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No.10422の一覧
[0] 【完結】せせなぎっ!! (ネギま・憑依・性別反転)【エピローグ追加】[カゲロウ](2013/04/30 20:59)
[1] 第01話:神蔵堂ナギの日常【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:53)
[2] 第02話:なさけないオレと嘆きの出逢い【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[3] 第03話:ある意味では血のバレンタイン【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[4] 第04話:図書館島潜課(としょかんじませんか)?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:54)
[5] 第05話:バカレンジャーと秘密の合宿【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[6] 第06話:アルジャーノンで花束を【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[7] 第07話:スウィートなホワイトデー【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:55)
[8] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[9] 第09話:麻帆良学園を回ってみた【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[10] 第10話:木乃香のお見合い と あやかの思い出【改訂版】[カゲロウ](2013/04/30 20:56)
[11] 第11話:月下の狂宴(カルネヴァーレ)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[12] 第12話:オレの記憶を消さないで【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:50)
[13] 第13話:予想外の仮契約(パクティオー)【改訂版】[カゲロウ](2012/06/10 20:51)
[14] 第14話:ちょっと本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:49)
[15] 第15話:ロリコンとバンパイア【改訂版】[カゲロウ](2012/08/26 21:50)
[16] 第16話:人の夢とは儚いものだと思う【改訂版】[カゲロウ](2012/09/17 22:51)
[17] 第17話:かなり本気になってみた【改訂版】[カゲロウ](2012/10/28 20:05)
[18] 第18話:オレ達の行方、ナミダの青空【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:10)
[19] 第19話:備えあれば憂い無し【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[20] 第20話:神蔵堂ナギの誕生日【改訂版】[カゲロウ](2012/09/30 20:11)
[21] 第21話:修学旅行、始めました【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[22] 第22話:修学旅行を楽しんでみた【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:08)
[23] 第23話:お約束の展開【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[24] 第24話:束の間の戯れ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:09)
[25] 第25話:予定調和と想定外の出来事【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:57)
[26] 第26話:クロス・ファイト【改訂版】[カゲロウ](2013/03/16 22:10)
[27] 第27話:関西呪術協会へようこそ【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:58)
[28] 外伝その1:ダミーの逆襲【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[29] 第28話:逃れられぬ運命【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 20:59)
[30] 第29話:決着の果て【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:00)
[31] 第30話:家に帰るまでが修学旅行【改訂版】[カゲロウ](2013/03/25 21:01)
[32] 第31話:なけないキミと誰がための決意【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[33] 第32話:それぞれの進むべき道【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:10)
[34] 第33話:変わり行く日常【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:11)
[35] 第34話:招かざる客人の持て成し方【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[36] 第35話:目指すべき道は【改訂版】[カゲロウ](2013/03/30 22:12)
[37] 第36話:失われた時を求めて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:54)
[38] 外伝その2:ハヤテのために!!【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:55)
[39] 第37話:恐らくはこれを日常と呼ぶのだろう【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 22:02)
[40] 第38話:ドキドキ☆デート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:58)
[41] 第39話:麻帆良祭を回ってみた(前編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[42] 第40話:麻帆良祭を回ってみた(後編)【改訂版】[カゲロウ](2013/04/06 21:57)
[43] 第41話:夏休み、始まってます【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:04)
[44] 第42話:ウェールズにて【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[45] 第43話:始まりの地、オスティア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:05)
[46] 第44話:本番前の下準備は大切だと思う【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[47] 第45話:ラスト・リゾート【改訂版】[カゲロウ](2013/04/12 20:06)
[48] 第46話:アセナ・ウェスペル・テオタナトス・エンテオフュシア【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:20)
[49] 第47話:一時の休息【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[50] 第48話:メガロメセンブリアは燃えているか?【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:21)
[51] 外伝その3:魔法少女ネギま!? 【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[52] 第49話:研究学園都市 麻帆良【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:22)
[53] 第50話:風は未来に吹く【改訂版】[カゲロウ](2013/04/21 19:23)
[54] エピローグ:終わりよければ すべてよし[カゲロウ](2013/05/05 23:22)
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[10422] 第08話:ある晴れた日の出来事【改訂版】
Name: カゲロウ◆73a2db64 ID:552b4601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/30 20:56
第08話:ある晴れた日の出来事



Part.00:イントロダクション


 今日は3月31日(月)。既に春休みが始まっていた。

 だいたいの学生にとって、春休みとは「3月と4月を繋ぐ長期休暇の一つ」程度の認識だろう。
 しかし、ナギにとっては「前借の代償としてアルジャーノンで労働に従事する期間」でしかなく、
 春休みになってからのナギは、朝から晩までアルジャーノンに拘束される毎日を過ごしていた。

 しかも、ナギの軽食目当てに常連客がいつもより多く来店するためナギは朝から晩までフル稼働だったので、
 アルジャーノンの定休日である月曜日(今日)は、ナギにとっては「至福の休日」とも言えるのである。

 ……だが、この世界はナギに安息の日が訪れないようにできているのかも知れない。



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Part.01:思えばいろいろなことがあった


 さて、本題に入る前に終業式のことを話して置こうと思う。

 終業式は3月25日(火)にあり、式自体は滞りなく終わった。そう、大変だったのは、式の後の「2-Aの打ち上げパーティ」に参加させられたことである。
 ここで、美少女に囲まれて羨ましい と思われるかも知れないが、原作キャラ云々を抜きにしても31人の女子に囲まれた男一人は非常に遣る瀬ないのだ。
 集団になった女子が魔物と化すことは説明するまでもないだろう。しかも、相手が2-Aの女子なのだから、ナギが玩具にされたことは推して知るべし だ。

(って言うか、いくら特別進入許可を持っているからって、普通は女の集団に男が入るなんて拒否られる筈なのになぁ……)

 だが、何故か2-Aのコ達は普通にナギを受け入れた。いや、何人かは難色を示していたのだが、全体的な意見では受け入れられたのだ。
 恐らく、ナギがクラスの半数近くと顔見知りであり、顔見知り以外のほどんとは「細かいことを気にしない お祭り好き」だったからだろう。
 ちなみに、難色を示していた者達も「みんなが いいのなら、別に いいか」程度だったので、別に少数派の意見が潰された訳ではない。

(『じゃあ、参加しなきゃよかったじゃん』って話なんだけどね? でも、仕方がなかったんだ……)

 別に、今回はタカミチや近右衛門が出張った訳ではない。訳ではないのだが、ネギ & 木乃香に頼まれたら嫌とは言えなかったのである。
 二人が共謀して「涙を目に溜めた状態で上目遣いをして お願い」して来たため、ナギの牙城など一瞬でボロクズのように崩れ去った らしい。
 ネギだけなら「子供が そんなことしちゃいけません」とか強がって己を保てただろうが、木乃香も加わったので成す術がなかったようだ。

 まぁ、そんなこんながあってナギは「2-Aの打ち上げパーティ」に参加せざるを得なかったのだった。

 そこでナギの身に何が起きたのか? ……それについてはイチイチ語らない。と言うか、語るまでもないだろう。
 敢えて語るとしたら、いいんちょのネギへの愛は変わらない と言う(ナギ的には)非常に嫌な事実ぐらいである。
 確かに、よくよく思い返してみれば、ネギが「イインチョさんが妙に優しくて困る」とか話していたことはあった。
 だが、ナギは「きっと面倒見がいいからネギに構っているんだろうなぁ」くらいにしか解釈していなかったのだ。

(いや、まぁ、別に いいんちょが百合の人でもオレには関係ない筈なんだけどさ……でも、何故か妙にモヤっとするんだよなぁ)

 ショタコンだと思っていた他人がロリコンだった と言うだけなので、ナギには直接的には何も関係はない。
 だが、そう頭ではわかっていても、心のどこかで「何故か重要なことのような気がしている」らしい。
 そんな「奇妙としか言えない感情」が一体 何を意味しているのか? 残念ながら、ナギには それがわからない。

(……ああ、そうか。きっと、いいんちょの目が殺気に溢れていたからだろうなぁ)

 せいぜいが こんな解釈であり、心の中のモヤモヤを「危険を感じ取ったことに対するもの」と位置付けてしまう。
 ナギの中では、いいんちょは「私のネギたんに近寄らないでくださいますか?」と睨んでいたことになっているし、
 挙句の果てには「むしろ、死んでくださいませんか?」とか言われているも同然だった、とすら感じている始末だ。

(おかしいなぁ。オレ、何一つ悪くない筈なのに……何で また一つ死亡フラグが立ってるんだろう?)

