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No.10626の一覧
[0] 【一発ネタ】 凡人終末端  リリカルなのはStS  ティアナ憑依 TS注意【やっつけ仕事】[痴話詐欺離散](2009/08/10 23:04)
[1] タイトルとか募集中[痴話詐欺離散](2009/07/29 01:18)
[2] 皆の心が広いなと感心することしきりw ※おまけ追加しました07/30[痴話詐欺離散](2009/07/30 17:56)
[3] お食事時を避けてください[痴話詐欺離散](2009/07/31 23:40)
[4] 頑張りすぎは身体に毒と自分に言い訳 ※08/04 おまけ追加しました[痴話詐欺離散](2009/08/04 22:53)
[5] 今回はそのうち書き直すかもしれません。ジ○スラックコワイ(ガタガタ[痴話詐欺離散](2009/08/10 02:19)
[6] 休日はBADEND多発警報が出ています。お出かけの際は十分ご注意ください[痴話詐欺離散](2009/08/10 23:07)
[7] 自分の文章力の低さに絶望する日々[痴話詐欺離散](2009/08/19 15:45)
[8] END8 拡張ぱわーうpキット 前編 也。[痴話詐欺離散](2009/08/24 16:47)
[9] END8 拡張ぱわーうpキット 中編 也。[痴話詐欺離散](2009/09/10 01:24)
[10] END8 拡張ぱわーうpキット 後編 未完也。[痴話詐欺離散](2009/10/07 07:48)
[11] END8 拡張ぱわーうpキット 修正パッチ[痴話詐欺離散](2009/11/02 05:42)
[12] END8番外編 【あの『Cradle-Ara』総監督に突撃インタビュー!】[痴話詐欺離散](2009/11/10 03:51)
[13] タイトル未定その①[痴話詐欺離散](2010/04/28 22:52)
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[10626] END8 拡張ぱわーうpキット 前編 也。
Name: 痴話詐欺離散◆a0b861c5 ID:2607750c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/24 16:47

――チンク 地下道


「くそっくそっ!あいつら全員ぶっ殺してやる!
 チンク姉をこんな目に遭わせやがって!」

身体が熱い。
本来なら痛みを感じるところであろうが、熱さがそれを覆い尽くしてくれる。
おそらく既に痛みの許容量を越えたせいだろう。脳が痛みをカットしてくれているせいでこんなにも穏やかな気持ちを抱ける。
そして、それは私はもう保たないことを意味している。


「ノーヴェ。もういい、そろそろ降ろしてくれないか?」

私を抱えて走行していた妹に声をかける。

「駄目だ!早くドクターに見せないと!」

ああすまん。だが、もう間に合わないだろう。
割れた卵を元の状態に戻すことはいくらドクターでも不可能だ。

「お前の顔が見たいんだ。背負われていては見えない。
 頼む降ろしてくれ・・・。」

「けどっ!」

ノーヴェは立ち止まりはしたものの、なかなか私を降ろしてくれそうには無い。
ノーヴェが迷っていると横合いから声が掛かった。タイプゼロに瀕死に追い込まれたこの姉を助け出してくれたセインだ。

「ノーヴェ、おろしてやんな。
 チンク姉、それでいいんだよね?」

「ああ。」

セインはもう気付いているか。
そして自分のやるべきことも理解している。
私は安堵の息を吐いた。



ドクターによる宣戦布告がなされる、少し前。
私はタイプゼロファーストを鹵獲し、ウェンディに引き渡していた。
そこへ現れたセカンド。
ファーストを無傷で確保できたことで驕りも私にあったのだろう。妹達を先へ逃がし、足止めを行おうとしたところでこのような無様な姿にされてしまった。その上、妹に助けられては姉としての面目は丸潰れだな・・・。

「ギン姉を・・・・・・ティアを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

セカンドのそれは悲痛な叫びだった。
ディエチの砲撃により死亡した者がいるとは聞いてはいた。おそらく、その者の知り合いか友人だったのだろう。
恥ずかしい話ではあるが、私はセカンドと向き合うまで我々が仇となっていることなど思いもしなかった。そして、初めて直面する大切な者が奪われる悲しみと怒りは、私が恐怖するに十分なものであった。

硬直しきった私の身体にセカンドの拳が突き刺さる。
おそらくあれは我々のような戦闘機人に対抗して作られたものなのだろう。私は全身のフレームが砕け散る音を聞いた。
さて、あと何分持つか・・・。



経緯を振り返るのをやめ、私は二人の妹達に目を向けた。
ノーヴェは涙と鼻水を流し必死に呼びかけてきている。ああ、そんなに泣くな。これでは心配で逝けないではないか。
セインはと言うと、涙をこらえ姉の言葉を一言一句として聞き漏らさんとしている。偉いぞ、やはりお前は私の次の姉だ。


「・・・ノーヴェ。」

「な、なんだ、チンク姉。どこが痛いんだ?!」

「お前は口は悪いが、誰よりも姉妹達を大切に思ってる。どうかその気持ちを忘れないでくれ・・・・・・。」

「な、なんでだよ!なんでそんなこと言うんだよ!?」

「・・・セイン。」

「はい。」

「お前とも長いな。」

「私が生まれてからかれこれ十二年だからね。」

「お前のやり方でいい。妹達のことを頼んだぞ。」

「合点♪このセインさんにお任せください!」

「セインもっ!チンク姉は死ぬようなこと言うなよ!!」


仕方の無い奴だ。
お前は生まれたときから姉が面倒を見たせいでお姉ちゃん子だったな。

「ノーヴェ・・・どこにいる?お前の顔が見たい。」

もう真っ暗だ。
夜空に浮かぶ月ほどにしか光が見えない。

「・・・チンク姉、目が見えて・・・っ。
 ここだよ!ここにいるよ、ノーヴェはここにいる!」

「あ、ああ・・・・・・やっと見えた。
 ノーヴェ、セカンドや彼女達を恨んではいけないぞ・・・」

「ど、どうしてだよ!
 あいつらのせいでチンク姉はっ!」

「彼らとて、大切な誰かの為に戦っているんだ・・・。
 故あって道は違えてはいるが、そこにある思いはお前と同じだ・・・。姉は最期にやっと気付けた。
 お前は姉よりも早く気付いて欲しい。・・・そうすればまた違う道も開ける・・・・・・。」

