「何というか、悲しい『力』ですね?」
「ああ。 でも、良いヤツだ。」
世界樹との話し合いの後ダァマに戻り、エルフの隠れ里に武具を貰いに行くついでにアイツと合流する旨をリーダーと他数名に話した。
「そうですね… なら、あの人と組んでもらいましょう。」
「そうだな、普段戦闘を避けているせいでレベルが低いままだし…」
善は急げという事で、会議が終わってすぐにルーラでギャザブの村まで飛んだ。
ロマルアからダァマへのおんぶ移動の時に「ルーラで行ける所を増やしておきたい」と我侭を言っておいたのは正解だった。
「世界樹からの情報によれば、ここに」
いるはずなのだが… と続ける前に自己主張してきた。
「ここだよ! ここ! 久しぶりだね!!」
「よう。 二週間ぶりくらいだな。」
バブルスライム発見。 元気そうで何よりだ。
「あれ? 君一人だけなのかい?」
ん?
「俺以外の誰が来ると思っていたんだ?」
「そう言われると答えづらいんだけど…」
何だ?
「突然目の前の草がさ? こう… うねうねって動いたかと思ったらさ? 『ギャザブにおいで』って文字になって驚いたんだよ。
だから… そういう… 植物を操るような『力』を持った人も一緒なんじゃないかなって思ったんだよ。」
なるほど、そういう事か。
確かに植物を操れそうな仲間もいることはいるが…
「残念だったな。 あれをしたのは世界樹の精霊だ。」
「世界樹の精霊?」
あいつはなかなか話がわかる奴だ。
「じゃあ、魔法の鍵とか船とかは先輩達がすでにGET済み?」
世界樹=船が必要という知識があるというのも問題だな…
「はあ、一から説明しないといけないんだったなぁ…」
面倒… だが仕方ない。
これこれしかじかかくかくうまうま
「そっかー。 じゃあエジンバに行けなくて良かったんだ。」
「ああ。」
例えエジンバが無事だったとしても、バブルスライムを入れてくれるとは思えないけどな?
「ボートを見つけたのはいいけどこの体じゃどうしようもなかったから途方に暮れていたんだよねー。」
エルフの隠れ里に入れなかったからって、1人でどこまで行っていたんだか…
「それで、僕はこれからどうすれば?」
ふふふ
「三択!!」
「え?」
「1、仲間と合流。 ただしバブルスライムはやめろ。
2、イススのピラミッドへ単独で潜入。 要は宝探し。
3、ホイミスライムかメタルスライムを探して憑依。 この中から選べ!!」
突然の大声にバブルスライムは驚いている。 追撃チャンス!
「選べ!」
「え?」
「選べ!」
「ちょっとまっt」
「選べ! 選べ! 選べーー!!!」
――――――――――
ギャザブの村からナニールの村まで一日、さらにエルフの隠れ里まで一日かかった。
ダァマのようにな結界が張ってあった為に途中でそれ以上前に進めなくなったのだが、世界樹からもらったロトの紋章っぽい物を掲げるとすんなり進めるようになっ
「これ以上進むと死ぬ。」
「だな。」
ルヴィスに関節技をかけている時に感じたのと同じくらいに澄んだマナの気配… ようするに穢れが殆ど無いのがわかる。
「予想通りだけど、残念。」
「できればそこで、キツイならナニールで待っていてくれ。 貰うもの貰ったらすぐに合流する。」
「わかった。」
合流したばかりでまた離ればな…
ん?
「誰だ?」
「魔物の気配を感じて来てみたら、紋章を持つ人間がいるとはな…」
おー、エルフだ。 当たり前だけど初めて見た。
「お前の事は精霊様から聞いている。」
「そうなの?」
「そうだ。 紋章を持つ人間が来たら精霊様の下へ案内するように言われている。」
それはありがたい。
「そこの魔物を殺したら案内してやるから、少し待っていろ。」
ちょっ!
「精霊様がこちらでお待ちです。 こちらへどうぞ。」
…とても丁寧な言葉使いだけれども、その仏頂面で全てが台無しになっていると教えてあげるべきだろうか?
「そう言えば、外のホイミスライムを攻撃してはいけない事を皆に伝えなければならないな…」
「ああ。 よろしく頼む。」
それに、ホイミスライムを探すのが大変だったんだぞ?
「無害な奴だから放っておいてくれってな?」
「正直、あの姿を見ていると哀れに思う。」
ん?
