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No.1125の一覧
[0] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/22 04:23)
[1] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/26 22:08)
[2] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/30 00:47)
[3] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/26 22:01)
[4] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/30 00:25)
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[1125] Muv-Luv Appendix
Name: 違法因果導体◆b329da98 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/11/30 00:47
-3- 再会のヴァルキリーズ


10月24日


 昼前、俺はシミュレーションルームにいた。
「へぇ、適正テストはさすがね」
 これは、テストの結果を手に持った夕呼先生。今、また酒を一口飲んだ。
 あまりにも飲み過ぎているような気がしてそろそろ注意したいが、機嫌を損ねても困るので見ないふりをせざるを得ない。
 適正テストは前にもやった揺さぶられるテストだ。俺に言わせればゲーセン並のソフトな乗り心地で、Gもかからないのに、どうにかなりようがない。
 営倉で出されたまずい飯をたらふく食っても、体は快調だった。
「で、今日はこれで終わりですか?」
「やりたければ、もう少しならシミュレーター使えるけど? 午後の訓練開始までね」
 いるのは俺と夕呼先生だけだった。外に警備兵が控えているが。員数外の俺に割ける人手は、夕呼先生のみということらしい。
そして員数外だから正規の訓練を邪魔するわけにもいかなくて、空いた時間でテストをされている。
「じゃあ、ちょっと機動のおさらいしたいんで、少しだけ」
「なら、一番難度が難しいのでやってみる?」
「ええ、それでいいです」
「本当に?」
 真面目な顔してうなずくとちょっと驚いたような顔をした。
「いいですよ。いまさら易しいのでやっても時間の無駄です」
「参ったわね。冗談のつもりだったけど、……そういうなら面白いのがあるわ」
「へぇ、楽しみですね」
 そういうと俺はシミュレーターに乗り込んだ。
 網膜に浮かび上がったのは、ハイブだった。
「ああ、ヴォールグ・データですか……」
「知ってるのね。……そうよ、とっても楽しいでしょう?」
 画面からは、夕呼先生がやはり酒を飲みながら、ニヤニヤと俺をみている。困るところを見たいらしい。
 だけど、所詮はシミュレーター。忘れてないかを確かめるために、各種機動パターンを試み、BETAをかわすように動く。
 焦りは無い。むしろ、久々にバルジャーノンをやっているような気分だった。単機で突入なんて、僚機に合わせなくて良いからお気楽極楽。
 ふと、気がつくと先生は黙っていた。酒も飲んでいないようだった。グラスが空いてないからだ。
 雑音が無くなったので、俺は没我の状態になって、ひたすら機体を操り、仮想のBETAに銃弾をたたき込み、ナイフで切り裂いた。
 奥へ、奥へ。ひたすらに、BETAをかわして倒して、前へ進む。
 中層階のあるドリフトを過ぎたところで、突然にシミュレーションが終了した。良いところで終わったので物足りない。
「あれ? 夕呼先生? シミュレーター壊れました?」
「……終わりの時間よ。そろそろ他部隊の訓練が始まるわ。それに本当のヴォールグ・データはそこまでしかないしね」
「了解。時間が来たのなら仕方がないですね」
「……ただの妄想野郎かと思ってたけど……ふーん」
 見るとなにかぶつぶつとつぶやきながら、先生は考え込んでいた。
