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No.1154の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~ 『完結』[舞天死](2009/02/11 00:34)
[1] [序章-01][舞天死](2009/02/11 00:30)
[2] [序章-02][舞天死](2008/02/11 16:02)
[3] 復讐編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:03)
[4] 復讐編:[一章-02][舞天死](2008/02/11 16:03)
[5] 復讐編:[一章-03][舞天死](2008/02/11 16:04)
[6] 復讐編:[一章-04][舞天死](2008/02/11 16:05)
[7] 復讐編:[二章-01][舞天死](2008/02/11 16:05)
[8] 復讐編:[二章-02][舞天死](2008/02/11 16:06)
[9] 復讐編:[二章-03][舞天死](2008/02/11 16:07)
[10] 復讐編:[二章-04][舞天死](2008/02/11 16:07)
[11] 復讐編:[三章-01][舞天死](2008/02/11 16:08)
[12] 復讐編:[三章-02][舞天死](2008/02/11 16:09)
[13] 復讐編:[三章-03][舞天死](2008/02/11 16:09)
[14] 復讐編:[三章-04][舞天死](2008/02/11 16:10)
[15] 復讐編:[四章-01][舞天死](2008/02/11 16:11)
[16] 復讐編:[四章-02][舞天死](2008/02/11 16:11)
[17] 復讐編:[四章-03][舞天死](2008/02/11 16:12)
[18] 復讐編:[四章-04][舞天死](2008/02/11 16:12)
[19] 復讐編:[五章-01][舞天死](2008/02/11 16:13)
[20] 復讐編:[五章-02][舞天死](2008/02/11 16:14)
[21] 復讐編:[五章-03][舞天死](2008/02/11 16:14)
[22] 復讐編:[五章-04][舞天死](2008/02/11 16:15)
[23] 復讐編:[六章-01][舞天死](2008/02/11 16:16)
[24] 復讐編:[六章-02][舞天死](2008/02/11 16:16)
[25] 復讐編:[六章-03][舞天死](2008/02/11 16:17)
[26] 復讐編:[六章-04][舞天死](2008/02/11 16:18)
[27] 復讐編:[六章-05][舞天死](2008/02/11 16:18)
[28] 復讐編:[七章-01][舞天死](2008/02/11 16:19)
[29] 復讐編:[七章-02][舞天死](2008/02/11 16:20)
[30] 復讐編:[七章-03][舞天死](2008/02/11 16:20)
[31] 復讐編:[七章-04][舞天死](2008/02/11 16:21)
[32] 復讐編:[八章-01][舞天死](2008/02/11 16:21)
[33] 復讐編:[八章-02][舞天死](2008/02/11 16:22)
[34] 復讐編:[八章-03][舞天死](2008/02/11 16:23)
[35] 復讐編:[八章-04][舞天死](2008/02/11 16:23)
[36] 復讐編:[九章-01][舞天死](2008/02/11 16:24)
[37] 復讐編:[九章-02][舞天死](2008/02/11 16:24)
[38] 復讐編:[九章-03][舞天死](2008/02/11 16:25)
[39] 復讐編:[九章-04][舞天死](2008/02/11 16:26)
[40] 復讐編:[十章-01][舞天死](2008/02/11 16:26)
[41] 復讐編:[十章-02][舞天死](2008/02/11 16:27)
[42] 復讐編:[十章-03][舞天死](2008/02/11 16:27)
[43] 復讐編:[十章-04][舞天死](2008/02/11 16:28)
[44] 復讐編:[十一章-01][舞天死](2008/02/11 16:29)
[45] 復讐編:[十一章-02][舞天死](2008/02/11 16:29)
[46] 復讐編:[十一章-03][舞天死](2008/02/11 16:30)
[47] 復讐編:[十一章-04][舞天死](2008/02/11 16:31)
[48] 復讐編:[十二章-01][舞天死](2008/02/11 16:31)
[49] 復讐編:[十二章-02][舞天死](2008/02/11 16:32)
[50] 復讐編:[十二章-03][舞天死](2008/02/11 16:32)
[51] 復讐編:[十二章-04][舞天死](2008/02/11 16:33)
[52] 復讐編:[十三章-01][舞天死](2008/02/11 16:33)
[53] 復讐編:[十三章-02][舞天死](2008/02/11 16:34)
[54] 復讐編:[十三章-03][舞天死](2008/02/11 16:35)
[55] 守護者編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:36)
[56] 守護者編:[一章-02][舞天死](2008/02/13 21:38)
[57] 守護者編:[一章-03][舞天死](2008/02/17 14:55)
[58] 守護者編:[一章-04][舞天死](2008/02/24 15:43)
[59] 守護者編:[二章-01][舞天死](2008/02/28 21:48)
[60] 守護者編:[二章-02][舞天死](2008/03/06 22:11)
[61] 守護者編:[二章-03][舞天死](2008/03/09 16:25)
[62] 守護者編:[二章-04][舞天死](2008/03/29 11:27)
[63] 守護者編:[三章-01][舞天死](2008/03/29 11:28)
[64] 守護者編:[三章-02][舞天死](2008/04/19 18:44)
[65] 守護者編:[三章-03][舞天死](2008/04/29 21:58)
[66] 守護者編:[三章-04][舞天死](2008/05/17 01:35)
[67] 守護者編:[三章-05][舞天死](2008/06/03 20:15)
[68] 守護者編:[三章-06][舞天死](2008/06/24 21:42)
[69] 守護者編:[三章-07][舞天死](2008/06/24 21:43)
[70] 守護者編:[三章-08][舞天死](2008/07/08 20:49)
[71] 守護者編:[四章-01][舞天死](2008/07/29 22:28)
[72] 守護者編:[四章-02][舞天死](2008/08/09 12:00)
[73] 守護者編:[四章-03][舞天死](2008/08/29 22:07)
[74] 守護者編:[四章-04][舞天死](2008/09/21 10:58)
[75] 守護者編:[五章-01][舞天死](2009/02/11 00:25)
[76] 守護者編:[五章-02][舞天死](2009/02/11 00:26)
[77] 守護者編:[五章-03][舞天死](2009/02/11 00:27)
[78] 守護者編:[五章-04][舞天死](2009/02/11 00:28)
[79] 守護者編」:[終章][舞天死](2009/02/11 00:28)
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[1154] 守護者編:[一章-03]
Name: 舞天死◆68efbbce ID:d7901020 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/17 14:55

『Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~』


「守護者編:一章-03」





 スチール製のドアを閉じる。 簡素な造りのそれ一枚を隔てただけで……世界は、真っ暗な闇に包まれた。

 そこはつい数瞬前までこの身を包んでいてくれた優しさも温かさもなく、ただ、冷たく昏い底無しの奈落。――ここが、俺の世界だ。

 茜への感情を引き剥がすように、ドアから身を離す。部屋の灯かりをつけないままにベッドへと歩き、畳まれた寝具もそのままに、硬い感触のそこへ身を投げた。――どすん。薄いマットが敷かれただけのベッドの、使い古されたスプリングがギシギシと音を鳴らす。外界と断絶されたこの闇の中で、一層惨めに響くその音が、これ以上なく我が身を焦がした。

 ――くそ、何をやっているんだ……俺は……ッ!

