第43話:始まりの地、オスティア
Part.00:イントロダクション
引き続き、8月6日(水)。
遂にアセナ達は魔法世界の首都であるメガロメセンブリアに到着した。
これから彼等が手にするものは勝利の栄光か、それとも敗北の挫折か……
その答えは神のみぞ知る。人にできるのは勝利を目指すことだけだ。
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Part.01:クルト・ゲーデルの歓迎
「メガロメセンブリアへようこそ、神蔵堂ナギ君と その御一行様方」
ネギの握手イベントを終えたアセナ達は、荷物を受け取りつつ武器類の所持許可の手続をした後、ゲート・ポートの出口に向かった。
そこでアセナ達を待ち受けていたのは、サラサラの金髪と知的さを窺わせるメガネが特徴的な青年――オスティア総督、クルト・ゲーデルだった。
言うまでもないだろうが、虚弱体質を自称するクルトは私的なボディガートと称してメガロメセンブリアの装甲兵団を侍らせている。
ちなみに、美少年な従者も侍らせているのだが……これは、武力的な効果よりも精神的な効果(危険ではないですよアピール)なのだろう。
「ああ、これはこれは……態々 出迎えていただき、ありがとうございます、クルト・ゲーデル殿」
「いいえ、お気になさらないでください。『VIP』である貴方方をお迎えするのは当然のことですから」
「……それでも、私達のために これだけの人員を動かしていただいたことに感謝せざるを得ませんよ」
「それも お気になさらないでください。彼等は虚弱な私の私的なボディガードに過ぎませんので」
「そうですか。ならば、虚弱であるにもかかわらず態々 出迎えていただいたことに感謝させてください」
「(なるほど、そう言う手で来ましたか)……そこまで仰られては、感謝を受け取らざるを得ませんね」
昔のアセナだったら装甲兵団に威圧されているところなのだろうが、今のアセナにとっては逆に威圧できそうだ。
だから、アセナは何事も無いようにクルトと言葉の応酬ができる。そう、ただ それだけのことでしかない。
「ところで、貴方方の滞在先ですが……我が総督府の迎賓館を用意させていただきました」
「迎賓館、ですか。いえ、近衛氏から貴方が宿を手配してくださる旨は伺っておりましたが……」
「お気になさらないでください。警備の都合を満たす他の物件が埋まっていただけですから」
「ですが、私共のような『何処の馬の骨とも知れないような輩』には あまりにも過ぎた待遇です」
「いいえ。先程も申し上げた通り、貴方方は『VIP』です。ですから、当然の御持て成しですよ」
「……そこまで仰られては、御厚意を無碍にすることもできませんね。よろしく お願いします」
何らかの裏があるようにしか聞こえないが、恐らくは他勢力からの干渉を防ぐための措置だろう。
それに、クルトが敵対する気だとしても、こちらにはエヴァやタカミチがいるので どうとでもなるだろう。
(搦め手で来られたらエヴァやタカミチじゃ不安だけど……搦め手はオレや超の得意分野だから その点は心配ない。
オレや超の不安要素である直接的な手段は、エヴァやタカミチが どうにかしてくれるだろう。だから、何も心配ない。
むしろ、火力が強過ぎて問題になりそうな方が心配だよ。って言うか、正当防衛が過剰防衛になりそうだよねぇ)
「それでは、早速ですが案内させていただきます。あ、飛行船までは車での移動となります。どうぞ、御乗りください」
□ールス・□イスのような居住性を重視して燃費を無視した、一目で高級車と わかる車が横付けされる。
それなりの人数が乗れる車だが2台しかないため、どう考えても装甲兵団が乗るようなスペースはない。
きっと、装甲兵団の皆さんは飛行しり転移したり走行したりするのだろう。悲しいが、それが社会と言うものだ。
ちなみに「アセナ・ネギ・タカミチ・クルト・美少年な従者」と「茶々緒・エヴァ・茶々丸・超・ネカネ・アーニャ」に分かれて乗車したらしい。
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「今更だが……貴様は何故ここまで着いて来たのだ? 危険性くらいは把握しているだろう?」
ゲート・ポートを出発して暫くは、魔法世界に初めて訪れたアーニャが物珍しそうに街並を見て年相応にハシャいでいたが、
それもいつしか飽きたようで、今は「ネギとアイツを一緒にしちゃ不味いわ」とかブツブツ言いつつ前方の車を睨んでいる。
そんな、何とも言えない雰囲気の中、エヴァが唐突に切り出した。ちなみに、その相手はネカネやアーニャではなく超だ。
もちろん、超が相手なので以前にも聞く機会はいくらでもあった。エヴァの言う通り、聞くタイミングとしては今更である。
恐らく、先程アーニャやネカネにアセナが「ゲート・ポートまでじゃなかったの?」と訊ねていたのを見て思い付いたのだろう。
「ん~~、理由ハ色々あるガ…… 一番 大きいのハ『神蔵堂クンの同志だから』カナ? 神蔵堂クン一人にハ背負わせられなかっタのサ」
超とアセナは「魔法世界を救う」と言う点では、目的を同じとしている同志だ。
それ故に、そのために動こうとしているアセナを助けることは至極当然のことだ。
もちろん、アセナを監視するためもあるが、それは態々 言うことではないだろう。
「それに、『魔法世界として成り立っている状態』を見てみたかっタのもあるネ」
超は「魔法世界が崩壊した未来」から来た。それ故に、魔法世界が崩壊した後の火星しか知らないのだ。
不毛の地になった故郷しか知らない超が、豊潤な地である魔法世界を見て何を感じたのか は定かではない。
だが、何としても魔法世界の崩壊を防ぎたい と、魔法世界救済への想いを強くしたことは間違いないだろう。
「ついでに言うと、ネギ嬢と共同で開発シタ『例の物』が実際に使われルところも見てみたイしネ」
空気が湿っぽくなってしまったのを感じた超は、マッドな笑いを浮かべなら楽しそうに語る。
それが空気を変えるための言動であることなど誰にでもわかったが、誰も何も言わない。
ただ、エヴァだけが「魔法と科学の合一、か」とだけ呟き、意味ありげに薄笑いを浮かべるのだった。
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「……しかし、少し意外ですね」
一方、アセナ達の乗った車では重苦しい沈黙が続いていたが、クルトがポツリと沈黙を破っていた。
それは、思わず漏れたような形をしていたが、実際はアセナに聞かせるために漏らしたのだろう。
それがわかっているアセナは、窓に向けていた視線をクルトに向け「はて? 何がですか?」と訊ね返す。
ちなみに、ネギは通常運転(アセナをガン見したまま)で、タカミチはアセナとクルトに視線だけを向ける。
「私のテリトリーとも言えるオスティアに招くことに対して特に警戒していないことが、ですよ」
「はて? 警戒する必要があるのですか? 私と貴方は敵対している訳ではないでしょう?」
「……そうですね。ですが、万が一、私と敵対した際に貴方方が不利になるのは明白では?」
「私達が不利に? 失礼ですが、過小評価をしていただいては困ります。何ら不利ではないですよ」
警戒心のないアセナに拍子抜けしたかのようなクルトだったが、アセナは油断している訳ではない。
「むしろ、敵地にいる程度のことで不利になるくらいならば、最初から魔法世界に来てませんよ」
「……なるほど。考え方によっては、魔法世界そのものが敵地とも言える訳ですからね」
「と言うか、魔法世界を統治している方々が私を敵視することを危惧しているだけですけどね」
