第05話:バカレンジャーと秘密の合宿
Part.00:イントロダクション
今日は3月7日(金)。
何故かナギは女子寮に居た。いや、別に忍び込んだ訳ではない、ナギは正面玄関から堂々と入って来たのである。
もちろん、普通なら女子寮に入ろうとした男子など管理人にシバキ倒されるか警備員に摘み出されるのがオチだろう。
だが、ナギは近右衛門から『特別進入許可』を与えられたため管理人からも警備員からも何も言われなかったのだった。
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Part.01:こうしてナギは再び巻き込まれた
「やぁ、那岐君。ちょっといいかな?」
「……今度は何の御用でしょうか?」
時間は遡って、今週の火曜(3月4日)の昼休み。ランチ中のナギの所に またもやタカミチが現れた。
前回(図書館島)のことがあるので、タカミチのフレンドリーな態度にナギは警戒心バリバリである。
言葉にするならば「この男、今度は一体どんな厄介事を持って来たんだ?」と言ったところだろう。
最早 言うまでもないだろうが、ナギは嫌な予感ばかりが当たる類の人間だ。つまり、そう言うことだ。
「実は、ネギ君達が金曜から日曜に掛けて勉強合宿をするらしいんだよ。それで、教師役を探しているみたいだから協力してあげてくれないかな?」
まったく以って意味がわからない。それがナギの率直な感想だ。タカミチの言っていることが高度過ぎてナギには理解不能なのだ。
ネギ達が合宿することと教師役を探していることは繋がるが、教師役を探していることとナギが協力することは繋がらない。
少なくともナギはそう感じている。むしろ「教師役なら未来少女とかハカセとか いいんちょとかがいるじゃん」と言う気持ちだ。
「あ、他の生徒にも いろいろと当っているらしいけど、優秀な人材は多いに越したこと無いだろ?」
ナギの疑問を読み取ったのか、タカミチはナギに教師役をやって欲しい理由を説明する。
ちなみに、優秀な人材とナギを評したのは単に持ち上げただけでなく、タカミチの率直な意見だ。
ナギは特待生としての立場を維持できる程度には成績が優秀なのだ(態度はダメ過ぎるが)。
「仰りたいことは わかりましたけど……そもそも、その合宿って何処でやるんですか?」
きっと「予定があるので無理です」とか断っても、「試験前なのにバイトとか有り得ないよね?」とか反撃されることだろう。
前回で そう学習したナギは、予定を理由に断わるなんて悪手は使わない。それ故に、場所を理由に断わろう と場所を訊ねたのだ。
と言うのも、もし場所が女子寮や女子校舎内だったならば「オレは男子ですから無理です」と言う大義名分が成り立つ筈だからだ。
「まぁ、ネギ君達の部屋だけど……心配しなくても、特別進入と特別宿泊の許可は下りているから安心していいよ」
もちろん、タカミチ(と言うか、その背後で指示している近右衛門)は そんな浅知恵が通じる相手ではない。
女子寮と言う男子禁制の場であったとしても、権力を悪用して特例措置を与えるくらいの手は回しているのだ。
まぁ、ナギは「どうせ断っても却下されるだろう とは思ってはいたけどね」と半ば自棄になっているが。
「ちなみに、その話を断った場合、どんな不利益がオレに降り掛かるんでしょうか?」
ナギは残念な人間だが、愚かではない。学習能力はある。今回も前回のように八方塞であるのはわかっているのだ。
だが、それでも、大きなリスクを回避するためならば少ないリスクくらい甘んじて受けよう と言う覚悟を持っている。
ナギはヘタレだが、単なるヘタレではない。あきらめの悪いヘタレなのだ。無駄な足掻きでも やるだけやる男なのだ。
「うん? 確か『4月から相部屋になるかも知れんのぅ』って学園長が――」
「――そうですかぁ。じゃあ、断る理由などありませんね、引き受けます」
現在、ナギは一人部屋を使っている。二人部屋が基本の寮にあって特別扱い とも言える待遇である。
まぁ、ルームメイトが哀れだから隔離して置こう と言う思惑がある気がするが、そこは気にしない。
ちなみに、ナギ自身は相部屋そのものを嫌っている訳ではない(もちろん、一人部屋の方がいいが)。
では、何故 近右衛門の脅しに屈したのか? それは、ネギがルームメイトになりそうな予感がしたからだ。
そうなったら、いろいろな意味でツミだろう。被害妄想と言い切れないためナギの判断は間違っていない。
「おおっ!! 引き受けてくれるのかい!! いやぁ、ありがとう!!」
言うまでもないだろうが、タカミチはナギが渋々了承したことを理解していない訳ではない。
ただ、ここで「すまないね」と言うのは何かが違う気がしたので明るく話を終わらせたのだ。
決して「これでネギ君とのフラグが立つね」などと内心で喜んでいる訳ではない……筈だ。
まぁ、タカミチはナギの保護者だが、ネギも大事にしているのだ。つまり、そう言うことだ。
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さて、これでナギが特別進入許可(ついでに特別宿泊許可も)を与えられた経緯がわかったと思う。
ところで、特別進入許可と言うものは、普通は「女子寮に入らざるを得ない特別な事由がある場合のみ」に与えられるものである。
つまり、メンテナンスの業者や生活指導の教師などに与えられるものであり、ナギの様な一男子生徒に与えられるようなものではないのだ。
では、それなのに何でナギは特別浸入許可を与えられたのだろうか? まぁ、その理由は考えるまでもなく、近右衛門の御茶目だろう。
恐らくは深慮遠謀に富んだ思惑があるのだろうが……当事者であるナギには「また悪ノリしやがって」としか感じていないのだった。
(しかし、学園長は何を考えているんだろう? これでは、オレとネギを くっ付けようとしているようにしか思えないよ?
そりゃあ、ネギはオレを慕っているよ? それが親父さんへの憧憬と混合しているだけであっても慕っているのは認めるさ。
でも、だからこそ、オレとネギは遠ざけるべきじゃないかな? 英雄の娘と馬の骨を くっ付けるのは得策ではないよね?)
組織の長ならば、ネギの気持ちを優先する などと言う暴挙には出まい。むしろ、ナギとネギを遠ざけようとする筈だ。
己の素性を知らないナギには、近右衛門の思惑はわからない。そのため、近右衛門が悪ノリをしている としか感じられないのだ。
逆転の発想で「実は英雄の娘と釣り合いが取れる素性なのでは?」とも予測したが、すぐさま「いや、無いな」と棄却するのがナギだ。
もしかしたら正解かも知れないのに「オレは原作キャラに関わってしまっただけのモブさ」と言う思い込みが邪魔をしているのだ。
(……どうでもいいけど、この合宿中に問題が起きたら学園長って どうなるんだろう?)
