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No.1154の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~ 『完結』[舞天死](2009/02/11 00:34)
[1] [序章-01][舞天死](2009/02/11 00:30)
[2] [序章-02][舞天死](2008/02/11 16:02)
[3] 復讐編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:03)
[4] 復讐編:[一章-02][舞天死](2008/02/11 16:03)
[5] 復讐編:[一章-03][舞天死](2008/02/11 16:04)
[6] 復讐編:[一章-04][舞天死](2008/02/11 16:05)
[7] 復讐編:[二章-01][舞天死](2008/02/11 16:05)
[8] 復讐編:[二章-02][舞天死](2008/02/11 16:06)
[9] 復讐編:[二章-03][舞天死](2008/02/11 16:07)
[10] 復讐編:[二章-04][舞天死](2008/02/11 16:07)
[11] 復讐編:[三章-01][舞天死](2008/02/11 16:08)
[12] 復讐編:[三章-02][舞天死](2008/02/11 16:09)
[13] 復讐編:[三章-03][舞天死](2008/02/11 16:09)
[14] 復讐編:[三章-04][舞天死](2008/02/11 16:10)
[15] 復讐編:[四章-01][舞天死](2008/02/11 16:11)
[16] 復讐編:[四章-02][舞天死](2008/02/11 16:11)
[17] 復讐編:[四章-03][舞天死](2008/02/11 16:12)
[18] 復讐編:[四章-04][舞天死](2008/02/11 16:12)
[19] 復讐編:[五章-01][舞天死](2008/02/11 16:13)
[20] 復讐編:[五章-02][舞天死](2008/02/11 16:14)
[21] 復讐編:[五章-03][舞天死](2008/02/11 16:14)
[22] 復讐編:[五章-04][舞天死](2008/02/11 16:15)
[23] 復讐編:[六章-01][舞天死](2008/02/11 16:16)
[24] 復讐編:[六章-02][舞天死](2008/02/11 16:16)
[25] 復讐編:[六章-03][舞天死](2008/02/11 16:17)
[26] 復讐編:[六章-04][舞天死](2008/02/11 16:18)
[27] 復讐編:[六章-05][舞天死](2008/02/11 16:18)
[28] 復讐編:[七章-01][舞天死](2008/02/11 16:19)
[29] 復讐編:[七章-02][舞天死](2008/02/11 16:20)
[30] 復讐編:[七章-03][舞天死](2008/02/11 16:20)
[31] 復讐編:[七章-04][舞天死](2008/02/11 16:21)
[32] 復讐編:[八章-01][舞天死](2008/02/11 16:21)
[33] 復讐編:[八章-02][舞天死](2008/02/11 16:22)
[34] 復讐編:[八章-03][舞天死](2008/02/11 16:23)
[35] 復讐編:[八章-04][舞天死](2008/02/11 16:23)
[36] 復讐編:[九章-01][舞天死](2008/02/11 16:24)
[37] 復讐編:[九章-02][舞天死](2008/02/11 16:24)
[38] 復讐編:[九章-03][舞天死](2008/02/11 16:25)
[39] 復讐編:[九章-04][舞天死](2008/02/11 16:26)
[40] 復讐編:[十章-01][舞天死](2008/02/11 16:26)
[41] 復讐編:[十章-02][舞天死](2008/02/11 16:27)
[42] 復讐編:[十章-03][舞天死](2008/02/11 16:27)
[43] 復讐編:[十章-04][舞天死](2008/02/11 16:28)
[44] 復讐編:[十一章-01][舞天死](2008/02/11 16:29)
[45] 復讐編:[十一章-02][舞天死](2008/02/11 16:29)
[46] 復讐編:[十一章-03][舞天死](2008/02/11 16:30)
[47] 復讐編:[十一章-04][舞天死](2008/02/11 16:31)
[48] 復讐編:[十二章-01][舞天死](2008/02/11 16:31)
[49] 復讐編:[十二章-02][舞天死](2008/02/11 16:32)
[50] 復讐編:[十二章-03][舞天死](2008/02/11 16:32)
[51] 復讐編:[十二章-04][舞天死](2008/02/11 16:33)
[52] 復讐編:[十三章-01][舞天死](2008/02/11 16:33)
[53] 復讐編:[十三章-02][舞天死](2008/02/11 16:34)
[54] 復讐編:[十三章-03][舞天死](2008/02/11 16:35)
[55] 守護者編:[一章-01][舞天死](2008/02/11 16:36)
[56] 守護者編:[一章-02][舞天死](2008/02/13 21:38)
[57] 守護者編:[一章-03][舞天死](2008/02/17 14:55)
[58] 守護者編:[一章-04][舞天死](2008/02/24 15:43)
[59] 守護者編:[二章-01][舞天死](2008/02/28 21:48)
[60] 守護者編:[二章-02][舞天死](2008/03/06 22:11)
[61] 守護者編:[二章-03][舞天死](2008/03/09 16:25)
[62] 守護者編:[二章-04][舞天死](2008/03/29 11:27)
[63] 守護者編:[三章-01][舞天死](2008/03/29 11:28)
[64] 守護者編:[三章-02][舞天死](2008/04/19 18:44)
[65] 守護者編:[三章-03][舞天死](2008/04/29 21:58)
[66] 守護者編:[三章-04][舞天死](2008/05/17 01:35)
[67] 守護者編:[三章-05][舞天死](2008/06/03 20:15)
[68] 守護者編:[三章-06][舞天死](2008/06/24 21:42)
[69] 守護者編:[三章-07][舞天死](2008/06/24 21:43)
[70] 守護者編:[三章-08][舞天死](2008/07/08 20:49)
[71] 守護者編:[四章-01][舞天死](2008/07/29 22:28)
[72] 守護者編:[四章-02][舞天死](2008/08/09 12:00)
[73] 守護者編:[四章-03][舞天死](2008/08/29 22:07)
[74] 守護者編:[四章-04][舞天死](2008/09/21 10:58)
[75] 守護者編:[五章-01][舞天死](2009/02/11 00:25)
[76] 守護者編:[五章-02][舞天死](2009/02/11 00:26)
[77] 守護者編:[五章-03][舞天死](2009/02/11 00:27)
[78] 守護者編:[五章-04][舞天死](2009/02/11 00:28)
[79] 守護者編」:[終章][舞天死](2009/02/11 00:28)
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[1154] 守護者編:[四章-02]
Name: 舞天死◆68efbbce ID:d7901020 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/08/09 12:00

『Muv-Luv ALTERNATIVE ~復讐の守護者~』


「守護者編:四章-02」





 帝国軍第五師団第211中隊には、佐渡島を故郷に持つ者が数名いた。或いは新潟であったり、能登の出身の者もいて、中隊長である大塚もまた、新潟に故郷を持ち、BETAが佐渡島に侵攻するまでは母親と妹がそこに暮らしていた。父親は京都で戦死している。家族が疎開する中で大塚だけは帝国軍に籍を置き、戦いに明け暮れる日々を送った。二十三歳という若さで大尉に召し上げられるに足るほどの戦場を経験してきたわけではないし、精強さを秘めているわけでもない。だが、戦争は大塚の成長を待つことを許さず、頼るべき尊敬すべき先達が悉く戦死した帝国軍には、彼のような若い人材を重宝するほかない状況となっていった……。

 僅か数年。1999年の大敗北からたったそれだけの年月で、大塚の周囲は大きく変化した。若く美しかった母は精神的な疲労から髪に白さが目立ってきて、妹は知らぬ間に軍属に身を置いていた。数多くの戦友を、先達を喪い、気づけば中隊指揮官に奉られ、多くの部下を死なせてきた……。

 そして今また、一人が死んだ。甲21号目標。通称佐渡島ハイヴ。……故郷であるはずのこの地で、そいつは怨敵にその命を削られて磨り潰されて……死んだのだ。

 大塚は獣染みた咆哮を上げるとその要撃級を長刀で叩き斬り、部下の機体を破壊した前腕を斬り落とす。唾棄するかのように一瞥をくれて、次なる標的へと躍り掛かり、蜂の巣にする。残る部下は三人。同期でありずっと同じ部隊で戦い続けてきた副長に、その次に付き合いの長い古株の二人。ずっとこの四人で戦場を駆け抜けてきた。初めて小隊長を務めたその頃から今まで。大塚はずっと彼女彼らと戦ってきたのだ。

 ――俺はこいつらを、死なせようとしている。

「英ァ! 弾はいくつだ!!」

『予備弾倉は36mmが後一つ! 120mmは使い切りました!』

『隊長、弾が欲しいなら俺のを使ってください!! こんな連中ッ、ナナヨンがありゃ十分ですッ!』

 大塚が長刀をマウントしながら叫び問いかけると、二人の部下から明瞭な返事が届く。右腕に87式突撃砲を構えた“烈士”の不知火がにじり寄る戦車級を蹴散らし、74式長刀を構えたもう一機が手際よく予備弾倉を手渡してくる。その背後では副長の操る機体が巧みな剣技を見せ、要撃級を一体仕留めていた。

『隊長……ッ、このまま相手をしていたのでは本隊に追いつけなくなります! 急ぎましょうッ』

「ああそうだな。俺たちが死ぬのはここじゃねぇ!! 行くぞ野郎共!! この作戦ッ、負けるわけにはいかねぇんだっっ!!」

 珍しく逼迫した表情を見せる副長に頷き、大塚はこの場を振り切るべく指示を出す。前方を破竹の如く突き進むA-01の侵攻速度に追いつけず、敵の追撃を受けてしまったが、これ以上離されると不味い。包囲されれば死は確定し、距離が離れてしまえば矢張り死あるのみ。ここに来るまでで既に八人を死なせているが……だからこそ、全滅など許されはしない。

