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No.10626の一覧
[0] 【一発ネタ】 凡人終末端  リリカルなのはStS  ティアナ憑依 TS注意【やっつけ仕事】[痴話詐欺離散](2009/08/10 23:04)
[1] タイトルとか募集中[痴話詐欺離散](2009/07/29 01:18)
[2] 皆の心が広いなと感心することしきりw ※おまけ追加しました07/30[痴話詐欺離散](2009/07/30 17:56)
[3] お食事時を避けてください[痴話詐欺離散](2009/07/31 23:40)
[4] 頑張りすぎは身体に毒と自分に言い訳 ※08/04 おまけ追加しました[痴話詐欺離散](2009/08/04 22:53)
[5] 今回はそのうち書き直すかもしれません。ジ○スラックコワイ(ガタガタ[痴話詐欺離散](2009/08/10 02:19)
[6] 休日はBADEND多発警報が出ています。お出かけの際は十分ご注意ください[痴話詐欺離散](2009/08/10 23:07)
[7] 自分の文章力の低さに絶望する日々[痴話詐欺離散](2009/08/19 15:45)
[8] END8 拡張ぱわーうpキット 前編 也。[痴話詐欺離散](2009/08/24 16:47)
[9] END8 拡張ぱわーうpキット 中編 也。[痴話詐欺離散](2009/09/10 01:24)
[10] END8 拡張ぱわーうpキット 後編 未完也。[痴話詐欺離散](2009/10/07 07:48)
[11] END8 拡張ぱわーうpキット 修正パッチ[痴話詐欺離散](2009/11/02 05:42)
[12] END8番外編 【あの『Cradle-Ara』総監督に突撃インタビュー!】[痴話詐欺離散](2009/11/10 03:51)
[13] タイトル未定その①[痴話詐欺離散](2010/04/28 22:52)
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[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 後編 未完也。
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/07 07:48
F――アギト ゆりかご外壁部



「ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


激しく上がる火花。
金属の切断音が腕を伝う。
振動を無理やり押さえ込み、身の丈五倍はあろう炎の大剣を支え続ける。
一瞬でも気を抜けば、その瞬間力の均衡は偏り弾き飛ばされてしまうだろう。
圧倒的な力と質量差。
あたしたちと聖王のゆりかごの間には、埋めることの出来ない力の差が存在していた。


くそっくそっ、どうしてだよ!?
あまりにも理不尽な現実に涙が溢れてくる。
だがそのことが幸運だった。
涙を拭った先の視界に高速で向かってくる、いやあたし達の方が高速で移動している先にガジェットが存在したからだ。
この速度で激突すればお互いにばらばらになることは明白だった。

「シグナムッ!避けろぉぉぉぉ!」

「ハァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

警告を告げるがシグナムに声は届かない。
目の前のゆりかごにしか意識が向いていない。このブレードハッピーがっ!
あたしは背中の翼の一本に魔力を注ぎ込み、無理やり機動を変える。
次の瞬間、強烈なGが身体に掛かり景色は高速で後ろに流れていった。
途中、離脱し切れずにゆりかご甲板に数度頭や手足、肩口をぶつけた痕が痛む。
それでもなんとか姿勢制御を行い、十数回転の後にやっと静止した。


「アギトっ、何故離脱などした?!」

「それはこっちのセリフだっ!
 後先考えずに突っ込みやがって、死ぬところだったんだぞ!」

「その程度の覚悟がなくてはあれは斬れまい・・・。」

不満の声をあげるシグナムにあたしは怒鳴り返す。
全く何を考えているんだ?
死んじゃったら全部御終いだって言うのに、命を粗末にするな!
何度もそう声を上げるが、シグナムはそれを聞き流し背中を向けているゆりかごに対してその剣を構えた。

なんで騎士って奴はどいつもこいつも自分の命を軽く扱うんだよ?!
ゼストの旦那もそうだった。
自分の身体を労わるってことを知らずにずっとあたし達に心配をかけ続けて、結局はあたしやルーテシアを護る為に死んでいってしまった。
旦那の気持ちは解らないでもない。
あれがあのとき取れるベストの選択だったことも事実だ。
けど、騎士って生き物は自分が死んだ後に残された者のことに鈍感すぎる!
あたしはそれが堪らなく悲しいし、悔しいんだ。

