それは過去例を見ないほどの魔力の奔流だった。黄金の魔力は光となって空へと昇ってゆく。 全土から見る事が出来るほど空高く、天上へと届かんばかりに猛々しく。 雲を切り裂き、陽光が全土に降りかかる。 その光を見た物は数億人をくだらない。 イギリスにいた人々はもとより、テレビクルーによって押さえられた映像を介し世界中がその光を見た。 情報は一瞬で世界を巡る。 ある者は、綺麗だと感動し、 ある者は、聖者が降りたと賛美し、 ある者は、あの人がまた勝ったのだと確信し、 ある者は、とうとう一線を越えたのかと涙を流した。 そして残りの数人は自分が疲れている事も忘れ、邪魔になる物全てを投げ捨て、自分が何故こんなに離れているのかと怨嗟し、光の発生源へと走り出していた。 /// /// ゆっくりと、彼女は膝を突く。 剣はその重さのまま大地に突き立ち、彼女にはその剣を支えにする力も残っていない。「…………あ…………」 視界が歪む。目の前に突き立った剣が視界の下に消え、抜けるような青空に変わる。「セイバーさん!!」 倒れる直前、駆けつけたベティの伸ばす腕がセイバーを捉えた。だが、支えきれず一緒に倒れてしまう。「セイバーさん! セイバーさん! 私が判りますか!?」 膝の上にセイバーの頭を乗せ、必死に呼びかける。既に目は虚ろで、自分の姿が見えているかも分からない。 傍では助かった少女が不安そうに持っているぬいぐるみを抱きしめていた。「…………ベ、……ディ……」「―――! よかった、直ぐ皆が来ます! それまでしっかり!!」 あの膨大な魔力の放出はきっとイギリス全土から見えたであろう。もちろん、それが誰による物かも自ずと理解できたし、近しい者はそれが何を意味するのかも察していた。 あれだけの宝具を開放して、未だに自我があるのはもはや奇跡としか言いようが無い。「……わ…………ん、は……」「え?」 セイバーの口に顔を近づける。「わ……たしの、……剣……は」「……剣」 顔を上げる。彼女が真名を開放した剣、エクスカリバーは目の前に突き立てられている。 開放した負荷なのか、剣からは淡い光が立ち上って……、「―――!? これって……!」 淡い光。それは剣自身から発せられていた。そして、徐々に風に溶ける様に風化を始めていた。 ベティは知る由も無い。元々、このエクスカリバーは"封印指定"の贋作者、衛宮士郎の作った紛い物。本物は既にこの世に無い。 ならば、紛い物は等しく無へ還るのみ。逆に今の今まで折れも欠けもしなかったのは、偏に投影した衛宮士郎の技量ゆえであろう。 やがてベティの見ている前で、エクスカリバーはその役目を終えたかのように消えていった。「……剣を…………湖…………」「セイバーさん、剣は消えました。目の前で風に溶ける様に」「…………みず……うみへ……」「だから、消えたんですってば!!」 涙が出てくる。自分が不甲斐なくてしょうがない。ずっと傍についていればよかった。もうこれ以上苦しむ彼女を見るのは耐えられない。 自分に彼女を救うすべてない事が悔しい。彼女をこうしてしまった全てが恨めしい。 だからせめて……、彼女の最後の言葉だけは……、「……命……を……」 おそらくは記憶の混濁。朦朧とした意識の中で、彼女は今私ではない別の誰かを見ている。 それに彼女の言っているのは、 ―――剣……湖……命を守る……、アーサー王伝説? そして、思い至った。子供ならば一度は耳にするだろう御伽噺に聞く、アーサー王の最後の物語。 アーサー王は騎士ベディヴィエールによって森へと連れられた。 そして、アーサー王は援軍を呼びにいくベディヴィエールにエクスカリバーを託して言った。『山を越え、森の深くにある湖に剣を投げ入れよ』 騎士は剣を捨てられず2度ウソの報告をしたという。