許可された人物が問題を起こせば、その責任は許可を与えた人物にも及ぶことになる。世の中とは そう言うものだ。
そして、特別進入許可も特別宿泊許可も恐らくは(と言うか十中八九)近右衛門が権力を私的に利用して与えたものだろう。
つまり、ナギが問題を起こせば近右衛門にも累が及ぶことになり、権力を私用した分も含めて立場が危うくなる筈だ。
(まぁ、それなりに文句はあるけど……別にそこまで貶めたい訳じゃないから問題なんて起こさないけど)
それに、当然のことだが、問題を起こしたら被害者にも迷惑が掛かる。苛立ちの解消のために第三者を巻き込むのはナギの主義ではない。
まぁ、ちょっとくらいは近右衛門が大切にしている孫娘(木乃香)に「とても口では言えない様なことをしたい」と思ったのは事実だが。
それでも、そんなことはしない。セクハラが関の山だろう。何故ならナギは生粋のヘタレだからだ。相手の了承がないと そんなことできない。
だが、裏を返すと、相手が了承すれば『致して』しまうのだが……まぁ、今回は そんな展開にはならないので、特に問題はないだろう。
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Part.02:やるからには徹底的に
さて、先程までの説明でナギが女子寮に居る理由はわかっていただけたと思う。
と言うことで、今度は「って言うか、勉強合宿って何だよ?」と言う問題に言及してみよう。
まぁ、別に態々 言及するまでもないことだとお思いになることだろう。確かに その通りだ。
だが、ネギの課題が前話で終わっていることを考えると、少し言及してもいいかも知れない。
……そもそも、原作ではネギに2-A最下位脱出課題が与えられたから図書館島に潜ったり合宿したりしていた。
だが、先程も言った様に『ここ』では課題は終了している。つまり、合宿を行う必要性がないのだ。
と言うことは、2-Aの生徒が自主的に勉強合宿を開いた と言うことであり、それは有り得ないことだ。
何故なら、2-Aは万年最下位でも「なにそれ おいしいの?」と言わんばかりに気にしていないからだ。
(もしかして、業を煮やした学園長が原作みたいに『留年の可能性がある』的な噂でも流したのかな?)
確かに2-Aの成績は「これはひどい」と言わざるを得ないものだ。発破の一つや二つを掛けても不思議ではない。
それに、ネギと言うチビッコが飛び級でクラスメイトになったことで、それなりに対抗心を燃やしたのかも知れない。
いくら開き直っていると言っても、子供に勉強で負けるどころか足を引っ張っているとか思われるのは癪だろう。
(でも、やっぱり、何故にオレが教師役に抜擢されたのか 疑問に残るなぁ)
確かにナギの成績はいい。男子中等部では常にトップを走っていると言えなくもない。だが、それは あくまでも男子中等部に限っての話だ。
麻帆良の最強頭脳とか呼ばれている超 鈴音(ちゃお りんしぇん)や工学部に研究室を構えている葉加瀬 聡美(はかせ さとみ)には勝てないのだ。
つまり、単に教師役が必要なら超や葉加瀬に頼めばいいのだ。それなのに、態々 特別許可を出してまでナギを教師役にする意味がわからない。
(って言うか、そもそもタイトルからして おかしいと思う。『秘密の合宿』って、どこら辺が秘密なんだろ?)
この合宿は、タカミチが話を持って来たり特別許可が下りてたりすることから考えて、学園側が公認していると言っていい。
つまり、この合宿に秘密性などゼロなのである。それなのに『バカレンジャーと秘密の合宿』なのだから、意味がわからない。
ナギが思わず「ハリポタの『秘密の部屋』からパクったのかな?」と言う正し過ぎるツッコミをしたのも頷けることだ。
と言うか、よく考えなくてもタイトルにツッコミを入れるのはメタ過ぎるのではないだろうか? まぁ、気にしてはいけないが。
(いや、そうじゃないな。重要なのは、この合宿に隠された秘密だよ。どうせ、そう言う意味での『秘密の合宿』ってオチだろうからね)
合宿自体が秘密なのではなく、合宿に秘密が隠されているに違いない。ナギはそう「判断したようだ。
まぁ、強ち間違っていない想定なので、これで残念な思考さえ発揮しなければ切れ者と評してもいいだろう。
もちろん、「どうせ学園長の悪巧みだろうねぇ」とか残念な思考を発揮するので、やはりナギはナギだが。
(と言うことで、そろそろマジメに勉強を教えよう)
ナギにとっては2-Aの成績がどうなろうとも別にどうでもいいのだが、教師役を引き受けた以上は それなりに責任は持つつもりだ。
それに、たとえ近右衛門の悪巧みで開かれた合宿だとしても、実際に合宿に参加して勉強を頑張っている生徒達には何も非がない。
いや、むしろ、ナギのせいで巻き込まれた可能性もあるため、成績を上げる手伝いくらいはするべきだろう。せめてもの罪滅ぼしだ。
そんな訳で、ナギは生徒役の二人――まき絵と桜咲 刹那(さくらざき せつな)に向き合うのだった。
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(はぁ~~、ナギ君ってば本当に頭がよかったんだね~)
まき絵は感嘆の溜息を吐く。情報としてナギの成績がいいことは知っていたが、普段の言動からイマイチ信じていなかったのだ。
だが、こうして勉強を教わっていると否が応でもナギが優秀であることがわかってしまう。信じられないが信じざるを得ないのである。
何故なら、ナギは まき絵が「何を理解していないのか」を把握したうえで「まき絵が理解しやすいように」教えているからだ。
それは、本当に内容を理解していないとできない芸当だろう。まき絵は自他とも認める おバカだが、それくらいのことは理解しているのだ。
(普段の姿とのギャップに ちょっとだけドキッとしたけど……所詮はナギ君だからなぁ)
まき絵は亜子の気持ちを知っている。だからこそ、亜子のことを応援したい と思っている。
だが、亜子の成績では教師役にも生徒役にもなれないため亜子は勉強合宿に参加できなかった。
だから、ナギと他のコが仲良くなるのを防ぐためにナギから教わっている。ただ それだけだ。
別に他意はない。決して、まき絵がナギと一緒にいたいとか そんなんではないのだ。
「ん? どしたの、まき絵? あっ、終わったの?」
「え? あ、うん。終わったよ。ど、どうかな?」
「……うん、合ってるよ。やればできるじゃん」
「いやぁ、ナギ君の教え方がうまいからだよぉ」
「謙遜しないでよ。まき絵は やればできるんだって」
「そ、そうかなぁ? そう言われると照れちゃうなぁ」
ぼんやりとナギを見ていた まき絵だったが、ナギに声を掛けられたことで慌てて我を取り戻す。
見惚れていたとも取れる対応だが、ナギは「きっと勉強で疲れてるんだろう」と解釈するのは言うまでもない。
相変わらずの残念解釈だが、まき絵としては救われたので今だけはナギの残念さに感謝してもいいかも知れない。
まぁ、まき絵は(普段バカバカ言われているためか)褒められたことで喜んでいるので、感謝どころではないが。
つまり、二人ともボケボケなのだが、何故か うまく噛み合っているのである。実に不思議だ。
「って言うかさ、授業と大差ないことしか教えてないと思うんだけど?」
「え? そ、そうかな? ナギ君の方が授業よりも全然わかりやすいよ?」
「……つまり、授業中は寝てるから話は聞いてないってことでOK?」
「い、いやぁ、寝るつもりはないんだけど、何故か寝ちゃうんだよね~」
でも、不思議なことに授業を受けているうちに何故か寝てしまうようだ。まき絵 曰く「先生の声が子守唄に聞こえる」らしい。
「じゃあ、オレの授業で寝たらアイアンクローで起こすからね?」
「えぇ?! そんなの横暴だよ!? って言うか、それって体罰じゃん!!」
「体罰とは人聞きの悪い言い方だね。せめて『愛の鞭』と呼んで」
「言い方を変えただけで、結局は一緒じゃん!! それはヒドいよ!!」
まぁ、確かに酷い。普通はデコピンくらいだろう。逆ギレ気味だが、ある意味では正当な怒りかも知れない。
「アイアンクローが嫌なら、寝なければいいだけじゃない?」
「で、でも、自分の意思とは関係なく寝ちゃうんだけど……?」
「それは起きていようとする意思がないからだと思うんだけど?」
「そ、そうなのかなぁ? 最早 条件反射っぽいんだよねぇ」
机に向かうと眠くなるのは宇宙法則だよ、とか思っちゃう まき絵に反省の色はない。
「なら、オレの目の前で寝たら危険だってことを身体に教え込めばいいよね?」
「……それ、そこはかとなく えっちい感じがするのは、私の気のせいかな?」
「え? そう言う方向で罰を与えて欲しいなら……喜んで そうするけど?」
「ごめんなさい、普通にアイアンクローがいいです。えっちいのはダメです」
痛いのも嫌だが、ナギはヤると言ったらヤるタイブなので えっちいのは危険だ。胸くらいは揉まれるだろう。まき絵の直感が そう告げている。
「じゃあ、ビシバシと教えてあげるから、頑張ってね?」
「うぅ……この先生、ちょっとスパルタ入ってるよ」
「安心しなって。ムチだけじゃなくアメも与えるから」
「……うん、わかった。そう言うことなら頑張るよ」
まき絵は後に語る。ニコッと笑うナギ君は ちょっとだけ――本当にちょっとだけカッコよかった、と。
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(しかし、アレだね……せっちゃんってば困ったちゃんだねぇ)
いや、ナニイッテンノ? と思うかも知れないが、ナギがそう思ってしまうくらいに刹那は酷かったのだ。
まき絵は要点や仕組みを教えれば理解するのだが、刹那は「なにそれ おいいしの?」と言う反応なのである。
別に刹那に理解力がないのではない。ただ、理解しようとしていないのだ。そのため『困ったちゃん』なのだ。
ちなみに、せっちゃんとはナギの刹那に対する呼称で、今のところは心の中だけで呼んでいるらしい。
(まぁ、せっちゃんは勉強なんかするよりも、木乃香の護衛として剣の腕を磨くことを頑張りたかったんだろうなぁ。
それは よくわかるんだけどさ……勉強に拒否反応を示すのは どうかも思うんだけど? だって、一応は学生でしょ?
