その後も王とカンタダとお姫様のコントは一時間ほど続いた。
しかし、お姫様がたおっさんの死角から、とてもいい角度で右の脇腹を打ち、悶絶している間にカンタダを連れ去るという恐ろしい展開で決着となりそうになったので
「カンタダー! きたぞー!」
仕方ないから、俺参上。
カンタダの目には俺が救世主のように見えているだろう。
おっさんは左手で右の脇腹を押さえながら、玉座の後ろに置いていたのであろういかにも王様が着るっぽい豪華な赤いマントをパジャマ姿を隠すために着ようとしている。
「おお! やっと来たか!」
「どうしたんだお前? 綺麗な女性に手を掴まれて…」
王様を見ないようにしながらも、『城には今ついたばかりで何も見ていないし聞いていない演技』をしながらそう言って、お姫様を見る。
彼女は邪魔をした俺に微笑んだ。
…綺麗で優しそうな笑顔なのに、すごく怖い。
駄目だ、この人を見ていると… なんだか負けそうな気分になる。 …何に負けるのかわからないけど。
カンタダに視線を戻す。
「もしかして、お邪魔だったか?」
「そんな事はない!」
冷や汗が出ているかもしれないが、なるべく軽い感じでカンタダをからかうと、そう返事を返した。
とにかくこれで計画どおり! カンタダは俺に貸し1つd ん?
「魔法使い様はここでお父様、 ロマルア王とお話しをなさるのでしょう?」
「へ?」
「私達はお話の邪魔にならないように、あちらの部屋で浄化作業をしますので、どうぞごゆっくり。」
そう言ってカンタダの手を… いつの間にか腕を取って去ろうとする。
すごいよこのお姫様。 でも、まだだ! カンタダに貸しを作る事を諦めないぞ!
これまでのこいつの行動パターンから性格を考えて、ここで貸しを作っておけば少なくともロマルアで前衛に困る事は無いのだから!
「浄化か…
精霊が浄化をする所は何度か見たが、人の手による浄化はまだ見た事がないな…」
「な、ならば! 王が俺を浄化するところを見てみないか?」
カンタダさんはこちらの思ったとおりの行動をしてくれて扱いやすいな。
お姫様に勝てるとはまったく思えないが、カンタダを間に挟めばなんとか戦えそうだ。
「浄化するところを見せてもらってもいいですか?」
震えながらも頑張って豪華な赤いマントを身に纏い、パジャマを隠す事ができたおっさんに聞く。
「え? あ! ああ、いいぞ。 …だが、つまらんぞ?」
それは想像がついている。
…それにしても、このおっさんは本当にこのお姫様の親なのか? なんだか全然負ける気がしないぞ?
「仲間が来るまでここで魔物討伐とかして過ごさないか?」
「是。」
カンタダを浄化しながら話し合った結果、こんな感じで話は終わった。
城まで送ってくれた兵隊さんの宿舎で泊る事になったので…カンタダも一緒に宿舎に帰った。
そして翌朝
「昨日あれだけ魔物が襲ってきたからなぁ…」
「ふぅん。」
魔物の襲撃はだいたい十日に一回あるかどうか… という事なので、空から仲間が来るまで暇だと判明。
「それはそれとして、昨日から気になっていることがあるんだが。」
「なんだ?」
「それだ。」
俺は壁を… 壁にかけられている10個ほどのキメラの翼を指差す。
「キメラの翼がどうかしたか?」
「なんで、そんなにあるんだ?」
キメラの翼がそんなにあるなら、レバの村で13人も… あいつも死なないですんだかもしれないのに…
「ん? …そうか、アーリハーンから来たのならコレを見るのは初めてか。」
「ああ。」
説明書か攻略本か4コマ漫画のどれかで見た事があるが、知らないフリをする。
「これはキメラの翼と言ってな? 念じて使うと使用者の知っている城や町に4人ほど移動する事ができるのだ。」
「ルーラと同じか。」
「そうだ。 この宿舎には40人が住んでいるから壁に10個掛けてあるのだ。」
なるほど… でも
「魔物との戦いで危なくなったら使うのか? でも、昨日の魔物の襲撃の時、誰も持っていなかったと思うが?」
それに、ルーラと同じなら到着地点が城の外だろうから、城の近くでしか戦わない兵士に必要なのか?
「…これは、ロマルアを去らねばならぬ時に使うのだ。」
「うん?」
ロマルアを去る?
「ロマルアに住む者は… いや、どの国でもこうして備えているらしいぞ?」
「備えている?」
国を去る。 備える。 …!!
