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No.1125の一覧
[0] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/22 04:23)
[1] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/26 22:08)
[2] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/30 00:47)
[3] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/26 22:01)
[4] Muv-Luv Appendix[違法因果導体](2006/11/30 00:25)
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[1125] Muv-Luv Appendix
Name: 違法因果導体◆b329da98 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/11/26 22:01
-4- 絆の証明

10月26日


「白銀君、残念だが総戦技評価演習は中止だ」
「はぁ?」
 副長から告げられて、俺はあっけにとられた。
 時刻は日本時間で13時過ぎ。狭い潜水艦の中で緊張しながら待機していた時である。
 魚雷管の下の待機場所で、営倉と環境のひどさについて比べて、潜水艦のほうがひどいと結論をだした時、発令所に呼ばれたのである。
 艦長を横目で見ながら、副長は俺に状況説明を開始した。
「上陸予定の島に、BETAが出現した」
「そんな馬鹿な! ハイブより全然遠い所じゃないですか!」
「詳しくはわかっていないが、先日横浜基地を襲撃した残存部隊が流れ着いたとの推測がなされている」
「……信じられない。……そうだ、ヴァルキリーズはどうしたんですか? 彼女らも参加してくれるはずでした」
「……そのことだが、交戦状態に入り負傷者が出ているという」
「そんな」
 ぐらりと世界が傾くような錯覚に襲われた。
 本来の任務でもなんでもない総戦技評価演習に駆り出されて、そこでBETAに逢うなんて。
 おれのせいなのか? ……たぶん、そうだろう。
「基地では救出部隊の派遣を準備中だが、レーザー属種がいるらしく、ヘリの離発着は難しいと考えられている。
そのため戦術機、強化外骨格の輸送も厳しい。……たぶん、我々が彼女らに一番近い」
「はい」
 当然だ目標地点が同じなんだから。
「だが君はまだ軍人ではない。だからこれは君の自由意志で決めてもらいたい。負傷者の救出を行うか、このまま帰還するか」
「……このまま島に向かってください」
「BETAがいるがいいのか? 戦術機はないぞ」
 俺は首をふった。
「俺のせいで彼女ら巻き込んでしまいました。それを見捨てて帰るなんてできません」
「……わかった。では白銀君、艦首に向かえ。間もなく射出する。ブリーフィングは射出カプセル中で行う」


 潜水艦から射出されると、そこは南国の島だった。青い空、白い砂に緑の森。BETAがいるなんてとても思えないのどかな風景が広がっている。
 潜水艦のくさい空気を吹き飛ばすかのように深呼吸した。そして、浜辺でとまったカプセルから出るとスロープを展開する。
 積載されていたのは高機動車、いわゆるジープみたいな車だ。固定フックを外すと、パーキングブレーキを確認して、車止めを外した。
 BETAが居なさそうなことを確認して、エンジンをかけた。直列4気筒が二三度咳き込むと、猛然とうなりをあげた。
 アイドリングが安定したのを確認して、ゆっくりと発進させ、スロープをおりる。
 水音を響かせ波打ち際の柔らかい砂をタイヤに噛ませながら、そろそろと乾いた部分まで乗り上げて停車。
 後の荷台に載った装備を確認する。車載無線機が鳴って、回収ポイントが指示される。
 回収ポイントには重機関銃、ロケットランチャーとクレイモアで固められた、半地下式の機関銃トーチカの設営される予定である
 俺は負傷者、生存者を回収ポイントまで運び、回収を待つことになる。
 あまり役に立たない地図を確認してから、車載無線機のスイッチを入れてマイクを手に取った。
「ヴァルキリーズ聞こえるか、こちらは白銀武。負傷者および生存者の回収に来た。状況を知らせてくれ」
「こちら、ヴァルキリー5、現在3名生存。うち負傷者2名。1名は自力移動は不可能。死亡者無し。今から発煙筒を焚くわ」
 すこし遠くの森から煙が立ちのぼる。
「了解、視認できたよ。そちらに向かう」
「待ってるわ……ありがとう。逃げずに来てくれて」
「涼宮少尉、しおらしい声を出すなよ。心配になるだろうが」
「馬鹿」
 少しだけ安心すると周囲を確認して、薄れゆく煙に向かって車を走らせた。 

