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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:552b4601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/30 20:54
第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?



Part.00:イントロダクション


 今日は3月1日(土)。今日、ナギは図書館島に来ていた。

 いや、態々 説明したが、別にナギが図書館島にいること自体は大した問題ではない。
 ナギは本の虫とは言えないが かなりの本好きであるため、よく図書館島に通っている。
 そのせいで のどかや夕映とエンカウントしてしまうが、それでも本の魅力には勝てないらしい。

 ……それでは、何が問題なのか? それは、ナギが図書館島にいる理由である。

 前回のPart.04でナギが考えていた様に、ホワイトデーの資金を捻出するためにナギは今頃バイトに精を出している予定だった。
 まぁ、『とある事情』で平日のバイトを避けたいナギは(趣味ではないが)ガテン系のバイトなら土日だけでも何とかなるため、
 バレンタイン直後から土日は丸々ガテン系のバイトに費やして来た――のだが、何故か土曜日である今日 図書館島にいるのである。

 では、何故バイトに精を出している筈のナギが図書館島にいるのであろうか? ……その答えは、当然ながら『ネギ』であった。



************************************************************



Part.01:こうしてナギは巻き込まれた


「ナギさん!! こ、今週の土曜日、お暇ですか!?」

 それは、2月26日(水)のことだった。ナギの帰り道にいつも通りネギが現れ、いつもと違ったことを訊ねて来たのである。
 この時「すわっ!? まさかデートに誘うまで思い込んでしまっていたのか?!」と戦慄を覚えたナギは間違っていないと思う。
 まぁ、普通なら自意識過剰な気がしないでもないが、ネギのナギへの傾倒振りを考えると至極真っ当な想定に思えるのだ。

「悪いけど、バイトしなきゃいけないから忙しいんだよねぇ」

 だから、無難な理由で断ったナギは間違っていないだろう(何気に本当の理由だし)。
 ネギが「そ、そうですか……」と物凄くションボリしているが、ナギは間違っていない筈だ。
 傍から見たら幼女をイジめている様にしか見えないが、ナギは間違っていないに違いない。

「……何か用があったの?」

 間違ってはいないが、フォローのために訊いてあげるくらいはして置くべきだろう。
 ナギが悪い訳ではないのだが、このままネギを放置するとナギが悪いことになるからだ。
 何故か、悲しそうな女性の傍に男がいたら その男が悪いことになってしまうのである。

「実は、図書館島に行かなければいけない用事ができまして……その、できれば お付き合い いただきたかっただけです……」

 ネギの言葉を聞いたナギの感想は「時期的に考えると図書館島での勉強合宿イベントですね、わかります」だった。
 現在は学年末テストの2週間ほど前だ。時期的に原作よりも早い気はするが、そんなものは誤差の範囲内だろう。
 まぁ、ネギは担任ではないので「2-A最下位脱出課題」なんて出ていない可能性もあるが、出ている可能性もある。
 と言うことは、ただでさえ危険な図書館島の地下でも より危険な深層に潜ることになるのでネギ一人では危険である。
 だが、生憎とナギには予定があるので同行できない(予定がなくても同行しなかった可能性が高いが、忘れて置こう)。

「そっか。じゃあ、代わりと言ってはアレだけど……ルームメイトのコとかに頼んだら どうかな?」

 ネギのルームメイトは、ナギ曰く「体力バカの明日菜と図書館探検部の木乃香」なので、とても心強い。
 情けない話だが、ルームメイトの女子を頼った方がナギを頼るよりも頼もしい気がしないでもないくらいだ。
 那岐の身体スペックは かなり高いのだが……残念ながらナギには図書館島を探索するスキルなどないのだ。

「いえ、コノカさん達には既に頼んであります。そのうえで、ナギさんにも来て欲しかったんです」

 これまでのネギの傾向から真っ先にナギを頼る と思っていたが、どうやら それはナギの思い込みだったらしい。
 キチンと友人関係を作っているようで一安心だ。だから、心の中で僅かに広がった寂しさは気のせいに違いない。
 ナギはネギの父でも兄でもない。ましてや恋人でもない。真っ先に頼られないことに寂しさを感じる筈がないのだ。

「そっか。ごめんね、力になれなくて」

 断った当初は強い罪悪感があったが、理由や状況を理解できた今となっては「ちょっと悪いことをしたかな?」くらいだ。
 と言うか、どうしてもナギが同行しなければいけない状況でもないので、ナギは当初の予定通り この話を断ることにする。
 まぁ、言い換えると、木乃香達が同行できない場合はナギは同行するのも吝かではなかった と言う訳だ。ネギには秘密だが。

「いえ、いいんです。ナギさんも お忙しいんですもんね……」

 明らかにネギは残念そうだったが、食い下がることなく納得する。どうやら、ナギの都合を優先する気持ちがネギにもあるようだ。
 ナギとしては「聞き分けのいいコ」は好きなので、今回の埋め合わせとして後で何処かに付き合ってあげよう と言う気分になる。
 もしかしたら、ネギはそれを狙って食い下がらなかったのかも知れないが、そんな邪推はやめよう。少なくともナギは邪推していない。

 このような流れで、ナギの図書館島行きの話は終わった筈なのだが……そうは問屋が卸さない(近右衛門が許さない)のは言うまでもない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「やぁ、那岐君。ちょっといいかい?」

 そして、ナギがネギの誘いを断った翌日、2月27日(木)の昼休みのことだった。唐突にタカミチがナギを尋ねて来たのである。
 ちなみに、場所は食堂だ。周囲からの視線はキツいが、教室に来られるよりはマシだったろう。それなりに気遣ったようだ。
 ところで、教師にしては態度がフレンドリー過ぎるのは、相手が被保護者であるナギだからだろうか? それとも別の狙いだろうか?

「何か御用でしょうか? タカ――畑先生」

 そのフレンドリーさに釣られて思わず呼び捨てにしそうになったナギだが、慌てて高畑先生と言い換える。
 非常に どうでもいいことだが、なんと「タカミチ」でも「高畑」でも途中まで『タカ』は一緒なのである。
 いや、今更と言うか、本当にどうでもいいことなのだが……気付いてしまったので報告したくなったのだ。

「まぁ、大した用件ではないんだけどね?」

 そんなことを言いながら、特に了承も得ずにナギの対面の席に腰を下ろすタカミチ。
 そのことに少々イラッと来るナギだが、話に水を差す訳にはいかないので我慢する。
 言い出し難そうにしているタカミチの雰囲気から察するに、恐らくバイトの件だろう。

「……もしかして、バイトの件ですか?」

 麻帆良の情報網は異常だ。ただでさえ科学技術が進んでいる都市なのに、トドメと言わんばかりに魔法まで使って情報を管理している。
 それ故にナギはバイトがバレないように偽名を使ってバイトをしていたのだが、どうやら『網』に引っ掛かってしまったようだ。
 麻帆良はバイトが禁止されている訳ではないのだが……特待生と言う立場のナギは「できればやるな」と弱い禁止をされているのだ。

(あ~~あ、こんなことなら『あっち』のバイトにして置けばよかったなぁ。『あっち』は危険が伴うけど、学校側に露見する可能性は低いからね)

 タカミチは学園広域指導員と言う立場にある。この『学園広域』とは「学園の敷地内すべて」ではなく「学園に関係するすべて」を指している。
 つまり、タカミチの指導範囲は学園の敷地外にも及ぶ と言うことであり、ナギが敷地外でバイトしていたことも指導の対象になるのである。
 と言うか、指導員であると共にナギの保護者であるタカミチは、本人の意思に拘わらずナギに「厳重注意」を言い渡さねばならない立場なのだ。

「あぁ、いや、その……まぁ、そう言うことになるのかな?」

 しかし、ナギの予想とは裏腹に、タカミチは「注意しに来た」と言う態度ではなかった。
 ナギは「バイトのことを注意しに来たんですか?」と言うニュアンスで訊ねたのに、
 文章そのものの肯定ではなく、バイトと言う単語のみを肯定しているようにしか見えない。

「……先生? 『そう言うこと』って どう言うことですか?」

 タカミチは態度こそ緩いが、別に抜けている訳ではない。ナギの言わんとしたことを察しなかった訳が無いのだ。
 つまり、同じ「バイトに関する話題」であっても、タカミチが話したいのは「注意とは別の種類の話題」なのだろう。
 そう判断したナギは、悟らせない程度に警戒をして話題に切り込んでいく。弛緩した空気に流されてはいけない。

「え? いや、あの、その、ね? 『ちょっとしたバイト』を頼まれてくれないかなぁ、と思ってね?」

 タカミチは『ちょっとしたバイト』と言っているが、どう考えても『かなり厄介なこと』にしか聞こえない。
 直感的にそう感じたナギは「さて、どうやって断ろうかな?」とか算段を立てつつ話を進めていくことにする。

「ちょっとしたバイト、ですか? ちなみに、どんなバイトなんです?」
「いや、まぁ、何て言うか……『ちょっとした お使い』って感じかな?」
「そうですか。それで、具体的には どんな『お使い』なんでしょうか?」
「……実は、ちょっとばかり図書館島の地下に潜って来てもらいたいんだ」
「なるほど。潜る階層によっては『ちょっとした お使い』とも言えますね」

