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No.1154の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~ 『完結』[舞天死](2009/02/11 00:34)
[1] [序章-01][舞天死](2009/02/11 00:30)
[2] [序章-02][舞天死](2008/02/11 16:02)
[3] 復讐編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:03)
[4] 復讐編:[一章-02][舞天死](2008/02/11 16:03)
[5] 復讐編:[一章-03][舞天死](2008/02/11 16:04)
[6] 復讐編:[一章-04][舞天死](2008/02/11 16:05)
[7] 復讐編:[二章-01][舞天死](2008/02/11 16:05)
[8] 復讐編:[二章-02][舞天死](2008/02/11 16:06)
[9] 復讐編:[二章-03][舞天死](2008/02/11 16:07)
[10] 復讐編:[二章-04][舞天死](2008/02/11 16:07)
[11] 復讐編:[三章-01][舞天死](2008/02/11 16:08)
[12] 復讐編:[三章-02][舞天死](2008/02/11 16:09)
[13] 復讐編:[三章-03][舞天死](2008/02/11 16:09)
[14] 復讐編:[三章-04][舞天死](2008/02/11 16:10)
[15] 復讐編:[四章-01][舞天死](2008/02/11 16:11)
[16] 復讐編:[四章-02][舞天死](2008/02/11 16:11)
[17] 復讐編:[四章-03][舞天死](2008/02/11 16:12)
[18] 復讐編:[四章-04][舞天死](2008/02/11 16:12)
[19] 復讐編:[五章-01][舞天死](2008/02/11 16:13)
[20] 復讐編:[五章-02][舞天死](2008/02/11 16:14)
[21] 復讐編:[五章-03][舞天死](2008/02/11 16:14)
[22] 復讐編:[五章-04][舞天死](2008/02/11 16:15)
[23] 復讐編:[六章-01][舞天死](2008/02/11 16:16)
[24] 復讐編:[六章-02][舞天死](2008/02/11 16:16)
[25] 復讐編:[六章-03][舞天死](2008/02/11 16:17)
[26] 復讐編:[六章-04][舞天死](2008/02/11 16:18)
[27] 復讐編:[六章-05][舞天死](2008/02/11 16:18)
[28] 復讐編:[七章-01][舞天死](2008/02/11 16:19)
[29] 復讐編:[七章-02][舞天死](2008/02/11 16:20)
[30] 復讐編:[七章-03][舞天死](2008/02/11 16:20)
[31] 復讐編:[七章-04][舞天死](2008/02/11 16:21)
[32] 復讐編:[八章-01][舞天死](2008/02/11 16:21)
[33] 復讐編:[八章-02][舞天死](2008/02/11 16:22)
[34] 復讐編:[八章-03][舞天死](2008/02/11 16:23)
[35] 復讐編:[八章-04][舞天死](2008/02/11 16:23)
[36] 復讐編:[九章-01][舞天死](2008/02/11 16:24)
[37] 復讐編:[九章-02][舞天死](2008/02/11 16:24)
[38] 復讐編:[九章-03][舞天死](2008/02/11 16:25)
[39] 復讐編:[九章-04][舞天死](2008/02/11 16:26)
[40] 復讐編:[十章-01][舞天死](2008/02/11 16:26)
[41] 復讐編:[十章-02][舞天死](2008/02/11 16:27)
[42] 復讐編:[十章-03][舞天死](2008/02/11 16:27)
[43] 復讐編:[十章-04][舞天死](2008/02/11 16:28)
[44] 復讐編:[十一章-01][舞天死](2008/02/11 16:29)
[45] 復讐編:[十一章-02][舞天死](2008/02/11 16:29)
[46] 復讐編:[十一章-03][舞天死](2008/02/11 16:30)
[47] 復讐編:[十一章-04][舞天死](2008/02/11 16:31)
[48] 復讐編:[十二章-01][舞天死](2008/02/11 16:31)
[49] 復讐編:[十二章-02][舞天死](2008/02/11 16:32)
[50] 復讐編:[十二章-03][舞天死](2008/02/11 16:32)
[51] 復讐編:[十二章-04][舞天死](2008/02/11 16:33)
[52] 復讐編:[十三章-01][舞天死](2008/02/11 16:33)
[53] 復讐編:[十三章-02][舞天死](2008/02/11 16:34)
[54] 復讐編:[十三章-03][舞天死](2008/02/11 16:35)
[55] 守護者編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:36)
[56] 守護者編:[一章-02][舞天死](2008/02/13 21:38)
[57] 守護者編:[一章-03][舞天死](2008/02/17 14:55)
[58] 守護者編:[一章-04][舞天死](2008/02/24 15:43)
[59] 守護者編:[二章-01][舞天死](2008/02/28 21:48)
[60] 守護者編:[二章-02][舞天死](2008/03/06 22:11)
[61] 守護者編:[二章-03][舞天死](2008/03/09 16:25)
[62] 守護者編:[二章-04][舞天死](2008/03/29 11:27)
[63] 守護者編:[三章-01][舞天死](2008/03/29 11:28)
[64] 守護者編:[三章-02][舞天死](2008/04/19 18:44)
[65] 守護者編:[三章-03][舞天死](2008/04/29 21:58)
[66] 守護者編:[三章-04][舞天死](2008/05/17 01:35)
[67] 守護者編:[三章-05][舞天死](2008/06/03 20:15)
[68] 守護者編:[三章-06][舞天死](2008/06/24 21:42)
[69] 守護者編:[三章-07][舞天死](2008/06/24 21:43)
[70] 守護者編:[三章-08][舞天死](2008/07/08 20:49)
[71] 守護者編:[四章-01][舞天死](2008/07/29 22:28)
[72] 守護者編:[四章-02][舞天死](2008/08/09 12:00)
[73] 守護者編:[四章-03][舞天死](2008/08/29 22:07)
[74] 守護者編:[四章-04][舞天死](2008/09/21 10:58)
[75] 守護者編:[五章-01][舞天死](2009/02/11 00:25)
[76] 守護者編:[五章-02][舞天死](2009/02/11 00:26)
[77] 守護者編:[五章-03][舞天死](2009/02/11 00:27)
[78] 守護者編:[五章-04][舞天死](2009/02/11 00:28)
[79] 守護者編」:[終章][舞天死](2009/02/11 00:28)
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[1154] 守護者編:[二章-04]
Name: 舞天死◆68efbbce ID:d7901020 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/03/29 11:27
『Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~』


「守護者編:二章-04」





 今まで積み重ねてきた全てをかなぐり捨てて、頭の中を真っ白にする。……ゼロからのスタート。ここが出発点。伊隅ヴァルキリーズの十三名は、その全員が一旦頭の中をリセットすることで、ドッペル1の機動――隊内の通称を『概念機動』という――を習得すべく訓練を開始した。



 ともかく――わけがわからないのだ。夕呼から手渡されたドッペル1の操縦ログを何度見直したところで、「どうして“そこ”で“そうする”」のか、「なんだって“そんなところ”で“そんなことをする”」のか……印字されたシーケンスと睨めっこしてもまったく理解できない。が、とにかく実践してみようということで実際にドッペル1と交戦した武が見本となり、一連の動作をなぞる。残る全員は自機の管制ユニットの中で武の見せる機動と手元のログを見比べ、その操縦概念を脳内でシミュレートする。……はずだったのだが……最初の一回で挫折した。