 俺はシミュレーターとはいえ、久々の気晴らしが出来て気分が良かった。


10月25日


 息が詰まるほど俺は動揺していた。足が震えて、すこし床がふわついた感触すらする。
「ヴァルキリーズ、整列! 基地司令に敬礼!」
 シミュレーションルームは華やかだった。15人もの若い女達が並んでいたからだ。
 そして敬礼を受けて俺の向かい側に背を向けて立っているのがラダビノット司令と呼ばれる初老の男。
「基地司令までお出ましとは、あんたもなかなかのたいした不審人物ね」
 と、ささやいたのは夕呼先生。俺にはどうでもいいことだったが。
 問題は女達だった。懐かしい顔がいたのだ。
 冥夜、委員長、彩峰、たま、美琴(尊人かも?)、そしてまりもちゃん。
 できるならば駆けだして、肩を掴んで、再開を喜び合いたかった。
 だが彼女らの表情が、俺に声をかけることをためらわせた。
 おそらく俺を不審人物と聞いているのだろう。誰も彼も俺に投げかける視線は、敵意と猜疑でしかない。
 それが俺を動揺させていた。
 前の世界にあった戦友としての結びつきが消えた。それがなにか大切なものをもぎ取られたようでたまらなかった。
 別人なんだと頭ではわかっていても、どうしようもなかった。
「どうしたの? がんばらないと監獄行きよ」
「なんでもありません」
 俺達のひそひそ話の途中で、ラビノット司令が、ヴァルキリーズに話し始めた。
「楽にしてくれ。諸君においては先日の基地防衛戦、誠にご苦労だった。諸君らの奮闘により基地の被害は最小限に済んだ。
 ……さて、本日諸君に頼みたいのは、この男が衛士として有用かどうかのテストだ。本来ならば教育隊の業務ではあるが、諸般の事情により、当基地でしか行えない。
 それゆえ諸君が数日前まで特殊任務部隊A-01としての任務を遂行してきたことを考え、決定した。
 機密が関わっているため多くは語れないが、この任務は諸君が思う以上の意味があると心得て欲しい。では、神宮司少佐、あとを頼む」
 号令が飛び、一糸乱れず見事な敬礼が決まる。答礼をしてラダビノットが出て行き、まりもちゃんが俺の方に向いた。
 まりもちゃんは俺達と目が合うと、闘志に満ちた笑みを口の端に浮かべて、話し始めた。
「貴様らに言っておく。この男は軍人ではない。過去も不明。名前は白銀武と言っているが本当かどうかわからん」
 静かな驚愕が治まるのをみて、まりもちゃんは続けた。
「だが、この白銀は先日の防衛戦で、どうやってか戦術機に乗り込み、複数のBETAを撃破。重大な損傷無しに帰還した」
 さらなる驚愕が全員の顔に表れる。
「要撃級25、突撃級23、戦車級58。要塞級2。ガンカメラが捉えた白銀のスコアだ」
 それを聞いて戦意のようなものが全員の顔に広がり始める。
「つまりこいつは、素人でありながら死の8分をスキップしながら通り過ぎた。まるでお花畑でお花を摘むように、BETAをつぶしながらな。
 それがどういうことか分かるな?」
「問題は司令が言っていた有用かどうかではなく、この男がどこで戦い方を学んだのかって事ですね」
 口を挟んだポニーテールな中尉の顔にもまた、不敵な笑みが浮かんでいた。
「速瀬の言うとおりだ。……貴様ら、こいつの戦闘をシミュレーターでケツの穴まで真っ裸にしろ。あらゆる手を使ってかまわん」
 言葉を切って、まりもは隊員を見渡し、視線を止めた。
「まずは榊、鎧衣、貴様らがいけ。涼宮中尉は管制を行え」
「了解」
 だが敬礼をして、シミュレーターにかけよろうとした二人を止めたのは、夕呼先生だった。
「まりもぉ、あんたねぇ、こんなので何がわかるのよ?」
 こんなの扱いされた委員長が怒りを見せ、美琴が状況を読めずきょろきょろとあたりを見回す
「香月博士、どういうことでしょうか?」
 むっとした表情をしながら訪ねるまりもちゃんに夕呼先生はあっさりと答えた。
「彼、昨日、ヴォールグデータクリアしたの。単機で」
「はっ?」
 目を丸くするまりもちゃんは、あの頃のまりもちゃんそのままだった
「だからぁ、白銀は一人だけでヴォールグデータで終わりまで行っちゃったの。嘘じゃないわよ。データ見る?」
「なっ……ええ!?」
「そんな白銀をこんな二人でどうこう出来るわけ無いでしょ。それとも一方的に美少女がなぶられるサドマゾ劇場をみたいのかしら?」