 ナギは気付かない。無自覚にどれだけの人間を傷付けているのか、そして傷つけられているのか、気付かない。
 ナギは気付けない。無自覚に相手の傷を癒してしまうため、そして無意識に己の傷を塞いでしまうため、気付けない。

 ナギが それらに気付く時、物語は大きく動き出すことになるのだろう。



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Part.02:アルジャーノンでの出逢い


 では、そろそろ本題に入ろう。

 ナギは今 何故か麻帆良学園内の掃除に勤しんでいた。理由はナギにもわからない。気付いたら、掃除させられていたのだ。
 経緯を追って話すと、早朝にナギの部屋を訪れた高音と愛衣が「掃除ボランティアをしましょう」と強制連行した結果だ。
 まぁ、一応は任意同行だったようだが、とても断れるような雰囲気ではなかったので強制連行と言っても差支えがないらしい。

 当然ながら、ナギにはヤル気などない。元々ナギには奉仕の精神などないし、今日(久々の安息日)は惰眠を貪る気でいたからだ。

「……ナギさん? もう少しマジメにやってくださいませんか?」
「高音さん。人には向き不向きと言うものがある と思いませんか?」
「確かに、ナギさんには掃除などの繊細な作業は向かなそうですわね」
「ええ。掃除は高音さんのように清廉潔白な人に相応しい作業ですよ」

 あきらかにヤル気のないナギを見兼ねたのか、高音が注意してくる。

 ここで反論しても口論になるだけなので、ナギはわかったようなわからないようなことを言って煙に巻くことにする。
 高音は割と頭が良いのだが、妙に真面目なので結構チョロいのである(某チョロリアさんを彷彿とさせるくらいに)。
 そのため、見え透いた言葉でも高音は乗ってくれるだろう。そして、有耶無耶のうちに掃除を回避できるかも知れない。

「そ、そうでしょうか?」

 ナギは表面上「ええ、そうですよ」とか同意しているが、その内心で「フィーーーッシュ!!」とガッツポーズをする程 喜んでいる。
 高音が少しチョロ過ぎる気がするが、素直なことは悪いことではない。素直な人間を騙す人間が悪いだけで、素直は罪ではないのだ。
 つまり、ナギが悪いだけなのだが……本人に自覚はない。むしろ「こう言う素直なとこは普通に可愛いんだけどなぁ」とか思っちゃう始末だ。

「で、では、ナギさんも清く正しい心を持てるように指導して差し上げますわ!!」

 だがしかし、高音はチョロいだけではなかった。下手に導火線に火を点けると、指導モードが始動してしまうタイプでもあるのだ。
 ここでナギは助けを求めて愛衣に視線を送ってみるが……愛衣は楽しそうに掃除をしていてナギ達の遣り取りなど眼中になかった。
 愛衣は『お掃除 大好き』なので掃除に没頭しているのは当然の帰結だろう。と言うか、ナギの自業自得なので助けてくれる訳がない。

(……しかし、箒姿が妙に似合う女子中学生って ある意味でレアだよねぇ)

 高音の指導から意識を逸らすために(つまり、説教を聞き流すために)、ナギは愛衣との出会いに思いを馳せた。
 ちなみに、普通なら聞いていないのがバレるが、ヒートアップした高音は割りと猪突猛進なので意外と気付かれないらしい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それは、夏休みの終盤、ナギが亜子と出会う少し前のことだった。

 ナギがいつも通りチーフとして厨房に引き篭もって軽食の調理に勤しんでいると、
 ガッシャーーン!! と言う破滅的な音と「し、失礼しました!!」と言う声がホールに響いた。
 まぁ、考えるまでもなく、新人のウェイトレスが皿を割る等の失敗をやらかしたのだろう。

(とりあえず、悲鳴の類が聞こえなかったから客に被害は及んでいないってことだろうね)

 つまり、そこまで緊急性はない と言うことなのだが……それでも、それなりに気になるので、ナギはチラッとホールを窺う。
 ナギの目に入って来た光景は、新人のコが涙目になりながらも一生懸命に割れた皿(多分)の片付けをしている姿だった。
 その手際はよく、粉々になった陶器を箒とチリトリで掻き集め、残った細かい破片はガムテープでキッチリと回収していた。

 ……周りの男性客もそうだが、ナギも その姿に胸が打たれた。思わず胸がキュンキュンしてしまうくらいに。

 と言うか、アルジャーノンのウェイトレスの制服はスカート丈が短いため かなりチラチラで、かなりドキドキしたらしい。
 むしろ、マスターなんか「ナイス チラリズム!! 時給アップだ!!」とか口走ってしまってマダムに折檻を受けていたくらいだ。
 もちろん周りの男性客のテンションも鰻上りで、新人のコが失敗した件は「むしろ正しい」と歓迎されたとかされなかったとか。

 まぁ、そんなこんなで特に問題はないと判断したナギは厨房に戻ろうとした……のだが、ちょうど顔を上げた新人のコと目が合ってしまった。

 目が合ったのに無反応と言うのもどうだろう と思ったが、バックオーダー(処理が終わっていない注文)を抱えているので時間が無い。
 そのため、ナギは「まぁ、初めはそんなもんだから、あんまり気にしないで」と口パクで伝えるだけにとどめ、サッサと厨房に戻った。
 そして、その後は鬼のように押し寄せるオーダーに追われているうちに そんなことがあったことをナギは綺麗に忘れて仕事に忙殺された、
 それ故に、いつも通りに閉店後の諸々の作業をして「さぁ、戸締りして帰ろう」と厨房から出ようとして、フロアに新人のコがいて驚いた。

(――ッ!! え?! し、新人のコ!? な、何でいるんだ?!)

 そう思って注意深く新人のコの様子を窺ってみると、何やら呟きながら意味不明なパントマイムをやっていることがわかった。
 思わず「……よし、オレは何も見なかった」と結論付けたナギは悪くないだろう。誰でも見なかったことにするに違いない。
 そんな訳でナギがコッソリと店を後にしようとした時、偶然 新人のコが「お待たせいたしました」とか呟いているのが聞こえた。

(ああ、なるほど。『そう言う』ことか……)

 ナギは妙な勘違いをした己を恥じた。新人のコは、サーブ(配膳)の練習をしていたのだ。
 変な電波を受信していた訳でも、大宇宙の意思を遂行しようと儀式に興じていた訳でもないのだ。
 それに気付いた瞬間、ナギは何の打算もなく「このコを応援してあげよう」と思ったそうだ。

 それ故に、ナギは特に何も考えずに新人のコに話し掛けてしまった。

「――練習するなら本物の食器を使った方がいいよ」
「ひゃあ?! チ、チーフ!! 見ていらしたんですか!?」
「あ~~、ごめん。驚かせちゃったみたいだね」

 まぁ、いきなり声を掛けたナギが悪いのだが……少し驚き過ぎではないだろうか?

 ナギは軽いショックを受けたが、相手を落ち着かせる意味も含めて内心を隠して謝っておく。
 それに、先程の驚き方が可愛いかったので、驚かれたショックは相殺されたも同然だ。
 リスとかの小動物を幻視させられる程に全身をビクッと震えさせていたのは実に可愛かった。

「い、いえ。チーフが残っていらしたのは知ってましたから」

 確かに、言われてみれば その通りだ。いくら杜撰なアルジャーノンでも新人のコに鍵を預ける訳がないだろう。
 ナギが仕込のために残ることがわかっていたからこそ、マスター達は このコの居残り特訓を許可したに違いない。
 と言うか、そうでもないのに新人のコを最後まで残したのなら、さすがにマスター達に説教せねばならないだろう。

 ……ところで、ここまでの話で疑問に思うかも知れないが、実はマスターもマダムもナギより早く帰宅することがあるのだ。

 翌日の仕込が長引くこともあるため、ナギが店の戸締りをすることがあるのは……まぁ、仕方がない。
 だが、最近では発注などの業務も任されているので、少しバイトの範疇を超えている気がしないでもない。
 夏休み以降のバイトは まだ決め兼ねていたので、あまり頼りにされても困ると言えば困るのが実情だ。