 ドン、と。握った拳をベッドに叩きつける。わざわざ思い出すまでもなく、この手に、背中に残る彼女の残り香を感じて……狂おしいほどの情動が衝き起こった。一緒に居ていい、と。一緒に居よう、と。そう優しく甘く囁いてくれた茜の、女としての色香が脳裏を占める。熱く滾るような衝動。脳が蕩けるほどの欲情。――ああ、俺は本当に、救いようのない……!

 わかっている。

 わかっている。

 茜の想いは、気持ちは、痛いほどよくわかっている。触れた手の平が伝えてくれた。リーディングするまでもなく、触れ合った瞬間に、彼女のココロが染み透るように伝わったのだ。多分それは、己の想いさえ彼女に届いたということ。触れ合ったことで、それぞれの想いが相手へと浸透する……きっと、ニンゲンにはそういう、言葉以上にココロを伝える術が備わっていたのだろう。

 だから――赦せない。

 そんな茜の想いを踏み躙った自分を。そんな茜の愛を拒むしかなかった自分を。

 でも、受け入れていたら、縋り付いてしまったら……それこそ、一番赦せない。――俺は。

 純夏へ執着するまま、茜を愛することは罪だ。

 茜へ想いを寄せるまま、純夏を愛することは罪だ。

 彼女達二人を等しく想うまま、それぞれを愛するなんて……出来ない。日本人としての倫理観、なんていう無粋なものじゃない。それは多分、こんな自分を愛してくれる彼女たちへの、せめてもの誠意だと思うから。……或いは臆病なだけか。どちらかを選ぶことはどちらかを失うということ。そんな恐怖が、一歩を踏み出す意思を――衝動を――竦ませているのか。

(俺は……選んだんだ……)

 独り、あの丘の上で風になぶられていた時。己の中に渦巻く二人の少女への愛に決着をつけたはずだ。そして、「どちらか」を選んだ瞬間に、結局のところ、どうしたところでそのひとの愛を受け止めることは赦されないのだと痛感した。引き裂けた心臓はその鼓動を刻む度に鮮血を吐き零し、愛情を抱く心はその想いを受け取るたびに白濁し罅割れていく……。どちらか一人を選んだことでもう一人への愛情は死に、その死んだココロに引き摺られるからこそ、選んだ彼女への愛は曇る。

 引き裂ける感情を押し留める術は今の武にはなく……既に自身の手で引き裂いてしまった愛情は血塗れて横たわっている。それは暗に……「選んだ」ことに対する「後悔」として。臓腑を抉るようなひりついた激情が、喉を震わせる。

「ォォォォオオオオオオ!!!!」

 暗闇に低く篭る咆哮。それはなによりも――――弱く醜く浅ましい自身への嘲りと怒りに滾って。

 愛する人を選んだというなら、正々堂々と向き合えばいい。そうすることが、きっと彼女達への精一杯の誠意だ。…………それが出来ないというなら、彼女の愛を受け取る資格がないなどという逃げ道を残すならば…………それは、本当は全然、全くに、誰一人選びなどしていないだけの。

 失うことが怖いだけの。

 ただの――餓鬼だ。

 違うと叫びたい。そんなはずはないと。声高に。――だってこんなにも胸が痛い。だってこんなにも感情が引き千切れて痛い。純夏と茜。茜と純夏。選べない、選ばなくてはならない二人。そのどちらも愛していて……手放したくなど、ない。

 ――それがオマエの本心だ。

 痛くて苦しい? 当たり前だ。引き裂ける痛みに悶えているというなら、それは未だに裂け切っていない証拠。痛い痛いと泣き叫んで、怖がって……結局、何一つ選べないままに“選んだつもりになって”誤魔化している。

 だから――傷つけることしか、出来ない。こんなにも弱い自分を支えようとしてくれた茜を。抱き締めてくれた茜を。その体温を振りほどくしか出来なかった。

 とことんまで……白銀武という男は性根が腐っているらしい。まるで他人事のように断じる自分がいる。自室に独り篭って、己の不甲斐なさを嫌悪するその様を、見下すような自分自身の視線がある。――――ああ、くそ。

 もう一度やり直すのだと誓った。

 手放した大切なものを胸に抱くのだと決めた。

 そうやって足掻いて足掻いて、“全うな”道に立ち還るのだと。

 そうすることこそが、贖罪となるのだと。……みちるが教えてくれた。自分独りで何もかも抱えて、追い詰められることは愚かだと。誰にも相談できずに感情を鬱積させることは愚の骨頂だと。

 まだ何一つ成し得ていない。外道と無道の終着に無様に転がったまま、正道へ人道へ立ち還る術を何一つ見つけられていないまま。……ただ、今までと同じように感情に振り回されているだけ。――それを悔しいと思うなら。

 無様と、憤るならば。

「――――――――――――、ァ、」

 闇の中に薄っすらと浮かぶ鮮やかな黄色。闇の中で高潔に浮かぶ漆黒と銀細工の拵――弧月。手放したそれが、手にする資格を失くしたそれが。ぴぃん、と。凛とした気配を放ち、昂ぶった精神を宥めてくれる。――月詠中尉。

 まるで彼女がそこで叱ってくれているよう。こんな姿を見たなら、あの高潔で誇り高い師は、どんな風に思うだろうか。

「…………ぁあ、また、やっちまうところだった…………」

 ひとつひとつ、拾い上げるのだろう?

 一歩一歩、踏みしめるのだろう?

 そうやって少しずつ、強くなろう……。何もかもを一度に取り戻すなんて、きっと不可能だから。全てのことをたった一度の選択で決めるなんて、きっと不可能だから。何度間違えても、何度躓いても、それでもずっと、諦めずに前だけを見据えていけるなら……きっと。

 きっとそこに――俺が生きる意味が在る。

 きっとそこには――俺が護りたい人がいる。

 それは茜か。それは純夏か。どちらだとしても、もう。……選んだ、なんて思い込みでいたずらに己の感情を追い詰め、そして茜を哀しませた愚行を、二度は繰り返さない。

 深く息を吸う。肺腑に酸素が行き渡り、頭の中をクリアにしてくれる……。今日は、いろんなことがあった。……あり過ぎた。己に課せられた宿業を知り、純夏の運命を知り、人類を救う計画の核心を知り、夕呼の非道と覚悟と甘さを知り、己の弱さと狂気を思い知り、人道を踏み外し、外道の果てへと堕ち、亡くしたたくさんの感情を思い出し、己が抱く愛情を確信し、みちるの厳しくも優しい感情に涙し――――茜の体温を、そこに秘められた深い想いと、それを求める自身の心を知り……。

 きっと今夜はろくに眠れやしない。

 今日という日に起きた全てのことを延々と脳内で繰り返し、何度も何度も反芻して刻みつけて……きっと、そうしないと、何一つ出来ないままだから。ありのままの全てを一度、受け入れよう。己の記憶を感情をココロの奥のその全てを、リーディングで読み取って再生して。そうやって何度も繰り返すことで、絶対に同じ過ちを犯さないように。