「・・・・・・。
 アギト、ユニゾンを解け。」

突然、シグナムからそう声がかけられた。
ど、どういうつもりだよ?いきなり・・・。
そう思ったが、言葉の端から感じる言い知れない重圧を感じ、ユニゾンを解かずにはいられなかった。
シグナムは私が出たことを確認して数歩分の距離を前進し、背中を向ける。

「侵入口は私一人で造ろう。
 お前まで分の悪い賭けに挑む必要は無かろう。」

「な、なんでそうなるんだよ!
 確かに何度もトライして駄目だったけど、二人で無理なら一人じゃもっと無理だろ?!」

「私は騎士だ。
 全てを捨ててでも主の命を実行するのが私の務めである。
 だが、お前を託した騎士ゼストはそのようなことを望んではいないだろう。」

「だったら、シグナムはどうなんだ?!
 あんただって、あんたの主だってあんたに・・・死、死んで欲しいとは思ってないはずだ!」

そうだよ。
誰だって自分から死にたいと思っている奴なんか、一部の自殺志願者以外いない。
なのになんでシグナムもゼストの旦那も、もっと自分を大切にしないんだ!

「・・・・・・『ベルカの騎士は三度死ぬ』。この言葉を知っているか?」

聞いたことが言葉だった。
あたしは無言で首を振る。


「一度目は実際に死んだときだ。肉体を失ったとき、ベルカの騎士は最初の死を迎える。
 二度目は死後、その名を汚されたときだ。名誉を失ったとき、ベルカの騎士は二度目の死を迎える。
 最後の死はその名、その存在を人々に忘れ去られたときだ。記憶も語り手も失われた騎士は真の死を迎える・・・・・・。

 言っていることは解るな?」


やめてくれよ。
そんな寂しい笑顔をこちらへ向けないでくれ。
止められなくなっちゃうじゃないか。

「人はいずれ死ぬ。それは騎士とて例外ではない。
 故に騎士はその生き様で語るのだ。」

お前のように我らのために泣いてくれる人間がいる。だから我らは死地に赴くことが出来るのだ。
最後にそう付け加えられた。

旦那も同じ気持ちだったんだろうか?
自らの手で引導を渡した恩人の顔を思い出す。
旦那は最後に笑っていた。
満足して死ねたんだろうか・・・?

いや、違う。
旦那はまだ生きている。
あたしやルールーの胸の中で。
旦那が生きているかどうか、誇りある騎士だったかどうかはあたしの生き様で判断されるんだ。
なら、恩人の名を汚すわけにはいかない。
烈火の剣精が大恩人、騎士ゼストの名はあたしが語り継ぐっ!


「待てよ、シグナムっ」

「なんだ?・・・・・・っ!アギト?」

「ユニゾン、イン!」

困惑するシグナムに対し、あたしは笑う。

「へへっ、一人よりも二人の方が生き残る確率が高いだろ?」

「アギト・・・・・・感謝する。」

ああ、解る。
シグナムの心が高揚していくのが。
あたしとシグナムの鼓動がしだいに重なっていく。
そして、完全に重なった時にかつてないほどの力を感じた。

「っ?!・・・・・・これは・・・」

「ああ、かつて私達は共に戦った時代があるのかもしれないな・・・。」

次々へと記憶野に収められていた、戦術が開放されていく。
凄い・・・・・・これなら本当に、あのゆりかごをぶった切ることも可能かもしれない。





背中でアフターバーナーを点火しゆりかご正面へと回り込んだ。
眼下には悠然と向かってくる聖王のゆりかご。
きっと、時間的にもうラストチャンスだろう。
今回を失敗したら、アースラは突入のタイミングを失ってしまう。