 図書館島と言う単語にネギを彷彿とさせられたナギは、物凄く嫌な予感を抱きながら全力で回避する方向に話を持っていく。

「それで、目的地は何処ですか? もちろん、地下3階より上ですよね?」
「い、いや、実はと言うと、学園長が深部にある本を必要としているんだ」
「そうですか……確か、中学生が入っていいのは地下3階までですよね?」
「だ、大丈夫だよ。学園長からの依頼だからね、進入許可は降りているよ」
「へぇ、そうなんですか。ところで、学園長は何で自分で行かないんです?」
「何でも、最近 持病のギックリ腰がヒドいらしくてね、自力じゃ無理らしい」

 やはり、学園長絡みか。と言うか、持病のギックリ腰って…… などなど、いろいろと文句を言いたいが、今は断る方向に持っていくのが至上命題だ。

「じゃあ、何でオレなんですか? 司書さんにでも頼めばいいんじゃないでしょうか?」
「尤もな意見だね。でも、深部はちょっと特殊でね。一般の司書も立ち入り禁止なんだよ」
「そうですか。じゃあ、司書さんに進入許可を出せばいいだけの話ではないでしょうか?」
「……その通りだね。だけど、そうもいかない理由があるんだ。大人の事情ってヤツでね」
「そうなんですか。ですが、それなら むしろ、オレに進入許可を出す方が問題なのでは?」
「いいや、それは問題ない。これも大人の事情でね。キミには許可を出しても問題ないのさ」

 大人の事情とは魔法関係なのだろうか? それとも、学園長の思惑だろうか? どう考えても後者なので、断るのは難しいかも知れない。

「司書さんは駄目でオレならいい と言うことはわかりましたが……なら、高畑先生では駄目なんですか?」
「……残念ながら、今回に限ってはボクも駄目なんだよ。納得はできないだろうけど、頼まれてくれないかな?」
「大人の事情ってヤツですか……ところで、深部って かなり危険な罠が仕掛けられているんですよね?」
「すまないね。あ、罠については大丈夫だよ。ちゃんと地図と道具を用意するから危険は『それほど』ないよ」
「そうですかぁ。あ、ちなみに、参考までに訊いて置きたいんですけど、これって断れない流れなんですよね?」

 ここまでの話の流れで、ナギが行くしかないことは充分に理解した。だが、それでも抵抗をあきらめないのがナギなのだ。

「ん? 確か、学園長から『これでバイトの件は評定に入れないで置いてあげる』って伝言があったけど?」
「ハッハッハッハッハ!! そうですか!! そう言うことならば、喜んでお受けいたします とお伝えください」
「そうかい? いやぁ、ありがとう。そっちの件を有耶無耶にできたことも含めて、ボクも気が楽になったよ」

 タカミチにも何らかの事情はあるのだろう。と言うか、ナギへの気遣いが見て取れるので、ナギはタカミチに文句を言えない。

 嫌なタイミングでバイトの件を持ち出されたが、評定を下げられるよりはマシだ。
 ちなみに、言うまでも無いだろうが、評定とは奨学金の額を決める選定基準のことだ。
 つまり、ナギの生活費に直結しているものなので、多少の厄介事は仕方がないのだ。

(生活とか矜持とか安全とか……すべてを手に入れるにはオレの力が足りない。だから、これは当然の帰結だね)

 奨学金を減らされるのが――バイトの件を持ち出されるのが嫌なら、最初からバイトをしなければよかった。
 そして、バイトをしたのは、ホワイトデーで倍返し以上をしたい と言うナギの矜持(自己満足)のためだ。
 安全を求めるならば、生活か矜持か どちらかを捨てねばならない。3つを保持するにはナギの力が足りないのだ。

「あ、言い忘れていたんだけど……ネギ君達も一緒だから、しっかりエスコートしてあげてね?」

 当然のことだが、ナギは己の耳を疑った。ネギが どうとか聞こえたけど気のせいに違いない、とか思い込むくらいに疑った。
 と言うか、降り掛かる危険を「図書館島に仕掛けられた罠」としてしか認識していなかったナギには寝耳に水な情報だった。
 まぁ、タカミチと会話し始めた辺りでは想定していたにもかかわらず話しているうちに忘れてしまったナギの落ち度だろうが。

 どうでもいいが、「きっと、葱は身体にいいから葱を食べて英気を養えってことだろう」と自己完結するナギは ある意味で筋金入りだろう。

「うん? 不思議そうな顔して どうしたんだい? 何か問題でもあったかい?」
「あ、いえ、今ネギがどうとかって聞こえた気がしたんですけど……」
「うん、彼女達は図書館探検部だけど、やっぱり男の子が居た方が安全だろうからね」

 ナギは「聞き間違いですよね?」と言いたげに尋ねるが、現実は非情だった。と言うか、タカミチは非情だった。

 確かに、図書館探検部で鍛えているとは言っても深部に行くには男手が必要となるだろう。それは よくわかる。
 だが、2-Aには武道四天王を始めとした「下手な男よりも遥かに頼りになっちゃう女子」がいることも確かだ。
 特に、ナギ曰く「体力バカな お姫様とか、忍ばないニンジャとか、中華風なカンフー少女とか」は その好例だろう。

 それなのに何で態々バイトの件を帳消しにしてまでナギを起用したのだろうか? ナギの疑問は尽きない。

「……そうですか。理解も納得もできませんが、とりあえず わかりました」
「そうかい? じゃあ、頼んだよ。日程は今週の土曜日だから、空けといてね」
「ええ、わかりました。時間とかの細かいことはネギと連絡を取り合います」

 ところで、ナギの考えでは図書館島イベントはネギの『本当の課題』である。そのため、その方面でもナギは疑問を抱いている。

 原作では、2-Aの最下位回避のために『メルキセデクの書』を求めてネギはバカレンジャーや図書館探検部員と図書館島に潜った。
 しかし、それは「ネギ達の意思で図書館島を探険した」ように見えるだけで、実際は「近右衛門が そう誘導した」に過ぎないのだろう。
 ネギに2-A最下位回避課題が与えられたタイミングで、都合よく「クラス解散」や『メルキセデクの書』の噂が流れたのが いい証拠だ。
 課題の本当の目的は、図書館島を探険をさせることでダンジョン攻略の訓練をしつつ生徒達と交流を深めることにあったのだろう。

 ……それなのに、何故 学園側からの依頼になっているのだろうか? これでは学園側の「安全に修行させる」と言う魂胆がバレてしまう。

 考えられる可能性としては、ネギが教師ではなくて生徒だから最下位脱出の課題を与えようにも与えられなかったのではないだろうか?
 だから、最下位脱出と言う名目が使えないので「他の生徒と協力して図書館島を探険しておいで」くらいの課題にするしかなかったのだろう。
 それならば、魂胆は見え見えだがダンジョン攻略の訓練もできるし生徒達との交流を深めることもできる。ナギは そう結論付けることにした。

(でも、やっぱり、何でオレが抜擢されたのか が わからないんだけど?)

 2-Aの人材から見ても、課題の目的から見ても、やはりナギが同行する必要性は感じられない。
 ネギがナギに懸想しているから と言う可能性も思い付くが、さすがに それはないだろう。
 何処の馬の骨ともわからないナギと英雄の娘をくっ付ける筈がない。ナギはそう考えているのだ。

 答えを思い付いているのに「それはない」と断じてしまうのが、ナギのクオリティなのだ。



************************************************************



Part.02:図書館島への潜行課題


「……以上が今回の課題の内容じゃ。わかったかの?」

 時間は更に遡ってネギがナギを図書館島に誘う前日、2月25日(火)の放課後のことだった。
 ネギは近右衛門から「ちと魔法関係のことで話があるんじゃ」と学園長室に呼び出しを受け、
 そこで「図書館島の深部にある『メルキセデクの書』を取って来る」と言う課題を言い渡された。

「はい、わかりました!! 謹んで お受け致します!!」

 ネギの魔法使いとしての卒業課題は「日本の中学校(つまり麻帆良)で学ぶこと」であるが、当然ながら「普通に通う」だけではない。
 そもそも、麻帆良は魔法界では有名な魔法学校であるため、そこで『学ぶ』と言うことは「魔法の修行をしろ」と言うことと同義だ。
 しかし、ネギが麻帆良に通い始めて半月程が経つが「まずは環境に慣れるのが先決」と言うことで『修行』は始まっていなかった。
 そのため、遂に魔法関係のことで近右衛門に呼び出されたことで、これから本格的な修行が始まるのだ とネギはヤル気に満ちていた。

「うむ、いい返事じゃ。それほど危険はないが、盗掘者対策の罠には充分に注意するんじゃぞ?」

 図書館島には(魔法・非魔法 問わずで)貴重な書物が多数 所蔵されているため、それを狙った盗掘者が出没する。
 そして、その対策のために罠を仕掛けた結果、中層以下は一般人には立ち入りが不可能となってしまったのである。
 それだと本末転倒な気がしないでもないが、罠を越えられる一部の人間(麻帆良の魔法使い)には都合がいいのだ。

「はい!! 罠の記された地図もいただきましたし、充分に注意します!!」

 ネギは内心で「罠解除は知識だけで実践をしたことはありませんけど」と不安になりながらも元気よく答える。
 無意識だろうが、不安を誤魔化しているのだろう。当然ながら、その程度の機微を近右衛門が見逃す訳がない。
 近右衛門は殊更 明るく「おっと、忘れるところじゃった」と言いながらペチンと長い額を叩く小芝居まで行う。

