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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:b259a192 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/21 19:22
外伝その3:魔法少女ネギま!?



Part.00:イントロダクション


 これは、超が介入しなかった場合の物語。
 超の中に宿る、本来 辿るべきだった『歴史』。

 そこでは、一体どんな結末になったのであろうか?



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Part.01:茶々丸の不在


 超の介入がなかった『本来の歴史』と超の介入があった『この物語』。その二者の大きな違いには茶々丸の存在があげられる。

 そもそも、茶々丸は超によって造られた。まぁ、正確には、超と葉加瀬の共同作品なのだが。
 しかし、そうは言っても、超がいなければ――葉加瀬のみでは茶々丸は完成しなかったのは確かだ。
 そのため、茶々丸は超が造っ たと言っても過言ではないし、必然的に超がいなければ茶々丸もいない。

 そして、茶々丸がいないと言うことは、春のエヴァ戦や京都でのスクナ戦に それなりの影響があった、と言うことだ。

 まぁ、当然ながら、以前(44話参照)にも述べた理由で、茶々丸がいないために子供は溺れず、
 子供が溺れなかったために那岐も溺れず、那岐が溺れなかったのでナギとなることはなかった。
 故に、『歴史』と『物語』の一番の違いは、那岐が那岐のままであることなのは言うまでもない。

 その前提の上で、茶々丸がいないことでも それなりの影響があった訳である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「那岐さんを返してください!!」

 那岐が拉致されたことを知ったネギが慌てて指定された場所に現れた。歴史においても物語と似た展開だったのである。
 と言うか、原作でも「人質に効果的な存在」がいれば誰かが拉致されたことだろう。態々 吸血鬼騒ぎを起こす利点はない。
 いや、まぁ、「ネギに調査を経験させる」と言う利点はあるが、どう考えても「子供の お使いレベル」の茶番でしかないし。

 ちなみに、物語では茶々丸がナギを拉致したが、歴史では茶々丸がいないのでエヴァが直々に那岐を拉致した。

 何故なら、チャチャゼロに拉致を任せようにもチャチャゼロの性格上 勢い余って殺し兼ねないからだ。
 ネギを呼び出すための人質(エサ)なので、殺してしまっても価値があると言えば価値があるのだが、
 関係者ではあるものの命を狙われた訳でもないのに殺すのは忍びないため、エヴァは自ら拉致したのである。
 と言うか、怪我くらいならまだしも人死にまで出たら近右衛門もタカミチも黙っていないため悪手 過ぎる。

「これで終わりです!!」

 何合か『魔法の射手』などの魔法を撃ち合った後、魔力に物を言わせた『風花 武装解除』によってエヴァの武装を解除することに成功したネギ。
 これまでの攻防で、魔法薬の補助がなくては魔法を使えない程にエヴァの魔力が低いことを理解していたネギは、この時点で勝利を確信した。
 まぁ、魔法薬は愚か衣服までを剥ぎ取ってしまったため同じ女性としては衣服まで剥ぎ取るのは気が引けたが……それでも背に腹は代えられない。

「……これで勝ったつもりなのか?」

 追い詰められた筈のエヴァだが、逆に自分が追い詰めているかのように不敵な笑み(ある意味では、不適な笑みだ)を浮かべる。
 そして、エヴァが指をパチンと鳴らすと、物陰から刃物を持った70cmくらいの人形――チャチャゼロが那岐を抱えた状態で現れる。
 呼ばれるまで那岐を抑えながら ずっと出待ちしていたのだろう。その纏う空気が雄弁に「トット ト切ラセロヤ」と物語っている。

「さぁ、貴様の お得意な呪文を唱えてみるがいい」

 エヴァの見え透いた挑発に乗った訳ではないが、ネギとしては捕らえられている那岐の姿を見せられては黙っていられない。
 チャチャゼロが突然 現れたこととその外見(パッと見は可愛らしいのだが、よく見ると禍々しい)にネギは少々怯んだものの、
 口早に「ラス・テル マ・スキル マギステル!! 風の精霊11柱、縛鎖となりて敵を捕まえろ!!」と『戒めの風矢』の詠唱を行う。

「――サセネェヨ」

 しかし、ネギが詠唱を終える前に急接近して来たチャチャゼロが斬撃を見舞う(もちろん、避け易いように かなり手加減はされているが)。
 どうにか斬撃を避けることに成功したネギだが、集中を乱されたために詠唱はキャンセルされてしまった。これでは魔法は発動されない。
 そのため、ネギは もう一度 詠唱に入るが、またもや途中で攻撃を受けたために回避するのに意識を割かれて詠唱が中断させられてしまう。

「紹介が遅れたな。コイツは私の従者(パートナー)、チャチャゼロだ」

 何度も詠唱を中断されたネギがチャチャゼロとエヴァを睨む。それを受けたのか、エヴァが遅ればせながらチャチャゼロの紹介を行う。
 ……言うまでもないが、ネギは油断していた。勝利を確信していたこと自体は責められることではないが、油断は大きな落ち度だろう。
 勝って兜の緒を締めよ ではないが、油断は大敵だ。いや、そもそも、まだ勝った訳ですらない。勝負は下駄を履くまで わからないのだ。
 武装解除の後にトドメを刺さなかったのは悪手もいいところだった。少なくとも、『戒めの風矢』で捕らえるくらいはして置くべきだった。

 まぁ、たとえ『戒めの風矢』で捕らえていたところで結果は変わらなかっただろうが、それでも やらないよりはやった方がマシだっただろう。

「今でこそ恋愛的な要素で用いられているが、元々パートナーとは戦いのためのにある。
 我々魔法使いは呪文詠唱中 完全に無防備となり、攻撃を受ければ呪文を完成できない。
 そこを盾となり剣となって守護するのがパートナーの本来の指名となる訳だな。
 つまり、パートナーのいない貴様では、我々二人には勝てない……と言うことさ」

 ネギの悔しそうな様子を楽しみながらエヴァは朗々とパートナーについての説明を行う。

 これも言うまでもないだろうが、エヴァは余裕を見せてはいるもの油断はしていない。いろいろと甘いエヴァだが、油断をしてくれる程には甘くない。
 詠唱のできない魔法使い(しかも見習い)など恐るるに足らないのだが、それでも「最後まで何が起きるか わからない」と警戒は怠らないのである。
 実際、物語のように魔法具を多用すれば現状のネギでも逃亡ならば可能ではある。だが、那岐を救出していない以上ネギには逃げる手などない。
 ちなみに、物語と大分 流れが違っているのは、ナギと那岐の違いによる影響だ(ネギが図書館島の件で「魔法がすべてではない」と悟っていないのだ)。

  バキィ!!

 しかし、エヴァは大事なことを見落としていた。「関係者と言えども魔法を知っただけの素人である」と那岐を放置してしまったのだ。
 その結果、チャチャゼロに拘束されていただけの那岐は(ネギの詠唱を阻害するのにチャチャゼロが傍を離れていたため)自由になった。
 そして、自由になった那岐は自分に注意が向いていないことをいいことにチャチャゼロに不意打ちの飛び蹴りを思いっ切りかましたのである。

 これには、エヴァの侮りもあったが、それ以上に「刃物を持った相手に素手で挑む度胸」を那岐が持っていたことが大きい。

 ナギと那岐の大きな違いは、思い切りのよさかも知れない。まぁ、後先をあまり考えていない と言えば それまでなのだが。
 それでも、傷付くことを恐れて何もしないよりは遥かにマシだ。御蔭で状況は一変し、ネギと那岐に活路が開いたのだから。
 少し自身を顧みない部分はあるが、日常生活では充分に好感の持てる範囲内だろう(戦場だと かなり危険な気はするが)。

「それなら、オレがパートナーになればOKってことでしょ?」

 軽やかに着地した那岐は晴れやかな笑顔で事も無げに言う。その言葉がどれだけの重みを持っているのか、理解しているのだろうか?
 恐らく「放って置けない」くらいで、あまり深く考えていないだろう。だが、何故か「どうにかなりそう」と思わせる魅力を持っている。
 原作で小太郎が「アホっぽさ」と表現する不思議な人徳。この辺りが那岐とナギの違いであり、那岐と明日菜に共通した部分だろう。

「クッ!! 邪魔をするな、小僧!! 殺すぞ!!」

 突然の乱入者(しかし、実際には最初からいた当事者)に意表を突かれた形のエヴァだが、鬱陶しそうに恫喝するだけだ。
 あの程度の攻撃で どうにかなるチャチャゼロではないことなど熟知しているし、エサを目の前にして気が立っているのである。
 言うまでもないだろうが、エサとはネギのことであり、解呪のためにネギの血を狙っているのは歴史でも変わらないのだ。

