時刻は7時を回っている。 朝はことごとく苦手である。 しかも昨夜はアーチャーを召喚して魔力がカラカラになったせいもあるのか、2時間寝なおして気だるさ3倍といったところか。 とりあえず身なりを整えてから階下へと降りた所、 「おはようございます、凛。失礼かと思いましたが、紅茶を頂いています」 芳しい香りが居間に満ち、ソファに座ったアーチャーが優雅に紅茶なんぞ嗜んでいやがりました。 ん?何か違和感があるぞ。 「あれ、アーチャー。アンタ鎧は?」 そう、アーチャーは鎧を着ていなかった。今の彼女の姿は鎧の下に着ていた装束だけである。 ―――あ、大きい。 「鎧ですか?あれは私の魔力で編んでいたものです。維持だけで魔力を食うので今は解除しています。有事の際は一瞬で武装が可能ですが、着ていた方がよかったですか?」「へぇ、まぁ節約になるなら今はいいわ。 というか、何だって朝から紅茶なんて飲んでるのよ」 サーヴァントは霊体である。食事を取る必要は皆無であるが、 「起きてくる凛のために朝食でもと思って厨房を見て回っていたら見つけたもので。 しかし、中国紅茶の春摘みとはなかなかいい茶葉を持っていますね」 何やら悦に浸っているが、それは私にお気に入りである。 しかし、そこの文句を言う前に、 「凛も飲みますか?私の召喚の影響だと思いますが、顔色が優れませんよ?」 言っている先から新しいティーカップが用意され、上等な赤い液体がカップに注がれていく。 色々と突っ込みたいのだが、彼女のような美人がやるとどうしても絵になってしまうので邪魔するのがはばかられる。 「どうぞ」「あー、ありがと」 対面に座って、差し出されたカップを持つ。……なんで私が緊張してるんだろう。 何故か朝のティータイムなんていう展開になってしまっている。が、せっかく出してもらった物を無碍にするのもあれなので……、 ―――あ、いいかも。 一口含んだ瞬間、口の中に広がる紅茶の味と鼻へと抜ける香りがいい。それから、紅茶以外の何かがアクセントになって体全体があったまる。 確かに、お気に入りの紅茶を使われたのは許せないが、こんな感じで淹れられると悪い気はしない。 「アーチャー、紅茶に何か入れた?」「脇に置かれていたブランデーを少々。香る程度の量ですから、酔いもしませんし朝の気付けには効果的ですよ」 なるほど……、確かにこれはいい感じに、 ―――って、 「ちがぁぁぁぁう!!」 絶叫と共にガシャンとカップを乱暴に置いた。 「え……、ど、どうかしましたか?凛」「私はメイドが欲しくて、アンタを呼んだ訳じゃないのよ! それにアンタもアンタよ。自分で抜けすぎだと思わないの!?」「……え、な、何がでしょうか?」 面白いほどオロオロと挙動不審になるアーチャー。 「召喚された翌日に、人の家漁りまくってお気に入りの紅茶……は美味しかったから許す! 頼みもしない事をする必要は無いわよ!」「……はぁ、では以後気をつけます」「ええ。私が求めているのは戦力としての使い魔よ。 家事をこなすサーヴァントなんて聞いたことが無いし、する必要も特に無いわ」「はぁ、特にありませんか。凛はここでは家事を自分からやっているようですね。 感心な事です」 うんうん、と頷きながら紅茶の残りを飲み干すアーチャー。 「母親みたいな言い方するのね……。 とにかく、出かける支度してアーチャー。召喚されたばかりで勝手も分からないでしょうから、街を案内してあげる」「支度ですか?我々英霊は霊体になれますから、準備は特にありませんよ。負担を減らす点でもそっちの方がいいですね」「あ、そっか。召喚されても英霊は英霊か。霊体に肉体を与えるのはマスターの魔力だから、魔力提供をカットすれば」「はい、そうなれば守護霊と同じです。ただし、サーヴァント同士では感知されますし、魔術を使うサーヴァントなら、遠くはなれたサーヴァントの位置さえも把握します」「そうか……。 で、アーチャー、貴女は他のサーヴァントの位置って分かる?」 アーチャーの魔力は強大だ。それくらいの魔術は……、 「凛、私のクラスはアーチャーです。100メートルほど近づいたならまだしも、ここからでは無理です」 ……まぁ、予想した答えだったわけですが。 「分かったわ。じゃ、とりあえず後についてきてアーチャー。貴女の呼び出された世界を見せてあげるから」