「わかんねぇよ・・・・・・そんなのわかんねぇよ・・・。」

「判るさ。・・・・・・お前とセカンドはやはりよく似ている。
 姉の言葉を信じろ・・・・・・」

ああ、もう感覚が無い。
姉は言うべきことを全て伝えられただろうか?
他の姉妹達の顔ももう一度見たかった・・・

だが、戦闘機人として生まれてきてこのような安らかな気持ちで死ねるとは思わなかったな。
生まれてから今日まで十五年の日々が目蓋の裏を巡っていく。
ああ・・・悪くない人生であった・・・・・・

・・・・・・姉は幸せ者だったぞ・・・・・・



「・・・チンク姉・・・?
 おい、目を開けてよ!死んじゃ嫌だよチンク姉!・・・・・・チンク姉ェェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!!!」



【ナンバーズⅤ チンク  スバル・ナカジマの振動破砕拳を受け一時間後に死亡】



    ◆




――アルト ???




「おい、アルト!しっかりしろ!」

「重傷人なんですよ!道を開けてください!」

あれ?ヴァイス先輩だぁ~。
目が覚めたんですねぇ。よかったー。
けどなんで逆さまなんですか?
ああ、そっか私ベッドに寝かされて運ばれてるんだ。


フォワードメンバー三人を前線に送り届けて、帰還しようとしたところで戦闘機人にヘリごと撃墜されて・・・・・
・・・・・・あ、ごめんなさい先輩。ヘリ・・・壊しちゃいました。

「馬鹿っ、そんなのどうだっていいんだ!
 お前は大丈夫なのかよ!」

馬鹿ってひどーい。
先輩ってばいつもそんな感じで・・・けどやるときはちゃんと決めて・・・。

知ってましたか?私、ヴァイス先輩に憧れていたんです。
いつか私も先輩みたいになりたくて、ヘリのライセンス取ったんですよ?

それで・・・・・・ちゃんとこなせれば、勇気出せるかもって思って頑張ったんですけど・・・・・・最後の最後で油断しちゃったみたいです。反省。

「馬鹿野郎!俺なんかよりももっとすげぇ奴はたくさんいるだろうが!
 こんな、こんな俺なんかより・・・・・・っ!」

そうかもしれませんね。
けど、あたしに勇気をくれたのはヴァイス先輩なんですよ?

先輩は疲れてお休みしてるだけなんです。
時が来ればきっとまたいつもの先輩にもどれますよ。

ああ、これから手術なんですね。
あの先輩・・・・・・ちょっとだけ勇気をもらえますか・・・?
いつかみたいに、頭を撫でて・・・・・・ふぁあ?


「・・・・・・がんばったな、アルト。本当によく頑張った。」


や、やるならやるって言ってからやってください!
けどなんだか勇気湧いてきました。ありがとうございます。

「ああ、俺も自分がやるべきことが見えてきたぜ」

そうですか。えへへ、やっぱ先輩はそうじゃないと。
それじゃあ行ってきます。先輩。

「ああ、またな。」





それは死の間際に見た幻影か。
アルト・クラエッタ二等陸士が発見された際、その表情は驚くほど穏やかなものだったという。
そして、死亡推定時とほぼ同時刻。
二ヶ月近く眠り続けたある男が目を覚ました。


【アルト・クラエッタ二等陸士  帰還中にナンバーズ・ディードの強襲を受け撃墜及び死亡。】



   ◆



――セイン ゆりかご玉座



見つけた!
玉座にはやはり聖王の器が縛り付けられていた。

「・・・こいつを連れて行けばっ」

教会と取引が出来る!
こんな拘束具なんか私の能力使えば簡単簡単。ほら出来た。
けれど、ゆりかごの構造はディープダイバーを使いにくくさせるみたいだ。見つからないように慎重に脱出しないと。

私は器を抱えて静かに走り出した。



ドクター、ごめん。
これが裏切りだって自覚はあるんだ。
だけどチンク姉の言葉を思い出して、私が姉妹のために出来ることは何なのか考えた結果なんだ。

ノーヴェはセカンドに対する殺意をもう隠そうともしない。
他の妹達もチンク姉の死にショックを受けている。

私は『姉ちゃん』だから。
妹達を守らないといけないんだ。
許してもらおうなんて思ってない。
・・・だけど、いつかは判ってくれるよね・・・?


「あ~ら、セインちゃん?
 そんなに急いでどこにいくのかしら~ん?」

「げっ」

よりにもよってメガ姉かっ!

