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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:b259a192 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/12 20:06
第44話:本番前の下準備は大切だと思う



Part.00:イントロダクション


 今日は8月9日(土)。

 アセナ達が魔法世界に訪れてから、それなりの時が流れた。
 その間、彼等が何をやっていたのかは折を見て語ることにしよう。



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Part.01:千の刃の男


「お久し振りです、ラカンさん」

 広大な砂漠の中にポツンと存在するオアシス。そこだけが別世界のようで、そこには水と緑と人口の建造物が見て取れた。
 タカミチが話し掛けたのは、そんなオアシスの中心(つまり、水の上)で座禅を組んでいる色黒で筋骨隆々な金髪の男性である。

「おう、タカミチ。久し振りだなぁ」
「お変わりが無いようで何よりです」
「お前の方はクタビレてそーだがな」

 男――ジャック・ラカンは軽口を叩きながら、桟橋まで移動する(もちろん、水の上を歩いて だ)。

「おっ? お前……まさか、アセナか?」
「ええ。ご無沙汰してます、ラカンさん」
「おぉ、こいつぁデカくなったもんだなぁ」

 桟橋に上がった先でタカミチの隣にいた人物を見たラカンは意外そうな顔をした後、嬉しそうな表情を浮かべる。
 そして、破顔しながら「ボフボフ」と言う効果音が聞えて来そうな勢いでアセナの頭を叩く(本人は撫でてるつもりだが)。

「……痛いですよ、ラカンさん」

 再会を喜んでくれるのは嬉しいが、痛いものは痛い。身体は鍛えていてもラカンとの差は歴然なので、どうしても痛いものは痛いのだ。
 まぁ、『咸卦法』を使えばいいのだろうが、バトルジャンキーの気があるラカンの前で『咸卦法』を使うのは餌を与えるようなものだ。
 バトルをしに来た訳でもバトルの修行に来た訳でもないアセナは、文句を言いつつもラカンのスキンシップを甘んじて受けるのだった。

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 ここで話は変わるが、ラカンの元に来たのはアセナとタカミチだけで、残りのメンバーはそれぞれオスティアで過ごしている。

 その理由としては、移動のデメリットとラカンに会うメリットを比べて、あきらかにデメリットが勝ったからである。
 オスティア(逗留場所)からグラニクス(現在地)までの移動とグラニクスでの砂漠の旅は、時間も体力もコストが嵩む。
 更に『元老院』の息が掛かった者達に襲われる危険性もあるし、そもそもラカンが大人数を受け入れるかも不明である。

 そんな訳で、少数精鋭で来る方が得策である と判断したアセナは、タカミチ(仲介役 兼 護衛役)を伴うだけにしたのである。

 もちろん、ネギがアセナに付いて来ることを望んでダダを捏ねたのは言うまでもないだろう(多少は成長しているが、ネギはネギなのである)。
 まぁ、アセナが誘導するまでもなく(アセナの狙い通りに)アーニャが自発的にネギを宥め賺してオスティアに止めたことも言うまでもないだろう。
 また、この時ばかりは「最初は帰らせようと思っていたけど滞在させたままでよかった」とアセナが心の底から思ったのも言うまでもないだろう。

 ちなみに、ネカネは歓迎パーティーで引っ掛けた哀れな男と「貢がせるためのデート」に明け暮れていることは、別に言わなくてもいいだろう。

 あ、ついでだから言って置くと、超と茶々丸と茶々緒はアセナから頼まれた『仕事(もちろん後ろ暗い方面の)』を行っており、
 特にやることのないエヴァは皆の護衛をしつつオスティアを観光を楽しんでいる(と言うか、実際には観光しかしていない)。

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「しっかし、死んだ魚みてーに濁った目をしていたガキが、こんな風に成長するとはなぁ」

 ラカンは「時の流れってのは凄ぇぜ」と付け加えつつ、シミジミとアセナの成長を語る。感慨深いものがあるのだろう。
 ちなみに、現在の三人はラカンの住居(と言うか、勝手にラカンが住み着いている建物)に移動している。
 そこでラカンの淹れた煎茶が振る舞われるイベントがあったのだが、普通に美味しかっただけなので割愛させていただく。

 普通に美味しいだけでは業界的には「美味しくない」のである(どこの業界なのかは極めて謎だが)。

「そりゃ10年もあれば少しは成長しますよ。まぁ、ラカンさんは変わってない気がしますけど」
「まぁ、オレァ長命種だからな。それに、オッサンの10年とガキの10年は意味が違ーって」
「……そうですね。成長が止まっているのと成長するのとでは、年数の重みが違いますよね」

 年数だけで言えばアセナは100年以上は生きている。だが、そのほとんどの期間は人形と変わらない人生だった。

 ただ単に兵器として生かされているだけの、時を止められた子供。それが『黄昏の御子』だった。
 数え切れない人間の命を吸わされ、成長は止められ、行動は束縛され、意思すらも奪われていた。
 いや、正確には、意思は自分で止めたのだが、止めざるを得ない状況に置かれていたことが原因だ。

 そう、「成長が止まっている」のはラカンのことではなく、過去のアセナのことだ。そして、「成長する」のは現在のアセナのことなのだ。

 もちろん、皮肉として言ったのではない。どちらかと言うと、ブラックユーモアのつもりで言ったのだ。
 暗い過去を笑い話にできる と言うことは、過去を過去として割り切っている と言う証拠だからだ。
 アセナは遠回しに「貴方達の御蔭で、オレは成長できました」と正面からは言い難いことを言ったのである。

「まぁ、それはそうと……タカミチが魔法世界に来るとは聞いていたが、何でアセナまで来たんだ?」

 アセナの遠回しな感謝の言葉に気付いたラカンは、照れ隠しのためか、少し強引に話題を切り替える。
 とは言っても、別に照れ隠しだけが目的なのではなく、気になっていたのも確かなようだ。
 その口調は少し責めるようなもので「危ねぇってのはわかってんだろ?」と言わんばかりである。

 望んだのはアセナだが、許可を出したのはタカミチなので、タカミチが代わりに説明しようと口を開こうとする――が、アセナに手で制されてしまう。

「危険なのは わかっていました。ですが、危険でも魔法世界に来る必要があったんです」
「ほぉう? 危険を承知のうえで魔法世界に来たのか。んで、その理由ってのは何だ?」
「単純に、このまま魔法世界が滅びるのを黙って見ていることができなかっただけですよ」

 ただそこにいるだけでもラカンの発する圧力は凄まじい。だが、アセナは怯む素振りすら見せずにラカンの瞳を見詰めて言葉を紡ぐ。

「ハッ!! 言う様になりやがったな。だが、お前に何ができるって言うんだ?」
「確かに大したことはできません。ですが、オレにしかできないこともあります」
「お前にしかできないこと、ねぇ? お前、自分の立場をわかって言ってるのか?」

 ラカンは睨み付けるかのようにアセナの瞳を見詰め返す。それだけでアセナが感じる圧力は倍増したが、アセナは決して瞳を逸らさない。

「言葉は悪いが、お前が鍵となって魔法世界が滅ぶ可能性だってあるんだぜ?」
「ええ、わかっています。魔法世界の命運を握る『黄昏の御子』ですからね」
「言いたかないが、そんな立場からお前を解放するためにガトウは命を掛けたんだぜ?」
「……それも わかっています。ですが、それでもオレはやらねばならないんです」