 己の弱さを知れ。

 己の醜さを知れ。

 己の卑俗さを知れ。

 己の矮小さを知れ。

 己の感情を知れ。

 己の情動を知れ。

 己の踏み外した道を知れ。

 己の立ち還るべき道を知れ。

 己の罪を知れ。

 己の愛を知れ。

 ――そうやって何もかもを胸に刻み付けることが出来てようやく。この底無しの奈落から、一歩、進み始めることが出来るだろうから。

「茜、俺はお前を……」

 きっと、その感情が支えてくれるから。その想いが在る限り、道を間違えはしないから。彼女を護りたいと想う気持ち。それだけは、絶対に嘘じゃないから。だから……。







 ===







 擬似生体移植手術から一日が経過した。

 肩口からスッパリと斬り落とされた自身の右腕は、搬送された自身と共に手術室へ持ち込まれ、今こうして再びその部位に縫い付けられている。爆撃で千切れ飛んだわけでも、強い衝撃に潰れたわけでもなく、キレイに斬り落とされたために……それをそのまま再用することが決定されたのだという。失血が多かったそうだが、切断からそれほどの時間が経過していなかったことと、格段に進歩した移植技術が確立されているために、それはさしたる不安も問題もなく執り行われ、こうして一晩が過ぎた今も、矢張り何の問題もない。

 固定されたままの右腕をチラリと見下ろす。“接合”の際に、胴体側、腕側、それぞれの断面を数センチずつ切除し、その間を埋めるように擬似生体を移植することで、極力神経系の拒絶反応を抑えることに成功した。……のだという。

 執刀した医師の説明を半分以上聞き流しながら、一度自分の身体から離れたそれが、再びこうしてくっついている事実に奇妙な安堵を覚えていた。――成程、私にも自分の身体に対する愛着はあったってわけ……。夕呼は自嘲するように口端を歪めた。

 尚も説明を続けようとする医師を、左手で払うようにして下がらせる。一瞬、怯むように身を揺すらせた老医師は、仕方ない、というように苦笑して、カルテを片手に去っていった。閉められる扉の向こうに、ちらりと小銃を構えた警備兵の姿を認める。警備は万全。今朝方様子を見に来たピアティフの報告から、外部に情報が漏れていないことはわかっている。

 ひとまずの懸念が晴れ、そして執刀医自らが懇切丁寧に傷の具合や移植後の注意事項を説明してくれたなら、これ以上、こんな薬品臭い病室で横になる必要もない。自分自身、医者である姉の影響もあってそれなりの医学知識は備えていたし、擬似生体移植技術にも疑いを持ってはいない。……もっとも、自身がその恩恵を賜ることになるとは予想もしていなかったのだから、そう思えば医学の進歩もあながち莫迦にしたものではないのだろう。「擬似生体」の技術を格段に進歩させた技術開発チームの一員だった姉に、ほんの僅かだけ感謝しながら、そういう感情さえ久しく抱いていなかったのだと気づいて、益々に自嘲する。

(私は、そういう感傷や繋がりを全部投げ打って、ここまでやって来た……)

 それを後悔したことはないし、そもそもそんな感情は抱かない。己は間違いなく、現状考え得る最良を成し遂げるために邁進している。それはひたすらに突き進む道。振り返る過去も、引き返す背後もない、ただ眼前にのみ続く無限の道のり。

 人類に残された最後の希望――オルタネイティヴ計画。第四番目のそれが求める00ユニットこそを完成させ、BETAを地上から一掃する。自分が生きている間に、必ず成功させて見せる。いや、既に残された時間は少ないのかもしれない……。なんにせよ、ここで無為に過ごしていい時間などない、ということだ。

 神経も骨も筋組織も皮膚も繋がっているが、まだ動かすことは出来ない。リハビリには時間を要するというし、その時間を惜しんでしまえば、一生後を引く。ならばせめてリハビリに集中するための時間を確保すべく、今すぐにでも行動を起こすべきだ。医師には何も伝えていないが、先ほどの苦笑を見る限りでは、既に夕呼の行動を承諾しているも当然だろう。まして、この基地内で夕呼を止められるものなど存在しない。――絶対安静? 笑わせんじゃないわよ。その不敵な笑みは誰に向けられたわけでもなく――――ドアをスライドさせて、霞がちょこん、とやって来た。

「香月博士……おはようございます」

「あら社、おはよう」

 わざわざ見舞いに来てくれたらしいが、夕呼は既にベッドから降り、立ち上がっていた。霞はその夕呼に驚いたような顔を向けて……寄り添うように傍に立つ。病院着の裾を小さく摘んで、きゅっ、と口を閉じたまま見上げてくる。強く開かれた瞳は銀色に澄み切っていて――夕呼は、ふふん、と唇を吊り上げた。

 ただそれだけで……理解した。

 社霞という少女は何か一つ、成長を見せたのだと。そして多分…………何処までも、いつまでも、香月夕呼という女が進む道を、寄り添ったまま、その運命の果てまで共に在ろうとするのだと。それを頼もしいと思えてしまう感情が、少しこそばゆい。――これでは、

(これじゃ、まるで母親だわ……)

 そんな感傷は不要だ。そう理解しているはずの心が、けれど今は心地よいと肯定している。

 自分自身の感情の底に捨てたニンゲンとしての甘さ。「社霞」、「鑑純夏」……そして「白銀武」に接する度、少しずつ表面に浮き上がるようになったそれを、今、胸いっぱいに感じている。幼い少女特有の大きな瞳で、じっとこちらを見上げている霞は、そんな夕呼の感傷を何処まで感じているのだろうか。希代のリーディング能力者。その能力を発揮するならば、夕呼の胸の裡なぞ明け透けに知られているに違いない。

 だが――それはない、と。知っている。

 霞は絶対的に他者との触れ合いが不足していて、それゆえに彼女は誰と接する上でもリーディングを必要とする。よく言えばそれが彼女なりのコミュニケーションの手段なのだが……言い換えるならば、それは他人の心を覗かずには、誰と触れ合うことも出来ない弱さを示している。

 生まれる以前より“そのように”創られた彼女にはそれこそが当然。だが、ヒトにそのような能力はなく……だからこそ、他者は霞を畏れ、距離を置く。霞を引き取って数ヶ月も過ぎた頃、彼女は独り泣いていた。己にとっての当然が他者にとっての異常で、己にとって何よりもなくてはならないものが、他者には畏れの対象となる。その齟齬に、彼女は涙を流していた。

 そして、そんな少女の涙を知りながら、利用するのが夕呼だった。霞を引き取った理由はひとえに“優秀なリーディング能力者”だったから。そして、自身の提唱する「00ユニット」に備えさせるべき機能の一つを研究するために。……鑑純夏の脳を手に入れたときなどは、それこそ、手放しで霞を引き取ってよかったと思えたものだった……。

