第41話:夏休み、始まってます
Part.00:イントロダクション
時間軸は一気に飛んで夏休み。
まぁ、学園祭の後には期末テストなどのイベントもあったのだが、
特筆すべきことは起こらなかったので、割愛させていただいただけだ。
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Part.01:千の呪文の男
そこは森に囲まれた小さな砦。その砦の規模が その国が小国であることを雄弁に物語っている。
その国の名はウェスペルタティア王国。歴史と伝統のある――否、歴史と伝統しかない小国である。
……そんなウェスペルタティア王国は今 絶体絶命の危機を迎えていた。
空には空を埋め尽くさんばかりに広範囲に展開した数多の飛空船が見える。
そして、地には巨人兵とでも称すべき巨大な人型の兵達が群れを成している。
それらが その小国を目指して進軍しているのだ。まさに絶体絶命だろう。
だが、それらと対峙して一切の恐れを見せずに悠然と構える影が一つだけ浮かんでいた。
全身を覆うローブを纏っているためか、その正体は遠目には よくわからない。
だが、手にした巨大な杖が雄弁に語っている。その影が魔法使いであることを。
そして、大軍を前に威風堂々と構える様が その圧倒的な自信を雄弁に語っている。
「『黄昏の御子』だが何だか知らねーが、そんなガキを担ぎ出すまでもねぇ!! 後はオレに任せて置きな!!」
影は そう豪語すると、手にした杖を振りかざして巨大な雷の渦を生み出す。
その雷は暴風の様に戦場を吹き荒れ、飛空船と巨人兵を次々と薙ぎ倒す。
それはあたかも「これこそが『雷の暴風』だ」と語っているかのようだった。
そして、その余波を受けたのか、目深にかぶっていたフードがはためき、その相貌が露となる。
そこには、目の覚めるような赤髪があった。血のようなドス黒い赤ではなく、太陽の様な暖かで鮮烈な赤だ。
その赤を見た人々は「紅き翼」やら「千の呪文の男」やら「連邦の赤い悪魔」やらと口々に その人物を呼ぶ。
その声を聞いた影はニヤリと言う擬音がピッタリの皮肉気だが楽し気な笑みを形作ると、人々を振り返る。
「そう!! オレの名はナギ・スプリングフィールド!! またの名をサウザンド・マスター!!」
そして、影――ナギ・スブリングフィールドは高らかに名乗りを上げると、懐からメモ帳を取り出す。
そして、ナギは「え~~と『百重千重と重なりて 走れよ稲妻』」などとメモ帳をブツブツ読み上げる。
その紡がれた言葉は『力』ある言葉。この世に魔法を顕現させるために唱えられる、精霊への呼び掛け。
メモ帳を読み上げる と言う常識から逸脱した詠唱方法だが、詠唱は詠唱だ。要は精霊に伝わればいいのだ。
「行くぜ、オラァアア!! 『千の雷』ぃいい!!」
ナギの怒声と共に雷鳴が轟き、飛空船と巨人兵に数多の雷光が襲い掛かる。
その威力は先程の『雷の暴風』とは比べるべくもない程に強力だった。
その名の通り、千にも及びそうな雷の奔流が戦場を縦横無尽に駆け巡る。
後に残ったものは、残骸と成り果てた飛空船と塵に還った巨人兵だけだった。
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「よぉ、坊主。名前は?」
戦場を後にしたナギはウェスペルタティア王国の砦の最上部へと舞い降りる。
そこには、人形と見間違える程に生気が乏しい少年が鎖に繋がれて座していた。
その足元には儀式用と思われる魔法陣が描かれており、その待遇が窺い知れる。
「な、まえ……?」
「そうだ、名前だ」
少年は無表情のまま無感情に問い返し、ナギは目線を合わせながら穏やかに微笑んで肯定する。
ナギの声音は何処までも優しく、それまで戦場を駆け巡っていた人物とは思えない程だ。
いや、もしかしたら、こちらが本当のナギであり、戦場の彼は彼の本質ではないのかも知れない。
「……アセナ。アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア」
少年――『アセナ』は記憶を掘り返し、その名を告げる。その声音は機械的であり、応えたのも訊ねられたから応えたに過ぎない。
何故なら、『黄昏の御子』として生かされて来た『アセナ』にとっては、己の名前など己を識別する記号の一つに過ぎないからだ。
そう、『アセナ』は自身の名を呼ばれることに特別な意味を感じない――「アレ」や「コレ」と呼称されることと何も変わらないのだ。
「長ーな、オイ。けど……アセナか。いい名前だ」
ナギが機械的に紡がれた言葉を どう捉えたかは定かではないが、ナギは慈愛に満ちた表情で『アセナ』の言葉に応える。
そして、場を盛り上げるためか、「何たって、オレ様と同じ『ナ』が付いているからな」とバカみたいな言葉を続ける。
だが、それは失敗だった。『アセナ』は「……そう」としか反応しなかったし、周囲の人間も生暖かい目で聞き流していた。
「よ、よーし!! アセナ、ちょっとだけ待ってな。オレが――いや、オレ達が全てを終わらせてやるからな!!」
己の失態を感じ取ったのか、ナギは気を取り直すかのように話題を変えると再び戦場に舞い戻って行く。
先程 第一波を壊滅させたとは言え、所詮は第一波に過ぎない。第二波、第三波が襲い来ることだろう。
だが、ナギに恐れはない。どんなに劣勢であろうと、己と己の仲間達なら乗り越えられると確信しているのだ。
その自信は雰囲気となって強烈なまでにナギを輝かせる。そう、暗闇の中にいた『アセナ』すらも照らすかのように……
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「……うん、まぁ、わかってたよ? 記憶を夢見てたってことくらい、わかってたよ?」
今日は夏休みの初日である。目覚めは悪くない――と言いたいところだが、実際は すこぶる悪い。
原作と同じタイミングで同じような夢を見るとは……これが修正力と言うヤツなのだろうか?