 南国の森は、入り口からわずかな距離で車両が入れなくなる。、残りは徒歩で行くことを余儀なくされた。
 無線で連絡をとりつつ、茜達の居場所に向かい、到着したのは一時間後だった。
 いたのは無傷の茜、三角巾で右手を吊っている築地、そして柏木は左手を食いちぎられて寝かされていた。
「止血はなんとかできた。ショックで呼吸停止したけどそれも蘇生はできた。けど……」 
 柏木は真っ青で苦しげに目を閉じて、あえいでいる。あの屈託の無い笑顔はかけらも無い。
「柏木は俺が担ぐ。築地は歩けるな。涼宮、悪いけど警戒を頼む」
 叫び出したいような気持ちをこらえて、寝かされた柏木をそっと担いだ。無惨に食いちぎられた左上腕部が否が応でも目に入る。
 柏木の重みを感じながら歩くことだけが、俺にできるつぐないに思えて、無言で元来た道を戻った。

「白銀、築地、止まって。BETAよ」
 立ち止まって姿勢を低くする。先を行く茜の指さす方向に、双眼鏡を向けた。
 ジャングルに似合わない汚らしい白さ、人間のものに似ているのがおぞましい歯。その上の小さな目のようなもの。それがゆっくりと動き回っている。
「兵士級か」
 腰の拳銃を確認する。茜が小銃のセイフティを外して、バーストモードにする。
「BETAのことわかっている?」
 築地が俺を見上げる。猫のような印象をもたらす顔も今は疲労の色が強い。
「まあ、一通りは習っているよ。あれは、対人探知能力が高いんだろ」
「動きは闘士級に比べれば鈍いけど、それでも今のあたし達には脅威だから」
「……だな。迂回して高機動車に向かう。あそこに行けば軽機関銃がある」
「了解」
 手信号で茜に合図し、そろそろと遠ざかる。
 鳥の羽音にすらおびえながら俺達は進んだ。

 森の入り口に止めていた高機動車は無事だった。
 柏木を後部荷台の担架に寝かせるとベルトで固定。茜が軽機関銃をロールバーに設置し、そのまま射撃ポジションを取る。
「白銀、運転と通信よろしく。築地、給弾できる?」
「なんとか。春子の面倒は任せて」
「OK。じゃあ、いくわよ」
 エンジンをかけ、慎重に後退する。少し開けたところで転回し、アクセルをふかす。
 走り始めるとすぐに、うなり声があがった。ミラーで確認するがなにも見えない。
「3時の方向、兵士級確認。白銀、急いで!」
 アクセルを踏み込むと4気筒OHVターボエンジンがほえた。
 頭上で機関銃が断続的にうなりをあげ、ばらまかれた薬莢が綺麗な音を立てた。

 海岸に出ると射撃がやんだ。
「どうだ? やったか?」
「何発か打ち込んだけど、しとめたかはわからない。でも追いかけてこないみたい」
 頭上から降ってくる茜の声は落ち着いている。
「そうか。で、このあたりどの程度BETAがいるんだ?」
「戦車級と光線級が各1匹か2匹、闘士級は3匹も居ないと思うし、兵士級もそれくらい」
「ちっこい島のくせになんで……」
「私は見てないけど、要塞級の死体があったって聞いたから、そこから出てきたのかもね」
「なんてこった。……それで、他の奴は?」
「わからないけど、携帯無線機は皆持っているよ。出力が弱いから受信が難しいかもしれないけど」
「島を一巡りする必要があるわけか」
「築地、柏木はどう?」
 茜がエンジンの騒音のため、声を張り上げて後に訪ねた。
「だいじょうぶ。安定しているよ。モルヒネが効いたみたい」
「涼宮少尉、このまま回収ポイントに向かう。そこで二人をおろそう」
「了解」