「や、やっほー・・・クア姉・・・。
 ・・・ちょ、ちょっと忘れ物しちゃってさぁ・・・・・・」

「も~ぉ、仕方の無い娘ねぇ。
 それで忘れ物は見つかったかしらぁん?」

「う、うん。
 それじゃあ、私はもういくね・・・・・・」

さっさと退散するに限る。
ゆりかごさえ出れれば、私のディープダイバーに追い付ける者なんていないのだから。

「じゃあ、お姉ちゃんの忘れ物も返してくれるかしら?
 その腕に抱えた聖王の器ちゃんをね」

ピタッ

・・・・・・やっぱりばれてたか。

「・・・ねぇ、クア姉。
 クア姉はドクターの計画がうまくいくと思ってる?」

「さぁ、どうかしらね?
 ドクターは遊び好きだから、いくつか計画に穴があるのよねぇ。
 まあ五分五分と言ったところかしら?」

「だったらっ!
 ・・・私達がそれにつきあわなくてもいいじゃん。
 私はもう姉妹が死ぬところなんか見たくは無いんだ!」

「お馬鹿さぁん。
 ・・・私達が何のために造られたか忘れたの?
 ナンバーズとはドクターの夢を実現させるための道具なのよ?」

「・・・どんな理由で生まれたとしても、どう生きるか決めるのは自分自身だよ!
 ・・・・・・見逃してクア姉。
 姉妹で戦いたくは無いんだ・・・。」

「・・・・・・しょうがないわねぇ・・・・・・。」

驚いたことにクア姉は道を譲ってくれた。
絶対にありえないと思っていたのに。

「仕方ないでしょ。私は後衛型で、しかもセインちゃんは聖王の器を持っているんですもの。
 聖王の器を無傷で確保することなんて私には不可能だもの。」

「クア姉・・・。」

「けれど、見逃すわけじゃないわ。
 すぐに他の姉妹達にも連絡するから頑張ってお逃げなさい。」

「ありがとう、クア姉!」

心の中でメガ姉なんて言っててごめん。
見直したよ!

そう思い、走り出そうとしたところでクア姉の呟きが耳に入った。





「本当にセインちゃんたらお馬鹿さぁん♪」





――衝撃。

肩から斜めに真っ二つにされたような感覚。
足がもつれ地面に器もろとも転がってしまう。
何?
何にやられた?!
GDなら識別は姉妹全員が出来るはず!
何より、一撃で私を戦闘不能に追い込むようなことは不可能だ。


「・・・・・・私はねぇ、あなたやウェンディのような戦闘機人にはいつも疑問を持っていたの。
 戦いの道具に心や個性なんて無駄なんじゃないかしら?って」


く、クア姉・・・?

横倒しになった世界の中で、一人の大男が姿を現す。
あれはクア姉のシルバーカーテン・・・・・・今まで隠れていた・・・?
けど、あいつは・・・・・・

「ゼ・・・ゼスト様・・・・・・?」

いつも、ルーお嬢様とアギトさんと一緒にいたはず男だった。
どうしてクア姉と一緒にいるの?
疑問が浮かんでは消えていく。

「だからね、ゼスト様に協力をお願いしたら快くお受けしてくれたのよぉん?
 これが、余計な心や個性を一切排除し命令だけをただ従順にこなす真のレリックウェポン!
 セッテちゃんに次ぐ最高傑作よ!」


「そんな、嘘だ・・・。
 ゼスト様がクア姉のお願いを聞くわけが無い・・・・・・。」

けれど、ゼスト様は私の言葉には一切反応しない。
その瞳には何も映っていなかった。

「そこは頼み方しだいと言うものよ。
 ゼスト様はぁ、ルーお嬢様を目の前で操って差し上げたら簡単だったわ。
 自分から身代わりを申し出てきてくれましたのよ。」

そ、そんな、ひどい・・・。

「・・・いらつくわね、その目つき。
 ゼスト。もういいから壊しちゃいなさい。
 ドクターには事情を話せば理解してくださるでしょうしね。」

頷いたゼスト様は、動けない私に向かって槍を振り上げる。


「クア姉っ!!!」

「ごめんねぇ、セインちゃん。
 クアットロお姉さまはあなたのこと・・・・・・大ッ嫌いだったのよぉ♪」


「っ?!・・・・・・IS発動!ディープダイバーッ!!」

鈍く湿った音が響いた。
それに続くかのように哄笑がゆりかご内部に伝わっていく。
いつまでも、いつまでも・・・。




   ◆




――ディード 廃棄区画



オットーが捕まった。
その情報を受信した瞬間、私は飛び出していた。

クアットロ姉様の静止する声は聞こえる。
だけど頭には入らない。
半ば無意識に回線を全て閉じた。
これで、オットーを助け出すことに集中できる。
私はさらに速度を上げた。

おそらくオットーを捕らえたのは、緑色の騎士と守護獣。
六課官舎を襲撃した際に合間見えた二人でしょう。
ならばこちらの対応も同じ。
隙を見て守護獣を一撃で撃破。
その後オットーを確保し、逃走。
あの騎士は立ち上がりが遅いでしょうから、十分です。
わざわざつきあってあげる意味はありません。

見えてきた!