 元々、211中隊は地上部隊の一翼を担うはずだった。所属する第五師団の残る部隊は今頃地上で砂埃とBETAに埋もれ想像を絶するような地獄を見ているのだろう。……こちらも大して差がないように思えたが、それでも、どちらがマシだなどと比較できない。どちらも地獄。それが真実だ。そして、そんな地獄でも、大塚はここに居ること、“居られること”を、至福であると感じている。

 大塚はA-01に心酔していた。そもそもは十一月のBETA新潟上陸のそのとき。BETAに翻弄されるだけだった自分たちを嘲笑うかのような圧倒さで連中を虐殺した、その驚愕するほどの強さ。一糸乱れぬ部隊展開に、各人の底知れぬ技量の高さ。化け物かと唸るほどの戦闘機動。戦術機の限界を突破していると確信させる程の輝きを放っていた「あの」A-01と共に戦いたい……そう願うほどに、彼は心酔したのだ。

 その熱意を買ってくれた軍の上層部が横浜基地でのトライアル参加を承認してくれて……そこでA-01の強さの一旦である新型OSの性能に奮えた。このOSは本当に世界を変えてしまうだけの凄まじさを秘めている。そう確信して、益々……A-01と共に戦場を縦横無尽に駆け巡ってみたいと願うようになった。全軍にXM3を配備すべきだと最初に進言したのも大塚であったし、それを――夕呼とのやり取りもあったのだが――将軍が直々に認め、この『甲21号作戦』は実現している。横浜基地から最精鋭部隊がハイヴ突入の任を帯びるといい、その部隊と連携して作戦成功の確率を一厘でも上昇させよ、と。

 僅か一日でも長くXM3に触れ、そしてA-01の機動を一度でも目の当たりにしている第211中隊は。大塚の熱情にも僅かの期待をこめて、彼らにその大任を命じたのである。

 奮えた。大いに。大塚は昂奮と昂揚に雄叫びを上げ、その漲るほどの咆哮に、彼ら211中隊全員が大歓声を上げたほどだ。大塚がA-01に心酔しているように、部下達は大塚に心酔している。――惚れている、と言ってもいいだろう。だから彼らは皆大塚の命令に忠実であるし、それが例え死地に赴き、地獄の釜の底で……A-01部隊を一秒でも長く生き永らえさせ作戦を成功させるための捨て駒となるためであろうと、喜んでその身を投げ打つのである。

 ここまでで八人。そうして死んで逝った。――皆、大塚のために。大塚が惚れこんだA-01のために。彼女たちならば必ず故郷を佐渡島を日本を救ってくれると信じ、その確率を僅かでも向上させるために。

『大塚大尉ッ! 遅れているぞっ、早く来い!!』

 怒鳴るような通信に、大塚は苦笑した。多分美人なのだろうということはあの新潟から予想していた。そして、出逢った彼女は矢張り美人で、とても気が強そうな年上の女性だった。――ああ、本当に。

「はははは! 俺が離れてしまうと不安ですか。安心して下さい、伊隅大尉を残して死にはしませんッ!!」

『誰がそんなことを言った!! この莫迦ッ!!』

 ――さっさと来い!! そう吐き捨てて通信を切る麗しの戦乙女に、大塚は小気味よく笑う。――惚れたのだ。心の底から。故に彼は一層闘志を漲らせる。惚れた女が“来い”と求めているのだ。ならばそれに応えるのが男の役目であり、彼女のために命を張るのが、漢の誉れというものだろう。……そう言うと副長は溜息をついて諦めたようにするのだが、彼はそのことを余り深く気にしていない。……気づいていない、とも言えるのだが。



「まったく! この状況でよくもあれだけ軽口を叩ける……っ」

 みちるは呆れたように通信を切り、一人ごちた。後方に迫ってきたBETAの一群に捉まっていた211中隊――最早小隊だが――は更に一機を喪いながらも未だ健在。ようやく敵を振り切ってこちらへ向かってきている。打撃支援の晴子にその援護を命じ、自身は前面に躍り出て要撃級を狩る。両脇を美冴と亮子が固め、後方からは梼子と茜が援護を加えてくれる。ここまでに通り抜けた広間は一体いくつだったか。もうどれだけの時間この薄暗く不気味な敵の腹の中にいるのだろうか。

 歴戦の勇士と誉めそやされたこともあるみちるだが、はっきり言って限界が近い。ヴォールクデータを元に開発されたハイヴ攻略プログラム。その最高難度のS難度で反応炉破壊、そして生還までやってのけた彼女たちA-01だったが、所詮それは架空の話でしかなかった。……現実は、これだ。どこを見てもBETAばかり。前も横も後ろも、そして上さえも。BETAに埋め尽くされ、BETAが溢れかえり、BETAで塗り潰されたこのハイヴ。正直、気が狂いそうだった。

 自分でさえこうなのだから、指揮下で戦い続ける部下達のストレスはどれ程だろう。みちるの左方で感情を振り絞るかのように喚いている亮子を見る。彼女は薫の親友だった。同期仲のよい彼女たちの中で、この二人は本当に仲が良く、いつも一緒に居たように思う。網膜投射に映る表情は温和でマスコット扱いをされていた亮子とは似ても似つかず、必死の形相で、涙の粒を散らしながら、一刀一刀を、嗚咽と共に繰り出している。

『わぁああ! ぁぁぁあああ!! ぅぅうああああああああっっ!!』

 行く手を阻むように進み出た要撃級の頸を断ち切り、戦車級の体躯を踏み潰す。翻した刀は次なる獲物を抉り飛ばし、それでも亮子は振るう刀を止めなかった。――こいつらっ! こいつらが薫さんを!!!

 その感情は悔しさと哀しみと、何よりも怒りに満ちて。……亮子は薫が絶命する瞬間を見ていない。周囲に溢れかえる敵の物量に忙殺され、自分の身を護ることで精一杯だった。だから、亮子が親友の死を知ったのは……皮肉にも、多恵の上げた悲鳴である。その瞬間、亮子の世界は色褪せてモノクロに染まった。足元が崩れ落ちそうな衝撃に、呼吸が凍りついた。どこを見ても薫の不知火の姿はなく、データリンクにも映らない。各員の顔が表示されている縮小ディスプレイも……12のナンバーがつけられたそこは真っ黒で……。震える声で名前を呼んでも、誰も返事をしてくれなかった。

 だから世界はモノクロのまま。――そうして亮子の世界は、緩やかに崩壊を始める。

 みちるの目には、亮子は親友の死に押し潰されまいと必死に戦っているように見えた。まりもや、先の茜の言葉に励まされ、己の成すべきことを正しく認識し、任務のために我武者羅になっているのだと、そう映っていた。だから、鬼気迫るその表情も、BETAに対して微塵の躊躇も容赦もない攻撃も。“ちゃんと戦えている”ように見えてしまい、まさかその内面が既にボロボロに憔悴しきっているなどということは思いもしない。

 ……これは、みちる自身が消耗してしまっていることと、何よりも、薫が戦死した瞬間の多恵の暴走が原因だ。あの時は誰もが多恵の絶叫を耳にし、誰もが多恵の精神状態を案じた。このままコイツを放っておいては隊全体が危機に陥る――そういう危惧が、何よりも優先されていた。だからこそ、表面上はショックの余り言葉もないように見えた亮子の内面に誰も気づかず、察せず、そうして全員が仲間の心情を思いやる余裕もないくらいの消耗を続けていった。旭の死もある。多恵は完全に錯乱していたし、周囲の者もとにかく必死だった。

 “だから”、次の瞬間亮子の口から発せられた言葉に、みちるは一瞬の硬直を生み、美冴は驚愕に顔を染め、茜は、晴子は…………それを聞いた全員が、絶句した。



『ぅぅああああ!! お前らッッ! お前ら全部ころしてやるぅううッ!!!!!!!!』



 それが亮子の口から吐き捨てられた言葉だなどと、誰一人信じることが出来なかった。小さな身体をぶるぶると奮わせて、白と黒の世界の中で、少女は暴虐の剣を振るう。喚き、叫び、返せと。薫を返せと泣き叫びながら。

 そうしてようやく知る。あのまりもの喝も、多恵を諭す言葉も……何もかも、ずっと。亮子には届いていなかったのだと。亮子だけ、ずっと、薫が死んだその瞬間に囚われ続けていたのだと。反射的にみちるは動いていた。同時に、美冴もまた、取り押さえようとするかのように。機体を走らせる。敵中へと躍り掛かる11番の不知火。取り返しのつかないことになる前に。暴走は何も生み出さないと知っている彼女たちは――まるでそこにかつての武を見たようで――絶対に行かせてはならないと、刹那に行動した。

『――莫迦野郎ッッッ!!』

 みちるの耳に届いたのは血を吐くような悔恨の音色。眼で確認する暇もないが、それは武の声だった。ただ一言。たったの一言だったが……そこにみちるは、彼の成長を見た気がした。A-01の中でただ一人、彼だけが亮子の心理を理解できる。武だけが、復讐に魂を委ねることの愚かさを知っている。――だから、その言葉は、罵りは。たった一言ではあったけれど、みちるや水月、美冴、梼子、真紀……あの光州での地獄を見た彼女たちに、染みる。自分たちのしてきたことは決して無駄ではなかったのだ。過ちは、正すことが出来るのだ。