いや、本人が望んでいないことを強制するのはオレの主義じゃないんだけど……でも、口を出さざるを得ないなぁ)
特に、刹那には致命的な弱点があるため、主義を曲げてでも忠告せねばならないだろう。
「あのさー、ちょっといいかな?」
「は、はい!! な、何でしょうか?!」
刹那の反応は過敏だ。と言うか、スパルタな教師に脅える生徒そのものな反応だ。
別にナギはそこまでスパルタをしたつもりはない。せいぜい嫌がる数学をやらせているだけだ。
それなのに、そんなに脅えられるとなると……ついついイジメたくなってしまうではないか?
いや、今はS心(嗜虐心)を滾らせている場合ではない。浮き彫りになった問題を解決すべきだ。
「数字や記号を見ただけで拒絶するのは やめにしない?」
実のところ、刹那の成績は割と まともだ。バカレンジャーに数えられているが、一番まともだ。
だが、それは国語や歴史などの文系分野が普通にできているので何とかなっているだけの話だ。
つまり、数学を始めとした理数系の科目は かなりヤバい。いや、正確には、全滅とも言える状態だ。
どうやら、数字や記号に対して苦手意識を持っているようで、本当に『どうしようもない』のだ。
「し、しかし、完膚なきまでにチンプンカンプンなんですが……」
それはわかる。見ているだけでも よく伝わって来る。
だが、だからこそ、その苦手意識を変えなければならない。
問題を見た瞬間に「できる」と思えることが大事なのだ。
「安心して。オレが『数学の初歩』から教えてあげるから」
爽やかに言っているが、拒否権は認めない と言わんばかりの威圧感を込めて言うナギ。
と言うか、どう見ても笑顔が黒く見える。具体的に言うと、嗜虐心の塊のような笑顔だ。
ちなみに、ナギの言う『数学の初歩』とは算数も含まれていることは言うまでもない。
「……わ、わかりました。努力します」
刹那は何か言いたげだったが、結局は反論せずに大人しくナギの言うことを了承した。
まぁ、反論したとしても論破されるだけだったので、賢明な判断だと言えるだろう。
もちろん、それが拷問に近い苦行への片道切符だと言うことを考えなければ、の話だが。
ところで、今更と言えば今更かも知れないが……刹那の説明をして置こう。
どうやら刹那は那岐と知り合いだったようで、ナギとしては初対面なのだが刹那は親しげに『那岐さん』とナギを呼んでいる。
まぁ、那岐は木乃香とも知り合いだったようなので、むしろ納得できることだろう。だから、その点は大した問題ではない。
問題なのは、前回 那岐との関係を木乃香に確認するのを忘れていたことだ。今回も状況的に聞けそうにないので、また忘れそうだ。
いや、忘れなければいいだけなのだが、ナギの脳は棚上げした問題を忘れるような仕様になっているので、仕方がないのだ。
「え~~と、そう言う訳で まき絵は ここら辺やっといて。で、わからないところはチェックして置いて。後でまとめて教えるから」
ナギは「まぁ、またの機会に訊けばいいか」と例の如く問題を棚上げして、話を進めることにしたようだ。
そんな訳で、これから刹那に掛かりきりになるので、その間まき絵には自分で問題を進めて置くように指示して置く。
今まで教えたことで ある程度はわかるだろうし、わからない部分を把握するだけでも充分だ。何も問題ないだろう。
「うん、わかった。やっとくね」
ナギの内心など知らない まき絵は素直に頷く。そんな まき絵が眩しく感じるナギだが、今は置いておこう。
そんな訳で、ナギは まき絵に「うん、頼むね」と声を掛けた後、刹那に「さて、征こうか?」と向き直る。
何だか刹那がナギを見て脅えているようにしか見えなかったが、それはきっと気のせいだろう。そうに違いない。
諸々のことを棚上げしたナギは「数学はパズルなんだ」と思えるレベルまで刹那を洗脳――ではなく教育することにしたのだった。
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Part.03:夕映が勉強合宿を開いた訳
今日は無事に勉強合宿を開くことができ、そして それにナギさんを呼ぶことにも成功したです。
目論見が成功したこと自体は喜ばしいのですが……学園側の考え方と言うか対応に少々疑問を持つですね。
いくら「バカレンジャーに勉強を教えるためには優秀な人材が必要」と言う名目があったとしても、
普通だったら「男子生徒を女子寮に入れることなど許可できん」と突っぱねられるのがオチでしょう。
高畑先生はアッサリと許可してくれた訳ですが、これは理解があると言うよりも放任し過ぎのような気がするです。
最近の中学生では妊娠して母親になる方もいる訳ですから、私達に問題が起きないとも言い切れないですからね。
いえ、別にナギさんが自制心の無い方だとは思っていないですが、万が一と言うこともあるですからね。
それに、よくよく考えてみると この前の図書館島の依頼もおかしいことだらけでした。
いくら地図があるとは言え、プロのトレジャーハンター対策の罠がひしめいているようなところに中学生を行かせるなど普通は有り得ないです。
しかも、部活で慣れているとは言え体力的に劣っている図書館探検部や、素人で体力の無いネギさんに頼むのも変です。危険過ぎるです。
確かに、ナギさんと言う身体能力が人外――もとい、優秀な助っ人はいましたが、彼は探索そのものは素人でしたので危険は然程 変わらないです。
あの時は図書館島の深部を公然と探索できるので浮かれていて気付きませんでしたが、おかし過ぎです。
これまで、高畑先生は「生徒の自主性を重んじている」のだと思っていたですが、どうも違うようです。
特に、ここ最近の先生を見ていると「生徒のやることなど どうでもいいのではないか?」とも受け取れるのです。
いえ、と言うよりも、ネギさんを妙に気に掛けているような気がしてなりません(気のせいではないでしょう)。
確かに、ネギさんはまだ9歳なので、いろいろと気に掛ける必要はあるでしょう。ですが、気にし過ぎです。
さすがにロリコンだとは思いたくありませんが……何らかの『裏』がありそうで、イヤな感じがしますです。
「ゆえー、どしたのー?」
私の勉強を見てくれてる――つまり、私の教師役の のどかが心配そうに声を掛けて来ました。
……いけませんね、つい思考に専念してしまい、勉強が疎かになってしまったようです。
思索に耽るのはいつでもできますので、今は勉強に専念すべきでしょうね。でないと本末転倒です。
「少々難しいので考え込んでしまっただけです。心配無用ですよ」