などとアセナは益体もないことを考えながら身体を起こすと、軽く伸びをして身体を目覚めさせる。
「さぁて、グダグダ言っていても始まらないから、夢のことは置いておくことにして……今日も一日、頑張ろっかな?」
まぁ、夏休みの初日であることを考えれば、夢見が悪いのは幸先がよくないことになるだろう。
だが、だからと言って、それを気にしていても意味がない。むしろ、より悪化するかも知れない。
そんな訳で、アセナは溜息を吐きながらグダグダ・ダラダラしたい気持ちをスッパリと切り替える。
何故なら、アセナの多忙な夏休みは まだまだ始まったばかりだからだ。
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Part.02:雪山でサバイバル
「……何て言うか、無茶振りも過ぎると笑うしかなくなるよねぇ」
あれから少々の時が過ぎ、夏休みが始まって数日が過ぎたところだ。現在、アセナは『別荘』の中で絶賛 遭難中だった。
と言うのも、エヴァから課せられた「そのまま雪山で生き延びろ」と言う無茶としか言えない無理難題のせいである。
イメージとしては、明日菜がエヴァにやらされたものに近い。ただし、期間は一週間ではなく一ヶ月となっているが。
まぁ、一ヶ月と言っても『別荘』の中での時間なので、現実の時間としては30時間(1日程度)なのが救いと言えば救いだが。
ちなみに、別に「ネギま部」を作ろうとしてエヴァに実力不足を指摘された訳でもネギと模擬戦をして負けた訳でもない。
外が「うだるように暑い」ので『南国』でリゾート気分を満喫していたら「ダラケ過ぎだ!!」とエヴァにキレられただけだ。
「確かに、ここは暑くないよ? でも、暑くないって言うレベルじゃないよ? 最早 寒いと言うよりも痛いんだよ?」
アセナの格好はアロハシャツにバミューダパンツと言う、ラフ過ぎる格好である(リゾート気分だったのだから当然だ)。
普通なら、とっくの昔に凍死しているだろう。真夏に対応した服装なのだから、極寒の雪山で過ごせる訳がないのだ。
だが、何故かアセナは生きていた。もちろん、魔法具を利用した訳ではない(と言うか、魔法具は取り上げられているし)。
余談だが……この『雪山』、タカミチがより苛酷な環境を望んだので、もともとあった『北極』を進化させたものである。
ちなみに、進化したのは『北極』だけではない。『砂漠』は『熱砂』に、『密林』は『樹海』に、それぞれ進化している。
「まぁ、とにかく……やっててよかった『咸卦法』ってところかなぁ?」
何だか某公○式みたいな言い方で評しているが、『咸卦法』がなければ死んでいただろうことを考えると本当にやっててよかった。
アセナは これまでの修行(と言う名の虐待)の中で身体能力も格闘技術も飛躍的に向上したし、いつの間にか『気』も使えていた。
だが、だからと言って極寒に耐えられる訳ではない(単に『気』を纏うだけでは無意味であり、耐寒用の術式を組む必要があるからだ)。
アセナが耐寒効果もある『咸卦法』を使っていなければ(つまり、『咸卦法』を習得していなければ)、アセナは凍死していただろう。
もちろん、「『咸卦法』を習得していた」』とは言ったが「『咸卦法』を効率的に運用できるレベル」にまで達していた訳ではない。
そもそも、『咸卦法』とは『魔力』と『気』と言う反発する『力』が合わせることで爆発的に『力』を高める技法である。
そのため『咸卦法』を用いている間は『魔力』も『気』も減少していく。常にガソリンを投入しているような状態だ。
この状態は某狩人作品の『念能力』で言うところの『練』や『堅』のようなもので、持続時間を延長するには長期間が必要となる。
今のアセナなら、おおよそ30分くらいでガス欠となるだろう。つまり、この状態を持続させるだけでは30分後には凍死する訳だ。
ならば、どうするか? この状態の持続時間を延長するのが一朝一夕では不可能ならば……この状態を変えればいいだけである。
この状態の出力を100%とするなら、出力を10%に抑えれば300分は運用できることになる。そう、出力を抑えればいい のだ。
「とは言っても、実際にやるのは非常に難しいんだけどね。まさしく『言うは易し、行うは難し』だよ」
溢れようとする『力』を抑えるだけなのだが、そもそも『力』を常に爆発させているようなものなので、調節は困難だ。
少し下げようとしただけで一気にゼロまで戻ってしまうし、徐々に下げようとしてもガックンガックン下がってしまう。
イメージとしては、素人がF1マシンを乗りこなそうとするようなものだ。出力が高過ぎて細かい制御ができないのである。
「まぁ、とりあえずは『こんなもん』かな?」
しかし、いくら困難とは言え できない訳ではない。特に、今のアセナは命が懸っているので、その集中力は凄まじい。
最初こそ悪戦苦闘していたが、10分もすればコツがわかり、そこから5分で「及第点レベル」ぐらいの制御が可能となった。
先程の数値で言うなら、現在の出力は15%と言ったところだろう。これより下げるには まだまだ訓練が必要なようだ。
もちろん、このままではタイムリミットが延びただけなので、体力と精神力を回復させなければ、終わりは見えているが。
「諸々の回復には寝るのが一番いいんだけど……寝たら『咸卦法』が解けそうだなぁ」
先程の某狩人作品の例で言うなら、最初の独楽男戦で主人公が回避に専念したら『纏』が解けてしまったように、
現在のアセナでは、意識せずとも『咸卦法』を展開したうえに『出力の制御』をできる程には慣れていないのだ。
まぁ、100%の『咸卦法』ならば寝ていても発動できそうだが、回復量より消費量の方が多いので無意味だ。
「ってことで、まずは洞窟を掘って少しでも寒さを和らげよう。んで、出力を抑える訓練をして、眠れるようになるまで慣れよう」
洞窟を掘るのは、無意識化での制御が間に合わなかった時の保険であり、素の状態のままでも短時間の休息を可能とするためだ。
極寒の状態で寝たら凍死してしまう と思われがちだが、体温が低下し切る前に眠りから覚めれば体力も気力も回復できるのである。
そんな訳で今後の方針は固まった。方針と言っていいのか は極めて微妙だが、少なくとも為さねばならないことは理解できた。
後は実行するだけだ。実行できるか否かは非常に危ういが、実行するしかない。アセナは こんなところで死ぬ訳にはいかないのだ。
まぁ、本当に危なくなった時にはエヴァが助けてくれるだろうが、それでも『この程度』で音を上げる訳にはいかないのである。
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「そう言えば、『咸卦法』は試してみましたか?」
学園祭も終わり、日常生活に戻った(と言うか、拷問に近い修行の日々に戻った)頃、アセナはアルビレオの元を訪れた。
もちろん、会話だけなら『念話』で事足りる。「偶には御茶会でもしましょう」と誘われたので、態々 足を運んだのである。
まぁ、別に誘いを断っても良かったのだが、「態々 呼び出すのだから、何か目的があるのだろう」と判断したらしい。
そして、御茶会は普通に進み、アセナが「まさか単に御茶会がしたかっただけ?」と危ぶんだ頃、アルビレオが切り出したのが上のセリフである。
「かんかほう? ……ああ、タカミチの使う『ヘル・アンド・ヘヴン』のことですね?」
「……ええ、まぁ、それです。と言うか、その反応からすると、まだ試してないんですね」
「いや、まぁ、試すも何も、使えるとは思っていなかったんで試すまでもなかったんですよ」
アセナの表現にアルビレオは「だいたい合ってるけど何かが違いますねぇ」と思いながらも頷き、アセナは罰が悪そうに応える。
「って言うか、もしかしなくても、オレも『咸卦法』が使えるってことなんでしょうか?」