 そう。だから亮子――お前を止めてみせる。もう二度と、武のような過ちを犯すものを出したりしない。

 その美冴の決意は、確かに届いた。進行方向から外れようとしていた亮子の不知火に寸前で追いつき、その腕を掴む。機体に無理矢理な制動をかけられてつんのめるような亮子を、みちるが強引に引き戻した。眼前には要撃級の群れ。急いで後退しようとするみちるたちを援護すべく、梼子と茜の放つ36mmが敵を穿ち、晴子の87式支援突撃砲が火を噴く。部隊に追いついた211中隊が更に加わり、A小隊からも援護が来る。

 速やかに本体へ合流したみちると美冴は亮子の機体をホールドしたまま、隊形の中央へ移動する。まりもの怒号が全員に飛び、遊撃小隊とB小隊の猛攻が切り拓いた道をともかく奔り抜ける。止まっている暇はない。亮子の絶叫がどれだけ木霊しようとも、その憎悪を、感情のままぶつけさせるわけにはいかないのだ。そしてなにより、そんな無様を晒して亮子を死なせるわけにはいかなかった。

 生きて還る。全ては、散って逝った仲間を無駄死ににさせないため。

『月岡ァ!! 立石は復讐なんて望んじゃいないッッ!! 復讐はッ、怨讐はッッ……! ただの血に塗れた自己欺瞞に過ぎねぇんだよ!! お前はまだ戻れるっ! 俺みたいになるんじゃねぇええ!!!』

 敵を切り裂きながらの咆哮は、果たして亮子に届いただろうか。その武の叫びは、悔恨を吐き出すような悲痛さを伴っている。俯いてしまっている亮子の表情は見えない。そして武もまた、真那と共に目の前の敵を蹴散らすのに必死で、亮子の顔を見ている暇などなかった。……互いに相手の顔さえ見ず、けれど、言葉だけがある。ぽつりと呟かれたその音を、みちるは安堵の吐息と共に聴き取った。

 ――薫さん……わたし…………………………戦います。

『亮子ッ! 無事?!』

『ヒヤヒヤさせないでよぉ~っ!』

『亮子さんっ……大丈夫ですかっ!』

 そして次々に亮子へ向けて掛けられる言葉たち。茜に晴子、壬姫の案ずるような表情に、彼女は小さく頷いて見せた。ごめんなさい。ありがとう。そう口にして、亮子は再び自身の刀を構えた。みちると美冴は拘束を解き、再び戦中へ躍り出る。亮子の顔色に最早翳りはない。世界は、再び色を取り戻していた。――こんなにも、涙が込み上げてくる。一度だけ涙を拭って、亮子もまた、みちるたちの後を追った。



 まるで己の身を裂くかのような叫びだと冥夜には思えた。

 先程の武の言葉。それは亮子に向けられていながら、己への罵倒そのものだったように思う。悔恨は果てしなく、けれどそれを乗り越えたものの強ささえ感じさせる。そういう意味においても、目の前を行く武の姿は、凄絶に映っていた。斯衛の武御雷。紅の機体と鏡写しのように――螺旋は龍の体躯となり、その疾駆は竜巻が如き暴虐を生み――一糸乱れぬ、猛攻という名の進撃。真那の実力はこれまでの訓練でも厭というほど思い知っていたし、今日この瞬間までにも幾度となく目にしてきた。剣士として、衛士として、武人として。微塵も敵わぬ強さを誇る真那……そして、その彼女と肩を並べて戦える武。

 出逢ったそのときから、強い男だと感じていた。共に過ごす内に、脆い面もあり、なにかとてつもない傷を抱えているのだと知った。……それは復讐。恋人を奪ったBETAへの、禍々しき狂気の奔流。冥夜は、そのことを偶然の再会から知っている。護りたかったのだと言っていた。愛する幼馴染を喪った慟哭。それが、武の全てであった。

 だからこそ、武の叫びは。亮子へ向けられたその言葉は――胸を抉るような哀しみを伴っていて……。冥夜は緩く首を振る。今は、そんなことを考えている場合ではない。最前線を遊撃小隊に奪われているが、冥夜とてB小隊の一員。戦場を先駆け、後から続く仲間達の進む道を拓くのが役割だ。しかもここはフェイズ4のハイヴである。次から次へと溢れてくる敵は膨大で尋常ではなく、どれだけ切り伏せても抉り散らしても全くの無駄といわんばかりに湧いて現れて進路を塞いでくる。

 故に全てが戦場。全てが最前線。冥夜に出来ることは二機連携を組んでいる慧と必要以上に離れないことと、先を行く真那や武、水月、真紀たちに置いていかれないように足掻くだけである。ともすれば初陣とは思えないほどの戦闘力で突き進む冥夜は、研ぎ澄まされた精神集中のもと、的確に敵を削っていく。隣ではインファイターである慧が長刀で戦車級をぶった斬って蹴散らしており、彼女も大概凄まじいなどと感じている。

 こと才能で技量をはかるならば、冥夜や慧、壬姫などは隊内でもずば抜けていると言える。真那や武の強さは不断の修練の結果であるし、まりも、みちる、水月といった古参はその経験と厳しい訓練の賜物であろう。先天的な何某を持ち合わせているというなら梼子や晴子もそうであろうが、それは冥夜たちほど顕著に現れているわけではない。

 初陣で、突撃前衛で、しかもハイヴ内で――これだけ戦えるというのが、既に異常である。こと初陣というものは周囲を見失いやすく、己さえ見難くなるものだ。武の初陣がいい例だろう。或いは、茜たちの初陣と比較しても、冥夜たちほど冷静に戦えてはいない。つまり、苦しげに息を荒げながらも冷静そのものに敵を葬っていくことの出来る冥夜と慧は、それだけで十二分に凄まじい才能と実力を兼ね備えているということになる。特に冥夜は、この状況で武の様子にさえ気を配ることが出来ているのだ。

 己だけでなく、周囲の状況さえ把握出来ている事実。それがどれほどに凄いことかを、冥夜はわかっていなかった。

「……白銀……?」

 そんな冥夜だからこそ、躍り来る要塞級の尾節を回避しながらに――その槍のような脚の付け根に向けて武の不知火が跳躍し、壬姫の狙撃が理想的な射線を描いて確実にダメージを与えていく――そのことに、気づくことが出来た。

 赤い。眼が。そして、まるで泣いているかのように一筋…………武の目から、流れ落ちていた。冥夜は眼を疑う。気のせいだと思いたかった。けれど、武が忌々しそうに拭ったそれは頬を汚すように伸びて、まだ流れている。

 血涙。

 きっとアレはそういうものだという認識が、冥夜を凍りつかせた。

「しっ、白銀!? そなた……目が……ッ?!」

『傷が開いただけだ』

 強張ったように問うた冥夜だが、次の瞬間にぴしゃりと言い切られてしまい、二の句を失う。けれど、そのやり取りで他の隊員も武の尋常ならざる様子に気づいていた。真っ赤に充血した両目。眦から零れ落ちる赤い液体。涙……なのかもしれない。或いは、武の言うように、顔の裂傷が開いたのか。だが、それならば何故…………なにゆえに、右眼からも零れ落ちているのか。流れているのか。

 再度武は血涙を拭う。頬は拭われて伸びた血色に汚れたが――それで、血は止まったらしかった。先程まで拭っても流れていたソレは、もう普通に止まっていて……一体それがなんだったのかわからなくなる。周囲の、予断を許さぬ状況もそれに拍車をかけた。武を気にしている余裕など誰にもないのだ。彼のことをだれよりも愛し、想い、心を寄せている茜であろうと、武に一声掛けることさえできない。

 進む先には左方から合流するような横坑の出口が見えている。そこから要塞級をふんだんに含んだ大群が吐き出されているのも見えた。冥夜は――いや、彼女だけではない――水月は、真那は、茜は。一時的とはいえ武の血涙の事実を忘却し、目の前に迫り来る脅威へ対処すべく意識を切り替える。武とて、当然の如く先陣を切っていた。

 多分、それが――初陣の者と、一度でも戦場を経験し、生き延びた者との差であろう。冥夜は痛感する。慧は驚嘆する。後方にいる千鶴や美琴や壬姫も同様に。あれだけの数の化け物を相手に、尚果敢に挑めるその姿は……何よりも、壮絶で美しい。

 この地獄のような戦場で、BETAの胃の中ともいうべき醜悪さの中で。

 それは、なによりも美しい――そう在りたいと願わせる輝きに満ちていた。故に、希望。この戦いは「希望の煌き」を実現させるために。戦術機甲部隊だけでハイヴを攻略できるのだという新たな歴史を築くための礎。負けは許されない。『G弾』など使用させない。AL4を完遂させる……そのための、絶対の、戦いなのだ。



 ここにきて大型種が増えてきている。――地上陽動部隊が全滅したか? 真那の脳裏に最悪の状況が過ぎる。いや……それは臆病な自分が見せる悪趣味な妄想だろうか。最精鋭と謳われる斯衛五個師団に帝国軍総軍の三分の一近くを動員しているこの『甲21号作戦』。そう易々と地上部隊が全滅するはずがない。あってはならない。……だが、こうして目の前に、そして今更のように要塞級が群を成して押し寄せてくるならば、陽動は失敗に終わったか――そうでなくても、予想していたほどの効果を挙げられなかったかのどちらかしかない。

