“西の海”とある海域の海賊船。
「いたぞ!!こっちだ!!」
「野郎っ!!ぶっ殺してやる!!」
オレは海賊船の中を走る。
そのスピードは速すぎず遅すぎず。
海賊達がちょうど追いやすい速度だ。
「喰らえや、オラっ!!」
海賊の一人が手に持った銃を放つ。
弾丸はオレへと向かい──
「紙絵」
直前で避け当たらない。
「そんなもんじゃ当たんねーよ。おーい、ココだよよく狙え」
オレは自分の胸の中心を指した。
明らかなる挑発だ。
「ふざけんなぁー!!!」
そしてモノの見事に、
海賊達は激昂する。
そしてオレはまた海賊達を背にして走り出す。
あらかじめ決めておいたルートを黙々と進む。
大きな音を出し、海賊達を見つけては挑発する。
大勢の海賊達にやがてオレは囲まれてしまった。
前後左右を完全に取られもう逃げ道はない。
海賊達から穏やかでない言葉が次々と投げ放たれる。
周りの殺伐とした雰囲気が最高潮に達した時、人波を割ってこの船の船長である巨漢の男が現れた。
「船長自ら出向く必要が?」
オレはおどけたように話しかける。
「黙れ!!!
昨日の一件が、新入り!!!
貴様等のせいだってのは分かってんだよ!!!」
先日の一件。
この辺りでは出会う可能性の無い海軍本部の戦艦によって襲撃を受けた件だ。
小規模ではあったものの本部の戦力は強く、この船は多大な被害を被った。
「どこに証拠があるんです。
もしかしたら、懸賞金四千二百万ベリーの大物船長“岩肌のトロル”の首をを狙ってかもしれませんよ?」
「しらばっくれんじゃねぇ!!
前からおかしいと思ってたんだ!!
貴様等を船に乗せてから急に海兵共に狙われる機会が増えやがた!!
おまけに昨日は本部の船だぞ!!
これ以上は温厚なオレ様でも我慢できねぇ!!!」
「つまり……船長にはオレたちを匿うだけの器が無いと……?」
ブチっ!!
そこがトロルの怒りの頂点だったのだろう。
トロルの肌が変化する。ただでえ太い腕がメキメキと膨れあがる。
それは通常ではあり得ない岩で出来た肌だった。
「出た!!船長の“ゴツゴツの実”の能力!!」
“ゴツゴツの実”の岩石人間。
それがトロルの能力だ。
「減らず口もそこまでだ!!新入り!!
地獄で後悔しろ!!!
後で連れの“クソ女”も一緒に送ってやるよ!!!」
「……………」
「────岩石落石!!!」
トロルの腕から巨大な岩の固まりが放たれる。
巨大な岩はまるで隕石のようにオレに向かい───
───直撃する。
巻き上がる部下達の歓声。
トロルから放たれた巨大な岩石を身に受けて無事な人間がいるはずがなかった。
「──────止めたわ」
だが、オレはその例外だったようだ。
直撃の瞬間に全身に“鉄塊”をかけた。
鋼鉄の硬度まで達したオレの身体はトロルの攻撃に打ち勝った。
静まり返る船内。
船長のトロルでさえも、驚きに言葉を失っていた。
「アンタらには借りがある。
こちらの不手際で思ってたより早く海軍に補足された。
こう言うのも何だが“義理”はある程度までは通すつもりだった………」
でもな……
オレは“剃”によって加速する。
「なっ!! 消えっ……!!」
停止状態からの最大加速。
もう、未熟だった頃とは違う完成された体技。
その爆発的な脚力はオレが消えたかのように認識させる。
オレは拳を“鉄塊”で硬め本物の岩肌と化したトロルに“指銃”の速度で突き出した。
「────六式“我流”閃甲破靡」
“鉄塊”によって硬められた拳に岩石程度では意味を成さず、
オレの拳はトロルの岩肌を砕き、吹き飛ばした。
「ぐがぁ!!!」
「うわっ!!せ、船長がこっちに……!!!ぎぁあ!!!」
トロルは部下達を巻き込み船壁へとめり込んだ。
そして手先をぴくぴくと痙攣させる。
「“アイツ”を侮辱するのは許さない」
呆然とする部下達。
目の前で起こったことが信じられない……そう言った表情だ。
誰もが押し黙る沈黙の中、
聞き慣れた声が聞こえた。
「もう……手筈と違うじゃない」
「悪い……やっちまった」
本当はこっそりと船から脱出するつもりだった。
しかし、見つかってしまった。
そのため、オレが海賊達を引き付けその隙に脱出の準備を整えることにした。
トロル達には海賊とは言え、騙して船に乗ったことで負い目があった。
さらに先日の海軍の襲撃で結構な被害が出た。
だからせめてこれ以上被害を広がらない方法での脱出方法を取るつもりだった。
本来なら四方を囲まれた状態から“月歩”で空中に避け、そこからまた海賊達と追いかけっこをする予定だったのだ。
そして、十分に撹乱し終わった後、砲門を破壊して二人で脱出するそんな手筈だった。
船室の扉が開かれる。
腰元まである艶のある黒髪に艶やかな唇。描くのはミステリアスな微笑。
鼻筋はスッと顔の中心を通り、綺麗な二重の瞼は昔以上に色気がある。
手足は繊細で細長く、出るとこは出てるのに引っ込むとこは引っ込んでいる
メリハリのある統制のとれた身体。
歳月と言うのはいとも簡単に人を変える。
昔の子猫のようなあどけなさはもう無い。
大人の女性としての魅力に満ち溢れた幼なじみがそこにはいた。
「いいわ……私のことだったみたいだし許してあげる」
「すまん───────ロビン」
オレたちのやりとりを見守っていた海賊達が我に返る。
何人かが拳銃をロビンへと向けた。
「て、てめぇ動くんじゃねぇ!!!