「それでも、ここでネギを見捨てる訳にもいかないさ」

 エヴァの怒気(殺気と言う程には殺意が込もっていないので、あくまで怒気だ)を受けながらも、那岐は態度を変えない。
 あまつさえ「ここで見捨てるくらいなら最初から助けない」と言わんばかりにネギを庇うような位置取りに立つ。
 実に那岐らしいが、実際はエヴァ(闇の福音)のことを知らないために あまり恐怖を感じていないだけかも知れない。

 まぁ、そんなこんなで、パクティオーこそ結ばなかったが、初戦で那岐はパートナーとなったのだった。

 ちなみに、この後の流れについてだが……物語よりも原作に近い程度のことなので割愛させていただく。
 簡単に言うと、物語の様に交渉などせず、原作と同じ様に停電時の戦闘で決着を付けたのである。
 この辺りが、搦め手を得意として直接的な戦闘を好まないナギと短絡的な思考をする那岐との違いだろう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そして、舞台は変わって京都、修学旅行3日目のスクナ戦。

 ナギと違って那岐は反乱分子の襲撃を予想していないため、襲撃の対策を何も練っていなかった。
 まぁ、歴史でも那岐と刹那は幼馴染であるため原作の様に刹那を刺客と疑うことはなかったが。
 だが、何も対策していなかったため、刹那を疑う以外のことは原作と同じ流れを辿ることになった。

 そのため、物語の様に鶴子やタカミチが参戦することはなく、木乃香のダミーが用意されることもなかった。

 結果、本物の木乃香がフェイトに拉致され、千草の儀式は成功し、スクナは復活したのである。
 また、原作同様にエヴァは修学旅行に参加していなかったためエヴァが参戦するのに時間を要した。
 つまり、那岐の魔法無効化能力がフェイトにバレてから、エヴァが参戦することになったのである。

「……チャチャゼロ、そのデカブツを止めて置け」

 エヴァが『転移』にて駆け付けた時には、既にネギも那岐も(ついでに刹那も)満身創痍だった。
 物語よりは関係性は低いが、それでも知り合いを傷付けられたエヴァの心中は穏やかではない。
 チャチャゼロに命令を下すと詠唱を始める(原作では茶々丸が結界弾でスクナを止めていたシーンだ)。

「リク・ラク ラ・ラック ライラック!! 契約に従い 我に従え 氷の女王、来れ とこしえのやみ!! 『えいえんのひょうが』!!」

 チャチャゼロが「ヒャッハーッ!!」とか叫びながら実に楽しそうにスクナを切り刻んでいる中、エヴァは詠唱を完成させる。
 唱えられたのは原作同様、150フィート四方の広範囲をほぼ絶対零度(-273.15℃)にして対象を凍結させる『えいえんのひょうが』だ。
 相手が覚悟のない女子供ならば ここでやめるところだが、相手は鬼神。滅びれば還るだけの存在だ。手心を加える余地などない。

「全ての命ある者に等しき死を、其は 安らぎ也……『おわるせかい』」

 当然ながら、スクナ自体には恨みなどない。だが、悪用としている者がいる以上、見過ごすことはできない。
 そのため、エヴァは冷徹に「……砕けろ」と言う言葉を添えてスクナごと氷塊を粉砕――スクナを殲滅した。
 まぁ、茶々丸の代わりにチャチャゼロがスクナの足止めをしたこと以外は原作と変わらなかったのだが。

 ちなみに、スクナの足止めが終わった後のチャチャゼロは原作同様に千草を追ったのだが……そこで少しの違いがあった。

 チャチャゼロは原作同様に千草を殺すつもりなどなかった。エヴァから厳命されていたからだ。
 だが、そんな事情を知らない千草は寸止めされる予定の刃が己を切り裂くことを疑っていなかった。
 スクナとチャチャゼロの戦いを見ていたことでチャチャゼロへの恐怖が植え付けられていたのだろう。

 結果、千草は肉体的なダメージはなかったが、精神に深いダメージを負ったのだった。まぁ、大した違いではないかも知れないが、違いは違いだ。



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Part.02:穏やかに過ぎる日々


 修学旅行後は原作に近い流れを辿った。

 ネギは物語の様に魔法具製作の道ではなく、原作の様に魔法使いとしての道を選んだ。
 そして、それに引きづられるように那岐も前衛として戦闘することを選ぶことになり、
 原作同様にネギはエヴァに弟子入りし、那岐は刹那に剣の指導を受けるようになった。

 ……朝と晩に那岐と二人きりで修行することになった刹那の心中は語るまでもないだろう。

 と言うか、木乃香と婚約者になることもなかったので、このまま刹那ルートに行く勢いだった。
 そして、そのことで危機感を持った あやか や木乃香が南の島に那岐を連れて行くイベントもあったが、
 語る程の内容ではないので やはり割愛させていただく(二人との好感度が微上昇した程度だ)。

「気のせいかなぁ? 最近、男子からの視線が厳しい気がするんだよねぇ」

 どうでもいいが、ナギ以上に好意に鈍い那岐は各ヒロインからの気持ちに気付いていなかった。
 ちなみに、ネギ・刹那・あやか・木乃香 以外にも、のどか・夕映にもフラグが立っていたが、
 言うまでもなく「最近、女子の友達が増えた」程度にしか認識していないのが那岐のクオリティだ。

 まぁ、原作のネギが立てたフラグのほとんどを那岐が立てただけの話なのだが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 修行の日々は過ぎ、とある雨の日。ヘルマンが麻帆良に浸入した。

 タカミチは京都でフェイトと戦っていないため、物語の様な修行を課していない。
 むしろ、ヘルマン浸入時にも出張(と言う名の魔法使いの仕事)をしているくらいだ。
 つまり、ヘルマンはタカミチに撃退されることはなく、原作同様の流れを辿った。

 そう、原作の明日菜と同様に那岐もスライム三人娘に捕らわれたのである。

 ちなみに、明日菜はヘルマンに扇情的な下着姿に着替えさせられた訳だが、
 那岐はピチピチのブーメランパンツ一丁(しかも黒)に着替えさせられた。
 少年誌的には美味しくないが、一部の人間には とても扇情的な格好だろう。

 どうでもいいが、よくよく考えなくても、ヘルマンは かなりの変態紳士だと思う。

「って、何これ!? 何で 大人の女性が行くような店でウケそうな格好になってんの?!」
「ハッハッハッハッハ、囚われの王子様がパジャマ姿では雰囲気が出ないだろう?」
「いや、雰囲気を出して どうするんですか!? って言うか、方向性が違くないですか?!」
「その点は大丈夫さ。あちらを見てみなさい。私だけでなく、御婦人方も大喜びだよ?」
「うわっ!? みんなガン見しないでっ!! って言うか、私もって どう言うことぉおお!?」
「フフフフフ……そのままの意味だよ? 今の私は最高にHighって感じで漲っているよ?」

 どうやら、ヘルマンは違う方向の変態紳士だったようだ。もちろん、物語では露見しなかっただけだ。

 ところで、那岐の他に捕らわれているのは、木乃香・刹那・のどか・夕映である(みんな那岐の身体に興味津々だ)。
 歴史は原作の流れに近いため、京都の件で のどか・夕映は魔法を知って魔法に深く関わることを望んだのである。
 まぁ、同じく京都の件で魔法を知った朝倉 和美・古 菲・長瀬 楓の三名は、深く関わっていないのが原作とは違うが。
 どうやらフラグが立たなかったので事情を説明して黙ってもらうだけで終わり、ネギパーティには参加しなかったようだ。
 ちなみに、那波 千鶴も原作同様に小太郎の関係で連れて来られたが、気絶させられているのでカウントしていない。

「那岐さん!! あと ついでに皆さん!! 助けに来ました!!」

 挨拶 代わりだ、と言わんばかりに『雷の暴風』を撃ち込みつつ舞台に現れたネギ。
 原作では『戒めの風矢』だったのに より凶悪な魔法を使っている件については
 それだけネギが那岐に傾倒しつつある――ヤンデレ化している、と言うことである。

 ちなみに、小太郎も一緒に来ているが、原作と大差ないので割愛させて(以下略)。

「ッ!! ネギ!! 来てくれたの!?」
「はい、那岐さ――って、ブフゥ?!」
「? どったの? って、あっ!?」

 セリフの途中で吹き出したネギに疑問を浮かべる那岐だったが、途中で自分の姿を思い出したようである。

「ななななな何て格好してるんですか?!」
「い、いや、これはこのオッサンに――」
「――グッジョブです!! 誘拐犯の人!!」

 ネギが吹き出したのは息だけではなく涎とか鼻血も含まれていたので、いろんな意味で危険である。そう、いろんな意味で。

「いや、グッジョブじゃないから。って言うか、ガン見しちゃラメェエエ!!」
「だ、大丈夫ですよ? ボクは落ち着いていますよ? 問題ないですよ?」
「いや、全然 大丈夫じゃないでしょ? 特に涎と鼻血は かなりアウトだよ?」

