<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.1154の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~ 『完結』[舞天死](2009/02/11 00:34)
[1] [序章-01][舞天死](2009/02/11 00:30)
[2] [序章-02][舞天死](2008/02/11 16:02)
[3] 復讐編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:03)
[4] 復讐編:[一章-02][舞天死](2008/02/11 16:03)
[5] 復讐編:[一章-03][舞天死](2008/02/11 16:04)
[6] 復讐編:[一章-04][舞天死](2008/02/11 16:05)
[7] 復讐編:[二章-01][舞天死](2008/02/11 16:05)
[8] 復讐編:[二章-02][舞天死](2008/02/11 16:06)
[9] 復讐編:[二章-03][舞天死](2008/02/11 16:07)
[10] 復讐編:[二章-04][舞天死](2008/02/11 16:07)
[11] 復讐編:[三章-01][舞天死](2008/02/11 16:08)
[12] 復讐編:[三章-02][舞天死](2008/02/11 16:09)
[13] 復讐編:[三章-03][舞天死](2008/02/11 16:09)
[14] 復讐編:[三章-04][舞天死](2008/02/11 16:10)
[15] 復讐編:[四章-01][舞天死](2008/02/11 16:11)
[16] 復讐編:[四章-02][舞天死](2008/02/11 16:11)
[17] 復讐編:[四章-03][舞天死](2008/02/11 16:12)
[18] 復讐編:[四章-04][舞天死](2008/02/11 16:12)
[19] 復讐編:[五章-01][舞天死](2008/02/11 16:13)
[20] 復讐編:[五章-02][舞天死](2008/02/11 16:14)
[21] 復讐編:[五章-03][舞天死](2008/02/11 16:14)
[22] 復讐編:[五章-04][舞天死](2008/02/11 16:15)
[23] 復讐編:[六章-01][舞天死](2008/02/11 16:16)
[24] 復讐編:[六章-02][舞天死](2008/02/11 16:16)
[25] 復讐編:[六章-03][舞天死](2008/02/11 16:17)
[26] 復讐編:[六章-04][舞天死](2008/02/11 16:18)
[27] 復讐編:[六章-05][舞天死](2008/02/11 16:18)
[28] 復讐編:[七章-01][舞天死](2008/02/11 16:19)
[29] 復讐編:[七章-02][舞天死](2008/02/11 16:20)
[30] 復讐編:[七章-03][舞天死](2008/02/11 16:20)
[31] 復讐編:[七章-04][舞天死](2008/02/11 16:21)
[32] 復讐編:[八章-01][舞天死](2008/02/11 16:21)
[33] 復讐編:[八章-02][舞天死](2008/02/11 16:22)
[34] 復讐編:[八章-03][舞天死](2008/02/11 16:23)
[35] 復讐編:[八章-04][舞天死](2008/02/11 16:23)
[36] 復讐編:[九章-01][舞天死](2008/02/11 16:24)
[37] 復讐編:[九章-02][舞天死](2008/02/11 16:24)
[38] 復讐編:[九章-03][舞天死](2008/02/11 16:25)
[39] 復讐編:[九章-04][舞天死](2008/02/11 16:26)
[40] 復讐編:[十章-01][舞天死](2008/02/11 16:26)
[41] 復讐編:[十章-02][舞天死](2008/02/11 16:27)
[42] 復讐編:[十章-03][舞天死](2008/02/11 16:27)
[43] 復讐編:[十章-04][舞天死](2008/02/11 16:28)
[44] 復讐編:[十一章-01][舞天死](2008/02/11 16:29)
[45] 復讐編:[十一章-02][舞天死](2008/02/11 16:29)
[46] 復讐編:[十一章-03][舞天死](2008/02/11 16:30)
[47] 復讐編:[十一章-04][舞天死](2008/02/11 16:31)
[48] 復讐編:[十二章-01][舞天死](2008/02/11 16:31)
[49] 復讐編:[十二章-02][舞天死](2008/02/11 16:32)
[50] 復讐編:[十二章-03][舞天死](2008/02/11 16:32)
[51] 復讐編:[十二章-04][舞天死](2008/02/11 16:33)
[52] 復讐編:[十三章-01][舞天死](2008/02/11 16:33)
[53] 復讐編:[十三章-02][舞天死](2008/02/11 16:34)
[54] 復讐編:[十三章-03][舞天死](2008/02/11 16:35)
[55] 守護者編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:36)
[56] 守護者編:[一章-02][舞天死](2008/02/13 21:38)
[57] 守護者編:[一章-03][舞天死](2008/02/17 14:55)
[58] 守護者編:[一章-04][舞天死](2008/02/24 15:43)
[59] 守護者編:[二章-01][舞天死](2008/02/28 21:48)
[60] 守護者編:[二章-02][舞天死](2008/03/06 22:11)
[61] 守護者編:[二章-03][舞天死](2008/03/09 16:25)
[62] 守護者編:[二章-04][舞天死](2008/03/29 11:27)
[63] 守護者編:[三章-01][舞天死](2008/03/29 11:28)
[64] 守護者編:[三章-02][舞天死](2008/04/19 18:44)
[65] 守護者編:[三章-03][舞天死](2008/04/29 21:58)
[66] 守護者編:[三章-04][舞天死](2008/05/17 01:35)
[67] 守護者編:[三章-05][舞天死](2008/06/03 20:15)
[68] 守護者編:[三章-06][舞天死](2008/06/24 21:42)
[69] 守護者編:[三章-07][舞天死](2008/06/24 21:43)
[70] 守護者編:[三章-08][舞天死](2008/07/08 20:49)
[71] 守護者編:[四章-01][舞天死](2008/07/29 22:28)
[72] 守護者編:[四章-02][舞天死](2008/08/09 12:00)
[73] 守護者編:[四章-03][舞天死](2008/08/29 22:07)
[74] 守護者編:[四章-04][舞天死](2008/09/21 10:58)
[75] 守護者編:[五章-01][舞天死](2009/02/11 00:25)
[76] 守護者編:[五章-02][舞天死](2009/02/11 00:26)
[77] 守護者編:[五章-03][舞天死](2009/02/11 00:27)
[78] 守護者編:[五章-04][舞天死](2009/02/11 00:28)
[79] 守護者編」:[終章][舞天死](2009/02/11 00:28)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1154] 復讐編:[五章-02]
Name: 舞天死◆68efbbce ID:483fbe6a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/11 16:14

『Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~』


「復讐編:五章-02」





 その小さな身体にはお世辞にも似合っていると言えないアサルトライフルを持ち、おもむろに少女は地に伏せる。右の膝を曲げるプローン、スコープを覗き、数秒の照準。く、と。少女の小さな喉が鳴った瞬間――銃口から放たれた一発の弾丸は、あまりにも呆気なく彼方の目標を撃ち抜いていた。

「…………嘘だろ?」

 双眼鏡を覗き、600メートルと表示された位置にある目標を確認すると、ど真ん中に穴が空いている。何度確認しても同じ。珠瀬壬姫の放った5.56mmの弾頭は見事隊内狙撃記録の新記録を樹立した。

「すご……」

「にゃはは~っ、そ、そんなことないよ~っ」

 武から双眼鏡を受け取り、確認する茜。思わず漏れる本音は呆れたような信じられないような、そんな響きを持っている。武、茜の言葉に赤面して照れながら謙遜する壬姫。だが、いかに謙遜しようと、結果は変わらない。

「あちゃ~~っ、ついに抜かれちゃったかぁ」

「残念だったなぁ晴子ぉ。しっかし、珠瀬のそのちっこい身体で、よくもまぁあんな遠くの的を撃てるもんだぜ」

「薫さん、この際身長は関係ないと思うけど……」

 全然悔しさを感じさせない実に爽快な笑顔で、晴子は頭を掻く。実のところ、今日この瞬間まで207部隊の中の最長狙撃記録保持者は彼女だった。その記録、実に580m。アサルトライフルの小口径弾は弾頭部が軽いため200メートルも離れると風や木の葉に当たっただけで弾道が変わってしまう。完全無風でも300メートルが限界だろうと言われているのだが……さっぱりと自身の敗北を認める彼女も、相当な腕前である。

 晴子が微塵にも悔しく思っていないことを知っている薫は、腕を組み、立ち上がった壬姫をしげしげと見つめる。……主に、頭の上から足の先までを行ったり来たり。何度見てもちっこい。実際口に出してもいたが、彼女は本気で実感が湧かないようだった。別に身体が小さいからと言って如何なる能力にも劣っているという道理はない。それは理解しているのだが……やっぱり、赤面して照れまくっている壬姫を見れば、首を傾げたくなるのだった。

 そんな薫に苦笑しながら、亮子は、真剣な表情で壬姫を見た。――凄い。そんな感嘆を漏らしてしまいそうになる。別に、口にすることを憚る類の感情ではないが……しかし、亮子にとって壬姫の狙撃はそんな安易な言葉で表していいようなものではないと感じられた。確かに凄い。今まで隊の中で誰も成し得なかったアサルトライフルでの長距離狙撃、それを、たった一発でクリアしたのだ。凄くないわけがない。……なのに、亮子には「それだけじゃない」と思えてしまう。彼女には、まだまだ秘められた才能があるのではないか……これは、その片鱗に過ぎないのではないか、と。

 亮子は幼い頃より剣道を習っていた。生来の体力のなさから、あまり芳しい技能を持つにはいたらないが、それでも……秀でているものを見抜く力だけは備わっているように思う。

 剣で言えば武……そして恐らくは冥夜。

 体術で言えば薫、慧。

 そして、狙撃……或いは射撃で言えば晴子、壬姫。

 他の者が劣っているという比較ではなく、それぞれ突出した――亮子の感覚から言えばその道に秀でている、云わば「才能」、「天賦の才」というものを秘めていると思われる者。

 先週から訓練のカリキュラムに加えられた射撃訓練。今まで亮子同様に体力面に難を示していた壬姫にとって、それは今後の訓練における寄る辺となるに違いない。……何か一つ。それだけでいいのだ。一つだけでいい、自身の全てを以って「これだけは誰にも負けない」と断言できる何か。ありとあらゆる分野に秀で、何もかもを完璧にこなせれば言うことはない。だが、如何なる努力の前にもそれを実現することは叶わない。故に、できるだけ幅広く、可能な限り深く、ありとあらゆる知識・技能を修得しながらも、自分の中のスペシャルを見つけ、磨き抜いたなら……その人物は、間違いなく優秀な軍人となるだろう。