危機的な状況。
だが、もうあたしの心に怯えは無い。
死ぬことが恐いわけではない。もっと大切なものに気付いたからだ。

「アギト・・・。」

「なんだ、シグナム。」

「私は元々はただの守護騎士プログラムだ。
 ただ命令に従うだけの存在だった我らだが、主を得て仲間を得て随分と変わった。」

「・・・・・・。」

「・・・知り合いも増え、大切な者も増えた。
 そしてその者達にも友人や家族、大切な者たちが存在する。
 我らは人と人で繋がっているんだ。」

「・・・ああ、あたしも旦那やルールーと繋がっている。」

「誰かを失うということは、めぐり巡って自分の大切な者が悲しむということだ。
 そして、アレはその災厄の象徴だ。」

「ああ、絶対に許さねぇ。」

手に顕現させるは炎の大剣。
駄目だ、こんなものではまだまだ足りない。
もっと、もっとだ。
開放されていく術式に検索をかける。
より強く、より大きな力を求めて。
そして、記憶の底の底でソレを見つけた。

『自決術式』

自らの命と引き換えにかつてないほどの力を引き出す術式。
例え死に瀕してでも名誉を護るための力だ。

「アギト、構わぬ。やってくれ。」

ああ、そうだったな。
お前はそういう奴だった。だったら、あたしも付き合うぜっと!
『術式展開』
制御しきれないほどの炎が身体の中心部から上がっていく。
それを整流させるのは私の役目だ。

「シグナムッ!」

「ああ、判っている!」

こちらの意図を理解したのかシグナムは腕を天に掲げる。
炎は腕から吹き上がり、やがて炎の剣へと収束していく。
だが、これでもまだだ。
命をもっと燃やすんだ。
より太く・・・より長く・・・・・・どこまでも伸びていく炎の柱はアースラの全長を越え、遂にはゆりかごの全長へと迫る。

天を割らんばかりのこの炎を見てそれが剣だと思う者はいないだろう。
だが、それは確かに剣であった。
何故ならその剣の振るい手であるあたし達がそう証明するのだから。


「いくぞ、アギトッ!」

「ああ、喰らいやがれぇぇぇぇぇっ!!!」






        『天地一閃』




 

その日、不安気な面持ちで空を見上げ続けていた市民達は急に空が暗くなったことに驚きを隠せなかった。
だが曇天の下、災厄の象徴たる巨大船に炎の大剣が振り下ろされたとき、皆が皆心に奮い立つものを感じたという。





――はは、あたしもやればできるじゃないか。

ゆりかご上部を縦に焼き裂いた跡を宙を舞いながら確認する。
これであたしらの名も語り継がれるのかな・・・。
なぁ、シグナム。・・・・・・ゼストの旦那・・・・・・。

突貫をかけるアースラを横目に見ながら、アギトはそんなことを思った。


【融合騎アギト ゆりかご強襲任務後反応をロスト。行方不明】



   ◆


――ヴィータ ゆりかご駆動炉





「ひどい様だな。」

「シグナムほどじゃねーよ。」

あたしとシグナムはそう言い合い、血反吐を吐きながら笑いあった。
ゆりかごの駆動炉の連絡通路。そこに二人して大の字に寝転がってだ。


それは突入してから一時間ほど経過したときだった。
この船が大きく揺れたかと思うと、壁天井が割れその隙間からシグナムはポーンと降って来た。
一体何の冗談かと思う。
鈍い音を立てながらゴロゴロと傍らまで転がって来る様は、とてもシグナムだとは思えなかった。
だがそれは間違いなく我らヴォルケンリッターの将だった。


「手首から先はどこに落としてきた?
 いくら六課が遺失物を扱ってるからって、守護騎士プログラムは届けられてねーです。
 それにその格好はなんだ?」

「なに、通行料として喰われただけだ。」

黒こげとなりボロボロと崩れ落ちる腕を掲げて見せられる。
誇らしげに笑う様を見て思わず呆れた。

「あと、この姿はだな・・・
 無茶に付き合ってくれる戦友を一人得た。お前達のようにな・・・。」

あの騎士に付き従っていた融合騎が思い出される。
そこにどんな経緯がそこにあったかは解らない。
だが、シグナムがそう話すってことはあたし達の仲間になったってことだ。