「すまんが、同行者として木乃香を含む図書館探検部のコ達を連れて行ってくれんかの?」

 ルームメイトであり、もう一人の『姉』のように慕っている木乃香は、ネギにとっては とても心強い味方だ。
 他の図書館探検部とは そこまでの交流はないが、木乃香を介せば問題なく友好を深められることだろう。
 近右衛門の「『お願い』と言う形を取った『命令』」は、どう見てもネギを気遣った『助力』に違いない。

「……ありがとうございます。ちなみに、魔法は『使わない』か『使うならバレないように使う』か ですね?」

 一人前の魔法使いに求められるのは、魔法を使う技術よりも魔法を秘匿する技術である。
 いや、正確に言うならば、魔法を秘匿しながら魔法を使う技術が一人前には必要なのだ。
 近右衛門は ただ単にネギを気遣ったのではなく、秘匿の訓練も含ませていたのである。

 そう言った事情にまで気付いたネギの優秀さに近右衛門は思わず笑みを浮かべる。

「うむ、万が一バレてしまった時は こちらで対処するが、極力バレないように気を付けとくれ」
「はい、秘匿には細心の注意を払いますし、もしバレたとしても勝手な判断で対処するのは控えます」
「まぁ、緊急を要すると判断した場合は自己判断で構わん。いつでも指示を仰げるとは限らんからの」

 優秀なのは嬉しいが、少しだけ「そう言う意味もあったんですか!?」とか驚かせられないのは つまらない。

 贅沢な悩みだが、本人には気付かせずに(だが後で気付けるように)若者を指導するのは近右衛門の密かな楽しみなのだ。
 教え導くのは年配者の義務であり権利だ。そこに少しだけ趣味(多分に悪趣味かも知れないが)を混ぜても罰は当たらないだろう。
 相手が悪かった と言うか、ネギがナギに懸想しているがために言葉の裏を読むようになってしまったのが運のツキだ。

 だが、だからと言って簡単にあきらめる近右衛門ではない。少しくらいは驚かさないと学園長なんてやっていられない。

「おっと、これも忘れるところじゃった。那岐君も連れて行って構わんぞい?」
「えぇ!? 那岐君ってナギさんのことですか?! って言うか、いいんですか!?」
「うむ、構わんぞい。やっぱり、ネギ君にも そのうちパートナーが必要じゃからな」
「パ、パートナーだなんて!! 半人前なボクには、まだまだ早過ぎますよ!!」
「じゃが、何事も経験じゃ。まずはパートナーの疑似体験と言うことで連れて行く――」
「――なるほど、疑似体験なら早過ぎる訳ではありませんから、とてもいい お話ですね!!」

 驚愕を通り越して興奮するネギを見て、近右衛門は「あれ? 地雷 踏んだ?」と思ったが後の祭りだろう。

「フォッフォッフォッフォッフォ……まぁ、パートナー云々は冗談じゃよ。まずは一人前になることが先決じゃからな。
 じゃが、その反応を見るに、どうやらネギ君としては那岐君をパートナーにするのは満更でもないようじゃのう?
 後は那岐君が魔法の危険性を熟知したうえでパートナーになることを承諾するのなら、ワシは問題ないと思うぞい?
 ワシの立場上 積極的には肯定できんが、だからと言って積極的に否定する訳でもない。当人達の意思を尊重しよう」

 近右衛門は方向転換をし、ネギを落ち着かせるために「早まった真似はしないどくれ」と釘を刺して置くことにする。

「ちなみに、これは あまり言いたくないことじゃし、まだキミには言うべきことじゃないかも知れん。
 じゃが、キミならば理解できるじゃろうから、今のうちに言って置こうと思うんじゃが……
 キミは英雄の娘じゃ。否が応でも、一人前になれば政治的に利用されることになるじゃろう。
 じゃから、那岐君をパートナーにしたいのならば、その点も含めて説明した方がいいじゃろうな」

 言うまでもないが、最初にナギをパートナーとすることを肯定したのはネギの気持ちを汲むためだ。

 もしも最初から「早まった真似はしてくれるな」などと言われたら、素直に聞かない可能性がある。
 特に、ナギへの半端ではない傾倒振りを見せたネギは意固地になって暴走してしまうかも知れない。
 そうなってしまったら、ナギにもネギにも良い結果にはならない。近右衛門はそれを危惧したのだ。

「……はい、承知致しました。ナギさんにボクの都合を押し付ける訳にはいきませんからね」

 今はネギの言葉を信じよう。それに、仮にネギが暴走するようならば その時は止めれば良いだけだ。
 そう結論付けた近右衛門は、ネギの言葉に鷹揚に頷くと「では、頑張るんじゃぞ」と退室を促す。
 退室して行くネギが「さすが学園長先生です」と近右衛門に尊敬の念を抱いていたのは余談である。

 驚かせるつもりだったのに尊敬されてしまうのが近右衛門のクオリティなのかも知れない。

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 そして、時は少し進み2月26日(水)、ナギがネギの誘いを断った後のことだ。

 実は、タカミチはナギとネギの会話を盗む聞きしており、当然ながらナギがネギの誘いを断った場面も見ていた。
 タカミチとしては「まさかロリコンの気がある那岐君がネギ君の頼みを断るとは……」と実に想定外だったらしい。
 そのため、タカミチは「どうやって那岐君を説得しようかな?」と頭を捻りながら近右衛門に経過を報告したのだった。

「フォッフォッフォ……まだまだタカミチ君は青いのう」

 しかし、近右衛門は「この程度、問題とすら言えんのぅ」と言わんばかりに余裕だった。
 タカミチは「その余裕が何処から来るのか?」疑問に思ったようで、率直に訊ねることにした。
 わからないことを訊ねられるのは美徳である。その辺り、タカミチとナギは似ているのである。

 もしかしたら、タカミチと那岐が似ており、ナギが那岐の影響を受けているだけかも知れないが。

「そう仰ると言うことは『何らかの策がある』と言うことですか?」
「フォッフォッフォ、ワシは『仕掛けはバッチリじゃ』と言うたじゃろう?」
「ええ、そうですね。ですが、そもそも仕掛けなんてありましたっけ?」

 語られてはいないが、既に近右衛門とタカミチの間で話し合いはされていた。

 その際に近右衛門は「仕掛けはバッチリじゃ」と豪語していたのだが……今のところ、そんな仕掛けなどタカミチには見当たらない。
 と言うか、仮に仕掛けがあったとしても現実(ナギが断った)を鑑みるに、その仕掛けは うまく作用しなかったのではないだろうか?
 もしかしたら 仕掛けがあると言うのは口だけかも知れない。そう思ったのか、タカミチは疑わしげな目で近右衛門を見遣る。

「……これは、那岐君の素行調査書じゃ」

 タカミチの視線に気付いたのか、近右衛門は軽く咳払いをした後、机から書類を取り出す。
 この書類が近右衛門の言う『仕掛け』なのだろう と判断したタカミチはザッと書類に目を通す。
 だが、その内容は「最近ナギが休日に日雇いのバイトをしている」と言うものでしかなかった。

 別に麻帆良はバイトを禁止していないため、何も問題がない。タカミチはそう判断したようで、近右衛門を訝しげに見る。

「これが どうしたと言うのですか? バイトは校則違反ではないでしょう?」
「じゃが、那岐君は『成績は優秀だが生活態度に難あり』と判断されておろう?」
「ええ、そうですね。特に最近は態度が悪いらしいですね――って、まさか!?」

 タカミチは言葉の途中で気付いたのか、途中で息を呑む。

 つまり「特待生である立場でバイトしていることを利用すればいい」と言うことだろう。
 ちなみに、最初から『仕掛け』を使わなかったのは、近右衛門の温情である。
 強制的に選ばせるだけではなく、自分の意思で選ばせる余地を残して置いたのだ。

 だが、ナギは断った。いや、断ってしまった。ならば、残された道は一つしかない。

「そうじゃ、ワシからのバイトを受けてくれたらバイトの件は不問にしてあげる、と言うことじゃ」
「なるほど。脅すような形になってしまうのは少々心苦しいですが、一石二鳥のいい手ですね」
「そうじゃな。ワシとて、バイトくらい自由にやらせてあげたいのじゃが……そうもいかぬのじゃよ」

 近右衛門は学園長だが、学園長だからと言って学園の中のことを何でも自由にできる訳ではない。

 時には己の意思に反してでも周囲(教師とか理事とか)を納得させなければならないこともあるし、
 魔法関係で無茶をせざるを得ない時のために無茶をしなくてもいい時は無茶をしないのである。
 それを理解しているタカミチは、近右衛門の苦悩に共感しつつ己のやるべきことに算段を立てる。
 そして「では、明日にでも那岐君を説得して来ます」とだけ残して学園長室を退室するのだった。

 余談だが、今回ナギを注意せざるを得なかったのは、真面目なガンドルフィーニがナギのバイトを発見したためだったらしい(ナギの自業自得だ)。



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Part.03:実はハイスペックボディ


 そんなこんなで時間軸は現在に戻る。

 ナギは「オレは何でここにいるんだろう?」と思いつつも着々と探索を進めていた。納得していなくても、やるべきことはキチンとやる男なのである。
 ところで、図書館島地下に仕掛けられた罠はプロの盗掘者対策のものであるため、本来ならば中学生である彼等が破れるような代物ではない。
 では、何故 彼等は罠を乗り越えて進めているのか? 答えは単純だ。危険な罠は予め解除されているうえに残った罠が記された地図を持っているからだ。