「つまり、私のテリトリーであろうとなかろうと危険が孕んでいるのは変わらない、と?」
「ええ。それならば、いちいち危険に怯えるよりは、時には大胆に攻めるのも手でしょう?」
そう、アセナは油断しているのではなく、「余程のことがない限り『どうにか』なる」と余裕を持っているだけだ。
「かの有名な『紅き翼』程ではないにしろ、私達も『それなり』に腕に覚えが ありますからね」
「なるほど、『英雄の娘』と『無音の後継』、そして極め付けに『闇の福音』。納得の戦力ですね」
「……ところで、『無音の後継』とは何ですか? 流れ的にタカミチのことだ とは思うのですが?」
「それは、タカミチが『無音拳』の使い手に師事したことから呼ばれるようになった『二つ名』ですよ」
地球では「『紅き翼』のタカミチ」として有名だが、魔法世界では更に『無音の後継』と言う二つ名でも有名らしい。
「なるほどぉ。どうでもいいところで、どうでもいい情報を知った気分ですが、ありがとうございます」
「ちょっ!? どうでもいいってヒドくない?! ボクもけっこう有名なんだよ? 権力と経済力は無いけど!!」
「地位や財産よりも名誉が大切な時もある とは思いますけど……そもそも、話に割って入らないでください」
「た、確かにマナー違反だったかも知れないけどさ、クルトとは旧知の間柄だし、幸い他人もいないし――」
「――気持ちはわかります。ですが、それでも、限りなく公式の場に近いのですから、節度は守ってください」
一応、車内と言う半プライベート空間なのだが、トップ同士の会話に割り込むのはマナー違反だ。タカミチが悪い。
「クックック……タカミチもナギ君には頭が上がらないようだな」
「しょ、しょうがないじゃないか!! って言うか、笑うな、クルト!!」
「……タカミチ? 売り言葉に買い言葉だけど、ハッスルし過ぎだよ?」
「いやいや、いいんだよ、ナギ君。今は半分プライベートだからね」
「しかし、従者さんもいらっしゃるのですから、礼を失する訳にも……」
「それでも、構わんさ。堅苦しい会話ばかりでは疲れてしまうだろう?」
「まぁ、そうですね。そう言うことならば、どうぞ旧交を暖めてください」
クルトが許容したのなら、アセナに口を挟む気はない。クルトの許可を得ずにプライベートに走ったからタカミチを諌めたのである。
「そう言えば、タカミチ。結婚はしたのか?」
「してないよ。そんな暇なんてないからね」
「素直に相手がいない と言ったら どうなんだ?」
「失礼な。これでも、一人や二人 候補はいるさ」
「ほぉう? ……それは本当かね、ナギ君」
「ええ、同僚の教師に それらしき人がいます」
「ほほぉう? まさか、本当にいるとは……」
アセナが言っているのは「源しずな」のことである。きっと、的外れではないだろう。
「と言うか、そう言うクルトの方こそ どうなんだ?」
「私こそ結婚をしている暇などないさ。わかるだろう?」
「さぁ? 政治のことはサッパリだから わかんないなぁ」
「……相変わらず友人甲斐のない男だな、タカミチは」
「まぁ、仕事人間のクルトにだけは言われたくないけどね」
軽口を叩き合う二人をアセナは「仲はいいんだなぁ」と生暖かい視線で見守ることにしたようだ。
ちなみに、クルトの従者は「見ざる・聞かざる・言わざる」を貫いており、
ネギは興味が無いのかガン無視してアセナに寄り掛かって居眠り中であった。
アセナが そんな二人の図太さを羨ましく思ったのは言うまでもないだろう。
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まぁ、そんなこんながありつつも、車は問題なく進み、一行は無事に空港に到着したのだった。
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Part.02:空中都市オスティア
「ここがオスティア、か……」
飛行船から見える空に浮かぶ巨大な島。その圧倒的な光景にアセナは複雑な表情を見せる。
別に、物理法則に想いを馳せている訳ではない。少しだけ郷愁の念に駆られているだけだ。
そう、アセナの中には確実に『アセナ』と『黄昏の御子』の記憶が息づいているのである。
「しかし、これは『空中都市』ってレベルじゃなくて、最早『空中国家』ってレベルだねぇ」
とは言え、センチメンタルな気分に浸っているような時でもないので、
アセナは気持ちを切り替えるべく、都市そのものに対する感想を口にする。
「原型世界――いえ、地球では、目にすることなど できない絶景でしょう?」
「……ええ、物理法則を無視する魔法があってこそ初めて成り立ちますね」
「おや、あまり素直じゃありませんね? 素直に感動してもいいのですよ?」
誰に言った訳でもない言葉に応えたのはクルトだった。ちなみに、クルトの視線の先には素直に感動しているエヴァがいる。
「ち、違うぞ!? 何世紀か前に侵入した時と違っているから ちょっと驚いただけだぞ!?」
「まぁ、旧オスティア王都は沈んでしまいましたからね、随分と変わっていることでしょう」
「おお、ツッコミどころ満載のエヴァのセリフにツッコまないとは……なかなかやりますねぇ」
「いえいえ、それほどでは……と言うか、こんなことで褒められても正直 困るのですが?」
「しかし、オレなら、『へ~~、それはよかったね~~』って感じで生暖かく見守るだけですよ?」
「それは単に貴様が私をゾンザイに扱っているだけだろうが!! と言うか、もう少し敬わんか!!」
あまりにもエヴァが見た目(幼女)相応の精神をしているので、「本当に『闇の福音』なのか?」と訝しむクルトは悪くないだろう。
ちなみに、最近 出番のない茶々丸と茶々緒の茶々母娘は、それぞれの主の録画に勤しみまくっているので特に問題はない。
むしろ、問題はアセナの鞄に収納されたまま出待ちをしているチャチャゼロかも知れない。暇過ぎて寝るしかないのだ。
まぁ、最後の防衛ラインなのでチャチャゼロが暇なのはいいことなのだが……偶には外で遊ばせてあげるべきかも知れない。
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「皆様、長旅 大変お疲れ様でした。こちらが皆様に逗留していただく迎賓館になります」
今更な説明だが、総督専用の飛行船を使っていたので総督府に直で着陸できたため、再び街中を車で移動するようなことはなかった。
しかし、それでもゲート・ポートからの移動時間は相当のものであり、アセナ達は乗っているだけだったが それなりの疲労感を感じていた。
「夜には、略式ではありますが歓迎のパーティーを開かせていただきます。もちろん、御婦人方のドレスは こちらで手配済みですので御安心を」
そのため、アセナとタカミチは「疲れているんだからパーティーとか勘弁して欲しい」と思ったのだが、同行者の女性達は違った。
むしろ、「ドレスが用意されている」と聞いて やたら元気になり、ウキウキしながらドレスルームに駆け込んでいったくらいだ。
そんな女性陣を見たアセナとタカミチは「『彼女』とは『遥か彼方の女』と書く。女性とは向こう岸の存在だよ」とか思ったらしい。
「……しかし、少し意外ですね」
気を取り直したアセナはクルトに話し掛ける。ちなみに、車中での仕返しか、ポツリと漏れるようにである。
そして、クルトも そんなアセナの意図に気付いたのか、面白そうに「はて? 何がですか?」と訊ね返して来る。
「女性陣のためにドレスを用意していただいたことが、ですよ」
「はて? 意味がわかりませんね? 当然のことでしょう?」
「しかし、貴方は女性よりも美少年の方が御好きなのでは?」