しかし、王は2度とも『命を守れ』と言って騎士を走らせた。 そして、3度目にして騎士は湖へ剣を投げ入れ、剣は湖から現れた婦人の手に返されたという。『剣は確かに婦人の手に』 ベディヴィエールは王に報告する。『胸を張るがよい。お前は王の命を守ったのだ』 そして、王は息を引き取った。 ―――その伝説を、何故今この状況で彼女が口にするのか。 違和感が脳裏に走った。何かがシコリのようにひっかかった。 ベティ・G・ローゼンバーグ。自分の名前。長い事使っていなかった名前は、"ベディヴィア"・G・ローゼンバーグ。 円卓の騎士の呼び名は地方によって様々。騎士ベディヴィエールの解釈も多い。確か、ベディヴィアという解釈も無かっただろうか。 その瞬間、頭の中で次々とパズルが組み合わさっていく。 "ランス"ロット、"ガウェイン"、サー・"カイ"、"トリスタン"、"パーシヴァル"、"ボルス"、"モード"レッド、"ガラハット"…………、 あの日、あの時、あの場所で……馬鹿馬鹿しいほどそうそうたる面々が揃っていたではないか。「じゃあ、貴女は……」 偶然など存在しない。必然でなければおかしい。彼女でなければあの剣を振るう事等できないと、どうして思わなかったのか。 あの地下で、そして今に至るまで、一度たりとも聞いた事の無い彼女の真名……、 「アルトリウス…………、祖国の危機に蘇り窮地を救うと伝えられた、アーサー王」 彼女はあの日、あの時、あの場所で選ばれたのではない。生まれる前からすでに選ばれていた。生まれながらすでに運命付けられた必然。「…………剣は」 ならば、自分は答えないといけないのかもしれない。 過去の話など関係ない。助けられてばかりの自分に、何か手助けができる事とすれば、それは…………、「……湖へ、婦人の手に……渡しました」「…………そう、……か」「アルーーーー!!!」 その時、ランスが全力疾走で駆けつけてきた。「アル!! 大丈夫か! おい、アルトリウス!」 滑り込むようにセイバーの元へ寄ると、怒鳴るかのように声をかける。 しかし、……呼べど叫べど反応は無い。まぶたは開いていても瞳は濁り、意志があるようには見えない。「ベティ! ……アルは」 ゆっくりと首を振る。「そんな……! アル、おい!」 うつろな表情のセイバーに声を掛け続ける。既に手遅れである事は嫌が応にも理解している。だが、そうしなければ自分が納得できなかった。「ふざけんなよ、しっかりしろ! お前はこんな事でくたばる様な奴じゃないだろ! 日本に行くんじゃなかったのかよ! 日本で暮らすんじゃなかったのかよ!」「ランスさん、もう彼女には……」 ベティも既に彼女に命の灯が無い事を……「…………ラン、ス……」『―――!!?』 微かに、それこそ意識して聞いていなければ消えてしまうような声がした。微かに瞳が動く。だが、何も見えてはいないだろう。 これが一体どういう奇跡なのか、確かに彼女は声を発した。すでに気力すら残ってはいないだろうに。「……おそ……かった……です、ね。来ない……かと、……」「……ハッ、こいつ。のんびり寝てやがったのかよ。来るに決まってんだろバカ野郎。 お前こそ、のん気に夢なんて見てたんじゃねぇだろうな?」「……疲れ……ました。……少し、……眠り……ます」「―――! …………あぁ、……じっくり夢の続きでも見てろ」 ゆっくりと、セイバーが目を閉じた。傍目からは眠りの落ちたようにしか見えない。 ピクッ、とセイバーに手を添えていたベティの肩が震えた。「お姉ちゃん、眠ったの?」 少女があどけない声でそう聞く。彼女がその命を尽くして守り抜いた命。恐らく人の生死すら理解できない年の少女。 ベティが両手で顔を押さえ、嗚咽を漏らす。