「今はどうしてるんだ?」

無言で首を振った。
・・・・・・そういうことか。

「・・・どんなに感謝してもしきれんぐらいだ。」

ポッカリと開いた天井を見上げてそう言う。
随分とスケールの大きい奴だったんだな。
気が合いそうなだけに、残念な気持ちは募る。

「・・・ちゃんと話とかしたかったんだけどな。」

「縁があれば、また機会はあるだろう。」

「そうだな。」

それがいつになるかは判らない。
来世になるかそのまた来世になるか。




「お前の方こそどうだ?」

「シグナムほど派手じゃねぇよ。
 与えられた仕事をきっちりこなしてるだけだ。」

頭を起こして、連絡路の先の赤く光る巨大な正八面体の水晶を見据える。
砕け散ったグラーフアイゼン。満身創痍で立ち上がることすら出来ない身体。
・・・それでも。

「あたしとアイゼンの一番の得意分野、知ってんだろ?」

未だ健在な駆動炉。
だがあたしが見ているのはそこじゃない。
その表面に浮かぶ一つの黒点だった。

「破壊と粉砕か。」

その一点からピシリと亀裂が入る。
一つ、また一つと放射状に広がっていく黒線。
やっと始まったか。
亀裂が全体に廻りきった次の瞬間、駆動炉は無数の星の屑となって弾ける。


「ざまーみやがれ」

なのは、だから言ったろ?
鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン。
砕けねぇ物なんぞ、この世にねぇ・・・てな。
だけどわりぃ、あたしはここまでみてーだ。
助けに行けなくてすまん・・・・・・。



あたしとシグナムの身体から光の粒子が漏れ出てくる。
脳裏には初代リィンの最期が思い出された。
もう持ちそうもねーな。

「なぁ、シグナム。
 あたしら一生懸命生きれたよな。」

「ああ。」

「騎士として護らなきゃならねーもん護って、
 人間としても限りある生を使い切ることができた。
 リィンに感謝しねーとな。」

「フッ、そうだな。
 闇の書の一部だった頃には思いつきもしないほど、この十一年は充実していた。」

「だからあたし、あんま思い残すことねーんだ。
 そりゃはやてのことは心配だけど、今のはやてなら何だって乗り越えられるだろうってな。」

「・・・・・・お前もか。」

「おう。
 なんでだろーな。からっぽなのに、すっごい一杯詰まってる。そんな気分なんだよ。」

「私に文学的表現を求めるな。だが、その気持ちは解らないでもない。」

視線は交わさない。
きっとあたし達は同じ気持ちだってことは知っているから。



「じゃあな、シグナム。」

「ああ、まただ。ヴィータ。」



【八神ヴィータ三等空尉 駆動炉を破壊後、消滅】
【八神シグナム二等空尉 ゆりかご強襲揚陸任務により消滅】



   ◆


――グリフィス アースラブリッジ



僕は静まりかえったブリッジで一息ついた。

誰一人いない空間。
僕はこの小さな国の王様だった。


ヴィヴィオが助けられても、駆動炉が破壊されてもこの巨大船は速度を落とさずに上昇し続けた。
明らかになった予備の非魔法エネルギーによる駆動炉の存在。
僕達はある一つの方法により、それの破壊を試みる。
アースラのエンジンを臨界まであげ自壊させる。ありていに言うと自爆だ。
そしてその認証のために、八神部隊長か僕が残る必要があった。


艦長席に深く腰掛ける。

後悔はしていない。
誰が考えても残るべきは僕だった。
むしろ嬉しかったといってもいい。
ずっと部隊長に付き従っていた僕にとって、六課では常に自分の存在価値を疑問視し続けなければいけなかった。

オーバーSランクが統べる肝いりの部隊。
常識から考えればトップが若い人間なら、その副官は例え魔導師でなくともベテランが務めるべきだった。
だが、実際に採用されたのは経験不足である僕だ。
六課のその性質上、身内で固めるのは仕方なかったのかもしれないが、これでは誰でも良かったと言われてるような気がした。
だからこそ、僕は六課内で精力的に働いた。
出動や出張の多い部隊長に代わり、六課を廻して来たのは僕だと自負できる。
だが、やはり部隊長の付属パーツのようにしか自分を見れなかった。
例え僕がいなくなったとしても、組織としては都合のいい人材がいなくなっただけで、代わりを見つけてくれば事足りるのだから。