私はそれだけを告げると、再び参考書に取り掛かりました。
バカレンジャーの成績向上が合宿の名目なので下手な成績は取れません。
学校の勉強は嫌いですが、仕方が無いですので頑張るとしましょう。
「そー? わかんないとこがあったら、言ってねー?」
「気遣い感謝です。ですが、可能な限り自分でやるですよ」
実はと言うと、この合宿は のどかとナギさんの仲を進展させるために私が計画したものなのです。
ですが、のどかは私の勉強を見ており、ナギさんは別のバカレンジャーの相手に忙しいのが現状です。
そのため、この現状をどうにかして打破しないと合宿を開いた意味がなくなってしまうのです。
と言うよりも、このままでは別の方との仲を進展させることになってしまうので、むしろマイナスです。
「ですので、のどかは私の世話を焼くよりもナギさんへアプローチする方法を模索してくださいです」
「ええっ!? いきなり、どうしたのー? べ、別に いいよー。こんなに傍にいられるだけで充分だよー」
ここは木乃香さん(あ、ネギさんもですね)の部屋ですので、他の部屋よりは広い造りとなっています。
ですが、広いと言っても所詮は寮の部屋です。これだけの人数が詰めていたら かなりの人口密度です。
ですから、グループが違っていても それなりに近くにいられるため、のどかには充分な刺激なのでしょう。
……ですが、それで満足してもらっては困ります。もっと積極的になっていただかないと困るのです。
あ、そう言えば、合宿のメンバーですが、私・まき絵さん・古 菲(クー フェイ)・楓さん・桜咲さんのバカレンジャーに加え、
教師役として、のどか・ナギさん・木乃香さん・ネギさん(最後の二人は部屋の提供者でもあるです)もいますので、総勢9人です。
まぁ、バカレンジャーは名目として必要でしたし、のどかとナギさんは そもそもの計画の要ですので必要不可欠なメンツです。
ここで木乃香さんとネギさんを邪魔に思うかも知れませんが、二人は場所の提供だけでなく高畑先生を説得する材料でもあったのです。
と言うのも、木乃香さんは学園長の孫なので いろいろと信用が得やすいですし、ネギさんは高畑先生を甘くするのに役に立ちますからね。
つまり、これは最低限に絞ったメンバーであり、私の采配に誤りはありません。
ですが、物事は計画通りに行かない と言うのが世の中の常な様ですね。
まさか、ナギさんが まき絵さんや桜咲さんと あんなに仲がいいとは……
予想外だったとは言え、三人がグループになるのを防げなかったのが悔やまれるです。
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そもそも、私がナギさんと知り合ったのは のどかを通してでした。
とは言え、その前にも図書館島で のどかと話している姿は偶に見掛けましたので「男性恐怖症の のどかが珍しい」とは思っていたですよ。
しかし、実際にナギさんと話してみて、のどかの気持ちがわかりましたです。と言うのも、ナギさんには『ガッツキ』がないのです。
思春期の男子が標準装備している筈のソレがないため、落ち着いた年上の男性と接しているような気になるので比較的 話しやすいのでしょう。
また、ナギさんが のどか以外の女性(しかも不特定多数)とも仲良く話している姿もよく見掛けていました。
そのため「どうしてナギさんにはガッツキがないのか?」と言う疑問の答えを「女性に慣れているから」と想定していました。
ですが、ナギさんと交流を深めているうちにナギさんが見えて来たため その予想が私の勘違いであったことがわかりました。
もちろん、ナギさんが女性に慣れていることは間違いありません(あれは誑しです)。ですが、重要なのは その精神の在り方だったのです。
敢えて言葉にするならば、ナギさんは私達と『半歩』距離を置いていた のです。
と言うのも、聞くところによると、ナギさんは孤児であるため『家族』と言うものを知らないらしいからです。
つまり、『家族』を知らないナギさんは中学に入ったばかりの頃の『私』と似ているのではないか と思うのです。
大好きだった祖父を亡くして世界の全てが『くだらないもの』で出来ているように感じられていた あの頃の『私』と……
い、いえ、『私』と重ねるのは失礼だとは理解してはいますですが、どうしても重ねてしまうのです。
あの頃の『私』は、世界をフィルター越しに見ていましたです。今のナギさんと同じように、世界から距離を置いていたのです。
ただ、『私』とナギさんとでは『距離』が違いました。『私』が『一歩』も置いたのに対し、ナギさんは『半歩』しか置いてません。
言わば『私』は『一歩』も距離を置いてしまったから、世界を『拒絶』して自分に関わる存在に『攻撃的』だったのですが、
対するナギさんは『半歩』しか距離を置いていないので、世界を『拒否』して自分に関わる存在に『包容的』なのだと思うのです。
……ですから、ナギさんの生き方は とても賢い生き方だと思うです。
一歩も距離を置いてしまうと周囲と隔絶してしまいますから、本当に孤独となってしまいます。
本当に孤独となってしまうのは、とてもツラいことです。そのツラさは心が凍て付く程です。
人間は群れで生きる生き物ですので、孤独を恐れるのも孤独を嫌うのも本能レベルなのでしょう。
ですから、一歩ではなく半歩だけ距離を置いているのは、とても賢い生き方だと思うのです。
だって、そうすれば世界に左右されずに生きていられるうえ孤独を感じなくて済みますからね。
ですが、それは とても悲しい生き方でもあるとも思うです。
確かに大切なものの無い世界は『くだらないもの』に感じられます。いえ、そうとしか感じられません。
そして、そんな世界に依存していては、生きることさえも くだらなくなるのは道理と言えるでしょう。
ですから、世界と距離を置くことは、良くも悪くも自分が世界と関係なく生きるための手段なのです。
しかし、それは「生きていない」ことと何も変わらないのではないでしょうか? 少なくとも、私はそう考えます。
何故なら、世界と関係ないと言うことは、その人が生きていても生きていなくても世界に関係ないことになるからです。
ですから、半歩であろとも一歩であろうとも、世界と距離を置く生き方は とても悲しいものになってしまうのです。
某不気味な泡の死神風に表現すると『世界の敵』になってしまい兼ねない訳ですから、悲しくない訳がありませんです。
……ならば、どうすればいいのでしょうか?