「肉体が滅んだ後も生きられるという『力』… だが、あの様な姿に成らねばならぬとは…」
「それ以上は言うな。」
ムカッときた。
あいつは、もう元の世界に帰る事を諦めているのに…
「生き残った同郷の仲間のために(アイツなりに)頑張っているんだ。 それ以上は俺への侮辱と取るぞ?」
それに、確かに間抜けな顔だけど、バブルスライムよりはましだと思うんだ。
「ぁ… そんなつもりではなかったのだ。 すまない。」
気まずい空気のまま精霊の元に案内された。
はあ… エルフさんと仲良くなるのは無理っぽいな…
「何故に?」
「そちらの世界の書物を読んで気に入ったのだ。 何か問題が?」
どんな本を読んだのか気になるが、気に入ったのなら仕方ない。
「いや… 似合っていますよ、アフロ。」
悲しいほどにね…
「ふふふ… どうだい? 君達には不人気だったけど、人間にはわかって貰えたよ。」
「くっ!」
なんてこったい。 エルフの皆様には不人気だったとは…
あああ… エルフさんに睨まれた…
友好的とは言わないまでも、せめて嫌われないようにしようと思っていたのに…
アフロ談義の後に案内された倉庫のような建物の中では、数十人がコールドスリープみたいな状態になっていた。
コールドスリープと言っても別にポッドの中で凍っているわけではなく、ただ寝ているだけのようにしか見えないが。
おそらくはナニールの村の人達なのだろうけど…
「すごいな…」
「プートガとエジンバにこの人間達を受け入れる余裕が無い様子だったのでな。 私がエルフ達に頼んだのだ。」
「なるほどなぁ…」
「ふふふ。」
さっきもその笑い方だったが、精霊は「ふふふ」と笑うのがデフォなのか?
「知っていると思うが、この世界は君達の世界の『ドラクエ3』というゲームに似ている。」
「ああ、そうだな。」
「人間を保護するこの方法、エジンバに向かった君と同郷の者の記憶から知ったのだ。」
ん?
「エジンバに向かった?」
「そうだ。 『モンスターに気づかれる事無く水の上を歩く事ができる』者だったようだな。」
「それはなかなかいい『力』だな。」
水の上を歩けて、その上モンスターに狙われなくなるって、使い勝手が良さそうだ。
「私は『ドラクエ3』の存在を知った時、いくつかの可能性を考えた。」
「うん?」
可能性?
「例えば、『ドラクエ3があるからこの世界がある』と仮定した場合、ヴァラモスを倒してもゾーマに相当する者がいる可能性がある。」
あ…
「『可能性』でしかないが、な?」
「う~ん。」
この世界はゲームのようには行かないと思っていたけれど、「ヴァラモスを倒せ」と言うのを鵜呑みにしていた。
「他にも色々と考えられる『可能性』があるが、最悪なのがそれだ。」
「確かに…」
ヴァラモスを倒してもゾーマが居たのでは元の世界に帰れるかどうか…
「そこで、私は考えたのだ。」
「何を?」
「ヴァラモスの結界を逆に利用して世界を閉ざす。」
「は?」
世界を閉ざす?
「この世界は、他所の世界からこの世界に召喚できるが、この世界から他所の世界に行く事ができない状態にあると聞いただろう?」
「ああ。」
それが出来ていたらルヴィスは真っ先に逃げ出していると思う。
「それを逆にする。」
「つまり、この世界から他所の世界にいけるが、他所の世界からこの世界に来られないようにする?」
「そうだ。」
それならゾーマが居たとしてもこの世界に干渉できない…
「この方法なら君達も元の世界に帰れるだろう?」
「ああ。」
それはいいかもしれない。
「ほら、これを見てほしい。」
そう言うと精霊は懐から真っ白な玉を取り出して俺に見せた。
「これは?」
「浄化したマナの結晶だ。」
うん?
「普通、浄化したマナは世界に散るのだが、結晶にする事でそうならないようにしている。」
「それで?」
なんだか話が変な方向に行こうとしている気がするぞ…
「この世界はマナで満ちているからこそ、穢れも多いのだと考えたのだ。
君にわかりやすく言うと、『酸素が多いから火が燃える。 最初から酸素が無ければ火はつかない。』という事だ。」
「つまり、この世界全てのマナを結晶化することで、穢れそのものを無くし、モンスターが生まれないようにするって事か?」
方法としてはいいのかもしれないが…
「全てではない。 私達が管理しきれない分だけ、だ。」
う~ん…
「これってどれくらいのマナが固まった物なんだ?」
「これは… そうだな、レベル1から10になれる程度だな。」
たったそれだけ?
「ふふふ。 言いたい事はわかるが、まあ、聞きなさい。」
「うん?」
「他所の世界から何も来られないようにした後で、こうやって結晶化したマナを他所の世界に放出するのだよ。」
何という外道発言。
「それだと他の世界がマナで溢れて困った事になるんじゃないか?」
異世界のゴミでモンスターだらけになるなんて、酷すぎる。
「そこはちゃんと考えている。」
「ほう?」
「知的生命体どころか… 生物の居ない世界をすでに見つけてあるのだ。」
ならいいか。
「それと… そうだ、地図を持っているだろう?」
「ん? ああ。」
俺は袋から地図を取り出して広げる。
「ドラクエ3の知識から、ここに世界の穴を開けようと思う。」
そう言ってアフロが指差したのは、ドラクエ3で言うところのヴァラモス城の東側…
「ギアガの大穴を開けるのか。」
「そうだ。 その位置なら、ヴァラモスを倒した時に放出されるであろう大量の穢れをそのまま異世界に捨てる事ができるだけでなく、ゾーマが居た場合の邪魔にもなる。」
なるほど、なかなか考えているじゃないか。
「なんなら、ヴァラモス自体を穴に落としてしまってもいい。」
それは素晴らしい。
091022/初投稿