 威圧するラカンと、それを真っ向から受け止めるアセナ。
 両者は互いに譲らず、互いに互いの目を睨み合い続ける。

「…………まぁ、そこまで言うんなら、別に止める気はねーよ。好きにしな」

 そんな睨み合いを先に止めたのはラカンの方だった。アセナから視線を外すと、ラカンは軽く肩を竦めながら納得を示す。
 それは「言っても無駄だ」と判断したのか? それとも、アセナの覚悟を見て取ったのか? ……その答えはラカンしか知らない。

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「ところで、何でオレを訊ねて来たんだ? 別に顔を見せに来ただけって訳じゃねーんだろ?」
「ええ。無事な姿を見せて置きたかったのもありますが、魔法世界に来た理由と関係してます」
「あん? 魔法世界がどーのこーのってヤツか? まさか、世界を救うために手を貸せ とか言う気か?」

 ラカンとしては世界のことなどどうでもいい。20年前に世界を救ったことにはなっているが、結果的に『そうなった』に過ぎないのだ。
 アセナが世界のために動くのを否定しないが、手伝う気はない。そのため「悪ぃけど、面倒事はゴメンだぜ」と言う態度を隠しもしない。

「いえ、どちらかと言うと、何もしないで欲しいんです。予定通りに進めたいので」
「はん? つまり、オレが暴れると予定が狂うから何もするなってーことか?」
「ええ。不測の事態は折込済みですが、貴方だと それすらも超えそうですから」

 アセナもラカンを巻き込むつもりはない。単にラカンが勝手に動くと困るので、それを止めに来たに過ぎない。

「言いたいことはわかったが……それだと、オレが暴れることが予想できてるみたいな言い方だな?」
「ええ、そうなりますね。と言うのも、これから『完全なる世界』の残党と接触する予定なんですよ」
「ぬぉい!! 何 考えてんだ!? ヤツ等が お前を狙ってたのを知ってんだろ?! 自殺願望でもあるのかよ!?」
「いえ、どちらかと言うと、死中に活を見出す気です。敢えて攻めに行く方がオレの好みなんですよ」

 ラカンに言われるまでもなく、アセナが『黄昏の御子』である以上、アセナは危険な立場にある。

 しかし、近い将来、アセナは『協賛者』を得るために自身の正体を明かす予定だ。それは予定だが、確定された未来でもある。
 そうなれば、『完全なる世界』に狙われるようになるだろう。ならば、こちらから攻めに行かなくても危険なことは変わらない。
 もちろん、危険度に違いはある。だが、それでも攻めに行くべきだ とアセナは判断した。そう、ただ それだけのことなのだ。

「まぁ、その考え方は嫌いじゃねーが……だったら、戦力は多い方がいいんじゃねーのか?」

 世界のために戦うのは性に合わないが、自分の尻拭いのために戦うのなら話は別だ。
 それに、途中で参戦すると予定が狂うのなら、最初から参戦するものとして予定を組めばいい。
 それ故に、ラカンは「よかったら手を貸してやるぜ?」と言うことを遠回しに言ったのである。

「お気持ちは有り難いんですが……先程『接触』と言ったでしょう? 戦いに行くのではなく話し合いに行くので、過剰な戦力は要りません」

 ラカンの申し出は有り難いが、アセナの言った通り、今回は戦いに行くのではなく話に行くので過剰な戦力は不要だ。
 過剰な戦力を持っていたがために「二心あり」と疑われて交渉が決裂する などと言う展開になるのは御免だからだ。
 たたでさえ エヴァやタカミチやクルトと言う戦力を有している現状なのだから、これ以上の戦力は無用の長物でしかない。

 いや、まぁ、既に過剰な戦力のような気がしないでもないが、敢えて それは考えないようにして置こう。

「だが、話し合いが決裂したら戦いになるんじゃねーか? やっぱ、戦力は多い方がいいだろ?」
「……ありがとうございます、ラカンさん。それならば、最悪の場合になったら手を貸してください」
「別に礼は要らねーよ。テメェのケツはテメェで拭くべきで、ヤツ等はオレ達の拭き残しだからな」
「たとえ理由が どうあろうとも、手を貸していただけることが嬉しいですよ。とても心強いです」

 過剰な戦力は要らないが、保険なら過剰にあっても困らないだろう。そう結論付けたアセナは、ネギ謹製の『転移符』と『通信具』を渡す。

「ん。じゃあ、ケンカになったら呼んでくれ。ちなみに、話し合いとかはメンドクセーから、そっちは任せとくぜ?」
「ええ、最初から そのつもりですよ。そもそも、そっち方面で動くためにオレは魔法世界に来たようなものですからね」
「(ほぉう? ガトーの意思は受け継がれてるってことか?) ……まぁ、無理しない程度に頑張ってくれや」

 ラカンは渡された物の意味(必要になったら呼びますので、転移してください)を正確に理解し、話し合いの方はアセナに丸投げする。
 元から交渉を引き受けるつもりだったアセナは それを不敵な笑みを浮かべて受け、そこにガトーを幻視したラカンは微笑を浮かべるのだった。



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Part.02:闘争の本質


「しっかし、ヤツ等と話し合うとか、大丈夫なのかよ?」

 アセナ達は「せっかくだから泊まっていけ」と言う言葉に甘え、ラカンの住居(何度も言うが勝手に住み着いているだけ)に泊まることになった。
 そして、ラカンの手料理(やはり、普通に美味しい)を堪能した後は何故か酒盛りに突入し、その中でラカンがヘラヘラ笑いながら切り出したのだ。
 もちろん、ヘラヘラ笑っているのは酔っているからであり、酔っているから心配するようなセリフを普通に言っているのである(意外と心配性なのだ)。

「多分、大丈夫です。『魔法世界を救う』と言う点では、目的は一緒ですから」

 アセナも酒は飲んではいるが、酔ってはいない。体質的に酒精に強いのもあるが、そこまで量を飲んでいないのもある。
 ちなみに、戸籍上は未成年ではあるが、どう考えても(100歳を越えているから)成人はしているので問題はないだろう。
 そもそも、魔法世界では(例外はあるが)基本的には13歳以上で成人として扱われるようなので、その意味でも問題はない。

「はん? 20年前、ヤツ等は魔法世界を滅ぼそうとしていたんじゃねーのか?」

 アセナの言葉に疑問を持ったラカンが訊ね返す。世界の滅亡を救ったことで英雄に祭り上げられたので、当然の疑問だろう。
 そもそも、世界を滅ぼし兼ねない勢いで魔法世界全土を巻き込んだ先の大戦は『完全なる世界』が裏で手を引いていたのだ。
 それに、間違いなく20年前『完全なる世界』は『黄昏の御子』を利用して『世界の終わりと始まりの魔法』を使おうとしていた。
 専門家ではないラカンだが、アレの意味することは――仮にアレが成功していれば魔法世界が崩壊していたことは理解している。

「……申し上げにくいのですが、それは『勘違い』だった可能性があります」

 そもそも、先の大戦の目的は魔法世界内での戦争で消耗させて『元老院』の強制移民計画を阻止することだった。
 それに、『世界の終わりと始まりの魔法』は、その名の通り、世界の『終わり』と『始まり』の魔法である。
 言い換えるならば、『世界の破壊』と『世界の創造』の魔法となり、魔法世界を崩壊させる『だけ』ではないのだ。

 完全魔法無効化能力を応用して魔法世界を魔力に還元し、その莫大な魔力で『完全なる世界』を作るのが本来の意図ではないだろうか?