 連中が吐き出されているあの横坑は恐らく地上から伸びているものだろう。解析したデータを信じるならば、反応炉へ続く道は今自分たちが突き進んでいる正にコレなのだから。いや、ひょっとするとこれから地上へ進出しようとしていた連中が、真那たちの接近を知って引き返してきたのか。なんにせよ、厄介極まりないことに違いはない。ことここに至り――これまでにも数という暴力の意味を散々思い知らされてきたのだが――敵の増援が格段に跳ね上がっているように思える。自分たち以外にも複数のルートからハイヴ突入部隊は展開しているはずだが、その彼らも同じような目に遭っているのだろうか。

 この現象が示すことはつまり、反応炉はもうすぐそこだということだ。

 これだけ執拗に、しかも大型種まで持ち出してくるということは、連中の抵抗にも熱が入っているということだろう。これ以上進ませてはならないという防衛本能のようなものが、前からも後ろからもそして横からも、次から次に増援を送り込んでくる。……これで地上にも数万規模の敵が展開しているのだろうから、本当に、連中の最大の脅威はその物量なのだと痛感させられる。

 そして、だからこそ己の剣術は、父が生み出したこの螺旋剣術は、有効である。衛士一人に出来ることなどたかが知れている。戦術機一体が一度に相手できるBETAの数など極僅かに過ぎない。精々が正面に居る一体。或いは弾丸をばら撒くことで複数体。そしてそれは突き進みながらではなく、足を止め、防戦においての話だ。確かに月詠の剣術も防衛線に最も適した剣術といえる。人類はBETAの暴虐に対し、“攻める”気概を削がれるほどに追い込まれ追いやられていたのだから……そのための手段を講じるのは当然とも言える。

 けれど今は攻めるときだ。ハイヴに突入してから今まで、一度たりとも防戦に徹したことなどない。突撃力、或いは突破力というものならばA-01B小隊の水月には遠く及ばない。けれど、月詠の剣術は――龍の顎と称するべきそれは、対物量戦の究極の一つであるその剣閃は。

 矢張り、一対多を実現するに当たり理想的な機動を可能とし、手当たり次第に敵を切り捨てる荒業を可能としているのだ。

 武の不知火が要塞級を血祭りにする。真那の武御雷が振るわれる尾節をバラバラにする。多脚は見る間に千切り飛ばされ、腹に小型種を抱えたままの要塞級は崩れ落ち。戦車級を要撃級を押し潰し、砕けた外殻から内蔵された小型種が這いずり出る。水月と真紀の突撃砲がそれを食い散らし、冥夜と慧が屍骸にたかる蟲どもを薙ぎ払う。まりもの咆哮が隊内を衝き抜け走り、みちると美冴が手当たり次第に撃ち殺す。茜と亮子が長刀で叩き斬り、梼子に美琴が弾幕を張る。多恵は千鶴と共にB小隊の背中を護り、晴子と壬姫が必中の一撃で敵を削る。白い三連は縦横無尽に戦場を駆け巡り全体を支援し、211中隊が背後から吶喊する突撃級を防ぎきる。

 全員が死に物狂いで戦っていたが、あまりに多い敵の増援に侵攻速度が極端に低下した。ハイヴ内で要塞級――しかも十数体はいる――を相手にすることの厄介さを、全員が思い知っている。ハイヴ突入の直後。地上に出ようとしていたのだろう一群を突破しようとした際、たった二体の要塞級に、A-01は慶子を食われ、211中隊は二名を溶解させられた。だからこそ、この数を相手にすることは困難でありリスキーであり、出来るならば無視して突破を図りたいのだが……そう簡単にはいかない。

 要塞級一体を葬るのに要する時間は数をこなす内に短くなっていくが――これは極限状態にある彼らの成長速度が尋常でないことを示している――体力精神力、なにより装備が無限ではない状況では、そう長く続かない。真那は思わず舌打っていた。要塞級の脚を叩き切った瞬間に、自身の長刀が根元から砕け折れてしまった。これで残る長刀は一振り。この先補給がないことは百も承知だが、非情な現実に思わず天を仰ぎたくなってしまう。そんな弱気を一瞬でも見せそうになった己を盛大に唾棄しながら、真那はすぐさま長刀を装備しなおし、次なる要塞級に切りかかる。――今まで相手にしてたソイツは武と水月の攻撃で死に絶えていた。

 卓越した剣技を活かして、長刀や機体に掛かる負荷を最小限に抑えていた真那でさえ、ここに至るまで四本の長刀を駄目にしている。二刀流を好んで行っている武にいたっては既に七本目だ。主腕がまだ繋がっているのが奇跡的である。最後に補給を行ったのはいつだったか。既に211中隊からは弾切れを起こしているものもいる。

 ハイヴ突入以前からこういう事態は想定されていたが、後のない状況がこうして現実味を帯びてくると、それでなくても極限に追いやられているのに、更に焦りが生じてくる。こんな連中を相手にしている暇はないのに――そういう焦れた感情が、小さなミスを生み、或いは現実の過酷さに目を逸らしそうになり……ほんの些細なきっかけで、張り詰めていた糸は千切れてしまうことがある。



 晴子は眼がいい。視力についてもその通りだったが、彼女は全体を見回す能力に長けていた。これはある種の才能と呼べるもので、訓練兵時代から、まりもの指導の下成長させてきた長所である。だからこそ打撃支援という重要なポジションに就いているのであり、この己の利点を晴子はよく理解していた。味方の動きもさることながら、予測が難しいとされるBETAの行動までを一元的に把握することが出来、それを瞬時に取捨選択、行動に移すことができる。

 壬姫にも同じような才能が備わっているが、彼女の場合はこの能力が狙撃対象に特化したものであり、そして狙撃能力そのものに反映されている。晴子の場合、とにかく援護射撃が巧みなのだ。或いは、遠方から敵の行動をコントロールできる……というべきか。この晴子の的確な支援に、制圧支援担当が便乗し、現在の地獄はある程度対処可能な状況を保ち続けられている。どれだけの突破力、近接戦闘能力があろうと、BETA相手に単機では戦えない、という事実がここに現れていた。

 そして今も、晴子は持ち前の視野の広さから敵を狙い撃ち、仲間が窮地に追いやられぬよう、必死になって機体を操っている。無論、自身の身も護らねばならないから生半可なことではない。自分のフォローをしてくれる茜や211中隊の人たちがいなければ、とっくに晴子は死んでいただろう。要塞級を大量に排出した横坑を通り過ぎる。そこからは未だに小型種が漏れ出ていたが、どうやら大型種は品切れらしかった。A-01の先頭集団はようやくあと三体にまで減らすことが出来た要塞級を駆逐すべく獰猛に攻撃を仕掛けている。

 その攻撃部隊に支援突撃砲で援護を加えつつ、全体を把握。残弾数はもう残り僅か。出来るならばこれ以上の無駄弾はばら撒きたくないところだが――がぢっ――と、耳障りな音がした。

 瞬間、晴子は左腕に短刀を握り、左主脚部に取り付いた戦車級を抉る。前方の要塞級、更に消耗した装備に気を取られた一瞬の隙を突かれた。足元を疎かにしていたつもりはないが、結果はコレだ。晴子は思わず眉間に皺を寄せてしまう。取りつかれた部位に目立った損傷はない。警報も出ていないし、正常に稼動している。

『晴子ッ!?』

「あははっ、ちょっと油断した。大丈夫だよ、茜」

 フォローし切れなかったことを詫びるように茜が通信を繋いでくるが、この激戦の中、完璧な援護など行えるはずがない。戦車級の接近を許したことを、彼女が謝る必要はないのだ。自分の身は自分で護る。これが戦場の原則なのだから。そんな二人の耳に、つんざくような悲鳴が届き、ぎょっとしたその瞬間には、背後から帝国軍仕様の不知火がぶっ飛んできた。回避できたのは偶然でしかない。茜は反対方向へ跳んで回避している。親友の無事に胸を撫で下ろしながら、研ぎ澄まされた感覚が一体何が起こったのかを冷静に確認する。

 大塚の怒声が響く。サブカメラが捕らえたのは、通り過ぎた横坑から出現していた要塞級の一群。先の大群に遅れたのか、四体のデカブツが自慢の尾節を振り回しながら猛然と走ってきていた。――はやい。

『くそっ! 背後をとられたっっ!?』

『形勢が不利です! 振り切れ――――…………』

 罵るように叫んだ大塚に進言しようとしていた英の通信が不意に途切れる。一々確認するまでもなく、その機体には強酸性溶解液を分泌させることで恐れられている尾節が突き刺さっていた。声にならない絶叫が、晴子の背筋を走り抜ける。これは、絶望的な状況ではないのか。

 要塞級を打倒することは、かなりの技術、実力を有するものたちが揃っていれば、そう難しいことではない。もっとも、二機連携でこれを撃退してしまえる真那と水月は例外中の例外と捉えられるが、現実に帝国軍衛士の中にはこれを可能とするものが多くいる。要塞級の最大の脅威はなんといってもその尾節で、認識圏外から迫り来るその暴威を察せないもの、或いは察しても行動に移せないものには、これを相手取るのは難しい。また、かわすといってもただ跳躍すればいいわけでもなく、空中に跳びのいたその先でこそ、卓越した操縦技術が必要とされる。

 つまり、尾節は動くのだ。それこそ一個のイキモノのように。関節などなく、けれど鞭のようにしなるだけでもなく。“動く”のだ。追ってくる――のだ。三次元的に振るわれ、その全てを見極められないものは、いずれ叩き潰され、或いは先端に貫かれ、絶死する。