 そのあまりな例えに俺は思わず抗弁した。
「先生、サドって俺のことですか?」
「あーら、白銀。あんたはマゾじゃないかって思うんだけど、マゾはサドにも変わるっていうからねぇ」
「香月博士! 白銀!」
 まりもちゃんの怒声によりお馬鹿な会話が強制終了した。
「……御剣、彩峰、珠瀬、おまえ達もだ」
「了解!」
「香月博士、これでよろしいか?」
「ま、オードブルとしてはいいんじゃない?」
 いらつくまりもちゃんと面白がっている夕呼先生を傍目に、俺はシミュレーターに乗り込んだ。
 懐かしいあいつらもこの世界では、他人だった。まりもちゃんの表情が、それを教えてくれて、俺はなんとか吹っ切ることができた。
 たぶん、シミュレータールームで会えたのは僥倖なのだろう。もし戦場で実弾を持って出会ったらと思うと、これで満足すべきなのだ。俺はそう自分を諭した

 シミュレーションが始まると、さらに気は楽だった。顔が見えず機体だけというのが却って良かった。
 気持ちが落ち着くのがわかった。これはゲーム。かかっているのは俺の人生だけ。なら、大丈夫、戦える。
「にしても、模擬戦で相手にしたことはあったとはいえ、やりにくいな」
 前の時は砲撃支援のたまと突撃前衛の冥夜、的確な制圧支援の美琴に苦戦した。もっとも委員長と彩峰という息ピッタリコンビの素敵アシストのおかげもあったわけだが。
「……つけいるならそこか。なら、ひとあたりして、誰がどれか見極めるか」
 そう考えると、わざと緩慢にブーストジャンプを行う。俺を発見した各機が射撃を開始。先頭の二機が迫ってくる。
 冥夜と彩峰というわけだ。
 前ダッシュと左右移動を細かく行うと、右の迎撃後衛が実に忠実に距離を保って牽制を行ってきた。比べて左はやや鈍く乱れている。
 右が委員長、左が美琴だろう。そして確認できないところから、正確な射撃がやってくる。これがタマ。
「なんだろうな?」
 前の世界で模擬戦をしたときは、もっと脅威に感じたように思う。なのに、今は彼らの動きは鈍く三次元機動もなおざりだ。
 ふと感じた余計な思考を即座に振り払い、左の迎撃後衛に的を絞る。
 射線を外しながら距離を詰めると慌てたように牽制射撃をしてくる。そして、反転した二機の突撃前衛と委員長も追ってきていた。
 大きく噴射跳躍をかけ、そして即座にダイブ。接地時の硬直を見越して射撃を先行入力。
 衝撃とその後タイムラグの間に、美琴機が前方に躍り出てきていた。
 心地よい射撃音とともに、火線が胴に吸い込まれていくのをみて、俺は機体を反転させた。
 美琴の撃破で委員長の動きが鈍くなった。立て直しを考えているのだろう。
 彩峰と委員長にどっちつかずの牽制をくれてやりながら、二人の中間を目指した。追いすがる冥夜がうっとおしかったので、細かく回避。
 それによって、妙に三機の動きが揃ってきた。教科書的な包囲攻撃用の円形陣を作ってきている。
 包囲射撃をかわすには、タイミングを図っている射撃直前を狙うのがセオリー。俺はタイミングを指示しているだろう委員長に大前ダッシュをかけた。
 次の瞬間、先ほど俺がいたポイントに彩峰の射撃が始まり、続いて冥夜が射線を合わせた。しかし案の定、委員長のタイミングが遅れる。
 硬直したように棒立ちになった委員長機を通り過ぎながら長刀で薙いだ。
 
 陣形は乱れていた。彩峰と冥夜は、いいコンビネーションで攻撃してきた。それを俺が三次元機動でかわし続けたため、俺達はいびつな二等辺三角形になっていた。
 遠く離れたのは攻撃が直線的なきらいがある冥夜だ。タマが見つからないのが少し気になるが、動き回ることで狙撃を避けることにした。
 そして俺は彩峰を追い込んでいた。もっとも彼女は誘っているつもりなのだろう。
 欺瞞機動をしているのだが、それでも感じるものはある。案の定、前方に開けた地形が確認できた。
 俺は追い込んだ振りをして、その地点の手前で反転し、わざと冥夜の方に向かった。わざわざ大前ダッシュをしてやる。
 彩峰機が驚いたように追いすがって来たのを見て、ダッシュキャンセル、背面ジャンプから、縦ロールで反転、牽制射撃で彩峰を下がらせ、広場に突入。
 もつれ合うよう入り込んだ彩峰を確認して、即座に回避機動をとる。