 鉄橋を渡った先の回収ポイントにはすでにトーチカが作り上げてられていた。
「さすが、潜水艦の人達は仕事が早い」
 感心する俺に、茜が苦笑した。
「そうじゃない。もともと訓練用のトーチカがここにあったのよ。でもこういうときには助かるね」
「なんだ。まあでも、重機関銃とかは設置されてるようだし、ちゃんとやってくれてる。さ、早く柏木達をおろしてしまおう」
 トーチカの後に車をつけると、茜と俺で柏木を運び入れた。築地が無線機のスイッチをいれて、潜水艦を呼び出す。
 現状の報告を終えると、30分後に負傷者の回収を告げられ、通信がきられた。
「さてと、じゃあ、また一回り他の奴らの回収に行ってくるよ」
 俺がそう告げて立ち上がり高機動車に乗り込もうとすると茜がついてくる。
「? どこにいくんだ?」
「? 回収にいくんでしょ?」
 互いに顔を見合わせる。
「柏木はどうするんだ?」
「30分なら築地だけで大丈夫。むしろ白銀一人で行かせて、やられちゃったら意味がないんじゃない?」
「だけど、負傷者保護は……」
「白銀? あなたはまだ軍人じゃないし、私は士官。軍に協力する民間人を守らなくて、なにが軍人なわけ?」
「えー? このタイミングでそれを言うかー。だいたい総戦技評価演習やらされる時点で俺は訓練兵みたいなものだろ」
「でも、私の方が正しいでしょ? それに訓練兵ならなおさら正規兵の指示に従わなきゃ。違う?」
 茜は腕組みをして、一歩も引きませんって顔をする。こういう顔をした委員長……茜も委員長だったっけ……達は、やっぱり言い出したら引かない。
「ぐむー」
「変なうめき声出したって駄目だから。戦場じゃ軍人の言うことに従いなさい。いいわね、民間人のおにいさん? 返事は?」  
「……りょーかい」

 次に車載無線機に反応があったのは、夕暮れだった。相手は美琴達だった。
「で、状況は?」
「ぼくは大丈夫。慧さんも壬姫さんもなんとか。だけど、冥夜さんが……」
「わかった。急行する。BETAに見つからないように車が入れる位置まで移動できるか?」
「やってみるよ。……武、来てくれたんだね。うれしいよ」
「馬鹿やろ! 当たり前だろ! ……美琴……ごめん……鎧衣少尉、俺がつくまで冥夜を頼む」
「うん。じゃあ、今から合流ポイントを言うね。あ、それと僕は美琴でいいから」
 美琴の指定するポイントを地図に書き込む。通信が切れると、がっくりと落ち込んだ。
 ヴァルキリーズが味方でなくなったのはわかっていた。冥夜達が仲間でなくなったのもなんとか納得できるようになった。
 それでも、彼女らが傷つくのは、……つらい。ましてや、俺が関わらなかったらこんな事に成らなかったのにと思うと、……つらすぎる。
 俺はただオルタネイティブ4を再開させたかっただけだった。なのにどうしてこんな事になるのだろうか。
「白銀、だいじょうぶ?」
「……ああ。ごめん、ちょっと考え事。さ、回収に行こうぜ」
 茜の気遣う視線が心苦しい。
 この世界の人々はオルタネイティブ5を選んだ。なのに、悲しい終末を見るのが嫌だからという理由で俺がそれをひっくり返す権利があるのだろうか?
 わからない。わからないけど、俺の行動の結果で、柏木も築地も冥夜も傷ついた。それは間違いない。
 車を走らせながら俺は唇を噛みしめた。世界を変える代償とはこういう事なんだと、重い実感があった。

 日が暮れた。俺達は海岸から離れ、山と山の間の峡谷を進んでいた。
 BETAに見つかりたくないため、前照灯はつけない。それゆえ路面を星の明かりで確認しつつゆっくりと車を走らせた。
 森が黒々とした闇の固まりに変わって俺達に迫り、空が徐々に暗い青に染まっていく
 動物たちの光る目が、ともすればBETAのそれに見えて驚く。
 しばらく走って、俺は車を止めた。 合流ポイントに到着したはずだった。
 車を止めて、光を漏らさないように、ダッシュボードの中にペンライトをつっこみ、マップとGPSで位置を確認する。
「たぶん、ここが美琴の指定したポイントだと思う」
「待つしかないわね。左の監視をお願い。私は右を」
「了解」
 エンジンが止まると虫の鳴き声が耳につく。目の前に黒々とした森が広がっている。車から降りて、セイフティを外して小銃を構えた。
 茜は車上のまま警戒を続けている。
 長い時間が過ぎたように思った。茜が突然声をあげた。
「どうやら来たようよ」
 後を向くと、小さな光が明滅しているのが見える。
「あれか」
 ペンライトを光に向けて振ると明滅がやんだ。
「御剣が負傷している。鎧衣がいるからやることはやっていると思うけど、救急セットは用意しておいて」
「ああ」
 茜に言われるまでもなく、美琴の技能については心配していない。生きた万能サイバイバルツールな美琴は、こういうときは居るだけで心強い。
 俺は後部の荷台に行くと救急箱を引っ張り出して中を点検した。
 そして再び運転席付近に戻り警戒にあたる。
 数分後、タマを先頭に、彩峰と美琴、そしてその二人に担がれた冥夜が現れた。
「後だ。寝かせて固定してくれ」
 二人から冥夜をひったくるような勢いで、荷台に引っ張っていき、寝かせる。
 見ると冥夜の右の脇腹に赤黒いシミが広がっていた。
「……白銀……すまぬ……」
 いつもの凜とした目の光が消え、焦点の合わないぼーっとしたものになっている。
「美琴! 冥夜の状態は!」
「今、ここで出来ることは無いよ。病院につれていくしかない」
「くそ!」
「BETAよ! 12時方向、数2」
 茜の叫びと共に機関銃がうなり始める。
「みんな車に乗れ!」
 運転席に駆け寄って乗り込み、エンジンを始動。ナビ席に彩峰が乗り込み、俺が置いていた小銃を構えると、撃ち始める。
「車を転回させる! 全員、何かにつかまれ!」
 ギアをバックにたたき込んでアクセルを踏み込む。そして強引にハンドルを切った。
 隣の彩峰がこちらにずれてくるのを感じながら、ブレーキを踏んで、ギアをドライブに入れる。ミラーにBETAが映り、慌ててアクセルをふむ。
「闘士級が!」
「応戦して!」
 美琴の言葉に軽機関銃を後に向けようとしている茜が叫ぶ。
「やってみる!」
 バックミラーの中でタマが小銃を慎重に構えていた。車内が揺れる中、3点バースト音が二度響く。
「……追って来なくなった。やるね、珠瀬少尉」
 その和らいだ茜の声に、俺もため息をついた。サイドミラーを確認しても、BETAは見えない
「さすがは、タマ……瀬少尉。よ、東洋一の魔弾の射手!」
「し、白銀さーん!」
 暗くて見えないが、タマは照れていると思う。
「で、もう一匹は?」
「確認できない。警戒態勢を維持して、このまま突っ走るわよ」

