手を借りるのは稀なことだから、特に問題はないよ」
「ふむ、基本的には先生同士でチームを組んで事に当たるんですね? なら、心配は無用ですねぇ」
警備などは担当区分でチームを組んでいるが、それは簡単な警邏でしかない。
緊急事態でもない限り、有事の際は先生が非常召集されて事に当たるのである。
その意味では、原作で起きた学園祭での超の事件は異例中の異例だったのだろう。
「あ、そう言えば、神多羅木先生の担当生徒なんですけど、オレ以外っているんですか?」
「さぁ? あの人、秘密主義と言う名のハードボイルドを気取る痛い中年だからわかんないや」
「実に悪意しか感じない説明ですが、そのことについては激しく同意して置きます……」
瀬流彦の説明に少し引くアセナだが、瀬流彦の気持ちもわかるので同意して置く。
「あれ、絶対にマフィアとか意識してるよね? って言うか、教師ってアレでいいのかなぁ?」
「まぁ、それはタカミチにも言えますけど。って言うか、魔法先生って教職をナメてません?」
「そうそう。その分、一般の先生達に皺寄せが行っている と言う悲しい現実に気付いてないし」
「そんなんで『世のため人のために頑張ってます』とか言われても白けるだけですよねぇ?」
「まったく以て その通りだよ。そんなことを言うなら、まずは教師をやめろ と言いたいね」
「そうですよ。適当な指導をされる生徒としては、ちゃんとした教師が欲しいですからね」
二人とも普段の生活で思うところがあるのだろう。二人の愚痴は止まらない。
「そもそも!! 魔法使いと教師を両立させられる とか勘違いしちゃっていることが問題なんだよ!!」
「しかも、給料は教師分しか出ないんですね? そりゃあ、モチベーションも下がりますよねぇ」
「せめて、危険手当と時間外労働手当をくれ と言いたい。休日返上して警備とかマジ意味わかんない」
「麻帆良には普通の警備員もいますからねぇ。彼等の人件費を当てて欲しいところですよねぇ」
「その通り!! と、言う訳で、ぬらりひょん――じゃなくて学園長に直談判してくれないかな?」
「わかり――じゃなくて、そう言うのは他の魔法先生と共闘してストライキでもしてくださいよ」
だが、いつの間にか話の流れが変わっており、アセナは危なく勢いで頷くところだった。瀬流彦は なかなかの策士であるようだ。
「残念ながら魔法使いに労働基準法は適用されないんだ。って言うか、魔法使いって職業じゃないんだ」
「まぁ、確かに職業ではないですよね。と言うことは、資格ですか? それとも、生き様ですか?」
「ここで『もちろん、生き様さ』とか言えたら格好いいんだろうけど……あきらかに資格だねぇ」
「ですよねぇ。って言うか、そんな瀬流彦先生だからこそ、オレは味方に引き込んだんですけどね」
「ありがとう。って言うか、直談判の件は流れたのかな? けっこう、切実な問題なんだけど?」
アセナは話の流れを変えて誤魔化そうとしたのだが、瀬流彦は流されてくれなかった。目がマジなので、本当に切実なのだろう。
「つまり、彼女を作る暇もなくてマジで『魔法使い』になりそうでヤバいんですね? ……わかります」
「ど、童貞ちゃうわ!! ……って言えば満足かい? 満足したなら、直談判の話に戻りたいんだけど?」
「……地味に心が抉られたんで、続けます。つまり、風俗に行くのに お金が欲しい訳ですね?」
「引っ張るねぇ。って言うか、マジレスすると、両方の仕事のせいで そんな暇すらないんだけど?」
「それは大変ですね。そんな多忙な先生には、『強く生きてください』と言う言葉を お送りします」
「え? 散々 引っ張った挙句、最終的には『それ』で まとめられちゃうの? ちょっとヒドくない?」
アセナは別に直談判をしたくない訳ではないのだが、今は近右衛門に借りを作りたくないので我慢してもらいたいのである。
「さて、話題を変えて……わかりきっていることですけど、タカミチの担当ってネギですよね?」
「うわぁ、本当に話題を変えて来たよ。ボクの望みを切り捨てて自分の望みを押し付けて来たよ」
「さて、話題を変えて……わかりきっていることですけど、タカミチの担当ってネギですよね?」
「何て鮮やかなスルーなんだ!! って言うか、わかりきっているなら訊かなくてもいいじゃん!!」
「さて、話題を変えて……わかりきっていることですけど、タカミチの担当ってネギですよね?」