 晴子は……激しい機動を得意としない。出来ないわけではない。が、突撃前衛を務める彼女たちには及ばないし、斯衛や武の機動など逆立ちしても真似できない。ドッペル1の超絶機動などは見ていて笑うしかないほどだ。それでも、XM3に長期間にわたって触れていること、周囲同様にそれなりの実力と才能を秘めていることが相乗して、少なくとも平均の衛士以上には、卓越した技能を身に付けられている。

 が。この状況。背後から要塞級に追われるという冗談では済まない状況の中で、その平均を上回る程度の機動がどれほどの成果を上げるというのか。諦めるつもりは微塵もなかったが、一抹の不安が宿るのも事実。なにせ、もう二人死んでしまっている。湧いて出た要塞級に慌てたということもあるだろう。……けれど、自分よりも遥かに実戦経験のある、実力を持った衛士が、あっという間に殺されたのだ。

 表情からいつもの笑顔が立ち消え、歯の根がガチガチと鳴ってしまっている。――ねぇ、さっきさ……脚に、戦車級が……――そんな不安が過ぎってしまって、まさかと機体情報に何度も目をやってしまう。薫はどうして死んだのだったか。慶子は? 旭は? 211中隊の人たちは、一体どうやって死んでしまったのだったか。ぐるぐると思考が空回りして、それでも彼女の“目のよさ”が辛うじて回避を続けさせている。避けられている。

『晴子ォ!!』

『晴子さん!!』

 切羽詰ったようなその声に、狙われているのは自分らしいと確信する。211中隊の最後の二人はまるで晴子から追いやられるように大きく回避を続けていて……けれどこちらは遊撃小隊の白い武御雷と合流出来ている。茜と亮子がなんとかして晴子を救おうと接近を試みてくれているようだが、こちらに迫り来る尾節をかわせばかわすほど、彼女たちからどんどん離されてしまう。みちると美冴の両名が要塞級の一体を牽制し、梼子の支援砲撃が現状考え得るモアベターな援護を与えてくれるが――――しろがね、くん――――目前に迫った要塞級の尾節を、右に回避しようと、した。

 の、に。



 ひどく呆気ない音がした。目に映ったのは、左の主脚から火花を散らせた不知火がバランスを崩してよろめいた姿。けれど、次の瞬間には横なぎに払われたナニカ太いものだけがそこに在って、蒼色をした戦術機などどこにもなく、9番の不知火など形もなく、柏木晴子の姿も形も声も顔もなにもかも。

 こちらを追撃しようと迫り来る突撃級の集団がいる。滅茶苦茶に追い縋ろうとにじり寄る要撃級の大群がいる。その物量で圧しかかろうとうねり来る戦車級の波高がある。そちらの方向から鉄屑を踏み潰したような気持ち悪い音がして…………それで終わりだった。またひとり、仲間が死んだ。

 晴子が、いなくなった。

「ぃやああああああっっ!!??」

『そ、そんなッッ!! 晴子さんッッ!!?』

 BETAにしてみれば一番狙いやすい位置にいたのが晴子だったのだろう。ただそれだけなのだろう。他に理由はなく、ただそれだけ。晴子に要塞級の攻撃を回避し続けるだけの技量が足りなかったこと、或いは戦車級にとりつかれたことこそが最大の不幸。きっと、これはそういうことでしかないのだ。――それでも、納得できないことはある。

 いい子だった。最高にいい友人だった。初めて逢ったその日、自分と二人で武をからかった。自分の想いを察してくれて、相談に乗ってくれて、励ましてくれた。冗談ばかり言って、場を引っ掻き回すことが楽しくて。そんなはた迷惑な一面も、思いやりに溢れた優しさも……全部、今も鮮明に思い出せるのに!!

 薫も、晴子も!!

 ――もう、いない!!!!!!

「ぅぅうぁあああああ!!!!」

 茜の精神が悲鳴を上げる。亮子もまた、泣き叫んでいた。届かなかった。間に合わなかった! 親友が目の前で死んだ! 目の前で、あと僅かのその距離で!!

 多恵が薫の死に恐慌をきたしたのがよくわかる。亮子が薫の死に我を忘れたことがよくわかる。――武が、鑑純夏の復讐に狂った気持ちが、これ以上ないくらいの最悪さで、実感できた。ああ、これが仲間を喪うということなのだ。目の前で。手の届かなかったその場所で。

 薫も晴子も。二人とも。……そして慶子や旭、211中隊の大勢のひとたち。

 心が嗚咽を上げる。血が滲むような悔しさ。――武、助けて武っ……しんじゃった……晴子が、しんじゃったよぉ……!



『ぃやああ! 晴子ォオオ! ぁああっ……武ゥ!! 武ッッ!! 晴子、死んじゃった……っぁああ、晴子がッッ!!』

 引き裂かれるほどに心が痛む。耳に届く茜の泣き叫ぶ声を聞きながら、けれど武は止まることを許されなかった。残る要塞級はあと二体。こいつらを一秒でも早く片付けること、突き進む道を築くこと。それが武に与えられた役割であるというなら、迅速に速やかに成し遂げなければならない――でなければ、次は茜が死んでしまう。

 どれほど愚かしいことだと理解していても、もう二度と犯すものかと精神力を振り絞っても、感情の爆発は止められない。最高の友人を奪われて、最高の仲間達を奪われて――それも二人も! ――けれど、狂うことは許されない。武はBETAへの怒りを沸騰させながら、速やかに長刀を振るう。今はただ前に進むだけだ。嘆くのも泣くのも全部後回しにして、武は必死に理性を保とうと足掻いていた。

 限界だ、ということは自分でもわかっていた。薫が死んでしまってから、酷い頭痛がする。血涙なんてものを流したのがいい証拠だ。武の脳髄が悲鳴を上げている。爆発しそうな激情に、クスリでボロボロになった脳ミソが耐えられない。畳み掛けるように旭が戦死し、そして晴子が逝った。心臓はとっくに壊れているかのようで、さっきから呼吸が落ち着かない。偉そうに亮子を諭したりしてはみたものの、武自身が、自分の感情の限界を確信していた。――もう、もたない。

 まりもの命令で隊形を執り直した211中隊は斯衛の白い武御雷三機と共に最後衛を任され、とにかく要塞級の接近を押し止めようとしている。進行方向で暴れている邪魔者をどうにかしない限り、要塞級に前後を挟まれているこの最悪の状況は覆らない。突き破るしかないのだ。

『武ッ!! 今は反応炉を破壊することだけを考えろ!! お前の護りたい者を思い出せッ!!』

 まるで冷たいナイフのように、真那の言葉が心臓に突き刺さる。――狂うな、抗え! まるで地獄のような感情の奔流に流されるなと、師の言葉が強制する。突き破るしかないというなら、それをわかっているなら、果たせと。怒りと悲しみにぶれる感情を無理矢理制御して捩じ伏せる。これ以上殺させて堪るか。これ以上死なせて堪るか!!

 ――これ以上、俺を、茜を苦しめる貴様らを!!

「俺は絶対に許さねぇえええええ!!」

 死ね。死んでしまえ。殺してやる!! ――だからそこをどけ。さっさと失せろ化け物め。冷静に、怒りに我を忘れることなく。復讐に身を焦がすことなく。冷静に。そして迅速に。完璧に。機体を操り、長刀を翻し、真那と共に、水月、真紀、冥夜、慧と共に。一体を屠り。最後の一体を潰す。頼むから死んでくれ。もう……これ以上は勘弁してくれ。捩じ伏せたはずの感情が、たったこれだけの時間で暴れるように咆え滾る。もうこれ以上は無理だ。抑えることなんて到底出来ない。――だってもう、我慢なんて、出来そうもないんだ……ッ!

 こんなにも苦しい。

 こんなにも悔しい。

 こんなにも、こんなにも恐ろしく、怒り狂いそうで。

 これが……ああ、この感情が、仲間を喪うということなのだ。同期を、戦友を、友人を亡くすということなのだ。

 薫のときは精神が感情を凌駕していた。極限まで疲弊していない肉体が、それでも任務を優先させてくれていた。でも……もう駄目だ。背中を護ってくれる211中隊は次々に死んで行き、晴子まで死んでしまった。少なくとも武にとって、きっかけは薫の死だったのだと思う。彼女がBETAに命を奪われてから、少しずつ、余裕がなくなっていった。周りを見渡す余裕がなくなり、殺しても殺しても湧いてくるBETAに体力を消耗し、精神が疲弊し、進んでも進んでも先が見えず敵だけがやって来る状況が、更に追い討ちをかけてくる。

 疲労して罅割れてボロボロで。そんな状態の武に、晴子の死までが圧し掛かっている。亮子が見せた危うさや、茜の悲鳴がこびりついてどうしようもない。耐えられない。頼むから、もうやめてくれ――そんな泣き言を言いたくなってしまう。

 先達はそんな素振りさえ見せずに戦い続けている。……自分には彼女たちのような経験も精神力もないということなのだろうか。同期を喪ったのは梼子も真紀も同じだ。遂に彼女たちだけになってしまった。仲間の多くを喪っているというなら、まりももみちるも、水月も美冴も同じだった。長く戦場にいる彼女たちは、これまでに一体どれだけの数の戦友と死に別れてきたというのか。