この女がどうなってもいいのか!!?」
「……クレス…人質になっちゃったわ」
「……助けてほしい?」
「ふふっ………どうしようかしら」
オレとロビンはそんな些細なこと気にせずに会話を続ける。
「首尾は?」
「完了したわ。後は乗るだけ……
早くしないと遠くへ行っちゃうかも」
「なら、早めに終わらせるか」
銃を向けた海賊達を完全に無視するオレとロビン。
海賊達がふざけるなと人質に捕ろうとしたロビンに引き金を引こうとした。
「──そんな物騒なもの私に向けないで」
だが、その瞬間に海賊達の銃が突然咲いた腕に叩き落とされた。
「なっ!! う、腕が!!」
「ぎいゃああ!! 何じゃこりゃ!!!」
至るところからでも己の各部を咲かせることが出来る能力。
ロビンが口にした“ハナハナの実”の力だ。
応用の利くこの能力は特に奇襲に打って付けだった。
「誰に向かって武器を向けてんだよ」
オレはざわめく海賊達に肉薄し殴り飛ばす。
殴り飛ばした海賊は周りの人間を巻き込んでいく。
そしてそのまま、間髪入れずに近くにいる海賊達を片っ端から倒していく。
「くそっ囲め!!」
「無理だって!! 速すぎて……ぐぁ!!」
「畜生!! 強すぎる!!」
「駄目だ!! 全く歯がたたねぇ!!」
船中に広がる混乱の渦。
“剃”を基本とした高速戦闘を行うオレに着いてこれる奴はいなかった。
あちこちで悲鳴と怒号が上がる。
ついには味方同士での同士討ちまでも始まった。
「そろそろだな……」
「そうね、お先に失礼するわ」
ロビンは船のメインマストに向かって手を“伸ばした” 。
「─────十輪咲き」
伸ばされた手はこの船のヤードを握る。
そしてロビンはそこを支点として振り子の原理で前へと飛んだ。
「女が逃げるぞ!!」
海賊の一人がロビンに気づき声を上げる。
それに触発されるように何人もの海賊達が混乱の中
ロビンに向けて銃口を向けた。
「オイオイ……さっきも言ったぞ、
──────誰に向かって武器を向けてんだ」
オレは甲板を踏み込み脚を一線させる。
「嵐脚“線”」
広範囲を一直線に飛ぶ“嵐脚”
それはロビンを狙う海賊達を妨害し、
オレに一筋の道を作った。
「剃“剛歩”」
オレはその道を一直線に進む。
途中海賊達が無謀にも立ち塞がろうとする。
だが、オレを阻む海賊は全てオレに触れた瞬間に宙を舞った。
全身を“鉄塊”で硬化させた状態での“剃”
それは高速で走りぬける機関車のように障害物をはじき飛ばしていく。
「月歩」
空中を跳ね
ちょうど落ちてきたロビンを抱きかかえる。
「よっと!」
「ナイスキャッチ」
「そりゃどうも」
何度か宙を蹴り海賊船から離れる。
後ろで銃声が疎らに聞こえてくる。
討ち漏らした何人かの海賊達だった。
「三十輪咲き」
海賊達に次々と腕が咲いていく。
腕に固められ動けない。
「それでは皆さん」
「───────ごきげんよう」
「“クラッチ”」
海賊達が関節を極められ崩れ落ちた。
プロローグ「二人の行き先」
“月歩”を使い、先に出した船を追いかける。
船へは三分ほど飛び続けて到着した。
「思ってたより遠くにあったな」
「少し波が高かったからそのせいかしら?」
最後の一歩を蹴り船の上へと降り立った。
「へぇ……思ってたより良い船だな」
周りを見渡す。
あまり大きな船では無い。
だが、トロルの船にあったにしては趣味がいい。
…………トロルの船にあったものは船長の趣味を反映してかやたらと硬いものが多かった。
まあ、それは置いといて……
マストに舵取り棒。
大砲等の兵器の装備は無し。
船室は三つ。個室とキッチンにユニットバスに備え付けのトイレ。
生活環境は一通り整っているようだ。
見れば航海に必要な物は一通りそろっていた。
「それで、これからどうするんだ?」
オレは早くもキッチンに備え付けられたテーブルでくつろぐロビンに話しかけた。
「さぁ……どうしようかしら」
疑問形にしては困った様子はまるでない。
どこか、うれしそうな様子だった。
炎の中に消えた“オハラ”から脱出して