それに対する私の答えは『くだらないもの』である世界を『くだらなくないもの』にする と言うものでした。
そもそも、世界が『くだらないもの』に思えてしまうので、生きることすらも くだらなく感じてしまうのです。
そして、そうならないようにするために世界と距離を置く訳ですから、発想を逆にすればいいだけなのです。
つまり、世界を『くだらなくないもの』だと思えばいいのです。そうすれば、世界と距離を置く必要はありません。
そんな風に思えるようにしてくれたのは――つまり、世界を拒絶していた『私』をそんな風に変えてくれたのは のどかでした。
……そうです。のどかがいたからこそ『私』は「世界は それほど『くだらないもの』ではない」と思えるようになったのです。
ですから、ナギさんも『私』と同じ様に のどかによって「世界は それほど『くだらないもの』ではない」と思って欲しいのです。
それが、おこがましくも『私』とナギさんを重ねてしまった私の自己満足な願いであり、勝手に決め付けた罪滅ぼしなのです。
つまり、私がナギさんと のどかの仲を進展させたいのは私自身の我侭、と言うことになりますですね。
「え~~と、非常に言いにくいんだけどさ……これ、大分違うよ?」
「うっ……そ、そうなんですか? ちなみに、どこが違うんですか?」
「いや『どこが』って言うか、求めている『答えそのもの』が違うね」
「で、では、もしかして最初から式を作り直さねばならないのですか?」
「いや、そう言う訳じゃないよ。今の式を ちょっとイジればいいだけさ」
「ちょっと、ですか? ちなみに、どこをどうすればいいんですか?」
「教えてもいいけど、自分で考えて欲しいな。前提を立て直せばできるから」
「……はい、わかりました。できる限りは自力でやってみます」
「うんうん、素直でいいコだねぇ。頑張れば きっと報われるよ?」
「あ、ありがとうございます……でも、頭を撫でるのは……その…………」
「あっ、ゴメン。撫でやすい位置にあったから、つい。髪 触られるのイヤだったでしょ?」
「い、いえ、そう言う訳ではありません。その、恥ずかしかっただけですので……」
「ほほぉう? それじゃあ、今度から間違えたら羞恥と言う罰を与えちゃおうかな?」
「ちょっ、それはヒドいです!! それだけは やめてください!!」
……あれ? おかしいですね、何故か妙に苛立ちますですよ?
ナギさんも『私』と同じ様に のどかによって「世界は それほど『くだらないもの』ではない」と思って欲しかったですが……
不思議なことに、ナギさんが他の女のコと仲良くしているのを見ると何だかハラワタが煮えくり返って来るです。
もしかして、私は嫉妬しているですか? ……いやいや、それはおかしいです。だって、私はナギさんなど何とも思ってないのですよ?
私にとってナギさんは、私と似たところがあるので眼が離せないだけなんですよ? 嫉妬する余地などありませんです。
「じゃあ、代わりに10回間違えたら『せっちゃん』って呼ぶことにしようかな?」
「えぇっ!! それもヒドいですよ!! それも やめください!! 恥ずかしいです!!」
「じゃあ、間違えなければいいじゃん? って言うか、ペナルティは必要でしょ?」
「それは無茶です!! って言うか、ペナルティならば頭を撫でられた方がまだマシです!!」
「じゃあ、御希望通りにナデナデしてあげるから、思いっ切り間違えていいよ?」
「間違えません!! こんな問題なんて『屁のツッパリはいらんですよ』って感じです!!」
「……あれー? せっちゃんって そんなネタをセリフに混ぜ込む様なキャラだったっけ?」
「那岐さんこそ もっと優しい人だったと思いますけど? あと、せっちゃんって呼ばないでください!!」
「まぁ、さっき拒否された呼び方だもんね、言いたいことはわかるよ? ……だが、断る」
「それは微妙に用法が違ってますよ? それは もっと自分に不利な立場の時にこそ使うべきです」
「おぉう、まさかダメ出しを喰らうとは……せっちゃんってば意外と厳しいねぇ」
「那岐さんが そうさせてるんです!! って言うか、せっちゃんって呼ばないでください!!」
……いえ、何とも思っていない訳ではないですね。
ええ、何故かナギさんと桜咲さんとの会話がイチャついているようにしか見えず、不思議と殺意が沸いてきます。
つまり、認めたくはありませんが、どうやら私はナギさんに友人以上の感情を抱いているのでしょうね。
まぁ、冷静になって考えてみれば「のどかとナギさんにうまくいってもらいたい」と言う気持ちは、
のどかのため と口では言っていましたが、実際のところは私が『そう』納得しようとしていただけですね。
いえ、ナギさんも『私』と同じ様に のどかとの関わりで「世界をくだらなくない」と思って欲しいのは本当ですよ?
ですが、その気持ちの根底にあるのは――その気持ちを裏付けている、私が見ようとしなかった私の本心は、
のどかと幸せになって欲しい と言う想いではなく、ナギさんに幸せになって欲しい と言う想いなのです。
……ええ、そうです。私は のどかを応援したいのではなく、自分の気持ちを誤魔化していただけだったのです。
傲慢にも過去の自分とナギさんを勝手に重ねて、ナギさんが満たされることで自分が満たされようとしていたのです。
まったく……実に傲慢で、そして実にヒドい女です。
のどかの気持ちを知り、のどかを応援したいと思っていながら、心の奥では勝手な投射でナギさんの幸せを願っているんですから。
これでは「ナギさんが幸せになるのならば、その相手が のどかでなくてもいい」と考えているのと何も変わりません。
いえ、正確には「のどかが幸せになるよりも、ナギさんが幸せになる方が重要だ」と思っているのでしょうね。実に薄情なことです。
……ですが、これは決して「恋をした」などという甘いものではない筈です。
これは、勝手な同情であり、勝手な投射です。言わば、私の勝手な思い込みなのです。
実に傲慢で、実に自分勝手な想いなのです。しかも、ナギさんを貶している想いでもあるのです。
これを「恋」と言ってはいけません。いえ、むしろ「恋」であってはならないものです。
のどかを裏切っている私が「恋」などと言うキレイな感情を抱いてはいけないのですから。
「ゆえー、どうしたのー? 顔色 悪いよー?」
――ッ!! し、しまったです!! またやってしまいました!!
またもや勉強するよりも思考するのに没頭していまいました!!
思考への没頭は私の癖ですが、今はそんな場合じゃありません。
「……いえ、気にしないでください。慣れない勉強をしたせいでしょうから」
私は慌てながらも内心を隠します。私の本心を のどかに悟られる訳にはいかないのです。
だって、のどかを裏切っているのに、こうして のどかと友達面をしているのですから。
こんな『最低』な私を知られたら、私は のどかの傍にいる資格を失ってしまいますから。
「あんまりツライなら、お部屋に戻ろうかー?」
「いえ、言いだしっぺの私が途中退場など――」
――できません。そう言い掛けて、私は気付いてしまったのです。
私がいなくなれば のどかは私の教師役をやめられる、と言うことに。
そうなれば のどかはナギさんに近付くことが可能となる、と言うことに。
そう、それが当初の目論見であり、そのための勉強合宿なのです。
ここで「ハルナに看病してもらう」とでも言って部屋に戻るのが、正しい選択なのでしょう。
ですが、自分の正直な気持ちを認識してしまった私には、その選択肢はもう選べません。
私は気付いてしまったのです。私は のどかの幸せ以上にナギさんの幸せを望んでいる、と。
しかも、最低なことに、ナギさんの幸せと私の幸せが重なることすら願ってしまっている、と。
……そうです、私は自分の本心に気付いてしまったのです。
この前のバレンタインだって、のどかを後押しすると口では言っていましたが、
その内情は、それを口実にして自分もナギさんへチョコを渡したかっただけです。
こうして勉強合宿を開いたのだって、のどかとの接点を増やしたいと言っていましたが、
その内情は、それを口実にして自分もナギさんの傍にいたいとだけだったのです。
……実に醜く、何とも最低な気持ちです。
この気持ちだけは、のどかに気付かれる訳にはいきません。
こんな醜くて最低の気持ちだけは、のどかに気付かれてはいけないのです。
もし気付かれてしまったら、私は……私は…………
「あんまり無理しちゃダメだよー?」
「……大丈夫ですよ、のどか。私は、大丈夫です」
ですから、私は大丈夫であることだけを伝えます。私の心の底にある感情を漏らさないように……
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Part.04:乙女達の憂鬱
―― のどかの場合 ――
はぁ……何だか、さっきから ゆえの様子がおかしい。
いつもよりも思考に没頭しやすいし、妙にソワソワしている。
それに、桜咲さんとナギさんの様子をチラチラと意識している。
……もしかして、ナギさんを好きだって自覚しちゃったのかな?