 そして、日々の訓練の中でそれを見つけること。

 自分の中で確信を持って「これだ」と言えるそれと出逢うこと。

 恐らく壬姫はそれに出逢ったに違いない。――それが、亮子には羨ましい。

「…………」

 亮子は別に、自分にはなんの才能もないと嘆いているわけではない。……ただ、彼女の周りには優れた能力を持つ仲間が多かった。明らかに隊内でずば抜けた能力を持つ武、晴子、薫。何時如何なるときも自身を磨くことを忘れない茜。際立った個性を活かし独特の戦闘技術を持つ多恵。

 皆、それぞれが他の誰にもないただ一点の「才」を磨いている。それを素晴らしいと思い、憧れ……いつしか自分も彼らのように仲間たちのように、己だけの「才」を開花させるのだと日々精進している。

 だが。

 亮子はまだそれを見つけていない。壬姫のように出逢っていない。――出逢えないまま、二年が過ぎた。

 新しく仲間となったB分隊の彼女達。

 まだまだ未知数を秘めていながら、既にそれぞれが己の「才」に気づき、磨き始めている。

 自分だけが、まだ……。

 そんな想いが知らず込み上げてきて。――なにが、嘆いているわけではない、だ――亮子は初めて、そんな自分が嫌になった。

「亮子ちゃん……??」

「?!」

 呼びかける声に意識が浮上する。目の前には不思議そうな表情の壬姫。つぶらな瞳が二つ、まっすぐに亮子を貫いている。

「ぁ、ぁの……っ、」

 どうしてか、亮子は狼狽してしまう。――知られてしまった。才能に恵まれた彼らを羨み、何の才能も目覚めていない自身を嘆いていたことを。

「亮子……?」

 すぐ隣りの薫が声を掛けてくれる。変わらずに壬姫が見つめてくる。その後ろで、武が、茜が……いつの間にか周囲には慧、冥夜、千鶴、晴子、多恵、美琴たちも居て……。

 皆が、一様に亮子を見つめている。背の低い彼女を、見下ろしている。――才能を持たない彼女を、見下し…………

(そんなことっ、ないじゃないッッ!!!)

 そうだ。そんなことはない。そんなのはただの思い込みだ被害妄想だ自己嫌悪が流れ着いたただの嫉妬だ!

 だから、亮子は眼を閉じ、耳を塞いだ。爆発しそうな心に蓋をして、いつもどおりの彼女を表に用意する。

「すごいですねっ、珠瀬さんッ!」

「――えっ?! ぇぇっと……亮子ちゃん?」

「はい、なんですか?」

「…………?!」

 いつもどおりの笑顔。いつもどおりの亮子。壬姫の技量を凄いと讃え、先ほどまでの様子など見間違いであるかのように。

 だから、壬姫は、彼女達は困惑する。壬姫の技量に色めき立ち、輪を作り騒ぐその外側に、ただひとりポツンと取り残されていた亮子の様に。

 茫漠とした色のない表情で。抜け殻のように立ち尽くしていた亮子。――なのに、彼女は笑っている。まるで貼り付けたような笑み。

「月岡、」 「――亮子ッ!」

 一歩近づこうとした武よりも早く、薫が亮子の肩を掴んだ。ぼんやりと彼女を見上げる亮子に構わず、薫は亮子の腕を引いて射撃場を後にする。去り際、武に向けた視線から、彼は薫の考えを察し、後方に控えていたまりもへ二人の早退を告げるのだった。

 そんな武たちの様子に、壬姫はなんだか哀しい気持ちになった。

 一体亮子になにがあったのか。壬姫にとっての亮子は、いつもふんわりと柔らかで優しい雰囲気を持った可愛い女の子だった。自分より僅かに背が高いだけの小さな身体で、でも、どこかその精神には芯が一本通っていて……。凛とした心根を持つ、そんな少女だった。

 そして、間違いなく昨日まで……或いは今、この瞬間までは。

 彼女は、壬姫の知る彼女のままだったのだ。そのはずだ……。

 出逢い、知り合って……まだたったの一ヶ月。そんな短い期間でなにがわかるものかと言われるかもしれない。

 それでも、その一ヶ月で十分すぎるほど亮子の魅力は理解していた。

 だからこそ彼女は、亮子のあの、何者からかも見放されたかのような表情を理解できない。薫に手を引かれるままにフラフラと去っていった彼女を信じられない。

 ……それでは、それではまるで。

 なにか嫌なことがあってそれから目を逸らして泣いている、そんな…………。

 そして、きっとそれは自分の狙撃のせいなのだ。多分、それが亮子の中の糸を切った。スイッチを押した。最後の一押しをした。――そうじゃなきゃ、説明がつかない。

「亮子ちゃん……」

「……珠瀬、そなたが気にすることはない。……あの者も、なにか思うところがあったのだろう」

 冥夜の言葉はとても鋭い。きっと彼女は、壬姫が察するよりもはやく、明確に……亮子の心中を悟っていたことだろう。

「亮子さん……大丈夫かな」

「うん。……あんな亮子、初めて見た……」

 美琴の物憂げな声に茜が頷く。残る部隊の面々も、どこか沈痛な表情で、基地内へ消えた二人の背中を見送っていた。







 屋上に出るとグラウンドとその奥の射撃訓練場、廃墟となった柊町が一望できた。……どうやら射撃訓練は終了したらしい。207隊の姿は見えない。座学にでもなったか、或いは自主訓練にでも変更されたか……。どちらにせよ、後でまりもから小言を喰らうのは間違いなさそうだと、薫は苦笑する。