従者に視線を送りながら、「まぁ、軽い冗談ですけどね」と言わんばかりの悪戯気な笑顔で訊ねるアセナ。
しかし、クルトは「私が美少年を? 失礼な評価をしていただいては困ります」とは応えなかった。
むしろ、何も応えずに「……………………………………………………」と妙に長い沈黙を続ける。
「…………何故、わかったのですか? まさか、タカミチが?」
「え? 何その反応? ちょっとした冗談だったんですけど?」
「フッ、バレてしまっては仕方がありません。真実を語りましょう」
「いえ、別に そっち方面の真実なんか語らなくていいんですけど?」
自爆をしてしまったクルトは、カミングアウトをすることにしたようだ。もちろん、アセナとしては心底どうでもいいのだが。
「確かに、私は美少年が好きです。いえ、むしろ、大好きです。某少佐の演説のように語れるレベルで大好きです。
それ故に、本心として『美少年以外は どうでもいい』とすら思っています。それは認めざるを得ないことです。
ですが、政治に携わっている以上、紳士の嗜みとして御婦人が着飾るのを助けなければならないのですよ、遺憾ながら」
クルトはサッパリしたような表情で心情を吐露する。ちなみに、従者の美少年が表情に出さないようにドン引きしていたのは ここだけの秘密である。
「なるほどぉ。心の底までは共感はできませんが、仰りたいこと自体は よく理解できました」
「言うまでもないでしょうが、美少年が着飾るのを助ける方がテンションは上がりますからね?」
「まぁ、そうですよねぇ。ですが、そんなことは聞いてないので別に言わなくていいですから」
ところで、何故こんなアホな会話を豪奢なエントランスホールでしているのだろうか? ……アセナの疑問は尽きない。
「しかし、ナギ君にもあるでしょう? 他人には理解してもらえない性癖と言うものが」
「……そう言うことなら、オレの場合、美少女を脱がせる方がテンションが上がりますね」
「なるほど、立派な性癖ですね。もちろん、私にはサッパリ理解できない性癖ですけど」
「そうですか。でも、世間一般的には、オレの性癖の方が理解されるとは思いますよ?」
「そうかも知れませんが、世間は世間 自分は自分です。判断は自分でするものですよ?」
「まぁ、そうですね。最後に来て無理矢理 綺麗にまとめる辺りに脱帽せざるを得ません」
恐らくクルトは油断を誘うためにアホな会話をしているのだろうが、「これ、素じゃないの?」と疑ってしまうアセナは悪くないに違いない。
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Part.03:パーティーの裏側こそが表舞台
「それでは、我々が出会えた運命を祝しまして……乾杯」
女性が着飾るのにも充分な時間が経過した頃、アセナ達の歓迎パーティーはクルトの音頭で開始された。
略式とは言え総督が主催するパーティーだ。「それなり」どころか「かなり」の規模のパーティーである。
残念ながら、パーティーの参加者はアセナ達とクルト主従の他には、総督府の職員くらいしかいないが。
「皆様、今宵は存分に楽しんでいってください」
このパーティーの形式は立食形式となっており、テーブルは いくつか用意されている。
当然、ゲストであるアセナ達は一箇所に固まる訳にはいかず、各テーブルに分散している。
それ故に、クルトは招待主としての挨拶をするために各テーブルを回ることになる訳だが、
アセナには「総督 自らがテーブルを回ってくれた」と言う効果を狙っているようにしか見えない。
先程までチョクチョクと親しみやすい空気になってはいたが、やはり気は抜けない。
クルトの思惑に予想は付くものの、だからと言ってクルトと協定を結んでいる訳ではないのだ。
飲食物や逗留場所に何らかの仕掛けをするような真似はしないだろうが、他の面には注意すべきだ。
彼我の戦力差は圧倒的だが、権力とは戦力を簡単に覆すものだ。注意して置くに越したことはない。
「ナギさ~~ん♪ これ、美味しいですよ~~♪」
そんな風にクルトへの警戒を強めている(もちろん、それを悟らせない程度に抑えて)アセナに、ネギが話し掛けて来る。
その手には料理を取り分けた小皿が乗っており、ネギの言う通り、料理からは実に美味しそうな見た目と匂いが漂っている。
ちなみに、ネギの服装は肩の出たデザインのドレスで、薄いピンクとネギの赤髪が とてもよく映えており、実に可愛らしい。
「……ああ、ありがとう」
幼さの中に女性らしさが僅かに垣間見えたことで学園祭前のデートを思い出してしまったアセナだが、直ぐに平常心に戻る。
アセナは幼女を愛でられる紳士であるが、時と場合と相手を選ぶ自制心くらいはある。そう、今は萌えている場合ではないのだ。
いや、「自重? 何それ、おいしいの?」と言わんばかりに自重をしないアセナだが、自重ができない訳ではないのである。
もちろん、「なら、普段から自重しろや」と言うツッコミはしてはいけない。それが「優しさ」と言うものに違いない。
「もぉ!! ソイツに近付いちゃダメって言ってるでしょ!? 妊娠させられるわよ!!」
「え? むしろ、既成事実が出来るから、ボクとしては願ったり叶ったりだよ?」
「アンタ バカァ!? ソコは嫌がるところでしょ!? 何を喜んじゃってんのよ?!」
「え? だって、ナギさんとの子供なら欲しいし、何より既成事実は大事でしょ?」
「そもそも10歳で妊娠できる訳ないでしょ!? まずは そこにツッコみなさいよ!!」
「え~~? 自分で言い出したんじゃないか? アーニャってば意味不明過ぎるよ?」
アセナがネギの持って来てくれた料理を美味しくいただいると、烈火の如く怒れるアーニャが乱入して来て酷い会話を始める。
「むぅ……ここは、オレに対するアーニャの評価に泣くところなのかなぁ?」
「むしろ、笑ってスルーしましょう? それが最も無難な道だと思いますよ?」
「まぁ、そうだよね。でも、少しくらいフォローしてくれてもいいんじゃない?」
「では『アーニャさんは嫉妬しているだけですよ』。これで、満足でしょうか?」
「ああ、うん、すっごく満足した。だから、そんな冷たい目で見るのは やめて」
そんな二人を(物理的には近いのに)遠い目をしながら見るアセナは、いつの間にか傍らに居た茶々緒と益体もない会話を繰り広げる。
ところで、紹介が遅れたが、アーニャは燃える様な真っ赤なドレスを着ており、茶々緒は深い藍色のドレスに身を包んでいる。
当然、「アンタ バカァ!?」と言うセリフで某福音弐号機パイロットを思い出すが、気にしてはいけない。ただのインスパイアである。
余談となるが、他のメンツは どうしているのか と言うと……
ネカネは純白のドレス(もちろん、偽乳は完備だ)で清楚な美人を装って、会場内の男性陣を弄んでいるようだ。さすがとしか言えない。
事実関係を知った時の男性陣のショックは甚大だろうが、もしかしたら これがキッカケとなって『その道』に目覚める可能性もある。
まぁ、結局はネカネの被害に遭うことは変わらないので、彼等には同情しかできない。今後は見た目に騙されないことを祈るばかりである。
そして、タカミチは白いタキシードと言うトレードマークとも言える着こなしをし、色々と有名であるためか女性陣に囲まれている状態だ。
リア充は爆発すればいい と思うが、肉に群がる肉食獣を幻視させるような女性陣の熱気を考えると、タカミチに同情したくなるから不思議だ。
また、表舞台に立つ気のない超は中華風のドレスに身を包んではいるが、料理を確保するとサッサとパーティー会場を抜け出していた。