 閑話休題。本題である新人のコへの対応に戻ろう。

 恐らく、新人のコは昼間の失敗を悔やんでおり、もう失敗しないようにするために練習をしているのだろう。
 ならば(先程も言った様に)パントマイムより実物を持ってやった方が練習になるので、実物を貸すべき。
 確か、縁などが欠けてしまい客には出せないが練習には使える程度のものが幾つかあったので、それがいいろう。

 そんな訳で、ナギは先程の言葉の通り、食器一式を用意してあげることにした。

「あ~~、ちょっと待ってて。今 用意するから」
「え? 用意って…… 一体、何のですか?」
「さっき言ったでしょ? 練習用の本物の食器だよ」
「えぇ?! そんなもの、あったんですか?」
「まぁ、正確には、捨てられなかった廃棄品だけどね」
「? 捨てられなかった廃棄品、ですか?」

 疑問符を浮かべる新人のコに説明するのが面倒に感じたナギは「まぁ、待ってて」と目だけで伝えて厨房に戻る。

 戸棚の奥の方に仕舞われていていた(と言うか、とりあえず置かれていたのが奥に追いやられただけ)食器類を引っ張り出す。
 ティーカップは縁が欠けており、ティーポットは取っ手が掛けている。また、コーヒーカップに至っては皹が入っている。
 それらに紅茶・コーヒー代わりの お湯を注ぎ、色が剥げたソーサーを用意すれば、トレイは割れることがないので準備OKだ。

 準備を終えたナギは、練習セット一式を持ってホールに戻る。

「ほら。これを使って実際の感覚を掴んだ方がいいよ」
「な、何から何まで、ありがとうございます……」
「まぁ、気にしないで。困った時は お互い様でしょ?」
「ですが、私がもっとうまくやれていれば――」
「――だから、気にしないでって。誰も最初は下手なんだから」

 まだ気に病んでいそうな新人のコの気分を切り替えさせるためにも、ナギは「コツを教えてあげる」と やや強引に話を切り上げ、練習に付き合う。

 もちろん、よく言われるような「手取り足取り」と言ったセクハラ的なことは一切せずに、ナギは殊更 真剣に教えた。
 まぁ、教える際に手こそ触ったが、あくまでもサーブの仕方を教えるためだ。いやらしい気持ちは一切なかった。
 夕映のセクハラ(4話とか6話とか)を考えると怪しいが、亜子の治療(7話参照)を考えると控える時は控えるようだ。

 そんなこんなで、新人のコ(愛衣だと自己紹介されていたが、例の如く原作キャラだと気付かなかった)とナギは仲良くなっていったのだった。



************************************************************



Part.03:佐倉 愛衣の独白


 私は旧世界の出身ですが、家庭の事情で新世界に住んでおり、昨年から修行の一環で旧世界に戻って来ました。

 最初はアメリカにあるジョンソン魔法学校に留学していたのですが、
 そこでの生活はどうにも肌に合わず、私は魔法ばかり学んでいました。
 ですので、別の地では日常生活を楽しみたい と密かに思っていました。

 そんな折、9月から日本の麻帆良学園に通うことになり、私は期待に胸が膨らみました。

 聖地でもある麻帆良は、旧世界でも主要な土地の一つであること(つまり、魔法使いとしてのブランドです)もありましたが、
 私の両親は元々 日本の出身だったので「アメリカよりも日本の方が肌に合うのではないか」と日本での生活に期待したのです。
 そのため、私は少しでも早く日本に住みたい と思い、少し無理を言って転校する1月ほど前に日本にやって来ました。

 ……生活を始めた当初は、新世界ともアメリカとも違う生活様式のため少々戸惑いました。

 ですが、私に流れる血の御蔭か、2週間もすれば「ここが私の故郷である」とすら思えました。
 今となっては「新世界」と「旧世界」と言う呼び名に嫌悪感を覚える程こちらに愛着があります。
 と言うか、非魔法使い達を下に見る魔法使い達の傲慢さが感じられて気分が良くないですね。

 ――さて、ここから話は少し変わります。

 日本に来て2週間が経った頃、私は予てからの「アルバイトをしてみたい」と言う望みを叶える機会に巡り合いました。
 たいていのアルバイトは「バイト募集」とあっても「ただし、中学生は不可」だったので、半ば あきらめていたのですが、
 偶々入った喫茶店(アルジャーノンと言う名前です)で「ウェイトレス急募(中学生可)」と言うポスターが貼られていたので、
 私は このチャンスを逃すまい と勢い余って、会計の時に「私をウェイトレスにしてください!!」と頼んでしまいました。
 それで、店員さん(後から知ったのですが、実はマスターさんでした)は、イキナリのことに驚いたそうですが、
 私の思い切りの良さを気に入ってくれたそうで その場で採用となり、私は晴れてアルバイトができることとなったのです。

 何事も案ずるよりも生むが易し ですね。可能性が低くても、やらないよりはやった方がいいみたいです。

 ……………………………………
 ………………………………………………
 …………………………………………………………

 そして、待ちに待ったアルバイト初日のことです。当然ながら、私は見事に失敗してしまいました。

 ある程度の新人教育は受けていましたし、よく見る職種なのでウェイトレスの仕事は わかっているつもりでした。
 しかし、見るのと やるのとでは大違いで、紅茶やケーキの乗ったトレイは予想以上に重く、私はバランスを崩してしまいました。

  ガッシャーン!!

 陶器の割れる音がホール中に響きました。もちろん、紅茶もケーキも台無しになってしまいました。
 その惨状を認識した時、私の中で「せっかく雇ってもらえたのにクビかな」と言う不安が渦巻きました。
 初日から うまくできる訳はありませんけど、それでも こんな大きなミスをしてしまうなんて……

「ッ!! し、失礼しました!!」

 一瞬、思考に捕らわれそうになりましたが、直ぐに我に帰った私は周囲のお客様に謝罪をして片付けを始めました。
 いつまでもボ~ッとしている訳にはいきません。直ぐに片付けをしないと、更に御迷惑を掛けてしまいます。
 だから、泣いている暇などないんです。不安は消えていませんけど、気持ちを切り替えなくてはなりません。
 勝手に涙が溢れようとしていますが、今は泣いている場合じゃないんです。泣いているだけでは、何も変わりませんから。

 だから、私は涙に気を取られないように、片付けに没頭することにしました。

 グチャグチャの料理を片付け、粉々になったティーカップや お皿を箒とチリトリで掻き集め、
 そして、残ってしまった細かい破片などをガムテープで取り除き、最後に雑巾で床を拭きました。
 しかし、片付けが終わっても私は気分を切り替えることができず、不安を引き摺ったままでした。
 このままでは、泣いてしまいそうです。泣くまい泣くまい と思っていても泣いてしまいそうです。

 だから、この時に不意に目が合った、厨房から心配そうに見ていたチーフの笑顔が忘れられません。

 チーフは「気にしなくていいよ」と言った感じで口を動かした後、ニコッと優しく微笑んでくれたんです。
 今朝の挨拶の時に感じたイメージが「恐そう」だっただけに、その笑顔は とても鮮烈でした。
 きっと、ニコポと言うよりも『吊橋効果』に近い現象だと思います(もしくは、『ギャップ萌え』ですね)。

 まぁ、そんなこんながありましたが、その後のお仕事は細心の注意を払った御蔭か どうにか無事に終えられました。

 それで、もう失敗しないようにするために「バイト後に特訓をさせてください」マスターとマダムに お願いしたんです。
 そうしたら「きっとナギ君が仕込で最後まで残るだろうから、ナギ君が帰るまでならいいわよ」と許可していただけたんです。
 ここで、何でチーフが最後まで残ってマスター達は先に帰るのか、少し疑問に思わなかったと言えば嘘になります。
 ですが、その時の私にとって大事だったのは「特訓の許可をいただけた」と言うことでしたので、気にしないことにしました。

 そんな訳で、私は失敗したサーブの練習をすることにしました。

 テーブルにお客様がいらっしゃると仮定し、更に注文の品を持っていると仮定して、
 厨房の方からテーブルの隙間を縫ってホールを移動して目的のテーブルに辿り着けるように。
 実際にテーブルに注文の品を置く振りをしながら、何度も何度も繰り返し続けました。
 最初の頃はチーフに聞かれたら恥ずかしいって思っていたので無言でやっていたのですが、
 段々気分が乗ってきたので いつしか「お待たせしました」とかセリフも付けていました。