だからこそ、この状況は待ち望んだものだった。
この任務は部隊長では出来ない。
僕が適正だったと言うことでやっと自分で自分を認められるような気がしたのだ。

だけど一つだけ気がかりがあるとすれば、彼女の泣き顔が脳裏から離れないことだ・・・・・・。


残りわずかな時間を感慨に耽っていると、通信が入った。

『・・・・・・よぉ、ご機嫌いかがですか?部隊長補佐殿』

グランセニック陸曹だった。
彼はこんな状況にも関わらず、いつものように笑みを漏らしていた。

「そうですね、悪くはありませんよ。
 それよりどうかしたのですか?何か問題でも?」

彼は今ヘリで他のルキノや部隊長達と共に脱出の手はずを整えているはずだ。

『なぁに、こちらの準備は整ったのでね。
 女を二人も泣かせた色男の顔でも最期に見ておこうかと思いまして。
 いやはや、勲章ですねぇ。』

ニヤニヤとこちらの顔を見る陸曹の視線は僕の頬に集中している。
一体何を?そう思い、送信されてる映像をこちらにも表示してみるとそれは一目瞭然だった。

頬の片方には真っ赤なもみじ。そしてそのもう片方には真っ赤なルージュの跡がある。
それぞれ、ルキノとシャーリーの仕業だ。

思わず溜息が出てしまう。
最期の瞬間だというのに中々の脱力具合だ。

『おっと、消したらいけませんよ。
 冥府の門の鬼もそんな顔なら見逃してくれるかもしれませんしね。』

「そのまえに僕は父に張り倒されますよ。
 この親不孝者がってね。」

『まあそいつはしょうがないっすね。』

全く他人事だと思って・・・。
ふとグランセニック陸曹の額に汗が浮き出てるのに気付く。
彼は病院から直でこちらに合流したはずだ。
それに、先ほどからずっと右手が腹部に添えられたままだった。


「陸曹もしや、」

『・・・他の奴らには内緒っすよ?』

そう片目を瞑る陸曹。
そこにどんな想いがあるのかは判らない。
だが、彼なら彼女達を絶対に地上まで送り届けてくれるだろう。
その確信が出来た。

「ヴァイス・グランセニック陸曹。彼女達を頼みます。」

椅子から立ち上がり、敬礼する。
自分で言うのもなんだが、敬意と感謝。そして信頼からきた自然な行動だった。

『オーライ。
 勿論であります、部隊長補佐殿。』

敬礼を返す陸曹は決してその言葉を違えないだろう。
僕らは笑い合い通信を閉じた。

『男同士の約束』

ふとそんな言葉が浮かんでくる。
物語の中だけでしか成り立たないと思っていたが、そんなことはない。
今までそこまで信頼出来る人間に出会えなかっただけの話だ。
幼き日に読み聞かされた童話の登場人物、セリヌンティウスもこのような充実感に浸っていたのだろうか?



ヘリが離脱し、安全圏まで退避するまでの間自らの人生を振り返っていた。
自らの使命を見出し、尊敬できる上司、友人、愛する女性を護れた。
唯一心残りがあるとすれば、母を一人残していくことだけだ。

申し訳ありません、母さん。
お叱りはいずれ・・・・・・。


僕はゆっくりとアースラの『キングストン弁』を開いた。



【グリフィス・ロウラン准陸尉 アースラ自沈任務の為ゆりかごに残る。行方不明】



    ◆



――ヴァイス ヘリ操縦席



強化ガラス一枚を隔てた機外で、戦闘機人セインは下から上へ上昇していきあっという間に見えなくなってしまった。
俺は思わずコンソールを殴り、怒鳴っていた。

「あの大馬鹿野郎がっ!!
 姉妹が助かっても、お前が帰ってこなくちゃ意味が無いだろうが!」

すれ違い様に見えたあの満足気な笑みが気に食わない。
どうして諦めてしまったんだよ!



