『Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~』
「復讐編:六章-02」
「なんか元気ないね。どうかしたの? 白銀君」
夕食。いつものように十一人がずらりと並ぶPXのテーブルにはそれぞれのトレイが並べられ、和気あいあいと食事が進められていた。
その中で、武の斜め正面に座る晴子が、味噌汁を飲み終えた後にそう問いかける。問うた自分でさえどこかしら違和感を覚えているような表情だが、彼女の勘は冴え渡っていた。
「……ッ、」
「白銀……?」
晴子に問われ、思わず息を呑む武。つい先ほどまで楽しそうに談笑していたのに……その一瞬で、彼は被っていた面を剥がされてしまう。
その武の動揺から、彼がなにか自分の感情を誤魔化して、隠していたのだと気づく面々。特に、すぐ隣にいた茜は一際ショックを受けたらしく、気づけば武の腕を握っていた。
「あ~~、いや……その、なんつぅか……」
「……なにかあったの?」
視線を泳がせて、歯切れ悪く何かを口にしようとする武に、誤魔化しは許さないと、晴子は真剣な表情をする。一変した場の空気に、皆が沈黙する。武の様子は普通じゃない。何かを隠しているのは最早明らかだ。
気取られないように誤魔化さなければならない何かがあったのだ。――では、一体何が?
「白銀……あたしにも話せないこと……?」
「涼宮、」
強く武の腕を握る。茜の瞳はどこか悲しい色をしていた。武はその彼女の視線に苦い想いを感じる。以前彼女に言われた言葉を思い出す。辛い時は、本当に辛い時は……。そう言って、傍で支えてくれた茜。いつだってそうやって武の身を案じてくれて、心配してくれて……たくさんたくさん、泣いてくれた茜。
――ああ、なんて愚かな自分。
武はまた、自分が過ちを犯していることを悟る。自分独りで抱え込んで、周りの皆に心配をさせている。なんて情けない。なんて、莫迦なことだろう。
なんでもかんでも口にして、相談して、明け透けであればいいというものでもない。だが、それを自身の内に秘するのならば、それは決して周囲の者に悟らせてはならないのだ。
中途半端な演技で誤魔化そうとした自分を恥じる。そんな程度のことしかできないくらい不安定になっているのなら、いっそ口にして…………だが、物事には得てして制約があるものだ。
「すまん…………ちょっと、昼間のことを思い出してた。……副司令に呼ばれて、色々あったからさ……。詳しいことは話せないけど……ごめん。お前らに心配掛けるつもりはなかったんだ」
素直に頭を下げる。察してくれた晴子に。案じてくれた茜に。皆に。
謝罪する武に、茜たちも口を噤むしかない。副司令――夕呼の直々の呼び出しによって訓練を一時的に抜けることになった武。その間の出来事を知ることは許されない。どのような会話をしたのか、何を見たのか。訓練兵に過ぎない彼女達が知っていいものは何一つ存在しない。
それを十分に理解しているために、皆は悔しげに唇を噛む。武がなにか落ち込んでいるらしいのに、その理由を知ることは許されない。その歯痒さが、悔しい。
「あーっ、と。その。ほらッ、飯食おうぜ! せっかくおばちゃんが用意してくれたのに、冷めちまったら勿体無いぜ!?」
一際大きな声で、武は笑顔を浮かべて言う。自分のせいでなんだか暗く静まり返ってしまった雰囲気を、どうにか払拭しようと、自分の合成竜田揚げ定食をガツガツと勢いよく掻き込む。
そのわざとらしいくらいな武の仕草に、晴子は困ったように笑って……そして、彼女も同じように皿に盛られた料理にかぶりついた。どこかしら武よりも口に入れる速度が速い。その晴子を横目に、薫がニヤリと頬を歪める。
ガッ、と合成中華丼の盛られたどんぶりを掴み、とても花も恥らう乙女とは思えない豪快さで掻っ込む。呑んでいるんじゃないかというくらい、見事な早食いだった。
「ちょっと、ちゃんと噛みなさいよっ、三人とも!」
「いつの間にか早食い大会になってますね~」
「あはっ、タケル~、頑張れ~っ」
「薫さん、ファイトです!」
「そなたたち、行儀が悪いぞ……ふふっ、まったく」
「んののっ、負けてられないよ! 茜ちゃん!!」
「ええっ!? あたしも?!」
「涼宮はだめ。ヤキソバは味わって食べる」
突然始まった早食い競争に千鶴が呆れたように注意を飛ばすが、武も晴子も薫も全然聞きやしない。楽しげに微笑んで声援を送る美琴と壬姫、亮子。そんな彼らの様子をどこか苦笑しながら見守る冥夜。