 ですから、チーフに「練習するなら本物の食器を使った方がいいよ」と声を掛けられた時はビックリしました。

 チーフが残っていたのは知っていましたけど、まだ厨房にいらっしゃるものだと思っていたのでビックリです。
 ですが、ホールに出て来ない訳ではありませんから、私の注意力が散漫だっただけですけど(ええ、私のミスです)。
 ですから、チーフは何も悪くありません……が、私が そう口を開く前にチーフは謝ってくれちゃいました。

 だから――出鼻をくじかれた形になってしまったからでしょうか? 私は言いたいことが うまく言えませんでした。

 本当は「いえ、チーフが残っていたのは知っていましたから、チーフは悪くないです」と言いたかったんですけどね……
 あ、いえ、別にチーフが恐い訳ではありませんよ? チーフが優しいことに気付けたので、恐い訳がありません。
 むしろ、違う感情から緊張してしまって うまく話せないんです。と言うか、チーフのタイミングが悪いんですよ。

「あ~~、ちょっと待ってて。今 用意するから」

 チーフは私の返答を大して気にしていないようで、廃棄云々の話をすると厨房に入って行きました。
 そして、1分くらいカチャカチャ何かやっていたんですが……厨房から出て来た姿にビックリしました。
 何故なら、チーフの手にはカップ・ポット・ソーサーなどが乗せられたトレイがあったんですから。

(そう言えば「本物の食器を使った方がいい」とも言っていましたね)

 よく見ると、カップやポットの端が欠けていたりソーサーの色が剥げていたりしましたが、
 それでも、私なんかの練習のために一式を用意してもらえたのは とても嬉しかったです。

「ほら。これを使って実際の感覚を掴んだ方がいいよ」

 チーフに一式を渡された私が慌てて お礼を言うとチーフは「気にしないで」と言う感じでニコッと笑ってくれました。
 そして、その後は「コツを教えてあげる」と言って、遅くまで(21時くらいまで)私の特訓に付き合ってくれました。
 チーフの特訓は厳しかったですが、それがチーフの優しさでもあることがわかっていましたので とても嬉しかったです。

 ……そうです、私はこの時点でチーフを好きになっていたんです。

 先程も軽く触れたことですが、きっと これは『吊橋効果』とか『ギャップ萌え』とかだったんだと思います。
 つまり、失敗してしまった と言う不安の中で感じたドキドキを、恋した時のドキドキとして「勘違い」した訳です。
 そして、チーフから感じた優しさに救われた と言う安らぎのようなもので「勘違い」を更に深めたんだと思います。
 でも、最初は「勘違い」だったとしても、今では ちゃんとチーフ――いえ、センパイに恋している と断言できます。
 だって、センパイが優しいのは本当のことですし、センパイが真剣に私を心配してくれていたのも本当ですから。

 それに、実を言いますと、一目惚れに近い状態でもあったんです。

 実は、センパイって ちょっとだけ「サウザンド・マスター」に似ていらっしゃるため、
 一目見た時から かなり好感度が高かったんです(自分でもミーハーだとは思いますが)。
 しかも、センパイはサウザンド・マスターと同じ『ナギ』と言う お名前だったため、
 私は勝手にセンパイとサウザンド・マスターを重ねて見て勝手に憧れていたんです。

 ……そんな訳で、センパイの最初の印象って「恐そうだけどカッコイイ」って感じだったんです。

 そんなセンパイに、緊張と不安で弱っている時に優しくしてもらっちゃったんですから、簡単にオチてしまうのは仕方がありません。
 むしろ、私と同じ状況でセンパイにオチない魔法関係者はいない と思いますよ? つまり、それくらいセンパイの名前と容姿は卑怯過ぎるんです。
 そのクセ本人は無自覚なんですから、性質が悪いこと このうえないですよねぇ。天然ジゴロと言うか、無自覚フラグ建築士と言うか、何と言うか……



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Part.04:落葉舞う季節の気紛れ


 ナギが愛衣を原作キャラだと認識したのは、冬の始め頃になってからだった。

 その時のナギはココネと美空との三人で落葉掃除(教会の仕事の手伝い)のついでに集めた落葉で焚火をして焼芋をやっていた。
 そして、途中で「これじゃ火力が足りない、もっと落葉が必要だ」と言うことに気付き、ナギは追加の落葉を集めに出たのだった。
 ちなみに、焚火の傍を離れたのはナギだけだ。言うまでもないだろうが、その理由は「二人に寒い思いをさせないため」だ。
 ここで美空に気を遣うナギに違和感を覚えるかも知れないが、火の番をココネ一人にさせる訳にはいかない と言う判断である。

「おぉ、愛衣!! ちょうどいいところに!!」

 肉体的には大した作業ではないのだが、同じ作業の繰り返しなので精神的にはツラい。そのため、ナギに再び落葉を集める気がなかった。
 そんな折、落葉掃除をしている愛衣と遭遇したのである。ナギが思わず「ちょうどいい」と口走ってしまうのは仕方がないだろう。
 まぁ、経緯を知らない愛衣は「あれ、センパイ? 何が『ちょうどいい』んですか?」とナギの「ちょうどいい」発言に不思議顔だが。

 しかし、ナギはあまり気にしない。と言うか、既に頭は焼芋でいっぱいなのだ。

「落葉を集めていることが、ちょうどいいのさ。だから、その落葉を譲ってくれない?」
「え~~と、何だか よくわかりませんが……落葉が欲しいなら、どうぞ使ってください」
「ありがと。いや~~、助かったよ。これで どうにか焼芋を焼き上げる目処が立ったよ」

 だから、ついつい『焼芋』と言う女子への禁句を漏らしてしまっても、仕方がない。

 何だか愛衣が目の色を変えて「そう言うことなら、落葉をもっと集めますね?」とか喰い付いて来ているが仕方がないし、
 ナギが「いや、これだけあれば大丈夫だよ」とか告げて颯爽と離脱を図ったけど そうは問屋が卸さなくても仕方がないのだ。
 そう、愛衣が「焼芋って人類の至宝ですよねぇ」とか言って落葉を集めたビニール袋を抱えて付いて来ても仕方がないに違いない。

 と言うか、ナギのミスで愛衣を釣ってしまった気がしないでもないが、仕方がないんじゃないかと思わないでもない。

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 まぁ、そんなこんなで、仕方なくナギは愛衣を引き連れてココネと美空の元に戻ったのだが……

「この男、落葉だけでなく女のコも持ち帰ってるよ、マジ シンジランネ」
「えっと……つまり、ナギってヨッキュウフマンってヤツなノ?」
「いや、コイツは単に変態なだけっス。だから、気を付けるんスよ、ココネ」
「……そっか。やっぱりナギは変態サンなんダ。私は信じてタのにナァ」
「知り合いを変態と認めるのは悲しいかも知れないっスけど、事実っスよ」

 二人の反応が予想以上に冷たくて、ナギは かなりションボリだった。と言うか、ココネにまで変態認定されたのがショック過ぎた。

 確かに、愛衣を連れて(釣って)来てしまったのはナギのミスだ。その点はナギだって認めざるを得ないだろう。
 だが、だからと言って ここまで冷たい反応をされるのは想定外だ。一体 何がそんなに気に入らないのだろうか?
 まぁ、答えは決まっているが、例の如くナギは残念なので「焼芋の取り分が減るのがイヤなのかな?」とか思う程度だ。

「す、すみません、センパイ。私、邪魔ですよね? 帰ります!!」

 どうやら愛衣も空気(非常にアウェイ)を察したようで、焼芋を入手することよりも撤退を選んだようだ。
 だが、ここで撤退されても この空気が変わる訳ではないため、ナギとしては「オレを置いてくな」と言う気分だ。
 むしろ、この空気をどうにかして欲しいくらいなので、ナギは「逃しはせんよ」と言わんばかりに愛衣の腕を掴む。

 ――ちょうど、その時のことだった。「愛衣? こんなところで何をしておりますの?」と言う声と共に第三者が現れたのは。

 その第三者(ある意味では乱入者)は、ウルスラの制服に身を包んだ金髪の美少女だった。
 キッチリと整えられた制服からは、真面目さ――いや、正確には生真面目さが漂っている。
 また、釣り眼がちな目から高飛車な雰囲気も出ており、総じて考えると性格がキツそうだ。

「お、お姉さまっ?! こ、これは、えっと……センパイが落葉で焼芋が怖かったんです!!」

 愛衣が驚愕を露にして叫んだ後、アタフタと言う形容がピッタリな様子で意味不明な説明をする。
 それを見たナギが「そんなに慌てちゃって……やっぱり愛衣は小動物系だよねぇ」とか思った程だ。
 ちなみに、そんなことを思いつつもナギは先程の『お姉さま発言』の方が気になったらしいが。