 それでも森を抜けると車内に安堵の気配が漂った。
 機関銃の銃手はタマに代わり、茜は冥夜の様子を見に行っていた。涼しい夜風が吹く海岸を走らせているとき、ポツリと彩峰が俺を呼んだ。
「……白銀」
「うん?」
「……伊隅大尉に注意して」
「なに? どういう意味だよ、それ?」
「……この島にBETAがいるの、変」
「変って、そりゃそうだけど、要塞級がいたんだろ? あれから小型種が出てくるんだろ?」
「……それ、伊隅大尉しかみてない。かなり大きいのに、居たらわからないわけがない」 
 その指摘に俺は黙り込んだ。要塞級ってのは動く小山みたいなもので、かなり遠くからでも居るのがわかる。衛星写真でもわかる。
 彩峰が珍しく続けて言葉を発した。 
「……前、ヴァルキリーズが特殊任務部隊の頃、BETA捕獲作戦をしたことがあるって」
「そんな、まさか?」
「……白銀は厄介者。でもあたし達も厄介者」
「彩峰!」
「……上は都合が悪ければ切り捨てる」
 それきり彩峰は黙ってしまい、ただエンジン音だけが俺達を満たした。

 回収ポイントで冥夜を降ろし、今度は美琴と二人で残りの回収に向かうことになった。
 幸いなことに築地と柏木は病院に収容されたらしい。
 茜は回収ポイントで指揮をして、タマと彩峰が防御にまわるという算段だった。
「御剣は心配いらない。艦がもうすぐ回収に来るし。それより速瀬中尉達をお願い。ま、あの人がそうそう殺されるとも思わないけど」
 茜はそう言って俺達を送り出した。