 従来の操縦技術を根底から覆すかのような“出鱈目”な操縦。A-01内でも、ある意味で異端であった武をして、全く再現不能なその機動。

 武は必死になって目の当たりにしたドッペル1の機動を再現しようとするが、ログに残されたとおりの操縦を行っても、あの謎の衛士が見せたような鮮やかな機動にはならない。どちらかというと、彼自身の戸惑いが前面に押し出され、小躍りしているように滑稽なものとなっていた。シミュレータなのだからと割り切って、忠実に噴射跳躍を行って見せるものの、例えばビルの壁面を蹴っての跳躍や、空中での二段跳躍などは目も当てられない程酷かった。ビルに激突し、或いは中空でバランスを崩し墜落し……とにかく、インプットする内容はログの通りなのに、それ以外の何もかもが異なっているらしかった。

 武自身混乱の極みであり、救いを求めるようにみちるに視線を向ければ、彼女も珍しく神妙な表情をしていた。呆れ返る水月や美冴の顔を見ることが出来ず――こんなものじゃなかった、と。困惑と悔しさに歯を噛み締める。俯いた武に、溜息まじりのみちるの通信が聞こえた。

『――全員聞け。今の白銀を見てもわかるとおり、このドッペル1という衛士が見せた機動は相当に困難極まるものだ。これまで積み重ねてきた操縦技術の進化系であることは間違いないのだろうが、なにせ独特すぎる。……進化系、とは言ったが……いや、矢張りこれは我々のソレとは根本的に異なるらしい。白銀と同じくその機動を目にした私だが……仮に挑戦したとしても、白銀同様、まともに再現など出来ないのだろうな』

 その声音はどことなく悔しさを帯びており、けれど、不退転の強さが窺えた。その言葉を聞いて、水月たちは理解する。ログでしか知らないこの『概念機動』。ドッペル1という衛士が見せたその機動は……隊内随一の操縦技術を持つみちるをして、そこまで唸らせるほどの代物なのだということを。――つまり、ムキになるくらい、悔しい思いをしてでさえ、“身に付けるに値する”。そういうモノなのだと。

『……大尉、そのドッペル1と白銀少尉の戦闘記録映像を閲覧することは出来ませんか?』

「さて――どうだろうな。どうもドッペル1の存在自体機密扱いらしいからな……香月博士のあの徹底振りを見ると些か怪しいが……こうして操縦ログは頂戴できたわけだからな。――涼宮、ピアティフ中尉に繋いでくれ」

 ログに向けていた視線をみちるへ向けて、梼子が首を捻る。シーケンスを読み取っただけでは理解不能。再現しようにもイメージさえ掴めない。……確かに、これでは全く埒が明かない。まして、目の当たりにし、更には実際に戦った武でさえあの様なのだ。それを参考にしろと言われても、そもそも前提に無理がある。そういう意味で尋ねた梼子に、みちるが考えるように頷く。夕呼はみちるにもまりもにもドッペル1の正体を明かそうとはしなかった。名はおろか、性別さえ教えてくれなかったのである。それが示す事実は多分も何も機密情報以外にはなく、けれど、今後の戦術機運用に躍進的な進歩を促す可能性を感じて、こうして操縦ログを公開してくれた。――ならば、聞いてみる価値はある。現場の率直な意見は――些か、早過ぎる嘆願ではあるようだが――率直に上へ申し立てるべきだろう。

 CPの遙が夕呼付の秘書官であるピアティフ中尉へと通信回線を繋ぐ。網膜投影に浮かび上がったブロンドのショートカットをみとめて、みちるは梼子が請うた内容をそのまま伝える。あの機動を一度でも見ることが出来れば、それが一体どのようなものであるのか、感覚を掴むことが出来る。後はそれをとにかく自分なりに噛み砕いて実践するほかない。例えば一番手として挑戦して見せた武だが、みちるだって最初から巧くいくなどと楽観していない。そもそも、一週間という期間を申し出ているわけだから、夕呼も最低でも五日は待ってくれるだろう。ならば、四日間でモノにし、五日目には完成させる。――ピアティフが夕呼へと確認している間にそれだけをまとめ、了解の意を返した彼女に、みちるは頷く。

『映像データを涼宮中尉へ転送します。そこからシミュレータを経由して、各員の網膜投影ディスプレイに投射してください』

「了解した。――涼宮、頼む」

 了解。頷いた遙の下へ、早速ピアティフから映像データが送信されてきた。遙は手早く機器を操作し、各員の網膜投影ディスプレイへと映し出す。つい十数分前の戦闘記録映像。武とドッペル1の模擬戦の映像を――全員が、息を呑んで見つめた。客観的視点から見るのは初めてだったのだが、武自身、改めて見て愕然とする。戦闘の最中は突然消えたようにしか見えなかった機動も、成程、こうして見れば頷けるものの……矢張り、理解し難い光景であることは変わらない。

 手元の操縦ログを見やりながら、ドッペル1の機動をトレースする。そうか、とハッとさせられる場面もあれば、余計わけがわからなくなった場面もある。例えば回避の際に「がちゃがちゃと」操縦桿を動かしているようにしか思えない操作……一体これは何だというのか。跳躍シーケンスが終了する前に何がしかの操作を入力しているらしいのだが……戦術機の根本的な操縦を間違えているのだろうか。所々にそういった“意味不明”な操縦も見られたが、全体的に見て、矢張り、凄まじい。

 呆れたような声で呟くのは美冴で――このときの彼女の感想から、『概念機動』という通称が定着したのだが、それはさておき――興奮したように叫んだのは水月だ。遅れて真紀が騒ぎ出し、薫や茜が口を揃えて歓声を上げる。どうやら彼女達はこのドッペル1の機動にすっかり魅せられてしまっているらしい。武自身そうなので、同じように感じてくれる皆にどうしてか嬉しくなってしまった。感覚を共有するというのは、実に意識を昂揚させてくれる。

 その興奮を鎮まらせるようにみちるが喝を入れ、そうして――苦行の一日が始まった。

 とにかく巧くいかない。わからない。丁寧にログをなぞり、或いは目にした映像を思い浮かべながら自機を操作するのだが、誰一人再現できた者はいない。強いて言えば、元々どこか独特だった多恵の操縦が“近い”のだが、それでも、かなり苦労しているようである。ビルの壁面を蹴って方向を変える、という荒業を実際にやってのけて見せたこともある多恵だったが、どちらかといえば彼女のソレは本能的な部分の成せる“ワザ”であり、このようなトレースは苦手とするのかもしれない。

 一人ひとりが懸命に自分なりに『概念機動』を咀嚼し、試行錯誤を繰り返す様を観察して、みちるが取り敢えずの結論を出す。このまま明確な指針なしに繰り返すのは時間の無駄。ならば全員で“ゼロから”積み上げていくしかない、と。

