彼女は病に侵されていた。
最後の瞬間、彼女には自らの終わりがわかった。
「ハンターハンター、最後まで読みたかったな…」
最後に、ふとそう思った。
そして彼女は気がつくと、虚無の海に漂っていた。
何も聞こえず、何も見えない。体も、頭も満足に動かない。
(死ってこんなだったのか……)
何もないこの場所で、永遠に彷徨うのだろうかと、彼女は恐れた。
暴れようにも体に力が入らない。
彼女に出切る事は、ひたすら楽しかった事を思い出すだけだった。
それもしばらくしたら尽きて、今度は何も考えないようにする。
瞑想を続けるうち、彼女は彼女なりの悟りを開いていた。
それからどれくらい立っただろう。彼女に、微弱な音が聞こえるようになっていた。
彼女はそれに耳をすませた。
よくわからない言語。これは神の国の言葉だろうか?
その音を子守唄としながら、彼女は眠り、あるいは瞑想をした。
そして、その日が訪れた。
いきなり明るい場所に放り出され、パーンとお尻をはたかれる。
彼女は激しく泣き叫んだ。そのショックで息をしだす。
彼女は、転生をしていた。
(退屈だなぁ……)
やはり彼女には、瞑想する以外に退屈しのぎの方法はない。
赤ちゃんの内は、動けるはずもなく、言葉もわからなかった。
母親も自分の事を放置気味である。
泣けば相手をしてくれるのだが、必要のない時に泣くのは面倒くさかった。
彼女が知っている事は、自分の名前がニーナだという事くらいだった。
そうして瞑想を続けるうちに、ある日ふと、うっすらとした蒸気のようなものが自らと母の周囲に見えた。
力がどんどん抜けてゆく。
(これって、オーラが見える体質になったのかな。でも何で力が抜けるんだろ。もしかして…念!?まさかね)
それでもニーナは、ハンターハンターのファンだった事もあり、一応念を操る術の一つである纏を試してみる。
(蒸気が体の回りを巡るように……)
一時間ほどそうしていると、果たして、蒸気は彼女の思うとおりに周囲に留まった。
(やった…でも疲れた…眠い……)
ニーナは、深い眠りに落ちていった。
ニーナが起きた時、母も父も泣いていた。
どうやら心配させてしまったらしい。その日以来、母が常についているようになった。
ニーナも親を心配させた事を反省し、積極的に笑いかけたりして、親を喜ばせようとする。
一才になり、絵本を読んでもらえるようになってから、俄然ニーナは勉強意欲を覚えた。
本が読みたい。ニーナは必死に言葉を勉強する。
本を取りに行く為に体を積極的に動かし、はいはいや立つことも覚えた。
遅れていると心配していた両親は、とても喜んでくれた。
「絵本だけじゃつまらない……」
ニーナの次のターゲットはパソコンだった。
既に単語は理解できるようになっている。
パソコンで調べて、ザパン市やヨークシンシティを見つける。
「ここって本当にハンター世界なんだ。体、鍛えなきゃいけないのかな…。嫌だなぁ…キメラアントさえどうにかなれば普通の生活が出来るかな」
その過程で日本語を見つけ、日本語の世界共通語講座で勉強する。
ニーナはハンター語をようやく読めるようになった。
「もう、ニーナったら!お外で遊びましょう?」
母に言われ、ニーナはいやいやと外出した。
仕方が無いので、黙々と石割で遊ぶ。
「もう、ニーナって本当に変わった子ね。なんだか気味が悪いわ」
「ごめんなさい、お母さん。せめて勉強は頑張るから捨てないで」
「捨てるわけないじゃないの、可愛いニーナ」
母に抱き上げてもらい、ニーナは母に縋りついた。
ニーナは自分の奇妙さを重々承知していた。それでも漫画や小説を捨てる事は出来なかった。
それどころか、ニーナは枕元に本を置いて寝るのが常だった。
そんなある日、それは起きた。
「ラッキー!凄い夢!」
二次元の漫画の中に入った夢を見たのだ。
目の前で幽遊白書の幽助が、乗用車の上から自分の死体を眺めて考え込んでいる。
幽助の考えている事が、聞こえてくる。
どうやら、自分の姿は周囲には見えないらしい。
ぼたんが幽助になにやら説明をしている。
二次元の中では距離感が取りにくいという欠点はあったが、十分にニーナはそれを堪能した。
同じ事が何度も続き、ニーナは考えた。
これは念能力かもしれない。
試しに、制約を心に誓ってみる。
一つ、ブックバンドを使って夢を見たい本を枕の下に入れて眠る事。
一つ、同じブックバンドも本も1回しか使えない。
一つ、使う人と私の両方が読んだ本しか使えない。
一つ、そのブックバンドは一度に三つまでしか作れない。
一つ、ブックバンドは一ヶ月で効力を失う。
一つ、おはようと呼びかけられると起きねばならない。
一つ、夢の中で傷を負うとその傷に応じた期間に絶状態になる。死ねば一年絶になる。
一つ、ブックバンドはその時指定した本の夢しか見せられない。
さすがに趣味に命は掛けられないから、量で勝負だ。制約をつけて、ブックバンドに念を込める。
ニーナはそれに、ドリームブックバンドと名づけた。
母には朝、必ずおはようと言ってもらうことを頼み、ニーナは毎日夢の世界を堪能した。
…ニーナが大人になった時、古書店の店員になるのは当然の成り行きだった。
ニーナは、もう一つ念能力を手に入れていた。
それは、今いる町に念能力者がいたら感知する能力だ。
これは地図とダウジングで比較的容易にイメージが出来た。
これも制約をつける。
一つ、纏か錬、発をしている能力者しか感知できない。
一つ、今いる町でしか感知できない。
一つ、位置は感知できない。
一つ、人数は感知できない。
一つ、自分より弱いものは感知できない。
一つ、このペンダントでしか出来ない。
一つ、一日に一度しか出来ない。
一つ、使用後一時間は絶状態になる。
ニーナは他の念能力者を知らない為、実際に試す事は出来なかったが、制約を決めただけでも満足した。
こうして、ニーナの本屋としての生活は始まった。