「恐らくは、ですが。アセナ君も明日菜嬢と同様に我々との旅行中に習得してましたからね」
「ああ、なるほどぉ。身体が覚えているかも知れませんから、試してみる価値はありますねぇ」
アスナの記憶がない明日菜でも『咸卦法』を使えたことを踏まえると、『アセナ』の記憶がないアセナでも『咸卦法』が使える可能性は高い。
それ故に、アセナはアルビレオの「では、試してみましょうか?」と言う問い掛けに「是非とも お願いします」と乗り気で応えるのだった。
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「まずは……何も考えずに、自分を『無』にしてみてください」
広場(と言うか、アルビレオの住まう庭園にある、少し開けただけの場所)にて真剣な面持ちで対峙する二人。
普段(36話での対話以外)の二人に流れる雰囲気(遊び心が満載)を考えると、実に違和感のある光景だろう。
まぁ、アルビレオが「先生役ですから」と言いた気に眼鏡を掛けているので、実は いつも通りかも知れないが。
だが、アセナの方は至って真剣だ。「『無』にしろって言われてもなぁ」などと文句は言わずに大人しく実践を試みる。
より集中するためか、アセナは自然と目を閉じる。そして、身体からは緊張を抜き、完全に脱力した状態を作り出す。
気を抜く意味での『脱力』ではない。無駄な力や強張りなどを一切なくした、自然体そのままの『脱力』である。
それっぽく言うならば、宮本 武蔵の描いた自画像の立ち姿のようなものだ。『力』は抜いていても『気』は抜いていない。
「次は、左手に『魔力』を、そして 右手に『気』を生み出してください」
アセナは、ネギに『魔力供給』をした時の感覚を思い出しつつ「こんな感じかな?」と やってみただけで『魔力』の放出に成功する。
もちろん、ネギへの『魔力供給』はカードによる作用でしかないので、本来なら その程度の経験だけでは『魔力』は放出できない。
まぁ、エヴァの修行で『気』を習得していたことも関係あるだろうが、身体が『アセナ』の頃の感覚を覚えていたことが大きな原因だろう。
「そして、最後は……両手を合わせて『合成』し、完了となります」
アルビレオの言葉に従い、アセナは『魔力』を宿した左手と『気』を宿した右手を触れ合わせる。
その瞬間、相反する二つの『力』は反発し合いながらも混ざり合って莫大な量の『力』を生み出す。
当然、アセナの両手だけでは『力』は収まり切らず、アセナの両手を中心に『力』の奔流が迸る。
「おぉっ!? 本当にできたっ!!」
とめどなく溢れ出す『力』に、アセナは純粋な驚き と僅かな喜び を見せる。
アセナにとって戦いは避けるべきだが、力を持つことは避けるべきではないのだ。
「……『恐らくは』と、言ったでしょう? できる可能性の方が高かったんですよ」
「まぁ、そうですね。ですが、何故そんなにビックリした顔をしてるんですか?」
「いえ、別に『まさか一回目で成功させるとは……』とか思った訳ではありませんよ?」
わかりやすい反応を見せるアルビレオ。どうやら、シリアスタイム(きっと3分間しかもたない)は終わったようだ。
「つまり、思ったんですね? って言うか、できる可能性の方が高かったんですよね?」
「まぁ、それもそうなんですが……『自分を無にする』辺りで躓くと思ったんですよねぇ」
「ああ、それなら、ナギ時代(前世)に『坐禅』をやらされてたんで、その御蔭ですね」
どうやら「三千院家の執事たる者、それくらいは『嗜み』である」と言うのが元上司の考えらしい(もちろん、ツッコんではいけない)。
「……いやぁ、つくづく執事と言う職業が『謎の職業』になっていた世界でしたねぇ」
「まぁ、『ここ』の教師も充分に『謎の職業』ですけどね。主に魔法先生的な意味で」
「それは否定できませんねぇ。あ、ところで……確か、必殺技もあったんですよね?」
「ええ。一流の執事たるもの必殺技の一つや二つを持っているのが当然の世界でしたからね」
繰り返しになるが、ツッコんではいけない。「そんな執事いる訳ねぇ!!」と思ってもツッコんではいけないのだ。
あ、ちなみに、正式には『必殺技』ではなくて『シツジツゴウケン』と言う呼称で呼ばれる特技らしい。
メイドさんの特技が『メイドノミヤゲ』と呼ばれていたので、それと区別するように呼ばれていたようだ。
まぁ、言い方が違うだけで要は必殺技でしかないため、別に『必殺技』と言う呼称でも問題はないらしいが。
敢えて言うなら「気分が違う」らしいのだが……『必殺技』の方がマシな呼称な気がするのは気のせいだろうか?
「なるほどぉ。ちなみに、ナギ君の『シツジツゴウケン』って、どんなものなんでしたっけ?」
「……『薙掃(なぎはらい)』と言う名前で、広範囲殲滅をも可能とするMAP兵器的な蹴技でした」
「ほほぉう? MAP兵器ですか……察するに、中級以上の攻撃魔法と同等と言ったところですね?」
どんな蹴技だろうか? ちなみに、名前が残念なことは やっぱりツッコんではいけない。それが大人の優しさだ。
「まぁ、そんな感じですね。もちろん、威力や範囲は調節可能で、対人にも対軍にも使えました」
「なるほどぉ。実に興味深いですねぇ。って言うか、それって今でも使えるんですよね?」
「まぁ、多分ですが。あっちの『オーラ』が、ここの『魔力』や『気』に相当してますからね」
「なるほど なるほど……では、是非とも見てみたいですね。ちょっと、やってみてください」
アルビレオはアセナの話に興味深そうな反応をすると、『冥府の虚像』を無詠唱で行使する。
ちなみに、『冥府の虚像』とは、フェイトの使う『冥府の石柱』と字面が似ている通り、似た効果の魔法である。
ただし、『冥府の石柱』が大質量の石柱を召喚するのに対し、『冥府の虚像』は大容量の重力場を生み出すため、
召喚されたものが落下によって生み出す運動エネルギーが無い分、『冥府の虚像』の方が防ぐのは楽かも知れない。
まぁ、押し潰すと言う側面においては石柱よりも重力場の方が優れているため、甲乙の付け難い関係にあるのだが。
「……貴方も大概に無茶苦茶ですねぇ。まぁ、こうなってしまっては、やってみるしかないですけど」
アセナは嘆息しつつも意識を切り替え、『咸卦法』で得た『力』を下半身と体幹に集中させる。
そして、腰を落として右半身を後ろに持っていくように身体を大きく捻り、一気に蹴り抜く。
そう、蹴足や軸足だけでなく体幹も強化したのは、腰を回転させたエネルギーも強化するためだ。
パァァアン!!
その蹴りは、音の壁すら突き抜けた。音速を超えたことで生じる衝撃波については説明するまでもないだろう。
しかも、アセナは蹴り抜くと同時に『咸卦法』の『力』を解き放っているため、生み出されたのは衝撃波だけではない。
いや、正確に言うならば、生み出された衝撃波に『咸卦法』の『力』を宿すことで莫大なエネルギーを生んだのだ。
ドガァアアアン!!
莫大なエネルギーとなった衝撃波が空を駆け抜け、空より迫る重力場を見事に粉砕する。
どうでもいいが、これが石柱だったならば辺りは粉塵で大変なことになっていただろう。
その意味では、アルビレオは後始末も考えて『冥府の虚像』を使ったのかも知れない。
まぁ、普通に重力魔法が得意だったからかも知れないが、それはツッコんではいけないだろう。
「いやぁ、見事でしたねぇ。今のは充分に上級魔法の威力と効果範囲がありましたよ?」
「まぁ、『咸卦法』状態でしたからね。『魔力』や『気』だけなら もっとショボかったでしょうね」
「なるほど。期せずして『咸卦法』の威力も確認できた訳で、一石二鳥だった訳ですね?」
アルビレオはアセナの『薙掃』が見られ、アセナは『咸卦法』の威力が見られた。まさに一石二鳥だ。
「って言うか、『記憶の復活』の件も含めて考えると、一石三鳥くらいじゃないですか?