 ヘルマンのことを忘れて那岐を凝視するネギ。いろんな意味で心配になって来る光景だ。

 どうでもいいが、那岐はナギではないので、見られて悦ぶような性癖はない。
 少しだけMな体質ではあるが、ナギレベルの変態ではないので、露出の毛はない。
 いや、気はない。と言うか、明日菜と違って毛はある。何処の毛とは言わないが。

 ……まぁ、言わなくても伝わっているだろうが、そこは敢えて触れないのがマナーだろう。

 ところで、ヘルマン(と小太郎)は、空気を読んだのか、二人を生暖かく見守っている。
 まぁ、ヘルマンは空気を読んだだけでなくネギと那岐を『慈しむ』ように見ているが。
 その思考(ある意味で嗜好)は理解したくないので、推察は敢えてしないで置こうと思う。

「と言う訳で、貴方は一体 何の目的で こんなことをしたんですか!?」

 一頻り視姦して満足したのか、気を取り直したネギがヘルマンに向き直る。
 もちろん「と言う訳」が「どう言う訳なのか?」はネギにもわかっていない。
 気分やノリで言っただけで深い意味などない。と言うか、ある訳がない。

「……手荒な真似をしたことは謝ろう。だが、ヤる気は出ただろう? 私は ただ君達の実力が知りたいのさ」

 空気を読んだヘルマンは下手なツッコミなどせずに真剣な面持ちで真剣に応える。
 そして「私を倒すことができたら彼等は返そう。それだけで充分だろう?」と締め括る。
 どうやら今までのこと(ネギと那岐の会話)は忘れてシリアスモードに入ったようだ。

 まぁ、この後の流れは原作と似たようなものなので割愛(以下略)。ちなみに、物語とは違ってフェイトは来なかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 無事にヘルマンを退けた後は、特筆すべきことのない穏やかな日々が続いた。

 まぁ、穏やかな日々とは言ったが、ネギは以前にも増して修行に のめり込むようになった。
 小太郎と言うライバルができたことも影響しているが、ヘルマン戦で力不足を痛感したのが大きい。
 那岐を人質に取られたことも許せないが、それに気付けなかったこと自体が許せなかったのだ。

 それを傍で見ていた那岐は、明日菜のようにネギに付き合って修行漬けの日々を送る。

 ここでネギの方向性を修正しようとしない辺りが、ナギと那岐の大きな違いだろう。
 どちらかがいいかは判断のわかれるところだが、ナギの方が傲慢なのは否定できない。
 だが、那岐の方が結果的にネギを追い込んでいくことになるのも、また否定できない。

 ちなみに、麻帆良祭と言うイベントもあったが、超がいなかったため物語と似たようなものなので(以下略)。

「どうでもいいけど……さっきから割愛し過ぎじゃないかな?」
「特筆すべきことがないんですから、いいんじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだけどさ、Part.01に比べると手抜き感が……」
「噂だと人質の話が予想以上に長くなったことが原因らしいです」
「そっか。つまり、ネギがハッスルし過ぎたの原因なんだね?」
「ち、違いますよ!! 誘拐犯さんが紳士過ぎたことが原因です!!」
「でも、あの時のネギの表情と涎と鼻血が忘れられないんだよねぇ」
「そこは忘れてください!! って言うか、そんな事実はありません!!」

 メタな会話も含まれているが、気にしてはいけない(言っていることは間違ってはいない、とだけ言って置こう)。

 ところで、アルビレオについてだが……実は、キチンと麻帆良武道会で遭遇している。
 超がいないことで大会はショボいままだったが、ショボいだけで大会そのものはあったのだ。
 そして、原作同様に那岐・ネギ・小太郎・刹那・タカミチ・エヴァ・高音・愛衣などが出場し、
 明日菜の位置に那岐がいる他、ロボ田中や各モブキャラに変更があっただけで大筋は変わらない。

 ちなみに、決勝はネギとアルビレオ(が顕現させたナギ・スプリングフィールド)で、優勝はアルビレオだったらしい。



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Part.03:歪み始める運命


 そして、時は過ぎ夏休み。舞台は魔法世界に変わる。

 麻帆良祭が終わってから魔法世界に行くまでの流れは、特筆すべきことがないので やはり割愛させていただく。
 簡単に話すと、原作や物語と同様に「魔法世界でも生きられる程度」の戦力を身に付ける修行をしただけだ。
 まぁ、物語とは違って魔法世界を救うための準備などはしていないし、石化解呪の魔法具も用意していないが。

 ちなみに、魔法世界に行く理由は「ナギ・スプリングフィールドの手掛かりが有る」のと「那岐に深く関わっている」からである。

 物語と同様にネギが父親よりも那岐に傾倒していたため父親の手掛かりだけではネギが動かなかったので、
 それを敏感に察したアルビレオが、那岐の事情の一部(魔法世界にあった国と密接に関わっている)を明かし、
 以前にヘルマンが襲撃して来た様に今後も那岐を狙って来るかも知れない と言った軽い脅迫をしたのである。

 つまり、父親が麻帆良の地下に封印されていることや那岐の事情をすべて知ったうえでネギを誘導したのだ(安定の腹黒さだ)。

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「さぁ、ネギ君。私と共に戦いましょう。御両親の意志を継いで世界を救うことこそがキミの道の筈です」

 舞踏会の裏側で行われた会談にて、クルトが過去の映像(アリカのアレコレ)を見せたうえでネギを勧誘した。
 ちなみに、原作では のどか・朝倉 和美・長谷川 千雨が同行者として付いていたが、歴史ではネギ一人だ。
 そもそも、ネギパーティが原作と違う。那岐・木乃香・刹那・のどか・夕映・アーニャしかいないのである。

 パルや千雨がパーティ入りしなかったのは、超がいないために学園祭が普通に終わったからだ。

「断る訳がない と確信してらっしゃるところ申し訳ありませんが、その申し出は お受けできません。
 と言うか、勝手にボクの道を断定していらっしゃいますが……それは勘違いとしか言えませんよ?
 両親は両親、ボクはボクです。彼等が守りたいものとボクの守りたいものはイコールではありません」

 確かに母の話は衝撃的だったし、聞けてよかった とは思う。だが、だからと言って その意思を継ぐかは別問題だ。

「……では、貴女が守りたいものとは何なのですか?」
「それを貴方に答える義務などないと思いますが?」
「お忘れですか? 貴女方は指名手配犯なのですよ?」
「なるほど。義務はなくても答える方が賢明ですね」

 クルトのあからさまな脅迫にネギは抵抗をやめる。そんなネギの態度にクルトは「話が早くて助かります」と答えを促す。

「ボクが守りたいものは那岐さんです。ボクは那岐さんさえ守れれば それでいいんです」
「……那岐さん? 確か、黄昏の――いえ、アセナ様の地球での名前でしたね」
「ええ。那岐さんはボクの一番 大切な人です。魔法世界など比べるべくもありません」
「そうですか……ですが、それならば、私と共闘することはマイナスではないでしょう?」

 ネギが素直に理由を述べたのは脅しに屈したからではない。那岐に関することで嘘を吐きたくなかっただけである。

「確かに『元老院』も『完全なる世界』も那岐さんを狙っている『敵』ですからね……」
「そうです。それに加えて『帝国』も彼の正体を知れば狙うようになるでしょうね」
「……ああ、つまり、貴方の言う『敵』とボクの『敵』は重なる と言う訳ですか」
「ええ。魔法世界云々は関係なく、同じ敵を持つもの同士 共闘はできるでしょう?」
「そうですね。そう言うことならば、貴方の申し出を受けることに否はありませんね」

 魔法世界を救うことに興味はないが、敵を排除したい と言うことには共感できる。ただ、それだけのことだ。

 ちなみに、歴史では原作と違ってアーケードでの初顔合わせの際、ネギとクルトは武力衝突などしなかった。
 クルトがアリカや魔法世界のことでネギを挑発したが、那岐のことではなかったのでネギは激昂しなかったのだ。
 それだけネギが那岐に傾いているのだが、それを知らないクルトはネギを「冷静な少女」と認識してしまう。

「実に賢明な判断です。目的も同じくしたいところですが……とりあえずは協力していただけるだけで充分ですよ」

 原作同様、クルトはネギに両親の映像を見せた。それは、魔法世界を救うことを使命として欲しかったからだ。
 だが、父親よりも那岐に傾倒しているためネギは両親に執着がない。魔法世界よりも那岐の方が遥かに大切なのだ。
 むしろ、フェイトの策略とは言えイキナリ指名手配にされた経験のある魔法世界には あまりいい印象を抱いていない。
 そのため、那岐のことがなければ魔法世界を救うことに興味すら抱かなかっただろう(せいぜい知人を助ける程度だ)。