完全に出遅れているにも関わらず、茜に向かって参戦を促す多恵。呆然と成り行きを見ていた茜はその多恵に驚き、しかし、どこかひどく真剣な表情と声音の慧の指摘に怯む。
結局、三人はほぼ同時に食事を終えた。実に数十秒。皿を叩きつけるようにテーブルに置いて、三者ともが湯飲みに手を伸ばし、これも一息で飲み乾すとまたもテーブルに叩きつける。
「ぷぁっ! くっそ~~、やるじゃねぇかてめーら!」
「あはははっ、こんな程度じゃ負けないって」
「っていうか晴子って案外早飯食いなんだな。意外っつぅかなんていうか」
それぞれがお互いを讃えあう。いい勝負だった――グッと親指を立てて分かり合う三人。実に莫迦丸出しだ。
ヤレヤレと千鶴は苦笑する。さっきまでのどこか沈んだ空気は完全にどこかへ行ってしまった。
それが出来るのが武だ。そしてそんな武の意図を察して即応できる晴子も凄い。無論、薫も同様に。まったく……切り替えが早いというか後腐れを気にしないというか。
あんな暗い雰囲気を引き摺ってもしょうがないというのはわかるが、それでも、もう少し健全な手段はないものか。苦笑しながら、千鶴は……だから自分はお堅いのだと、更に苦笑するしかない。
「お? なんだよ榊。喰わないんなら俺がもらうぜっ」
「ばかっ。ちゃんと食べるわよッ」
冗談半分に箸を伸ばしてくる武の手を容赦なく打ち据え、千鶴はガルガルと牙をむく。
「餓えた狼……」
「なんですって!?」
ぼそりと。目を線にしてのほほんと呟く慧を睨む。口にした張本人は飄々とそれをかわし、自身のヤキソバをとても幸せそうに啜っている。
そんなやり取りを、皆が皆、苦笑しながら、微笑みながら…………武は、そんな仲間達に支えられている自分を贅沢者だと感じた。これほどの素晴らしい仲間が自分を支え、案じてくれる。そのことの、なんと嬉しいことか。
だからこそ、自分の都合で彼女達に心配をかけてはならないし……泣かせることなどあってはいけないと痛感する。
支えられるだけが男じゃない。――なら、自分も皆を支えられるくらい、鍛えぬく。
肉体を、業を、精神を、心を。
「な、なによぅ。じっと見て……」
「いや、別に」
隣りに座る茜を見つめる。その武の表情はとても穏やかで、ハッキリとした意志が窺えて……見つめられた茜はドギマギとして頬を染めるしかない。なんだかいつになく優しい表情の武に、心拍数が跳ね上がる。
そんな彼女の心情など知らず、けれど武は……特に茜に対して、深い感情を抱いていた。
思えば茜とは色々あった。彼女との再会のとき、一度だけ起こしにきてくれたとき……横浜に戻ってすぐの、あのとき。
ほかのA分隊の少女達にも深く想う感情は在るが……それでも、茜に対するそれは……どこか、一層、深い。
なんだか、「仲間」という枠に一括りに出来ない想いが…………武は苦笑する。よく、わからなくなった。
ただ……一番多く武のために泣いてくれただろう茜を、二度と泣かせはしない。同じように泣いてくれる晴子たちを泣かせはしない。知り合って、仲間になってまだ半年も経たないのに……それでもこんなに案じてくれる冥夜たちを泣かせはしない。
「ははっ、そりゃかっこつけ過ぎだなっ」
「えっ? ぇっ?! ちょ、っと。白銀~~っ?!」
照れくさそうに頬を染めて。武は誤魔化すように茜の頭を撫で回す。いつもの武の癖。くしゃくしゃと髪を掻き回されて、面白いように顔を赤く染める茜に、晴子は、そして薫は大いに笑い。調子に乗って多恵が茜に抱きつく。それを一歩引いたところで微笑ましく見守る亮子。
いつもの彼らの構図。その暖かな雰囲気に、B分隊の少女達はヤレヤレと苦笑するしかない。もう何度も見てきた、彼らのやり取り。いつか、そう遠くないいつか。自分達も自然に、その中に溶け込めるように……。
こうして穏やかな空気のまま夕食の時間は終わり。
武は後に控える修行のために身体を休めるべく自室へ向かう。全身傷だらけの彼を視線だけで案じて……茜たちもまた、部屋へと戻る。
個人の時間。許された休息の時。
武は、せめて今だけは何もかも忘れようとベッドに倒れこんだ。大切な仲間達への想い。昼間見たあの脳ミソ。「S」ランク適性の自分。夕呼の企み。……なにもかも。今は、忘れて。
===
特に開始時間というものは定めていなかったはずだが……グラウンドのいつもの場所には、どこか不機嫌そうな表情の真那が待っていた。武は瞬時に悟る。師を待たせる弟子がどこにいるッ――! 内心で青ざめながら本気で走る。どんな怒声を浴びせられるかと冷や冷やしながら真那の下へ。