脱出直前に交わした世間話が脳裏に蘇ってくる。

『私はね、姉や妹達が無事ならそれでいいんだ。
 きっとドクターやほかの姉妹には恨まれると思う。だけどね、死んじゃったらそんなこと関係ない。
 逆に言うとね、生きてさえいれば仲直りする機会はいつだってあるんだ。』

そう湯気の出る紙パックのコーヒーを保持しながら、そいつは言う。
とんでもない力を持っていると聞かされていた戦闘機人だが、こうしている姿は同年代の少女とあまり違わない。そのことに多少なりともショックを受けた。

『だからあたしは絶対に陛下を、あんたたちがヴィヴィオって呼んでる子を地上へ送り届けないといけないんだ。
 そのための道が無いなら、あたしが造ってみせる。
 このセインさんと、ISディープダイバーでね。』


あのとき、アースラの強襲によって敵主砲を破壊することには成功したが、同様にアースラは離脱できないほどゆりかごの破片に埋もれてしまっている。
そして魔法を使えない状態の部隊長達は頼れない。
選択肢はヘリでの脱出しかなかった。
だが、それにも問題は存在する。
脱出経路だ。
アースラの脱出口は、ゆりかごとの衝突の際に半壊しておりヘリが通過できるだけのスペースはなかった。
ゆりかご内の通路が広いといっても、ヘリが飛び回るのには狭く何より脱出経路を探しているうちにヘリの限界高度を突破してしまうだろう。
そこへ現れたのがセインだった。 


セインの能力でヘリごとゆりかごをすり抜け離脱する。
まるで子どもの立てた絵空事だった。
だが、俺たちはその絵空事に賭けるしかなく、そしてアイツはそれを見事に達成した。
セイン自身が犠牲となって・・・・・・。

セインはIS発動するためには外側から視認した方が成功率は高く、そして今まで発動してきたものより、ヘリは遥かに大きく重いと言っていた。
その結果、誰もセインがヘリの外から能力を発動させることを止める者はいなかった。・・・・・・誰も止められなかったんだ。
一応はゆりかごからの離脱完了と同時に、ヘリ内に退避する手はずとなっていたが、結果は見てのとおりだ。



こうなることは判っていたはずだ、ヴァイス・グランセニック!
セインが背中に怪我を負っていたことも、見て見ぬ振りをしたのはお前だろうが!




肩に手を置かれる。
誰だ?
ルキノやシャーリーは、補佐殿との別れのときに眠らされている。ヴィヴィオも同様だ。

「・・・部隊長、なんですか?
 さっきのことでしたら大丈夫ですが・・・」

思わず怒鳴ったことを指摘されると思ったのだが、それは違った。


「私はもう何もできへん・・・だから、ヴァイス君。
 皆の命、あんたに預けたでっ!」


力強い言葉だ。
俺なんかよりも遥かに重い重圧の中、こうして部下を励ますことも出来る。
この人はどこか他人頼りな部分を感じていたが、ここに来て化けたらしい。
こういう上司の下でなら、部下は限界を超えた力を発揮できる。



「・・・勿論ですよ。俺はそのためにここに来たんですから。
 アイツに出来たことが俺に出来ないなんて先輩の名折れっすからね。」


眠り続けていた俺を叩き起こしたアルト・・・。
全く俺も現金なモンだぜ。
女の顔で目が覚めるなんてな。

せめてアイツの憧れた『先輩』でいてやらねえと。

それにアイツだけじゃない。
この事件はあまりに人死にが出過ぎている。
部隊長もそれに耐えてるんだ、俺が男を見せないでどうするんだよっ!


戦友達との約束を果たせ。
このヘリを安全確実に地上まで送り届けるのが俺の役割だろうが!
俺は気を抜けばどっかへ飛んでいってしまいそうな意識をもう一度引き締めた。







・・・・・・地上はまだ遠い。



【ヴィヴィオ・ランスター 機動六課によりゆりかごより保護される】
【八神はやて二等陸佐 ゆりかご強襲任務より生還】
【リインフォースII空曹長 ゆりかご強襲任務より生還】
【シャリオ・フィニーノ一等陸士 ゆりかご強襲任務より生還】
【ルキノ・リリエ二等陸士 ゆりかご強襲任務より生還】

【ヴァイス・グランセニック陸曹 ゆりかご強襲任務より帰還後出血多量により意識不明となる。すぐさま病院に運ばれるが、搬送中に死亡が確認される】
【ナンバーズⅥ セイン アースラクルーの脱出に協力するも、その途中事故により空へ投げ出される。二週間後洋上より遺体が回収される】