「……つまり、貴方は愛衣に不埒な真似をしようとした訳ですわね?」

 愛衣の説明をどう解釈したのかは謎だが『お姉さま』はナギを敵だと認識したようで、ナギと愛衣の間に割って入る。
 恐らく「落葉で焼芋」と言う意味不明な部分を無視して「センパイが怖かった」とだけ抜粋した結果だろう。
 それに、ナギが愛衣の腕を掴んでいることも関係しているかも知れない。と言うか、いい加減に離すべきだと思う。

 ちなみに、愛衣の説明を正しく表現するなら「センパイに頼まれて焼芋のために落葉を持って来たら非常にアウェイで怖かったんです」辺りだろう。

「お、お姉さま、違うんです!! センパイは無実なんです!!」
「……では、何故この男は貴女の腕を掴んでおりましたの?」
「え? えっと……それは…………ラブラブだから、ですよね?」
「いや、ナニイッテンノ? 普通に逃がさないためなんだけど?」
「――ッ!! やっぱり、不埒な真似をしようとしたのですね?!」

 愛衣が誤解を解こうとするが誤解を深めそうだったので、ナギが慌ててフォローをする。まぁ、そのフォローで違う誤解を招いた結果に終わったが。

「違います!! オレを置いて行かないで欲しかったんですよ!!」
「置いて行かないで欲しい? 状況がよくわからないのですが?」
「では、まずは状況を正確に把握することから始めませんか?」
「……まぁ、そうですわね。では、まず、そこの焚火は何ですか?」

 愛衣の様子(嫌がっていない、むしろ喜んでいる)からナギが不審者ではないことがわかったのか、『お姉さま』は素直に状況把握に努め始めた。

「簡単に言うと、落葉掃除のついでに焼芋をやろうとした結果です」
「ああ、つまり、先程の『落葉で焼芋』とは このことですか」
「ええ、そうなりますね。ちなみに、怖かったのは空気ですよ」
「空気? ……なるほど。空気が悪くなった と言う訳ですわね」

 焚火について納得した後、ナギと愛衣と美空(とココネ)を見た『お姉さま』は何かを納得したようだ。妙に深く頷いている。

「……どうやら、私(わたくし)の勘違いのようでしたわね。先程は不審者扱いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「いえ、気になさらないでください。オレの方も誤解を招く言動をしてしまいましたからね、特に謝罪は必要ありませんよ」
「そう仰っていただけると助かりますわ。ところで、私、高音・D・グッドマンと申しますが……貴方の お名前をお聞かせ願っても?」
「あ、名乗るのが遅れてしまって申し訳ありません。神蔵堂ナギと申します。以後お見知り置きをお願い致します、グッドマンさん」
「いえ、こちらも名乗りが遅れましたので お気になさらないでください。それと、私のことは高音で構いません。愛衣と仲がよろしいのしょう?」
「それなら、オレもナギでお願いします。ちなみに、愛衣とはバイト先で知り合いまして、そこで先輩・後輩関係を築いただけですよ」

 誤解が解けたことで『お姉さま』――高音はナギに謝罪するが、ナギはそれを気にしない。誤解が解けただけでナギには充分なのだ。

 ちなみに、真面目に挨拶をしているナギに違和感を覚えるかも知れないが、ナギは残念なだけで社会性がない訳ではないのである。
 いろいろと台無しにする残念さを発揮しているが、空気を読んで状況に応じた遣り取りをするくらいの社会性は持っているのだ。
 偶に「コミュニケーション障害なのではないか?」と思える一面を見せることもあるが、実はコミュニケーションは得意な方なのだ。

 ところで、ココネも美空も いつの間にか剣呑さがなくなっていったので、きっと落ち着いてくれたのだろう(と、ナギは判断したらしい)。

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 まぁ、そんなこんなでナギの誤解が解けて妙な空気もなくなった頃、ちょうど焼芋がイイ感じに焼き上ったので焼芋を食べることになった。

 どうでもいいと言えば どうでもいいことだが、当初は三人で食べる予定だったので焼芋は3本しか用意していない。
 つまり、愛衣と高音が増えた分、焼芋が足りないのだが……二人の分はナギのを半分ずつ渡すことで解決している。
 ナギは残念だが、紳士なのだ。と言うか、その紳士さを発揮するポイントが残念な方向であることが多いだけなのだ。
 ちなみに、そんなナギの行動に何か感じることがあったのか、ココネが自分の焼芋の半分をナギに渡してくれた。
 そして「ナギと一緒に食べたイ」とか言ってくれたので、もう可愛くて可愛くて……ナギは危なく鼻血を出すところだった。

 と言う感じで、ほのぼのとした幕引きができる訳がないのが、ナギの運命なのは言うまでもないだろう。

 何故なら、先程 引っ掛かった愛衣の『お姉さま発言』が ふとした瞬間に「あ、この二人、原作キャラじゃん」と言う答えに繋がったからだ。
 まぁ、不審者扱いされたり誤解を解いたり焼芋を食べたりココネの可愛さにヤラれたりしているうちに忘れてしまっていたが。
 それでも、思い出したので善しとして置こう。いや、切欠が『お姉さま発言』と言うのは どうかと思うが、気付いたのだからオールOKだ。

(も、もちろん、金髪のウルスラ生徒とか茶髪のツインテールとかって言う特徴的な容姿も気付いた要素なんだからね?)

 誰に言い訳をしているのかは極めて謎だが、ナギは二人を原作キャラだと気付けたことに満足していた。
 冬休みもアルジャーノンでバイトしようか と考えていた段階なので、この時点で気付けたのは上出来だ。
 今日は偶々 遭遇してしまったが、アルジャーノンと関わらなければ愛衣と遭遇することは ほぼないだろう。

 ……だからだろう。美空や高音達が互いに自己紹介をせずに会話をしていた(つまり知り合いであった)ことに、ナギは気付かなかったのだった。

 この時に気付いていれば「あれ? みんな知り合いなの?」と言う疑問から、ココネ・美空が原作キャラだと気付いただろう。
 いくら残念なナギでも「原作キャラと知り合い」と言う情報があれば「シスターコンビ」と言う情報がなくても辿り着く筈だ。
 まぁ、原作キャラだと気付いたところで、ココネの可愛さにヤラれて今まで通りに関わってしまう可能性は高かっただろうが。

 ところで、今更と言えば今更なのだが……せっかくなので、ナギがアルジャーノンでバイトをし始めた理由を説明して置こう。

 実は、もともと那岐がバイトをしていたから と言う訳ではなく、那岐の振りをするために役立つ と考えたからだ。
 と言うのも、ナギとしては「バイトを経験したことで性格が変わった」と思わせられると踏んだのだ(まぁ、何も言うまい)。
 最近のナギを見ていると那岐の振りなんて全然する気がないようにしか見えないが、無駄な努力をしていた頃もあったのだ。



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Part.05:思い出ずるは とある冬の日の情景


「……ナギさん? 私の話を聞いていますの?」

 一頻り語り終えたのでテンションが戻ったのか、高音は怪訝そうにナギを見ている。と言うか、あきらかにナギを疑っている。
 もちろん、ナギは現実逃避をして聞き流していたので聞いていない。だが、それをそのまま言うのは愚の骨頂である。
 ここは誤魔化すべきところだろう。正直は美徳ではあるが、それは時と場合による。嘘も方便、とはよく言ったものだ。

「ええ、もちろんですよ。でも、ついつい高音さんに目が奪われてしまって……話を聞いていないように見えたかも知れません」

 ナギは痒くもない頬を掻きながら、照れ臭そうに歯の浮く様なセリフを口走る。別に焦って暴走している訳ではない。キチンと勝算があっての暴挙だ。
 まぁ、確かに、普通に考えたら「何をふざけていますの?!」と怒らせる可能性が高いだろう。だが、高音は意外と褒められるのに弱いのである。
 あきらかに見え透いた御世辞でも普通に喜んでしまう、そんな素直なところが高音にはあるのだ。と言うか、先程も触れたように、ちょっとチョロいのだ。