光のスパイクと翠の糸に拘束されているオットー。
それをしたのはやはり予想通りの二人。

一旦ビルの陰に入って機を伺う。
ウーノお姉様からガジェットの支援が来れば十分だ。
どうかそれまで頑張ってください、オットー。



時間が・・・・・・過ぎていく。
ウーノお姉さまとは連絡が付かなくなった。
仕方なく、周囲から自律モードに入ったガジェットを確保してきたが、戻ったときにはあの二人の騎士だけでなく武装局員の姿も多数見える。

駄目、これでは戦力が足らない。
けれど、このまま手をこまねいていても状況は悪化するばかり・・・・・・。
打って出るべきか否か・・・。

経験の足らない私では判断が付かなかった。
だからだろう。
一人の武装局員がもたついたオットーに過敏に反応し、地面に組み伏せる。
苦痛に顔を歪めるオットー。
私は飛び出していた。








――ザフィーラ 同時刻



「この大人しくしろ!」

「待ってください!完全に拘束していますから手荒なことはやめてください!」

武装局員とシャマルの言い合いの声が響く。
きっかけは拘束した戦闘機人が移動する途中、膝をついたことが原因だった。
そのとき到着していた武装局員は慌てて地面に押さえつけ、バインダをかける。
それに対しシャマルは静止させたのだ。

まあ、大の男が見た目だけとはいえ女子供にムキになり、力づくと言うのは見ていて気持ちのよろしいものではないのは事実だがな。


つい先日、その見た目だけは女子供の戦闘機人にたやすく撃破されたことを思い出し思わず顔をしかめてしまう。狼の顔だが。
二度とあんな不覚は取らん。
そう気を引き締めた。


故に、再びあのときの二刀流の戦闘機人が強襲をかけてきても慌てずに初撃を防ぎ、逃げ道をふさぐことが出来た。
視線を交わすまでもなくシャマルは既に動き出している。
私の攻撃は戦闘機人の動きを制限するためのものだ。
本命は選択肢を狭められた先に設置されたシャマルのバインドである。
我々が何の対策もしていないとでも思っていたのか、目に見えて焦りが表情に浮かびあがる戦闘機人。
その時点で勝敗は決していた。



・・・・・・はずである。
我々に油断もミスは無かった。
その証拠に二人の戦闘機人も驚愕と困惑の表情を浮かべている。

それは二刀流の戦闘機人を追い詰め捉えたと確信した瞬間であった。
突如として両方の戦闘機人が蹲る。始めは何か攻撃のプロセスかとも考えたが様子がおかしい。
戦闘機人の二人は自らの胸を押さえのたうちまわる。その目は既に我々を見てはおらず、突如として発生した身体の違和感に混乱している。おそらく、かなりの苦痛が神経を侵してるであろうことが傍目にも判った。

一体何が起こっているのか?
当然の疑問を一旦思考の脇に置き、拘束を開始する。
調べるためにも捕らえるためにも必要な行動だった。
しかし、その次に目に入った光景に自らの目を疑ってしまう。


彼女達の胸から赤い結晶状の輝石が出現していた。
あれは『レリック』?!
何故だ?何故戦闘機人に埋め込まれている?!
彼女達から出現したレリックは赤い魔力を間欠泉のように噴出し始める。

「・・・これは・・・・・・レリックのメルトダウン?!
 駄目・・・・・・皆、逃げてっ!!」


もはや間に合わないことは判っていた。
だが、シャマルは言わずには居られなかったのだろう。
私はせめて我が主にこの光景を伝えることに全力を尽くす。



――――我が主 八神はやてよ
      我らは常に御身の傍におります
        例え幾星霜 次元の彼方 輪廻を何度巡ろうとも 我らが主はそなた一人
          これは世の不変の真理です

         再びご用命を申し付けられる日を 我らはいつまでもお待ちいたします――――






その赤いきのこ雲は、その日クラナガンのどこからでも確認することが出来たという。



【八神シャマル 主任医務官  レリックによるメルトダウンにより消滅】
【八神ザフィーラ  レリックによるメルトダウンにより消滅】
【ナンバーズⅧ オットー レリックによるメルトダウンにより死亡】
【ナンバーズⅩⅡ ディード レリックによるメルトダウンにより死亡】








――ディエチ ゆりかご玉座の間前の扉


こちらへ接近中の対象を発見・・・・・・ついに来たかっ!
ISヘビィバレル展開。初撃で決める。

拡大されていく敵映像。
だが、その姿は予想外のものだった。



「どもーっす!
 よかった、いきなりロックオンされかもってヒヤヒヤしたっすよ?」

こちらへ向かってきたのはナンバーズⅩⅠ、私の妹でもウェンディ。
姉妹達には全員IFFが掛かっているはずなのにそれを切っている。
あやうくこのまま撃ってしまうところだった。

「・・・どういうこと?ウェンディは地上部隊の掃討のはず。
 なんでここにいる?」

「うっひっひ。
 実はセインを探してるっすよ。見なかったっすか?」

「・・・見てない。
 セインはドクター達の護衛のはず、ここに居るわけが無い・・・。」

そう告げるとウェンディはいつものおちゃらけた雰囲気を消し去り、胸に手を当てる。

「・・・・・・。
 ・・・そうっすか。失敗したんすね、セインは・・・。
 ならあたしがその任務を引き継ぐしかないすねー」

「ウェンディ、一体何を言って・・・?」

「まあまあ、いいじゃないっすか。
 ちょっとここ通らせてもらうっすよ。」

思わず行く手を塞いでしまう。
それほどまでに今のウェンディは不審だった、

「駄目だ。この先は聖王の間、そこの番人が私の役割だから。」

「うーん、あたいらでも駄目なんすか?」

「敵の幻術かもしれない。IFFを切ってる相手を通すことは出来ない。」

あちゃー、けどドクター達に居場所知られるわけにはいかないっすからねー。
そんなことをブツブツと呟くウェンディ。
実のところあれが偽者だとは思えない。ライディングボードは本物同様の動きだし、言動が不明瞭すぎてあたし達の目を欺く意味を為していない。
だけど、今のウェンディを信用する気にもなれないことは事実だった。