「なるほど、アーリハーンでは船が足りずに、旅の扉を使って徒歩でロマルアに来たんだったな。」
それを教訓にしてキメラの翼を確保したんだな… キメラの翼が足りなくなるわけだ。
「そうだ、城の外は魔物で溢れているからな。 いざという時、皆それぞれ行った事のある国へ逃げることになっているのだ。」
改めて考えてみると、キメラの翼って、思っていたよりも重要なアイテムだったんだな。
「キメラの翼が余っていれば、ルーラで行ける場所が増えるんだが…」
「おとなしく仲間を待て。 キメラの翼は国民全てにまだ行き届いていないのだ。」
「…ああ、命には変えられないからな。」
色々と思うところはあるが、それはぐっと飲みこもう。
できれば4人で1つではなく、1人1つ持たせたいだろうし…
「さて、俺は見回りに行くが、お前はどうする?」
「町を見て回るにも、金が無いからなぁ…」
鎖かたびらと鋼鉄の剣貰ってしまったから、金を貸してくれと言うのは… 返すあてもないし…
「ならば城に行って大臣から貰ってくるといい。 昨日あれだけ魔物を倒したのだから、それなりの額をくれるだろう。」
「そうなのか?」
「ああ、お前はロマルアの兵ではないからな。 剣と鎖かたびらの代金を差し引いても… 金貨で1000枚くらいはもらえるんじゃないか?」
「金貨で1000枚というのが高いのか安いのかわからんが、貰えるなら貰ってこよう。」
金の単位は金貨なのか。
1ゴールド100円くらいと何かで読んだ事があるが…
「銀貨で12000枚だぞ? 上手に使えば二ヶ月はもつ。」
「ふむ。」
金貨1000=銀貨12000=二ヶ月分の生活費?
物価がどんなかわからんが、薬草やら毒消し草やら買う分には問題なさそうだな。
「じゃあ、ちょっと言ってくる。」
「うむ。 ロマルアの美しさをその眼と心に焼き付けてくるがいい。」
「はいはい。」
悪い奴どころか、とってもいい奴なんだけど… 少し面倒な奴なんだよなぁ。
テクテクと経験値を稼ぎながら城へ行くと、カンタダの言っていたよりも少し多め、金貨1200枚を貰えた。
のだが…
「お待ちください。」
お姫様に呼び止められた。
…昨日の事で文句でもあるのか?
「あなたはルーラを使えるのですよね?」
「それが?」
「あなたのお仲間がダァマから来て、ココとダァマを自由に行き来できるようになったら、カンタダ様をダァマに連れて行って欲しいのです。」
うん?
カンタダをダァマに連れて行く?
!!
「転職か?」
「はい。 カンタダ様には魔法使いか僧侶になって貰いたいのです。」
「なんでだ?」
確かに呪文が使えると便利だろうけど、今でも十分に強いと思うが?
「魔法使いになれば穢れることなく魔物を倒せます。 僧侶になれば怪我をしても治せますわ。
私、カンタダ様に死んでほしくないのです。」
「なるほど… カンタダが好きなんだな。」
俺が笑いながらそう言うと
「あの方は私の命です。」
お姫様は凛とした声でそう言った。
そして、その眼はまっすぐに俺を見ている。
カッコイイな、この人。
でも、「好きなんだな。」と聞いたのに「命です。」って、答えになっていないよ?
いや、ダァマに連れて行くのはいいんだよ? いいんだけどさ?
「駄目ですか?」
「いや、駄目じゃないよ。 うん。」
ちょっと気になったんだよ。
「それじゃあ、ダァマに行けるようになったら連れて行くよ。」
「はい! よろしくお願いします。」
おー。
昨日と違って怖くない笑顔だ。
…カンタダはさっさと人生の墓場に入ってしまえばいいと思うよ。
――――――――――
「薬草は金貨8枚なんだ?」
「傷口に当てたり食べたりするだけで効果のある特別な方法で作ってあるからね。 普通の薬草なら金貨2枚でいいよ?」
ほほう。
食べるだけで回復って、ファンタジーな感じがしていいね。 …手の平よりも大きくなければもっといいのに。
「いや、8枚の方でいい。 5つくれ。」
今度怪我した時に試してみよう。
「あいよ。」
「それと、毒消し草を2つくれ。」
間違えてバブルスライムに触ってしまった時のために買っておいて損は無いだろう。
「満月草はどうします?」
「それも1つ貰っておこう。」
って、毒消し草も満月草も薬草よりでかい。 …丈夫な袋を持ってて良かった。
皮の帽子も購入して防具屋へ向かう。 武器は鋼鉄の剣があるからいい。
「皮の鎧って、鎖かたびらの上に着れるんだ?」
「お前さん魔法使いなんだろう? 動き難くなるけど、遠くからメラを撃つだけなら問題ないんじゃないか?」
「う~ん。」
バイキルトとスカラと鋼鉄の剣さえあれば、前線で魔法を撃ちながら剣で切る、唱って踊れる(?)魔法使いなんだが…
試着させてもらって、これくらい動けるなら問題無いと判断して購入する。
「魔法使いなのにそんなに動けるなんて… 驚きだ。」
戦士レベル15が効いているんでね。 言わないけど。
「靴は今履いているスニーカーのほうが歩きやすいな。」
「そのようだね。 以前、お前さんと同じ『精霊に選ばれた者』が来た事があって、その度に言っている事がある。」
「なんだ?」
「『壊れたらでいいんで、その靴売ってくれ。』」
なんだ、そんな事か。
でも靴を作るものにとって、スニーカーは研究対象として魅力的かもしれない。 …なら
「一番高く買ってくれる所に売るよ。」
「あっはっはっは。 そりゃそうだよな!」
いい気分で店を出て、ふと空を見る。
見上げた空は黒い点が1つある他は雲一つ無い快晴d
黒い点?
いや…
あれは人だ!
それも、すごい速さで近づいてきている!!
「空飛ぶ僧侶! さんじょぉぉぉおおおお!」
うわぁ…
自分で自分の事を「空飛ぶ僧侶」と大声で叫ぶ痛い子だったんだ…
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