「そ、そうですか? ならば仕方がありませんわね――とでも言うと思いましたか? 貴方が愛衣の方を見ていたのは知っていますわよ?」

 しかし、今日の高音は あまりチョロくなかった。普段なら誤魔化されるところで誤魔化されなかったのだ。
 と言うか、ノリツッコミなんて いつの間に覚えたのだろう? 期待させられた分、ショックが大きい。
 まぁ、高音達に下げて上げる手法(7話参照)を用いたナギは、上げて下げられたことに文句は言えないが。

「……気のせいではないでしょうか? オレは高音さんしか見てないですよ?」

 とは言え、無駄かも知れないが一応は抵抗してみるナギ。説教は回避できるものなら回避したいのである。
 高音の言っていることは間違っていないとはわかっている。だが、だからと言って説教を聞きたい訳ではないのだ。
 むしろ、朝っぱらから説教を延々と聞かせられるくらいなら大人しく掃除をして置けばよかった とか思う始末だ。

「た、性質の悪い冗談は身を滅ぼしますわよ? 素直に過失を お認めになったらいかがです?」

 勘違いされて面倒な事態になるかも知れない と言う覚悟までして発言したが、結果は芳しくなかったようだ。
 と言うか、もしかしたら、より怒らせた可能性もある。何故なら、妙に頬が紅潮しているからだ。
 普通なら「照れ」と解釈する高音のわかりやすい反応も、残念なナギには「怒り」にしか見えないらしい。

「いえ、冗談のつもりはなかったんですけど……」

 ちなみに、本当にナギは『冗談のつもり』はない。冗談ではなく、本気で嘘を吐いたのだ。
 言葉遊びに過ぎないが、ナギの言葉は間違っていない。嘘は吐いたが冗談を言った訳ではない。
 高音が「本当のことを話してください」とでも言っていたら、結果は変わったかも知れないが。

「と、とにかく!! 愛衣の方を見て どんな妄想に耽っていたと言うのですか?!」

 何をどう勘違いしたのかは高音の名誉のために黙って置くが、高音は「ナギが愛衣を見ていた」ことが気に入らないらしい。
 ちなみに、最初は「高音の話をナギが聞いていなかった」ことに怒っていたのだが……まぁ、いつの間にかシフトしたらしい。
 その理由は態々 語るまでもないだろう。敢えて語るとしたら、高音も乙女であり、気になるものは気になる と言うことだけだ。

「ちょ、ちょっと待ってください。何か論点が摩り替わってませんか?」
「問答無用です!! 一体、どんな醜い妄想をして愛衣を汚していたんですか?!」

 ナギがその点を指摘しても、高音は聞く耳を持っていなかった。と言うか、高音の中では、既に妄想していたことは確定しているようだ。
 高音に濡れ衣を掛けられることは多々あることなので、濡れ衣自体は今更 気にはしないが……濡れ衣で説教されるのは許容できない。
 自分に至らない部分があって注意を受けるのなら問題ないが、それが濡れ衣で しかも注意ではなく説教となるとナギには耐えられないのだ。

(……思えば、高音さんには濡れ衣を掛けられてばかりだなぁ)

 そもそもの出会いが濡れ衣で、その後も しょっちゅう濡れ衣を掛けられていた。ちなみに、内容のほとんどは愛衣絡みだ。
 それだけ高音が愛衣を大事にしている と言うことなのだろう(とナギは認識している)が、少しは信用してもらいたいものだ。
 原作キャラだと気付いていなかった時は怪しかったが、原作キャラと認識した以上ナギに愛衣を狙う気持ちは一切ないのだ。

(そりゃあ、愛衣は危なっかしいから不安になるのもわかるけどさ……オレまで目の敵にするのはやめて欲しいなぁ)

 愛衣はシッカリしている面もあるが、ポヤポヤしている面もある。と言うか、あきらかに隙だらけだ と言わざるを得ない。
 有り得ない想定だが、仮にナギが本気になって口説けば愛衣は簡単に落ちるだろう。つまり、それくらい危なっかしいのだ。
 だから、愛衣に近付く男を退けたくなるのはわからないでもない……が、ナギには そんな気はないので無駄としか言えない。

(って言うか、愛衣に近付けたくないのならオレを掃除ボランティアになんて誘わなければいいんじゃないかな?)

 しばらく考えた後、ナギは「きっと、背に腹は代えられないってくらいに人手が欲しかったんだろうなぁ」と結論付ける。
 ナギにはわからない。高音がナギを愛衣に近付けたくない理由を根本的に勘違いしているナギには、わかる筈がない。
 掃除ボランティアに付き合わせる と言う名目で高音がナギと共にいようとしたことなど、ナギにはわかる訳がないのだ。

 それ故に、ナギは「特に『あの日』から高音さんのオレに対する警戒が上がった気がするんだよなぁ」とか過去を思うのだった。

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「……それで? 貴方は愛衣のことを どう思っていらっしゃいますの?」

 時は遡り、とある冬の日。麻帆良内の とあるオーブンカフェにて。高音がナギを睨み付けながら訊ねて来た。
 何故こんな状況になったのかと言うと、実はナギもよくわかっていない。気が付いたら、こうなっていたらしい。
 偶然 遭遇した高音に「少しお時間いただけませんか?」と半ば無理矢理に連れて来られた結果こうなったようだ。

「どうって……可愛い後輩だ とは思ってますが、別に恋愛の対象としては見ていませんから、安心してください」

 質問の意図を「愛衣に近付くな」と受け取ったナギは、率直な意見を答える。
 さすがに「原作キャラなので近付く気はありません」などとは答えない。
 しかし、質問の意図を履き違えているので、高音の神経を逆撫でしたようだ。

「……何を安心しろ と言うのですか?」

 高音は「愛衣を真剣に想っているのか」を訊ねたのだが、返って来た答えは「恋愛の対象外」と言うものだった。
 そのため、ナギが愛衣を弄んでいる と高音は誤解してしまい、怒気を迸らせながらナギに詰め寄る。
 経緯を理解していないナギは「テーブルから身を乗り出して顔を近付けるのは やめて欲しいなぁ」とか考えてるが。

「そんなの、決まっているじゃないですか?」

 今の状況は吐息が掛かる程の距離に顔があるため、高音が何かの拍子でバランスを崩してしまったら唇が触れてしまい兼ねない。
 そんなラッキースケベは そうそう起こらないだろうが、絶対に起こらないとも言い切れないためナギは仰け反るようにして高音から離れる。
 まぁ、高音の容姿は文句のない美少女なので、至近距離で顔を直視するのは少しだけ恥ずかしい……と言うウブな理由もあるが。

「――ッ!! 貴方、まさか……?!」

 ナギは「愛衣にとってオレは狼になる気は無いので安心してください」と言う意味で言ったのだが、
 何をどう勘違いしたのか、高音は「オレが興味あるのは貴女ですから安心してください」と受け取った。
 出発点が違うために起きた擦れ違いだが、ナギの残念さや高音の思い込みの激しさも大きく関係している。

(どうでもいいけど、周囲の「キツめの年上彼女とヘタレた年下彼氏の痴話喧嘩とか死ねばいいのに」って感じの視線が痛いなぁ)

 そんな視線で見られるのには訳がある。と言うのも、先程――ナギが指摘するまで高音がナギの手を掴んだままだったからである。
 真冬の寒空の中、オープンカフェで手を握っている男女。どう考えても、あきらかにバカップルにしか見えない構図だろう。
 まぁ、高音がナギの手を掴んでいたのはナギが『誘い』を断って逃げようとしたからなので、ナギに文句を言う権利はないが。

「とにかく、オレは愛衣を狙ってなんかいません。あくまでも、バイト先の先輩・後輩関係でしかありませんよ」

 高音の「まさか」と言う反応に疑問が残らないでもないが、蒸し返して話が伸びるのは避けたい。
 そのためナギは強引に話を締め括ると、運ばれて来てから放置され続けていたコーヒーを啜る。
 コーヒーはすっかり冷えていたが、一息 吐くために飲んだだけなので味は気にせずに飲み下す。

「…………わかりましたわ。とりあえず、それで納得して置きますわ」

 高音はしばらく無言でナギの瞳を覗き込んだ後、やや頬を赤らめながら納得を示した。
 きっと真偽を確かめるために見ていたが、我に返ったら急に恥ずかしくなったのだろう。
 高音が頬を染めた理由をナギはそう解釈したが……まぁ、言うまでもなく、見当違いである。

「その代わり、愛衣に変なチョッカイを出したら許しませんからね?」

 それ故にナギは「チョッカイ云々はわかるけど『その代わり』ってなんだろう?」とか思ってしまうが、
 当然ながら そんなことを訊ねられる空気ではなかった(肯定以外の返答は許される訳がない)ので、
 お得意の棚上げをすることにして「ええ、わかりました」とだけ答えて、話を終わらせたのだった。

 それが後々にも影響する勘違いを生んでしまうことになろうとは……残念過ぎる彼には想像すらできなかった。



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Part.06:高音・D・グッドマンの想い


 目の前の男――神蔵堂ナギは、私の話を聞き流して愛衣の方を眺めていました。
 何故か無性に腹が立ちましたので、ついついキツめに注意を促したのですが……

「ええ、もちろんですよ。でも、ついつい高音さんに目が奪われてしまって……話を聞いていないように見えたかも知れません」

 などと言う、歯の浮くようなセリフを臆面もなく並べ立てて誤魔化そうとしたのです。
 しかも、ちょっと照れ臭そうに頬をポリポリと掻く なんて言う小芝居のオマケ付きです。
 盗人 猛々しいと言うか……どうして こうも恥ずかしげもなく嘘を吐けるのでしょうか?