  カチッ 「あう?」

 だから、こんな風にネギが床のスイッチを踏んで罠を発動させたとしても そこまでの危険はない。
 いや、床がスイッチになっている と言うレトロな罠だが、他の床と見分けが付け難いので踏みやすいのだ。
 その証拠と言っていいかは微妙だが、既にネギは三回ほど踏んでいる(つまり、今度ので4回目である)。

  ヒュンッ!! 「あぅう!?」

 罠が発動し、床スイッチと連動した箇所から矢が床スイッチの上(つまりネギ)目掛けて飛んで来る。
 ちなみに、ネギの場合だと身長的に頭部に着弾する恐れがあるため直撃するとシャレでは済まないレベルだ。
 まぁ、それも矢の鏃が本物であるならば、の話だが(つまり、この矢は本物に見えるだけの玩具だ)。

  パシィ!! 「あぅ!!」

 だが、玩具だとわかっているからと言って直撃するのを横から見ているだけ なんてことはナギにはできない。
 怪我はしないだろうが、それなりに痛いことは予測される。よって、ナギは飛んで来た矢を途中で掴んでやるのだ。
 まぁ、飛んで来た矢を視認できるうえ それを掴めたりするナギの身体スペックに疑問は残るが、今は置いておこう。

 きっと、玩具の矢なので本来の矢よりも飛来速度が遅いのだろう。そうに違いない。

「あ、ありがとうございます!! ナギさん!!」
「気にしないでいいって。それよりも怪我はない?」
「あ、はい、ナギさんの御蔭で大丈夫でした!!」

 ネギは本物の矢だと思っているのか、やたらとナギに感謝して来る(あくまでもナギ視点)。

 どうでもいいが、ナギとしては「当然のことをしただけ」なので ちょっと照れ臭いようだ。
 ナギは紛れもないヘタレだが、ヘタレであると同時に幼女を大切にする性質を持っているのだ。
 だから、礼を言われる程のことをしたつもりはないのだが……まぁ、感謝されて悪い気はしないようだ。

「あ、ほら。そこも きっと罠だよ? 気を付けて」
「あぅ? あ、ありがとうございます……」

 そのため、ついつい調子に乗ったナギはネギが罠を作動させないように手を取って(手を繋いで)誘導してやる。
 そして、はた と思う。オレ何でネギの保護者っぽいことやってんだろ、と。ちょっと調子に乗り過ぎだろ、と。
 まぁ、ネギが罠を発動させてしまったらナギがフォローするしかないため罠を発動させないに越したことはないので、
 罠が発動しないように努力することは間違っていないのだが、少しばかりネギの面倒を見過ぎてはいないだろうか?

 これではネギを勘違いさせてしまう とか思いつつも、ナギはネギの手を離さない。何故なら……

「ネギ、手 冷たいよ? 寒いんじゃない?」
「あぅ? は、はい。ちょっと寒いです……」
「そっか。じゃあ、ほら……これでも着てて」
「あぅ? あ、ありがとうございます……」

 そう、何故なら思いの外ネギの手が冷たかったからだ。思わず着ていたパーカーを着せてやるくらい冷たかったのだ。

 言うまでもないだろうが、ナギに他意はない。普通に寒そうだったから貸しただけでフラグを立てるつもりなどない。
 その結果、ネギは頬を染めながら嬉しそうにナギのパーカーに身を包んでいるが……ナギは何も意図していないのだ。
 むしろ、そんなネギを見て「よっぽど寒かったんだなぁ」とか思ってしまう始末だ(ネギの気持ちを理解しているのに)。

 まぁ、少しくらいは「あ、つい面倒 見ちゃった」と己の行動を反省しているので、別の方向性では まだ救いはあるが。

「……何だか今日のナギさん、いつもより優しいですね」
「そ、そうかな? こんなんフツーでしょ、フツー」
「まぁ、そうですね(いつもは照れてるだけですもんね)」
「それよりも、ちゃんと前を向いて歩くんだよ?」

 ナギは自分を落ち着けるためにもネギに注意を促しつつ自然な形で手を離す。

 手を離した際、ネギが「あっ……」とか言って残念そうにしていたが、ナギは敢えて気付かない振りをする。
 と言うか、罠が発動した時のことを考えると手が塞がっているのは不味いので、気にしている場合ではないのだ。
 何故なら、原作と違って探索メンバーはナギとネギと図書館探検部のみ(バカレンジャーがいない)からだ。
 つまり、罠が発動した時に物理的なフォローをできるのがナギしかいないため、ナギの手が塞がってるのは不味いのだ。

 ちなみに、ここで言う図書館探検部とは、木乃香・のどか・夕映のことである。

 実は、図書館探検部には未登場の早乙女ハルナもいるのだが、どうやら「締め切りで それどころじゃない!!」らしくて今回は不参加なのだ。
 それならば、ナギも「バイトそれどころじゃない」とか言って欠席したかったのだが……それは後の祭りだ。と言うか、ナギに欠席の選択肢などないし。
 ともかく、体力自慢 揃いのバカレンジャー達がいないことは変わらない(まぁ、バカブラックである夕映は図書館探検部として参加しているが)。

(……いや、わかってはいるんだ)

 今回の探索は最下位脱出と関係ないものであるため、バカレンジャー達に協力する義理も義務もない。
 つまり、バカレンジャーが参加していないのは自明の理であり、そこは文句を言うところではないのだ。
 だが、そうわかっていても、クラスメイトですらないナギとしては思わず文句を言いたくなるのである。

(まぁ、だからと言って、文句を言っていても何も変わらないんだけどねぇ)

 ナギは軽く頭を振って、グチグチとくだらないことを考えそうになる気持ちを振り払う。
 今は愚痴を言っていても始まらない。今は図書館島探索に意識を向けるべき時だ。
 ナギ一人なら気を抜いていても問題ないが、今は守るべき存在が四人もいるのだから。

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「……ところで、この先はどっちに進むのがいいのかな?」

 分かれ道に差し掛かったところでナギは振り返り、地図を広げている(つまり、地図を見ている)木乃香に道を訊ねる。
 罠的な意味でナギは手を開けて置く必要があったため、地図を見て進行ルートを決めるのは物理的に不可能だ。
 それ故に地図の読める木乃香にマッパーを任せただけで、別にナギが地図を読めない訳ではない。適材適所なだけだ。

「ん~~と……今度は、左に進むのがええやろうな」

 木乃香は一見ポヤポヤしているように見えるかも知れないが、それは雰囲気が緩やかなだけである。
 だから、方向音痴だと思われやすいが、そんなことはない。むしろ、方向感覚は優れている方だろう。
 少なくとも「左ね、わかったよ」と素直に従う程度には、ナギは木乃香の道案内を信じているようだ。

「あ、ここの罠は夕映に解いてもらうのがええから、なぎやん は夕映のフォローよろしくなー?」

 ナギは「うん、了解」と応えながら夕映に先頭を譲ると、夕映の斜め後ろに陣取って いつでもフォローできるようにする。
 ちなみに、『なぎやん』とは木乃香のナギに対する呼称だ。その理由はナギにもわからない。今日 会った時からそう呼ばれている。
 ナギとしては今日が初対面だが、親しげな呼び方をしていることから察するに、那岐と知り合いだったのかも知れない。
 だが、そうは思っていても確認するのは躊躇われるようだ。薮蛇になりそうだし、そもそも今は そんな場合ではないからだ。

「じゃあ、夕映、頼んだよ?」
「ええ、かしこまりましたです」

 夕映はパッと見「小っこい本の虫」にしか見えないが、意外なことに罠解除のスキルを修得している。
 そんなスキルを修得している女子中学生はどうかと思わないでもないが、修得してるのだから仕方がない。
 ちなみに、ナギが「罠が発動してから潰す」のに対し、夕映は「罠が発動する前に潰す」ことになるため、
 夕映が解除に失敗した時の保険として(発動してしまった罠を潰すために)ナギが待機しているのである。

 当然ながら、現在はイージーモードなので罠が発動しても そこまでの危険はない。だが、解除できるならした方がいいことは変わりないのだ。

「では、解除を開始するです……」
「わかった。こっちも警戒して置く」
「(ガチャリ)……解除できたです」
「え? マジ? そんなにアッサリと?」

 夕映は罠解除を宣言するや否や屈んでカチャカチャし出したため、ナギは慌てて夕映の傍で警戒態勢を敷く。

 だが、ものの十数秒で罠は解除されたためナギの警戒は無意味に終わった。
 いや、あくまでもナギは保険だったので無意味に終わるべきなのだが……
 それでもアッサリと終わったことにナギは肩透かしを喰らったようである。

(しかし、図書館探検部って言うのは伊達じゃないなぁ。発動後の罠を潰すって役割でもなきゃオレの出る幕なんてないじゃん)

 役割的に考えるとナギにやることがない と言う状況は喜ぶべきことなのだが、
 それはそれで「じゃあ、オレは何でいるんだろ?」と考えてしまうようだ。
 贅沢な悩みでしかないが、贅沢な悩みをできるのは人間の特権かも知れない。

「あのー、ナギさんー」
「ん? どしたの、のどか?」

 ナギが かなりどうでもいい思索に耽っていると、いつの間にかナギの隣に移動していた のどかが話し掛けて来た。
 ちなみに、先程までナギの隣にいた筈の夕映だが、今はネギ・木乃香と話している。いつの間にか移動していたようだ。
 マッパーと罠解除士の双方が会話に花を咲かせていることに不安を感じるが、ここは安全なのだろう(二人を信じよう)。