それに、賞金は取り下げられたものの悪名と悪印象は残っているエヴァは、さすがに公の場には出られないので茶々丸と外で待機のようだ。
ちなみに、超が持ち出した料理の量が育ち盛りで食べ盛りとは言え一人分よりあきらかに多いのは、エヴァの分も持っていったためだろう。
(…………うん、まぁ、何と言うか、予想通りにカオスだねぇ)
今更と言えば今更なことだが、何故にアセナはアーニャとネカネの魔法世界への同行を許可したのか? ……それには、深くもない事情がある。
実は、ゲート・ポートまで見送りに来てくれたのだ と勘違いしていたら、ゲート・ポートを出た後も普通に着いて来ていたのである。
本来ならゲート・ポートから送り返すべきだったのだが、クルトが間髪入れずに歓迎してくれたので済し崩し的に許可してしまったのだ。
(いや、逆に考えるんだ。アーニャはネギの相手をしてくれて、ネカネさんは男達から情報を収集してくれるって)
何事も考え様だ。二人がいることでマイナスな面はあるものの、二人がいてくれることでプラスな面もあるのだ。
プラスよりもマイナスの方が大きい気がしないでもないが、これからプラスを増やしていけばいいだけの話だ。
過去を嘆いていても現状は何も変わらない。ならば、未来を変えるためにも現状を最大限に活かすべきだろう。
気持ちを切り替えたアセナは、先程「用が出来ましたので失礼致します」と退場したクルトの後を追う。
あの時、僅かな所作でしかなかったが、クルトがアセナに視線を送っていたことに気付かない訳がない。
もちろん、それは「公の場ではできない話をしたいので付いて来て欲しい」と言うメッセージだろう。
その証拠に、美少年な従者が出口に待機しながら さりげなく(だが、あからさまに)アセナを見ている。
「…………行くのかい?」
アセナがドアに手を掛けた時、いつの間にか女性陣の包囲網を突破したタカミチが苦い表情で話し掛けて来る。
言葉にはしなかったが、その目が雄弁に語っている。「きっと罠だよ」と、「行かない方がいいよ」と。
だが、タカミチは言葉にはしない。アセナの決意を知っているから、アセナの覚悟に水を差したくないから……
「うん。オレとしても話したいことがあるからね」
相手の陣地に赴くのだから、当然ながら相手が有利となるか自分が不利となる『仕込み』くらいはあるだろう。いや、むしろ、無い方がおかしい。
それを考えれば、行かない方が賢明なのは確かだ。勇猛と蛮勇は似て非なるものであることくらい、アセナは嫌になる程 身に染みている。
――だが、それが何だ と言うのだろうか? この程度のことで進むのを躊躇していたら、アセナが為そうとする計画など為せる訳がないだろう。
思惑がある程度わかっているクルトを相手に尻込みしていては、クルトを越えた先にいるメガロメセンブリア元老院を相手取れる訳がないのだ。
そう、だからこそ、アセナは迷わず進む。これから進む道は、険しい茨の道であると同時に勝利への道でもあるのだから。
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Part.04:ノブレス・オブリージュ
「ここの防諜システムは魔法的にも科学的にも完璧ですので、御安心ください」
特別室に案内されたアセナを待ち受けていたのは、今までにない真剣な面持ちをしたクルトだった。
装甲兵団を引き連れて出迎えた時も真剣であったが、今は その時 以上のプレッシャーを有していた。
「仮に、ここの防諜システムを破れるとしたら……超一流の使い手だけでしょう」
「つまり、超一流の使い手に狙われたらあきらめるしかない と言うことですね?」
「ええ。ですが、そう言った相手に狙われていたら既に終わっていますよ」
「まぁ、そうですね。ならば、ここは貴方を信じて本音を語ることにしましょう」
くだらない遣り取りだが、これは単なる準備運動だ。これから始まる本番の前座に過ぎない。
「その前に……確認させてください。貴方は『アセナ様』なのですか?」
「ええ。まぁ、証拠は『完全魔法無効化能力』くらいしかありませんが」
「いえ、それだけで充分です。と言うか、肯定していただけで充分ですよ」
クルトの素直な態度に僅かな違和感を抱いたアセナだが、「そうですか」と頷くだけに止める。藪は突かない方がいい と言う判断だ。
しかし、よくよく考えてみると、正体を隠すことには過敏になっていたが、正体を信じてもらうことには無頓着だった気がする。
今回はクルトがアッサリと信じてくれたからいいものの、仮に疑われて証拠を求められていたら泥沼に嵌っていたかも知れない。
今後を考えると、何らかの証明手段は必要不可欠だろう。気付くのが遅れたが、手遅れではないので「不幸中の幸い」と言える。
とは言え、今は そんなことを気にしている場合ではない。今は目の前に鎮座する厄介事(つまり、クルト)に意識を集中すべきだ。
「それでは、本題に入らせていただきますが……どうか、私に手を貸していただけないでしょうか?」
アセナがクルトに意識を向けたことを察したのか、居住まいを正したクルトが重々しく言葉を紡ぐ。
その言葉には「丁寧さ」もあるが、それ以上に「謙り」も感じられるのはアセナの気のせいだろうか?
交渉相手なのだから気を遣うのは当然だが、どうにも気を遣い過ぎている気がしてならないのだ。
「……やはり、そうですか。それで、具体的には『どのように』手を貸して欲しいのですか?」
思考に埋没したくなるが、今は そんな場合ではない。アセナは気を取り直してクルトの言葉に返答を返す。
ところで、問い返す形にはなっているが、アセナにとっては想定内であるので「あくまで確認程度」でしかない。
十中八九、原作の舞踏会裏でネギに提案して蹴られた内容(6700万人の同胞を救出すること)だろう。
ちなみに、ネギにではなくアセナに話を持ち掛けたのは、決定権をアセナが握っていることをクルトが把握しているからだろう。
「……私には敵がいます。そして、その大部分は貴方と共通していることが予想されます」
「まぁ、その可能性はありますね。それで、その共通の敵と共闘することが目的ですか?」
「否定はしません。共に敵を打倒していただきたい と考えているのは本当のことですからね」
クルトの含んだ物言いにアセナは「やっと『らしく』なって来たな」と思いつつ「それで、その敵と言うのは?」と続きを促す。
「まずは私が『獅子身中の虫』として所属している『メガロメセンブリア元老院』、そして それに賛同する全勢力。
次いで、未だに大分烈戦争の時の恨みを忘れていない、亜人達の帝国である『ヘラス』、そして それに連なる全勢力。
最後に、滅んだとされながらも暗躍を続ける『始まりの魔法使い』、そして それに従う『完全なる世界』。以上です」
「確かに、オレは『元老院』と敵対する可能性は高いでしょう。ですが、オレには『ヘラス』や『完全なる世界』とは――」
「――ですが、それらの敵は単に『目的』を達成する弊害となるだけで、その打倒が『目的』である訳ではありません。
そう、あくまでも『目的』を達成することが最も優先すべきことであり、敵の打倒については二の次に過ぎません。
もちろん、弊害となる以上、打倒したいとは考えています。ですが、それは序で であり、本題は そこではありません」
アセナが「ヘラスや『完全なる世界』とは敵対するつもりはありません」と言おうとしたのを遮るようにクルトが言葉を続ける。
そして、クルトは一拍置いて気勢を整えた後、「それでは、本題に入らせていただきます」と前置きして再び言葉を紡ぎ始める。
「そもそも、魔法世界が火星を基にした人造異界であり、人造異界であるために崩壊の危機に瀕していることは御存知ですよね?