私からすればバレバレだったけど、本人は自覚していなかったから黙っていた。
だって、自分で気付かなければ意味がないし、気付いてくれるのを待っていたから。
ゆえが気付く前に出し抜いてナギさんを手に入れるつもりなんてなかったから……
だから、こうして悩んでいる姿を見ると、一人で悩まずに打ち明けて欲しいと思う。
だって、私への友情と自分の好意にどう折り合いをつければいいのか を悩んでいるんだと思うから。
それは、もう既に私が通った道だから、相談をしてくれれば何かしらのアドバイスができる筈だから。
ゆえがナギさんを好きだって気付いた時から、ずっと悩みに悩んだ末に『結論』は出しているのだから。
……だから、ゆえの気持ちに気付かない振りをするしか、今の私にはできない。
仮に「ゆえ もナギさんのこと好きなのー?」とか訊けば、きっと ゆえは壊れてしまう。
ゆえは私との友情を何よりも大切にしているから、私を裏切ったと考えてしまうだろう。
私は ゆえを失いたくない。だから、私は ゆえから打ち明けてくれるのを待つことしかない。
今は「ゆえー、そこ違うよー」って、間違いを指摘してあげるだけで精一杯だ。
今のゆえは勉強に集中することで、自分の感情を忘れようとしている。
だから、私は勉強を教えてあげることで、今のゆえを助けることしかできない。
そう、遠回しに ゆえの考え方の間違いを指摘することくらいしか、できない。
ところで、桜咲さんは要注意人物としてマークすることにしたのは、最早 言うまでも無いですよねー?
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―― 木乃香の場合 ――
はぁ~~、現実はうまく行かんものやなぁ。
今回の勉強合宿の話を夕映に持ち掛けられた時は「これを機に せっちゃんと仲直りできるかも」て思てたけど……
勉強を始める時「ウチが勉強教えたる」て言う前に、せっちゃん は なぎやんに「理数系を教えてください」て頼んでまうんやもん。
そりゃ、確かに なぎやんは成績がいいみたいやし? ウチは なぎやんほど理数系が得意ちゅう訳でもないんやけどな?
それでも、何や せっちゃんがウチよりも なぎやんを頼りにしているように見えたんで、ちょっとショックやわぁ。
って、ウチは別に なぎやんに嫉妬してる訳やあらへんよ? ちょっと悔しかっただけやし、ガッカリしとるだけやよ?
むしろ、嫉妬すべきは せっちゃんに かも知れへんし――って、それも ちゃうな。なぎやんは ただの幼馴染やしな。
「コノカー、ここは これでいいアルか?」
はっ!! アカン!! いつの間にか思考に没頭しとったわ!!
くーふぇーが解いた問題を見せながら声を掛けて来とった。
こ、これはアカンな。今は教師役に集中せなアカンわ。
くーふぇーはウチを頼っとるんやから中途半端な気持ちはアカンて。
「そこか? ……うん、合っとるえ~~」
「ヨシ!! この調子でドンドン行くアルヨ!!」」
……どうやら、ちょっと自信が付いたようやな。
できないと思てたら できるもんもできなくなるから、自信を持つんは大事や。
まぁ、そう言うとるウチも人のことを言えた義理でもないんやけどな?
だって、ウチ せっちゃんと どう接すればええんか いつもわからんもん。
もしかして嫌われとるんやないかって考えてまうから近付くのも恐いんよ。
……でも、せっちゃんは なぎやんとは あんな風に楽しそに話しとるんやなぁ。
い、いや、せやから、別に なぎやんに嫉妬しとる訳やないよ?
ただ、ちょっぴり なぎやんのことが羨ましいて思えるだけやって。
ま、まぁ、人は それを嫉妬しとるって言うのかも知れへんけどな?
「……コノカ? どうしたアルカ?」
はっ!! しもた!! またもや 思考に没頭してもうた!!
今は、くーふぇーに勉強教えるのに集中せなアカンよな、うん。
微妙に問題を棚上げしている気はするけど、気にしたら負けや。
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―― ネギの場合 ――
……ハァ。おかしいです。ボクの予定と違います。
ユエさんに勉強合宿の話を聞いた時は、それほど気乗りはしなかったんですけど……
ナギさんの参加が決まってからは「ナギさんと仲良くなれる」って楽しみにしてたんです。
ですけど、結果は……ナギさんとサクラザキさんが仲が良いところを見せ付けられただけでした。
そりゃあ、ササキさんが一緒に居るので「二人だけの空間」って訳ではありませんけど。
でも、サクラザキさんとナギさんがマンツーマンだったらと考えると……心がモヤモヤします、
あ、ところで、サクラザキさんはノーマークでしたので、とっても意外です。
だって、バレンタインの時にチョコを渡していなかったので、チェックしてなかったんですよ。
と言うか、そう言う意味では「チョコを渡す程の仲ではない」と言うことになるんですけどね?
あ、でも、もしかしたら、チョコを渡してないだけで実は渡したかったのかも知れませんね。
コノカさんの話では、本命を渡すのは かなりの勇気がいるそうですから、渡していないだけかも知れません。
それに、本命が渡せないから その代わりに義理を渡す、と言う訳でもないらしいですからね。
文化の違いなのか ボクにはよくわかりませんけど、それが日本女性の『奥床しさ』なんでしょうね。
まぁ、つまり、サクラザキさんは「本命を渡したかったけど渡せなかった」に違いありません。
と言うことは、チョコを渡せた分ボクがリードしているってことなんですけど……だからと言って安心できないのが現状です
だって、ナギさんって(ボクの調べた限りでは)ウチのクラスの人の三分の一とは顔見知りなんですよ?
まぁ、特定の誰かと お付き合いしている、と言う訳ではないようですから、その点では安心ですけど。
ですが、ナギさんの交友関係の広さに不安になってしまうのが乙女心と言うものではないでしょうか?
ボクは「ナギさんに一人の男性として好意を寄せている」と言うことを認識してしまっていますからね。
……自覚したキッカケは、この前の図書館島の潜行課題の時です。
あの時に気が付いたんです。人間の価値は魔法なんかじゃなかったって。
困難に立ち向かう勇気こそが、何よりも大切なものだったんだって。
そして、それを気付かせてくれたナギさんは、とても凄い人なんだって。
まぁ、だから好きになったって言うのも おかしな話かも知れませんけど。
でも、それがキッカケでナギさんと父さんを混同して見るのはやめましからね。
「……ネギ殿? どうしたでござるか、気が漫ろでござるよ?」
あれ? 気付けば、ナガセさんが気遣わしげにボクを見ていましたね。
どうやら、思考に没頭してしまったようです(気を付けなきゃですね)。
今は勉強会をやっているんですから、勉強に集中しないといけません。
ナギさんに教師役を任されたんですから、ちゃんとやらなきゃいけません。
「いえ、大丈夫です。それよりも、問題は解けましたか?」
「うっ……い、いや、まだでござるよ。あはははは……」
ナガセさんは笑って誤魔化そうとしていますが、参考書は真っ白だったのは確認済みです。
後で困るのはナガセさんですから、別に強制する気は これっぽっちもありませんけど……
せっかく教えてるんですからマジメにやって欲しいものです(自分を棚に上げてますが)。
なので、ちょっとくらい文句を言って置きましょう。それくらいしても罰は当たりません。
「別に強制する気はありませんけど……後で困るのはナガセさんですよ?」
「い、いや、わかっているでござるよ。今からやるでござるから、大丈夫でござるよ」
ナガセさん、それは凄く説得力がないと思いますよ?