 振り返れば俯いたままの亮子。小さな身体が更に小さく見えるほど、今の彼女は何かに抑圧されていた。

 ……予想は出来る。薫はよく亮子と一緒に居ることが多かった。だから、というわけではないが、それでも、一番彼女の傍にいたという自負が、友人としての自覚が……亮子の心の裡にある負の感情を感じ取る。

「亮子、何悩んでるか、当ててやろうか?」

「ッ、」

 びくり、と亮子の身体が揺れる。薫は何処か涼しげな表情のまま、フェンスにもたれて空を見上げる。五月晴れ。緩やかに雲が流れ、これからの季節を予感させる。いい天気だ。まるで今の亮子と大違い。

 そうやって視線を亮子から離したまま、薫は笑いながら言った。

「いや、ホント。珠瀬って凄いよなァ。600だぜ600。ろっぴゃくめーとる。信じられねぇ。いやまぁ晴子も十分信じられなかったわけだけどさ。あの子も相当のもんだよな。天才かッつーの。……なぁ? 亮子もそう思うだろ」

 広い屋上の真ん中で、しかし亮子は俯いたまま言葉を発しない。ただ、ほんの少しだけ。薫の言葉に身体を揺らすだけだ。――まるで、聞きたくない言葉を拒絶するかのように。

「あれはもう一種の才能だよな。珠瀬に晴子。細かい分野は違うのかもしれないけど、あいつらは間違いなく天才だ」

「…………」

 薫は亮子を見ない。亮子は薫を見ない。

 視線を交わさないまま、顔を向けないまま。……亮子は、薫が一体何を言いたいのかがわからない。壬姫の才能? ――そんなもの、聞かされなくともわかっている。ついさっきまでそのことを考えていた。……だから、だから自分はッ。

「才能といえばさ、亮子、白銀の剣術のこと、どう思う?」

「――ぇ、」

 あまりに唐突に、薫は話題を変えた。そして、彼の名前が出てくるなんて思ってもいなかった亮子は思わず声を漏らし、顔を上げる。

 そこには待ち構えていたように不敵に笑う薫の顔があって……亮子は、自分が釣られたことに気づく。…………気づくが、そうやって目が合い、顔を向けてしまった以上、無視することは出来ない。せめてもの抵抗か、視線だけを逸らして、亮子は問いに答える。

「し、白銀くんは……確かに凄いです。あの剣術は独特すぎてわたしには理解できませんし……きっと真似できない。幼い頃に型だけ習って、後は独学で……しかもそれを十年以上も続けるなんてこと……並大抵のことじゃないと思います」

「何でアイツはそんなことができるんだろうな? やっぱこれも才能か?」

「……ッ、それは、そうかもしれないけど……。でも、そこにはハッキリとした目標があって、それをやり遂げる強い意思がないと……」

 とてもではないが、出来るわけがない。亮子は言葉を飲み込んだ。武がかつて言っていたことを思い出す。幼い頃の剣の師匠。ほんの少しだけ習った基本を忠実にひたすらに繰り返した日々。――それは全て彼が護りたいと願った彼女のためであり、そこに込められた意志は強く、純粋だ。故に――武は強い。才能も確かにあっただろう。だが、それを補って余りある強い意志と不動の精神が、彼を今の形に押し上げている。

「ふぅん。……じゃあさ、茜はどう思う? あいつもなんだかんだ言ってスゲェよな。体力もあるし、頭もいい。近接戦闘も射撃も、なんでもできる。オマケに努力の達人だ。……なぁ、これもある種の才能ってヤツかな?」

「…………確かに、茜さんも凄いけど……」

 薫自身も言っている。それは、紛れもなく茜の努力の結果だ。確かに元々の能力に目を見張るものがあることは間違いないだろう。彼女の凄いところは、それに満足することなく、常に己の限界に挑戦し続けることだ。座学で習った知識だけでなく、それに付随する知識さえ独学で吸収、補完する。或いは肉体を鍛える訓練でも、武や晴子、薫といったそれぞれのエキスパートと競うことで自身に足りない点を見つけ出し、それを集中的に繰り返し鍛えることで身に付けていく。……そういうことを努力の天才というなら、それもある種の才能なのかという薫はあながち間違ってはいないだろう。だが、それも矢張り突き詰めて言えば茜自身の不屈の精神の顕れ、常に上を目指す向上心の結果だ。彼女は努力を惜しまない。周囲のものが自分より秀でているのなら、自らもその位置へ到ろうと常に前を向いて進んでいる。

「茜さんは、きっと才能とか、そういうんじゃなくて……自分に真剣なんだと思う。だから、あんなに頑張れるのよ……」

「そっか。んじゃ、多恵は? あいつは色んな意味で特殊だよな。頭ン中どうなってんだ~とか、時々思うけどさ」

 さっきから、一体何なのだろう。亮子は怪訝に思った。一体薫は、なにが言いたいのか。才能のある者。才能を秘めている者。そう思える彼女達、一人ひとりについて漠然と問いかける。薫の思惑が知れない。……一体、彼女は自分に何を求めているのか。

「……多恵ちゃんは、確かに変わってるけど……でも、自分でもそれをわかってて、それでも自分はそれでいいんだ、って。そうやって自分を認められることは、凄いことだと思う」