 まぁ、何はともあれ、原作と違って歴史ではネギはクルトの仲間になったのである。

 ところで、原作のネギはクルトの申し出を受ける振りをして魔法世界の真実を聞き出していたのに歴史では そんなことはしていない件だが、
 それは、歴史のネギは魔法世界と火星を結び付けていないためだ(まぁ、結び付けていても放置していた可能性は非常に高いが)。
 と言うのも、超がいないため未来や火星云々の情報がなく、更に村上 夏美の言葉(魔法世界って火星っぽい)も得られなかったからだ。

 ちなみに、村上 夏美の言葉を聞けなかった理由は実に単純なもので、村上 夏美が魔法世界に来なかったから である。

 那岐が あやかを説得したことで運動部四人組も含めて村上 夏美は魔法世界どころかウェールズにすら来ていないのだ。
 まぁ、その影響はネギが拳闘大会に出る必要がなかったくらいだ(もちろん、その影響は これまでの流れでは、だが)。
 とは言え、ゲートポートでフェイトに敗れたネギが更に力を求めたことは変わらず、原作同様にラカンに師事したのである。

 そんなこんなで、原作同様に『闇の魔法』を習得したネギは、強力な力を得ると同時に より力に囚われていくことになるのだった……

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「――で、大事な用件って何だい?」

 クルトとの舞踏会の裏側での話し合いの後、ラカンから那岐が偽者である可能性を示唆されたネギはダイオラマ魔法球にて那岐との話し合いの場を設けた。
 ダイオラマ魔法球を話し合いの場にしたことに深い意味はない。ただ、他者の邪魔が入らない場所としてダイオラマ魔法球が都合よかったのである。
 もちろん、ネギがラカンから助言を得ていたことを知らない那岐(だと思われる人物)は「改まって どうしたんだろ?」くらいの感覚でしかなかったが。

「大事な用件と言うのは、貴方が本物か否か を確かめることです」

 ネギは そう言いながら予め『遅延』させて置いた『魔法の射手 雷の1001矢』を解放し右手に集束させる。
 そして、右手を那岐に突き付ける。そう、それは「今から撃ち抜きます」と言う明確なメッセージだ。
 魔法である以上、魔法無効化能力者である那岐には効かないが、バチバチと放電する光景は脅威だろう。

「本物の那岐さんなら……完全魔法無効化能力でキャンセルできます。だから、問題ないでしょう?」

 ネギの口調は穏やかなものだが、その目は冷酷そのものだ。それ故に、より恐ろしい。
 言うまでもないが、ネギは穏やかに見えるだけで実際には激怒しているのである。
 那岐を騙った相手も許せないが、何よりも指摘されるまで気付かなかった自分が許せないのだ。

  ――ズドンッ!!

 ネギは躊躇なく且つ勢い良く雷矢を放つ。そして、放たれた雷矢は何の抵抗もなく那岐の肉体を穿った。
 本来ならば完全魔法無効化能力によって雷矢は那岐の身体に触れる前に消滅していたことだろう。
 だが、雷矢は那岐の肉体に届き、その腹部を貫いた(そして、貫いた部分から電撃を全身に迸らせている)。

「グァァアアアアア!!!!!」

 絶叫を上げて のた打ち回り、全身で苦痛を訴える那岐――否、那岐に見える『ナニカ』。
 那岐が苦しむなら自分のこと以上に心配するネギだが、相手は那岐ではないので何も感じない。
 最早 目の前の存在は(ネギにとっては)那岐の皮を被っただけのモノでしかないのである。

  ガォン……!! ガォン……!! ガォン……!!

 苦しむナニカのことなど一切気にせず、ネギは龍宮から受け取った(正確には、奪い取った)退魔弾を次々と撃ち込む。
 一発目で既に全身から煙を噴出し始めていたが、雷で焼かれただけの可能性もあるので念のために数発 撃ったらしい。
 あきらかに八つ当たりのような気がするが、残念なことにネギを止める者はいない(そのために邪魔が入らない場所にしたのだ)。

「……やはり偽者でしたか」

 既に偽者であることなど わかり切っていることだが、ナニカの変化は解け その正体が露になっていた。
 その姿は、金髪のミディアムから尖った耳が見えるのが特徴的な少女――フェイトガールズの栞だった。
 雷矢の影響か退魔弾の影響か、栞は気絶しておりピクリとも反応しない(呼吸はしているので死んではいない)。

「なら、情報収集をしなきゃいけませんねぇ」

 ネギは栞をゴミでも見るような目で見ながら、その額に右手を置く。
 もちろん、起こすためではない。その記憶を『読む』ためだ。
 こんなこともあろうか とエヴァから『記憶走査』の術式を習っていたらしい。

「…………ん? これは『プロテクト』……?」

 当然だが、栞には正体がバレた時の対策として記憶を読まれないようにするための処置――魔法的なプロテクトが仕掛けられていた。
 原作では栞が自発的に話したのでネギ達は様々な情報を得られたが、情報を渡さないような処置をして置くのは当然のことだ。
 そのプロテクトは かなり強固なもので、掛けた本人にしか解除はできないだろう。無理矢理 解けば、記憶そのものが消えそうだ。

「まぁ、ダメで元々。うまくすれば記憶が拾えるかも知れないから、やるしかないね」

 正確に言えば、無理矢理 解けば人格ごと記憶が壊れ兼ねない。だが、今のネギには悩む選択肢などない。
 ネギにとって何よりも大切な那岐を拉致した大罪人の一人に遠慮など要らない。壊れても何も問題ない。
 いや、むしろ、壊れてしまえばいい とすら思っている。実は、別の情報入手方法を今 思い付いたのだ。

「…………ふぅん? なるほどねぇ。本物の那岐さんは『墓守人の宮殿』に捕らわれているんだぁ。なら、征くしかないよねぇ」

 結果、プロテクトは破られ、自我も記憶も そのほとんどが弾け飛んだ……が、ネギは記憶の残骸から情報を手繰り寄せた。
 実はと言うと、ネギは『雷天双壮』によって雷の精霊(電気の集合体)化し、電気信号を完全に操作することを思い付いたのである。
 脳は電気信号によって情報を交換している。言い換えるならば、記憶とは電気信号によって作られている とも言えるのだ。
 まぁ、栞の記憶は ほとんどが弾け飛んでいたのだが、ネギはパソコンのデータを復旧するが如く脳内情報を復旧させたのである。

 そしてネギは、必要なことは済んだ と言わんばかりに、虚ろな目をして呆ける栞のことなど見向きもせずにダイオラマ魔法球を後にするのだった。



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Part.04:そして、運命の輪は狂狂と回る


「那岐さん!!」

 強行突入した『墓守人の宮殿』にてネギが見たものは、捕らわれた那岐(とアーニャ)だった。
 その傍らには冷めた目をした銀髪の少女――フェイトが佇んでおり、それがよりネギに火を付ける。
 ちなみに、パルがいないのでバル様号(飛空艇)もないため、足はクルトより借りた戦艦である。

「外の悪魔は外の人達に任せるとして……ボク達は那岐さんの奪還に集中しましょう」

 途中で空を覆いつくさんばかりの大量の悪魔が召喚されたが、それはタカミチやクルトや混成艦隊に丸投げした。
 余談だが、ザジ姉は現れていない。超が介入していないため「超が変えようとした未来」を知らないからだ。
 と言うか、そもそも「超が変えようとした未来」とは歴史のことであるため、歴史では知りようがないのだが。

「と言う訳で、刹那さんは木乃香さんを、龍宮さんは宮崎さんと綾瀬さんを お願いします。あ、コタコはボクと共に突入ね」

 那岐とアーニャが捕らわれているため、現在のネギ一行はネギ・木乃香・刹那・のどか・夕映・小太郎・龍宮しかいない。
 言うまでもないだろうが、コタコとは小太郎のことである(物語同様に小春と言う本名があるのだが、名乗っていないらしい)。
 とにかく、戦闘が可能なのは刹那・小太郎・龍宮の3人しかいないうえ非戦闘員の護衛を考えると小太郎しか動かせない。
 まぁ、刹那が木乃香の護衛を放棄するのは有り得ないが、のどか・夕映を見捨てて龍宮を突入班に加えることは可能ではある。
 だが、那岐のことを考えると その選択肢は有り得ない。那岐を助けるために二人を見捨てたことを那岐が知ったら傷付くからだ。