「いえ、記憶はあくまでも『咸卦法』を体験させることで――って、気付いてたんですか?」
「ええ。『アセナ』と同じ体験をさせることをキッカケに自然と思い出させたいんですよね?」
だが、アセナは『咸卦法』には もう一つの効果があったのではないか、と切り出す。
そして、アセナの言う通り、アルビレオの思惑は「『咸卦法』を体験させることをキッカケにして記憶を自然に思い出させることだ。
その点では、『咸卦法』を使わせたのは「記憶を自然に思い出すため」と「戦闘能力を増強するため」の二つの効果があったのだろう。
まぁ、それ故に、厳密にはアセナの言葉は正しく無いが(一石二鳥が二つあっただけで、『咸卦法』の実践と『薙掃』の実演は別問題だ)。
とは言え、アセナが一石三鳥と称したのはアルビレオにカマを掛けるためだったので、アセナの言葉が正しかろうが間違っていようが問題はないが。
「……やれやれ。言わずとも理解してくれるのは嬉しいですが、意図が見抜かれ過ぎるのも困ったものですねぇ」
「最近は好意に対しても深く考察するようにしていますので、貴方の気遣いに気付けるようになっただけですよ」
「そうですかぁ。って言うか、そう言った善意的な好意だけではなく、恋愛的な好意も敏感になりましょうよ?」
「これでも昔よりは大分マシになったと思うんですけど? 少なくとも好意を理解できるるようになりましたからね」
「昔がヒド過ぎただけで、今でも充分にヒドいですから。まぁ、言って直るようなものではないんですけどねぇ」
アルビレオの呆れを隠しもしない態度にアセナは「だったら言わなければいいのに」と内心だけで愚痴るのだった。
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「オレ、この修行が終わったら、エヴァに復讐してやるんだ」
微妙に死亡フラグっぽいことを投げ遣りに言い放つアセナ。その相貌からは疲労が垣間見える。
最終的には、1%程度まで出力を抑えることに成功し、寝ていても発動が可能にもなった。
つまり、修行の目的であろう「『魔力』と『気』の効率的な運用」は達成できた と言う訳だ。
「絶対、ゴスロリ服を着せて『また退屈がやって来た~~』とか言わせて床をゴロゴロ転がしてやる」
敢えて言うが、ゴシックとかヴィクトリカとかは考えてはいけない。単に今のアセナにとっての問題が『退屈』であるだけだ。
そう、『出力の制御』と『無意識化での発動』に成功した後は「やること」がなくなり、今度は退屈と言う悪魔が襲って来たのだ。
もちろん、極寒に対応した後は食料の確保と言う暇潰しもあったにはあったが、それも慣れてしまうと退屈になってしまった。
サバイバル能力が高いのはいいことだろうが、アセナとしては「無駄なところで無駄な才能を発揮してるなぁ」と感じざるを得ない。
まぁ、現代人の弊害と言うべきか、アセナはパソコン(エロゲー)もネット(エロサイト)も無い生活だと暇の潰しようがないのである。
仮に『蔵』や『袋』を利用できれば、そこに所蔵して置いた諸々の書籍があったのだが……エヴァに取り上げられたので、それも無理だ。
今のアセナにできることと言えば、取り止めもない空想(むしろ、妄想に近い)くらいだろう。そのうち、一人でシリトリを始めそうだ。
ある意味では、一ヶ月も退屈と戦うのは地獄に等しい生活かも知れない。「退屈と無関心が人を殺す」と言うが、まさしく その通りだろう。
当然だが、ここで「やることがないなら修行をすればいいじゃないか?」と言う発想は、アセナにはない。
アセナにとっては、『出力の制御』と『無意識化での発動』を会得した段階で修行は終わっているのである。
それに、修行をするにしても「何を どうすればいいのか?」がわからないため、修行のしようが無いのもある。
少しだけ「『感謝の正拳突き』でもやってみようかな?」とは思ったが、思っただけだ。アセナが やる訳がない。
「って言うか、修行中はゴスロリ服とか……本当に何を考えているんだろう?」
今更と言えば今更なことだが……実は、エヴァに弟子入りしたので、修行中はゴスロリ服だったりする。
もちろん、アセナが ではなく、ネギが だ。アセナがゴスロリ服を着ても「誰得だよ!?」とツッコむしかないだろう。
アセナが修行する(いや、修行をさせられる)時はジャージだ(まぁ、今回はリゾートルックのままだったが)。
ちなみに、そのジャージを洗濯する役割はネギと茶々緒が順番となっているが、その理由は深く考えてはいけないだろう。
ところで、これも今更だが、原作で明日菜が「ネギま部」を作っていたが、アセナは そんなもの作っていない。
何故ならネギはアセナを追っており、父を追い求めて魔法世界に行ったまま出奔する可能性は有り得ないからだ。
そう、ネギに「ネギま部」と言う錘など要らないのだ。むしろ、錘はアセナの方に必要な気がしないでもない。
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Part.03:苦難の果てに
「一ヶ月、持ち堪えたよ? これで文句あるのかな?」
時は過ぎ、『別荘』内とは言え一ヶ月もの時が流れた。そう、アセナは無事に一ヶ月の雪山サバイバルを終えたのだ。
途中、退屈に負けて「やっぱり『感謝の正拳突き』でもするかなぁ」とか思ったこともあったが、それは別の話だ。
何はともあれ、今は無事に終わりを迎えたことを喜ぶべきだろう。そして、隙を見てエヴァに復讐をすべきだ。
「まさか本当に一ヶ月も雪山で過ごしてみせるとはな。正直、途中で投げ出すと思っていたぞ?」
「って言うか、投げ出すにしても、『念話』すらできなかったから投げ出せなかったんだけどね」
「……まぁ、その、何だ。貴様がギブアップを宣言すれば、助けてやるつもりだったから問題ないぞ?」
「へぇ? 『そう言えば、ギブアップの方法がなかったな』って反応に見えるのはオレの気のせい?」
「も、もちろん、貴様の気のせいに決まっているだろう? 被害妄想も度が過ぎると笑えんぞ?」
誤魔化そうとするエヴァだが、当然ながらアセナが誤魔化される筈がない。だが、アセナは敢えて追及を取り下げる。
「……まぁ、その件についてはいいや。それよりも、ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」
「頼み? 貴様が頼み事をするとは――まぁ、珍しくはないか。もちろん、内容によるぞ?」
「大丈夫、無茶なことじゃないよ。とりあえずは『コレ』を着てもらえるだけで問題ないから」
アセナが(返してもらった)『袋』から取り出したのはゴスロリなドレスだ。何故に所蔵していたのかは極めて謎だが、気にしてはいけない。
「……夏場に冬服を着させる と言う復讐か? だが、私は気温など どうとでもできるぞ?」
「氷系の魔法が得意だもんね、それくらいわかってるよ。とりあえず、着て欲しいだけだって」
「ま、まぁ、貴様が そこまで言うのなら着てやらんでもないが……着替えを覗いたら殺すぞ?」
真摯な態度でドレスを着て欲しいと頼まれたエヴァは、深い意味などないことがわかっていながらも少々テレつつアセナの頼みを承諾した。
もちろん、その後は隙を見て転ばして「また退屈がやって来た~~」とか(アセナが)言いながら部屋の中をゴロゴロさせたのは言うまでもないだろう。
まぁ、その直後に「いきなり何をするかぁあああ!!」と色々な意味で激昂したエヴァにOSHIOKIされた後SEKKYOUされたのも言うまでもないだろう。
しかし、エヴァが言わなければ意味のないセリフを(言ってくれそうに無いからとは言え)自分で言うのは どうだろうか? まぁ、アセナらしいが。
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「ところで、何で一ヶ月も『山籠もり』させたの? 修行だけなら一週間で充分だったと思うんだけど?」
とりあえずの復讐が済んで満たされたアセナは、気分を仕切り直して根本的な質問を行う。
ちなみに、OSHIOKIやSEKKYOUについては気にしてはいない。復讐の連鎖は断つべきだからだ。
「いや、まぁ、アレには最近 調子付いているバカを反省させる意味もあってだな?」
「……つまり、修行だけではなくイヤガラセも目的に含まれていた と言うことだね?」
「う、うるさい!! そもそも、貴様の態度が悪いから躾が必要だったんだろうが!!」
「え? オレのせいなの? あきらかにエヴァの都合じゃん!! って言うか、躾!?」
「ええい、うるさい!! 躾がなってないのだから、必要だったら必要なのだ!!」
もちろん「『必要だったら必要なのだ!!』ってヴィクトリカかよ?」と言うツッコミは要らない。と言うか、ゴシックネタが続くが気にしてはいけない。
「そ、それはともかく!! アルビレオの件で何か申し開きがあるのではないか?」
「アルビレオの件? ……アレの変態具合はオレの関与するところではないよ?」
「違うわ!! 確かにアイツの変態具合は問題だが、今の問題は そこじゃない!!」
「じゃあ、何が問題なのさ? 趣味が悪いところとかもオレは関与してないよ?」
