キメラモドキの翼を職人さんが加工している間に、ちょっとした実験をする事になった。
「それじゃあ、行くよ?」
「嫌だ。」
こんな情けない死に方は嫌だ。
というか… 「失敗したら死ぬ」って言っているのに、無理やりこんな危険で無謀な事を実験しないといけないのか?
「いざという時はルーラを使えば大丈夫ですよ。」
黙れ、この童顔チビ…
「空中でルーラを使える事は実証済みだが、だからと言ってこんな」
「とりゃぁぁぁあああ!!」
ぶおぅん!!!
おかっぱ娘が大声と共に世界樹の方向に童顔をぶん投げた。
「って!? うぉああああ!?」
何してやがるんだこのおかっぱ娘!? 人の話を聞いてねぇぇええええ!!
実験のために、童顔チビと俺は丈夫な縄で結ばれていたので…
がくん!!
「うわぁぁああああんん!!」
腹が! 内臓が! 縄が食い込んで苦しい!!!
「世界樹の元へ!!」
そんな童顔チビの声を、気絶する瞬間に聞こえた様な気がした。
――――――――――
目が覚めると、そこは木がたくさん生えている場所だった。
「あー、縄の跡が腹にくっきり…」
どんなプレイだよ…
「あ、本当に起きてる。」
「『起きてる。』じゃねーよ。 ほんと、死んでたらどうするつもりだったんだよ?」
お前達にとっても貴重なルーラだろうに…
「大丈夫ですよ。 高所恐怖症で暴れられるよりも気絶していてくれたほうが楽でしたし。」
確信犯か!!
「そんな事よりも、ほら、世界樹の精霊に会いに言ってください。」
この野郎…
「そんな怖い顔で僕を見ないで、あっちのほうを見てください。」
あっち?
指さされた方向には、とてつもなく大きい樹があった。
「あれが、世界樹…」
「そうだよ。」
なぜだろう?
目の前にあるそれを、ただ見ているだけなのに…
「はい。」
ハンカチ?
「涙が出ているよ。」
ぅぉ… いつの間に…
「僕も、初めて見た時… 同じように涙が止まらなかったからね。」
「そうなのか?」
「うん。 今じゃもう慣れたけど、それでも心に感じるものがあるし…」
この感動に慣れるのか…
人間って便利だけど、残念な生き物だな…
「君が気絶している間に僕の用事は終わったんだ。 で、君とは2人だけで話がしたいって事だったから、僕は先に帰るね。」
「わかった。」
その後も1人、ずっと世界樹を見ていた。
涙が止まるまで、そこから動けなかったのだ。
って! キメラの翼持っていたのかよ!?
「あなたの事は良く知っている。」
遅すぎるツッコミの後、溜息をつきながら世界樹に近づくと、淡い光と共に現れたルヴィスのお姉さんって感じの精霊が、開口一番そう言った。
「なんでだ?」
ストーカー?
「私は世界樹。 この世界の植物全てと繋がっている。」
なるほど。
世界樹『の』精霊と聞いていたが、世界樹『が』精霊なのか。
「俺の… いや、俺達の情報は全て知っているという事か。」
つまり、この世界の草木全てがこいつの情報源という事。
隠し事はできない。
…ヴァラモスを倒したら元の世界に帰る予定の俺とアイツらには精霊に隠し事をする事なんて何もないから別に良いけど。
「ふふふ。」
「何がおかしい?」
ルヴィスにそっくりな顔で笑われるとムカツクな…
そもそも、この世界で笑われるような事をした覚えは無いんだが?
…三回死んだっぽいけれど、それは笑われるような事ではないだろうし。
「その不機嫌な顔が全てを物語っている。
あなたは、私が積極的にあなた達の情報を集めていると思っているのだろう?」
む?
「違うのか?」
俺の問いに首を縦に振る精霊。
「あなたはあの子に花を渡した。」
?
「それが嬉しかったのか、あの子は毎日あなたの話を花にしている。
だから、私はあなたの事を知っているのだ。」
あの子? 花? …!
「ルヴィス?」
でも、花を持って行ったら「どうして木じゃないのーー!」って怒鳴っていたんだが?
「そうだ。」
ルヴィス…
首を洗って待っていろ…
「人工物の中で穢れを浄化し続ける事が、勝手に外の世界に行った罰だったのだが…」
あの場所にいる事って罰だったのか?