 ちなみに、夏美がいないので(チートとしか思えない便利過ぎる)認識阻害のアーティファクト『孤独な黒子』もないため別働隊はないらしい。

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「フェイト・アーウェルンクスゥウウ!!」

 途中で襲い掛かって来た月詠は刹那に、フェイトガールズは小太郎に、デュナミスは龍宮に、それぞれ任せてネギは那岐のもとへと急いだ。
 言うまでもないが、既にネギの頭には「みんなで麻帆良に帰る」などと言うことは一切ない。最早 那岐を助け出すことしか頭にないのである。
 一応、アーニャが捕らわれているのはネギもわかっている。わかっているのだが……どうやら、ネギの意識からは綺麗に削除されたようだ。
 もちろん、リライトされた人々を戻すことも考えていないので、グランドマスターキーなど求めていない。求めているのは、あくまでも那岐だ。
 まぁ、那岐を取り戻す過程でフェイトの進める儀式を邪魔することになるので、結果的には大した違いはないが。それでも、動機はまったく異なる。

「那岐さんを返せぇええ!!」

 宮殿の最奥に辿りついたネギが見たものは、祭壇にて儀式の生贄に捧げられた那岐の姿だった。
 祭壇には特殊な魔法陣が施されており、解除している間に攻撃されることは考えるまでもない。
 幸い、まだ儀式は途中だ。と言うことは、儀式を止めれば那岐を助けることができるのだろう。
 つまり、那岐を助けるには儀式の執行者であるフェイトを倒せばいいだけだ。実にシンプルだ。

「それはできない相談だね。魔法世界を救うには こうするしかないんだよ」

 叫びながらも殴り掛かって来るネギをいなしつつ、フェイトは極めて冷静に告げる。
 それは「本心では こんなことしたくない」と言った心情の裏返しの態度なのだが、
 那岐を目の前にして熱くなっている(と言うか暴走気味な)今のネギには読み取れない。

 今のネギは ただただ熱くなり、目の前の障害(フェイト)を排除することしか頭にないのだ。

「ああ、そう。だけど、それは お前達の都合だろう? 那岐さんは関係ない」
「関係なくはないさ。『黄昏の御子』である彼は『儀式』の鍵なのだから」
「だから、それは お前達の都合だろう? 那岐さんには関係ないのは変わらない」
「……確かに その意味では関係ないね。でも、これしか方法がないんだよ」
「へぇ、そうなんだ。でも、だからって那岐さんを巻き込むのは間違っているよ」

 ネギとフェイトの立場は決定的に違う。どちらかが折れない限り両者が交わることはないだろう。

「それじゃあ、キミは魔法世界を救う代案がある とでも言うつもりかい?」
「そんなものないね。って言うか、そもそも、そんなもの必要ないだろう?」
「? 何を言ってるんだい? 魔法世界に住む12億の人命が掛かっているんだよ?」
「だから、必要ないって言っているだろう? 滅びるなら勝手に滅びればいいさ」

 繰り返しになるが、魔法世界が滅びようとネギは どうでもいい。それがネギのスタンスだ。

「…………それは本気で言っているのかい? ネギ・スプリングフィールド」
「ああ、もちろんだ。ボクにも那岐さんにも魔法世界を救う義務はないだろう?」
「確かにね。だが、キミはサウザンド・マスターとアリカ王女の娘だろう?」
「両親は両親、ボクはボクだ。ボクと両親は違う。勘違いしてもらっては困るね」

 原作のネギは父親の跡を継いで魔法世界を救うことを決めた。だが、歴史では父親よりも那岐の方が重要だったのである。

 そもそも、原作では「父親の跡を継ぐ」と言う綺麗な表現で誤魔化されているが、その内実は「父親の跡を追っている」だけとも言えるだろう。
 その過程で魔法世界を救うことになったり明日菜を救うことになっただけで、ネギの中の比重が父親に傾いていること自体は変わっていない筈だ。
 歴史では その対象が那岐になっただけだし、物語では その対象がアセナになっただけだ。つまり、ネギ自体は根本的に変わっていないのである。

 原作・歴史・物語……それぞれを決定的に変えているのはネギではなく、ネギの傍にいる明日菜・那岐・アセナの違いなのだ。

「なるほど、よくわかったよ。キミを納得させるには力ずくしかないことがね」
「ああ、そうだね。って言うか、最初から わかり切っていたことだろう?」
「……確かに、言葉で わかり合えるなら、最初から こんなことになってないね」
「まぁ、那岐さんを拉致した段階で お前と わかり合うつもりなんてないけどね」

 ネギには最初から わかり合うつもりなどなかった。それなのに今まで会話に付き合っていたのは、詠唱の時間を稼ぐためだ。

 実は、ネギは どこぞの魔砲少女のように分割思考(マルチ・タスク)を修得しており、会話や戦闘をしながら『無詠唱』ができるのだ。
 そうして言動の裏で準備された魔法は『遅延』でストックされ、戦闘中に何の前触れもなく幾つもの魔法を行使できるのである。
 つまり、今のネギは準備万端。直ぐに『解放』して『闇の魔法』で取り込むも善し、接近戦中に『解放』して奇襲するも善し、だ。

  ズドドォォォン!!

 しかし、会話中に準備をしていたのはネギだけではない。フェイト側も準備をしており、ネギが行動を起こす前に奇襲されたのである。
 その準備とは、那岐を利用して得た『造物主の掟』で復活していた他のアーウェルンクスシリーズが活動できるまでの時間を稼ぐこと。
 そして、その狙いは成功しており、先程ネギに奇襲を仕掛けたのは『クウァルトゥム(4番目)』で、攻撃は『紅蓮蜂』辺りだろう。

「何を悠長に話している、テルティウム」

 炎を両手に抱いたクウァルトゥム――「火のアーウェルンクス」が残忍な笑みを浮かべながら悠然と現れる。
 その後ろには、雷を纏った『クウィントゥム(5番目)』の「風のアーウェルンクス」が涼しげな表情で佇んでおり、
 その更に後ろには、水を背負った『セクストゥム(6番目)』の「水のアーウェルンクス」が無表情に控えていた。

 それらをフェイトは苛立たしげに見遣る。ネギとの戦闘を邪魔されたのが気に食わないのだろう。

 起動までの時間を稼いではいたが、それはあくまでも自分が敗れた際の保険のためだ。
 フェイトとしては自分でネギと戦うつもりでいたため、獲物を横取りされたも同然だ。
 当然、いい気分はしない。そのため、視線をアーウェルンクス達に向けてしまった。

「……確かに そうだね。悠長に話している場合じゃあないねぇ」

 それ故に、爆心地で悠然と佇むネギの姿を見逃してしまった。そう、追撃のチャンスを見逃してしまったのだ。
 既に準備を整えていたネギは、咄嗟に『奈落の業火』を取り込むことで炎耐性を上げて奇襲を防いでいたのである。
 それ故にネギは無傷だ。ストックが1つなくなったが、ストックなど幾らでも作れる。だから、特に問題はない。

「なっ!? バカな?! 直撃した筈だぞ!!」

 驚愕を露にするクウァルトゥムは言うまでもなく隙だらけだ。当然ながら、そんな隙を見逃すほどネギは甘くない。
 即座に『千の雷』を2つ取り込んで『雷天双壮』状態になったネギは『雷速瞬動』で急接近し、容赦のない攻撃を加える。
 その攻撃は『雷速瞬動』のスピードのまま突っ込んで蹴りを放つ と言う単純なものだが、その威力は絶大だった。

「あの程度の攻撃、直撃しても意味がないだけさ」

 無防備なところに強烈な蹴りをくらったクウァルトゥムは、ろくな姿勢制御もできずに気持ちがいいくらいに吹っ飛んだ。
 当然、ネギは それを追って容赦なく追撃を加える。その追撃で更にクウァルトゥムは吹き飛ぶが、ネギは更に追撃を加える。
 常時雷化によって為される雷速の連撃。その速度域を知覚できるのは同じような存在であるクウィントゥムくらいだろう。

 そして、そのクウィントゥムが二人の攻防(と言うか、ネギのワンサイドゲーム)に追いつく前に勝敗は決していた。

 起動後1分も経たないうちにクウァルトゥムは活動停止を余儀なくされ――塵となり、灰となって消え去った。
 完全に『闇の魔法』を制御できた訳ではないが、『闇の魔法』の侵食を恐れない今のネギの強さは底知らずだ。
 今のネギが恐れているのは たった一つ――那岐を失うことだけだ。それ以外のことは すべてどうでもいいのだ。

 そう、那岐さえ助けられるなら自分の命すらいらない程に、今のネギは那岐に傾倒しているのだった。

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 …………………………………………………………

「…………予想以上だよ、ネギ・スプリングフィールド」

 速度はあるが火力の少ないクウィントゥムは『燃える天空』の術式兵装(膂力特化型)で押し切り、
 バランス型とも言えるセクストゥムは『雷天双壮』の雷速と『断罪の剣』のコンボで圧倒した。
 クウァルトゥムを下したことで それぞれが警戒して連携してはいたが、今のネギの敵ではなかった。
 三体ともスペック的にはフェイトと同等の実力者達だったが、所詮はスペックだけの話でしかない。
 経験や意思の伴わない力は本来の力の半分程度にしかならない。ただ、それだけのことである。