 なにもしていないのに、彩峰機が突然大破した。フレンドリファイアらしい。
「タマ、ミスッたな」
 焦ったような精度の低い狙撃が始まり、タマの位置が判明する。接近すればするほど反撃はばらばらになり、120mmを余裕をもって撃ち込めた。
 そしてタマをしとめたとき、冥夜が現れた。
 突如、通信回線が開く。
「そなたに感謝を」
 画面の中で冥夜はつぶやいた。
「死の8分を超えただけで、私は一人前になった気でいた。そなたがBETAでなくて良かったと心から思う」
「……冥夜らしいな」
 その言葉に冥夜は驚いたように目を見張り、そして唐突に通信を切った。
 あ、この世界ではまだ知り合いになっていなかったんだっけ。
 俺が苦笑を漏らすとともに冥夜が飛び込んできた。36mmを応射するが、すぐ弾切れとなる。
 冥夜も突撃砲を捨てたらしい。まさに渾身の勢いで長刀を振りかざして突進してきた。
 俺は左のナイフを選択し、前進しながら姿勢を低くした。どんどん距離がつまる。
 タイミングを図って、左手を突き出し、軸をわずかに左にずらす。その瞬間漸撃がきた。
 冷や汗が流れる。目の前には冥夜機は動かない。
 冥夜機大破とシミュレーション終了の表示が現れた。どうやら勝ったらしい。
 軽くため息をつくと、俺はシミュレーターを降りた。

 負けた5人はうなだれていた。それを茜と柏木、築地、それに黒くて長い綺麗な髪をした少尉が慰めている。
 夕呼先生はにやにやと笑っていた。原因は、渋い顔をしているまりもちゃんだろう。
 階級が上の3人はじっと俺をにらんでいた 
「やるねぇ、白銀」
 声をかけてきたのは、先ほどのポニーテールな中尉だった。肉食獣のような笑みを浮かべているのが妙に迫力あった。
「どういたしまして」
 頭をちょっと下げて礼をしておく。
「今、軍人ではないだけということか」
 そうクールビューティな中尉さんがつぶやく。
「なるほど、香月博士の最後の切り札って訳ですね」
 これは、厳しそうな大人びた大尉の言葉。
「あら、伊隅。別にそういうわけじゃないわよ。彼はね、異世界から地球を救うために来たヒーローなの」
「はぁ?」
 夕呼先生は嘘をついているわけではないが、しかし伊隅大尉は当然理解できず、困った顔をした。
「ふーん、これがヒーロー」
 と、あからさまにクールビューティな中尉さんはにやにやしながら、俺の顔を見回した。
「貴様達、馴れ合いはそこまでだ! 」
 まりもちゃんが立ち直ったようで、厳しい声で会話に割って入った。
「白銀、貴様ができることはわかった。……どうだ? 新任少尉どもの歓迎だけではものたりんだろう?」
 そう目を細くして語るまりもちゃんに、俺はどす黒いオーラを見たと思う。
「ヴァルキリーズの13人と私直々に可愛がってやる。どうだ、今度は美女14人よる大歓迎だぞ。貴様も男なら、この誘いを断らないだろう、うん?」
 どうやらまりもちゃんは切れちゃったようです。
「まりもぉ、じゃあ、あたしは白銀に賭けるわよ。賭けは例のあれで」
 それに油を注ぐのが、夕呼先生。
「なっ! 香月博士!」
「どうせあたしももうすぐ飛ばされちゃうし、最後ぐらいね? なーに、それとも14人がかりでも負けそう?」 
「くっ……。わかりました、香月博士。……白銀、いいな!」
 嫌も応もない視線を浴びせられて、俺は頷くしかできなかった。

 結果から言えば、2勝1敗だった。
 2勝は、突出しすぎた茜を叩いたり、制圧支援を叩いて分断したりしながら引っかき回して泥沼に引きずり込んで勝った。
 それでも中尉達や大尉、まりもちゃんを倒すのには、かなり手こずった。
 負けは、徹底的な遠距離包囲を受けて、なすすべ無く削られ、十機倒したところで、まりもちゃんにしとめられた。
 それでもヴァルキリーズは勝った気がしなかったらしい。最後には隊員の誰もが複雑な顔で俺を見るようになった。
 俺自身も勝利を噛みしめる気分ではなかった。ヴァルキリーズに遠慮したわけではない。
 ハイレベルな戦いをやっているうちに、引っかかってきたものがあったのだ。
「コンボとかキャンセルをいちいちいちいち細かく入れていくってのもなぁ」
 強化服とシミュレーターの蓄積データが充分でないせいもあったが、とにかく思ってる動作をさせるのにいらいらするほど手間がかかり、機動が滑らかではなかった。