『ゼロから――ですか?』

 説明を求めるような水月の問いに、みちるは若干苦笑しながら答える。とにかく自分たちの操縦とは何もかもが違うドッペル1のソレ。再現しようとして再現できないのは、どこかで“自分の体に染み付いた操縦方法”を採ってしまっているから。或いは、そもそも思考がそのように働いてしまっているからだろう。そして、突き詰めて言ってしまえば、その思考さえ全く異なる次元にあるらしいドッペル1のソレを再現できないのは当然。――ならば、一度頭の中を空っぽにして、ともかく一切の“前提”を排除して、ゼロから詰め込んでいくしかない。

 もう一度、今度はそういう視点から『概念機動』を見てみよう――みちるはそう言って、遙へと指示を出す。首肯した遙によって、再びドッペル1と武の戦闘記録映像が表示される。全員が、みちるの指示したとおりに――先入観なしにそれに見入る。

 自分ならそこでこう動く。

 自分ならそこでこうする。

 自分なら――――そういう前提を一切なくして。ただ、ドッペル1の機動を見つめる。記憶する。イメージを掴む。同時に、その機動の根底にある思考を想像する。空には障害物がない。だから空へ逃げる。進行方向を変えるのに一々着地していたら時間の無駄。だからビルの壁を蹴って転進する。空中で狙い撃たれたら逃げられない。だから更に噴射跳躍して回避する。――そうやって、ドッペル1の機動を、ありのままの事実として受け入れる。「莫迦な」や「まさか」なんて言葉は抹消して、目の前の光景をただ「その通り」なのだと肯定する。

 信じられないと唸るのは簡単だ。理解できないと放棄するのは簡単だ。……だが、それではそこに在るものを得られない。そこには、ナニカが在る。全員が直感したのだ。この機動、この操縦技術。『概念機動』とも言うべきドッペル1の――ソレには。

 間違いなく、自分たちを更なる高みへと引き上げるだけのナニカが。

 ソレは希望。ソレは可能性。ソレは――一人でも多くの衛士を生き永らえさせる、力だ。







 ===







 2001年11月03日――







 『概念実証機』。

 夕呼がドッペル1の機動から考案した“新型OS”が実用段階に至り、A-01部隊の不知火に搭載されたのはその日の早朝のことだった。その新OSを搭載した機体を『概念実証機』と呼称するのは、元となった機動の隊内での通称が『概念機動』などという通俗的なものであり、それを面白がった夕呼がそのままつけたためだ。いずれ新OSの効果が証明され、ライセンス登録するにあたって、正式な名称が決定されるのだろう。

 ドッペル1の“概念”をそのまま“実証”できるように組まれたという新OS。その性能は如何なるものかと期待に胸を膨らませたヴァルキリーズの面々は、ドッペル1が見せる変態的な機動に呼吸さえ忘れ、唖然としたままに魅入る。映像が映すのははシミュレータの教習課程ではあったが、ドッペル1はかつて見たことのないほどの鮮やかさ、壮絶さで次々と敵性体を葬っていく。とにかく――スピードが尋常ではない。

 ひとつひとつの動作。従来ならば一つの動作が終了した際に生じる機械的な「停止」が殆どない。或いは、一動作が終了した後に次の動作を入力するためのタイムラグ。そういうものが極力なくされたスムーズな機動が、そのスピードを生み出しているらしかった。映し出される画面を示しながらの夕呼の解説によれば、それは“先行入力”という新機能の効果であり、一動作を行っている途中に複数個先を見越しての動作入力が出来るという。

 例えば、前進して長刀を一閃、すぐさまバックステップ、というシーケンス入力を、一度に連続して行えるということ。前進を入力、長刀の一閃を入力、バックステップを入力、という都度の入力が不要となったことで、人的硬化時間と機械的硬化時間を限りなくゼロに近づけている。

 さらには“キャンセル”という機能も追加されていて、これは文字通り、あらかじめ入力しておいた“先行入力”の内容を、或いは“現在実行中”の動作を“キャンセル”する機能だ。戦況は瞬きの間にもめまぐるしく変化する。数瞬先を読んでの先行入力も、場合によっては異なる動作をとらざるを得なくなる可能性もある。先の例で言えば前進、長刀の一閃、バックステップだが、これが例えば長刀を振る暇なく回避せざるを得ないとき……前進、長刀の一閃→キャンセル、バックステップ……という処理になる。

 キャンセル機能は任意に実行可能で、ソレを実現するために常に入力内容、処理内容を監視するシステムが組まれたのだとか。このあたりのOSの構造には些か不勉強な面々は、とにかくそういう便利な機能が追加実装されたのだと理解することにした。

 また、付随効果として、搭乗者の癖――よく取る行動パターン等――をよりスムーズに反映させるため、戦術機側で自動的に行動をカテゴライズし、次に行われるであろう処理を予測、機体各部が連動して予備動作に移る……ということも可能となっている。つまり、頻繁に行う動作を繰り返せば繰り返すほど、機体の反応速度が向上するというわけだ。これについては以前から備わっていたのだが、新OSの処理速度向上に伴い、更に柔軟化しているとのことだった。

 ドッペル1の『概念機動』を身に付けるべく、一度自身の操縦技術というものを空っぽにして訓練に挑んでいたA-01部隊の全員は、昨日までの訓練で既にそれを習得し、更には自分が得意とする機動に織り込んでの再修正、反映を終えている。みちるが夕呼に宣言したとおりの一週間――実質五日だが――で習得してみせたことには、夕呼も満足しているようだった。なにせ、タイミングがいい。夕呼が新OSをとりあえず完成させ、搭載したのが今朝。そしてソレを使用してデータ収集を担当するA-01部隊が件の機動を自分自身のものとしたのが昨日。完璧だ。

「――以上が、新型OSの概要よ。簡単に言えばこれで全部だけど、何か質問はある?」

 モニターに映されていた映像が消え、ブリーフィングルームに照明が点けられる。白衣を纏った夕呼は、さも愉しそうにみちるたちを見つめていた。それも無理はあるまい。なにせ、機動だけでも十分にこれまでの常識を覆すものだったのに、今度はソレの再現だけに留まらず、よりシャープな操縦が可能となるというのだ。しかも、その操作性はかつてのOSのものとは雲泥の差があるという。ドッペル1が実際にシミュレータでデータ収集を行ったのだという先の映像を見ても、その素晴らしさは明らかだ。

 敵性体として設定された機体の動きと比較するならば、正に昔話の“うさぎとかめ”の如く。無論、ドッペル1は俊敏な兎だ。……そして、その兎は亀に追いつかれることなく、走り切ったのである。圧倒的有利を貫いたまま。



 OSの性能差がこうまで如実に現れるとはまだ若干信じ難い。そんな印象を孕んでいた面々は、けれどシミュレータに搭乗してからはその認識を改めた。――否、改めざるを得なかった。最初こそ鋭敏すぎる機体の反応に戸惑ったものの、それに慣れてしまえば後は「世界が違った」。

 目に映る空間は何一つ変わらないのに、 搭乗する不知火の機動、その一つひとつが、信じられないくらいに――速い。疾い!