10月27日


 すでに東の空が明るい。
 ほぼ島を半周し、裏側にまわっている。
 海沿いに走って岬を一つ越すと、前方に色のついた煙が立ちのぼるのが見えた。アクセルを踏み込む。
「武! ヒトだよ。少佐達じゃないかな?」
 走っていくと人影が見えたため、前照灯をパッシングする。人影が手を振ったので、近寄って車を止めた
「無事でしたか?」
「来てくれたのだな、白銀武」
 柔らかな笑みを浮かべて、まりもちゃんが車に歩み寄った。
「当たり前です。それより、状況は?」
「あれくらいでおたつくあたし達じゃないね。けが人はいない」
 ポニーテールの速瀬中尉が笑う
「涼宮少尉とはぐれて涙ぐんで動揺していた人が一人」
 さらっとした顔でばらすのは、クールビューティな宗像中尉。やっと名前を覚えた。
「宗像ぁ!」
「二人とも、気を抜きすぎです」
 と優しげな声でたしなめたのは、えーと、
「風間少尉だよ、武」 
「すまん、美琴」
「白銀君、名前を覚えてくれてなかったのね。ちょっと悲しいな」
 優しげな風間少尉が耳ざとく聞きつけて絡んできたので、俺は少しあせる。
「あ、いや、その、他の方が強烈でしたので」
「ほう、白銀は我々をそういう風に見ていたのか? 覚えておこう」
 宗像中尉がにやにやといたぶってくるため、俺は全力で話をそらすこととした。
「で、まり……神宮司少佐? これで全員ですか?」
「いや、榊と伊隅がこの先にいるらしい。ここで合流予定だったが、貴様らが先に来たのだ。榊が足を負傷しているから遅れているようだな」
「武、車は少佐達に任せて、助けに行こう」
「ああ。じゃ、少佐達は車で回収ポイントに向かってください。で、人を降ろしたらすいませんが戻ってきてください。その間に俺達が大尉達を助けに行きます」
「そうだな、それがいいだろう。……総員乗車!」
 俺達は小銃を持ち、まりもちゃんから二人がいそうなポイントを教えてもらった。
 車が行ってしまうと取り残された感じがする。
「武、行こう。西の空が崩れてきている。早くしないと雨が降るよ」
 美琴の指摘に西の空を見上げる。いつのまにか黒く低い雲が迫っていた。

 指示されたポイントには委員長しかいなかった。
 くぼみに横たわり巧妙に偽装して息を潜めていた彼女を発見したのは、もちろん美琴だった。
 左足には副え木が当てられ、包帯で固定されている。
「大尉はどうしたんだ?」
「BETAが接近してたから、私から目をそらすために囮になったわ」
 嫌な予感がした。彩峰の言葉が思い出される。  
「美琴、俺は大尉を捜してくる。委員長を頼めるか?」
「任せてよ、武。千鶴さん、足の怪我には杖を使うといいんだよ。簡単だけど松葉杖作るから待っててね」
「じゃ、委員長を頼む」
「はぁ?」
 二人揃って目を点にされて、失敗を悟る。
「あ、いや、榊少尉っておれが昔いた学校の学級委員長みたいだから、……つい委員長ってね」
「白銀って、御剣も冥夜って呼んでみたり、鎧衣とは、美琴に武って呼び合っているし。結構なれなれしいわね」
 ばれてたらしい。
「あ、まあ、なれなれしいのは俺の欠点ということで。勘弁してくれ」
「……まあいいわ。早く行きなさいよ」
「すまん」
 走り出しながら、やはり違った世界に来てしまったことを実感し、そして伊隅大尉の事が気になった。 

 幸い、伊隅大尉とはすぐに無線で連絡がついた。無線での語調は変わらないようだったが、息が荒いのが気になった。
 無線で聞いたポイントに近づくと岩陰に伊隅大尉が座っていた。
 降り出しそうな暗い空の下、陰になってもすぐにわかった。大尉の左肩が真っ赤っか。
「大尉!」
「心配するな。肩は少しかじられただけだ。もう鎮痛剤も打った」
「肩を貸します。もう他のヴァルキリーズは全員回収しました」
「……そうか。白銀、来てくれたのだな。礼を言う」
「しゃべらないでください」
 そういうと大尉の右側に潜り込んで体を持ち上げる。
 周りを良く見渡して、元の道を引き返した。