 部下を喪う心の痛みが、自分たちと違うとは思わない。皆、悔しいに違いなく、悲しいに違いなかった。怒りを胸に秘めて、けれど、軍人としての――衛士としての役割が、冷静に冷徹に戦闘を続けさせているだけに過ぎない。ああ、だって――ここで感情に支配されてしまっても、もう彼女たちは戻ってこないのだから。ここで復讐に狂ったとしても、任務が成功しなければそれは無駄死にだ。……決して無駄死にするなという、隊規の一節が脳髄を抉る。

 それが、狂うことを赦さない。

 生きて還る。そう言っていた。戦争が終わったらどうしたいかと、彼女は聞いた。――ああ、そうだ。生きて還るんだ、みんなで。そして、この戦争が終わったら、涙が出るくらいの平穏を……みんなと共に、生きてみたい。

『武!??』

「――――ッ、」

 左腕が千切れ飛ぶ。要塞級最後の一体。十本ある多脚の、その十本目を叩き斬ったのと同時、とうとう積もり積もったダメージが、機体の強度を越えてしまった。火花を散らしている左腕を肩部からパージして切り離す。残った右手一つで、残りどれだけ戦えるだろうか。もう、真那と二機連携を組むことは出来ない。下がれと言う師の命令に大人しく従い、武はB小隊の中に身を置いた。代わりに水月が先頭に出て、真那と連携を組む。

 障害はなくなった。背後から押し上げてくる敵は減る気配を見せないが、とにかく、道は開けたのだ。残るは要撃級と戦車級の肉絨毯を踏破するのみ。振り向くな。嘆くな。前だけを見ろ。最大戦闘速度での一点突破を命じるまりもの怒声に、全員が振り絞るように応える。誰も彼も限界だった。もう、我武者羅に突き進むしかなかった。肉体も精神も疲労困憊。極限まで擦り切れた精神に、仲間の死だけが積み重なり圧しかかる。

 狂うなという方が……辛い。耐えられない。それでも、自我を保ち、任務に忠実で在らねばならない。自身の護りたい者を思い出せと真那は言った。その言葉が、武に理性を取り戻させてくれる。でも、それでも、飲み乾せない感情を抱いたまま。武は走る。最早、それしか出来なかった。







『大広間だ……っ』

 多分、それは真紀の声だったのだろうと思う。身も心も襤褸屑のようで、まるで時間の感覚がない。けれど、その一声は――ただそれだけで、全員の目を見開かせた。大広間。ハイヴの底。中心。破壊目標である反応炉が存在するという……その、敵の、中枢が。

『で、かい……、ッ』

 冗談のように開かれた広大な空間。フェイズ4ならば主縦坑の最大直径は200メートル。それが丸々収まるほどに広大で、そして“でかい”というなら、なるほど、武の呆然とした呟きも頷ける。大広間の中心――こうして見ると手が届きそうにさえ見えてしまう――そこに、青白く輝く巨大な筒が在る。不気味に光り輝いて、煌々としている。

「アレが、反応炉……ッッッ!!」

 全身が総毛立つような感覚を、水月は感じていた。足元から頭の天辺まで、痺れるようなおぞましさと昂奮が駆け上る! 遂にここまで来た。遂に、自分たちは到達したのだ! 人類の悲願。ハイヴ攻略。その最大の目標である――反応炉の眼前に!!

『B小隊ならびにブラッド1、5は目標へ向けて吶喊!! 全力で道を築け!! 21101、02はブラッド2、3、4と共に後方展開! 敵を一歩たりとも近づけるな!! ヴァルキリー4、8、13、14は部隊中央へ移動ッ――S-11の設置準備に掛かれ! 残る全員はとにかく四人を死守ッ! B小隊に遅れるな!! ――――ここが正念場だ! ここまで来てむざむざ死ぬような惰弱を見せるな!!?』

 まりもが命令を発した直後、或いはそれと同時に。水月は真那と共に突き進んでいた。ブーストは全開。右手に構えた36mm砲をとにかく前方へ撃ちまくる。そう、ここは敵の総本山であり本陣であり最奥。この目に反応炉が見えているのに。たかが数百メートルの距離しかないのに。……なのに、そこに蠢く敵は。その数は。これまで一体どれだけの敵を相手にしてきたのかと笑いたくなるほどに。無慈悲に。これ以上ないくらいのもてなしで――レーダーが狂っているならばそれでいい――一千以上の化け物の群れが、波となって押し寄せる。

 真紀と、B小隊へ復帰した多恵が二機連携を組み、背後に続く。眼前の敵を屠ってもすぐにその穴は埋まり、蹴散らし、埋まりを永劫に繰り返す。真那が陽動を兼ねて螺旋剣術でBETAを吹き飛ばし、それに片腕となった武の不知火が不恰好な螺旋を描き加わる。暴風に引き寄せられる敵も多数いたが、それでも、“それ以外”が多過ぎて陽動にならない。大広間全体を埋め尽くすBETAの姿は、正直、背筋が凍りつきそうなくらいに恐ろしいものだった。

 大広間にたどり着く道筋は一つだけではない。無数に横坑が伸び、そのでかい穴もたくさん見えている。……だというのに、そこに友軍の姿はなく、定員過多の超満員と化したこの場所に、更に雪崩れ込む敵ばかりが見える。突撃砲の引き金を絞り、長刀を振り回し、滅茶苦茶に、我武者羅に。一瞬たりとも静止せず、ただ前に前に突き進んでも、それでも。敵の数は右肩上がりの天井知らず。――こいつらは本当に底無しだ。

『おのれぇえ! きりがない!!』

 あの真那が、汚らしく罵声を放つ。形相は鬼気迫り、そしてそれは自分とて同じなのだ。一切の余裕がない。ただ目の前の敵を蹴散らすほかに術がない。残弾はもう数秒後には尽きようとしている。長刀は疲労が蓄積し、いつ折れるかわからない。

 それでも、自分たちが突き進むことに専念できるよう援護を加えてくれる仲間達がいて。

 反応炉を吹き飛ばす可能性を高めるために、S-11以外の装備を仲間に託した者達がいて。

 決死の覚悟で背後からの怒涛を凌いでいる彼女たちのために。

 なんとしても、道を築く。たった一本の道筋でいい。反応炉までたどり着き、S-11を設置するその時間を稼げるだけの、ただそれだけの戦いが続けられたなら。――それで、「勝ち」だ。人類の。自分たちの。この作戦に参加した全員の、全英傑の、全英霊の――それは紛れもない勝利だ!!

「ぁぁああああ!!!」

 弾丸のなくなった突撃砲を投げ捨て、長刀を振りぬく。同じように長刀を構えた冥夜が跳びぬけるように前に出て、羅刹の如き凄まじさで敵をぶった斬って突き進む。慧の不知火が短刀で接近戦を挑み、真紀が多恵が最後の突撃砲を撃って撃って撃ちまくる。

 真那と武、そして水月は三機で隊形を組み――先程の冥夜たち同様に彼女らを飛び越えて更に前へ押し進む。開いた道を開き続けるために。仲間達全員が突き進むために。目の前を閉ざされるわけには行かない。閉ざすわけには行かない。あと少し。あとちょっと。あと……ほんの僅か。その距離だけ。

 そんなギリギリに張り詰めた緊張の中、まるで場違い音声が水月の耳に届く。思わず目を見開いてしまうくらいの驚きをくれたその言葉とは、つまりこういうものだった。



『伊隅大尉、この作戦が終わったら、俺と結婚しましょう』


「――――ッ、ぁ、……はぁ??!」

 みちるは耳を疑った。死に物狂いで道を築いてくれているB小隊と遊撃小隊の二人の奮迅をとにかく援護するために、必死に敵を蹴散らしている最中のことだ。人類の悲願を賭けたその一瞬のために全員が我武者羅に戦っているこのときに、一体あの帝国軍大尉は何を言い出すのかと、彼の正気を疑い、露骨に眉を顰めてしまう。

 けれど。

 それは違った。そこに映っていたのは、冗談などない、心底から本気だという眼をした大塚の顔。この状況で涼しげに、そして不敵に笑い、みちるを真っ直ぐに見ていた。無論それは一瞬のことだったけれど、“結婚しよう”……そう言ったのと同じ声音で、彼は続けて言う。

『子供は何人がいいです? やっぱ男がいいですかねぇ。いやいや女の子も捨て難い。それなら大尉に似て、美人で気が強くて、そして思いやりのある子に育つでしょうね。ははは、楽しみだなぁっ』

「ぉ、大塚大尉! 貴様何を……、ぃきなりそんなことを言われても……って、違う! 貴様ッ、こんな状況で何を考えている!?」

『惚れた女を護ろうって言うんです。それなりの見返りを求めてもいいでしょう?』

 みちるは言葉を失った。愕然としながら、それでも機体を操作する腕は止まらず、的確に要撃級を潰していく。何を突然言い出すのか、という驚きと。――そうか、という納得。大塚は死ぬ気だ。

 今のこの状況で最も負担となっているのは背後からの追撃だ。前に突き進むだけでいいこの段階で、がら空きの背中を狙ってくる敵は最大の脅威なのだ。勿論、左右から押し寄せてくる敵も無視できないが、とにかく、五人がかりで足止めしている後方の暴威が排除できたなら、左右の敵を相手にしているA、C小隊の戦力を前方へ回すことができる。

 退路の確保、という点も重要だ。反応炉にS-11を設置したら、即座に転進しなければならない。起爆装置のタイマーは爆発圏外へ脱出するために必要と想定される時間に設定されるが、これだけの物量を前に必ず逃げ切れる保証はない。……が、それが例えばあらかじめ後方の脅威を取り除き、敵の密度が低くなっていたなら、そこを突っ切るだけでも爆発に巻き込まれる可能性は激減するだろう。