だから自分の思い描く戦いが充分にできないというのは悔しかった。
 夕呼先生だけは、非常にご機嫌だった。今日は酒もあんまり飲んでいなかったらしい。
「白銀ぇ、さすが平行世界から来ただけはあるわねぇ」
「じゃあ、先生、できるだけこの基地に留まってくれますね?」
「……まあ、できるだけがんばるわよ」

 シミュレーション後、営倉に連れ戻されて、そこでまずい晩飯を食べた。
 あとはやることが無いので寝ていると、鉄格子が鳴らされる。 
「なんだよ?」
 体を起こすと鉄格子の向こうには、制服に着替えた冥夜達がいた。
「……我々を散々撃墜した男が、牢の中にいるっていうのは、なにか不思議な感じがするな」
「それに白銀さんっていい人そうだから、なんか営倉って似合わないね」
 冥夜の疑問にたまが同意した。
「……かわいそう。やきそば、食べる?」
「ねーねー、武はさ、いったいどんな悪いことをしたんだい?」
 適当な事をいっているのは、彩峰と美琴だ。美琴はスカートだからやはり美琴でいいらしい。
「……あなたたち! コホン。白銀武、神宮司少佐と香月博士がお呼びよ。出頭しなさい」
 しめたのは委員長だった
「んで、おまえ達は?」
「神宮司少佐の命令で迎えに来たわ。それに私はともかく、あなたに興味がある人もいるから」
 警備兵が鍵を開け、俺の手首に手錠がはめられる。
 その禍々しさに五人の目が吸い寄せられた。

 長い廊下を気詰まりな沈黙とともに歩くのは少し苦痛だった。手錠の金属音と複数の足音だけがうつろに響く。
「白銀武」
 顔を向けて表情だけで答える。声をかけてきたのは俺の右を歩いていた冥夜だった。
「……そなたがどんな罪を犯したのか知らない。知りたいとも思わない」
 彼女は誓うように俺の目をみた。他の4人が興味津々で耳をそばだてているのがわかる。
「だがな、あれほどの衛士としての腕を持っているのだ。それをできるだけ役立てて欲しい、そう私は思う」
 俺は答えずただ歩いた。
「もしそなたが心を入れ替え、国のため、民のために戦うというなら、私に言って欲しい。そなたの力になれることもあろうかと思う。
帝国軍でも優秀な衛士は必要とされているのだ」
「……冥夜、衛士一人の働きだけでは駄目なんだ」
 俺を囲んだ女達の足が止まった。
「……白銀、負け犬?」
 おれの後でぼそっと酷いことをつぶやいたのは、いつもながら彩峰だ。
「だれが負け犬だっ!」
「……わたしが?」
 とぼけた彩峰は放って置くことにした。
「あの、その、じゃ、じゃあ、白銀さんはどうするつもりなんですか?」
 左を行くタマが取りなすように俺に尋ねた。
「オルタネイティヴ4の助けになりたいと思っている」
 そういって歩き出すと、皆も歩き出した。
「でもね白銀、残念だけど、もうオルタネイティブ4は中止されているわ」
 前を行く委員長が、背中を見せたまま言った。
「知っている」
「じゃあさ、武はオルタネイティブ4に再開してほしいんだ」
「そういうことだ。……どうしたら再開できるのかさっぱり見当がつかないけどな」
 後を歩いていた美琴が珍しく流れを読んで発言して、俺もぽろっと本音をもらした。       
「……ダメダメ」
 彩峰のだめ出しは聞こえないこととする。
「……そうか、そなたにも信ずべきものがあるのだな。すまぬ、私はやはりそなたを見くびっていた」
 と、律儀に頭を下げる冥夜。
「だがな、白銀。榊も言ったが、もうこの基地はオルタネイティブ5に接収され、我らもそのために働いている」
「だから協力はできないということなんだろ? わかってるよ」
「すまぬ。我々は軍人だからな。だがその他の事でなら力になれることもあるやもしれん」
「いいさ。今はその気持ちだけにしておく。ありがとう」
「白銀、きっとだぞ。決して早まるなよ。私はそなたの戦術機動をもう一度見たいのだ」
「……それはお偉いさんに言ってくれ。俺には死ぬ気はないけど、お偉いさんは俺を殺したいかもしれないからな」
 そういうと手錠をじゃらりと振ってみせる。
 再び気詰まりな沈黙に戻ったが、俺の気は楽だった。夕呼先生の執務室が見えてきていたからだ。
 