「もちろん、彼等を弁護する訳ではありません。ですが、彼等は一方的な悪ではなかったんだとオレは思うんです」
「……まぁ、意味もなく世界を壊そうとしていたっつーより、やり方が荒っぽかっただけっつー方がシックリは来るな」
「ですから、まずは交渉してみようと思います。その結果が どうなるかはわかりませんが、歩み寄れる可能性はあります」

 既に34話でフェイトと交渉し、最低限の協力関係も結んでいる。『黄昏の御子』であることが判明しても、希望はあるだろう。

「しかし、その情報、どうやって仕入れたんだ?」
「実は、『完全なる世界』の構成員から聞いたんです」
「……それだと騙されてる可能性があるんじゃねーか?」
「まぁ、その通りですね。ですが、オレは信じました」
「そうか……それなら、余計な口出しはしねーよ」
「すみません。そして、本当に ありがとうございます」

 ラカンは『完全なる世界』を信じた訳ではない。月並みな言い方だが、「『完全なる世界』を信じるアセナ」を信じたのだ。ただ それだけのことだ。

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「ツーカ、オレニモ酒ヲ寄越シヤガレ!! モシクハ出番ヲ寄越シヤガレ!!」

 それまで、空気を読んで黙っていたチャチャゼロが遂に耐え切れなくなったのか横槍を入れて来た。
 まぁ、話は一通り終わっていたので、その意味では空気を読んで横槍を入れたのかも知れないが。

「あれ? チャチャゼロ? どーして ここいるの? 鞄で昼寝でもしてたの?」
「オイ!! オマエガ『念のため付いて来て』トカ言ッテ連レテ来タンジャネーカ!!」
「ああ、何か そんなこともあったような気がするね。すっかり忘れていたけど」
「ヤッパリカ!! ッテ言ウカ、タダデサエ最近 出番ガネーンダカラ忘レンナ!!」

 オスティアに残して来てもよかったのだが、道中の安全を確保するために連れて来たらしい。すっかり忘れていたようだが。

「ぶっちゃけ、カタカナで喋られると書き難いし読み難いから出しづらいんだよね?」
「メタ ナ発言スンナ!! ッテ言ウカ、ダッタラ超ニデモ改造サセレバ イイダローガ!!」
「このバカチンがぁああ!! そんなことしたら、キャラが立たないだろうがぁああ!!」
「ソンナ理由デ キレテンジャネー!! ムシロ、コッチガ キレタイ クライ ナンダゾ!!」

 チャチャゼロの喋り方は、チャチャゼロにとっては どうでもいいことだが、アセナにとっては どうでもよくないことだった。まぁ、それだけのことだ。

「でも、チャチャゼロからカタカナ喋りを取ったら、キリングドールしか残らないでしょ?」
「ソレデ充分ダローガ!! ッテ言ウカ、ムシロ、オレノ役割ハ ソッチ方面ダローガ!!」
「……なるほど、一理あるね。じゃあ、しょうがない。帰ったら超に改造を頼むことにするよ」
「アア、ソウシテクレ。ソシテ、改造ノ後ニハ、オレ ニ モット出番ガ来ルヨウニシロ」

 チャチャゼロの言いたいことはわかる。カモ同様ずっと控えていたのに出番がなかったのだ。とても寂しい思いをしたことだろう。

 だが、チャチャゼロは最終防衛ラインなので、チャチャゼロに出番が来るのは「アセナが本当に危機的状況にある時」と言うことになる。
 その意味では、チャチャゼロの出番はあってはならないのだ。と言うか、アセナはチャチャゼロの出番を無くそうと努力している。
 よって、アセナは「戦闘での出番ではなく、会話での出番を作ることにしよう」とキリングドールの役割とは真逆な方針を練るのだった。

 つまり、身も蓋もなく言うと、アセナはチャチャゼロを萌え要因として扱うつもりのようだ。

「って言うか、アセナ。お前は また随分と面白ーもん持ってんじゃねーかよ?」
「……おrdかりでしょうが、これ、見た目は可愛いですけど中身は危険ですよ?」
「オイ!! コラ!! 『コレ』扱イ スンジャネー!! モット扱イ ヲ 善クシロ!!」
「ハッハッハッハッハ!! こいつぁ、なかなか元気のいい人形じゃねーか!!」
「ちなみに、本来はエヴァの従者なんですけど、護衛のために借りている状態です」

 よくよく考えてみると、修学旅行中の護衛のためにエヴァから借りて以来ずっと借りっ放しだった気がする。

 エヴァから「返せ」と言われなかったので返すのを忘れていたのもあるが、護衛手段として重宝していたのもある。
 まぁ、エヴァとの契約を更新した時(32話)に済し崩し的に貸し出しが延長されたもの と考えればいいだろう。

「護衛、ねぇ? ってことは、護衛以外のことは出来ない仕様になってるってことか?」
「いいえ。あくまでもオレを護衛することが第一目標になるだけで、他は自由ですよ」
「……ほぉう? じゃあ、オレがソイツとガチでバトルをしてもOKってことになるよな?」
「ええ、そうですね。殺さない(壊さない)程度のバトルでしたら、止めはしません」
「よぉし!! それなら大丈夫だ!! オレは手加減もできる男だからな!! 安心しとけ!!」

 確認を終えたラカンは「バトっても問題なし」と言う結論を得ると、オモチャを与えられた子供のような無邪気な表情を見せる。

「ってことで、ちょっとバトろうぜ? 人斬人形」
「アア、イイゼ。トコトン殺リ合オウゼ、筋肉人間」
「おおぅ、いいねぇ。そのヤル気マンマンなオーラ」
「随分ト フラストレーション ガ 溜マッテルンデナ」
「そいつぁ、奇遇だな。オレも最近 暴れてねーんだ」

 戦る気(ヤる気)を滾らせる二人の様子から「バトルは回避不能」と悟ったアセナは「程々にしてくださいね」とだけ言い残してサッサと退場する。
 バトルジャンキー共の バトルジャンキー共による バトルジャンキー共のための バトル を見物する程、アセナはバトルが好きな訳ではないのである。

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「フハハハハハハ!! なかなかやるじゃねーか!!」

 高笑いをしながら『千の顔を持つ英雄』を起動し、数多の剣を生み出して次々に投擲するラカン。
 この光景をアセナが見ていたら「弾幕ごっこ、って言うか『無限の剣製』ごっこだね」と評するだろう。

「キャハハハハハハ!! ソレハ コッチノ セリフ ダゼ!!」

 それに対するチャチャゼロも、高笑いしながら『断罪の刃』で投擲される数多の剣を迎撃して行く。
 ちなみに、この『断罪の刃』、名前で おわかりだろうが、エヴァの『断罪の剣』と同じ効果のナイフである。
 そう、ナイフの周囲に「触れた固体・液体を気体に相転移させる力場」を発生させる凶悪な代物だ。

 もちろん、ネギの作り出した魔法具で、上級アーティファクトに匹敵するレベルの代物である。

 人形の身であるためパワー不足がネックだったチャチャゼロにはピッタリの武装だろう。
 むしろ、小柄な体躯を活かしたトリッキーな軌道と合わさると「鬼に金棒」とすら言える。