 つまり。

「大塚大尉……貴様は、」

『一言。嘘でもいいんだ。俺は貴女に頷いてもらえれば、それでいい』

 勝手なことを言う、と。みちるは苦虫を噛み潰したような表情をした。大塚は確かにいい男なのだろう。多くの部下に慕われた、信頼の置ける軍人。それがみちるの印象だ。……けれど、みちるには長年想い続けている相手がいて、そして大塚とは昨日顔を会わせたばかりなのだ。よく知らないどころではない。それでもここまで共に戦い抜いてきた戦友であり、彼の気概や力強さには尊敬できる部分もある。……よい、男なのだろう。本当に。

 けれどあまりにも身勝手だ。みちるが頷こうが頷くまいが、彼が死を選択することに違いはない。反応炉まであと僅かというこの距離で、先程から前に進めていないのは事実だった。後方に回している戦力を左右に、そして左右の戦力を前方に向けることが出来たなら、この状況も変わるかもしれない。――私に嘘を吐けというのか。

 その葛藤は、軍人としては潔癖すぎるものだろう。けれど、女性として誠実でありたいと思ってしまったみちるには、大塚の言葉に頷くことはできなかった。

「…………大塚大尉、私は……」

『いや、いいんです。身勝手を言いました。――――神宮司少佐!』

『S-11の使用を許可する。……21101、02は後続のBETAを殲滅しろ』

 了解。

 ただその一言だけが、一瞬の躊躇もなく、大塚と一人残った副長から発せられる。冷酷なほどに冷え切ったまりもの命令に、誰もが言葉を失った。ただ、BETAを斬り、撃ち、殺戮する無感情な音だけが響く。――その、密やかな葬送にも似た空気の中を、211中隊最後の二人が離脱する。指揮官機であるまりもの機体には、彼らがS-11の安全装置を解除したことが表示され……彼らが最も効率よく敵を減らせる位置にたどり着くまでの間、とにかく前へと突き進む。



 大塚たちはS-11を抱えたまま推進剤の残量など気にせずに跳びぬけていく。こちらへと向かってくる敵の波を掻い潜るのだから、相当に困難かと思われたのだが、存外に容易く突き進めるものだと、大塚は少々拍子抜けてしまった。手にも背部ウェポンラックにも武器はない。装備は全て斯衛の三人へ預けてきた。……もっとも、最早長刀一振りに36mm突撃砲が一丁と予備弾倉が一つ、という雀の涙に等しい置き土産だったのだが。

「二人合わせてアレじゃあ、ハイヴ攻略も楽じゃあないよな」

『……当たり前です。ここに来るまでに十人。そして我々で最後……211中隊の短い歴史は、短いままに終わるんですよ』

 呟いた大塚に、副長が秘匿回線を繋げてくる。お堅い彼女にしては珍しいものもあるものだと思ったが、自ら死のうとする者たちの会話など、A-01の彼女たちには聞かせたくはない。この期に及んでそういう気配りのできる同期の存在に、大塚はずっと助けられてきたのだと思い出す。――自然、笑っていた。

「はぁっはははは! お前はいつもそうだったよなぁ! ……ま、俺のわがままで道連れにしようって言うんだ。それくらいの嫌味、いくらでも聞いてやるよ」

『でしたら、最期くらい私からのお願いも聴いてもらいたいものですね。これまで苦労してきたんですから』

「ああ、いいぜいいぜ。言ってみろよ。この際だ、何だって聞いてやるさ」

 大塚にしてみれば彼女は巻き込んだ形だ。自分の部下とはいえ、これは彼が勝手に思いついた策である。……衛士の命を懸ける時点で、策としては下の下であろう。部下を一人でも多く生き残らせることも隊長の役目であるから、その点で言えば大塚は隊長失格と言える。なにせ、その犠牲には自身の命まで勘定されているのだから。愚痴の一つや二つ、今更屁でもない。死にたくないなんて泣かれたら流石に困るが、彼女がそんな弱いニンゲンでないことはよく知っている。

『では、遠慮なく。――大尉、この戦いが終わったら、私に子を産ませてください。男の子でも女の子でも。大尉の望む子を、授けてください』

「……………………そうか」

 ――わかった。

 大塚は力強く頷いて、そして機体を敵の集団に突っ込ませる。同様に、彼女の機体も敵の集団へと突撃していく。A-01との距離は十分、そして互いの距離も上等。即席の計算で弾き出したS-11の爆発範囲ならば、この二発だけでも横坑を進み来る敵の集団を――例えそれが一時なのだとしても――途絶えさせることが出来る。ならばよし。それで十分。

「行くぜBETAァァアアア!! これが帝国軍人の底力だッ! これが!! 俺たち人類のッッ、、、“力”だぁあああああああああああああ!!!!!」



 閃光を見た。――ような気が、した。

 届くのは凄まじい爆音と震動。そして爆発に吹き飛ばされたBETAの残骸や肉片。爆圧に機体が押されるほど――そんなにも近しい距離で、今また二人、死んだ。背中に感じるびりびりとした感覚に、茜は悲鳴をあげそうになる。命が喪われる瞬間は、絶対に慣れることなんてないのだと。茜は厭というほど思い知っていた。二人の先任が死に、二人の同期が死に……そして、共に戦ってきた211中隊は“全滅”した。誰一人生還叶わず、そして反応炉にさえ到達できなかった。

 これがハイヴ攻略戦。人類初のこの作戦には、きっと多くの穴があったのだろう。補給線の確保や、ハイヴ突入部隊の編成等々……考えればキリがないくらい、きっと、多くの教訓を得られるはず。何よりも痛恨だったのが、BETAの総量だったに違いない。シミュレータ訓練では、“こんなに多くなかった”のだ。最難関の“S”難度でさえ、反応炉といえどもこんな数の敵は居なかった!

 所詮不完全なデータを継ぎ接ぎしただけでしかないシミュレータだけれど、茜たちはそれを繰り返し訓練することで自信に変えていったのだ。戦死する仲間が一人減る度、突入深度を更新する度、己の実力の向上を実感し、やれる、いける――そう思えるようになっていった。……それなのに。現実はどうだ。

 ヴァルキリーズ自体の死者が少ないのは、単純に211中隊の存在のおかげだ。シミュレータの十数倍以上の敵の中を突き抜けてきて、死者四名で済んでいるのは……その暴威の殆どを彼ら帝国軍人が受けてくれたからに他ならない。なにせ、彼らは十二人全員が戦死したのだ。誰一人亡骸なんて残っていない。拾うことさえ出来ない。そんな犠牲と挺身のおかげで、今自分たちは反応炉に到達しようとしている。

 茜は機体に装備されたS-11を右手に持たせる。左右で、梼子と千鶴、美琴も同じようにS-11を準備していた。大塚たちの自爆で後方のBETAの八割方が吹き飛び、爆死した。斯衛の白服三人の行動は素早く、爆発と同時に左右に展開、それを受けてA、C両隊がB小隊の底上げをすべく吶喊を開始したのだ。もうじき、道が開かれる。

 あの青白く光る敵の中枢へ、届くのだ。あれだけの巨大なモノを、たった四発のS-11で破壊できるのだろうか。……先程の爆発や、或いは内壁を崩落させたあの威力を思えば、十分だと頷ける。――何かの感情が、漲ってくる。

 それはきっと、晴子と薫、二人の親友に向けた思い。最高の仲間だった彼女たちの死を乗り越えようとする力。あの二人の死を、絶対に無駄になんてしない。そういう漲りを、感じる。前方を見やれば、今正に反応炉へ到達しようとしている紅の機体が見える。その隣りには片腕となった不知火……。武がいる。彼が道を開いてくれる。死に物狂いで戦い続ける彼の咆哮は止むことがなく、今も尚咆え滾っている。

「武……お願い……ッ」

 道を、開いて。

 進む道を、人類の勝利を。晴子たちの魂に報いるそのための、唯一の――進むべき未来へ続く、その道を!!



「ぅおぉおらあああああ!!」

 片腕で振り切った一刀が、遂に眼前を塞いでいた最後の一体を千切り飛ばす。本当の本当に目の前。そこに、「ここ」に、反応炉がある。触れる距離だ。――ぉぉぉおおおおおお!!!