「あぁ……、眠ったよ」「おねむだったんだねー。どんな夢見てるのかな?」「さぁ、わかんねぇよ。……けど」 手を伸ばし、ランスはセイバーの顔に掛かった前髪を払う。「見ろよ、幸せそうな寝顔しやがって…………、コイツ。 きっと……、いい夢を見てるんだろうさ」 涙が止まらなかった。 どうしても………… どうしても………… /// /// /// /// 英雄は逝った。十数人の兵と、百人ほどの民衆に見守られながら息を引き取った。 生涯孤独であろうとした騎士の王は、結局孤独とは無縁の最期を遂げた。 やがて、イギリスは再興の道を歩き始める。 しかしイギリス王家がまず執り行ったのは葬儀であった。 アルトリウス=セイバーヘーゲン、またの名を「騎士王アーサー」。甦りて国を救った英雄の葬儀を執り行ったのである。 復興の途中で国庫がスッカラカンである事を度外視して、王族が亡くなるときと同等かそれ以上の規模の葬儀が行われ、参列者は内外から3万人を超えたという。 亡骸は歴代の王家の墓へと埋葬され、遺族には爵位が授けられる事となったがセイバーヘーゲン家はこれを辞退したらしい。 復興は順調に進み、王家の意向により彼女の名前を冠する公園と共に銅像も建てられた。 イギリスに入っていた軍や傭兵の一団は撤退し、彼等の部隊もまた当然のごとく解散となり、彼等はそれぞれの家へと戻った。 ようやく、彼等にも銃を持たずとも眠れる夜が訪れた。 /// /// /// /// 思い出そうとすればすぐにでも思い出せるあの事件。 長いのか短いのか解らないこの4ヶ月。 俺はただ抜け殻のように過ごしていた。ガルあたりが圧力でも掛けたのか、俺達の周囲にマスコミの影はなく、俺は避難した家族と借り家で元の生活を取り戻そうと奮闘していた。 携帯は何度か鳴ったが何故か出る気になれなかった。単にアイツの声以外を聞きたくなかったのかもしれない。 俺にとっては何から何まで重すぎたようだ。アイツとの出会い、アイツとの戦い、アイツとの別れ…………。 その日も携帯が鳴った。俺は無視を決め込もうとしたが異様にしつこい。 机の上の携帯を手に取り画面を見ると、相手はガウェインだった。『お久しぶりです。元気にしていましたか?』「あぁ。まぁな…………」『ところで、今お暇ですか?』「無いと言えば無いな。学校もぶっつぶれちまったし…………どうしたものやら」『なら、会いに行きませんか? ―――彼女に』「――― !」 ハッと顔を上げる。視界に一つの小箱が目に入った。「お久しぶりです。部隊の解散以来でしたか?」「あぁ、そうだな」 『アルトリウス記念公園』――― 騎士王の園なんて大仰な名前を冠した公園には午後3時を回ったというのに結構な人だかりがある。 全員が公園の中央に立つアルトリウスの銅像の見学に訪れているせいだ。 俺達は近くのベンチに腰掛けて話をしていた。「そういや、ベティは一緒じゃないのか? てっきり同窓会でもやるのかと思ってたんだが」「彼女は実家に戻っています。ご両親の仕事の手伝いをするとかでしばらくは右往左往しているでしょう」 いいながらガルはバサリとかなり厚い書類の入った封筒を俺の横に置いた。「今回の無差別殺戮、というより国家崩壊の一歩手前まで行った今回の事件の報告書が纏まりました。 どの方面も情報収集に協力的で4ヶ月で纏められたのは奇跡らしいですが、見ますか? 本来はトップシークレットな資料ですけど」「ふーーーん」 俺は封筒からファイルを取り出してみる。 【TopSecret】と赤い印が押された報告書。100ページは軽く凌駕しているだろう。 正直これだけのレポートなんて素でも見たくない。だが…………、「わりぃ、興味ねぇわ」 封筒に戻した書類をバサリとベンチに置く。