 我ながら、酷い女だという自覚は在る。あの脆弱な精神構造の白銀武に言われるまでもなく、間違いなく己は外道であり、非道の科学者。人類の未来のため、BETAをこの地上から一掃するため。その目的と意志は微塵たりとも揺らぎなく灯っているが、一歩間違えば、己の好奇心を満たすためだけの狂人に成り果てる可能性さえ秘めていることを……誰よりも、夕呼自身が一番承知していた。

 霞は、そんな夕呼の全てを知っている。

 夕呼は、霞のリーディングを阻止しようとはしなかった。バッフワイト素子というリーディングを阻害するマイクロチップを身に付けてはいるが、それはあくまで武に機密情報を知られないようにするための措置でしかない。……霞にとって能力の存在は、“なくてはならないもの”。生きていくために必要な“器官”の一つといっていいのかもしれない。であるならば、それを抑圧するべきではないし、むしろ、計画のためにはその能力は遺憾なく発揮してもらわなければならないという考えがあった。

 そういう経緯もあって、夕呼は霞の能力を肯定し、存在を肯定された霞は夕呼を慕うようになった。

 霞に少しの変化が見られたのはその頃からか。それまでは目にするもの触れるものの全てを無条件にリーディングしていたのだが、無闇に能力の行使をしなくなった。ピアティフやみちるに対しても出来るだけ“言葉”を用いたコミュニケーションを図ろうとし……なにより、夕呼の心を読むことがなくなった。咄嗟の時や、或いは任務において必要な時以外、自らの意志で、霞はリーディング、そしてプロジェクションを使わなくなった。

 創られた人工ESP発現体としての人生を全て受け入れた上で、彼女は、「社霞」として歩き始めたのだ。夕呼の傍にいるために。夕呼の願いを支えるひとりとなるために。

 …………それを知る夕呼だから、霞の心が知れる。リーディングなんてなくても、人の気持ちはわかるのだ。理解できるのだ。――この子は、成長した。

 その内側に存在する様々な感情を無意味なセンチメンタリズムと断ずるのが、香月夕呼という科学者だったはず……。つい先ほども思考を巡らせた、甘く吐き捨てるべき人としての情。感傷ともいうべきそれを、けれど…………もう少し、せめて執務室へ戻るまでの間、霞が寄り添ってくれている間だけは……この胸に宿らせていても、いいのではないか。

 そう――思えた。







 ===







 訓練前のミーティングも終わり、茜達新任衛士は座学の準備のために退出し、水月以下先任は強化装備に着替えるためにロッカーへ向かう……の、だが。水月は、ミーティング後も自身に向けられていたみちるの視線から、何か、他の者には聞かせたくない話でもあるのかと部屋に残っていた。その隣りには武。彼もまた、みちるの視線から何がしかを汲み取り、この場に留まっている。

 水月と武の二人ともを正面から見据えて。みちるは一度武を強く見やった後、水月へと顔を向けた。

「速瀬――、A-01部隊の副隊長であるお前に、話しておくことがある」

「はっ……!」

 ひたと見据えられた強い視線をしっかりと受け止めて、水月は姿勢を正す。同時、武も丹田に力を込めるかのように、背筋を伸ばしていた。視界の端に愛すべき弟とでも言うべき彼が立っていることに少々の疑問を抱きながら、けれど、みちるが退室を命じない以上、武も関わりがあることに違いない。その水月の思考を理解しているのだろうみちるが、隊長として、大尉としての表情を見せる。

「昨日、1740を以って白銀武少尉の特殊任務は解除された。よって白銀は本日の訓練より原隊復帰するわけだが……その特殊任務の際に、少々問題が生じてな……。現状のままでは、白銀を実戦に投入させるわけにはいかなくなってしまった」

「――ッ?!」 「……………………」

 険しい、とさえ表現できるかもしれないみちるの表情、そして声音に。水月は息を呑み、ギョッとするように――武を見た。顔面に深い傷痕を残す青年は、真一文字に口を閉じ、強い眼光をみちるに向けている。姿勢は変わらず、不動のまま。ただ、その全身から……喩えようのない気配が滲んでいるのが感じられて……。

 ちらり、と。視線を武の腰へ向ける。……先ほどから、気になってはいたのだ。

 つい昨日まで、そこに提げられていた刀剣。月詠真那から託されたという、あの……鑑純夏の形見を巻きつけた黒い拵。武の魂そのもの。そう言っていいはずのそれが、どうして身に付けられていないのか。

 果たしてその理由は、今しがたみちるが述べた……生じた問題、というものに所以するのか否か。まだ水月には判断できない。ともかくも、みちるの言葉は続いているのだから、一言たりとも聞き逃すわけにはいかないだろう。みちるは敢えて、“副隊長の”という文言を頭につけていた。つまりそれは――当たり前のことだが――武を案ずる姉としての水月ではなく、副隊長、衛士、軍人としての「速瀬水月」として事に当たれ、という暗黙の内の命令だった。

 ならば当然、それに従うのが自身の役割。隊長の命を受け、それを迅速確実に実行する部下の役目。……まして、武は水月率いる突撃前衛小隊に属している。自身の部下の処遇についてをみちるから説明されているのであれば、彼女は軍人としてそれを受け止めなければならない。無論、そうできるように訓練を積んできた身であるから……今の水月に私情などありはしないのだ。

「……専門医の説明によれば、白銀は今、精神的に追い詰められて、“まいっている”とのことだ。……………………これは――軍人としてという以前に、ヒトとして、壊れつつあるという意味だ」

「――っ、な、」

 水月は目を見開く。……今、みちるはなんと言ったのか。武本人をこの部屋に残して、彼の目の前で、……水月に向かって、なんと? ――黙れ、落ち着け。

 なにが、私情などない、だ! 早々に心が乱れている自身に苛立ちを覚えると同時、努めて軍人であろうとする思考が、みちるの言葉を理解すべく咀嚼する。

 みちるは言った。ハッキリと言った。断言した。



 ――軍人としてという以前に、ヒトとして、壊れつつある



 文字通り、言葉通りの意味とするならば……それは一体、ドウイウコトだ? 必死になってその意味を理解しようとするが、水月には全くもってわからなかった。……唯一つ、ハッキリとしたことは……つまり、武は“また”、道を外れつつあるという……こと。

(或いは――既に踏み外した……?)