 ドッペル1の操縦ログから身に付けた三次元機動も、従来からの平面機動も、“ありとあらゆる何もかも”が、須らく速く、シャープだ。これが昨日まで使用していた同じ機体かと疑いたくなるほど。まだシミュレータでの体感でしかないが……シミュレータでこれなら、実機になると一体どれほどのモノだというのか! 興奮したように叫ぶ水月を、誰が咎められよう。真紀も武も、薫も多恵も。まるで水を得た魚の如くに敵陣へ突っ込んでいく。

 BETAの動きがまるでスローになったような錯覚。無論、錯覚だ。連中が遅くなったのではなく、自らが速くなっている。今までは絶対に回避できなかったタイミングの攻撃も、難なくかわすことができる。一分間で斃せる敵の数も、全員がその記録を塗り替えた。――凄まじい。なんて凄いOS! 本当ならば浮かれる部下達を叱責し、気を引き締めさせる役回りであるはずのみちるでさえ、その新OSがもたらす劇的な効果に頬を綻ばさずにはいられない。

 一通りの訓練プログラムを終え、全員がシミュレータから降りた。満足げに佇む夕呼の前に整列し、彼女が厭がることを承知で、揃って敬礼する。予想通りに顰め面を見せる夕呼に、みちるが一歩踏み出して、頭を下げた。――全員が、背筋を伸ばし、直立する。

「香月博士――ありがとうございます。これほど素晴らしいOSならば、戦場で戦う多くの衛士を無駄に死なせずに済みます……。私は、部下の命を預かる隊長として……博士には感謝してもし切れません……ッ」

「あのねぇ伊隅。あんたの気持ちもわかるけど、実際にはまだ組み上がったばかりでデータ不足なのよ。実用段階なんてまだまだなんだから、今からそんなに感動してたら、キリがないわよ?」

 呆れたように、けれどどこか誇らしげに唇を吊り上げる夕呼に、みちるはこれ以上ないというくらいに破顔した。確かにそうだ。この新型OSはまだプロトタイプ。これからデータ集積を重ね、更に更に改良を重ねていくのだ。……より高性能に。今よりも、更に、更に!

 いちいち感動していてはキリがない。まして、テストパイロット部隊としてA-01が選抜されたというのなら、彼女たちに求められるのは“感動に打ち震える”ことではなく、冷静に的確に新OSの性能を見極め、良い点も悪い点も率直に申し立てること。衛士が戦場で求める最高峰を常に意識してこそ、OSの改良は進むのだから。そのことを理解したみちるは、キッと表情を引き締めて、部下に号令を掛ける。二十分の休憩を挟み、今度は防衛戦プログラムで訓練を積む。その後は掃討戦、締めくくりとしてハイヴ突入戦を行う。大まかにその三パターンを訓練に織り込み、日々データを蓄積していくのだ。

 命令を復唱する水月が、解散を告げる。全員がみちるへ敬礼を向け――――自分のシミュレータへと駆け戻っていく。二十分の休憩だというのに、誰一人体を休めるつもりはないらしい。呆れたように笑うみちるに気づかないまま、ヴァルキリーズの全員は、先の訓練データを検証して次へと反映させることに躍起になっていた……。







 一日の訓練を終え、全員分の機動データを整理していると、夕呼がやってきた。どうやら訓練終了の頃合を見計らっての来訪に、みちるは苦笑する。なんとも読みの鋭いことだ――姿勢を正すみちるに、夕呼は小さく手を挙げて挨拶とした。丁度電子媒体に各員の操縦ログを移し終えたところだったので、それをそのまま夕呼へ提出する。差し出された電子媒体を無言で受け取って、夕呼は視線を鎮座する十二機のシミュレータへ向けた。何を見ているのだろう。つられたようにみちるもそこを見たが……在るのは、管制ユニットを模倣した鉄の棺桶。戦術機のコアであり、衛士の肉体を最後まで守ってくれる揺り篭。恐らくは自身の命が果てる場所も、そこなのだろう――みちるからしてみれば色々と思い巡らすものもあるが、さて、夕呼は何を思ってそこを見つめるのだろうか。

「伊隅……あんたたちには、何が何でもあのOSを使いこなしてもらうわ。新しい戦術機の先駆け――そういうものになってもらう」

「……無論です。私だけではありません。全員が、あの新型OSの素晴らしさに感銘を受け、ドッペル1の機動概念の習得に我先にと競い合っています。……あと二日もあれば完璧に使いこなして見せます。…………博士、あのOSは間違いなく、人類を救う一筋の希望です。アレを全世界に発表するにあたってのデモンストレーションを派手に行え、というのであれば、喜んでその任を負いましょう」

 どこか思いつめた風な夕呼を、無意識の内に励まそうとしていたのかもしれない。みちるは、自分でもわざとらしいと思えるくらいに大袈裟に頷いて見せた。ソレを見て、夕呼が片方の眉を上げる。吊り上がった唇の片端が、不思議と似合っている。――そして、理解した。

 香月夕呼は今、追い詰められている。

 みちるは夕呼が負うその全てを知っているわけではない。彼女が目指すAL4の達成。人類を救う最後の希望。その壮大なる計画の終着点は、恐らくも何もこの新型OSではないだろう。言うなればこのOSはAL4を進める上で発生した副産物。有体に言えばオマケだ。だが、副次的に生まれたのだとしても、ソレのもたらす効果は素晴らしいものがある。絶望的に過ぎる戦局を一変させるほどの力はないが――それでも、戦場で戦う多くの衛士の命を救うことが可能となるだろう。間違いなく、このOSは人々に希望を与えることが出来る。

 AL4が求める然るべき成果を出せないまま、たとえ時間稼ぎに足掻いた結果生まれたモノなのだとしても、それでも、だ。

 夕呼の全てを知るわけではない。そんな想像すら傲慢に過ぎ、夕呼を罵倒するのかもしれない。……だが、みちるは心底から“香月夕呼”という女性を尊敬し、信服し、忠誠を誓ったのである。ならば、彼女の何を否定できようか。彼女が追い詰められているのだと知って、それを見過ごすことなど出来ようはずがないではないか。

 だからみちるは大仰に新OSの素晴らしさを語る。衛士ではない夕呼には実感として感じられないだろうその凄まじさを。戦場で一分でも一秒でも長く生き永らえることのできる可能性の尊さを。――だからこそ、これもまた、人類の希望足りうるのだということを。

 貴女の生み出したこのOSは、例え副産物だろうと本来求めるモノとかけ離れていようとも……それでも。

 繰り返されるみちるの言葉に、夕呼はやれやれと溜息をついて見せた。どうやら、彼女に自身の状態が露見したことを呆れているらしい。態度に出るようじゃよっぽどなのね……呟いた夕呼は、受け取った電子媒体をひらひらと振りながら背を向ける。明日は朝一番に実機でのデータ収集を行う。それだけを告げて、じゃあね、と。

 去っていく天才の後姿を……みちるは、無言のまま敬礼して見送った。







 ===







 ドッペル1と呼ばれる衛士との面会は、許可されることはなかった。

 以前からそれが機密に抵触するだろうことは理解していたのだが、訓練を重ねれば重ねるほどに新しい発見をさせてくれる新型OS、そしてその性能の凄まじさを感じ取れば……その機動の第一人者、なのだろうドッペル1に教えを請いたいと願うのは当然だった。また、先日夕呼がうっかりと漏らした言葉の中に、そもそもこの新OSの元となるアイディアはドッペル1のソレだというものがあった。『概念実証機』の凄まじさに感極まった水月が、昂奮混じりに夕呼の天才振りを讃えたところ、うざったそうに夕呼があしらいながら呟いたのである。