 ――まったく、信じられないような精神の持主ですわ。

 私はシャイなので そう言ったことはもっと違うシチュエーションで言ってもらいた――って、違います!!
 そ、そうではなくて!! 適当なことを言って話を誤魔化そうだなんて、実に許し難い精神ですわ!!
 そのため、一度は思わず納得し掛けてしまいましたが……多少強引でも、打ち消さねばなりませんね。
 私は簡単な女ではない と教えて差し上げねばなりませんので、追求の手は緩める訳にはいきません。
 ですから、ナギさんをギロリと睨み付けながら、愛衣の方を眺めていたことを指摘した訳です。

「……気のせいではないでしょうか? オレは高音さんしか見てないですよ?」

 わ、私しか見ていないなどと……嬉し――ではなく、そんな あからさまなセリフで喜ぶ程 私は安くありませんわ!!
 私は「ナギさんが愛衣の方を見ていたこと」を問い詰めているのですから、この程度では騙されてはあげませんわよ?
 しかし、どうしてナギさんは こうも不真面目なんでしょうか? 私の追求を性質の悪い冗談で誤魔化そうとするなんて……
 ついつい嬉しくなって――ではなくて、恥ずかしくなって――でもなくて、怒りで頬が紅潮してしまいますわ。
 こ、ここは一つビシッと言って差し上げなければ、ナギさんの不真面目さは いつまで経っても直らないでしょう。

「いえ、冗談のつもりはなかったんですけど……」

 じょ、冗談じゃないんですか? と言うことは、本気と言うことで……つまり、それは…………
 って、違います!! これは罠です!! いつもの「適当なことを言って誤魔化しているだけ」です!!
 大丈夫です。この程度のことでは もう騙されません。ですが、一旦 話題を戻して体勢を整えましょう。

「ちょ、ちょっと待ってください。何か論点が摩り替わってませんか?」

 論点など変わっておりません!! 私は「ナギさんが愛衣の方を見ていたこと」を問い詰めているのですから。
 まぁ、最初の頃は「清廉潔白に生きることの素晴らしさ」を説いていたり、話を聞いてないことを注意していましたが、
 今となっては それらは些細な問題です。今 大事なのは「ナギさんが愛衣の方を見ていたこと」なのですからね。

 ……そもそも、この男はいつも不真面目過ぎるのです。

 いつもヘラヘラと笑って、本気なのか冗談なのか区別が付かないことばかり言って……しかも、私に対して どこか年長者ぶって接するのですよ?
 まったく、ふざけ過ぎですわ。私は二つも年上なので……その、少しは敬意を持って接していただかないと立つ瀬がないではありませんか?
 確かにナギさんは年齢を大して気になさっていないようですが、私はそれなりに気にしているので――って、私は何を言っているのでしょうか?

 私はナギさんを責めているのであって、ナギさんとの年齢差を気にしなければならない理由などありません。むしろ、ある筈がありません。

 それに、男性には年上の女性の方がいいと言う方もいらっしゃるそうですし、ナギさんもきっと――って、だから、私は何を言っているのでしょうか?
 私は あくまでも愛衣とナギさんの仲を取り持つために――二人に清く正しく付き合っていただくために、ナギさんに関わっているのです!!
 その不真面目な言動で周囲の女性に『妙な誤解』を生んでしまっていることに気付いていないようですから、それを教えて差し上げているのです!!

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 そう、あれは期末試験が終わり、冬休みが始まる前の とある日曜日でした。

 出逢った当初は、美空さんと愛衣とで取り合う形になるのだろう と思って愛衣を応援するつもりでしたけど……
 愛衣から話を聞けば聞く程「愛衣とは遊びでしかないのでは?」と言う疑問が頭から消えなくなりました。
 ですから、疑問を解消するために偶然を装って接触し、半ば強引に連行して本音を聞かせてもらうことにしました。

「どうって……可愛い後輩だ とは思ってますが、別に恋愛の対象としては見ていませんから、安心してください」

 それはつまり、愛衣と真剣にお付き合いする気はない と言うことですわよね?
 ……何をどう安心しろ と言うのでしょうか? むしろ、不安は募る一方ですわ。
 そのため、私は立ち上る怒気を どうにか抑えて、極めて冷酷に真意を問い掛けました。

「そんなの、決まっているじゃないですか?」

 何が決まっている と言うのでしょうか? そんな どうとでも取れる言い回しで誤魔化される程 私の目は節穴ではありませんわよ?
 仰け反るようにして逃げようとしているのが確りと見えてますからね。きっと、何か後ろ暗いところがあるに違いありませんわ。
 それに、先程から頻りに視線を彷徨わせています。まるで私を直視することを避けているかのように。つまり、これで確定ですわね。

 恐らく、この男は愛衣を弄ぶつもり――ん? いえ、よく見てみると、この人、頬を染めてますわね? まるで、恥ずかしがっているみたいですわ。

 もしかして、この人が挙動不審なのは、後ろ暗いところがあるから ではなく、恥ずかしがっているから ですか?
 そうだとしたら、先程の「恋愛の対象外」と言う発言の真意は、愛衣を弄ぶつもりと言う訳ではないのでしょうね。
 と言うか、よくよく考えてみたら、たとえ そのつもりでも それを私に告げるメリットはありませんわね。
 つまり、先程の言葉は別の意味なのでしょう。そして、先程から恥ずかしがっていたことも含めて考えると……

 ――ま、まさか、この人は私を恋愛対象として見ている と言うことでしょうか?!

 い、いえ、それはおかしいです。だって、私達は会ったばかりです。しかも、濡れ衣を着せると言う出会い方でした。
 それなのに私を恋愛の対象としてみるなんて有り得ません。と言うか、嫌われていて当然です。むしろ、そうに違いありません。
 で、ですが、万が一と言う可能性もありますし、恥ずかしがっていた理由にも説明が付きますし……でも、有り得ませんし、
 そ、そもそも、私の方が2つも年上ですし、ああ、でも、年上の女性が好きなのかも知れませんし……もう、訳が分かりません!!

「とにかく、オレは愛衣を狙ってなんかいません。あくまでも、バイト先の先輩・後輩関係でしかありませんよ」

 そ、そうですね。とにかく、今は「ナギさんが愛衣を恋愛の対象として見ていない」と言うことを信じて置きましょう。
 そもそも、私が疑問に感じたのは「愛衣はナギさんを慕っていますが、ナギさんの方は そうではないのでは?」と言う点ですからね。
 その意味では、ナギさんの言葉は疑問を解消するものですし、愛衣を弄ぶ気がないのなら それはそれで構いませんわね。

 ――もちろん、愛衣を弄ぶ可能性を見せたら許しませんけどね?

 その時は魔法の秘匿なんて一時的に忘れて『黒衣の夜想曲』でフルボッコにして差し上げます。
 そして、その後で記憶を念入りに『消去』して、愛衣のことも私のことも忘れていただきます。
 もちろん、女性の純真を弄ぶような外道は制裁を受ける と言うことは身体に記憶させますが。

「ええ、わかりました」

 ナギさんに どこまで伝わったかは定かではありませんが、神妙そうな顔をしているので私の覚悟くらいは伝わったのでしょう。
 ちなみに、私は本気です。愛衣を弄ぶような真似をしたら、本気で魔法行使も辞さずに『対処』させていただきます。
 そんな理由で魔法を使うことにガンドルフィーニ先生はいい顔をしないでしょうが、女性陣は理解していただけるでしょう。

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 それだと言うのに……どうして、ナギさんはこうも不真面目なんでしょうか?