 想像して、血の気が引いた。

 思い出すのは伏龍作戦の惨劇。木野下、志乃、亜季、藍子の四人を死なせた復讐への暴走。愛し、護りたかった幼馴染の恋人を奪い去ったBETAに対する怨讐。それだけを糧に生きてきた少年の、ソレをひた隠しにしてきた青年の、仮面が剥がれ落ちた狂気の殺戮劇。あの哄笑を、嗤い声を、……思い出した。

 みちるの言葉を借りるならば、ある意味でそれも、精神的に追い詰められて、“まいっていた”……のだろう。けれど武は…………自らの暴走が招いた惨劇に、先任の死に潰されそうになっていた彼は、その過ちを受け入れ、新たな一歩を踏み出したのではなかったか。一昨日までの訓練を思い出せばよくわかる。午前中を夕呼の特殊任務に充て、午後からはA-01の一員として訓練に参加していた武。シミュレータで、或いは実機で、BETAと戦う彼には以前の危うさも暴走も、復讐を予見させる泥のような精神も見受けられなかった。

 なにより――茜たちが任官して以降、武は、「護りたいものを護るために戦う」という、明白な意思を抱えていたようにも見えたというのに。

 なぜ、“また”……なのか。

 どうして“また”、武はそれほどに追い詰められることとなったのか。

 特殊任務の際に生じたという。ならばそれは、夕呼から与えられた任務の過酷さによるものか。それを知る術は水月にはなく、知らずとも、事実は変わらない。このまま武を放置しておけば、近い将来、白銀武という人物はこの基地からいなくなるだろう。精神に異常をきたした狂人を衛士として運用するわけにはいかず、まして軍人として任務に当たらせることなど、指揮官として許可できるはずがない。ならばそれは軍人として使い物にならないということになり……除隊、或いは精神病院への収監……という事態に繋がるのだろう。

 断固として、そんなことは認められない。或いは、みちるも同様に考えるからこそ、今、白銀武がいるこの場で水月に話しているのかもしれない。

 一層に意思を込めた視線をみちるへと向けると、彼女もまた、同じように頷いてくれていた。それだけで、理解する。――ああ、矢張りこのひとは素晴らしい上官だ、と。水月から視線を外したみちるは、次に武を見据えた。……本当は、水月だけを残して話して聞かせるつもりだったのだが…………武は自らの意思でこの場に残ることを選択したようだった。その武に視線で退室を促したが、それでも尚、挑むように睨み返してきた彼の意志が――俺は大丈夫です――と、そういうのならば……いいだろう、とみちるは承諾していた。

 ひどく簡潔に纏めた事実だけを水月に述べた後も、武の視線は揺るがない。自身が狂人と言われ、壊れているという事実を、恐らくは武にとって絶対に知られたくないだろう水月に話して聞かせたことを、彼は真正面から受け止めている。

 部下に問題が在るならば、隊長はそれを把握しておく義務が在る。みちるは夕呼からそれを知らされ、そして武本人にも確認を取った。……ならば、水月も知っておく義務は、在る。水月が武の属するB小隊の小隊長である以上、彼女も当然ながらそれを承知しておかなくてはならない。そういうつもりで今という場を設けたみちるだったが……そのことを武自身が覚悟を以って臨んでいるというならば、それも良しと頷ける。

 ――覚悟を決めたか、白銀。

 任官してから既に二ヶ月以上が過ぎた。戦術機適性「S」という驚異的な才能を持ち、対BETAに特化した月詠の剣術を継承し、それぞれの才能を枯らすことのない努力と精進を積み重ねることを厭わず……。そんな、“優秀”と、そう評すべき青年は、けれど……その精神、「戦う理由」に於いてのみ、常人よりも脆く、そして罅割れていた。近しい者の死を振り切れず、愛しいものの死に捕らわれ続け、いつか復讐を果たす。きっとそれは、この世界に生きる人ならば誰もが一度は抱く負の感情。闇の領域。そうしなければ生きていけないという、崩折れそうになる自己を辛うじて立ち上がらせるために縋りつく外道の道だ。

 だが、軍人に――人々こそを「護る」衛士に、その感情は赦されない。

 武がそれに捕らわれているというなら、気づいたその時点でなんとしても留まらせるべきだった。みちるは、今でこそ後悔という感情を乗り越えることに成功しているが……あの時喪われた四人を思えば、己の無能さに対する怒りと苛立ちだけで死ねるほどに感情を昂ぶらせたりもした。同時、なんとしてでも、復讐に狂った武を更正させるという意思を抱く。このまま武が変わらないのであれば……あまりにも、喪われた彼女たちが報われない。……結論からすれば、彼は水月によって己の過ちを気づかされ、そして…………自力で泥沼から這い上がってきた。そこに至るまで、武の内奥でどれほどの葛藤と懊悩があったのかは知らない。けれど、復讐を誤りと知り、その感情を振り切ろうと足掻く姿を、対極に在る感情の鬩ぎ合いに憔悴する姿を、みちるは知っている。

 でも、それでも……武は立ち直り、心を決め、戻ってきた。――――はずだった。

 夕呼の右腕を斬るほどの、斬らずにはいられないほどの、ナニか。人としての道を完全に外れてしまった武が……けれど今、覚悟を秘めた瞳を見せる。

 そう、今度こそ本当に……そして、ある意味では“ようやく”……白銀武は、「覚悟を決めた」のだ。

 始まりは恋人への愛だった。それを喪った後は復讐こそが立脚点となり……取り返しのつかない過ちを重ね、そして、ようやく。軍人として、衛士として、護るものとして。そういう覚悟を、抱くに至る。水月もそれを感じたのだろう。強く揺るがない視線を見せる武の横顔を見て、微笑んでいるような、泣いているような、複雑な感情の織り交ざった表情をしている。

 覚悟を抱くに至ったことを喜ぶと同時、改めてそれを決めざるを得ないほどに追い詰められた事実に哀しみを覚える。……まして、未だ武は追い詰められたままなのだ。

 覚悟は決めた。そうすることができた。

 ならば、残るは精神・肉体の問題だ。武のカウンセリングを行った医師はみちるにこう教えてくれた。――彼は自分自身こそをもっとも信じていない。人を斬った狂人。そうするに至る感情の爆発。積み重ね、教えられ、託されてきたたくさんの想いのなにもかもが消し飛ぶほどの怒り、衝動。それを押さえる術を持たず、流されるままに暴威を振るった事実。……それに、慄いている。そうしてしまった自分に。それしかできなかった自分に。絶望し、恐怖し…………それでも、思い出したたくさんの想いを無にしないために、足掻こうとしている。

 ただ……自分を信じることは、出来ない。

 そんな風に感情が爆発して他者を踏み躙ってしまうのが己の本性だというなら、絶対にそれを変えてみせるという意思以上に、恐怖が勝る。――もしも、また……。そういうネガティブな思考が更に拍車を掛けて彼自身を追い詰め、その葛藤に、精神が消耗する。臨床心理士でもある医師はそのように説明してくれた。そして、隊長であるみちるに――精神が追い詰められたニンゲンは、その追い詰められる原因にこそ執着する傾向が見られる。全ての行動の起点は「それ」であり、例え「それ」に相反する行動を起こし思考を巡らせようとも、必ず「それ」が憑いて廻る。故に忘れることさえかなわずに、永劫と言って過言ではない時間、それに追い詰め続けられる可能性があり……大抵の者は、そう永く“もたない”。

 つまり――――自殺。

 無論、それは極端な例でもある。みちるに「結末」の一つを話して聞かせた医師は、あくまでも医師であり臨床心理士。まして国連軍に属する軍医だ。患者として目の前にやって来た迷える軍人を、むざむざ死なせるような愚行は犯さない。ただ、そういうことも在り得るのだという事実を述べただけであり、武がそうなるとは言っていない。……ただ、このまま何も処置を施さず、彼が自力で立ち直ることを待っていたのでは……それは思いやりでもなんでもなく、自殺を促す殺人行為だ、と。みちるに対して釘を刺したのだった。

