結局、カンタダの事は個人情報保護という理由で何も教えてくれなかった。
まあいい…
次にモンスターがロマルアを襲撃する時、俺はダァマにいるはずだから、恩を売る必要がもうないし。
翌日
「それで、仲間はいつ来るんだ?」
ダァマからロマルアへは空を飛べるのにロマルアからダァマへは飛べないっていうのはどういう原理なんだろう?
ダァマには遠くへ飛ぶために必要な何か… 滑走路みたいな物でもあるというのか?
「えっとですね… いつもはニフラムでの浄化が終わる頃に到着する事になっているんですけどね?」
「ふむ。」
「今回は、あなたがロマルアにいるのを発見したため、急遽予定を変えて急いで来たので…」
そうだったのか。
それは面倒をかけてしまったなぁ… 言わないけど。
「だから… 明日か明後日くらいには来てくれると…」
「明日か明後日…」
つまり、それまで暇なのか。
「町はもう見て回ったし、モンスターの襲撃も無いし、やる事ないんだなぁ…」
「あ、それじゃあお願いしたい事があるんですけど。」
ん?
「何だ?」
「その、一度アーリハーンに連れて行ってくれませんか?」
「ん?」
「さっき教えてもらった肉体改造っていうのをしてもらおうかなって。」
「ああ…」
魔法使いなのに前線で戦える理由を聞かれたので、それを戦える理由にしたんだったな。
…世界樹の精霊はルヴィスが俺達にしてくれたような追加の改造をしてくれなかったらしいけど、お前達も自分が改造されている事に気づけていれば世界樹の精霊に頼めたんじゃないか?
そもそも
「俺が言うのもなんだけど、世界樹の精霊が勧めなかったって事はやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「いいか? 俺は魔法使いで、戦う手段がメラしか無かったからレベルアップ以外の方法で強くなる方法として改造を選んだ。」
ルヴィスは馬鹿だから思いつかなかっただけかもしれんが…
「だけど、俺達を改造したルヴィスでも、ここまでの改造は元々していなかったわけで…」
「ああ、そうか…」
カンタダがコイツを褒めたのって、小さい割には頭が回るからかな? でも…
「あの時の俺は魔法使いレベル1だから改造は効果を実感できた。
でも、お前はすでにレベルアップで強化されているから、改造してもそれほど意味はないと思うぞ。」
実際、僧侶レベル8の動きは改造を受ける前の俺よりも確実に上だと思う。
「ん~。」
「なんだ?」
「でも、たくさん動いてもあまり疲れないっていうのは魅力的なんですよね。 視覚の改造も。」
ああ… もう、面倒だ。
「わかった。 行くだけ行って、改造するかどうかはルヴィスと話しながら決めよう。」
「うん! お願いします。」
この反応…
俺が何を言っても改造してもらうつもりだったな。
「それじゃあまずは、王と話しておこう。」
「あ、そうだね。 僕達がアーリハーンに行っている時に万が一仲間が来た場合、引き止めて貰わないといけないよね。」
そのとおり。
「カンタダにも話しておくか。」
世話になったし。
「…彼は今頃姫様に」
「わかった放置する。」
説得と言う名のセクハラを受けているんだったな。
「あ、それと」
「なんでしょう?」
さっきからずっと気になっていたんだが
「ですます調で話すなら徹底しろ。」
「ぇ?」
俺が気づいていないと思っているのか?
「時々タメ口になってるぞ。」
「そ、そうでしたか? すいませ」
「確かに子供のフリを続けたほうが得だろうけど、それならそれでもっと気をつけなよ?」
童顔で小さいから勘違いしていたが、コイツ中学生じゃない。 二十歳過ぎてる。 間違いない。
俺の言葉に絶句して口を開けたままのアホ面を見て、そう確信した。
――――――――――
「これは?」
「上。」
「正解。」
正解したので、今居た位置から1メートルほど離れる。
「これは?」
「右。」
「正解。」
さらに1メートルほど離れる。
「じゃあこれは?」
「わかりません。」
「これは?」
「さっぱりです。」
「やっぱり視力が良くなっているわけではないんだな。」
これで確認したいと思っていた事が1つ確認できた。
「でも、前よりもくっきり見えています。」
「アナログからデジタルにしたみたいに?」
「…その例えは微妙だと思います。」
視力検査に使う記号っぽいやつ(名前がわからない)を書いた紙をくしゃくしゃにしてルヴィスに投げる。
「ちょっ ごみを投げないで。」
「すまん。 ゴミ箱かと思った。」
「どういう間違いよ!」
「はっはっは。」
「仲良しですね。」
コイツは…
怒るルヴィスとそれを見て笑う俺の様子を勘違いしているのか? …面白い。
「ああ。」
「仲良しじゃないわよ!」
「『力』のせいで経験値がすぐに溜まってしまうんで、なかなかアーリハーンから離れられなかったからな。
そのせいでずっと一緒にいたから、こうやって軽口を叩ける仲になったんだ。」
「なるほど。」
「仲良しじゃないってば!!」
「照れるな照れるな。」
いいぞルヴィス。
お前の反応で、より深く勘違いしたっぽい。
「うーー」
「視力の後は… 聴力の検査方法なんてわからないから調べてないし…」
「さっきの素振りはどうでしょう?」
「ああ、そういえばやったな。」
「忘れないでくださいよぅ。」
子供のフリに磨きがかかったような気がするな。 俺の忠告が効いたか?