「え? あれ? もしかして、無限ループ? お気に召す返事をしないと終わらないってオチ?」
「さて、話題を変えて……わかりきっていることですけど、タカミチの担当ってネギですよね?」
「…………うん、そうだよ。って言うか、高畑先生を そう呼べるのはキミとエヴァたんだけだねぇ」
ループを繰り返すたびに不機嫌になっていくアセナの様子に耐え切れなくなった瀬流彦は、四度目で遂に折れた。
「まぁ、そう言う関係ですからねぇ。って言うか、エヴァ『たん』と言う呼称は どうかと思いますよ?」
「べ、別にいいじゃないか!! 『金髪ツンデレ幼女は正義だ!!』と思うのは、ボクだけじゃない筈だ!!」
「確かに仰る通りです。ですが、必ずしも金髪ツンデレである必要はありません。幼女は それだけで正義です」
「そうだね、金髪もツンデレも重要なファクターであるけれど、幼女と言うファクターは不可欠だね」
「わかっていただけて何よりです。まぁ、そうは言っても、ココネはオレの妹ですから渡しませんが」
「フッ、そんなのわかっているさ。エキゾチックな雰囲気もイイけど、エヴァたんには勝てないしね」
もしかしたら、瀬流彦は理性と言う大切なものも折ってしまったのかも知れない。アセナと同レベルの紳士振りを発揮してしまったのだから。
「……見た目だけなら甲乙付け難いですが、エヴァはババァですからねぇ。ココネには勝てませんよ?」
「ほぉう? キミは合法ロリと言う人類の見果てぬ夢が実現した奇跡を理解していないようだねぇ?」
「へぇ? 先生こそ表面に騙されると言う愚行を犯していることに気が付いていないようですねぇ?」
「ハッ!! エヴァたんの可愛さに気付けないなんて……キミこそ表面しか見ていないんじゃないかい?」
「ハッハッハ!! ツンデレなので偶に見せるデレは御褒美ですが、それでもココネのクーデレには勝てませんよ?」
「クックック!! デレを御褒美とは……青いねぇ!! ボクのような紳士にはツンこそが御褒美だと言うのに!!」
傍から見れば「お前ら同じ穴の狢だよ」と言うべきところだが、彼等の中では何かが違うみたいだ。
「あ、すいません。イキナリ素に戻るのは卑怯かも知れませんが……ちょっと冷静になりませんか?」
「ちょ、ちょっと!! イキナリ素に戻らないでよ!! ボクが物凄く可哀相な人に見えちゃうじゃないか?」
「ですから、前以て謝ったじゃないですか。って言うか、『可哀相』なのは事実じゃないですか?」
「キミはナチュラルに失礼だよねぇ。って言うか、それを言うならキミも同レベルで『可哀相』だよ?」
「まぁ、それは自覚してますんで、最早 気になりませんよ。むしろ、『それがどうした?』って感じです」
「…………キミって変態な大物なのか、それとも単なる変態なのか、非常に判断に迷う人間だよねぇ」
少なくとも変態であることは間違いないため、瀬流彦の表現は間違っていないだろう。
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Part.06:裕奈の策略
「もぉ、遅いぞ、ナギっち!!」
サブタイトルと先のセリフでお分かりだろうが、アセナに話し掛けて来たのは元気の代名詞、裕奈である。
ちなみに、あの後はアセナと瀬流彦が変態トークを心行くまで繰り広げただけなので特筆すべきことはない。
で、アセナが瀬流彦と別れて帰宅したら、何故か男子寮の入口で裕奈が待ち構えていた……と言う訳である。
「……何か用があるのかな、ゆーな?」
別に約束をした訳でもないのに御立腹な裕奈に、アセナは襲い来る頭痛に耐えながら訊ねる。
内心では「勝手に待ってたのは そっちじゃん」と思っているが、決して表には見せない。
実に大人な対応だが、そんな対応ばかりしているから相手に勘違いされることに気付いていない。
「もちろん!! って言うか、用がなきゃ待ち伏せなんてしないっしょ?」
「って言うか、待ち伏せそのものをしないでもらいたいんだけど?」
あっけらかんと「当たり前でしょ?」と言わんばかりに答える裕奈に、苦笑を浮かべてツッコむことしかできないアセナ。
「で、用って言うのはね?」
「うん、サラッと流されたね」
「で、用って言うのはね?」
「……OK。それで、用件は?」
無限ループは自分でもよくやるので このままでは話が進まないと判断し、アセナは素直に折れる。
「うん、用って言うのはね、実は亜子のことでね――って言っても、別に亜子に頼まれた訳じゃないよ?