 言われるまでもない、という若干の反感を抱いたのを思い出す。みちるとて一個中隊を任される大尉である。深い専門知識は医師に敵わないだろうが、当然として、部下のメンタルケアについても知識を修めている。それを知らぬ医師ではないだろうが、しかし、敢えてその事実を述べた医師からは、真剣に武を救おうとしている秘めたる思いが感じられた。ならば、それに感謝こそすれ、苛立つ理由はない。みちるは改めて医師に問う。武を救う手立てはないか。隊長としての自身に出来ることはあるか。どうすべきか。医師は、言った。

 一番いいのは、原因の解消。追い詰める原因となったそれこそを取り除く……或いは、それに執着する心を別のベクトルに向けること。……そして重要なのは、それを強制するのではなく、あくまで自らの意思で決定させること。己の心というものは、他人がどう気遣い、諭し、支えとなったところで……結局は、本人にしか決められない。まして、今回のようなケースでは特に。「己を信じることが出来ない」ならば、「もう一度己を信じてみよう」と、そう思えるように促すこと。気をつけなければならないのは常の精神状態であり、深層心理。自分を信じることは出来ずとも、それでも足掻き立ち直ろうとしている武には希望が在る。

 最後に医師は、言うまでもないことですが、という前置きを述べて――例え「決めるのが本人」であろうとも、矢張り、傍で支える人たちの想いというものは無駄ではありません。そう言って朗らかに笑った。これには、みちるも苦笑せざるを得ない。なるほど、この医師は素晴らしい人物のようだ、と。そう思える。だからこそ信頼しようと決めて、そして……傍で支えるという役目なら、誰よりも適任が存在していることをみちるは承知しているために……。

 水月は、真剣な表情のままみちるを見つめている。時間にして僅か数秒の記憶の反芻だったが、向けられる強い眼差しを見れば、矢張り彼女こそこの役目を任せるに相応しいと確信する。……一時は武と恋人なのだろうと思っていたが、茜がやって来て以来、どうやらそれは外れていたらしいことは気づいている。けれど、だからと言って水月が武に想いを寄せていることに変わりはなく――どうやらそれは弟を大切にする姉のような親愛らしいが、何より、小隊長として、先任として彼の傍に在る以上、彼女以外の適任など居はしない。

 誰よりも武の近しい場所に在る者……という意味であれば、それは恐らく茜が適任なのだろう。だが、彼女はまだ任官して一ヶ月も満たない新任であり、実戦の経験もない。武の抱える葛藤を、ひょっとすると誰よりも理解しているのかもしれなかったが、軍人としての武を更正する以上は、矢張りそれは上官の仕事であろう。故に水月。そして自身。みちるが茜達新任の育成に手を取られる以上は副隊長である水月に一任するほかないし、これが例えば木野下が健在であったとしても、みちるは水月に任せただろう。

 かつて、武の過去を水月から聞いたとき。そのときにわかったことだ。

 白銀武という青年を、教え、諭し、導くことに於いて――――速瀬水月以上の存在はいない。

 水月は紛れもなく、武を救っていた。その存在が、かつての武を、その進む道を支え、方向付けたことは間違いない。彼がそこから外れ、堕ちてしまったことを悔しいと思ったこともあるだろう。それでも尚、水月が武を見捨てはしないというなら、彼女の上官として、みちるはそれを容認してやれる。水月の想いに揺るぎはない。向けられる瞳が雄弁にその事実を語っている。誰よりも武の崩壊を赦さない彼女なら、絶対にやり遂げてくれると信じられる。

「速瀬、白銀には一ヶ月の療養を命じている。これは暫定的なものだが、医師の判断によっては延長も短縮も在り得る。その間、実戦となれば白銀抜きで戦うことになるが……B小隊には苦労を掛ける」

「は! お気遣いありがとうございます。……ですが大尉、心配には及びません。次の戦闘までに、武は戻ってきますから」

 ――ほぉ。

 その水月の不敵な笑みに目を丸くしたのはみちるだけではなかった。それまで無言で、ただ覚悟を秘めた視線をみちるに向けていた武も、その言葉に驚き、水月へと向いていた。虚を突かれたような表情で見つめる武を、水月はしっかりと見据えて、ニッ、と。凛々しく笑って見せた。

「大尉、武を訓練に参加させることは許可していただけますか?」

「……本当なら、医師の判断を仰いだ上に私が裁可を下すところだが……理由は?」

 療養、というならば、作戦・訓練、それら軍務に関わる事項から遠ざけるべきであろう。……無論、通俗的な意味からすればそれは重症を負った者や病気に罹った者に対する処置であるため、ある意味で武には適さないのかもしれない。これを「精神病」と断ずるなら、武に適用することもおかしくはないだろうし、そうと言わずとも、今は休息が必要だとみちるは判断していた。正規の軍人が一ヶ月もの間、負傷したわけでも罹患したわけでもなく、ただ“療養”を必要とする。対外的な面子もあったし、他の部下達へのしめしがあったが、そんなもの、この特殊任務部隊のA-01には関係ない。夕呼直属という肩書きが、こういうときは巧い具合に作用してくれるのだ。……他の部隊との疎遠、という意味では不便でしかないそれも、必要だからこそ切り離されているのだということを承知しているみちるに異議はない。直属部隊の特権などと揶揄される心配さえないというのは、隊長を務める自分にとって、かなりのストレス軽減となっていた。

 それはさておき。

 水月は不敵な表情のままに、みちるへ向き直る。それは軍人として、副隊長としての顔であると同時に、武の“姉”として親愛を注ぐ女の笑顔であるように、みちるには見えた。

「武は莫迦ですから。独りで考えたって結論は出ません。なら、そうやって意味のない思考にウジウジ浸っているより、訓練に参加してボロボロに疲れ果てるまで動いていたほうが健全だと考えます」

「――んなっ、」

 スラスラと、立て板に水を流すとはこういうことだと言わんばかりの水月の言に、武が絶句する。何事か言いたそうにしていたが、隊長と副隊長の会話に口を挟むべきではないと判断したのだろう、困惑した表情で奥歯を噛み締めている。対して、水月はそんな武の様子を委細承知しているにも関わらず、あくまで不敵に、堂々と――まったくもって理由になっていない理由を――みちるに向かって述べていた。

 これにはみちるも笑うしかない。

 ああ、そうだ。これが速瀬水月。この豪放にして豪胆な豪快さが、彼女が彼女たる所以であろう。軍人としての論理ならば落第点。……けれど、武を救う意志を抱く水月としての論理ならば、これ以上の満点など存在すまい。痛快、と。みちるは清々しいまでの水月の言にひとしきり笑って、

「――いいだろう、速瀬。白銀のことはお前に一任しよう。無論、日々の報告は欠かさないこと。それから、せめて一時間は医師とのカウンセリングのための時間を設けること。……私からは以上だ。何か質問はあるか?」