「だけど、少しばかり遅かったね」

 残るは少し引いた場所で戦闘を観戦していたフェイトのみ。そう、これまでフェイトは戦闘に参加していなかったのだ。
 その意味するところは考えるまでもない。フェイトはネギとの戦闘を他のアーウェルンクスに任せ、儀式に専念していたのだ。
 ネギがそれに気付いた時には既に遅かった。フェイトは無情にも「もう、儀式は成功したよ」と言いた気に祭壇を示す。

「…………那岐、さん?」

 ネギが見たのは、祭壇の中で徐々に光の粒へと姿を変えていく那岐の姿。
 呆然とするネギの瞳には、那岐が変質した光の粒が飛散していく光景が映る。
 そう、他のアーウェルンクスと戦っているうちに儀式は成ってしまったのだ。

 それを認識した瞬間、ネギは力なく崩れ落ち、その意識を闇に閉ざした……



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Part.05:滅び行く世界


「…………はぁ」

 一面に広がるのは黒い空と黒い地面。チラチラと降っては溶けていく雪だけが白い世界。そこはネギの心象世界。
 ネギは そこで ぼんやりと空を見ていた。いや、眺めていた と言うべきだろう。その目は虚ろで生気を感じさせない。
 舞い落ちる雪を眺めているのか? それとも ただ視線を上に向けているだけなのか? その答えは考えるまでもない。

「……行かなくて、いいの?」

 そんなネギに話し掛ける存在がいた。その存在とは、赤茶色の髪を無造作に流した穏やかな青年――那岐だ。
 その声音は優しく、その問い掛けはネギを責める成分など一つも入っていない。ただ意思を確認したいだけの問いだ。
 だが、その表情は見えない。黒に彩られた――闇に染まった世界には、那岐を照らすだけの光量がないからだ。

 その世界を照らす光源は、淡く光る雪だけだった。しかも、それは直ぐに溶けて消える。那岐の輪郭しか照らせないのは自明だろう。

「行く……? 行くって何処へですか?」
「それも忘れてしまったのかい?」
「…………いえ、思い出しました」

 那岐の問い掛けに疑問符を浮かべていたネギだが、どうやら『何か』を思い出したようだ。

 だが、『何か』を思い出したところで、ネギの表情は虚ろなまま変わらなかった。
 むしろ、疑問符を浮かべていた時の方が表情に『人間らしさ』があったくらいだ。
 いや、正確には、『何か』を思い出したことで より虚ろになった、と言うべきだろう。

「だけど、もう いいんです。もう、何もかもが すべて どうでもいいんです」

 当然ながら、ネギの口から漏れ出でる言葉は虚ろ そのものだった。
 諦観と言う言葉すら生温い程にネギの言葉には力がなかった。
 がらんどう と言う言葉が相応しいくらいにネギは空虚だった。

「結局、ボクは守れませんでした。何を犠牲にしても守りたい と思っていたのに、守れなかったんです……」

 ネギは那岐を守るためだけに、侵食されながらも『闇の魔法』を行使し続けて来た。
 死のうが化け物になろうが、那岐さえ守れるならばネギは それでよかったのだ。
 それなのに、ネギは那岐を守れなかった。故に、ネギには もう何も残っていない。

「……そう。それならば、仕方がないね」

 そんなネギに対する那岐の言葉は、ただただ優しいものだった。
 那岐は力なく立ち竦むネギの背を包み込むように抱きしめる。
 それは まるで戦い疲れた英霊を看取る戦乙女のような抱擁だ。

 そこには一切の否定がない。絶対的な肯定しかなかった。

「ここで無理をしたところで、今の君ができることは生き残っている人達を助けることくらいだ。
 その身を闇に沈めてまで守りたかったものを守れなかったのなら、もう無理をする必要はないよ。
 それに、もしも ここで無理をしたら……良くて化け物になって、最悪の場合は死ぬことになる」

 那岐は「リスクに対してリターンが無さ過ぎるよね」と言葉を締め括る。

 相変わらず雪は降り続けている。いや、気のせいでなければ、降雪量が増えている気がする。
 気が付けば、ネギを包むように抱く那岐に雪が(溶けることなく)降り積もっていた。
 それ故に、かつては輪郭しか照らされていなかったが、今では その表情が垣間見えるようになった。

「…………でも、それでいいの?」

 那岐が浮かべていた表情は悲哀。言動こそ慈愛に満ちていたが、その表情は異なっていた。
 それはネギが苦しみ続けたことへの悲哀か? それとも、ネギが選んだ道に対する悲哀か?
 答えは誰にも わからない。ただ、言えることは、那岐はただ優しいだけではない と言うことだ。

 それ故に、那岐は言葉を続ける。

「確かに この世界――自分の世界に引き籠もって何もしないのは とても楽なことだよね。
 でも、ネギは本当に それでいいの? 本当に、ここで立ち止まっているだけでいいの?
 リスクを恐れるのは当然だと思う。でも、本当のリターンはリスクの先にあるんじゃない?」

 その言葉にネギは目を見開く。何かに気付いたような その表情は、今までで一番『人間』らしい。

「……そう、ですね。ボクは貴方からリスクを負う『わずかな勇気』を学びました。
 そして、ここでボクが立ち止まることなんか貴方が望む訳がないですよね?
 そう、貴方は いつも進むことを望んでいました。だから、ボクも進むべきですね……」

 言葉を紡ぎながら、那岐の抱擁から離れ、ネギは ゆっくりと歩き出す。

 最初は弱弱しかった足取りだが、だんだんと力強くなっていく。
 その後姿を見つめる那岐は、嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべる。
 惜しむらくは、那岐からはネギの表情が見えなかったことだろう。

 何故なら、ネギの瞳には狂気しか宿っていなかったのだから……

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

「……邪魔だよ」

 崩れ落ちたネギにトドメを刺そうとしていたフェイトだったが、目覚めたネギの腕の一振りだけで その活動を停止させられる。
 それは、『闇の魔法』に完全に侵食されて化け物に成り果てたことで得られた『圧倒的な魔力』によって強化されただけの一撃だった。
 障害(と言うには あまりにも手応えがなかったが)を取り除いたネギは『リライト』執行中の無防備な造物主に目標を切り替える。

 造物主は慌ててセクンドゥムやセブテンデキムなどの手駒を用意したが、今のネギには それらは障害にすらならなかった。

 擦れ違い様に二体を瞬殺して造物主に肉迫したネギは、接近中に詠唱して『遅延』して置いた『雷神槍 巨神ころし』を打撃と共に放つ。
 防御手段のない造物主は雷槍に貫かれながら吹き飛ぶ。ネギは そこに追撃として これまた『遅延』して置いた『千雷招来』を放つ。
 それは原作でデュナミスを戦闘不能にしたコンポ、『闇の魔法』に侵食されたことで黒い雷になった雷撃の奔流――『黒龍雷迎』だ。
 その結果、動きを見せなくなった造物主だが、念のために何度か(『巨神ころし』を投擲した後に『千雷招来』を放って)『黒龍雷迎』を行う。
 単なる暴走状態ではなく完全に侵食された状態だからこそ可能な、有り余る魔力に物を言わせた量と質を兼ねた熾烈な波状攻撃である。

「那岐さんの犠牲の上に成り立つ世界(幻想)などボクが壊してやる……」

 完全に反応を見せなくなってからも数分間 苛烈な攻撃を続けていたネギだが、やがて満足したのか、目標を造物主から【完全なる世界】にシフトさせる。
 ネギの言葉の通り、ネギは那岐を犠牲にして造られた【完全なる世界】を認めていない。そして、宣言通りにネギは【完全なる世界】を破壊し始める。
 当然、侵食によって魔力量は増えたが、それでも『世界』一つを破壊するには足りない。では、どうするか? 答えは単純だ。足りなければ奪えばいい。
 ネギは(『敵弾吸収』を応用して)『リライト』の術式を操作し、『リライト』で送られる筈の存在を魔力に還元することで莫大な魔力を入手したのだ。

「那岐さんに犠牲を強いた世界(現実)などボクは認めてやらない……」

 そして、【完全なる世界】は完全に破壊し尽くされ、完全に消滅した。それを確認したネギは、今度は魔法世界を標的にする。
 やはり、ネギの言葉の通り、ネギは【完全なる世界】を造らせる原因となった魔法世界そのものも許していなかった。
 宣言通り、ネギは魔法世界も破壊し始める。と言っても、術式を改変したままの状態で『リライト』の儀式を続行しただけだが。
 そう、本来なら触れたものを【完全なる世界】に送還する筈の『リライト』を「魔力に還元するだけの外道な魔法」にしたまま……