「すっ、すいません中尉!! 遅れました!!」
真那の目の前で急停止、姿勢を正し、敬礼する。わざとらしいくらいの仕草だったが、やがて真那は苦笑し、莫迦者、と呟く。
「貴様は私をなんだと思っているのだ? そんなに怖がらなくても、別に叱りはしない」
「は、はぁ……でも、待たせてしまったことは、やっぱり……」
「別に時間を定めていたわけではないだろう。目上の者を待たせまいとする配慮は買うが……」
まあいい。真那は言い置いて武の目を見据える。ぐ、と気を引き締めてその真那の視線に真っ向から立ち向かう。身体はボロボロだったが、気合で負けるわけには行かない。
その武の意思を感じ取り、真那はいつものように口端を吊り上げる。
「相変わらず眼光だけは立派だな貴様は。瞳を見ればその者の心情は知れる。ふふ、本当のところ、実は貴様は根を上げるのではないかと思っていたぞ」
「なっ、中尉、そりゃ酷いですよっ……」
くつくつと意地悪く笑う真那に、武は顔を顰める。どうやら昨日、一昨日の容赦ない仕打ちに武が逃げ出すと思っていたらしい。無論冗談だとは言ってくれたが、半分は本気だったに違いない。……まぁ、ただ単純に剣を習おうという程度の者であれば、二日といわず、初日で根を上げることは間違いないだろうが……。
それほど容赦と加減のない過酷な内容だということは、真那も十分理解しているらしかった。内心で、実は嗜虐趣味でもあるのではないかとほんのちょっぴりだけ考えていた武は、そんな自分を誤魔化すように頭を掻いて苦笑する。
「さて……白銀。この二日で散々思い知ったとは思うが……貴様はこと防戦、防御に関しては全くなっていない。一旦攻勢に出ればかなりの使い手だが……それでは私ほどでないにせよ、腕に憶えのあるもの相手にまともに戦うことなどできん」
「はい」
そのことは嫌というほど思い知らされている。朝、ベッドから起き上がることさえ困難なほどのダメージを負った自分。ズタボロに打ち据えられ、全身内出血だらけの肉体。真那の絶妙な力加減と、鍛え上げていた頑丈な肉体があったからこそ無事でいるが……これが、例えば鍛えようが足りなければ骨の五、六本は折れているに違いない。
まして、打ち据える瞬間に真那が刃を返していなければ……武はこうしてこの場所に存在していない。
「貴様の場合、相手が常に架空の存在だったというのが一番の原因だな。日ごろの訓練の中で近接格闘などを行う際も、殆ど防御になど気を払っていなかったのだろう?」
仰るとおり。
武は恥ずかしそうに笑うしかない。真那の手によって叩きのめされ、指摘されるまで全然そのことに気づけないでいたのだ。最大の原因は、それでも武はそれなりに強かったことがある。
207部隊の皆と比較すれば、武はかなりの実力者に入るためだ。勿論、薫や慧といった格闘のエキスパートを相手にすれば全く敵わないのだが、その時も矢張り武は、どこか防御がおざなりになっている。全く防がない、というわけではなく……攻撃ほど重視していないというか、どうも武の意識がそちらに向いていないための結果だった。
それを看破した真那は、そんな武の甘さを知らしめ、考えを改めさせようと問答無用に打ち据え、ぼこぼこに叩きのめし、痛めつけた。
結果は見てのとおり。確かに武の身体は酷い有り様となっているようだが、しかし、彼は自分に足りないものを理解し、それを修めようと意識を改めている。
「では、今日からは防御法について鍛えるとしよう。……白銀、今日貴様はただ逃げ回っていればいい。刀で受けるだけが防御ではない。その軌道を見切り、かわすのも立派な防御となる」
「はい――!」
ハッキリと返事を返す武に頷いて……しかし真那は剣を抜かず、背を向けてしまった。え、と武が疑問符を漏らせば、真那は何者かに呼びかける。
「神代、巴、戎!」
「「「はい!」」」
暗闇に声を掛ける真那。返ってくるのは重なり合った少女達の声。す、っと。宵闇の向こうから白い帝国軍服を身に纏った少女が三人、こちらへやって来る。
武はその三人をまじまじと見た。真那の着ているそれと全く同じ造りの、色違いの軍服。斯衛軍に所属していることを示す部隊章に、襟元の階級章は少尉――明らかに自分より年下にしか見えないのに……その少女達は紛れもなく斯衛の士官だった。
「……ぁ、ぇ?」