 と言うか、愛衣は恋愛の対象外なんですわよね? それなのに、何で愛衣を見ていたのですか?
 イヤらしい眼ではありませんでしたが、ナギさんの場合はイヤらしさを隠しますから微妙ですわ。
 ナギさんの場合、大真面目な顔をしてイヤらしい妄想を繰り広げていても納得できますからね。

 まぁ、幸いと言うか何と言うか、愛衣を含めて私の知る限りでは女性を弄ぶような真似はしていませんが……

 それでも、ナギさんの不真面目な態度に周囲の女性が『妙な誤解』をしてしまっているのが現状です。
 ナギさんに『その気』がないから現状は維持できていますが……それもいつまで続くか定かではありません。
 ですから、愛衣のためにも周囲の方々のためにも、ナギさんには真面目になってもらう必要があるでしょう。

 ……決して、私の希望は含まれていませんわよ?



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Part.07:これからの予定


「あ、あの、センパイ!! これから お暇ですか?」

 結局 高音の説教は愛衣が「あの~~、お掃除終わりましたけど、お二人は何でモメてるんですか?」とツッコんでくれるまで続いた。
 ナギがコッソリと「もっと早く止めて欲しかった」とか思ったらしいが、どう考えてもナギの自業自得なので愛衣に責められる謂れはない。
 むしろ、説教されていたナギも説教をしていた高音も ほとんど掃除をしていないため、一人で掃除させられた愛衣が責めるべきかも知れない。
 まぁ、愛衣は掃除が大好きなので愛衣が文句を言う訳ないが。と言うか、原因の方向性が違い過ぎるので、不満はナギにしか向かないだろう。

 閑話休題。愛衣がこれからの予定を聞いて来た件に戻ろう。

 今の時間は11時を少し回った程度なので、時間的に考えると「お昼ご飯、一緒にどうですか?」と言う誘いなのだろう。
 普段なら怖い先輩(高音)がいても可愛い後輩(愛衣)に誘われたら迷うことなく受けるナギだが、今日はいつもと違う。
 いつも以上に高音の目付きが怖く見える……のではない。と言うのも、ナギにはこれから「ちょっとした用事」があるのだ。

 ちなみに、その用事と言うのは、木乃香とネギからランチに招待されている と言う、いろいろと複雑な用事だ。

 実はと言うと、今日はネギの誕生日なので、今夜は いいんちょ主催で「ネギ誕パーティー」が開催されることになっているのだが……
 当然の帰結としてナギは招待されていないので、ナギを招けるパーティーとして昼に「プチパーティー」を行うことになったのである。
 いや、まぁ、プレゼントを郵送してプチパーティーは欠席する と言う選択肢も無かった訳ではないのだが、さすがに断れなかったらしい。

 いくら「原作キャラと関わりたくない」と思っているナギでも、態々 自分用にパーティーを計画されたら行かざるを得ないのだ。

「……ごめん。この後ちょっと用事があるんだ。だから、また今度ね?」
「そ、そうですか……では、また今度の機会にでも お願いします」
「本当、ごめんね。前以って言ってくれれば、次は空けて置くからさ」
「まぁ、ボランティアに参加していただけただけで充分ですわね……」
「本当にすみません。ですから、そんなに残念そうな顔をしないでください」
「べ、別に残念になんて思ってません!! 少し寂しく感じるだけですわ!!」
「(軽い冗談だったのに過剰反応されても困るなぁ)いや、本当、すみません」

 何だか居た堪れなくなったナギは「では、失礼します」と逃げるように その場を後にしたのだった。


 


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オマケ:木乃香の誕生日


 実はと言うと、3月18日(火)は木乃香の誕生日であった。

 本気で妙なフラグを固めたくない と望んでいるのなら無視すべきイベントなのかも知れないが、
 まき絵の一件で学習したナギは後々 面倒なことになるのを避けるために無視できなかったのである。
 妙なところで学習能力があるのがナギであり、大事な部分で学習していないのがナギなのだ。

 今回は、そんな お話である。

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「ごめんね、木乃香。呼び出したのに遅れちゃって」
「ええよ、ええよ。ウチが早かっただけやもん」

 ナギ罰が悪そうに声を掛けながら木乃香に近寄り、木乃香は笑顔でナギを迎え入れる。
 ここは『紫の広場』と呼ばれる広場で、男子中等部と女子中等部の中間に位置している。
 そのため、このように男子中学生と女子中学生との待ち合わせに よく使われるらしい。

「……それで、どないしたん? 何や大事な用なん?」

 木乃香としてはナギから連絡があること自体が珍しかったため、
 態々 呼び出されたとあっては何か重要な用件だと勘繰るのも無理はない。
 まぁ、今回の場合に限っては それは単なる杞憂に過ぎないのだが。

「ん? ああ、ごめん。用件を伝えてなかったね。え~~と、何て言うか、その、ハッピーバースデーってヤツだよ」

 己の不備に気づいたナギは、痒くも無い頬を掻きながら不備を詫び、
 後ろ手に持っていた包みを照れ臭そうに木乃香に差し出す。
 慣れていると言えば慣れているのだが、改まると恥ずかしいらしい。

 意外かも知れないが、ナギにも羞恥心と言うものは備わっているのである。

「……ほぇ? つまり、これって、誕生日プレゼントってことなん?」
「うん、一応そのつもりだよ。だから、受け取ってくれると有り難いんだけど」
「あっ!! ご、ごめんなぁ。その、嬉しぅて ちょおボ~ッとしててん」

 包みを差し出したままの姿を晒していたナギはちょっとマヌケであった。そのため、それに気付いた木乃香はワタワタしながら包みを受け取る。

「そっか。いや、迷惑だったのかな とか思って、ちょっとビビったよ」
「そ、そんなことあらへんって。ウチ、とっても嬉しいえ?」
「それなら よかった。やっぱ喜ばれなきゃプレゼントじゃないしね」

 そう言いながらもナギは目線で「開けてみて?」と告げ、木乃香も「ええんか?」と確認しながら開ける。
 そして、包みを開けた木乃香は「えっ?」と絶句する。なんと、そこにはファンシーなタロットが入っていたのだ。

「……あれ? もしかして、気に入らなかった? 木乃香って占い好きだったと気がしたから、そんなんどうかなって思ったんだけど?」
「あ、いや、その……あ、ありがとぉ。なぎやん が占い好きやって覚えててくれて、ウチとっても嬉しいえ? 大切にするな?」
「そう? だったら、よかった。記憶力に自信はあるけど、記憶って都合よく改竄されるものだからさ、ちょっと不安だったんだよ」

 木乃香の様子に「失敗だったかな?」とナギは不安そうな表情を見せるが、木乃香は戸惑っていただけのようだ。

 と言うか、木乃香はプレゼントされたこと自体やタロットそのものも嬉しかったのだが、
 どうやら「占いが好きだと言う情報をナギが覚えていたこと」が何よりも嬉しかったようである。
 つまり、ナギのプレゼントは(ナギが想定していた以上に)効果は抜群だったと言える。

 もちろん、そのことにナギが気付いている訳がないが。


 


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後書き


 ここまでお読みくださってありがとうございます、カゲロウです。
 以前から「改訂した方がいい」と言う意見が多数あったので、今回(2012年4月)大幅に改訂してみました。


 今回は「高音と愛衣を中心にしてみた筈なのに、最後の木乃香に持ってかれた気がする」の巻でした。

 ちなみに、二人が主人公を掃除ボランティアに駆り出したのは、ホワイトデーの『御礼』だけではありません。
 ボランティアを口実に主人公と接触を持ちたかった と妄想していただけると甘酸っぱくなれると思います。
 あ、おわかりでしょうが、愛衣の魔法世界出身とかに関しては完全なオリジナル設定です。と言うか捏造設定です。
 一応「愛衣がジョンソン魔法学校に留学していた」のは原作にありますけど、他はデッチ上げもいいところです。

 あと、ネギの誕生日が3/31って言うのもデッチ上げです(初投稿した頃は1994年3月7日~4月ってのが通説だったので、3/31にしたんです)。


 ……では、また次回でお会いしましょう。
 感想・ご意見・誤字脱字等のご指摘、お待ちしております。


 


                                                  初出:2009/08/28(以後 修正・改訂)


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