もう十年以上が経った。
八歳と言う幼さで賞金首になったオレとロビンが生きていくには世界は厳しすぎた。
執拗に追ってくる政府の人間。
数多くの人間に迫害され、騙され、裏切られた。
そして、その度にロビンの手を引き逃げた。
立ち向かい、“敵”となった全ての人間を倒せればどれだけよかったか……
拳を振り上げても、それを振るう相手が多すぎた。
振るうべき相手はまさに世界の闇なのだろう。
そして小さなオレにはそれに打ち勝つ力が無かった。
オレ達は常に身を隠す事を考えた。
そして、人間の残酷さや狡猾さや薄汚さを知りそして染まっていった。
どんな状況になっても、
せめてロビンにだけは人間の持つ闇を知らないでいてほしかった。
オハラでの日々のような無垢な心でいて欲しい。
これはオレの一人よがりな願いなのかもしれない。
でも……そう願わずにはいられなかった。
だが、オレ達を取り巻く環境はそれを許さなかった。
次第にオレ達は海賊や裏組織と言った非合法の組織に接触する。
だが、そこでもやはりオレ達に居場所は無い。
不穏な空気を敏感に読み取っては逃げだした。
お互いに成長して身体的特徴から手配書の写真が分かりづらくなるまではまさに地獄だった。
最近はマシになって来たが、時折本部の船が哨戒してるのを見かける。
そして、そのたびにやはり逃げた。
「せっかく船も手に入ったしまた遺跡にでもいくか?」
「……でも、この海域からだと主だったとこは無いわね」
“歴史の本文”というものがある。
世界中に点在する硬石のテキストだ。
政府の人間に追われながらも、オレ達は“西の海”でこれを探し続けた。
だが、何十と言う島を回って見つけたのはたった一つだけだった。
発見した当初は二人で喜び合ったが、そこにはロビンが望むような情報は記されていなかったらしい。
それからはまるで見つからない。
もしかしたら“西の海”だけでは限界があるのかもしれない。
オレはロビンが積み込んだ(トロルの船から頂戴した)荷物を取り出す。
向う何日かは十分に持ちそうな量のベリーと少量の宝石。
そして、何やら厳重に封がされた羊用紙が出てきた。
「何だこりゃ……?」
それは海図だった。
赤い土の大陸が中心に描かれその先に……
「これ、グランドラインへの海図じゃねぇか!!」
「ふふっ……面白そうだったから貰ってきたの」
偉大なる航路──────グランドライン
オレとロビンも未だ知識のみでしか知らない魔境
そこに関する話は様々な情報が飛び交い嘘か本当か疑いたくなるものも多い。
海賊達の中にはグランドラインを“楽園”と呼ぶ者もいる。
また別の者は“海賊の墓場”と呼んだ。
「……面白そうだな」
「そうね、……クレスはどうするの?」
「じゃあ……ロビンはどうしたい?」
質問に質問で返す。
そしてロビンと二人で微笑みあう。
この笑顔だけは昔から変わらない。
答えは同じだった。
オレとロビン、二人の行き先が決定した。
「まぁ、目的も決まったけど
急ぐ事でも無いし、ぼちぼちとやるか……」
「そうね、今はゆっくりしましょう」
オレはロビンの隣に座りゆっくりと全身を伸ばした。
富、名声、力
かつてこの世の全てを手に入れた男
海賊王 ゴールド・ロジャー
彼の死に際に放った一言は人々を海に駆り立てた。
───────世はまさに大海賊時代
あとがき
修正しました。
勘違いしやすい表現になっていたようです。
申し訳ございません。
これはあくまでクレスの主観であってロビンの心情ではありません。
“性格を変えない”はキャラが崩壊しないようにするという意味です。
クレスによってロビンは救われている部分が多いはずです。
いきなりこういった展開になり驚かれた方もいるかも知れませんが、
オハラから脱出してからの話は根幹にかかわることなので当然書くつもりです。
ですが、やはり暗い話になってしまいそうでしたので“過去を振り返る”という形をとらさせて頂くことにしました。
わずらわしい思いをさせて申し訳ございません。