「私が問題にしているのは『アルビレオが麻帆良にいるのを隠していた』ことだ」
何かを誤魔化したようなエヴァの切り出しに、アセナは お返しとばかりにノラリクラリとアホな返答をする。
当然ながら、アセナはエヴァが何を言いたいのかわかっている。わかったうえでアホな返答をしているのだ。
それ故に、エヴァが溜息混じりに述べた言葉にも、アセナはわかっていながら「へ?」と心外そうな反応を返す。
「いや、『へ?』じゃない。納得の行く説明をしろ。でないと、許さんぞ」
「……ああ、つまり、アルビレオが麻帆良にいたことを知らなかったのね?」
「そうだ!! だから、何故に私にだけ隠していたのか、納得のいく説明をしろ!!」
アセナがエヴァにアルビレオの件を伝えていなかったのは、何らかの思惑があったから……ではない。単に忘れていたのである。
「いや、隠していたんじゃなくて、知っていると思ったから言わなかっただけなんだけど?」
「そ、そうか。なら、仕方がないな。ちなみに、アイツは どのくらい前から麻帆良にいたのだ?」
「ん~~、確か、10年以上は麻帆良の地下に引き籠って研究してた とか言ってた気がするかな?」
当然ながら、アセナが「忘れてた、ごめん」と素直に謝っていたら、エヴァは烈火の如く激怒していただろう(SEKKYOUじゃ済まないレベルで)。
それが予想できていたので、アセナは「知っていると思っていた」と惚けたのであり、惚けるために「わからない振り」をしていたのである。実に狡い。
「ちなみに、毎年 学園祭中は学園内を うろついていたそうだよ?」
「ほほぉう? だが、ヤツは地下から出られないのではなかったか?」
「何でも、学園祭中は世界樹の影響で学園内なら現出できるらしいよ」
「……つまり、あのボケナスビとは一度話し合う必要があるのだな?」
見事に誘導されたエヴァはアルビレオへ怒りを燃やし、いつの間にかアセナへの疑いを晴らしていたのだった。
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すべては「実は、麻帆良の地下にいるので、御茶会でもしませんか?」とアルビレオがエヴァを地下に招待したことから始まった。
アルビレオは純魔法世界人であるため「魔法世界にいるのだろう」と思い込んでいたエヴァは、その言葉に驚いた。
いないと思い込んでいたのに居たのだから――いない筈なのに居たのだから、エヴァが驚くのも無理は無い。
驚きから立ち直ったエヴァは「悪戯か?」と疑り始めたが、二人が知己であることを知る人間は極めて少ない。
その少ない人物達が こんなチャチな悪戯をするとは思えない(まぁ、やりそうな者もいるが)。恐らく、本物だろう。
しかも、アルビレオは捜し求めていた男(ナギ・スプリングフィールド)の情報を持っているかも知れないのだ。
アルビレオに会いたい訳ではないが(いや、むしろ会いたくないが)、エヴァに行かない選択肢など無かった。
「まさか、貴女が彼等を弟子にするとは……少々、いえ、かなり意外でしたねぇ」
「フン、特に他意はない。ただ単に『そう言う契約』をしただけに過ぎんさ」
「ああ、つまり、照れているのですね? わかっていますので安心してください」
「ええい、うるさい!! 照れてなどおらん!! 勝手にわかったつもりになるな!!」
「そうですか。そこまで仰るのでしたら、そう言うことにして置きましょう」
まぁ、御茶会と言う名の「ナギ・スプリングフィールドの情報提供(魔法世界に足跡があるかも知れません)」は恙無く終わった。
だが、問題は その後に起きた。情報提供が終わった後の何気ない会話でアルビレオがエヴァをからかいながら爆弾を投じたのである。
「ところで話は変わりますが……『魔法世界の崩壊』については御存知ですよね?」
「……ああ。人造異界の存在限界の関係で、近いうちに崩壊しそうなのだろう?」
「ええ。昔から可能性は示唆されていましたが、いよいよタイムリミットが来ました」
エヴァは「本当に話題が変わったな」と思いつつも、シリアスな空気なので(空気を読んで余計なことは言わずに)シリアスに応える。
「しかも、厄介なことに、あのバカは『それ』を『どうにかする』つもりでいる訳だな」
「ええ。『義を見て為さざるは勇なきなり』と言ったところでしょうね。実に彼らしいです」
「まぁ、普段はバカで変態でアホで変態だが……ここ一番では男を見せるヤツだからな」
エヴァの脳裏に「助けを求める人がいて、自分に助けられる可能性があるのなら、助けることに一切の躊躇は無いさ」と語るアセナの姿が浮かぶ。
「……おやおや? キティ、もしかして、ナギ君に惚れましたか?」
「なっ?! バ、バカなことを言うな!! 誰が あんな変態に惚れるか!!」
「別に隠さなくてもよろしいですよ? 妻帯者を追うよりは健全です」
エヴァは「キティ」と呼ばれたことにすら反応せず、アルビレオの邪推を否定することに必死になる。
「ええい、黙れ!! あんな変態など眼中に無いわ!! あと、妻帯者でも略奪すればいいだけだ!!」
「しかし、先程のセリフは『さすがは私の惚れた男だ』と言わんばかりに自慢気でしたよ?」
「う、うるさい!! ヤツは手の掛かる弟みたいなものでしかない!! 男としては まだまだだ!!」
「(あきらかに意識しているでしょうに……まったく、素直じゃないですねぇ)はぁ、そうですか」
アルビレオは略奪云々を華麗にスルーし、更にエヴァのツンデレも華麗にスルーして、それ以上の追求を諦めた。
まぁ、面倒だったからなのだろうが、それでも、アルビレオの選択は英断だった と言えるだろう。
何故なら、アセナはエヴァを『保護者』として――数少ない心から頼れる相手として見ているので、
エヴァはアセナを『被保護者』として見るしかなく、アルビレオが追求しても泥沼にしかならないからだ。
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「まぁ、とりあえず、あのエロナスビを殴って来ようと思う」
アルビレオへの怒りがキッカケとなったのか、アルビレオとの会話を思い出したエヴァは更に怒りを燃やした。思い出し怒りだ。
そして、その燃え滾る憤りを発散させんとアルビレオをフルボッコにすることを固く誓い、実行に移そうとしているようだ。
ちなみに、エヴァの表情は実に『いい笑顔』だ。もちろん、森で出会ったらクマさんですら逃げ出しそうな方向の意味だが。
「まぁ、別に止めないけど……程々にね?」
アセナは「いやぁ、エヴァの怒りをアルビレオの方誘導できて よかった」と思いながらも、それを表に出すことなく適当に相槌を打つ。
お前が誘導したんだから少しは止めろよ とツッコむべきかも知れないが、アルビレオが撒いた種でもあるので何とも言えない状態だ。
「安心しろ。アイツは殺しても死なん変態だから、手加減など要らんさ」
「そうだねぇ。むしろ、変態だからこそ殺しても死なない気がするねぇ」
「まぁ、そうだな。だから、お前も殺しても死なないんじゃないか?」
「あれ? それだとオレがアルビレオ並みの変態のように聞こえるよ?」
「うん? その通りだろう? ……まさか、そう聞こえてなかったのか?」
「いや、何故に『何で当たり前のことを訊くんだ?』って顔してるのかな?」
「異なことを訊くな。そんなこと、言わなくてもわかっているだろう?」
「うん、まぁ、わかっているよ? 単にわからない振りをしたかっただけさ」
微妙に(と言うか明らかに)酷い会話を繰り広げる二人。最終的にアセナが精神にダメージを負うのは、最早 定石だろう。
「まぁ、そうだろうな。貴様は無駄な抵抗が好きだからなぁ」
「うっさい。あきらめが悪いんだから、仕方がないだろう?」
「いや、開き直るな――と言いたいが、それはそれでいいさ」
「へ? 何で許容してんの? 逆に調子が狂うんだけど?」
「貴様はマゾの気があるからな。攻めないのも手だと思ったのさ」
「う~~ん、否定したいのに否定できない この現実がツラい」
エヴァの生暖かい理解は「仕方のないヤツだな」と言うニュアンスもあるのだが、アセナにとっては違和感しかない。実に悲しい現実だ。
「それはそうと……話は終わったから、適当にリゾート気分でも味わっていろ」
「で、その間にエヴァはアルビレオとOHANASHIする訳だね? ……わかります」
「ああ、その通りだ。訳知り顔なところに腹は立つが、今は置いておいてやろう」
そう言って「フルボッコにしてやんよ♪」と口ずさみながら出口へ向かうエヴァ。
ちなみに、アセナ達がいたのは『雪山』ではない。このPartの冒頭から『南国』だ。
修行(と言うよりはイヤガラセ)が終わったので、移動していたのである。
常人とは掛け離れたアセナ達でも『南国』の方が過ごしやすいのは変わらないのだ。
そんな訳で、ゴシックな服装をしたエヴァの後ろ姿を見ながら、アセナは ふと思う。
(ああ、そう言えば、関係ないし今更な話だけど……アルビレオに関して疑問に思ったことがあったんだ。
それは、アルビレオってエヴァを『解呪』しようとすれば可能だったんじゃないかなぁってこと。
だって、『イノチノシヘン』でサウザンド・マスターになって『解呪』すればいいだけの話でしょ?)