 何かが人と違うということは、時に酷く恐ろしい気持ちにさせる。自分だけにあって周りにない。周りにはあって自分にはない。……多恵の独特の価値観や思考、行動は、恐らくそういう類のものではないだろうか。無論亮子自身、だからといって多恵の特殊性を疎ましいとは感じないし、彼女を除け者にしようとは思わない。隊の仲間も同様だ。――けれど、これはそういう話ではなくて……そう、言うなれば多恵自身の心の強さ、そういうものだ。周囲に気兼ねすることなく、ありのままの自分を受け入れる。そして、ありのままの自分を放ちながらに、他者との和を乱さない。その協調性、自己と他者との共存。それを実現できることは矢張りそういう才能なのかもしれないが……それでも、多恵自身の心の強さに依るものだろう。

「……実はさ、ここ最近この屋上で彩峰と稽古してるんだけどさ。これがまた彩峰ってば強いんだよなァ。なんていうの? 待ち、っていうか投げ技得意っていうか。だからって何もしないと向こうから殴る蹴る掴みに来るで手も足もでないっつーか。軽く凹んだりしてるんだけど、これってどうよ? あたしより彩峰の方が格闘の才能に恵まれてるってことなのか?」

「それはっ…………その、そう、なのかも、知れないけど……」

 段々と、薫の言いたいことがわかってきた。多分彼女は、こうやって最後の一人になるまで問い続けるのだろう。「才能」とは何か。それは一体どういうものを指す言葉なのか。

「彩峰さんと薫さんは……全然違うじゃないですか」

「違うって何が? あたしも彩峰もインファイターだぜ?」

「でも、薫さんの基本はボクシングだし……彩峰さんは、多分、総合的な格闘術を習ってたんじゃないかって思うし……。彩峰さん、ここに来るまでもずっと鍛えてたみたいだし、」

 先の武と同じだ。きっと彼女も、明確な目標とそれを達成するための強い意思を秘めているのだろう。一心不乱にそれを目指し、遥か高みへと到るために鍛錬を積む。それが総合的に薫を上回るというなら、矢張りそこには格闘に関するセンス……薫がいうところの「才能」の違いが存在するのだろうか。けれど、慧自身それに頼っているのかどうか。多分、違う。そう思える。

「彩峰さんを見てればわかります……。彼女は凄く我武者羅に自分を鍛えてきたんだと思います。それはきっととても困難で辛い日々だったと思います……でも、決して諦めなかったからこそ、そんな風に強くなれるんですよ……」

「そっか。ん~~、じゃあ、御剣は? アイツも相当腕が立つんじゃないかと睨んでるんだが」

 その問いは今までのものとは少し趣が違うと思えた。今まで才能について問いかけていた薫が、今度は漠然と、不明確な質問を投げかける。

「…………御剣さんは、どちらかというと剣術に秀でていると思います。……剣を使っているところを見たことはないけど……でも、筋肉のつき方とか、重心の移動の仕方とかでわかります。……御剣さんは、」

 それこそ、「天才」の域に在るのではないか。声には出さず、亮子は内心で呟く。実際に目の当たりにしたわけではない。剣を構える姿を見たわけでもない。……本当に剣を使うのかどうか、それすらも聞いて確認したことはない。だが、自身も剣道を修めた身。剣を習ったことのある者とそうでない者の見分けくらいはつく。

 そこから推測する感覚的なものと、今日までの冥夜の能力を見れば、自ずと答えは導かれる。――彼女は、強い。そして強烈で苛烈で、壮烈な剣士だ。剣の天才。きっと、そんな高みに居る。だが、十六歳という若さにしてそれほどの高みに到ることは……並大抵の努力では無理だろう。否、それこそ血反吐を吐き骨肉を削るほどの修練を積んだはずだ。閃く才能はあったに違いない。だが、それを開花させ、極めるための努力を彼女は惜しまず、率先して精進にあたる。きっと、冥夜とはそれが出来る人物だ。彼女の性格を見てもわかる。将軍家縁の存在でありながら決して尊大な態度をとらず、他者の気持ちを慮る優しさを持ち、己の発言や行動のもたらす結果に責任を持つ強さを兼ね備えている。故に総じて「強い」となるわけだが、それほど自分に対して厳しくあるためには、一体どれ程の精神力が必要なのだろう。こればかりは才能には依るまい。彼女の人間性の問題だからだ。ならば、不断の努力と精進の積み重ね。それが彼女の今を形作っている。

「へぇ、御剣って剣を使うのか……。ははは、名前のとおりだな」

「御剣さんは、才能に恵まれていると思います……けど、彼女はそれを驕らず、常に自身を律しているんだと思います。負けず嫌いな面も在るみたいですし……きっと肉弾戦でも、彩峰さんに匹敵するんじゃないですか?」

「げ、そうかぁ~……こりゃ油断できないなぁ。まぁいいや。じゃ、鎧衣は?」

「鎧衣さん……?」

 既に質問ですらない。矢張り冥夜の辺りから次第にこの問答は変化している。なんなのだろう。薫の求める物が見えない。……本当に、彼女は亮子に何を求めているのか。なんの目的があるというのか。この、不毛な問いに。

 だが、亮子は視線を自身の足先へ向けて、訥々と言葉を綴る。薫の質問の意図は読めずとも、きっと、彼女は全員についてのなにがしかを問うだろう。……ならば、残るは二人。美琴の後に待つのは恐らく千鶴と――彼女のことに違いなかった。