 ――ちょっと、私をあんな変態と一緒にしないで頂戴。と。

 新型OSを組み上げることを考案し、決定したのは間違いなく夕呼自身なのだが、その構想を抱かせるにあたったのはひとえにドッペル1の存在があればこそだという。成程、如何に夕呼が天才的な頭脳を持ち合わせていようとも、彼女は衛士でもなければ軍人でもない。まして戦術機開発の技術スタッフだったわけでもないのだから、そのような人物が唐突に突然に戦術機の新たな可能性――『概念機動』のような操縦方法を思いつく道理はなかった。いや、天才だからこそ、という可能性もないわけではないのだが。

 そういう読みから水月は夕呼を讃えたのだったが、むべもなく夕呼自身が否定する。作ったのは自分。発想そのものはドッペル1。その事実は、少なからずA-01の面々を驚愕させ、同時に納得もさせた。名も正体も知らされぬ天才衛士――ドッペル1。一体如何なる人物か。かつてどんな衛士も思いつかなかった機動を体現して見せ、夕呼が――そこに至るまでの心理的プロセスはともかく――新型OS開発に乗り出すほどの変革をもたらした人物。

 会ってみたい。どのような人物なのか知りたい。面会がかなわずとも、せめて共に訓練に参加して、新型OSの教導を行ってはくれないだろうか。

 隊員たちの中でそういう気持ちが膨れ上がるのはある意味で当然であり、みちるだってそう感じていた。……が、かつて夕呼自身からドッペル1についての一切を知らされなかった経緯もある。なので上申し難く思っていたのだが、部下全員のたっての希望とあれば、もう一度嘆願してみる動機にはなる。駄目で元々。そういう気概で再度の面会を申し込んだわけだったが…………結果は先の通りである。

「矢張り……駄目なのでしょうか」

「無理よ。……ま、あんたたちの気持ちもわからなくはないけど。……むしろ、私としては速瀬あたりは激怒するんじゃないかって思ってたんだけどねぇ」

 激怒、ですか? みちるは夕呼の言葉に首を傾げる。それに対して夕呼は曖昧に笑って。

「だって、あの子自分より強いヤツは認めない、って感じじゃない?」

「――――――――、」

 それは誤解だ、とは言えないみちるである。いや、誤解なのだが。

 夕呼が言うような印象は、水月が突撃前衛長として相応しく在るように、努めてそうしているだけだ。常に好戦的、頭で考えるより体を動かすほうが好き、遠距離からの狙撃なんて欠伸が出るようなことはしない、やっぱ敵陣に吶喊してなんぼでしょ。そういう“いかにも”なイメージを積み重ねている水月であるから、夕呼がそう思っても仕方がない。……無論、夕呼は水月本来のひととなりを知っていながら“そんな風に言う”ので性質が悪い。

 だが、ある意味で自身より強いものを――というのは正しい。つい先程の訓練で、元々が異端だった月詠の剣術に『概念機動』の三次元的要素を組み合わせることに成功した武の螺旋剣術に敗北してからというもの、執拗に武を狙っている水月である。それこそ二人だけで市街地戦をやったり生身の状態で一方的に殴りかかったりと、実に微笑ましくも激しい攻防を繰り広げていたものだ。はっきり言って頭が痛い。

 多分今も水月が武を痛めつけているのだろう。そして、茜がおろおろとどっちを応援していいのか迷っているはずだ。遙は満面の笑みで水月に声援を送り……残る面々はドリンク片手に無責任な歓声を送っていることだろう。…………ああ、その場に居なくて本当によかった。

 脳内で物凄くどうでもいい光景を思い描きながら、けれどみちるは改めて夕呼に向き直った。その彼女に、しょうがないわね……と呟いて。夕呼は一枚の書類を差し出した。どうやら、夕呼もみちるたちがいずれドッペル1のことを知りたいと思考するだろうことは予想していたらしい。当然か。みちるは書類を受け取りながら、浅ましい真似をしている自分に苦笑する。

 だってそれはある意味でしょうがない。……衝動的である、という点では軍人として褒められたものではないが、夕呼とてその辺りの心理作用については理解している。あれほど素晴らしく凄まじい『概念機動』に新型OS。そしてそれを生み出すきっかけとなった天才衛士。そんな人物がいれば、会ってみたいと思うのは誰だってそうだろう。Need to know の一言で一蹴することも出来るが、それで皆が納得しないだろうことも承知しているし、そんなつまらない反感で士気が下がることは夕呼にとって望むところではない。勿論、そのくらいでみちる以下ヴァルキリーズの士気が低下することなど在り得ないとわかっているのだが。そこは複雑怪奇な人間心理。何がどう影響するかは、矢張りわからない。

 なら、面会させることは出来ずとも……特に大勢に影響のない情報ならば、公開してもかまわない。当然ながらA-01部隊内に留めておく必要はあるが、そんなことは一々言わずとも承知しているみちるだ。受け取った書類に眼を通したみちるの表情が、いきなりに険しくなる。無言のまま、食い入るように文面を追い……そして、

「なんですか、これは……っ!? こ、こんなことが……ッ!」

「…………わかったでしょ。それが、“彼”に会わせられない理由。――当然、“彼”が戦場に立つこともないわ」

 愕然と叫んだみちるに、どことも知れぬ場所を見ながら答える夕呼。そのあまりにも無感情な声音に、みちるは息を呑む。それだけで理解した。――ここに書かれている内容は、嘘でも出鱈目でもなく、真実なのだ、と。



 コールナンバー、ドッペル1。氏名、不明。性別、男性。年齢、不明(推定18歳前後)。過去に所属していた部隊も不明。階級は「―」が引かれている。



 なんだ、これは。何も書かれていないのと同じだ。わかっているのは性別と推定の年齢だけ。添付されている顔写真は――これこそ冗談のようだが――黒塗りの仮面を被っている。瞳の部分にまるでくりぬいたような「○」が二つ白く浮き上がっていて、どうやらそこが外界を映すカメラになっているらしい。

 莫迦な。

 注釈に眼を通す。やけに長い。ドッペル1を示す情報よりも、遥かに長い。長すぎる注釈に眼を通す。

 ――重度の記憶障害あり。本人の氏名をはじめ、出身地、年齢、所属部隊等の何もかもを損失。認識票も喪失しており、本人を特定する物品はなし。

 ――顔面に多大な損傷あり。恐らく小型種BETAとの交戦で抉られたものと推定。本人の写真等が見受けられなかったため、取り敢えずの整形処置を施す。術後、本人の希望から“仮面”を装着する。

 ――重度の精神障害あり。現実を現実と認識できず、BETAの存在自体を夢物語だと思い込んでいる。恐らく小型種との交戦において重度のPTSDに陥ったと推測される。尚、検査に当たりBETAのシルエットを見せたところ、発狂して気を失った。