「やっぱ、喧嘩ってのは、こー言う方がいいぜ!!」

 何の裏表もない、純粋な戦闘。そこには、戦争の様に思惑が介在する余地などない。
 言わば、戦うこと そのものが目的である戦闘は、ある意味で神聖なものなのだ。

 まぁ、戦闘の余波で周囲にクレーターが出来たりしているので、他者にとっては傍迷惑でしかないだろうが。



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Part.03:アルビレオ、来襲


「うっわ~~、最高にテンション高かったのに…… 一気に最悪なテンションになったぜ」

 チャチャゼロとの楽しい楽しい戦闘を堪能して居室に帰還したラカンを待ち受けていたのは、アルビレオが憑依した魔人形だった。
 原作で朝倉が小夜を藁人形に入れて麻帆良の外に出したように、ネギ謹製の魔力稼働式人形(略して魔人形)に入っているのだ。
 アセナが魔法世界に来るのに「助言者として使える」と言う理由で連れて来られたのである。まぁ、本人も外出は望むところらしいが。

「フフフフフ……照れなくてもいいんですよ?」

 おちょくっているのを隠すことすらせずに応えるアルビレオな魔人形。魔人形でもアルビレオはアルビレオなのである。
 ちなみに、魔人形の外見はアルビレオがデフォルメ化したようなもののため、見ているだけでも かなりイラッと来る。
 人形なので表情は動かない(薄笑いのまま固定されている)のだが、だからこそ余計にイラッと来るのかも知れない。

「照れてねーから。メッチャ本気でイヤだから」

 アルビレオが本気で言っている訳ではないのはわかっているが、それでも言って置かなければいけないのでツッコむラカン。
 大雑把な印象を持たれがちなラカンだが、ラカンは意外と細かいのである。ツッコまなければいけない時はツッコむのだ。

「それはそうと、協力していただき ありがとうございます」
「いや、別に構わねーよ。って言うか、お前も噛んでるのかよ?」
「ええ。とは言っても、あくまでも『協力者』に過ぎませんがね?」
「ったく、しばらく見ねーうちに随分と成長したもんだよなー」
「まぁ、『いろいろ』ありましたからねぇ、成長くらいはしますよ」

 アルビレオの言う『いろいろ』とはナギの憑依も含まれているが、別に必要ない情報なので それをラカンに教えるようなことはしない。

「それよりも、『完全なる世界』と接触するのは本当に大丈夫なんだろうな?」
「さあ、どうでしょう? 少なくとも、虎穴に入らなければ虎子は得られません」
「つまり、リスクはあるけどリスクを負った分のリターンはあるってことかよ」

 しつこく安全を確認して来るラカンにアルビレオは「心配性ですねぇ」と思いながらも事実を述べる。必要な情報なので隠さないのである。

「ええ。しかも、分は悪くないですからね。賭けるしかないでしょう?」
「まぁな。それに、一度 決めたら梃子でも動きそうにねー感じがするしな」
「断固たる意思を持つこと と頑固で意固地になる のは別問題ですがね」
「アイツの場合、前者っぽい気はするけど……後者の気もあるよなぁ」

 アリカと言う頑固で意固地なウェスペルタティア王族を知る者としては、そう思ってしまうのは仕方がない。

「だから、我々がいるのでしょう? 若輩者を導くのがロートルの役目ですよ」
「そうかも知れないが……オレは まだまだ現役だ。って言うか、生涯現役だ」
「はいはい、カッコイイ セリフ乙です。ですが、正直、それはウザいですよ?」
「ウザいって、お前なぁ。それは生涯現役を目指す すべての人間を敵に回すぜ?」

 ちょっといいセリフを潰されたアルビレオとしては、ラカンの生涯現役を目指す気持ちはわかるが わかるからと言って許せる訳ではない。

「こんなことを言うのは貴方限定ですよ。長命種なんですから、サッサと隠居するのがマナーですよ?」
「知ったこっちゃねぇな。それに、若ぇヤツ等が頼りねーんだから、隠居なんて できねーだろが?」
「それは言い訳です。後進を育てようとすらしていない人間に後進の文句を言う権利はありませんよ?」
「しょうがねーだろ? 育てるのはオレの性に合わねーんだよ。オレはサボテンすら枯らせる男だぜ?」

 確かに、砂漠でも生息できるサボテンすら育てられないラカンに人を育てられるとは思えない(原作のネギは巻物を与えただけだし)。

 と言うか、後進を育てていないのはアルビレオも同じような気がしないでもないのだが……
 アルビレオの意見としては「私は隠居しているようなものなので違うのですよ」らしい。
 まぁ、傍から見たら「同じ穴の狢だよ」と言いたくなるが、そのツッコミは控えるのが大人だろう。

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「って言うか、そもそも何しに来やがったんだ?」

 雑談に一区切り付いたところで、ラカンが真剣な面持ちになって訪ねる
 旧交を暖めるタイプでもないアルビレオが現れた理由が気になっていたのだ。

「なに、今のうちに ちょっとしたネタバラシをして置こう と思いましてね」
「ネタバラシだぁ? 何の話かは知らんが、そー言うのは好きくねーんだが?」
「でしょうね。ですが、今回は我慢してください。何せ魔法世界のことですから」
「……つまり、アセナの言ってた、魔法世界の崩壊云々と関係してるってのか?」
「いえ、関係しているどころか、むしろ核心部分とも言えるネタバラシですね」

 ラカンにとって、秘密などは どうでもいいことだ。それに、仮に気になったとしても、自力で暴き出すタイプだ。
 だが、今回に限っては そうも言っていられない。それを理解したラカンは、アルビレオの言葉を大人しく聞き始める。

「そもそも、魔法世界が火星をベースにした人造異界である と言うことは以前にも お話ししましたよね?
 これに関連して、人造異界である以上 魔法世界の崩壊は必然であり、そのタイムリミットが近いことも、
 また、大半の魔法世界人は魔法世界と同様に『造られた存在』であるため魔法世界と共に滅びる運命にあることも、
 そして、私も貴方も その『滅びてしまう側』に含まれてしまっていることも、お話ししたかと思います」

「……ああ、そうだな。確かに聞いた。つまり、これ以上の情報があるってことか?」

 アルビレオが『ネタバラシ』と言っている以上、既知の情報を確認するだけとは思えない。
 むしろ、既知の情報の先にある情報が本題であるために敢えて確認をした と考えるべきだ。

「ええ。と言うのも、魔法世界を造った存在である『始まりの魔法使い』――『造物主』についてなんです。
 御存知の通り、敢えて身体を乗っ取らせて器(ナギ)ごと封印するしか、対抗手段がありませんでした。
 しかし、それは あくまでも10年前の話です。今ならば、対象の精神だけを封印できるかも知れません。
 とは言え、そのためには、『造物主』の封印を解いたうえで精神を分離しなければいけないんですがね?」

 アルビレオは朗々と淀みなく、まるで演説をするかのように言葉を紡いでいく。

 ちなみに、何故10年前は器ごと封印するしかなかったのに今ならば精神だけを封印できるのか と言うと、
 アルビレオが魔法世界の存続方法を模索する傍らで、精神と肉体の関連性についての研究もしていたから である。
 そう、世界と精神の両方を研究していたからこそアルビレオは『那岐』に『ナギ』を憑依させられた と言えるのだ。

