3時間後「だぁぁぁぁぁ!!どうして、こう私ってば!!」 私はあの衛宮士郎の家に全力ダッシュしていた。 当たり前だ。ランサーは目撃者を逃がさない。どこまでも追って始末する。 聖杯戦争とは、否―――魔術師の戦いとはそういう物だ。 あまりの虚脱感と、ショックでそれを失念していた私は、唐突にそれを思い出していた。 おかげで、魔力もスッカスカな私は引きずるような足で走らなければいけない羽目に。「凛、大丈夫ですか?」「大丈夫……と言い……たいけど、結構……駄目……かも」 駄目だ。体力も無い。膝を突きそうになった所を、いきなり抱えあげられた。よく言うお姫様抱っこという奴だ。「えっ!ちょ、アーチャー!?」「急ぎます!凛はそのまま身を任せてください」 言うが早いか、疾風の様に走り出すアーチャー。 ……スゴイ、あっという間に景色が流れていく。「あっ、アーチャーそこみ……」 右、という前にアーチャーは方向転換していた。この街は初めてのはずのアーチャーはまるで通いなれた通学路だと言わんばかりに駆け抜けていく。 私だって、彼の家は少し大きい武家屋敷だと知っているだけ、道順だってうろ覚えだ。なのに、アーチャーは何故??「…………アーチャー、あんた」「着きましたよ、凛」 10分もせずに衛宮家へたどり着いていた。「降ろしますよ」「え、えぇ……」 アーチャーの腕から開放される。 目の前には武家屋敷。いざ乗り込もうと思ったそのとき、まばゆい光が中から漏れてきた。 そして、いきなりの戦闘音。「……これって」「サーヴァントの召喚ですね。……よかった」「よかったって、何が……」「凛、下がって。来ます」 次の瞬間、塀の向こうからランサーが飛び出してきた。「アイツ!」 だが、ランサーはこちらを一瞥しただけで逃走してしまった。 そして、ソレを追うように飛び出してくる影一つ。「サーヴァント!」「はぁぁぁぁぁ!!」 元々狙いはこちらだったのか、落下の勢いを利用して手にした"何か"で斬りつけてくる。 甲高い金属音と共にアーチャーが取り出した双剣と打ち合い、 バキャン!! その両方を叩き折っていた。「―――っ!」 身を引いたために斬撃は鎧の表面を削っただけ。 斬られはしなかったが、着地と同時に、サーヴァントは返す刀で横薙ぎにアーチャーに斬りかかり、 ギン!! アーチャーが持っている"何か"がその剣を受け止めていた。 そのまま弾き飛ばす。器用に着地したサーヴァントはその体勢からさらに弾ける様に切りかかってくる。 迎え撃つアーチャー。 ギャン!!! お互いの持つ"何か"が、強烈な魔力の余波を撒き散らす。「なにっ!?」「やめろセイバーーーー!!!」 屋敷の中から衛宮士郎が飛び出してきた。 その声にセイバーの踏み込もうとした足が止まる。 そして、ソレを待っていたかのように曇天の空から月が顔を覗かせた。 その月明かりの中、「ちょっと、何よコレ……」「なっ……!」「えっ、何で……」「……………………」 互いが互いに、信じられないものを見て声を失った。 向かい合うサーヴァント。両者は合わせ鏡のように同じ姿をしていたのだ。 青い装束、白銀の鎧、絹のように細かい金色の髪。 ただ、違うのは……セイバーが髪を結い上げているところと、アーチャーの方が背が高い所だけ。背丈的に言えばアーチャーが一番高いんじゃないだろうか。「……こんばんわ衛宮君。いい夜ね」 とりあえず、動揺を抑えてそう言った。「……お前、遠坂?」 うん、向こうはいまだ混乱している模様。とにかくここは……、「止れ!」 セイバーが剣を持ち上げる。 眼をやれば、アーチャーが無造作に足を踏み出していた。「アーチャー!ちょっと……!」 制止の声を聞かず、アーチャーの足は止らない。しかも、いきなり武装を解除した。「―――! 貴様、何者か知らんが……それ以上……来た……ら」 こっちからは判らないが、セイバーがいきなり毒気を抜かれたような表情になり、 ポンッと、すれ違いざまアーチャーに頭に手を置かれていた。それに対し、セイバーは微動だにできないでいた。「え……。え?」 最後に衛宮君の前に跪いたかと思えば……、首に手を回して抱きつきやがったのだ。『―――はぁ!?』「え、ちょ……な、何で!?」 私とセイバーの絶叫と、衛宮君の狼狽する声が響き渡り、「……会いたかった、シロウ」 その声は、誰の耳にも入っていなかった。