「しょうがないっすねー。
 ディエチ、あたしはもうドクターの計画を1抜けたを決めたっすよ。」

「・・・え?」

「もうドクターの計画につきあわされるのは真っ平ごめんだと言ったんすよ。」

「・・・裏切る気か?」

「ディエチも思い出してみるっすよ!
 チンク姉は何故死んだのかを。
 あたしはもう姉妹から犠牲を出すのは勘弁っす。
 セインが教会騎士と接触して、戦闘機人は保護してもらうよう渡りをつけたっすからもうこんなことはやめようっす。」

「あたし達はドクターの駒だ。
 命令に逆らうことは許されてはいない・・・。」

「あたしら夢も希望もないっすから生みの親に従い続ける気持ちも判らなくはないっすよ。
 けど、大切なモノはあるっす。
 チンク姉はそのことを教えてくれたじゃないっすか。」

ほんの数時間前に姉妹とドクター達でチンク姉を弔ったことを思い出す。
皆――ドクターでさえも、沈痛な面持ちで安らかな死であることを祈った。
あのとき既に、あたしたちの心はばらばらになっていたのかもしれない。

「・・・だめだ。
 ウーノやクアットロがそれに従うはずが無い。
 チンク姉は姉妹が争うことなんて望んでいない・・・・・・と思う。」

「・・・同じものを見ても違う考え方をする・・・・・・っすか。あたしら、本当に人間みたいっすねー♪
 まあ、駄目だといわれても通らせてもらうっすが」

「駄目だ、ここは通さない!」

脇を抜けようとするウェンディにイノーメスカノンを構える。
咄嗟の反応だった。
だがそれでもウェンディ怯まない。

「・・・・・・これは、ここを通るなら力づくでも押し通れ・・・・・・って意味っすか?」

ウェンディはライディングボードの砲口をあたしに向ける。
十メートルほどの距離でお互いに砲口を向け合う形となった。

「・・・本気?」

「ナンバーズ1の砲撃屋はどちらか?
 それをここでハッキリさせるのも悪くないかもしれないっすよ・・・・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」



ウェンディは本気だ。
あたしを倒してでもこの奥を進むつもりだろう。
真っ向からぶちあたって、撃ち勝つのは十中八九あたしでもある。
けれど、それではウェンディは無事ではすまない・・・・・・。そのことを考えると、どうしても引き金を引けなかった。


「・・・・・・。」

「・・・いいんすか?」


気が付けば砲塔を下に降ろしていた。
気持ちで負けた。それが要因だ。

「・・・・・・あたしにはウェンディを止められない。
 けれど、ドクター達はどうするつもり?」

「教会の管理下に置かせて貰って管理局には手を出させないっす。
 多分、ゆりかごの研究者として迎えられると思うっす。」

そう、それなら・・・。
とてもドクターが大人しくしているとは思えないけれど、妥協点としては悪くは無い。
そう考えたときだ。


『駄目ですよーディエチちゃん。
 裏切り者を見逃したりなんかしちゃぁ。」

空間にディスプレイが浮かび上がる。
そこに映っていたのはクアットロだった。

「どーせ、クア姉のことっす。ずっと、聞いていたんでしょ?」

『ええ、もっちろぉん♪
 いけないわーウェンディちゃん。私達を裏切るだけでなくディエチちゃんまで唆すだなんて』

「別にそんなつもりはないっすよー。
 まあそういうことなんで、陛下は頂いていくっすよ♪」

スタスタとウェンディは進んでいく。
私はその背を追うことも止めることも出来ない。
そこにクアットロの命令が飛ぶ。

『ディエチちゃん。
 ウェンディを止めて頂戴。
 ドクターの悲願を止められるわけにはいかないの。判るでしょ?』

猫なで声に身震いがする。

「けど、クアットロ。
 ウェンディの気持ちも考えてあげて欲しい。
 あたし達はただ命令を聞く。それだけの存在でいいのかな?」

セッテ程機械然とは振舞えない。
セインやウェンディのように個性を確立することも無かった。
なら、あたしは人として生きるべきか機械として生きるべきか・・・・・・あたしはずっと迷っていた。
このままじゃいけないって気持ちはあるけれど、どうしたらいいか判らないんだ。


『・・・・・・。』


「ちゃんとウェンディの話を聞いてあげようよ。
 どうしたら皆が納得できるか話し合って・・・・・・」


『・・・はぁ、やっぱりディエチちゃんもなのねぇ。』

「・・・え?」

『実はねー。先ほど、オットーとディードが蒸発したって情報が入ったわ。
 うわぁ、こわーい♪』

・・・え?
クアットロは今なんて言ったんだろう?
オットーとディードが蒸発・・・・・・死んだってこと?
嘘、まさか、どうして・・・?
どうしてあの二人が死なないといけないの・・・?


『可哀想にねー♪
 私もあの二人には目をかけていたのにこんなことになって悲しいわー。
 けど、あの二人の自業自得ですしねー。』

「どういうことっすか、クア姉!
 なんで双子が死ななきゃならないんすか?!」

『うふふのふ♪
 実は私より下の妹達には、最終メンテナンスのときにレリックが埋め込まれているのでしたー♪
 ウェンディちゃんみたいに裏切る娘が出ることを予想してたのねー。
 任務中に二人以上のレリックを埋め込まれた戦闘機人が一定以上の距離まで近づくと、暴走する手はずとなっていたのでしたー。』

「嘘っす、そんなの!
 あのドクターが自分の作品を灰燼に帰すような真似するわけないっす!」

あまりのことに思考が停止してしまっていた私の代わりに、ウェンディがクアットロの言葉を否定する。
その言には説得力があった。
確かにドクターの最高傑作であるあたし達を破壊するとはとても思えない。