「ど、どうして、今日のメンバーにいるんですかー?」

 その問いの答えは、むしろナギこそが知りたいところだろう。と言うか、その問いは遠回しにナギが邪魔だ と言いたいのだろうか?
 ナギのメンタルは どちからと言うと弱い(控え目な表現)ので、純粋そうな女のコに「邪魔ですー」とか言われたら非常に傷付く。
 しかも、ナギの意思でいる訳でもないので、更に精神的なダメージは大きいだろう。オレだって来たくなかったんだ とか泣くことだろう。

「……高畑先生に頼まれたからさ。やっぱり女のコだけじゃ不安だったらしいよ」

 少なくとも、嘘は吐いていない。まぁ、本当のことも言っていないが、別に本当のことを言う必要はないだろう。
 と言うか、本当のことを言うと「恐らく学園長の悪巧みだと思う」と言う微妙な答えしか言えないのが実情だ。
 ところで、のどかが「そ、そうなんですかー。高畑先生に頼まれたからですかー」とか軽く落ち込んでいるので、
 そもそもタカミチ云々の話もすべきではなかったのではないだろうか? まぁ、中途半端な対応が実にナギらしいが。

「いや、まぁ、図書館島の深部は危険って噂はよく聞くから、オレも みんなだけじゃ不安だったし……ね?」

 そして、フォローをするためとは言え、無意識に『下げて上げる話法』を用いる辺りも実にナギらしいだろう。
 いや、正確に言うと「無意識だったからこそ、フラグが立つ様な対応をしてしまった」と言えるのだが。
 その証拠に、のどかが とても嬉しそうに頬を染めているのだが……残念ながら、残念なナギは気付いていない。
 せいぜい気付いたとしても「照れられると、余計に照れ臭いんだけどなぁ」と言う超解釈をしてしまう始末だ。

 繰り返しになるが、ナギは非常に残念な思考回路をしている男なのである。



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Part.04:ある意味では、お約束


 ……のどかがナギと知り合ったのは、去年の9月の中頃のことだった。

 あの時、のどかは図書委員の仕事で何冊もの本を両腕で抱えて運んでいたのだが、
 運悪く階段でバランスを崩してしまい、危なく落ちてしまうところだった。
 そう、落ちなくて済んだのは運よく通り掛かったナギに助けられたからだったのだ。

「ッキャア!!」

 のどか の話によると、それまでも本を運んでいる時にバランスを崩してしまって転倒することは何度かあったらしい。
 それ故に階段だけは絶対に転ばないように注意していたようだが……注意していても転ぶ時は転ぶ。そう言うものだ。
 地面までの距離は目算で5メートル程。当たり所が悪ければ死ぬかも知れないし、当たり所が良くても怪我は必須だ。
 気が付けば、視界がスローモーションで再生されている様になっており、落下速度も どんどん遅くなっているように感じる。

(って、あれー? これってもしかしなくても、走馬灯と言うものなんでしょーかー?)

 思考が事象に追い付いた瞬間、のどかは衝撃を受けることを覚悟した。
 だが、途中で「ガシィ!!」と何かに受け止められる感覚があり、
 予期していた衝撃よりも大幅に弱い衝撃しか伝わって来なかった。

(????? どうしたんだろー?)

 気付けば、地面より高い位置で落下が止まっている。
 不思議に思った のどかは、キョロキョロと周囲を見回す。
 すると、目の前に見慣れぬ少年の顔があるのがわかった。

「って、キャア!!」

 そこまで認識した瞬間に、のどかの頭は沸騰する(ついでに頬も)。
 先程 見慣れぬ少年と言ったが、のどかには全ての少年が見慣れない。
 女子校育ちの弊害と言うか、単純に男性に慣れていないのである。

 落下の恐怖と相俟って冷静な思考ができないのは仕方がないだろう。

(し、至近距離 過ぎます!! 顔と顔の間に10cmくらいしか距離がないです!!
 こんなに近くで、お父さん以外の男性の顔を見たのは生まれて初めてです!!
 ど、どどどどどうしましょう? ま、まずは落ち着かないとですよね?!)

「いや『キャア』じゃないから。って言うか、危ないから」

 のどかは一人で慌てていたが、少年の方は極めて落ち着いていた。
 きっと のどかに慌てられたことで逆に落ち着いたのだろう。
 ちなみに、バレバレなので明かして置くと、この少年がナギである。

「まったく。危ないなぁって思ってたら案の定 転ぶし。一瞬でも反応が遅れてたら、潰れたトマトみたいにグチャッとなってたところだよ?」

 ナギは苦々しそうに言いながら のどかを地面に降ろした後、サッサと本を拾い始める。
 通常の状態だったならば、のどかも本を拾うなり御礼を言うなりするのだが、
 先程までのショック(顔が近い & お姫様抱っこ)で呆然としていたので無理だった。

「……はい、どーぞ。今度からは前が見える程度に量を減らすか、それとも台車を使うか、もしくは誰かに手伝ってもらおうね?」

 言いながらナギは のどかに三分の一くらいの本を渡すと「で? どこに運べばいいの?」と のどかを促す。
 当然、残りの三分の二くらいの本はナギが持ったままなので、運ぶのを手伝う と言う意味なのだろう。

 そこまで理解したところで、のどかは ようやく(お姫様抱っこをされていた事実の衝撃から)思考が回復した。

「あ、あの!! た、助けていただいて ありがとうございますー!! しかも、本まで拾っていただいて……」
「ああ、いや、別にいいって。困った時は お互い様って言うでしょ? それよりも目的地を教えてくれない?」
「い、いえー、それには及びませんー。助けていただいただけでなく本まで運んでいただく訳にはいきませんー」
「ん~~、だけど、転んだ原因を そのままにしていたら、また転ぶかも知れないよね? だから、手伝うよ」
「ですが、今度から気を付けますので大丈夫ですー。それに、そこまでしていただくのは申し訳ないですー」
「でも、気を付けたところで また転ぶ可能性はあるよね? オレとしては また転ばれた方が心苦しいんだけど?」

 思考が回復したので のどかは慌てて御礼を言ったのだが、ナギは御礼よりも案内を求める。再発を危惧しているようだ。

「……図書館島までですー」
「うむ、素直でよろしい」

 のどかが反論をあきらめて先導を始めると、ナギは鷹揚に頷きながら その後を追う。
 そして、図書館島まで本を運んだ後は、ついでとばかりに収納まで手伝っていくナギ。
 相変わらず見事なフラグ建築能力だ。惜しむらくは本人が意識していないところだろう。

 ちなみに、のどかは後になって名前すら聞いていないことに気付いて御礼に困ったが、すぐ後に再会できたので御礼は その時に改めてしたらしい。

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 ナギが初めて図書館島に訪れたのは、のどかに案内されて本を運んだ時だった。

 ナギは図書館島の存在は知っていたが「有り得ない代物」だったため、魔法的な意味で危険である と判断して敬遠していたらしい。
 だが、実際に訪れて その蔵書の量と質を見てしまったら、それまでの自分をブン殴りたくなったくらいに素晴らしかった そうだ。
 当初の予定では本を運ぶだけの予定だったが、本を読みたい衝動に駆られて本の整理まで手伝った(手伝いながら物色した)程だ。
 ちなみに、ナギの弁では「ここって普通なら閲覧不可なレベルの稀少書が閲覧できちゃうんだよ? そりゃ物色するだろ、常考」らしい。

 また、盗難防止の罠があることを有り得ないとか言っていたクセに「これなら納得だ」とか言っちゃう始末である。

 それに、島が がまるごとが図書館だ と言うことも普通に受け入れた。蔵書量から考えて、充分に納得できたらしい。
 と言うか、図書館探検部の存在も「この図書館を把握するには探険しなきゃいけないレベルだもんね」とも納得した。
 いや、それまでのナギは「何の酔狂で出来たのか?」と図書館探検部を笑っていたのだが……評価は逆転したようだ。
 むしろ、のどかや夕映や木乃香などの(原作的に)危険人物がいなければ、ナギは迷わず図書館探検部に入っていただろう。
 そのくらい、図書館島の蔵書は量も質も素晴らしいものであり、ナギは(意外だろうが)本が好き と言うことなのである。

(まぁ、魔法はイヤだけど……でも、図書館島に通える立場にいるってだけで『ここ』に来てよかったと思えちゃうよ)

 確かに危険は避けるべきだ。だが、時には知的好奇心を満たすことの方が重要な時もある。当時のナギが まさにそうだったのだ。
 ナギはヘタレだが、「安全だが面白みに欠ける人生」よりも「少々の危険があろうとも面白い人生」の方を選ぶタイプなのである。
 もちろん、面白くて安全な人生が一番いいとは思うし、危険が少々ではない気はするが……それでも、面白い人生を求めるのだ。

 そんな訳で、それ以来ナギは暇さえあれば図書館島に通い、他の場所では閲覧できないような稀少書を閲覧しまくったのだった。

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 当然ながら、話はここで終わらない。ここで話が終わってしまったら、ナギがちょっと幸せになっただけになってしまう。

 いや、別にナギが幸せになってはいけない訳ではないのだが……物語的に考えると、ナギが幸せなだけでは面白くないのだ。
 つまり、稀少書を読み漁る過程で「図書館島に詳しくて且つ図書館島に常駐している のどか」と親しくなったのである。
 ナギとしては、普通に稀少書の在処を教えてもらったり、オススメの本を紹介してもらったり、それらの感想を話しただけだった。
 別に どこかの主人公の様にフラグを立てる(図書館に通って図書館に生息しているヒロインを攻略する)気などなかったのだ。