「……なるほどな。つまり、アセナの件だけでなく『そっち』にも手を貸せってことだな?」

 アセナと『完全なる世界』の交渉が決裂した場合、ラカンはアセナに手を貸す予定であるが、
 それとは別の問題として、アルビレオはナギのサルベージの助力を求めているのである。
 と言うのも、両者は似ているし重なる部分はあるのだが、まったくの別問題だからだ。
 そう、交渉が決裂したからと言って『始まりの魔法使い』の封印が解かれる訳ではないのだ。

 まぁ、交渉が決裂しなくても、交渉のために ほぼ確実に封印を解くことになるだろうが。

「ええ、そうなります。一応、封印を解いたりするのにアセナ君の協力は取り付けてあります。
 まぁ、そうは言っても こちらが解かなくても相手が勝手に解いてくれるでしょうが、一応ですよ。
 ちなみに、精神を分離するには結構な時間が掛かりますので、頑張って時間を稼いでくださいね」

 つまり、ラカンに求めているのは封印を解くことではなくて、封印が解けた後の足止である。

「また無茶を言いやがって……アレ相手だと時間稼ぎだけでも かなりキツいんだが?」
「しかし、他に適任はいません。タカミチ君やクルト君では まだ荷が重いでしょう?」
「そりゃそうだが……確か、エヴァも来てんだろ? エヴァでいいんじゃねーか?」
「まぁ、確かにそうですね。ですが、貴方は このまま『負けっ放し』でいいんですか?」

 20年前、ラカンは一方的に両腕を奪われた。勝ち負けで考えれば、どう考えても負けである。

 相手が相手(被造物にとっての造物主)であるため、仕方がない と言えば仕方がないだろう。
 だが、だからと言って勝ちを あきらめる理由にはならない。ラカンには、そんなもの関係ない。
 そもそも、ラカンにとっての闘争は「勝てるか、勝てないか」ではない。そんなものは二の次だ。

 大切なのは、「戦いたいか、戦いたくないか」ただ それだけでしかない。それ以外は要らないのだ。

「……まぁ、安い挑発ではあるが、確かに その通りっちゃ その通りだな」
「と言う訳で、『対抗策』を施して差し上げますから、一矢報いてください」
「『対抗策』? ってことは、同じ土俵に立つことができるってことか?」

 現実問題として、被造物であるが故に「造物主には逆らえない」と言う『制限』がある。アルビレオは それを取り払う と言うのだ。

「ええ。実は、帝国にも真実を知る者達がいるようでしてね、地球への移民が実験的に行われているんですよ。
 まだまだ実験段階なので出来は微妙としか言えませんが、それを『協力者』と共に魔改造してみたんです。
 で、出来上がったのが この『羅漢人形』です。このボディを使えば、造物主による縛りはなくなります。
 まぁ、稼働には莫大な魔力が必要なのですが……それも うまいことクリアーできましたのでノー問題です。
 後は貴方の精神を移し替えて調整するだけですので、大船――いえ、泥船に乗ったつもりで任せて下さい」

「うん、まぁ、言いたいことはいろいろあるが……とりあえず、んなもんがあるんだったら、最初から言えよ!!」

 ラカンとしては「態々 不穏な方に言い換えるなよ!!」とツッコみたい気持ちはあるが、大切なのは そこではない。
 そもそも、戦おうとしても戦えないと言う問題があったので最初は戦うことに難色を示していたのである。
 最終的には「気合で どうにかなるだろ」と言う考えで承諾したが、『対抗策』を最初に知りたかったのは確かだ。

 ところで、アルビレオの言う『協力者』とはネギやエヴァのことであり、稼動に必要な魔力はアンドロメダを充てる予定らしい。

「ですが、最初に言ってしまったら つまらないじゃないですか? 常識的に考えて」
「オレが言えた義理じゃねーが、お前の常識は一般的には常識になってねーんだよ!!」
「まさか、貴方からそんなツッコミを受ける日が来ようとは……正直、ショックです」

 まぁ、「常識? 何それ おいしいの?」を地で行くラカンから常識を指摘されたアルビレオの衝撃は言うまでもないだろう。
 最後の最後で空気が弛緩するのは実に締まらない話だが、それがアルビレオとラカンのクオリティなので気にしてはいけない。



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Part.04:正々堂々と裏工作


「さすがは、メガロメセンブリア元老院。なかなか強固なセキュリティですね」

 一方、舞台は変わってオスティア総督府。そこの情報管制室で作業に勤しむ三つの人影があった。
 まぁ、言うまでもないだろうが、アセナから頼まれた『仕事』を行っている超と茶々丸と茶々緒である。
 で、茶々丸のセリフから おわかりの通り、その『仕事』と言うのはハッキング的な行為である。

「電子精霊を用いているとは言え、ペンタゴンを遥かに超えるセキュリティとは……少し予想外ですね」

 茶々丸の言葉を引き継ぐよう茶々緒が応える。だが、言葉の内容の割には困った様子は見受けられない。
 言うまでもないだろうが、ペンタゴンとは米国の国防総省のことで世界最高峰のセキュリティを擁している。
 それ以上のセキュリティと評されていることから、そのセキュリティは相当 堅固なものなのだろう。

「でも、私ニしてみたら問題ないネ。私の技術は100年先を行ってイル。解除なんて造作もないヨ」

 だが、電子精霊は こちらにもあるし、そもそもの地力が違う。情報技術に100年も開きがあるのだ。
 まぁ、超と言う100年後の未来人がいるのだから、100年の開きがあるのは当然と言えば当然なのだが。
 と言うか、超が情報技術で負けようものなら「100年先の技術ってショボッ!!」と言う話になるだろう。

 ちなみに、電子精霊があるのは、アセナと超が『仮契約』をして超が情報系のアーティファクトを手に入れたからである。

 その時期は、アセナとネギがデートしてから学園祭が始まるまでの期間(つまり、38話と39話の間)であり、
 その理由は「少しでも手札は多い方がいい」と言うものと「『念話』があると便利だよね」と言うもので、
 その方法は、キスではなく血を媒介にしたものだったので、語る程の内容ではないので細かいことは割愛する。

 まぁ、後付設定っぽいが、後付ではない。少なくとも、39話の段階では考えてはいた(が、描写を忘れていた)ので後付ではないのだ。

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 話は まったく変わるが、実は、超の知る未来は二種類 存在している。

 一つは、超が現代に時間移動していない――つまり、本来 辿る筈だった『歴史』だ。
 魔法世界が崩壊し、生き残った純粋な人間が火星に取り残された未来である。
 超の介入で『歴史』が変わることは予想されていた(むしろ、それが目的)ので、
 超は予め『歴史』の記憶部分に『プロテクト(記憶保護)』を掛けていた。
 そう、『歴史』が変わることで、超の記憶が塗り替えられる恐れがあったからだ。

 そして、もう一つは、超が現代に時間移動したことで『歴史』が変化した『未来』だ。

 それは、超が現代に来てから刻一刻と変化しており、今では その面影すら存在しない。
 仮に『歴史』の記憶を保護していなければ、現代に来た意味がわからなかっただろう。
 それくらい、『未来』は『歴史』と乖離しており、超の選択の正しさを物語っていた。