『あーら、ウェンディちゃん。
 私はあなたのことずーっとおバカさんだと思っていましたけれど、なかなか鋭いのねぇ。』

「ど、どういうことっすか?まさか?!」


『御明察~♪
 あなたたちにレリックを埋め込んだのはこの私。クアットロお姉さまでした~!
 正解者には金銀パールをプレゼント~♪』


「・・・・・・どうして?」

『だぁ~ってー。
 兵器は命令を聞いて殺しまくってナンボでしょう?
 命令拒否するような兵器に意味はなし。ましてや、仲間を囚われたからって冷静さを失うなんて減点よねぇ?』


それだけの・・・・・・それだけのことで、オットーやディードは死んだ?
なら、あたし達は今までどうしてこんなことを・・・・・・


「クア姉っ?!
 アンタって人は、どこまでっ!」

怒声を上げるウェンディ。
だけどクアットロはそれを軽く受け流す。

『それよりいいのかしら?
 レリックが埋め込まれたのはあの二人だけじゃないのよぉ~?』

「ま、まさか?!」

『AMF高濃度下だから連鎖反応が加速するのは若干遅れていたようだけど・・・・・・そろそろ始まる頃じゃないかしら?』

そう言われると胸に違和感がある。
血液が胸を中心に加速していく感覚・・・。

『オットーやディードちゃんの花火は綺麗だったわー。
 きのこ雲が真っ赤な放電現象で染まって、さながら世界の終わりのよう・・・・・・。
 あなたたちもそうなるのかしらねぇ?』


膝を突くウェンディ、表情が苦しげに変わる。

「今すぐ、解除するっすよ!」

『別に外してあげてもいいんだけれどねぇ・・・、そうねぇ

 [申し訳ありませんでしたクアットロお姉さま。これからはお姉さまの命令だけ聞く、お姉様の人形であり奴隷として振舞います。
  どうかこのウェンディをご自由にお使いください]

 と這いつくばってお姉さまの足に口付けするのなら考えてあげてもいいわよ?』


・・・・・・。


「へっ、冗談きついっすよクア姉。
 そんな気があれば元々こんなことしてないっす。」

加速していく苦痛に耐えながらも、そう気丈に笑うウェンディ。

「クアットロ、お願いだ。
 もう誰かが死ぬなんて嫌なんだ。あたしならなんでもするから解除してくれっ」

『お優しいわねぇ。
 そんな家族想いのディエチちゃんのためにいーいことを教えてあげましょう。
 レリックがメルトダウンは、ミッション中に生存している姉妹が一定距離まで近づいた際に発生するの。
 
 だから、片方を殺せばもう片方だけは助かることが出来るわねぇー♪』


予想外の言葉だった。
なんで、なんでそんな残酷なことが思いつくんだ。

「どうしてだクアットロ。
 ドクターはそんなこと望んでいない!」

その言葉にクアットロは少し頬に指を当てて考え込むが、再び邪悪な笑みが浮かぶ。

『ドクターの才能には尊敬していますわぁ~。
 けれど、もう遊びがすぎると常々考えていたのよ。
 本当に自らの目的を通したいならより冷酷に、より残虐に振舞うべき。そうでないからきっとチンクちゃんは死んじゃったんでしょうね。
 だからこそ、ゆりかごには私がやってきたの。
 ゆりかごさえあれば、勝ちは決まったも同然。
 その後、おなかの中のドクターはゆっくりより完璧にこのクアットロママが育てて差し上げますわ。
 今更、ドクターの意向など気にはしないのよぉん?』


「・・・・・・馬鹿げてる。」

「やっと、わかったっすか。ディエチ。
 クア姉は結局、自分の思い通りにならないのが目障りなだけっす。
 子どもなんすよ・・・・・・クッ?!」


『まさか、ウェンディちゃんにそう言われるとは思わなかったわぁ。
 まあいいでしょう。ディエチちゃん、もし生き残っていれば新たなドクターと共に桃源郷への旅へ同行することを許してもいいわ。
 それじゃあまた会いましょう。
 い き て た ら ♪・・・・・・プツン』


好き勝手なことばかりを並べて回線は閉じられた。






数分後、ゆりかご内部に微震が発生する。
突入していた武装局員は何事かと身構えたが数十秒後には停止した。
そこで散った二つの命の存在を知る者はいない。・・・・・・哄笑する一人を除いて。


【ナンバーズⅩ ディエチ レリックによるメルトダウンにより死亡】
【ナンバーズⅩⅠ ウェンディ レリックによるメルトダウンにより死亡】
 


   ◆



――キャロ 廃棄区画



ああ、私死ぬんだね・・・。

身体は動かせないけど、駆け寄るエリオ君とルーちゃんの顔を見て理解してしまった。
不思議なことにあまり悲しくは無い。
ただ、エリオ君たちを泣かせてしまったことだけが心残りかな。

あのとき、彼に気付いていたのは私だけだった。
それは、ルーちゃんとガリューをアギトの協力もあって、やっと説得出来たときだった。

空に出来た一つの黒点。
視界に入った瞬間には、既に私の腕はエリオ君の背中を突き飛ばしていた。
けれどその後のことはあまり覚えていない。
多分、胸から血が吹き出てることから攻撃を受けたんだと思う。


「キャロッ!」

ああ、エリオ君は無事だね。よかった。
あの攻撃はエリオ君を狙ったものだったから、間に合うかどうか微妙だったんだ。


「・・・・・・ゼ・・・ゼスト・・・、どうして・・・・・・?」

「だ、旦那?!本当に旦那なのか?!」

視線を横にずらすとそこには黒い騎士がいた。
その人の持っている槍の穂先から赤い血したっている。ああ、この人だったんだ私を殺したのは・・・。
ルーちゃんやアギトはあの人知ってるみたい。知り合いなのかな?