「鎧衣さんは、とても不思議な世界をもっていると思います。多恵ちゃんと同じようで、でも違う……。とても気さくで人と触れ合うことに恐れを抱かない。……時々ヒトの話を聞いていないような気もしますけど……」

 それも彼女の魅力だろう。未だに若干の固さを見せるA分隊とB分隊の少女達の中で、唯一美琴だけがその僅かなしこりを突破しているように思う。顔を合わせたその日から全員を下の名で呼び、実に気さくに話しかけてくる。感情を誤魔化さず、そして、他者の感情の機微に聡い。たまに見せる深い雑学の知識や主にサバイバルに関する知識や実力など、どこか特異な能力も備えているが…………先までの話の流れから言うならば、それもある種の才能ということだろうか。確かに、先日の山間での訓練ではその比類なき知識を大いに披露し、隊の皆を助けた。知識だけではない。巧妙に仕掛けられたトラップを見抜く能力……危機感知能力とでもいうべきか、それら極限状態において美琴は驚異的な才能を発揮するのかもしれない。第六感、直感という類のそれ。鍛えようとして鍛えられるものではないだろう。ならば、これこそ本当の才能だろうか。だが、それを踏まえたうえでも、矢張り鎧衣美琴という少女を評するならば、矢張り彼女は気さくで明るい少女なのだ。それは彼女の冴え渡る直感とは関係なく、美琴の人となりそのものだろう。

「ふぅん。……じゃあさ、榊はどうだ? アイツ、結構茜と似てるような気がするんだけど」

 ほら、みろ。

 やっぱり千鶴の事を聞いてきた。ああ――確信した。冥夜の辺りからなにかズレているように感じられたこの問答も。ようやくにして合点がいく。207訓練部隊は、皆なにがしかの「才能」を持ち、相応の能力を有している。

 だが、そこには彼女達の「才能」だけでなく、それに見合った努力、或いは精神力……そこに掲げた目標、そういった様々な要因が絡んで成り立っている。きっと薫は、そういうことを言いたいのではないか。未だ、なんの「才能」にも出逢えていないと嘆く亮子に、才能なんて所詮努力の果てに在るものだと……そうやって慰めようと、或いは立ち直らせようとしているのではないか。

 いや、そうに違いなかった。確信したのだから、そうだ。

 ふ、と。視線を下に向けたまま……亮子は頬を歪める。――言われなくても、わかってるよ……そんなこと。

「榊さんは、やっぱり茜さんと似てると思います。何事にも真剣で一生懸命で……努力を厭わない。知識を得ることもそうだし、自身を鍛えることにも精力的だと思います。……努力の達人、でしたっけ? 多分、榊さんもそういうことが出来る人です」

 そして、突き詰めて言えば矢張りそれも才能だけに依るものではない。茜と似ている……同質であるというなら、そうなる。なるほど、本質とか根底にあるもの、そういった箇所が似ているのだろう。気が合うはずだ。お互いに精神的に近いものを感じたのだろう。矢張り千鶴も総じて努力の上に成っている。座学を修めることに関しても、肉体を鍛えることに関しても。彼女は他者にも厳しいが、それ以上に自己に対して最も厳しい。分隊を任される立場上、責任と能力を求められることもしばしばあるが、彼女はそれをこなす力を身に付けるために常日頃から心掛けている。それ以外にも常に隊内の様子に気を遣う優しさを持ち、皆を統率するに足る品格も備えている。……努力一つでここまでのことができるなら、それも立派な「才能」だ。

 だが、これまでの問答が繰り返し繰り返したように。千鶴のそれも矢張り……努力なくして成立しない。

 亮子は一旦口を閉ざすと、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 ああ……薫は、彼女はどんな表情をしてるだろう。どんな顔で、自分を見ているだろう。亮子は自虐的に笑う。下を向いたまま、その視線を地に落としたまま。

 薫の気遣いは嬉しい。自己嫌悪に陥り、自分の情けなさに歯痒い思いをし、それだけに収まらず嫉妬に駆られた自分を、薫はこんなにも気遣ってくれている。なんて優しい。ありがとう薫さん。そんな風にお礼を言えばいいのだろうか。

 いや、感謝して欲しいわけではないのだろう。ただ純粋に、自分の身を案じてくれている。落ち込んだ亮子を引っ張り上げようと手を差し伸べてくれている。

 ――ああ。

 一体どうして自分は、そんな薫の優しさを、素直に受け取ることが出来ないのか。…………今はただ、疎ましいとさえ思ってしまう自分が、何よりも疎ましい。嫌らしい女。こんな後ろ暗い感情が、自分の中に眠っている。亮子は怖くなった。怖くなって、負の感情から抜けられない。

 だから、薫がフェンスから身を離したとき……怯むように後ずさった。

 怖かった。こんな話をする薫が。そんな風に考えてしまう自分が。これほどまでに追い詰められていたのかという、自己に対する絶望。大切な友人の手さえ握れない。そんな弱虫の自分。

「なあ、亮子…………」

 薫が口を開く。一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。ほんの数歩の距離。それなのに、とても遠い。