浄化が終わったら別の場所に行くとか言っていたはずだが?
「あなたが渡した花に毎日語りかけるほど精神的に参っているようだ。 罰として正解だったな。」
ニコニコ笑いながらそう言い切った。
もしかして、コイツってSなのか?
「私はあなたの本当の『力』も知っている。」
「そりゃ、そうだろうな。」
世界樹の精霊は微笑みながら近づき、両手を俺の胸に重ねた。
「何だ?」
「あなたの『力』なら、この『力』を『絶対に無駄にしない』だろう。」
「何の事だ?」
「すぐにわかる。」
!!!
「がっ ぁ?」
ものすごい衝撃と共に、精霊から送られてくる力が俺の体の中で形になる。
「さあ、あの子に記録をして貰ってくるといい。」
「無理。 まだ体中が痛い。」
それに、全身が… 正座をして痺れた足みたいになっている。
「ならばなおさら早く行くといい。」
「なんでだよ?」
俺の問いに世界樹の精霊は、綺麗に微笑みながら
「その苦しんでいる状態をあの子が見たら、膝枕… それ以上の事をしてくれるかもしれないぞ?」
そう言った世界樹に、俺は文字通りの意味で雷を落とした。
――――――――――
ルーラを唱えた後、目的地までテクテクと歩く。
廃墟を抜けボロボロの城の中に入り、二階に上る。
「あら? 今日は1人なの?」
最近は改造やレベルアップのためにダァマの仲間を連れてくる事が多かったからか、来たのが俺1人なのが気に入らないらしい。
「ねえ? どうしたの!?」
ぐぁし!っとその顔を掴んで床に投げ倒す。
「ぎゃぴっ!?」
悲鳴を上げて倒れるそいつにさらに技をかける。
「お前は、本当にろくな事をしないな?」
「痛い痛い! 関節技はやめて!!」
馬鹿が泣き叫ぶが、それは想定の範囲内。
「俺の事をべらべらと喋っていた罰だ!!」
「いーーたーーーいーーーー!!!」
あいつの記憶のおかげで技のレパートリーは豊富なんだ。
「『痛い』の他に、言うべき事があるだろう!!」
「ごべんばばいいい!!」
その言葉で技を解く。
「ぅぅぅぅぅ。」
「お前の独り言のせいで俺の個人情報が世界樹に駄々漏れだった事についての弁明を聞こうか?」
「う!?」
「今まで一人で寂しくって、お花さんとお話できたのが嬉しかったの…」
「だからと言って、俺の話をしなくてもいいだろうが?」
「ぅぅぅぅ…」
まったく。 本当にこの駄目精霊は…
「私だって、いろんな話がしたかったわよ…」
ん?
「あっちの世界の歴史とか科学技術の話とか、たくさんの子供達が笑顔になる玩具やゲーム、私が好きなライトノベルやアニメの話とか…」
「おい?」
「ちょっとえちぃのとかやおいとかの話もしたかったわよ!!!」
…こいつ、自分が何を言っているのかわかっているのか?
「でも、お花さんが全然興味を持ってくれないんだもの!」
花がそんな話に興味津々だったら、そっちのほうが嫌だと思うのは俺だけか?
「共通の話題があなたの事しかないんだから、他の話なんてできるわけないじゃない!!」
がすん
「もういい、黙れ」
「ぅぅ… せめて拳骨をする前に言って欲しかったわ…」
世界樹の半分… 1%でもいいから威厳があればあなぁ…
そんなどうしようもない事を思いながら袋から預かり物を取り出す。
「ほらよ。」
「これは?」
全身の痛みと痺れがとれた後、あいつはルヴィスに渡すようにと小さな箱を渡されたのだ。
「お前が開ければわかるらしいぞ?」
「何かしら?」
ルヴィスは、さっきまで泣いていたのが嘘のように笑顔で箱を開ける。
「これは!」
「なんだ?」
箱の中には世界樹の葉をクッションにして一粒の小さな種が入っていた。
「世界樹の種…」
「ほう?」
なんか、重要アイテムっぽ
「私… これがあれば世界樹とお話できるわ!!」
なんだ… 期待して損した。
091016/初投稿