「はっ! いいえ、ありません」

 軽やかに敬礼して、水月は副隊長としての表情に戻る。ん、とみちるもそれに答礼し、

「ならばよし。二人とも早々に訓練に掛かれ!」

「「了解ッ」」

 号令を下すみちるに、水月は堂々と、武は困惑したまま再度敬礼する。駆け足で部屋を出る水月を追って、武もまた走り出したが……一瞬だけ、本当にいいのかという疑問を載せた視線をみちるに向ける。……だからこそ、みちるはもう一度、「行け」と命じた。武は一度だけ俯くように視線を落として……次の瞬間には、より一層強い眼差しを見せる。

「大尉、ありがとうございます……」

 そう言い残して、走り出す。軍靴が廊下を鳴らす音だけが響いて、みちるはヤレヤレと嘆息する。――まったく、勝手な連中の多いことだ。

 独りで何もかも抱え込んで精神に支障をきたす者もいれば、それを支える役割を、自身が望む以上にやり遂げようとする者もいる……。唯一ついえること。みちるは、そんな彼女達の全員を深く大切に想っているし、最高に素晴らしい部下だと、誇りに思っている。だから、今後どれほどの困難と苦難が待ち構えていたのだとしても、みちるは絶対に諦めない。

 ――死力を尽くして任務にあたれ

 ――生ある限り最善を尽くせ

 ――決して犬死するな

 A-01発足当時の、連隊長の言葉が脳裏を過ぎる。……そして、それは今も尚、ヴァルキリーズ全員の心の中に根付いていて……。だからきっと、水月はやってくれるだろう。武は、その想いに応えるだろう。

 絶望に追い詰められ罅割れたその精神を、「護る」者としての意志と決意と覚悟を以って、凌駕する。

 それが出来たなら、きっと…………彼は、誰よりも強い戦士とて成長することが出来るだろうから。






 ===







 ハイヴ突入を想定してのシミュレータ訓練だったはずが、なぜか、唐突にチーム対抗の模擬戦闘へと変更された。実機訓練では決して出来ない唐突な訓練内容の変更だが、しかしシミュレータで実行するプログラムを既に設定していた遙にとって、それは驚き以前に「そんなぁ」と漏らしてしまうに十分な出来事だった。

 現在部隊を纏めるのは副隊長である水月。遙の親友にして妹の茜の憧れのひと。隊長のみちるが茜達新任の教導を執る間、訓練の指揮は水月が行うことになっている。それはいい。部隊の運用とはそういうものだし、以前から水月は副隊長としての任務に忠実に真剣に取り組んでいたのだから。……が、しかし。あまりに唐突な訓練の変更に眉を顰めたものは多い。遙に次いで水月との付き合いが長い美冴も小さな驚きを見せていたし、観察眼に鋭い梼子なども、何やら思案するように眉を寄せていた。

 けれど、そんな若干の困惑を見せる面々に、水月は頓着しない。突然だけど、と断りを入れてはいたが、その理由を口にしないというなら……或いは出来ないというのなら、それ以上、誰も疑問を抱くことはしない。……ゆえに、現在遙はシミュレータに設定されていた訓練プログラムを、ヴォールクデータを元に作成されたハイヴ突入用のそれから、市街戦を模擬したそれへと変更する。心中で水月に対して思うことはあったが、けれど自分も軍人の端くれ、A-01部隊の一員である。CP将校という役割から前線に出撃することはないが、それでも、共に戦場で戦う身という自覚も在る。まして、現在の最高指揮官は水月。副隊長の彼女がプログラムの変更を命ずるならば、それを迅速に実行するのが遙の役目であろう。

 それに――と遙は思考する。

 それに、水月は権力を振りかざして横暴を働くような無体なことはしない。

 世間では権力を持つもののイメージとして、その権力を前面に押し出して尊大に振舞う……といったものが在るのではないかと思う。傍若無人にして唯我独尊。権力を持つものこそが絶対で、その命令は如何なる道理を以っても歯が立たない。そんな、吐き気を催す下衆のような権力者。軍隊にも色々なニンゲンがいる。清廉潔白にして聖人君子のような者もいれば、臆病ながらも精一杯自身を奮い立たせる者もいるだろう。或いは、本当にそういった下衆の烙印が相応しい者も……。多かれ少なかれ、軍という組織にはしがらみが在る。綺麗ごとだけでは決して立ち行かない局面というものも存在する。

 権力とは――そういった局面、或いは難事を乗り越える時に発揮されるべき力であり、頼るべき手段だろう。そしてそれを与えられる者というのは、矢張り、その使いどころを理解し、その時に“そう”と判断できる者だろう。

 ならば先ほどのような下衆も、潔白なだけの聖人君子も、臆病ながら奮い立つ者も、権力を持つに値すまい。下衆は言うに及ばず、“それだけしか持たない”者に軍隊の中核を担う指揮官は務まらない。故に権力を与えられず――言い換えるならば、権限を持つものとは、往々にしてそれに相応しい者ということになるのだ。

 であるからこそ、今回の水月の行為は……少々の違和感を覚えるながらも、納得することはできる。それは水月をよく知る遙だけの納得ではなく、軍人としての水月の姿を知る者たち全員が抱くものだった。それゆえに水月は部隊の副隊長を任されているのだし、それ以上に、彼女の人柄や日々の在り方が皆を納得させるのである。

(でも、やっぱり事前に一言くらいはほしいなぁ……)

 表情には微塵も出さず、まして手を休めるなどということは一切なく。シミュレータの設定を変更し終えた遙は、CP将校としての任務を果たす。

「ヴァルキリー・マムよりヴァルキリー2、シミュレータ・プログラムの変更作業終了しました。現時刻よりシミュレータは使用可能です」

『了解、遙。――いい皆? チームはさっき伝えたとおり、各人全力を尽くすよーにっ!』

『『『了解ッッ!!』』』 『ちょっ!? 俺の意見はッッ!!?』

 通信機越しに眼下の水月たちのやり取りが聞こえてくる。通信機械室の窓から階下のシミュレータ・ルームを見下ろせば、それぞれに自分のシミュレータへと散っていくところだった。どうやら遙がプログラムを変更している間にチーム編成を行ったらしいが、それにしては了解と返す美冴たちの声がやけに愉しそうであったり、最後に聞こえた武の愕然とした声が印象深い。小さく首を傾げながら席に着けば、着座調整を完了した水月から、訓練内容と各員の配置についてデータが転送される。それを元に状況の詳細を設定するのだが、目にしたそれに、思わず「うわぁ」と間の抜けた笑い声を零してしまう。

 なんて出鱈目な編成なのだろう。チーム対抗というから、当然ながら部隊を二つに分ける必要があるだろう。……確かに、二つに分かれては、いる。――が、

「水月ったら、なにかいいことあったのかな?」

 そのチーム編成の何処をどう見たらそういう発想になるのかは、恐らく常人には計り知れまい。だが、水月という女性の心の裡も感情も、考え方も委細承知している遙なら、それを見ただけで理解できるのだった。