「ようこそ白銀。あらあら、素敵なアクセサリー付けてるわね」
「ええ。基地司令もお出ましな最重要不審人物ですから」
「榊以下5名、白銀武を護送してきました」
「ご苦労、下がれ」
 さっそく手錠に目を付けてからかってくる夕呼先生を見事に無視して、まりもちゃんはあくまでもきまじめだった。
「さて、白銀武、今日は大活躍だったな。司令もお喜びだ」
 目だけ笑ってない笑顔で語るとまりもちゃんは迫力があった。
「合格と言うことでいいんですか?」
「第一段階はな。明日、貴様の総合戦闘技術評価演習を行う。それの合格をもって、衛士任官を認めることになった」
「……、一つ聞いて良いですか?」
「ん? なんだ?」
「総戦技評価演習って確かチームでやりますよね?」
「通常課程ならそうだ。だが、貴様に当たり前のやり方はしない」
「なるほど」
「だが心配するな。評価演習は公正に行う。なんだかんだ言って優秀な衛士は常に必要だ。ちなみに試験官は私とヴァルキリーズだ。良かったな? 貴様は女にもてるぞ」
「げっ! ……恋愛原子核の負の因果かよ?」
「なになに? 白銀、いま面白いこといったわね。恋愛原子核? あははは、それ良い!」
 笑い転げる夕呼先生に耐えかねて、まりもちゃんは怒鳴った。
「とにかく! 明日は、今日の礼もたっぷりとさせてもらう。楽しみにしておけ」
 まりもちゃんが肩を怒らせて出て行っても、夕呼先生はたっぷり5分笑っていた。
 ようやく笑いが治まり、静かになったところで、俺は口を開いた。
「それで? わざわざこの部屋に招いてくれたのはなぜです?」
 そういうと俺は室内を見渡す。記憶にある部屋よりもかなり片付いていた。というか、多くの本や紙束が消え去っている。
 すっからかんといってもいい。
「そうねぇ。まずあんたが妄想狂でなさそうなのはわかったわ」
「へぇ? 意外と簡単に信じてくれるんですね」
 その言葉に先生はさびしげな笑いを浮かべただけだった。
「……もう裏切られても失うものがないだけよ。まりもの驚いた顔を見せてもらっただけで充分」
 そういうと先生は、机からごそごそと紙の束を取り出した。
「オルタネイティブ4に関するものはあらかた取り上げられたけど、あたしのこの論文は残ったわ。理解できないと思うけど、まあ暇つぶしでよければ読んでみなさい。
あんたが本当に平行世界から来てるんなら役に立つかもしれないから」
 そういうと不可解な数式と図で埋められた紙の束が、目の前に置かれる。
 ぺらぺらとめくってさっぱり理解できないことを確認……
「あれ、この図、どっかで……」
 フラッシュバックのように光景がよみがえる。元の世界での夕呼先生の奇行。いきなり訳の分からない講義を始めたっけ。
「……これは古いって、変な式書いて……論文にまとめるって出て行ってしまって自習にされちゃったんだよなぁ」 
 懐かしい感じすらその図から目を上げたとき、目の前の夕呼先生の顔がひどく真剣な物になっていた。
「ど、どうしたんですか?」
「今、なんて言ったの?」
「ああ、その元の世界の夕呼先生はこの図を書いて、これは没で古い、新しい考えはこうとかいって、訳の分からない式を書き出して……」
「……たどり着いたんだ。あんたの世界のあたしは、理論を完成させたんだ。……古い? この概念ではだめだってこと?」
 ぶつぶつと自問自答しながら考えにふける先生を、俺は待った。
 10分ほどして、夕呼先生は小さなヒステリーを起こして考えるのをやめた。
「ああ、もう! 酒なんか飲んだから、頭が回らないじゃない! あたしの馬鹿馬鹿!」
「……まあまあ先生。それよりちょっとお願いしたいことがあるんですけど」
「……なによ、白銀?」
 不機嫌のあまり、目つきの悪くなった夕呼先生ににらまれて、ちょっとひるむ。
「……戦術機のことなんですけどね、なんというか俺の操縦に付いてきてくれないんです」
「は?」
「いや、剛田の撃震で感じたんですけど、どうもシミュレーターでも同じ感じで、それ気持ち悪くてなんとかならないかなって」
「説明してみなさい」
「例えば、まあ戦術機が転倒フェイズに入るとですね、オートバランサーが働いて、入力を受け付けない状態になります」
「当然よ。衛士保護のためにあるプログラムだから」