でも、本人の自由なので、あまり強くも言えません。
ですので、ちょっと涙目になって見上げて置きましょう。
何か「うぅ、その目で見られると拙者が一方的に悪い気がするでござる」とかって聞こえるので、効果は絶大ですね。
あ、これはネカネお姉ちゃんに教わった必殺技ではなく、コノカさんに教わった新必殺技です。
年上の人なら男女問わずに大抵の人には効くみたいなので使ってみました(効果は抜群でした)。
……今度、ナぎさんに使ってナデナデをおねだりしてみようと思っているのは ここだけの秘密ですよ?
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Part.05:神楽坂 明日菜の不在
ナギは ふとした瞬間に大変なことに気が付いた。
と言うのも、この場にはナギ・ネギ・木乃香・のどか、夕映・まき絵・刹那・古・楓しかいないのだ。
そう、何とバカレンジャーのメンバーに「神楽坂 明日菜(かぐらざか あすな)」がいないのである。
バカレッドであり、木乃香 & ネギのルームメイトであり、原作のメインヒロインである明日菜がいないのだ。
いや、もっと早く気付け とツッコミたいが、これがナギなのでツッコむだけ無駄だ。
きっと刹那に意識がいっていて、明日菜の存在を軽く忘れていたのだろう。ある意味で平常運転だ。
しかし、何故に明日菜がいなくて代わりに刹那がいるのだろうか? ナギにはサッパリわからない。
もしかしたら『ここ』の明日菜はバカじゃないのかも知れない。その可能性はゼロではない。
そんな訳で、ナギは刹那に訊ねることにしたようだ。
「ねぇ、せっちゃん。バカレンジャーって ここにいるだけで全員なの?」
「え? はい、そうですよ。あと、せっちゃんって呼ばないでください」
「ふーーん、そうなんだー。わかったよ。ありがとね、せっちゃん」
「だから、せっちゃんって呼ばないでくださいって何回言わせるんですか!!」
いや、せっちゃんっはせっちゃんだろ? と悪びれもしないナギ。心の中の呼称をオープンにできて嬉しいようだ。
(って言うか、せっちゃんって呼ぶと反応が面白くてさぁ、ついつい せっちゃんって呼びたくなっちゃうんだよねぇ。
まぁ、那岐のキャラじゃないことをしている可能性があるから、危険な橋を渡っているとはわかっているんだけどさ。
それでも、せっちゃんってイジってオーラが出ているから、困ったことに ついついイジりたくなっちゃうんだよねぇ)
Sの面目躍如な思考である。と言うか、一時の欲望に流されて深みに嵌るのが、実に『らしい』と思う。
さて、話を戻そう。今の問題は、明日菜の代わりに刹那がバカレンジャーになった と言うことだ。
確かに刹那は理数系だけ見れば充分にバカレンジャーと言える。それは紛れもない事実だ。
だが、文系科目は比較的まともなので、総合的には原作の明日菜よりマシな位置にいる筈だ。
そのため、明日菜の代わりに刹那がバカレンジャーになっているのは、ナギとしては有り得ないのだ。
(いや、待てよ? そう言えば、今まで明日菜についてネギが話題に出してないぞ?)
今まで まったく気にしていなかったが、話題にすら出て来ないのはおかしい。
そこまで思い至ったナギはチラッと部屋の中を見渡して部屋をチェックする。
もちろん、生活の痕跡を見て「居住しているだろう人間」の情報を集めただけだ。
決して女のコの部屋を見て興奮するためにやったのではない。説得力はないが。
(どうやら、二人分しか生活の跡がないから……この部屋には二人しか住んでないんだろうな)
これまで得られた情報から考えると、それらは木乃香とネギの生活跡だろう。
言い換えるならば、明日菜がこの部屋に住んでいる形跡が無い と言うことである。
いや、正確には「『ここ』の明日菜は麻帆良に居ない」と言うことになるだろう。
(まぁ、もしかしたら「この部屋以外の寮内に住んでいてバカじゃない」って可能性もあるけど……)
しかし、その可能性はないだろう。考えてみれば、明日菜が麻帆良にいたのならタカミチと言う保護者 繋がりでナギと交流があっていい筈だ。
当然ながら、ナギに明日菜との交流などないし、タカミチと会話した回数は数える程だが明日菜のことが話題に出たことは一度もない。
それに、明日菜はサウザンド・マスターが率いる『紅き翼』がウェスペルタティア王国から拉致――ではなくて、解放して保護した存在だ。
御節介にも、忌まわしい記憶を消したり名前を変えさせたりして、文字通り『すべてを捨てさせて』まで平穏な生活を送らせるようにしたのだ。
それなのに、タカミチがいるからと言って、態々 魔法と関わり兼ねない麻帆良に住まわせ、更にはネギと関わらせていた原作の方がおかしいのだ。
せっかく保護したのだから、魔法と関わらない安全地帯に住まわせるべきだろう。そうでなくては、すべてを捨てさせた意味がなくなってしまう。
(つまり、『ここ』の学園長やタカミチは明日菜を麻帆良とは別の場所に匿っているんだろう)
ナギはそう判断し、近右衛門とタカミチの評価を上方修正した。
それが正解かはわからない。だが、ナギは正解だと信じている。
明日菜が別の場所で幸せに生きていることを信じることにしたのだ。
そして、明日菜の不在に気付いたことで、ナギは重大なことにも気が付いた。
それは「エヴァ戦のパートナーはどうなるんだろ?」と言う かなり重大な問題だった。
何故なら、ナギの考えでは、あのイベントは明日菜ありきで成り立っていたからだ。
明日菜と言う完全魔法無効化能力者がいたからこそ『どうにか』片付いた筈なのだ。
(さすがに明日菜を舞台に引っ張り出すのは気が引けるから、他の人間で適任を探さなきゃなぁ…)
よくよく考えてみれば、戦闘能力が高ければ別に完全魔法無効化能力者でなくてもいいのだ。
ネギに必要となるパートナーは、詠唱の時間を稼いでくれる前衛――武闘派の人間だ。
刹那は木乃香の護衛で それどころじゃないだろうから、消去法で行くと古や楓が適任だろう。
(今日の様子を見る限り、特にニンジャのコとは仲が良さそうだから大丈夫そうだね)
とは言っても、ネギが女のコであることを考えると、パートナーが女のコだとダメかも知れない。
原作のネギは戦闘のために必要としていたが、基本的には恋人のような関係でもあるからだ。
つまり、女のコであるネギのパートナーは男でなければならないのではないだろうか? と言う危惧だ。
(と言うことは、ネギと親しい男が適任だよな――って、あれ? もしかして、オレ?)
いや、それはない……筈だ。確かに、ナギはネギと仲がいい男だ。それは間違いない。だが、ナギには前衛なんてできない。
身体上のスペックとしては可能だとは思うが、ナギの性格(ヘタレ)を考えると、戦闘なんてできる訳がない。
それに、男をパートナーにするならば どう考えてもタカミチしかいないだろう。ネギと仲がいいし、戦力も充分だ。
(って言うか、今更ながらに気付いたんだけど……そもそも、何でオレがネギのパートナーを心配してるんだろ?)
常識的に考えたら、魔法関係のことなのでナギの考えることではない。タカミチや近右衛門が考えるべきことだろう。
まぁ、恐らくは このままだと巻き込まれる可能性が高いことを自覚しているから考えていたのだろうが……
タカミチと言う有力候補を思い付いたことで、ナギは その可能性は忘れることにしたようだ。相変わらず残念な精神だ。
(それに、そもそもエヴァ戦って学園長の差し金だったりするんじゃないかな?)
ネギに(安全圏で)命を懸けた実戦を積ませるのが目的で、危険になれば間接的な形で手助けするつもりだったのではないだろうか?