 ヴァルキリーAチーム:速瀬水月、宗像美冴、風間梼子、本田真紀、高梨旭、古河慶子

 ヴァルキリーBチーム:白銀武



 そして訓練は開始され……二十分後に、戦闘中ずっと続いていた武の悲鳴と絶叫とありとあらゆる恨み言が途絶えたのだった――。







「ぉーい、白銀くーん。なんでそんなに黄昏てるの??」

 どよどよと騒がしくPXにやって来た新任少尉たちの先頭に立っていた晴子が、カウンターに向かうより早くそう問いかける。周りに座る先任たちの表情を見る限り、今日の訓練で何か“してやられた”のだろうと予想した晴子は、殊更からかうような口調で聞いていたのだが……返ってきたのは言葉ではなく、ただ、遣る瀬無さに満ちた老人のような溜息。本気で何があったのかと気になって仕方ないが、どのようなことにせよ、愉快なことには違いあるまい。例えばこれが余程深刻な問題で在るならば……武は絶対に他者にそれを晒さないだろうし、まして、水月たち先任も笑いなどしない。

 つまり、なにか愉快な出来事でもあったのだろうという納得をして、とりあえず食事を受け取るためにカウンターへ向かう。

「あれ? 武、食事は??」

 続く茜が首を傾げながら尋ねるのを見れば……なるほど、武の眼前には料理の載ったトレイどころか、愛飲している合成宇治茶すら置かれていない。けれど、その茜の疑問を払拭するように、水月から早く自分たちの食事を取って来いと言われては、駆け足混じりにカウンターに向かうしかないわけで。

 で、だ。

「あはははは! 白銀ぇ~、お前なっさけねぇなあ!」

「喧しいッ!? お前は知らないんだよッ、水月さんの突撃力と宗像中尉の厭らしい中距離射撃になによりっ! 風間少尉の支援砲撃の恐ろしさをなぁああっっ!!」

 結論から言うと、非常に愉快だった。

 夕呼から呼び出しを受けているみちるを除き、全員が席に着いたところで早速の晴子の質問には、自慢げに真紀が答えていた。でしゃばるような真似を、と慶子が嗜めていたが、それで口を閉ざすならばそれは真紀ではない。途中、明らかにそれは嘘だろうという言動も多々見受けられたが、大まかに事のあらましを言うならば、こうだ。

 きょうのくんれんは、ぜんいんでしろがねしょういをぼこぼこにしました。

 ……まるで小等学校の生徒が綴る作文である。せめて漢字を使え、と言いたいところだが、面白ければそんな些細なツッコミなど意に介さないのが晴子であり薫だ。それゆえに後者は武に向かって爆笑し、本人から自身が味わった恐怖がどれほどの者であったかを詰め寄られながらに聞かされている。そんな、「負けた罰」として昼食を取り上げられ、興奮状態にある武の気持ちを完全に無視して「ところでさぁ」と話の腰を折ることができるのは、多恵の美点(?)だろう。その瞬間に武ががっくりと項垂れたのは、決して空腹に力尽きただけではあるまい…………。

 晴子は、そんな武の左隣で微笑んでいる茜を小突く。ん? と視線をこちらへ向けた彼女は――笑っていた。心の底から。

 それを見て――安堵する。

 今朝方、亮子に聞かされた話だ。昨夜の出来事……晴子と薫、そして、茜に多恵に亮子。二手に分かれて、それぞれが茜と武のために諸々の探りを入れようと画策して行動した深夜前。

 晴子と薫は水月の想いを確かに聴き取り、そして亮子は……武が何かに追い詰められていることを知り、そして、それでも尚、強く光り輝く茜の想いを知った。その時の亮子の表情は、情景を思い出したのか赤面していたが、それでも、幸せそうな笑顔だったことを思い出す。茜が笑っていられたというなら、晴子が心配するようなことはないのかもしれない。……それに、水月が武へ寄せる想いが家族愛のそれだということを知り、更に武が茜を好いているという事実を聞くことが出来たなら――最早、何も案ずることはない。

 そう思えていても、けれど矢張り、実際目の当たりにするまでは安心できないのも人間というものだろう。故に晴子は、午前中は敢えて何も聞かず、昼食、或いはその後の休憩時間を使って「茜と武」の両方を観察するつもりでいたのだが……どうやらそれは、杞憂に終わってくれたらしい。

 武は笑っている。彼に再び、どれほどの困難が立ち塞がったのかはわからないし、知らされることはないのだろう。師に託された刀を、幼馴染の形見ごと手放すほどのナニカ。……それでも、武は今、笑っている。それはきっと、かつて自分たちさえを騙していたという感情を抑圧する仮面などではなく、本心からの笑顔に違いない。

 茜は笑っている。昨夜確信した想いは揺るがず、危うさを見せた武はけれど、傍で笑ってくれている。その事実に、時折向けられる視線に、自然、頬が綻んでしまっている。

 それを見れば、安心できた。それだけで十分だった。

 きっとこの先、どれほどの過酷な出来事が待っていようと、きっとこの二人なら……二度と折れず、壊れず、道を過たずに。進んでいくことが出来るに違いない。



「もう~、しょうがないな武はっ。……はい、あ~~ん」



 唐突に、場の空気が凍る。

 晴子も薫も多恵も亮子も、まして、食堂のおばちゃん謹製合成肉じゃがのほこほこジャガイモを挟んだ箸を目の前に突き出されている武も。

 水月も遙も美冴も梼子も真紀も旭も慶子も。

 みんなみんな――ぽかん、と間抜けな表情をして硬直していた。――――――――――――否、それは本当に一瞬だけの静寂で。

「「「「ォォォおおおおおおおおっっっ!!??」」」」

 その歓声を聞いて、その光景を目の当たりにして、そのあまりに正規軍とは思えない子供のような騒がしさを目撃して……みちるは、A-01部隊が他者の目に触れないよう色々と配慮されていることに、心の底から感謝した。一人遅れてやってきてみれば、イキナリの乱痴気騒ぎ。貴様ら今は昼間だぞなどという極当たり前の指摘など耳に届くはずもなく、事態の中心らしい武と茜は双方共に顔を真っ赤にしながら一人分の食事を二人で食べているし……。そんな茜が武に箸を差し出すたびに、興奮状態の莫迦者どものどよめきが響き渡る。

「…………あ、おばちゃん、今日は下で食べるからテイクアウトでお願い」

「おやみちるちゃん! ……いいのかい? あれ、あんたの部下だろう??」

 いいんです。ええいいんですとも。例え目撃しているのが食堂のおばちゃんたち食料班の極々一部であろうとも、あんな恥ずかしい連中とは一秒たりとも一緒にいたくなかった。

 ――まったく……見ているこっちが恥ずかしい。矢張り水月に任せたのは失敗だったのだろうか。そんな毒にも薬にもならない思考をめぐらせながら、何故かテイクアウトで頼んだはずの食事が極当たり前に、ここで食べる時と同じ様相でトレイの上に鎮座している。おのれおばちゃん、裏切ったか――!? 愕然と視線を向ければ、悪戯に笑うおばちゃんと目が合った。

 みちるはがっくりと項垂れて、ああ……せめて違う席で食べようかなどと未練がましく現実から目を逸らし…………けれどそれも、空気を読んだのか読んでないのか、遙の呼びかける声に遮られるのだった。哀れ。



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