そうしなかったのは、ネギやアセナが『解呪』するのを待っていたのか? それとも、エヴァを麻帆良に縛り付けて置きたかったのか?
(う~~ん、原作でも『解呪』してないことやアルビレオの性格を考えると、後者の可能性がプンプンするなぁ。
好意的に解釈すると、強者に変身できる時間は短いために不可能だった と考えることもできるけど……
でも、それなら『完全再生』をすればいいだけの話だし。さすがに10分もあれば『解呪』できるだろうからね)
ナギ・スプリングフィールドが攻撃魔法以外を苦手としていても、自分で掛けた呪いくらい10分もあれば解けるだろう。
(あ、でも、『完全再生』って一回しかできないんだっけ。しかも、使っちゃうと、変身もできなくなるんだっけ。
って言うことは、ネギへの『遺言』ができなくなるから『完全再生』は使えない、か。つまり、手詰まりっぽいね。
まぁ、これは『解呪』できなかったことの説明であって、『する気がなかった』ことの否定にはならないけどね)
そう、『できなかった』ことと『する気がなかった』ことは違う。そして、アルビレオは『する気がなかった』ようにしか見えない。
(って言うか、どうでもいいけど……武道会がなかったから例の『遺言』と言うか『擬似的再会』を まだやってないじゃん。
今のネギが親父さんとの『再会』を望んでいる気はしないけど、それでも再会の機会を潰したのは申し訳ないなぁ。
ってことで、今度 それとなく聞いてみようかな? で、会いたいんだったらアルビレオに頼んで『完全再生』してもらおう)
どうでもいいところで、どうでもいいことに気付いたアセナは、エヴァにボコられるだろうアルビレオの冥福を祈るのだった。
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Part.04:夜空に咲く花
そんなこんなで日々は過ぎていき、7月27日(日)になった。
今日は麻帆良市内にある神社にて夏祭がある。原作にあったバッジ争奪戦が起きた夏祭だ。
もちろん、ネギま部がないので原作の様にバッジ争奪戦など起きない。実に平和なものだ。
ちなみに、神社は『龍宮神社』ではないし、祭は以前の話に出て来た『霊泰祭』ではない。
「うん、やっぱり、お好み焼きは関西風だよねぇ」
屋台で買った1枚500円の関西風お好み焼きをパクつきながら、幸せそうな顔で感想を漏らすアセナ。
ちなみに、普段なら「この大きさの お好み焼きに500円とか、ボリ過ぎだろ」とか言うアセナだが、
今は『お祭り』であるため そんな無粋なことは言わずに大人しく美味しく食べることにしたようである。
「まぁ、私は広島風も好きっスけどねぇ」
隣を歩いていた美空が広島風お好み焼き(やはり1枚500円)をパクつきながら、緩んだ顔で反論する。
ちなみに、同じ屋台で買ったのではなく、別の屋台の品である。値段が同じなのは調整しているからだ。
屋台としては関西風と広島風とで競っている訳ではないので、価格競争をしないのが暗黙のルールなのだ。
「別に広島風を否定する気はないよ。ただ単にオレは関西風の方が好きってだけで」
普段なら美空に懇々と関西風の素晴らしさを語るのがアセナだが、やはり、今は『お祭り』なので そんな無粋な真似はしない。
もちろん、空気を読んだのもあるが、それ以上にアセナ自身が祭を楽しみたいので、祭の雰囲気を壊すようなことはしないのだ。
そんなアセナの様子を見て「普段から これくらいだったら、ちょうどいいんスけどねぇ」と思ってしまう美空は悪くないだろう。
「それはそうと、ココネは何か食べたいものとかない?」
お好み焼きについての話題を軽く打ち切ると、アセナは美空とは逆隣にいるココネ(もちろん手を繋いでいる)に話し掛ける。
いつものことで今更なのだが……実は、アセナとしてはココネを愛でたいのだが、何故か気付くと美空と会話をしているのである。
アセナにとって美空が会話をしやすい相手であることもあるだろうが、それ以上に美空がアセナと会話したいことが原因だろう。
当然、美空のことを「気の合う友人」としてしか見ていないアセナは「何故か美空と話しているんだよねぇ」としか感じてないが。
そのため、注意してココネに話し掛けないとココネが二人の会話を聞いているだけ(つまり空気)になってしまうのである。
まぁ、アセナ的にはココネは存在しているだけで至高であるし、ココネも二人の会話を聞くのが好きなので特に問題はないのだが。
それでも、会話をできるなら会話をしたい。それはアセナの我侭だが、ある意味で正義とも言えるだろう。何故なら可愛いは正義だからだ。
「……じゃあ、カキ氷が食べたイ」
「OK。ちなみに、何味がいい?」
「ん~~、イチゴがいいカナ」
「了解。じゃあ、ちょっと行って来る」
ココネの希望を聞いたアセナはソソクサとカキ氷を買いに走る。
もちろん、先程 美空に お好み焼きを奢らされた時とは雲泥の差だ。
あの時は美空が騒ぐので、仕方なく・イヤイヤと買っていたが、
今回は自ら進んで、まるで餌に向かう犬の様に買いに走って行った。
「ああ言うヤツだってことはわかってるんスけど……無性にムカつくっスねぇ」
実にわかりやすいアセナの態度に、諦めと遣る瀬無さが混じった溜息を吐く美空。
ココネは その手をソッと握り、無言で「頑張レ、ミソラ」とエールを送るのだった。
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「ほぉら、ココネ。肩車してあげる」
楽しく屋台巡りをしているうちに時間は過ぎ、祭の終了を告げる花火が打ち上げられる時間帯となった。
先程まで祭を楽しんでいた多くの人々は、よりよい見晴らしを求めて屋台の並ぶ境内から姿を消しつつある。
アセナ達も そんな人々に倣うのか と言えば、実はそうではない。アセナ達が向かうのは帰り道である。
気持ちとしては見晴らしの良い場所で花火を見たいが、そろそろ良い子は帰って寝る時間なので仕方ない。
アセナと美空だけならば時間など気にしないが、ココネがいるので そうはいかない。早く帰らざるを得ない。
ドドーン
夜空に鳴り響く、花火の打ち上げ音。そして、それと同時に夜空に咲く、炎で彩られた華。
帰りながらでは ゆっくりとは見られないが、それでも、歩きながら見ることはできる。
それに加えて、身長の高いアセナの肩の上は見晴らしがいいので、ココネはバッチリと見える。
人が まばらであることも考えれば、ある意味では特等席とも言える場所ではないだろうか。
「いやぁ、花火はいいねぇ。花火は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」
ココネの嬉しそうな様子を感じ取ったアセナは、テンションが上がったのか、妙なことを口走る。
まぁ、妙なことを口走るのは今に始まったことではないので、ある意味では平常運転でしかないが。
「うん、まぁ、そうかも知れないっスね~~」
「……あれ? 何その反応? 薄過ぎない?」
「どんなボケにも反応する訳じゃないんスよ?」
「ええっ!? オレは頑張って反応してるのにっ?!」
基本的にアセナは どんなボケにも それなりに反応するように心掛けている。もちろん、スルーも一種の反応だ(薄い反応よりはマシだ)。
「ミソラはナギがイギリスに行くのが気に入らないんダよ」
「ちょっ、ココネ!? 何を言っちゃってるんスか!?」
「え? 何で? 土産はちゃんと買って来る予定だよ?」