「…改造前は素振り80回で疲れちゃいました。」
「だったな。
…とりあえず80回やってみて、疲れるかどうか、疲れないなら改造の効果があったって事で」
農業用のフォークで素振り80回って普通にすごいんだろうけど、僧侶レベル8だからだと思う。
俺も一緒にやったけど、100回やってもまだまだ余裕だったし… 学生時代、竹刀で20回くらいやった事があるが、あの時よりも疲れも痛みもなかったし。
「80回でまだいける。 100回できつい。 110回でダウン。」
「この、はあ、世界に、ぜえ、連れて、はあ、こ、ぜえ、られた、はあ」
「この世界に拉致された時点で怪我や体力の回復力が増している事を考えても、筋肉の質を改造した結果は出たな。」
「そう、はあ、です、はあ」
「呼吸が整うまで無理して話そうとするな。 な?」
「はあ、はあ」
俺の世界で素振り100回以上できるやつなんて、剣道やってた人なら簡単なんだろうけど、俺もこいつも剣道の経験どころか、『運動が得意』と言えるほどスポーツをしていたわけもはない。
それに振っているのは竹刀よりも長くて重たい農業用フォーク。
だというのにこれだけの事ができるという事が、ルヴィスによる肉体改造や経験値によるレベルアップの効果の恐ろしさを物語っている。
そういう風に考えれば考えるほど、精霊が人間のレベルアップをしない事を納得できてしまう。
「そろそろ、ロマルアに戻りませんか?」
「えー。」
「もしかして、眠いのか?」
「…はい。」
改造して素振りして…
肉体的なのは放っておいても回復するは… 回復能力を超えるほど疲労したか?
「改造もレベルアップも終わったし、ロマルアに飛ぶか。」
「ねえ、もう少しお話していきましょうよ。」
なんだかなぁ…
目をウルウルさせて頼まれても、ルヴィスじゃなぁ…
「もしかして、ずっと1人で暇なのか?」
「そうなの。 森とかなら植物とお話できるんだけど…」
え?
「お前、植物と話せたのか?」
「話せるわよ?」
おお…
異世界から拉致するとか、浄化とかレベルアップとか、そういうのよりも『ファンタジー』って感じのする能力を持っていたのか。
「なら、何か持ってきてやるよ。」
「本当!? じゃあ、お花よりも木を持ってきて! 」
「はいはい。」
花を持ってきてやろう。
「芽吹いたばかりの子でもいいからね!」
「はいはい。」
嬉しいのはわかったが、あまりしつこいと『忘れた』事にするぞ?
「ほら、この天井の穴から行くから」
「あ、はい。」
「しっかり掴まれよ?」
「はい。」
ぎゅうっ
子供のフリをするのはいいが、力を入れすぎだ。 改造受けた事を忘れるな。
「あ、冒険の書に記録しますか?」
「ああ! しておくよ!」
「え?」
「冒険の書に記録しました。 冒険の続きを頑張ってください。」
「おう。」
「何? 2人のお約束的な物なんですか?」
俺の『力』は『歩くと経験値が増える』という事になっているから真実は言えない。 でも
「仲良しだからな。」
「いいですね。」
まさか、さっきの嘘が言い訳に使えるとは思わなかった。
――――――――――
どどどどど
「スカラ バイキルト」
「おおお! バケモノどもを弾き飛ばせる!!」
どどどどど
む? モンスターの群れがあるな。
「イオラ」
どおおおおん
「おお! バケモノの群れがぶっ飛んだ!!」
「いちいち五月蝿い。 だまって走れ!」
「おう! そうだったな!! すまん!!」
どどどどどどどどど
ただでさえ、おんぶ紐が体にくいこんで痛いのを、落とされると置いてけぼりにされるから我慢しているのに…
「くそっ ピオリムが使えれば二日でダァマに着けるらしいのに…」
「はは、そんなに落ち込む事はないぞ? 二日と言っても、時々空を飛んで山越えをしたりするからであって… 今みたいにバケモノを回避しないで済んでいる事を考えると、思ったよりは早くダァマ着くぞ?」
おっさんの野太い声なぞ聞きたくない!!
「だまって走れー!!」
「はっはっはっは、君は怒りっぽいなぁ。」
こいつにおんぶされて移動する事に慣れたと言ったあいつは偉いわぁ…
ロマルアから出て三日半でダァマに着いたが、ルーラで僧侶を迎えに行く気力が俺には無かった。
091007/初投稿