そう考えると、いつもより早かった停電復旧についても納得できるし、吸血鬼騒ぎが起きた時にエヴァへ注意するだけだったのも納得できる。
つまり、明日菜がいなくても学園長がうまいこと手を回して、結果的には『どうにか』なる可能性が高いのだ。と言うか、そうなる筈だ。
(……さすが学園長だね。せいぜい掌で踊らされないように注意しとかないといけないなぁ)
とは言え、さすがに修学旅行の時は完全に読みが外れたのだろう。まさかフェイトが出て来るとは思わなかった筈だ。
仮に あんな危険人物が出て来るとわかっていたなら、修学旅行の行き先を大人しくハワイに代えていたことだろう。
いくらエヴァと言う切札があったからと言っても、ネギを(本当に)危険な目に遭わせてまで修行をさせる訳がない。
ところで、随分と思索に没頭しているように見えただろうが……キチンと勉強は教えていたので、問題はない。
刹那の頭から煙が出るんじゃないか と心配してしまうくらい刹那の脳がオーバーヒートしていたが問題ない……筈だ。
何か途中から目が虚ろになって、数式をブツブツ呟くようになっていたりもしたが、それでも問題はないに違いない。
その光景を見ていたネギが「さすがに あんなマンツーマンは遠慮します」とか言っていたが、問題ないったら問題ない。
ちなみに、言うまでもないだろうが、ナギは女子寮での宿泊許可もあったが さすがに寝る時には帰ったようだ。
それくらいは自重した と言うか、徹夜で勉強しても能率が悪くなるだけなので夜は早めに解散してサッサと寝ただけだが。
普段は自重しないクセに とか、そこは空気を読んで夜這いすべきだろ? とか思うが、ナギはヘタレなので仕方がない。
と言うか、問題を起こしたら近右衛門に迷惑が掛かるので(近右衛門からの報復を避けるためにも)何もする訳がないのだ。
そんな訳で、何だか微妙な幕引きとなったが……ナギが微妙なので仕方ないことにして、敢えて気にしないで終わって置こう。
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オマケ:試験の結果は?
試験結果の発表後、麻帆良学園女子中等部の二年校舎に「「「ウッソォオオ!!」」」と言う絶叫がこだました。
勉強合宿は多少ギズギスした空気はあったものの、結果的には全員が勉強に集中できたため成功に終わったと言えるだろう。
もちろん、刹那が数学に拒否反応を示さなくなったが、数学に対して恨みを抱くようになったことは言うまでも無いだろう。
そんな訳で、彼女達は3月10日(月)の学年末試験に万全の準備で臨み、本日、3月11日(火)にその結果が発表された。
で、その結果だが……絶叫からおわかりだろうが、大半の生徒が予想だにしていなかった「2-Aがトップ」と言う大番狂わせだった。
その大きな原因は、やはり足を引っ張りまくっていたバカレンジャー達が平均点を越えたことだろう。
「やったーー!! 勉強した甲斐があったよーー!!」
「そうですね、努力の甲斐があったです」
「まさか、私達が平均点を取れるとは思わなかったアルヨ!!」
「にんにん。みんな頑張ったでござるからなぁ」
「そうですね……頑張りましたよね……ええ、頑張りました」
クラスに貢献できたこともさることながら、合宿の成果を感じられた彼女等の喜びは一入と言っていい。
特に、刹那はもともと文系は平均を超えており、壊滅的だった理数系がハネ上がったため200位を切っている。
地獄のようなナギの数学レクチャーに耐えた甲斐があった、と言うものだろう。刹那の努力は報われたのだ。
「ええ、地獄のような あの合宿の御蔭ですね……」
「あはは……もうあんな二日間は過ごしたくないなぁ」
「ふふふふふ、数学なんてもう恐く無いですよ、ふふふふふ……」
「あぁ!! 刹那のトラウマが発動してしまったアル!!」
「いやはや、代償を考えると素直に喜べないでござるな……」
……今回の試験での功労者であるバカレンジャー達は尊い犠牲を払っている。
刹那は言うまでも無くナギのスバルタでトラウマレベルのダメージを受けたし、まき絵もナギのスバルタの被害者だ。
それに、夕映は夕映で己の本心に気付きショックだったし、楓もネギの精神攻撃に晒されて心にダメージを負っている。
まぁ、一番ダメージが少なかったのは古だったが、それでも慣れない勉強漬けで脳味噌は悲鳴を上げていたのである。
「やったーー!! これで食券長者だーーー!!」
ところで、そんなバカレンジャーの悲壮感など知ったこっちゃ無い「椎名 桜子(しいな さくらこ)」は万馬券を当てて大喜びだった。
そう、2-Aのトップは ほとんどの者が想定しておらず、トトカルチョのオッズが100倍を超えていたので競馬ではないが万馬券なのであった。
「えーー!? 桜子、ウチのクラスに賭けてたの?!」
「どんだけ大穴狙いしてるのよ、アンタ!!」
その様子を見ていた「釘宮 円(くぎみや まどか)」と「柿崎 美砂(かきざき みさ)」が揃って桜子に驚く。
「えっへへ~~♪ バカレンジャーのみんなが頑張ってたの知ってたからね~~」
「いや、頑張ってたのを知っていたからって、万年ビリがトップ取るなんて普通は予想しないって」
「そうそう、せいぜい行っても5位くらいでしょうが……まったく、アンタの強運には呆れるわ」
桜子のノーテンキな発言にガックリと項垂れる円と美砂だった。
ちなみに、ナギは「原作がどこまで通用するかわからないけど一応は買って置こう」と言うことで1万円を2-Aに賭けていたため、
今回のトトカルチョだけで100万円を超える食券(もちろん現金に変換可)を入手していたりするのは、ここだけの秘密である。
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後書き
ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、今回(2012年3月)大幅に改訂してみました。
今回は「夕映のターンの筈だったのに、結果としては何かゴチャゴチャしてしまった」の巻でした。
でも、夕映の「主人公が好きなんだけど、のどかの手前 表には出せない」って感情は伝わったと思いたいです。
ちなみに、世界云々で主人公に惹かれた辺りは深くツッコまないでいただけると助かります。いや、マジで。
夕映は過去に厨ニ病を患っており現在も若干引き摺っているため厨ニ病患者である主人公に惹かれた。それでいいじゃないですか?
あと、せっちゃん(刹那)についてなんですけど……意味ありげに接点があることになってますが、今回は触れません。
だって、修学旅行編がせっちゃんの活躍の場ですからね。それまでは、せっちゃんはメインでは扱えませんよ。
それと、せっちゃんの成績なんですけど、原作では茶々丸とザジよりはいいので明日菜の代わりのバカレンジャーではないんですが、
早めに主人公と絡ませたかったので『ここ』では理数系が壊滅的ってことにして、バカレンジャーにしちゃいました。
そう言う意味では、今回の描写だけでも随分とキャラを崩壊させちゃいましたねぇ。原作よりも御茶目な性格になってると思います。
あ、そう言えば、このこの(木乃香)についてなんですけど、このこの も詳しく触れるのは もうちょっと後になります。
敢えて 語るならば「百合っぽい感じはするけど、百合的な意味ではなく友情的な意味でせっちゃんが好きなだけ」ってことですね。
それと、このこのの京都弁に関しては、あんな感じで許してください。ボクにはアレで精一杯なんです。
このこのは かなり好きなキャラなんですけど、京都弁がわからないんで使いどころが かなり難しいんですよねぇ。
ところで、タイトルの『秘密』は夕映の想い云々のつもりだったんですけど、実際は「明日菜がいない」って秘密な気がしますねぇ。
……では、また次回でお会いしましょう。
感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。
初出:2009/08/07(以後 修正・改訂)