ランスを一度外に叩き出し、ありあわせの服に着替え、外に飛び出す。「戦争ってどういうことですか!? 一体どこと?」「知るか! 俺だって、夜中に叩き起こされたんだ!!」 遠い爆発音が付近からの爆発音に変わる。見渡せば、ほんの1キロ先で煙が上がっている。「そんな……、どうして」「アルトリウスこっちだ!」 顔を巡らせた先、彼がまたがっているソレが眼に入る。 ホバーバイク――― ロンドン市街とその周辺のほとんどが環境保全と安全確保のために、ガソリンを使用しない電気自動車、飛行能力を持つエアカー以外を規制したため、それまで走っていたバイクフリークスは真っ向から痛手をこうむった。 そんな中、ある企業が開発し実用新案として登録したのがホバーバイクである。 だが、このバイク、ロンドン市内中心部での走行が禁じられていた。なぜかといえば、そのスピードと安全性に問題があるのである。 完璧を詠って販売されたバイクは、当初は走行を許可されていた。だが、どこの時代でも馬鹿は存在する。ホバーバイクでの死亡事故、主に市内中心部での事故が多発したのだ。 100キロという速度を軽く叩き出し、その速度でもって激突すればまず死ぬ。しかも、ホバーという特性上緊急停止もままならないのだ。 そんな危険な物に乗るくらいなら、空中飛行を可能にしたエアカーや、後に追う様に開発されたエアバイクに乗る方がまだマシと言える。 そこで、政府は市内でのホバーバイクの走行を禁じ、違反者にも重罪が課せられることと相成ったのだ。 そんな訳でホバーの利点といえば、地形に影響されないということのみである。 というか、こんな物を何故ランスが持っていたのが初耳だ。 「乗れ!!」「ランス、こんな物をどこから!」「親父のコレクションだよ。一番スピードが出るんでね」「どこへ行くつもりなんですか?」「大学だ! あそこなら、地下室もある。しばらくは身を隠していられるさ!」 バイクを急発進させる。 ゴガァァァァン!! 発進に遅れて10秒もせずに背後から爆発音が聞こえてきた。 振り返れば向かいのアパートに風穴が開いている。「馬鹿な。砲撃の音などしなかったのに……」 バイクで疾走する。街中のほとんどに火の手が上がっていた。 それは、紛れも無い戦場。私にとっては最も身近で、最も忌むべき場所。 建物は崩壊し、逃げ惑う人々はもはや自分の命しか守る事を赦されない。 さらに運が悪いことに、どうやら制空権すら敵の手にあるらしい。 散発的に空中で爆発音が聞こえてくるのだ。近くで起こった爆発音の元はやはり空中飛行中のエアカー。 どうやら敵は一切逃がしてくれる気配はなさそうだ。そういう意味で、飛行機能を持たないホバーで逃げると言うのは妙手だったのかもしれない。「イギリスの軍は何をやっているんですか! みすみす敵に首都を叩かれるなんて!」「しらねぇよ! 俺だって混乱してるんだ! 北や南でガス爆発が頻繁してたが、外敵がここに来るなんて思ってもみねぇよ!」 各国が軍縮を行っている中、ヨーロッパは特にそれが顕著だった。 イギリス、イタリア、フランス、オランダ等のEU各国は世界に先駆けて軍を20世紀の40%まで減らしている。 そして、装備もおざなりな物だった。せいぜいが、各兵士にアサルトライフル、ピストル、防弾着が行き渡ればそれでOKな、いい加減な管理なのである。 しかし事実として、それでヨーロッパ諸国は100年を平穏に過ごしていた。 だれがそんな状態で戦争を始めようなどと考えるだろうか。それに、起こったとしてもまともな反撃も防衛策もままならない。そしてここはイギリスの首都なのだから軍を入れるにも問題がある。 ロンドンには700万人からの人間が生活している。そんな場所にまともに兵士など投入すれば、人的被害は計り知れない。 最も敵はそんな事などお構い無しのように、破壊し、吹き飛ばし、殺しまくっているのであるが。 だが妙だった。バイクで走っているだけで、周囲に殺されたのか爆発に巻き込まれたのか、まさに死屍累々、倒れている人がいると言うのに、敵の姿が一向に見えない。「おかしい……、戦車の一台も無いなんて」 町全体がすでに戦場と化している。その中でこれだけの被害を出して回れる物など、じゅうたん爆撃か戦車が50台以上必要である。 それなのに、聞こえてくるのは爆発音と散発的な銃撃音。敵の気配が全くといっていいほど見えない。 レールキャノンを使った超長距離砲撃だとしても、着弾の前に砲弾が空気を裂く音が聴こえて来てもよさそうな物だが、それも全く無い。「まさか……」 バイクの行き先を見る。T字路の突き当りが見えていた。右へ行けば大学へ近道だが、「ランス! 左へ!!」「あぁ!? 何でだよ!」「右は危険です! 左へ曲がってください!」「馬鹿言え! それじゃあ遠回りに……!」「左へ!!」 T字路は目の前。だが、あそこを右に行っては……、「くそ! 判った!!」 ランス器用にバイクを操り、左へと大きく迂回する。 後ろを振り返る。そこには何も……、 ゴガァァァァ!! その途端、その両方に立っていた建物が内部から爆発を起こす。「―――なっ!?」 そして、崩れた建物からの噴煙が覆う直前、そこに何者かの影が見えた気がした。 大学に到着した。 早朝に加えてこんな状況だ。他の学生や一般人が非難して来ている可能性もある。入り口には数台の車やバイクも乗り捨てられていた。 扉に手をかけるランス。しかし、厳重な鉄の扉はびくともしない。「くそ、閉じてやがる」 当たり前だ。我が大学は貴重な考古学品を扱っている関係上、セキュリティは相当に堅固に出来ている。「ランス、学生証は持ってきていないのですか?」「は? ……あぁ、一応な」「出してください」 ポケットから出したランスの学生証を受け取ると、扉脇のカードリーダーへと滑らせる。 ピピー! ガシャン! 扉が開いた。「は!? そんなセキュリティ付いてたか?」「……ランス、貴方も深夜に出入りしていたなら分かるでしょうが……」「いやー、いっつもお前か別の奴と一緒だったからよ」 3年経って知る意外な事実……、では済まされない気がするのは私だけだろうか??