既に予想は付いているでしょうが、私の『本当の目的』とは この滅び行く世界から6700万人の全同胞を救い出すことなのです。
生憎と敵に関して共通しないかも知れません。ですが、魔法世界に住む無辜の民を救うことに関しては共通しますでしょう?」
クルトは濁りのない瞳で告げる。そこには、虚偽は一切 見受けられない。そう、クルトは本心から民を救済しようとしているのだ。
「それに、更に言うならば、『元老院』だけならば共通した敵となり得るのではないでしょうか?
彼等は ここオスティアの地と『黄昏の御子』である貴方様を簒奪せんとアリカ様を陥れました。
そして、それに失敗した後はアリカ様の遺児であるネギ嬢を狙い、彼女の故郷を奪い去りました。
当然、それを止められなかった私にも責はあります。ですが、彼等が敵であることは変わりません」
ここで、クルトは少しだけ瞳に暗い炎を灯す。その炎は復讐の炎。恐らく、救済とは別に『元老院』への復讐があるのだろう。
それらを理解できたアセナは「クルトを如何に『説得』するか?」を思い付き、その筋書きを脳裏に描きながら徐に語り出す。
「…………よく わかりました。クルト・ゲーデル殿。貴方は『救済』と言う名の『復讐』を成したいのですね?」
アセナは淀みなく告げる。その声音は巌のように落ち着いており、その瞳は水面のように透き通ってる。
少しばかり芝居染みているのは、アセナが意識して「王族として」の振る舞いを行っているからだ。
今までのクルトの態度から「ウェスペルタティアの王族として扱おうとしている」ことが窺えたので、
アセナは敢えて自ら「王族として」振る舞うことで、クルトの心に揺さ振りを掛けることにしたのである。
……そして、どうやら それは効果的だったようで、言葉の威力と相俟ってクルトの心を激しく揺さ振った。
何故なら、普段なら決して見せないような素振りを――アセナの言葉に衝撃を受けたような素振りを見せたからだ。
そう、アセナにはクルトが瞳を見開いたのが見えた。微かな所作だったが、クルトを注視しているアセナが見逃す訳がない。
まぁ、「敢えて反応を示すことで誘導しようとしている」と言う可能性もあるが、その可能性は極めて低いだろう。
僅かに瞳を見開いた後、それを気取られないように即座に今まで通りの『無表情な表情』に相貌を戻したからだ。
当然、それすらも演技である可能性はあるが、疑い始めたらキリがないのでアセナは敢えて考えないことにしたのである。
「…………違います、とは言えませんね」
言葉を放った後のアセナは、ただ無言でクルトの瞳を覗き込んでクルトが応えるのを待った。それは、虚偽も黙秘も許さない と言う意思表示。
それを受けたクルトは しばらくはアセナの視線を受け止めていたが、やがて耐え切れなくなったのか、目を逸らすと観念したように語り出す。
「私は口では『救済』を叫びながらも、その心の底には『復讐』が沈殿していました。
いえ、むしろ、仰る通り、『復讐』のために『救済』しようとしていたのでしょうね。
アリカ様が『救おうとしたもの』を救うことで意趣返しにしたかった のだと思います」
その表情は憑き物が落ちたように見え、先程の暗い炎は未だに燻ってはいるものの全体としては少しだけ晴れやかになった。
「たとえ『そう』であったとしても、貴方が救いたいと思ったことは本当のことなのでしょう? それならば、何も問題はありません。
大切なのは動機ではありません、結果です。『何を成そうとしていたか?』よりも『何を成し遂げげたのか?』の方が大事でしょう?
ですから、そこに『復讐』が潜んでいたとしても、『救済』を成し遂げれば何も問題ありません。少なくとも、オレはそう思います」
善意で行動しても結果として人を不幸にすることは悪行だ。そして、逆に悪意で行動しても結果として人を幸福にすることは善行なのだ。
もちろん、考え方によっては「動機の方が大切だ」とする場合もあるだろう。だが、アセナは結果を重視する。ただ それだけのことでしかない。
「…………ありがとう ございます。そう 仰っていただけただけで、私には とても心強いです」
しかし、ただそれだけのことであっても、不安定になっていたところを肯定してもらえたクルトにとっては重要なことだった。
10年以上前に『紅き翼』と袂を別って以来、今までクルトは己が正しいと信じた道を歩んで来た。そのこと自体に後悔はない。
だが、気付いてはいたが気付かない振りをしていた『復讐』をアセナに突き付けられたことで戸惑いが生じていたのも事実だった。
まぁ、アセナのせいで生まれた心の隙間をアセナが埋めているので自作自演のような気がしないでもないが、クルトが納得しているので問題ないだろう。
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「では、貴方の目的が『復讐』を含んだ『救済』である と言うことで話が纏まったところで、話を元に戻しましょう」
クルトが落ち着くのを待った後、アセナは話を仕切り直す。自分で脱線させて置いて自分で軌道修正するのが実にアセナらしいだろう。
ちなみに、ここでクルトを落ち着かせずに畳み掛ける選択肢もあったようだが、今後の協力関係を考えて落ち着くのを待ったらしい。
「……確か、魔法世界の総人口は12億人に達していて、そのうち人間種の総人口は約5億人でしたっけ?