 ――高い戦術機適性。

 ――回収時に強化装備を着用していたことから、ベイルアウト後に小型種と遭遇、負傷したものと思われる。所属部隊は全滅したと考えられる。

「……香月博士、これ、は……」

「信じるも信じないもあなたの勝手よ。情報撹乱のためのでっち上げかもしれないしね。……そんな顔しないでよ」

 みちるはギリギリと唇を噛み締めた。もし……もし、ここに書かれていることが本当なら、“彼”は、ドッペル1は――記憶をなくし、名をなくし、顔をなくし、全うな精神をなくし、衛士だったのだろう誇りをなくし。ただ、BETAの恐怖に怯え慄き、現実を直視できないほどに磨耗した精神崩壊者だということになる。現実から眼を背け、空想の世界に生きる人物。それがドッペル1の正体であり……だからこそ、“彼”はあんな出鱈目な機動に辿り着いたのか。

 無論、夕呼の言うとおりコレが本当かなんて証明するものはこの場にない。夕呼がもっともらしく取り出して、もっともらしくみちるに読ませただけだ。コレが本当にドッペル1についてを忠実に記している、なんて証拠はないのである。情報を撹乱するため……正に、そういう偽文書の可能性もあるのだ。

 だが、みちるはそれは無いと断じた。夕呼がここでそんな嘘をつくメリットは一切ないと思えたからだ。これが例えばAL4をある種敵視しているような連中に対する公式文書であったならば、それこそ格好なつけ入る隙となるだろう。むしろ、そんな連中に公開するならば、例え出鱈目なのだとしても、もっと“それらしい”英雄像を書き綴って然るべきである。なのに、この書類にはそんな飾り気はない。むしろ、淡々と書かれすぎていて気持ちが悪いくらいだ。

 特に最後の注釈……恐らくは医師が記したのだろうそれらを読み返せば読み返すほど、一体このドッペル1という青年はどれ程の目に遭わされたのかと寒気がする。いや、怖気、といったほうが正しいのかもしれない。……認めよう。伊隅みちるは恐怖したのだ。この、ドッペル1が体験したのだろう凄絶な過去を想像して。吐き気がするほどに、恐ろしいと感じたのである。


 メリットについての話をするなら……ここでみちるにこの書類を見せるメリットはなんだろうか。……これ以上の余計な詮索を避けるため。成程、それだけの効果は、ある。機密の一言で兵士を黙らせることは簡単だ。だが、自分をはじめ、部下の全員がドッペル1に憧憬に近い念を抱いている以上、ずっと隠しておくわけにはいかないだろう。ならばこうやって情報の一部を公にすることで、その欲望を抑えることは可能だ。

 ――だが、これでは……っ。みちるは忌々しく思う。本当に、こんな人物がドッペル1だというのか。本当に本当に、こんな、最早衛士として、人としての精神を喪ったような人物が、あの『概念機動』を編み出し、夕呼の新型OS開発に貢献したのだろうか。わからない。だが、この書類に書かれている内容はあまりにも……生々しい。武との戦闘映像を思い出す。どこか、武をおちょくっているような、遊んでいるような余裕を見せていたドッペル1。だが、あれがもし本当に……“遊んでいた”のだとしたら?

 そうか、と。みちるは書類を夕呼に返却し、眼を閉じる。――“彼”は、最早夢の世界でしか生きられないのだ。この世の全ては遊戯。BETAなんていない、ただ退屈でお遊戯染みた空想の世界。記憶をなくし、自我をなくし……けれど、唯一つ、衛士として生きていた本能のようなものが……戦術機への拘りを残している。『概念実証機』の演習映像を見たときに、どうしてBETAと交戦しているものがないのかと不思議に思っていたのだ。その謎も、わかってしまえばなんとも後味の悪いものだった。

「伊隅、私のことをどう罵ってくれても構わないわよ」

「いえ――それはありえません。ドッペル1がどのような人物であったとしても、“彼”の編み出したあの『概念機動』、そして『概念実証機』は、間違いなく我々に未来を与えてくれるものだと信じています。香月博士はその可能性を信じ、ご決断なさったのでしょう? ……でしたら、私が何を言うこともありません。ヴァルキリーズは、博士の忠実な駒です。……どうか、必要となったそのときに、博士の望むままを命じてください」

 穏やかに言い切ったみちるに、夕呼は小さく、けれど衝かれたように振れた。苦虫を噛み潰したような表情をして、らしくないわ――そう呟いた後に、

「ドッペル1の情報は出来れば外部に広めたくないの。わかるわよね?」

「はっ! 私はドッペル1の如何なる情報も得ていません。……これで、よろしいですか」

 いわばこれは茶番だ。夕呼は単純にドッペル1の詮索を避けるためだけにみちるに情報を公開し、そして、そのあんまりな内容に、みちるは目を瞑らざるを得ない。水月たちには“知る必要はない”の一言でオシマイである。案外、すんなりと納得させられるかもしれない。――みちるは、けれど、忘れないでいようと誓った。

 ドッペル1という存在。名も、顔も、記憶も、まともな精神さえも残っていない衛士。独りぼっちの孤独な衛士。夢の世界に浸る壊れた人形。……そういうヒトが存在して、だからこそ、人類に希望を与える先駆となったのだという事実を。決して公にされることのない、決して表に出ることのない――戦士の抜け殻の存在を。忘れないでいよう。誰に知られずとも、自分だけは覚えていよう。……そう、誓った。



 みちると別れてから、B19フロアへと戻る。執務室に戻る道中に、ドッペル1を軟禁している部屋はあった。夕呼と、夕呼がIDを与えた人物にしか開けることのできないドアの前には霞が佇んでいて、哀しそうにそこをじっと見つめていた。夕呼の足音に気づいたのだろう、霞が視線を彼女に向ける。なにか、乞うようなその瞳を……夕呼は無言のままやり過ごす。言葉を発しない霞の横を通り過ぎて――振り返らないままに、告げる。

「社、あんたが“彼”を心配するのはわかるけど……ここには“彼”の居場所はない。誰とも接触を持てず、“彼”という存在を直接認識するものが少ないことで、“彼”の存在自体が不安定になっていることは承知の上。それでも、“彼”は消えずに残っている。なら……まがりなりにも、“彼”は現状を受け入れつつあるか、それとも、既に世界の一部として認識されているか。居場所のない、座る椅子のない“彼”が、一体この世界にどんな影響を与えるのかなんて想像もつかないけれど――でもね。それが利用できるのなら、私はとことんまで利用してやるわ」

 言うまでもない。

 霞は夕呼の覚悟を全て理解している。そして、その罪を共に背負おうとしている。だから、改めて言うことはない。告げることはない。――外道を進む、その覚悟を。霞は小さく俯いたまま、ぎゅっと拳を握った。肩が震えていたが……背を向けている夕呼はそれに気づかない。

 みちるに見せたあの書類をポケットの中でくしゃくしゃに潰しながら、自嘲するように唇を歪ませる。廊下の先には――脳ミソとなった鑑純夏の幻影が立っていた――。くっ、と。夕呼は引き攣れたように笑う。ああ、どうやら頭がおかしくなってしまったらしい。幻覚、或いは霞のプロジェクションによるものか。廊下に浮かんでいた純夏の脳ミソは顔面に傷を負った武へと移り変わり……数々の、00ユニットの検体として脳髄の摘出を行った……A-01部隊員たちに変わっていく。