『よくやった武!! そのまま反対側へ廻りこめ! 反応炉には一匹たりとも近づけるな!!!!』

 武は咆哮する。感情の昂ぶりに脳が焼ききれそうになる。血管の中を、熱くて燃えるようなナニカが巡っている。真那の檄に背中を押され、考える暇もなく反応炉の向こう側へ廻りこむ。敵は膨大。そして大広間は円の形をしているのだ。その中心がここだというなら、敵は360度全部から襲い来る。殺到する敵を一秒でも長く近づけさせないために、武は真那に続いて突き進んだ。同様に、水月と真紀、多恵と冥夜、慧がそれぞれ左右に分かれ、反応炉確保に努めている。

 数秒遅れでA、C小隊がそれに合流し、S-11の準備を済ませた茜達四機が反応炉へと取り付く。斯衛三機が真那の元に戻ってきて――総勢十五機の猛攻が、全周囲に向けて火を噴き血の雨を降らせる。反応炉にS-11を設置すること自体はそう難しいことではない。何度も訓練で行ってきたし、落ち着いて行えば数分も要さない。四方に散った彼女たちの身を護るために、武は一層攻撃を猛らせ、背中側に居る茜の機体に飛びつこうとする戦車級を真っ二つにする。

 機体は既にズタボロだった。左主腕をパージしてから以降も、武は月詠の剣術を使い続けた。自分にはこれしかないのだという強い自負が、彼にそれを強制させている。機体バランスの崩れた状態の回転運動は加速度的に機体を蝕み、もう、警報を数えるのが莫迦らしいくらいだ。――それでも、止まれない。ここまで来た。ようやく、遂に、そういう感情が。武に無茶をさせている。多くの人が犠牲になった。四年間を共に過ごした最高の仲間達もいた。

 だから。

「おおおああああああ!!」

 目は血走り、眦に血液が滲んでいる。こめかみに浮かぶ血管は裂けそうなほど。込み上げてくるような嘔吐感に、恐らく血を吐くのだろうとわかる。限界だった。何もかも。機体も、武自身も。「ここ」が自分の最期の場所となるのか。……出撃前に夕呼が言っていたアレは、武の雑念を払うための気遣いだったのだろうか。考える暇なんてない。ただ、一つだけハッキリしていることは…………例え血を吐こうが視界を喪おうが、機体が木偶になったとて。

 涼宮茜は、死んででも護りきる。

 それだけは、絶対に絶対だ。



 すぐ隣りで死にそうな表情のまま戦い続ける弟子に、真那は鬼を見ていた。血涙に濡れた貌は青褪めて白く見える。口端から零れる泡は血が混じっていた。ナニカ酷い病床にあるような、そんな尋常ではない様子に、真那は心臓を震えさせる。

 武は何らかの重病を患っていたというのだろうか。そんな素振りはなかった。彼を知ってからの二年間、毎日を重ねたこの二週間余りの間も、一度も、そんな様子はなかったのに。――それでも武は、また血を流している。健全である者は、あんな血の流し方をしない。極めつけは血涙で、そんなものを流す人間を、真那は初めて目の当たりにしていた。もう疑いようがない。武は病気だ。真那が知らなかったというだけ。気づけなかったというだけ。……或いは、ひた隠しにしていたのか。誰にも知られぬよう、隠し通してきたのかもしれない。

 だが、それがどうしたというのか。彼が病気だったら、何がどう変わるというのか……。変わりはしない。相変わらず敵の数は減る気配がなく、一秒を重ねるごとにこちらの消耗が上昇するだけだ。

 まだなのか、という焦燥が浮かんでは消える。たかが数分。いや、一分にも満たない。たったそれだけの時間の経過が、この上なく永く感じられる。弾倉は既に空。長刀は今にも砕けそうで…………血を流し、血を吐いた弟子の存在が、ぐらつくように傾いだ彼の機体が、真那の張り詰めた精神を刺激した。

「武ッッッ!!!?」

『――S-11設置完了しましたっ!』 『ようし聞いたな! 全機反転ッッ、撤退だ!!!!』

 了解――割れんばかりの少女達の応答の中、真那だけは手を伸ばしていた。膝をついた武の不知火を掴み、迫り来る戦車級を払いのけ――長刀が折れた――込み上げる衝動を、奥歯を噛み締めることで抑えつける!

「武! 返事をしろぉ!!」

 撤退命令は既に発せられた。S-11は四つが設置され、あと数百秒もすればここは煉獄に焼かれることとなる。……そうれば、勝利だ。人類の勝ちだ。我々の、勝ちなのだ。なのに。ここまできたのに。後はS-11の爆発を確認して、反応炉破壊を確かめるだけなのに。――こんなところで!

『武ゥゥウーーー!!』

 真那が支える不知火に飛びつくように、もう一機の不知火がやってきた。08とナンバリングされた――茜の機体だ。彼女は真那たちと背中合わせに作業をしていた。きっと、その時から武の様子に気づいていたのだろう。恋人が血を吐いて倒れたのだ……気が気でなかったに違いない。

 真那は一つ頷くと、自身と茜の機体で武の不知火を運ぶと指示を出す。茜は強く何度も頷いて――二人は速やかにとはいかないまでも、とにかく、全力でこの場を離れる。武からの返信はない。気を失っているのか、或いは――……。遅いと罵る水月の声がする。本当は自分だって武を助けたかったいに違いない。指揮官としては彼女の方が正しいに決まっている。真那は、本当にらしくないと胸中で呟き、撤退する背中を護ってくれている頼もしい三人の部下に目礼すると、

「武を死なせはしない」

『あったり前でしょ!! いいから早く逃げろってのよ!!』



 応酬は一瞬。共に不敵に笑い合って見せた真那と水月を見て、茜はなんて凄い人たちだろうと感じ入っていた。自分はもう、武のことしか考えられない。人類の悲願とか、本当にこれで終わりなのかとか、死んで逝った彼女たちのこととか……そういう、数瞬前まで胸を占めていた何もかもが吹き飛んでなくなってしまうくらいの恐怖と焦燥が、ただ身体を震わせる。

 ――武、目を開けて……お願いっ。

 溢れてしまいそうになる涙の向こうで、微かに身じろぎした。目を見張る。動いた。動いた――! 武は左手をゆっくりと動かして、シートに固縛してあった日本刀に触れる。弧月。そういう名の、彼の愛刀。

『く……くくっ、ゃった、ぞ。畜生……やったんだ、』

 眼を閉じたまま、血涙に頬を濡らしたまま、吐き捨てた血に顎を赤く染めて――死人のような貌をした武が、笑っている。

「たける……」

『悪ぃ……助けられたな。本当は俺が、お前を護ってやるはずだったのに……』

 そんなことはない。茜は首を振る。――言ったでしょ? 武。……あたしだって、武を護るんだよ?

 優しい笑顔でそう言った彼女に、武は一度だけ目を丸くして……そして、笑った。血濡れの顔で、今にも死にそうな状態で。笑ったのだ。嬉しそうに。満たされたように。――ああ、生きている。その実感を、強く強く噛み締めながら。







 ===







 地上は歓声に満ちていた。



 ハイヴ内の状況はモニターできないため、ただじっと待つしかなかった夕呼に、CPの遙から、極度の爆発による震動を感知したと伝えられ――それが反応炉を破壊したS-11の爆発なのだということは、数秒もしない内に証明された。

 逃げ出したのだ。BETAが。展開する帝国軍を排除しようとする行動とは明らかに異なる、問答無用の全速前進。走り出すと止まることを知らないかのように。今の今まで攻撃を加えていた帝国軍の機体など目もくれず、脇を通り過ぎ、味方であるはずの小型種を踏み潰し、突撃級が、要撃級が、戦車級が、要塞級や光線級、重光線級に到るまで。全部が。突如としてハイヴから遠ざかろうと、我武者羅の前進を開始したのだ。

 これに当初は面食らっていた軍人達も、次第に理解し始める。――やったのだ。その直感が過ぎった瞬間の、彼らの歓声は、咆哮は、文字通り大気を震わせた! 司令部が置かれているこの場所も、夕呼を除く全員が手を叩き歓声をあげ、喜びの涙に包まれた。

 人類は、勝ったのだ。

 BETAがこんな行動を見せた前例などない。だから、これはきっと、今まで一度も成したことのない偉業を成し得たためではないのか。『明星作戦』では『G弾』によって何もかもが蹂躙されたために、地上に居たBETAも例外なく殲滅されていた。故に、この現象は前例がない。

 夕呼は確信する。まりもたちはやったのだ。歓声をあげる大勢を尻目に、夕呼は曖昧に唇を歪める。――これで、多少の時間は稼げたか。喜びがないわけではない。成し遂げてくれた部下達を誇りにも思う。同時に、こんな強攻策が何度も通用するはずがないと冷静に判断してしまう。一体どれだけの衛士が死んだのだろう。告げられる戦死者の数は、帝国総軍の何割に相当したのだったか。

 ハイヴからも吐き出され続ける怒涛の数には、流石に皆言葉を失った。夕呼でさえ呆れてしまうほどの物量が、途切れることなく吐き出され続けている。地上ではそれら逃げ惑うBETAを手当たり次第に撃ち殺し、正に入れ食い状態だったのだが……それでも、到底殲滅し切れる数ではない。光線級や重光線級といったレーザー属さえ一切の攻撃を加えてこないため、ミサイル等の爆撃で大多数を撃破できているが、それだけだ。どうしても漏れは出てしまう。

 それらが一体どこを目指しているのかという疑問を抱くには、今はまだ昂奮が冷めやらない。遙とて、親友に妹、彼女たちの安否が気になっている。けれど軍人としての一面が冷静に戦場を分析させていて、だから……地上を揺るがすほどの巨大な震動を拾ったと報告してくる部隊へ、周囲に異常はないかと問いかけることも出来た。……だが、彼らはすぐに地上を走り来る敵の掃討・殲滅に追われてしまい、それが一体なんだったのか知ることは出来なくなった。――戦況が落ち着いてから分析しよう。そう考えて、遙は他のCP将校とともに、未だ混乱を極めている戦場を把握する。



『――……ちら、――――……、だ、……こちら――ゼロワン……』

 その通信に、遙は瞠目する。夕呼がすぐさま遙の方を向いて、遙もまた、夕呼を向いていた。――今の声は……っ!

『……ちら、A-01。神宮司少佐だ。反応炉破壊に成功、繰り返す。――反応炉破壊に成功した』



 その日二度目の、割れんばかりの歓声に――――。







 2002年1月1日――甲21号目標、破壊。






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