これはあくまでも私の独断だからね? そこら辺を勘違いして亜子を誤解しちゃダメだからね?
って、そうじゃなくて……え~~と、とにかく!! 最近、亜子に冷たいんじゃないかなって思うんだけど?
これって、単なる私の勘違い? それとも私の勘違いなんかじゃなくて、本当に冷たくしてるの?
もし、冷たくしてるんだったら……納得の行く説明をしてくれないと、下着をはだけて大声出すわよ?」
何気に酷いことを言っている裕奈だが、亜子のことを心配しているのがわかるので責める程でもないだろう。
「まぁ、亜子に冷たくしている可能性は否めないかな?」
「へぇ、自覚はしてるんだ? じゃあ、その理由は何よ?」
「端的に言うと『このちゃんと正式に婚約したから』だね」
「そっかぁ。木乃香と正式に婚約したのか――って、マジ!?」
「うん、大マジ。修学旅行の時にね、正式に決まったんだ」
自分に非があることを認めているため、アセナは下手な言い訳などせずに直球で理由を説明する。
まぁ、魔法関係を伏せているので直球とは言えないが、魔法関係を説明する訳にはいかない。
原作の様に裕奈達を魔法世界に巻き込むことはないだろうから、余計に魔法関係は話せない。
とは言っても、魔法関係を話したところでアセナが亜子と疎遠になろうとしている理由は説明できないが。
「そ、そー言う大事なことは もっと早く言いなさいよ!!」
「いや、ゆーなに言わなきゃいけない義務はないんじゃない?」
「私にじゃなくて亜子によ!! その意味くらいわかるでしょ!!」
「……でも、亜子からハッキリと言われた訳でもないんだよ?」
亜子から好意を受けていることは間違いない。だが、だからと言って「その好意は受け取れない」とか言うのもおかしいだろう。
「そ、それなら、私を通して伝えるようにすればいいじゃん!!」
「まぁ、そうだね。その意味では、オレが悪かったね。ごめん」
「え? いや、その……って言うか、謝られても困るんだけど?」
「いや、配慮が足りなかったのは事実でしょ? だから謝らせて」
アセナの素直な態度が想定外だったのか、裕奈はスッカリ怒気が抜かれてしまったようだ。
「……まぁ、そう言うことなら、その謝罪を受け取ることにするよ。
あ、でも、だからと言って、さっきのことを許す訳じゃないよ?
キッチリと亜子に謝ってからでないとナギっちを許さないからね?」
とは言え、簡単に許す訳には行かない。理由はどうあれ、アセナの態度が亜子を傷付けたのは事実だからだ。
「うん、わかっているよ。だから、早速――」
「――待って!! 学園祭までは待ってあげて!!」
「え? 何で? こう言うのは早い方が良くない?」
早速、電話をして亜子に事情を説明して謝罪しようとしたアセナだったが、裕奈が それを阻む。
「せめて、学園祭で思い出を作ってあげてからにして欲しいんだ」
「う~~ん、ヘタに優しくしない方が あきらめやすいんじゃない?」
「それはナギっちの考え方でしょ? 亜子には思い出が必要なの!!」
「……まぁ、オレには乙女心などわかんないから、ゆーなに従うよ」
裕奈の言葉に首を捻るアセナだったが「私が言うんだから間違いない!!」と豪語する裕奈に従うことにしたようだ。
「じゃあ、知ってるだろうけど……亜子、ライブに出演する予定なのよね?
だから、そのライヴに行ってあげて、で、ライヴ後にデートしてあげてね?