「ふふ、そう驚くことはない。この者たちは我が帝国斯衛軍第19独立警護小隊に所属する……即ち私の部下だ。年齢は貴様より下だが、実戦経験も在る優秀な衛士だ。舐めてかかると痛い目を見るぞ?」
唖然とする武に、どこか愉快気に笑う真那。どうも、真那はひとを驚かせて愉しむ癖があるような気がする。初対面の時といい、今といい……師の新たな側面を知って、武はなんともいえない感情を抱く。
そして改めて三人の少尉を見つめる。壬姫と同じくらいの背丈だろうか。その顔にはまだ幼さが残っている。……だが、その瞳、表情、発せられる気迫、佇まい。なにもかもが、訓練兵である彼女達と、そして自分と異なっている。
実戦経験も在ると真那は言った。実際に戦場に出て、BETAと戦い……そして生き抜いている。それゆえの存在感が、確かにそこにはあった。
「右から神代巽少尉。巴雪乃少尉。戎美凪少尉だ。今日からはこの者達にも訓練に参加してもらう」
「――はっ! よろしくお願いします!!」
年下とはいえ歴戦の勇士。しかも斯衛の白だ。それぞれに名のある武家の娘なのだろう。大気を伝わる闘気が、既に武を威圧している。
武はなんとも恵まれていると思った。自身の使う剣術の使い手である真那に師事できただけでも幸運なのに、ここにきて彼女の部下までもが修行に協力してくれるという。くどいようだが、真那は斯衛だ。そしてその部下である巽、雪乃、美凪も同じく。
将軍家縁の――つまり冥夜を護ることを任務とし、この横浜基地に駐留している彼女達が、その任務に全く関係ない武のために自らの時間を割いてまで、こうして面倒を見てくれる……。ハッキリ言って、ありえない光景だ。
破格の待遇といっていい。巽たちの上官である真那が率先して武を鍛えているため、結果的に彼女達もそれに付き合う形になっているのだろうか。
だが、だからといって……それだけでたかが訓練兵の相手をするというのは矢張り……やり過ぎだろうと思う。真那には悪いが、これでは他の人間に示しがつかないのではないだろうか。国連軍の衛士訓練兵が、帝国軍、しかも斯衛の衛士四人に訓練をみてもらう……常識で考えて、あり得ない。
確かに恵まれている。或いは、それだけ真那が武に目を掛けてくれているのか。
真那の好意は嬉しく思う。託されている想いの大きさに改めて気づく。その想いに応えられるようにと気概も湧くが……彼女達の立場を思えば、甘んじて受けることも出来ない。
「あの、中尉……」
「言わずともよい。貴様の考えなどわかっている。……わかっていて、承知していて、この者たちもここにいる。貴様がとやかく言うことではない」
武の言葉を遮って、真那はぴしゃりと言い放つ。武を特別扱いしているつもりでなくとも、第三者が見ればそう捕らえる者の方が多いだろう。それによって自身の立場が不利になることもあるかもしれないのに……真那は武がそれを案じることさえ許さなかった。
そこには、たかが訓練兵風情に気を回される必要などないという自尊心と、言いたがる者には言わせておけばいいという強さが窺えた。
これには武も苦笑するほかない。こちらから頭を下げて修行させてもらっているというのに……全て任せておけと言わんばかりの真那の表情に、これでは一体どちらが望んで今の形にあるのかわからない。
果たして、武が望んだからこうなったのか。
或いは、真那が望んだからこうなったのか。
「気にすることはない。むしろ、そんなことを考えている余裕などないぞ。……貴様はただ、今日を生き延びて無事眠れることを目標に逃げ惑えばいい」
腕を組み、不敵に笑う真那。ほんの少しだけ頬が薄く染まっているように見えたのは、気のせいということにしておく。照れてる……思わず口に出しそうなその言葉を何とか飲み込んで、武は、正面から三人の少尉に向き合った。
三人が三人とも、腰に質実剛健というに相応しい刀を帯びている。真那のように鞘に豪奢な意匠は施されていないようだが、それぞれ、価値のある名刀なのだろう。剣気ともいうべきなにかが、凛と感じ取れる。
「神代、巴、戎。お前達は手加減無しで白銀を叩きのめせ。最悪骨くらい折れても構わん。そのつもりでいけ」
「「「はい、真那様!」」」
なんだって――?! 真那の言葉に愕然とする。骨折OK。……つまり、真那のように絶妙な力加減は無しということでしょうか。武は知らず冷や汗を掻く。真那に向かって声高に返事をする三人組は、殊更に攻撃的な視線を武に浴びせてくる。
なんというか、瞳がギラギラと滾っているような……。――ん? “真那様”?