「珠瀬のあの射撃の腕はさ、やっぱり才能なのかな?」

 ついに、きた。――最後の一人。

 一番最初に問うておきながら、最後までその答えを求めなかった彼女。亮子の中で眠っていた劣等感という名の弱い心。それに気づかせた天才。

 B分隊の少女達の中で一番最初に仲良くなった少女。花のように笑う、小さな身体の中に大きな心を持った少女。とても身近に感じていた。体力的にも身体的にも近しい彼女。……だからこそ、彼女が…………こんなにも、早く――自身の才能と出逢ったことに嫉妬した。

「ぁ、ぁ、」

「珠瀬は、天才だと思うか? あれはアイツの才能に依るものだ、って」

 ――そんなことはない。

 そう言えばいいのだろうか? 今までの問いに対する答えのように。壬姫の射撃の能力も、それは……彼女の不断の努力と高みを目指す意志の顕現だと。そう答えればよいのか。

「――――ぁ、」

 言葉に出来なかった。口にすることが恐ろしかった。

 もし、それを認めてしまえば……一体自分は、何に嫉妬し、何にショックを受けていたのか。

 自分には何もない。何の「才能」も備わっていない。そう思った。だから……辛いと感じた。持っている壬姫を羨ましい……妬ましいと感じた。でも、その壬姫でさえ、たしかに……確かに、射撃に対する「才能」はあっただろうが、それでも、そこには他の皆と同様に比類なき努力が存在していただろう。

 だとしたら、一体自分は何をしているのだろう。自身には何もないなどとのたまっておきながら、何かを持っている彼女達を妬む。だが、その彼女達の「何か」は、そこに掲げられた目標に向かって努力する過程で出逢い、気づき、育んで来たものであって…………決して、最初から、自身の「才能」を知っていたわけではない。

 誰だってそれを模索する。自分にしかないなにかを求めるだろう。

 ……壬姫たちは、それを得るに相応しい努力を果たし、今も尚それに慢心することなく精進を続けている。

 ああ、ようやく理解する。薫の言葉にこれほどまでにうろたえた自分の底の浅さ。亮子は――己の努力が足りないことに気づくのが怖かった。それを認めることが怖かった。

 これまでの二年間、それを真っ向から否定されることが、怖かったのだ。

 楽しいことだけじゃなかった。辛いこともたくさんあった。苦しいこと、哀しいこと……それでもやっぱり、この二年間は楽しかった。

 厳しい訓練を乗り越えて、自分も少しは成長したと思っていた。それが、ここにきて同い年であるにも関わらず、自分以上に、まして亮子にとっての高位に在った武や薫たちに匹敵、或いは凌駕するほどの能力を持ち合わせた彼女達が現れて…………きっと、その時から。亮子は、自身のこれまでを……楽しかった日々を、嘆かわしく思ってしまったのだ。

 なんと言うことはない。

 ただ、亮子が弱かっただけだ。嘆くのではなく、彼女達のように、それでも――尚更に、高みを目指すべきだったのだ。そうすれば、遠からず自身だけの「才能」にだって出逢えたかもしれない。

 ――いや、まだまだ、十分に。それは間に合うはずだった。

「薫さん……私は、」

「それじゃ。最後の質問。――亮子、お前の才能はなんだと思う?」

 小さな亮子の声を遮るように、きっぱりとはっきりと。薫は問う。それは今までのどこか遠まわしなそれではなく、真正面からぶつかってくるような、そんな気迫があった。

 ゆっくりと亮子は顔を上げる。うん……もう、大丈夫だよ。優しい友人を安心させるように、瞳に涙を浮かべたまま、にっこりと微笑んで。

「私は、それを探す努力をします。これから、たくさんたくさん、皆に負けないくらい、頑張って。そうして、いつか自分だけのそれに出逢ったとき……きっともっと頑張れるように」

 はにかむように笑う亮子の表情は、綺麗だった。

 同じように満面の笑みを浮かべる薫が、悪戯っぽく犬歯を覗かせる。

「――ああ、やっぱり気づいてなかったんだな。亮子」

 悪戯気に笑ったまま、薫が言う。その言葉に、亮子はきょとん、として。

「亮子さ、皆のことよく見てるよな。あたしらのことも、珠瀬たちのことも。知り合ってまだたったの一ヶ月だってのに、それでも凄く……よく見てる」

「え……?」

「気づいてないだろ? あたしはさ、まだ御剣や鎧衣、榊のことは実際のところよくわからない。なんか凄そうなヤツ、くらいには思ってるけど、訓練だってまだそんなに多岐にわたってるわけじゃないし、誰が何が得意で、どういう考えを持っているのかなんて、全然さっぱりわかりゃしねぇ」

 ヤレヤレと身振りを交えて、薫は尚笑う。笑いながら、おどけるように亮子を見る。

「亮子はみんなのことをよく見てる。外面的なものだけじゃなくて、その内面……皆の心の奥深く、その考えやそこにある想いとか……そういうの、さ。ホント、凄くよく見てる。――モノの本質、っていうのかな? そういうのさ」

 言われて、亮子はハッとする。先ほどまでの薫との問答。冥夜の辺りから感じられていた違和感やズレ……その正体が今、薫自身の口から語られていた。なるほど、薫自身が彼女たちのことをよく知らないのであれば、そこに秘められた才能……努力の上に成り立っているそれを問うに当たり、曖昧に、或いは漠然とした不明確な問いとなってしまうのは当然だった。