 まぁ、傍から見ると そうとしか見えないのだが……ナギとしては同好の士として交友関係を深めたつもりなのである。

 さて、普段なら ここでナギの残念さを語るところだが、今回は敢えてナギを弁護して置こう。
 何故なら、この時の のどかは前髪で顔を隠していたため顔がよくわからなかったからだ。
 偶然にも前髪がめくれて実は可愛いことがわかった……なんてことは現実には起きなかったのだ。

 と言うか、二次元の世界では「顔を隠している = 実は可愛い」と言う法則が成り立つが、現実では そんな訳がない。

 むしろ「顔を隠している = 傷跡などの何らかの事情で隠しているのだろう」と言う判断になるのが現実だ。
 そして、たいていの人間は「気にはなるが触れないで置こう」と顔を隠している件はスルーすることだろう。
 つまり、実は可愛い と言うポイントは一切加算されず、他の部分(妙にオドオドしている)が目に付くのだ。
 まぁ、オドオドしているのが可愛い と思う人もいるだろうが、ナギは「面倒臭い」と感じるタイプなのである。

 そんな訳で、ナギが「本のことで わかり合える友達」として のどかと仲良くなったのは仕方がないことなのだ。

 もちろん、だからと言って、のどかが原作キャラだと気付かなかったナギに非はあるだろう。と言うか、名前で気付くべきだ。
 知り合ってから そう時を置かずして「宮崎のどか と言いますー」と言う自己紹介はされていたので、あきらかにナギが悪い。
 敢えて弁護するなら、ナギの知識では『本屋ちゃん』と言う認識だったので、気付かなくても仕方がない と言えば仕方がない。
 だが、語尾が伸びる独特な話し方やら図書館島に常駐している と言ったヒントはあったので、気付くべきだったことは変わらないが。

 では、そんな鈍いナギが どの様な経緯で のどかを原作キャラだと気付いたのだろうか? その答えは単純で、夕映を紹介されたからだ。

 キッカケは二人が知り合ってから一ヶ月程が過ぎた10月の半ば頃、のどかが夕映を「友達の綾瀬 夕映ですー」と紹介したことだった。
 紹介された時は「へー、このコも本好きなのかなー」ぐらいにしか感じていなかったナギだが、夕映と少し会話したら気付いたのである。
 あれ? このコ達って原作キャラじゃない? って言うか、本屋ちゃん と ゆえ吉じゃない? むしろ、メインキャラじゃない? ……と。
 どうやら、夕映の「~~です」と言う口調や、前髪パッツンの容姿、理屈が先行する考え方、背が小っちゃいことで夕映だと気付いたらしい。
 そして、夕映を原作キャラとして認識した後は連鎖反応的に「ゆえ吉の隣にいる前髪の長いコって本屋ちゃん?」と漸く気付いたようだ。

 いや、一ヶ月も何を見ていたんだ とツッコミたいのはわかる。だが、ナギは残念過ぎるので仕方がないのだ。

 ちなみに、さすがのナギも『本屋ちゃん』と言う呼称を聞けば直ぐにわかったのだが……図書館島では そう呼ばれていなかったので仕方がない。
 本屋ちゃんと言う呼称は、あくまでも「2-Aの中での愛称」でしかないため、女子寮や女子校舎に行かねば聞けないものなのである。
 それ故、ナギは のどかを『のどか』としてしか認識しておらず、夕映と出会うまで『本屋ちゃん』と認識することはなかったのだった。



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Part.05:のどかとバレンタイン


 ナギさんと知り合うまで、ナギさんを図書館島で見掛けることはありませんでした。

 普通なら「気付かなかった」と判断するのでしょうが、ナギさんは目立つ容姿をしているので気付かない訳がありません。
 それに、図書委員の仕事の一環(盗難防止)で図書館島内部を よく見回りますから、見落としていた可能性も低いですしね。
 つまり、ナギさんは私と知り合ってから図書館島に来るようになった と言うことです。何だか期待したくなる展開ですよね?

 しかし、現実は そんなに甘くありません。

 ナギさんは もともと本が好きだったらしいですが、図書館島には怪しいイメージがあったので来なかったんだそうです。
 でも、私と知り合った時に改めて図書館島を見て、その蔵書にイメージが払拭されたので図書館島に来るようになったらしいです。
 本の整理を手伝ってくださった時、子供のように「図書館島は伊達じゃないねぇ」とハシャいでいたのが思い出されます。

 つまり、私に会いに来てくれている訳ではなかった と言う訳です。

 まぁ、そんな妄想を考えていなかった と言えばウソになりますけど、そこまで夢を見ている訳ではないので普通に納得しました。
 ナギさんは本当に本が好きなようですし、他では見られないような稀少書を幸せそうに読んでいるのを よく見掛けますからね。
 それに、本の話をしている時も とても楽しそうですから、図書館島には本を読みに来ているんでしょう。疑う余地もありません。

 でも、私を見掛けたら話し掛けてくれますから、私と話すのは嫌いではない筈です。

 まぁ、私としては、別に お話しできなくても構いません。今のところは、見ているだけで充分過ぎますからね。
 特に、お目当ての本を探している時や それを見付けた時のキラキラした瞳は見ているだけで飽きません。
 何て言うか、いつもは とっても大人びているんですけど、そう言う時は年下の『少年』って感じがするんです。
 ナギさんが聞いたら怒るかも知れませんけど、そう言うナギさんは ちょっとだけカワイイと思っちゃいます。

 って、モノローグとは言え、かなり恥ずかしいこと言っちゃいました!!

 こ、これでは、私がナギさんに恋しているみたいじゃないですか?
 あ、いえ、まぁ、完全には否定できなくもないのが現状ですけどね?
 もっと お話したいとか、もっと一緒にいたいとか、いろいろあります。
 でも、まだ私に恋は早いと言うか、ナギさんを見ているだけで充分と言うか……
 あと一歩が踏み出せないんです。友達と言うスタンスが心地よ過ぎるんです。

 って感じで、私はナギさんに対して感情を持て余していました。

 しかし、ネギちゃんが転校してきたことにより、その状況が一変したんです。
 いえ、正確には、ネギちゃんの『バレンタイン発言』の時に状況が激変したんです。

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 あれは、ネギちゃんが転校して来てから数日後(バレンタインの前々日)のことでした。
 その時も、いつも通りクラスで ゆえとハルナとでオシャベリをしていたんですけど……

「ええっ!? 日本では、女性が男性にチョコレートを贈るんですか?!」

 って、ネギちゃんがビックリしていたので、ネギちゃんと このかさんの会話についつい聞き耳を立てちゃいました。
 あ、ゆえもハルナも気になったようで二人もネギちゃん達の会話に注意がいってましたので、みんな共犯ですよー?
 まぁ、みんなが共犯だとしても、盗み聞き自体がよくないことであるのは変わらないんですけど、気にしちゃいけません。

「そうやえ、男のコはチョコの数で自分の価値を測る悲しい生き物なんやで?」

 このかさんの妙に実感の籠もったセリフは一体 誰からの受け売りなんでしょうかー?
 図書館探検部で一緒に活動しているので、このかさんに恋愛経験がないのは把握してますから、
 このかさんのセリフの内容よりも「どこから得た情報なのか」の方が気になりますねー。

「じゃ、じゃあ、つまり、多く貰えたらそ れだけ嬉しいってことですか!?」

 あ、ネギちゃん、きっと勘違いしてますー。
 この場合、一人一個って言う前提なので、
 個数 = 人数って言う図式なんですよー。

「ん~~、そうやけど、前提条件に『一人一個』ってのがあってな? 『チョコの数 = くれた女性の数』って計算なんや」

 このかさんもネギちゃんの勘違いに気付いていたみたいですねー。的確に説明してます。
 でも、そうやって改めて説明されると、数字として捉えられていそうでイヤですねー。
 撃墜数とかを数えられていたりしたら、それだけで粛清したくなっちゃいますよねー。

「それに、チョコには『本命』と『義理』があってな? 本命は義理の10倍の価値があるそうやえ?」

 10倍ですか……その数字は どこから出て来たんでしょうかー?
 ホワイトデーは3倍返しと言うのと同じくらいマユツバですー。
 でも、ちょっとだけ納得できる数字な辺りが絶妙ですねー。

「そ、そうなんですか……じゃあ、ホンメイをあげた方が喜ばれるんですね?」

 しかし、ネギちゃんは、本命と義理の違いを把握してるんでしょうかー?
 私としては複数の男性に本命を渡すのは、何かが違うと思いますよー。
 まぁ、世の中には そう言ったことを平気でできる女性もいますけどねー。

「そやけど、本命ってのは『一番大切な人』にしか贈っちゃアカンって決まっとるえ?」

 ……このかさん、「一人にしか贈っちゃいけない」って説明じゃない辺りが凄いですー。
 それだと「みんな一番大切って言えば、いくつでも本命を贈っていい」ってなりますよねー?
 何か悪女の片鱗を見た気がしますー。しかも、本人に自覚は無さそうなので、より怖いですー。

「はい、わかりました。でも、ボクが贈りたいのは一人だけですから大丈夫です」

 へー、ネギちゃんって好きな人がいるんだー。
 誰かなー? 引っ越して来る前の お友達かなー?
 それとも、麻帆良で知り合ったコなのかなー?