 そして最後に、ドッペル1の、夕呼が与えた鉄の仮面が浮かび上がる。のっぺりとした《鉄仮面》の異形に、夕呼は我ながらいい趣味をしているものだと可笑しくなった。

 全て「でっちあげ」だ。

 みちるに見せた書類も。そこに記された情報も。

 名前はちゃんとある。記憶もしっかりしている。年齢は十七歳、誕生日はあと一ヶ月と少々だ。住んでいた場所も判明しているし、そもそもどういう人物なのかだって知っている。顔を損傷なんてしていないし、精神だって「まだ」崩壊していない。――ただ、存在自体が異端に過ぎただけであり、そして……“ここに居場所がなかった”だけだ。

 同一存在。ドッペルゲンガー。さてさて、それは一体どんな運命の悪戯か。『因果律量子論』を証明せしめる、正に因果の申し子とでも言うべき存在。この世界にない“常識”を持ち、けれど、それゆえにこの世界を受け入れない。

 それもいい、と夕呼は笑う。それはどこまでも不遜で、一切の妥協もなく、後退もなく、後悔も、恐怖さえもなく。ただそれらの感情を呑み込んで飲み乾して突き進む科学者の貌。

 “彼”がどれ程の業を、運命を、因果を背負い、この世界にやってきたのだとしても。その運命から目を逸らし、この世界から目を逸らし、夢と断じて目を向けずとも。それでも、使えるものは何だって使うし、役に立つなら残り滓までも絞りきる。

 《鉄仮面》を被せたのはより一層この世界から浮き上がらせるための措置でしかなく、同時に、この世界の誰でもない“彼”を保護するための措置だった。そして、その無骨な仮面の質感と、“白銀武との対比”を揶揄って「鉄(くろがね)」なんて呼んでいる自分は、「ドッペル」なんて名付けた自分は。――最早、外道の最果てを突き進んでいるのだ。ブレーキなど、とうにない。

 追い詰められたニンゲンの狂気を誰よりも知り、そしてそのときに生み出される脅威のエネルギーを知っている夕呼は、戒めのように脳裏に映し出された霞のプロジェクションを、挑むように睨み据えて、尚、笑う。

 一歩を踏み出した。霞の背中が小さく震える。一歩を踏み出した。弾かれたように霞が振り返って、手を伸ばす。一歩を踏み出した。小さな手は夕呼に届くことなく、力なく垂れ下がって。

 そして、夕呼は本当に。ただ独り、その道を往く。白衣を翻し、非業とも思える後姿を呆然と見送って……けれど、霞は必死に追いかけた。息を切らして、涙を浮かべて。夕呼をここまで追い詰める世界を呪わしいと感じながら、躊躇なく外道の道を選択する夕呼を哀しく思いながら、世界の誰からもその存在を認められずに幽閉されている“彼”の心に嘆きながら――――少女は、懸命に、孤高の天才を追いかけた。







 ===







 最近、武と多恵の仲がいい。訓練でも二機連携を組んでいる相棒なのだから、それは別に悪いことではない。訓練兵の頃からずっと一緒だった戦友だ。他の隊員たちと比べても仲が良く、コンビネーションがよい、というのはある意味で当然だろう。……が、その。巧く言葉に出来ないもやもやが、茜の脳裏を占めては加熱する。

 ドッペル1の機動を最も早い段階でモノにしたのは矢張り多恵だった。普段から突飛な機動を多く取っていた多恵である。模倣する、という行為にこそ難を示していたが、一度コツを掴んでしまえば後の成長は目覚しいものだった。戦場を、ハイヴ内をぴょンぴょンと飛び跳ねるような機動は、元々の彼女の機動を更に鋭くし、必要以上に俊敏なものへと変貌を遂げた。どこかしら“猫っぽい”性格を反映したような気紛れな戦闘機動。突撃砲を多用するその戦闘スタイルと、武の螺旋剣術はまるで冗談のような噛みあいを見せた。

 なんというか……武が戦場で渦を巻く台風なら、多恵はその周囲を荒れ狂う気紛れなつむじ風、とでも言うべきか。――いや、全く意味がわからない。茜は自身の語彙の足りなさに溜息をつきながらも、そういう訓練中の息の合ったコンビネーションを見て、少々、嫉妬のようなものを感じてしまったのだった。

 許されるならば突撃前衛のポジションに就きたい。茜は今でもそう思っているし、そうできるように努力を重ねている。近接戦闘で薫に遅れを取っているわけでも、多恵に及ばないわけでもない。だが、茜はオールマイティーにそつなくこなす。対して、薫は絵に描いたように近接戦闘向きだし、多恵はその独特さゆえに前衛に置く以外の使い道がない。ならば、どのポジションでもそれなりの成績を修めている茜は後方へ下げるべき、というみちると水月の判断は正しい。勿論、今更そのことに不平を唱えるような幼稚な真似はしないが。

 が、それはそれ、これはこれ、だ。

 目の前で、実機訓練を終えて歩いている二人。武と多恵。戦闘中のコンビネーションについて更に連携を深めるために、和気あいあいと実に実に楽しそうでああもうなんか見てるだけでムカツイテキタ!!

「ちょ、ちょっと茜っ?! 落ち着いてってば!!」

「ぉ、ぉおっ?! 茜、なんか背中から黒い瘴気が……!?」

「ひっ……!? あ、茜さん……怖いです……っ」

 背後から怯えたような晴子たちの声が聞こえたが、気のせいだ。むしろ無視だ。今すぐにでも飛び出しそうな体を彼女たちの手が捕まえて離すまいとするが、そんなもの知ったことか――!

「いやいやいや! だから落ち着いてってば!!」

「おおおおおお!? なんだヲイ! 茜ってこんな力あったかぁ!?」

「ひ、引き摺られます~~っ!」

 ずるずるずる……。強化装備を着たままの茜が、晴子に薫、亮子の三人を引き摺ったまま一歩一歩踏み出していく。目指すは前方十メートル。まだこちらに気づかずに、気づこうともせずに、楽しそうに、連携について相談する……武と、多恵。

「し、白銀くーん!! 逃げてーーーっ!」

「た、多恵ェエ! 死にたくなかったら速く離れろっっ!!??」

「……も、もぅ駄目です~~っ!」

「「――え?」」

 ぱっと。

 手が離れた。亮子にいたっては反動でスッ転んでいた。けれどそんなことにお構いなく、溜めに溜め込んだエネルギーが解放された茜は一つの弾丸と化し――水月は、後に語る。アレはもう、一種の幻想だと。

「多ぁぁぁああ恵ぇぇえええ!!!!」

「にゃっ、にゃわぁああああああああああああああああ!!??」

「ぶっ!? あ、茜!!??」

 ああ、と晴子は目を覆う。とても見ていられない……というか、正視に耐えない。嫉妬に駆られ、暴徒と化した茜を止める術はなく、多恵の身体はまるで襤褸屑のように宙を舞っている。巻き添え、というよりもこれも明確な意思の下、標的とされた武も同じように中空に舞い、ボコボコにされて……。