 ◆


――ルーテシア ラボ



「ウーノが用意してくれたこの脱出路を使えば、廃棄都市の地下道へ出れるはずさ。」


ドクターが壁面に触れたかと思うと、空気の抜ける音と共に地面を掘りぬいた壁に見えてた場所に深淵が口を開いた。
おそらくドクターの言ってるとおりここを抜ければ安全に脱出できるのだろう。
隠し事はしてもあからさまな嘘は言わないのがドクターの数少ない美点だったと思うから。

けれど、何故だとも思う。
私達はドクターを裏切って、エリオとともに母さんを助け出しに来たはず。
もうここには、私とドクターしか残らず自分達の生死が大勢に影響しないと判っていてもだ。
ガリューが両手で保持している母さんの生体ポッドに視線を送る。これはドクターの協力がなければ持ち運び自体が不可能だった。
その上、崩壊の進む基地からの脱出路まで教えてくれるなんて・・・。

罠・・・・・・ではない。
本人の気質と、今更そんなことをしても無意味だということは明白だから。

もう一つ気になることがあるとすればドクターの表情。
今までののらりくらりと人を嘲る様な含み笑いがそこにはない。
憑き物の落ちた様な。
こんな比喩表現丁度当てはまる、穏やかな笑み。
今までドクターのそんな表情は見たことがない。
強いて言えば、私やアギトと夢見たいな明るい未来を語った時のゼストの苦笑に似ている・・・かな。



「・・・・・・なんでドクターは、そこまでして・・・くれるの?」


なんとなく、ここで聞かなかったら後悔する。
そんな予感に突き動かされて聞いてみた。

「ふむ・・・・・・まあ、一言で言えばお礼みたいなものかな?」

お礼?
それに私達?
疑問符を浮かべる私に頷くと、ドクターはさてどこから話したものかと呟きながら思考をめぐらし始めたようた。
そして一通り考えを纏めたのかこちらを向く。

「・・・私はね、ずっと自分自身の存在について知りたかったんだ。
 生命操作技術もゆりかごも戦闘機人もその為の道具でしかなかった。」

まあそれなりに愛着は持っていたがねと付け足すドクターの言葉を私はすぐには理解できなかった。
私にとってドクターはドクターで、そうと言うしかない。
けれど、ドクターにとってそれではだめだったのかな?

「考えても見たまえ・・・。
 『人は一人では生きて行けない』
 これは美辞麗句として普段使われるが、我々人造生命体にとってなんとも残酷な言葉だと思わないかい?
 絆と言えば聞こえはいいが、人は誰かと関わらずに生きてはいけない。
 だが、残念ながら我々人造生命体が生まれながらに持っている絆は創造主とのだけのものだ。
 そして、我々は道具として生まれ心など不要。命令にただ従うだけの存在が求められることがほとんどだ。」

・・・なんとなく判る。
ナンバーズは皆私によくしてくれた。けれどそれはどこか、ドクターの命令に従ってるだけのように感じていた。


「管理局の・・・いや、我々と言う存在を言葉の上でしか知らない民衆は疑問に思ってるだろう。
 どうして、我々はどんな命令でも聞こうとするのか。命令に抗おうとは思わないのかと。
 答えは簡単だ。
 我々は命令を聞くことでしか、絆を保つ術を知らないからだ。」

「・・・・・・っ。」

何故か急に胸が痛んだ。

「クアットロやセッテはその顕著な例だろう。
 自らを機械と見なし、余計なことは考えずにただ命令を聞くだけの存在となろうとした。」

「セッテは判るけど・・・クアットロも?」

「ああ、彼女が生まれたばかりの話さ。
 だが様々な矛盾に出会ううちに機械としての自分を保てなくなったらしい。
 だが、我々は人として生きていくことも困難だ。
 道具と見なされ酷使されることで、精神は磨耗し人間性は壊れていく。
 人ではなく、機械でもなく。
 人造生命体は常にその矛盾を抱え続けることとなる。」