まぁ、6700万人とは随分と離れた数値ですが……別に、オレはすべての人間を救え とは言いませんよ。
もちろん、純粋な『人間』以外は魔法世界と共に滅びてしまうから と言う理由もあります。
ですが、それ以上に、支配者(政治家)が被支配者(国民)を助けるのは当然のことですからね。
むしろ、被支配者以外も助ける方が変です。支配者にも被支配者にもメリットがないですから。
貴方がメガロメセンブリアの市民6700万人のみを救おうとするのは何一つ間違ってはいないですよ」
アセナは間違っていないことを確信しているのか、淀みなく己の意見を述べる。
まぁ、確かに、間違ってはいない。正しいかどうか は微妙だが、間違ってはいない。
支配者は被支配者を守る義務がある。むしろ、被支配者を守るために支配者はいるのだ。
その点で、クルトがメガロメセンブリア市民のみを救おうとすることは間違ってはいない。
「では、私の『救済案』に手を貸していただける訳ですね?」
アセナの言葉から協力に前向きであることを読み取ったクルトが、喜色満面と表現すべき様子でアセナに確認をする。
まぁ、事情を踏まえたうえで考え方を肯定したのだから、クルトが協力してもらえる と考えるのは当然だろう。
だが、それはアセナの『振り』だ。敢えて希望を持ちたくなるように仕向けたうえで希望を断ち切るつもりなのだ。
何故なら、アセナは『魔法世界の住民すべて』を救う気でいるからだ。メガロメセンブリア市民は含まれてはいるが、含まれているだけなのだ。
「確かに、貴方の考え方は間違ってはいないと思いますし、貴方の立場も理解しているつもりです。
ですが、だからと言って、貴方に協力する訳ではありません。むしろ、協力する気はありません。
支配者ではないオレには、メガロメセンブリアの市民を助ける義務も義理もありませんからね」
もちろん、ブラフだ。メガロメセンブリア市民達も救う対象に含まれているので見捨てる訳がない。
「……オレはウェスペルタティアの王族ではありますが、祖国は滅んで『元老院』に統括されている始末です。
まぁ、その意味では、メガロメセンブリアの民でも元王国民なら助ける義務くらい あるかも知れませんが。
ですが、それも100年以上も人間兵器として守ってあげていたので、これ以上は守る義務も義理も感じませんよ」
寂しそうに語るアセナに、クルトは「……確かに、その通りですね」と頷くことしかできない。まったく以って、アセナのシナリオ通りだ。
「とは言え、滅びるのがわかっていながら救いの手を差し伸べないのは人道に反している とも考えています。
いえ、正確には、人道と言うよりはオレの流儀と言うべきでしょうね。オレがオレを許せないだけですから。
まぁ、つまりは、『王族の義務』としてではなく『個人的な感情』として、オレは救いたいと思っている訳です」
ここでアセナは意見を逆転させる。いや、そう見えるだけで、アセナは最初から意見を変えていない。ただ、立場を明確にしただけだ。
これまで、アセナは立場を明示していなかった。敢えて言うならば、ウェスペルタティア王族としての面が強かったくらいだ。
だから、アセナはハッキリと『王族として』ではなく『個人として』の立場を表明した。アセナには譲れないものがあるからだ。
そもそも、アセナが魔法世界を救おう としている理由は(幾つもあるし多岐に渡るが、一番の原動力は)個人的な感情だ。
魔法世界が滅びることも それを防ぐ手立ても知っているのに何もしなければ自分を誇れなくなる……その気持ちが一番なのだ。
「……それは『王族としては手を貸さないが、個人としてなら手を貸していただける』と言うことでしょうか?」
「まぁ、そう受け取っていただいても構いません。ですが、正確に言うと、少しニュアンスが違いますね。
王族としての立場よりも個人的な事情を優先する形でいいのなら、手を結びたい……と考えているんです。
もちろん、『黄昏の御子』やら『ウェスペルタティア王家』の肩書きを利用するつもりではいますけど」
アセナにとっては、顔も知らない大勢よりも少数の近しい者達の方が大切である。
仮に「どちらかしか救えない」と言う二択を迫られたら、アセナは躊躇なく後者を選ぶだろう。
当然、それは被支配者を守るべき存在である王族が取ってはならない選択肢だろう。
だからこそ、アセナは『王族として』ではなく『個人として』動くことを望んでいるのだ。
もちろん、そのような選択をに迫られるような状況に陥る予定はないが(あくまでも保険である)。
「あ、それと、オレはメガロメセンブリア市民だけでなく、魔法世界の住民すべてを救うつもりでもいます。
ですから、『貴方の案に手を貸す』のではなく『オレの案に手を貸して欲しい』と言うのが正確ですね。
と言う訳で、メガロメセンブリア市民を優先しても構いませんから、手を結んでいただけないでしょうか?」
そして、最後の最後で一番 言いたかった「目的は重なるが、こちらの方が範囲が広い」と言うことをアッサリと告げる。
「それは、純粋な『人間』以外は魔法世界と同時に滅びることを御存知の上で全員を救うおつもり、なのですね?」
「ええ。その具体的な方法は正式に手を結んでいただけないと語れませんが、すべてを救う心算で動いています」
「……わかりました。そう言うことでしたら、喜んで協力させていただきます。いえ、むしろ、協力させてください」
「ありがとうございます。貴方なら そう仰っていただけると信じていました。今後とも よろしくお願い致します」
アセナは望む通りの結果になったことに内心で安堵しているが、それを決して外には見せない。悠然と構えたままだ。
そもそも、クルトは政治家の道を歩んではいるが、その根本は英雄だ。復讐に身を焦がしても、根本は英雄なのだ。
今回、メガロメセンブリア市民しか救わない予定だったのは「クルトには それしか救う手立てが無かったから」である。
だからこそ、全員を救える手があるならば、クルトは迷いなく全員を救う道を選ぶだろう。それがわかっていたのだ。
むしろ、目的も性格もわかったうえで断られてしまう程度の交渉力だったら、これから先は進めないだろう。それだけのことでしかない。
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Part.05:頭痛の種は消えない
「と言う訳で、オレの案を実行するにはヘラスやアリアドネーとも協力体制を築く必要があると思うんです」
ギアス・ペイパーにて正式に協力関係を結んだ後、アセナは自身の『計画』についてクルトに説明した。
その内容を大雑把に説明すると、魔法と科学を用いたテラフォーミングで現実の火星を住める環境にし、
そこに魔法世界の生物を移住させて、魔法世界が崩壊しても実質的に被害が無いようにするだけ である。
超に語ったように『元老院』を洗脳して魔法を公開させるだけでは救えない……アセナは そう判断したのだ。
ちなみに、ギアス・ペイパーを用意したのはクルトである。どうやら正式な契約には付き物らしい。
ある意味では、この対談のために「契約を遵守させる系統の魔法具」を準備したのが無駄になったが、
他のケースでも使えるものなので本当の意味で無駄になる訳ではない。むしろ、德をした感じである。
「確かに、私や貴方方だけでは実現不可能ですね。資金も権力も人材も全然 足りません。
ですが、その二者と協力関係を結ぶのには『元老院』からの妨害が懸念されますね。
まぁ、『元老院』の半分――いえ、せめて3割だけでも協力を取り付けられれば話は別ですが。
と言うか、最初に私を味方に引き込んだのは、それらの仲介役をさせるためですね?」
内容を把握したクルトはアセナの意見に同意を示しつつ、自身を引き込んだ理由に見当を付ける。
「さぁ、どうでしょうね? 初日に『密談』をすることになるとは限らなかったでしょう?