 鼻の頭に水滴が落ちたと思ったら、途端にスコールになった。空は一面黒雲に覆われている。
 大尉の息が荒くなったのを見て、木陰に入った。
「白銀、私に構うな。BETAに追いつかれる」
「馬鹿言わないでください。ここで大尉を放り出したら、速瀬中尉や宗像中尉、涼宮少尉に殺されます」
 しかしその言葉に大尉は自嘲の笑いを浮かべた。
「ふふっ。いいんだ。私は自業自得ってやつだ」
「なっ、なにを言っているんですか!」
「……白銀、これは罠なんだよ。おまえと私達、両方をしとめる罠」
「……ひょっとして総戦技評価演習中の事故にみせかけるって奴ですか」 
「お偉い誰かがおまえも私達も信用しきれないんだ。しかも戦術機乗りとしての腕は良いから、ただ殺すだけでは現場が納得しない」
「それで、事故にみせかける?」
 苦しい息の下で大尉が笑った。
「ふふっ。1年ほど前の戦いで捕獲したBETAがあってな。我々がA-01の頃に行われた作戦だ」
 彩峰の言葉と一致した!?
「やつらは冷蔵保存していたBETAを空輸して島に放ったんだ」
「でもそれがどうして大尉のせいになるんですか?」
「取引だよ。BETAの保存場所を教える代わりに、前線基地勤務から外してもらえることになってたんだ」
「……どうして!」
「……好きな男がいるんだ。でもその男を好きな女が私以外に3人もいるんだ。……このままなら彼女らに取られそうで怖かった。あの人の側にいたかった。
会えないのがたまらなく寂しかった」
「……」
「私は狂っていたんだ。どうかしていた。でもあの人に会えると思うと……。私は馬鹿だ。こんな卑怯な女、あの人が好きになってくれるはずが無いのに」
 雨が葉や幹、草花を叩いている。
「……大尉、それなら俺も同罪です」
「白銀?」
 俺に大尉を責めるつもりは毛頭無かった。潜水艦の中でのことや、柏木、冥夜の負傷を聞かされた時の気持ちを思いだしていた
「俺は、オルタネイティヴ4が必要だと確信しています。それは変わりません。
でも、俺が中止になったオルタネイティヴ4を無理矢理再開させようとしたから、誰かが怖くなってこんな事を仕組んだんです。
今でもどうすればうまくやれたのかわかりません。でも俺の行動によってこんな事が起こったのは間違いないことなんです」
 語り出したら、もう止まらなくなっていた。自分の中で鬱屈していたものが後から吹き出してきていた。   
「……いや、ひょっとしたら俺は大尉よりも罪深いかもしれません。激戦を戦ってきた大尉が、休暇を欲しくなったって、そんなの当たり前じゃないですか。
でも俺はこの世界の人々の選択を無視して、自分の信念をごり押ししようとしているのかも知れません。それで誰かを怯えさせ、こんな結果を招いた。これって確信犯じゃないですか。
そういう意味では大尉も俺に巻き込まれたんです。大尉のやったこと、俺には責められません」
 そして大尉の方を見たとき、俺は伊隅大尉が優しい不思議な目をしていることに気付いた。 
「だけど白銀、おまえはオルタネイティヴ4を信じている」
「……はい。それでも俺はたまらなく怖い。……世界を救うと信じてやった行動なのに、それで周りの大切な人々が危険にさらされ、傷ついて死んでしまうことがあるってのはとても……怖い」
 大尉の右手が、俺の肩にかけられる。とても温かかった
「白銀……戦うってことは、そういうことだ。些細なミスで撃ち漏らしたBETAが戦友を殺す。よかれと思ってやった作戦が、部下を殺す。決断し行動することが多くの人の人生と命を左右する。
それでも間違っていないと信じるなら、受け入れて信じて進むしか無い。私も私の指揮で多くを死なせてしまった。もう逃げることは出来ない」
 微笑みを浮かべていた大尉の顔が、何かを思いついたように目を丸くした。
「なぁ白銀? これって恋も同じだな。好きだって信じて行けば、同じ人を好きな誰かを傷つけてしまう」
「……はぁ? ま、まあ、そうですね」
「必ずうまくいくとは限らないところもいっしょだ」
「そうかもしれませんね」
「やはり思い切って行くのがいいのかもしれんな」
「え、えぇ」
 うーんと考え込んでいた大尉が、突然俺に迫った
「白銀、貴様、女に告白された経験は?」
「え、えーと。温泉で幼馴染みに」
「温泉! そ、そうか、それは良い作戦だ。うん、大胆かつ威力大だな。うん、温泉作戦か。白銀! 帰ったら詳細を聞かせろ! いいな!」
「は、はい! ……ところで傷はだいじょうぶですか?」
 なにか突然元気になった大尉は、しかしウィンクして立ち上がった。
「おまえのおかげで元気がでたよ。さ、雨が上がってきたようだ。回収ポイントまで急ごう」