ゴフッ

「キャロッ!しっかりして!」

大丈夫だから。だから、そんなに悲しい顔をしないで。
そう伝えたいのに、出てきたのは他の言葉だった・・・・・・。


「ねぇ、エリオ・・・君。ゲホッゲホッ
 フェイトさん、褒めてくれるかな・・・・・・?
 キャロは頑張ったね・・・・・・って抱きしめてくれるかな・・・・・・?」


「あ、当たり前だよ!
 ふぇ、ふぇイドさんが褒めてくれないわげないよ・・・っ!
 だから、キャロ、一緒にフェイトざんのどころに・・・・・・」



「・・・えへへ、嬉しいなぁ。

 ・・・エリオ君、笑って。最期に見るエリオ君の顔が泣き顔じゃ嫌だよ。笑顔でお別れしよう。ね・・・・・・?」
 
「・・・・・・最期って、キャロッ?!
 フェイトさんに褒めてもらうんだよ・・・っ?だから・・・だから・・・っ」

「・・・・・・お願い。笑って・・・・・・。」

「・・・・・・こ、ごれでいい・・・かな・・・・・・?」

「・・・うん、かっこいいよ・・・♪
 ・・・・・・今まで・・・・・・ありがとう、え・・・り・・・・・・お・・・・・・・・・・・・く・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・キャロ・・・?
 キャロっ?!・・・・・・キャロォーーッ!!」
 




私は、ずっとひとりぼっちなんだと思ってた。

だからフェイトさんがおかあさんになってくれて嬉しかった。
エリオ君と兄妹になれて楽しかった。
皆と友達に同僚になれてもう泣きそうになるぐらい幸せでした。

みんな、ありがとう。





ねぇ、キャロ。
ひとりぼっちのキャロ。
そんなに泣かないで。
もうあなたは一人じゃない。
見て、大勢の人の笑顔に囲まれる未来があなたを待っている。
だから安心して眠りなさい。

――はぁい。


【キャロ・ル・ルシエ三等陸士 レリックウェポン・ゼストの攻撃からエリオを庇い死亡。】



    ◆


――オーリス・ゲイズ 長官室



『よくも・・・よくも、キャロをぉぉぉぉぉっ!!!』

『やめろっ!旦那は操られているだけなんだっ!』

『邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!』




敵から送られてきた映像。
そこには、思わず目を覆いたくなる光景が映っていた。

若くして散る少女の命。
仲間を失い激昂する少年の姿。
目の前の現実を直視できない少女。
あがくことしかできない、人形のようなデバイス。
そして・・・


「ゼ、ゼストさん・・・っ」

八年前に死んだと思っていた父の友人が生きて動いてる姿に、私は驚きを隠せなかった。


ゼスト・グランガイツ・・・・・・それはかつて犯罪者の施設に突入し、帰らぬ人となったはずの男の名だ。
当時遺体は見つからなかったものの、出血量など遺留状況から彼はKIA認定される。

生きてるはずはないと思っていた。
ではこの映像に映っている男は誰だと言うのだ?!
二十年は老けたかと思わせる容姿ではあるが、それは確かにゼストさんだった・・・。
何故、彼が生きていてそして年端も行かない少女を殺害し、尚も少年に対し刃を向けているのか。
疑問は次から次に湧き上がり、脳を埋め尽くしていく。
そして遂に飽和に達した疑問は、私の喉を通り父に発せられた。


「ゲイズ中将っ、一体これはっ!」

「・・・・・・ッ」


父は私の言葉など意に介さずに、ただ映像を睨みつけ続けていた。
その様子に私の苛立ちは加速し、さらに言及の言葉を続ける。

父の秘密主義的な部分は任官してからずっと感じていた。
父が何か公に出来ないことを行っていることは、地上本部である一定以上の階級に属している者ならば、大小の違いはあれ感じていた。
それでも誰も父を告発しないのは、父が主導する計画が効果を発揮してきたからであり、確かな証拠が見つからなかったからである。

本局の捜査官が私のところへやってきたこともあった。
おそらく、中将の秘書にして実の娘ならば何か知っているのだろうと思ったのだろうが、結局はムダ骨に終わる。


父はずっと一人で戦ってきたのだ。


それは局員を護ると同時に、今日のような事態に陥った時のためであろう。
犯罪者から通信により、既に父から指揮権は奪われている。
混乱の中であっても、かろうじて地上部隊が稼動出来ているのはこのためだ。

私はそのことを誇らしく思うと同時に、苛立ちを隠せない。
父を慕ってくる者は、私やゼストさんを含め大勢いたはずだ。
なのに何故たった一人で戦い続けたのか。
私達に廻されるのは、精々が書類改竄程度で計画の全容を知らされることは無い。
例え発覚しても、中将の指示であったと証言すれば執行猶予がつく程度のものである。
そんなに我々は信用できなかったのかと、ずっと問い詰めたかった。
私達は、父と罪も罰も共有したかった。
共に、同じ未来を描きたかった。
護られたくなど無かったのだ!