「ああ、アレ――死んだな」

 どこか諦めたように、薫が呟く。普段の茜なら見ていて微笑ましいのだが、アレは最早そういう次元ではない。正直、怖い。しかし一体どうしてまた突然に暴れ出したのだろうかと首を捻る晴子と薫は――既に武と多恵を助け出すことは思考の埒外のようだ――転げたままの亮子を引き起こしながらうーんと唸る。

 確かにこの一週間あまり、『概念機動』の習得と、更には新型OSを搭載した『概念実証機』のデータ集積に躍起になっていて、個人の時間というものがあまりなかったような感はある。元々凝り性だった武は、みちるに無理を言って深夜もシミュレータを使っていた。勿論、その熱意を買ってみちるが夜間訓練を設けたわけだから全員一緒だったのだが……そういう経緯を踏まえれば、確かに休憩時間も武は自機の不知火の管制ユニットに篭りきりだったように思う。或いは整備士との会話に華を咲かせ、或いは操縦ログの解析に忙しなく……ああ、成程。晴子は、そして薫は頷いた。

 要するに、茜はこの一週間、ずっと武と二人きりの時間を過ごしていないのである。食事を除いて、ということになるが、その食事だって全員一緒なので二人きりというわけではない。で、そんな状態で色々と欲求不満に感じていながら、けれど肝心な武にはそんな素振りもなく、しかも二機連携のパートナーである多恵とは妙に仲が良くなったり。諸々の鬱憤が積み重なった状態であんな姿を見せられては堪らない。どうやら、そういう思考の果て、ということらしいが。さて。

(だからって、拳に訴えるなよ……)

 言葉よりも先に手が出る薫にしては、珍しくまっとうな意見だった。恋する乙女の嫉妬大暴走といえば可愛らしいが、しかし現実に目の前で起きている阿鼻叫喚の有り様はそんな微笑ましいものではない。廊下に転がった多恵はピクリともしないし、どことなく原型を留めていないような気がする。――いや、気がするだけだ、うん! 全力で頷いて、薫は現実から目を逸らす。同じように目を逸らした晴子と視線がぶつかり、お互いに、苦笑した。

 ――ああ、困った。

 茜の気持ちは皆知っているし、武の気持ちも皆知っている。お互いに好き同士で、愛し合っているのに……そこから発展しない二人。さてさて困った。どうやってこの二人をより親密に、有体に言えば結ばせてやろうか。……亮子も二人に混じり、困ったように笑い合う。なんとも面映い、くすぐったい苦笑だった。

「ま、とりあえず……」

「いい加減止めないと死にそうだし……」

「……でも、本当に怖いんですけど……」

 ふ、と。どこか諦めにも似た晴子の虚しい笑顔。そこからなにか感じ取ったらしい薫が、けれど不敵に拳を鳴らし。亮子が、キッと表情を引き締めた。

 ――いざ、往かん!

 悲愴ささえ漂わせて、三人の少女達が進んでいく。暴走止まぬ茜を取り押さえるために。愛憎の果てに命を落とそうとしている武を救うために。……どうでもいいが、ちっとも壮大に見えない光景なのは、別に水月の気のせいではない。――何を莫迦なことをやっているのだろう。水月は呆れたように見やりながら、とても楽しそうに微笑む遙をチラリと見る。

「遙……あんた、自分の妹があんな莫迦みたいなのに、なんとも思わないの?」

「え? あはは、でも可愛いじゃない」

「可愛い……そういう表現もアリですか……」

 可哀想に、と嘆くような水月に、けれど遙はどこまでも笑顔だ。多分、彼女の目には茜が照れつつも尻尾を振ってじゃれ付いている仔犬に見えているのだろう。妹贔屓にも程がある。そんな遙の言葉に、怪訝そうに美冴が唸り……その隣りで梼子が困ったように冷や汗を浮かべている。先任たちは完全に傍観を決め込んでいた。が、まぁ、それは当然の選択とも言えた。どう見ても割って入る余地はないし、その必要もない。

 今は訓練の最中でもないし、このことで彼女たちの和が乱れることもないだろうと知っている。むしろ、今の今まで新型OSの性能が見せる凄さに熱されていた頭を冷ますには丁度よい光景だ。――ニンゲン、あそこまで煮詰まっては駄目だな。そういう認識。茜の暴走を反面教師としながら、全員がどこか根を詰めていた自分というものを自覚する。確かにこの一週間、息をつく間もないくらい訓練に没頭した。いや、没頭しすぎた。休憩などあってないようなもの。誰一人体を休めようとせず、頭を休めようとせず……ただひたすらに、のめり込むように。そうやって新型OSを我が物にしようと努力していた。

 努力することは、いい。それは大事なことだし、現状に満足しない精神……上を目指し続ける意志は素晴らしいものだ。けれど、何事もやりすぎはよくない。適度な休息を挟んでこそ、能率も効率も上がるのだ。如何に鍛え上げた肉体を維持していようとも疲労は必ず蓄積するし、無視することなどあってはならない。一日も早い技術の習得は確かに重要だが、それ以上に、有事の際に体を壊してしまうほうが恐ろしいし、あってはならないだろう。そういう意味からいえば、成程、今日までの自分たちは……全員がそうと気づかぬまま、随分と無茶を積み重ねていたのだとわかった。

 傍観しているだけだった梼子が歩き出し、つられたように真紀が、慶子が、旭が歩き出す。こちらも同期四人組。仲良く揃ってロッカーへ向かうようである。取り残された感のある美冴だが、彼女はすまし顔で水月たちの隣に立ったままだ。前方では、同期五人喧しく戯れる茜たち。その少し手前に、同期四人微笑ましく会話を弾ませる梼子たち。……さて、では同期の全てを喪っている美冴は――けれど、水月と遙の傍で……当たり前のように微笑んでいた。

「あっははは!」

「水月?」

 どうしてか可笑しくて噴き出した水月を、遙が不思議そうに見上げる。おや、という風に眉を吊り上げた美冴が、頭でもオカシクなったのかと訝しむが、水月はそれさえも気にしない。その普段とは異なる様子に顔を見合わせる遙と美冴だったが……やがて、二人とも笑い出す。

「あはは、水月ったら、なに笑ってるの?」

「ふふ……速瀬中尉、なにか悪いものでも食べたんじゃないですか?」

「あはははっ! いいでしょ別に! ほらほらっ、私たちも行くわよーっ」

 おう、と腕を振り上げて突き進む水月は、唐突に駆け出して真紀の背中に跳び蹴りをかましたりしている。それを見て、しょうがないなぁ、と。遙が駆け出し、美冴が後を追う。







 ドッペル1という存在。その“彼”がもたらした『概念機動』と『概念実証機』。新型OS。その性能、効果。BETAとの終わりなき闘争に一筋の光明を見出したそれを、世界中の誰よりもはやく身に付けたヴァルキリーズ。彼女達は、希望を見た。そのOSがもたらす効果に、新しい境地を見た。

 BETAになんか負けない。

 もう、誰も喪わなくて済む。――それを可能とする、別次元の、戦闘機動。その概念。

 香月夕呼が望むのはその証明であり、一つでも多くの実績だ。……そして、その証明の場は――



 ――向こうから、やってきた。







 2001年11月11日――、BETA、新潟に上陸。

 さあ、新時代の幕を開けよう。



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