「いいんですか? ホムンクルスの出所から我々の処遇までキッチリ明記されてますよ?」「いいんだよ、そんな物。【俺は生きてここにいる】、それ以外の事実がどこに必要だよ」 ガルはため息をつく。「まぁ、それもそうですね」 言ってあろう事か封筒を横のゴミ箱に無造作に放り捨てた。「正直、僕も殆ど目を通してません。 セイバーさんの葬儀に参列してから、不思議と色々どうでもよくなってしまいました」「なんだ、奇遇だな」「後始末は上の仕事ですからね。僕のような末席は所詮流れるままに行くしかありませんし」「…………ふーん」 生き残ってしまった俺達にしか解らないこの空虚な感覚。 本当に胸にぽっかり穴が開いてしまったような感覚がする。 結局、会話が続かないまま一時間もして銅像に集まっていた人々は徐々に減り始める。 やがて人がいなくなった広場には俺とガウェインの二人だけが残された。 俺はベンチから立ち上がり、銅像に近づく。 事件以降あまりにも騒がしかった日々が過ぎ去り、こうやってゆっくりとアイツの姿を眺めるのは久々だ。 「製作者もやるねぇ、まるっきりアルトリウスそっくりだ」 「今じゃ全世界の人が知る英雄ですからね。『再誕したアーサー王』を再現する、と東西の作り手をかき集めたそうですよ」 「彼氏としては複雑だな」 本気で愛した女性が銅像となって衆目を集めるというのは、内面を知る者の一人として【良かった】の一言で納得できない。 アルは銅像になるために英雄になったわけでない、まして英雄になりたくてあの地獄から帰ってきたわけじゃない。 「結局俺の言った通りじゃないか。なぁ」 鎧からエクスカリバーに至るまで再現され、敵を見据えるように威風堂々東を向いて立つアルの姿は騎士として申し分ない。 しかし、ここに来る何人が彼女の苦悩を知るだろうか? 何人が彼女の決意を知り、何人が彼女の叫びを聞いてやれただろう。 そして、どれほどの人間が彼女の笑顔を見ただろうか。 何でもない日常にふと見せる彼女の静かな笑み。 俺にとってはあの笑顔だけでこの駄作を破壊するには十分な理由。 「はぁ……」 ため息と共に俺はポケットからネックレスを取り出す。赤い宝石が付いたアルの片見。 今ではこれだけが思い出として残ってしまった。 「あのネックレスですか。彼女の首に掛けるんですか?」 なんなら手伝うと言いたげなガルだが、あいにくこれはこんな場所に置いておけない。 「あいつはここにはいない。ここにあってもしょうがない」 「では何処に?」 「……日本に行ってくる」 「え?」 俺の言葉が意外だったのか、驚くガル。 そういやアルが日本びいきなのを知らないんだったな。 「日本に何があるんですか?」 「元カレの家さ」 ガルの知らない事を知っている優越感と若干の嫉妬が混ざって、俺はため息を付く。 「セイバーさんに恋人がいたんですか?! 初めて知りましたけど」 「……女には謎が多いんだよ」 俺が言う権利はないが。 「明日発つ。悪いが護衛も監視もなしで頼む」 「まぁ、日本なら大丈夫でしょう。僕は行った方が?」 「来るな。あそこには人を近づけたくない。あいつも言ってた」 それで納得したのか、ガルはそれ以上口を挟まなかった。 /// /// 二日後、俺は日本の土を踏んでいた。 いつものように空港は様々な人々が往来し、海の向こうの騒ぎなどテレビの中の出来事として終わっている国。 それだけ表面上戦いとは縁遠い場所。 そういえばなんとも長い間来ていなかった気がする。 汚れてしまった故郷の空気と比べればなんと肺に優しいことか。 「よし、行くか」 いつもと違い手荷物はリュックのみ。長居する気はなかった。 あの日、たった一度だけ通った道を思い出しながら俺はここ深山市に辿り着いた。 現金なもので今更ながら帰りたくなってきた。