ああ、それは私も同じだ。
ドクターのお話は私にも当てはまる。
私にとって母さんが絆そのものだった。
母さんのためと言われれば私は何だってしただろう。
本当は、言葉さえ交わしたこともないのに、母さんだと教えられた言葉だけを頑なに信じ続けて・・・。


「私は自分が何者なのかずっと知りたかった。
 人なのか機械なのか、アルハザードの落とし子のクローンとして生まれた私は一体何者なのか?」

ドクターの気持ちは私にはよく判らない。
けれど、どことなくドクターも不安だったのかもと思わせた。
私にとっての母さんを、ドクターは探そうとしていたのかもしれない。

「・・・・・・答えは出たの?」

ドクターは肩をすくめて苦笑する。

「・・・・・・さぁ、どうだろうね?
 君やFの遺産の二人を見ていたら、私自身も一つの命。ただ、それだけでいい気がしてきたんだ。
 何を目的に生み出されたか。どこの誰に作られたかということよりも、その命でどう生きるか。
 そう考えると不思議なことに、今までの暗鬱としていたものから解き放たれたような気がしてね。
 今は凄く爽快な気分だ。
 だからこそ君達には感謝しているのさ。」

そこに至るまでの経緯は私には判らない。
少なくとも以前会った時のドクターは恨みと妄執に囚われていたと思う。
きっと、エリオとエリオの大事な人がドクターの心を溶かしたんだ。
私は、瓦礫の下敷きになって見えなくなってしまった二人に深く感謝した。



「ドクターは行かないの?」

「ああ、私が舞台に居座ることを望んでいる者はいないだろう。
 それに彼らの傲慢に裁かれるなど真っ平ごめんさ。」

冗談めかすドクターに私は一抹の寂しさを感じる。
ゼストとドクターも私の記憶の中で最初から居た人物達だ。寂しくないと言えば嘘になる。

「君が無事、地上に辿り着ける事を祈ってるよ。ルーテシア。」

「うん、ドクターは?」

「私は最後の後片付けが残っている。
 目的の一つを果たしたとはいえ、やはり管理局は忌々しい存在であることには変わりないし、彼らに私の作品を弄繰り回されるというのは気分のいい話ではないからね。
 ああ、そうだルーテシア。これを・・・。」

何かを思い出したかのように、ドクターは白衣のポケットから小さなメモリを取り出し私に手渡した。

「これは?」

「もし、何かの縁で私の娘達に出会ったときは渡して欲しい。
 まあ私の遺言のようなものさ。」

私はそれを両手で握り締め大事に閉まう。

「絶対に・・・絶対に、届けるから・・・っ!」

「そう大したことは書かれていないさ。
 『私のことはいいから、好きに生きろ』と書いてあるぐらいだ。あの子達はきっと私の言葉など無くても実行できるだろう。」

それでも、ナンバーズにとってドクターは大きな存在だと思うから・・・。
私は心に誓った。





ルーテシア達を見送った後、私は断続的に崩壊の進む基地を見渡した。
既に生者は私一人だ。
トーレもセッテも、Fの遺産の二人ももはや生きてはいないだろう。
私は両の掌のデバイスを起動させる。

結局のところ私は私でしかない。
それが私の出した結論だった。
ならば最期まで私らしくあろうではないか。

「ふむ、まずはFの遺産二人のエンバーミングから始めようか。」



【フェイト・T・ハラオウン執務官 潜入中に基地の崩落により死亡】
【エリオ・モンディアル三等陸士 ハラオウン執務官を救出に向かい基地の崩落により死亡】
【ジェイル・スカリエッティ 基地の崩落により死亡】
【ナンバーズⅠ ウーノ ヴェロッサ・アコース査察官に逮捕される】
【ナンバーズⅢ トーレ 行方不明】
【ナンバーズⅦ セッテ 行方不明】
【ルーテシア・アルピーノ 行方不明】
【ガリュー 行方不明】
【メガーヌ・アルピーノ准陸尉 行方不明。基地内に資料は残されていたものの、それらしき遺体は発見されず】







あとがき

本製品には重大な欠損が出ていることが先ほど判明致しました。
出来るだけ早く修正パッチを配布致しますのでどうかそれをお待ちください。

タイトル詐欺ごめんorz



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