「もう、やめろぉおお!! お前がしていることは単なる破壊だ!!」

 儀式によって次々と魔法世界が魔力に還元されていく中、造物主から意識を奪った満身創痍のナギがネギを止める。
 まぁ、「止める」と言う表現を使ったが、実際には『千の雷』を撃ち込んで儀式を執り行うネギを阻害したのだが。
 しかし、そんな乱暴な方法でもネギが止まったことには変わりない。そう、魔法世界は完全に破壊されなかったのだ。

 邪魔されたことに苛立ちも隠しもしないネギはゴミを見るような目で父親を見遣って叫ぶ。

「うるさい!! 那岐さんに犠牲を強いた世界なんて存在していていい訳がないんだ!!」
「このバカヤロウ!! 『アイツ』が『そんなこと』を望んでいる訳ねぇだろうが!!」
「黙れ!! お前が那岐さんを語るな!! 那岐さんのことはボクが一番わかってるんだ!!」

 既に那岐はいないため、実際のところはわからない。だが、どう考えてもナギの方が正しいだろう。だが、今のネギには関係ない。

「那岐さんは穏やかな日々を望んでいた!! 他愛もないことで笑い合う、平凡だけど優しい日々を愛していた!!
 それなのに!! 『このままでは魔法世界が滅びる』なんて実にくだらない理由で那岐さんを犠牲にしたんだ!!
 滅びるなら勝手に滅びればいい!! それなのに、那岐さんを巻き込んだ!! なら、そんな世界、滅ぼしてやる!!」

 問題は既に「正しいか正しくないか」で判断されるレベルを超えている。正しかろうが正しくなかろうが、ネギは止まらないのだ。

「言っている意味がわかんねぇよ!! せめて そのまま滅びるに任せればいいだろうが!!」
「滅びを回避するために那岐さんを殺したんだから万死に値するに決まっているだろうが!!」
「(チッ!! オレの言葉なんか聞く耳もっちゃいねぇ)……言葉じゃ説得は無理なようだな」

 ネギの強固な態度にナギは言葉による説得をあきらめ、肉体言語による説得を決意するのだった。



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Part.06:終焉の幕開け


「グゥ……時間切れ、か」

 大規模破壊魔法の撃ち合いと言う激しい攻防が続いたが、やがて時間切れが――ナギが肉体を操れるタイムリミットが訪れる。
 ナギの意識は閉ざされ、肉体の主導権は造物主に変わる。見た目こそ変わらないが、その雰囲気は まったく別物に変化した。
 ネギとしてはナギだろうが造物主だろうが、己の邪魔をするなら大差ない。むしろ、張本人である造物主の方を排除したいくらいだ。

 造物主となった相手に狂気そのものの視線を向けるネギ。その胸中には狂気しか渦巻いていないのだろう。

「英雄の娘よ。貴様を過小評価していた。貴様は何よりも先に排除して置くべき存在だったようだな」
「それはこっちのセリフさ。こんなことになるなら、最初から魔法世界を滅ぼして置くべきだったよ」
「……やはり、人とは何処まで行っても どうしようもない生物だよ。何千年経っても何も変わらない」

 造物主は魔法世界を【完全なる世界】へ移行することをあきらめていない。

 魔法世界は大分 削られてしまったが、まだ滅んだ訳ではない。まだ魂は残っている。
 当初よりも救える魂は激減しているが、それでも ここで立ち止まる訳にはいかない。
 障害となるネギを排除すれば、まだ間に合う筈だ。造物主は前へ進むことをやめない。

 それを察したのか、ネギは「そんなことさせない」と言いた気に造物主の前に立ちはだかる。

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「――これで終わりだ」

 当然と言えば当然のことかも知れないが、勝負の趨勢はネギに傾いた。
 人格が入れ替わったところで、肉体のコンディションそのものは変わらない。
 いくら強かろうが、満身創痍の造物主が『今のネギ』に勝てる訳がなかった。
 ネギは全力の『千の雷』で崩れ落ちた造物主を灰になるまで焼き尽くした。

『……ああ。貴様の、な!!』

 しかし、アーウェルンクスを一蹴したネギを造物主が過小評価する訳がない。
 当然ながら、勝負の結果など造物主もわかっており、わかっていながら戦ったのだ。
 そう、勝敗が決してから――肉体を破壊されてからが造物主の狙いだったのである。
 精神体となった造物主はネギの肉体を乗っ取るべく、ネギに侵食し始めたのだった。

「いいや。お前の、だよ」

 しかし、侵食を受けるネギは慌てるでもなく『解放』の一言で遅延魔法を解放する。
 それは、メルディアナ時代に覚えた悪魔消滅用の呪文を応用した、霊魂消滅用の魔法。
 使用者が憑依された場合にしか使えない と言う欠点があったので態と憑依させたのだ。

「……ラカンさんから20年前の戦闘について聞いた時から予想していた。だから、準備をしていた。ただ、それだけのことさ」

 消えていく造物主が『な、何故だ!? 何故わかった?!』と うるさかったので種明かしをする。
 まぁ、種明かし と言うよりは、精神的なトドメを刺して黙らせた と言った方が正しいが。
 言わば「お前の狙い程度に気付いていないと思ったのか?」と揶揄しているようなものなのだ。

「亡霊は亡霊らしく、黙って滅びてろ……」

 その一言で消滅した造物主のことを意識から追い出したネギは儀式を再開するために祭壇へ向かう。
 しかし、祭壇に向かう途中でネギの身体から『ピキッ』と言う何かが罅割れる鈍い音が漏れ出した。
 そう、『闇の魔法』に侵食された末に化け物に成り果てたネギの活動限界が訪れてしまったのである。

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「どうやら、限界みたいだね……」

 原作の様に闇を飲み込んだのではなく、闇に飲み込まれたネギは化け物に成り果てた。
 古今東西、化け物の末路は大差ない。塵となり灰となって、散って行くだけだ。
 黒かった体表も今は白くなっており、ネギの身体はピキピキと音を立てて崩れていく。

 造物主に用いた霊魂消滅魔法が想定以上にネギにも損傷を与えたのが切欠だったのだろう。

 ところで、戦闘の余波と『リライト』で『墓守人の宮殿』は崩壊している。
 当然、そこにいた者達は(ネギパーティや混成艦隊も含めて)全滅している。
 遅ればせながら そのことに気付いたネギだが、特に何も感じていなかった。

「自分でケリを付けられないのは口惜しいけど……このまま滅びる訳にもいかない」

 ネギが感じていたのは、魔法世界を破壊し尽くせなかったことに対する悔しさのみ。
 闇に閉ざされた段階でネギには狂気しかなく、人間らしさなど残っていなかったのだ。
 そんなネギは気怠げに懐(に繋がっている倉庫)から瓶を取り出し、瓶を叩き割る。

「できるだけ使いたくなかった手だけど……背に腹は代えられない」

 割れた瓶から現れたのは、豆粒のような『何か』。身も蓋もなく明かすと、それは受精卵だった。
 修行のために『別荘』を利用しまくったせいで11歳相当に成長していたネギは初潮を迎えていた。
 そこで何を思ったのか、ネギは自身の胎内から卵子を摘出し、那岐の精子をティッシュから回収、
 それらを魔法的な方法で結合させ、自身と那岐の子供(まだ受精卵だが)を造っていたのである。

 今までは瓶の中で守られていたから問題なかったが、胎児にすらなっていない受精卵は非常に危うい。

 それなのに受精卵を瓶から出したのは……言うまでもない、瓶の中よりも良い環境を作るためだ。
 瓶の中は保存して置くのが目的だったため、受精卵は(安全だったが)成長することはなかった。
 ネギは残された魔力を すべて利用して魔法的な人工子宮を作り出し、その中に受精卵を安置した。
 もちろん、念入りに「ネギが望むような存在に育つようなプログラム(術式)」を施して、だ。

「名前は……『マギ』でいいかな? マギ、ボクの代わりに魔法世界人に絶望を味わわせるんだよ?」

 すべてを成し遂げた訳ではないが、ある程度やりたいことを成したネギは薄っすらと微笑みながら崩れていく。
 そんなネギは自身を迎えに来た那岐を幻視したが、那岐の表情は(闇の中の那岐よりも)悲哀に満ちていた。
 それを「ああ、那岐さん優しいから、ボクが傷付いたことが悲しいんだな」と解釈したネギは安らかに眠りに付く。