まるで、恋人の自宅に挨拶に来たかのような緊張だ。 だが行かねばならない。極道でいう【筋を通す】ために。 閑静な住宅街。面白みのまるでない場所にある一つの異質。 廃墟と化した日本家屋は以前と変わらずそこにあった。 「…………」 この屋敷にあいつは住んでいたんだと思うと、不思議と威厳すら感じる。 影でチラつく元彼が忌々しいがまぁいい。 周囲を警戒しながら中に入る。 中に入るとそこには以前と同じ凛とした空気が漂っていた。 ―――あぁやっぱりここだ。 「来たぜアル。久しぶりにな」 そうつぶやき、俺は道場に近づく。 「……何を話したらいいんだろうな。いつもなら色々話題もあるんだが」 道場の中を眺めながら、俺はつぶやく。 「そうそう、届け物だ届け物」 リュックの中から形見のペンダントを取り出す。 血のように赤いルビー、元々はリントオサカの持ち物だが形見だからとガルが気を利かせてくれた物だ。 「不思議だよな。アクセサリー付けたところなんて見た事ないお前が、最初の最後でこんな物持ち歩いてたなんてよ」 ペンダントを縁側に置く。 「あっと、こいつも置いていくぜ」 もう一つリュックから取り出したのは一枚の写真。 あの地下でベティが発見したエクスカリバー、アクセサリーと共に眠っていた物だ。 数百年を経過したはずの写真は腐敗することなく鮮明な像を結んでいる。 ガル曰わく普通の印画紙らしく、保存されていた箱自体に何らかの魔術が施されていたのではないか、との事。 写っているのは三人。 金髪ロール髪で青いドレスの役者みたいな女、ロングの黒髪で赤い服の女、多分赤い方がリン・トオサカだろう。地下で赤い服を見たからな。何故かこの二人は睨み合うようにして写っている。 ライバルか何かって訳だ。 そして、間で苦笑いをしながら写っている男。肌が浅黒く白髪でおよそ日本人らしくないが、コイツがアルの元彼らしい。 アルがコイツを見たときは何故かショックを受けてしばらく引きずっていたようだが…………。「野郎、アルトリウスがいながら両手に花とはふざけてんのか」 コイツの顔を見ているとイライラしてくる。本能的な嫌悪感という奴だろうか。「アルはお前の何を好きになったんだろうな、教えて欲しいよ」 パシンと指で男の影を弾く。「ま、お互いセイバーと肩を並べた間柄だ。今なら酒でも飲んで語れそうな気もするよ」 写真をネックレスの下に挟み込み、俺はもう一度道場に目を移す。 そうそう、そこには白と青に包まれた少女が難しい顔で正座を、「…………は?」 って、俺は今何を見た??「……………。ふ、あははは」 どうやら時差ぼけもヤバイところまできているらしい。「さて、俺は帰るよ。休みすぎて体がなまっちまったからそろそろ仕事を探す事にする。魔術師協会はパスだけどな。 また来年辺りに来るよ」 きびすを返し、俺は道場を後にする。 下生えを避けながら門をくぐろうとしたとき、 ――― パシィィィン!「―――!?」 耳朶を打つ鋭い竹刀の音が聞こえてきた。 慌てて振り返る。だが、そこには何もない。「ハッ、怠けるなってか? 分ってるよ、じゃあな」 門をくぐり、俺は衛宮邸を後にする。 気がつくと鼻歌を口ずさんでいた。いつもはこんな事はないのだが、気づかないうちに随分と楽になったらしい。 あれほど心の中が空虚だったのに、俺は今、見上げる太陽のように晴れやかな気持ちだった。 /// /// 物語は終わる。 どうしたって終わってしまう。 アルトリウス=セイバーヘーゲンの物語もここで終わり。筆を置く頃合いだ。 赤い宝石と写真は風に揺れ、静かに時は過ぎていく。 誰もいない静謐な道場は、今日もまた無音の鍛錬音を響かせてそこにある。 ――― 全ての運命<Fate>に幸在らん事を。