あ、思い出を作るためだからってエッチなことをしたらマジで殺すからね?」
大人しく従うアセナに畳み掛ける様に言葉を連ね、更にライヴのチケット渡す裕奈。
チケットを準備している辺り実に準備がいいと言えるが、本来の用件は「こっち」だったのだろう。
恐らくアセナが亜子に冷たいことを責めて、それを理由にライヴに行かせる予定だったに違いにない。
その予定は脆くも崩れ去ったが、それを『思い出作り』に利用しよう と切り換える辺りは さすがだ。
残念なことに、その内心で「ええい!! 世界樹伝説を信じるしかない!!」とか考えてはいるが。
そう、亜子に思い出を作ってもらいたいのも事実なのだが、アセナとくっ付けるのをあきらめていないのも事実なのである。
ライヴ後のデートでうまいこと世界樹の付近に誘い込んで告る……これが、木乃香との婚約を聞いてから組み上げた予定だ。
まぁ、最初からライヴ後のデートは考えていたし、雰囲気がよければ告らせる気でいたので、予定を一部変更しただけだが。
それでも、絶望的な状況にある中で僅かな希望(怪しいことこのうえない世界樹伝説)を思い出し利用するのは さすがだろう。
ただ、残念なことに(アセナの施す処置によって)僅かな希望である世界樹伝説は潰えるため、その策略は無駄に終わるのだが。
ちなみに、何故に裕奈がこ こまでアセナと亜子をくっ付けようと努力しているのか と言うと……
亜子とくっ付いてくれなければ裕奈がアセナをあきらめられないから なのだが、それは永遠の秘密だ。
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オマケ:正当な褒賞
「ふふふふふ♪ 早く土曜日にならないかなぁ♪」
麻帆良学園内にある女子寮の一室にて、ちょっと――いや、かなり不気味な空気を纏う少女がいた。
いや、その少女は少女と言うには語弊があるかも知れない。むしろ、幼女と言うべきかも知れない。
ここまで語れば、それが誰かなど語る必要はないだろう。そうだ、最近 出番のなかったネギである。
「えへへへへへ♪ たっのしみだなぁ♪」
何故にネギがここまで『ご機嫌』なのかと言うと、土曜日にアセナとデートすることになっているからである。
アセナの英雄的行為に乾杯をしたくなるが、これには深い――とまでは言い切れない程度の深さの訳がある。
実は、アセナはネギに『魔力蓄電池』を依頼しており、その代償としてデートを求められたので応じたのである。
間違ってもアセナが自らネギをデートに誘った訳ではない(仮にアセナが自らデートに誘うとしたらココネだろう)。
「アレの準備はバッチリだし……後は土曜日になるだけだね♪」
ちなみに、ネギの言うアレとは、断じて『いかがわしいもの』ではない。そう思える空気はあるが、決して違う。
むしろ、健全な男女関係を保つのに必要なアイテムだ。これがないとアセナが変態扱いされてしまうような代物だ。
いや、既にアセナは変態だが、それは内面を知ってるから そう思えるだけで、外見だけではアセナは変態に見えない。
だが、これがないとアセナは見ただけで変態だ と断じられてしまうため、これはアセナには必要なものなのだった。
……まぁ、身も蓋もなく明かすと、単なる『年齢詐称薬』でしかないのだが。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。
今回は「コメディに走ったつもりだったけど、エヴァや裕奈との会話で少しシリアスっぽくなった」の巻でした。
って言うか、何故かエヴァがヒロインっぽくなってしまうのが、謎です。
エヴァの位置付けは「アセナが唯一 無条件で頼れる女性」なんですけどねぇ。
言わば母親的なポジションなんで、現時点では恋愛関係にするつもりはありません。
さて、茶々緒については、予想通りだったでしょうか? それとも予想外だったでしょうか?
茶々丸みたいにアセナを追い詰めるキャラでもよかったんですけど、
それだとアセナのキャパシティとボクのキャパシティを越えてしまうので、
茶々緒はツッコミ役(時々ボケもあるよ)になってもらいました。
ちなみに、エヴァが掛けたのに『認識阻害』がフカヒレ達に効かなかったのは、
関係者を割り出すために敢えて『関係者には効かない程度』に抑えてもらったからです。
……ところで、瀬流彦が変態紳士になった件ですが、作品の性質上 必然だと思っています。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2011/07/08(以後 修正・改訂)