 二年間を共に過ごし、よく知っている武や茜たちと違い、薫にとってまだまだ冥夜たちとは本当の意味で打ち解けられていない、ということだろう。

「なのに亮子は、あたしが知らない皆を知ってる。御剣が剣を使うなんて、ホントに全然知らなかったんだぜ? 彩峰のことにしたってそうだ。あいつの強さの裏にある想いを……例え予測まじりだとしても、そんな風に考えて本質に近づける亮子は凄い。……それが、多分亮子の“才能”だよ」

 ふっ、と。心が軽くなるのを感じた。

 じん、と。胸が熱くなるのを感じた。

 ああ……そうか。そうだったのか。それはなんだか、およそ軍人らしくない「才能」だったけれど。確かにこうして自分の中に存在していて…………知らない内に、花開いていたのか。

「亮子は、その人を知ることが出来る、凄い才能を持ってるよ。それはその人を深く理解しようと思わないとできないだろ? ……亮子は、誰に対しても表面だけの付き合いなんてしたくないんだ。同じ目標に向かって共に進む仲間のこと、深く深く知りたいって思って、その人のいいところをこんなにもたくさん気づいて知って、理解して。すごいよ。……すごいじゃん。亮子。お前は凄く優しいやつだ。凄く、素敵だよ」

「……ぅ、っ、あ……ッ」

 ポロポロと涙が零れる。立ったまま、くしゃくしゃの顔を晒したまま。亮子はぐずぐずと泣いて、薫の胸に飛び込んだ。

「ぅゎあああああっ」

「亮子はちゃんと、自分だけの素敵な才能を持ってるよ。だからさ、何にも負い目に感じることなんてない。だってこんなにも、あいつらを想ってるんだから」

 それは目に見える才能ではなかった。秀でた剣術や優れた格闘能力、膨大な知識や卓越した射撃技能……そんな風に何かに対してプラスに働くようなものでもなかった。

 ただ、その人の本質を見抜く才能。その人の心のあり方を理解する才能。

 自分ですら気づかなかったそんな小さな花を、薫は見つけてくれたのだ。知っていてくれたのだ。――ああ、それは、なんて暖かくて、嬉しいことだろう。

 亮子は泣いた。嬉しくて暖かくて恥ずかしくて泣いた。

 薫の胸の中で、よしよしと頭を撫でてくれるまるで姉のような彼女に抱かれて。

「……ぐすっ、……ふふっ、うふふふっ」

「ぉ? 泣き止んだか? はははっ」

 鼻をすすり、涙を拭うと笑いが出た。薫も笑っている。思い切り泣いたらスッキリした。ついさっきまでのモヤモヤとした醜い嫉妬も、自身に対する不毛な劣等感も。全部。綺麗さっぱり流れて消えた。

「ありがとぅ、薫さん。……私はもう、大丈夫です」

「ん。そっか。――だってさ、皆?」

 薫の顔を見上げて、頬を染めながら亮子は笑う。恥ずかしげな彼女を見て、薫は、それが本心からのものであることを理解する。だから安心した。安心して――扉の向こうにいた彼女達に声を掛けた。

「――ぇ?」

 呆けたように亮子が振り返る。キィ、と開けられた屋上のドアからは若干頬を赤らめた少女達。亮子と目が合うと慌てたように視線を泳がせて、……なんだか、物凄く照れているように見える。

「そ、その……っ、べ、別に私は、努力の達人とか、そういうのじゃなくてっ……」

「あははっ、ボクってそんなに気さくかなぁ? 気にしたことなかったんだけど、なんだか照れるね」

「うむ……月岡の言葉はじんと胸に響くな。自身のことをこのように理解してくれる者がいるということは、とても嬉しいことだ」

「…………ぽ、」

「はぅぁうあ~っ。す、すっごく恥ずかしいですぅ~」

「わはははは。お前らすげぇ真っ赤だぞ」

「そういう白銀も思いっきり照れてるけどね」

「茜も十分赤いけどねぇ」

「平然としてるのは晴子ちゃんだけだよぉ~」

 そろいも揃って顔が赤い。驚く亮子とは裏腹に、薫はとても愉しそうだ。

「亮子~、こいつら、ずっと全部聞いてたんだぜ?」

 ずっと? ずっととはドウイウコトだろう? どうしてここに居るのかとか、そんなことも理解できないのに……。訓練はどうしたのかとか、そもそも何で顔が赤いのかとか。混乱して頭が働かない。

「ずっと……って、そ、そんな……ッ?!」

「そういうこと」

 つまり亮子は本人が聞いていることを知らぬまま、彼ら一人ひとりの魅力を存分に語っていたのである。亮子自身の精神状態が普段とは異なっていたとはいえ、それでも自分以外の者から自身をある意味褒めちぎられたのだ。照れない筈がない。

「わっ、わっ、わぁああ~~っ??!!」

「うわぁ、亮子が壊れたッ!!?」

 ぼふん、と大きな音を立てて亮子の耳から煙が出る。白い肌はかわいそうなくらい真っ赤に染まり、目はぐるぐると回っている。

「あっはははは! 珍しいね~、亮子がこんな風になるなんて」

 晴子が笑い、皆も笑う。十一人の、それぞれに魅力を持ち、優れたものを持つ仲間達が。揃って、心の底から笑った。







 そして、彼らは多分このときようやく。

 互いに心根の知れた……「仲間」になったのだ。






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.10518598556519