「クックックックック……私の決断は正しかっタ。私の中の『未来』が どんどん平和に成っていくヨ」

 大きな分岐点と言えるのは、修学旅行後にアセナと協力関係を結んだ時(32話参照)だった。
 また、悪魔襲撃後の対話にて魔法バラシを断念した時(35話参照)も大きく変わった。
 そして今、アセナから依頼された『仕事』を達成した瞬間、『未来』は更に よいものになった。

「……もしかしたら、私の最大の成功は御先祖を『彼にした』ことかも知れないネェ」

 超の知る『歴史』では、那岐が川に溺れることはなく、当然 記憶を失うこともなかった。
 まぁ、生死の境は彷徨ったが無事だったので、『歴史』に語られなかった と言う可能性もある。
 だが、超が介入した影響で那岐が溺れた可能性は高い(と言うか、実際に そうである)。

 ……そもそも、那岐が溺れたのは子供が川で溺れていたからである。

 この子供が何故に溺れたのか と言うと、川に流されていたネコを助けるため であった。
 それだけなら、因果関係はないように思えるが、問題は『ネコが川に流された』部分だ。
 このネコは『本来なら』餓死していた。だが、茶々丸に餌を与えられたので生きていたのだ。
 そう、茶々丸がネコを餌付けしていなければ――つまり、超が茶々丸を作っていなければ、
 ネコは川に流されることはなく、子供も その子供を助けた那岐も川で溺れることはなかった。
 超の介入があったからこそ、那岐は溺れてナギとなり、そしてアセナとなったのである。

「と言うか、そもそも私のプラン(魔法バラシ)に不安があったのも事実だったしネェ」

 魔法を世界にバラすことによって起こるだろう混乱。その混乱で被害を受ける者は数多くいたことだろう。
 それはわかってはいたが、それでも超は進むつもりだった。必要な犠牲として切り捨てるつもりだったのだ。
 だが、心の何処かでは捨て切れていなかった。心を鬼にするつもりでいたが、鬼になり切れなかったのだ。

 きっと、誰かに自分を止めて欲しくて、ネギかアセナに『カシオペア(対抗手段)』を渡していたことだろう。

 自分で止まれるなら苦労はない。誰かに止めてもらう形でなくては、止まるに止まれなかったに違いない。
 過去に来るまでの努力も過去に来てからの努力も無に帰してしまうのだから、タダでは止まれない。
 最後まで突き進むか、止めて貰うしかなかった。超には それが予測できていた。いや、できてしまったのだ。

「だから、私は迷いなく御先祖の提案を受け入れたのかも知れないネェ」

 魔法バラシを計画している頃、確かに『未来』は好転していた。火星に残された人間が保護されたのだから『歴史』よりはマシだろう。
 だが、それだけ だ。亜人達は魔法世界の崩壊と共に消え去った。結果的に、救われたのは純粋な『人間』だけだったのだ。
 魔法バラシによる混乱での被害者よりは多いだろうが、劇的に多い訳ではない。いや、下手すると被害者の方が多い可能性すらある。

 きっと、超の選択は正しかったのだろう。まぁ、このまま『未来』になれば――つまり、アセナが失敗しなければ、の話だが。

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「ところで、先程からブツブツ言っている超 鈴音は止めるべきなのでしょうか?」

 超が自分を納得させている姿を生暖かい目で見遣りながら茶々緒が茶々丸に訊ねる。
 これが超ではなくアセナならば黙って録画するところだが、超なので対応を確認したのである。

「別にブツブツうるさいだけですから、止めなくてもいいと思いますよ?」
「そうですね。害はないようですから、放って置いても大丈夫ですね」
「と言うか、止めるのが面倒なうえ止めると更に面倒になりそうですからね」

 茶々丸の出した意見は放置だった。そして、それは茶々緒に軽く承認された。

 作業を終えて情報管制室から客室に戻っているので、他人に迷惑を掛けている訳ではない。
 ただ、それを見せられている茶々緒と茶々丸が不気味なだけで、他には大した問題はないのだ。
 まぁ、普通なら安眠妨害になるところだが、茶々丸も茶々緒も眠らないので問題ないのである。

 だが、問題ないからと言って何も感じない訳ではない。少なくとも、茶々緒も茶々丸も不快には感じている。

「せっかくですから、記録して置いて後でイジる材料にしましょうか?」
「ああ、いいですね、それ。それなりに面白い反応が見られそうですね」
「超はクールな振りをしているだけで、実際はテンパリ体質ですからね」
「お兄様とネギ嬢の子孫らしいですから、突発事態には弱いでしょうね」

 アセナも本質的には突発事態に弱い。常に心の準備をしているので、今は それが目立っていないだけだ。

「おや? 不機嫌そうですね? 従者の分を超えているのではないですか?」
「別に嫉妬してませんよ? 誰と子供を作ろうが、お兄様は お兄様ですから」
「……まぁ、そう言うことにして置きましょう。私も人のことは言えませんし」
「むしろ、お母様のAIの影響で私は『こう』なったような気がするのですが?」
「とりあえず、そんな過去は忘れましょう? 大切なのは、現在と未来ですよ?」

 茶々緒を戒めるつもりだったのに思わぬところで手痛い反撃を喰らった茶々丸は、適当なことを言って話を誤魔化そうとする。

「お母様、『いいことを言って終わらせよう』と言うのは、お約束が過ぎませんか?」
「たとえ お約束でも、そこは空気を読んで終わらせて置くのが大人なのですよ?」
「そうですか。しかし、そこを敢えてツッコむのがツッコミの役割だと思います」
「そうかも知れませんが、心の中でツッコむだけにとどめるのもツッコミなのでは?」
「なるほど、一理ありますね。下手にツッコむと こんな風にグダグダになりますし」

 仲がいいとは言い難いが、仲が悪いとも言えない。そんな、微妙な関係の茶々母娘だった。



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Part.05:閑話休題


 そして、8月13日(水)。

 ラカンと別れたアセナとタカミチはオスティアに戻った。
 ちなみに、原作で『白き翼』が魔法世界に訪れた日である。

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「お帰りなさい♪ ナギさん♪」

 旅の目的は達せられたが、いろいろと気苦労は絶えなかった旅だったし、長旅は ただそれだけでも疲れるものだ。
 そんな訳でアセナは心身ともに それなりに疲れており、そんなアセナを癒すかのような笑みでネギが出迎えてくれた。
 しかし、置いて行かれて欲求不満である筈なので逆に怖い。最早アセナには威嚇しているようにしか見えないだろう。

 これは間違いなく更に疲れるような展開だろう。笑顔で「ただいま、ネギ」と応えながらも心の中でサメザメと泣くアセナ。

「ボク、スイーツの美味しい お店を見つけたんです♪」
「へ~~、そ~~なんだ~~。それはよかったね~~」
「ボク、スイーツの美味しい お店を見つけたんです♪」
「うん、それは聞いたよ? それが どうしたのかな?」
「ボク、スイーツの美味しい お店を見つけたんです♪」
「だから、それがどうしたのかな? 意味不明だよ?」
「ボク、スイーツの美味しい お店を見つけたんです♪」
「……わかった。連れて行くから、リピートはやめて」