身も凍るようなとてつもない殺気染みたものを全身で受け止めながら、武はなんだか覚えのあるそのフレーズに首を傾げる。
少尉たちが口を揃えて言ったそれ。真那……のことなのだろう。上官である彼女の名に様をつけることで尊敬と忠誠を示しているのか。いや、そうではなく。
武は今朝の出来事を思い出す。
顔を洗ったそのとき、鏡に映った自分の顔。達者な字で書かれた三つの文字。
「覚悟しろ、白銀武!」
「真那様の弟子とはいえ、容赦しないよっ!」
「身の程を思い知らせてさしあげますわ~っ」
あ、なんか確信。特に最後の美凪の辺りで。
屈辱的な記憶と怒りが蘇る。少尉という立場であるため、否応なしに上官だが……それでも彼女達はまだ子供といっても差し支えない年齢だ。
なるほど、真那の部下というなら理解も早い。自分の上官が、衛士でもなんでもないただの訓練兵に、直に剣の稽古をつけている事実。予想したとおりに、彼女達はそれが気に喰わなかったのだろう。相応の反応といえば、そうなのだ。
が、斯衛としてはいかがなものか。
単純に幼さゆえの衝動的なものなのか……。しかし、斯衛となるためには数々の厳しい審査に合格し、衛士としての資質は勿論のこと、教養や品性といったものも兼ね備えてなければいけないはずだ。
それを考えれば……もし本当に巽たちの仕業だったとして、なんとも斯衛らしからぬ行為である。
そう思えるのだが…………それでもやっぱり、他に誰某が思い当たらない。結局、本当のところは本人達にしかわからないのである。武が疑ったところで、彼女達が否定すればそれで終わりだ。なにせ相手は少尉。軍人にとって上官の言葉は絶対なのだから。
「……お願いします……っ」
更に言えば、そんな瑣末なことに気を回せるほどの余裕もなかった。巽たちは既に刀を鞘から抜き放ち、刃を返している。それに倣うように武も模擬刀を抜いた。構えると同時、武の正面には巽だけが残り……巴は武に対して左、戎は右に展開する。どうやら三方から武を囲むつもりらしい。――させるかッ。
真那は逃げるだけでいいと言ったが、それを言葉通り受け取るほど武は莫迦ではない。
三方向から同時に攻められたのでは、とてもではないが数分ともたない。まして防御が未熟な武である。彼には腕二本、武器一つという状況でそれを凌ぎきる力量はない。
ならば、囲まれるよりも早く行動する必要がある。そして……出来得る限り一対一の状況を作り出さなければならない。
三人は執拗に武を囲もうと追うだろう。だが、それに捕らわれては終わりだ。……なるほど、真那の言うとおり。これは本気で逃げて逃げて逃げて、あらゆる方向からの攻撃をかわし切らねば生き延びる道はないだろう。一人を正面から相手している隙に背後からは二人が襲い来る。なんとも過酷な条件だ。武は全身に気を巡らせる。――怯めば、それで終わりだ!
「ぅぉおおおお!!」
「やぁああ!!」
正面の巽が武目掛けて真っ直ぐに突っ込んでくる。横凪の一閃を模擬刀の腹で受け、力任せに押しのける。しかし押した刀は何の抵抗もなく……するりと、まるで抜けるように巽の第二撃が眼前に迫っていた。
「――ッッ??!!」
ゾッ、と悪寒が走りぬける。前転の要領でそれをかわし、その勢いのまま前方へ走り距離をとる。いつの間に刀を翻したというのか。武には巽の二撃目が全く見えなかった。――と、背後に二つ気配を感じて振り返る。追随してきたのは巽と雪乃。示し合わせたように左右に分かれ……武は瞬時に停止して、右へ反転する。雪乃を正面に捕らえて、巽との距離を稼ぎつつ彼女に肉薄する。当然とばかりに唇を歪め、雪乃は下段の構えから逆袈裟に剣を振り上げた。ギイッ! 模擬刀に火花が走る。小さな身体から発せられたとは思えないとんでもない膂力だった。想像以上に重い一撃に、武の足が止まる。受けるので精一杯――ために、すぐ背後から迫っていた巽の剣閃は、地面に倒れるように転がることでしか回避できなかった。
「ぐぁっ!」
「ッチィ!!」
「逃がさん!」
転がり様、すぐに体制を立て直……そうとした瞬間に、いつの間にか正面に美凪が居て、正眼から豪速の一閃が振り下ろされた! 辛くも差し上げた剣で防ぐが、膝をついたこの状況で、上から刀を押さえつけられてはどうしようもない。
「今ですわ!」
「はぁああああ!」 「でやぁあああ!!」
「うわぁあああ!!??」
どかごかぼきばきぃぃいい――ッッ!!