ココネの暴露に近いセリフに対し、本当に不思議そうな顔で応えるアセナ。ここまで来ると態とにしか思えない反応だが、これでも素なのだ。
「あのね、ナギ……問題は『ソコ』じゃないんダよ?」
「え? 違うの? じゃあ、何が気に入らないの?」
「う、うるさい!! それくらい自分で考えろっス!!」
呆れ気味にココネが指摘するが、やはりアセナには理解できないようだ。そんなアセナへ美空が憤るのは当然のことだろう。
「あれ? 美空? 何で急にダッシュしてんの?」
「…………ナギ? いくら何でも今のはナイと思ウ」
「え? わからなかったから訊いただけなのに?」
「そもそも、わからなかったのが問題なんだヨ……」
どこまでも「何か間違えたの?」的な反応のアセナに、ココネは溜息しか出て来ない。
アセナが好意に鈍いことはわかっていたが、ここまで鈍いと最早 呆れるしかないのだ。
「ん~~、美空がオレに惚れているって言う話なら納得できるんだけど……そんな訳がないしなぁ」
美空の態度やココネの態度で思い当たる節はあるが、アセナとしては『有り得ない想定』であるため、
アセナは「解せぬ」と言わんばかりの表情で首を傾げるだけだ。もちろん、ココネを肩に乗せたまま。
当然、アセナの頭を足で挟む形で状態を安定させているココネとしてはアセナの頭部が動くのはいただけない。
「ナギ……それで正解ダよ…………」
モゾモゾと動くアセナの頭を いろんな意味で戒めるため、軽くペチペチと叩いたココネは、
アセナに聞こえない程度の声音で呟くと、走り去る美空の背中を生暖かい目で見るのだった。
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Part.05:夏の海を満喫してみた
時間は恙無く過ぎ、7月29日(火)。
そう、花火の時のフォローは特にされることなく、時間は普通に過ぎたのである。
アセナにとって美空は友達であり、美空が それを理解しながらも現状に甘んじているため、
二人の間に何らかの進展がないのは自明のことだろう。むしろ、何かが起きる訳がない。
「海やーーッ!!」
上のセリフで おわかりだろうが、アセナは今 海に来ていた。
ちなみに、同行者は木乃香と刹那の幼馴染コンビである。
もちろん、ネギは『別荘』にて修行と言う名の お留守番だ。
「なーなー、なぎやーん♪ ちょっとオイル塗ってくれへん?」
いつの間にか水着に着替えた木乃香がオイルを片手に話し掛けて来る。
先程「海やーーーッ!!」と叫んでいたことは忘れて置くべきだろう。
ちなみに、木乃香の水着は白のビキニタイプである。少し、大胆だ。
「お約束ですね? ……わかります」
実は、想定はしていたものの本当に言われるとは思っていなかったので、
アセナは うんうん頷いて平静を装っているが、内心では絶賛 混乱中である。
だが、混乱しながらもキチンとオイルを手で温めてから塗るのがアセナのクオリティである。
「むぅ、何や随分と手馴れとるな~~?」
「そうかな? 気のせいじゃないかな?」
「そか、いいんちょで馴れとるんやな?」
「……だから、それは気のせいだってば」
実際はナギ時代(前世)で馴れているだけだ。だが、訂正するのも面倒なので消極的な肯定をして置く。
「いや、まぁ、別に気にせんで ええって。過去は過去やもん」
「だから違うってば。このちゃんが勘繰り過ぎなだけだよ」
「ウチは、過去を気にせえへんよ。大事なんは今と未来やからな」
事実は どうあれ、人は信じたいことを信じ、理解したいように理解する。つまりは そう言うことだ。
「しかし……まさか、このちゃんがビキニを着るとはねぇ」
「やっぱり、露出面積が多い方が塗るの楽しいやろ?」
「心遣い ありがとうございます。でも、余計な御世話です」
雰囲気を変えるために話題を変えるアセナ。乗ってくれるのはいいが、要らないところで要らない気遣いをする辺り、アセナと木乃香は似ている気がする。
「ああ、なるほどぉ。つまり、目の遣り場に困るっちゅー状態やな?」
「まぁ、むしろ、大きくならないようにするのに一苦労な感じかな?」
「……それはセクハラにしかならんから、気を付けた方がええで?」
具体的には『何』が大きくなるのかは不明だが、そこは敢えて触れないのが大人のマナーだろう。
と言うか、軽く犯罪的なセリフをセクハラと受け流せる辺り、木乃香は偉大なのかも知れない。
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「あ、あの、那岐さん……わ、私にもオイルをお願いしても、よろしいでしょうか?」
木乃香へのオイル塗りが終わったところで、今度は刹那がオイル塗りを頼んで来た。
タイミングの良さから考えて、タイミングを窺っていたのだろう。実に刹那らしい。
ちなみに、刹那は黒のビキニだ。体型的に無理を感じるが、可愛いので何も問題はない。
「もちろん、OKさ☆」
やたら爽やかな笑顔(つまり、かなり胡散臭い笑顔)を浮かべて、快諾を示すアセナ。歯がキラリと光るくらいに爽やかだ。
と言うか、熱気のせいか羞恥のせいか定かではないが、頬を朱に染めて上目遣いをした美少女に頼まれたら断れる訳がない。
何故か少しだけ木乃香の不快指数が上がった気がしないでもないが、きっと それはアセナの勘違いだろう。そうに違いない。
三人で海に来たのだから、刹那とも『そんな感じ』になることは木乃香もわかっていた筈だ。だから、勘違いと言うことにして置くべきだ。
「じゃあ、とりあえず……上の水着を外してもいいかな?」
「い、いえ……さ、さすがに そこまでは困ります…………」
「つまり、水着の中に手を入れて塗って欲しいんだね?」
「は、外していいです!! と言うか、外してください!!」
刹那を うつ伏せに寝かせた後、アセナは さも当然のことのように上の水着を外す許可を求める。
もちろん、刹那は拒否しようとするが、「せっちゃんてばマニアックだなぁ」と言わんばかりのアセナの言葉に慌てて許可を出す。
若干(と言うか明らかに)アセナの誘導に乗った形となったが、本当に水着の中に手を入れ兼ねないので許可するしかないだろう。
まぁ、刹那の水着の中に手を入れようものなら木乃香にOSHIOKIされるのは明白だが……それでも やり兼ねないのがアセナなのだ。
エロスは時として恐怖を乗り越えるのだ。特に、変態紳士であるアセナにおいては。
「ん~~、しかし、せっちゃんの肌はスベスベだねぇ」
「そ、そうですか? 普通だと思いますけど?」
「いやいや、とてもいい撫で心地をしているよ?」
「そ、そうですか。でも、あんまり撫でないでください」
オイルを塗りながら、セクハラまがい(と言うかセクハラそのもの)の発言をするアセナ。
殴ってもいい状況だが、刹那は言い難そうに窘める程度なので、リア充は爆発すべきだろう。
「ん? もしかして、恥ずかしがっているのかな? ……大丈夫、オレに委ねて?」
「……なぎやん? いくら何でも目の前でイチャ付かれたら、ウチでも怒るえ?」
「ハッハッハッハッハ!! 軽い冗談だよ、冗談。これからはマジメにやるってばよ」
イヤらしい笑顔で刹那を弄ろうとしたアセナだったが、背後に感じる木乃香からのプレッシャーに敢え無く白旗を振る。
刹那は「だから言ったんです」と目で語っているが、アセナとしては「だったら、ハッキリ言って」と言いたいところだろう。
常識的に考えて、あんな言われ方(あんまり撫でないでください)では、恥ずかしがっているようにしか受け取れない。