 そして、崩れ去った肉体は灰になり、風に乗って舞い散る。後に残されたのは、哀れな受精卵のみだった。



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Part.07:終わりと始まり



 ネギパーティと混成艦隊の『尊い犠牲』と引き換えに造物主ごと『完全なる世界』が倒れたことで、魔法世界は一時の平穏を手にする。

 儀式によって多くの人々が消滅させられた(ことになっている)が、生き残った人々は一時の平穏を享受していた。
 だが、(首脳陣しか知らないことだが)魔法世界の崩壊そのものは回避されていないため問題は何も解決していない。
 いや、むしろ、崩壊から免れる方法だった『リライト』が もう使えなくなったため、残された手段は皆無に等しかった。

 そして、約10年後……魔法世界は崩壊し、原型である火星に――不毛な世界に その姿を変えた。

 そこに残されたのは、メガロメセンブリア人を中心とした僅かな人間のみだった。
 すべての亜人は魔法世界と共に消滅し、多くの人間も崩壊の余波に飲み込まれた。
 残された人々が取れる手段は、地球への移住(と言う名の侵略)しかなかった。

 人々は死に物狂いで地球に向かう――が、そうは問屋が卸さなかった。そう、機を窺っていたマギが遂に牙を剥いたのだ。

 ネギの施した術式によって育てられたマギは、10年と言う歳月で哀れな『殺戮人形』に成り果てていた。
 人工子宮の中で生まれ育ったマギは外界のことを何も知らず、魔法世界人に絶望を味わわせることしか知らない。
 もちろん、そのための手段として戦闘技術や魔法は修得している。だが、それ以外のことを知らないのだ。

 本来なら一思いに全滅させられる力を持ちながらも、マギは「魔法世界人を苦しめる」ために生き地獄を与え続けたのだった。

 移住(と言う侵略)を妨害された人間達は、劣悪な環境で生きる選択肢しか残っていなかった。
 戦力を整えようにも、即座に察知したマギに全滅させられてしまい、後に残るのは絶望だけだ。
 また、戦力を用意せずに慎ましく生きようにも、マギは戯れるかのように人々を襲撃していった。

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 そんな生き地獄が30年程 続いた頃、外法によって生まれたマギに活動限界が訪れた。

 そこでマギは優秀な魔法使いの遺伝子と自分の遺伝子を人工配合して子供を造った。
 マギは保険のために子供を2回 造り、それぞれ『マギア』と『エレベア』と名付けた。
 二人は人工子宮で育てられたため当然の帰結としてマギと似たような存在に育った。

 そのため、そのまま火星では生き地獄が続くのか と思われたが……マギアとエレベアの子供達の代で大きな変化があった。

 保険のために複数を造るようにしたのはいいが、効率を求めるあまり人工子宮で育てられない子供ができてしまったのである。
 二人は その問題を解決するために人工子宮の複製を試みるが、戦闘に特化した二人では人工子宮の複製は不可能だった。
 出来上がった人工子宮の複製品は、劣化品と呼ぶべき程に粗悪な代物で、戦闘力の低い存在しか育てられなかったのである。

 ……その様な経緯で生まれた『出来損ない』の中の一人に『錫(スズ)』と言う存在があった。

 第3世代と呼ぶべきマギアとエレベアの子供達には、それぞれ金属の名前が与えられていた。
 深い意味は無く、子供達は鉄、鋼、銅、銀、金、鉛などと名付けられ、錫は その中の一人だった。
 錫は『出来損ない』の中でも比較的マシに育ったため、廃棄されずに名付けられたのである。

 しかし、人工子宮で育っていないために錫は生き地獄を齎す自身の存在意義に疑問を覚えるようになった。

 そこから錫は行動を開始した。感じた疑問を解消するために「不要とされた分野」の知識を吸収し出したのである。
 その過程で「ネギから植え付けられた情報」と「外界での情報」の齟齬に気付き、錫はますます自身に疑問を覚える。
 いや、正確には始祖とも言えるネギに疑問を抱くようになったのだ。ネギ・スプリングフィールドは間違っている、と……

 そして、錫は遂に時間跳躍の方法を見付け、その『間違い』を正すために過去へ飛んだ。

 過去へ飛んだ錫は自身の名を変えた。錫から『鈴』に字を変え、読みすらも変えた。
 また、姓には「悲劇を『超』えてやる」と言う意味から『超』と言う字を用いた。
 後は語感を整えるために、鈴の後に『音』を足せば『超 鈴音』の出来上がりである。

 まぁ、「音」の読みを「シェン」と読んでしまう と言うミスはあったが、こうして超は現代に紛れ込んだのだった。


 


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オマケ:超 鈴音の存在理由


「……以上が、私の知っている大まかな『歴史』ダヨ。実に救いようがナイと思わないカ?」

 長い昔話を終えた超が「笑えないケド笑うしかないヨネェ」と苦笑しながら訊ねる。
 訊ねられたアセナは「確かに笑えないけど笑うしかないなぁ」と思いつつ返事をする。

「まぁ、そうだね。何かオレのせいのような気がして来るから余計に気分悪いね」
「って言うか、どう考えてもキミが死んだことでネギ嬢は暴走したんダガ?」
「でも、それってオレのせいなの? 被害者より加害者の方が悪いんじゃない?」
「それは一理ある意見ダガ……キミが間抜けにも捕まったのが問題ではないカ?」

 那岐はアセナではない。だが、ある意味ではアセナでもある。つまり、他人事ではないのだ。

「正直に言うとネ……キミが『完全なる世界』と『話』をしに行タ時、
 失敗したら『ああなる』と思てイタのデ、実は気が気じゃなかタんダヨ?
 でも、通らねばならナイ道だと思タからこそ、黙って送り出シタのサ」

 言うまでもないだろうが、『ここ』でもアセナが生贄にされていたら(歴史と大差なく)ネギは暴走していただろう。

 そのため、超の心配は過剰ではない。杞憂に終わった今だからこそ、心配し過ぎているように感じるだけだ。
 では、そんな状況にもかかわらず何故 超はアセナを送り出したのか? ……それは、アセナに賭けたからだ。
 アセナなら『完全なる世界』から無事に帰還してくれる、そんな風にアセナを信じたからこそ送り出したのだ。

「まぁ、その点には感謝してるよ。早めに決着を付けて置かないと、動くに動けなかったからねぇ」

 動くに動けないのは、『完全なる世界』と決着を付けないことには いつ襲われるかわからなかったからだ。
 ただでさえ政治的な活動には神経を使うので、『完全なる世界』の襲撃も警戒するのは御免蒙りたい。
 だからこそ、アセナは元老院と話し合いをするよりも早く『完全なる世界』と決着を付けたのである。

 アセナが勝ち取った結果であるが、その裏には最悪の未来を知りながらもアセナを信じた超の貢献があったのも事実だ。

「とりあえず、元老院の『説得』も終わったし……後は地球側を丸め込んで、研究の環境を整えるだけだね。
 いや、実際には研究をしたり、その研究結果を元にテラフォーミングする大仕事が残っているんだけどね?
 オレには研究なんてできないから、研究者が研究しやすい環境を作るまで がオレの仕事になるだろうねぇ」

 アセナの言葉に「まぁ、そうだネ。餅は餅屋だヨ」と同意を示した超は、改めて自身の本願が成就しつつあることを実感する。

 最も危険度の高い『完全なる世界』も、次に危険度の高い元老院も、アセナは味方に付けた。
 その遣り方は多少 無理があったが、それでも多くの人間が納得する妥協点で話をまとめ上げた。
 残る問題は地球側での調整だけだ。それさえ終われば、アセナの危険性は皆無に等しくなる。

 間違いなく、アセナの身に何も起きなければ『歴史』のようにネギが暴走することはないだろう。

 つまり、魔法世界人を苦しめるだけに生まれた『殺戮人形』も生まれない と言うことであり、
 それは、失敗作とは言え『殺戮人形』の一員である超も生まれなくなる と言うことでもある。
 だが、超は それでも構わない。本願が成就されるのならば自分の存在が消えても構わないのだ。

 そう、錫――いや、超 鈴音は『あんな未来』にしないためだけに時間を遡って来たのだから……


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 当初は軽く修正するつもりだったのですが、修正点が多かったので改訂と表記しました。


 今回は「誰も干渉しなかった場合の話を想像してみた」の巻でした。

 自分で書いて置いてアレですが、タイトルの割には欝展開ですよねぇ。
 もう「ヤンデレ魔女っ娘ネギま!」でいいんじゃないか と思いました。

 ところで、ヘルマンの変態紳士ップリは本編で描けなかったリベンジです。

 実は、最初はバトルマニアにするよりも変態紳士としてハッチャケさせたかったんですが、
 それだとタカミチだけがシリアスでタカミチの一人相撲っぽくなっちゃうなぁって思ったんで、
 バトルマニア方面に進ませました。ある意味では、物語で役得を得た珍しいパターンです。

 あ、記憶や脳の電気信号については かなり適当です。厳密には違う気がしますが、魔法の御都合主義でどうにかなったことにしてください。


 では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2012/01/13(以後 修正・改訂)


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