聞くに堪えない殴打の音に混ざって、ぐぇ、だの、ぉごっ、だの……哀れな悲鳴が漏れ聴こえる。
「そこまで! …………白銀、貴様ふざけているのか?」
ぼっこぼこにのされて地面に転がる武に、真那は心底呆れたような顔で声を掛ける。彼を、それはもう盛大に痛めつけた三人は真那の後方に下がり、静観する。……心なしかその表情が晴れ晴れとしているような気がするのは……多分気のせいだろう。
「月詠、中尉……」
「まったく。そこまで莫迦とは思わなかったが……はぁ……白銀、確かに私は“逃げろ”と言ったが…………貴様、自分が一体何を以って戦うのか、最早忘れたわけではあるまいな」
「……ぇ?」
途中溜息をついて、真那は言い聞かせるように問う。その真那に疑問符を浮かべる武だが、あ、と。何かに気づいたのか、跳ね起きる。
「そうかっ――俺、なにやってんだ?」
ぽん。と手を叩き、転がったままの模擬刀を握る。そうかと何度も頷いて、しっかりと真那を見た。その武の様子に真那も満足そうに頷いて、彼女は再び部下に呼びかける。
「神代、巴、戎。もう一度だ」
「「「はいっ」」」
武は静かに模擬刀を構える。先ほどと同様に巽、雪乃、美凪の三人は武の正面、右後方、左後方に展開し……じりじりと距離を詰めてくる。どうやら、武が何がしかに気づいたことを察し、策を警戒しているのだろう。三人掛かりという優位にありながら、決して武の力を侮っていない……実に優秀な剣士だと思えた。その武の思考は間違っていない。確かに年齢は武よりも下であるが、伊達に真那の部下ではない。まして、斯衛軍に所属するほどの力量。なにごとにも驕らず手を抜かず、決して楽観はしない。そこには、実戦を潜り抜けた衛士の姿があった。
ぴたりと巽たちの動きが止まる。――くる。感じ取った瞬間、背後の二人が猛然と間合いを詰める。巽は動かない。……若干早いのは、美凪だッ――!
「ッ、」
武は左足を軸に思い切り地を蹴った。ざりぃっ、とグラウンドの土を巻き上げて旋回、美凪の一撃を模擬刀で受ける。そして地に着いた右足を軸に、今度は美凪を回り込むように旋回、反転……振り抜かれた彼女の二撃目を受けつつ、更に武は変則的な軌道を見せる。
「えっ!?」
美凪は目を疑った。たった今まで正面にいたはずの武が横に、そして自分を回り込んで背後に居る。即座に身を翻し横凪ぎに払うが、それよりも早く武は移動していて……既に美凪ではなく雪乃へと向かっている。――そんな莫迦な。
「なっ、コノォ!!」
「うぅぉおお!!」
ドギィイッ! 凄まじい胆力と膂力によって生み出された重厚な一撃。まともに受けたのでは先のように身体が硬直してしまうだろう。武は裂帛の気合と共にそれを辛うじていなすことに成功し、ほんの僅かに揺らいだ雪乃へ肉薄する。ぐ、と表情を歪める雪乃。だが、流石に斯衛である。即座に刀を返し、迫る武を迎撃する――が、そこで武は、彼女からすればありえない挙動を見せた。
剣を振るう雪乃に対し、あろうことか背を向けたのだ。思わず怪訝に思ってしまって――急旋回する武が放った抜き胴に、呼気を振り絞りながら受け止める。先の一撃のおかえしだと言わんばかりに重い武の反撃。くっ、と忌々しげに舌を鳴らす雪乃だが、既に次の行動に移っている武を追い、走るように距離を詰める。
一人、それを目撃した巽は唖然としていた。
まるで独楽のようなその動き。美凪の周囲をぐるぐると回りながら一周し、螺旋のような軌道を描きながら雪乃へと迫る。旋回は遠心力を生み、加速されたその一撃は凄まじく、速い。まるで出鱈目のような異端の剣。対峙する相手を翻弄し、多対一でありながら一対一を繰り返す戦法。常に動き、そして常に戦う相手を変えることで、武は“常に一対一”を実現させている。
その挙動。独楽のような、螺旋を描く軌道。その剣術。
巽も、雪乃も、無論美凪も。よく見知ったそれ。隊長である真那が使う、名もなき剣閃。怒涛の数で迫り来るBETAに対抗するために編み出された技術。ならば、それは複数人を相手取るのに、これほど相応しい剣術はなく……。
「くっ……」
まるで先ほどと比べ物にならない武の動き。逃げることと防御に躍起になるあまり、彼は自身が使う剣術の本質を捕らえ損ねていたのだ。戦う相手は常に多数。それも両手でも足りないほどの圧倒的多数。BETAと戦うということはそういうことであり、常に同時にそれらは迫り来る。個々がありとあらゆる動きで殺到してくる中で、如何に効率よく、そして自身への脅威を低減させながらに屠るか。
一つの標的にばかりかまけていれば瞬時に他からの攻撃が自身を亡き者にする。故に止まることは許されず、例え一撃で葬ることが出来ずとも、次の敵、次の次の敵、そして次の次の次の次の敵へと相手取り、そして少しずつ削っていくのだ。蓄積させたダメージはいずれ致死量に達し、するとそこからドミノ倒しの如く敵は瓦解する。旋回する一歩は即座に次の相手へと転身するための踏み込みであり、静止を許さない螺旋機動は攻撃と回避を同時にこなす。
そう、それこそが。武の……真那の使う剣術であり、彼女の父が実戦で磨きぬいた対BETA戦術である。
「ぁあぁあああ!!」
だが、そんなことでは怯まない。確かに己の剣術の本質に思い至った武の、その動きは凄まじい。決して未熟とは言えない確かな力量。――だが、それでも矢張り、まだまだ甘い。その動きは真那に比べて無駄が多く、不必要な踏み込みや回避も目立つ。真に相手の行動を見切るには到らず、目に見える範囲の状況だけを捉えて判断している節がある。
――それでは、とても負けてやる気にはなれない。
確かに武は優れている。だが、実戦の経験の無さ、或いはつい最近までこうして自分以上の実力を持った相手と接する機会がなかったために。……彼は、まだまだ達人には程遠いのだった。
「っ、ぐぉお!?」
「ぁぁああああ!!」
猛然と襲い来る巽に、瞬時に武は身を翻し、反応する。下げられた左足に気づいている巽は、武の旋回よりも早く距離を詰め、彼の行動を無効化する。驚愕に目を見開く武は、しかしバックステップで身を離し……そこに打ち込まれた雪乃の一撃を咄嗟にかわすと、そこには狙ったように美凪が居て――!