「ほえ~~。ネギちゃんてば意外と隅に置けんなぁ? ……で、相手は誰なん?」

 このかさん、肘でウリウリしながら聞くのは やめましょう?
 それだと、酔っ払ったオジサンっぽいですからねー。
 でも、聞きたいことを聞いてくれたのでグッジョブですー。

「えへへ~~♪ ナギさんです♪」

 へー、ネギちゃんはナギサンに贈るんだー。
 って、え? 今、ナギサンって言ったの?
 ナギサンって『ナギさん』のことじゃないよね?

「……おぉっ、いつも話しとる男のコやな?」

 このかさん? いつも話してるって何のこと……?
 ネギちゃんって今週に転校して来たばかりじゃなかったっけ?
 それなのに、そこまで仲良くなっているってことなの?

「はい、いつもお世話になっている御礼をしたいですから」

 いつもお世話になっているって……どう言うこと?
 ネギちゃんは一体いつの間にナギさんと知り合ったのかな?
 ちょっと、いや、かなり気になるかな? ……かな?

「の、のどか……?」
「? どしたのー、ゆえー?」

 気が付いたら、ゆえが青い顔をしていました。
 ……? どうしたんだろー?
 何か気分でも悪くなることがあったのかなー?

「ど、どうやらライバルはネギさんだけではないようですよ?」

 ん~~? ゆえが何か「のどかが恐いです」とかブツブツ言ってるけど……ここは華麗に流して置こー。
 だって今 大事なのは、ネギちゃんの発言によって一気にザワつき出した他のコ達の反応だからねー。
 え~~と、明石さん達のところの話題の中心は和泉さんかなー? つまり、和泉さんがライバルなんだねー?
 あと、春日さんも ちょっと動揺しているねー? いつもは騒ぎから一歩引いて見てるのに、今日は挙動不審だよー?
 それと、偶々 廊下にいた一年生の茶髪のコも きっとそうなんだろうねー? すっごく慌てていたもんねー?

 ところで、いいんちょさんの目が軽くヤバい気がするけど、それはネギちゃんが来てからデフォルトになってるから今回は関係なさそうだねー。

「大丈夫だよ、ゆえー。何となく把握できたからー」
「そ、そうですか。のどか、が、頑張るですよ?」

 もちろん、言われるまでもなく頑張るよー。
 ナギさんの傍にいたい気持ちは誰にも負けないから、ね?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 と言う訳で、ナギさんにチョコをあげた訳です。

 一応、私の目論見としては、私の気持ちに気付いてもらって一気に関係を進めようと思ったんですけどー、
 どうやらナギさんってニブチンさんなようで、私があげたチョコを本命だって気付いてないみたいですー。
 だって、チョコをあげてからも いつも通りに「お友達」としての対応をしてくれてますからねー。

 まぁ、ちょっと残念ですけど……かなり安心したのが本音です。

 本命として受け取られても、避けられたりとかしたら私どうしたらいいかわかりませんから。
 それに、今日の態度を見ている限りでは、ナギさんにとってネギちゃんは「妹」って感じですからね、
 ネギちゃんは私のライバルにすらなっていないんで、子供と戦わずに済んで一安心なんですよー。

 でも、和泉さんと春日さんと後輩ちゃんとウルスラの先輩が危険ですから、要注意ですー。



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Part.06:うごくせきぞう があらわれた


「……ふぅ、ようやく到着したね」

 いや、本当に ここまでは随分と長く、そして険しい道のりだった。恐らく、一本の映画が撮れてしまうくらいの冒険だったに違いない。
 何だかダンジョン攻略など ほとんど触れられていないような気がするが、インディ・ジョ○ンズも納得するレベルの壮大なスペクタルだった。
 具体的に言うと「これ標高 何メートルあるのさ?」とツッコみたくなるような本棚(と呼んでいいのか わからない何か)の上を歩いたり、
 ぶっちゃけ「ここは どこの絶壁ですか?」と小一時間くらい問い詰めたくなるような本棚をロッククライミングしたり……実に大変だった。

(って言うか、いくら罠を避けるためとは言え女のコ達と一緒に匍匐前進をするのって どうだろう?)

 しかも、女のコ達は(何を考えているのかは不明だが)探索するのに何故か制服を着て来たから全員スカートだった。
 つまり、ナギには見る気がないのに、迂闊に前を見るとスカートの中が見えてしまえる状態だったので実に羨ましい。
 あ、いや、実に恨めしい――でもなくて、実に けしからん。罰として その時の状況を詳しく述べてもらいたいものだ。

(ちなみに、夕映ってば原作通りにアダルティな下着を履いてたんで ちょっとドキドキしました。もちろん、主に下半身が)

 いや、シッカリ見てんじゃねぇか!! ってツッコミは許してあげて欲しい。何故なら、ナギも男の子だからだ。
 ロリコンの気があるナギだが、健全な男子中学生でもあるので女子中学生のスカートの中身が気になって仕方ないのだ。
 しかも、ナギは眼も記憶力も良いので、偶然 見えてしまっただけでもシッカリと脳内に記憶されてしまったのだ。

 ふとした瞬間に、ナギの脳裏にハッキリと「ロリボディとアダルティな下着」が浮かび上がってしまうらしい。

(ところで、ここで「よっしゃーー!! 今晩のオカズゲットだぜ!!」とか言ったら、ドン引きされるのかなぁ?
 オレなら間違いなくヒくけど、それと同時に妙な妄想が頭に浮かび上がって ちょっとウハウハしてしまうんだけど?
 それってオレが特殊だから なのかな? それとも、意外と万人共通のものなのかな? ……実に悩ましいね)

 恐らく前者だが、後者の可能性もある。世の中にはいろいろな人間がいるのだ。

 ところで、目的地に着いた筈のナギが何故にアホなことを延々と考えているのか と言うと、それには それなりの訳がある。
 と言うのも、ゴーレムと言うべきか動く石像と言うべきか判断に迷う謎の物体がナギ達の行く手を塞いでいるからである。
 しかも「ここを通りたくば、ワシの出す問いに答えるのじゃー」とか言っちゃっているので現実逃避も止むを得ないだろう。

 むしろ、現実逃避以外に何をすればいいのか わからない。最早そんな気分なのだ。

(だから、ついつい女子のスカートの中身に思考がいってしまったとしても仕方がないんじゃないかな? いや、むしろ、当然のことにだって。
 って言うか、特に今のオレは男子中学生だから、某糸色先生が表現したように『波ですら感じてしまう』程に性欲が有り余っている訳だし。
 むしろ、若さに任せて暗がりで暴走しなかったことを褒めて欲しいね。だって、四つん這いになった女のコの お尻が目の前にあったんだよ?
 見方によっては誘っているようにしか見えないんだから、襲い掛からなかっただけでもオレは充分に頑張った筈だよ。誇っていいに違いない)

 もちろん、そんな訳がない。現実逃避は認めるが、その方向性は間違っている気がしてならない。

 いや、ある意味では正しいのかも知れないが、普通に考えると間違っているだろう。
 と言うか、このまま続けさせると、作品をXXX版に移動させなくてはならなくなる。
 だから、ナギの方向性は間違っていることにして置こう。少なくとも、この場では。

「あのー、ナギさんー」

 ナギが現実逃避気味にピンク色の思考を展開させようとしたところで、隣にいた のどかが遠慮がちに呼び掛けて来た。
 遠慮がちなのは、のどかも状況に対応し切れていないからだろう。別に、ピンク色の思考を読まれた訳ではない筈だ。
 仮に読まれていたら もっと反応は冷たかっただろう。何故なら「特に のどかって襲いやすそうだな」とか考えてたからだ。

「そろそろゴーレムさんの相手をしてあげないと 可哀想ですよー」

 のどかの言う通り、動く石像的なゴーレムはデカい図体を小ぢんまりとさせて床に「の」の字を書いていた。
 サイズがアレだし中身がアレなので、とてもシュールな光景だ(関わりたくないことこのうえない)。
 きっと、ナギが何も反応せずに現実逃避をしてスルーしていたのが効いたのだろう。無視は地味につらいのだ。

(でも、全然 可哀想ではないんだけどね)

 何故なら、あのゴーレム的な動く石像は、ナギに向けて「今、一番 好きな女子(おなご)は誰じゃ?」とか訊いて来たからだ。
 中の人の正体に想像が付いているナギは取り合うに値しないと判断し、盛大に無視をして現実逃避に耽っていたのである。
 まぁ、中の人としては「そんなん言えるかボケェ!!」ぐらいの反応が欲しかったのだろうが、ナギはそんなに優しくないのだ。
 と言うか、場の空気が冷た過ぎるうえ重過ぎたので、ヘタなこと言うとナギまで飛び火しかねないためツッコミは控えたのである。
 ちなみに、ナギは「くだらないから場が凍った」と判断したが、実は「みんな興味が有り過ぎて場が凍った」のは言うまでもない。

「……のどか? ゴーレムなんていないよ? 少なくとも、オレには見えない」

 ナギは真面目な表情を作って のどかの説得に掛かる(もちろん、二人の会話を聞いているだろう他のメンバーの説得も含んでいる)。
 何故なら、動くゴーレム(中に近右衛門の気配)は隅っこの方で体育座りをしているため、今ならば余裕で通行が可能だからである。
 虎穴に入らずとも虎子を得られると言うのに、態々 虎穴を掘り起こして虎穴に入るのは愚の骨頂だろう。ここはスルーするのが吉だ。