溜め続けてきた想いは言及となって父にぶつけてしまう。
それを何度繰り返しても父からの返答は無い。
もはや、しゃべり疲れて最後の言及になろうかという時に、父の重く大きな拳によってデスクが叩かれた。


・・・・・・っ?!
身体がすくみ上がる。
幼き日、勝手に父の書斎に忍び込んだ後の衝撃が脳裏に蘇った。
怒られる?!
そう身構える私であったが、やはり父の視線は私ではなく映像へと向けられていた。


「・・・・・・どこまで・・・・・・どこまで、邪魔をするというのだ・・・・・・ッ!」


いつものように激しい激昂の声ではなかった。
深く静かな嘆き混じりの怒りの言葉。
父が本当に恐いのはこういうときだ。
こんなとき、父は既に覚悟を決めているのだから。


ガタリ・・・

「オーリス、後を頼む。」

「どこへ行こうと言うのですか!あなたには職務があるはずです!」

立ち上がった父の目の前に立ちふさがる。
駄目だ、このまま父を行かせてならない。
脳内の警笛がそう告げている。


「もはや、俺に出来ることなど無い。
 指揮権を取り上げたのはお前ではないか。生意気に育ちおって。」

「あなたには、責任を取るという最後の大仕事があります!
 逃げることは許されません!」


こんな詭弁で父は止められまい。
父が死ぬことで自動的に全ての責任は押し付けられることはほぼ確定しているのだ。
・・・・・・ああ。
私は気付いてしまっている。
父が死ぬために行こうとしていることを。


「・・・俺を待っている男がいるのだ。
 道に迷っているのなら、俺から出向かなければならん。
 それがあいつに対する責任なのだ・・・・・・。」


カツカツと横を抜ける父を止めることはもはや出来なかった。
困らせてしまう。迷わせてしまう。
それでも結局父は私を振り切って行くのだろう。
なら、止めるのは父の余計な負担となってしまう・・・。

振り向かないまま、父が部屋の扉を開く音がする。
父との最後の記憶がこんな無力感に満たされたものになるとは思っていなかった。
私はこれから何度もこの時間を思い出し、後悔することになるのだろう。
なんとひどい男だ。
好き勝手に思うがまま生きて、家族の気持ちなど顧みることの無かった、最低の父親だった。
だからこそ、行ったと思った瞬間にかけられた言葉は予想外だった。



「・・・・・・母さんにすまないと伝えてくれ。
 それからオーリス、お前は私のようになるなよ・・・・・・。」



腰から崩れ落ちた。
あふれ出す涙が止まらない。

「・・・お、お父さん・・・ッ」

ずるい。ずるいずるいずるい。
最後の最後で父親に戻るなんてずるすぎる。
・・・・・・これじゃあ、恨めない・・・。

涙を振り払い、父の背を追いかけよう。
この気持ちを伝えなければならない。
あんな最後じゃ悲しすぎるから。


脱げかけのローファーを脱ぎ捨てて、ストッキングのまま立ち上がる。
せめて、後姿だけでもっ!

それが私の最後の思考。


気が付いたら、赤い地面の下で横倒しになった世界で小さく遠くなった父の背中を眺め続けていた。

「あの人はもう帰らない。
 私としましては、機密にもっとも近づいていた貴方を始末することで任務は完了です。
 今までありがとうございました。」

空中から聞こえてくるそんな声を聞きながら、私の意識は闇に落ちた。



【オーリス・ゲイズ防衛長官秘書 ナンバーズ・ドゥーエの暗殺により死亡】



    ◆



――なのは 聖王の間



『陛下のママを殺したわるーい悪魔がそこにいます。
 あの悪魔を殺したら、きっと陛下のママも帰ってきますよ』

「・・・ティアナママ。帰ってくるの・・・?」


あの戦闘機人の言葉とコマンドでヴィヴィオの身体が変化していく。
そして、最後にはスバルや・・・・・・ティアナと同じぐらいの少女になっていた。
これが、聖王の鎧?いや、レリックの作用!


「あなたが・・・・・・ママを殺したの・・・?」

「違うよヴィヴィオっ!私だよ、なのはママだよ!」

「・・・・・・ひっ、違う・・・。私のママはティアナママだけ・・・。
 あなたなんかママじゃないっ!」

「はっ・・・・・・それは・・・っ」

「・・・ティアナママを・・・・・・返してっ!」


膨れ上がる魔力。
まさかここまでヴィヴィオが魔力を内包しているだなんてっ!
それにあの娘、きっと私が認識できていない。
今、ヴィヴィオのママはティアナだけなんだ・・・。


ティアナを失ったときの光景が蘇る。
ヴィヴィオを命を捨ててまで護ったティアナ。
私の教え子で・・・・・・初めての殉職者。

本当にあと少しで助けられていた。
前日に一時間早く寝ていれば・・・、出撃前の講座の最中に一度休憩を入れていれば・・・コンディションは違ったかもしれない。
一秒に足らない時間が、一人の命を奪い、一人に大怪我を負わせ、そしてまた今、一人の女の子の運命を作用する要因となっている。
もう、あんな・・・目の前で落下していくヘリなんか見たくはないからっ!

絶対にヴィヴィオは助ける。
ティアナが護った命を失わせないっ!
だから、お願いティアナ。力を貸して。

それは都合のいい解釈。
ティアナが力を貸してくれるとは限らない。
むしろ私を恨んでいると思うの。
それでもいい。
どうかヴィヴィオを助ける間だけでいいから、お願いティアナァッ!



「レイジングハートッ、ブラスターリミットⅡ!」

「・・・ティアナ、ママを・・・返してぇぇぇぇぇぇっ!!」





螺旋を描く桃色の虹色の魔力。


悲劇は未だ終わる気配を見せない・・・・・・。














あとがき

実はEND8は今回と次回の話を入れて完成となります。
本筋としてはティアナママが軸だったので余計なものは極力省いた結果でした。

後半は出来るだけ早く投稿します。
ネタは鮮度が命と言いますしね!

けれど仕入れたらすぐに投稿してしまいたくなるのもまた人情なのです・・・


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