 森の出口まで来たとき、俺達はもっとも会いたくないものに出くわした。兵士級BETAである。
「白銀、迂回するか?」
「駄目です。まり……少佐達との合流ポイントが近くです。このままでは少佐達が奇襲を受けてしまいます」
「倒すしかないか」
「俺がやります。大尉は構わず駆け抜けてください」
 小銃を構えて、大尉の前にでる。まだこちらに気付いていないBETAに照準する。
 良く狙ってバーストで撃ち込むが、当然のように倒れず、向かってきた。
「こっちだ!」
 わざと体をさらし、BETAを誘う、狙い通り兵士級が寄ってくる。向こうで伊隅大尉が走っていくのをみて、さらに後退してBETAを誘おうとした。
 だが、突然BETAが反転する。
 無防備な後ろ姿に銃弾を撃ち込もうとするが、素早く動いて避けられる。
「そっちじゃない、こっちだ!」
 叫ぶがBETAは反応せず、大尉を狙い、俺は冷や汗をかきながら全力でBETAを追った。 
 BETAは大尉を忠実に追っていた。いつの間にか森を出て、砂浜まで入り込み、ついに大尉は海を背に追い詰められる。
 間に合わない! そう感じた俺は銃を乱射してBETAにつっこんで、そしてあっけなくBETAの腕に払いのけられた。
 運の悪いことに、BETAはそこで初めて俺に気付いたようにだった。気味の悪い腕を伸ばして俺を掴む。骨が折れそうな締め付けに息が詰まった。
 目の前で奴のいやらしい口が開き、俺は思わず目を閉じた。


「演習終了!」
 その瞬間は、なかなか訪れなかった。おそるおそる目を開ける。奴のいやらしい口は開いたまま。でも腕も動いていない。
「?」
 何かが変だった。
「終わったんだよ、白銀君」
「は?」
 振り返ると……柏木が笑って立っていた。
「なっ、なんで柏木?」
「私もいるぞ」
 冥夜までいる。
「ひょっとして、天国?」
「あははは、確かに武にとっては天国かも」
 美琴が脳天気に笑っている。
「涼宮中尉、ご苦労だった」
 まりもちゃんの視線の先をみると、指揮通信車が止まり、そこからまた女性が降りてきていた。
「白銀武さんですね。CPを担当している涼宮遙です」
 すっと流れるような敬礼をして、俺に微笑む。
「貴様達、白銀は種明かしを望んでいるぞ。明かして差し上げろ」
 伊隅大尉が笑いながら言った。
 柏木が服の下でなにかごそごそすると、ちぎれている左腕が肩からぽろっと取れた。そして正常な左腕がにゅっと出てくる。
 冥夜が腹を出すと、右脇腹にあった醜い傷口を勢いよくはぎとった。下の皮膚は白くて傷一つ無かった。
 築地は、右腕を三角巾から外すと、腕を振り回し、手を握ったり開いたりした。
 委員長は、杖を捨てると、普通に両足で立って、左足の副え木と包帯を取ってしまった。
 そして伊隅大尉は左肩を出すと、かじられたような傷跡を勢いよく剥がした。やっぱり肩は傷一つ無かった。
 唖然とする俺に、涼宮中尉は、兵士級の足下をめくって見せた。キャタピラがついていた。
 
「白銀、これで総合戦闘技術評価演習は終了だ」
「あうあう。……演習?」
「どうだ? シミュレーターでのお返しだが気に入ってもらえたかな?」 
「……あうあう」
「とても気に入りました。僕は神宮司少佐、伊隅大尉にラブラブです……と白銀は言っています」
 じぶんでもギギギと音がしそうな感じで、声の主に首を向ける。
 予想通り宗像中尉だった。
「……そうか、それはうれしいが……」
 うれしいのですか? まりもちゃん。
 なぜか頬を染めるまりもちゃんはみんなの視線を受けると、姿勢を正して平静を装った。
「オホン。では、結果発表と行こうか」
 なぜか、茜、冥夜、速瀬中尉、柏木が俺の両手両足をもちあげ、俺は宙づりになった。
「白銀、貴様は合格だ! やれ!」
「え?」
 まりもちゃんの号令で勢いをつけて二度ほど振り回されたのち、俺は海に向かって射出された。