もちろん、期待はしていましたが……あくまでも、確定してはいませんでしたからねぇ」
魔法世界に来るに当たって、近右衛門を通してクルトに滞在中の面倒を見てもらえるように頼んだことは確かなことだ。
それ故に、クルトがゲート・ポートまで迎えに来たのは驚くことではなかったし、ある意味では想定の範囲内のことだった。
ただ、初日に『密談』をすることになる とは想定はしていたものの、数日後の方が確率が高い と踏んでいたのも確かだ。
つまり、最初にクルトと協力関係を結んだのは、狙ってはいたが確定していたことではなかった。それだけのことでしかない。
「まぁ、そう仰るのでしたら、そう言うことにして置きましょう」
すべてがアセナの想定した通りだった訳ではないだろうが、ほとんどはアセナの想定した範囲内だったのだろう。
明言された訳ではないが それを実感したクルトは、アセナの評価を上方修正しつつ話題の終わりを告げる。
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「さて、残る問題であるヘラスについてですが……何か良い案はありませんか?」
話に一区切り付いたところで(侍従に持ってこさせた御茶で)一息 吐いた後、クルトが徐に切り出した。
ギアス・ペイバーを記入した後にも一息 入れていたのだが、『計画』の説明で色々と消耗していたのである。
まだまだ話し合うことはあるので、折を見て休息を挟まなくては諸々の疲労で思考が鈍ってしまうだろう。
「残念ながら、正攻法――生存の可能性を説明して説得する くらいしか思い浮かびませんね」
魔法世界と共に作られた存在である亜人達は、魔法世界の崩壊と共に消失してしまう。それは曲げられない摂理だ。
ココネと言う移民計画実験体が存在する以上、ヘラスの上層部も そのことは把握して対策を講じているのだろう。
だが、だからこそ、生き残れる可能性を示せば協力が得られるのではないだろうか? アセナは そう考えたのだ。
搦め手が大好きなアセナだが、正攻法で行った方が効果的な場合は 搦め手にこだわらずに正攻法で行くのである。
「そうですか。まぁ、そもそも貴方ならヘラスを味方に付けるのは容易ですから、それで問題ないでしょう」
正攻法しか思い浮かばないのが嫌なアセナは「他にいい方法がはありませんか?」と言う空気を漂わせるのに対し、
クルトは「別に正攻法でも問題ないのはないでしょうか?」と言う、実に見通しの甘い返答をしてくれる。
そんなクルトに多少の違和感を覚えるもののアセナは「まぁ、問題ないって言うなら信じよう」と納得して置くことにする。
「まぁ、魔法世界の崩壊はヘラスにとっても脅威ですから、助力を得られる可能性は高いでしょうね」
少しだけ「オレならって どう言うことだろう?」と思いながらもアセナは尤もらしい理由で納得を示す。
いや、クルトの言わんとしたことも何となくわかっているし、アセナの中で(嫌な)予想は立っているのだが、
アセナは それに目を瞑りたいので、自分に言い聞かせるように希望的観測を口にして納得しているのである。
「いえ、そうではなくて……ヘラスの第三皇女であるテオドラ様とは旧知の間柄でしょう?」
クルトは とても晴れやかな笑顔で「むしろ、幼馴染じゃないですか? 頑張ってください」と付け加える。
つまり、テオドラとの関係を利用してヘラスを味方に付ける方法をクルトは提示しているのである。
何故なら、アセナは『黄昏の御子』と『アセナ』の頃にテオドラと面識があり、それなりに仲が良かったからだ。
まぁ、アセナとテオドラのことついては語ると長くなるので、それはまた別の機会に語ることとしよう。
「ハッハッハッハッハ!! テオドラとて公私の区別くらい付く筈ですから、旧知とか関係ないと思いますよ?」
「それならば、ますますテオドラ様を経由して貴方にヘラスを説得していただいても問題ない訳ですね?」
「……すみません、正直テオドラが『妾がお父様を説得してやろう、その代わりに……』とか言いそうで怖いです」
「それはそれで いいではないですか? 貴方ならテオドラ様を丸め込む――もとい、絆すなど容易いでしょう?」
アセナは再び希望的観測を口にするが、クルトの容赦ないツッコミに軽く折れる。しかも、クルトは更に追い討ちまでして来る。
「言い換えたのにニュアンスが変わってないですよ? って言うか、テオドラの要求が怖いんで嫌なんですけど?」
「せいぜい『約束通り結婚するのじゃ!!』くらいじゃないですか? むしろ、御褒美として受け入れるべきですよ」
「そんなことになったら、ネギが暴走する気がするんですけど? しかも、誰も助けてくれそうにない気すらします」
「……強く、生きてください。正直、美少年以外が どうなろうと私には どうでもいいので私は特に気にしません」
アセナは自分の中で渦巻く嫌な予想を話して その手段だけは回避しようとするが、クルトは とてもいい笑顔で却下する。
アセナとしては「裏切ったな!!」と思いたいところだが、アセナが割を食うだけで助力が得られるのなら御釣が来るのも事実である。
先程「王族としての立場よりも個人的な感情を優先する」とは言ったが、そう頻繁に優先していては人の和が崩れてしまうのは道理だ。
それらを理解しているため、クルトに いつか復讐することを心に誓いつつ、アセナは渋々とクルトの提案を受け入れるのだった。
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「あ、ところで、話は変わるんですが……ネギの故郷が悪魔に襲われた件で聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
先程は何気なく聞き流したことだが、よくよく考えてみるとクルトは『襲撃事件』を『元老院』の仕業であることを明言していた。
アセナを味方に引き込むためのブラフである可能性もない訳ではないが、アセナも『元老院』であると踏んでいたので間違いなく事実だろう。
まぁ、もちろん、『元老院』と一口に言っても『元老院』全体のことではなく、『元老院』の一派――ヘルマンの言う排斥派だろうが。
「ああ、先程 少し漏らしてしまいましたね。お話した通り、『元老院』が命じたことであり、関わった者の見当なら付いています」
外からの調査では知れる情報には限界がある。それ故に、クルトは『元老院』に入ったようなものだ。
先程 敵対者の話の中で、クルトは自らを『獅子身中の虫』と語ったことは嘘ではない。敢えて取り入ったのだ。
当時のクルトの力では『襲撃事件』を止められなかったが、関わった者の情報収集くらいは可能だった。
まぁ、確たる証拠はないので「限りなく黒に近い」としか言えないため、その情報を元に裁くことはできないが。
「いえ、そうではなくて――まぁ、その情報も知りたいですけど、オレが知りたいのは『目的』ですよ」
敵の情報は手に入るだけ手に入れたい。そのため、そちらにも興味はある。だが、今の問題は そこではない。
もちろん、敵の情報も重要なのだが、アセナにとっては それ以上に敵の目的を把握することの方が重要なのである。
何故なら、目的はネギの排除にしか思えないが、その仮定だと どうしても納得できない部分が残るからである。
「襲撃の目的は、ネギの排除――に見せ掛けて、ナギ・スプリングフィールドにネギを助けさせることだったのでしょう?」
何故『元老院』は村ごと襲わせたのか? ネギを排除するだけなら、極端な話、事故に見せ掛けて殺すだけで充分な筈である。
特に、ネギは御誂え向きに「ピンチになるため」池に飛び込んだりしていたのだから、事故を装うのは簡単だっただろう。
それなのに何故か村ごと襲わせたのだから、村ごとを襲わねばならない理由があった筈である。少なくとも、アセナは そう考えた。
それに、悪魔を大量に召喚する と言う大袈裟な方法を取ったとは言え、秘密裏に行うべき襲撃がナギに洩れたのも気になっていた。
故にアセナは逆に考えた。情報は洩れたからナギに伝わったのではなく、ナギに伝えるために情報は漏らされたのではないか、と。