「いや、それだと困るんです。転倒状態と認識するのは良いし、オートバランサーが作動するのもいいんです。でも転倒して接地するまでの、数秒の間何もできなくなります」
「そんな短い間で何をするのよ」
「リロードとか、上半身スラスター制御、場合によっては武装の持ち替え、短刀ならふるうこともできます」
「……驚いたわね。そんなの聞いたことも無いわ」
「それでですね、転倒しかけたと思ったら、さっさとその入力をして、転倒後から回復した後の動作開始を早くするんですが、それが今のままではとってもめんどくさいです。
俺はそれを先行入力って言ってますけどね」
「……それで?」
「あと、ある動作を別の動作に切り替えることも頻繁にするんです。例えば噴射上昇をして、すぐダイブとか。長刀の振り下ろし軌道を変えるとか。
FCSの自動照準をすぐキャンセルしてより脅威度の高い別の敵に照準しなおしするとか。俺はキャンセル入力って言っていますけど、それをなかなか受け付けてくれないんです。
操縦系がとにかく一つの動作パターンが終わってからしか次の動作を受け付けない傾向が強いんですね。
ですから動作中の入力監視をもっと細密にして、可動部の位置とモーメント、荷重、加速度の再計算をもっと早くして、それを簡単に受け付けるようにして欲しいんです」
「……」
「あとは、機動時の定型動作パターンが少なすぎますし、動作入力も煩雑すぎます。はっきりいって、BETAと戦う前に機体にやらせたい動作を仕込むだけで日が暮れます」
「悪いけど、それはあんたの機動が特異すぎるからよ」
「それはそうです。でも俺はこれで実績を出しました」
 その言葉で夕呼先生は黙り込んだ。
「なんというか、今日の14対1の模擬戦で思ったんですけど、今の戦術機は、まだ人間相手に戦闘する癖が残っています」
「どういうこと?」
「BETAの基本戦略は物量ですよね? つまり大量の敵を短時間にさばかなければならないわけです」
「そうね」
「ということは、入力する手数を少なくして、似通った動作は似通った手順で入力の後の方で切り替えられるようにするとかしないと、間に合わなくなります。
現に、さっき包囲されて間に合わなくなりました。あれは、機体が動かないんでなくて、入力がめんどくさすぎておっつかなくなっただけです。シビアに包囲されただけであれでは駄目です」
「……あんたの言ってることをやろうとすれば、OSから取っ替えなければならなくなるわ」
「やっぱり無理ですか?」
 それに答えず、先生は机からソファーまで歩き、柔らかな座面に腰を落とした。そして、酒をグラスにつぐ。
「これが最後。これでしばらくお酒、やめるわ」
 味わうように酒を飲み干すと、グラスを伏せた。
「オルタネイティブ4は、何も人類に貢献できなかった。それがあたしは悔しかった。自分が天才だって信じてたのに、最後の壁を突破することができなかった。
……今となっては手遅れかも知れないけど、けじめぐらいはつけるわ。お酒に浸って自己嫌悪をごまかすくらいなら……白銀、あんたが工作員であっても、あんたに私の生きた証を残してあげる」
 そこにいたのは、傲岸不遜な天才博士ではなく、ただの全てを無くした女だった。
「あんたは、ヴォールグ・データをクリアして、ヴァルキリーズを二度も打ち破った。……あんたは知らないだろうけど、ヴァルキリーズは特別なのよ。
あたしが、特別であるようにヴァルキリーズを育てたの。取り上げられちゃったけどね」
 夕呼先生が言葉を切ると、どこか暖かな沈黙が漂った。そして再び口を開いたとき、先生の目には昔の光が宿っていた。
「白銀、総戦技評価演習、生き延びなさい。……今のあんたは始末に困る存在よ。事故で死ぬのを願っている人間がいくらでもいるわ。……前の世界では戦友だったかも知れないけど、今のヴァルキリーズもあんたの敵。
戦術機操縦でカタを付けられなかったから、体を使う戦闘で決着を付けようとしているの。だから生き延びて、帰ってきなさい。……あたしはここで待ってるから」
 敬礼をしようとして手錠が邪魔で出来なかった。だから心から真摯に頭を下げる。先生がどこか優しい目をしてうなずいた。
「征ってきます」



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