「総戦技評価演習は、戦闘技術だけをみているのではない」
 海岸には突如湧いた水着美女達でいっぱいだった。ヴァルキリーズの面々は準備よく水着持参だったようだ。
 俺は水着無しでずぶ濡れだったが。
「訓練兵間でのチームワーク、統率、信頼関係、そういうものが出来上がっているかも重要視される。だが、貴様にはいずれもない」
 まりもちゃんは黄色のビキニに着替えていた。
「はい」
「貴様に、安心して背中を任せられるという同僚からの信頼がない。貴様が命令や統率にスムーズに従えるかの部下としての信頼がない。
貴様が的確な指示を下せるかという士官としての信頼がない。そして軍人としての心得が出来ているかの、職業軍人としての信頼がない」
「確かに、その通りです」
「シミュレーターでの成績は、あくまでもシミュレーターでしかない。しかも貴様はいずれも単機だった」
 うなずく。
「だからこそ、この演習で貴様がどう動くかが重要だったのだ。仲間を助けないのはダメ。BETAがいるからと怖じ気づくのもダメ。助け出した正規兵とうまくやれないのもダメ。
そして、自責感に苛まされる戦友を助けてやれないのもダメ。さらに妙な思想を持ってたり何か反軍的反政府的企みをもっていないかもチェックが必要だ」
「ひょ、ひょっとして彩峰の忠告とか大尉の告白も?」
「当たり前だ。嘘に決まっている。私のシナリオだ。それに、貴様の見たBETAは演習用のラジコンロボットだ。気付かなかったのか?」
「あ、あのキャタピラ!」 
「そういうことだ。わかっていないかも知れないから言っておくが、あれはCPの涼宮遙中尉が操作していた」
「あう!」
 全然わかっていなかった。
「しかし、まあ貴様はうまくやった。正直、貴様には軍歴があったんだろうと思う。だが軍事機密で隠されているのだろうと推測している」
 そういうとまりもちゃんはため息をついた。
「それでも信頼できるかどうかだが、伊隅は信頼できると言っている。私もそう思う。だから貴様を合格とする。
報告を書いて、今日中に送るから、明日には任官できるかどうか決定されるだろう」
 再び、まりもちゃんの表情が凜としたものになった。
「だが任官は始まりに過ぎない。これから貴様は軍人として皆に信頼に値することを証明し続けなければならない。戦友と絆を作らなければならない」
「はい!」
 まりもちゃんがふと表情を和らげた。
「それに私を二度も撃墜した男を、むざむざ上層部の臆病で殺してしまうのは、横浜基地全ての損失だ。いや、日本と国連の損失だ」
「……え?」
「上層部にしっぽをふる奴らが担当ならば、今頃おまえは事故死してただろう」
「……俺はヴァルキリーズの人々もそうなのかと思っていました。だから警戒していました」
 ことここまでいけば、もう白状してしまうに限った。
「だろうな。だが白銀、命令の遂行の仕方にはいろいろある。我々は殺せと言われたら正しい命令なら殺す。軍人だからな。
だが、命令されなくて、正しくもなければ、やらない。上層部のごまをすって、余計な事をやるためにヴァルキリーズがあるのではないからな」
「……ですが、上ににらまれますよ」
「ふふっ。……ヴァルキリーズはな、香月博士の下でオルタネィティブ4のために動いていた部隊だ。もうにらまれている」
「そうだったんですか」
「そういうことだ。まあ、これで任官になれば、おまえにはあの機動をレクチャーしてもらう」
「えーと、まあ、俺でよければ」
「おまえは知らないだろうが、伊隅達はおまえの操作ログを必死で解析しているぞ」
「え? そうなんですか?」
「おまえにやられた後のあいつらを見せてやりたかった。……いや、オルタネイティブ4が中止されて、信じたものが無くなっていた奴らに、再び闘志を植え付けたのはおまえだった」
 ふとまりもちゃんは俺を見ると、意味深な微笑みを見せた。
「……それに夕呼もだいぶん元気をとりもどしたようでほっとしてるのよ」
 それは久々にみた昔のまりもちゃんの暖かい微笑みだった。
 その温かい交流が、乱入によっていきなりぶっ壊れる。
「白銀ぇ、いくら神宮司少佐が好みだからといって、他は無視かぁ?」
「なっ、なに言ってるんですか?」
「速瀬、どうした?」
 見ると速瀬中尉ががっしりと俺の右腕を掴んでいた。
「少佐、速瀬は、久しぶりの男を少佐の毒牙から取り戻して、ラブラブビーチデートをしたいと」
「宗像ぁ!」
 いつの間にか宗像中尉がひょっこり顔を出していた。
「……と、白銀が言っています」
「なんで俺?」
「白銀ぇ、いいから来い! 御剣!」
「すまぬな、白銀。私もおまえに貸しがある」
 いつの間にか現れた冥夜はそういうと左腕をとった。
「え? 何だよ、それ?」
「うむ。そなたに冥夜と呼ぶのを許したつもりはないのだ。まあ、これからはそれでいいが、これまでの分は払ってもらいたい」
「待ってくれ! 俺も武って呼んでいいからなっ、なっ!」
「その提案は了承するが、これはこれ、それはそれということでな」
「マジですか!」
「あはは、白銀さん、それ何語ですかぁ? 面白いですね!」
 タマが人の気も知らずに笑っていた。

 こうして俺はヴァルキリーズのおもちゃになった。演習より厳しく感じたのは言うまでもない。



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