どうでもいいことだが、アセナの語尾が「~~ってばよ」となった辺りに、アセナの感じたブレッシャーを窺い知れることだろう。
まぁ、言うならば、夏だろうが海だろうが水着だろうが、アセナ達はアセナ達のままなのである。
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「う~~ん、海の家で食べるヤキソバはいいねぇ。普通に食べるより3倍は美味しく感じるよ」
まぁ、上のセリフで おわかりだろうが、現在アセナ達は海の家にて昼食のヤキソバを食べている。
ところで、刹那のオイル塗りが終わった後についてだが、適当に浜辺で遊んだだけだ。
特筆すべきことがなかったので割愛しただけで、別に描写が面倒だった訳ではないので悪しからず。
ちなみに、アセナが浜辺で作った『砂の城』のクオリティが高過ぎてギャラリーができたが……それは どうでもいいことだろう。
他にも、アセナがトイレに行っている間に木乃香と刹那がナンパ(しかも結構しつこい)に遭ったり、
それを「それは少し遣り過ぎじゃないですか?」とツッコミたくなるレベルで刹那が撃退したり、
美少女を二人も侍らせているアセナが各方面から「リアジュウバクハツシロ」と言う呪詛を受けたり、
気分転換にビーチバレーをしたら、アセナと刹那がヒートアップして超人競技に成り果てたり……
まぁ、いろいろとあったにはあったが、特筆すべきことではない気がするので多くを語る必要はないだろう。
「せやなぁ。持ち帰って家で食べると美味しないんやけど、ここで食べると格別の味をしとるもんなぁ」
「それは環境による効果もあるんでしょうけど……作り立てであることも関係しているのでは?」
「確かにねぇ。作り立てだと美味しいけど、冷めたものを暖めると美味しくないケースもあるもんねぇ」
逆にカレーなどは逆に寝かせた方が美味しくなるが、屋台のヤキソバは「冷めたものを暖めてはいけない料理」の一つだろう。
「せやなぁ。ところで、なぎやん……焼モロコシも至高のメニューに入らんか?」
「入るね。もちろん、焼イカもね。まぁ、原価を考えるとボッタクリでしかないけど」
「それは場所代だと考えて置きましょう? そうすれば、みんな幸せになれます」
アセナと木乃香の頭の痛くなる会話に律儀にフォローを入れるのが刹那の優しさだろう。
「せやなぁ。ちなみに、タコヤキは どないする? きっとタコは入ってへんで?」
「……学園祭の時の傷を抉られている気がしないでもないけど、とりあえず要らない」
「? 学園祭の時に食べたタコヤキにタコが入っていなかった と言うことですか?」
「まぁ、概ね そんな感じや。付け加えるなら、それで恥の上塗りをした感じやな」
「も、もう、やめてぇえ!! それ以上、オレの黒歴史を掘り起こさないでぇええ!!」
隙あらばチクチクと心の傷を抉る。それが、木乃香とアセナの関係なのだった。
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オマケ:目指すは魔法世界
そして、7月31日(木)。準備を万全に整えたアセナ達は遂に『魔法世界』に向けて出発する。
まぁ、「『魔法世界』に向けて」と言っても、ウェールズにある『ゲート』を利用する予定なので、まずはイギリスへの空旅となるが。
もちろん、ウェールズにはネギの実家があるので、ウェールズで数日ほど滞在する予定だ。実家の近くまで行って素通りするのも不義理だろう。
ネギを早めにウェールズに戻す と言う案もあったが、当然ながらネギがアセナと離れることを拒否したので その案は軽く却下された。
ちなみに、『魔法世界』に行くメンバーは、アセナ(チャチャゼロ所持)・ネギ・茶々緒・エヴァ・茶々丸・タカミチ・超となる。
37話での予定通り、木乃香と刹那は連れて行かない。麻帆良に残ってもらい、優雅に夏休みを過ごしてもらう予定でいる。
と言うか、二人を麻帆良に残すことへの埋め合わせとして海に連れて行ったようなものなので、残ってもらわないと困る。
ところで、二人への説明は「ネギの故郷に顔を出さざるを得なくなった」と言うもので、当初よりはマシな理由になっている。
「じゃあ、行こうか?」
成田にある某国際空港の飛行場にて、飛行機の発進を待つアセナが隣に座るネギへと語り掛ける。
ちなみに、逆隣にタカミチが座っているだけで、他のメンバーは飛行機には乗っていない。
そう、空路を使うメンバーは、アセナ(チャチャゼロ所持)とネギとタカミチの三人だけなのだ。
と言うのも、他のメンバーはパスポートとかが微妙なために『転移』してもらうからである。
……そもそも、エヴァは600歳以上であるし、茶々丸・茶々緒は造られた存在であるし、超に至っては未来人である。
エヴァの場合、近右衛門が手を回して戸籍を作ったので、問題ないと言えば問題はない。
だが、呪縛のせいで15年も女子中学生をしているため、戸籍的には二十台後半なのである。
つまり「そんなロリボディで二十代後半とか……あきらかに偽造だろ」と言う問題が出るのだ。
まぁ、『年齢詐称薬』を使うなり『変化』を使うなりして二十代後半っぽくなればいいのだが、
それはそれで何かに負けた気がするらしく、エヴァは大人しく『転移』を使うことにしたらしい。
ちなみに、茶々丸と茶々緒についてだが……超やハカセの工作により戸籍はある。その点は問題ない。
だが、全身が金属なのでボディチェックを受けることを考えると面倒なことになるため、飛行機は遠慮したのだ。
まぁ、診断書でも偽造して「体内に金属が入っているので金属探知機に掛かってしまう」とか言い張ればいいのだが、
そこまでして飛行機に乗る必要性がある訳でもないので、エヴァの『転移』に便乗することにしたのである。
また、超の戸籍もハッキング――じゃなくて、ちょっとした情報改竄の果てに入手したものなので、戸籍自体は問題ない。
とは言え、超だけ飛行機に乗せるのも他の三人に悪いし、何よりも経費を抑えることにもなるので、超も『転移』してもらうことにしたのである。
まぁ、その意味ではアセナやネギも『転移』でいいのだが、後ろ暗いことがないのに後ろ暗いことをする意味はないので、正規ルートで行くらしい。
当然ながら、アセナの戸籍はタカミチが引き取った時点で用意されているし、タカミチはアセナとネギの保護者役として正規ルートで行くべきだろう。
「ええ、行きましょう」
ネギが満面の笑みを浮かべて応える。タカミチと言う邪魔な存在はいるが、アセナと空の旅ができるので上機嫌なのだ。
そんなネギの様子に苦笑しつつ、アセナはこれから待ち受ける「面倒ってレベルじゃない未来」に心を引き締めるのだった。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。
今回は「魔法世界編に向けた閑話的な話」の巻でした。
ちなみに、アセナの修行シーンと言う伏線的なものがありますが、その線は伏せられたまま終わると思います。
まぁ、これまでの傾向(覚悟したり修行してるけどマトモに戦ってない)から、おわかりでしょうけど。
ですが、この説明はミスリーディングで、今度こそアセナがバトルをするかも知れません。可能性はゼロではありません。
つまり、魔法世界編が どうなるのかは……蓋を開けてのお楽しみ、と言うことです。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2011/09/09(以後 修正・改訂)