そして、その結論としてアセナは「ナギにネギを助けさせることが目的だったのではないか?」と言う推論を導き出したのである。
「……否定しても無駄ですね。とは言え、私にも確証はありませんので『恐らくは』としか言えません」
もともとネギはナギに憧れていたが、『襲撃事件』をキッカケに それがよりエスカレートしたのは間違いない。
そして、襲撃者への復讐心も加わり、ネギは歪んだまま魔法への修行に没頭していき、『都合のいい駒』に育っていった。
更に言うならば、修行先である麻帆良には『闇の魔法』と言う「心に闇が必要となる強力な技術」を持つエヴァがいた。
つまり、ネギに『闇の魔法』を習得させるために一連のことを仕組んだのではないか、とアセナは疑っているのである。
恐らく、それは間違っていない。何故なら、『闇の魔法』は『始まりの魔法使い』に繋がる技術でもあるからだ。
事情を知る者にとって、『闇の魔法』とは 厄介な存在である『始まり魔法使い』を滅ぼせる可能性なのだ。
そう、すべては、ネギに厄介払いをさせたうえに英雄(広告塔)として利用し、既得権益を維持するためだろう。
言わば、排斥派は「ネギを排斥する振りをしている」だけで、実際には「ネギを使い潰そうとしている」だけに違いない。
「……もしかして、貴方はネギ嬢を犠牲にしないために、例の方法で魔法世界を救うおつもりなのですか?」
「さぁ、どうでしょうね? 大の虫を生かすために小の虫を殺すのは当然のことだ と思ってはいますけど?」
「そうですね。ですが、その小の虫が貴方にとって大切な存在ならば、貴方は大の虫を殺すのでしょう?」
アセナはクルトの言葉に遠回りな否定を示す。アセナはネギのため『だけ』に魔法世界を救う訳ではないからだ。
「ええ、もちろんです。ですが、オレにも良心はありますから、大の虫も殺さないように努力はしますよ?」
「それでは、言い換えましょう。貴方は犠牲を最小限にするために御自分を犠牲にするおつもりなのですね?」
「さぁ、どうでしょうね? オレは割を食うつもりは有りますが、犠牲になるつもりは全然ありませんよ?」
クルトの言葉に遠回りな肯定を示したアセナは薄っすらと笑う。それは自嘲か、諦観か? その笑みの意味は、アセナしか知らない。
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オマケ:アセナとして生きる道
「ああ、そう言えば、話は変わりますが……『協力者』を募る前に『闇の福音』と縁を切っていただけないでしょうか?」
何とも言えない空気を壊すかのようにクルトが口を開く。まぁ、放たれた言葉は、より空気を悪くするような言葉だったが。
しかし、言って置かなければならないことだったのでクルトを責められない。むしろ、タイミングとしては悪くはない。
空気は悪化したが、そもそもが空気の悪くなることなので、空気が悪い時に纏めて片付けて置くのは間違ってはいないだろう。
「……ああ、そう言えば、エヴァは『元老院』に受けが悪いんでしったけ」
ついつい忘れがちになるが、エヴァは元600万ドルの賞金首だ。麻帆良に封じられてからは取り下げられたが、賞金首だったことは確かだ。
そして、その賞金を掛けたのは『元老院』であることは疑うまでもない。と言うか、『元老院』以外に賞金首を設定できる筈がない。
つまり、元だろうが賞金首であるエヴァのイメージは『元老院』にとっては よろしいものではない。いや、むしろ、悪いと言うべきだろう。
ちなみに『元老院』が掛けたのに魔法世界の通貨であるドラクマではなく地球の通過であるドルなのが極めて謎だが、そこは気にしてはいけない。
「ええ。昔からスケープゴートとして利用していたので、受け入れ難いんですよ」
「あの通りですから、幼女を愛でられる紳士には受けがいいとは思うんですけど?」
「それでも、です。この場合、着目されるのは『中身』ではなく『外見』ですから」
「『永遠の合法ロリ』と言う属性よりも、『真祖の吸血鬼』と言う立場……ですか」
「ええ、そうです。微妙に違和感は覚えますが、そのような理解で問題はありません」
集団が纏まるのに最も効率がいい方法は「外部に共通の敵を作ること」である。つまり、エヴァは体良く利用されていたのだ。
「まぁ、仰りたいことは よくわかりました。ですが、残念ながら それはできません」
「……それは何故でしょうか? 差支えがなければ理由を お教えいただけませんか?」
「簡単な話ですよ。オレにとってエヴァは欠かすことのできない重要な存在だからです」
「そう、ですか。ですが、それでは味方を作るどころか、敵を増やすことになりますよ?」
クルトの言い分は充分に理解できる。だが、だからと言って頷く訳にはいかない。悪名が高くてもエヴァは大切な存在なのだ。
「そうでしょうね。ですが、オレとしては、むしろ それでいいんですよ。
その程度のことも信じてくれない輩なんて、オレは味方には要りません。
無能な味方は敵よりも厄介ですからね。むしろ、こちらから願い下げです」
アセナは口元を吊り上げて「そう言う意味では、ちょうどいい試金石になるんじゃないですか?」と付け加えて締め括る。
「そうですか。まぁ、そこまで仰るのでしたら、その件は あきらめましょう」
「ええ、そうしてください。と言うか、別の条件を飲ませたいんでしょう?」
「……なに、簡単なことですよ。昔の名前を名乗っていただくだけ ですから」
クルトの反応を見るにエヴァの件は「言うだけ言ってみた」と言ったところだろう。実にアッサリと諦めた。
しかし、断られた直後に「名前を戻すこと」を要求して来る辺り、さすがとしか言えない。
恐らくは、敢えて一つ目の提案を断らせることで二つ目の提案を断りにくくしているのだろう。
無茶な要求を断った後に それなりの要求をされたら何となく応じてしまうのが人間の心理だ。
「『元老院』を相手取るには、ネギ嬢(英雄の娘)のパートナーや西(極東の一地域)の次期当主と言う立場だけでは威力が足りません。
使いたくはありませんが『ウェスペルタティア王家の血筋』と言うカードと『黄昏の御子』と言うジョーカーが必要となるでしょう」
アセナが『黄昏の御子』であることを隠して来たのは、秘密裏に身柄を拘束されることを避けるためである。
その意味では、アセナが『黄昏の御子』であることが周知のものとなれば、逆に危険性が減る可能性は高い。
いや、むしろ、アセナは時機を見て、正式な場で自ら『黄昏の御子』であることを暴露するつもりですらいた。
「……確かに、仰る通りですね。ですが、その名を名乗るには、まだやらなければならないことが残っています。
ですから、それが終わった後は、『アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフォシア』と名乗りましょう」
アセナが本名を名乗るには危険が付き纏う。少なくとも『完全なる世界』のターゲットになることは間違いない筈だ。
フェイトとの『契約』はあるが、何処まで制約されるのかは定かではないため、危険なことは変わらない。
だからこそ、『完全なる世界』と決着と付けるまで――危険度を減らすまで、アセナは本名を名乗る訳にはいかないのだ。
いつか、『完全なる世界』と決着が付いた後、アセナは大手を振って本名を名乗ることだろう。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。
今回は「クルトと楽しい楽しい お話」の巻でした。
クルトが美少年好きになったのは、最早 言うまでもないですよね?
ええ、そうです。この作品だからです。変態にならない訳がありません。
ただし、ただの変態で終わらないのがクルトのクオリティです。
しっかりとシリアスもこなせます。むしろ、シリアスがクルトのメインです。
では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2011/10/07(以後 修正・改訂)