「え? でも「アレは目の錯覚だ!!」……え?」

 ナギは力強く言葉を紡ぎながら、目だけでゴーレムな石像(いまだに落ち込んでいる)を示す。
 その意図は「このまま放置しておけば難なく目的を達成できるだろ?」と言ったところだろう。
 余計なことをして余計な手間を増やすのは得策ではない。つまり、放置したままがベストなのだ。

「あ、あ~~、何だか私も そんな気がしてきましたー」
「そうだろ? オレの心の中のエンジェル様もそう仰ってるぜ?」

 と言うことで、ゴーレム(?)は放置する流れとなり、それを察した近右衛門がスンナリと通してくれた。
 きっと、ナギ達の「放置と言う名のリアクション」に満足したのだろう、それくらいの空気は読める筈だ。
 いくら悪ノリが好きな近右衛門と言えども、空気を更に重くするようなバカな真似はしないだろう。

 そんなこんなで、ナギ達は無事にゴーレム(多分)を遣り過ごして『メルキセデクの書』を入手したのだった。


 


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オマケ:課題の成果


「学園長先生、これが御所望の『メルキセデクの書』です」

 図書館島から無事に脱出した後、ネギは『メルキセデクの書』を近右衛門に渡すために学園長室を訪れていた。
 近右衛門は差し出された書物を受け取ると、軽く中身を確認する(確認するまでもないので、儀礼的な確認だ)。

「……うむ、確かに『メルキセデクの書』じゃ。任務、御苦労じゃったのう」

 近右衛門は中身の確認を終えると、疲れたような表情を精一杯に取り繕ってネギに労いの言葉を掛ける。
 ちなみに、ネギは「きっとボク達の様子を『遠見』とかで見守っていてくださったんでしょうね」と解釈したが、
 実際はゴーレムの件(悪ノリが過ぎたために無視された)が精神的にキているだけなので同情の余地などない。

「いえ、みなさんの協力があったればこそです」

 まぁ、ネギの解釈は間違ってはいない。疲れているのはゴーレムの件だが、様子を見ていたのも確かなのだ。
 そのため、報告は不要と言えば不要なのだが、ネギはどうしても報告して置きたいことがあったので報告した。
 それは「今回の課題に隠されたメッセージ」に気付いたことである(あくまでもネギが そう解釈しただけだが)。

「今回の課題の真の目的は『如何に魔法を使うか?』ではなく『如何に困難に立ち向かうか?』だったんですね?」

 課題を行う前、木乃香達が同行するのは「助けてもらうのと同時に秘匿の訓練をさせるため」とネギは判断した。
 そのため、魔法は可能な限り使わず、仮に魔法を使う場合でもバレないように使うつもりでネギはいた。
 だが、それは間違っていた。近右衛門の本当の意図は「魔法を使わずに物事を解決させること」だったのだ。

 実はと言うと、ネギの意識の中には魔法使い特有の選民思想(魔法は素晴らしい)が僅かだがあった。

 だが、ネギは今回の課題を通して気付いたのだ。人間の能力は魔法だけで決まる訳ではないことを。
 魔法なんてなくても人間は困難を乗り越えられる。そんな当たり前のことに やっと気付けたのだ。
 ナギがゴーレムを言葉だけで退けた時「こんな遣り方があるのだ」とネギの中で世界が大きく変わった。

 魔法学校では「魔法こそすべて」と言わんばかりに魔法を重視していたが、それは傲慢でしかなったのだ。

(魔法なんて人間の一能力に過ぎません。いえ、正確には、他の能力の補助程度のものでしかなかったんです。
 その証拠に、ボクは魔法を使わずに今回の『一人前の魔法使いになるための課題』を成し遂げられました。
 もちろん、これは みなさんの御助力があったからこそ成し遂げられたことです。ボク一人では不可能でした。
 地図を見たところでボクには最適なルートもわかりませんし、トラップが何処にあるかもわかりません。
 それに、トラップを解除することもできませんし、作動したトラップを無力化することもできませんでした)

 魔法を使えば強引にトラップを無視して進めただろうが、逆に言うと「魔法を使わなくても協力し合えば困難に打ち勝てる」のである。

(おじいちゃんが言っていた『わずかな勇気が本当の魔法だ』って、このことを言っていたんでしょう。
 困難に対して勇気を持って立ち向かうことは、魔法を使えることなんかよりも とっても大事なことです。
 と言うか、魔法を使えようが使えまいが、困難に立ち向かおうとしなければ何も意味がないですもんね)

「メルディアナの校長先生にいただいた言葉の意味を改めて実感しました。これからも御指導 御鞭撻の程よろしくお願いします」

 ネギは近右衛門に敬意の籠もった視線を送る。それを受けた近右衛門は「予定と少し違うんじゃがなぁ」と内心で困っていた。
 近右衛門としては「今回は秘匿の重要性に気付いてくれれば充分」だったので、魔法の絶対視を崩せるとは思っていなかった。
 幾度かの課題を通してから気付かせる予定だったので、初回で「魔法は絶対ではない」と気付かれるのは予定とは違うのだ。

 だが、予定と違うとは言っても、ゴーレムの件で蔑視されるよりはマシだろう。

(そもそも、今回で「ネギ君の人間性を過小評価していた」と言う教訓を得られたのじゃから、次から気を付ければええだけじゃ。
 それに、このまま成長していけば、「力に振り回されることのない人間」に育つ可能性が高いことがわかったのも大きな収穫じゃ。
 つまり、予定が早まるだけで何も問題はないんじゃからな。木乃香や那岐君のことは残念じゃったが、また機会はあるじゃろうて)

 実は、近右衛門の真の狙いはナギや木乃香への魔法バラしだった。

 詠春は木乃香が魔法を知ることを望んでいないし、近右衛門も できれば木乃香に魔法と関わらないでいて欲しいと願っている。
 だが、木乃香の立場や素質を考えると、いつまでも無関係ではいられないのは明白だ。どれだけ引き伸ばせるか と言った状態だ。
 そのため、近右衛門はネギを言い訳にすることを考えた。ネギのせいで魔法を知ってしまったことにして、詠春を説得したかったのだ。

 サウザンド・マスターの娘であるネギがやったことなら「仕方がない」と納得してくれるだろう と期待したのだ。

 だが、結果は近右衛門の狙いと大きく外れ、魔法はバレなかった。むしろ、ゴーレムに深くツッコまれていたら自分がバラすところだった。
 悪ノリが過ぎたと言うか、ネギやナギを舐めていたのだろう。ネギは魔法での解決を求めなかった。いや、ナギが解決してしまったのだ。
 そのため、ナギも木乃香も魔法を知らないまま今回の課題は終了となった。二人にはバレてもらいたかったのだが、そうはいかなかったようだ。

(狙いとは ちと違うが、そもそもが欲張り過ぎじゃったな。まず、次の課題で那岐君にバラし、木乃香は その次の課題でバラせばよかろう)

 それに、ナギと木乃香以外にも一般人はいた(のどか と夕映だ)ため、今回はバレなくてよかったかも知れない。
 バレてしまったら記憶を消せば良い とは言っても、態々バラしたことをフォローするのは何かが違うだろう。
 勝手な都合でバラして勝手な都合で記憶を消すのだから身勝手もいいところだ。だから、今回はバレなくてよかったのだ。

「…………うむ、ネギ君が『(人格的な意味で)立派な魔法使い』になれるよう、ワシも最大限の助力をしようかのぅ」

 近右衛門は今回の件に結論を下すと、意味ありげな笑みを浮かべながら、ネギに「人格を重視した教育をする」とも取れる宣言をする。
 それをネギが何処まで汲み取ったのか は定かではないが、ネギは意志の強い瞳を浮かべて「ありがとうございます」と頭を垂れる。

 そして、用件を終えたネギは学園長室を後にする。その胸は『わずかな勇気』と『未来への希望』で溢れていたのは言うまでもないだろう。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、今回(2012年3月)大幅に改訂してみました。


 今回は「2話で近右衛門が思い付いたオチャメを発動させてみた」の巻でした。

 前回のバレンタインイベントが こんな形で繋がっていたのかーって納得していただけると有り難いです。
 主人公がバイトせねばならず、そのバイトを理由にフラグの回避ができなくなる……そんな状況を作りたかったんです。

 ところで、のどかのキャラが変わりまくりってますね。のどかファンの方には ちょっと申し訳ないです。
 ですが、ポケポケしたコはネギ一人でお腹いっぱいだったもので、こうなることはある意味で必然だったんです。
 プロット段階から、すごく自然な流れで「本屋ちゃんは ひぐらしのレナっぽくしよう」と決まっていたのです。

 ……自分でも、何でそんな発想になったのか はわかりませんが、ボクとしては「これはこれで有り」だと思います。

 あ、おわかりでしょうが、たまたま廊下に居た後輩ちゃんって愛衣のことですから。
 お姉さまに知らせなければ!! って感じでテンパっていた と思って置いてください。
 ついでに、のどかが「ウルスラの先輩(高音)」の存在も把握していたのは、
 ネギだけではなく のどか(+ 夕映)も主人公のストーキングをしていたからです。
 ネギが「純粋な好奇心」だとすれば、のどかは「情報収集が勝利の鍵」って感じです。

 ……すみません、何だか自分で言ってて何を言っているか わからなくなってきました。

 しかし、よくよく考えてみると、ネギも木乃香も夕映もそんなに活躍してませんでしたね。
 まぁ、今回は のどかが主軸だったので次回以降で活躍するってことで納得してください。


 ……では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2009/07/31(以後 修正・改訂)


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