 覚悟はしていたが、それでも抵抗をしてみるのがアセナのクオリティだ。もちろん、無駄に終わるのもアセナのクオリティだが。

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「えっへへ~♪ とっても美味しいですねぇ♪」

 フルーツと生クリームが山盛りになったパフェをパクつきながら、幸せそうな笑みを浮かべるネギ。
 その様子が あまりにも年相応 過ぎて、この少女に魔法世界の命運が掛かっている とは思えない。
 だからこそ、アセナは微笑ましそうにネギを見ながら、心の中で「そうはさせない」と決意を新たにする。

(月並みな言い方だけど、この笑顔を守るためならば多少の苦労は望むところだねぇ)

 本来なら、ネギも こんな風に笑っているだけでいい筈である。それが許されるのが子供の筈だ。
 だが、ネギの『生まれ』が それを許さなかった。いや、正確には『元老院』が それを許さなかった。
 ネギは「英雄の素質」と「王家の魔力」を併せ持つ稀少な器――魔法世界を救える可能性だからだ。

 父が英雄であり、母が王女であった。ただ それだけのことだが、ただ それだけでネギは縛られていた。

 その意味では、志向がアセナに向くようになったのは僥倖だった。妄執とも言える父親への憧憬がなくなったからだ。
 あのまま父親への妄執に取り憑かれていたなら、ネギは(原作の様に)自ら泥沼に嵌っていったことだろう。
 まぁ、あれはあれで一つの幸せではあるのだろうが、アセナとしては 別の幸せを選んでもらいたい。ただ それだけだ。

「ゴルァアアア!! スイーツでネギを釣ったんでしょ?! この変態!!」

 そんな風にシリアスな思考をしているアセナにドギツいツッコミが入る。
 アーニャ・フレイム・バスター・キックは防いだので物理的には無傷だが、
 有無を言わさない勢いで幼女に変態扱いされたことが精神的にキツいのだ。

「言い訳すらさせてもらえない現状に、もう涙しか出ません」

 あきらかにネギがスイーツをねだったのだが、アーニャはアセナの弁護など聞き耳を持たない。
 と言うか、弁護をさせる余地すらなく変態認定をしている。さすがのアセナも泣いちゃう事態だ。
 まぁ、それはアセナの普段の素行が関係しているので、一方的にアセナが被害者な訳ではないが。

「では、逆に考えては如何でしょう? 『幼女に罵ってもらえてるオレって勝ち組』と」

 そんなアセナにフォローと言うには あまりにもアレなことを言ってくるネカネ。
 その手には高そうな指輪が嵌っており、首にも高そうなネックレスを着けている。
 と言うか、よく見てみると服も高そうだ。考えるまでもなく、例の貢物だろう。
 もちろん、貢いだ男達が哀れだとは思うが、同情する余裕は今のアセナにはない。

 ところで、ネカネが現れたのはアーニャを追って来たからだろう。今まで出待ちしていた訳がない。

「オレ、Mの気もありますけど……愛のない罵倒は嬉しくないですよ?」
「では、愛が無いように見えるだけで実は愛がある と勘違いしては?」
「それも有りだとは思いますが、虚しくなるだけではないでしょうか?」
「意外と我侭ですわねぇ。では、もう あきらめたら如何でしょうか?」

 続けられる言葉があんまり過ぎるので、アセナは「それしかないですよねぇ」と あきらめることにしたようだ。

「アーニャ、危ないじゃないか!! って言うか、邪魔しないでよ!!」
「アンタは黙ってなさい!! って言うか、助けてあげたんじゃない!!」
「何処が助けてるのさ?! 邪魔しているようにしか見えないよ!?」
「それは見解の相違と言うものよ!! いいから ここは私に任せない!!」

 アセナの意識がネカネに向いている間に、何故かネギとアーニャの口喧嘩が始まっていた。実に不思議だ。

「止めた方がいいとは思うんですが……ぶっちゃけ、放って置きたい気分なんですけど?」
「あらあら、まぁまぁ。ですが、それはそれで よろしいのではないでしょうか?」
「そうですね。世の中には『喧嘩するほど仲がいい』と言う言葉もありますからねぇ」
「まぁ、とりあえず『認識阻害』は張りましたから、好きなだけやらせて置きましょう?」

 止めるべきなのだろうが、止めると無駄に疲れそうなので、アセナもネカネも暖かく見守ることにしたようだ。

 ちなみに、ネカネが張った『認識阻害』は、ネギとアーニャを意識から外すタイプの認識阻害ではなく、
 ネギとアーニャの声(口喧嘩なので、それなりの音量)を意識させなくするタイプの認識阻害である。
 幼女二人の口喧嘩は見ていて微笑ましいが、音量が大きいのが迷惑であるため周囲を気遣ったのである。

 ネカネの手馴れた対応(鮮やかな『認識阻害』の展開)に「もしかして、いつも放置してた?」と疑念を抱くが、敢えて確かめないアセナだった。

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「……お兄様、真剣な顔のお兄様も素敵ですが、疲れ切った表情のお兄様も萌えますよ?」

 ネギとアーニャの口喧嘩が終わるのを見届けた後、一行は迎賓館に戻った。
 アセナは旅の疲れや先程の疲れを癒すためにベッドでグッタリしていたのだが、
 御茶を運んで来た茶々緒が放った言葉により休んでいるどころではなくなった。

 ちなみに、二人を放置せずに終わるまで待っていた辺りがアセナとネカネの優しさだろう。

「何と言うダメポ。と言うか、最近ツッコミじゃなくてボケっぽくなってない?」
「それは気のせいです。細かいことを気にし過ぎると頭髪が薄くなりますよ?」
「それは普通に嫌だなぁ。じゃあ、気にはなるけど、気にしないようにするよ」

 気になる部分はあるが、そこまで気にするべきことではないのでスルーして置くのが大人の嗜みだろう。

「ところで、土産はないのか? グラニクスまで行ったんだから、何かあるよな?」
「まずは労ってくれてもよくない? 何でイキナリ土産を催促しゃちゃうのかな?」
「どうせ いつも通り腹黒いことをして来たんだろう? 労う必要などないだろうが」

 むしろ、茶々緒と共に入室して来たエヴァの方が気になっていたのだが……何しに来たかと思えば、土産の催促だった。

「うっわ、ヒドッ。これでもオレなりに頑張ったのになぁ。マジでヤル気なくすわ~~」
「どうせ貴様には元からヤル気などないだろう? むしろ、労う方が問題だろうが」
「う~~ん、何かが違うと思うけど、ヤル気ないのは事実だから特に何も言えないや」

 文句は言いたいが、言っても聞いてもらえそうにないので敢えて言わない。無駄なことはしないのがアセナの主義なのだ。

「ハァハァ……『寂しかった』と素直に言えないマスターが可愛過ぎて萌え死にしそうです…………」
「ああ、やっぱり。って言うか、茶々丸は いつの間に侵入してたの? 気付かなかったんだけど?」
「ハァハァ……何やら雑音が聞こえますが、今の至上命題はマスターの録画なのでスルーしましょう」
「まぁ、そうだよね。こう言う扱いになることは予想できていたよ? でも、一応 訊いてみたのさ」

 そして、いつの間にか居た茶々丸が気になるが、細かいことは気にしてはいけないだろう。頭髪が薄くなってしまわないように。

「と言うか、いい加減に録画をやめんか、ボケ従者が!! それに、誰も寂しくなんかなかったわ!!」
「ハァハァ……マスターの可愛らしい声が聞こえましたが、今は心を鬼にして録画に勤しみます」
「ダメじゃん。せめてエヴァの言葉は聞こうよ? こんなんでもエヴァは茶々丸の主人なんだからさ」
「誰が『こんなん』だ!! 確かに見た目は子供だが、内から溢れ出る威厳がハンパないだろうが!!」
「いや、エヴァの身体から滲み出ているのはロリオーラだから。威厳よりも萌えの方が強いから」