武は自身の動きが完全に読まれていることを悟った。ならば予測などできないように更に変則的な動きを織り込んでみせるが、それでも三人の攻撃は次第に武を捕らえていく。じりじりと囲みを狭められて、武は行動を封じられる。動き続けることで本領を発揮する彼の剣術は完全に無効化され、最早防戦一方となってしまった。
こうなってしまっては武に勝ち目はない。純粋な剣の腕は巽たちが圧倒的に上回り、そして三方からの同時斬撃をかわしきることなどできず……哀れ、武は再び容赦なく叩きのめされた。
「よし、そこまでだ。下がれ!」
真那の声に三人は武から離れる。悔しげに地に倒れる武に、真那は実に不敵な笑みを浮かべて見せた。
「どうした白銀? もうお仕舞いか?」
「……まだまだ、ですよ。やっとわかってきたんです……お願いします」
「ふふん。いいだろう。もう一度だ」
そして三度目。先ほどよりも明らかに動きのキレが増している武は、実に十数分を逃げ延び……最後にはまたも打ちのめされ横臥したが、それでも尚立ち上がり更に稽古を望む。
繰り返すたびに、武は何かを修得している。今まで自分に足りなかった様々なモノを、巽、雪乃、美凪の三人から学んでいる。そして、少しずつ、着実に、それらを自身のものとしているのがわかった。
正直、巽たちはその武の異常なまでの成長の早さに舌を巻いている。自分達もまだまだ本気を見せてはいないが、それでも一秒を重ねるごとに強くなっているように思える武は……どこか空恐ろしくさえあった。
だからだろうか。
そのとき、武の放った一撃――完全に美凪の死角を取ったそれに、彼女の衛士としての本能が脊髄反射に似た反応を示す。……恐怖にも似た戦慄に衝き動かされて繰り出したそれは、武の剣閃より刹那に速く、彼の胴を打ち抜いた。
正に鬼人の如き一閃。衝動は美凪から一切の手加減を奪い去り、本能のままの攻撃を受けて、武は吹っ飛んで気絶する。
盛大に地面を転がった武は血の混じった吐瀉物を吐き出して……美凪は青ざめる。――しまった!?
「た、大変ですわぁあ~っ?!」
「美凪ッ、やり過ぎだって!!」
「し、死んじゃったかな…ッ?」
三者三様。実に慌しく気絶する武に駆け寄って、口の中に残った汚物が喉に詰まって呼吸が停止してしまわないように、掻き出す。完全に白目を剥いた彼を介抱しながら、咄嗟のこととはいえ無体なことをしたと美凪は己の未熟を恥じる。そんな彼女に巽も雪乃も神妙な表情を見せるが、……それほどあの一瞬の武は凄まじかったのだ。
そして、真那がやってくる。真剣な表情で武を見守る三人の下へ。美凪が申し訳なさそうに真那を見れば、しかし彼女はふっと微笑を浮かべて。
「三人ともご苦労だった。……今日はここまでにしよう」
「真那様……」
しゅんと項垂れる美凪に、しかし真那は微笑を向けるだけだ。巽と雪乃も、そんな真那になにも言うべき言葉が思い浮かばず……。
「ふふ、そんな顔をするな。お前達は十分に役割を果たしてくれた。……今日はもう休むがいい」
「はい……」
優しく掛けられた言葉に首肯する。三人は立ち上がり、真那へ敬礼して基地内へ戻っていく。どこかしら落ち込んだ様子の彼女達の背中に、ヤレヤレと真那は苦笑する。
(あの者たちも、まだまだ幼い……)
幼少の頃より斯衛となるべく厳しく躾けられ、鍛えられてきた少女達。十の時に専門の練成学校に入学し、四年の修練を積んで任官した彼女達は、ありふれた少女時代というものを持っていない。周り中を自分と全く同じような境遇の者に囲まれて、ただひたすらに自己を磨き、鍛え、一日でも早く斯衛となることを目標に日々を過ごす。
無論、練成期間中に娯楽の類が全くないわけではない。だが、それもあくまで厳しい斯衛の規律に従った上での娯楽であり……純粋に、何に気兼ねすることもなく感情を発露させることはなかった。