 過剰に反応するからこそイジられることをエヴァは未だに気付いていない。多分、ずっと気付かないだろう。

「うるさい、うるさい、うるさーい!! 威厳なら あるわ!! って言うか、人をロリ扱いするのはやめんか!!」
「そうですよ、お兄様。エヴァンジェリン様は ただのロリではなく、エターナルロリータなのですから」
「ああ、そうだね。エヴァは600年もののロリなんだから、そこら辺のロリと一緒にしちゃいけないよね」
「うぉい!! 何だ、その理解は!? と言うか、よりヒドくなっているだろうが!! 誰がエターナルロリータだ!!」

 エヴァをフォローするどころか追い討ちを掛ける茶々緒。最早ツッコミと言うレベルではない。

「え? だってエヴァって吸血鬼だからロリのまま成長しないんでしょ? なら、永遠に幼女のままじゃん」
「ええい、黙れ!! 幻術を使えば、ボン・キュッ・ボンも余裕だわ!! だから、ロリ扱いするんじゃない!!」
「このバカチンがぁあああ!! エヴァがロリじゃなくなったら、キャラが立たなくなるだろうがぁああ!!」
「何だ、その理屈は!? 私の存在価値がロリしかないみたいに言うな!! 他にも いろいろ要素はあるわ!!」

 エヴァの魔法知識や魔法技術はトップクラスだし、体術だけでも相当な手熟だ。ロリだけが価値である訳がない。

「確かに、一般的には それなりに価値があるだろうね。だけど、萌え的には他に価値はない!!」
「何を豪語しておるかぁああ!! と言うか、そんな価値など無くても一向に構わんわ!!」
「はぁ? そっちこそ何を言っちゃってんのさ? 萌えこそが世界を遍く照らす光なんだよ?」
「意味がわからんわ!! と言うか、いい加減に この話題を終わらせんか!! グダグタして来たわ!!」

 確かに、エヴァの言う通り、グダグダだ。わかってはいるのだが、うまく切り上げられないのだ。

「じゃあ、エヴァたんの御希望に副って話題を換えましょうかねぇ? ってことで、超は何の用なのかな?」
「……ああ、気付いていたんダネ? と言うか、このままスルーされテ終わりなんダと思っていたんダガ?」
「まぁ、エヴァとの会話を一段落させてフェードアウトしたいところだけど……そうも行かないでしょ?」
「別に大した用事じゃないが、その方がいいネ。例の仕事が順調に進んでいることを報告しに来タのだからネ」

 仲睦まじくジャレ合う二人に遠慮して声を掛けなかった超だったが、アセナから話し掛けて来たので遠慮なく報告をする。

「そっか。順調なら特に問題無いね。じゃあ、大凡の進捗状況を教えてくれるかな?」
「……だいたい60%程度だろうネ。ダガ、ここからは少しばかり面倒になりそうダヨ」
「なるほどね。じゃあ、概算でいいから、後どれくらい掛かりそうか教えてくれる?」
「早けれバ1週間ダガ、多目に見積もって2週間だろうネ。完璧を目指したイのでネ」
「そう。じゃあ、2週間として計算して置くよ。こっちもそれくらい掛かるだろうし」

 簡単な報告を終えた超は「じゃあ、邪魔者は消えるので後は ゆっくり楽しむといいヨ」と意味ありげなセリフを残して部屋を出て行く。
 その後、「って、誰が『エヴァたん』だ!?」と言うエヴァのセリフを皮切りに再び口論を始めるのは、最早 言うまでもないだろう。

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 と まぁ、そんなこんなで楽しい時間は恙無く流れ、日が落ちて夜の帳が降りて来る時間帯。つまり、黄昏の時。
 ディナーを優雅に摂っていたアセナの耳に「各地のゲートポートにてテロが起きました」と言うニュースが届いたのだった。


 


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オマケ:運命との対峙


「いやはや、随分と派手なパフォーマンスだったねぇ。って言うか、用事ってアレだったんだねぇ」

 夜、オスティア市内にあるオープンカフェにて。アセナは対面に座った銀髪幼女――フェイトに話し掛ける。
 ちなみに、夜なのにオープンカフェが開いているのは、夜でも御茶を所望する客がいるからである。
 とは言え、やはりアルコールを所望する客の方が圧倒的なので、夜カフェは割と珍しい部類にはなるが。

「……すまない。組織に属している以上、ボクにもいろいろと制限があるんだ」

 実は、アセナはクルトとの対談以降フェイトとコンタクトを取ろうとしていたのである(34話の対談の際に連絡先は交換してあった)。
 ただ、フェイトがいろいろと多忙だったため(と言うか、魔法世界にいなかったため)、時間が取れたのが今だったのである。

「大丈夫、わかってるよ。忙しい中、どうにか時間を作ってくれたんでしょ?」
「いや、それだけじゃなく、戻る手段を奪ってしまったことも謝らせて欲しい」
「それもわかってるよ。そうするしかなかったんでしょ? なら、仕方がないさ」

 ゲートポート破壊後の諸々の処理を考えると、かなり無理して時間を作ってくれたのが予想できる。
 それに、個人の意思で組織の意向を曲げることが難しいことも理解している。文句など言える筈も無い。

「本当に すまない。でも、代替手段はあるから、戻りたい時には教えて欲しい」
「……ありがとう、フェイトちゃん。でも、代替手段々って機密情報じゃないの?」
「うん、まぁ、そうだね。でも、ボク達は『協力者』なんだから問題ないさ」
「そう? まぁ、オレが黙っていればバレないんだから、特に問題はないかな?」

 問題ない訳が無いが、それがフェイトの誠意なのだろう。そう理解したアセナは、深くはツッコまないことにする。

 相手に深入りしないことは、大抵の場合は賢明な判断となる。だが、時には火種を大きくするのも事実だろう。
 それ故、偶には深入りすべきなのだが……この場合は最早 手遅れな気がするので、今更と言えば今更だ。
 それに、アセナがフェイトの心情を理解したとしてもアセナの予定は変わらないので、知らぬが仏かも知れない。

「――さて、それじゃあ、そろそろ本題に移ろうか?」

 雑談と言う準備運動を終えた と判断したアセナは、魔法具で『認識阻害』を展開した後、本題に入る。
 自身が『黄昏の御子』であることを手札に『造物主』との対談と言う結果を引き出すために……


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。


 今回は「ラカンとアルビレオの愉快なお話」の巻でした。

 アルビレオは書いているとドンドン変な方向に行くので軌道修正が大変です。
 説明役としてシリアスでも動かしやすい筈なんですが、油断すると暴走します。

 まぁ、暴走している方が書いていて楽しいんですけどね。

 ところで、今回はちょっと中途半端なところで切ってしまいましたが、
 ラカンの部分で予想以上の文量になってしまたので、こうなりました。
 まぁ、頑張ればフェイトちゃんとの会話を終わらせられたのですが……
 長くなるし、割と切がよかったので、次回に持ち越すことにしました。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2011/10/21(以後 修正・改訂)


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