任官し、真那の下に来てからまだ僅かに二年。……しかし、その間に少女達はかつて見せることのなかった様々な……歳相応の感情を見せるようになった。真那の人となりもあったのかもしれない。彼女達本来の性格もあっただろう。まるで、過ごすことを許されなかった少女としての日々を今に感じているかのように。
任務以外の、プライベートな時間。彼女達は少しだけ幼い頃を思い出しながら、その時に出来なかったことを、大切に積み重ねるようにはしゃぐ。時に感情に揺さぶられ、時に情動に衝き動かされ。
多感な時期を練成に充て、「斯衛」として成長した少女達は、今、ようやくにして「少女」として成長を遂げようとしているのだ。
真那にはそれが嬉しく思える。そして、そんな少女らしい感情が爆発したのが今回の件だった。
武の身体を抱え、グラウンドの縁にある木の根元へ運ぶ。自身はその木にもたれるように座り、膝の上に武を寝かせる。汚れた口元を拭ってやり、汗を拭って、髪を梳くように。
「ふふっ……子供のような顔をしおって……」
どちらもまだまだ幼い子供だ。真那は微笑む。
武に修行をつけた日の晩のことだ。物陰から見ていたらしい巽たちが突然現れて、武に対して怒りを見せた。どうして真那が武のような者に剣を教えるのか、と。確かにそうだ。通常であれば、斯衛が訓練兵……まして国連軍の者に自ら手ほどきすることなどありえない。
しかもそれは、武の希望によって……という形式をとってはいるが、半ば以上真那の想いから成立した師弟関係だった。だからこそ、それが余計に許せなかったのだろう。彼女達は殊更に武を敵視し、真那が止めなければ本当に斬りかかろうとするほどに。真那は自分の考えを正直に話し、結果、彼女達は納得してくれた。
それはある意味で軍人として失格で、人として当然の葛藤だったに違いない。
上官である真那が決めた事項に口を挟む権利など持たないのに、感情でそれを実行した巽たち。どうしてか、真那はそれを咎める気になれず……矢張り、そういう感情を見せてくれることが嬉しかった。
「手のかかる子ほど可愛いとは言うが……ふふふ、あの者たちも成長しているということだな」
武の髪を梳きながら、真那は呟くように笑う。まるで壮年であるような口ぶりだが、実際のところ武とそんなに歳が離れているわけでもなく。
そうしてしばらく武の寝顔を眺めて……。
「まったく貴様は……いい加減目を覚ませ、白銀……っ」
膝の上、緩やかに揺する。そんな真那の仕草に僅かな反応を見せる彼を、微笑んだまま見つめて。真那は柔らかく笑うのだった。
「ぁ~、あ~っ、あぁ~~っ!! 何で、何で?? どうしてよぉお~~っ??!!」
「お、落ち着け涼宮ッ。中尉に気づかれる……ッ」
グラウンドの隅、真那たちがもたれる木から数十メートル離れたその場所。なんでかそこには茜と冥夜の姿があって……二人は押し殺すような声で騒いでいる。
「ぁあああ!! もうっ、白銀のバカぁ~~!!」
「だから落ち着けというにっ!」
武の様子が気になって仕方がなかった茜は自主訓練を終えた冥夜と出くわし、二人はそのまま武たちの修行を見守っていたのである。わざわざ木陰に隠れて。こっそり覗くように。……結果、真那の行動に茜の精神状態は振り切れている! それはもう冥夜なんかにはとめられないくらいにっ!!
「ッッッ!!? い、ィいいい今ッ!? “ぷに”って、白銀のほっぺた“ぷに”ってぇえ!!」
どうやら武の頬をつついているらしい真那に、茜は涙目で混乱する。最早成す術もない。冥夜は嘆息して諦めることにした。明日の朝、それはもう恐ろしい光景を目にすることになるだろう。哀れ武……されど、多分武が悪い。絶対に悪い。
「まったく……白銀め、月詠までも手篭めにするとは……男として……ブツブツ……だらしない……ブツブツ……」
なんだかんだ言って自身もご立腹の様子。冥夜は腕を組んでブツブツと不機嫌そうだ。
「ふ、ふふふふ、うふはははははっ。白銀ぇ~~憶えてなさいよぉ……」
不吉な笑みを漏らす茜に、もう冥夜は何も言わない。恋する乙女は嫉妬深いのである。くわばら。